次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタを概略的に示す平面図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、キャリッジ2と、インクジェットヘッド3と、サブタンク4と、記録用紙Pを搬送する搬送機構5と、インクカートリッジ6が装着されるホルダ7と、パージ機構8とを備えている。
キャリッジ2は、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール12,13に沿って往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ2には、無端ベルト18が連結されている。この無端ベルト18がキャリッジ駆動モータ19によって駆動されたときに、キャリッジ2は、無端ベルト18の走行に伴って走査方向に移動する。
キャリッジ2には、インクジェットヘッド3と4つのサブタンク4が搭載されている。図2は、インクジェットヘッド3とサブタンク4を図1の走査方向から見た図である。但し、図2においてサブタンク4については断面で示している。インクジェットヘッド3は、それぞれ液滴を噴射する複数のノズル22の向きが下向き(図1の紙面向こう側)となるように配置されている。インクジェットヘッド3の上方には、4つのサブタンク4が走査方向に沿って並べて配置されている。各サブタンク4は、可撓性を有するチューブ15(15a,15b)によってホルダ7と接続されている。
インクジェットヘッド3の具体的な構成について説明する。図3は、インクジェットヘッド3の平面図である。図4(a)は図3のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。図3、図4に示すように、インクジェットヘッド3は、複数のノズル22及び複数のノズル22にそれぞれ連通する複数の圧力室24が形成された流路ユニット20と、流路ユニット20の上面に配置された圧電アクチュエータ21とを備えている。
図4(b)に示すように、流路ユニット20は4枚のプレートが積層された構造を有する。この流路ユニット20の下面には複数のノズル22が形成されている。図3に示すように、複数のノズル22は走査方向と直交する方向(記録用紙Pの搬送方向)に配列されており、4色のインク(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)にそれぞれ対応した、4列のノズル列を構成している。
また、流路ユニット20には、複数のノズル22にそれぞれ連通する複数の圧力室24が形成されている。複数の圧力室24は、複数のノズル22と同様に4列に配列されている。さらに、流路ユニット20には、それぞれ搬送方向に延在する4本のマニホールド25が形成されている。4本のマニホールド25は、4列の圧力室列に、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクをそれぞれ供給する。また、4本のマニホールド25は、流路ユニット20の上面に形成された4つのインク供給孔26に接続されている。
図4(b)に示すように、圧電アクチュエータ21は、複数の圧力室24を覆う振動板30と、この振動板30の上面に配置された圧電層31と、複数の圧力室24に対応した複数の個別電極32とを備えている。圧電層31の上面に位置する複数の個別電極32は、圧電アクチュエータ21を駆動するドライバIC34とそれぞれ接続されている。また、圧電層31の下面に位置する振動板30は金属材料で形成されており、圧電層31を挟んで複数の個別電極32と対向する共通電極の役割を果たす。尚、この振動板30はドライバIC34のグランド配線に接続されて常にグランド電位に保持される。
この圧電アクチュエータ21において、ドライバIC34から、ある個別電極32と共通電極としての振動板30の間に所定の駆動電圧が印加されると、両者の間に挟まれた圧電層31に圧電変形が生じる。この圧電層31の圧電変形によって圧力室24に体積変化を生じさせて、圧力室24内のインクに圧力を付与する。このとき、上記圧力室24に連通するノズル22からインクの液滴が噴射される。
