添付の図面を参照しつつ本発明について以下詳細に説明する。なお以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
図1に本発明の第1の実施形態に係る前照灯制御システム11が搭載された車両10の全体構成を模式的に示す。前照灯制御システム11は、前照灯装置12、統合制御部14、車輪速センサ16、操舵角センサ17、カメラ18、およびナビゲーションシステム19を備えている。
統合制御部14は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM等を備え、車両10における様々な制御を実行する。統合制御部14は、本発明における制御手段の少なくとも一部として機能する。
車輪速センサ16は、車両10に組み付けられる左右の前輪および後輪の4つの車輪の各々に対応して設けられている。車輪速センサ16の各々は統合制御部14と通信可能に接続されており、車輪の回転速度に応じた信号を統合制御部14に出力する。統合制御部14は、車輪速センサ16から入力された信号を利用して車両10の速度を算出する。
操舵角センサ17は、ステアリングホイールに設けられて統合制御部14と通信可能に接続されている。操舵角センサ17は、運転手によるステアリングホイールの操舵回転角に対応した操舵角パルス信号を統合制御部14に出力する。統合制御部14は、操舵角センサ17から入力された信号を利用して車両10の進行方向を算出する。
カメラ18は、例えばCCD(Charged Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ等の撮像素子を備え、車両前方を撮影して画像データを生成する。カメラ18は統合制御部14と通信可能に接続されており、生成された画像データは統合制御部14に出力される。
ナビゲーションシステム19は統合制御部14と通信可能に接続されており、車両10が走行している場所を示す情報等を統合制御部14に出力する。
前照灯装置12は、前照灯制御部20、右前照灯ユニット22R、および左前照灯ユニット22Lを備えている。以下、右前照灯ユニット22Rと左前照灯ユニット22Lを、必要に応じて前照灯ユニット22と総称する。前照灯制御部20は、CPU、ROM、およびRAM等を有し、前照灯ユニット22による光の照射を制御する。前照灯制御部20は、本発明における制御手段の少なくとも一部として機能する。
上記の右前照灯ユニット22Rを水平面で切断して上方から見た断面を図2に示す。右前照灯ユニット22Rは、透光カバー30、ランプボディ32、エクステンション34、第1灯具ユニット36、および第2灯具ユニット38を備えている。
透光カバー30は透光性を有する樹脂等によって形成されている。透光カバー30は、ランプボディ32に装着されて灯室を区画形成している。第1灯具ユニット36および第2灯具ユニット38は灯室内に配置されている。
エクステンション34は、第1灯具ユニット36および第2灯具ユニット38からの照射光を通過させるための開口部を有し、ランプボディ32に固定されている。第1灯具ユニット36は第2灯具ユニット38よりも車両外側に配置されている。
第1灯具ユニット36は、いわゆるパラボラ型の灯具ユニットであり、後述するロービーム用配光パターンを形成する。第1灯具ユニット36は、光源42としてハロゲンランプ等のフィラメントを有する白熱灯や、メタルハライドランプ等のHID(High Intensity Discharge)ランプを用いている。第1灯具ユニット36の構成は公知であるため、詳細な説明は省略する。
第2灯具ユニット38は、ホルダ46、投影レンズ48、発光素子ユニット49、基板50、およびヒートシンク54を備えている。
投影レンズ48は、筒状に形成されたホルダ46の一方の開口部に装着されている。投影レンズ48は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであり、その後側焦点面上に形成される光源像を反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
