本発明の成形材料は、ポリアリーレンスルフィド(A)と、カルボジイミド化合物(B)と、強化繊維(C)、および、化合物(D)を成分として含む。まず各成分について説明する。
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)(以下、PASと略することもある)は、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては次の式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、次の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)は上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド(前記式(a)、式(b)、式(f)〜式(k))、ポリフェニレンスルフィドスルホン(前記式(d))、ポリフェニレンスルフィドケトン(前記式(c))、ポリフェニレンスルフィドエーテル(前記式(e))、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィド(A)としては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)は、その重量平均分子量が、好ましくは10,000〜80,000であり、より好ましくは10,000〜60,000であり、さらに好ましくは10,000〜40,000である。ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量が80,000より大きいと、溶融粘度が高く、成形材料の生産性や成形加工性が低下する場合がある。重量平均分子量の小さいポリアリーレンスルフィド(A)ほど溶融粘度が低く、得られる成形材料の成形加工性に優れるが、ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量が10,000未満では、スクリューなどでの搬送性が低下し、成形材料の生産性や成形加工性が低下する場合がある。
さらに、本発明の成形材料は、重量平均分子量の小さいポリアリーレンスルフィド(A)でも、得られる成形材料の引張強度や伸度といった力学特性に優れる特徴がある。この原因は、ポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基がカルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド基と化学反応しており、重量平均分子量の小さいポリアリーレンスルフィド(A)ほど末端に存在する官能基が増加し、カルボジイミド化合物(B)との反応点が増加するためであると推測している。これらの理由から、本発明の成形材料において、ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量を10,000〜40,000の範囲とすることが、得られる成形材料の力学特性と生産性および成形加工性の両立を高レベルで達成できる為とりわけ好ましい。
なお、ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定することができる。溶離液には1−クロロナフタレンを使用し、カラム温度を210℃とし、ポリスチレン換算の重量平均分子量を算出することで求めることができる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)は、主鎖および/または側鎖の末端に官能基を有することが好ましい。ここで言う主鎖とは、高分子構造中で最も長い鎖状構造部分を指し、主鎖から分岐して構成される部分は側鎖という。高分子構造とは、単一の構造単位が繰り返し連結している部分、または複数の構造単位が規則的ないしはランダムに連結している部分を指し、末端とは連結が停止する最後の構造単位を指す。ポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基は、高分子構造の主鎖および/または側鎖の末端のいずれかに1箇所以上あることが好ましく、かかる官能基を有するポリアリーレンスルフィドがポリアリーレンスルフィド(A)に占める割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。かかる条件を満たすことで、力学特性に優れた成形材料が得られる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基としては、重合の際に用いられたモノマーの官能基が残留したもの、重合時の触媒や助剤や溶媒が末端に取り込まれて形成した官能基、高分子構造が熱分解や加水分解などによって切断されて形成した官能基、およびこれらの官能基を酸化、還元、および変性剤で変性したものを用いることが出来る。前記変性剤としては、エピクロルヒドリン、多官能エポキシ樹脂、酸無水物などが例示できる。中でも、高分子構造へのダメージが少なく、分子量を制御しやすいことから、重合の際に用いられたモノマーの官能基が残留したものと、重合時の触媒や助剤や溶媒が末端に取り込まれて形成した官能基が好ましく用いられる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基としては、チオール基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、アミノ基、水酸基、イソシアネート基、オキサゾリン基、スルホン酸基等が例示できる。この中でも、カルボジイミド基との反応性の面でチオール基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、アミノ基、水酸基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基が特に好ましい。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)は、クロロホルムによるオリゴマー抽出量が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。ここで、クロロホルムによるオリゴマー抽出量とは、有機低重合成分(オリゴマー)量の指標となるものであり、測定するポリアリーレンスルフィド(A)10gを、クロロホルム200mLを用いて、ソックスレー抽出5時間処理時の残差量w(g)から、抽出量(質量%)=((10−w)/10)×100により算出できる。ポリアリーレンスルフィド(A)中のオリゴマー成分が減少することで、ポリアリーレンスルフィド(A)のポリマー成分の官能基とカルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド基がより選択的に反応可能となるため力学特性に優れた成形材料が得られる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)は、ポリハロゲン芳香族化合物とスルフィド化剤とを極性有機溶媒中で反応させて得られる重合反応物からポリアリーレンスルフィド(A)を回収、後処理することにより高収率で製造することができる。
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどが挙げられる。これらの中で、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した重量平均分子量のポリアリーレンスルフィド(A)を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9〜2.0モル、好ましくは0.95〜1.5モル、更に好ましくは1.005〜1.2モルの範囲が例示できる。
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)の製造において、仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができる。アルカリ土類金属水酸化物としては、具体例に、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95〜1.20モル、好ましくは1.00〜1.15モル、更に好ましくは1.005〜1.100モルの範囲が例示できる。
