次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、家具の一例としてのワゴンの引出しに適用している。以下の説明で、方向を特定するため「前後」「左右」の文言を使用するが、これは、図1(A)に表示するように、ワゴンの正面から見た状態を基準にしている。まず、図1〜図17の第1実施形態を説明する。
(1).引出しの概略
本実施形態のワゴンは例えば机の内部に配置できるものであり、前向きに開口したワゴン本体1と、その内部に前後動自在に装架した3段の引出し2,2′,2″とを有する。3段の引出し2,2′,2″のうち上段の引出し2は最も高さ寸法が小さく、下段の引出し2″は高さ寸法が最も大きく、中段の引出し2′は両者の中間の高さ寸法になっている。上段の引出し2の右側部にシリンダ錠を設けており、鍵穴を有する内筒21aが手前に露出している。2段目の引出し2′にはダイヤル錠を設けている。
各引出し2はサスペンションレール装置(図示せず)により、ワゴン本体2を構成する内側板に前後動自在に支持されている。敢えて述べるまでもないが、ワゴン及び引出しは正面視で四角形になっている。まず、主として図1〜図8に基づいて引出しの概略を説明する。
例えば図3,4に示すように、引出しは、底板3aと左右側板3bと背面板(図示せず)とを有する収納箱3と、その前端に設けた前板(鏡板)4及び裏板5とを主要部材として有しており、これら三者で引出し本体が構成されている。収納箱3における側板3bの外面にはレール部材7を取り付けている。収納箱3と前板4はスチール製であるが、裏板5は樹脂の成形品を採用している。勿論、裏板5をスチール製としたり前板4を樹脂製とすることも可能である。
例えば図4及び図7から理解できるように、前板4は四周に壁板4a,4b,4cを有していて後ろ向きに開口した浅い箱状に形成されている一方、裏板5も四周に壁板5a,5b,5cを有する前向き開口の浅い箱状に形成されており、両者は離脱不能に嵌合している。そして、前板4と裏板5との間は中空部になっており、この中空部に正面視四角形のベース8を配置している。
図6に示すように、ベース8は四周に壁8a,8b,8cを有する浅いトレー状に形成されており、前向きに開口した状態で裏板5の内部に配置されている。そして、図6に示すように、ベース8に、前板4の左右側部箇所から指を当てて引き操作できる左右のサイド引手9と、前板4の上部箇所から指を当てて引き操作できるアッパー引手10と、ワゴン本体1に係合するラッチ爪11と、いずれかの引手9,10の引き操作によってラッチ爪11をフリー状態にする第1連動部材12及び第2連動部材13を取り付けている。これら、引手9,10、ラッチ爪11,連動部材12,13を構成要素としてラッチ装置が構成されている。ラッチ爪11はベース8の左側部に取り付けている。アッパー引手10は上段の引出し2のみに設けており、中段及び下段の引出し2′,2″には、サイド引手9のみを設けている。
なお、第2連動部材13は、ラッチ爪11をワゴン本体1に係合した状態に保持するストッパーとして機能しており、第1連動部材12の動きで第2連動部材13のストッパー機能が解除される。従って、第2連動部材13をストッパーと呼び、第1連動部材12を中継部材と呼ぶことも可能である。
(2).引出し本体
次に、各部位を詳述する。まず、引出し本体を説明する。例えば図4から容易に理解できるように、裏板5の左右側壁板5bは、内側にずれた段落ち部5b′を有しており、この段落ち部5b′の箇所に収納箱3の前部が後ろから嵌まっている。収納箱3は、裏板5に対して離脱不能に保持されている。従って、裏板5は、収納箱3の左右外側に露出した張り出し部5dを有している。
また、図8に明示するように、裏板5の上壁板5aの前端には上向きの起立片5eを設けている一方、前板4の上部は、上壁4aに垂下片4dを設けることで中空状に構成されており、その内部に裏板5の起立片5eをきっちり嵌め込んでいる。裏板5の下壁板5cは前板4の裏面に当接している。例えば図4に示すように、裏板5の上壁板5aには、アッパー引手10の取り付けを許容するための逃がし穴14が開口している。逃がし穴14は中心線を挟んだ左右両側に配置されており、左右横長の角穴になっている。
