以下に、本発明実施の形態を説明する。
<ポリアリーレンスルフィド>
本発明におけるポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などで表される単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
(R1、R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(L)〜(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明のポリアリーレンスルフィドの好ましい分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは17,000以上である。重量平均分子量が10,000以上では加工時の成形性が良好で、また成形品の機械強度や耐薬品性などの特性が高くなる。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、さらに好ましくは200,000未満であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度が狭い特長を有する。本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドの分散度は2.5以下が好ましく、2.3以下がより好ましく、2.1以下がさらに好ましく、2.0以下がよりいっそう好ましい。分散度が2.5以下ではポリアリーレンスルフィドに含まれる低分子成分の量が少なくなる傾向が強く、このことはポリアリーレンスルフィドを成形加工用途に用いた場合の機械特性向上、加熱した際のガス発生量の低減及び溶剤と接した際の溶出成分量の低減などの要因になる傾向にある。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法は、環式ポリアリーレンスルフィドを低原子価鉄化合物存在下に加熱することによってポリアリーレンスルフィドを得ることを特徴とし、この方法によれば容易に前述した特性を有する本発明のポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
本発明の製法における、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率は60%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上がよりいっそう好ましい。転化率が70%以上では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
<環式ポリアリーレンスルフィド>
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法における環式ポリアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(O)のごとき環式化合物を、少なくとも50重量%以上含むものであり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含むものが好ましい。Arとしては前記式(A)〜式(K)などで表される単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
なお、環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式の環式化合物においては前記式(A)〜式(K)などの繰り返し単位をランダムに含んでもよいし、ブロックで含んでもよく、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい前記(O)式の環式化合物としては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式化合物が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(O)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、4〜50が好ましく、4〜25がより好ましく、4〜15がさらに好ましい範囲として例示でき、8以上を主成分とする前記(O)式環式化合物がよりいっそう好ましい。後述するように環式ポリアリーレンスルフィドの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの転化は環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上で行うことが好ましいが、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点でmを前記範囲にすることは有利となる。mが7以下の環式化合物は反応性が低い傾向があるため、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるようになるとの観点でmを8以上にすることは有利となる。
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(O)式の環式化合物は、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の使用はポリアリーレンスルフィドへの転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(O)式の環式化合物以外の成分はポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここでポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記した式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。ポリアリーレンスルフィドオリゴマーはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記した式(L)〜式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの分子量としては、ポリアリーレンスルフィドよりも低分子量のものが例示でき、具体的には重量平均分子量で10,000未満であることが好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー量は、環式ポリアリーレンスルフィドが含有する前記(O)式の環式化合物よりも少ないことが特に好ましい。すなわち環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比(前記(O)式の環式化合物/ポリアリーレンスルフィドオリゴマー)は1を超えることが好ましく、2.3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましく、9以上がよりいっそう好ましく、このような環式ポリアリーレンスルフィドを用いることで重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。従って、環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比の値が大きいほど、本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にあり、よってこの重量比に特に上限は無いが、該重量比が100を超える環式ポリアリーレンスルフィドを得るためには、環式ポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドオリゴマー含有量を著しく低減する必要があり、これには多大の労力を要する。本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法によれば該重量比が100以下の環式ポリアリーレンスルフィドを用いても重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造に用いる環式ポリアリーレンスルフィドの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000以下が好ましく、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。
