本発明に係る方法は、好ましくは、in vitro法である。さらに、それは、上記で明示的に述べたステップに追加されるステップを含んでもよい。例えば、さらなるステップは、サンプルの前処理又は本方法により得られた結果の評価に関連しうる。診断のモニタリング、確認、及び細分類のために、本発明に係る方法を使用することも可能である。本方法は、手動で実施可能であるか、又は自動化により支援可能である。好ましくは、ステップ(a)、(b)、及び/又は(c)は、自動化により、例えば、ステップ(a)では測定に好適なロボット装置若しくはセンサー装置により、又はステップ(b)ではコンピュータにより実行される比較により、全体的若しくは部分的に支援可能である。
「心筋梗塞を診断する」という用語は、本発明で規定される被験者(したがって、ACSに罹患しており、かつ検出可能であるがMIの指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有する被験者)において、心筋梗塞を最近発症したか否か、したがって、ACSの根本的な原因が心筋梗塞であるか又は不安定狭心症であるかを評価することを意味する。「心筋梗塞」という用語は、当業者に公知である。この用語は、長期間の虚血の結果として生じる心筋の不可逆的壊死を意味する。当業者であれば理解しているであろうが、診断は、通常、分析対象の被験者の100%に対して正しいことが意図されるわけではない。しかしながら、この用語は、診察対象の被験者の統計学的に有意な一部分に対して診断が妥当であることを必要とする。当業者であれば別の手間を要することもなく、種々の周知の統計学的評価手段を用いて、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定などを行って、一部分が統計学的に有意であるかどうかを決定することが可能である。詳細な内容は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見いだされる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。好ましくは、本発明により想定される可能性として、所与のコホートの被験者の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%に対して診断は正しいであろう。
本明細書中で用いられる「被験者」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを意味する。
被験者は、好ましくは、ACSの症状を示すものとする。「急性冠症候群」(ACS)という用語は、当業者により理解されている。この用語は、急性心筋虚血により生じる一群の臨床症状を意味する。虚血自体は、冠動脈のアテローム性動脈硬化プラークの破壊から生じる。ACSの症状は、好ましくは、20分間超の胸痛、息切れ、悪心、嘔吐、及び/又は発汗である。さらに、胸痛は、多くの場合、左腕及び左下顎角部に放射状に広がることが知られている。一般的には、こうした臨床症状、特に胸痛は、突然起こり、安静時又はごくわずかな労作後に現れることもある。さらに、本発明との関連では、「急性冠症候群」という用語はまた、ACSの疑いがあるか、ACSと推定されるか、又はACSの可能性があることを意味しうる。なぜなら、これらの表現は、ACSと一致する症状を示すが診断が最終的に確定していない患者に対して頻繁に用いられるからである(Morrow, 上掲を参照されたい)。ACS患者は、不安定狭心症(UAP)を発症する可能性があるか、又はこうした個体は、心筋梗塞(MI)に罹患している可能性がある。MIは、ST上昇型MI(STEMI)又は非ST上昇型MI(NSTEMI)でありうる。MIは、冠動脈性心疾患CHDに属するものとして分類され、不安定狭心症UAPのようにCHDに属するものとして分類される他の事象が先行する。ニトログリセリンの舌下投与により軽減される胸痛は、UAPの症状である。UAPは、低酸素血症及び心筋虚血を引き起こす冠状血管の部分閉塞により生じる。閉塞があまりにも重篤であるか又は全体的である場合、不可逆的心筋壊死(これは心筋梗塞の根底をなす病理学的状態である)を生じる。一般的には、心電図(ECG)がST部分の上昇を示す場合、心電図検査によりSTEMIと診断される。ACSの症状の発現の少なくとも6時間後に心筋トロポニンレベルを決定することにより、UAPとNSTEMIとを識別することが可能である。トロポニンレベルが上昇した場合(心筋障害の指標となる)、NSTEMIであると推定される。MIは、明確な症状を示さずに発症することもある。すなわち、被験者は、なんら不快感を示さず、MIは、安定狭心症や不安定狭心症が先行しない。MIが起こると、続いて、左心室機能不全(LVD)が起こる可能性がある。
特に想定されることとして、被験者は、ACSの前に冠動脈性心疾患(しばしば冠動脈疾患とも呼ばれる)に罹患しておりかつACSの症状の発現時に(したがって、症状の発現前にも)検出可能な心筋トロポニンレベルをすでに有しているものとする。具体的には、該被験者は、ACSの症状の発現時、検出可能であるがMIの指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有するものとする。該被験者に対して、本発明に係る方法は、特に有利であろう。なぜなら、ACSの場合、心筋トロポニンのレベルの上昇が急性事象(進行中の壊死)の指標であるか又はすでに存在する冠動脈性心疾患によるものであるか不明であるからである。
「心筋トロポニン」という用語は、心臓の細胞、好ましくは心内膜下の細胞で発現されるすべてのトロポニンアイソフォームを意味する。こうしたアイソフォームは、例えば、Anderson 1995, Circulation Research, vol. 76, no. 4: 681-686 及び Ferrieres 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に記載されるように、当技術分野で十分に特性決定されている。好ましくは、心筋トロポニンは、トロポニンT及び/又はトロポニンI、最も好ましくはトロポニンTを意味する。当然のことながら、トロポニンのアイソフォームは、一緒にすなわち同時に若しくは逐次的に、又は個別にすなわち他のアイソフォームをまったく測定せずに、本発明に係る方法で測定可能である。ヒトトロポニンT及びヒトトロポニンIのアミノ酸配列は、Anderson, 上掲、及びFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に開示されている。
「心筋トロポニン」という用語はまた、上述の特定のトロポニンの変異体、すなわち、好ましくはトロポニンT又はトロポニンIの変異体を包含する。そのような変異体は、特定の心筋トロポニンと少なくとも同一の本質的な生物学的性質及び免疫学的性質を有する。特に、それらが、本明細書中で参照される同一の特異的アッセイにより、例えば、該心筋トロポニンを特異的に認識するポリクロナール抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイにより、検出可能な場合、それらは、同一の本質的な生物学的性質及び免疫学的性質を有する。さらに、当然のことながら、本発明においていう変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加に起因して異なるアミノ酸配列を有する。この場合、変異体のアミノ酸配列は、依然として、好ましくは、特定のトロポニンのアミノ配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%又は99%同一である。変異体は、対立遺伝子変異体、又は任意の他の種特異的なホモログ、パラログ若しくはオルソログでありうる。さらに、本明細書中でいう変異体としては、特定の心筋トロポニン又は上述のタイプの変異体の断片が含まれるが、こうした断片は、上記で参照した本質的な免疫学的性質及び生物学的性質を有するものでなければならない。そのような断片は、例えば、トロポニンの分解産物でありうる。さらには、リン酸化又はミリスチル化のような翻訳後修飾に起因して異なる変異体が挙げられる。