例えば図4に示すように、裏板5のうち収納箱3の左右外側の部位は段落ち部5b′になっており、段落ち部5b′の外端の側壁板5bに、サイド引手9の取り付けと動きを許容するため、前向き開口の切り開き部15を形成している。切り開き部15は、上下に長い形態になっている。
また、図4に示すように、裏板5のうちその後面と右側の段落ち部5b′とを繋ぐ右側の段差壁に、錠の閂杆(図示せず)が通る第1窓穴16aを形成し、段落ち部5b′には第2窓穴16bを形成している。これら窓穴16a,16bには、錠の閂杆をスライド自在に保持するロックガイド17を装着している(この点は、第2実施形態で詳述する。)。他方、図7(B)に示すように、裏板5の左側部には、段落ち部5dと段差壁5b′とに連通した逃がし穴18が形成されており、この逃がし穴18からラッチ爪11を露出させている。
図4に示すように、ベース8の上端と下端との左右両端寄り部位には、側面視鉤形の係合爪19を突設している一方、裏板5の上下壁板5a,5cには、係合爪19が嵌まり込む係合穴20(図7も参照)を設けている。従って、ベース8を裏板5の内部にある程度の力で押し込むと、それらベース8と裏板5との撓み変形により、係合爪19が係合穴20に嵌まり込む。従って、ベース8は裏板5にワンタッチ的に取り付けられる。
(3).ラッチ装置
次に、従前の図に加えて図9以下の図面も参照してラッチ装置を説明する。本実施形態では、本願発明のラッチ装置は上段の引出しに適用されている。まず、主として図9,12に基づいてラッチ爪11を説明する。図12(A)に明示するように、ラッチ爪11は、ベース8の左側壁8bを横切るような姿勢で左右方向に延びる基部23と、基部23のうち左外端部から後ろ向きに突出した平面視L形の爪部24と、基部23のうち右内端部から後ろ向きに突出したストッパー部25とを有しており、従って、ラッチ爪11は平面視後ろ向き開口のコの字形の形態を呈しており、ベース8の左側壁8bを跨ぐような状態で配置されている。
ラッチ爪11の爪部24の係合面(前面)24aは、左右方向に延びる姿勢になっている。他方、係合面24aの後ろの面は、基部23の側に近づくに従って後ろにずれる傾斜面24bになっている。また、ストッパー部25はくの字形になっている。
図12から理解できるように、ラッチ爪11は、ベース8の左側部に一体に設けたホルダー部26に取り付けられている。ホルダー部26は、ラッチ爪11の上下と内側から囲うように背面視で横向きU字形になっており、ラッチ爪11は、ホルダー部26のうちベース8の外側に突出した部位に、上下長手のピン27で連結されている。ホルダー部26のピン穴は左右長手の長穴28になっており、従って、ラッチ爪11は姿勢を変えずに左右スライドし得ると共に、ピン27を中心にして水平回動し得る。
ラッチ爪11の爪部24には、正面視コの字形の抱持部材29が内側から嵌まっており、抱持部材29とベース8の左側壁8bとの間にばね(圧縮コイルばね)30を配置している。従って、ラッチ爪11はばね30によって左外側に付勢されている(図13も参照)。抱持部材29は、摩擦係数が小さくて耐久性が高い樹脂(例えばPOM樹脂やナイロン樹脂)からなっており、従って、スライダーと呼ぶことも可能である。また、抱持部材29とベース8の左側壁8bとには、ばね30をずれ不能に保持するばね受け突起を設けている。
図13に示すように、ワゴン本体1の側面部の前部は、側板31に補強枠32を固着することで中空状になっており、補強枠32に、引出し2を押し込み切った状態でラッチ爪11の爪部24が係合する係合部の一例として、爪部24の先端部が入り込む係合穴33を設けている。そして、ラッチ爪11は、爪部24の先端が係合穴33に嵌まった係合姿勢において、ストッパー部25がベース8の底面に当接又は近接するように設定している。従って、ラッチ爪11は、図13の状態で時計回り方向(爪部23を係合穴33から離脱させる方向で、係合解除方向)には回動し得るが、反時計回り方向には回動できない。
例えば図9に示すように、ベース8の底面のうちホルダー部26の右側にボス状の支軸36を一体に設け、この支軸36に第2連動部材13が回動自在に取り付けられている。すなわち、第2連動部材13は、支軸36に嵌まる筒部13aと、ラッチ爪11における基部23の後ろに延びる略水平姿勢のストッパー部13bと、ストッパー部13bと反対側に延びる受動部13cとを有しており、支軸36により、前後方向に延びる軸心回りに回動し得るように保持されている。
