JP5802501B2 - 仕切体 - Google Patents

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Description

本発明は、伝搬される電磁波を周波数に応じて減衰させたり透過させたりすることが可能な空間を仕切る壁や床などの仕切体に関するものである。
特許文献1,2に開示されているように、建物の外部から内部への不要な電磁波の侵入や、建物の内部から外部への電磁波の漏洩を防ぐために、電磁波シールド機能を備えた建物が構築されている。すなわち、建物の外で伝搬されている電磁波が室内に侵入すると、テレビやパソコンの画像が乱れたり、電子機器が誤作動を起こしたりすることがある。また、室内での無線送信などによって発生した電磁波が建物の外まで伝搬されることによって、情報が漏洩してしまうことがある。
一方、ビルなどの壁や床は、主に鉄筋コンクリートによって構築されるが、構造体として必要とされる耐力のみを満たすようにして構築された鉄筋コンクリート自体は電磁波シールド機能が低い。
そこで、例えば、鉄筋コンクリートの壁や床の表面に、鉄板、金属網、金属箔、金属メッシュなどの電磁波シールド機能を有する部材を貼り付けることで、電磁波シールド機能を備えた建物にしている。
特開平11−121973号公報 特開2002−54248号公報
しかしながら、建物の内部にいても無線LAN(Local Area Network)の電波は外部に漏洩させたくないが携帯電話の電波は受信したいなど、すべての電磁波を遮蔽するのではなく、選択的に透過させたい電磁波もある。
そこで、本発明は、対象とする周波数に応じて電磁波を減衰させたり透過させたりするという選択が可能な仕切体を提供することを目的としている。
前記目的を達成するために、本発明の仕切体は、所定の伝搬方向に伝搬される対象周波数の電磁波を減衰又は透過させるための選択的な設定がされた仕切体であって、前記伝搬方向を厚さ方向とする壁状又はスラブ状に形成される媒質部と、前記媒質部の前記厚さ方向の第1の面に、前記厚さ方向に略直交する方向に一定の間隔Pを置いて配置される複数の第1の導体棒によって形成される第1導体部と、前記媒質部の前記厚さ方向の第2の面に、前記第1の導体棒と略同じ方向に向けて同じ間隔Pを置いて配置される複数の第2の導体棒によって形成される第2導体部とを備え、前記対象周波数の電磁波を透過させる場合は、前記媒質部内の波長λmとその次数n(nは0を除く正の整数)とから前記媒質部の厚さdをd=nλm/2によって算出し、前記対象周波数の電磁波を減衰させる場合は、前記媒質部内の波長λaとその次数n(nは0を除く正の整数)と前記媒質部の厚さdとから前記間隔PをP=λa/(√(1−(nλa/2d)2))によって算出し、算出された値を基準に所定の許容誤差範囲内で前記媒質部の厚さd又は前記間隔Pが設定されることを特徴とする。
このように構成された本発明の仕切体は、壁状又はスラブ状に形成された媒質部の厚さ方向の2つの面に、厚さ方向に略直交する方向に一定の間隔Pを置いて配置される複数の導体棒によって形成される第1導体部及び第2導体部を備えている。
そして、対象周波数の電磁波を透過させる場合は、媒質部内の波長λmとその次数nとから媒質部の厚さdをd=nλm/2によって算出された値に基づいて設定し、対象周波数の電磁波を減衰させる場合は、媒質部内の波長λaとその次数nと媒質部の厚さdとから間隔PをP=λa/(√(1−(nλa/2d)2))によって算出された値に基づいて設定する。
このように、媒質部の厚さdや導体棒の間隔Pを調整するだけで、対象とする周波数の電磁波を透過させたり減衰させたりすることができる。このため、仕切体によって区切られた空間と外部との間で特定の周波数の電磁波を遮蔽させたい場合や、反対に特定の周波数の電磁波を透過させたい場合などに、様々な場所に設置して利用することができる。
本発明の実施の形態の仕切体を説明する説明図である。 本発明の実施の形態の仕切体の構成を説明する斜視図である。 仕切体の電磁波制御性能を確認するためにおこなった解析モデルを模式的に示した説明図である。 対象周波数の電磁波が透過するときの解析結果を3次元で示した電界強度分布図である。 対象周波数の電磁波が減衰するときの解析結果を3次元で示した電界強度分布図である。 仕切体の厚さdを変化させて電磁波の減衰及び透過状態を比較したグラフである。 導体棒の間隔Pを変化させて電磁波の減衰及び透過状態を比較したグラフである。 周波数によって電磁波が強く透過される場合があることを示したグラフである。 導波管モデルを使って仕切体の厚さ方向に略直交する方向の共振状態を説明する解析結果である。 実施例1の第3導体部が1枚埋設された仕切体を説明する説明図である。 実施例1の仕切体の電磁波制御性能を確認するためにおこなった解析モデルを模式的に示した説明図である。 第3導体部が無い場合と第3導体部の間隔Pを変化させた場合の電磁波の減衰及び透過状態を比較したグラフである。 実施例1の第3導体部が2枚埋設された仕切体を説明する説明図である。 第3導体部が無い場合と第3導体部が1枚埋設された場合と2枚埋設された場合の電磁波の透過のピークを比較したグラフである。 第3導体部が無い場合と第3導体部が配置された場合の電磁波の減衰のピークを比較したグラフである。 周波数に応じて電磁波を遮蔽させたり透過させたりする制御が可能であることを示したグラフである。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施の形態の仕切体1は、図1に示すように、一方の空間R1と他方の空間R2とを仕切るものである。この仕切体1が設けられることによって、例えば建物の内部の空間R1から外部の空間R2という伝搬方向、又は外部の空間R2から内部の空間R1という伝搬方向に伝搬される対象周波数の電磁波の遮蔽又は透過が選択的におこなわれる。