以下に、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法の一例について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
先ず前工程について説明する。スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
また、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。アルカリ金属硫化物を調製する好ましい条件は、不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、より好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、150℃以上、より好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.5〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは、重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。水分量のより好ましい範囲は、スルフィド化剤1モル当たり0.75〜2.5モルであり、1.0〜1.25モルの範囲がより好ましい。かかる範囲に水分を調整するために、重合前あるいは重合途中で水分を添加することも可能である。
重合反応工程では、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200〜290℃以下の温度範囲内で反応させることによりポリアリーレンスルフィド(A)を製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、好ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜220℃、好ましくは100〜220℃の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。この段階で酢酸ナトリウムなどの重合助剤を加えてもよい。ここで、重合助剤とは得られるポリアリーレンスルフィド(A)の粘度を調整する作用を有する物質を意味する。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
かかる混合物を通常200〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200〜245℃で一定時間反応させた後、250〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る場合に有効である。この際、200〜245℃での反応時間としては、通常0.25〜20時間の範囲内で選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲内で選択される。
重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法としては、例えばフラッシュ法、すなわち重合反応物を高温高圧(通常245℃以上、0.8MPa以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒回収と同時に重合体を粉粒状にして回収する方法や、クエンチ法、すなわち重合反応物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のポリアリーレンスルフィド成分を析出させ、かつ70℃以上、好ましくは100℃以上の状態で濾別することでポリアリーレンスルフィド成分を含む固体を顆粒状にして回収する方法等が挙げられる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)の回収方法は、クエンチ法、フラッシュ法いずれかに限定されるものではないが、クロロホルム抽出成分に代表されるようなオリゴマー成分が少なく、得られる成形材料の引張強度や伸度に特に優れるために、クエンチ法で得られるポリアリーレンスルフィド(A)であることが好ましい。クエンチ法で得られるポリアリーレンスルフィドのクロロホルムによるオリゴマー抽出量としては、2質量%以下が例示でき、より好ましくは1質量%以下が例示できる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(A)は、上記重合、回収工程を経て生成した後、熱水処理や有機溶媒による洗浄を施して用いられる(後処理工程)。前記回収工程を経て得られたポリアリーレンスルフィド(A)は重合副生物であるアルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ金属有機物などのイオン性不純物を含んでいるため、洗浄を行うことが通例である。洗浄液としては例えば水や有機溶媒を用いて洗浄する方法が挙げられ、簡便かつ安価にポリアリーレンスルフィド(A)を得る点で、水を用いた洗浄が好ましい方法として例示できる。使用する水の種類としてはイオン交換水、蒸留水が好ましく用いられる。
ポリアリーレンスルフィド(A)を洗浄する際の洗浄温度は50℃以上200℃以下が好ましく、150℃以上200℃以下がより好ましく、180℃以上200℃以下がさらに好ましい。100℃以上の液体での処理の操作は、通常、所定量の液体に所定量のポリアリーレンスルフィド(A)を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、攪拌することにより行われる。洗浄は複数回行ってもよく、各洗浄での洗浄温度が異なっていても良いが、イオン性不純物の少ないポリアリーレンスルフィド(A)を得るには、150℃以上の温度で少なくとも1回、好ましくは2回以上洗浄を行うのが良く、各洗浄の間にはポリマーと洗浄液を分離する濾過工程を経ることがより好ましい方法である。
ポリアリーレンスルフィド(A)を得るに際し、洗浄を行う場合には洗浄添加剤を用いてもよく、かかる洗浄添加剤として酸、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が例示できる。酸を用いる場合、洗浄に用いる水に有機酸または無機酸等を添加して酸性にした水溶液中に、洗浄されるポリアリーレンスルフィドを浸漬させ、加熱洗浄後の水溶液のpHが2〜8となるようにすることが好ましい。有機酸、無機酸としては、酢酸、プロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸等が例示でき、これらに限定されるものではないが、酢酸、塩酸が好ましい。本発明において、洗浄添加剤として酸を用いたポリアリーレンスルフィド(A)は、酸末端品と称する。洗浄添加剤としてアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を用いる場合、洗浄に用いる水にアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を添加した水溶液に、洗浄されるべきポリアリーレンスルフィドを浸漬させる方法が例示でき、かかるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の量はポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対し、0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜0.7質量部が更に好ましい。アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としては、上記有機酸または無機酸のカルシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