本明細書中で用いられる「心筋トロポニンレベル」という用語は、心筋トロポニンの濃度、好ましくはTnTの濃度を意味する。好ましくは、この用語は、被験者の血漿サンプル中又は血清サンプル中の心筋トロポニンの濃度を意味する。「検出可能な心筋トロポニンレベル」という用語は、ゼロとは異なりかつ当技術分野で公知の手段及び方法により、例えば、市販の心筋トロポニンアッセイにより検出可能な任意の心筋トロポニンレベルを意味する。好ましくは、「検出可能な心筋トロポニンレベル」は、トロポニンレベルの決定に用いられるアッセイの最小検出限界以上の濃度を意味する。好ましくは、検出可能なトロポニンレベルは、0.001ng/ml以上、0.005ng/ml以上、0.0075ng/ml以上、より好ましくは0.01ng/ml以上又は0.002ng/ml以上の任意の濃度を意味する。最も好ましくは、検出可能な心筋トロポニンレベルは、0.002ng/ml以上の任意の濃度を意味する。「心筋梗塞の指標とみなされるトロポニンレベル」という用語は、心筋梗塞の指標となる一般に許容されているトロポニン濃度を意味する。好ましくは、心筋梗塞の指標とみなされるレベルは、好適な基準集団の99パーセンタイル濃度(カットオフスコア)を超える濃度を意味する。このレベルは、偽陽性の結果を回避すべくThe European Society of Cardiology 及び The American College of Cardiologyの合同委員会により作成された推奨基準に基づく(The Joint European Society of Cardiology/American College of Cardiology Committee. Myocardial infarction redefined--a consensus document of the joint European Society of Cardiology/American College of Cardiology Committee for the Redefinition of Myocardial Infarction. J Am Coll Cardiol 2000;36:959-969)。当業者であれば、好適な基準集団をいかにして選択するか及び99パーセンタイル濃度をいかにして決定するかを認識している。当然のことながら、この濃度は、心筋トロポニン濃度の決定に用いられるアッセイによって、また選択される基準集団によって異なる可能性がある。本発明との関連でMIの指標とみなされる好ましい心筋トロポニンレベルは、0.05ng/ml、0.075ng/ml、0.099ng/ml、0.1ng/ml、0.2ng/ml、及び0.3ng/mlでありうるが、これらに限定されるものではない。本発明との関連でMIの指標とみなされる最も好ましい心筋トロポニンレベルは、0.1ng/mlである。当然のことながら、心筋トロポニンの検出可能なレベル(例えば0.002ng/ml超)は、そのようなレベルが健常者では通常検出されないので、該心筋トロポニンのレベルの上昇であるとみなされる。さらに、心筋トロポニンレベルの上昇は、壊死の指標となる。
本発明に係る方法の好ましい実施形態では、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有する被験者におけるトロポニンレベル、特にトロポニンTレベル(本出願で規定される)は、0.002と等しい又はそれ以上であり、かつ0.1ng/ml未満である。
ミオグロビンは、154アミノ酸の単一ポリペプチド鎖よりなる細胞質ヘムタンパク質であり、ほぼ限定的に心筋細胞及び有酸素性骨格筋繊維でのみ発現される。ヘモグロビンのように、ミオグロビンは、酸素に可逆的に結合するので、代謝活性増大期に赤血球からミトコンドリアへの酸素運搬を促進しうるか、又は低酸素状態時若しくは無酸素状態時に酸素リザーバーとして機能しうる。Ordway G. and Garry D. J., Myoglobin: an essential hemoprotein in striated muscle. 2004. Journal of Experimental Biology 207, 3441-3446 (2004)。ミオグロビンは、当技術分野で周知である。さらに、ミオグロビンの量を決定するアッセイもまた周知である。
心臓型脂肪酸結合タンパク質は、本明細書中ではH-FABP又は心臓脂肪酸結合タンパク質とも称され、心筋細胞内で長鎖脂肪酸の主要な輸送体として機能する低分子サイトゾルタンパク質である。H-FABPは、心筋中に存在し、心筋傷害に応答して血流中に急速に放出されると一般に考えられている。いくつかの研究、例えば、Okamoto et al., Clin Chem Lab Med 38(3):231-8 (2000) Human heart-type cytoplasmic fatty acid-binding protein (H-FABP) for the diagnosis of acute myocardial infarction. Clinical evaluation of H-FABP in comparison with myoglobin and creatine kinase isoenzyme MB; O'Donoghue et al., Circulation, 114;550-557 (2006) Prognostic Utility of Heart-Type Fatty Acid Binding Protein in patients with acute coronary syndrome; 又は Ruzgar et al., Heart Vessels, 21;209-314 (2006) The use of human heart-type fatty acid-binding protein as an early diagnostic marker of myocardial necrosis in patients with acute coronary syndrome, and its comparison with troponin T and its creatine kinase-myocardial bandにより、H-FABPは、心筋梗塞の早期生化学的マーカーであることが示されている。H-FABPは、当技術分野で周知である。さらに、H-FABPの量を決定するアッセイもまた周知である。
本明細書中で用いられる「ミオグロビン」及び「H-FABP」は、それぞれ、ミオグロビンポリペプチド及びH-FABPポリペプチドの変異体をも包含する。そのような変異体は、それぞれ、特定のミオグロビンポリペプチド及び特定のH-FABPポリペプチドと少なくとも同一の本質的な生物学的性質及び免疫学的性質を有する。特に、それらが、本明細書中で参照される同一の特異的アッセイにより、例えば、それぞれ該ミオグロビンポリペプチド及び該H-FABPポリペプチドを特異的に認識するポリクロナール抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイにより検出可能な場合、それらは、同一の本質的な生物学的性質及び免疫学的性質を有する。さらに、当然のことながら、本発明においていう変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加に起因して異なるアミノ酸配列を有する。この場合、変異体のアミノ酸配列は、依然として、好ましくは、それぞれ特定のH-FABPポリペプチド及び特定のミオグロビンポリペプチドのアミノ配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%又は99%同一である。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、当技術分野で周知のアルゴリズムにより決定可能である。好ましくは、同一性の程度は、比較ウィンドウ全体にわたり最適にアライメントされた2つの配列を比較することにより決定されるべきである。この場合、比較ウィンドウ内のアミノ酸配列の断片は、最適アライメントで参照配列(これは付加や欠失を含まない)と比較して付加又は欠失(例えばギャップ又はオーバーハング)を含みうる。