JP5915218B2 - 金型寿命予測装置 - Google Patents

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Description

本発明は、鋳造装置の金型寿命予測装置に関し、特に溶湯によって昇温した金型の靭性値増加量を考慮して有効注湯回数を予測する金型寿命予測装置に関する。
従来より、固定金型と、この固定金型に対向して接近・離隔方向へ移動可能な可動金型と、これら固定金型と可動金型の間に形成されるキャビティの周囲を囲む複数のスライド型によってキャビティを形成し、このキャビティに対して注湯機からアルミニウム合金の溶湯をゲート部を介して加圧状態で注湯する高圧鋳造装置は公知である。
高圧鋳造(High Pressure Die Casting)は、溶湯をキャビティ内へ射出圧入し、金型で急速冷却するため、生産周期が短く、大量生産に適している。また、高圧鋳造品は、鋳肌が良好で、寸法精度が高く、完成品に近い製品形状を得ることができる。
一般に、高圧鋳造では、準備工程、射出工程、冷却(凝固)工程、取出工程を1サイクルとして、このサイクルを繰り返し実行している。そのため、金型には溶湯の流動に起因した温度の高低差が繰り返し掛かり、瞬間的な温度分布の差によって金型材料に熱的な応力が発生するため、熱疲労や熱応力が作用する。熱疲労は、金型材料内に歪として残留している。これら熱疲労や熱応力により、金型表面に微小クラックが生じ、この微小クラックが成長した結果、金型表面に亀裂を生じ、金型から冷却水が漏洩する虞がある。金型から冷却水が漏洩した場合、鋳造装置から金型を下ろして金型表面や配管系等を補修するため、金型補修作業に多大な工数とコストを要する。それ故、定期的、例えば3000ショット毎に金型の状態を点検し、金型表面に微小クラックを発見した場合、クラックの成長を抑えるために金型に対して修復等を行なっている。
しかし、定期的に金型のメインテナンスを実施しても、鋳造装置の稼働に影響を与える程度まで成長したクラック(亀裂)が発生する虞がある。クラックの発生周期はショット(鋳造)回数が増加する程短くなる傾向があるため、当初3000ショット毎の定期点検で発見され、成長する前に修復されていた微小クラックであっても、所定ショット数、例えば3〜5万ショットを超えた時点では、定期点検(3000ショット)の期間内において微小クラックが亀裂にまで成長し、金型冷却水路からクラックを通じて金型表面に冷却水の漏洩を生じ、その結果、漏洩した冷却水による鋳造品の鋳肌面品質不良や、クラックより侵入した溶湯の冷却管詰まりによる金型稼働の停止を引き起こす虞がある。そこで、CAE(Computer Aided Engineering)技術によって歪解析や応力解析を机上で行い、これらの解析結果に基づいて金型の有効注湯回数(金型寿命)を推定することが行われている。
特許文献1に記載された鋳造金型入子寿命評価方法は、鋳造金型のウォータージャケット入子を評価対象とした入子の寿命評価方法である。この鋳造金型入子寿命評価方法は、ウォータージャケット入子の一部を形成した試験ピースを作成し、試験ピースの内周側と外周側の夫々の部分に歪ゲージを設置し、試験ピースの内周側から外周側に向かって鋳造時に掛かる負荷相当の荷重を付与して、歪ゲージによって試験ピースに生じる応力又は亀裂を検出する繰返荷重試験を行なっている。
特開2007−118060号公報
前記特許文献1の鋳造金型入子寿命評価方法は、実際のウォータージャケット入子の応力状態に近い応力状態を試験ピースに擬似的に再現でき、1回の実機テストで入子の疲労寿命を推定することができる。しかし、この寿命評価方法では、専用の試験ピースによる実機テストやテスト用設備等が必要であるため、評価に多大な工数とコストを要する。
