本発明の第1の実施形態に係る車両用シート10について、図1〜図6に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印INは、それぞれ車両用シート10が適用された自動車の前方向(進行方向)、上方向、車幅方向の内側をそれぞれ示している。以下、単に前後、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下を示すものとする。
図1には、後述する乗員拘束装置11が適用された車両用シート10が斜視図にて示されている。車両用シート10は、乗員が前方を向いて着座するように設けられている。具体的には、車両用シート10は、着座部を成すシートクッション12と、該シートクッション12の後端部に下端部が接続されバックレストを成すシートバック14と、シートバック14の上端に設けられたヘッドレスト16とを主要部として構成されている。この実施形態における車両用シート10は、運転席又は助手席用とされているが、2列目やそれよりも後方の後部座席用としても良い。
(ポップアップ構造の構成)
車両用シート10は、乗員拘束装置11を構成する突出部材としてのポップアップバー18を備えている。ポップアップバー18は、シートバック14に対し、図2に示す格納位置(初期位置)から、図1に示す如く格納位置に対して上方の位置であるポップアップ位置(突出位置)へ移動可能とされている。以下、具体的に説明する。
ポップアップバー18は、シート幅方向に沿って延びるバー本体20と、バー本体20のシート幅方向両端から垂下された左右一対の被案内部としてのスライダ(ロッド)22とを有して構成されている。このポップアップバー18は、左右のスライダ22において、図3に示される如く案内部としての左右一対のガイドパイプ24を介して、シートバック14のシートバックフレーム14Aに、格納位置からポップアップ位置への移動可能に支持されている。すなわち、スライダ22は、左右対応するガイドパイプ24内にスライド(摺動)可能に挿入されており、該ガイドパイプ24に沿って案内されつつ上方に移動することで、格納位置からポップアップ位置へ移動する構成とされている。なお、図3では、左右一方側のガイドパイプのみ図示している。
この実施形態では、スライダ22及びガイドパイプ24は、側面視で互いの軸心部の曲率半径が略一致されると共に、後方に向けて凸を成す円弧状に形成されている。これにより、ポップアップバー18すなわちバー本体20は、格納位置側からポップアップ位置に至るまでの間に、上方に変位しながら前方への変位を生じる構成(移動軌跡)とされている。この実施形態では、バー本体20は、格納位置での前後位置よりもポップアップ位置での前後位置の方が前側に位置する設定とされている。
この実施形態では、ポップアップ位置でのバー本体20(サイドバー20Sの前端)の前後位置は、シートバックフレーム14A上端の前後位置よりも前側とされている。また、ポップアップ位置でのバー本体20の上下位置(後述する側方展開部材34上端の接続位置)は、ヘッドレスト16の最上部付近とされている。なお、ポップアップ位置でのバー本体20の上下位置は、車両用シート10がフロントモースト位置でかつアッパーモースト位置の場合に、該バー本体20がルーフに干渉しない範囲で設定されている。
また、ポップアップバー18を構成するバー本体20は、その車幅方向内側の端部から前方に突出するサイドバー20Sを有する。サイドバー20Sは、バー本体20が格納位置からポップアップ位置へ移動する過程でヘッドレスト16に対する車幅方向内側に位置するようになっている。
以上説明したポップアップバー18は、図2に示す格納位置ではサイドバー20Sを含むバー本体20が外部に露出している。すなわち、ガイドパイプ24及び該ガイドパイプ24に挿入されたスライダ22は、シートバック14の表皮材(及びクッション材)に覆われて外部に露出されない構成とされている。一方、図1に示すポップアップ位置では、スライダ22の上部が外部に露出されるようになっている。
そして、図3に示される如く、ガイドパイプ24の下端には、該下端を閉塞するように、マイクロガスジェネレータ(以下、「MGG」という)26が設けられている。ポップアップバー18は、MGG26の作動によって、格納位置からポップアップ位置へ移動する構成とされている。なお、スライダ22とガイドパイプ24との間には、ガスをシールするシール部材が設けられても良く、スライダの下端にシール機能付のピストンを設けた構成としても良い。