同一アミノ酸残基が両方の配列中に存在する位置の数を決定して一致位置の数を求め、一致位置の数を比較ウィンドウ内の位置の全数で除算し、その結果に100を掛けて配列同一性パーセントを求めることにより、パーセントを計算する。比較のための配列の最適アライメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アライメントアルゴリズムにより、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad Sci. (USA) 85: 2444 (1988)の類似性検索法により、これらのアルゴリズムをコンピュータで実行することにより(GAP、BESTFIT、BLAST、PASTA及びTFASTA、Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WI)、又は目視検査により、実施可能である。比較のために2つの配列が特定されたとして、それらの最適アライメントひいては同一性の程度を決定するために、好ましくは、GAP及びBESTFITを利用する。好ましくは、ギャップ加重として5.00及びギャップ長加重として0.30のデフォルト値を使用する。上記で参照した変異体は、対立遺伝子変異体、又は任意の他の種特異的なホモログ、パラログ若しくはオルソログでありうる。さらに、本明細書中で参照する変異体としては、それぞれ特定のミオグロビンポリペプチド及び特定のH-FABPポリペプチド又は上述のタイプの変異体の断片が含まれるが、こうした断片は、上記で参照した本質的な免疫学的性質及び生物学的性質を有するものでなければならない。そのような断片は、例えば、それぞれミオグロビンポリペプチド及びH-FABPポリペプチドの分解産物でありうる。さらには、リン酸化又はミリスチル化のような翻訳後修飾に起因して異なる変異体が挙げられる。
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離された細胞のサンプル、又は組織若しくは器官に由来するサンプルを意味する。体液のサンプルは、周知の技術により取得可能であり、好ましくは血液、血漿、血清又は尿のサンプル、より好ましくは血液、血漿又は血清のサンプルが挙げられる。組織又は器官のサンプルは、例えば生検により、任意の組織又は器官から取得可能である。分離された細胞は、遠心分離や細胞分取のような分離技術により体液又は組織若しくは器官から取得可能である。好ましくは、細胞サンプル、組織サンプル又は器官サンプルは、本明細書中で参照されるペプチドを発現又は産生する細胞、組織又は器官から取得される。好ましくは、「サンプル」という用語は、血漿サンプル又は血清サンプル、より好ましくは血清サンプルを意味する。
サンプルは、当業者に公知の適切な時点で取得される。好ましくは、サンプルは、急性冠症候群の症状の発現後すぐに、好ましくは2時間以下(したがって2時間以内)、より好ましくは4時間以下、より好ましくは6時間以下で、本発明に従って被験者から取得される。本発明に係る方法は、ACSの症状の発現後すぐにサンプルが取得される場合に特に有利である。そのような場合、検出可能な心筋トロポニンレベルの上昇が急性事象によるものであるか又はすでに存在する冠動脈性心疾患によるものであるかは不明である。
ミオグロビン、好ましくはヒトミオグロビンの量、又はH-FABP、好ましくはヒトH-FABPの量、又は本明細書中で参照される任意の他のペプチド若しくはポリペプチド若しくはタンパク質の量の決定とは、量又は濃度を好ましくは半定量的又は定量的に測定することを意味する。ポリペプチド及びタンパク質という用語は、本出願全体を通して互換的に使用される。測定は、直接的又は間接的に実施可能である。直接的測定とは、ペプチド自体又はポリペプチド自体から得られるシグナル及びサンプル中に存在するペプチドの分子数と直接的に相関するシグナル強度に基づいてペプチド又はポリペプチドの量又は濃度を測定することを意味する。そのようなシグナル(本明細書中では強度シグナルとも称する)は、例えば、ペプチド又はポリペプチドの特異的な物理的性質又は化学的性質の強度値を測定することにより取得可能である。間接的測定としては、二次成分(すなわち、ペプチド自体でもポリペプチド自体でもない成分)、又は生物学的読取り系、例えば測定可能な細胞応答、リガンド、標識若しくは酵素反応生成物から得られるシグナルを測定することが挙げられる。
本発明においては、ペプチド又はポリペプチドの量の決定は、サンプル中のペプチドの量を決定するためのすべての公知の手段により行うことができる。該手段は、種々のサンドイッチアッセイ方式、競合アッセイ方式、又は他のアッセイ方式で標識分子を利用しうるイムノアッセイのデバイス及び方法を含む。該アッセイでは、ペプチド又はポリペプチドの存在又は不在の指標となるシグナルが発生するだろう。さらに、シグナル強度は、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量に直接的若しくは間接的に相関(例えば反比例)するものである。さらなる好適な方法は、ペプチド又はポリペプチドに特異的な物理的性質又は化学的性質、例えばその正確な分子量又はNMRスペクトルを測定することを含む。該方法は、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイに連結された光学デバイス、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析計、NMR分析器、又はクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法としては、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化若しくはロボット化イムノアッセイ(例えば、ElecsysTM分析器を用いて実施可能)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ、例えば、Roche-HitachiTM分析器を用いて実施可能)、及びラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-HitachiTM分析器を用いて実施可能)が挙げられる。
好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の決定は、(a)強度がペプチド又はポリペプチドの量の指標となる細胞応答を引き起しうる細胞を適切な時間にわたり該ペプチド又は該ポリペプチドに接触させるステップ、及び(b)細胞応答を測定するステップを含む。細胞応答を測定するために、好ましくは、サンプル又は処理サンプルを細胞培養物に添加して、内部又は外部の細胞応答を測定する。細胞応答としては、レポーター遺伝子の測定可能な発現、又は例えばペプチド、ポリペプチド若しくは小分子などの物質の分泌が挙げられうる。発現又は物質は、ペプチド又はポリペプチドの量と相関する強度シグナルを生成するものとする。
また、好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の決定は、サンプル中のペプチド又はポリペプチドから取得可能な特異的強度シグナルを測定するステップを含む。以上に記載したように、そのようなシグナルは、質量スペクトルで観測されるペプチド若しくはポリペプチドに特異的なm/z変量における観測シグナル強度、又はペプチド若しくはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルでありうる。
