本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)と、ポリアリーレンスルフィド(B)、熱可塑性樹脂(C)、および0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)から構成される。まず各構成要素について説明する。
<強化繊維束(A)>
本発明で用いられる強化繊維としては、特に限定されないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維、炭化ケイ素繊維等が使用でき、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。
とりわけ、炭素繊維は比強度、比剛性に優れ、成形品の力学特性を向上させる観点で好ましい。これらの中でも、軽量かつ高強度、高弾性率の成形品を得る観点から、炭素繊維を用いるのが好ましく、特に引張弾性率で200〜700GPaの炭素繊維を用いることが好ましい。さらには、炭素繊維や、金属を被覆した強化繊維は、高い導電性を有するため、成形品の導電性を向上させる効果があり、例えば電磁波シールド性の要求される電子機器などの筐体用途には特に好ましい。
また、炭素繊維のより好ましい態様として、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面官能基量(O/C)が、0.05〜0.4の範囲にあることがあげられる。O/Cが高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、マトリックス樹脂との接着性を高めることができる。一方、O/Cが高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念される。O/Cが好ましい範囲内で、力学特性のバランスにとりわけ優れた成形品を得ることが出来る。
表面官能基量(O/C)は、X線光電子分光法により、次のような手順によって求められる。まず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面官能基量(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
強化繊維束は、強化繊維の単繊維数が多いほど経済性には有利であることから、単繊維は10,000本以上が好ましい。他方、強化繊維の単繊維数が多いほどマトリックス樹脂の含浸性には不利となる傾向があるため、強化繊維束として炭素繊維束を用いる場合、経済性と含浸性の両立を図る観点から、15,000本以上100,000本以下がより好ましく、20,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。とりわけ、本発明の効果である、成形材料を製造する過程での熱可塑性樹脂の含浸性に優れている点や、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好である点は、より繊維数の多い強化繊維束に好適である。
さらに、単繊維を強化繊維束に束ねる目的で、本発明の成分(B)とは別に、集束剤を使用してもよい。これは強化繊維束に集束剤を付着させることで、強化繊維の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂などのサイジング剤を1種または2種以上併用することができる。
本発明の成形材料に用いられる、連続した強化繊維束(A)とは、単繊維が一方向に配列された強化繊維束が長さ方向に亘り連続した状態であることを意味するが、強化繊維束の単繊維全てが全長に亘り連続している必要はなく、一部の単繊維が途中で分断されていても良い。このような連続した強化繊維束としては、一方向性繊維束、二方向性繊維束、多方向性繊維束などが例示できるが、成形材料を製造する過程での生産性の観点から、一方向性繊維束がより好ましく使用できる。
<ポリアリーレンスルフィド(B)>
本発明に用いられるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略することもある)は、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80重量%以上、特に90重量以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
本発明におけるPASの分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上である。重量平均分子量が上記好ましい下限値以上であると、より高温(例えば、360℃)での成形加工時であっても低分子量成分が熱分解反応を起こしにくく、分解ガスで成形設備周辺の環境汚染を引き起こすこともない。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000以下を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明におけるPASの分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度は2.5以下であり、2.3以下が好ましく、2.1以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。分散度がこの好ましい範囲であると、PASに含まれる低分子成分の量が少なく、成形設備周辺の環境汚染を引き起こすこともない。なお、前記重量平均分子量および数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
また、本発明におけるPASの溶融粘度に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜10,000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が好ましい範囲として例示できる。
また、本発明においてPASは実質的に塩素以外のハロゲン、すなわちフッ素、臭素、ヨウ素、アスタチンを含まないことが好ましい。本発明においてPASがハロゲンとして塩素を含有する場合、PASが通常使用される温度領域においては安定であるために塩素を少量含有してもPASの力学特性、発生ガスの人体に与える影響は少ないが、塩素以外のハロゲンを含有する場合、それらの特異な性質による分解ガスが成形設備周辺の環境へ悪影響を及ぼす場合があるためその分解ガスの除去のため過大な設備を必要とする。なお、ここで言う「実質的に塩素以外のハロゲンを含まない」とは、例えば、ポリマーを燃焼させ、燃焼ガスを吸収させた、溶液をイオンクロマト法などで定量分析を行い、塩素以外のハロゲンは検出限界以下であることを意味する。また、本発明においてPASがハロゲンとして塩素を含有する場合でも、同様の観点で、その好ましい量は1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
本発明で用いられるPASは、成形時の分解ガスを低く抑える観点から、加熱した際の重量減少が下記式(1)を満たすことが好ましい。
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.20(%) ・・・(1)。
ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
本発明で用いられるPASは△Wrが0.20%以下であり、0.16%以下であることが好ましく、0.13%以下であることが更に好ましく、0.10%以下であることがよりいっそう好ましい。△Wrが前記好ましい範囲であると、たとえば、繊維強化樹脂部材が火災などにより加熱された際であっても、発生ガス量が少ない。△Wrは一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを示す。
また、△Wrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。なお、本発明においては、50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。
<ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)>
本発明において、PASは、下記の式(o)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満のポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して、重量平均分子量10,000以上の高重合度体に転化させることによって製造することができる。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのより好ましい態様としては、環式ポリアリーレンスルフィドを70重量%以上含み、さらに好ましくは80重量%以上含み、とりわけ好ましくは90重量%以上含むものである。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの上限値には特に制限は無いが、98重量%以下、好ましくは95重量%以下が好ましい範囲として例示できる。
通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの重量比率が高いほど、加熱後に得られるPASの重合度が高くなる傾向にある。すなわち、本発明では、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの存在比率を調整することで、得られるPASの重合度を調整し、加熱時の発生ガス量をより低く抑えることができ好ましい。
従って、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを連続した強化繊維束に予め含浸させ後、加熱してポリアリーレンスルフィドプレポリマーをPASの高重合度体に転化させる方法(I)や、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱させて重合をさせながら連続した強化繊維束に含浸させる方法(II)や、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱させてPASの高重合度体に転化させた後に、連続した強化繊維束に含浸させる方法(III)などで、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体を形成させることができるが、成形材料を製造する過程での経済性、生産性の観点から、前記方法(I)が好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(o)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、4〜50が好ましく、4〜25がより好ましく、4〜15がさらに好ましい範囲として例示でき、8以上を主成分とする前記(o)式環式化合物がよりいっそう好ましい。後述するように環式ポリアリーレンスルフィドの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの転化は環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上で行うことが好ましいが、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点でmを前記範囲にすることは有利となる。mが7以下の環式化合物は反応性が低い傾向があるため、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるようになるとの観点でmを8以上にすることは有利となる。
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(o)式の環式化合物は、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の使用はポリアリーレンスルフィドへの転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000以下が好ましく、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。