この実施形態では、少なくともMGG26がアクチュエータに相当し、該アクチュエータがガイドパイプ24(及びピストン)を含んで構成されているものと捉えても良い。さらに、バー本体20を本発明の突出部材と捉え、スライダ22をアクチュエータの一部と捉えても良い。また、この実施形態では、ポップアップバー18とMGG26とで、後述する側方展開部材34の上端側の張力付与手段を構成している。
(クッションエアバッグの構成)
図1及び図4(A)に示される如く、シートクッション12内の前部には、クッションエアバッグ装置28が配設されている。クッションエアバッグ装置28は、ガス供給手段としてのインフレータ30と、インフレータ30からのガス供給を受けて膨張展開するエアバッグとしてのクッションエアバッグ32とを主要部として構成されている。
図示は省略するが、クッションエアバッグ装置28は、その機械的構成部分がシートクッション12を構成するシートパンとクッション材及び表皮材(座面)との間に配置されている。クッションエアバッグ32は、折り畳まれることなく、伸した状態でシートパン上に配置されており、該シートパンによって下方への膨張展開が規制されるようになっている。そして、このクッションエアバッグ32が膨張展開されることで、シートクッション12の座面上において着座乗員Pの左右の大腿部が上方に持ち上げられる構成とされている。したがって、後述する如く車両前面衝突の際にクッションエアバッグ装置28が作動されると、着座乗員Pはその大腿部が持ち上げられることで(3点式シートベルト装置との協働で)、慣性による車両前方への移動が抑制されるようになっている。
クッションエアバッグ32は、図4(B)に示される如く、その前端側において、その内部に配置されたインフレータ30を介してシートクッションフレーム12Aに固定されている。このインフレータ30は、シート軸方向に長い筒状(本実施形態では略円筒状)を成しており、長手方向の複数位置でシートクッションフレームに固定されている。インフレータ30は、作動されるとガス噴出孔からガスを噴出する構成とされている。この実施形態では、インフレータ30は、シート幅方向中央に対し車幅方向内側にオフセットして配置されている。なお、インフレータ30は、シート幅方向中央に配置されても良い。
クッションエアバッグ装置28は、後述する制御装置としての衝突ECU42に電気的に接続されている。衝突ECU42は、車両の前面衝突時及び側面衝突時にインフレータ30を作動させる構成とされている。この実施形態では、クッションエアバッグ32とインフレータ30とで、後述する側方展開部材34の前端側の張力付与手段を構成している。
(側方展開部材の構成)
図1に示される如く、乗員拘束装置11は、後述する側突時に車両用シート10の側部である着座乗員P(図3参照)の側方で展開される側方展開部材34を備えている。この実施形態では、側方展開部材34は、車両用シート10における車幅方向内側(隣接するシート側)の側部に設けられ、車幅方向外側(ドア側)の側部には設けられない構成とされている。
側方展開部材34は、布状部としてのテンションクロス36と、帯状部としてのストラップ38とを含んで構成されている。この側方展開部材34は、ポップアップバー18が格納位置に位置する通常時(初期状態で)は、シートクッション12及びシートバック14の側部に収納されている。具体的には、テンションクロス36が折り畳み状態でシートバック14の側部に全体として収納され、ストラップ38がシートクッション12の側部に収納されている。シートバック14とシートクッション12との間の部分は、ストラップ38が通されている。この実施形態では、ストラップ38の後端側は、シートバック14とシートクッション12との間で露出されている。
シートクッション12及びシートバック14の側部には、収納状態の側方展開部材34が展開過程で張り出すための切れ目(スリット)40が形成されている。この実施形態では、切れ目40は、シートバック14の左右両側部におけるバックボード14Bの前縁、及びシートクッション12の左右両側部におけるサイドカバー12Bの上縁に沿って形成されている。なお、切れ目40は、シートクッション12、シートバック14の側部における表皮材の合わせ目等に沿って形成されても良い。
側方展開部材34のテンションクロス36は、図1に示される如く、展開状態での側面視で略三角形状を成している。より具体的には、展開状態のテンションクロス36は、前端側の頂部36Fが鈍角を成す鈍角三角形状に形成されている。このテンションクロス36は、その上端側の頂部36Uは、ポップアップバー18のサイドバー20Sの前端側に接続されると共に、その下端側の頂部36Lはシートバック14を構成するシートバックフレーム14Aの下端部に接続されている。