そして、第2連動部材13のストッパー部13bがラッチ爪11の基部の後ろに位置した姿勢のときには、ラッチ爪11は水平回動不能な係合維持状態に保持されている一方、第2連動部材13がストッパー部13bを下向き動させたフリー姿勢になると、ラッチ爪11も係合解除方向に回動可能なフリー状態になる。
例えば図11から理解できるように、第1連動部材12は板金加工品であって左右方向に長く延びており、図8に明示するように、略垂直姿勢の基部12aと、基部12aから上向きに立ち上がった受動部12bと、基部12aの下端から前向きに突出した駆動部12cとを有する。受動部12bは単なる平板状態である一方、駆動部12cはコの字形の中空構造になっており、駆動部12cの左端部に第2連動部材13の受動部13cが嵌まっている。そして、図11(B)に明示するように、基部12bの左右両端部を細幅することで支軸部12dと成し、左右の支持部12dを、ベース8に突設した第1軸受け37に嵌め入れている。
なお、既述のとおり、第2連動部材13の筒部13aは、ベース8に設けた支軸36に嵌まっているが、第1連動部材12の駆動部12cが第2連動部材13の受動部13cに嵌まっているため、第2連動部材13は前向き抜け不能に保持されている。従って、第2連動部材13は、ビスのような抜け止め手段は不要である。
第1軸受け37は、円形の軸受け穴を有すると共に第1連動部材12の板厚より僅かに大きい幅寸法の前向き開口溝37aを有しており、図11(C)に示すように、駆動部12cをベース8の底面に向けた姿勢で支軸部12dを第1軸受け37に嵌め込み、次いで、基部12aが鉛直姿勢になるように回動させると、支軸部12dは第1軸受け37で回動可能及び抜け不能に保持される。支軸部12dは細幅になっているので、第1連動部材12は、左右の第1軸受け37によって左右動ずれ不能に保持されている。
例えば図9(A)に示すように、アッパー引手10は、指掛け部10aと、指掛け部10aから下向きに突出した左右一対の足部10bとを有しており、左右の足部10bの上下中途高さ部位が、ベース8に設けた左右一対ずつの第2軸受け38,39に回動自在に連結されている。そして、足部10bの下端は、第1連動部材12の受動部12bに手前から当接又は近接している。
アッパー引手10の足部10bの中途高さ部には、断面角形で左右横長の中空部40が形成されており、この中空部40に、フランジ付きの支軸41を嵌め込んでいる。支軸41は中空部40の外側に突出した回転軸40aを有しており、回転軸40aが内外の第2軸受け38,39に嵌まっている。この場合、回転軸40aの先端は半球状の形態を成している一方、内側の第2軸受け38は上向きに開口して開口部がくびれた軸受け穴を有しており、外側の第2軸受け39は切り開かれていない円形の軸受け穴を有している。
アッパー引手10の左右足部に設けた支軸41は、上からの押し込みによって第2軸受け38,39に嵌め込み装着され、これにより、アッパー引手10は左右方向に長い支軸41の軸心回りに前後回動自在になる。この場合、内側の第2軸受け38を上向きに開口させることにより、位置決め(誘い込み)を容易ならしめている。また、図10(B)に明示するように、外側の第2軸受け39の上端を背面視で内側に向いて下がった傾斜面39aにすると共に、支軸41の先端を半球形状とすることにより、支軸41の嵌め込みを確実化している(第2軸受け39がいったん撓み変形して戻ることにより、支軸41が嵌まる。)。支軸41は、摩擦係数が小さくて耐久性に優れた樹脂で製造されている。なお、支軸41の先端はテーパ状であってもよい。
アッパー引手10の取り付けは、引出し2の組み立ての最後の工程で行われる。すなわち、裏板5へのベース8の取り付け、収納箱3と裏板5及び前板4との連結という工程を経たのち、足部10bを逃がし穴14に挿入して第2軸受け38,39に嵌め込むという手順で行われるが、本実施形態のように、内外の第2軸受け38,39のうち一方を上向き開口した形態にして、他方は円形の穴でかつ傾斜面39aを有する形態にすると、下向きに押し込むだけで、支軸41を内外の第2軸受け38,39に簡単に嵌め込むことができる。そして、外側に位置した第2軸受け39の軸受け穴は単純な円形であるため、アッパー引手10は上向きに引っ張っても外れることはない。
