機関始動時に冷却水の通水を停止する技術思想は、機関暖機を促進し、また電力資源等の消費を抑制し得る点において有効である。即ち、冷却水の通水を停止せずに常時循環させてしまうと、ラジエータ等の放熱手段を経由せずとも内燃機関が発した熱の一部は車両外に逃げ、暖機効率が低くなる。また電動W/Pにせよ機械式W/Pにせよ、然るべきエネルギ資源を利用して駆動される点に鑑みれば、冷却水の不要な通水はエネルギ資源の浪費となりかねない。機関始動時における通水の停止措置(以下、係る措置を適宜「始動時通水停止措置」と称する)は、これらの問題を解決に導き得る。
一方、始動時通水停止措置が行われる場合、然るべきタイミングで始動時通水停止措置を解除して冷却水の通水を開始する必要がある。特に、機関暖機を促進しつつ、機関生成熱の一部を本体部の外側(機関外部)に位置する他の装置の暖機に利用する制御を考えた場合、当該制御の効果を事前に期待された通りに発揮せしめるためには、冷却水の通水開始時期が重要である。また、この通水開始時期を冷却水温に基づいて決定することは至極妥当であり、通水開始タイミングを適切に定め得るか否かは、結局の所、冷却水温の検出精度に依存する。
ところで、機関停止時において、冷却水は冷却水路内に滞留したままである。このため、機関始動時における冷却水温には冷却水路の部位による局所的な偏りがあり、例えば、機関内部と機関外部とで異なる場合が多い。即ち、ある検出位置における冷却水温の検出精度は、始動時通水停止措置の実行期間において必ずしも十分でない。検出精度が担保されない冷却水温に基づいて通水開始時期を決定してしまうと、通水開始時期が毎回異なったり、或いは毎回低温側又は高温側にずれたりするため、通水開始時期を最適な時期に安定して維持することが困難となる。
ここで、機関内部(例えば、シリンダヘッドやシリンダブロックを経由するウォータジャケット)における冷却水温を直接検出することは一般に容易でない。このため、冷却水温は、多くの場合、特許文献1に開示されるようにシリンダヘッド出口部分等の機関外部で検出される。このように冷却水温を検出する手段が機関外部の冷却水路に設けられる場合、検出される冷却水温は、機関内部における冷却水温よりも低い可能性が高い。従って、検出される冷却水温が所定温度に達したことを以って通水が開始される場合、通水の開始時期は、ある基準に従って決定される最適時期に対して遅れ易い。その結果、他の装置の暖機等に冷却水を利用する場合には他の装置の暖機が遅れ、機関冷却のために冷却水を通水しようとした場合には機関冷却が遅れ易い。
他方、係る問題に対しては、上記特許文献に開示されるように、機関始動時において、始動時通水停止措置に先んじて電動W/Pや機械式W/P等の流体吐出手段により冷却水を通水する措置(以下、適宜「始動時通水措置」と称する)を講じるのが効果的である。始動時通水停止措置に先んじて始動時通水措置を実施することにより、冷却水温分布の均一化が望めるからである。
しかしながら、始動時通水停止措置の前段階としてなされる始動時通水措置の終了時期(即ち、始動時通水停止措置の開始時期)を設定するにあたっては、冷却水温が均一化されたか否かを判断する手段が必要となる。このような手段を有さぬ場合、始動時通水措置を適切なタイミングで終了させることができず、例えば、未だ冷却水温に偏りがある状態で始動時通水停止措置が開始されたり、冷却水温が既に十分に均一化されたにもかかわらず始動時通水措置が終了しなかったりといった問題が別途生じるからである。即ち、単に始動時通水措置を行うだけでは、始動時通水停止措置の終了タイミングの最適化を図る場合と同様の問題が生じ、根本的な解決にならない。
このような観点から上記特許文献に開示されるものを含む従来技術をみると、始動時通水措置の実行期間を適切に定め得るものは存在しない。ある固定の通水時間が経過したことをもって始動時通水停止措置への移行がなされるものについてもこれは当てはまる。即ち、定性的には、始動時通水措置の実行期間が長い程、冷却水温の偏りは解消され得るが、ある固定された経過時間の後に残存する偏りの度合いや分布は、機関始動時に生じていた偏り又は分布に応じて毎回異なる。従って、始動時通水措置を所定時間実行する構成では、冷却水温の偏りがどの程度解消されたかを知ることは出来ないのである。
このように始動時通水措置の終了時期を適切に定めることができない結果として、従来、始動時通水停止措置により得られる暖機促進効果やエネルギ消費節減効果は必ずしも十分でない。
本発明は、係る問題点に鑑みてなされたものであり、機関始動時において冷却水温の偏り解消を目的とした始動時通水措置を適切な期間行い得る冷却装置の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る冷却装置の制御装置は、冷却水の通水を行うための冷却水路と、前記冷却水の通水量を調整可能な調整手段とを備え、前記冷却水路が更に、シリンダブロック及びシリンダヘッドを含む内燃機関の本体部を冷却するための機関内冷却水路を含んでなる冷却装置と、前記冷却水路の前記機関内冷却水路以外の水路部分である機関外冷却水路における冷却水温を検出可能な水温検出手段とを備えた車両において前記冷却装置を制御する、冷却装置の制御装置であって、前記検出された冷却水温の変動幅を特定する変動幅特定手段と、前記調整手段を介して、前記内燃機関の始動時に前記通水を行い、前記検出された冷却水温が所定値以下であり且つ前記特定された変動幅が第1基準値以下である場合に前記通水を停止する通水制御手段とを具備することを特徴とする(請求項1)。
本発明に係る冷却装置は、冷却水路と調整手段とを備え、内燃機関を含む被冷却体を当該冷却水路への冷却水の(例えば、LLC)通水により冷却可能な装置を包括する概念である。冷却水路は、シリンダブロック及びシリンダヘッドを含む本体部を冷却するための機関内冷却水路(例えば、ウォータジャケット)と、それ以外の機関外冷却水路とに大別される。
機関内冷却水路の物理的構成は多様である。例えば、機関内冷却水路において、シリンダブロックを冷却するための冷却水路とシリンダヘッドを冷却するための冷却水路とは相互いに独立していてもよい。この場合、好適には、本体部への入口部分で機関外冷却水路が二系統に分岐し各機関内冷却水路に接続されると共に、本体部からの出口部分で各機関内冷却水路が合流して機関外冷却水路に接続されてもよい。或いは、機関内冷却水路において、シリンダブロックを冷却するための冷却水路とシリンダヘッドを冷却するための冷却水路とは共用されていてもよい。この場合、好適には、一本の冷却水路がシリンダブロック(又はシリンダヘッド)及びシリンダヘッド(又はシリンダブロック)を順次通過する構成とされてもよい。