ここで「遮蔽」とは、伝搬される電磁波が減衰されることで電磁波シールド効果(SE:Shield Effectiveness)が得られる状態をいう。また、「電磁波が減衰する」とは、仕切体1を通過することによって電界強度が弱くなることをいう。これに対して「透過」とは、伝搬される電磁波が仕切体1によって減衰される程度が低く電磁波の受信に影響がでない、ほとんど減衰されない、又は仕切体1がない場合よりも電界強度が強くなることをいう。例えば、後述する透過特性が閾値より大きい(換言すると透過損失が閾値より小さい)状態を「透過」と呼ぶ。
まず、図1,2を参照しながら仕切体1の構成について説明する。
この仕切体1は、図1,2に示すように、媒質部としてのコンクリート部4と、コンクリート部4の空間R1側に面する第1の面(前面11)に配置される第1導体部としての前側鉄筋格子2と、コンクリート部4の空間R2側に面する第2の面(後面12)に配置される第2導体部としての後側鉄筋格子3とを備えている。すなわち、電磁波の伝搬方向にコンクリート部4の厚さd分の距離を置いて側方から見て略平行に配置される前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3、及びコンクリート部4によって仕切体1が形成される。
ここで、媒質部として本実施の形態ではコンクリートによって成形されるコンクリート部4について説明するが、これに限定されるものではなく、誘電率の明らかな任意の材料が使用できる。例えば、鉄筋コンクリート、モルタル、石こう(石こうボード)若しくは木材などの建材、ガラス、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合物(ABS)、四フッ化エチレン(例えば、テフロン(登録商標))、パラフィン、ウレタン、エポキシ、塩化ビニール、シリコン、ベークライト若しくは発泡スチロールなどの樹脂、紙又はゴムのいずれかの材料によって媒質部を成形することもできる。
また、第1導体部及び第2導体部は、任意の導電体によって形成される。そして、導電体には、電気伝導率がグラファイト(電気伝導率:106 S/m)と同等以上の材料が使用できる。例えば、鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、金若しくは銀などの金属、グラファイトなどの鉱物、炭素又はセラミックなどの材料によって導体部を形成することができる。
前側鉄筋格子2は、図2に示すように、鉛直方向に向けて配置された複数の第1の導体棒としての縦筋21,・・・と、縦筋21に略直角となるように交差する複数の導体棒としての横筋22,・・・とによって格子状に形成される。すなわち、縦筋21,・・・及び横筋22,・・・は、それぞれコンクリート部4の厚さ方向に略直交する方向に一定の間隔(格子間隔P)を置いて並べられる。そして、縦筋21,・・・と横筋22,・・・とが接する面が交差面20bとなる。また、コンクリート部4の前面11と面一になる前側鉄筋格子2の面が外側面20aとなる。なお、縦筋21と横筋22のいずれが第1の導体棒となってもよい。
前側鉄筋格子2は、鉄筋、鋼線、アルミ線、ステンレス線などを縦筋21及び横筋22として、結束線や溶接などによって格子状に形成される部材である。すなわち、横筋22,22及び縦筋21,21は、それぞれ一定の格子間隔Pで略平行に配置されている。また、縦筋21と横筋22の直径は略同じである。
一方、後側鉄筋格子3は、前側鉄筋格子2と同様に、鉛直方向に向けて配置された複数の第2の導体棒としての縦筋31,・・・と、縦筋31に略直角となるように交差する複数の導体棒としての横筋32,・・・とによって格子状に形成される。すなわち、縦筋31,・・・及び横筋32,・・・は、それぞれコンクリート部4の厚さ方向に略直交する方向に一定の間隔(格子間隔P)を置いて略平行に配置される。また、縦筋31と横筋32には、前側鉄筋格子2と同様に、略同じ直径の鉄筋又は鋼線などが使用される。
そして、縦筋31と横筋32とが接する面が交差面30bとなる。また、コンクリート部4の後面12と面一になる後側鉄筋格子3の面が外側面30aとなる。よって、前側鉄筋格子2の外側面20aと外側面30aとの電磁波の伝搬方向の距離が、コンクリート部4の厚さdと等しくなる。
なお、本実施の形態では、前側鉄筋格子2の外側面20a及び後側鉄筋格子3の外側面30aの位置をコンクリート部4の表面と一致させる場合について説明するが、これに限定されるものではなく、前側鉄筋格子2の交差面20b及び後側鉄筋格子3の交差面30bの位置をコンクリート部4の表面と一致させてもよい。この場合は、交差面20bと交差面30bとの電磁波の伝搬方向の距離が、コンクリート部4の厚さdと等しくなる。また、縦筋21,31は、コンクリート部4の表面から突出することになる。
次に、図3−5を参照しながら、本実施の形態の仕切体1に特定の周波数の電磁波を透過させたり遮蔽させたりする特性があることについて説明する。
図3は、有限要素法による数値シミュレーションで使用する解析モデルを模式的に示した図である。この図3に示すように、モデル化された仕切体M1の両側に内部空間MR1と外部空間MR2がモデル化される。また、仕切体M1の内部空間MR1側が前面M11となり、仕切体M1の外部空間MR2側が後面M12となる。そして、コンクリート部M4の前面M11には十字状の前側鉄筋格子M2がモデル化され、後面M12には後側鉄筋格子M3がモデル化されている。なお、前側鉄筋格子M2及び後側鉄筋格子M3の鉄筋径は10mmに設定し、コンクリート部M4の比誘電率εは後述するように4.3とした。
この解析では、内部空間MR1側から仕切体M1に向けて垂直偏波の平面波を伝搬させて、外部空間MR2側まで伝搬される電磁波の電界強度を確認した。また、垂直偏波は、周波数を0.0GHz〜2.0GHzまで0.01GHz刻みで変化させてシミュレーションをおこなった。その中で、電磁波が透過する周波数fの解析結果を、3次元で見た電界強度分布図として図4に示した。また、電磁波が減衰する周波数fの解析結果を、3次元で見た電界強度分布図として図5に示した。図中では、相対的に電界強度が高い部分を薄い色で示し、電界強度が低くなるにつれて濃い色になる表示としている。
