以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置が搭載されたハイブリッド車両1(以下、単に車両1という)を示す。この車両1は、所謂シリーズ式のハイブリッド車両であって、エンジン10と、回転軸が該エンジン10の出力軸(後述のエキセントリックシャフト13)に連結されていて、エンジン10を駆動して始動させかつ該始動後のエンジン10により駆動されて発電するモータジェネレータ20と、このモータジェネレータ20によって発電された電力が蓄電(充電)される高電圧・大容量のバッテリ30と、エンジン10に駆動されることによるモータジェネレータ20の発電電力及びバッテリ30の蓄電電力(放電電力)の少なくとも一方の電力で駆動される走行用モータ40とを備えている。
モータジェネレータ20、バッテリ30及び走行用モータ40の間には、インバータ50が設けられている。このインバータ50を介して、モータジェネレータ20の発電電力が、バッテリ30及び/又は走行用モータ40に供給されるとともに、バッテリ30からの放電電力が、モータジェネレータ20及び/又は走行用モータ40に供給される。
走行用モータ40は、モータジェネレータ20の発電電力及びバッテリ30からの放電電力の少なくとも一方が供給されることにより駆動される。この走行用モータ40の駆動力が、デファレンシャル装置60を介して、駆動輪としての左右の前輪61に伝達され、これにより、車両1が走行する。尚、走行用モータ40は、車両1の減速時には、ジェネレータとして作動して、その発電した電力がバッテリ30に充電される。また、バッテリ30は、車両1の外部の電源による外部充電が可能である。
エンジン10は、モータジェネレータ20による発電用にのみ使用される。エンジン10は、本実施形態では、水素タンク70に貯留されている水素ガスが、燃料として供給される水素エンジンである。
図2に示すように、エンジン10は、ツインロータ式(2気筒)のロータリピストンエンジンであって、2つの繭状のロータハウジング11内(気筒内)に形成されるロータ収容室11aに、概略三角形状のロータ12がそれぞれ収容されて構成されている。2つのロータハウジング11は、3つのサイドハウジング(図示せず)の間に挟み込むようにして該サイドハウジングと一体化されてなり、各ロータハウジング11とその両側のサイドハウジングとで各ロータ収容室11aが形成される。尚、図2では、2つのロータハウジング11(2つの気筒)を展開した状態で図示しており、2つのロータハウジング11内の中央部にそれぞれ描いているエキセントリックシャフト13は、同じものである。
図3に簡略化して示すように、上記各ロータ12の三角形の各頂部には、ロータ半径方向に延びる溝部12aが形成されており、この溝部12aに対して摺動可能にアペックスシール12bが嵌められている。このアペックスシール12bは、バネ12cによってアペックスシール12bの先端がロータハウジング11のトロコイド内周面に摺接するように、ロータ12の径方向外側に押圧されている。このことで、各ロータ12により各ロータ収容室11a(各気筒内)に3つの作動室(燃焼室に相当)が画成される。そして、アペックスシール12bは、エンジン10の燃焼室内を密閉するシール部を構成する。
各ロータ12は、該ロータ12の3つのアペックスシール12bが各々ロータハウジング11のトロコイド内周面に当接した状態でエキセントリックシャフト13の周りを自転しながら、該エキセントリックシャフト13の軸心の周りに公転するようになっている。ロータ12が1回転する間に、該ロータ12の各頂部間にそれぞれ形成された作動室が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ12を介して出力軸としてのエキセントリックシャフト13から出力される。
上記各ロータ収容室11aには、吸気行程にある作動室に連通するように吸気通路14が連通しているとともに、排気行程にある作動室に連通するように排気通路15が連通している。吸気通路14は、上流側では1つであるが、下流側では、2つの分岐路に分岐してそれぞれ上記各ロータ収容室11aに連通している。吸気通路14の上記分岐部よりも上流側には、ステッピングモータ等のスロットル弁アクチュエータ90により駆動されて吸気通路14の断面積(弁開度)を調節するスロットル弁16が配設されている。吸気通路14の上記分岐部よりも下流側の各分岐路には、上記水素タンク70から供給された水素を吸気通路14内に噴射する予混合用インジェクタ17が配設されている。この予混合用インジェクタ17により噴射された水素は空気と混合された状態(予混合状態)で、吸気行程にある作動室に供給される。
上記排気通路15は、上流側では、各ロータ収容室11にそれぞれ連通するように2つ設けられているが、下流側では、1つに合流されている。この排気通路15の該合流部よりも下流側には、排気ガスを浄化するための排気ガス浄化触媒80が配設されている。この排気ガス浄化触媒80は、本実施形態では、NOx吸蔵還元触媒とされている。尚、図2において吸気通路14及び排気通路15に図示した矢印は、吸気及び排気の流れを示している。