さらに、テンションクロス36における頂部36U、36L間の後縁部36Rは、ポップアップバー18がポップアップ位置に位置する際にスライダ22の前方に位置する一部分を除いて、シートバックフレーム14Aに接続されている。この一部分を非拘束とすることで、ポップアップバー18の格納位置からポップアップ位置への移動が許容される構成である。
ストラップ38は、前端38Fがシートクッション12のシートクッションフレームの前端側部分に接続されると共に、後端38Rがテンションクロス36の前端側の頂部36Fに縫製等によって接続されている。ストラップ38の前端38Fは、クッションエアバッグ装置28のインフレータ30をシートクッションフレーム12Aに固定する複数の固定部のうち、最も車幅方向内側の固定部において、該インフレータ30と共にシートクッションフレーム12Aに固定されている。この実施形態では、インフレータ30に設けられたスタッドボルト30Aにナット35が螺合されることで、該インフレータ30がストラップ38の前端38Fと共にシートクッションフレーム12Aに固定されている。
そして、ストラップ38の中間部38Mは、クッションエアバッグ32の上側を通されている。このため、クッションエアバッグ32が上向きに膨張展開されると、ストラップ38の中間部38Mがクッションエアバッグ32の上面によって車両前方に移動され、該ストラップ38の後部が前方に引っ張られるようになっている。この実施形態では、図4(A)に示される如く、ストラップ38の中間部38Mは、クッションエアバッグ32における着座乗員の大腿部D(図示例では左大腿部)の中心の下方で展開される部分に対するシート幅方向外側を通されている。換言すれば、ストラップ38の中間部38Mは、大腿部Dの中心線Dclに対する車幅方向内側(シート幅方向の外側)で、クッションエアバッグ32上を通されている。なお、ストラップ38の中間部38Mは、クッションエアバッグ32に対し位置ずれしないように、該クッションエアバッグ32に縫製等によって接続されていても良い。
以上説明した側方展開部材34は、ポップアップバー18がポップアップ位置に移動し、クッションエアバッグ32が膨張展開されることで、切れ目40を通じて引き出されて着座乗員Pに対する車幅方向内側で展開されるようになっている。この状態では、図1に示される如く、テンションクロス36の上端側の頂部36Uと、ストラップ38の前端38Fとの間に張力が付与されている。なお、展開状態の側方展開部材34は、テンションクロス36の上端側の頂部36Uと、ストラップ38の中間部38Mにおけるシートクッションの側部(切れ目40)での折り掛け部位(前端側の頂部36F近傍部分)との間が側面視で略直線状を成している。この実施形態では、説明の便宜上、この直線状部分をテンションラインTLということとする(図1参照)。
そして、側方展開部材34は、側面衝突時に、適用された車両用シート10の着座乗員Pが車幅方向内側に移動することを規制するようになっている。換言すれば、側方展開部材34は、着座乗員Pが隣席の着座乗員Pと干渉することを抑制する機能を果たす構成と捉えることができる。
(制御装置の構成)
図5に示される如く、MGG26及びインフレータ30は、乗員拘束装置11を構成する制御装置としての衝突ECU42に電気的に接続されている。また、衝突ECU42には側面衝突を検出する側突センサ44、前面衝突を検出する前突センサ46が電気的に接続されている。衝突ECU42は、前突センサ46からの信号に基づいて前面衝突(の不可避)を検知した場合に、インフレータ30を作動させるようになっている。
また、衝突ECU42は、側突センサ44からの信号に基づいて側面衝突(の不可避)を検知した場合に、MGG26及びインフレータ30を作動させるようになっている。この実施形態では、衝突ECU42は、MGG26をインフレータ30に先行して作動させ、所定時間(例えば、5msec)の経過後にインフレータ30を作動させる構成とされている。所定時間は、MGG26の作動開始からポップアップバー18がポップアップ位置に至るまでの時間を上限として設定されている。
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用シート10では、衝突ECU42は、前突センサ46からの信号に基づいて前面衝突(の不可避)を検知すると、クッションエアバッグ装置28のインフレータ30を作動させる。すると、インフレータ30が作動され、該インフレータ30が発生するガスによってクッションエアバッグ32が膨張、展開される。これにより、着座乗員Pの左右の大腿部が上方に持ち上げられ、(3点式シートベルト装置との協働で)着座乗員Pは慣性による車両前方への移動が抑制される。