図2に示すように、各サブタンク4内には、ダンパ室35が形成されている。ダンパ室35は水平面に沿って広がった形状を有し、その上壁部には可撓性フィルムからなるダンパ膜36が設けられている。ダンパ室35は、連通流路37を介してインクジェットヘッド3のインク供給孔26(図3参照)と接続される。また、ダンパ室35は、チューブ15a,15bを介してホルダ7に装着されたインクカートリッジ6とも接続されている。このダンパ室35は、インクカートリッジ6から供給されたインクを一時的に貯留して、インクジェットヘッド3へ供給するインクの圧力変動を減衰させる。
図1に戻り、搬送機構5は、搬送方向に関してキャリッジ2を挟むように配置された、2つの搬送ローラ38,39を有する。2つの搬送ローラ38,39は、搬送モータ40(図8参照)により回転駆動される。搬送機構5は、2つの搬送ローラ38,39により、インクジェットヘッド3の下側(図1の紙面向こう側)において記録用紙Pを搬送方向に搬送する。
上記の搬送機構5によって搬送される記録用紙Pに対して、インクジェットヘッド3は、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動しつつ、その下面に設けられた多数のノズル22から記録用紙Pにインクの液滴を噴射する。これにより、記録用紙Pに所望の画像や文字が記録される。
図1に示すように、ホルダ7には、4つのインクカートリッジ6がそれぞれ取り外し可能に装着される。4つのインクカートリッジ6には、4色(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)のインクがそれぞれ貯留されている。これら4色のインクは、チューブ15を介して4つのサブタンク4に供給され、サブタンク4において一時的に貯留された後、インクジェットヘッド3に供給される。即ち、図1に示すように、チューブ15a,15b、及び、インクジェットヘッド3に接続されたサブタンク4によって、1つのインクジェットヘッド3とインクカートリッジ6とを接続する1つのインク供給流路42が構成されている。
また、インク供給流路42は、ホルダ7とサブタンク4との間に、フィルタ51が収容されたフィルタケース50を有する。このフィルタケース50は、インクカートリッジ6とチューブ15aによって接続される一方、サブタンク4ともチューブ15bによって接続されている。フィルタケース50の詳細については後述する。
図1に示すように、パージ機構8は、走査方向に関するキャリッジ2の移動範囲のうちの、記録用紙Pと対向する領域よりも外側(図1における右側)の位置に配置されている。パージ機構8は、キャップ43と、キャップを上下方向に移動させるキャップ駆動モータ45(図8参照)と、キャップ43に接続された吸引ポンプ44を有する。キャリッジ2がキャップ43と対向しているときに、キャップ駆動モータ45によってキャップ43を上方に移動させると、インクジェットヘッド3の下面の複数のノズル22がキャップ43に覆われる。
複数のノズル22がキャップ43に覆われた状態で、吸引ポンプ44によってキャップ43内を減圧すると、複数のノズル22からインクが吸引される。このパージ機構8による、上記のノズル22からのインクの吸引動作を、以下の説明では「吸引パージ」と称する。この吸引パージによって、インクジェットヘッド3内、及び、それよりも上流側のインク供給流路42内の塵や気泡が、ノズル22からインクとともに排出される。
次に、フィルタケース50の構成について詳細に説明する。図5はフィルタケース50の斜視図、図6、図7はフィルタケース50の断面図である。但し、図6は、フィルタケース50が、後述の第1姿勢にあるときの図、図7は、フィルタケース50が、後述の第2姿勢にあるときの図である。また、図6、図7において、(a)は図5のA−A鉛直面断面図、(b)は図5のB−B鉛直断面図である。
図5〜図7に示すように、フィルタケース50は一方向に長い形状を有する。フィルタケース50の長手方向一端部には、インクカートリッジ6側のチューブ15aと接続されるインク流入口52が形成されている。フィルタケース50の長手方向他端部には、インクジェットヘッド3側のチューブ15bと接続されるインク流出口53が形成されている。図6、図7に示すように、フィルタケース50の内部には、フィルタケース50の長手方向と平行な姿勢でフィルタ51が収容されている。また、フィルタケース50内のインク流路は、フィルタ51が収容された位置とその前後において膨らんで、流路断面積が大きくなった流路形状を有する。