上記各ロータハウジング11(各気筒)には、上記水素タンク70から供給された水素をロータ収容室11内(気筒内)に直接噴射する直噴用インジェクタ18と、上記予混合用インジェクタ17又は直噴用インジェクタ18より噴射された水素の点火を行う点火プラグ19とが設けられている。
予混合用インジェクタ17は、後述のエンジン水温センサ106により検出されたエンジン冷却水の温度(エンジン水温)が、予め設定された設定温度よりも低いときに作動する。一方、直噴用インジェクタ18は、上記エンジン水温が上記設定温度以上であるときに作動する。これは、上記エンジン水温が上記設定温度よりも低いときには、水素が燃焼した際に生じる水蒸気が氷結してロータハウジング11のトロコイド内周面に付着し、その付着した氷がロータ12のアペックスシールによって直噴用インジェクタ18の噴口内に掻き込まれて直噴用インジェクタ18からの燃料噴射に支障が生じるからである。上記エンジン水温が上記設定温度以上になれば、直噴用インジェクタ18の噴口内の氷が溶けるとともに、水素が燃焼した際に生じる水蒸気が氷結することもないので、空気の充填率を高めて高トルクが得られるように直噴用インジェクタ18から水素を噴射する。
ここで、エンジン10の始動時においては、その前のエンジン停止直前のエンジン水温が、通常は、上記設定温度以上であり、そのエンジン停止直前に発生した水蒸気は蒸発しているので、始動時における上記エンジン水温が上記設定温度よりも低くても、直噴用インジェクタ18の噴口内に氷が存在する可能性は低い。そこで、エンジン10の始動性を高めるべく、直噴用インジェクタ18から水素を噴射する。そして、エンジン10の始動後においても、上記エンジン水温が上記設定温度よりも低い場合には、直噴用インジェクタ18から予混合用インジェクタ17に切り換えることになる。
尚、本実施形態では、予混合用インジェクタ17は各分岐路において1つしか設けられていないが、直噴用インジェクタ18は、各ロータハウジング11において、エキセントリックシャフト13の軸方向(図2の紙面に垂直な方向)に2つ並んで配設されている(図2では、1つしか見えていない)。
車両1には、バッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧を検出するバッテリ電流・電圧センサ101と、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ102と、車両1の車速を検出する車速センサ103と、エキセントリックシャフト13に設けられ、エキセントリックシャフト13の回転角度位置を検出する回転角センサ104(エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)を兼ねる)と、エンジン10の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ105と、ロータハウジング11の内部に形成されたウォータジャケット(図示せず)に臨んで該ウォータジャケット内を流れる冷却水の温度(エンジン水温)を検出するエンジン水温センサ106と、水素タンク70内の圧力(つまり水素タンク70内の水素残量)を検出するタンク圧力センサ107と、エンジン10の作動制御や、インバータ50の作動制御(つまりモータジェネレータ20及び走行用モータ40の作動制御)等を行うコントロールユニット100(制御手段)とが設けられている。
コントロールユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。コントロールユニット100には、バッテリ電流・電圧センサ101、アクセル開度センサ102、車速センサ103、回転角センサ104、空燃比センサ105、エンジン水温センサ106、タンク圧力センサ107等からの各種信号が入力されるようになっている。
そして、コントロールユニット100は、上記入力信号に基づいて、スロットル弁アクチュエータ90、予混合用インジェクタ17、直噴用インジェクタ18、点火プラグ19に対して制御信号を出力してエンジン10を制御するとともに、インバータ50に対して制御信号を出力してモータジェネレータ20及び走行用モータ40を制御する。
コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、バッテリ30からの電力供給によりエンジン10を駆動する駆動状態と、エンジン10による駆動により発電して該発電電力をバッテリ30や走行用モータ40に供給する発電状態とに切り換えることが可能になっている。そして、コントロールユニット100は、エンジン10の始動時には、モータジェネレータ20の作動状態を上記駆動状態としてエンジン10を始動し、エンジン10の始動後(後述のエンジン始動判定部100aにより始動したと判定された後)には、上記発電状態に切り換える。コントロールユニット100には、後述の如くエンジン10が始動したか否かを判定するエンジン始動判定部100aが設けられている。