一方、衝突ECU42は、側突センサ44からの信号に基づいて側面衝突(の不可避)を検知すると、MGG26を作動させる。すると、MGG26からのガス圧によってポップアップバー18が格納位置からポップアップ位置へと移動する。この移動に伴って、図6に示される如く、側方展開部材34が切れ目40を通じてシートクッション12及びシートバック14から引き出される。また、衝突ECU42は、MGG26の作動から所定時間差でインフレータ30を作動させる。これにより、図1に示される如く、ポップアップバー18のポップアップ位置への移動直後又は移動過程で、クッションエアバッグ32が膨張展開され、ストラップ38が前方に引っ張られる。
以上により、側方展開部材34は、テンションクロス36の上端側の頂部36Uと、ストラップ38の前端38Fとの間に張力が付与され、着座乗員Pに対する車幅方向内側で展開される。この際、ストラップ38は、その後部がシートクッション12から引き出され、テンションクロス36とでテンションラインTLを形成している。
そして、このように展開された側方展開部材34の主にテンションクロス36よって、着座乗員Pが慣性又は揺り戻しによって隣席側に移動することが抑制される。すなわち、着座乗員Pがテンションクロス36によって拘束される。
ここで、車両用シート10は、側方展開部材34を展開させる張力付与手段として、ポップアップバー18(MGG26等)に加えて、クッションエアバッグ装置28を備えている。このため、ポップアップバー18の初期位置からポップアップ位置への移動ストロークが側方展開部材34の展開(張力付与)に要求されるストロークに対し不足する場合であっても、該不足分がクッションエアバッグ32による張力付与にて補われる。
これにより、例えば、ルーフ高等による制約でポップアップ位置が低く設定される構成においても、側方展開部材34を所要の張力で展開させることができる。しかも、前面衝突に対する着座乗員保護用のクッションエアバッグ装置28を利用して、側面衝突時に側方展開部材34を展開させるため、部品点数を増加することなく、側方展開部材34にシートクッション12側から張力を付与することができる。特に、ストラップ38の中間部38Mが、大腿部Dの中心線Dclに対する車幅方向内側(シート幅方向の外側)で、クッションエアバッグ32上を通されている。これにより、ストラップ38は、クッションエアバッグ32における着座乗員Pの大腿部Dからの荷重が比較的小さいために大きく膨張展開する部分によって、十分な移動ストロークで張力が付与される。
さらに、車両用シート10では、ポップアップバー18が上下に延びるシートバック14に沿って、単に上方に移動することで側方展開部材34の上端側に張力を付与する構成とされている。このため、該側方展開部材34の上端側においても簡単な構造で側方展開部材に張力を付与することができる。
そして、側方展開部材34の展開状態でテンションクロス36の上側の頂部36Uは、シートバック14の上端よりも上方に位置する。このため、例えば上端がシートバック14の上端部に接続された比較例に係る側方展開部材と比較して、展開状態でのテンションラインTLが前側に位置する。具体的には、上記比較例に係る側方展開部材では、図1に想像線にて示されるTLcがテンションラインとされる。これに対して本実施形態に係る車両用シート10では、展開状態における側方展開部材34の上端がシートバック14の上端よりも上側に位置することで、比較例のテンションラインTLcと比較してテンションラインTLが前側に位置する。
さらに、ポップアップバー18のバー本体20がサイドバー20Sの前端でテンションクロス36の上側の頂部36Uに接続されている。このため、例えばスライダ22の直上でテンションクロス36の上側の頂部36Uに接続された比較例と比較して、テンションラインTLがより一層前側に位置する。しかも、スライダ22及びガイドパイプ24が側面視で円弧状に湾曲されていることで、これらがシートバック14側部に沿って後傾した直線状に形成された比較例と比較して、ポップアップ位置でのバー本体20が前側に位置する。
これらにより、車両用シート10の乗員拘束装置11では、テンションクロス36を含む側方展開部材34によって、着座乗員Pの上部を効果的に拘束することができる。
さらに、側方展開部材34は、着座乗員Pの側方で展開されるテンションクロス36の後縁部が、シートバックフレーム14A又はガイドパイプ24に接続された面状部材とされている。このため、側方展開部材34は、テンションクロス36の後縁部とテンションラインTLとの間の広い面で着座乗員Pの移動を効果的に抑制することができる。すなわち、例えばバー本体20とシートクッション12の前端とを張り渡すベルト部材で着座乗員を拘束する構成と比較して、テンションクロス36による着座乗員Pの拘束に寄与する有効面積は広い。そして、この実施形態では、着座乗員Pの肩中心を含む部分にテンションクロス36が接触することとなり、着座乗員Pを、その高剛性部位である肩部において効果的に拘束することができる。