発光素子ユニット49は基板50の前方側表面に設けられており、ヒートシンク54は基板50の後方側表面に設けられている。ヒートシンク54は、アルミニウム等の金属により多数の放熱フィンを有する形状に形成されている。
図3に発光素子ユニット49を車両前方から見た構成を示す。発光素子ユニット49は、基板50上に実装された発光素子アレイ52を備えている。発光素子アレイ52は、車両右側から左側に向かって配列された第1発光素子52−1〜第13発光素子52−13を備えている。
各発光素子は、同一の高さと同一の幅を有する直方体状に形成されている。図示は省略しているが、各発光素子は光源および薄膜を有している。光源は1mm角程度の発光面を有する白色LED(発光ダイオード)であり、薄膜はこの発光面を覆うように設けられている。
図3においては各発光素子に番号を記し、第1発光素子52−1と第13発光素子52−13以外の発光素子については参照番号の表示を省略している。例えば番号7が記された発光素子は、第7発光素子52−7を意味している。
各発光素子は制御線53を介して前照灯制御部20との間に電流回路を形成している。図3においては、第1発光素子52−1と第13発光素子52−13以外の発光素子については制御線53の図示を省略している。前照灯制御部20は、制御線53を通じて供給される電流の量を調整することにより、各発光素子の点消灯および点灯時における光度を制御することができる。
図2に示すように、基板50がホルダ46の他方の開口部に装着されることにより、発光素子ユニット49がホルダ46の内部に配置される。発光素子ユニット49が備える複数の発光素子が各々発光することにより、それぞれの像が灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影される。複数の発光素子は、本発明における複数の光源として機能する。
左前照灯ユニット22Lは右前照灯ユニット22Rと左右対称に構成されており、詳細な説明は省略する。なお右前照灯ユニット22Rにおいても、第1発光素子52−1〜第13発光素子52−13は車両右側から車両左側に向かって配列されている。すなわち第2灯具ユニット38の内部構成に関しては、左前照灯ユニット22Lと右前照灯ユニット22Rは左右対称でない。
図4の(a)は、右前照灯ユニット22Rおよび左前照灯ユニット22Lから前方に照射される光により、例えば車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示している。
ロービーム用配光パターンPLは、右前照灯ユニット22Rおよび左前照灯ユニット22Lの第1灯具ユニット36からの照射光の合成によって形成される。ロービーム用配光パターンPLは左配光のロービーム用配光パターンであり、その上端縁に第1カットオフラインCL1〜第3カットオフラインCL3を有している。第1カットオフラインCL1〜第3カットオフラインCL3は、灯具正面方向の消点を通る鉛直線であるV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延在している。
第1カットオフラインCL1は対向車線カットオフラインとして利用される。第3カットオフラインCL3は、第1カットオフラインCL1の左端部から左上方に向かって斜めに延在している。第2カットオフラインラインCL2は、第3カットオフラインCL3とH−H線との交点から左側においてH−H線上に延在している。すなわち第2カットオフラインCL2は自車線側カットオフラインとして利用される。
ロービーム用配光パターンPLにおいて、第1カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eをやや左寄りに囲むようにして高光度領域であるホットゾーンHZが形成されている。
付加配光パターンPAは本発明における照射レンジに対応し、右前照灯ユニット22Rおよび左前照灯ユニット22Lの第2灯具ユニット38が備える全ての発光素子からの照射光によって形成される配光パターンとして定義される。
付加配光パターンPAは水平線(H−H線)を含み、下端が第1カットオフラインCL1上に位置するよう水平方向に延在する帯状に形成される。よって第2灯具ユニット38は、ハイビーム用の光源として機能するものであってもよい。