しかも、鋳造時の金型温度や、この温度による金型材料の特性変化等が考慮されていないため、推定された金型寿命と実際の金型寿命との間に誤差を生じることがあり、予測精度が十分ではない。
即ち、金型には射出工程毎にキャビティ内を流動する高温の溶湯から熱量が伝達され、金型の各部分の肉厚や形状等の差異に基づいて夫々の部分に温度の高低差が生じている。また、図14に示すように、同じ金属材料の場合、材料の性質上、材料温度が高い程靭性が増加するため、射出工程において、金型の高温部分は低温部分よりも靭性が高く、繰り返しの荷重負荷を原因としたクラックが発生し難いという特性を有している。
本発明者は、金型のクラックの発生メカニズムについて鋭意検討した結果、金型に発生するクラックに以下の特性があることを知見した。
(1)射出工程において、金型のゲート部の周辺近傍は溶湯から物理的な影響を受ける
(2)金型のクラックは疲労破壊の形態に類似する
(3)金型の部分形状に関わりなく、同一の条件によって定量的に予測できる
これらの条件設定によって、金型クラックの発生原因は流動する溶湯が金型表面を叩く衝撃(打撃)によるものと見做すことができるため、理論的にはCAE技術を用いて溶湯の衝撃エネルギーを評価し、金型寿命を予測することが可能である。
しかし、通常、CAE技術による湯流れ解析では、金型モデルに設定された特定の座標軸方向の溶湯の流速成分しか出力できないため、金型表面を面直交方向に叩く衝撃エネルギーについて精度良く算出することができない。また、この湯流れ解析のアルゴリズムでは、壁面近くの流速分布がレイノズル数に無関係で、流体密度、動粘性係数、壁面摩擦応力、壁からの距離に支配されるというプラントルの壁法則(Prandtl’s law of wall)が計算の前提条件であるため、金型表面における溶湯の流速を計算することができない。
本発明の目的は、溶湯によって昇温した金型の靭性値増加量を考慮しつつ、CAE技術によって金型寿命を精度良く予測できる金型寿命予測装置等を提供することである。
請求項の金型寿命予測装置は、溶湯を金型のゲート部を介してキャビティに注湯して成形品を鋳造可能な鋳造装置の金型寿命予測装置において、前記金型形状を複数のノードで表した3次元メッシュモデルを作成する金型メッシュモデル作成手段と、前記ノード毎に溶湯の流速を算出する流速算出手段と、溶湯の密度と所定時間毎の前記金型表面に対する面直交方向の溶湯流速とに基づいて前記ノード毎の衝撃エネルギーを算出する衝撃エネルギー算出手段と、前記溶湯材料と金型材料から求めた材料係数と前記衝撃エネルギーとをノード毎に乗算した乗算値と、前記金型の材料固有靭性値に金型温度に応じた靭性値増加量をノード毎に加算した加算靭性値とを演算し、この加算靭性値を前記乗算値で除算してノード毎の有効注湯回数を算出する金型寿命算出手段と、を備えたことを特徴としている。
請求項1の発明によれば、溶湯密度と金型に対する面直交方向の溶湯流速とに基づき金型表面に作用する衝撃エネルギーを算出するため、ノード毎に溶湯によって金型に蓄積された衝撃エネルギーを算出できる。流動する溶湯から伝達された熱量を考慮した金型の靭性値を求めることができるため、金型の材料固有靭性値に金型温度に応じた靭性値増加量を加算したノード毎の加算靭性値を演算でき、蓄積された衝撃エネルギーが加算靭性値を超えて金型が破損するまでの有効注湯回数(金型寿命)を精度良く予測することができる。
本発明の実施例に係る鋳造装置全体の概略縦断面図である。 金型寿命予測装置のブロック図である。 金型のメッシュモデルである。 シリンダブロックの有限要素モデルである。 金型寿命予測処理のフローチャートである。 金型表面の溶湯流速演算の説明図である。 金型面直交方向の溶湯流速演算の説明図である。 溶湯の金型面直交流速曲線を示し、(a)はゲート部の入口部の金型面直交流速曲線、(b)はゲート部の出口部の金型面直交流速曲線、(c)はキャビティの離隔部の金型面直交流速曲線を示す図である。 出口部周辺領域の第1衝撃蓄積値分布図である。 出口部周辺領域の第1破損発生予測図である。 出口部周辺領域の金型温度分布図である。 出口部周辺領域の第2衝撃蓄積値分布図である。 出口部周辺領域の第2破損発生予測図である。 材料温度と金属材料の靭性値との相関関係を示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