<低原子価鉄化合物>
本発明において、種々の低原子価鉄化合物が重合触媒として用いられる。鉄原子は理論的に−II、−I、0、I、II、III、IV、V、VI価の価数状態を取りうることが知られており、ここで、低原子価鉄化合物とは、−II〜II価の価数を有する鉄化合物であることを指す。また、ここで述べる低原子価鉄化合物とは、加熱による環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際の、反応系内における鉄化合物の価数が−II〜II価であることを指す。
低原子価鉄化合物としては、−II〜II価の価数を有する鉄化合物が挙げられるが、鉄化合物の安定性、取り扱いの容易さ、入手のしやすさ等から、本発明における低原子価鉄化合物としては、0価、I価、II価の鉄化合物が好ましく用いられ、その中でも特にII価の鉄化合物が好ましい。
II価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、例えば、II価の鉄のハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フェロセン化合物などが挙げられる。具体的には例えば塩化鉄、臭化鉄、よう化鉄、ふっ化鉄、酢酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、硝酸鉄、硫化鉄、鉄メトキシド、フタロシアニン鉄、フェロセンなどが例示できる。中でも、鉄化合物を環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させるという観点から、環式ポリアリーレンスルフィド中での分散性の良好な鉄のハロゲン化物が好ましく、経済性の観点及び得られるポリアリーレンスルフィドの特性面から、塩化鉄がより好ましい。ここで述べるポリアリーレンスルフィドの特性としては、例えば1−クロロナフタレンへの溶解性が挙げられる。本発明の好ましい低原子価鉄化合物を用いれば、1−クロロナフタレンへの不溶部の少ない、好ましくは不溶部のないポリアリーレンスルフィドが得られる傾向があり、これは、ポリアリーレンスルフィドの分岐単位または架橋単位が少ないことを意味し、このことは、高い成形加工性や成形品の高い機械強度などの特性が得られるという観点でポリアリーレンスルフィドとして望ましい特性といえる。
I価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、具体的には例えばシクロペンタジエニル鉄ジカルボニルニ量体、1,10−フェナントロリン硫酸鉄錯体などが例示できる。
0価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、具体的にはドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄などが例示できる。
これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
これらの重合触媒は、上記のような低原子価鉄化合物を添加してもよいし、III価以上の高原子価鉄化合物から系内で低原子価鉄化合物を形成させてもよい。ここで後者のように系内で低原子価鉄化合物を形成させるには、加熱により高原子価鉄化合物から低原子価鉄化合物を形成させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドに高原子価鉄化合物と、高原子価鉄化合物に対して還元性を有する化合物を助触媒として添加することにより系内で低原子価鉄化合物を形成させる方法などが挙げられる。加熱により高原子価鉄化合物から低原子価鉄化合物を形成させる方法としては、例えば高原子価ハロゲン化鉄化合物の加熱により低原子価鉄化合物を形成させる方法などが挙げられる。なおここで、高原子価ハロゲン化鉄化合物の加熱の際には、これを構成するハロゲンの一部が脱離することで、低原子価鉄化合物が形成すると推測している。
以下に本発明で使用される高原子価鉄化合物と助触媒の例を挙げる。系内で低原子価鉄化合物を形成させるための高原子価鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、例えば、III価の鉄化合物として塩化鉄、臭化鉄、ふっ化鉄、くえん酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトナート、鉄ベンゾイルアセトナートジエチルジチオカルバミン酸鉄、鉄エトキシド、鉄イソプロポキシド、アクリル酸鉄などが例示できる。中でも、鉄化合物を環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させるという観点から、環式ポリアリーレンスルフィド中での分散性の良好な鉄のハロゲン化物が好ましく、経済性の観点及び得られるポリアリーレンスルフィドの特性面から、塩化鉄がより好ましい。ここで述べるポリアリーレンスルフィドの特性としては、例えば1−クロロナフタレンへの溶解性が挙げられる。本発明の好ましい低原子価鉄化合物を用いれば、1−クロロナフタレンへの不溶部の少ない、好ましくは不溶部のないポリアリーレンスルフィドが得られる傾向があり、これは、ポリアリーレンスルフィドの分岐単位または架橋単位が少ないことを意味し、このことは、高い成形加工性や成形品の高い機械強度などの特性が得られるという観点でポリアリーレンスルフィドとして望ましい特性といえる。
系内で低原子価鉄化合物を形成させるために同時に添加する助触媒としては、環式ポリアリーレンスルフィドと高原子価鉄化合物とを加熱した際に高原子価鉄化合物と反応し低原子価鉄化合物を生成するものであれば特に限定はされないが、各種有機、無機の還元性を有する化合物が好ましく、例えば塩化銅(I)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンなどが例示できる。中でも、塩化銅(I)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)が好ましく、固体状態で安全に取り扱いが可能な塩化銅(I)、塩化スズ(II)がより好ましい。
これらの重合触媒及び助触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
反応系内における鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造は、X線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において触媒として用いられる鉄化合物、または、鉄化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィド、または、鉄化合物を含むポリアリーレンスルフィドにX線を照射し、その吸収スペクトルの形状を比較することで鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造が把握できる。