インバータ50は、モータジェネレータ20に流れる電流(駆動電流又は発電電流)及びモータジェネレータ20にかかる電圧の情報をコントロールユニット100に送信する。コントロールユニット100は、これら電流及び電圧に基づいて、モータジェネレータ20の回転軸に作用するトルクを検出する。このことで、インバータ50及びコントロールユニット100は、モータジェネレータ20の回転軸に作用するトルクを検出するトルク検出手段を構成することになる。上記検出トルクは、モータジェネレータ20がエンジン10を駆動する側を正の値とし、エンジン10によってモータジェネレータ20が駆動される側を負の値とする(図4参照)。
また、コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、走行用モータ40の駆動を、バッテリ30からの放電電力のみでもって行う態様と、モータジェネレータ20からの発電電力のみでもって行う態様と、バッテリ30及びモータジェネレータ20の両方からの電力でもって行う態様とに切換え可能に構成されている。そして、コントロールユニット100は、バッテリ電流・電圧センサ101により検出された、バッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧に基づいて、バッテリ30の残存容量(SOC)を検出し、この検出されたバッテリ30の残存容量と、タンク圧力センサ107による水素タンク70内の水素残量とに基づいて、走行用モータ40の駆動を、バッテリ30からの放電電力のみでもって行う態様か、又は、モータジェネレータ20からの発電電力のみでもって行う態様にする。上記バッテリ30の残存容量及び水素残量によっては、走行用モータ40の駆動を、バッテリ30からの放電電力のみでもって行う態様、及び、モータジェネレータ20からの発電電力のみでもって行う態様のいずれの態様にしてもよい場合があり、この場合に、車両1の乗員が操作するスイッチによる選択により、いずれの態様にするかを決定してもよい。
上記いずれの態様でもよい場合でかつ走行用モータ40の駆動が、バッテリ30からの放電電力のみでもって行う態様にあるとき(エンジン10が停止しているとき)において、コントロールユニット100は、アクセル開度センサ102や車速センサ103等からの入力情報に基づき、乗員の加速要求レベルが所定閾値よりも高くなったか否かを判定し、乗員の加速要求レベルが該所定閾値よりも高くなったと判定したときには、走行用モータ40の駆動を、バッテリ30及びモータジェネレータ20の両方からの電力でもって行う態様に切り換える。その後、乗員の加速要求レベルが上記所定閾値よりも高い状態から該所定閾値以下になったときには、バッテリ30からの放電電力のみでもって行う態様に戻す。
走行用モータ40の駆動を、バッテリ30からの放電電力のみでもって行う態様から、モータジェネレータ20からの発電電力のみでもって行う態様、又は、バッテリ30及びモータジェネレータ20の両方からの電力でもって行う態様に切り換える際には、エンジン10の始動要求(モータジェネレータ20による発電要求)があることになる。また、その逆の切り換え時には、エンジン10の停止要求があることになり、エンジン10が停止することになる。
コントロールユニット100は、エンジン10の停止中に、エンジン10の始動要求があったときには、モータジェネレータ20を第1所定回転数で駆動することによってエンジン10を回転させながら(クランキングしながら)、該エンジン10において燃料(水素)の噴射及び該噴射された燃料の点火を行うことで、該エンジン10を始動させる。本実施形態では、エンジン回転数とモータジェネレータ20の回転数とは同じであるとする。上記燃料の噴射及び点火前のクランキング時に、エンジン10は、モータジェネレータ20によって駆動されて上記第1所定回転数(図3のN1)で回転することになる。本実施形態では、上記第1所定回転数N1は、例えば600rpm〜800rpmに設定される。
そして、コントロールユニット100は、エンジン10の駆動開始から所定時間経過するまでの間、上記燃料の噴射及び点火を行わないで、該エンジン10のロータ収容室11a内(気筒内)に残存する燃料を掃気させる。これは、エンジン10の始動時には、燃焼空燃比を燃料リッチにすることから、ロータ収容室11a内に、前回のエンジン停止前に噴射した燃料が残っていると、燃料リッチになりすぎるからである。上記掃気の際、コントロールユニット100は、スロットル弁16を全開にして、多量の空気をロータ収容室11a内に導入することで、燃料を素早くかつスムーズに掃気させるようにする。上記所定時間は、上記第1所定回転数N1で、ロータ収容室11a内の燃料掃気をほぼ完了できるような時間(数秒程度)とすればよい。