洗浄添加剤は洗浄工程のいずれの段階で使用してもよいが、少量の添加剤で効率的に洗浄を行うには、前記回収工程にて回収した固形物を水にて洗浄を数回行い、その後洗浄添加剤を添加した水溶液に洗浄されるべきポリアリーレンスルフィドを含浸させ、150℃以上で処理する方法が好ましい。洗浄でのポリアリーレンスルフィドと洗浄液の割合は、洗浄液が多いほうが好ましいが、通常、洗浄液1リットルに対し、ポリアリーレンスルフィド(A)10〜500gの浴比が好ましく選択され、50〜200gが更に好ましい。
かくして得られたポリアリーレンスルフィド(A)は常圧下および/または減圧下に乾燥する。かかる乾燥温度としては、120〜280℃の範囲が好ましく、140〜250℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、溶融粘度の関係から不活性雰囲気が好ましい。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間がより好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
<カルボジイミド化合物(B)>
本発明におけるカルボジイミド化合物(B)は、脂肪族カルボジイミド化合物である。カルボジイミド化合物(B)に脂肪族カルボジイミド化合物でないもの、例えば芳香族カルボジイミド化合物を用いた場合、本発明の成形材料を得ることはできない。これは脂肪族カルボジイミド化合物が有するカルボジイミド基よりも、芳香族カルボジイミド化合物が有するカルボジイミド基の方が、ポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基との反応性が低いためであると推測している。
脂肪族カルボジイミド化合物とは、一般式 −N=C=N−R3 − (式中、R3 はシクロヘキシレン等の脂環式化合物の2価の有機基、またはメチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン等の脂肪族化合物の2価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。
脂肪族カルボジイミド化合物の合成法は特に限定されるものではないが、例えば有機ポリイソシアナートを、イソシアナート基のカルボジイミド化反応を促進する触媒(以下「カルボジイミド化触媒」ともいう)の存在下で反応させることにより、脂肪族カルボジイミド化合物を合成することができる。
この脂肪族ポリカルボジイミド化合物の合成に用いられる有機ポリイソシアナートとしては、有機ジイソシアナートが好ましい。このような有機ジイソシアナートとしては、例えば、シクロブチレン−1,3−ジイソシアナート、シクロペンチレン−1,3−ジイソシアナート、シクロヘキシレン−1,3−ジイソシアナート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアナート、1−メチルシクロヘキシレン−2,4−ジイソシアナート、1−メチルシクロヘキシレン−2,6−ジイソシアナート、1−イソシアネート−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナートメチルシクロヘキサン、シクロヘキサン−1,3−ビス(メチルイソシアナート)、シクロヘキサン−1,4−ビス(メチルイソシアナート)、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、エチレンジイソシアナート、テトラメチレン−1,4−ジイソシアナート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアナート、ドデカメチレン−1,12−ジイソシアナート、リジンジイソシアナートメチルエステルなどや、これらの有機ジイソシアナートの化学量論的過剰量と2官能性活性水素含有化合物との反応により得られる両末端イソシアナートプレポリマーなどを挙げることができる。これらの有機ジイソシアナートは、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
また、場合により有機ジイソシアナートとともに使用される他の有機ポリイソシアナートとしては、例えば、シクロヘキサン−1,3,5−トリイソシアナート、シクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアナート)、3,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアナート)、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアナート)、ジシクロヘキシルメタン−2,4,2’−トリイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−2,4,4’−トリイソシアナートなどの3官能以上の有機ポリイソシアナートや、これらの3官能以上の有機ポリイソシアナートの化学量論的過剰量と2官能以上の多官能性活性水素含有化合物との反応により得られる末端イソシアナートプレポリマーなどを挙げることができる。
前記他の有機ポリイソシアナートは、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもでき、その使用量は、有機ジイソシアナート100質量部あたり、好ましくは0〜40質量部であり、より好ましくは0〜20質量部である。
さらに、脂肪族カルボジイミド化合物の合成に際しては、必要に応じて有機モノイソシアナートを添加することにより、得られる脂肪族カルボジイミド化合物の分子量を適切に制御することができる。
このような有機モノイソシアナートとしては、例えばメチルイソシアナート、エチルイソシアナート、n−プロピルイソシアナート、n−ブチルイソシアナート、ラウリルイソシアナート、ステアリルイソシアナートなどのアルキルモノイソシアナート類、シクロヘキシルイソシアナート、4−メチルシクロヘキシルイソシアナート、2,5−ジメチルシクロヘキシルイソシアナートなどのシクロアルキルモノイソシアナート類を挙げることができる。
これらの有機モノイソシアナートは、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもでき、その使用量は、脂肪族カルボジイミド化合物の所望の分子量などにより変わるが、有機ポリイソシアナート成分100質量部あたり、好ましくは0〜40質量部であり、より好ましくは0〜20質量部である。
また、カルボジイミド化触媒としては、例えば1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−フェニル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−フェニル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−フェニル−3−メチル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−エチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−メチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−メチル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−メチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−スルフィドや、これらの3−ホスホレン異性体などのホスホレン化合物、ペンタカルボニル鉄、ノナカルボニル二鉄、テトラカルボニルニッケル、ヘキサカルボニルタングステン、ヘキサカルボニルクロムなどの金属カルボニル錯体、ベリリウム、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、鉄などの金属のアセチルアセトン錯体、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、トリ−t−ブチルホスフェート、トリフェニルホスフェートなどのリン酸エステルなどを挙げることができる。