ペプチド又はポリペプチドの量の決定は、好ましくは、(a)ペプチドを特異的リガンドに接触させるステップ、(b)(場合により)非結合リガンドを除去するステップ、及び(c)結合リガンドの量を測定するステップを含む。結合リガンドは、強度シグナルを生成するであろう。本発明において結合は、共有結合及び非共有結合の両方を包含する。本発明においてリガンドは、本明細書に記載のペプチド又はポリペプチドに結合する任意の化合物、例えばペプチド、ポリペプチド、核酸又は小分子でありうる。好ましいリガンドとしては、抗体、核酸、ペプチド又はポリペプチド、例えば、ペプチド又はポリペプチドに対するレセプター又は結合性パートナー、及びペプチドに対する結合ドメインを含むそれらの断片、並びにアプタマー、例えば核酸アプタマー又はペプチドアプタマーが挙げられる。そのようなリガンドの調製方法は、当技術分野で周知である。例えば、好適な抗体又はアプタマーの同定法及び産生法もまた、供給業者により提供される。当業者は、より高い親和性又は特異性を有するそのようなリガンドの誘導体の開発方法に精通している。例えば、ランダム突然変異を核酸、ペプチド又はポリペプチドに導入することが可能である。次に、当技術分野で公知のスクリーニング手順、例えばファージディスプレイにより、これらの誘導体を結合に関して試験することが可能である。本明細書中で参照される抗体は、ポリクロナール抗体及びモノクロナール抗体の両方、さらにはそれらのフラグメント、例えば抗原又はハプテンに結合可能なFv、Fab、及びF(ab)2フラグメントを包含する。本発明はまた、一本鎖抗体、及び所望の抗原特異性を呈する非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列とヒトアクセプター抗体の配列とが組み合わされたヒト化ハイブリッド抗体を包含する。ドナー配列は、通常、ドナーの少なくとも抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造上及び/又は機能上適合するアミノ酸残基をも含みうる。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法により調製可能である。好ましくは、リガンド又は作用剤は、ペプチド又はポリペプチドに特異的に結合する。本発明において特異的結合は、リガンド又は作用剤が分析対象のサンプル中に存在する他のペプチド、ポリペプチド又は物質に実質的に結合する(それらと「交差反応する」)ものであってはならないことを意味する。好ましくは、特異的に結合したペプチド又はポリペプチドは、任意の他の関連するペプチド又はポリペプチドのアフィニティーの少なくとも3倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらにより好ましくは少なくとも50倍のアフィニティーで結合する必要がある。非特異的結合は、それが、例えばウェスタンブロット上のサイズにより又はサンプル中の比較的高い存在量により、依然として識別可能でありかつ明確に測定可能であるならば、許容されうる。リガンドの結合は、当技術分野で公知の任意の方法により測定可能である。好ましくは、該方法は、半定量的又は定量的である。好適な方法について、以下で説明する。
第1に、例えば、NMR又は表面プラズモン共鳴により、リガンドの結合を直接測定しうる。
第2に、リガンドが対象ペプチド又は対象ポリペプチドの酵素活性の基質としても機能するのであれば、酵素反応生成物を測定することが可能である(例えば、切断された基質の量をウェスタンブロットなどにおいて測定することにより、プロテアーゼの量を測定することが可能である)。他の選択肢として、リガンドが酵素的性質自体を呈するものであれば、「リガンド/ペプチド若しくはポリペプチド」複合体又はそれぞれペプチド若しくはポリペプチドに結合したリガンドを好適な基質に接触させて、強度シグナルの生成により検出を行えるようにすることが可能である。酵素反応生成物の測定では、好ましくは、基質の量は飽和状態である。また、反応前、検出可能な標識で基質を標識することも可能である。好ましくは、サンプルを適切な時間にわたり基質に接触させる。適切な時間とは、検出可能な(好ましくは測定可能な)量の生成物を産生させるのに必要な時間を意味する。生成物の量を測定する代わりに、所与の(例えば検出可能な)量の生成物が出現するのに必要な時間を測定することも可能である。
第3に、リガンドを共有結合又は非共有結合で標識に結合させることにより、リガンドの検出及び測定を行うことが可能である。標識は、直接的又は間接的な方法により実施可能である。直接的標識は、標識をリガンドに(共有結合又は非共有結合で)直接結合させることを含む。間接的標識は、一次リガンドに二次リガンドを(共有結合又は非共有結合で)結合させることを含む。二次リガンドは、一次リガンドに特異的に結合するものでなければならない。該二次リガンドは、好適な標識に結合可能であり、かつ/又は二次リガンドに結合する三次リガンドの標的(レセプター)でありうる。シグナルを増大させるために、二次、三次、又はより高次のリガンドがしばしば用いられる。好適な二次及びより高次のリガンドとしては、抗体、二次抗体、及び周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が挙げられる。当技術分野で公知のように、リガンド又は基質を1種以上のタグで「タグ付加」することも可能である。その場合、そのようなタグは、より高次のリガンドの標的でありうる。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが挙げられる。ペプチド又はポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端及び/又はC末端に存在する。好適な標識は、適切な検出方法により検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁気標識(「例えば、磁気ビーズ」、常磁性標識及び超常磁性標識を包含する)、及び蛍光標識が挙げられる。酵素活性標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体が挙げられる。検出に好適な基質としては、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート(Roche Diagnosticsから既製のストック溶液として入手可能))、CDP-StarTM(Amersham Biosciences)、ECFTM(Amersham Biosciences)が挙げられる。好適な酵素-基質の組合せを用いれば、当技術分野で公知の方法(例えば、感光性フィルム又は好適なカメラシステムを用いる方法)により測定しうる着色反応生成物(蛍光又は化学発光)を生成させることが可能である。酵素反応の測定に関しては、上記した判定基準が同じように適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びAlexa色素(例えば、Alexa 568)が挙げられる。さらなる蛍光標識は、例えば、Molecular Probes (Oregon)から入手可能である。さらに、蛍光標識として量子ドットの使用も考えられる。典型的な放射性標識としては、35S、125I、32P、33Pなどが挙げられる。放射性標識は、任意の公知の適切な方法、例えば、感光性フィルム又は蛍燐光体イメージャーにより、検出可能である。本発明において好適な測定方法としては、この他に、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電解発生化学発光)、RIA(放射免疫アッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチ免疫アッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光免疫アッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法、比朧法、ラテックス増強比濁法若しくはラテックス増強比朧法、又は固相免疫試験が挙げられる。当技術分野で公知のさらなる方法(例えば、ゲル電気泳動、二次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウェスタンブロッティング、及び質量分析)を、単独で、又は標識化若しくは上記の他の検出方法と組み合わせて、使用することが可能である。