図4に示すように、燃料の噴射及び点火前のクランキング時(上記掃気時)において、上記検出トルク(モータジェネレータ20の回転軸に作用するトルク)がT1(正の値)となっている。そして、エンジン10のクランキングを行いながら、上記所定時間経過後の燃料の噴射タイミングとなった時点で、燃料を噴射するとともに、点火のタイミングとなった時点で燃料の点火を行う。尚、燃料の噴射及び点火のタイミングは、回転角センサ104により検出されたエキセントリックシャフト13の回転角度位置によって決定する。
図4の時刻t1から燃料の噴射及び点火が開始され、これにより、エンジン10は自立的に回転しようとし、エンジン10の出力軸がモータジェネレータ20の回転軸を駆動しようとする。この結果、上記検出トルクが、燃料の噴射及び点火前のクランキング時の駆動トルクT1から減少するとともに、エンジン回転数が第1所定回転数N1から上昇する。
上記燃料の噴射及び点火により、やがて、上記検出トルクが正の値から0を超えて負の値になる。つまり、モータジェネレータ20がエンジン10により駆動されるトルクが、モータジェネレータ20がエンジン10を駆動するトルクよりも大きくなる。そして、図4の時刻t2で、上記検出トルクが負の値でかつその絶対値が所定値T2以上になる(モータジェネレータ20がエンジン10により駆動されるトルクが、モータジェネレータ20がエンジン10を駆動するトルクよりも所定値T2以上大きくなる)。この段階で、モータジェネレータ20によるエンジン10の駆動を停止した場合、エンジン10が停止することなく自立的に回転する可能性は高いが、エンジン回転数が、クランキング時の回転数N1から殆ど上昇していない場合がある(図4では、そのようになっている)。この場合にモータジェネレータ20によるエンジン10の駆動を停止すると、エンジン10が停止する可能性がある。そこで、エンジン始動判定部100aは、上記燃料の噴射及び点火後において、上記検出トルクが負の値でかつその絶対値が所定値T2以上となった後に、回転角センサ104による検出回転数が第2所定回転数N2以上となったとき(図4の時刻t3)に、エンジン10が始動したと判定する。
上記第2所定回転数N2は、エンジン回転数の変動を考慮した上で上記第1所定回転数N1よりも確実に大きくなる回転数であって第1所定回転数N1に出来る限り近い値である。例えば、第2所定回転数N2は、第1所定回転数N1よりも100〜150rpm大きくする。このようにしても、エンジン10が自立運転する可能性が高くなった以降に、エンジン回転数に基づいてエンジン10が始動したか否かを判定するので、エンジン10が始動したとの判定を正確にすることができる。
エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定されたときには、コントロールユニット100は、インバータ50の制御により、モータジェネレータ20の作動状態を上記駆動状態から上記発電状態に切り換える。これにより、バッテリ30からモータジェネレータ20への電力供給(エンジン10の駆動)が停止されて、モータジェネレータ20による発電電力がバッテリ30や走行用モータ40に供給される。このようにしても、エンジン10は自立的に回転して、エンジン回転数が第2所定回転数N2よりも高い回転数にまで上昇する。
コントロールユニット100は、エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定されるまでは、燃焼空燃比が燃料リッチになるように上記燃料の噴射を行う一方、エンジン10が始動したと判定された後は、燃焼空燃比が燃料リーンになるように上記燃料の噴射を行うようになっている。エンジン10が始動したと判定されるまで燃焼空燃比を燃料リッチにする(エンジン回転数が第2所定回転数N2よりも高い回転数にまで上昇する燃料量にする)ことで、始動性が向上し、エンジン回転数が第2所定回転数N2に達した以降は、燃料リーンに切り換えても、勢い良く上昇する(吹き上がる)。
エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定された後、コントロールユニット100は、エンジン10を制御して、エンジン回転数が、予め設定された設定回転数になるまで上昇させ、エンジン回転数が上記設定回転数に達すると、エンジン10を上記設定回転数で運転する。上記設定回転数は、モータジェネレータ20により発電させるべき発電量(乗員の加速要求レベル等から設定される目標発電量)に応じて変化するが、第2所定回転数N2よりも高い値に設定されている。このため、エンジン10が始動したと判定された後も、エンジン回転数は、上記吹き上がりに続けて上記設定回転数にまで上昇し続ける。また、上記検出トルクの絶対値が、モータジェネレータ20による発電量に応じたトルクまで上昇する。