前記カルボジイミド化触媒は、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。この触媒の使用量は、有機ポリイソシアナート成分100質量部あたり、好ましくは、0.001〜30質量部であり、より好ましくは0.01〜10質量部である。
脂肪族カルボジイミド化合物の合成反応の温度は、有機ポリイソシアナートや有機モノイソシアナート、カルボジイミド化触媒の種類に応じて適宜選定されるが、通常、20〜200℃である。脂肪族カルボジイミド化合物の合成反応に際して、有機ポリイソシアナートおよび有機モノイソシアナート成分は、反応前に全量添加しても、あるいはその一部または全部を反応中に、連続的あるいは段階的に添加してもよい。
また、イソシアナート基と反応し得る化合物を、脂肪族カルボジイミド化合物の合成反応の初期から後期に至る適宜の反応段階で添加して、脂肪族カルボジイミド化合物の末端イソシアナート基を封止し、得られる脂肪族カルボジイミド化合物の分子量を調節することもでき、また脂肪族カルボジイミド化合物の合成反応の後期に添加して、得られる脂肪族カルボジイミド化合物の分子量を所定値に規制することもできる。このようなイソシアナート基と反応し得る化合物としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ベンジルアミンなどのアミン類を挙げることができる。
本発明で用いるカルボジイミド化合物(B)は、その重量平均分子量が、好ましくは500〜10,000であり、より好ましくは1,000〜5,000である。カルボジイミド化合物(B)の重量平均分子量がこの範囲にあると、本発明の効果である引張強度や伸度といった力学特性の向上と生産性および成形加工性の両立が高レベルで達成できる。なお、カルボジイミド化合物(B)の重量平均分子量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)などの分析方法によって求めることができる。
<強化繊維(C)>
本発明に用いられる強化繊維(C)を構成する強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
さらに、炭素繊維は、その引張強度が、好ましくは2,000MPa以上であり、より好ましくは3,000MPa以上であり、さらに好ましくは4,000MPa以上である。また、炭素繊維は、その引張弾性率が、好ましくは200GPa以上700GPa以下である。さらに、炭素繊維は、その引張伸度が、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1.0%以上であり、さらに好ましくは1.8%以上であり、とりわけ好ましくは2.0%以上である。高伸度な炭素繊維を使用することで、本発明の成形材料の引張強度や伸度といった力学特性の向上を高レベルで達成できるためとりわけ好ましい。このような引張強度、引張弾性率、引張伸度のバランスの観点から本発明における炭素繊維としてはPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
炭素繊維は、X線光電子分光法(XPS)により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比(O/C)が、0.05〜0.50であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.40であり、さらに好ましくは0.10〜0.30である。表面酸素濃度比(O/C)が高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、炭素繊維とサイジング剤(E)との接着性を高めることができる一方で、表面酸素濃度比(O/C)が高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念されるため、表面酸素濃度比(O/C)が好ましい範囲内で、力学特性にとりわけ優れた成形材料を得ることが出来る。
炭素繊維の表面酸素濃度比(O/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められる。まず、溶剤でサイジング剤(E)などを除去した炭素繊維をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面酸素濃度比(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
表面酸素濃度比(O/C)を制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法を取ることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
また、炭素繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、得られる成形材料の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。
強化繊維(C)は、強化繊維の単糸数が多いほど経済性には有利であることから、強化繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有した強化繊維束であることが好ましい。他方、強化繊維の単糸数が多いほど成分(D)の含浸性には不利となる傾向があるため、経済性と含浸性の両立を図る観点から、10,000本以上100,000本以下がより好ましく、10,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。とりわけ、成形材料を製造する過程での化合物(D)の含浸性に優れている点、射出成形を行う際に強化繊維(C)の成形品中への分散が良好である点は、より繊維数の多い強化繊維束に対応できる。
本発明の成形材料に用いられる、強化繊維(C)は、単繊維が一方向に配列された強化繊維束が長さ方向に亘り連続した状態であることが好ましいが、強化繊維束の単繊維全てが全長に亘り連続している必要はなく、一部の単繊維が途中で分断されていても良い。このような連続した強化繊維束としては、一方向性繊維束、二方向性繊維束、多方向性繊維束などが例示できるが、成形材料を製造する過程での生産性の観点から、一方向性繊維束がより好ましく使用できる。
<化合物(D)>
化合物(D)は、重量平均分子量が200〜10,000の化合物である。さらに、化合物(D)の重量平均分子量の好ましい範囲は200〜5,000であり、より好ましい範囲は200〜1,000である。化合物(D)の重量平均分子量が200より小さくなると、熱を付与した際に容易に揮発するなどして、成形品にボイドなどの欠点を生じる原因となったり、また成形品の力学特性を大幅に低下させたりすることがある。逆に分子量が10,000より大きくなると、結果として溶融粘度が高くなり、強化繊維(C)からなる強化繊維束への含浸が困難となることから成形材料の生産性を低下させてしまうことがある。化合物(D)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)を用いて求めることができる。
化合物(D)は、強化繊維(C)に含浸されることにより、強化繊維(C)と化合物(D)を含む複合体を形成する。化合物(D)は、高粘度の成分(A)と成分(B)を含む混合物を強化繊維(C)に含浸する際に、含浸や、該混合物中への強化繊維(C)の分散を助ける、含浸助剤・分散助剤としての働きを示すものである。あらかじめ強化繊維(C)が低粘度物である化合物(D)によって含浸されていることにより、例えば射出成形やプレス成形などの最終形状への成形工程において、成形材料に温度、圧力、混練が加えられた際に、該混合物が強化繊維(C)に含浸することを助け、該混合物中での強化繊維(C)の分散性を向上させる。