図4の(b)に付加配光パターンPAと発光素子アレイ52の関係を示す。この例では、付加配光パターンPAは各々略同一の形状と面積を有する13個の部分領域に分割されており、部分領域P1〜P13を含んでいる。
部分領域P1は、右前照灯ユニット22Rの第1発光素子52−1と左前照灯ユニット22Lの第1発光素子52−1を光源像とした投影像の合成として形成される。換言すると、これらの発光素子からの照射光の合成によって形成される。他の部分領域についても同様に、左右の前照灯ユニット22の対応する発光素子からの照射光の合成によって形成される。
例えば部分領域P9は、左右の第9発光素子52−9からの照射光の合成によって形成される。各発光素子からの照射光は投影レンズ48を通過するため、部分領域の配列と図3に示した発光素子の配列とは左右が逆転している。
次に、上記の構成を有する前照灯制御システム11による調光制御について図5および図6を参照しつつ説明する。
一般に運転者の前方視野は車両の走行速度に応じて変化し、走行速度が高いほど視野は狭く、走行速度が低いほど広くなる傾向にある。したがって変化する運転者の視野に合わせて当該視野全体を適切に照射することが求められる。
そこで本実施形態の前照灯制御システム11は、付加配光パターンPA内に形成される照射領域の面積を車両10の走行速度に応じて変化させる制御動作を可能としている。具体的には車両10の走行速度が高いほど照射領域の面積を小さくするように制御を行なう。
具体的には、車輪速センサ16から入力された信号に基づいて、統合制御部14が前照灯制御部20を通じて左右の前照灯ユニット22の各発光素子に流れる電流の量を増減させることによって、照射光の光度を変化させる。これにより各部分領域の照度が調整され、付加配光パターンPA内における照射領域の面積が変化する。
図5の(a)は、車両10が高速走行している場合における付加配光パターンPA内の部分領域P1〜P13の照度分布の一例を示す図である。棒グラフが長いほど照度が高いことを意味している。また各部分領域の照度と、当該部分領域に光を照射する発光素子に供給される電流の量とは対応関係にあるため、同図は各部分領域に対応する発光素子に供給される電流の値も表しており、棒グラフが長いほど供給される電流の値が大きくなる。
すなわち上記の照射状態においては、エルボ点Eの近傍が最も明るく照射され、当該エルボ点Eから水平方向左右に離れるにしたがって照度が低くなるように照射領域が形成されている。なおこの場合において照射領域は部分領域P4〜P10の範囲のみとされている。これは高速走行時における運転者の視野が当該範囲に収まっているとの前提に基づいている。
図5の(b)は、車両10が低速走行している場合における付加配光パターンPA内の部分領域P1〜P13の照度分布の一例を示す図である。走行速度の低下に伴って運転者の前方視野は広がるため、当該視野全体を照射するために部分領域P1〜P13の全てが照射領域とされている。この場合においてもエルボ点Eの近傍が最も明るく照射され、当該エルボ点Eから水平方向左右に離れるにしたがって照度が低くなるように照射領域が形成されている。
本実施形態においては、照射領域に対応する発光素子に供給される電流の総量を、照射面積の変化の前後で維持するように制御を行なっている。例えば図5の(a)に示す照射状態から図5の(b)に示す照射状態に移行する場合、部分領域P1〜P3およびP11〜P13が照射領域とされて照射面積を増大させる一方、部分領域P4〜P10については照度を低下させている。よって図5の(a)と(b)における棒グラフ部分の面積は一致している。
すなわち低速走行時においては、広がる運転者の視野をくまなく照射可能であるとともに、高速走行時においては、狭まる運転者の視野を高い光度で照射可能である。また高い光度で照射を行なうにあたり、各発光素子に流れる電流の総量は変化しないため、発光素子ユニット49を駆動する電力負荷が増大することを回避できる。
したがって車両10の走行速度に応じて変化する運転者の視野全体を適切かつ効率的に照射することができる。また照射面積の変更は各発光素子に供給される電流の量を制御することのみによって行なわれるため、照射光を狭窄あるいは拡散させる光学機構を灯具ユニットに付加的に設ける必要もない。