コントロールユニット100は、エンジン水温センサ106による検出温度(エンジン水温)が、予め決められた基準温度よりも低いときには、上記検出温度が上記基準温度以上であるときに比べて、モータジェネレータ20による発電量を少なくするようにする。上記基準温度は、エンジン水温が上記基準温度よりも低くなると、エンジン10の出力軸やモータジェネレータ20の回転軸の回転抵抗が非常に大きくなるような温度である。本実施形態では、上記基準温度は、直噴用インジェクタ18と予混合用インジェクタ17との使い分けを行うための閾値である上記設定温度と同じ値(例えば0℃付近)に設定されている。このように上記回転抵抗が非常に大きくなるような温度では、モータジェネレータ20による発電量を少なくすることで、エンジン10の負荷を軽減して、燃費やエミッションの悪化を防止するようにする。尚、上記検出温度が上記基準温度よりも低いときには、上記検出温度が上記基準温度以上であるときに比べて、空気過剰率λを小さくするが、発電量を少なくすることで、空気過剰率λがそれ程小さくならずに済む。
上記したように、コントロールユニット100は、エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定されるまでは、直噴用インジェクタ18により燃料の噴射を行うとともに、エンジン10が始動したと判定された後において、エンジン水温センサ106による検出温度が上記設定温度以上であるときには、直噴用インジェクタ18による燃料の噴射を継続する一方、上記検出温度が上記設定温度よりも低いときには、直噴用インジェクタ18による燃料の噴射から予混合用インジェクタ17による燃料の噴射に切り換える。尚、本実施形態では、エンジン10が始動したと判定されるまでの燃料の噴射は、各気筒の2つの直噴用インジェクタ18のうちの1つで行い、エンジン10が始動したと判定された後、上記検出温度が上記設定温度以上であるときには、2つの直噴用インジェクタ18で燃料の噴射を行う。エンジン10が始動したと判定されるまでの燃料の噴射も、2つの直噴用インジェクタ18で行うようにしてもよい。
上記のように、コントロールユニット100は、上記検出温度が上記設定温度よりも低いときには、直噴用インジェクタ18による燃料の噴射から予混合用インジェクタ17による燃料の噴射に切り換えるが、エンジン10を運転し続けていると、やがて、上記検出温度が上記設定温度以上になる。このときは、コントロールユニット100は、予混合用インジェクタ17による燃料の噴射から直噴用インジェクタ18による燃料の噴射に切り換えることになる。
ここで、上記のようにエンジン10を始動する際において、エンジン水温センサ106による検出温度が所定温度(ここでは、上記設定温度以下の温度)よりも低いと、アペックスシール12bで構成されたシール部において氷結によるシール不良が生じている場合がある。すなわち、ロータ12の溝部12aとアペックスシール12bとの間が氷結して、アペックスシール12bが溝部12cに対して摺動不能となり、これにより、アペックスシール12bの先端がロータハウジング11のトロコイド内周面に接しなくなって、シール不良が生じる。このような氷結によるシール不良が生じている場合にエンジン10を始動させようとしても、エンジン10の作動室(燃焼室)内において圧縮不良が生じて、エンジン10を始動させることが困難になる。
そこで、本実施形態では、コントロールユニット100に、エンジン10の作動室内において圧縮不良が生じているか否かを判定する圧縮不良判定部100b(圧縮不良判定手段)と、この圧縮不良判定部100bによる判定結果に基づいて、上記シール部において氷結によるシール不良が生じているか否かを判定する氷結判定部100c(氷結判定手段)とが設けられている。
圧縮不良判定部100bは、上記燃料の噴射及び点火前におけるモータジェネレータ20によるエンジン10の駆動時に検出される上記検出トルクに基づいて、該エンジン10の作動室内において圧縮不良が生じているか否かを判定する。
図5は、モータジェネレータ20が1000rpmでエンジン10を駆動した場合(燃料の噴射及び点火前の駆動)の、モータジェネレータ20の回転軸に作用するトルク(上記検出トルク)の変化の一例を示す。この例では、駆動開始時に、上記シール部において氷結によるシール不良(つまり圧縮不良)が生じていたが、駆動途中で、その氷結が解除されて、シール部のシール機能が回復した場合を示す。このように圧縮不良が生じている場合には、最大トルク及びトルク変動幅が、圧縮不良が生じていない場合よりも高くなる。これは、作動室内において圧縮行程で吸入空気が正常に圧縮されていれば、その圧縮空気の反動を利用して、モータジェネレータ20の駆動トルクが小さくて済むが、正常に圧縮されていなければ、そのような圧縮空気の反動が小さくなるからである。この例のようにモータジェネレータ20の駆動回転数を高くすれば、上記シール部の氷結を解除することができることが分かる。