このように、第1の実施形態に係る車両用シート10では、テンションクロス36を含む側方展開部材34によって、車両の側面衝突時における乗員の隣席側への移動を効果的に抑制することができる。
また、衝突ECU42は、側面衝突を検知した場合に、インフレータ30に先行してMGG26を作動させる。このため、側方展開部材34は、ポップアップバー18による上方への引っ張り(の開始)後に、クッションエアバッグ32によって前方に引っ張られて展開される。すなわち、側方展開部材34は、前方への張力を受ける前に上方への張力付与(移動)が行われ、ポップアップバー18のポップアップ位置への移動が前方への張力によって規制(阻害)されることが抑制される。このため、側方展開部材34は、前方及び上方への張力が同時に付与開始される構成と比較して、全体として展開開始から短時間で展開完了される。これにより、車両用シート10では、側面衝突の検知から早期に側方展開部材34にて着座乗員Pの上体(肩部)を拘束することができる。
さらに、テンションクロス36は、折り畳み状態でシートバック14の側部にのみ収納されており、該収納状態においてシートバック14の外側に折り畳み状態のテンションクロスが露出することがない。例えば、前端側の頂部においてシートクッション12の前端側に接続された比較例に係るテンションクロスでは、折り畳まれた状態で中間部がシートバック14とシートクッション12との間に露出することとなる。特に、この比較例に係るテンションクロスにおけるシートバック14とシートクッション12との間に近い下端側の頂部は、テンションラインTLとなる部分からの距離が長いために、折り畳み部分が厚く又は幅広くなる。このように、比較例に係るテンションクロスを備えた車両用シートでは、該テンションクロスの収納状態での見栄えに改善の余地がある。
これに対して本実施形態に係る車両用シート10では、側方展開部材34の前部をストラップ38とすることで、テンションクロス36が全体としてシートバック14に収納されている。このため、テンションクロスの折り畳み部分がシートバック14とシートクッション12との間から露出されることがなく、上記した比較例と比較して見栄えが良好である。なお、ストラップ38におけるシートクッション12とシートバック14との間で露出される部分は、折り畳まれることなく、帯状を成しており、折り畳み部分が露出される場合と比較して良好な見栄えを維持可能である。
なお、上記第1の実施形態において衝突ECU42は、側面衝突を予測した場合にMGG26を作動させ、該MGG26の作動から所定時間差で又は側突センサ44による側面衝突検知後にインフレータ30を作動させる構成としても良い。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る車両用シート50について、図7、8に基づいて説明する。なお、上記第1の形態の構成と基本的に同様の構成については、上記第1の形態の構成と同一の符号を付して、その説明、図示を省略する場合がある。
図7には、車両用シート50を構成する乗員拘束装置51の展開状態が図1に対応する斜視図にて示されている。この図に示される如く、乗員拘束装置51は、側方展開部材34に加えて、車両用シート50の車幅方向内側部にサイドエアバッグ装置52を備える点で、第1の実施形態に係る車両用シート10とは異なる。すなわち、乗員拘束装置51を構成するサイドエアバッグ装置52は、側面衝突の衝突側(ニア側)から離れたファーサイドエアバッグ装置とされている。
サイドエアバッグ装置52は、着座乗員Pに対する車幅方向内側で膨張展開されるサイドエアバッグ54と、サイドエアバッグ54にガスを供給するインフレータ56(図8参照)とを主要部として構成されている。サイドエアバッグ装置52は、サイドエアバッグ54及びインフレータ56を含む各部がモジュール化されてシートバック14内でシートバックフレーム14Aに支持されている。サイドエアバッグ54は、膨張展開の際には切れ目40からシートバック14外に突出され、側方展開部材34の内側(着座乗員P)側で膨張展開されるようになっている。