図4は、前側鉄筋格子M2及び後側鉄筋格子M3の格子間隔Pを60mm、コンクリート部M4の厚さdを120mmに設定した仕切体M1のモデルに、0.6GHzの周波数の垂直偏波の平面波を伝搬させたときの電界強度分布図である。この図4に示した解析結果では、仕切体M1の内部においてx軸及びy軸方向に対して電界強度が一様になっており、前側鉄筋格子M2と後側鉄筋格子M3とを短絡面としてz軸方向に共振が起きていることが確認できる(白抜き矢印参照)。すなわち図1に示すように、各次数nの波長の電磁波が前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3とを短絡面として共振する場合があるといえる。
一方、図4に示すように、内部空間MR1と外部空間MR2とで電界強度がほぼ等しく(ほぼ同じ色)なっていることから、0.6GHzの周波数の電磁波は仕切体M1によって減衰されずに透過することがわかる。
図5は、前側鉄筋格子M2及び後側鉄筋格子M3の格子間隔Pを100mm、コンクリート部M4の厚さdを120mmに設定した仕切体M1のモデルに、1.6GHzの周波数の垂直偏波の平面波を伝搬させたときの電界強度分布図である。この図5に示した解析結果では、仕切体M1の内部においてy軸方向に共振が起きていることが確認できる(白抜き矢印参照)。そして、仕切体M1内部のyz面に着目すると、前側鉄筋格子M2と後側鉄筋格子M3を共振方向(y軸方向)と平行な境界とする矩形空洞共振器として動作していることが推察できる。なお、この点については、図8,9を説明する際に詳述する。
一方、外部空間MR2では電界強度が非常に低く(濃い色)なっていることから、1.6GHzの周波数の電磁波は仕切体M1内の共振によって減衰され、外部空間MR2にほとんど伝搬されなかったことがわかる。
図6は、格子間隔Pを60mmに固定して、コンクリート部M4の厚さdを100mm,120mm,140mmと変化させた各仕切体M1のモデルに、周波数fを0.0GHz〜2.0GHzまで0.01GHz刻みで変化させてシミュレーションをおこなった結果を示したグラフである。
ここで、縦軸のデシベル(dB)の単位で表される透過特性は、負の値が大きくなるほど(換言すると値が小さくなるほど)電磁波が遮蔽されることを示し、0dBに近ければ電磁波が透過されることを示す。
図6において、コンクリート部M4の厚さdが100mmのグラフ(一点鎖線)と、厚さdが120mmのグラフ(実線)と、厚さdが140mmのグラフ(二点鎖線)とを比較すると、いずれのグラフも0dBに近い透過のピークを有していることがわかる。例えば、厚さdが120mmのグラフ(実線)では、周波数fが0.6GHzと1.16GHzとなる2箇所に透過のピークが発生している。
そこで、この透過のピークとなる2つの周波数(0.6GHz,1.16GHz)に着目してさらに検討を進める。ここで、コンクリート部内の電磁波の波長λmは、コンクリートの比誘電率をε、電磁波の周波数をf、光速をvとすると次の変換式によって算出できる。
λm=v/f×1/√ε (1)
ここで、コンクリートの比誘電率εは4.3とすることができる。なお、ガラスは比誘電率ε=6.4、アクリルは比誘電率ε=1.7、ポリカーボネートは比誘電率ε=2.7、石こうボード及び木材は比誘電率ε=2.3を使って計算することができる。
そして、2つの周波数(0.6GHz,1.16GHz)のコンクリート部内の波長λmとコンクリート部4の厚さd(=120mm)との関係を表1に示す。
この表1に示した結果から、コンクリート部4の厚さdが、コンクリート部内の波長λmの半分(すなわち半波長:λm/2)のn倍(nは0を除く正の整数)となる周波数fの電磁波が強く透過されるといえる。
d=nλm/2 (2)
この式(2)の関係は、コンクリート部4の厚さdを変えた場合(d=100mm,140mm)にも同様にいえる。図6においてfm1として囲ったところは、各厚さdの仕切体1のn=1次の周波数の透過のピークが生じる範囲で、fm2として囲ったところは、各厚さdの仕切体1のn=2次の周波数の透過のピークが生じる範囲である。
これらの結果から、透過させたい電磁波の周波数faと次数nが特定されれば、式(1)、(2)を使って算出される厚さdにコンクリート部4を設定した仕切体1を構築することで、対象周波数faの電磁波を透過させることができる。
例えば、無線LAN(Local Area Network)でよく使用される電磁波の周波数は2.45GHz周辺である。隣室にあるプリンタやサーバなどに無線LANの電磁波を送りたい場合は、隣室との境界に無線LANの周波数の電磁波を透過できるように設定された仕切体1を設置すればよい。
図7は、コンクリート部M4の厚さdを120mmに固定して、格子間隔Pを60mm,80mm,100mmと変化させた各仕切体M1のモデルに、周波数fを0.0GHz〜2.0GHzまで0.01GHz刻みで変化させてシミュレーションをおこなった結果を示したグラフである。
図7において、格子間隔Pが100mmのグラフ(二点鎖線)と、格子間隔Pが80mmのグラフ(一点鎖線)と、格子間隔Pが60mmのグラフ(実線)とを比較すると、図6で説明した場合と同様に、いずれのグラフも0dBに近い透過のピークを有している。
そして、格子間隔Pが100mmのグラフ(二点鎖線)に着目すると、周波数fが1.6GHzと1.91GHzとなる2箇所、特に周波数f=1.91GHzにおいて、電磁波を減衰させる遮蔽のピークが発生している。
そこで、この遮蔽のピークとなる2つの周波数(1.6GHz,1.91GHz)に着目してさらに検討を進める。
遮蔽のピークについて検証するに際して、まず、遮蔽にピークが存在することを改めて確認する。図8は、前側鉄筋格子M2及び後側鉄筋格子M3の鉄筋径を2mm、格子間隔Pを70mm、コンクリート部M4の厚さdを80mmに設定した仕切体M1の解析モデルを使って、遮蔽のピークが発生することを確認した結果を示している。なお、この解析モデルでは、前側鉄筋格子M2の交差面20b及び後側鉄筋格子M3の交差面30bの位置をコンクリート部4の表面と一致させている。