圧縮不良判定部100bは、上記検出トルクの波形の最大値と最小値との差に基づいて、エンジン10の作動室内において圧縮不良が生じているか否かを判定する。すなわち、圧縮不良判定部100bは、上記差が基準値よりも大きい場合には、圧縮不良が生じていると判定する一方、上記基準値以下である場合には、圧縮不良が生じていないと判定する。上記基準値は、上記第1所定回転数N1に対応した、正常に圧縮される場合の値を予め調べて設定すればよい。
上記差に基づく判定に代えて、上記検出トルクの波形の最大ピーク間又は最小ピーク間の間隔時間に基づいて、エンジン10の作動室内において圧縮不良が生じているか否かを判定するようにしてもよい。圧縮不良が生じていない場合の最大ピーク間又は最小ピーク間の間隔時間は、上記第1所定回転数N1に対応する時間になるが、圧縮不良が生じている場合には、圧縮不良が生じていない場合よりも、最大ピーク間又は最小ピーク間の間隔時間が長くなる傾向にある。そこで、圧縮不良判定部100bは、上記間隔時間が基準時間よりも長い場合には、圧縮不良が生じていると判定する一方、上記基準時間以下である場合には、圧縮不良が生じていないと判定する。上記基準時間は、上記第1所定回転数N1に対応した時間よりも少し長い目の時間に設定すればよい。
或いは、上記差及び上記間隔時間の両方に基づいて、エンジン10の作動室内において圧縮不良が生じているか否かを判定するようにしてもよい。すなわち、圧縮不良判定部100bは、上記差が基準値よりも大きくかつ上記間隔時間が基準時間よりも長い場合には、圧縮不良が生じていると判定する一方、それ以外の場合には、圧縮不良が生じていないと判定する。
氷結判定部100cは、エンジン水温センサ106による検出温度が上記所定温度よりも低いときにおいて、圧縮不良判定部100bにより圧縮不良が生じていると判定されたときに、上記シール部において氷結によるシール不良が生じていると判定する。すなわち、エンジン水温が上記所定温度よりも低いときに圧縮不良が生じた場合、この圧縮不良は、上記シール部における氷結によるシール不良によって生じた可能性が高いので、上記のように判定する。一方、圧縮不良判定部100bにより圧縮不良が生じていないと判定されたとき、又は、圧縮不良が生じていると判定されても、上記検出温度が上記所定温度以上であるときには、上記シール部において氷結によるシール不良が生じていないと判定する。
本実施形態では、圧縮不良判定部100bは、エンジン10の各気筒毎に圧縮不良が生じているか否かを判定し、氷結判定部100bは、圧縮不良判定部100bによる上記各気筒毎の判定結果に基づいて、該各気筒毎に上記シール部において氷結によるシール不良が生じているか否かを判定する。
ここで、回転角センサ104は、エキセントリックシャフト13の回転角度位置を検出するとともに、基準回転位置も検出できるようになっており、エキセントリックシャフト13の基準回転位置からの回転角度位置を検出することができる。これにより、回転角センサ104による基準回転位置からの回転角度位置によって、上記検出トルクの波形の最大ピーク及び最小ピークが、どの気筒に対応するものかが分かる。そこで、圧縮不良判定部100bは、上記検出トルクの波形から各気筒に対応する最大ピーク及び最小ピークをそれぞれ抽出して、各気筒毎にその抽出した中で最大値と最小値との差(及び/又は、最大ピーク間又は最小ピーク間の間隔時間)を算出する。そして、各気筒毎に、上記差が上記基準値よりも大きいか否か(上記間隔時間が上記基準時間よりも長いか否か)を判定して、上記差が上記基準値よりも大きい(上記間隔時間が上記基準時間よりも長い)気筒において圧縮不良が生じていると判定する。
コントロールユニット100は、氷結判定部100cにより、少なくとも1つの気筒における上記シール部おいて氷結によるシール不良が生じていると判定されたときには、モータジェネレータ20の駆動回転数を上記第1所定回転数N1よりも高くする。このようにすることで、ロータ12の振動が大きくなり、ロータ12の溝部12aとアペックスシール12bとの間から氷が塊の状態で取り除かれ、この結果、アペックスシール12bが溝部12aに対して摺動できるようになって、上記シール部のシール機能が回復する。
また、コントロールユニット100は、氷結判定部100cにより上記氷結によるシール不良が生じていないと判定された気筒において上記燃料の噴射及び点火を行う。このときの燃料噴射量は、失火が生じるような量である。このときの燃料噴射は、直噴用インジェクタ18により行ってもよいが、直噴用インジェクタ18の噴口内に氷が存在することも考えられ、また、高トルクを得る必要もないので、予混合用インジェクタ17により行うことが好ましい。
上記燃料の噴射及び点火により、上記氷結によるシール不良が生じていない気筒内の温度が高くなり、この気筒内の熱が、上記氷結によるシール不良が生じている気筒内へと伝達され、該気筒内の温度が高くなる。これにより、上記シール部の氷結した部分の氷が溶け易くなり、モータジェネレータ20の駆動回転数を高くすることと相俟って、上記氷結によるシール不良が生じている気筒における上記シール部の氷結を出来る限り早く解除することができる。