図8に明瞭に示すように、アッパー引手10の指掛け部10aは、前板4における上壁4aに設けた垂下片4dの裏側に位置している(すなわち、アッパー引手10は、前板4の上部の裏側に位置している。)。また、図8に示すように、アッパー引手10の指掛け部10aの下端部には、前向きリブ10cを設けており、この前向きリブ10cを裏板5の上壁板5aに当てることにより、アッパー引手10の前向き回動角度を規制することができる。すなわち、前向きリブ10cを、回動規制用のストッパーとして機能させることができる。
また、図4を参照して説明したように、裏板5の上壁板5aにはアッパー引手10の足部10bが嵌まる逃がし穴14が空いており、何等の手段を講じないとこの逃がし穴14が人目に触れて美観を損なうおそれがあるが、アッパー引手10の指掛け部10aに前向きリブ10cを設けると、前向きリブ10cで逃がし穴14を覆うことができるため、美観の悪化を防止することができる。
例えば図9(A)に示すように、サイド引手9は、上下長手の指掛け部9aと、この指掛け部9aから左右内向きに延びる基板9bとを有しており、基板9bの左右中途部がベース8に設けた上下一対の第3軸受け43に回動自在に取り付けられていると共に、図12(A)に示すように、基板9bのうち端部は第1連動部材12の受動部12bに手前から当接又は近接している。従って、サイド引手9の指掛け部9aに指先を掛けて引くと、基板9bの内端部で第1連動部材12の受動部12bが後ろに押され、これによって第1連動部材12が支持部12dの軸心回りに回動(回転)し、すると、既述のとおり、第2連動部材13はストッパー部13bを下向き動させたフリー姿勢に移行する。
図9に示すように、サイド引手9における基板9bの左右中途部には、アッパー引手10と同様に中空部44を介して上下一対の支軸45を取り付けており、支軸45をベース8に設けた上下一対の第3軸受け43に嵌め込んでいる。第3軸受け43は円形の穴が空いた態様であり、例えば図12(C)に明瞭に示すように、第3軸受け43における相対向した面の先端部は傾斜面43aになっている。このため、支軸45の嵌め込みをスムースに行える。
図13に明示するように、サイド引手9の指掛け部9aには、裏板5の側壁板5bに当たる後ろ向き突出部9cを設けている。このため、人は柔らかい感触を得ることができる。また、サイド引手9の基板9bの付け根には、裏板5の内側に位置した前向きリブ9dを設けている。この前向きリブ9dを裏板5の側壁板5bの内面に当たるストッパーとして機能させることにより、サイド引手9を逆転不能に保持することができる。また、前向きリブ9dで裏板5の切り開き部15を覆うことできるため、美観も優れている。また、曲げに対する強度も向上できる。例えば図12(B)や図13に示すように、サイド引手9の基板9bには、ラッチ爪11の回動を許容する逃がし穴9fが空いている。
図8から理解できるように、第1連動部材12のうち重量が大きい駆動部12cは、回動軸心Oから手前にずれるように配置されており、かつ、受動部12bも回動軸心O手前側にずれている。このため、第1連動部材12は、自重により、駆動部12cを下向き回動させるように付勢されており、かつ、自重による回動は、引手9,10によって規制されている。従って、引手9,10による第1連動部材12の回動操作は、当該第1連動部材12の自重に抗して行われ、人が引手9,10から指を離すと、第1連動部材12及び各引手9,10は原姿勢(係合状態保持姿勢)に戻る。従って、引手9,10や連動部材12,13を元の姿勢に戻すためのばねは不要である。
なお、上記構成によれば、非操作状態において、第1連動部材12は常にアッパー引手10と当接している為、引手操作時の初動ロスを無くす事ができる。更に、上記構成によれば、図8に示すとおり、第1連動部材12は常に時計回りに回転しようとする為、引出しを急に閉めた場合でも、第1連動部材12は反時計回りに回転し難く、そのため、第2連動部材13のストッパー部13bが下向き動させたフリー姿勢になり難って、ラッチのロック状態の確実性を高めることができる。
もとより、戻し用のばねを設けることは可能であり、例えば図14に一点鎖線で示すように、第2連動部材13の筒部13aにトーションコイルばね47を嵌め込むといったことが可能である。
(4).動作・まとめ
