JP5915218B2 - 金型寿命予測装置 - Google Patents
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Description
高圧鋳造(High Pressure Die Casting)は、溶湯をキャビティ内へ射出圧入し、金型で急速冷却するため、生産周期が短く、大量生産に適している。また、高圧鋳造品は、鋳肌が良好で、寸法精度が高く、完成品に近い製品形状を得ることができる。
しかも、鋳造時の金型温度や、この温度による金型材料の特性変化等が考慮されていないため、推定された金型寿命と実際の金型寿命との間に誤差を生じることがあり、予測精度が十分ではない。
(1)射出工程において、金型のゲート部の周辺近傍は溶湯から物理的な影響を受ける
(2)金型のクラックは疲労破壊の形態に類似する
(3)金型の部分形状に関わりなく、同一の条件によって定量的に予測できる
これらの条件設定によって、金型クラックの発生原因は流動する溶湯が金型表面を叩く衝撃(打撃)によるものと見做すことができるため、理論的にはCAE技術を用いて溶湯の衝撃エネルギーを評価し、金型寿命を予測することが可能である。
本実施例では、Al−Si−Cu系Al合金としてのADC10(JIS規格)の溶湯をキャビティを備えた金型へ加圧状態で注湯し、鋳造成形品、例えば、シリンダブロックBを形成する高圧鋳造(High Pressure Die Casting)の例について説明する。
準備工程では、溶湯をゲート部4の入口部aからキャビティ直前まで低速で充填する。射出工程では、溶湯を高圧状態で射出し、金型2(下側スライド型2d)の途中部に形成されたゲート部4の出口部bから離隔部c等のキャビティ端部まで溶湯を充填する。射出条件は、例えば、溶湯の射出容量が約15Kg、射出時間が0.1sec未満、ゲート部4内の溶湯流速が50m/sec程度になるように注湯機3の射出速度が設定されている。冷却工程では、キャビティ内の溶湯を急速冷却する。金型2内には冷却水用配管(図示略)が設けられ、所定の冷却速度に設定されている。また、冷却工程中、金型2には50MPa以上の圧力が付与される。溶湯の凝固完了後、型ばらしされ、鋳造成形品が取出される。
図2に示すように、金型寿命予測装置10は、CAD(Computer Aided Design)装置11(金型メッシュモデル作成手段)と、CAE(Computer Aided Engineering)装置12(流速算出手段)と、データベースとしての記憶装置13と、入力装置14と、処理装置15(衝撃エネルギー算出手段、金型寿命算出手段)と、表示装置16等を備えている。CAD装置11とCAE装置12と記憶装置13と処理装置15は、通信回線を介して相互に各種情報の伝達が可能に構成されている。前記各装置は、その他の通信手段を介して情報の送受信が相互に可能であり、また、各種情報を記録媒体に記憶させて他の装置に情報を伝達するように構成することも可能である。
CAE装置12は、CAE湯流れ解析プログラムに基づき溶湯の溶湯注入開始後において経過時間毎の溶湯の湯流れ解析を行う(S1)。
図4に示すように、シリンダブロックBの設計情報に基づき、金型2のキャビティ形状に相当したシリンダブロックBを三角形形状の面を備えたセル(四面体要素)によって三次元的に要素分割し、複数のノードを備えたメッシュ状の有限要素モデル22を作成する。セルによるシリンダブロックBの要素分割は、セルの大きさや形状等を任意に設定可能である。尚、凝固解析にあたり、有限要素モデル22をCAD装置11からの金型モデル情報に基づいて作成することも可能である。
一般に、CAE湯流れ解析プログラムでは、壁面近くの流速分布はレイノズル数に無関係で、流体密度、動粘性係数、壁面摩擦応力、壁からの距離に支配されるというプラントルの壁法則(Prandtl’s law of wall)を計算の前提条件としている。