図8の縦軸のデシベル(dB)の単位で表される透過損失は、正の値が大きくなるほど電磁波が遮蔽されることを示している。この図8から、この解析モデルでは、周波数fが2.25GHz,2.70GHz,3.29GHz,3.96GHz,4.33GHz,4.49GHz,4.64GHz,4.74GHz,4.99GHzとなったときに、離散的に遮蔽のピークが発生することが確認できた。
そして、図5の説明の際に上述したように、電磁波が遮蔽されるときには、前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3を共振方向(y軸方向)と平行な境界とする矩形空洞共振器(導波管)として動作しているといえる。そこで、図9に示すような導波管G1のモデルを使って、電磁波の伝搬方向に略直交する方向(図1の紙面貫通方向、図3のy軸方向)の共振による電磁波の減衰について説明する。
図9の導波管G1のモデルでは、図の上方から下方に向けて電磁波が伝搬する。この導波管G1は、1辺がaの正方形断面の直方体状の方形導波管である。ここで、導波管G1の上面側には、縦筋G21と横筋G22を略直交させた前側鉄筋格子G2による反射面が形成される。さらに、導波管G1の下面側には、縦筋G31と横筋G32を略直交させた後側鉄筋格子G3による反射面が形成される。
この導波管G1の中を軸方向(図9の左右方向)に電磁波が伝わるときに、電界が強い箇所と弱い箇所が交互に発生する。すなわち、図9の濃淡で示したように、導波管G1の軸方向に沿って周期的に電界が分布する。この電界の周期距離(例えば、電界が強い箇所から次の強い箇所までの距離)が管内波長λgになる。そして、管内波長λgは、次の式によって算出できる。
λg=λa/(√(1−(nλa/2d)2)) (3)
ここで、λaはコンクリート部内の波長、nは0を除く正の整数、dはコンクリート部4の厚さ(a)である。
そして、図8で遮蔽のピークが現れた各周波数と管内波長λgと格子間隔P(=70mm)との関係を表2に示す。
この表2に示した結果から、格子間隔Pとほぼ等しい管内波長λgとなる周波数fの電磁波が強く遮蔽されるといえる。
P=λg (4)
そして、式(3)、(4)から次の式が導ける。
P=λa/(√(1−(nλa/2d)2)) (5)
ここで、λaはコンクリート部内の波長、nは0を除く正の整数、dはコンクリート部4の厚さである。
ここで、再び図7に戻って遮蔽のピークとなる2つの周波数(1.6GHz,1.91GHz)に着目してさらに検討を進める。この2つの周波数(1.6GHz,1.91GHz)のコンクリート部内の波長λaと管内波長λgと格子間隔P(=100mm)との関係を表3に示す。
この表3に示した結果からも、格子間隔Pとほぼ等しい管内波長λgとなる周波数fの電磁波が強く遮蔽されるといえる。図7においてfa1として囲ったところは、格子間隔Pが100mmの仕切体1のn=1次の周波数の遮蔽のピークが生じている箇所で、fa2として囲ったところは、格子間隔Pが100mmの仕切体1のn=2次の周波数の遮蔽のピークが生じている箇所である。
これらの結果から、遮蔽させたい電磁波の周波数faと次数nとコンクリート部4の厚さdが特定されれば、式(1)、(5)を使って算出される格子間隔Pに設定された前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3を備えた仕切体1を構築することで、対象周波数faの電磁波を遮蔽させることができる。
例えば、無線LANの電磁波を建物の外部に漏洩させたくない場合は、建物の内外の境界にこの周波数の電磁波を遮蔽できるように設定された仕切体1を設置すればよい。
上記した式(2)又は式(5)の関係式によって算出されるコンクリート部4の厚さd、又は前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3の格子間隔Pは、所定の許容誤差範囲内であれば、対象周波数fm,faの電磁波を透過又は遮蔽させる効果を得ることができる。
このため、実際に仕切体1を構築する際のコンクリート部4の厚さd又は格子間隔Pは、許容誤差範囲内(例えば導体棒の直径以内の誤差)で変更することができる。ここで、導体棒となる縦筋21,31又は横筋22,32の直径以内で格子間隔Pや厚さdを変更できる理由は、実際の電磁波の反射面の位置が導体棒の概ね表面になるためである。
また、許容誤差範囲を、正規分布で仮定した場合の95%信頼区間(標準偏差の2倍)に設定することもできる。さらに、許容誤差範囲をもう少し狭くする場合は、正規分布で仮定した場合の99%信頼区間(標準偏差の3倍)に設定することもできる。反対に、許容誤差範囲をもう少し広くする場合は、正規分布で仮定した場合の68%信頼区間(標準偏差の1倍)に設定することもできる。
次に、本実施の形態の仕切体1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の仕切体1は、壁状又はスラブ状に形成されたコンクリート部4の前面11及び後面12に、複数の縦筋21,・・・と複数の横筋22,・・・とによって格子間隔Pで格子状に形成された前側鉄筋格子2と、これと同様に形成された後側鉄筋格子3とを備えている。
そして、対象周波数fmの電磁波を透過させる場合は、コンクリート部内の波長λmとその次数nとを特定し、これらの値を関係式(2)に代入して算出された値に基づいてコンクリート部4の厚さdを設定する。すなわち、上記した変換式(1)によって仕切体1を透過させたい対象周波数fmの波長λmを算出し、次数nを決める。続いて、関係式(2)を使ってコンクリート部4の厚さdを算出し、その値を基準に所定の許容誤差範囲内で厚さdを設定する。