前記のフィルタケース50内のインク流路は、フィルタ51よりもインクの流れ方向における上流側に位置する上流側流路54と、フィルタ51よりもインクの流れ方向における下流側に位置する下流側流路55とを有する。上流側流路54と下流側流路55は、共に、フィルタ51の面方向に平行な流路である。より詳細には、フィルタケース50の長手方向においてフィルタ51を挟むように、インク流入口52とインク流出口53が配置されている。その上で、上流側流路54は、インク流入口52からフィルタ51の面方向に沿ってフィルタ51まで延びている。また、下流側流路55は、フィルタ51から、このフィルタ51の面方向に沿ってインク流出口53まで延びている。尚、フィルタケース50の内壁面のうち、上流側流路54の端面となるフィルタケース50の壁面部分50aと、下流側流路55の端面となる壁面部分50bは、それぞれ、上流側流路54及び下流側流路55におけるインクの流れ方向(図中左方)に対して傾斜した、傾斜面になっている。これにより、上流側流路54の端部54aと下流側流路55の端部55aにおいて、それぞれ気泡が滞留しにくくなる。
さらに、フィルタケース50内には、フィルタ51の一部を遮蔽可能な板状の遮蔽部材56が収容されている。遮蔽部材56の比重はインクとは比重が異なっている。より具体的には、本実施形態では、遮蔽部材56の比重はインクの比重よりも大きくなっている。尚、インクジェットヘッド3やチューブ15などの、インク流路を形成する部材として一般的に使用されるステンレス鋼等の金属材料やポリイミド等の樹脂材料は、その比重が、水の比重(=1)と比べて十分に大きい。従って、比重が非常に大きな特殊な液体をインクとして使用しない限り、遮蔽部材56の形成材料は、上に例示したような、一般的に使用される金属材料や樹脂材料から選択することができる。また、遮蔽部材56は、上流側流路54の内部に収容され、且つ、フィルタケース50の内壁面に回動自在に取り付けられている。
ところで、図5に示すように、フィルタケース50は、その両端部に2本の可撓性のチューブ15a,15bがそれぞれ接続された構造である。そのため、2本のチューブ15a,15bの間のフィルタケース50を、フィルタ51に平行な軸周りに回転させて、フィルタケース50の姿勢を、フィルタ51の向きが上下逆となる2つの姿勢の間で切り換えることが可能である。
フィルタケース50の姿勢変更について詳細に説明する。フィルタケース50は、フィルタ51の面方向が水平面とほぼ平行で、且つ、2本のチューブ15がそれぞれほぼ水平方向に延びるように、プリンタ1の筐体1a(図1参照)内に設置される。フィルタケース50には、姿勢切換モータ57の出力軸58が連結されている。姿勢切換モータ57は、フィルタケース50を、その長手方向(図6(a),図7(a)の左右方向)に平行な軸を中心に回転させる。これにより、フィルタケース50の姿勢を、フィルタ51の一方の面51aが上を向いた図6の第1姿勢と、フィルタ51の前記一方の面51aが下を向いた図7の第2姿勢との間で切り換える。尚、図5では、姿勢切換モータ57の出力軸58が、フィルタケース50に直結された構成が開示されているが、姿勢切換モータ57が、複数のギヤを適宜組み合わせた減速機構を介してフィルタケース50に連結されてもよい。
図6に示すように、フィルタケース50が第1姿勢にあるときには、上流側流路54が下流側流路55よりも下に位置する。そのため、図6(b)に示すように、上流側流路54内に収容されている遮蔽部材56は、重力の作用でフィルタ51から離れ、フィルタケース50の内壁面に沿った鉛直姿勢となる。このように、フィルタケース50が第1姿勢にあるときには、フィルタ51は遮蔽部材56によって遮蔽されない。
図6の第1姿勢から、フィルタケース50が180度回転して図7の第2姿勢に切り換えられると、上流側流路54が下流側流路55よりも上に位置する。このとき、図7(b)に示すように、上流側流路54内の遮蔽部材56は、重力の作用によってフィルタ51に向けて回動し、遮蔽部材56はフィルタ51を上から覆う。但し、図7(a)からわかるように、遮蔽部材56のフィルタ51を覆う面の面積、即ち、遮蔽面積は、フィルタ51の全面積よりも小さい。つまり、遮蔽部材56は、フィルタ51の全部を遮蔽するのではなく、フィルタ51の一部領域のみを遮蔽する。これにより、フィルタケース50が第1姿勢にあるときと比べて、フィルタ51の開口面積が減少する。