サイドエアバッグ54は、着座乗員Pの胸部及び肩部を拘束するための中央チャンバ54Aと、着座乗員Pの頭部を拘束するための頭部保護チャンバ54Bと、着座乗員Pの腹部を拘束するための腹部保護チャンバ54Cとを含んで構成されている。なお、中央チャンバ54A(と頭部保護チャンバ54Bとの間)に形成された凹みは、着座乗員Pの腕の逃がし部とされている。中央チャンバ54A及び腹部保護チャンバ54Cは、図8(A)、図8(B)に示される如く、ブラケット58及び内蔵されたインフレータ56を介してガイドパイプ24(又はシートバックフレーム14A)に支持されている。また、頭部保護チャンバ54Bは、膨張展開状態で後上の角部となる接続部54Dにおいて、テンションクロス36の上端側の頂部36Uと共にバー本体20に接続されている。
すなわち、サイドエアバッグ54は、その上端側がポップアップバー18のポップアップ位置への移動に伴って上方に移動される構成とされている。この移動を許容するため、サイドエアバッグ54は、図8(B)に示される如く折り畳まれている。また、この実施形態では、サイドエアバッグ54はテンションクロス36と共に折り畳まれている。具体的には、テンションクロス36及びサイドエアバッグ54は、蛇腹折り等で前後方向に折り畳まれると共に、その前後に折り畳まれた中間部が蛇腹折り等で上下方向に折り畳まれて、上下折り部54Eとされている。この上下折り部54Eは、中央チャンバ54Aにおけるインフレータ56を介してガイドパイプ24に接続された部分と、頭部保護チャンバ54Bにおけるバー本体20に接続された部分との間に形成されている。
そして、サイドエアバッグ54は、この上下折り部54Eの折りを解消しながら、ポップアップバー18の格納位置からポップアップ位置への移動を許容する構成とされている。また、上下折り部54Eにおける後向きに凸となった折り部、及び上下折り部54Eに対し上下近傍に位置するサイドエアバッグ54には、リング状部材60が設けられている。リング状部材60は、サイドエアバッグ54を構成する基布をループ状に形成したり、別体のリング部材を接続したりすることで設けられ、内部にスライダ22及びガイドパイプ24の少なくとも一方を挿通させている。この実施形態では、複数のリング状部材60が上下に離間して配置されている。リング状部材60は、上下折り部54Eの解消伴って上方に移動しつつポップアップバー18のポップアップ位置への移動を許容すると共に、中央チャンバ54A及び頭部保護チャンバ54Bの一部をガイドパイプ24、スライダ22に対し保持する機能を有する。
(制御装置の構成)
図示は省略するが、乗員拘束装置51を構成する衝突ECU42は、MGG26及び側突センサ44に加えて、インフレータ56に電気的に接続されている。衝突ECU42は、側突センサ44からの信号に基づいて側面衝突(の不可避)を検知した場合に、MGG26及びインフレータ56を作動させるようになっている。車両用シート50の他の構成は、図示しない部分を含め、車両用シート10の対応する部分と同様に構成されている。
次に、第2の実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用シート50では、側突センサ44からの信号に基づいて側面衝突(の不可避)を検知した衝突ECU42は、MGG26及びインフレータ56を作動させる。すると、MGG26からのガス圧によってポップアップバー18が格納位置からポップアップ位置へと移動する。この移動に伴って、テンションクロス36及びサイドエアバッグ54が切れ目40を通じてシートバック14から引き出され、ストラップ38が切れ目40を通じてシートクッション12から引き出される。これにより、側方展開部材34は、サイドエアバッグ54の膨張展開に先行して展開が完了される。
ここで、ガイドパイプ24の容量はサイドエアバッグ54の容量に対し十分に小さいため、サイドエアバッグ54の膨張展開に先行して、該サイドエアバッグ54及びテンションクロス36がシートバック14から引き出される。なお、側突センサ44による側突検知後のインフレータ56の作動を、MGG26の作動に対し所定時間だけ遅らせる制御を行っても良い。また、側突予測センサによる側突予測信号によりMGG26を作動し、側突センサ44による側突検知でインフレータ56を作動する制御を行っても良い。
そして、側方展開部材34に続いて、サイドエアバッグ54が膨張展開される。このとき、サイドエアバッグ54は、既に展開されている側方展開部材34のテンションクロス36と着座乗員Pとの間で、該テンションクロス36に沿って前方に向けて膨張、展開される。着座乗員Pは、テンションクロス36を含む側方展開部材34及びサイドエアバッグ54によって拘束されつつ、隣席側への移動が制限される。
ここで、車両用シート50では、テンションクロス36を含む側方展開部材34による着座乗員Pの保護、及び乗員拘束装置51の作動前の見栄えについては、第1、第2の実施形態と同様である。