鉄化合物の価数を評価する場合、K端のX線吸収端近傍構造(XANES)に関する吸収スペクトルを比較することが有効であり、スペクトルが立ち上がるエネルギー及びスペクトル形状を比較することで判断が可能である。III価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルに対し、II価の鉄化合物の測定で得られるスペクトル、さらには0価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルは、メインピークの立ち上がりがより低エネルギー側となる傾向がある。具体的には、III価の鉄化合物である塩化鉄(III)、酸化鉄(III)などでは7120eV付近にメインピークの立ち上がりが、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物などでは7110〜7115eV付近にメインピークの立ち上がりが、0価の鉄化合物である鉄金属(0)などでは7110eV付近からスペクトルに肩構造が観察される。また、III価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルに対し、II価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルは、メインピークのピークトップ位置もより低エネルギー側となる傾向がある。具体的には、III価の鉄化合物では7128〜7139eV付近に、II価の鉄化合物では7120〜7128eV付近にメインピークのピークトップが観察され、より具体的には、III価の鉄化合物である塩化鉄(III)では7128〜7134eV付近に、酸化鉄(III)では7132eV付近に、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)では7120eV付近に、塩化鉄(II)四水和物では7123eV付近に、メインピークのピークトップが観察される。
また、鉄化合物の鉄原子近傍の構造を評価する場合、K端の広域エックス線吸収微細構造(EXAFS)より得られた動径分布関数を比較することが有効であり、ピークが観察される距離を比較することで判断が可能である。鉄金属(0)では0.22nm付近及び0.44nm付近にFe−Fe結合に起因するピークが認められる。塩化鉄(III)では0.16〜0.17nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、塩化鉄(II)では0.21nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、塩化鉄(II)四水和物では0.16〜0.17nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、また0.21nm付近にも別のFe−Cl結合と考えられるサブピークが認められる。酸化鉄(III)では0.15〜0.17nm付近にFe−O結合に起因するピークが、0.26〜0.33nm付近にFe−Fe結合などに起因するピークが認められる。
すなわち、反応中または反応生成物のX線吸収微細構造(XAFS)解析により得られたスペクトルと、各種鉄化合物のスペクトルを比較することにより、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造が把握可能である。
前記鉄化合物の添加に際しては、そのまま添加すればよいが、環式ポリアリーレンスルフィドに重合触媒を添加した後、均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法などが挙げられる。機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。溶媒を用いて分散させる方法として、具体的には環式ポリアリーレンスルフィドを適宜な溶媒に溶解または分散し、これに重合触媒を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。また、重合触媒の分散に際して、重合触媒が固体である場合、より均一な分散が可能となるため重合触媒の平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
使用する重合触媒の濃度は、目的とするポリアリーレンスルフィドの分子量ならびに重合触媒の種類により異なるが、通常、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。0.001モル%以上では環式ポリアリーレンスルフィドはポリアリーレンスルフィドへ十分に転化し、20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
前記鉄化合物の添加に際しては、水分を含まない条件下で添加することが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる好ましい水分量としては1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であり、水分を実質的に含有しないことがよりいっそう好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分量の合計量の、添加した重合触媒に対するモル比は、9以下が好ましく、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下、よりいっそう好ましくは0.1以下であり、水分を実質的に含有しないことがなおいっそう好ましい。この水分量以下であれば、低原子価鉄化合物の酸化反応や加水分解反応などの副反応を防ぐことができる。このことから、添加する鉄化合物の形態は、水和物よりも無水物であることが好ましい。
また、鉄化合物の添加に際し、環式ポリアリーレンスルフィド及び鉄化合物中に水分が含まれるのを防ぐためには、鉄化合物と乾燥剤を併せて添加してもよい。乾燥剤としては、金属、中性乾燥剤、塩基性乾燥剤、酸性乾燥剤などがあるが、低原子価鉄化合物の酸化を防ぐためには酸化性物質を系内に存在させないことが重要であることから、中性乾燥剤や塩基性乾燥剤が好ましい。これら乾燥剤としては、具体的には中性乾燥剤として塩化カルシウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなど、塩基性乾燥剤として、炭酸カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウムなどが例示できる。中でも、吸湿容量が比較的大きく、取り扱いが容易な塩化カルシウム、酸化アルミニウムが好ましい。なお、鉄化合物と乾燥剤を併せて添加する場合、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分子の合計量には、乾燥剤により脱水された水分量は含まないものとする。
上記の水分量は、カール・フィッシャー法により定量が可能である。また、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる水分量は、気相の温度及び相対湿度からも算出できる。また、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量は、赤外線水分計を用いることや、ガスクロマトグラフィーによっても定量が可能であるし、環式ポリアリーレンスルフィド、重合触媒を100〜110℃程度の温度で加熱した際の、加熱前後の重量変化からも求めることができる。
前記鉄化合物の添加に際しては、非酸化性雰囲気下で添加することが好ましい。ここで非酸化性雰囲気とは、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、前記鉄化合物の添加に際しては、酸化性物質を含まない条件下で添加することが好ましい。ここで酸化性物質を含まないとは、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる酸化性物質の、添加した重合触媒に対するモル比が1以下、好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.1以下、よりいっそう好ましくは酸化性物質を実質的に含有しないことを指す。酸化性物質とは、前記重合触媒を酸化させ、触媒活性を有さない化合物、例えば酸化鉄(III)に変化させてしまうような物質のことを指し、例えば、酸素、有機過酸化物、無機過酸化物などが挙げられる。このような条件下であれば、低原子価鉄化合物の酸化反応などの副反応を防ぐことができる。
<ポリアリーレンスルフィドの製造条件>