また、図6(a)、図7(a)に示すように、遮蔽部材56は、上流側流路54の端面をなすフィルタケース50の壁面部分50aから、インク流入口52側に離れて配置されている。この構成により、遮蔽部材56は、フィルタ51のうちの、上流側流路54の端部54aに面する部分を除いて遮蔽することになる。尚、図7に示すように、本実施形態では、遮蔽部材56は、上流側流路54の幅方向(図7(b)の左右方向)に関しては、フィルタ51のほぼ全域を覆うようになっている。
尚、本実施形態では、第1姿勢にあるときには、図6(b)のように、遮蔽部材56がフィルタケース50の内壁面に沿った鉛直姿勢である。そのため、図6(b)から、図7(b)の第2姿勢に切り換える際に、フィルタケース50を図の時計回りの方向に180度回転させると、遮蔽部材56がフィルタケース50の内壁面に接したままで回転し、フィルタ51が遮蔽部材56で遮蔽されなくなる虞がある。そこで、本実施形態において、フィルタケース50を第1姿勢から第2姿勢に切り換えるときには、遮蔽部材56がフィルタ51に向けて確実に回動するように、図6(b)から、図の反時計回りの方向にフィルタケース50を回転させることが好ましい。
次に、プリンタ1の電気的な構成について説明する。図8は、プリンタ1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。図8に示されるプリンタ1の制御装置9は、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1の全体動作を制御するための各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むマイクロコンピュータ、プリンタ1の各構成を制御するための各種の演算回路、及び、各種のデータを記憶したフラッシュメモリなどの記憶媒体等を備える。
上記の制御装置9には、外部装置であるPC70、及び、ディスプレイや操作ボタン等を備えた操作パネル71が接続されている。制御装置9は、PC70から入力された、画像等に関するデータに基づき、インクジェットヘッド3のドライバIC34、キャリッジ駆動モータ19、及び、搬送機構5の搬送モータ40をそれぞれ制御し、記録用紙Pに画像等を記録させる。また、制御装置9は、パージ機構8のキャップ駆動モータ45や吸引ポンプ44を制御してインクジェットヘッド3の吸引パージを行わせる。さらに、制御装置9は、姿勢切換モータ57を制御し、フィルタケース50の姿勢を変更させる。
フィルタケース50の姿勢切換についてさらに詳しく説明する。上述したように、フィルタケース50が図6の第1姿勢にあるときには、遮蔽部材56がフィルタ51から離れているために、フィルタケース50内の流路抵抗は小さい。また、インクジェットヘッド3のノズル22からインクの液滴を噴射させるときには、インクジェットヘッド3へのインク供給不足を防止するため、インク供給流路42の流路抵抗を極力低く抑えたい。そこで、後で述べるように吸引パージが実行される場合を除き、フィルタケース50の姿勢は第1姿勢にされる。
ところで、プリンタ1の使用中においては、インク供給流路42内のインクに混入している気泡が塵などとともにフィルタ51で捕捉され、気泡はフィルタケース50の上流側流路54に滞留する。プリンタ1の使用が継続するにつれて、上流側流路54に滞留する気泡が大きく成長すると、インクジェットヘッド3へのインク供給の妨げとなる。そこで、パージ機構8によるインクジェットヘッド3の吸引パージを行う際に、上流側流路54に滞留する気泡を、フィルタ51を通過させて下流側へ送り、インクジェットヘッド3の複数のノズル22から排出してしまうことが好ましい。
パージ機構8によってインクジェットヘッド3の吸引パージを実行すると、複数のノズル22からインクが排出されるのに伴って、インク供給流路42内に、インクカートリッジ6からインクジェットヘッド3へ向かうインクの流れが発生する。ここで、フィルタケース50内の上流側流路54に滞留する気泡を排出するには、フィルタケース50内のインクの流速を高めることが効果的である。
そこで、パージ機構8によりインクジェットヘッド3の吸引パージを実行する際には、姿勢切換モータ57は、フィルタケース50の姿勢を、図6の第1姿勢から図7に示す第2姿勢に切り換える。フィルタケース50が第2姿勢に切り換えられると、遮蔽部材56がフィルタ51の一部分を遮蔽するため、フィルタケース50が第1姿勢にあるときと比べてフィルタ51の開口面積が減少する。これにより、フィルタケース50内のインクの流速が上がり、上流側流路54に滞留する気泡が、フィルタ51を通過して下流側に流れやすくなる。パージ機構8による吸引パージが終了すると、姿勢切換モータ57は、フィルタケース50の姿勢を、第2姿勢から、通常使用時の姿勢である第1姿勢に戻す。