ここで、前記ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法としては例えば以下の(1)、(2)の方法が挙げられる。
(1)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合することで、80meshふるい(目開き0.125mm)で分離される顆粒状PAS樹脂、重合で生成したPAS成分であって前記顆粒状PAS樹脂以外のPAS成分(ポリアリーレンスルフィドオリゴマーと称する)、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、ここに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを分離回収し、これを精製操作に処すことでポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法。
(2)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合して、重合終了後に有機極性溶媒の除去を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、これを精製することで得られるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを含むポリアリーレンスルフィド樹脂を得て、これを実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂は溶解しないがポリアリーレンスルフィドプレポリマーは溶解する溶剤を用いて抽出してポリアリーレンスルフィドプレポリマーを回収する方法。
本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマーは、成形材料製造時の分解ガスを低く抑える観点から、加熱した際の重量減少が前記式(1)において、△Wrが5%以下であり、3%以下であることが好ましく、2%以下であることが更に好ましく、1%以下であることがよりいっそう好ましい。また、かかる要件を備えたポリアリーレンスルフィドプレポリマーを選択することで、ポリアリーレンスルフィドへの加熱重合時の原料減少を最低限に抑えることができる。
さらに、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを0価遷移金属化合物または低原子価鉄化合物存在下に加熱することによって得ることができ、この方法によれば容易に前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
前記した製法における、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率は70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。転化率が70%以上では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。ここでの環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへのへの転化率とは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)中の環式ポリアリーレンスルフィドが高分子量のポリアリーレンスルフィドに転化した割合を示した物である。
<0価遷移金属化合物(D)>
本発明において、種々の0価遷移金属化合物が重合触媒として用いられる。0価遷移金属としては、好ましくは、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属が好ましく用いられる。例えば金属種として、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金が例示できる。0価遷移金属化合物としては、各種錯体が適しているが、例えば配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、ジメトキシジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエン、カルボニルの錯体が挙げられる。具体的にはビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、[P,P’−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン][P−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン]パラジウム、1,3−ビス(2,6−ジ−i−プロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、ビス(3,5,3’,5’−ジメトキシジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、テトラキス(トリフルオロホスフィン)白金、エチレンビス(トリフェニルホスフィン)白金、白金−2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄、ドデカカルボニル四ロジウム、ヘキサデカカルボニル六ロジウム、ドデカカルボニル三ルテニウムなどが例示できる。これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
これらの重合触媒は、上記のような0価遷移金属化合物を添加してもよいし、系内で0価遷移金属化合物を形成させてもよい。ここで後者のように系内で0価遷移金属化合物を形成させるには、遷移金属の塩などの遷移金属化合物と配位子となる化合物を添加することで、系内で遷移金属の錯体を形成させる方法、あるいは、遷移金属の塩などの遷移金属化合物と配位子となる化合物で形成された錯体を添加する方法などが挙げられる。以下に本発明で使用される遷移金属化合物と配位子、及び、遷移金属化合物と配位子で形成された錯体の例を挙げる。系内で0価遷移金属化合物を形成させるための遷移金属化合物としては、例えば、種々の遷移金属の酢酸塩、ハロゲン化物などが例示できる。ここで遷移金属種としては例えば、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金の酢酸塩、ハロゲン化物などが例示でき、具体的には酢酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫化ニッケル、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫化パラジウム、塩化白金、臭化白金、酢酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、酢酸ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、酢酸ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、酢酸銅、塩化銅、臭化銅、酢酸銀、塩化銀、臭化銀、酢酸金、塩化金、臭化金などが挙げられる。また、系内で0価遷移金属化合物を形成させるために同時に添加する配位子としては、環式ポリアリーレンスルフィドと遷移金属化合物とを加熱した際に0価の遷移金属を生成するものであれば特に限定はされないが、塩基性化合物が好ましく、例えばトリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、炭酸ナトリウム、エチレンジアミンなどが挙げられる。また、遷移金属化合物と配位子となる化合物で形成された錯体としては、上記のような種々の遷移金属塩と配位子からなる錯体が挙げられる。具体的にはビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジアセタート、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウムジクロリド、ジクロロ(1,5’−シクロオクタジエン)パラジウム、ビス(エチレンジアミン)パラジウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケルジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケルジクロリド、ジクロロ(1,5’−シクロオクタジエン)白金などが例示できる。これらの重合触媒及び配位子は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
遷移金属化合物の価数状態は、X線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において触媒として用いられる遷移金属化合物または遷移金属化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィドまたは遷移金属化合物を含むポリアリーレンスルフィドにX線を照射し、その吸収スペクトルを規格化した際の吸収係数のピーク極大値を比較することで把握できる。
例えばパラジウム化合物の価数を評価する場合、L3端のX線吸収端近傍構造(XANES)に関する吸収スペクトルを比較することが有効であり、X線のエネルギーが3173eVの点を基準とし、3163〜3168eVの範囲内の平均吸収係数を0、3191〜3200eVの範囲内の平均吸収係数を1と規格化した際の吸収係数のピーク極大値を比較することで判断が可能である。パラジウムの例においては、2価のパラジウム化合物に対して、0価のパラジウム化合物では規格化した際の吸収係数のピーク極大値が小さい傾向があり、さらに、環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する効果が大きい遷移金属化合物ほどピーク極大値が小さい傾向がある。この理由は、XANESに関する吸収スペクトルは内殻電子の空軌道への遷移に対応しており、吸収ピーク強度はd軌道の電子密度に影響されるためと推測している。
パラジウム化合物が環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を促進するためには、規格化した際の吸収係数のピーク極大値が6以下であることが好ましく、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下であり、この範囲内では環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進することができる。
具体的には、ピーク極大値は、環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進しない2価の塩化パラジウムでは6.32、環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する0価のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及びビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムではそれぞれ3.43及び2.99及び2.07である。
<低原子価鉄化合物(E)>
本発明において、種々の低原子価鉄化合物(E)が重合触媒として用いられる。鉄原子は理論的に−II、−I、0、I、II、III、IV、V、VI価の価数状態を取りうることが知られており、ここで、低原子価鉄化合物とは、−II〜II価の価数を有する鉄化合物であることを指す。また、ここで述べる低原子価鉄化合物(E)とは、加熱による環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際の、反応系内における鉄化合物の価数が−II〜II価であることを指す。