図5の(a)および(b)に示す二つの配光パターンを予め統合制御部14あるいは前照灯制御部20に記憶しておき、車輪速センサ16により検出される走行速度が所定の閾値に達した場合に両状態を切り替える構成とすることができる。加速時において図5の(b)から(a)の状態に遷移する速度閾値と、減速時において図5の(a)から(b)の状態に遷移する速度閾値は同じであっても異なっていてもよい。
また具体的な閾値を設定することなく、図5の(a)と(b)に示す配光パターンの間で照射面積が走行速度に応じて連続的に変化するように構成してもよい。この場合、車両10の走行速度と、各部分領域に対応する発光素子に供給される電流量の関係を示す関数あるいはテーブルを予め統合制御部14または前照灯制御部20に記憶させておき、車輪速センサ16が検出する車両10の走行速度に応じて各発光素子に供給される電流量を決定すればよい。
また車輪速センサ16に加えてあるいは代えて、ナビゲーションシステム19から入力される情報に基づいて統合制御部14が照射面積を変化させる構成としてもよい。例えば車両10が高速道路を走行中なのか、市街地を走行中なのかをナビゲーションシステム19から入力される車両位置情報に基づいて統合制御部14が判断する。この場合、高速道路を走行中と判断されれば図5の(a)に示す照射面積の狭い配光パターンが選択され、市街地を走行中と判断されれば図5の(b)に示す照射面積の広い配光パターンが選択される構成とすればよい。
また本実施形態の前照灯制御システム11は、車両10の操舵角変化に追従して前照灯による照射領域を付加配光パターンPA内で水平左右方向に移動させ、操舵先を照射する電子スイブル制御動作を可能としている。
統合制御部14は、車輪速センサ16および操舵角センサ17から入力された信号に基づき、前照灯制御部20を通じて左右の前照灯ユニット22の各発光素子に流れる電流の量を増減させることによって、照射光の光度を変化させる。これにより各部分領域の照度が調整され、付加配光パターンPA内における照度の分布が変化する。この調整を適宜に行なうことによって、照射状態とされている部分領域の集合である照射領域が付加配光パターンPA内を水平方向左右に移動し、各前照灯ユニット22の灯具光軸を機械的に旋回させるスイブル機構と同等の効果を得ることができる。
電子スイブルとしては、照射領域内の照度分布を維持したまま付加配光パターンPA内における照射領域の位置を左右に移動させる方法(第1のモード)と、付加配光パターンPA内における照射領域の位置を固定したまま、照射領域内の照度分布を変化させる方法(第2のモード)とがある。
本実施形態においては、車輪速センサ16の検出する車両10の走行速度に応じて、統合制御部14が上記第1のモードと第2のモードのいずれかを切り替え選択可能とされている。具体的には、車両10の走行速度が高いときには第1のモードが選択され、車両10の走行速度が低いときには第2のモードが選択される。
図6の(a)は、車両10が高速走行しているときに電子スイブルが行なわれた場合における付加配光パターンPA内の部分領域P1〜P13の照度分布の一例を示す図である。図5の(a)に示す初期照射状態から車両10が旋回等した場合に、操舵先の所定箇所が最も高い照度となるように、付加配光パターンPA内で照射領域を右方向に移動する電子スイブル制御が行なわれている。
この例においては、照射領域内において最も照度が高い部分領域がP7からP9にスイブル移動されている。また照射領域内の照度分布すなわち棒グラフの形状が維持されたまま、照射領域全体が右方向に水平移動されている。スイブル移動後の照射領域は、部分領域P6〜P12の範囲となる。
照度分布が維持されているため、スイブル移動の前後における照射領域に対応する発光素子の各々に供給される電流量の変化を考慮する必要はない。操舵角センサ17によって検出される車両10の操舵角に応じたスイブル移動量のみを考慮すればよいため、制御負荷の増大を回避できる。したがって高速走行時における車両の旋回等に十分な追従性をもって配光方向を変更することが可能となる。