機関外冷却水路の物理的構成も多様である。例えば、機関外冷却水路は、ラジエータを経由する冷却水路とラジエータを経由しない冷却水路とを有していてもよい。またこの場合、ラジエータを経由しない冷却水路に、EGR装置等の被冷却体の一部を冷却するための冷却水路が含まれていてもよい。
調整手段は、冷却水路における冷却水の通水量を調整可能な手段を包括する概念であり、その実践的態様は多様である。
調整手段は、例えば、電動W/Pや機械式W/P等、冷却水路における冷却水の循環速度や循環量を制御する流体吐出装置を含んでいてもよい。或いは、調整手段は、冷却水路上に適宜設けられ、冷却水の通水に使用される冷却水路を選択したり、冷却水路の流路面積を変化させたりすることが可能な、CCV等の各種弁装置を含んでいてもよい。この弁装置は、例えば、被冷却体に通ずる各種冷却水路に適宜設けられた弁を機械的又は電気的に駆動することにより、当該冷却水路の流路面積を二値的、段階的又は連続的に変化させ得る構成を有していてもよい。無論、調整手段はこれら双方を含んで構成されていてもよい。
本発明に係る冷却装置の制御装置によれば、変動幅特定手段及び通水制御手段の作用により上述した問題点が解決される。
即ち、変動幅特定手段は、水温検出手段により検出される冷却水温の変動幅を特定する。変動幅とは、変動の度合いであり、即ち、本発明は、始動時通水措置が行われた場合に冷却水温が略周期的に変動する点を見出した上でなされたものである。この冷却水温の時間的変動は、大略的には始動時通水措置の実行時間が長い程収束する傾向があり、その度合いとしての変動幅が小さくなる傾向がある。
通水制御手段は、機関始動時に通水を行う(即ち、始動実通水措置を実行する)と共に、検出される冷却水温が所定値以下である状況において当該変動幅が第1基準値以下である場合に、始動時通水措置を停止する。即ち、通水制御手段は、始動時通水措置により冷却水温が安定したか否かを、冷却水温と直接的な関連性を有する数値的指標としての変動幅に基づいて判定し、冷却水温が安定したことをもって始動時通水措置を停止する。従って、本発明に係る冷却装置の制御装置によれば、冷却水温の偏りを解消するための始動時通水措置を、過不足の無い適切な期間について行うことが可能となるのである。
尚、通水制御手段の採り得る手法には大別二種類ある。一方は、特定される変動幅が第1基準値以下となるまで始動時通水措置を継続する手法であり、他方は、予め実験的に、経験的に又は理論的に定められた基準時刻(好適には、始動時通水措置の開始時刻を基準とする相対時刻である)における当該変動幅が第1基準値以下である場合に始動時通水措置を終了する手法である。前者は始動時通水停止措置の実行を前提とした手法であり、後者は始動時通水停止措置により得られる現実的利益を考慮した手法である。例えば、後者においては、基準時刻に変動幅が第1基準値より大きければ始動時通水停止措置により効能が所定以上に薄れるものとして、始動時通水停止措置を実行しない等の措置が講じられ得る。この場合の通水量は、始動時通水措置に準じた通水量であってもよいし、機関暖機後に通常行われる通水制御に準じた通水量であってもよい。
尚、変動幅特定手段が冷却水温の変動幅を特定するにあたっての実践的態様は特に限定されない。例えば、変動幅特定手段は、一定又は不定の周期で取得した冷却水温の検出値を過去複数サンプルにわたって保持し、一変動周期における最大値及び最小値の偏差を算出し変動幅としても扱ってもよい。或いは、冷却水温の時間変動波形を公知の各種手法に基づいてパターン解析し、変動の度合いを示す評価値を求め、当該評価値を変動幅としてもよい。
尚、通水制御手段が始動時通水措置を終了する際の判断基準の一部をなす、冷却水温の「所定値」とは、概念上は数値的な限定を必要としないが、好適には始動時通水停止措置の必要性に鑑みて設定される値である。即ち、例えば、機関始動時に内燃機関が既に十分な暖機状態にある場合、元より始動時通水停止措置の必要性は低く、機関冷却の意味から言えば通水の必要性が高い。従って、機関暖機が完了したと判定され得る程度の高温領域に属する温度値(例えば、摂氏70〜90度程度)は、当該所定値としては必ずしも適当ではない。一方、例えば、冷間始動時等、機関暖機の重要性が相対的に高い状況においては、始動時通水停止措置の必要性は高い。従って、冷間始動に属する温度値(例えば、摂氏数度以下の領域に属する温度値)は、当該所定値としては好適である。
本発明に係る冷却装置の制御装置の一の態様では、前記機関外冷却水路は、EGR管を冷却するためのEGR冷却水路を含み、前記冷却装置の制御装置は、前記通水が停止された後の前記機関内冷却水路における冷却水温を推定する推定手段を更に具備し、前記通水制御手段は、前記推定された冷却水温が排気露点温度以上である場合に、少なくとも前記機関内冷却水路及び前記EGR冷却水路に対し前記通水を行う(請求項2)。
この態様によれば、機関外冷却水路は、EGR冷却水路を含む。このEGR冷却水路は、例えば、好適な一形態として、ラジエータ等の放熱手段を経由することなく機関内冷却水路との間で通水を行い得る水路として構築されていてもよい。
この態様によれば、推定手段により、始動時通水停止措置の実行期間における冷却水温が推定される。具体的には、始動時通水措置が終了した時点、即ち、冷却水温の偏りが解消された時点における冷却水温の検出値を初期値として、内燃機関で発生する熱量と、熱量と冷却水温との関係(比熱や熱伝導特性等)とに基づいて冷却水温の変化が逐次計算される。水温検出手段により冷却水温の検出値は、始動時通水停止措置の実行期間が長くなる程、先に述べた局所的な偏りにより信頼性が低下するが、冷却水温の推定精度は安定的であり、冷却水の推定精度は水温検出手段の検出精度と較べて高く維持され得る。補足すると、始動時通水措置は、この推定プロセスの初期値を正確に与えることができる。冷却水温に偏りが残存している状況では、この初期値の精度が低く、始動時通水停止措置開始以後の冷却水温推定プロセスが如何に正確に行われようと、推定される冷却水温に十分な精度が担保され難いのである。