ペプチド又はポリペプチドの量はまた、好ましくは、次のように決定可能である。すなわち、(a)上記で指定されたペプチド又はポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体を、ペプチド又はポリペプチドを含むサンプルに接触させて、(b)支持体に結合したペプチド又はポリペプチドの量を測定する。リガンド(好ましくは、核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体、及びアプタマーよりなる群から選択される)は、好ましくは、固相化形態で固体支持体上に存在する。固体支持体を製造するための材料は、当技術分野で周知であり、特に、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、ジュラサイト(duracyte)、反応トレーのウェル及び壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。リガンド又は作用剤は、多種多様な担体に結合可能である。周知の担体の例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然セルロース及び変性セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、並びにマグネタイトが挙げられる。担体の性質は、本発明の目的では、可溶性又は不溶性のいずれも可能である。該リガンドの固定化/固相化に好適な方法は、周知であり、イオン性相互作用、疎水性相互作用、共有結合相互作用などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明においてアレイとして「サスペンジョンアレイ」を使用することも考えられる(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのようなサスペンジョンアレイでは、マイクロビーズやマイクロスフェアなどの担体は、懸濁状態で存在する。アレイは、標識化されている可能性もあるさまざまなリガンドを担持するさまざまなマイクロビーズ又はマイクロスフェアで構成される。そのようなアレイ、例えば、固相化学及び光解離性保護基に基づくアレイの製造方法は、広く知られている(米国特許第5,744,305号)。
好ましくは、ミオグロビンの量及びH-FABPの量(H-FABPを測定する場合)は、本発明に規定される被験者から得られた血液サンプル(例えば血清又は血漿サンプル)中で決定される。好ましくは、そのような測定は、ELISAにより行われる。ELISAによるそのような測定は、例えば、それぞれ、H-FABPの量を決定するためのヒト心臓型脂肪酸結合タンパク質用のHBT ELISA Test Kit (HyCult Biotechnology, Uden, The Netherlands)を用いることにより、及びミオグロビンの量を決定するためのTina-Quant(登録商標) Myoglobin Test System (Roche Diagnostics)を用いることにより、実施可能である。
本明細書中で用いる「量」という用語は、絶対量(例えば、ミオグロビン又はH-FABPの絶対量)、相対量又は相対濃度(例えば、ミオグロビン又はH-FABPの相対量又は相対濃度)、さらにはそれらと相関する任意の値又はパラメータを包含する。そのような値又はパラメータは、直接的測定により該ペプチドから得られるあらゆる特異的な物理的性質又は化学的性質に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルの強度値を包含する。さらに、本明細書中の他の箇所に指定された間接的測定により得られるすべての値又はパラメータ、例えば、ペプチドに応答する生物学的読取り系から決定される発現レベル、又は特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルが包含される。当然のことながら、上述の量又はパラメータと相関する値もまた、いずれも標準的な数学演算により取得可能である。
本明細書中で用いる「比較すること」という用語は、分析対象のサンプルに含まれるペプチド、ポリペプチド、タンパク質の量を本明細書中の他の箇所に指定された好適な参照元の量と比較することを包含する。当然のことながら、本明細書中で用いる比較は、対応するパラメータ又は値の比較を意味する。例えば、絶対量は絶対参照量と比較し、一方、濃度は参照濃度と比較し、又は被験サンプルから得られた強度シグナルは、参照サンプルの同一タイプの強度シグナルと比較する。本発明に係る方法のステップ(b)でいう比較は、手動で実施してもよいし又はコンピュータにより支援してもよい。コンピュータにより支援される比較では、決定された量の値をデータベース中に記憶された好適な参照に対応する値とコンピュータプログラムにより比較することが可能である。コンピュータプログラムはさらに、比較の結果を評価することが可能である。すなわち、好適な出力形式で所望の評価を自動で提供することが可能である。ステップ(a)で決定された量と好適な参照量との比較に基づいて、前記被験者でMIを診断することが可能である。当然のことながら、本発明に係る方法のステップ(a)において決定されたミオグロビンの量は、本出願中の他の箇所に指定されたミオグロビンの参照量とステップ(b)で比較し、H-FABPの量は、H-FABPの参照量と比較する。
したがって、本明細書中で用いる「参照量」という用語は、急性冠症候群に罹患しておりかつ検出可能であるが心筋梗塞の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有する被験者における(したがって、本発明に規定される被験者における)、MIの最近の発症の確定を可能にする量又はMIの最近の発症の除外を可能にする量のいずれかを意味する。これに関連して最近の発症とは、好ましくは、被験者からサンプルを取得する前の6時間以内、より好ましくは4時間以内、最も好ましくは2時間以内にMIを発症したことを意味する。好ましくは、MIを確定するための参照量は、好ましくはサンプルを取得する前の6時間以内、より好ましくは4時間以内、最も好ましくは2時間以内にMIに罹患したことがわかっている本発明に規定される被験者から導出可能である。MIの最近の発症を除外するための参照量は、MIに罹患したことがないことがわかっている本発明に規定される被験者から導出可能である。さらに、MIの最近の発症を除外するための参照量は、低いが検出可能な心筋トロポニンレベル(上記で特定したとおり)を有しかつMIに罹患しなかった安定冠動脈性心疾患の被験者から導出可能である。MIの発症を確定するための参照量よりも多い本発明に規定される被験者のミオグロビンの量及び場合によりH-FABPの量は、該被験者におけるMIの最近の発症の指標となるものとする(したがって、ACSの原因がMIであることの指標となるものとする)。MIの発症を除外するための参照量よりも少ない本発明に規定される被験者のミオグロビンの量及び場合によりH-FABPの量は、MI梗塞を最近発症していないこと、したがって該被験者が好ましくはUAPに罹患していることの指標であるものとする(したがって、ACSの原因がUAPであることの指標であるものとする)。本発明との関連では、当然のことながら、ミオグロビン量が上記で述べた参照量(MIの最近の発症を確定するための参照量及びMIの最近の発症を除外するための参照量)の間にある本発明に規定される被験者は、再度診断が必要であろう。好ましくは、これはまた、ミオグロビン及びH-FABPの両方の量が決定されかつこれらの量が対応しない稀な場合、例えば、一方の量はそれぞれの参照量よりも多い(又は少ない)が他方の量はそれぞれの参照量よりも多くない(又は少なくない)稀な場合にも行われるであろう。新しい診断は、好ましくは、該被験者の新しい(したがって、より最近取得した)サンプルで、ミオグロビンの量及び場合によりH-FABPの量を決定することにより行われる。新しいサンプルは、好ましくは、最初のサンプルの取得の1時間後、2時間後、又は3時間後に被験者から取得可能である。サンプルの取得後、新しいサンプルでミオグロビンの量及び場合によりH-FABPの量を決定することが可能である。次に、こうして得られた結果(複数可)を参照量(本出願中の他の箇所に記載される)と比較することが可能である。好ましくは、心筋トロポニンの量もまた、サンプル中で決定し、診断に用いる。好ましくは、ACSの症状を示した6時間後における0.1ng/mlよりも多い心筋トロポニンTの量は、MIの指標となる。