低原子価鉄化合物(E)としては、−II〜II価の価数を有する鉄化合物が挙げられるが、鉄化合物の安定性、取り扱いの容易さ、入手のしやすさ等から、本発明における低原子価鉄化合物(E)としては、0価、I価、II価の鉄化合物が好ましく用いられ、その中でも特にII価の鉄化合物が好ましい。
II価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、例えば、II価の鉄のハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フェロセン化合物などが挙げられる。具体的には例えば塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、フッ化鉄、酢酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、硝酸鉄、硫化鉄、鉄メトキシド、フタロシアニン鉄、フェロセンなどが例示できる。中でも、鉄化合物を環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させるという観点から、環式ポリアリーレンスルフィド中での分散性の良好な鉄のハロゲン化物が好ましく、経済性の観点及び得られるポリアリーレンスルフィドの特性面から、塩化鉄がより好ましい。ここで述べるポリアリーレンスルフィドの特性としては、例えば1−クロロナフタレンへの溶解性が挙げられる。本発明の好ましい低原子価鉄化合物(E)を用いれば、1−クロロナフタレンへの不溶部の少ない、好ましくは不溶部のないポリアリーレンスルフィドが得られる傾向があり、これは、ポリアリーレンスルフィドの分岐単位または架橋単位が少ないことを意味し、このことは、高い成形加工性や成形品の高い機械強度などの特性が得られるという観点でポリアリーレンスルフィドとして望ましい特性といえる。
I価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、具体的には例えばシクロペンタジエニル鉄ジカルボニルニ量体、1,10−フェナントロリン硫酸鉄錯体などが例示できる。
0価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、具体的にはドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄などが例示できる。
これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
これらの重合触媒は、上記のような低原子価鉄化合物(E)を添加してもよいし、III価以上の高原子価鉄化合物から系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させてもよい。ここで後者のように系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるには、加熱により高原子価鉄化合物から低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドに高原子価鉄化合物と、高原子価鉄化合物に対して還元性を有する化合物を助触媒として添加することにより系内で低原子価鉄化合物を形成させる方法などが挙げられる。加熱により高原子価鉄化合物から低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法としては、例えば高原子価ハロゲン化鉄化合物の加熱により低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法などが挙げられる。なおここで、高原子価ハロゲン化鉄化合物の加熱の際には、これを構成するハロゲンの一部が脱離することで、低原子価鉄化合物(E)が形成すると推測している。
本発明において、低原子価鉄化合物(E)が保存中に徐々に変質するような物質である場合は、より安定な高原子価鉄化合物の状態で添加しておき、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)をポリアリーレンスルフィド(B)に転化させるプロセスにおいて、系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法が好ましく用いられる。かかるプロセスを用いることで、得られる成形材料の長期保管が可能であったり、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)をポリアリーレンスルフィド(B)に転化率する際の添加率を高めることが可能となるため好ましい。
以下に本発明で使用される高原子価鉄化合物の例を挙げる。系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるための高原子価鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、例えば、III価の鉄化合物として塩化鉄、臭化鉄、フッ化鉄、クエン酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトナート、鉄ベンゾイルアセトナートジエチルジチオカルバミン酸鉄、鉄エトキシド、鉄イソプロポキシド、アクリル酸鉄などが例示できる。中でも、鉄化合物を環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させるという観点から、環式ポリアリーレンスルフィド中での分散性の良好な鉄のハロゲン化物が好ましく、経済性の観点及び得られるポリアリーレンスルフィドの特性面から、塩化鉄がより好ましい。ここで述べるポリアリーレンスルフィドの特性としては、例えば1−クロロナフタレンへの溶解性が挙げられる。本発明の好ましい低原子価鉄化合物(E)を用いれば、1−クロロナフタレンへの不溶部の少ない、好ましくは不溶部のないポリアリーレンスルフィドが得られる傾向があり、これは、ポリアリーレンスルフィドの分岐単位または架橋単位が少ないことを意味し、このことは、高い成形加工性や成形品の高い機械強度などの特性が得られるという観点でポリアリーレンスルフィドとして望ましい特性といえる。
以下に本発明で使用される助触媒の例を挙げる。系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるために添加する助触媒としては、環式ポリアリーレンスルフィドと高原子価鉄化合物とを加熱した際に高原子価鉄化合物と反応し低原子価鉄化合物を生成するものであれば特に限定はされないが、各種有機、無機の還元性を有する化合物が好ましく、例えば塩化銅(I)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンなどが例示できる。中でも、塩化銅(I)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)が好ましく、固体状態で安全に取り扱いが可能な塩化銅(I)、塩化スズ(II)がより好ましい。
これらの重合触媒及び助触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
反応系内における鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造は、X線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において触媒として用いられる鉄化合物、または、鉄化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィド、または、鉄化合物を含むポリアリーレンスルフィドにX線を照射し、その吸収スペクトルの形状を比較することで鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造が把握できる。
鉄化合物の価数を評価する場合、K端のX線吸収端近傍構造(XANES)に関する吸収スペクトルを比較することが有効であり、スペクトルが立ち上がるエネルギー及びスペクトル形状を比較することで判断が可能である。III価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルに対し、II価の鉄化合物の測定で得られるスペクトル、さらには0価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルは、メインピークの立ち上がりがより低エネルギー側となる傾向がある。具体的には、III価の鉄化合物である塩化鉄(III)、酸化鉄(III)などでは7120eV付近にメインピークの立ち上がりが、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物などでは7110〜7115eV付近にメインピークの立ち上がりが、0価の鉄化合物である鉄金属(0)などでは7110eV付近からスペクトルに肩構造が観察される。また、III価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルに対し、II価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルは、メインピークのピークトップ位置もより低エネルギー側となる傾向がある。具体的には、III価の鉄化合物では7128〜7139eV付近に、II価の鉄化合物では7120〜7128eV付近にメインピークのピークトップが観察され、より具体的には、III価の鉄化合物である塩化鉄(III)では7128〜7134eV付近に、酸化鉄(III)では7132eV付近に、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)では7120eV付近に、塩化鉄(II)四水和物では7123eV付近に、メインピークのピークトップが観察される。
また、鉄化合物の鉄原子近傍の構造を評価する場合、K端の広域エックス線吸収微細構造(EXAFS)より得られた動径分布関数を比較することが有効であり、ピークが観察される距離を比較することで判断が可能である。鉄金属(0)では0.22nm付近及び0.44nm付近にFe−Fe結合に起因するピークが認められる。塩化鉄(III)では0.16〜0.17nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、塩化鉄(II)では0.21nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、塩化鉄(II)四水和物では0.16〜0.17nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、また0.21nm付近にも別のFe−Cl結合と考えられるサブピークが認められる。酸化鉄(III)では0.15〜0.17nm付近にFe−O結合に起因するピークが、0.26〜0.33nm付近にFe−Fe結合などに起因するピークが認められる。
すなわち、反応中または反応生成物のX線吸収微細構造(XAFS)解析により得られたスペクトルと、各種鉄化合物のスペクトルを比較することにより、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造が把握可能である。
前記鉄化合物の添加に際しては、水分を含まない条件下で添加することが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる好ましい水分量としては1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であり、水分を実質的に含有しないことがよりいっそう好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分量の合計量の、添加した重合触媒に対するモル比は、9以下が好ましく、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下、よりいっそう好ましくは0.1以下であり、水分を実質的に含有しないことがなおいっそう好ましい。この水分量以下であれば、低原子価鉄化合物(E)の酸化反応や加水分解反応などの副反応を防ぐことができる。このことから、添加する鉄化合物の形態は、水和物よりも無水物であることが好ましい。