すなわち、図5の(a)の照度分布に対応する各発光素子への電流供給量のパターンとともに、操舵角センサ17によって検出される車両10の操舵角とスイブル移動の量の関係を関数またはテーブルとして予め統合制御部14または前照灯制御部20に記憶しておけばよい。
図6の(b)は、車両10が低速走行しているときに電子スイブルが行なわれた場合における付加配光パターンPA内の部分領域P1〜P13の照度分布の一例を示す図である。図5の(b)に示す初期照射状態から車両10が旋回等した場合に、操舵先の所定箇所が最も高い照度となるように、付加配光パターンPA内で照射領域内の最高照度部が右方向に移動する電子スイブル制御が行なわれている。
より詳細には、部分領域P7と部分領域P9の照度が入れ替えられるとともに、部分領域P6と部分領域P10の照度が入れ替えられることにより、照射領域内の照度分布が変化している。これら以外の部分領域についてはスイブル制御実行前の照度が維持されており、結果として各発光素子に供給される電流の総量は照度分布変化の前後で変化しない。
すなわちこの例においては、照射領域内において所定の照度を有する領域として、最も高い照度を有する部分領域がP7(第1の位置)からP9(第2の位置)に移動され、二番目に高い照度を有する部分領域がP6(第1の位置)からP10(第2の位置)に移動されており、これら第1の位置および第2の位置以外の部分領域については照度が維持されている。
このように比較的照度の高い部分領域のみを選択的に移動する制御を行なうことにより、電流量の変化を伴う発光素子の数を最小限に抑制しつつ、より大きな分布の変化を得ることができる。したがって運転手にとって好ましい配光方向の変更を最小限の制御負荷で実現することができる。
より少ない制御量で効果的な照度分布の変化を得るという観点からは、移動に供される所定の照度を有する部分領域は、最も照度が高い部分領域のみとすることができる。また条件に該当する部分領域が複数存在する場合は、全てを移動させてもよいし、移動量のより大きな部分領域のみを移動させるようにしてもよい。
よって本実施形態の構成によれば、車両10の走行速度に応じて変化する運転者の視野全体を適切かつ効率的に照射しつつ、効率的な電子スイブル制御を実行することができる。また照射領域のスイブル移動は各発光素子に供給される電流の量を制御するのみによって行なわれるため、灯具ユニットを機械的に旋回させるスイブル機構を追加的に設ける必要もない。
上記した電子スイブル制御における二つのモードの切り替えは、車輪速センサ16により検出される走行速度が所定の閾値に達した場合に行なわれる構成とすることができる。この閾値は図5を用いて説明した配光パターン(照射面積)の切り替えの際に参照される閾値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。またこの閾値は、照射面積が図5の(a)と(b)に示した状態の間で連続的に変化する場合にも適用可能である。
すなわち図5の(a)に示した照射領域の付加配光パターンPA内における位置を固定したまま、図6の(b)に示したように照射領域内の照度分布を変化させることができる。また図5の(a)に示したものよりもやや広い照射領域の照度分布を維持しつつ、図6の(a)に示したように付加配光パターンPA内における照射領域の位置を移動させることもできる。
また車輪速センサ16に加えてあるいは代えて、ナビゲーションシステム19から入力される情報に基づいて統合制御部14が二つのモードを切り替え選択する構成としてもよい。例えば車両10が高速道路を走行中なのか、市街地を走行中なのかをナビゲーションシステム19から入力される車両位置情報に基づいて統合制御部14が判断する。この場合、高速道路を走行中と判断されれば図6の(a)に示す第1のモードが選択され、市街地を走行中と判断されれば図6の(b)に示す第2のモードが選択される構成とすればよい。
次に図7を参照しつつ、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、統合制御部14および前照灯制御部20が行なう調光制御が第1の実施形態と異なる。それ以外の前照灯制御システム11の構成は第1の実施形態と同一であるため、詳細な説明は省略する。