これに対して、対象周波数faの電磁波を遮蔽させる場合は、コンクリート部内の波長λaとその次数nとコンクリート部4の厚さdとを特定し、これらの値を関係式(5)に代入して算出された値に基づいて前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3の格子間隔Pを設定する。すなわち、上記した変換式(1)によって仕切体1によって遮蔽させたい対象周波数faの波長λaを算出し、次数nとコンクリート部4の厚さdとを決める。続いて、関係式(5)を使って前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3の格子間隔Pを算出し、その値を基準に所定の許容誤差範囲内で格子間隔Pを設定する。
このように、コンクリート部4の厚さd、又は縦筋21,31及び横筋22,32の格子間隔Pを調整することで、対象とする周波数fm,faの電磁波を透過させたり減衰させたりすることができる。このため、仕切体1によって区切られた空間と外部との間で特定の周波数faの電磁波を遮蔽させたい場合や、反対に特定の周波数fmの電磁波を透過させたい場合などに、様々な場所に仕切体1を設置して利用することができる。
このような仕切体1を構築する建物又は部屋として、病院、無線LANが利用可能なオフィス、会議室などが挙げられる。これらの空間には、特定の電磁波のみを遮蔽させたり、透過させたりしたいという要望がある。
例えば、携帯電話や自営無線の電磁波の周波数は、1.5GHz周辺である。オフィスなどで携帯電話の受信をしたい場合は、建物の内外の境界に周波数1.5GHz周辺の電磁波が透過されるように設定された仕切体1を設置すればよい。
これに対して、コンサートホールなどで携帯電話等の電磁波を外部から侵入させたくない場合は、ホールの内外の境界にこの周波数の電磁波を遮蔽できるように設定された仕切体1を設置すればよい。
また、建物の内部にいても携帯電話の電波は受信したいが、無線LANの電波は外部に漏洩させたくない場合など、透過させたい周波数fmの電磁波と遮蔽させたい周波数faの電磁波とがあるときには、コンクリート部4の厚さd並びに前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3の格子間隔Pの両方を調整した仕切体1を配置することによって、周波数fm,faに応じて電磁波を透過させたり遮蔽させたりする制御を行うことができる。
他方、データセンター、サーバルーム、放送スタジオ、撮影スタジオ、空港レーダ管制室、電磁波シールドルームなどのほとんどの電磁波を遮蔽させる必要がある場合にも、コンクリート部4の厚さdや格子間隔Pを調整することで所望する機能が発揮される仕切体1を配置することができる。
また、このような仕切体1は建物の建築現場で直接、構築することができる。さらに、工場や作業ヤードなどで仕切体1を構成するプレキャストパネルを予め製造し、建築現場でプレキャストパネルを組み立てることによって仕切体1とすることもできる。
そして、工場などでプレキャストパネルを製造する方法であれば、正確な格子間隔Pの前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3を、正確な厚さdのコンクリート部4に埋設することが安定的にできる。さらに、コンクリート部4も高品質に形成することができるので、所望する機能を備えた安定した品質の仕切体1を構築することができる。
また、建物の内部の空間R1と外部の空間R2との間を仕切る外壁だけではなく、内部空間の間仕切り壁、床や天井のスラブを仕切体1で形成することができる。
以下、前記実施の形態で説明した仕切体1とは別の形態の仕切体5,5Aについて説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
実施例1の図10に示した仕切体5は、前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3との間に第3の導体部としての網筋53がコンクリート部4に埋設されている。すなわち網筋53は、コンクリート部4の厚さ方向の略中央に前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3とに略平行になるように配置される。
網筋53は、鉛直方向に向けて立設された複数の第3の導体棒としての縦線材531,・・・と、縦線材531に略直角となるように交差する複数の導体棒としての横線材532,・・・とによって格子状に形成される。すなわち、縦線材531,・・・及び横線材532,・・・は、それぞれコンクリート部4の厚さ方向に略直交する方向に一定の間隔(格子間隔P1)を置いて略平行に配置される。また、縦線材531と横線材532には、鋼線、直径の細い鉄筋、又は縦筋21などと同様の鉄筋などが使用できる。
そして、縦線材531と横線材532とが接する面が交差面530となる。また、図10に示すように、前側鉄筋格子2の外側面20aと後側鉄筋格子3の外側面30aとの厚さ方向の距離の略中央に交差面530が位置するように網筋53が配置される。よって、仕切体5の第1の面としての前面51と第2の面としての後面52との距離(厚さd)の半分が、前面51又は後面52と網筋53の交差面530との距離d1になる。
図11は、モデル化された網筋M53が配置された解析モデルを模式的に示した図である。この図11に示すように、モデル化された仕切体M5の両側に内部空間MR1と外部空間MR2がモデル化される。また、仕切体M5の内部空間R1側が前面M51となり、仕切体M5の外部空間MR2側が後面M52となる。そして、コンクリート部M4の前面M51には十字状の前側鉄筋格子M2がモデル化され、後面M52には後側鉄筋格子M3がモデル化されている。そして、コンクリート部M4の略中央に網筋M53がモデル化されている。なお、前側鉄筋格子M2及び後側鉄筋格子M3の鉄筋径は10mmに設定した。また、網筋M53の線材径は2mmに設定した。
図12は、コンクリート部M4の厚さdを120mm、前側鉄筋格子M2及び後側鉄筋格子M3の格子間隔Pを60mmに固定して、網筋M53の格子間隔P1を15mm,20mm,30mm,60mmと変化させた各仕切体M5のモデルに、周波数fを0.0GHz〜2.0GHzまで0.01GHz刻みで変化させてシミュレーションをおこなった結果を示したグラフである。なお、比較のために網筋M53を配置しない場合の解析結果も併せて図示した。