また、鉄化合物の添加に際し、環式ポリアリーレンスルフィド及び鉄化合物中に水分が含まれるのを防ぐためには、鉄化合物と乾燥剤を併せて添加してもよい。乾燥剤としては、金属、中性乾燥剤、塩基性乾燥剤、酸性乾燥剤などがあるが、低原子価鉄化合物(E)の酸化を防ぐためには酸化性物質を系内に存在させないことが重要であることから、中性乾燥剤や塩基性乾燥剤が好ましい。これら乾燥剤としては、具体的には中性乾燥剤として塩化カルシウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなど、塩基性乾燥剤として、炭酸カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウムなどが例示できる。中でも、吸湿容量が比較的大きく、取り扱いが容易な塩化カルシウム、酸化アルミニウムが好ましい。なお、鉄化合物と乾燥剤を併せて添加する場合、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分子の合計量には、乾燥剤により脱水された水分量は含まないものとする。
上記の水分量は、カール・フィッシャー法により定量が可能である。また、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる水分量は、気相の温度及び相対湿度からも算出できる。また、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量は、赤外線水分計を用いることや、ガスクロマトグラフィーによっても定量が可能であるし、環式ポリアリーレンスルフィド、重合触媒を100〜110℃程度の温度で加熱した際の、加熱前後の重量変化からも求めることができる。
前記鉄化合物の添加に際しては、非酸化性雰囲気下で添加することが好ましい。ここで非酸化性雰囲気とは、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、前記鉄化合物の添加に際しては、酸化性物質を含まない条件下で添加することが好ましい。ここで酸化性物質を含まないとは、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる酸化性物質の、添加した重合触媒に対するモル比が1以下、好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.1以下、よりいっそう好ましくは酸化性物質を実質的に含有しないことを指す。酸化性物質とは、前記重合触媒を酸化させ、触媒活性を有さない化合物、例えば酸化鉄(III)に変化させてしまうような物質のことを指し、例えば、酸素、有機過酸化物、無機過酸化物などが挙られる。このような条件下であれば、低原子価鉄化合物の酸化反応などの副反応を防ぐことができる。
使用する0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の濃度は、目的とするポリアリーレンスルフィドの分子量ならびに0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の種類により異なるが、通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。0.001モル%以上ではポリアリーレンスルフィドプレポリマーはポリアリーレンスルフィドへ十分に転化し、20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
また、0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)は、本発明におけるポリアリーレンスルフィドの加熱重合後も残存する。この為、0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)は、ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対しても、0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%含有されていることを特徴とする。
0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の添加に際しては、そのまま添加すればよいが、環式ポリアリーレンスルフィドに重合触媒を添加した後、均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法などが挙げられる。機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。溶媒を用いて分散させる方法として、具体的には環式ポリアリーレンスルフィドを適宜な溶媒に溶解または分散し、これに重合触媒を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。また、重合触媒の分散に際して、重合触媒が固体である場合、より均一な分散が可能となるため重合触媒の平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
本発明において、0価遷移金属化合物(D)を重合触媒として用いる成形材料は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)のポリアリーレンスルフィド(B)への転化率が高いことに特徴がある。0価遷移金属化合物(D)を重合触媒に用いることにより、ポリアリーレンスルフィド(B)への転化率が高く、力学特性や耐熱性に優れる成形品が容易に得られる。
本発明において、低原子化鉄化合物(E)は、重合触媒として0価遷移金属化合物(D)に比べて低コストで入手できるという特徴がある。低原子化鉄化合物(E)を重合触媒に用いることにより、よりコストや生産性に優れた成形材料が得られる。
<熱可塑性樹脂(C)>
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、特に限定はなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PENp)樹脂、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
中でも、本発明の効果をより一層高める観点から、耐熱性に優れた樹脂が好ましく選択できる。ここで言う耐熱性とは、例えば、融点が200℃以上、好ましくは220℃以上、より好ましくは240℃以上、さらに好ましくは260℃以上である結晶性樹脂や、荷重たわみ温度が120℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上の非晶性樹脂が例示できる。従って、好ましい樹脂の一例としては、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、PPS樹脂が例示でき、さらにはポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましい樹脂として例示できる。なお、熱可塑性樹脂(C)がPPS樹脂の場合、前記成分(B)と同一のPAS樹脂を使用してもよいし、異なるPAS樹脂を使用してもよいが、本発明の目的から、前記成分(B)よりも高分子量であるPPS樹脂を用いることが好ましい。
上記群に例示された熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、繊維強化剤、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
<成形材料>
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)、ポリアリーレンスルフィド(B)、熱可塑性樹脂(C)および0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)で構成される。
このうち、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、強化繊維束(A)は1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、より好ましくは10〜40重量%である。強化繊維束(A)が1重量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、50重量%を超えると射出成形の際に流動性が低下する場合がある。
また、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、ポリアリーレンスルフィド(B)は0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜8重量%である。ポリアリーレンスルフィド(B)が0.1重量%未満では、成形材料の成形性、すなわち成形時の強化繊維の分散が不十分となる場合があり、15重量%を超えると、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の力学特性を低下させる場合がある。
さらに、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、熱可塑性樹脂(C)は35〜98.9重量%、好ましくは45〜94.5重量%、より好ましくは52〜89重量%であり、この範囲内で用いることで、本発明の効果を達成することができる。熱可塑性樹脂(C)が35重量%未満では射出成形の際に流動性が低下する場合があり、98.9重量%を超えると得られる成形品の力学特性が不十分となる場合がある。
さらに、0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)は、ポリアリーレンスルフィド(B)中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、より好ましくは0.01〜10モル%である。
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されて構成される成形材料である。
強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)は、この2者で複合体が形成される。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間にポリアリーレンスルフィド(B)が満たされている。すなわち、ポリアリーレンスルフィド(B)の海に、強化繊維(A)が島のように分散している状態である。具体的な複合体の形成については、前記した通りである。
0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)は、加熱重合触媒としての役割から、ポリアリーレンスルフィド(B)の海中、および/又は強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)との界面に存在することが好ましい。
本発明の成形材料において、耐熱性、低ガス性に優れたポリアリーレンスルフィド(B)が強化繊維束(A)に良好に含浸した複合体とすることで、熱可塑性樹脂(C)とが接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、流動性の良いポリアリーレンスルフィド(B)が熱可塑性樹脂(C)に拡散し、強化繊維束(A)が熱可塑性樹脂(C)に分散することを助け、同時に熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
本発明の成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、強化繊維束(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維束(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30重量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20重量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。強化繊維束(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