以上説明した本実施形態のインクジェットプリンタ1においては、フィルタケース50の姿勢を上下逆にするという簡単な動作によって、フィルタの遮蔽/非遮蔽の状態を確実に切り換えることができる。
また、本実施形態では、図6に示すように、フィルタケース50が第1姿勢にあって遮蔽部材56がフィルタ51から離れている状態では、上流側流路54が下流側流路55よりも下方に位置している。そのため、記録用紙Pへの記録を行う場合には、フィルタケース50内のインクの流れが、フィルタ51を下から上へ通過する。そのため、インクに含まれている塵がフィルタ51に付着しにくく、フィルタ51に目詰まりが生じにくい。
フィルタケース50の回転によって、インク中で遮蔽部材56が回動するためには、遮蔽部材56の比重がインクと異なっている必要がある。この点、遮蔽部材の比重をインクよりも小さくして浮力を利用して回動させることも可能であるが、多くの固体材料は、水などの液体よりも比重が大きい。そのため、本実施形態のように、遮蔽部材56を、インクよりも比重が大きいものとすることは、遮蔽部材56の材料選択における設計の自由度が大きくなるという点において好ましい。
その上で、本実施形態では、遮蔽部材56は上流側流路54に配置されている。上述したように、フィルタケース50が第1姿勢にあるときには、上流側流路54が下流側流路55よりも、フィルタ51を挟んで下方に位置していることから、上流側流路54に配置されている比重の大きい遮蔽部材56は、重力の作用でフィルタ51から離れるように回動する。一方、フィルタケース50が第2姿勢にあるときには、逆に、上流側流路54が下流側流路55よりも上に位置するため、上流側流路54に配置されている比重の大きい遮蔽部材56はフィルタ51を覆うこととなる。
また、フィルタケース50内の上流側流路54に遮蔽部材56が配置されていると、吸引パージ時にフィルタケース50内に発生するインクの流れが、遮蔽部材56をフィルタ51に密着させるように作用する。そのため、遮蔽部材56によりフィルタ51の開口面積が確実に狭められる。
本実施形態は、フィルタケース50内の上流側流路54が、フィルタ51の面に沿ってフィルタ51まで延びている。即ち、上流側流路54を流れるインクは、その端部54aにおいて向きを変えてフィルタ51を通過する。この構成では、上流側流路54の端部54aによどみが生じて気泡が滞留しやすい。しかし、遮蔽部材56は、フィルタ51の、上流側流路54の端部54aに面する一部分を除いてフィルタ51を遮蔽する。これにより、吸引パージ時には、フィルタ51の、上流側流路54の端部54aに面する部分のみが開放されることとなり、端部54aのよどみが解消されて気泡の滞留が防止される。
以上説明した実施形態において、インクジェットプリンタ1が、特許請求の範囲の「液滴噴射装置」に相当する。インクジェットヘッド3が、特許請求の範囲の「液滴噴射ヘッド」に相当する。インクカートリッジ6が、特許請求の範囲の「液体貯留部」に相当する。インク供給流路42が、特許請求の範囲の「液体供給流路」に相当する。フィルタケース50が、特許請求の範囲の「フィルタ収容部」に相当する。姿勢切換モータ57が、特許請求の範囲の「姿勢切換手段」に相当する。パージ機構8が、特許請求の範囲の「パージ手段」に相当する。尚、パージ機構8は、ノズル22よりも上流側の流路においてインクを加圧してノズル22から強制的に排出させる、いわゆる、「加圧パージ」を行う構成であってもよい。
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
1]遮蔽部材56については、次に例示するような様々な変更が可能である。
1)図9(a)の変更形態では、フィルタケース50が第1姿勢にあるときには、遮蔽部材56が上流側流路54の幅方向(図中左右方向)の中央部において鉛直姿勢で配置されている。この場合、図9(b)のように、フィルタケース50が第2姿勢に切り換えられて遮蔽部材56が回動すると、フィルタ51の、前記幅方向における一方側(図の左側)部分のみを遮蔽部材56が遮蔽する。