一方、本態様によれば、このようなプロセスにより推定される冷却水温が排気露点温度以上である場合に、少なくとも機関内冷却水路及びEGR冷却水路に対する通水が開始される。機関内冷却水路は熱源であり、EGR冷却水路は局所的な暖機対象である。即ち、EGR装置を構成するEGR管内、特に、EGR弁上流側(排気管側)には、機関始動と共に排気が導かれるが、冷間始動時等において、EGR管はシリンダブロックやシリンダヘッド等の本体部と較べて冷たいことが多く、EGR管の壁面に接触する排気の一部は冷却され、凝縮水を生じ易い。排気露点温度とは、この凝縮水が発生する温度として予め実験的に、経験的に又は理論的に定められる。
この態様によれば、始動時通水停止措置において内燃機関の発生熱を効率的に蓄えた冷却水を、EGR装置の暖機に使用することができるため、EGR装置の暖機を促進することができる。ここで特に、排気露点温度は、一般的に機関暖機が完了したと判定され得る温度(このような判定が実際になされるか否かとは関係ない)よりも低温側にあり、本態様によりEGR冷却水路への通水が開始される時期は、機関暖機にリンクして冷却水路全体に冷却水の通水が開始される時期よりも早い。従って、本態様によれば、EGR装置を一早く暖機することができ、EGRガスを吸気系に早期に導入することが可能となる。従って、とりわけ冷間始動時におけるエミッション抑制に効果的である。
本発明に係る冷却装置の制御装置の他の態様では、前記通水制御手段は、前記検出された冷却水温が所定値以下であり且つ前記特定された変動幅が前記第1基準値よりも大きい第2基準値以上である場合に前記通水の停止を禁止する(請求項3)。
この態様によれば、冷却水温の変動幅が第2基準値(第2基準値>第1基準値)以上である場合には、始動時通水停止措置が禁止される。即ち、始動時通水措置が継続される。変動幅が大き過ぎる場合、冷却水温の偏りが大き過ぎるため、始動時通水停止措置以降の上述した冷却水温推定プロセスに正確な初期値が与えられない可能性が高い。このような場合については、始動時通水停止措置を禁止することによって、始動時通水停止措置以降になされ得る各種の制御(例えば、上記EGR冷却水路への通水等)の信頼性を確保することが可能となる。
尚、本態様の好適な一態様として、通水制御手段は、基準時刻における変動幅が第2基準値以上である場合に始動時通水停止措置を禁止してもよい。始動時通水措置は始動時通水停止措置を行うための措置であり、また始動時通水停止措置も始動時における過渡的一期間の制御であるところ、無用に長時間にわたって始動時通水措置を継続する必要性は低いからである。
本発明に係る冷却装置の制御装置の他の態様では、前記通水制御手段は、前記始動時における前記内燃機関のソーク時間が所定値未満である場合に前記通水を行う(請求項4)。
ソーク時間が十分にあれば、内燃機関全体が冷却されていることから、冷却水路における冷却水の温度分布は小さくなる。従って、始動時通水停止措置は、ソーク時間が相対的に短い状況において実行されればよい。この態様によれば、ソーク時間が所定値未満である場合に始動時通水措置が行われる。言い換えれば、ソーク時間が所定値以上である場合には始動時通水措置が行われず始動開始時点において始動時通水停止措置が実行される。従って、始動時通水措置による機関暖機効果の低下を抑制し、機関暖機を可及的に促進して燃費やエミッションにおける利得を最大限に得ることが可能となる。
本発明に係る冷却装置の制御装置の他の態様では、前記通水制御手段は、前記通水が停止されている期間における前記内燃機関の一時停止期間が所定値以上となる場合に、再度前記通水を行う(請求項5)。
内燃機関は、搭載される車両の構成によっては、レディオン始動(運転者の意思に基づいた始動であり、例えばイグニッション操作等に伴う始動を意味する)後に適宜一時停止することがある。例えば、アイドリングストップ機能が付帯する構成においては、交差点等における一時停止期間において内燃機関も一時停止することがある。
この態様によれば、始動時通水停止措置の実行期間における、この内燃機関の一時停止期間が参照され、この一時停止期間が所定値以上となる場合には、始動時通水措置が再度実行される。従って、一時停止期間が長過ぎて冷却水温に再び相応の温度分布が生じたとしても冷却水温の推定精度を担保することが出来る。
本発明に係る冷却装置の制御装置の他の態様では、前記通水制御手段は、前記通水が停止されている時間が所定値以上となる場合に、再度前記通水を行う(請求項6)。
始動時通水停止措置の実行期間においては、上述したように始動時通水停止措置を開始した時点の冷却水温を初期値とした推定プロセスにより、冷却水温の推定精度は担保され得るが、水温推定プロセスにおける推定誤差は時間積分されるため、停止期間が長過ぎる場合には、その推定精度の低下傾向も大きくなる。
この態様によれば、始動時通水停止措置の実行期間が所定値以上となる場合には、始動時通水措置が再度実行される。従って、冷却水温の推定精度を担保することが出来る。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムのブロック図である。
図1のエンジンシステムにおけるエンジンの概略断面図である。
冷却装置の動作モードと冷却水温との関係を例示する図である。
図1のエンジンシステムにおいて実行される始動時通水制御のフローチャートである。
図4の制御において参照される水温変動幅Vtclの概念図である。
図1のエンジンシステムにおいて実行される初期化制御のフローチャートである。
<発明の実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10のブロック図である。
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載されるシステムであり、ECU(Electronic Control Unit)100、エンジン200、EGR装置300、水温センサ400及び冷却装置500を備える。
ECU100は、図示せぬCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジンシステム10の動作全体を制御可能に構成された、本発明に係る「冷却装置の制御装置」の一例たるコンピュータ装置である。