また、上記の通りサイドエアバッグ54は、展開済みのテンションクロス36に沿って膨張展開されるため、着座乗員Pからシート幅方向に離れる方向の移動を規制され、展開方向が安定する。すなわち、側面衝突の検知(膨張展開の開始)から短時間で、適正に膨張展開が完了される。さらに、中央チャンバ54Aによって、着座乗員Pの高剛性部位である肩部を拘束するため、該着座乗員Pの頭部の車幅方向への移動を効果的に抑制することができる。特に、上記の通りテンションクロス36が展開状態で着座乗員Pの肩中心を覆う(テンションラインTLが肩中心よりも前方に位置する)ため、中央チャンバ54Aによる肩部の支持に伴う反力がテンションクロス36を含む側方展開部材34にて良好に支持される。
しかも、サイドエアバッグ54には、頭部保護チャンバ54Bが設けられている。このため、頭部の車幅方向の移動を一層効果的(直接的)に抑制することができる。また、サイドエアバッグ54は、中央チャンバ54A、頭部保護チャンバ54B、腹部保護チャンバ54Cを有する。このため、車幅方向の外側(衝突側)において、着座乗員Pを頭部から腹部に亘って拘束し、該乗員Pを側面衝突に対し効果的に保護することができる。
なお、上記した各実施形態では、車両用シート10、50が車幅方向内側(隣席側)の側方展開部材34を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、側方展開部材34が車幅方向の両側に設けられた構成としても良く、外側(ニア側)にのみ設けられた構成としても良い。
また、上記した第2の実施形態では、車両用シート50が車幅方向内側(ファーサイド)のサイドエアバッグ装置52を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、サイドエアバッグ装置52が車幅方向の両側に設けられた構成としても良く、外側(ニア側)にのみ設けられた構成としても良い。
さらに、上記した各実施形態では、側方展開部材34がテンションクロス36とストラップ38とを有する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、テンションクロス36と、両端がポップアップバー18及びクッションエアバッグ32(インフレータ30のスタッドボルト)に接続されたストラップとを備えた構成としても良い。
またさらに、上記した各実施形態では、ストラップ38の前端38Fがインフレータ30と共にシートクッションフレーム12Aに固定された例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ストラップ38の前端38Fがシートクッションフレーム12Aに固定される構成と共に又は該構成に代えて、ストラップ38の前端38Fがクッションエアバッグ32の前部(膨張展開して前側を向く部分)に縫製等によって接続された構成としても良い。また、折り畳み状態でシートクッション12及びシートバック14の側部に収納され、前端側の頂部がクッションエアバッグ32の膨張展開によって前方に引っ張られる全体として側面視三角形状を成す単一のテンションクロスを側方展開部材としても良い。
また、上記した各実施形態では、ポップアップバー18とクッションエアバッグ32とで側方展開部材34に展開に要する張力を付与する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、クッションエアバッグ32だけで側方展開部材34に展開に要する張力を付与する構成としても良い。また例えば、ポップアップバー18に代えて、クッションエアバッグ32とで側方展開部材34に展開に要する張力を付与する手段を設けても良い。
さらに、上記した各実施形態では、テンションクロス36が側面視で三角形状を成す例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、テンションラインTLよりも前方に張り出す張り出し部を有するテンションクロスを備えた構成としても良い。この張り出し部は、例えばサイドエアバッグ54の頭部保護チャンバ54Bの前部に接続しても良い。
またさらに、上記した各実施形態では、ポップアップバー18が車幅方向に延在するバー本体20を有する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、側方展開部材34が設けられた側だけで格納位置からポップアップ位置に移動する突出部材を備えた構成としても良い。
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で各種変更して実施可能であることは言うまでもない。