本実施形態の調光制御は、グレア抑制に関する。すなわち付加配光パターンPA内のある部分領域に車両(前走車または対向車)が位置するとき、当該部分領域に対応する光源を消灯することにより当該部分領域を非照射状態とし、当該車両の運転手のグレアを抑制するものである。
例えば図7の(a)に示すように、統合制御部14がカメラ18から入力された画像データを解析し、付加配光パターンPA内における部分領域P2およびP3に車両の存在を判定した場合、非照射状態とすべき当該部分領域に対応する発光素子52−2および52−3が消灯される。
車両有無の判定は、カメラ18による撮影画像中に含まれるヘッドライト等の光点を検出することにより行なっている。しかしながらこのような光点の検出には誤りが生ずる場合がある。
例えば図7の(b)においては、部分領域P3に含まれている車両のヘッドライトが然るべく検出されていないために、本来非照射状態とすべき当該領域が照射状態のままとされている。また図7の(c)においては、部分領域P1に車両とは関係のない光点が検出されているために、本来照射状態とすべき当該領域が非照射状態とされている。
図7の(c)のような点消灯制御の誤りは、図7の(d)によって説明できる。部分領域P1に一時的に(時刻t1からt2の間)光点が検出された場合に、統合制御部14は当該領域に対応する発光素子52−1を消灯すべきと判定する。この判定結果をそのまま前照灯制御部20が受け入れると、時刻t1からt2の間のみ部分領域P1が非照射状態とされることになり、運転者には付加配光パターンPA内の照射ちらつきとして認識される。
そこで本実施形態においては、統合制御部14がある部分領域に対応する発光素子について点灯または消灯が必要との判定を下してから一定時間が経過した場合のみ、前照灯制御部20が判定結果に基づく発光素子の点消灯制御を実行するように構成されている。この一定時間のことをディレイ時間と称する。
例えば図7の(d)において、統合制御部14が時刻t3に発光素子の消灯が必要と判断したとする。ここでディレイ時間(時刻t3とt4の間)が経過するまでの間、当該判定結果に変化がなかった場合のみ、前照灯制御部20が当該発光素子の消灯制御を行なう。時刻t1からt2の間に生じた判定結果の変化のように、ディレイ時間に満たない期間に生じる判定結果の変化は無視される。これによって画像データに混入するノイズを排除して安定した点消灯制御が可能となる。
なおディレイ時間は、統合制御部14が備える内部タイマが計時する時間、またはカメラ18より受信する画像データのフレーム数により定めることができる。
しかしながら、高速走行時には自車両と前方車両の相対位置が短時間で大きく変化するため、点消灯制御の迅速な追従をディレイ時間の存在が妨げることがある。そこで本実施形態においては、車両が高速走行している場合や車両が大きく旋回している場合に、統合制御部14がディレイ時間を短縮またはキャンセルするように構成されている。
具体的には、車輪速センサ16により検出される車両10の走行速度が所定の閾値を上回る場合と、操舵角センサ17により検出される車両10の旋回角速度が所定の閾値を上回る場合の少なくとも一方が成立する場合に、統合制御部14がディレイ時間を短縮またはキャンセルする。
なお車両の走行速度や旋回角速度に特定の閾値を設けず、これらのパラメータとディレイ時間との対応関係を示す関数またはテーブルを予め統合制御部14に記憶させておき、車両の走行状態に応じてディレイ時間を初期値とゼロの間で連続的に変化させるようにしてもよい。
上記の構成によれば、通常走行時においては判定ノイズの混入を極力排除して安定したグレア抑制のための点消灯制御を行なうことが可能であり、また自車両と他車両の相対位置が短時間に大きく変化する場合においては、発光素子の点消灯制御をその変化に対して良好に追従させることができる。
なおカメラ18から入力される画像データに加えてあるいは代えて、図示しないレーザセンサ等の前方センサにより取得される障害物データ等を利用して前方車両の存在を判定してもよい。