当業者であれば、参照量を決定する方法を認識している。診断の所望の感度又は特異性に基づいて参照量を選択することも可能であることが理解されるだろう。したがって、当業者であれば、所望の感度及び特異性に基づいて参照量を選択することが可能である。好適な参照量を決定するための手段は、当業者に公知であり、例えば、臨床試験に基づいて受信者動作特性(Receiver-Operator)曲線(ROC)から参照量を決定することが可能である。
ミオグロビンの閾値量を規定する、本発明に規定される被験者におけるMIの最近の発症を確定するためのミオグロビンの参照量は、64ng/ml又は69ng/ml、より好ましくは77ng/mlである。
MIの最近の発症を確定するためのミオグロビンの参照量よりも多いミオグロビンの量は、より好ましくは、MI(特にはNSTEMI)の最近の発症の指標となる。
ミオグロビンに加えて、本発明に規定される被験者のサンプル中でH-FABPの量を決定して参照量と比較する場合、H-FABPの閾値量を規定する、MIの最近の発症を確定するためのH-FABPの参照量は、4950pg/ml、好ましくは5550pg/ml、若しくは6000pg/ml、又はより好ましくは5700pg/mlである。
より好ましくは、MIの最近の発症を確定するためのH-FABPの参照量よりも多いH-FABPの量は、被験者のサンプル中のミオグロビンの量もまた同様にMIの最近の発症を確定するためのミオグロビンの参照量より多いのであれば、MI(特にはNSTEMI)の最近の発症の指標となる。
ミオグロビンの閾値量を規定する、本発明に従って被験者におけるMIの最近の発症を除外するためのミオグロビンの参照量は、好ましくは28ng/ml若しくは61ng/ml、又はより好ましくは55ng/mlである。
より好ましくは、MIの最近の発症を除外するためのミオグロビンの参照量よりも少ないミオグロビンの量は、本発明に規定される被験者において心筋梗塞を発症しなかったことの指標となる。好ましくは、結果として、MIの発症を除外することが可能であり、例えばUAPであると推定することが可能である。
ミオグロビンに加えて、本発明に規定される被験者のサンプル中でH-FABPの量を決定して参照量と比較する場合、H-FABPの閾値量を規定する、本発明に従って被験者におけるMIの最近の発症を除外するためのH-FABPの参照量は、2100pg/ml若しくは2300pg/ml、又はより好ましくは2500pg/mlである。
より好ましくは、MIの最近の発症を除外するためのH-FABPの参照量よりも少ないH-FABPの量は、被験者のサンプル中のミオグロビンの量もまた同様にMIの最近の発症を除外するためのミオグロビンの参照量よりも少ないのであれば、本発明に規定される被験者において心筋梗塞が発症しなかったことの指標となる。好ましくは、結果として、MIの発症を除外することが可能であり、例えばUAPであると推定することが可能である。
「少なくとも1つの参照量」という用語は、1つ若しくは1つより多い参照量(例えば2つの参照量)、例えば、MIの最近の発症を確定するための参照量及びMIの最近の発症を除外するための参照量を意味する。
有利には、本発明の根底をなす研究において、本発明に規定される被験者(したがって、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるがMIの指標とみなされるレベルよりも低いトロポニンレベルを有する被験者)におけるミオグロビンの量の決定及び決定した量と少なくとも1つの参照量との比較が該被験者におけるMIの診断に必要であることが判明した。ACS又は推定ACSの症状の発現直後の心筋トロポニンTレベルが低いが検出可能である(特に、0.002ng/mlより高く、0.1ng/mlより低い)場合のMIの発症の評価にミオグロビンが必要であることが判明したので、上述の方法は、先行技術のものよりも信頼性が高い。本発明の根底をなす研究では、ACSの症状を示す患者のサンプル中でミオグロビンレベル及びTnTレベルを決定した(症状の発現後の最初の2時間以内)。0.002ng/mlの検出限界を有する高感度トロポニンTアッセイを用いることによりTnTレベルを決定した。さらに、H-FABPの量も測定した。安定冠動脈性疾患の患者(すなわち、顕性急性事象のない患者)でTnT、ミオグロビン及びH-FABPの量を決定する対照実験を行った。これら実験から、安定冠動脈性疾患の被験者でもTnTが検出されうることがわかった。さらに、上述の研究のデータを含む受信者動作特性(ROC)曲線解析から、ミオグロビンが心筋梗塞の強力な生化学的マーカーであることが示された(図2)。具体的には、77ng/mlよりも多い本発明に規定される被験者でのミオグロビン量は、MIの最近の発症の指標となり(確定)、一方、55ng/mlよりも少ない量は、MIを最近発症しなかったことの指標となる(除外)。さらに、ミオグロビンの量に加えて被験者のサンプル中のH-FABPの量を決定して少なくとも1つのH-FABPの参照量と比較する場合、本発明に規定される被験者のサンプル中のミオグロビンの測定に基づく診断の感度及び特異性は、より一層増大する。特に、5700pg/mlよりも多い本発明に規定される被験者におけるH-FABP量は、MIの最近の発症の指標となり(確定)、一方、2500pg/mlよりも少ない量は、MIを最近発症しなかったことの指標となる(除外)(図1参照)。本発明のこの態様のおかげで、低いが検出可能な(検出可能であるがMIの指標とみなされるレベルよりも低い)心筋トロポニンレベルを有するACS又は推定ACSの患者の診断をより信頼性をもって行うことが可能である。本発明の根底をなす研究の知見は、(a)すでに存在する冠動脈性心疾患が原因で低いが検出可能な心筋トロポニンレベル(したがって心筋トロポニンレベルの上昇)をすでに有するうえにACSの症状をも示す被験者、及び(b)心筋トロポニンレベルを決定するためのサンプルを取得した時点で低いが検出可能な心筋トロポニンレベルを有する(例えば、サンプルをあまりにも早期に取得したため)がMIを最近発症したACSの被験者、の診断に特に有利であろう。(a)及び(b)のいずれの場合にも、ミオグロビン及び場合によりH-FABPの測定は、診断に有益なツール、特にUAPとMIとを識別するのに有益なツールであろう。診断後、それに応じて被験者を治療することが可能である。ミオグロビン及び場合によりH-FABPを測定しない場合、診断を誤る可能性があり、その結果、指定の被験者の間違った治療、有害な治療、及び/又は遅れた治療が行われると推定される。
本発明に係る方法の好ましい実施形態では、本方法は、急性冠症候群に罹患しておりかつ検出可能であるが心筋梗塞(MI)の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有する被験者において、心筋梗塞(MI)と不安定狭心症(UAP)との識別を可能にする。
したがって、本発明に係る方法は、一実施形態では、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞(MI)の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有する被験者において心筋梗塞と不安定狭心症とを識別する方法であって、以下のステップ:
(a)該被験者のサンプル中のミオグロビンの量を決定するステップ、
(b)ステップ(a)で決定されたミオグロビンの量を少なくとも1つの参照量と比較するステップ、並びに
(c)ステップ(a)及び(b)で得られた情報に基づいて心筋梗塞と不安定狭心症とを識別するステップ
を含む方法である。
特に想定されることとして、被験者は、ACSの症状の発現時に低いが検出可能な(したがって、検出可能であるがMIの指標とみなされるレベルよりも低い)心筋トロポニンレベルを有するものとする(したがって、ACSの前に該レベルを有するものとする)。好ましくは、該検出可能なレベルは、冠動脈性心疾患によるものである。以上に述べたように、ACSの場合、検出可能なレベルが既存の冠動脈性心疾患によるものであるか又は当該ACSによるものであるかを決定するのは困難である。