成形材料の断面の形状は、強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)とからなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり熱可塑性樹脂(C)で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯に対して、熱可塑性樹脂(C)が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を熱可塑性樹脂(C)が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
複合体と熱可塑性樹脂(C)の境界は接着され、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が該複合体の一部に入り込み、複合体中のポリアリーレンスルフィド(B)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)とからなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と熱可塑性樹脂(C)は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と熱可塑性樹脂(C)では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、重量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
そのため、図7〜9に例示されるように、強化繊維である強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)とからなる複合体に対して、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、強化繊維である強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)とからなる複合体が芯構造であり、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。このような配置であれば、複合体が熱可塑性樹脂(C)をより強固な複合化ができる。また、熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)とからなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
前述したように、強化繊維束(A)はポリアリーレンスルフィド(B)によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、強化繊維とポリアリーレンスルフィドからなる複合体にはある程度のボイドが存在する。特に強化繊維の含有率が大きい場合にはボイドが多くなるが、ある程度のボイドが存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は達成される。ボイド率は0〜40%の範囲が好ましい。より好ましいボイド率の範囲は20%以下である。ボイド率が上記好ましい範囲であると、含浸・繊維分散促進の効果に優れる。ボイド率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定する。
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本引き揃えて加熱・融着させることにより熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、耐熱性、高い強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば自動車部材などに適用が可能である。
本発明の成形材料は、通常の成形法により最終的な形状の製品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。成形品としては、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、モンキー、レンチ等の工具類、歯車などの小物が挙げられる。また、本発明の成形材料は、流動性に優れるため成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
また、上記した成形材料は射出成形用ペレットとして用いることができる。射出成形においては、ペレット状とした成形材料を可塑化する際、温度、圧力、混練が加えられるから、本発明によればその際にポリアリーレンスルフィド(B)が分散・含浸助剤として大きな効果を発揮する。この場合、通常のインラインスクリュー型射出成形機を用いることができ、たとえ圧縮比の低いような形状のスクリューを用いたり、材料可塑化の際の背圧を低く設定するなどしたりして、スクリューによる混練効果が弱い場合であっても、強化繊維がマトリックス樹脂中に良分散し、繊維への樹脂の含浸が良好な成形品を得ることができる。
<成形材料の製造方法>
本発明の成形材料は、前述した形状を容易に製造できると言った観点から、以下の工程を経て製造することが好ましい。すなわち、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)および0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)からなる混合物を得る工程(I)、該混合物を連続した強化繊維束(A)に含浸させた複合体を得る工程(II)、該複合体を熱可塑性樹脂(C)と接着させる工程(III)、からなる成形材料の製造方法であって、該工程(II)以降においてポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)を0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)存在下で加熱重合させてポリアリーレンスルフィドポリマー(B)に転化させる成形材料の製造方法である。
<工程(I)>
工程(I)において、混合物を得る装置は、投入したポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)を混合させる機構を具備した物であれば特に制限は無いが、該成分(B’)と該成分(D)または該成分(E)とを均一に混合させる観点から、加熱溶融させるための加熱源を具備することが好ましい。また、溶融混合物を得た後に、速やかに工程(II)に移す為に、送液機構を具備することがより好ましい。送液の駆動方式としては、自重式、圧空式、スクリュー式、およびポンプ式などが例示できる。
また、加熱の際の雰囲気は非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。これによりポリアリーレンスルフィドプレポリマー間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とはポリアリーレンスルフィドプレポリマーが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい下限以上では、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる分子量の低い前記(o)式の環式化合物が揮散しにくく、一方好ましい上限以下では、架橋反応など好ましくない副反応が起こりにくい傾向にある。
工程(I)において、溶融混練する際は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱重合反応をなるべく起こさないように温度や時間を設定するのが好ましい。溶融混練する際の温度は180〜270℃、好ましくは190〜260℃、より好ましくは200℃〜250℃である。上記好ましい温度で加熱した場合、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが容易に短時間で溶融し、一方、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの重合が急速に進むこととも無く、ポリアリーレンスルフィドの生成による粘度上昇が起こり、続く工程(II)における含浸性も良好である。
工程(I)において、溶融混練する際の時間は、特に制限は無いが、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの重合が進み、増粘することを避ける為に、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーと0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)を混合後できるだけ速やかに工程(II)に移ることが好ましい。かかる時間の範囲としては、0.01〜300分、好ましくは1〜120分、より好ましくは5〜60分となる。上記好ましい加熱時間であると、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の混合が十分となり、一方、ポリアリーレンスルフィドの生成による粘度上昇が起こりにくく、続く工程(II)における含浸性も良好である。
<工程(II)>
工程(II)において、用いる装置は、工程(I)において得られた混合物を連続した強化繊維束に含浸させる機構を具備したものであれば特に制限は無く、溶融混合物をTダイやスリットダイなどの金型ダイに供給しつつ該金型ダイ中に強化繊維束を通過させる装置や、溶融混合物をギアポンプにて溶融バスに供給し、該溶融バス内で強化繊維束をしごきながら通過させる装置や、溶融混合物をプランジャーポンプでキスコーターに供給し、強化繊維束に塗布する装置や、溶融混合物を加熱した回転ロールの上に供給し、このロール表面に強化繊維束を通過させる方法が例示できる。これらの装置は、含浸性を向上させる目的で、組み合わせて使用しても良く、また得られた複合体をループさせて、複数回同じ装置を通過させても良い。
工程(II)において、溶融混練物を含浸させる際の温度は180〜320℃、好ましくは190〜300℃、より好ましくは200℃〜260℃である。上記好ましい温度で加熱した場合、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが凝固し、増粘、あるいは固化しにくく、含浸性に優れ、一方、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応が発生しにくい。
工程(II)において、溶融混練物を含浸させる際の時間は、0.01〜1000分、好ましくは0.02〜120分、より好ましくは0.05〜60分、さらに好ましくは0.1〜10分となる。上記好ましい含浸時間とすると、溶融混練物の強化繊維束への含浸が十分となり、一方、成形材料の生産性も良好である。
<工程(III)>
工程(III)において、用いる装置は、工程(II)で得られた複合体に熱可塑性樹脂を接着させる機構を具備したものであれば特に制限は無く、溶融させた熱可塑性樹脂をTダイやスリットダイなどの金型ダイに供給しつつ該金型ダイ中に複合体を通過させる装置や、溶融させた熱可塑性樹脂をギアポンプにて溶融バスに供給し、該溶融バス内に複合体を通過させる装置や、溶融させた熱可塑性樹脂をプランジャーポンプでキスコーターに供給し、複合体に塗布する装置や、溶融させた熱可塑性樹脂を加熱した回転ロールの上に供給し、このロール表面に複合体を通過させる方法が例示できる。
工程(III)において、複合体と熱可塑性樹脂を接着させる際の温度は、使用する熱可塑性樹脂の分子構造や分子量、組成といった各種特性によって異なるため一概ではないが、下限としては、使用する熱可塑性樹脂の融点が例示できる。上限としては前記融点に加えて80℃、好ましくは50℃、より好ましくは30℃、さらに好ましくは20℃が例示できる。かかる温度範囲において、熱可塑性樹脂は、複合体との接着が容易に行え、かつ熱可塑性樹脂が熱分解するといった製造上好ましくない現象を抑えることができる。なお、かかる融点は、示差走査熱量計(DSC)などによって求めることができる。