引出し2をワゴン本体1に押し込んで各引手9,10を引いていない状態では、既述のように、第2連動部材13のストッパー部13bがラッチ爪11の基部23の後ろに位置しているため、ラッチ爪11は回動不能に保持されている。他方、人がいずれかの引手9,10の指掛け部9a,10aに指を掛けて手前に引くと、引手9,10の動きによって第1連動部材12と第2連動部材13とがフリー姿勢に回動し、すると、ラッチ爪11は、その爪部24がワゴン本体1の係合穴33から離脱可能なフリー状態になり、従って、図15に示すように、ラッチ爪11は逃げ回動して引出し2の前進動が許容される。
本実施形態の特徴は、第2連動部材13でラッチ爪11をフリー姿勢に回動させるのではなく、第1連動部材13による規制を解除してラッチ爪11を逃げ回動可能なフリー状態に移行させることであり、従って、ラッチ爪11は、その爪部24の先端をワゴン本体1の内側面に当てた状態で前進動し、ワゴン本体1から外れるのと同時にばね30によって元の姿勢に戻る。
引出し2を押し込むと、図16に示すように、ラッチ爪11における爪部24の傾斜面24bがワゴン本体1の前端面に当たる。すると、ラッチ爪11は長穴28に沿って後退動する。すなわち、平面視の姿勢は変えずに内向きスライドする。そして、引出し2を押し込み切ると、ラッチ爪11は、ばね30によって外向きに前進動して爪部24の先端部が係合穴33に嵌まる。
さて、特許文献1もそうであるが、ラッチ爪は水平回動式になっていることが殆どであり、引き出し時も押し込み時もラッチ爪はばねに抗して水平回動する。しかし、引出しを強く押し込むと、ラッチ爪が振れ動きにより(ばねの踊り現象により)、ラッチ爪が係合解除姿勢に戻って、引出しがワゴン本体に衝突してから戻り動(前進動)してしまうことがある。これに対して本実施形態では、ラッチ11は水平回動によって係合穴33に嵌まるものではなく、水平スライドによって係合穴33に嵌まるものであるため、引出しを強く押し込んでラッチ爪11に前後方向の衝撃がかかっても後退動することはない。従って、引出しを強く押し込んでも衝撃で戻ることはない。
また、引出しに錠を設けることがあり、その場合、施錠した状態で引手を強引に引くことがある。その場合、従来のようにラッチ爪が水平回動のみで係合部に係脱する方式であると、ラッチ爪は、引出しの引っ張りによってラッチ爪が係合部から逃げ回動しようとする傾向を呈し、このため、引出しを強引に引く動作を繰り返すと、ラッチ爪の磨耗が促進されて係合部から離脱しやすくなることがある。
これに対して本実施形態のラッチ爪11は、左右スライドによって係合穴33に係合するものであり、第2連動部材13で支持された状態では、スライドしない限り係合穴33から離脱することはなく、ラッチ爪11が係合穴から離脱する方向と、引出し1の強引な引っ張り動によってラッチ爪11に作用する方向とが相違するため、引出し2を強引に引っ張る動作を繰り返しても、ラッチ爪11が磨耗して係合穴33から外れるといったことを、防止又は著しく抑制できる。
そして、本実施形態では、引手9,10や連動部材12,13、ラッチ爪11をベース8に組み込んでラッチ装置を1つにユニット化しているため、引出し2の組み立てが簡単であると共に高い精度を確保でき、更に、高さが異なる引出し2に1種類のラッチ装置を適用できる。特に、前板4と連動部材12、13等のラッチ装置とが関連しない為、前板4の形状変更・材質変更への対応が容易である。
ベース8を裏板5又は前板4に固定する手段としては、例えば、裏板5又は前板4に溶接したり曲げ形成したりしたブラケット部にビスで締結するといったことも可能であるが、本実施形態のように係合爪19を使用した係合手段を採用すると、取り付けを簡単に行える利点がある。ベース8の底板に抜き穴を設けることも可能であり、これにより、軽量化とコストダウンとを図ることが可能である。ベース8は枠構造に構成することも可能である。
さて、図8に示すように、アッパー引手10の指掛け部10aのうち人の指先が当てる面は、側面視において鉛直線に対してある程度の角度θ1で前傾している。このため、人が指先をアッパー引手10の指掛け部10aに上から当てることにより、傾斜面のガイド作用によってアッパー引手10はフリー姿勢に向けて回動させることができる。すなわち、指掛け部を手前に引く動作をすることなくアッパー引手10をフリー姿勢に移行させることができるのであり、これにより、引出しを引く操作を軽快に行える。