2)図10(a)、(b)に示すように、フィルタ51に直交する方向に遮蔽部材56が移動する構成であってもよい。但し、この形態においては、遮蔽部材56がフィルタケース50に連結されていないため、フィルタケース50内のインクの流れによって、フィルタ51の面方向に遮蔽部材56が移動してしまう虞がある。そこで、フィルタケース50内における遮蔽部材56の移動を規制する部材が設けられることが好ましい。図10では、フィルタケース50の上流側流路54内に、フィルタ51と直交する方向に延び、且つ、遮蔽部材56を貫通する2本の位置決めピン59が設置されている。これら2本の位置決めピン59によって、遮蔽部材56の、フィルタ51の面方向に関する移動が規制されている。
3)図11に示すように、フィルタケース50が第1姿勢にあるときに上流側流路54が下流側流路55よりも下方に位置する構成において、遮蔽部材56が下流側流路55に配置されてもよい。但し、この場合は、第1姿勢にあるときに遮蔽部材56がフィルタ51から離れ、第2姿勢にあるときに遮蔽部材56がフィルタ51を覆うように、遮蔽部材56としては、その比重がインクよりも小さいものを採用する。例えば、遮蔽部材56を、インクよりも比重が小さい材料で形成する。あるいは、遮蔽部材56が、インクよりも比重が大きい材料からなる部材に、内部に空気が充填されたフロートが連結されることによって、全体としてインクよりも比重が小さくなっていてもよい。
また、図12、図13に示すように、フィルタケース50が第1姿勢にあるときに、上流側流路54が下流側流路55よりも上方に位置する構成であってもよい。この場合、遮蔽部材56の比重がインクよりも大きい場合は、図12のように、遮蔽部材56は上流側流路54に配置される。また、遮蔽部材56の比重がインクよりも小さい場合は、図13のように、遮蔽部材56は下流側流路55に配置される。
尚、図11〜図13の形態では、図10の形態と同様に、遮蔽部材56がフィルタ51に直交する方向に移動する構成が採用されている。但し、図面の簡略化のため、図10における位置決めピン59の図示は、図11〜図13では省略されている。
2]前記実施形態では、上流側流路54と下流側流路55がフィルタ51と平行に延びる構成であったが、このような構成には限られない。例えば、図14に示すように、フィルタケース50内の上流側流路54及び下流側流路55が、それぞれ、フィルタ51と直交する方向に延びる流路であってもよい。尚、図14では、上流側流路54内に、遮蔽部材56が回動自在に設けられている。フィルタケース50が第1姿勢にあるときに遮蔽部材56がフィルタ51から離れ、第2姿勢にあるときに遮蔽部材56がフィルタ51を覆うことについては、前記実施形態と同様である。
3]遮蔽部材56が、フィルタ51の遮蔽面積を変更可能なものであってもよい。例えば、遮蔽部材56が、フィルタ51を選択的に遮蔽する複数の遮蔽部を有するものであって、複数の遮蔽部の間でフィルタ51の遮蔽面積が互いに異なっていてもよい。
具体例を以下に挙げる。図15に示すように、フィルタケース50内の上流側流路54内に遮蔽部材56が回動自在に収容されている。この遮蔽部材56は、互いに直交する2つの板状の遮蔽部56a,56bを有する、L字形の部材である。また、板状の2つの遮蔽部56a,56bは、平面的なサイズが互いに異なっている。即ち、2つの遮蔽部56a,56bの間で、フィルタ51の遮蔽面積が異なっている。尚、遮蔽部材56の比重はインクよりも大きい。また、2つの遮蔽部56a,56bの間で重量がほぼ等しくなるように、面積の大きい遮蔽部56aは、面積が小さい遮蔽部56bよりも厚みが大きくなっている。
図15(a)に示すように、フィルタケース50が第1姿勢をとるときには、フィルタ51よりも下側に遮蔽部材56が位置するが、このとき、2つの遮蔽部56a,56bにそれぞれ作用する重力が互いに釣り合っている。従って、2つの遮蔽部56a,56bは共にフィルタ51から離れた状態となる。
フィルタケース50を、図15(a)の第1姿勢から180度回転させて第2姿勢にする際に、矢印Aで示す反時計回りの方向にフィルタケース50を回転させた場合には、図15(b)のA図のように、遮蔽面積の大きい遮蔽部56aがフィルタ51を覆う。一方、図15(a)の矢印Bで示す時計回りの方向にフィルタケース50を回転させた場合には、図15(b)のB図のように、遮蔽面積の小さい遮蔽部56bがフィルタ51を覆う。このように、フィルタケース50を、矢印A,Bの何れの方向に回転させるかによって、フィルタ51の遮蔽面積を変更することができる。
