JP5494353B2 - 金型寿命判定方法及びその装置 - Google Patents
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Description
鋳造プロセス中に発生する溶着は、固体金属(金型)と溶融金属(溶湯)が接触した結果生じる、金属元素間における化合を伴う拡散反応と推定され、金型と溶湯の溶着は、金型と溶湯との境界部分に両者の化合物層が生成される現象である。図19(a)に示すように、注湯後、暫くの間は溶湯と金型Dの間の拡散反応は生じない。そして、所定温度以上の溶湯が金型Dに所定時間接触を継続したとき、図19(b)に示すように、溶湯の金属元素A1が金型Dの界面を通過して金型内部に浸透し、その結果、図19(c)に示すように、溶湯の金属元素A1が金型の金属元素と拡散反応して化合物層A2を生成して溶着を形成する。
請求項4の発明によれば、基本的に請求項1と同様の作用、効果を奏する金型寿命判定装置を得ることができる。
本実施例では、Al−Si−Cu系Al合金としてのADC10(JIS規格)の溶湯を、キャビティを備えた金型へ加圧状態で注湯し、鋳造成形品、例えば、シリンダブロックB(図3参照)を形成する金型鋳造の例について説明する。
金型の化学成分は、C:0.32〜0.42wt%,Si:0.80〜1.20wt%,Mn:0.50wt%以下,P:0.030wt%以下,S:0.030wt%以下,Cr:4.50〜5.50wt%以下,Mo:1.00〜1.50wt%以下,V:0.80〜1.20wt%以下,残部:Feとされている。更に、この金型には、例えば、820〜870℃の焼きなまし、或いは1000〜1050℃の焼入れに続けて、550〜650℃の焼戻し等の熱処理が施されている。
図1に示すように、金型寿命判定装置1は、CAD(Computer Aided Design)装置2と、CAE(Computer Aided Engineering)装置3と、データベースとしての記憶装置4と、入力装置5と、各種処理工程を実行可能な処理装置6と、表示装置7等を備えている。CAD装置2とCAE装置3と記憶装置4と処理装置6は、通信回線を介して相互に各種情報の伝達が可能に構成されている。尚、前記各装置は、その他の通信手段を介して情報の送受信が相互に可能であり、また、各種情報を記録媒体に記憶させて他の装置に情報を伝達するように構成することも可能である。
図2に示すように、S1では、金型への溶湯注入後において、溶湯が金型に溶着するか否かを判定するための溶着判定基準温度Tを設定する。溶着判定基準温度Tは、図3に示すように、シリンダブロックBの表面に対して複数の溶湯温度測定箇所、例えば測定ポイントa〜eを予め設定し、実際の鋳造工程において、シリンダブロックBの測定ポイントa〜eの溶湯温度を注湯からの経過時間毎に計測し、図4に示す各測定ポイントa〜eの溶湯温度の経過時間に対する推移傾向である溶湯温度曲線Ta〜Teを作成する。ここで、作成された溶湯温度曲線Ta〜Teは、各測定ポイントa〜e部分の溶湯と金型との境界部分の近傍部における溶湯温度である。尚、本例では説明のためa〜eの5箇所の測定ポイントを取り上げるが、解析精度を高めるには、測定ポイント数をより多く設定する、加えて、測定ポイントの配置を、凹、凸、平面など、金型内のあらゆる形状を網羅することが必要である。
CAE装置3は、CAE温度解析プログラムに基づいて溶湯の溶湯注入開始後における複数の経過時間における凝固解析を行う(S11)。図7に示すように、解析対象物としてのシリンダブロックBを三角形形状の面を備えた四面体要素等によって三次元的に要素分割し、複数のノードを備えたメッシュ状の有限要素モデル9を作成している。四面体要素によるシリンダブロックBの表面の要素分割は、任意に設定可能である。尚、凝固解析にあたり、有限要素モデル9をCAD装置2からの金型モデル情報に基づき作成することも可能である。また、本凝固解析工程では、有限要素モデル9全てのノードについて、溶着判定を行うものであるが、説明の便宜上、5つのノードf〜jを例として説明する。