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)である。ここで、図2を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、エンジン200の概略断面図である。尚、図2において、図1と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、エンジン200は、金属製のシリンダブロック201Aを有する。シリンダブロック201Aの内部には、略円筒状のシリンダ201が形成されている。
このシリンダ201の内部に形成される燃焼室には、直噴インジェクタ202の燃料噴射弁の一部が露出しており、燃焼室に燃料の高圧噴霧を供給可能に構成されている。シリンダ201の内部にはピストン203が往復運動可能に設置されており、圧縮行程において燃料(軽油)と吸入空気との混合気が自着火することによって生じるピストン203の往復運動は、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換される構成となっている。
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転角であるクランク角θcrを検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。クランクポジションセンサ206は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたクランク角θcrは、一定又は不定の周期でECU100に供出される構成となっている。ECU100は、クランクポジションセンサ206によって検出されたクランク角θcrに基づいて、直噴インジェクタ202の燃料噴射時期等を制御する構成となっている。また、ECU100は、この検出されたクランク角θcrを時間処理することによって、エンジン200の機関回転数NEを算出可能に構成されている。
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、絞り弁208及び吸気ポート209を順次介し、吸気バルブ210の開弁時にシリンダ201の内部に吸入される。
シリンダ201内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ211の開弁時に排気ポート212を介して排気管213に導かれる構成となっている。この排気ポート212及び排気ポート212と排気管213との間に介装された排気マニホールド(図示略)は、シリンダヘッド201Bに収容されている。
排気管213には、金属材料で構成されたEGR管320の一端部が接続されている。このEGR管320の他端部は、絞り弁208下流側において吸気ポート209に連結されており、排気の一部は、EGRガスとして吸気系統に還流される構成となっている。
EGR管320には、EGRクーラ310が設けられている。EGRクーラ310は、EGR管320に設けられた、EGRガスの冷却装置であり、冷却水が封入されたウォータジャケットが周囲に張り巡らされ、この冷却水との熱交換を行うことによってEGRガスを冷却可能に構成されている。
更に、EGR管320における、このEGRクーラ310の下流側には、EGR弁330が設けられている。EGR弁330は電磁駆動弁であり、ECU100を介してなされるソレノイドへの通電により弁開度が連続的に変化する構成となっている。EGR管310を流れるEGRガスの流量、即ち、EGR量は、吸気管207と排気管213との差圧とこの弁開度とに応じて連続的に変化する。
EGR管310、EGRクーラ320及びEGR弁330は、エンジンシステム10に備わるEGR装置300を構成する。EGR装置300は、本発明に係る「EGR装置」の一例である。
尚、EGR装置の構成は図示するもの以外にも各種のものが適用可能である。例えば、本実施形態に係るEGR装置300は、燃焼直後の排気が還流される構成(即ち、HPL(High Pressure Loop)EGR)としたが、不図示のDPF(Diesel Particulate Filter)等の排気浄化装置の下流側において排気が取り出される構成(即ち、LPL(Low Pressure Loop)EGR)であってもよい。
尚、本実施形態に係るエンジン200は圧縮自着火型内燃機関として構成されるが、本発明に係る「内燃機関」の採り得る態様は、本実施形態のものに限定されず各種態様を採り得る。
図1に戻り、水温センサ400は、冷却水であるLLC(Long Life Coolant)の温度たる冷却水温Tclを検出可能に構成されたセンサである。水温センサ400は、後述する冷却水路のうち、後述するCCV510の入力ポートに連結された冷却水路CCVi1に設置されており、冷却水路CCVi1における冷却水温Tclを検出可能である。また、水温センサ400は、ECU100と電気的に接続されており、検出された冷却水温Tclは、ECU100が常時参照可能である。
冷却装置500は、冷却水路内に封入された冷却水を後述するCCV510の作用により適宜選択される冷却水路に通水することによって、被冷却体たるエンジン200及びEGR装置300を冷却可能に構成された、本発明に係る「冷却装置」の一例である。
冷却装置500は、CCV510、電動ウォータポンプ(以下、適宜「電動W/P」と表記する)520、ラジエータ530、サーモスタット540及び図示実線で示された冷却水路(エンジン冷却水路(不図示)、CCVi1、CCVo1、CCVo2、WPi及びWPo)を備える。
エンジン冷却水路は、シリンダブロック201Aに形成された入力ポートに一端部が接続され、シリンダヘッド201Bに形成された出力ポートに他端部が接続されてなる不図示のウォータジャケットである。エンジン冷却水路は、入力ポート側の端部を基点としてシリンダブロック201Aの内部及びシリンダヘッド201Bの内部を夫々取り巻くように張り巡らされている。冷却水は、入力ポート側の端部から導入され、シリンダブロック201A及びシリンダヘッド201Bを順次介して出力ポート側の端部から排出される構成となっている。尚、エンジン冷却水路は、本発明に係る「機関内冷却水路」の一例である。