工程(III)において、複合体が、複合体と熱可塑性樹脂とを接着させる装置を通過する時間としては、特に制限は無いが、0.0001〜120分、好ましくは0.0002〜60分、より好ましくは0.002〜30分が例示できる。上記好ましい通過時間とすると、複合体と熱可塑性樹脂との接着が容易であり、一方、成形材料の生産性も良好である。
本発明の成形材料の製造方法において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーをポリアリーレンスルフィドに転化させるのは、工程(I)〜(III)のいずれの工程で行っても良いが、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの強化繊維束への含浸を効率良く行う為には、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを工程(II)以降で選択的に重合させることが好ましい。かかる要件を満たすためにも、前記した工程(I)〜工程(III)の装置、温度、及び時間といった条件が好適となる。
また、工程(I)〜(III)を経た後、さらに180〜320℃、好ましくは190〜300℃、より好ましくは200℃〜260℃で熱処理し、成形材料中に残存したポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱重合させることも有意である。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
まず、本発明に使用した評価方法を下記する。
(1)ポリアリーレンスルフィドの平均分子量
ポリアリーレンスルフィドの平均分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を算出した。また、該分子量を用いて、分散度(Mw/Mn)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100(カラム名:センシュー科学 GPC3506)
溶離液:1−クロロナフタレン、流量:1.0mL/min
カラム温度:210℃、検出器温度:210℃。
(2)ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのポリフェニレンスルフィドへの転化率の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
ポリフェニレンスルフィド10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。得られた溶液を、室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、未反応の環式ポリアリーレンスルフィドを定量し、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのポリアリーレンスルフィドへの転化率を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
(3)ポリアリーレンスルフィドの加熱による重量減少
熱重量分析機(パーキンエルマー社製TGA7)を用いて、下記条件にて重量減少率の測定を行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
測定雰囲気:窒素(純度:99.99%以上)気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件:
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から400℃まで昇温。この際の昇温速度20℃/分。
重量減少率△Wrは(b)の昇温において、100℃時の試料重量を基準として、330℃到達時の試料重量から前述の式(1)を用いて算出した。
(4)成形材料を用いて得られた成形品に含まれる強化繊維の平均繊維長
成形品の一部を切り出し、300℃で加熱プレスし、30μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムを光学顕微鏡にて150倍に拡大観察し、フィルム内で分散した繊維を観察した。その長さを1μm単位まで測定して、次式により重量平均繊維長(Lw)および数平均繊維長(Ln)を求めた。
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×Wi/100)
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Ntotal
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Wi:繊維長さLiの繊維の重量分率(i=1、2、3、・・・、n)
Ntotal:繊維長さを測定した総本数。
(5)成形材料を用いて得られた成形品の密度
JIS K7112(1999)の5に記載のA法(水中置換法)に準拠し測定した。成形品から1cm×1cmの試験片を切り出し、耐熱性ガラス容器に投入し、この容器を80℃の温度で12時間真空乾燥し、吸湿しないようにデシケーターで室温まで冷却し、評価に用いた。浸漬液にはエタノールを用いた。
(6)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点4mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度2.8mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、"インストロン"(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
(7)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1重量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
(8)成形材料を用いて射出成形した時の分解ガスによる設備汚染評価
所定温度によって射出成形を実施する際の設備汚染について、射出成形機からの異臭の発生状況と、金型表面の汚れの目視観察により判定した。成形品形状は、幅150mm×長さ150mm×厚み1.2mmの薄肉平板成形品とし、測定は20サンプルについて行った。判定基準は、以下の4段階で評価し、○以上が合格である。
○○:異臭の発生は無く、金型表面にも汚れが見られない。
○ :異臭の発生は無いが、金型表面に汚れが少量確認される。
△ :異臭が発生する。また金型表面に汚れが少量確認される。
× :異臭が発生する。また金型表面に汚れが確認される。
(9)<X線吸収微細構造(XAFS)の測定
鉄化合物のX線吸収微細構造の測定は下記条件で行った。
実験施設:高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設
分光器:Si(111)2結晶分光器
ミラー:集光ミラー
吸収端:Fe K (7113eV) 吸収端
使用検出器:イオンチャンバー及びライトル検出器。
(参考例1)
<ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム118kg(1000モル)、96%水酸化ナトリウム42.3kg(1014モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を163kg(1646モル)、酢酸ナトリウム24.6kg(300モル)、およびイオン交換水150kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水211kgおよびNMP4kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだ硫黄原子1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン147kg(1004モル)、NMP129kg(1300モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水を18kg(1000モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(Sa)を得た。このスラリー(Sa)を376kgのNMPで希釈しスラリー(Sb)を得た。
80℃に加熱したスラリー(Sb)14.3kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、粗PPS樹脂とスラリー(Sc)を10kg得た。スラリー(Sc)をロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換後、減圧下100〜160℃で1.5時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は3重量%であった。
この固形物にイオン交換水12kg(スラリー(Sc)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水12kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィドオリゴマー100gを得た。ポリフェニレンスルフィドプレポリマーが所定量に達するまで上記操作を繰り返した。
得られたポリフェニレンスルフィドオリゴマーを4g分取してクロロホルム120gで3時間ソックスレー抽出した。得られた抽出液からクロロホルムを留去して得られた固体に再度クロロホルム20gを加え、室温で溶解しスラリー状の混合液を得た。これをメタノール250gに撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を得た。
この白色粉末の重量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はポリフェニレンスルフィドプレポリマーであることが判明した。また、示差走査型熱量計を用いてこの白色粉末の熱的特性を分析した結果(昇温速度40℃/分)、約200〜260℃にブロードな吸熱を示し、ピーク温度は215℃であることがわかった。
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィドおよび繰り返し単位数2〜11の直鎖状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと直鎖状ポリフェニレンスルフィドの重量比は9:1であることがわかった。
(参考例3)
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(71.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.44kg(116モル)、酢酸ナトリウム1.72kg(21.0モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水14.8kg及びNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン10.3kg(70.3モル)、NMP9.00kg(91.0モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水1.26kg(70モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(Sa)を得た。このスラリー(Sa)を20.0kgのNMPで希釈しスラリー(Sb)を得た。
80℃に加熱したスラリー(Sb)10kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(Sc)を約7.5kg得た。
得られたスラリー(Sc)1000gをロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換してから、減圧下100〜150℃で1.5時間処理した後に、真空乾燥機で150℃、1時間処理して固形物を得た。
