JP5851260B2 - 酸無添加ジュースの製造方法及び流動化剤 - Google Patents
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りんご(品種「つがる」)を洗浄し且つ腐った箇所等を取り除くトリミングを施してから二等分に分割して一方を破砕機で0.1mm〜1.5cm程度に破砕した後、りんご破砕物を攪拌しつつ加熱して100℃で20分間保持し、りんご中の含有酵素を失活する褐変防止処理を施すと共に、殺菌処理も施した。加熱処理を施したりんご破砕物を冷却した後、酵素剤として「アクレモセルラーゼKM」(協和化成株式会社製)を0.1重量%となるように添加し、45℃で1時間保持して酵素反応を施した。「アクレモセルラーゼKM」は、Acremonium celluloyticusより産生された酵素として、強力な活性を呈するセルラーゼとペクチナーゼとを併有し、その力価は10000u/g以上(CMCase法)である。かかる酵素反応を施した酵素処理物は液状の流動性を呈するものであった。次いで、この酵素処理物を油圧搾汁機によって搾汁して搾汁液を得た。得られた搾汁液に、図1に示すように酵素剤の失活処理及び殺菌を施した。この失活処理では、100℃で5分間の加熱処理を搾汁液に施した。失活処理及び殺菌を施した搾汁液を、缶に充填し冷却して酸無添加のりんごジュースを得た。このりんごジュースの搾汁率、酸度(リンゴ酸換算)、pH、糖度(Brix)、糖酸比及び粘度を下記表1に示す。ここで、酸度は0.1規定の水酸化ナトリウムを用いた中和滴定法にて測定し、リンゴ酸換算値で示す。また、糖度(Brix)はデジタル糖度計(ATAGO社製,IPR−101)で測定し、pHはガラス電極型pHメータ(株式会社堀場製作所製,F−22)で測定した。更に、ジュースの粘度は、粘弾性測定装置(日本シイベルヘグナー株式会社製、MCR300)を用い、パラレルプレートによるせん断速度100(1/s)で測定した。
実施例1において、二等分したりんごの他方について、100℃で20分間保持してりんご自身が持っている酵素の失活処理(褐変防止処理)を施したりんご破砕物を、冷却及び酵素剤の添加を省略して搾汁した他は実施例1と同様に処理して酸無添加のりんごジュースを得た。このりんごジュースについて、実施例1と同様にして搾汁率、酸度(リンゴ酸換算)、pH、甘味(Brix)、糖酸比及び粘度を測定して表1に併せて示す。
実施例1において、酵素剤として「アクレモセルラーゼKM」に代えて、協和化成株式会社製の「TP−5」(Trichoderma sp.により産生されるセルラーゼ、ヘミセルラーゼに、Aspergillus sp.より産生されるエステラーゼを配合した酵素剤)を添加し、40℃で1.5時間反応させた他は実施例1と同様にして酸無添加のりんごジュースを得た。得たりんごジュースについて、実施例1と同様にして搾汁率、酸度(リンゴ酸換算)、pH、甘味(Brix)、糖酸比及び粘度を下記表1に併せて示す。尚、下記表1には、市販されているりんごジュース(サンつがる)の酸度(リンゴ酸換算)、pH、甘味(Brix)及び糖酸比を測定して表1に併せて示す。
実施例1、比較例1及び参照例1で得たりんごジュースの各々について、パネラー8名で官能評価を行った。その結果、実施例1のりんごジュースは、甘酸のバランスがよく且つ喉越しがスッキリして良好であると評価された。比較例1及び参照例1のりんごジュースは、やや甘味の強い味わいであって、甘酸のバランス及び喉越しが実施例1のりんごジュースよりも劣ると評価された。
実施例1、比較例1及び参照例1のりんごジュースの各々について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて有機酸組成及び濃度を測定し、下記表2に示す。表2から明らかなように、実施例1ではガラクツロン酸の濃度が著しく増加している。また、ガラクツロン酸のpKa値は3.30±0.35(25℃)であるため、実施例1の搾汁液の酸度向上は、ガラクツロン酸濃度の増加によるものである。この測定では、サンプルを蒸留水で希釈した後、メンブランフィルター(ザルトリウス社製、Ministart RC15、孔径0.45μm)でろ過したものを測定サンプルとした。有機酸の検出は、ブチモールブルー(BTB)を用いたポストラベル法によって行った。使用したHPLCシステム及び分析条件を下記に示す。
〔HPLCシステム〕
グラジェントポンプ:LC−20AD 株式会社島津製作所製
オートサンプラー :SIL−20ACHT 株式会社島津製作所製
カラムオーブン :CTO−20A 株式会社島津製作所製
UV検出器 :SPD−20A 株式会社島津製作所製