CAD装置2によって、金型の形状データに基づき金型モデルを作成し(S21)、図8に示すように、この金型モデルに基づいて金型形状の複数のノードDf,Dg,Dhを備えた金型メッシュモデルとしての有限要素モデル8を作成している(S22)。金型の有限要素モデル8は、三角形形状の面を備えた要素等で二次元的に要素分割し、複数のノードを備えたシェルメッシュ状で作成している。ここで使用する有限要素モデルについては、構造解析に主に用いる三次元ソリッドメッシュでも本技術が適用可能である。しかし、溶着という金型表面に発生する現象を捉える目的に対し、三次元ソリッドメッシュでは金型内部にまでメッシュを配置し、余剰な解析負荷が発生する虞があるため、溶着判定を精度よく実施する場合には、二次元シェルメッシュの活用が最適であると考えられる。また、有限要素モデルの定義は、ノード番号情報、座標情報が備わっていれば、分割形式や分割要素数について、任意に設定可能である。有限要素モデル8は、ノードf,g,hの配置位置に対応したノードDf,Dg,Dhを備えている。S22が、本発明の有限要素モデル作成工程に相当している。
S31の判定の結果、溶着が発生する可能性のあるノードと判定された場合、そのノードに識別情報Xを付与する(S32)。
S35では、領域AXの表面積と固体状態の鋳造素材ADC10の剪断力を乗算して、鋳造成形品を金型から離型する際の領域AXに掛る剪断荷重を計算している。前記剪断力は、所定部位(例えば、鋳抜きピン)の溶着によって鋳抜きピンに発生する合力成分の引抜き方向の分力として算出することができる。
S36では、S35で求めた領域AXの剪断荷重を、領域AXを構成するノード総数で除算し、溶着が発生する可能性のある個々のノードに掛る平均の引張応力を算出している(S37)。
S39では、識別情報Yが付与されたノードで構成された領域AYを領域AXと識別可能な色により色別(例えば青や緑色)表示している。図11に示すように、本実施例では、領域AYを、400回未満の注湯回数で溶着が発生する可能性のあるノードで構成される領域AY1と、800回未満の注湯回数で溶着が発生する可能性のあるノードで構成される領域AY2と、1500回未満の注湯回数で溶着が発生する可能性のあるノードで構成される領域AY3と、3000回未満の注湯回数で溶着が発生する可能性のあるノードで構成される領域AY4と、6000回未満の注湯回数で溶着が発生する可能性のあるノードで構成される領域AY5の5つの領域に区分して色別表示しており、これらの領域は、注湯回数に応じて識別情報Yから、識別情報Xへ変更される。
S41では、領域AYの表面積と固体状態の鋳造素材の摩擦力を乗算して、鋳造成形品を金型から離型する際の領域AYに掛る摩擦荷重を計算している。前記摩擦力は、所定部位(例えば、鋳抜きピン)の離型時、金型と固体状態の鋳造素材との摩擦によって鋳抜きピンに発生する合力成分の引抜き方向の分力として算出することができる。尚、剪断力と摩擦力は、金型からの抜き勾配が規定により決定される定数項であるため、予め両者の相関を求めておき、一方の値から他方の値を算出することも可能である。
S22において既に三次元ソリッドメッシュモデルを活用している場合は、S27の処理を必要としない。
S51の第1相関線図作成工程では、金型材料SKD61の複数温度におけるS−N線図に基づき金型材料の引張強度に対するS−N線図の引張応力の割合を第1高温強度F(第1評価指標)として演算し、横軸を繰返し数log(N)、縦軸を第1高温強度Fとする第2HS−N線図L1(第1相関線図)を作成している。
F1=p1/P …(1)