また車輪速センサ16および操舵角センサ17に加えてあるいは代えて、ナビゲーションシステム19から入力される情報に基づいて統合制御部14がディレイ時間の変更を行なう構成としてもよい。例えばナビゲーションシステム19から入力される車両位置情報に基づいて、車両10が湾曲路の多い地域を走行中であると統合制御部14が判断した場合、ディレイ時間の短縮またはキャンセルが実行される構成としてもよい。
次に図7および図8を参照しつつ、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、統合制御部14および前照灯制御部20が行なう調光制御が第1の実施形態と異なる。それ以外の前照灯制御システム11の構成は第1の実施形態と同一であるため、詳細な説明は省略する。本実施形態の調光制御は、第2の実施形態と同様にグレア抑制に関するものである。
例えば図7の(a)に示したように、検出された車両が含まれる部分領域に対応する発光素子を消灯させる制御を行なう場合、車両の位置によっては必要以上の範囲が非照射状態とされ、前方視認性が低下する場合がありうる。
具体的には、図7の(a)における右側の車両のみが検出された場合、当該車両が跨っている部分領域P2とP3が非照射状態とされるため、比較的広い範囲の視認性が低下する。また比較的遠方に位置する車両(同図における左側の車両)が部分領域P2の右端近くで検出されて部分領域P2が非照射状態とされると、部分領域P2の左端までの比較的広い範囲の視認性が低下する。
そこで本実施形態に係る調光制御においては、車両が検出された部分領域、およびこれに隣接する部分領域に対応する発光素子に供給される電流量を制御することにより、非照射領域の幅が最小限になるようにしている。
図8の(a)は、本実施形態における発光素子アレイ52を構成する各発光素子に供給される電流の量と当該電流により照射される光によって照射可能な領域の幅の関係を示す図である。
この図において縦の破線は部分領域の境界を表しており、4つの部分領域Pn−1、Pn、Pn+1、Pn+2が並んでいる様子が示されている。横の破線は電流の値を示している。電流値I2はI1よりも大きく、電流値I3はI2よりも大きい。部分領域Pnに対応する発光素子は便宜上52nと表示することにする。同様にして部分領域Pn−1、Pn+1、Pn+2に対応する発光素子は、各々52n−1、52n+1、52n+2と表示する。
部分領域Pnに対応付けられた発光素子を例にとって説明すると、当該発光素子に電流I2が供給された場合に、部分領域Pn全体が照射されることを示している。電流I1が供給された場合は、部分領域Pnの一部のみが照射される。電流I3が発光素子に供給された場合は、部分領域Pn全体に加えて隣接する部分領域Pn−1およびPn+1の一部も照射される。図中の他の発光素子についても同様である。
図8の(b)は、付加配光パターンPA内を検出された車両が移動していく場合の、各部分領域の点消灯制御の経時的変化を説明するための図である。時刻T1からT5にわたって、部分領域Pnにおいて検出された車両が部分領域Pn+1へ移動していく様子を示している。
時刻T1においては、部分領域Pnの中央において車両が検出されているため、当該部分領域に対応する発光素子52nが消灯される。このとき当該部分領域に隣接する部分領域Pn−1およびPn+1に対応する発光素子52n−1および52n+1には電流I3が供給されて各部分領域よりも広範囲が照射される。これにより部分領域Pnの両側端部は照射状態とされ、検出された車両が含まれる非照射状態の領域の幅を最小限とすることができる。
車両が検出された部分領域に隣接しない部分領域Pn+2に対応する発光素子52n+2には電流I2が供給され、通常通りに部分領域全体が照射される。部分領域Pn+2の左端部は発光素子52n+1による照射光が重複している。
時刻T2においては、部分領域Pnの右端部付近において車両が検出されている。よって当該部分領域に対応する発光素子52nが消灯される。ここで右側に隣接する部分領域Pn+1に対応する発光素子52n+1に電流I3を供給すると照射領域が車両を含んでしまうため、電流I2を供給して部分領域Pn+1全体を照射する。
一方、左側に隣接する部分領域Pn−1に対応する発光素子52n−1には電流I3を供給し、照射領域が部分領域Pnの左端部を含むようにする。これにより車両の左側に存在する非照射領域の幅を最小限にしている。