冷却水路CCVi1は、シリンダブロック201A及びシリンダヘッド201Bを順次経由する不図示のウォータジャケットを含む冷却水路であり、本発明に係る「機関外冷却水路」の一例である。冷却水路CCVi1は、CCV510の入力ポートに接続されている。
冷却水路CCVo1は、CCV510の第1出力ポートに接続された冷却水路である。冷却水色CCVo1は、サーモスタット540に接続されている。冷却水路CCVo1は、本発明に係る「機関外冷却水路」の他の一例をなしている。
冷却水路CCVo2は、CCV510の第2出力ポートに接続された冷却水路である。冷却水路CCVo2は、接続点P2において冷却水路WPiに接続されている。また、冷却水路CCVo2は、前述したEGRクーラ310のウォータジャケットを含んでおり、本発明に係る「EGR冷却水路」の一例をなしている。尚、冷却水路CCVo2は、本発明に係る「機関外冷却水路」の他の一例である。
また、本実施形態において、EGRクーラ310を冷却するための冷却水路CCVo2は、ラジエータ530から切り離されて独立している。
冷却水路WPiは、電動W/P520の入力側のポートに接続された冷却水路である。
冷却水路WPoは、電動W/P520の出力側のポートに接続された冷却水路である。冷却水路WPoは、冷却水路CCVi1(図ではシリンダブロック201A側の入り口部分)に接続されている。
CCV510は、冷却水の通水に利用される冷却水路(言わば、アクティブな冷却水路)を、冷却装置500の後述する各動作モードに応じて切り替え可能な、電磁制御弁装置であり、本発明に係る「調整手段」の一例である。
CCV510は、入力側インターフェイスである入力ポートが、上述した冷却水路CCVi1に接続されており、二つある出力側インターフェイスとしての出力ポートのうち第1出力ポートが冷却水路CCVo1に、第2出力ポートが冷却水路CCVo2に夫々接続されている。
CCV510は、入力ポートを介して入力される冷却水を、各出力ポートに分配することが出来る。より具体的には、CCV510は、励磁電流により電磁力を生じる公知のソレノイドと、当該励磁電流を付与する駆動装置と、各出力ポートに配設された、当該電磁力により弁開度が連続的に変化する弁とを有し、各弁について独立に開度を変化させることが出来る。
弁開度は、各出力ポートの流路面積に比例しており、弁開度が100(%)である場合が全開状態に、弁開度が0(%)である場合が全閉状態に夫々対応する。即ち、CCV510は、冷却水の流路を選択する機能に加えて、選択された流路における冷却水の通水量を実質的に自由に制御することが出来る。尚、上記駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、CCV510の動作は実質的にECU100により制御される。
電動W/P520は、公知の電気駆動型渦巻き式ポンプである。電動W/P520は、入力ポートを介して冷却水路WPiから入力される冷却水を、不図示モータの回転力によって吸引し、モータ回転速度Nwpに応じた量の冷却水を、出力ポートを介して冷却水路WPoに吐出可能に構成されている。従って、電動W/P520は、CCV510により適宜選択される冷却水路における冷却水の通水量を調整可能であり、電動W/P520もまた、本発明に係る「調整手段」の一例を構成する。
尚、このモータは、不図示の電力供給源(例えば、車載用12Vバッテリ、或いは他のバッテリ)等から電力の供給を受ける構成となっており、その回転速度たるポンプ回転速度Nwpは、不図示のモータ駆動系を介して供給される制御電圧(又は制御電流)のデューティ比DTYに応じて増減制御される構成となっている。また、このモータ駆動系は、ECU100と電気的に接続された状態にあり、ECU100によって上述したデューティ比DTYを含む動作状態が制御される構成となっている。即ち、電動W/P520は、ECU100によってその動作状態が制御される構成となっている。
ラジエータ530は、インレットパイプ及びアウトレットパイプに連通する複数のウォータパイプが配列してなると共に、当該ウォータパイプの外周に多数の波板状のフィンを備えた公知の冷却装置である。ラジエータ530は、インレットパイプから流入した冷却水を当該ウォータパイプに導くと共に、当該ウォータパイプを流れる過程において当該フィンを介した大気との熱交換により冷却水から熱を奪う構成となっている。熱を奪われることによって相対的に冷却された冷却水は、アウトレットパイプから排出される構成となっている。
サーモスタット540は、予め設定された温度(例えば、摂氏80度程度)において開弁するように構成された公知の温度調整弁である。サーモスタット540は、冷却水路CCVo1に接続されており、本実施形態において、冷却水路CCVo1は、摂氏80度程度の設定温度において開放される。尚、サーモスタット540は、CCV510と共に本発明に係る「調整手段」の一例を構成する。
<実施形態の動作>
次に、実施形態の動作として、適宜図面を参照し、冷却装置500の動作について説明する。冷却装置500は、動作モードM1、M2及びM3の三種類の動作モードを備えており、選択される動作モードに応じて冷却水の通水の有無及び通水に利用される冷却水路が変化する構成となっている。これら動作モードは、本発明に係る「温度幅特定手段」、「通水制御手段」及び「推定手段」の一例として機能するECU100により行われる、始動時通水制御及び初期化制御により適宜選択される。
ここで、始動時通水制御及び初期化制御の詳細について説明する前に、図3を参照して冷却装置500の動作モードと冷却水温Tclとの関係について説明する。ここに、図3は、冷却水温Tclと選択される動作モードとの関係を例示する図である。尚、図3において、縦軸が動作モードに、横軸が冷却水温Tclに夫々対応している。尚、この冷却水温Tclは、状況に応じてECU100による推定値と水温センサ400による検出値との双方が使用される。
図3において、冷却装置500の動作モードは、冷却水温Tclに対して基本的に図示実線のプロファイルに従って変化する。
即ち、冷却水温Tclが予め設定された温度値a未満である場合、冷却装置500の動作モードとして動作モードM1が選択される。温度値aは、予め実験的に、経験的に又は理論的に、冷間始動時として想定される冷却水温Tclよりも高温側で設定された温度である。