尚、p1は金型材料が400℃のときの引張応力である。
F2=q1/Q …(2)
尚、q1は金型材料が500℃のときの引張応力である。
F=F1=F2=… …(3)
同様に、前記繰返し数N0と異なる複数の繰返し数Nについて、金型材料の引張応力と引張強度に基づき第1高温強度Fを算出し、図14に示す横軸を繰返し数N、縦軸を第1高温強度Fとした金型材料の第1HS−N線図L0を作成する。これにより、温度毎に分かれていた金型材料のS−N線図を単一の相関線図に変換することができる。
M1=n1×f1
M2=n2×f2
M1=M2=M …(4)
尚、金型材料の第2HS−N線図L1は材料固有の相関線図であるため、所定の金型材料について一度作成すれば、以後作成する必要が無く、S51の第1相関線図作成工程を省略することができる。
図16に示すように、縦軸を第2高温強度G、横軸を注湯回数log(N)とした第3HS−N線図L2において、寿命面積Mとなる注湯回数log(N)を演算する。このとき算出された繰返し数n3が、解析対象である金型が疲労破損する注湯の繰返し数であり、換言すると、金型寿命としての注湯回数である。
このことは、金型材質と形状が同じであるが、金型上の配置が異なる解析対象部位ついても同様に言える場合がある。その理由は、解析対象部位同士の溶着の発生形態や進度が異なる場合、双方の第2高温強度Gの形態が異なることで、繰返し数n3が同一にならないためである。
この金型寿命判定装置1は、金型の金型形状を複数のノードで表す有限要素モデル8を作成するCAD装置2と、各種演算工程を実行可能な処理装置6を備え、この処理装置6は、鋳造成形品の離型時に前記金型と鋳造成形品との間に、前記溶湯材料成分中の金属元素が金型の金属組織に拡散反応した部分に作用する荷重と、拡散反応しない部分に作用する荷重とに基づき、金型表面の引張応力を演算する引張応力演算工程(S26)と、金型材料の複数温度におけるS−N線図に基づき金型材料の引張強度に対するS−N線図の引張応力の割合を第1高温強度Fとして演算し、横軸を繰返し数log(N)、縦軸を第1高温強度Fとする第2HS−N線図L1を作成する第1相関線図作成工程(S51)と、金型材料の引張強度に対する金型表面の引張応力の割合を第2高温強度Gとして演算し、横軸を注湯回数log(N)、縦軸を第2高温強度Gとする第3HS−N線図L2を作成する第2相関線図作成工程(S52)と、第2HS−N線図L1の第1高温強度Fと繰返し数log(N)の積により金型材料固有の寿命面積Mを演算する寿命面積演算工程(S53)と、第3HS−N線図L2と金型材料の寿命面積Mに基づき金型の寿命を判定する寿命判定工程(S17)を処理するよう構成されている。
金型の複数部位に対応した溶湯の溶湯注入開始後の複数の経過時間における複数の溶湯温度Tf〜Tjを算出するため、演算により、溶湯と金型との境界部分の近傍部における溶湯温度を正確に算出することができる。
溶湯温度が溶着判定基準温度T以上になる超過温度と経過時間とを時間積分して積算温度Eを算出するため、溶着発生の主要因である溶湯の温度に基づき、正確な積算温度Eを算出することができる。
積算温度Eに基づいて判定された金型の領域を、金型の溶着可能性のある領域を示す識別情報Xと金型の溶着可能性のない領域を示す識別情報Yに基づき識別可能に表示する表示装置7を備えているため、視認しながら、溶着が発生可能性のある領域と溶着が発生する可能性のない領域を区分して金型に掛る初期負荷条件を注湯回数毎に設定することができ、精度の高い応力解析ができる。
1〕前記実施例においては、SKD61の金型とADC10の溶湯を採用した例を説明したが、少なくとも、溶着が発生する組み合わせであれば本発明を適用することができ、SKD11やSKD61等の金型とADC1やADC8等の溶湯を用いることも可能である。
2 CAD装置