同様に、図13(A)に示すように、サイド引手9の指掛け部9aのうち人の指先が当たる面も、平面視においてある程度の角度θ2だけ前傾しているため、サイド引手9についても、指先を当てることでサイド引手9はフリー姿勢に回動する。このため、引出しの前進動を軽快に行うことができる。
なお、アッパー引手10及びサイド引手9の素材には限定はないが、樹脂の成形品を使用したり、アルミ等の軽金属のダイキャスト又は押し出し加工品を使用することができる。押し出し加工品を使用すると、引出しの大きさに応じて切断したらよいためコストを削減できる利点がある。但し、押し出し加工品は同一断面形状に製造されるので、部分的に切除する加工を加える必要がある。
(4).第2実施形態
次に、図18以下に示す第2実施形態を説明する。この第2実施形態は、基本的には第1実施形態と共通している。そこで、第1実施形態と同じ機能の部材には同じ符号を付して説明はなるべく省略し、主として相違点を説明することとする。
図18ではワゴンの外観を示している。この実施形態では、上段の引出し2にシリンダ錠を設けていることは第1実施形態と同じであるが、第1実施形態と異なって、中段の引出し2′にダイヤル錠50を取り付けている。シリンダ錠の取り付け構造は後述する。
図22や図24に示すように、本実施形態では、第1実施形態と異なって、ベース8は、左部材8′と右部材8″との2つの部材で構成されており、左部材8′にラッチ爪11を取り付けている。左部材8′の右側部51と右部材8″の左側部52とは、互いに重なり合う重合部になっている。すなわち、右部材8″の左側部52に左部材8′の右側部52が覆う状態で嵌まっている。右部材8″における左側部52の上面に、左右一対の位置決めピン53を設けている一方、左部材8′の右側部5に、位置決めピン53が嵌まる位置決め穴54を設けている。
図20から理解できるように、左部材8′の右側部51と右部材8″の左側部52とは底壁51c,52cも重なり合っており、相対姿勢保持手段の一例として、左部材8′の底壁51cに前後長手の突条(図示せず)を下向き突設して、左側部52の底壁52cには突条が嵌まる溝条55を形成している。
ベース8を構成する左部材8′と右部材8″との上面には、内側突起56と外側突起57とを突設している。これら突起56,57は、裏板5の上壁板5aに設けた穴58,59に嵌まっている。これら突起56,57と穴58,59との嵌まりによってベース8は裏板5にきっちり保持されているが、外側突起57は裏板5から大きく突出しており、図29に示すように、ワゴン本体1における上カマチ60の下面に設けたストッパー板61に当接又は密接するように設定している。これにより、上段の引出し2は、ワゴン本体1の内部に押し込んだ状態で上下にガタ付かない状態に保持される。
なお、図29に一点鎖線で示すように、ワゴン本体1には、昇降式の天板1aを取り付けることができる。敢えて述べるまでもないが、昇降式の天板1aを取り付けた状態でも、アッパー引手10の上方には、人が指をアッパー引手10に掛けるための空間が空いている。
図23に示すように、本実施形態においても、アッパー引手10と第1連動部材12とサイド引手9とはベース8に回動可能に取り付けられているが、取り付け構造が相違している。すなわち、アッパー引手10については、足部10bの側面部に設けた切欠き62に支軸41を嵌め込み、この支軸41を第2軸受け38,39に嵌め込んでいる。支軸41は二股状に形成されており、切欠き62に嵌まると共に、足部10bを挟んでいる。ベース8を構成する引出しと右部材8″とは多少は相対動し得るため、アッパー引手10に加工誤差や組み立て誤差があっても、それらの誤差を吸収して、アッパー引手10を軽快に回動する状態に取り付けることができる。
サイド引手9の取り付け構造もアッパー引手10と同様であり、サイド引手9に設けた切欠き63の箇所に支軸45を装着している。アッパー引手10及びサイド引手9は、アルミの押し出し品を切断してから部分的に切除して製造しているが、このような切欠き62,63の箇所に支軸41,45を装着する構成を採用すると、アッパー引手10の足部10aやサイド引手9の基板9bは単なる平板でよいため、押し出し加工及び切除加工が簡単になる利点がある。