図12において、実線で示した網筋を配置しない場合(仕切体1の解析結果)と、その他の網筋53を配置した場合(仕切体5の解析結果:一点鎖線はP1=60mm、二点鎖線はP1=30mm、破線はP1=20mm、点線はP1=15mm)とを比較すると、網筋M53を配置することによってはっきりとしたn=1次の透過のピークが消滅していることがわかる。
この結果を図10と図1とを比較しながら説明すると、次数nが奇数(n=1,3,・・・)の電磁波の波長λmの共振が、網筋53が配置されることによって消滅し、網筋53の交差面530と共振の節が一致する次数nが偶数(n=2,4,・・・)の電磁波の波長λmの共振のみが残ったといえる。すなわち、コンクリート部4の厚さdを(N=)2等分する位置に網筋53を配置した場合、2×n次以外の奇数次の波長λmは、網筋53が配置されるコンクリート部4の中央に共振の開放面が位置するため、共振が抑制されたものと考えられる。
また、網筋53が配置された解析結果の間で比較すると、網筋53を配置した場合でも、網筋53の格子間隔P1を変化させることによって、透過のピークの状態を変えることができることがわかった。すなわち、図12に示すように、網筋53を配置した場合は、1次の透過のピークが2次の透過のピークに近づき、網筋53の格子間隔P1の大きさによっては、2つのピークが合体して一つとみなせる幅のあるピークに変化している場合がある。
ここで、電磁波が透過しているか否かを判定するための閾値を-10dBとして、透過特性が-10dB以上になる状態を電磁波が透過する場合とすると、図12に示すように、格子間隔P1が30mmのグラフ(二点鎖線)、格子間隔P1が20mmのグラフ(破線)及び格子間隔P1が15mmのグラフ(点線)では、1次の透過のピークと2次の透過のピークとが合体して幅のあるピークに変化しているといえる。
そして、2次の透過のピークが現れる1.16GHzの波長λmは、表1に記載したように124.7mmであり、格子間隔P1=30mmと波長λmの比は30/124.7=0.24となる。すなわち、網筋53の格子間隔P1を、波長λmの1/4以下にすることによって、透過可能な2次(偶数次)の周波数fmの帯域幅を広げることができるといえる。
このように前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3の間に、適切に格子間隔P1が設定された網筋53を配置することで、対象周波数fmの周辺領域にまで広げた周波数帯の電磁波を透過させることが可能な仕切体5に設定できることがわかった。
透過させる周波数帯の幅を広げることができれば、比誘電率や寸法誤差などの不確定要因による誤差が発生しても、対象周波数fmの電磁波を透過させることができる。
以下では、図13に示すように複数の導体部(網筋53A,網筋53B)が配置された仕切体5Aについての検討をおこなう。
この網筋53A,53Bは、コンクリート部4の厚さ方向に等間隔に配置される。すなわち、仕切体5Aの前面51と後面52との距離(厚さd)を(N=)3等分した距離が、前面51と網筋53Aの交差面530A、網筋53A,53Bの交差面530A,530B間及び網筋53Bの交差面530Bと後面52との距離d1になる。
図14は、コンクリート部4の厚さdを120mm、前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3の格子間隔Pを60mm、網筋53A,53Bの格子間隔P1を15mmに設定した仕切体5Aのモデルに、周波数fを0.0GHz〜2.0GHzまで0.01GHz刻みで変化させてシミュレーションをおこなった結果を示したグラフ(二点鎖線)である。なお、比較のために網筋53を配置しない場合(仕切体1の解析結果:実線)と一枚の網筋53を配置した場合(仕切体5の解析結果:一点鎖線)のグラフも併せて図示した。
図14において、実線で示した網筋を配置しない場合と、一点鎖線又は二点鎖線で示した網筋53,53A,53Bを配置した場合とを比較すると、網筋53,53A,53Bを配置することによってn=1次の透過のピークが消滅していることがわかる。
また、一枚の網筋53を配置した場合(一点鎖線)と、二枚の網筋53A,53Bを配置した場合(二点鎖線)とを比較すると、二枚の網筋53A,53Bを配置することによって、n=2次の透過のピークも消滅することがわかる。
このように前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3の間に二枚の網筋53A,53Bが配置された仕切体5Aは、1次と2次の波長λmの共振が抑制されて、図13に示すように共振の節が交差面530A,530Bと一致する3次の波長λmの共振のみが残ったといえる。すなわち、コンクリート部4の厚さdを(N=)3等分する位置にそれぞれ網筋53A,53Bを配置した場合、3×n次以外の次数の波長λmを消滅させることができる。
これらの結果から、コンクリート部4の厚さd、言い換えると前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3間の距離をN等分する位置に網筋53(53A,53B)を配置することによって、N×n次以外の透過のピークを消滅させる制御をおこなうことができる。
そして、二枚の網筋53A,53Bが配置された仕切体5Aは、他のケースと比べて3次の透過のピークの帯域幅が広がっている。すなわち、図14に示すように、透過特性が-10dBの大きさでの周波数帯の幅は、二枚の網筋53A,53Bが配置された仕切体5Aのグラフが最も広くなっている。
このように複数の網筋53A,53Bを配置することによって、1次と2次の透過のピークを消滅させることができるうえに、3次の透過のピークの帯域幅を広げることができることがわかった。例えば、1次と2次の透過のピーク周辺の電磁波は透過させたくなく、透過させたい電磁波の周波数fmが3次の透過のピーク周辺である場合は、前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3の間に複数の網筋53A,53Bを配置して調整することによって、比誘電率の設定や寸法に誤差があったとしても対象周波数fmの電磁波を透過させる制御を行うことができる。