時刻T3においては、部分領域PnとPn+1に跨る位置に車両が検出されている。ここで双方の部分領域に対応する発光素子を消灯してしまうと、非照射領域の幅が広くなり過ぎて車両周辺の視認性が大幅に低下する。そこで当該部分領域に対応する発光素子52nと52n+1に電流I1を供給し、各部分領域の一部のみを照射状態とする。
これにより部分領域PnとPn+1の両側端部は非照射状態とされる。さらにこれらの部分領域に隣接する部分領域Pn−1とPn+2に対応する発光素子52n−1と52n+2には電流I3が供給され、部分領域Pnの左端部と部分領域Pn+1の右端部に非照射領域が発生することを防止する。
したがって部分領域Pnの右端部と部分領域Pn+1の左端部のみが非照射領域とされ、車両が含まれる非照射領域の幅を最小限とすることができる。本実施形態の調光制御の効果はこの場合において最も顕著となる。
時刻T4においては、部分領域Pn+1の左端部付近において車両が検出されている。よって当該部分領域に対応する発光素子52n+1が消灯される。ここで左側に隣接する部分領域Pnに対応する発光素子52nに電流I3を供給すると照射領域が車両を含んでしまうため、電流I2を供給して部分領域Pn全体を照射する。
一方、右側に隣接する部分領域Pn+2に対応する発光素子52n+2には電流I3を供給し、照射領域が部分領域Pn+1の右端部を含むようにする。これにより車両の右側に存在する非照射領域の幅を最小限にしている。
時刻T5においては、部分領域Pn+1の中央において車両が検出されているため、当該部分領域に対応する発光素子52n+1が消灯される。このとき当該部分領域に隣接する部分領域PnおよびPn+2に対応する発光素子52nおよび52n+2には電流I3が供給されて各部分領域よりも広範囲が照射される。これにより部分領域Pn+1の両側端部は照射状態とされ、検出された車両が含まれる非照射状態の領域の幅を最小限とすることができる。
車両が検出された部分領域に隣接しない部分領域Pn−1に対応する発光素子52n−1には電流I2が供給され、通常通りに部分領域全体が照射される。部分領域Pn−1の右端部は発光素子52nによる照射光が重複している。
以上説明したように、本実施形態の調光制御によれば、検出された車両が含まれる非照射領域の幅を最小限とすることにより、当該車両の運転者のグレアを抑制しつつ、当該車両周辺の視認性低下を極力抑えることができる。
本実施形態においては、検出された車両の部分領域内における位置に応じて三つの電流値I1、I2、I3のいずれかが選択される構成とされているが、電流値は離散的な値をとる必要はない。部分領域内における検出車両の位置と、当該位置を非照射領域とできる電流量の関係を関数またはテーブルとして予め統合制御部14または前照灯制御部20に記憶させておけば、電流量はI1とI3の間で連続的な値をとることができる。
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは明らかである。
付加配光パターンPAに含まれる部分領域の数は、上記の構成に限られるものではない。水平方向(図4のH−H線方向)に二つ以上の任意の数を選択することができる。また垂直方向(図4のV−V線方向)に部分領域が複数列並ぶ構成としてもよい。
付加配光パターンPAに含まれる部分領域の形状は、上記の構成に限られるものではない。各部分領域の面積と形状の少なくとも一方は互いに相違してもよい。
ある特定の部分領域を照射する光源が右前照灯ユニット22Rと左前照灯ユニット22Lの各々に設けられている必要はない。所望の付加配光パターンPAが得られ、所定の部分領域を照射しうるのであれば、各部分領域を照射する少なくとも一つの光源の車両10における位置は任意である。
ロービーム用配光パターンPLを得るための第1灯具ユニット36を、第2右灯具ユニット38Rおよび第2左灯具ユニット38LのようにLEDアレイで構成してもよい。この場合、ロービーム用配光パターンPLを複数の部分領域に分割し、その少なくとも一つを選択的に照射領域または非照射領域とすることができる。
前照灯制御部20は、右前照灯ユニット22Rと左前照灯ユニット22Lの各々について設けられる構成としてもよい。