〔分析条件〕
分離カラム :昭和電工株式会社製 RSpak KC-811(8.0mmID×300mm)×2
ガードカラム:昭和電工株式会社製 RSpak KC-LG(8.0mmID×50mm)
カラム温度 :60℃
移動相 :3mM HClO4
反応液 :10-fold diliuted ST3-R(for post-column method)
流量 :1.0mL/min
検出波長 :440nm
実施例1、比較例1及び参照例1のりんごジュースの各々について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記の条件で糖組成及び糖濃度を測定した。その結果を下記表3に示す。表3から明らかなように、実施例1及び比較例1では、セロビオースが参照例1よりも増加している。りんごの細胞壁を形成する繊維質が分解されたためである。また、実施例1では、スクロースと共にアラビノースが生成されている。スクロースは、人の小腸内のスクラーゼによって分解されて血糖値を急激に増加させるが、アラビノースと同時に摂取された場合には、アラビノースがスクラーゼの働きを阻害して血糖値の上昇を抑制することが判明している。このため、実施例1のりんごジュースを摂取しても、血糖値の急激な上昇を抑制できる可能性がある。尚、糖組成及び糖濃度の測定は、実施例2の有機酸組成及び濃度の測定と別途行ったため、グルクロン酸及びガラクツロン酸の濃度が実施例2の結果と多少異なる値となった。
〔HPLCシステム〕
高速グラジェントポンプ:LC−20A×2台 株式会社島津製作所製
オートサンプラー :SIL−20ACT 株式会社島津製作所製
カラムオーブン :CTO−20A 株式会社島津製作所製
蛍光検出器 :RF−10AXL 株式会社島津製作所製
化学反応槽 :CRB−6A 株式会社島津製作所製
反応液ポンプ :KP−12 株式会社FLOM
〔分析条件〕
カラム :NH2P−50 4E(4.6×250mm)
カラム温度 :40℃
化学反応槽温度:150℃
移動相 :(A)CH3CN/H3PO4(98.5/1.5)
:(B)H2O/H3PO4(98.5/1.5)
反応液 :H3PO4/酢酸/フェニルヒドラジン(220/180/6)
流量 :1.0mL/min(溶離液)、0.4mL/min(反応液)
検出波長 :470nm
励起波長 :320nm
実施例1、比較例1及び参照例1のりんごジュースの各々について、ヘッドスペースGC−MS法によってメタノール濃度を測定した。このメタノール濃度の測定では、下記機器及び分析条件下で、20mlのバイアルに試料5mlに内標準液(アセトン500ppm)を0,5ml添加して密栓した。これをオートサンプラーにより53℃で25分間攪拌後、1mlをスプリット比20でガスクロマトグラフに注入し測定した。測定結果を下記表4に示す。表4に示すように、実施例1のりんごジュース中のメタノール濃度が比較例1及び参照例1よりも多い。また、表2及び表3から、実施例1のりんごジュース中の遊離のガラクツロン酸濃度が比較例1及び参照例1よりも多い。このことから実施例1の酵素剤によれば、ペクチンのメチルエステル結合を加水分解してメタノールを発生させてペクチン酸とした後、ペクチン酸を低分子化して遊離のガラクツロン酸を生成しているものと推察される。
装置 :GC−17A(株式会社島津製作所製)
カラム :CBP20−S25−050(0.32mm×L25m)
カラム温度 :70℃
試料気化温度 :200℃
検出器温度 :210℃
キャリアガス :He
検出器 :wFID
実施例1において、酵素反応の時間を48時間とした他は、実施例1と同様にしてりんごジュースを得た。このりんごジュースについて、実施例2と同様にして有機酸組成及び濃度を測定し、下記表5に示す。表1及び表5から明らかなように、酵素反応の時間を長くすることによって得られるジュース中のガラクツロン酸の濃度を高めることができる。
実施例1において、りんご(品種「つがる」)に代えて、りんご(品種「ふじ」)を用い、酵素反応の時間を15分とした他は、実施例1と同様にして酸無添加のりんごジュースを製造した。また、りんご(品種「つがる」)に代えて、「にんじん」を用い、酵素反応の時間を15分とし、且つ搾汁に代えてピューレ状となるまで再破砕した後、ピューレ状の酵素処理物に酵素剤の失活処理及び殺菌(100℃で5分間保持)を施した他は、実施例1と同様にしてピューレ状のにんじんジュースを製造した。得られたジュースについて、実施例1と同様にして搾汁率、酸度(リンゴ酸換算)、pH、糖度(Brix)及び糖酸比を下記表6に示す。また、下記表6には、酵素剤を添加しなかった他は実施例7と同様に処理して得たりんごジュース(参照例2)及びにんじんジュース(参照例3)の各々について、搾汁率、酸度(リンゴ酸換算)、pH、甘味(Brix)及び糖酸比を併せて示す。更に、りんごジュースについては、実施例1と同様にして粘度を測定し、その結果を表6に示す。表6から明らかなように、りんご(品種「ふじ」)及びピューレ状のにんじんジュースでも、酵素反応によって酸度を各々の参照例よりも著しく増加できる。また、りんごジュースでは、酵素反応によって粘度を参照例2よりも低下できる。