本実施形態では、第1連動部材12の軸支構造についても支軸64を採用しており、このため、図24に明示するように、第1連動部材12における基部12bの左右両端部に切欠き66を形成しており、かつ、ベース8には、支軸64が嵌まる第3軸受け67を形成している。第3軸受け67には切り開き方式でない円形の穴が空いており、2つの第3軸受け67の相対向する面には、支軸64を誘い込むための傾斜面が形成されている。
図29に示すように、本実施形態においても、アッパー引手10には前向きリブ10cが略全長にわたって延びるように形成されている。このため、裏板5に形成した逃がし穴14を隠すことができる。他方、図27及び図28に示すように、サイド引手9にも前向きリブ9dを設けているが、第1実施形態とは異なって、サイド引手9の前向きリブ9dはストッパー機能は備えておいない。切り開き部15を覆う機能や強度を向上する機能を有する点は、第1実施形態と同様である。
例えば図30に示すように、サイド引手9の内端は、第2連動部材13の筒部13aよりも左右内側に位置している。そこで、サイド引手9の逃がし穴9fを第2連動部材13の筒部13aが嵌まる大きさに設定していると共に、第2連動部材13の受動部13cを筒部13aの付け根部に繋がった平面視L形に形成することにより、サイド引手9と第2連動部材13との衝突を防止している。なお、左右のサイド引手9は同一種類であり、上下・左右の姿勢を変えて使用している。
例えば図32に示すように、第2連動部材13における筒部13aの基端部には、ストッパー部13b及び受動部13cと直交した方向に突出する一対の突起13dを設けている一方、ベース8の底部には、第2連動部材13の突起13dを囲う一対の抱持片36aを設けており、このため、第2連動部材13は支軸36から抜け不能に保持されている。第2連動部材13は、突起13dが抱持片36aに当たらないように回動させた状態で支軸36に嵌め込み,次いで、所定の姿勢に戻し回動するという手順で取り付けられる。例えば図25に示すように、ラッチ爪11を保持するホルダー部26にも、第2連動部材13の抜けを阻止するための下向き片26aを設けている。
本実施形態は、ラッチ爪11の取り付け構造も第1実施形態と若干相違している。すなわち、まず、図31及び図32に示すように、ラッチ爪11を抱持部材29に保持している点は第1実施形態と共通しつつ、ラッチ爪11の基端部に上向きのガイドピン70を突設している一方、ベース8に設けたホルダー部26の上面板に、ガイドピン70が嵌まるガイド溝71を形成して、ラッチ爪11の動きを的確にガイドしている。
図30(A)や図31(B)に示すように、ガイド溝71は、ホルダー部26に設けた長穴29と平行なスライドガイド部71aと、ラッチ爪11が前進し切った係合姿勢から水平回動することをガイドする円弧状の回動ガイド部71bとから成っており、両者は互いに連通している。ガイド溝71によるガイドピン70のガイド作用により、引出し2の前進に際してラッチ爪11が回動のみして、押し込みに際してはスライドして蹴り込むことがスムースに行われる。本実施形態では、ラッチ爪11の姿勢はガイドピン70で規制されるため、第1実施形態のストッパー部25は備えていない。
例えば図28に示すように、ラッチ爪11を構成する基部23の端部に設けた鉤部23aと、第2連動部材13のストッパー部13bの先端に設けた鉤部13eとが、互いに噛み合うように設定している。従って、ラッチ爪11は、係合維持姿勢での前進位置が規制されている。
次に、シリンダ錠の取り付け構造を説明する。例えば図27に示すように、シリンダ錠21は従来から知られているものであり、鍵穴が開いた内筒21aと、これが回転自在に嵌まった本体(外筒)21bと、内筒21aの回転で左右動する閂杆73とを有している。内筒21aの先端は本体21b の前端から突出しており、この突出部が前板4に開けた丸穴69に嵌まっている。閂杆73は外筒21bの後部に左右スライド自在に装着されている。シリンダ錠21の本体21bの後端には、上下一対のスリット74が形成されている一方、ベース8の底部には、スリット74が嵌合する上下一対ずつの補助突条75と主突条76とが形成されている。
シリンダ錠21の本体21bは、スリット74が主突条76に嵌まることで、上下動不能及び前向き抜け不能に保持され、かつ、ベース8の側壁8bに内向き突設したリブ77に当たることで外向き移動不能に保持されている。また、ベース8の底部に設けたストッパー爪78が本体21bの内側面に当たることで、内側への移動が阻止されている。ベース8の側壁8bには、閂杆73を突出させるための逃がし穴79が空いている。