これは、次のようなメカニズムによる。強化繊維(C)を構成する単繊維の直径は、炭素繊維の場合7〜10μmと非常に細く、ガラス繊維でも20μm以下である。これは言い換えると強化繊維(C)から構成される繊維束が見かけから予想するよりずっと大きな表面積を持っていることを示している。繊維束へある粘度をもった溶融物を含浸するということは、単繊維の間のわずかな隙間に溶融物を押し込み、単繊維間に存在する空気を系外に追い出しつつ、広い繊維の表面積をすべて濡らすということであり、その困難さ(含浸に要する時間)は単純には溶融物の粘度に比例すると考えられる。本発明においては、溶融粘度の小さい物質である化合物(D)で強化繊維(C)が予め濡らされ、単繊維間の隙間が埋められている状態、すなわち含浸されているため、最終的に含浸させようとする成分(A)と成分(B)を含む混合物がある程度高粘度であっても含浸ははるかに容易となる。これは、予め繊維に含浸されている物質と、これから含浸させようとする物質を、置換あるいは混合するだけで含浸が達成され、空気を系外に追い出す仕事もなくなるためである。化合物(D)の、強化繊維(C)や上記成分(A)と成分(B)を含む混合物に対する化学的親和性を考慮することにより、効果はさらに優れたものとなる。特に化合物(D)に界面活性剤的な役割を付与した場合には、成形時に成形材料が可塑化された際に、強化繊維(C)を成形品中に均一に良分散させる効果が強くあらわれる。
なお、化合物(D)は一般的に炭素繊維の表面処理に用いられるカップリング剤、サイジング剤とは異なる概念に属するものである。すなわち、カップリング剤、サイジング剤の処理量は強化繊維(C)100質量部に対して通常0.01〜5質量部程度と少なく、繊維のごく表面部分に塗布することを意図したものであるから、繊維にあらかじめ含浸しておくといったものではない。強化繊維(C)にはあらかじめ公知の表面処理、カップリング剤やサイジング剤の付与を行うことができ、それらは従来通りの効果を発揮する。なお本発明では、強化繊維(C)に化合物(D)を含浸させるため、サイジング剤などを使用する場合、その使用量は必要最低限で十分である。
成形材料を製造するにあたって、化合物(D)をあらかじめ強化繊維(C)に含浸させる。化合物(D)は熱溶融させて連続した強化繊維(C)に容易に含浸させることが可能であり、化合物(D)を強化繊維(C)に連続的に含浸するプロセスにおいて、例えば速度10m/分以上といった高速走行を実現可能であり、生産性に優れる。また含浸プロセスについても、強化繊維(C)を大幅に開繊したり、バーなどにこすりつけて繊維が損傷を受けるほどしごいたり、化合物(D)に高圧を付与したりするなどの操作をおこなうような複雑な装置を使用する必要がない。また、化合物(D)を溶媒で希釈して低粘度化して含浸してから溶媒を除去したり、エマルジョン、ディスパーション化して含浸後に媒体を除去するような複雑で生産性の悪い手法をとる必要もない。含浸装置の最適化により、化合物(D)を溶融含浸する工程において、強化繊維(C)の走行速度を数十m/分にすることも十分に可能であり、成形材料の生産において、樹脂含浸性がその生産性の律速となることがなくなるという大きな利点がある。
化合物(D)の溶融粘度は、100ポイズ以下であることが好ましく、より好ましくは20ポイズ以下である。100ポイズより溶融粘度が高いと強化繊維(C)への含浸が困難となって成形材料の生産性が低下する。ここに記す溶融粘度は、測定する物質のビカット軟化温度+30℃、あるいは融点+30℃における温度での粘度である。物質が結晶性であって明確な融点を持つ場合には融点+30℃の条件を採用し、それ以外は軟化温度+30℃の条件を用いる。粘度は、キャピラリーレオメーターを用いてJISK7199試験法により測定する。測定におけるせん断速度は103s−1とする。なお、ビカット軟化温度は、JISK7206試験法にしたがって測定し、融点はDSCにより測定する。
また、化合物(D)は、その重量平均分子量を1分子あたりの官能基の数で除した値が150よりも大きいことが好ましく、より好ましくは200以上、さらに好ましくは500以上である。ここでいう、官能基とはカルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド基や、強化繊維(C)の表面官能基、および後述のサイジング剤(E)と反応し得る官能基であり、具体的にはカルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基が例示できる。このような範囲の化合物(D)を強化繊維(C)にあらかじめ複合化させることにより、成形材料の時点でカルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド基を失活させるという好ましくない副反応を抑制することができる。成形材料の時点でカルボジイミド化合物(B)と強化繊維(C)との反応点を残すことで、最終的に成形品を得る際にポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混合物と強化繊維(C)とを強固に接着でき、力学特性に優る成形品が得られるため好ましく、かかる観点からも化合物(D)の重量平均分子量を1分子あたりの官能基の数で除した値が大きいことが好ましい。
化合物(D)は、ポリアリーレンスルフィド(A)との化学的親和性を持つことが好ましい。化合物(D)は成形後の成形品においては成分(A)と成分(B)を含む混合物に混合、拡散することになる。すなわち、化合物(D)とポリアリーレンスルフィド(A)がより混合されやすい組合せであれば、化合物(D)とカルボジイミド化合物(B)との反応を抑えつつ強化繊維(C)の単繊維を成分(A)と成分(B)を含む混合物中に分散させることができる。より具体的には化合物(D)とポリアリーレンスルフィド(A)が化学的親和性を持っており、好ましくは相溶するものであれば効果が大きい。また、非相溶となる組合せであっても適度な化学的親和性を有するもの同士であれば、化合物(D)がポリアリーレンスルフィド(A)中にミクロ分散するなどして、実質上は十分な含浸・分散助剤としての効果を発揮する。化合物(D)とポリアリーレンスルフィド(A)が化学的な親和性をもち、相溶しやすい傾向を持つかどうかは溶解度パラメーターを用いてある程度判断できる。溶解度パラメーターについての詳しい説明は秋山三郎、井上隆、西敏夫共著「ポリマーブレンド」(シーエムシー)に記述されている。ポリマーの溶解度パラメーターの決定法は幾種類か知られるが、比較においては同一の決定法を用いればよい。具体的には算出の容易なHoyの方法を用いることが好ましい(前掲書参照)。2つの液体の溶解度パラメーターの値が近いほど相溶しやすい組合せと言える。かかる観点から、化合物(D)の溶解度パラメーターをδ1、ポリアリーレンスルフィド(A)の溶解度パラメーターをδ2としたときに、溶解度パラメーター値の差の絶対値|δ1−δ2|が3.5より小さいことが好ましい。
本発明における化合物(D)を構成する化合物としては、ポリアリーレンスルフィド(A)との溶解度パラメーター値の差の絶対値が小さい化合物が好ましく、とりわけポリアリーレンスルフィド(A)との相溶性の面でポリアリーレンスルフィドオリゴマーが好ましく、また、強化繊維(C)への含浸性の観点からはエポキシ樹脂が好ましい化合物として例示できる。
好ましい化合物(D)として例示されるポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50質量%以上含むポリアリーレンスルフィドプレポリマーである。ここで、環式ポリアリーレンスルフィドは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含有する下記一般式(o)のごとき化合物である。Arとしては前記式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明における環式ポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド(前記式(a)、式(b)、式(f)〜式(k))、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン(前記式(d))、環式ポリフェニレンスルフィドケトン(前記式(c))、環式ポリフェニレンスルフィドエーテル(前記式(e))、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式ポリアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80質量%以上、特に90質量%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)