そこで、図6に示すように、各ノード25における溶湯流速を演算し、金型表面に隣り合うセルに対応したノード25の溶湯流速を金型表面(金型メッシュモデル21の表面セル)における溶湯流速として割付ける。尚、各セルは、四面体要素によって三次元的に要素分割されているため、金型表面に隣り合うセルのノード25うち、金型表面に最も近接したノード25の溶湯流速を金型表面の溶湯流速としてサンプリングする。
CAE湯流れ解析プログラムでは、溶湯流速演算結果として所定の座標軸に沿った流速成分しか出力しないため、金型表面に作用する衝撃エネルギーP、所謂溶湯流速の金型面直交成分を出力できない。そこで、図7に示すように、金型メッシュモデル21の表面セルに対して割付けられたノード25における金型面直交方向を割り出し、これらのノード25の流速成分から金型表面に直交した方向成分を取り出し溶湯流速vtを算出する。
S5では、サンプリングされたノード25毎の金型面直交方向の溶湯流速vtを、鋳造開始から射出工程終了(キャビティ充填完了)まで経過時間毎に連結する。
以下、図8に示す金型面直交流速曲線La〜Lcに基づき、金型表面に相当するゲート部4の入口部a及び出口部b、キャビティの離隔部c(図1参照)についての溶湯流速曲線情報の作成を説明する。
CAE装置12は、記憶装置13から成形条件を取得する。その成形条件は、注入初期の溶湯温度、充填時間、最大加圧力、保圧値、保圧時間、注入開始からの経過時間等である。また、溶湯の物性値(属性)として、ADC10の熱伝導率、比熱、粘度、温度シフトファクタ等が取得される。CAE装置12は、有限要素モデル22と成形条件と溶湯の物性値によって、各ノードにおける温度変化を演算し、金型温度分布情報を作成する(S8)。
CAD装置11によって、金型の形状データに基づき金型CADモデルを作成し(S11)、図3に示すように、この金型モデルに基づいて金型形状の複数のノードを備えた有限要素モデルとしての3次元金型メッシュモデル21を作成している(S12)。金型メッシュモデル21は、三角形形状の面を備えたセル(四面体要素)によって三次元的に要素分割し、複数のノードを備えたシェルメッシュ状に作成している。有限要素モデルの定義は、ノード番号情報、座標情報が備わっていれば、分割形式や分割要素数について、任意に設定可能である。
S14の後、処理装置15が作成された金型面直交流速曲線La〜Lcに基づいて、金型表面に対応した各セルに対して射出工程開始t1から充填完了t2までに与えられた衝撃エネルギーPを算出する(S21)。
射出工程開始t1から充填完了t2までの金型面直交流速曲線La〜Lcを複数n(例えば10分割)に等分し、次式(1)に基づいて衝撃エネルギーPの単位時間当たりの瞬間値(Pa1…Pan,Pb1…Pbn,Pc1…Pcn)を時系列的に累積してセル(ノード)毎の衝撃エネルギーP、例えば入口部a、出口部b、離隔部cの衝撃エネルギーPa,Pb,Pcを夫々求める。尚、分割数は、経験値或いは実験値により、任意に設定することができる。
P=Σ(1/2×m×V×vt2)=1/2×m×V×Σ(vt2) …(1)
P:衝撃エネルギー(J)、m:溶湯密度(Kg/cm3)、V:有限要素モデルのセル体積(cm3)、vt:金型面直交方向の溶湯流速(m/s)である。
T1=(N×P)/A …(2)
T1:N回鋳造後に金型に蓄積される衝撃蓄積値(J/cm2)、N:鋳造回数、A:衝撃エネルギーが作用する部分の表面積(cm2)である。
金型2の微小クラックは衝撃蓄積値T1が材料固有靭性値T2を超えた領域に発生するため、次式(3)の関係が成り立つ領域をS16で作成された第1衝撃蓄積値分布図31から抽出し、図10に示す第1破損発生予測図32を作成する(S17)。第1破損発生予測図32では、破損発生予測領域を淡色で表示し、実際の破損発生領域を中濃色で表示し、予測と発生が一致した領域を高濃色で表示している。
0<T1−T2 …(3)