以下、本発明の実施例について図1〜図13に基づいて説明する。
本実施例では、Al−Si−Cu系Al合金としてのADC10(JIS規格)の溶湯をキャビティを備えた金型へ加圧状態で注湯し、鋳造成形品、例えば、シリンダブロックBを形成する高圧鋳造(High Pressure Die Casting)の例について説明する。
図1に示すように、高圧鋳造装置1は、固定型2aと、この固定型2aに対向して接近・離隔方向へ移動可能な可動型2bと、これら固定型2aと可動型2bの間に形成されたキャビティの周囲の側面を囲む上側スライド型2c及び下側スライド型2dと、射出工程毎にキャビティに対して所定容量のAl合金の溶湯を加圧状態で注湯する注湯機3と、注湯機3とキャビティの湯路を形成するゲート部4等を備えている。尚、説明の便宜上、各金型2a,2b,2c,2dについて、特段に区別の必要がない場合、総称して金型2と言う。
金型2は、SKD61(JIS規格)の熱間金型用合金工具鋼によって形成されている。これらの化学成分は、C:0.32〜0.42wt%,Si:0.80〜1.20wt%,Mn:0.50wt%以下,P:0.030wt%以下,S:0.030wt%以下,Cr:4.50〜5.50wt%以下,Mo:1.00〜1.50wt%以下,V:0.80〜1.20wt%以下,残部:Feとされる。更に、この金型2には、例えば、820〜870℃の焼きなまし、或いは1000〜1050℃の焼入れに続けて、550〜650℃の焼戻し等の熱処理が施されている。尚、溶湯材料はADC10に限られるものではなく、高圧鋳造に適用可能な金属であれば何れの金属であっても良く、例えば炭素工具鋼や高速度工具鋼であっても良い。
この高圧鋳造装置1は、準備工程、射出工程、冷却(凝固)工程、取出工程を1鋳造サイクルとして、このサイクルを所定回数繰り返し実行している。
準備工程では、溶湯をゲート部4の入口部aからキャビティ直前まで低速で充填する。射出工程では、溶湯を高圧状態で射出し、金型2(下側スライド型2d)の途中部に形成されたゲート部4の出口部bから離隔部c等のキャビティ端部まで溶湯を充填する。射出条件は、例えば、溶湯の射出容量が約15Kg、射出時間が0.1sec未満、ゲート部4内の溶湯流速が50m/sec程度になるように注湯機3の射出速度が設定されている。冷却工程では、キャビティ内の溶湯を急速冷却する。金型2内には冷却水用配管(図示略)が設けられ、所定の冷却速度に設定されている。また、冷却工程中、金型2には50MPa以上の圧力が付与される。溶湯の凝固完了後、型ばらしされ、鋳造成形品が取出される。
溶湯の化学成分は、Cu:2.0〜4.0wt%,Si:7.5〜9.5wt%,Mg:0.3wt%以下,Zn:1.0wt%以下,Fe:1.3wt%以下,Mn:0.5wt%以下,Ni:0.5wt%以下,Sn:0.2wt%以下,残部:Alとされる。尚、溶湯材料はADC10に限られるものではなく、高圧鋳造に適用可能な金属であれば何れの金属であっても良く、例えばMg系合金やZn系合金であっても良い。
次に、金型寿命予測装置10について説明する
図2に示すように、金型寿命予測装置10は、CAD(Computer Aided Design)装置11(金型メッシュモデル作成手段)と、CAE(Computer Aided Engineering)装置12(流速算出手段)と、データベースとしての記憶装置13と、入力装置14と、処理装置15(衝撃エネルギー算出手段、金型寿命算出手段)と、表示装置16等を備えている。CAD装置11とCAE装置12と記憶装置13と処理装置15は、通信回線を介して相互に各種情報の伝達が可能に構成されている。前記各装置は、その他の通信手段を介して情報の送受信が相互に可能であり、また、各種情報を記録媒体に記憶させて他の装置に情報を伝達するように構成することも可能である。
