JP5061078B2 - 鋳造シミュレーション方法およびそのプログラム - Google Patents
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ところで、このような鋳型は、鋳造中に割れ等が生じないことが好ましい。鋳造中にクラック等の割れが鋳型に生じると、その部分に金属溶湯が流れ込み、その溶湯が凝固して余分なバリ等が形成され、鋳物の歩留り低下やバリ除去工数の増加などの原因となる。
しかし、これまでのシミュレーションによって解析されてきたのは、上記の特許文献1にもあるように、鋳型の割れではなく、凝固完了前後に生じる鋳物の割れであった。そして鋳型の割れ自体をシミュレーションにより予測することは、本発明者が調査したところ、これまで提案されていない。
そこで本発明者は、金属溶湯がキャビティへ充填される途中において鋳型の割れをシミュレーションすることにより、精度よく鋳型の割れを予測することができるのではないかと考えてシミュレーションしたところ、実際の鋳造結果にマッチするシミュレーション結果を得ることに成功した。この成果を発展させることで、本発明者は以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
(1)すなわち、本発明の鋳造シミュレーション方法は、金属溶湯が充填されるキャビティを構成する型を座標系上にモデル化した型モデルを設定するモデル設定工程と、該設定された型モデル中のキャビティへ金属溶湯が充填されていく様子を順次算出する充填解析工程とを備える鋳造シミュレーション方法であって、
前記モデル設定工程は、前記型モデルを座標系上に位置づけて形成するモデル形成ステップと、該形成された型モデル中の領域を微小に分割して多数の微小要素を作成する要素作成ステップと、該作成された微小要素の内で該型モデル中のキャビティ領域に対応する微小要素をキャビティ要素と定義すると共に該型モデル中の型領域に対応する微小要素を型要素と定義する要素定義ステップとを有し、
前記充填解析工程は、前記キャビティ要素へ前記金属溶湯が順次充填されていく充填過程を算出する充填解析ステップと、少なくとも一部の前記型要素について作用する熱応力を順次算出する熱応力解析ステップと、該算出された熱応力が型割れ発生の判断指標となる割れ応力を少なくとも超えているか否かを判定する割れ判定ステップとを有し、少なくとも型割れの発生の有無を予測し得ることを特徴とする。
先ず、金属溶湯の充填が開始されて完了するまでの間、型には、高温の金属溶湯に接して急激に高温となった高温部と、金属溶湯に接していない低温部とが形成される。鋳型の材質にも依るが、充填過程中の短時間の間でみれば、高温部と低温部との温度差は非常に大きくなる。その結果、高温部と低温部との間で大きな熱膨張差が極短時間の間に生じ、その熱膨張が部分的に拘束されることにより、大きな熱応力が型に作用することになり、型の破損(型割れ)に至ったと思われる。
本発明は、上述した「方法」の発明には限られず、「物」の発明としても把握される。すなわち、本発明は、前述の鋳造シミュレーション方法をコンピュータを機能させて実行することを特徴とする鋳造シミュレーションプログラムであっても良い。
なお、本明細書でいう「金属溶湯」を構成する金属組成は問わないが、例えば、各種の鋳鉄、鋳鋼、Al合金、Mg合金などがある。
また、「型」はいわゆる砂型、金型などの各種の鋳型を含み、その形状、材質などは問わない。例えば、軽合金の鋳造などでは、工具綱などからなる金型が用いられる。また、鋳鉄などの鋳造では鋳砂をバインダで固めた砂型が用いられる。また、中空鋳物であれば、外型が金型で、中子が砂型でもよい。
モデル設定工程は、金属溶湯の充填されるキャビティを構成する型を座標系上にモデル化した型モデルを設定する工程である。モデル設定工程は、例えば、図2に示すような、モデル形成ステップ、要素作成ステップ、要素定義ステップおよび流入位置設定ステップからなる。
モデル形成ステップは、鋳型の形状を座標系上に位置づけて型モデルを形成するステップである。鋳型が複数の型部材から構成される場合、前記の型モデルは、それぞれの型部材の形状が個別に座標系上に位置づけられている必要はなく、鋳型全体としての形状が座標系上に位置づけられていれば足る。