本発明におけるポリアリーレンスルフィドを製造する際の加熱温度は、環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限はない。ただし、加熱温度が環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度未満ではポリアリーレンスルフィドを得るのに長時間が必要となる傾向がある。なお、環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度は、環式ポリアリーレンスルフィドの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えば環式ポリアリーレンスルフィドを示差走査型熱量計で分析することで溶融解温度を把握することが可能である。加熱温度の下限としては、180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。この温度範囲では、環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解し、短時間でポリアリーレンスルフィドを得ることができる。一方、温度が高すぎると環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリアリーレンスルフィドの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、400℃以下が例示でき、好ましくは360℃以下、より好ましくは320℃以下、さらに好ましくは300℃以下、よりいっそう好ましくは270℃以下である。この温度以下では、好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にあり、前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
反応時間は、使用する環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(O)式の環式化合物の含有率や繰り返し数(m)、及び分子量などの各種特性、使用する重合触媒の種類、また、加熱の温度などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間としては0.01〜100時間が例示でき、0.05〜20時間が好ましく、0.05〜10時間がより好ましい。本発明の好ましい製造方法によれば、環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は2時間以下で行うことも可能である。加熱時間としては2時間以下、さらには1時間以下、0.5時間以下、0.3時間以下、0.2時間以下が例示できる。0.01時間以上では環式ポリアリーレンスルフィドはポリアリーレンスルフィドへ十分に転化し、100時間以下では好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は、実質的に溶媒を含まない条件下で行うことも可能である。このような条件下で行う場合、短時間での昇温が可能であり、反応速度が高く、短時間でポリアリーレンスルフィドを得やすくなる傾向がある。ここで実質的に溶媒を含まない条件とは、環式ポリアリーレンスルフィド中の溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下がより好ましい。
前記加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気とは環式ポリアリーレンスルフィドが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。このような条件下で行う場合、低原子価鉄化合物の酸化を防ぐことができ、さらに環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は、非酸化性雰囲気下であれば大気圧下には限定されず、加圧条件下で行うことも好ましい。加圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも高いことを指し、上限としては特に制限はないが、反応装置の取り扱いの容易さの面からは0.2MPa以下が好ましい。加熱を加圧条件下で行う場合、加熱時に重合触媒が揮散しにくい傾向にある点で好ましい。
また、環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は、用いる鉄化合物が気化や昇華により反応系内から失われない範囲内であれば減圧条件下で行うことも可能である。減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指す。減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。
また、環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は水分を含まない条件下で行うことが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる好ましい水分量としては1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であり、水分を実質的に含有しないことがよりいっそう好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分量の合計量の、添加した重合触媒に対するモル比は、9以下が好ましく、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下、よりいっそう好ましくは0.1以下であり、水分を実質的に含有しないことがなおいっそう好ましい。この水分量以下であれば、低原子価鉄化合物の酸化反応や加水分解反応などの副反応を防ぐことができる。
上記の水分量は、カール・フィッシャー法により定量が可能である。また、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる水分量は、気相の温度及び相対湿度からも算出できる。また、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量は、赤外線水分計を用いることや、ガスクロマトグラフィーによっても定量が可能であるし、環式ポリアリーレンスルフィド、重合触媒を100〜110℃程度の温度で加熱した際の、加熱前後の重量変化からも求めることができる。
前記した環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質存在下で環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を行うことで、ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成する事ができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、ポリアリーレンスルフィド単独の場合に比べて、例えば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりポリアリーレンスルフィドを高度に強化する事が可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができなかったり、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好かつ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、例えばポリアリーレンスルフィドと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。環式ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質が良好なぬれを形成した後、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法によれば環式ポリアリーレンスルフィドがポリアリーレンスルフィドに転化するので、繊維状物質とポリアリーレンスルフィドが良好なぬれを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことを前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性及び引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450Kgf/mm2、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