また、第1実施形態において述べたように、裏板5には第1窓穴16aと第2窓穴16bとが形成されており、両窓穴16a,16bを利用して取り付けたロックガイド17に、閂杆73がスライド自在に嵌まっている。ワゴン本体1の内側面を構成する補強枠32には、閂杆73が嵌脱するロック穴80を空けている。なお、図27(B)に示すように、正面視で裏板5はワゴン本体1の前面と部分的に重なっているため、ドライバのような物を差し込んで閂杆73にアクセスするということはできない。
ロックガイド17は樹脂製で中空のケース状に構成されており、第1窓穴16aに嵌まる横向き足部81と、第2窓穴16aの内縁部に引っ掛かり係合する鉤片82と、第2窓穴16aの外縁部に当接する爪体83とを有する。シリンダ錠21をセットした状態で、横向き足部81を第1窓穴16aに嵌め込みつつ、鉤片82を第2窓穴16bに外側から嵌め込んで押し込むと、爪体83が第2窓穴16bの内側面に当接して抜け不能に保持される。
さて、シリンダ錠21の取り付けは、まず、図33(A)に示すように、サイド引手9の逃がし穴9fの左端に寄せた状態でベース8の内部に押し込み、次いで、図33(B)に示すように、スリット74を主突条76に嵌めた状態でシリンダ錠21を右側にスライドさせる、という手順で行われる。シリンダ錠21を逃がし穴9fの左に寄せた状態で押し込むと、スリット74が補助突条75に嵌まるため、右側にスライドさせると、スリット74は主突条76に移行して抜け不能に保持される。
また、シリンダ錠21を左に寄せてベース8に押し付けた状態では、シリンダ錠21の本体21bはストッパー爪78には当たっておらず、シリンダ錠21が突状75,76にガイドされて右側にスライドすることにより、ストッパー爪78は本体21bで押されていったん逃げ変形し、それから戻り変形することで本体21bの内側面に当接する。ストッパー爪78の逃げ変形をガイドするため、当該ストッパー爪78に傾斜ガイド面78aを形成している。なお、シリンダ錠21は、内筒21aに前板4が嵌まることにより、最終的に上下左右にずれ不能に保持される。
さて、引出しにシリンダ錠を取り付けることは従来から行われているが、従来は、前板の内面にブラケットを介して取り付けることが多かった。しかし、この取り付け構造では、ブラケットは前板に溶接せねばならないため、前板の加工に手間がかかるのみならず、組み立ても面倒であるという問題があった。
これに対して、本実施形態のようにシリンダ錠21をベース8に取り付けると、前板4には特段の加工を施す必要はなく、しかも、シリンダ錠21もラッチ爪11と一緒にユニットに組み込まれるため、部材の管理の手間を抑制できると共に、引出しの組み立て作業の能率向上にも貢献できる。また、本実施形態のようにシリンダ錠21をスライドさせることで所定位置に保持する構成を採用すると、シリンダ錠21を前向き移動不能に保持しつつ、簡単に装着できる利点がある。
更に、閂杆73が本体21bから突出する長さが長くなると、引出し2を引いたときに閂杆73に大きな曲げモーメントが作用するが、本実施形態のようにロックガイド17を採用すると、閂杆73に作用するモーメントを著しく抑制できるため、高いロック機能を確保できる。特に、本実施形態のようにロックガイド17を後付け方式にすると、シリンダ錠21を取り付けて引出し2を組み立ててからロックガイド17を取り付けできるため、引出し2の組み立てに際してロックガイド17が邪魔にならず作業性がよい利点がある。
(5).その他
本実施形態は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、ワゴンには限らず、キャビネットや机など各種の家具の引出しに適用できる。引手や連動部材、ラッチ爪の形状は様々に具体化できる。例えば、前板に引手穴に空けて、この引手穴の部位に引手を配置したものに適用できる。
引手は回動式とすることに限らず、前後スライド式に構成することも可能である。また、実施形態のように引手を前板の外周部に近接して設ける場合、前板の外側の真横や真上に配置することも可能である。更に、引手は、前板の上端部近傍のみに設けたり、前板の下端近傍に設けたり、下端部と左右両側部近傍とに設けたりすることも可能である。