CAD装置11は、金型2の形状データに基づき金型2のモデル情報を作成するように構成されている。CAD装置11には、金型2の形状に基づきソリッドモデルやシェルモデル等の金型モデルを作成する機能と、この金型モデルに基づいて複数のノード(節点)を備え且つ複数のセル(メッシュ)で構成された3次元金型メッシュモデル21(図3参照)を作成する機能と、3次元金型メッシュモデル21に対して後述する溶湯流速曲線情報や衝撃エネルギーP等を割付ける機能等を備えている。
CAE装置12は、鋳造成形品(シリンダブロックB)の有限要素モデル情報に基づき後述する金型面直交方向の溶湯流速曲線情報と金型温度分布情報とをシミュレーション可能に構成されている。CAE装置12には、鋳造成形品の3次元の有限要素モデル22(図4参照)に基づいて複数のノード(節点)を備えた複数のセル(メッシュ)で構成され且つシリンダブロックB形状のメッシュ情報を作成する機能と、メッシュ情報のうち各ノードにおいて溶湯の流速変化や金型の温度変化を演算する機能等を備えている。ここで、溶湯流速曲線情報と金型温度分布情報は、夫々公知のCAE湯流れ解析プログラムとCAE凝固解析プログラムを用いて演算する。
記憶装置13は、ハードディスクドライブ、CD−ROMドライブ等のディスクドライブ等を備えている。この記憶装置13には、CAE湯流れ解析プログラムと、CAE凝固解析プログラムと、溶湯の材質情報(例えば、溶湯密度m等)と、金型2の素材情報(例えば、材料固有靭性値T2、靭性値増加量u等)と、金型寿命予測プログラムと、金型の付帯条件と、成形条件と、性能条件と、各種定数(例えば、材料係数等)と、各種計算式等が格納されている。更に、記憶装置13は、CAD装置11とCAE装置12の演算結果等を記憶可能に構成されている。
入力装置14は、マウスやキーボード等を備え、溶湯の湯流れ解析や温度解析に必要な情報、加圧圧力等の鋳造初期条件等を入力するための装置である。処理装置15は、CPU等から構成され、記憶装置13に記憶されたCAE湯流れ解析プログラムとCAE凝固解析プログラムと金型寿命予測プログラム等の各種プログラムの実行と、後述する衝撃エネルギーPや加算靭性値T3等の演算を行なっている。表示装置16は、CRTやLCD等を備えており、入力情報や計算結果を金型メッシュモデル21や有限要素モデル22上に色別表示可能に構成されている。
次に、図5のフローチャートに基づいて、金型寿命予測処理について説明する。尚、左列はCAE処理、中列はCAD処理、右列は処理装置15による演算処理を夫々示している。また、Si(i=1,2…)は、各処理のためのステップを示す。
まず、左列のCAE処理について説明する。
CAE装置12は、CAE湯流れ解析プログラムに基づき溶湯の溶湯注入開始後において経過時間毎の溶湯の湯流れ解析を行う(S1)。
図4に示すように、シリンダブロックBの設計情報に基づき、金型2のキャビティ形状に相当したシリンダブロックBを三角形形状の面を備えたセル(四面体要素)によって三次元的に要素分割し、複数のノードを備えたメッシュ状の有限要素モデル22を作成する。セルによるシリンダブロックBの要素分割は、セルの大きさや形状等を任意に設定可能である。尚、凝固解析にあたり、有限要素モデル22をCAD装置11からの金型モデル情報に基づいて作成することも可能である。