動作モードM1は、CCV510の二つの出力ポートが弁開度の制御により閉鎖状態に維持されるモードである。動作モードM1では、CCV510の出力ポートが閉鎖状態となるため、冷却水は各冷却水路に封入されたまま循環することなく滞留する。また、動作モードM1が選択された状態において、電動W/P520は停止状態に維持される。これは、冷却水路を循環供給する必要がないことと、冷却水路が閉鎖された状況で電動W/P520を稼動させると電動W/P520に加わる負荷が大きくなることに由来する。動作モードM1に従った冷却水の通水停止措置は、上述した始動時通水停止措置の一例である。
動作モードM1が選択された状態では、冷却水温の推定プロセスが行われ、水温センサ400による検出値に替えてこの推定された冷却水温が参照される。即ち、冷却水温Tclが温度値a以下となる図示ハッチング領域は、冷却水温が推定される推定期間に相当する。
動作モードM1が選択された状態において、推定される冷却水温Tclが温度値aに到達すると、ECU100の制御によりCCV510の第2出力ポート側の弁開度が徐々に大きくされ、冷却水路CCVo2の流路面積が徐々に増加する。この際、弁開度は、冷却水温Tclに応じて連続的に可変とされる。この冷却水路CCVo2の流路面積の拡大措置は、冷却水温Tclが温度値b(b>a)となるまで継続される。この期間において、参照される冷却水温Tclは、推定値から検出値へと切り替えられる。切り替え時に両者の値が整合しない場合には、推定値が優先され、暫時の間検出値がこの推定値に基づいて補正される。
一方、冷却水温Tclが温度値bに到達してから温度値d(d>b)に達するまでの暫時の期間については、冷却装置500の動作モードが動作モードM2に維持される。動作モードM2は、冷却水路CCVo1が閉鎖状態に維持されたまま、冷却水路CCVo2が全開状態に維持される動作モードである。従って、動作モードM2が選択された状態において、冷却水は、電動W/P520の作用により冷却水路WPo→エンジン冷却水路→冷却水路CCVi1→冷却水路CCVo2→冷却水路WPiを順次経由して通水される。この通水経路は、本発明に係る「機関内冷却水路及びEGR冷却水路を少なくとも含む」経路の一例である。尚、温度値a以上b未満の過渡的温度領域においても、冷却水の通水量が変化する点が異なるだけで冷却水の通水経路は動作モードM2と同じであり、冷却装置500の動作モードは、広義において動作モードM2である。
ここで、温度値bは、排気露点温度に相当する温度値である。従って、温度値b以上の温度領域においてEGRクーラ310に冷却水を介して熱供与を行うことにより、EGRクーラ310周辺に滞留するEGRガスの温度は、理想的には排気露点温度以上の温度に維持される。更には、本実施形態では、冷却水温Tclが温度値bに到達する以前(温度値a)から動作モードM2が選択されるため、EGRガスの温度は、排気露点温度以上の温度領域まで迅速に変化する。EGRガスの温度が排気露点温度以上の温度領域に維持されることにより、凝縮水の発生が抑制される。即ち、動作モードM2の選択によりEGR管320の腐食が効果的に防止される。
また、動作モードM2における冷却水の通水経路は、ラジエータ530を介さない経路であり、言うなれば、冷却水が蓄えた熱を可及的に逃さないように維持する経路である。従って、EGRクーラ310への熱供与を行ったとしても、エンジン200の暖機が大きく阻害される懸念はない。尚、ECU100がCCV510の動作状態を制御するにあたっての基準を与える上記温度値aはこのような観点から決定されており、エンジン200の暖機効果を可及的に維持しつつEGR装置300の効果的な保守を図り得る点において実践上の利益が大である。
一方、冷却水温Tclが、その上昇の過程において温度値dに到達すると、冷却装置500の動作モードとして動作モードM3が選択される。動作モードM3では、CCV510の二つの出力ポートに配設された弁が双方とも全開状態とされ、冷却水路CCVo1及びCCVo2が夫々開放される。即ち、動作モードM3は所謂全通水モードである。その結果、動作モードM3が選択された状態では、冷却水は、電動W/P520の作用により、冷却水路WPo→エンジン冷却水路→冷却水路流路CCVi1→冷却水路CCVo1(ラジエータ530)→サーモスタット540→冷却水路WPiを順次経由する第1通水経路と、冷却水路WPo→エンジン冷却水路→冷却水路CCVi1→冷却水路CCVo2(EGRクーラ310)→冷却水路WPiを順次経由する第2通水経路との相互に独立した通水経路に通水される。
尚、温度値dは、エンジン200が暖機状態に移行したと判断し得る温度としての暖機温度値e(例えば、摂氏80度)よりも低温側の値に設定されており、より安全側の配慮がなされている。即ち、このように暖機温度値未満の温度領域においてラジエータ530による冷却作用をアクティブとすれば、暖機温度値以上の温度領域で動作モードM3が選択される場合と較べてエンジン200がオーバヒートする可能性は低下する。
尚、本実施形態では、動作モードM2における冷却水の通水量を、単に冷却水温Tclのみを参照値として求めたが、冷却水路CCVo2に冷却水を優先的に通水する目的がEGRガスの凝縮防止にある点に鑑みると、冷却水の通水量は、EGR装置300のEGR量又はEGR率に応じて適宜補正されてもよい。より具体的には、EGR量が多い程又はEGR率が高い程冷却水の通水量が多くなるように、通水量の補正係数(例えば、最大値を1とする)を決定し、冷却水温Tclに応じて得られる通水量に対して係る補正係数を乗じる構成が採用されてもよい。このようにすれば、EGRクーラ310を不要に暖機する事態が防止され、エンジン200の暖機をより好適に促進することが出来る。
尚、冷却水の通水量は、EGR装置300におけるEGR弁開度に応じて制御されてもよい。即ち、EGR弁開度の大小に応じて冷却水の通水量を夫々二値的に、段階的に又は連続的に大小変化させてもよい。また、EGR量やEGR率を推定する構成と較べると、EGR弁開度は例えば開度センサ等により直接検出することが可能である分だけ高精度であり、また制御上の負荷が小さくて済む。EGRクーラ310の不要な暖機を防止する目的に鑑みれば、EGR量の大小と冷却水の通水量の大小とが大略的に対応していればよいこともあり、EGR弁開度に応じて冷却水の通水量を制御するのもこの種の制御の好適な一形態となり得る。