尚、上述したフィルタ51の遮蔽面積の変更は、例えば、次のような状況で好適に行うことができる。外気温度の変化等によってインクの温度が変化すると、インクの粘度も変化する。そして、インク温度が低く、粘度が大きい状態でパージを行った場合は、インク温度が高く、粘度が小さい状態でパージを行った場合と比べて、インクが流れにくい。そこで、インク温度が所定温度以上の高い温度である場合には、図15(a)のように遮蔽面積の大きい遮蔽部56aによってフィルタ51を遮蔽し、フィルタ51の開口面積を小さめに設定する。一方で、インク温度が前記所定温度よりも低い場合には、図15(b)のように遮蔽面積の小さい遮蔽部56bによってフィルタ51を遮蔽して、フィルタ51の開口面積を大きめに設定し、パージ時にインクが流れやすくする。
尚、上記のようにインク温度に応じて遮蔽部56a,56bの切換を行うには、プリンタ1が、インクカートリッジ6内やインク供給流路42内のインクの温度を検出するための温度センサを有することが前提となる。そして、この温度センサの温度検出信号に基づいて、制御装置9が、フィルタケース50をどの方向に回転させて第2姿勢に切り換えるかを判断する。
4]フィルタケース50の姿勢を変更させるための構成は、図5の構成には限られない。例えば、図16では、フィルタケース50が、2本のチューブ15a,15bと、相対回転可能に連結された2つの接続部66,67を有するロータリージョイント65によって接続されている。そのため、2本のチューブ15a,15bを捻ることなく、フィルタケース50を回転させることが可能である。尚、図16の構成において、前記実施形態の図5のように、フィルタケース50自身をモータで回転させてもよいが、図16では、ロータリージョイント65として、フィルタケース50との接続部66の外周面にギヤ歯が形成されたものを使用している。これにより、モータの動力を適宜の構成を有する動力伝達機構によって接続部66に伝達し、この接続部66をチューブ15との接続部67に対して回転させることにより、フィルタケース50の姿勢を変更することもできる。
5]本発明では、フィルタケース50はその姿勢を変更できるように構成される必要があるが、そうであっても、フィルタケース50の、インク供給流路42における設置位置は特定の位置に限定されるものではない。即ち、フィルタケース50は、前記実施形態のような、インクカートリッジ6とインクジェットヘッド3の間において、可撓性を有する2本のチューブ15に接続されるものには限られない。
例えば、2つの部材を液体の漏洩を防止しつつ回転自在に連結する、いわゆる、ロータリージョイントを採用すれば、フィルタケース50を、可撓性をほとんど有さない剛直な部材に、回転自在に取り付けることも可能である。この場合、図1、図2に示される、インクジェットヘッド3とサブタンク4との連結部、サブタンク4の内部、サブタンク4とチューブ15との連結部、ホルダ7とチューブ15との連結部、ホルダ7の内部など、インク供給流路42の様々な位置にフィルタケース50を設置することが可能である。
6]プリンタ1が、インクジェットヘッド3のパージとは別に、インク供給流路42内の気泡を排出するための経路を有する構成であってもよい。例えば、図17に示すように、インク供給流路42の一部を構成するサブタンク4に、ダンパ室35の上部から気泡を排出する排気口60が設けられている。排気口60は排気チューブ61を介して吸引ポンプ44(図1参照)と接続される。この構成では、インクジェットヘッド3のパージとは別のタイミングで、サブタンク4やフィルタケース50を含むインク供給流路42内に滞留する気泡を、インク供給流路42の途中に位置する排気口60から排出することが可能である。そして、上記のように排気口60からの気泡排出を行う際に、フィルタケース50内の気泡が下流側に流れやすくなるように、フィルタケース50の姿勢を第1姿勢から第2姿勢に切り換えればよい。
以上説明した実施形態は、本発明を、記録用紙に画像を記録するインクジェットプリンタに適用したものであるが、これ以外の用途で使用される液滴噴射装置においても、液滴噴射ヘッドへの気泡の混入、及び、気泡混入による噴射異常の発生といった問題は生じ得る。従って、インクジェットプリンタ以外の様々な用途で使用される液滴噴射装置においても、本発明を適用することが可能である。