要素作成ステップは、モデル形成ステップで形成された型モデル中の領域を分割した多数の微小要素を作成するステップである。すなわち、座標系上に位置づけた型モデルを解析用の微小要素に細分化するステップである。このステップにより、型モデルによって区画された座標系上の空間は、多面体からなる多数の微小要素に分割される。分割数または分割幅は、解析精度、計算時間等を考慮して適切に設定すれば良い。
要素定義ステップは、少なくとも、要素作成ステップで作成された多数の微小要素の内で型モデル中のキャビティ領域に対応する微小要素をキャビティ要素と定義すると共に型モデル中の型領域に対応する微小要素を型要素と定義するステップである。このステップで、例えば、金属溶湯が未充填のキャビティ要素が空隙要素と定義されたり、金属溶湯が充填されたキャビティ要素が充填要素と定義されたり、キャビティ要素と型要素との境界面が表面要素と定義されたりする。要するに、要素定義ステップは、充填解析工程または凝固解析工のために各微小要素の属性を定義するステップである。
流入位置設定ステップは、金属溶湯をキャビティへ注湯する位置の近傍にあるキャビティ要素から選定された選定キャビティ要素に金属溶湯の流入位置を設定するステップである。この選定キャビティ要素は、例えば、重力鋳造であれば湯口近傍、加圧鋳造であればプランジャの出口近傍に定義される。この選定キャビティ要素は一つでも複数でもよい。そして金属溶湯の現実の注湯状況、加圧状況などに応じて、複数の選定キャビティ要素にそれぞれ重み係数を付与すると良い。
充填解析工程は、図6に示すように、充填解析ステップ、熱応力解析ステップおよび割れ判定ステップからなる。
(1)充填解析ステップ
充填解析ステップでは、設定された型モデル中のキャビティへ金属溶湯が充填される充填過程が順次算出される。これにより、キャビティ内に注入された金属溶湯の物理的挙動が微小時間毎に、微小要素単位で解析される。
そこで充填解析ステップは、例えば図7に示すような、流速・圧力算出ステップ、金属溶湯の移動ステップ、要素フラッグの変更ステップなどの小ステップから構成される。
流速・圧力算出ステップでは、充填要素および表面要素に関して、前記ナビア・ストークスの式および連続の式から流速が算出される。なお、ここでいう「圧力」は金属溶湯の圧力である。
金属溶湯の移動ステップでは、前記VOFの式から微小時間で移動する流体量が算出される。これにより各キャビティ要素の充填度合は充填率(流体率)で表現されることになる。例えば、充填率が0以下の場合は空隙要素であり、充填率>0の場合は充填要素となる。このように本明細書では、金属溶湯が少しでも充填された微小要素(充填率が0より大きく1以下のキャビティ要素)を「充填要素」と呼ぶ。逆に、充填率=0の微小要素を「空隙要素」と呼ぶ。
要素フラッグの変更ステップでは、例えば、表面要素に境界条件として空隙圧力(キャビティ内の気圧)が付与される。
これら各ステップが金属溶湯の充填完了まで繰り返される。なお、この充填完了は、キャビティ要素の種類を調べ、キャビティ要素の90%以上が充填要素になったかで判断する。または、予め、初期溶湯量とキャビティ体積から算出しておいた充填時間を超えた時点で判断してもよい。このとき、未充填要素がある場合の未充填要素の温度は隣接要素の温度を順次あてはめるとよい。
熱応力解析ステップは、充填解析ステップの充填過程に応じて、少なくとも一部の型要素について作用する熱応力を順次算出するステップである。また、割れ判定ステップは、その算出された熱応力が型割れ発生の判断指標となる割れ応力を少なくとも超えているか否かを判定するステップである。
本発明では、先ず熱応力解析ステップで、金属溶湯の充填中に型に生じる熱応力を的確に把握し、次に割れ判定ステップで、その算出された熱応力と型の強度(割れ応力)とを比較することで、型に生じ得る型割れを的確に予測することが可能となる。
熱応力解析ステップでは、型要素に作用する熱応力が算出されるが、この熱応力の駆動源は主に各型要素の熱膨張差にある。その熱膨張差は、各型要素の温度差により大きく影響される。そこで前記の熱応力解析ステップは、型要素の温度に基づきその型要素に作用する熱応力を順次算出する温度解析ステップであると好ましい。もちろん、具体的な熱応力自体は、その型要素の温度に加えて、型形状、型の拘束条件、型の材質などが考慮されて求められる。