CAE装置12は、記憶装置13から成形条件を取得する。その成形条件は、射出速度、ゲート部4の形状、ゲート部4の位置情報等である。また、溶湯の物性値(属性)として、ADC10の密度、粘度等が取得される。CAE装置12は、ゲート部4の位置情報が付与された有限要素モデル22と成形条件と溶湯の物性値によって、各ノードの溶湯流速変化をナビエ・ストークス(Navier-Stokes)方程式等を用いて演算し、溶湯流速情報を作成する(S2)。
S3では、金型表面における溶湯流速を演算する。
一般に、CAE湯流れ解析プログラムでは、壁面近くの流速分布はレイノズル数に無関係で、流体密度、動粘性係数、壁面摩擦応力、壁からの距離に支配されるというプラントルの壁法則(Prandtl’s law of wall)を計算の前提条件としている。
そこで、図6に示すように、各ノード25における溶湯流速を演算し、金型表面に隣り合うセルに対応したノード25の溶湯流速を金型表面(金型メッシュモデル21の表面セル)における溶湯流速として割付ける。尚、各セルは、四面体要素によって三次元的に要素分割されているため、金型表面に隣り合うセルのノード25うち、金型表面に最も近接したノード25の溶湯流速を金型表面の溶湯流速としてサンプリングする。
S4では、サンプリングされたノード25の金型面直交方向の溶湯流速を演算する。
CAE湯流れ解析プログラムでは、溶湯流速演算結果として所定の座標軸に沿った流速成分しか出力しないため、金型表面に作用する衝撃エネルギーP、所謂溶湯流速の金型面直交成分を出力できない。そこで、図7に示すように、金型メッシュモデル21の表面セルに対して割付けられたノード25における金型面直交方向を割り出し、これらのノード25の流速成分から金型表面に直交した方向成分を取り出し溶湯流速vtを算出する。
サンプリングされたノード25毎の金型面直交方向の溶湯流速vtを時系列的に結合し(S5)、結合された流速情報に基づいて溶湯流速曲線情報を作成する(S6)。
S5では、サンプリングされたノード25毎の金型面直交方向の溶湯流速vtを、鋳造開始から射出工程終了(キャビティ充填完了)まで経過時間毎に連結する。
以下、図8に示す金型面直交流速曲線La〜Lcに基づき、金型表面に相当するゲート部4の入口部a及び出口部b、キャビティの離隔部c(図1参照)についての溶湯流速曲線情報の作成を説明する。
図8(a)は、ゲート部4の入口部aについて金型面直交方向の溶湯流速vtを時系列的に結合したものである。準備工程に相当する鋳造開始t0から製品形状空間(キャビティ)への射出工程開始t1までの間は、溶湯を入口部aを含むゲート部4に亙って空気の巻き込みなく充填させるために、極めて低い流速(例えば射出工程の溶湯流速の約1/30)で充填する低速鋳造工程である。射出工程開始t1から充填完了t2までの間は、溶湯が製品形状空間内に流速vaで充填される。ここで、ゲート部4の入口部aの湯路断面積よりも出口部bや他の製品形状空間の湯路断面積が十分に大きいため、入口部aの流速は一定且つ低い流速vaになっている。尚、本実施例では、高速鋳造(射出工程開始t1から充填完了t2までの経過時間)を0.1sec未満に設定している。
図8(b)は、ゲート部4の出口部bについて金型面直交方向の溶湯流速vtを時系列的に結合したものである。鋳造開始t0から射出工程開始t1までの流速vtは零である。射出工程開始t1からt3(t3<t2)までの間は、溶湯流速vtが経過時間と共に増加して最大流速vbに到達し、t3から充填完了t2までの間は、溶湯流速vtが最大流速vbから経過時間と共に減少する。
図8(c)は、キャビティの離隔部cについて金型面直交方向の溶湯流速vtを時系列的に結合したものである。鋳造開始t0から離隔部cへの溶湯到達時点t4(t1<t4<t3)までの流速vtは零である。溶湯到達時点t4からt3までの間は、溶湯流速vtが経過時間と共に増加して最大流速vcに到達し、t3から充填完了t2までの間は、溶湯流速vtが最大流速vcから経過時間と共に減少する。