ところで、先述したように、機関始動時においては適宜、始動時通水停止措置としての動作モードM1に先んじて始動時通水措置が必要となる。始動時通水措置は、動作モードで言えば動作モードM3に相当しており、上記第1通水経路(ラジエータ側)と第2通水経路(EGR管側)との双方に通水が行われる措置である。図3では、この様子が破線で表される。即ち、図示推定期間中においては、動作モードM3(始動時通水措置)から動作モードM1(始動時通水停止措置)への切り替えが生じる可能性がある。機関始動時における冷却装置500の動作モードは、始動時通水制御により制御される。
ここで、図4を参照し、始動時通水制御の詳細について説明する。ここに、図4は、始動時通水制御のフローチャートである。始動時通水制御は、エンジン200の始動(機関始動)が要求された場合に起動する制御であり、
図4において、ECU100は、ソーク時間Tsが基準値Tsth未満であるか否かを判定する(ステップS10)。ソーク時間とは、エンジン200がイグニッションオフによる機関停止状態にあった時間であり、前回のイグニッションオフ操作時からECU100の内蔵タイマによりカウントされている。ソーク時間Tsが基準値Tsth以上である場合(ステップS10:NO)、即ち、ソーク時間が相対的に長い場合、ECU100は冷却装置500の動作モードとして動作モードM1を選択する(ステップS60)。即ち、この場合、始動時通水措置は行われない。これは、ソーク時間が長ければ、冷却水路における冷却水温の偏り(分布)は殆ど生じないことによる。
ソーク時間Tsが基準値Tsth未満である場合(ステップS10:YES)、ECU100は冷却装置500の動作モードとして動作モードM3を選択し、始動時通水措置を開始する(ステップS20)。尚、始動時通水措置と後述する通常の通水制御(ステップS110)とは、冷却装置500の動作モードに関して言えばいずれも動作モードM3であるが、電動W/P520の回転速度Nwp、即ち、冷却水の通水量に関しては異なっていてもよい。
始動時通水措置が開始されると、ECU100は、動作モードM3に従った始動時通水措置の実行時間である通水時間Tflが、基準値Tflthを超えたか否かを判定する(ステップS30)。基準値Tflthは、予め実験的に適合された時間値であり、冷却水が所定サイクル循環したと判断し得る時間値に設定されている。通水時間Tflが基準値Tflth以下である間は(ステップS30:NO)、処理はステップS30で待機状態となる。
通水時間Tflが基準値Tflthを超えると(ステップS30:YES)、冷却水の初期循環が完了したとの判断の下、水温センサ400により検出される冷却水温Tclが、先に述べた温度値a以下であるか否かが判定される(ステップS40)。即ち、温度値aは、本発明に係る、冷却水温との比較に供される「所定値」の一例である。
冷却水温Tclが既に温度値aを超えている場合(ステップS40:NO)、ECU100は、冷却装置500の動作モードとして動作モードM2を選択する(ステップS90)。即ち、この場合、図3で言えば、破線のプロファイルに従って動作モードが動作モードM2へ徐々に移行される。尚、既に述べたように、機関始動時における冷却水温Tclの検出値は、必ずしも正確でない。然るに、水温センサ400は、機関本体部の冷却水路(エンジン冷却水路)の出口に設けられており、エンジン冷却水路における冷却水温は、水温センサ400により検出される冷却水温よりも高い可能性が高い。従って、検出される冷却水温が温度値aよりも高温側にあれば、動作モードM2への移行を開始しても実践上問題はないのである。但し、ステップS40における判断基準値(本発明に係る「所定値」)は、必ずしも温度値aでなくてよい。例えば、この判断基準値は、エンジン200が十分に暖機された状態において動作モードM1が選択されないようにする役割を有する値であるから、温度値aよりも高温側の値であってもよい。
冷却水温Tclが温度値a以下である場合(ステップS40:YES)、ECU100は、冷却水温変動幅Vtclを参照し、冷却水温変動幅Vtclが第1基準値Vtclth1未満であるか否かを判定する(ステップS50)。
ここで、図5を参照し、冷却水温変動幅Vtclについて説明する。ここに、図5は、冷却水温変動幅Vtclの概念図である。
図5において、機関始動直後の冷却水温Tclは、通水時間Tflに対して図示のように変動する。これは、機関停止状態において、冷却水温に局所的な偏りが生じるためである。言い換えれば、冷却水温の温度分布が均一でないためである。
この変動の度合いを規定する指標値が冷却水温変動幅Vtclであり、図示するように、一変動周期における最大値と最小値との偏差として定義される。ECU100は、検出される冷却水温Tclを所定周期で取得してRAM等に一時的に格納しており、最大値と最小値は容易に検出される。従って、冷却水変動幅Vtclもまた容易に算出される。
図5では、時刻t1において冷却水温変動幅Vtcl1が、時刻t2において冷却水温変動幅Vtcl2が、時刻t3において冷却水温変動幅Vtcl3が、時刻t4において冷却水温変動幅Vtcl4が夫々算出されている。図示するように、冷却水温変動幅Vtclは、通水時間Tflが長くなるに連れて小さくなる傾向を有する。即ち、通水時間が長い程、冷却水路内の冷却水温は均一化される。
ECU100は、算出した冷却水温変動幅Vtclを時間情報と対応付けてRAMに記憶する。
図4に戻り、冷却水温変動幅Vtclが第1基準値Vtcl1以上である場合(ステップS50:NO)、ECU100は更に、冷却水温変動幅Vtclが第2基準値Vtcl2thより大きいか否かを判定する(ステップS70)。冷却水温変動幅Vtclが第2基準値Vtcl2thよりも大きい場合(ステップS70:YES)、ECU100は、処理をステップS110に移行して、始動時通水制御を終了する。即ち、冷却装置500の動作モードは動作モードM3のままであり、実質的に始動時通水停止措置が禁止される。これは、冷却水温変動幅Vtclが大き過ぎる場合、始動時通水停止措置開始以後の冷却水温の推定精度が担保されない可能性があるためである。冷却水温変動幅Vtclが第2基準値Vtcl2以下である場合(ステップS70:NO)、処理はステップS50に戻される。
尚、始動時通水措置に相当する動作モードM3と、通常の通水制御に相当する動作モードM3との制御条件が等しい場合には、ステップS70が「YES」側に分岐したことをもって始動時通水制御が終了してもよい。