したがって、本発明に係る方法の好ましい実施形態では、本方法は、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞(MI)の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有し、かつACSの症状の発現時に低いが検出可能な心筋トロポニンレベルをすでに有していた被験者における心筋梗塞の診断のためのものである。
したがって、本発明に係る方法は、一実施形態では、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞(MI)の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有し、かつACSの症状の発現時に低いが検出可能な心筋トロポニンレベルをすでに有していた(従って発症の直前である)被験者における心筋梗塞の診断方法であって、以下のステップ:
(a)該被験者のサンプル中のミオグロビンの量を決定するステップ、
(b)ステップ(a)で決定されたミオグロビンの量を少なくとも1つの参照量と比較するステップ、並びに
(c)ステップ(a)及び(b)で得られた情報に基づいて心筋梗塞を診断するステップ
を含む方法である。
以上に従って、本発明を用いてACSに罹患している被験者においてMIを確定/除外することが可能である。
したがって、本発明に係る方法の他の好ましい実施形態では、本方法は、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞(MI)の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有し、かつACSの症状の発現時に(したがって、症状の発現の直前にも)低いが検出可能な心筋トロポニンレベルをすでに有していた被験者における心筋梗塞の除外のためのものである。好ましくは、ミオグロビンのレベルがMIを除外するための参照量よりも低い場合、MIは除外される。H-FABP及びミオグロビンの両方を測定する場合、好ましくは両方のマーカーがMIを除外するためのそれぞれの参照量よりも少ないときにMIは除外される。
したがって、本発明に係る方法は、一実施形態では、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞(MI)の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有し、かつ好ましくはACSの症状の発現時に低いが検出可能な心筋トロポニンレベルをすでに有していた被験者における心筋梗塞の除外方法であって、以下のステップ:
(a)該被験者のサンプル中のミオグロビンの量を決定するステップ、
(b)ステップ(a)で決定されたミオグロビンの量を心筋梗塞を除外するための参照量と比較するステップ、並びに
(c)ミオグロビンの量が心筋梗塞を除外するための参照量よりも少ない場合に心筋梗塞を除外するステップ
を含む方法である。
本発明に係る方法の他の好ましい実施形態では、本方法は、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞(MI)の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有し、かつ好ましくはACSの症状の発現時に低いが検出可能な心筋トロポニンレベルをすでに有していた被験者における心筋梗塞の確定のためのものである。好ましくは、ミオグロビンのレベルがMIを確定するための参照量よりも多い場合、MIは確定される。H-FABP及びミオグロビンの両方を測定する場合、好ましくは両方のマーカーがMIを確定するためのそれぞれの参照量よりも多いときにMIは確定される。
上述の方法に関して用いられる用語の説明は、本明細書中の他の箇所に見いだしうる。好ましくは、それらはまた、H-FABPの量の決定及び該量と参照量との比較を含む。
当然のことながら、本明細書中で上記及び下記に記載した本発明に係る方法においては、ミオグロビンの量及び好ましくはさらにH-FABPの量又はそれらを決定するための手段は、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有する被験者においてMIを診断するための診断用組成物を製造するために使用可能である。
本発明はさらに、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有する被験者であって、心臓インターベンションを行いうる被験者を特定する方法であって、上述の方法のいずれか1つで説明されたステップ(a)及び(b)並びに場合によりステップ(aa)及び(bb)を行うステップと、(c)心臓インターベンションを行いうる被験者を特定するステップとを含む方法に関する。
上述の方法のおかげで、患者を心臓インターベンションに供する前にリスク/成功層別化を容易に行うことが可能である。心臓インターベンションを行えない患者であることが判明した場合、この危険で、時間がかかり、かつ/又はコストのかかる療法を回避することが可能である。したがって、被験者が心臓インターベンションに伴う有害かつ重篤な副作用を受けないようにすること以外に、本発明に係る方法は、資源が節約されるという点で保健システムに有益であろう。
当然のことながら、本発明に係る上述の方法との関連では、MIに罹患していると診断された被験者、したがって、MIを最近発症した被験者は、心臓インターベンションを行いうる。
本明細書中で用いられる「特定すること」という用語は、心臓インターベンションを行いうる被験者であるか否か評価することを意味する。当業者であれば理解するであろうが、そのような評価は、通常、特定される対象の被験者のすべて(すなわち100%)に対して正しいことが意図されるわけではない。しかしながら、この用語は、統計学的に有意な一部分の被験者を特定できることを必要とする(例えば、コホート試験における1コホート)。当業者であれば別の手間なく、種々の周知の統計学的評価ツールを用いて、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定などを行って、一部分が統計学的に有意であるかどうかを決定することが可能である。詳細な内容は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見いだされる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。より好ましくは、集団の被験者の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%は、本発明に係る方法により、適切に特定可能である。
「心臓インターベンション」という用語は、当業者により適切であるとみなされるMIの治療レジメンを包含する。この用語は、手術、顕微手術、心臓血管系(好ましくは心臓)に影響を及ぼす他の侵襲的療法、さらには保存的な(手術以外の)治療方法によるインターベンションを包含する。保存的方法は、当技術分野で公知であり、非薬理学的方法及び薬理学的方法を包含する。薬理学的方法とは、治療有効量の医薬(例えば、ヘパリン、アセチルサリチル酸、クロピドグレル)の投与を意味する。好ましくは、本明細書中で用いられる心臓インターベンションは、心臓の適正酸素供給を回復することを目標とする治療レジメンである。これは、好ましくは、心臓を維持する血管、すなわち冠血管全体にわたり血流を回復することにより達成される。そうした血管は、例えば、血栓性プラーク又はアテローム性動脈プラークにより障害される可能性がある。したがって、心臓インターベンションは、好ましくは、必要であれば、そのようなプラークの破壊及び/又は除去並びに血管の回復を含むものとする。本発明において好ましい心臓インターベンションは、経皮的冠血管形成術、経皮経管的冠バルーン血管形成術、レーザー血管形成術、冠ステント留置術、バイパス移植術、又は血流の回復、血管の開存の回復、プラークの安定化、及び/若しくは冠内血栓負荷の低減を目標とする管腔内技術よりなる群から選択される。