次に、このCAE装置12は、CAE凝固解析プログラムに基づき溶湯の溶湯注入開始後において経過時間毎の凝固(温度)解析を行う(S7)。
CAE装置12は、記憶装置13から成形条件を取得する。その成形条件は、注入初期の溶湯温度、充填時間、最大加圧力、保圧値、保圧時間、注入開始からの経過時間等である。また、溶湯の物性値(属性)として、ADC10の熱伝導率、比熱、粘度、温度シフトファクタ等が取得される。CAE装置12は、有限要素モデル22と成形条件と溶湯の物性値によって、各ノードにおける温度変化を演算し、金型温度分布情報を作成する(S8)。
次に、中列のCAD処理について説明する。
CAD装置11によって、金型の形状データに基づき金型CADモデルを作成し(S11)、図3に示すように、この金型モデルに基づいて金型形状の複数のノードを備えた有限要素モデルとしての3次元金型メッシュモデル21を作成している(S12)。金型メッシュモデル21は、三角形形状の面を備えたセル(四面体要素)によって三次元的に要素分割し、複数のノードを備えたシェルメッシュ状に作成している。有限要素モデルの定義は、ノード番号情報、座標情報が備わっていれば、分割形式や分割要素数について、任意に設定可能である。
次に、金型メッシュモデル21の表面の各ノードにS6で作成した溶湯流速曲線情報を割付け(S13)、図8に示す金型面直交流速曲線La〜Lcを作成する(S14)。
S14の後、処理装置15が作成された金型面直交流速曲線La〜Lcに基づいて、金型表面に対応した各セルに対して射出工程開始t1から充填完了t2までに与えられた衝撃エネルギーPを算出する(S21)。
衝撃エネルギーPの算出について、図8(a)〜8(c)に基づき具体的に説明する。
射出工程開始t1から充填完了t2までの金型面直交流速曲線La〜Lcを複数n(例えば10分割)に等分し、次式(1)に基づいて衝撃エネルギーPの単位時間当たりの瞬間値(Pa1…Pan,Pb1…Pbn,Pc1…Pcn)を時系列的に累積してセル(ノード)毎の衝撃エネルギーP、例えば入口部a、出口部b、離隔部cの衝撃エネルギーPa,Pb,Pcを夫々求める。尚、分割数は、経験値或いは実験値により、任意に設定することができる。
P=Σ(1/2×m×V×vt)=1/2×m×V×Σ(vt) …(1)
P:衝撃エネルギー(J)、m:溶湯密度(Kg/cm)、V:有限要素モデルのセル体積(cm)、vt:金型面直交方向の溶湯流速(m/s)である。
式(1)では、溶湯密度mと、衝撃エネルギーPの演算対象である金型表面のノード毎にこれらノードを代表点としたセルに隣接した溶湯に対応したセル体積Vと、金型面直交方向の溶湯流速vtを用いて演算する。この式(1)は、衝撃エネルギーPを構成する投射物(溶湯)の質量(密度)項が時間に依存することなく共通であるため、衝撃エネルギーPを溶湯流速の積算値(積算流速)によって代用している。また、図8(a)〜8(c)に示すように、一般に、出口部bの衝撃エネルギーPbが、他の部位、例えば入口部a、離隔部cの衝撃エネルギーPa,Pcよりも大きくなるため、出口部bの周辺領域に特化した簡易モデル等で本番前検証を進めておき、金型全体のフルモデル検証に対して演算時間の短縮や解析モデル作成工程の工数低減を図ることができる。以下、出口部bの周辺領域の金型寿命算出工程について説明する。
金型2の微小(初期)クラックは、物理的に疲労破壊に類似しているため、射出工程に伴う溶湯の流動に起因した衝撃エネルギーPの繰り返し作用によって金型2の内部にエネルギーが蓄積され、靭性に関する金型材料固有の許容値(材料固有靭性値T2)を超えたときに発生すると予測される。また、単位面積当たりに蓄積される金型2内部のエネルギー(衝撃蓄積値T1)は、射出回数(鋳造回数)Nに比例すると考えられる。それ故、衝撃蓄積値T1は、次式(2)のように表すことができる。
T1=(N×P)/A …(2)