(a)型割れが発生するか否かを判断するために、熱応力解析ステップで算出した熱応力(特に最大熱主応力)と対比される割れ応力を、いかに設定するかが重要となる。金型の場合であれば、型を構成する金属の降伏応力、耐力または引張強度(破壊強度)、それらの高温特性などを、既知データまたは引張試験結果などによって、特定することは比較的容易である。また、金型の場合であれば、全体的に均質であり、強度的な挙動も比較的安定しており、そもそも型割れを生じることも少ないので、取り扱いは比較的容易である。
これに対して、砂型などの粘結型では、微視的に観るとバラツキが大きく、型割れの指標となる割れ応力を単純には設定し難い。例えば、引張試験などにより予め粘結型の強度を測定しても、局部的に存在する起点(欠陥)から割れ(破壊)などを生じることが多く、安定した割れ応力を単純に設定し難い状況にある。
利用することで、粘結型の割れ応力を適正に評価することに成功した。具体的にいうと、
鋳型(粘結型)の割れ応力は、有効体積と相関関係があり、図10に概略を示すように、
その有効体積が大きくなるほど割れ応力は低下する傾向を示す。このような図10に示す
鋳型の割れ応力と有効体積の相関は、対象となる鋳型に対して引張試験または曲げ試験を
行うことで得られる。また、有効体積は、数式(1)により求まる体積分値(三重積分値
)である。ちなみに、ワイブル分布自体は文献[W.Weibull、J.Appl.M
eh.、Vol.18(1951)、P293]などに詳述されている公知な理論である
。
(有効体積)=∫V (σ/σmax) m dV (1)
V :積分体積(型内の超過領域)
σ :積分体積V内の型要素の最大主応力
σmax:最大主応力σの最大値
m :ワイブル係数
係数、w:試験片の断面幅、t:試験片の断面高さ、d:曲げ試験を行う支点間距離とす
ると、有効体積は次のように表される。
3点曲げの場合 (有効体積)=w・t・d/2(m+1) 2
4点曲げの場合 (有効体積)=w・t・d・(m+3)/6(m+1) 2
なお、有効体積算出ステップ(型内の超過領域特定ステップを含む)や割れ応力算出ステップは、熱応力解析ステップで算出される熱応力に応じて処理がなされるから、実際に計算される順序は別としても、技術思想的には充填解析工程に含まれるものといえる。
凝固解析工程は、充填された金属溶湯が凝固する凝固過程を順次算出する工程である。凝固解析工程は、本発明のように充填解析工程中の型割れの予測に主眼がある場合は必ずしも必須ではないが、鋳造シミュレーションに含まれるのが一般的である。
《鋳物の製造と型割れの確認》
本発明に係る鋳造シミュレーション方法の有効性を確認するために、先ずは中空鋳物を実際に製造して型割れの生じる位置を特定した。
図11と図12に示す2種の粒子をバインダで固めた砂型からなる中子(鋳型)を製作した。具体的には、先ず、6号けい砂に、バインダであるフェノールレジンを1.5質量%添加し、均一に混練した混合粉末を調製した。この混練粉末を型枠に入れて加圧することで、概ね図11または図12に示す形状の粉末成形体を得た。さらに、この粉末成形体を加熱炉に入れて、250℃で60秒加熱して焼成させることで、図11または図12に示す形状の中子を得た。便宜上、図11に示す中子を第1中子、図12に示す中子を第2中子という。
上記したそれぞれの中子の周囲へ注湯(充填)する金属溶湯として、アルミニウム合金溶湯(JIS AC4C)を調製した。
この温度を700℃とした溶湯を、図11(a)に示す中子の周囲へ、30秒かけて、同図に示す湯口から加圧せずに注湯した。また、温度を700℃とした同溶湯を、図12(a)に示す中子の周囲へ、50秒かけて同図に示す湯口から加圧せずに注湯した。
このように第1中子を用いて重力鋳造した鋳物(第1鋳物)と、第2中子を用いて重力鋳造した鋳物(第2鋳物)を得た。それぞれの鋳物から中子を崩壊させて除去し、それぞれの鋳物表面を軽く洗浄した後に、中子により形成された中空内部を観察した。
本発明に係る鋳造シミュレーション方法を行い、その結果と上記の実測結果とを比較して両者の適合性を評価した。以下にその内容を詳述する。
(1)モデル設定工程
図11および図12に示した鋳型のCADデータを用いて図2に示すモデル設定工程を行った。すなわち、鋳造シミュレーションに用いる型モデルを形成し(モデル形成ステップ)、その型モデルを微小要素に分割した(要素作成ステップ)。分割方法は、矩形要素でメッシュ分割とした。さらに、各要素をキャビティ要素または型要素として定義した(要素定義ステップ)。湯口近傍にあるキャビティ要素を選定して、その選定キャビティ要素に加圧流入位置を設定した(流入位置設定ステップ)。