3 CAE装置
4 記憶装置
6 処理装置
7 表示装置
8 (金型)有限要素モデル
8a (鋳抜きピン)有限要素モデル
9 (シリンダブロック)有限要素モデル
T 溶着判定基準温度
S 評価基準
Tf〜Tj 溶湯温度
Ef〜Eh 積算温度
F 第1高温強度
G 第2高温強度
L1 第2HS−N線図
L2 第3HS−N線図
M 寿命面積
Claims (4)
- 溶湯が注入される金型の寿命を判定する金型寿命判定方法において、
前記金型の金型形状を複数のノードで表す有限要素モデルを作成する有限要素モデル作成工程と、
鋳造成形品の離型時に前記金型と鋳造成形品との間に、前記溶湯材料成分中の金属元素が金型の金属組織に拡散反応した部分に作用する荷重と、拡散反応しない部分に作用する荷重とに基づき金型表面の引張応力を演算する引張応力演算工程と、
前記金型材料の複数温度におけるS−N線図に基づき前記金型材料の引張強度に対する前記S−N線図の引張応力の割合を第1評価指標として演算し、横軸又は縦軸を繰返し数、縦軸又は横軸を前記第1評価指標とする第1相関線図を作成する第1相関線図作成工程と、
前記金型材料の引張強度に対する前記金型表面の引張応力の割合を第2評価指標として演算し、横軸を注湯回数、縦軸を前記第2評価指標とする第2相関線図を作成する第2相関線図作成工程と、
前記第1相関線図の第1評価指標と注湯回数の積により前記金型材料固有の寿命面積を演算する寿命面積演算工程と、
前記第2相関線図と金型材料の前記寿命面積に基づき前記金型の寿命を判定する寿命判定工程と、
を備えたことを特徴とする金型寿命判定方法。 - 前記引張応力演算工程の前に、金型へ注入された溶湯が金型に溶着するか否かを判定するための溶着判定基準温度を予め設定する溶着判定基準温度設定工程と、
金型の1または複数部位に対応した溶湯の溶湯注入開始後の複数の経過時間における複数の溶湯温度を算出する溶湯温度算出工程と、
前記溶湯温度を溶着判定基準温度設定工程で設定された溶湯判定基準温度と照合して、溶着を判定する溶着判定工程と、
前記溶湯温度が前記溶着判定基準温度以上になる超過温度と経過時間とを時間積分して累積値を算出する累積値算出工程と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の金型寿命判定方法。 - 前記累積値に基づいて判定された金型の溶着可能性のある領域をその他の領域と識別可能な色によって表示する表示工程を備えたことを特徴とする請求項2に記載の金型寿命判定方法。
- 溶湯が注入される金型の寿命を判定する金型寿命判定装置において、
前記金型の金型形状を複数のノードで表す有限要素モデルを作成する有限要素モデル作成手段と、
鋳造成形品の離型時に前記金型と鋳造成形品との間に、前記溶湯材料成分中の金属元素が金型の金属組織に拡散反応した部分に作用する荷重と、拡散反応しない部分に作用する荷重とに基づき金型表面の引張応力を演算する引張応力演算手段と、
前記金型材料の複数温度におけるS−N線図に基づき前記金型材料の引張強度に対する前記S−N線図の引張応力の割合を第1評価指標として演算し、横軸又は縦軸を繰返し数、縦軸又は横軸を前記第1評価指標とする第1相関線図を作成する第1相関線図作成手段と、
前記金型材料の引張強度に対する前記金型表面の引張応力の割合を第2評価指標として演算し、横軸又は縦軸を注湯回数、縦軸又は横軸を前記第2評価指標とする第2相関線図を作成する第2相関線図作成手段と、
前記第1相関線図の第1評価指標と注湯回数の積により前記金型材料固有の寿命面積を演算する寿命面積演算手段と、
前記第2相関線図と金型材料の前記寿命面積に基づき前記金型の寿命を判定する寿命判定手段と、
を備えたことを特徴とする金型寿命判定装置。
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