T1:N回鋳造後に金型に蓄積される衝撃蓄積値(J/cm)、N:鋳造回数、A:衝撃エネルギーが作用する部分の表面積(cm)である。
次に、金型メッシュモデル21の各ノードにS21で演算した衝撃蓄積値T1を割付け(S15)、図9に示す第1衝撃蓄積値分布図31を作成する(S16)。第1衝撃蓄積値分布図31では、衝撃蓄積値T1が大きな領域程濃色で表示している。
金型2の微小クラックは衝撃蓄積値T1が材料固有靭性値T2を超えた領域に発生するため、次式(3)の関係が成り立つ領域をS16で作成された第1衝撃蓄積値分布図31から抽出し、図10に示す第1破損発生予測図32を作成する(S17)。第1破損発生予測図32では、破損発生予測領域を淡色で表示し、実際の破損発生領域を中濃色で表示し、予測と発生が一致した領域を高濃色で表示している。
0<T1−T2 …(3)
T2:材料固有靭性値(J/cm)である。
尚、第1衝撃蓄積値分布図31の出力に基づいて、衝撃蓄積値T1の分布に大きな偏りが存在する場合、金型2の形状変更等の検討を行なう。
S8で求めた鋳造時(例えば射出工程終了t2)の金型温度分布情報を金型メッシュモデル21に割付けた金型温度分布図33を図11に示す。金型温度分布図33では、金型温度が高い領域程濃色で表示している。図11に示すように、金型2の部位によって温度の高低差があることが認められる。
鋳造時には溶湯温度に起因した金型2の温度上昇によって金型材料の靭性が向上するため、式(3)は靭性を考慮した次式(4)のように変形することができる。
0<T1−(T2+u) …(4)
u:温度上昇による金型靭性向上分に相当する靭性値増加量(J/cm)である。
S22において、金型温度分布情報(金型温度分布図33)に基づいて靭性値増加量uを演算する。ここで、金型温度分布図33を第1破損発生予測図32に重ね合わせた第2衝撃蓄積値分布図34を図12に示す。図12に示すように、計算上、破損が予測される領域であっても、温度が高い領域の場合、実際の金型破損には至っていないことが認められる。
金型温度が高く、金型材料の靭性が向上した結果、クラックによる金型破損の発生可能性が低い領域を除外するため、式(4)の関係が成り立つ領域をS16で作成された第1衝撃蓄積値分布図32から抽出し、図13に示す第2破損発生予測図35を作成する(S18)。図13では、第1破損発生予測図32と同様に、破損発生予測領域を淡色で表示し、実際の破損発生領域を中濃色で表示し、予測と発生が一致した領域を高濃色で表示している。これにより、破損発生予測領域と実際の破損領域との一致度(整合性)が、第1破損発生予測図32では約60%であったものが、第2破損発生予測図35では約80%まで向上でき、クラックによる金型破損発生が予測される領域を事前に検証することができる。
S23では、金型2にクラックを発生することなく鋳造できる有効注湯回数N1を算出する。
材料固有靭性値T2と靭性値増加量uとを加算した加算靭性値T3が衝撃蓄積値T1よりも大きな場合、金型2の表面に理論上クラックが発生しないため、加算靭性値T3と衝撃蓄積値T1との関係は、次式(5)のように表すことができる。
0<T3−T1 …(5)
T3:T2+u(J/cm)である。
式(2)と式(5)によって、有効注湯回数N1の関係式(6)を得ることができる。
N1<T3×A/P …(6)
N1:クラックを発生することなく鋳造できる有効注湯回数である。
これにより、微小クラックに起因した金型2の破損に至るまでの鋳造回数(射出回数)N1を事前に検証することができ、金型寿命を予測できる。また、有効注湯回数N1が金型運用計画(工程表のメインテナンス周期や定期点検等)に合致していない場合、金型材質、金型構造、メインテナンス周期等の見直し、変更を行なう。
次に、実施例の金型寿命予測装置10の作用、効果について説明する。