ステップS50において、冷却水温変動幅Vtclが第1基準値Vtcl1未満である場合(ステップS50:YES)、ECU100は、冷却装置500の動作モードとして動作モードM1を選択する(ステップS60)。即ち、始動時通水停止措置を開始する。
始動時通水停止措置が開始されると、参照される冷却水温Tclが、検出値から推定値へ切り替えられる。即ち、ECU100は、エンジン発熱量、冷却水の比熱及び冷却水路の熱伝導率に基づいて、冷却水温Tclの増加分を算出し、初期値に加算することによって冷却水温Tclを推定する。これは、冷却水の通水を停止してしまうと、水温センサ400の設置位置によっては、通水停止期間中の冷却水温を正確に検出することが難しくなるためである。
ここで、初期値とは、始動時通水停止措置の開始時点における冷却水温Tclの検出値である。この際、ステップS50が「YES」側に分岐していることから、この検出値の精度は担保されており、初期値が正確に与えられる。従って、推定される冷却水温Tclは概ね正確である。
ECU100は、冷却水温Tclが温度値aを超えたか否かを判定する(ステップS80)。冷却水温Tclが温度値a以下であれば(ステップS80:NO)、ステップS80が繰り返されることにより動作モードM1に従った始動時通水停止措置が継続される。
冷却水温Tclが温度値aを超えると(ステップS80:YES)、ECU100は始動時通水停止措置を終了し、先に図3を参照して説明した如く、動作モードM2への移行を開始する(ステップS90)。動作モードM2により第2通水経路(EGRクーラを冷却する経路)にのみ冷却水が通水される過程において、ECU100は、冷却水温Tclが温度値dを超えたか否かを判定する(ステップS100)。尚、ここで参照される冷却水温Tclは、水温センサ400による検出値に再度切り替えられている。
冷却水温Tclが温度値d以下であれば(ステップS100:NO)、ステップS100が繰り返され、動作モードM2に従った通水措置が継続される。一方、冷却水温Tclが温度値dを超えると(ステップS100:YES)、ECU100は、冷却装置500の動作モードを動作モードM3に切り替え、通常の通水制御を開始する。通常の通水制御が開始されると、始動時通水制御は終了する。始動時通水制御は以上の如くに実行される。
このように、本実施形態に係る始動時通水制御によれば、冷却水温の偏りを解消すべくなされる始動時通水措置を、冷却水温変動幅Vtclに基づいて、冷却水温の偏りが実践上問題ない程度に解消された適切な時点で終了させることができる。従って、未だ冷却水温の偏りが解消されない状況で始動時通水停止措置が開始され、不正確な初期値に基づいた冷却水温の推定プロセスが実行されることを防止することが出来る。また、既に十分に冷却水温の偏りが解消されているにもかかわらず始動時通水停止措置が終了しないことにより、始動時通水停止措置により得られる機関暖機促進効果やエネルギ資源の消費節減効果が低下することも防止することが出来る。
次に、図6を参照し、このような始動時通水制御を支援する制御としての初期化制御について説明する。ここに、図6は、初期化制御のフローチャートである。尚、初期化制御は、始動時通水制御が実行される場合に所定周期で繰り返し実行される制御である。
図6において、ECU100は、始動時通水制御において動作モードM1が選択されているか否かを判定する(ステップS200)。動作モードM1が選択されていない場合(ステップS200:NO)、ECU100は初期化制御を終了する。一方、動作モードM1が選択されている場合(ステップS200:YES)、ECU100は、通水停止時間Tfsが基準値Tfsth未満であるか否かを判定する(ステップS210)。通水停止時間Tfsは、始動時通水制御において動作モードM1が選択され始動時通水停止措置が開始された時点からカウントされる、始動時通水停止措置の継続時間である。
通水停止時間Tfsが基準値Tfsth未満である場合(ステップS210:YES)、ECU100は更に、機関停止時間Tesが基準値Testh未満であるか否かを判定する(ステップS220)。機関停止時間Tesは、始動時通水停止措置の実行期間における、エンジン200の一時的な停止時間である。このような状況は、例えば、車両が交差点等で停止することによりアイドリングストップ制御が発動した場合を想定している。機関停止時間Tesが基準値Testh未満である場合(ステップS220:YES)、始動時通水制御に割り込み指示を与えることなく、ECU100は初期化制御を終了する。
ここで、通水停止時間Tfsが基準値Tfsth以上であるか(ステップS210:NO)、又は、機関停止時間Tesが基準値Testh以上である場合(ステップS220:NO)、ECU100は、現在選択されている動作モードM1を動作モードM3に切り替えるよう、始動時通水制御への割り込み指示を実行する(ステップS230)。より具体的には、ECU100は、始動時通水制御の処理ステップをステップS20に戻す旨の指示を行う。始動時通水制御では、係る割り込み指示を受けると、現在の処理ステップを破棄して処理をステップS20に戻し、再度始動時通水措置を開始する。
始動時通水停止措置の実行時間(通水停止時間Tfs)が長過ぎると、一種の時間積分処理である冷却水温推定プロセスの蓄積誤差が大きくなり、推定される冷却水温の推定精度が低下する可能性がある。また、機関停止時間Tesが長過ぎると、発熱源が停止することにより冷却水温に再度偏りが発生する可能性がある。初期化制御によれば、このような事態の発生が予想される場合において、始動時通水制御を初期化し、再度動作モードM3に従った始動時通水措置を実行させることができる。このため、始動時通水制御においてステップS60の始動時通水停止措置が行われる場合に、冷却水温Tclの推定精度の低下を抑制することができるのである。
尚、上記実施形態においては、電動W/P520により冷却水が循環供給されているが、冷却水の循環供給は、電動W/Pに替えて機械式W/Pにより実現されてもよい。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う冷却装置の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。