この固形物にイオン交換水1200g(スラリー(Sc)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。ラジオライト#800S(昭和化学工業株式会社製)3gをイオン交換水10gに分散させた分散液を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過することで、フィルター上にラジオライトを積層し、これを用いてスラリーを固液分離した。得られた褐色のケークにイオン交換水1200gを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィド混合物を14.0g得た。
得られたポリフェニレンスルフィド混合物を10g分取し、溶剤としてクロロホルム240gを用いて、浴温約80℃でソックスレー抽出法により5時間ポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いて約200gのクロロホルムを留去した後、これをメタノール500gに撹拌しながら約10分かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、約15分間攪拌を継続した。沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過して回収し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を3.0g得た。白色粉末の収率は用いたポリフェニレンスルフィド混合物に対して31%であった。
この白色粉末の重量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜12の環式化合物を重量分率で約94%含むことがわかった。
(実施例1)
参考例1で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、0価遷移金属化合物としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%となるよう添加し、250℃の溶融バス中で溶融し溶融混合物を得た。得られた溶融混合物をギアポンプにてキスコーターに供給した。250℃に加熱されたロール上にキスコーターからポリフェニレンスルフィドプレポリマーを塗布し、被膜を形成した。
このロール上に炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−24K(東レ(株)製)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着した。
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着した炭素繊維を、260℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、かつ葛折り状に炉内に設置された10個のロールバー(φ200mm)を複数回ループさせて通過させ、合計10分間かけてポリフェニレンスルフィドプレポリマーを炭素繊維束に十分に含浸しながらポリフェニレンスルフィドに転化した。次に、炉内から引き出し、エアを吹き付けて冷却した後、ドラムワインダーで巻き取って、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体を得た。
なお、巻き取った複合体から、10mm長のストランドを10本カットし、炭素繊維とポリアリーレンスルフィドを分離するために、ソックスレー抽出器を用い、1−クロロナフタレンを用いて、210℃で6時間還流を行い、抽出したポリアリーレンスルフィドを分子量の測定に供した。得られたPPSの重量平均分子量(Mw)は19,700、分散度(Mw/Mn)は1.95であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、93%であった。
続いて、成分(C)である“トレリナ”(登録商標)A900(東レ(株)製PPS樹脂、融点278℃)を330℃で単軸押出機にて溶融し、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた複合体も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた長繊維ペレットを150℃、5時間以上真空下で乾燥させた。乾燥させた長繊維ペレットを、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:320℃、金型温度:150℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。評価結果を表1に記載した。
(実施例2)
炉内温度を300℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は24,800、分散度(Mw/Mn)は2.30であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、93%であった。
また、得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(実施例3)
0価遷移金属化合物としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は49,500、分散度(Mw/Mn)は1.83であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、81%であった。
また、得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(実施例4)
炉内温度を300℃とした以外は、実施例3と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は44,100、分散度(Mw/Mn)は1.89であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、87%であった。
また、得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(実施例5)
0価遷移金属化合物としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は31,900、分散度(Mw/Mn)は2.15であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、99%であった。
また、得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(比較例1)
0価遷移金属化合物を含まないとともに、ポリフェニレンスルフィドの含有量を10重量%から30重量%に、熱可塑性樹脂の含有量を70重量%から50重量%に変更になるよう、複合体におけるポリフェニレンスルフィドプレポリマーの付着量、および複合体への成分(C)の被覆量を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、わずか2%であった。
また、得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(比較例2)
0価遷移金属化合物を含まない以外は、実施例1と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、わずか2%であった。
また、得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(比較例3)
0価遷移金属化合物を含まない以外は、実施例2と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、12%であった。
また、得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(比較例4)
0価遷移金属化合物の代わりにジフェニルスルフィドを用いた以外は、実施例2と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は14,700、分散度(Mw/Mn)は1.33であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、16%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
表1の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例1〜5の長繊維ペレットは、0価の遷移金属触媒を含むため、比較例1〜3に比べ、ポリアリーレンスルフィドへの転化率が著しく高く、成形材料の取扱性に優れ、成形時の設備汚染がなく、得られる成形品の力学特性、外観品位に優れることがわかる。また、比較例1は転化率の小さいポリアリーレンスルフィドプレポリマーを多く含むため、力学特性に劣り、かつ成形時の設備汚染が特に大きい。また実施例1〜5と比較例4との比較により、0価の遷移金属触媒によるポリアリーレンスルフィドの転化率への寄与が優位であることがわかる。
(実施例6)
参考例1で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、0価遷移金属化合物としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるよう添加し、250℃の溶融バス中で溶融し溶融混合物を得た。得られた溶融混合物をギアポンプにてキスコーターに供給した。250℃に加熱されたロール上にキスコーターからポリフェニレンスルフィドプレポリマーを塗布し、被膜を形成した。
このロール上に炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−24K(東レ(株)製)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着した。
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着した炭素繊維を、300℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、かつ葛折り状に炉内に設置された10個のロールバー(φ200mm)を複数回ループさせて通過させ、合計60分間かけてポリフェニレンスルフィドプレポリマーを炭素繊維束に十分に含浸しながらポリフェニレンスルフィドに転化した。次に、炉内から引き出し、エアを吹き付けて冷却した後、ドラムワインダーで巻き取って、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体を得た。
なお、巻き取った複合体から、10mm長のストランドを10本カットし、炭素繊維とポリアリーレンスルフィドを分離するために、ソックスレー抽出器を用い、1−クロロナフタレンを用いて、210℃で6時間還流を行い、抽出したポリアリーレンスルフィドを分子量の測定に供した。得られたPPSの重量平均分子量(Mw)は17,800、分散度(Mw/Mn)は2.11であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、93%であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィドの重量減少率△Wrを測定したところ、0.12%であった。
続いて、成分(C)である“トレリナ”(登録商標)A900(東レ(株)製PPS樹脂、融点278℃)を330℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた複合体も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた長繊維ペレットを150℃、5時間以上真空下で乾燥させた。乾燥させた長繊維ペレットを、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:320℃、金型温度:150℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。評価結果を表2に記載した。