実施例7及び参照例2,3のジュースの各々について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて実施例2と同様の条件で有機酸組成及び濃度を測定し、下記表7に示す。表7から明らかなように、実施例7の酸度の増加は、主としてガラクツロン酸の濃度増加によるものである。
桃(品種「あかつき」:白桃と白鳳との交雑品種)を洗浄し且つ腐った箇所等を取り除くトリミングを施した後、攪拌しつつ加熱して100℃で20分間保持し、桃の粉砕処理と桃中の含有酵素の失活処理とを施すと共に、殺菌処理も施した。加熱処理を施した桃破砕物を冷却した後、その一部(10kg)を採取した。採取した桃破砕物に、酵素剤として「アクレモセルラーゼKM」(協和化成株式会社製)を0.1重量%となるように添加し、50℃で40分保持して酵素反応を施した。かかる酵素反応を施した酵素処理物は液状の流動性を呈するものであった。次いで、この酵素処理物を、搾汁機としてパルパーフィニッシャーを用いて搾汁して搾汁液を得た。得られた搾汁液に100℃で5分間の加熱処理を搾汁液に施した。失活処理及び殺菌を施した搾汁液を、ペットボトルに充填し冷却して酸無添加の桃ジュースを得た。この桃ジュースについて、実施例1と同様にして搾汁率、酸度(リンゴ酸換算)、pH、糖度(Brix)、糖酸比及び粘度を測定して下記表8に示す。
実施例8において、加熱処理を施した桃破砕物の残部(5.5kg)について、酵素剤の添加を省略して搾汁した他は実施例8と同様に処理して酸無添加の桃ジュースを得た。この桃ジュースについて、実施例1と同様にして搾汁率、酸度(リンゴ酸換算)、pH、甘味(Brix)、糖酸比及び粘度を測定して表8に併せて示す。
Claims (7)
- 果物及び/又は野菜を破砕しつつそれの細胞を残存させた破砕物に、前記細胞の細胞壁を分解するセルラーゼ活性と、前記細胞壁を形成するペクチンを分解し遊離のガラクツロン酸を生成するペクチナーゼ活性とを併有する酵素として、アクレモニウム属菌が産生したアクレモニウムセルラーゼを含有する酵素剤を添加し、前記粉砕物をペースト状又は液状となるように酵素反応を施して、前記ガラクツロン酸によりリンゴ酸換算の酸度を増加した酵素処理物とし、
前記酵素処理物中又は前記酵素処理物を搾汁した搾汁液中の前記酵素剤に失活処理を施した後、
前記酵素処理物又は前記搾汁液を酸成分の添加なく容器に充填することを特徴とする酸無添加ジュースの製造方法。 - 前記酵素剤のCMCase法による力価が10000u/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸無添加ジュースの製造方法。
- 前記酵素反応を、前記酵素剤を添加した前記粉砕物を20〜70℃で5〜90分保持して施すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酸無添加ジュースの製造方法。
- 前記酵素剤を、果物及び/又は野菜自身に本来的に含有されている酵素の失活処理を施した前記破砕物に添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸無添加ジュースの製造方法。
- 前記失活処理を、加熱処理で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸無添加ジュースの製造方法。
- 果物及び/又は野菜を破砕してそれの細胞を残存させている破砕物を流動化し且つリンゴ酸換算の酸度を酸成分の添加なく増加する流動化剤であって、
前記流動化剤には、前記細胞の細胞壁を分解するセルラーゼ活性と、前記細胞壁を形成するペクチンを分解し遊離のガラクツロン酸を生成して前記酸度を増加するペクチナーゼ活性とを併有する酵素として、アクレモニウム属菌が産生したアクレモニウムセルラーゼを含む酵素剤が含有されていることを特徴とする流動化剤。 - 前記酵素剤のCMCase法による力価が10000u/g以上であることを特徴とする請求項6に記載の流動化剤。
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