上記のようにモータジェネレータ20の駆動回転数を上記第1所定回転数N1よりも高くすることで、上記シール部のシール機能が回復すると、氷結判定部100cにより上記シール部おいて氷結によるシール不良が生じていないと判定されることになり、この判定後に、エンジン10の上記クランキングを継続しながら、上記燃料の噴射及び点火を行う(燃料の噴射及び点火を行うときのクランキングを着火クランキングという)。上記判定後でかつ着火クランキングの前に、モータジェネレータ20の駆動回転数を上記第1所定回転数N1に戻してもよいが、本実施形態では、上記第1所定回転数N1よりも高くした回転数とした状態で、着火クランキングを行う。この場合、上記第2所定回転数N2は、上記第1所定回転数N1よりも高くした分だけ高くする。尚、クランキングの開始から一度も、氷結判定部100cにより上記氷結によるシール不良が生じていると判定されることなく、上記氷結によるシール不良が生じていないと判定されたときには、上記第1所定回転数N1で着火クランキングを行うことになり、この場合には、上記第2所定回転数N2は、高くされることなく当初の値のままとなる。
上記コントロールユニット100によるエンジン10の始動に関する処理動作について、図6〜図8のフローチャートに基づいて説明する。この処理動作は、エンジン10の停止中に、エンジン10の始動要求(モータジェネレータ20による発電要求)があったときにスタートする。
最初のステップS1で、モータジェネレータ20を第1所定回転数N1で駆動することによってエンジン10を回転させる(クランキングする)。このクランキング時に、燃料の噴射及び点火を行わないで、スロットル弁16を全開にした状態で、エンジン10のロータ収容室11a内(気筒内)に残存する燃料を掃気させる。
次のステップS2で、上記クランキング中に、氷結判定部100cが、各気筒毎に上記シール部において氷結によるシール不良が生じているか否かを判定する。このとき、圧縮不良判定部100bは、上記検出トルクに基づいて、各気筒毎にエンジン10の作動室内において圧縮不良が生じているか否かを判定する。そして、氷結判定部100cは、エンジン水温センサ106による検出温度が上記所定温度よりも低いときにおいて、圧縮不良判定部100bにより圧縮不良が生じていると判定された気筒があるときに、当該気筒における上記シール部において氷結によるシール不良が生じていると判定する。
次のステップS3で、氷結判定部100cにより1つの気筒のみにおけるシール部において氷結によるシール不良が生じていると判定されたか否かを判定する。このステップS3の判定がYESであるときには、ステップS4に進んで、氷結によるシール不良が生じていないと判定された気筒において燃料の噴射及び点火を行い、次のステップS5で、モータジェネレータ20の駆動回転数を上記第1所定回転数N1よりも高くし、しかる後に上記ステップS2に戻る。
上記ステップS3の判定がNOであるときには、ステップS6に進んで、氷結判定部100cにより両方の気筒におけるシール部において氷結によるシール不良が生じていると判定されたか否かを判定する。このステップS6の判定がYESであるときには、上記ステップS5に進んで、モータジェネレータ20の駆動回転数を上記第1所定回転数N1よりも高くし、しかる後に上記ステップS2に戻る。
上記ステップS6の判定がNOであるときには、ステップS7に進んで、エンジン10の上記クランキングを継続しながら、燃料の噴射及び点火を行う(着火クランキングを行う)。この着火クランキング時の燃料の噴射は、直噴用インジェクタ18により行う。その噴射量は、燃焼空燃比が燃料リッチになるような量である。
次のステップS8では、エンジン始動判定部100aが、上記検出トルクが負の値でかつその絶対値が所定値T2以上になったか否かを判定する(尚、フローチャートでは、検出トルクが負の値であるという要件は省略している)。このステップS8の判定がNOであるときには、ステップS9に進む一方、ステップS8の判定がYESであるときには、ステップS14に進む。
上記ステップS9では、上記クランキングの開始から計測を開始するタイマーの計測時間が、予め設定された基準時間ta(例えば、10秒乃至十数秒)よりも大きいか否かを判定する。このステップS9の判定がNOであるときには、上記ステップS7に戻る一方、ステップS9の判定がYESであるときには、ステップS10に進む。
上記ステップS10では、エンジン10の出力トルクが上昇せずにエンジン10が停止したと判定し、次のステップS11で、エンジン10が停止したとの判定を2回以上行ったか否かを判定する。