また、前記した環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、例えば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<分子量の測定>
ポリアリーレンスルフィド及び環式ポリアリーレンスルフィドの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<転化率の測定>
環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化率の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱により得られた生成物約10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、未反応の環式ポリアリーレンスルフィド量を定量し、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
<X線吸収微細構造(XAFS)の測定>
鉄化合物のX線吸収微細構造の測定は下記条件で行った。
実験施設:高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設
分光器:Si(111)2結晶分光器
ミラー:集光ミラー
吸収端:Fe K (7113eV) 吸収端
使用検出器:イオンチャンバー及びライトル検出器。
参考例1(環式ポリアリーレンスルフィドの調製)
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(71.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.44kg(116モル)、酢酸ナトリウム1.72kg(21.0モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水14.8kg及びNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン10.3kg(70.3モル)、NMP9.00kg(91.0モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水1.26kg(70モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)を得た。このスラリー(A)を20.0kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。
80℃に加熱したスラリー(B)10kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(C)を約7.5kg得た。
得られたスラリー(C)1000gをロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換してから、減圧下100〜150℃で1.5時間処理した後に、真空乾燥機で150℃、1時間処理して固形物を得た。
この固形物にイオン交換水1200g(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。ラジオライト#800S(昭和化学工業株式会社製)3gをイオン交換水10gに分散させた分散液を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過することで、フィルター上にラジオライトを積層し、これを用いてスラリーを固液分離した。得られた褐色のケークにイオン交換水1200gを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィド混合物を14.0g得た。
得られたポリフェニレンスルフィド混合物を10g分取し、溶剤としてクロロホルム240gを用いて、浴温約80℃でソックスレー抽出法により5時間ポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いて約200gのクロロホルムを留去した後、これをメタノール500gに撹拌しながら約10分かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、約15分間攪拌を継続した。沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過して回収し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を3.0g得た。白色粉末の収率は用いたポリフェニレンスルフィド混合物に対して31%であった。
この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜12の環式化合物を重量分率で約94%含むことがわかった。
実施例1
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して塩化鉄(III)無水物を1モル%、空気中で混合した粉末350mgを、ガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。電気炉内にアンプルを設置し、50℃から260℃まで15℃/分で昇温した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、こげ茶色固体を得た。検知管を用いて加熱後の試験管内のガス成分を調べた結果、塩素成分が検出された。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は6%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、塩化鉄(III)に近いスペクトル形状を有しており、動径分布関数からも0.16nm付近に塩化鉄(III)と同様のメインピークが認められ、塩化鉄(III)が主成分であることが確認されたが、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、塩化鉄(II)のメインピークのピークトップが認められるエネルギー領域である7120eV付近にわずかに肩ピークが認められることから、塩化鉄(II)成分もわずかに存在することが確認された。このことから、加熱中に塩化鉄(II)成分が生成し、加熱中の環式ポリアリーレンスルフィド中に塩化鉄(II)成分が存在していたことがわかった。
結果を表1に示した。
実施例2
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して塩化鉄(II)無水物を3モル%、窒素雰囲気下で混合した粉末350mgを、ガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。電気炉内にアンプルを設置し、50℃から260℃まで15℃/分で昇温した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、こげ茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は11%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、メインピークは酸化鉄(III)に近いスペクトル形状を有しているが、塩化鉄(II)のメインピークのピークトップが認められるエネルギー領域である7120eV付近に肩ピークが認められた。動径分布関数からも0.17nm付近にFe−O結合とFe−Cl結合の混在に起因すると考えられるメインピークが認められ、酸化鉄(III)とともに塩化鉄(II)成分が存在することが確認された。このことから、加熱中の環式ポリアリーレンスルフィド中に塩化鉄(II)成分が存在していたことがわかった。