が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(o)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、4〜50が好ましく、4〜25がより好ましく、4〜15がさらに好ましい範囲として例示できる。mがこの好ましい範囲であると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなりすぎず、強化繊維(C)への含浸が容易である。
また、環式ポリアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の方が、単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、強化繊維基材へ含浸しやすくなるので好ましい。
本発明において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィド以外の成分は直鎖状の低分子量ポリアリーレンスルフィドであることが特に好ましい。ここで直鎖状の低分子量ポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記した式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。直鎖状の低分子量ポリアリーレンスルフィドはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記した式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。また、直鎖状の低分子量ポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
特に好ましい直鎖状の低分子量ポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有する直鎖状の低分子量ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマーは、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50質量%以上含むことが好ましく、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上が挙げられる。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの上限値には特に制限は無いが、98質量%以下、好ましくは95質量%以下が好ましい範囲として例示できる。通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの重量比率が高いほど、溶融粘度が低く、成形材料の生産性の面で好ましい。
本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマーの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000未満であり、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で200以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。重量平均分子量が上記好ましい上限値未満であると強化繊維束に対する含浸性が十分となり、生産性を損なわず、成形材料から強化繊維束が脱落し取扱性が低下したりすることもない。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマーの融点については、成形材料の成形性の観点から100〜300℃が好ましく、より好ましくは130〜280℃、さらに好ましくは150〜250℃である。
上記範囲内に融点を有することで、室温では固形状として取り扱えるだけでなく、含浸ダイ、コーター、フィルマーなどで過酷なプロセス温度を必要とせずに、強化繊維(C)と複合体を形成することができる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法としては例えば以下の(1)、(2)の方法が挙げられる。
(1)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合することで、80meshふるい(目開き0.125mm)で分離される顆粒状ポリアリーレンスルフィド樹脂、重合で生成したポリアリーレンスルフィド成分であって前記顆粒状ポリアリーレンスルフィド樹脂以外のポリアリーレンスルフィド成分(ポリアリーレンスルフィドオリゴマーと称する)、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、ここに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを分離回収し、これを精製操作に処すことでポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法。
(2)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合して、重合終了後に有機極性溶媒の除去を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、これを精製することで得られるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを含むポリアリーレンスルフィド樹脂を得て、これを実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂は溶解しないがポリアリーレンスルフィドプレポリマーは溶解する溶剤を用いて抽出してポリアリーレンスルフィドプレポリマーを回収する方法。
一方、好ましい化合物(D)として例示されるエポキシ樹脂とは、エポキシ基を有する化合物である。エポキシ基が極性基であるために、相互作用により、強化繊維(C)と馴染みやすく、含浸しやすい。
好ましい化合物(D)として例示されるエポキシ樹脂としては、硬化剤を含まないものが好ましい。硬化剤を含まないエポキシ樹脂とすることで加熱しても、いわゆる三次元架橋によるゲル化を抑えることができる。
エポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエーテル等が挙げられる。
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
脂環式エポキシ樹脂としては、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独でも2種以上の混合物でも良い。
中でも、粘度と耐熱性のバランスに優れるため、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることが、ポリアリーレンスルフィド(A)と相溶性が良いために好ましい。
本発明における成形材料は、成分としてサイジング剤(E)を含むことにより、成形品の力学特性をさらに高めることができる。好ましいサイジング剤(E)として例示される化合物は、カルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を1分子中に3個以上有する化合物である。前記官能基は1分子中に2種類以上が混在しても良く、1種類の官能基を1分子中に3個以上有する化合物を2種類以上併用しても良い。前記官能基が1分子中に3個未満の化合物のみを用いた場合、強化繊維(C)の表面官能基やカルボジイミド化合物(B)との反応点が不十分となり、得られる成形材料の引張強度や伸度といった力学特性が低下する場合がある。したがって、サイジング剤(E)を構成する化合物が有する前記官能基の数は、1分子中に3個以上あることが好ましい。前記官能基以外の官能基、例えばアルコキシシランは強化繊維(C)が炭素繊維の場合、繊維表面の官能基との反応性が乏しいため、アルコキシシランとエポキシ基を1分子中に1個ずつ有するシランカップリング剤をサイジング剤(E)に用いた場合、本発明が目的とする、力学特性に優れる成形材料は得られない場合がある。