さらに、本発明は、急性冠症候群に罹患しており、かつ検出可能であるが心筋梗塞の指標とみなされるレベルよりも低い心筋トロポニンレベルを有する被験者に対する可能な治療を決定する方法であって、以下のステップ:
(a)該被験者のサンプル中のミオグロビンの量を決定するステップ、
(b)ステップ(a)で決定されたミオグロビンの量を少なくとも1つの参照量と比較するステップ、並びに
(c)ステップ(a)及び(b)で得られた情報に基づいて、心臓インターベンションの開始を推奨するか又は心臓インターベンションを回避するステップ
を含む方法に関する。
本発明に係る上述の方法の一実施形態では、追加として、ステップ(a)で被験者のサンプル中の心臓脂肪酸結合タンパク質(H-FABP、心臓型脂肪酸結合タンパク質と称されることも多い)の量を決定し、ステップ(b)でH-FABPの少なくとも1つの参照量と比較する。したがって、ステップ(c)では、ミオグロビン及びH-FABPの決定された量、ミオグロビンの量とミオグロビンの少なくとも1つの参照量との比較、及びH-FABPの量とH-FABPの少なくとも1つの参照量との比較に基づいて、心臓インターベンションの開始の推奨及び/又は心臓インターベンションの回避を行う。
さらに、本発明には、被験者のサンプル中のミオグロビンの量、及び場合によりH-FABPの量を決定するための手段と、該量を少なくとも1つの参照量と比較するための手段とを含む、本発明の方法を実施するためのキット又はデバイスが包含される。
本明細書中で用いられる「キット」という用語は、好ましくは個別に又は単一の容器内に提供される上述の手段の集合を意味する。キットは、心筋トロポニンの量を決定するための手段を追加として含んでもよい。場合により、キットは、本発明に規定される被験者におけるMIの診断に関するいずれかの測定の結果を解釈するための利用者マニュアルを追加として含みうる。特に、そのようなマニュアルは、どのような決定された量がどのような種類の診断に対応するかに関する情報を含みうる。これについては、本明細書中の他の箇所に詳しく概説されている。このほかに、そのような利用者マニュアルは、それぞれのバイオマーカーの量を決定するためのキットの構成要素を正確に使用することに関する使用説明書を提供しうる。
本明細書中で用いられる「デバイス」という用語は、MIを診断できるように又は心臓インターベンションを行いうる被験者を特定できるように互いに作動可能に連結された少なくとも上述の手段を含む手段のシステムを意味する。デバイスの発明は、心筋トロポニンの量を決定するための手段を追加として含んでもよい。好ましい、ミオグロビン及びH-FABPの量を決定するための手段並びに比較を行うための手段は、本発明に係る方法に関連して上記に開示されている。いかにして手段を作動可能に連結するかは、デバイスに組み込まれる手段のタイプに依存するであろう。例えば、ペプチドの量を自動決定するための手段を適用する場合、所望の結果が得られるように、該自動作動手段により得られたデータを例えばコンピュータプログラムにより処理することが可能である。好ましくは、そのような場合、手段は、単一のデバイス内に含まれる。したがって、該デバイスは、適用されたサンプル中のペプチド又はポリペプチドの量を測定するための分析ユニット、及び評価を行うべく得られたデータを処理するためのコンピュータユニットを含みうる。他の選択肢として、ペプチド又はポリペプチドの量を決定するために検査ストリップのような手段を使用する場合、比較のための手段は、決定された量を参照量に割り付ける対照ストリップ又は対照テーブルを含みうる。検査ストリップには、好ましくは、本明細書中で参照されるペプチド又はポリペプチドに特異的に結合するリガンドを結合させる。ストリップ又はデバイスは、好ましくは、該リガンドへの該ペプチド又は該ポリペプチドの結合を検出するための手段を含む。検出のための好ましい手段については、本発明に係る方法に関する実施形態に関連して上記に開示されている。そのような場合、マニュアルに記載の指示及び解釈に基づいてシステムの利用者が量の測定結果とその診断値又は予後判定値とを合わせるという意味で、手段は作動可能に連結されている。手段は、そのような実施形態では、個別のデバイスとして存在しうるが、好ましくは、キットとして一緒にパッケージングされる。当業者であれば別の手間もなく、いかにして手段を連結するかを理解するであろう。好ましいデバイスは、専門臨床医の特別な知識がなくても適用可能なもの、例えば、単にサンプルを充填することだけを必要とする検査ストリップ又は電子デバイスである。結果は、臨床医による解釈を必要とする生データの出力として与えられることもある。しかしながら、デバイスの出力は、好ましくは、解釈のために臨床医を必要としない処理済みすなわち評価済みの生データである。さらなる好ましいデバイスは、分析ユニット/デバイス(例えば、バイオセンサー、アレイ、ミオグロビン若しくはH-FABPを特異的に認識するリガンドを結合させた固体支持体、プラズモン表面共鳴デバイス、NMR分光計、質量分析計など)又は本発明に係る方法に適合する上記で参照した評価ユニット/デバイスを含む。
本発明はまた、被験者において心筋梗塞を診断するための診断用組成物を製造するための、ミオグロビン及び場合によりH-FABPの使用、並びに/又はミオグロビンの量及び場合によりH-FABPの量を決定するための手段の使用、並びに/又はミオグロビンの量及び場合によりH-FABPの量を少なくとも1つの参照量と比較するための手段の使用に関する。
本明細書中で引用された参考文献はすべて、それらの全開示内容に関して参照により本明細書に組み入れられるものとし、かつ該開示内容は、本明細書中に明確に述べられているものとする。
以下の実施例は、単に本発明を例示したにすぎないものとする。それらはいずれも、本発明の範囲を限定するとみなさるものではない。
実施例1:急性冠症候群の患者におけるミオグロビン、H-FABP、及びトロポニンT
ACSの特徴的症状(例えば胸痛)を示す69名の患者を検査した。症状の発現後の最初の2時間以内に血液サンプルを取得した。ST上昇型MIの診断のために、心電図検査により患者を検査した。この他に、0.01ng/mlの検出限界を有するトロポニンTアッセイを用いてトロポニンT濃度を決定した。STEMI又はNSTEMIと診断できなかった患者からさらなる血液サンプルを取得した(0.01ng/mlより高いが0.1ng/ml未満であるTnT濃度、したがって、壊死の指標となるレベル)。症状の発現の少なくとも6時間後に取得したサンプル中の0.1ng/mlより高いトロポニンTレベルを、最近発症したMIの指標とみなし(MI転換者)、そうでなければUAPと診断した(非MI転換者)。
後の分析では、0.002ng/mlの検出限界を有する高感度TnTアッセイ、Tina-Quant(登録商標) Myoglobin Test System (Roche Diagnostics)及びH-FABP ELISA検査キット(ヒト心臓型脂肪酸結合タンパク質用のHBT ELISA検査キット; HyCult Biotechnology, Uden, The Netherlands)をそれぞれ用いることにより、STEMI又はNSTEMIと診断できなかった患者(最初のサンプル中のTnT濃度は、検出可能であり0.01ng/mlより高いが0.1ng/ml未満である)に由来するサンプル中のTnT、ミオグロビン、及びH-FABPの濃度を決定した。結果を以下の表に示す。
実施例2:安定冠動脈性心疾患の患者におけるミオグロビン、H-FABP及びトロポニンT
合計234名の安定冠動脈性心疾患の患者の血液サンプル中でミオグロビン、H-FABP、及び高感度トロポニンTを測定した。患者は、明らかに急性冠事象に罹患していなかった。以上に指定されたようにH-FABPを測定した。0.002ng/mlの検出限界を有する高感度トロポニンT検査によりトロポニンTを測定した。患者を心エコー検査及び冠血管形成術をはじめとする詳細な心臓病学的研究に付した。冠動脈性心疾患を1枝病変、2枝病変、又は3枝病変に細分類した。この場合、血管ごとに50%より多くの狭窄を生じるはずである。結果を以下の表に示す。