ここまでは、網筋53,53A,53Bを配置することによって電磁波の透過のピークを消滅させる制御について説明してきたが、以下では図15を参照しながら、遮蔽のピークを消滅させる制御について説明する。
図15は、コンクリート部4の厚さdを120mm、前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3の格子間隔Pを100mm、網筋53の格子間隔P1を100mmに設定した仕切体5のモデルに、周波数fを0.0GHz〜2.0GHzまで0.01GHz刻みで変化させてシミュレーションをおこなった結果を示したグラフ(一点鎖線)である。なお、比較のために網筋53を配置しない場合(仕切体1の解析結果:実線)のグラフも併せて図示した。
図15において、実線で示した網筋を配置しない場合(仕切体1の解析結果)は、1次と2次の2箇所に遮蔽のピークが現れている。これと比べて網筋53を配置した場合(仕切体5の解析結果:一点鎖線)は、n=1次の遮蔽のピークが消滅していることがわかる。これは、網筋53をコンクリート部4の厚さ方向の略中央に配置したことによって、導波管の奇数次のモードの共振が抑制されたためであると考えられる。
このように仕切体5に網筋53を配置することによって、遮蔽のピークを消滅させる制御をおこなうことができる。例えば、1次の遮蔽のピーク周辺の電磁波は透過させたく、遮蔽させたい電磁波の周波数faが2次の遮蔽のピーク周辺のみの場合は、前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3の間に網筋53を配置して調整することによって、対象周波数faの電磁波のみを遮蔽させる制御をおこなうことができる。
また、この実施例1では、1枚又は2枚の網筋53,53A,53Bを配置する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3枚以上の第3の導体部を前側鉄筋格子2と後側鉄筋格子3との間に等間隔に配置することもできる。
なお、実施例1のこの他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるため説明を省略する。
以下、前記実施の形態で説明した仕切体1の効果を確認した解析例について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
まず、宇宙研究用の周波数1.8GHzの電磁波を透過させ、電気通信業務で使用される周波数2.25GHzの電磁波を遮蔽するための仕切体1について説明する。周波数1.8GHzの2次の電磁波を透過させるには、コンクリート部内の波長λm=80.32mm、n=2となるため、式(2)にこれらの数値を代入すると、コンクリート部4の厚さd=80.3mmが算出される。そこで、コンクリート部4の厚さdを80mmに設定する。
一方、周波数2.25GHzの1次の電磁波を遮蔽させるには、コンクリート部内の波長λa=64.25mm、n=1となるため、これらの数値とd=80mmとを式(5)に代入すると、格子間隔P=70.2mmが算出される。
そこで、前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3の鉄筋径を2mm、格子間隔Pを70mm、コンクリート部4の厚さdを80mmに設定した仕切体1について解析をおこない、縦軸を透過損失にして解析結果を図16に示した。
この図16によれば、周波数1.8GHzの電磁波は透過損失が1.4dBと小さく透過といえる状態にあり、周波数2.25GHzの電磁波は透過損失が12.0dBと大きく遮蔽といえる状態になっていることがわかる。
この結果、式(2)及び式(5)から算出された厚さdと格子間隔Pに基づいて、コンクリート部4の厚さdと前側鉄筋格子2及び後側鉄筋格子3の格子間隔Pを設定すれば、宇宙研究用の周波数1.8GHzの電磁波を透過させ、電気通信業務で使用される周波数2.25GHzの電磁波を遮蔽することが可能な仕切体1を構築することができる。
続いて、携帯電話の周波数1.5GHzの電磁波を透過させ、無線LANの周波数2.4GHzの電磁波を遮蔽するための仕切体1について説明する。周波数1.5GHzの1次の電磁波を透過させるには、コンクリート部内の波長λm=96.38mm、n=1となるため、式(2)にこれらの数値を代入すると、コンクリート部4の厚さd=48.2mmが算出される。そこで、コンクリート部4の厚さdを48.2mmに設定する。
一方、周波数2.4GHzの1次の電磁波を遮蔽させるには、コンクリート部内の波長λa=60.24mm、n=1となるため、これらの数値とd=48.2mmとを式(5)に代入すると、格子間隔P=77.2mmが算出される。そこで、コンクリート部4の厚さdを48mmに設定するとともに、格子間隔Pを77mmに設定する。
そして、厚さdを48mm、格子間隔Pを77mmに設定した仕切体1の解析を、上述したケースと同様の条件でおこなった結果、携帯電話の周波数1.5GHz周辺の電磁波を透過させ、無線LANの周波数2.4GHz周辺の電磁波を遮蔽する解析結果が得られた。
反対に、無線LANの周波数2.4GHzの電磁波を透過させ、携帯電話の周波数1.5GHzの電磁波を遮蔽するための仕切体1について説明する。周波数2.4GHzの2次の電磁波を透過させるには、コンクリート部内の波長λm=60.24mm、n=2となるため、式(2)にこれらの数値を代入すると、コンクリート部4の厚さd=60.2mmが算出される。そこで、コンクリート部4の厚さdを60.2mmに設定する。
一方、周波数1.5GHzの1次の電磁波を遮蔽させるには、コンクリート部内の波長λa=96.38mm、n=1となるため、これらの数値とd=60.2mmとを式(5)に代入すると、格子間隔P=160.8mmが算出される。そこで、コンクリート部4の厚さdを60mmに設定するとともに、格子間隔Pを160mmに設定する。