本発明におけるサイジング剤(E)は、これを構成する化合物が脂肪族化合物であることが好ましい。ここでの脂肪族化合物とは、非環式直鎖状飽和炭化水素、分岐状飽和炭化水素、非環式直鎖状不飽和炭化水素、分岐状不飽和炭化水素、または、これらの炭化水素の炭素原子(CH3、CH2、CH、C)を、酸素原子(O)、窒素原子(NH、N)、カルボニル原子団(CO)に置き換えた鎖状構造の化合物をいう。すなわち、脂肪族化合物は、芳香環などの環状構造を有していない。サイジング剤(E)を脂肪族化合物とすることで、カルボジイミド化合物(B)として用いる脂肪族カルボジイミド化合物との親和性が高まるため力学特性に優れた成形材料が得られるため好ましい。
本発明におけるサイジング剤(E)を構成する化合物の具体例としては、多官能エポキシ樹脂、アクリル酸系ポリマー、多価アルコール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、とりわけ強化繊維(C)の表面官能基やカルボジイミド化合物(B)の双方との反応性が高い多官能エポキシ樹脂が好ましい。
多官能エポキシ樹脂としては、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、成分(B)である脂肪族カルボジイミド化合物との親和性の観点から3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。
好ましいサイジング剤(E)として例示される脂肪族エポキシ樹脂の具体例としては、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これら脂肪族エポキシ樹脂の中でも、反応性の高いエポキシ基を1分子中に多く含み、かつ水溶性が高く、強化繊維(C)への塗布が容易なことから、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが本発明では好ましく用いられる。
好ましいサイジング剤(E)として例示されるアクリル酸系ポリマーとは、アクリル酸、メタクリル酸およびマレイン酸の重合体である。具体的には、ポリアクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、あるいはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。さらに、本発明におけるアクリル酸系ポリマーは、カルボキシル基をアルカリで部分的に中和した(即ち、カルボン酸塩とした)ものであっても良い。前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。本発明におけるアクリル酸系ポリマーとしては、カルボキシル基を1分子中により多く含むポリアクリル酸が好ましく用いられる。
好ましいサイジング剤(E)として例示される多価アルコールの具体例としては、ポリビニルアルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、アラビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。本発明における多価アルコールとしては、水酸基を1分子中により多く含むポリビニルアルコールが好ましく用いられる。
好ましいサイジング剤(E)として例示されるポリエチレンイミンとは、エチレンイミンを開環重合して得られる、1級、2級、3級アミノ基による分岐構造を有するポリアミンである。本発明におけるポリエチレンイミンとしては、アミノ基を1分子中により多く含むポリエチレンイミンが好ましく用いられる。
本発明におけるサイジング剤(E)を構成する化合物は、その重量平均分子量を1分子中の前記官能基の数(カルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基の総数)で除した値が40〜150であることが好ましく、40〜100であることがより好ましく、60〜100であることがさらに好ましい。サイジング剤(E)の重量平均分子量を1分子中の前記官能基の数で除した値が大きい(すなわち前記官能基の数が少ない)とサイジング剤(E)の強化繊維(C)やカルボジイミド化合物(B)との反応点が不足する場合がある。一方、サイジング剤(E)の重量平均分子量を1分子中の前記官能基の数で除した値が小さい(すなわち前記官能基の数が多すぎる)と、サイジング剤(E)の強化繊維(C)やカルボジイミド化合物(B)との反応点が局所に集中し、結果的に得られる成形品の強度の向上効果が得られない場合がある。したがって、かかる範囲とすることで、サイジング剤(E)を構成する化合物は、強化繊維(C)の表面官能基やカルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド基との反応点の密度を均一とすることができ、得られる成形材料を用いた成形品の引張強度や伸度といった力学特性をより高めることができる。
本発明の成形材料において、サイジング剤(E)は、ポリアリーレンスルフィド(A)およびカルボジイミド化合物(B)を含む混合物と強化繊維(C)との界面に存在することが好ましい。この為、本発明におけるサイジング剤(E)は、強化繊維(C)の単繊維の表面に塗布して用いられる。サイジング剤(E)を強化繊維(C)に予め付与することで、少量の付着量であっても強化繊維(C)の表面を効果的に改質することができる。
本発明の成形材料において、サイジング剤(E)は、強化繊維(C)100質量部に対して0.01〜5質量部含有していることが好ましく、0.1〜2質量部含有していることがより好ましい。サイジング剤(E)の含有率が0.01質量部未満では、サイジング剤(E)が強化繊維(C)の表面を十分に被膜できない場合があり、得られる成形材料の引張強度や伸度といった力学特性の向上効果が現れにくくなる。また、サイジング剤(E)の含有率が5質量部を越えると、サイジング剤(E)が強化繊維(C)の表面上に形成する被膜の厚みが増加しすぎるため、強化繊維(C)の単繊維同士が融着し、成分(D)の含浸性を低下させる場合がある。サイジング剤(E)が強化繊維(C)の表面上に形成する被膜の厚みの好ましい範囲としては、10〜150nmが例示できる。
本発明において、サイジング剤(E)を強化繊維(C)に付与する手段としては、例えばローラーを介して強化繊維(C)をサイジング剤(E)に浸漬させる方法、サイジング剤(E)を霧状にして強化繊維(C)に吹き付ける方法などが挙げられる。この際、強化繊維(C)に対するサイジング剤(E)の付着量がより均一となるように、サイジング剤(E)を溶媒で希釈したり、付与する際の温度、糸条張力などをコントロールしたりすることが好ましい。サイジング剤(E)を希釈する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易で防災の観点から水が好ましい。かかる溶媒は、サイジング剤(E)を強化繊維(C)に付与した後は加熱により蒸発させて除去される。また、水に不溶、もしくは難溶の化合物をサイジング剤(E)として用いる場合には、乳化剤または界面活性剤を添加し、水分散して用いることが好ましい。乳化剤または界面活性剤としては、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を用いることができる。これらの中でも相互作用の小さいノニオン系乳化剤を用いることがサイジング剤(E)の効果を阻害しにくく好ましい。
<その他の添加剤>