(実施例7)
0価遷移金属化合物として、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを用いた以外は、実施例6と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は42,200、分散度(Mw/Mn)は1.9であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、90%であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィドの重量減少率△Wrを測定したところ、0.06%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
(実施例8)
0価遷移金属化合物として、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルを用いた以外は、実施例6と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は43,500、分散度(Mw/Mn)は1.69であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、72%であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィドの重量減少率△Wrを測定したところ、0.19%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
(比較例5)
0価遷移金属化合物を含まない以外は、実施例6と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は62,300、分散度(Mw/Mn)は1.77であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、54%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
(比較例6)
炉内温度を340℃とした以外は、比較例5と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は68,200、分散度(Mw/Mn)は2.04であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、92%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
(比較例7)
0価遷移金属化合物の代わりにジフェニルスルフィドを用いた以外は、実施例6と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は49,900、分散度(Mw/Mn)は1.77であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、63%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
(比較例8)
0価遷移金属化合物の代わりにチオフェノールナトリウム塩を用いた以外は、実施例6と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例1と同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は26,900、分散度(Mw/Mn)は1.68であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定したところ、35%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
(参考例2)
市販の“トレリナ”(登録商標)A900(東レ(株)製PPS樹脂、融点278℃)を使用して、重量減少率△Wrを測定したところ、0.25%であった。
表2の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例6〜8で得られた本発明の成形材料は、比較例5、7、および8の成形材料にに比べ、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーのポリアリーレンスルフィドの転化率が高く、成形材料の取扱性に優れ、成形時の設備汚染がなく、得られる成形品の力学特性、外観品位に優れる。また、実施例6および7で得られた本発明の成形材料は、比較例6の成形材料に比べ、低い炉内温度で同等の転化率が達成可能であることがわかる。かかる効果は、0価の遷移金属化合物の有無によるものである。また、実施例6〜8と参考例2を比較することにより本発明で用いるポリアリーレンスルフィドが分解ガスの発生を低減できることがわかる。
(実施例9)
参考例3で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマー(B’)に、低原子価鉄化合物源として塩化鉄(III)無水物を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるよう添加し、250℃の溶融バス中で溶融して溶融混合物を得た。得られた溶融混合物をギアポンプにてキスコーターに供給した。250℃に加熱されたロール上にキスコーターからポリフェニレンスルフィドプレポリマー(B’)を塗布し、被膜を形成した。
このロール上に炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−24K(東レ(株)製)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のポリフェニレンスルフィドプレポリマー(B’)を付着した。
ポリフェニレンスルフィドプレポリマー(B’)を付着した炭素繊維を、300℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、かつ葛折り状に炉内に設置された10個のロールバー(φ200mm)を複数回ループさせて通過させ、合計60分間かけてポリフェニレンスルフィドプレポリマーを炭素繊維束に十分に含浸しながらポリフェニレンスルフィド(B)に転化した。次に、炉内から引き出し、エアを吹き付けて冷却した後、ドラムワインダーで巻き取って、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体を得た。この工程において、炉内のガス成分を検知管で調べた結果、塩素成分が確認された。
なお、巻き取った複合体から、10mm長のストランドを10本カットし、ソックスレー抽出器を用い、1−クロロナフタレンを用いて、210℃で6時間還流を行い、ポリアリーレンスルフィド(B)を抽出した。次に、抽出したポリアリーレンスルフィド(B)中のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)の転化率を測定したところ、81%であった。
また、巻き取った複合体から、10mm長のストランドを10本カットし、250℃の1クロロナフタレンに溶解したところ、不溶部として炭素繊維と鉄化合物が得られた。この不溶部から鉄化合物を単離し、XAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、塩化鉄(II)と同様の位置にメインピークが認められたが、形状は異なっており、動径分布関数では0.16nm付近に塩化鉄(III)、塩化鉄(II)四水和物と同様の特徴と考えられるメインピーク、0.21nm付近に塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物と同様の特徴と考えられるサブピークが認められ、III価の鉄化合物とともにII価の鉄化合物である塩化鉄(II)成分が存在することが確認された。
続いて、成分(C)である“トレリナ”(登録商標)A900(東レ(株)製PPS樹脂、融点278℃)を330℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた複合体も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた長繊維ペレットを150℃、5時間以上真空下で乾燥した。乾燥した長繊維ペレットを、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:320℃、金型温度:150℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。評価結果を表3に記載した。
(比較例9)
低原子価鉄化合物(E)の代わりに酸化鉄(III)を用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%となるように変更した以外は、実施例9と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例9と同様にポリアリーレンスルフィド(B)を抽出し、各測定に供した。抽出したポリアリーレンスルフィド(B)中のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B’)の転化率を測定したところ、36%であった。また、XAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、酸化鉄(III)と同様のスペクトル形状を有しており、動径分布関数では0.15nm付近及び0.26nm付近に酸化鉄(III)と同様のFe−O結合やFe−Fe結合などに起因するものと考えられるピークが認められ、酸化鉄(III)が主成分であることがわかった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例9と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(比較例10)
低原子価鉄化合物(E)を含まない以外は、実施例9と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例9と同様にポリアリーレンスルフィド(B’)を抽出し、各測定に供した。抽出したポリアリーレンスルフィド(B’)中のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率を測定したところ、44%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例9と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(比較例11)
低原子価鉄化合物(E)の代わりにチオフェノールナトリウム塩を用いた以外は、実施例9と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた複合体から、実施例9と同様にポリアリーレンスルフィド(B’)を抽出し、各測定に供した。抽出したポリアリーレンスルフィド(B’)中のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率を測定したところ、35%であった。
また、得られた長繊維ペレットを、実施例9と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
表3の実施例および比較例より以下のことが明らかである。
実施例9の本発明の成形材料は、低原子価鉄化合物(E)を含むため、比較例9〜11の成形材料に比べ、成形材料の製造プロセスにおける、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率が高いことがわかる。さらに、実施例9の本発明の成形材料の製造プロセスにおける、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率が高いため、成形時の設備汚染がなく、得られる成形品の力学特性が優れることがわかる。