そして、厚さdを60mm、格子間隔Pを160mmに設定した仕切体1の解析を、上述したケースと同様の条件でおこなった結果、無線LANの周波数2.4GHz周辺の電磁波を透過させ、携帯電話の周波数1.5GHz周辺の電磁波を遮蔽する解析結果が得られた。
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施の形態及び実施例1では、格子状に形成された導体部(前側鉄筋格子2、後側鉄筋格子3、網筋53,53A,53B)について説明したが、これに限定されるものではなく、網目状の導体部であってもよい。また、鉛直方向や水平方向など厚さ方向に略直交する任意のいずれか一方向に向けた複数の平行な導体棒のみによって導体部を構成することもできる。
電磁波は、例えば水面に反射すると水平偏波が主成分になるため、このような電磁波を遮蔽又は透過させる場合は、横筋22,32だけで形成された導体部であっても充分に機能させることができる。同様に、壁などの近くで垂直偏波が主成分となった電磁波を遮蔽又は透過させる場合は、縦筋21,31だけで形成された導体部であっても充分に機能させることができる。
また、前記実施の形態及び実施例1では、空間R1から空間R2に向けて伝搬される電磁波を例に説明したが、これに限定されるものではなく、空間R2から空間R1に向けて伝搬される電磁波を対象とする場合にも同様の考え方によって仕切体1,5,5Aを配置すればよい。
さらに、前記実施の形態及び実施例1では、前側鉄筋格子2の横筋22を縦筋21に対して後側鉄筋格子3側に配置したが、これに限定されるものではなく、縦筋21に対して空間R1側に横筋22を配置してもよい。同じく、後側鉄筋格子3の横筋32を縦筋31に対して空間R2側に配置してもよい。
また、図1,10,13では、前側鉄筋格子2の横筋22の位置と後側鉄筋格子3の横筋32の位置とを同じ高さに揃えて記載したが、これに限定されるものではなく、前後の鉄筋格子又は網筋との関係で伝搬方向に直交する上下方向又は左右方向の位置がずれていてもほとんど同じ効果を得ることができるので、揃っていなくてもよい。
1 仕切体
11 前面(第1の面)
12 後面(第2の面)
2 前側鉄筋格子(第1導体部)
21 縦筋(導体棒)
22 横筋(導体棒)
3 後側鉄筋格子(第2導体部)
31 縦筋(導体棒)
32 横筋(導体棒)
4 コンクリート部(媒質部)
5,5A 仕切体
51 前面(第1の面)
52 後面(第2の面)
53 網筋(第3導体部)
531 縦線材(導体棒)
532 横線材(導体棒)
m,fa 対象周波数
λ,λa 波長
P,P1 格子間隔(間隔)
d 厚さ
1 距離

Claims (6)

  1. 所定の伝搬方向に伝搬される対象周波数の電磁波を減衰又は透過させるための選択的な設定がされた仕切体であって、
    前記伝搬方向を厚さ方向とする壁状又はスラブ状に形成され媒質部と、
    前記媒質部の前記厚さ方向の第1の面に、前記厚さ方向に略直交する方向に一定の間隔Pを置いて配置され複数の第1の導体棒によって形成され第1導体部と、
    前記媒質部の前記厚さ方向の第2の面に、前記第1の導体棒と略同じ方向に向けて同じ間隔Pを置いて配置され複数の第2の導体棒によって形成され第2導体部とを備え、
    前記対象周波数の電磁波を透過させる場合は、前記媒質部内の波長λmとその次数n(nは0を除く正の整数)とから前記媒質部の厚さdをd=nλm/2によって算出し、前記対象周波数の電磁波を減衰させる場合は、前記媒質部内の波長λaとその次数n(nは0を除く正の整数)と前記媒質部の厚さdとから前記間隔PをP=λa/(√(1−(nλa/2d)2))によって算出し、算出された値を基準に、許容誤差範囲を正規分布を仮定した場合の95%信頼区間とした範囲内で前記媒質部の厚さd又は前記間隔Pが設定されているとともに、
    前記第1導体部と前記第2導体部との前記厚さ方向の間に、前記厚さ方向に略直交する方向に一定の間隔P 1 を置いて配置された複数の第3の導体棒によって形成された単数又は複数の第3導体部を備え、前記厚さ方向の導体部間の距離d が略同じになるように設定されており、かつ前記第3導体部の間隔P 1 は、前記媒質部内の波長λ m ,λ a の1/4以下に設定されていることを特徴とする仕切体。
  2. 前記第1導体部は、前記第1の導体棒に略直交して前記間隔Pを置いて配置され複数の導体棒を有して略正方形の目の格子に形成されているとともに、
    前記第2導体部は、前記第2の導体棒に略直交して前記間隔Pを置いて配置され複数の導体棒を有して略正方形の目の格子に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の仕切体。
  3. 前記対象周波数の電磁波を減衰させる場合の前記関係式は、λa/Pが1より小さい場合に適用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の仕切体。
  4. 前記第3導体部は、前記第3の導体棒に略直交して前記間隔P1を置いて配置され複数の導体棒を有して略正方形の目の格子に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の仕切体。
  5. 前記媒質部が、コンクリート、モルタル、石こう、木材、ガラス、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合物、四フッ化エチレン、パラフィン、ウレタン、エポキシ、塩化ビニール、シリコン、ベークライト、発泡スチロール、紙又はゴムのいずれかの材料によって成形されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の仕切体。
  6. パネル状に成形されたことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の仕切体。
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