上記鋳型モデルのキャビティ要素(空隙要素)への金属溶湯の充填解析および凝固解析は、現実の鋳造条件を考慮しつつ、既述した図6(図7)および図9に示す各ステップに沿って行った。充填完了は、キャビティ要素の90%以上が充填要素になった時点で判断し、凝固完了は、キャビティ要素の固相率が1となった時点で判断した。この凝固完了によりシミュレーションが終了する。
ここで最大熱主応力と対比する中子の割れ応力として、図11に示した第1鋳物の鋳造シミュレーションの場合は、予め第1中子と同様に製造した現物の試験片(JIS Z2201の5号相当)に対して引張試験により得た引張強度(1.5〜2.65MPa)を用いた。
(1)第1鋳物の鋳造シミュレーション
第1鋳物について鋳造シミュレーションを行ったところ、図11(a)に示すF位置の最大熱主応力は0.6MPa以上となり、第1中子の割れ応力(0.33MPa)を遙かに超える結果となった。このシミュレーション結果は、F位置に型割れが生じる前述の実測結果とよく適合している。
第2鋳型について鋳造シミュレーションを行った場合でも、図12(a)に示すF位置に型割れが生じる予測結果が得られ、この結果は前述した実測結果によく適合していた。
ちなみに、この型割れが発生した時期は、シミュレーション上、溶湯の注湯から12秒後であった。溶湯の注湯から充填までは30秒であるから、割れ応力の発生時期は溶湯の充填途中で生じていることになる。このことは、本発明者が実際の鋳造を種々行って得た知見ともよく合致する。
Claims (7)
- 金属溶湯が充填されるキャビティを構成する型を座標系上にモデル化した型モデルを設定するモデル設定工程と、
該設定された型モデル中のキャビティへ金属溶湯が充填されていく様子を順次算出する充填解析工程とを備える鋳造シミュレーション方法であって、
前記モデル設定工程は、前記型モデルを座標系上に位置づけて形成するモデル形成ステップと、該形成された型モデル中の領域を微小に分割して多数の微小要素を作成する要素作成ステップと、該作成された微小要素の内で該型モデル中のキャビティ領域に対応する微小要素をキャビティ要素と定義すると共に該型モデル中の型領域に対応する微小要素を型要素と定義する要素定義ステップとを有し、
前記充填解析工程は、前記キャビティ要素へ前記金属溶湯が順次充填されていく充填過程を算出する充填解析ステップと、少なくとも一部の前記型要素について作用する熱応力を順次算出する熱応力解析ステップと、該算出された熱応力が型割れ発生の判断指標となる割れ応力を少なくとも超えているか否かを判定する割れ判定ステップと、前記算出された熱応力が基準応力を少なくとも超える型内の超過領域内で、下記の数式(1)に基づき求まる有効体積を算出する有効体積算出ステップと、該有効体積に基づいて前記割れ応力を算出する割れ応力算出ステップとを有し、少なくとも型割れの発生の有無を予測し得ることを特徴とする鋳造シミュレーション方法。
(有効体積)=∫ V (σ/σ max ) m dV (1)
V :積分体積(型内の超過領域)
σ :積分体積V内の型要素の最大主応力
σ max :最大主応力σの最大値
m :ワイブル係数 - さらに、前記熱応力の算出される型領域中から前記型内の超過領域を特定する型内の超過領域特定ステップを有する請求項1に記載の鋳造シミュレーション方法。
- 前記熱応力解析ステップは、さらに、前記型要素に作用する熱応力の最大主応力である最大熱主応力を算出する最大熱主応力算出ステップを有し、
前記割れ判定ステップは、該最大熱主応力が前記割れ応力を少なくとも超えているか否かを判定するステップである請求項1又は2に記載の鋳造シミュレーション方法。 - 前記熱応力解析ステップは、前記型要素の温度に基づき該型要素に作用する熱応力を順次算出する温度解析ステップである請求項1〜3のいずれかに記載の鋳造シミュレーション方法。
- 前記熱応力解析ステップの対象となる型は、粒子をバインダで固めた鋳型である請求項1〜4のいずれかに記載の鋳造シミュレーション方法。
- 前記鋳型は、中子である請求項5に記載の鋳造シミュレーション方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の鋳造シミュレーション方法をコンピュータを機能させて実行することを特徴とする鋳造シミュレーションプログラム。
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