T2:材料固有靭性値(J/cm2)である。
尚、第1衝撃蓄積値分布図31の出力に基づいて、衝撃蓄積値T1の分布に大きな偏りが存在する場合、金型2の形状変更等の検討を行なう。
0<T1−(T2+u) …(4)
u:温度上昇による金型靭性向上分に相当する靭性値増加量(J/cm2)である。
材料固有靭性値T2と靭性値増加量uとを加算した加算靭性値T3が衝撃蓄積値T1よりも大きな場合、金型2の表面に理論上クラックが発生しないため、加算靭性値T3と衝撃蓄積値T1との関係は、次式(5)のように表すことができる。
0<T3−T1 …(5)
T3:T2+u(J/cm2)である。
N1<T3×A/P …(6)
N1:クラックを発生することなく鋳造できる有効注湯回数である。
これにより、微小クラックに起因した金型2の破損に至るまでの鋳造回数(射出回数)N1を事前に検証することができ、金型寿命を予測できる。また、有効注湯回数N1が金型運用計画(工程表のメインテナンス周期や定期点検等)に合致していない場合、金型材質、金型構造、メインテナンス周期等の見直し、変更を行なう。
金型寿命予測装置10によれば、溶湯密度mと金型2に対する面直交方向の溶湯流速vtとに基づき金型表面に作用する衝撃エネルギーPを算出するため、セル毎に溶湯の流動によって金型2に蓄積された衝撃蓄積値T1を算出できる。流動する溶湯から伝達された熱量を考慮した金型2の靭性値を求めることができるため、金型の材料固有靭性値T2に金型温度に応じた靭性値増加量uを加算したセル毎の加算靭性値T3を演算でき、金型2に蓄積された衝撃蓄積値T1が加算靭性値T3を超えて金型2が破損するまでの有効注湯回数(金型寿命)N1を精度良く予測することができる。
処理装置15が、金型寿命の算出を少なくとも金型2のゲート部4の周辺領域について行うため、蓄積される衝撃蓄積値T1が大きなゲート部4の有効注湯回数N1を評価するため、演算時間を短縮化し、金型寿命の予測時間を短縮することができる。
1〕前記実施例においては、SKD61の金型とADC10の溶湯を採用した例を説明したが、少なくとも、金型鋳造装置であれば本発明を適用することができ、SKD11やSKD61等の金型とADC1やADC8等の溶湯を用いることも可能である。
2〕前記実施例においては、溶湯を金型へ加圧状態で射出する高圧鋳造の例を説明したが、算出には鋳造圧の加圧、非加圧状態に関らず、面直交方向の溶湯流速で導き出す分析パラメータを使用するため、あらゆる金型鋳造装置に適用することも可能である。
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
2 金型
4 ゲート部
10 金型寿命予測装置
11 CAD装置
12 CAE装置
15 処理装置
21 金型メッシュモデル
25 ノード
P 衝撃エネルギー
T1 (N回鋳造後に金型に蓄積される)衝撃蓄積値
T2 材料固有靭性値
T3 加算靭性値
u 靭性値増加量
N1 有効注湯回数
Claims (1)
- 溶湯を金型のゲート部を介してキャビティに注湯して成形品を鋳造可能な鋳造装置の金型寿命予測装置において、
前記金型形状を複数のノードで表した3次元メッシュモデルを作成する金型メッシュモデル作成手段と、
前記ノード毎に溶湯の流速を算出する流速算出手段と、
溶湯の密度と所定時間毎の前記金型表面に対する面直交方向の溶湯流速とに基づいて前記ノード毎の衝撃エネルギーを算出する衝撃エネルギー算出手段と、
前記溶湯材料と金型材料から求めた材料係数と前記衝撃エネルギーとをノード毎に乗算した乗算値と、前記金型の材料固有靭性値に金型温度に応じた靭性値増加量をノード毎に加算した加算靭性値とを演算し、この加算靭性値を前記乗算値で除算してノード毎の有効注湯回数を算出する金型寿命算出手段と、
を備えたことを特徴とした金型寿命予測装置。
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