金型寿命予測装置10によれば、溶湯密度mと金型2に対する面直交方向の溶湯流速vtとに基づき金型表面に作用する衝撃エネルギーPを算出するため、セル毎に溶湯の流動によって金型2に蓄積された衝撃蓄積値T1を算出できる。流動する溶湯から伝達された熱量を考慮した金型2の靭性値を求めることができるため、金型の材料固有靭性値T2に金型温度に応じた靭性値増加量uを加算したセル毎の加算靭性値T3を演算でき、金型2に蓄積された衝撃蓄積値T1が加算靭性値T3を超えて金型2が破損するまでの有効注湯回数(金型寿命)N1を精度良く予測することができる。
処理装置15が、金型表面に隣接したセルについて算出された溶湯の流速を金型表面に対する溶湯の流速vtとしてセル毎の衝撃エネルギーPを算出しているため、金型表面の溶湯の流速をCAE技術による湯流れ解析によって精度良く予測することができる。
処理装置15が、金型寿命の算出を少なくとも金型2のゲート部4の周辺領域について行うため、蓄積される衝撃蓄積値T1が大きなゲート部4の有効注湯回数N1を評価するため、演算時間を短縮化し、金型寿命の予測時間を短縮することができる。
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、SKD61の金型とADC10の溶湯を採用した例を説明したが、少なくとも、金型鋳造装置であれば本発明を適用することができ、SKD11やSKD61等の金型とADC1やADC8等の溶湯を用いることも可能である。
2〕前記実施例においては、溶湯を金型へ加圧状態で射出する高圧鋳造の例を説明したが、算出には鋳造圧の加圧、非加圧状態に関らず、面直交方向の溶湯流速で導き出す分析パラメータを使用するため、あらゆる金型鋳造装置に適用することも可能である。
3〕前記実施例においては、金型表面に隣接した第1層のセルについて算出された溶湯の流速を金型表面に対する溶湯の流速としてセル毎の衝撃エネルギーを算出した例を説明したが、少なくとも、金型表面に対する溶湯の流速と見做すことができる金型表面近傍のセルの流速であればよく、例えば第2,第3層以降のセルの流速を用いることも可能である。また、複数層のセルの流速の平均を用いても良い。
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
本発明は、溶湯によって昇温した金型の靭性値増加量を考慮して有効注湯回数を予測する金型寿命予測装置において、前記靭性値増加量を考慮した加算靭性値に基づいて有効注湯回数を算出することにより、CAE技術によって金型寿命を精度良く予測することができる。
1 鋳造装置
2 金型
4 ゲート部
10 金型寿命予測装置
11 CAD装置
12 CAE装置
15 処理装置
21 金型メッシュモデル
25 ノード
P 衝撃エネルギー
T1 (N回鋳造後に金型に蓄積される)衝撃蓄積値
T2 材料固有靭性値
T3 加算靭性値
u 靭性値増加量
N1 有効注湯回数

Claims (1)

  1. 溶湯を金型のゲート部を介してキャビティに注湯して成形品を鋳造可能な鋳造装置の金型寿命予測装置において、
    前記金型形状を複数のノードで表した3次元メッシュモデルを作成する金型メッシュモデル作成手段と、
    前記ノード毎に溶湯の流速を算出する流速算出手段と、
    溶湯の密度と所定時間毎の前記金型表面に対する面直交方向の溶湯流速とに基づいて前記ノード毎の衝撃エネルギーを算出する衝撃エネルギー算出手段と、
    前記溶湯材料と金型材料から求めた材料係数と前記衝撃エネルギーとをノード毎に乗算した乗算値と、前記金型の材料固有靭性値に金型温度に応じた靭性値増加量をノード毎に加算した加算靭性値とを演算し、この加算靭性値を前記乗算値で除算してノード毎の有効注湯回数を算出する金型寿命算出手段と、
    を備えたことを特徴とした金型寿命予測装置。
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