結果を表1に示した。
実施例3
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して塩化鉄(III)無水物を1モル%、塩化銅(I)を1モル%、空気中で混合した粉末350mgを、ガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。電気炉内にアンプルを設置し、50℃から260℃まで15℃/分で昇温した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、こげ茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物及び銅化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は8%であることがわかった。
結果を表1に示した。
比較例1
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィド350mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。電気炉内にアンプルを設置し、50℃から260℃まで15℃/分で昇温した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、薄灰色透明の固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で溶解した。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は1%であることがわかった。
結果を表1に示した。
実施例1、実施例2と、比較例1との比較により、環式ポリフェニレンスルフィドをII価の鉄化合物存在下に加熱することで、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が促進されることがわかった。また、実施例1と実施例2との比較から、XAFS測定で塩化鉄(II)成分量が多く観察された実施例2で、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化がより促進されることがわかった。さらに、実施例1と実施例3との比較から、環式ポリフェニレンスルフィドに高原子価鉄化合物である塩化鉄(III)のみを添加するのに対し、塩化鉄(III)と、高原子価鉄化合物に対して還元性を有する塩化銅(I)を助触媒として添加することにより、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化がより促進されることがわかった。これは、助触媒の存在により、系内での高原子価鉄化合物からの低原子価鉄化合物の形成が促進されたためと考えている。
実施例4
加熱を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で20分保持とした以外は実施例1と同様の操作を行い、こげ茶色固体を得た。検知管を用いて加熱後の試験管内のガス成分を調べた結果、塩素成分が検出された。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は51%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、塩化鉄(II)と同様の位置にメインピークが認められたが、形状は異なっており、動径分布関数では0.16nm付近に塩化鉄(III)、塩化鉄(II)四水和物と同様の特徴と考えられるメインピーク、0.21nm付近に塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物と同様の特徴と考えられるサブピークが認められ、III価の鉄化合物とともにII価の鉄化合物である塩化鉄(II)成分が存在することが確認された。
このことから、加熱中に生成した塩化鉄(II)成分は、加熱条件を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で20分保持としても、加熱中の環式ポリアリーレンスルフィド中に存在していたことがわかった。
結果を表2に示した。
実施例5
加熱を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で20分保持とした以外は実施例2と同様の操作を行い、こげ茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は34%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、酸化鉄(III)に近いスペクトル形状を有しており、動径分布関数でも0.16nm付近及び0.26nm付近に酸化鉄(III)と同様のFe−O結合やFe−Fe結合などに起因するものと考えられるピークが認められ、酸化鉄(III)が主成分であること、また、動径分布関数では0.21nm付近に塩化鉄(II)のFe−Cl結合に由来すると考えられるピークが認められたことから、塩化鉄(II)成分が存在することが確認された。このことから、加熱条件を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で20分保持としても、加熱中の環式ポリアリーレンスルフィド中には、酸化鉄(III)が主成分ではあるが、塩化鉄(II)成分も存在していたことがわかった。
結果を表2に示した。
比較例6
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して塩化鉄(II)四水和物を1モル%、空気中で混合した粉末350mgを、ガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。電気炉内にアンプルを設置し、50℃から300℃まで15℃/分で昇温し、300℃で20分保持した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は30%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、酸化鉄(III)に近いスペクトル形状を有しており、動径分布関数では0.15nm付近及び0.26nm付近に酸化鉄(III)と同様のFe−O結合やFe−Fe結合などに起因するものと考えられるピークが認められ、酸化鉄(III)が主成分であること、また、動径分布関数では0.21nm付近に塩化鉄(II)のFe−Cl結合に由来すると考えられるピークがわずかに認められたことから、塩化鉄(II)成分もわずかに存在することが確認された。このことから、加熱中の環式ポリアリーレンスルフィド中にわずかではあるが塩化鉄(II)成分が存在していたことがわかった。
結果を表2に示した。
比較例2
加熱を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で20分保持とした以外は比較例1と同様の操作を行い、こげ茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で溶解した。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は23%であることがわかった。
結果を表2に示した。
比較例3
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して酸化鉄(III)を0.5モル%、空気中で混合した粉末350mgを、ガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。電気炉内にアンプルを設置し、50℃から300℃まで15℃/分で昇温し、300℃で20分保持した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、赤茶色固体を得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は17%であることがわかった。