上記ステップS11の判定がNOであるときには、ステップS12に進んで、上記タイマーをリセットし、しかる後に上記ステップS1に戻る。一方、上記ステップS11の判定がYESであるときには、ステップS13に進んで、車両1のインストルメントパネルにおいて車両1の乗員(ドライバ)が視認可能に設けられた表示パネル等に、エンジン10が故障している旨の警報表示を行い、しかる後に本処理動作を終了する。
上記ステップS8の判定がYESであるときに進むステップS14では、上記着火クランキングを継続し、次のステップS15で、エンジン始動判定部100aが、回転角センサ104による検出回転数が第2所定回転数N2以上となったか否かを判定する。
上記ステップS15の判定がNOであるときには、ステップS16に進んで、上記タイマーの計測時間が、上記基準時間taよりも大きいか否かを判定する。このステップS16の判定がNOであるときには、上記ステップS14に戻る一方、ステップS16の判定がYESであるときには、上記ステップS10に戻る。すなわち、上記検出トルクが負の値でかつその絶対値が所定値T2以上になったとしても、上記基準時間ta内に上記検出回転数が第2所定回転数N2以上にならない場合には、エンジン回転数が低下してエンジン10が停止したと判定する。
上記ステップS15の判定がYESであるときには、ステップS17に進んで、エンジン始動判定部100aが、エンジン10が始動したと判定する。
次のステップS18では、エンジン水温センサ106による検出温度が、設定温度Te1よりも低いか否かを判定する。このステップS18の判定がYESであるときには、ステップS19に進む一方、ステップS18の判定がNOであるときには、ステップS23に進む。
上記ステップS19では、直噴用インジェクタ18による燃料の噴射から予混合用インジェクタ17による燃料の噴射に切り換える。エンジン10が始動したと判定された後の燃料噴射量は、燃焼空燃比が燃料リーンになるような量である。そして、次のステップS20で、モータジェネレータ20を上記発電状態とする。このときの発電量は、後述のステップS23での発電量よりも少ない。
次のステップS21では、再び、エンジン水温センサ106による検出温度が、上記設定温度Te1よりも低いか否かを判定する。このステップS21の判定がYESであるときには、上記ステップS20に戻る一方、ステップS21の判定がNOであるときには、ステップS22に進んで、予混合用インジェクタ17による燃料の噴射から直噴用インジェクタ18による燃料の噴射に切り換える。
上記ステップS22の後、又は、ステップS18の判定がNOであるときには、ステップS18に進んで、モータジェネレータ20を上記発電状態とし、しかる後に本処理動作を終了する。
したがって、本実施形態では、氷結判定部100cが、エンジン水温センサ106による検出温度が上記所定温度よりも低いときにおいて、圧縮不良判定部100bにより圧縮不良が生じていると判定されたときに、上記シール部において氷結によるシール不良が生じていると判定するので、エンジン10の始動時に、上記シール部の氷結が分かり、この氷結を解除するべく、モータジェネレータ20の駆動回転数を上記所定回転数N1よりも高くすることで、上記シール部のシール機能が回復するようになり、よって、上記シール部において氷結によるシール不良が生じていたとしても、エンジン10を始動することができるようになる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記実施形態では、エンジン始動判定部100aが、燃料の噴射及び点火後において、モータジェネレータ20の回転軸に作用するトルク(上記検出トルク)が負の値でかつその絶対値が所定値T2以上となった後に、回転角センサ104による検出回転数が第2所定回転数N2以上となったときに、エンジン10が始動したと判定するようにしたが、上記検出トルクが負の値でかつその絶対値が所定値T2以上となったとき、又は、上記検出回転数が第2所定回転数N2以上となったときに、エンジン10が始動したと判定するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、エンジン10を、水素を燃料とするロータリピストンエンジンとしたが、往復動型エンジンであってもよく、水素以外の燃料(例えばガソリン)用いるエンジンであってもよい。往復動型エンジンの場合、バルブシートで構成されたシール部において氷結によるシール不良が生じる可能性があるが、この場合も、氷結判定部100cにより、上記シール部の氷結が分かり、この氷結を解除するべく、モータジェネレータ20の駆動回転数を上記所定回転数N1よりも高くすることで、上記シール部のシール機能が回復するようになる。
さらに、上記実施形態では、車両1が、シリーズ式のハイブリッド車両としたが、エンジンと、該エンジンを駆動して始動させかつ該始動後のエンジンにより駆動されて発電するモータジェネレータとを備えていれば、どのような形式のハイブリッド車両であっても、本発明を適用することができる。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。