結果を表2に示した。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、酸化鉄(III)と同様のスペクトル形状を有しており、動径分布関数では0.15nm付近及び0.26nm付近に酸化鉄(III)と同様のFe−O結合やFe−Fe結合などに起因するものと考えられるピークが認められ、酸化鉄(III)が主成分であることがわかった。
実施例4から5と、比較例6、比較例2、比較例3との比較により、環式ポリフェニレンスルフィドをII価の鉄化合物存在下に加熱することで、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が促進されることがわかった。また、実施例4、実施例5、比較例6の比較から、XAFS測定で塩化鉄(II)成分量が多く観察された実施例4、実施例5、比較例6の順に、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化がより促進されることがわかった。実施例5と比較例6との比較からは、低原子価のII価の鉄化合物である塩化鉄(II)として無水物を添加することで、水和物を添加するよりも環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化がより促進されることがわかった。環式ポリフェニレンスルフィドと重合触媒の混合物中に含まれる水分量が少ないことで、低原子価のII価の鉄化合物である塩化鉄(II)の酸化、加水分解などの副反応が起こりにくかったためと考えている。
実施例7
加熱を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で60分保持とした以外は実施例1と同様の操作を行い、こげ茶色固体を得た。検知管を用いて加熱後の試験管内のガス成分を調べた結果、塩素成分が検出された。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は81%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、実施例4で得られた固体と同様の吸収スペクトルが得られ、III価の鉄化合物とともにII価の鉄化合物である塩化鉄(II)成分が存在することが確認された。このことから、加熱中に生成した塩化鉄(II)成分は、加熱条件を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で60分保持としても、加熱中の環式ポリアリーレンスルフィド中に存在していたことがわかった。
結果を表3に示した。
実施例8
加熱を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で60分保持とした以外は実施例2と同様の操作を行い、こげ茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は60%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、実施例5で得られた固体と同様の吸収スペクトルが得られ、酸化鉄(III)が主成分であること、塩化鉄(II)成分も存在することが確認された。このことから、加熱条件を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で60分保持としても、加熱中の環式ポリアリーレンスルフィド中には、酸化鉄(III)が主成分ではあるが、塩化鉄(II)成分も存在していたことがわかった。
結果を表3に示した。
比較例7
加熱を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で60分保持とした以外は比較例6と同様の操作を行い、こげ茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は48%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、比較例6で得られた固体と同様の吸収スペクトルが得られ、酸化鉄(III)が主成分であること、塩化鉄(II)成分がわずかに存在することが確認された。このことから、加熱条件を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で60分保持としても、加熱中の環式ポリアリーレンスルフィド中にわずかではあるが塩化鉄(II)成分が存在していたことがわかった。
結果を表3に示した。
比較例4
加熱を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で60分保持とした以外は比較例1と同様の操作を行い、こげ茶色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で溶解した。生成物の赤外分光分析における吸収スペクトルより、生成物はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は44%であることがわかった。
結果を表3に示した。
比較例5
加熱を50℃から300℃まで15℃/分で昇温後、300℃で60分保持とした以外は比較例3と同様の操作を行い、赤茶色固体を得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は36%であることがわかった。
得られた固体のXAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、比較例3で得られた固体と同様の吸収スペクトルが得られ、酸化鉄(III)が主成分であることがわかった。
結果を表3に示した。
実施例7から8と、比較例7、比較例4、比較例5との比較により、環式ポリフェニレンスルフィドをII価の鉄化合物存在下に加熱することで、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が促進されることがわかった。また、実施例7、実施例8、比較例7の比較から、XAFS測定で塩化鉄(II)成分量が多く観察された実施例7、実施例8、比較例7の順に、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化がより促進されることがわかった。実施例8と比較例7との比較からは、低原子価のII価の鉄化合物である塩化鉄(II)として無水物を添加することで、水和物を添加するよりも環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化がより促進されることがわかった。環式ポリフェニレンスルフィドと重合触媒の混合物中に含まれる水分量が少ないことで、低原子価のII価の鉄化合物である塩化鉄(II)の酸化、加水分解などの副反応が起こりにくかったためと考えている。
実施例10
環式ポリフェニレンスルフィドと塩化鉄(II)無水物の混合を空気中で行った以外は実施例8と同様の操作を行い、こげ茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく鉄化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は54%であることがわかった。
結果を表3に示した。
実施例8と実施例10の比較から、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)無水物の窒素雰囲気下での添加により、空気中での添加に対し、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化がより促進されることがわかった。環式ポリフェニレンスルフィドへの鉄化合物の添加を非酸化性雰囲気下で行うことで、低原子価のII価の鉄化合物である塩化鉄(II)の酸化反応などの副反応が起こりにくかったためと考えている。