本発明の成形材料には、本発明の効果を損なわない範囲で、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。添加剤の例としては、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、あるいは制泡剤が挙げられる。
<成形材料>
本発明の成形材料は、強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体にポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混合物が接するように配置されて構成される成形材料である。
強化繊維(C)と化合物(D)は、この2者で複合体が形成される。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維(C)の各単繊維間に化合物(D)が満たされている。すなわち、化合物(D)の海に、強化繊維(C)が島のように分散している状態である。具体的には化合物(D)を加熱溶融させて、強化繊維(C)に含浸することによって複合体を形成する。
本発明の成形材料において、良好な流動性を持ち含浸性に優れた化合物(D)が強化繊維(C)に良好に含浸した複合体とすることで、高粘度の成分(A)と成分(B)を含む混合物が接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、流動性の良い化合物(D)が該混合物に拡散し、強化繊維(C)が該混合物に分散することを助け、同時に該混合物が強化繊維(C)に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
本発明の成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、強化繊維(C)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維(C)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維(C)の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれは、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維(C)が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維(C)が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維(C)の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維(C)の含有量が30質量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維(C)が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20質量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維(C)配向方向の長さである。強化繊維(C)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維(C)の長さを長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
成形材料の断面の形状は、強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体に、成分(A)と成分(B)を含む混合物が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、該複合体が芯材となり該混合物で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、前記複合体が芯材となり、前記混合物が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の前記複合体を前記混合物が被覆するように配置する場合、前記複合体の数は2〜6程度が好ましい。
前記複合体と前記混合物の境界は接着され、境界付近で部分的に該混合物が該複合体の一部に入り込み、該複合体中の化合物(D)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維(C)に含浸しているような状態になっていてもよい。
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体に、ポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混合物を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と前記混合物は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。化合物(D)は低分子量であることから、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体である場合が多い。このため、前記混合物を、前記複合体を保護するように配置し、成形までの材料の運搬、取り扱い時のショック、擦過などにより、化合物(D)が破砕されて飛散したりしないようにすることが好ましい。
そのため、図7〜9に例示されるように、強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体に対して、ポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混合物が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体が芯構造であり、ポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混合物が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。
このような配置であれば、高分子量の前記混合物が破砕しやすい化合物(D)を包んでいたり、擦過しやすい面に配置されたりしているため、成形材料として形状が保持されやすい。また、該混合物が強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と該混合物が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、該混合物が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
前述したように、強化繊維(C)は化合物(D)によって完全に含浸されていることが好ましいが、現実的にそれは困難であり、強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体にはある程度のボイドが存在する。特に強化繊維(C)の含有率が大きい場合にはボイドが多くなるが、ある程度のボイドが存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただしボイド率が40%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、ボイド率は0〜40%の範囲が好ましい。より好ましいボイド率の範囲は0〜20%である。ボイド率は、前記複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定する。
本発明の成形材料において、カルボジイミド化合物(B)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して0.1〜10質量部含有している必要があり、0.1〜5質量部含有していることが好ましい。カルボジイミド化合物(B)の含有率が、0.1質量部未満では、カルボジイミド化合物(B)の量が十分でなく、得られる成形品の引張強度や伸度といった力学特性の向上効果が現れない。また、カルボジイミド化合物(B)の含有率が、10質量部を越えると、反対にカルボジイミド化合物(B)が多すぎる為に、得られる成形材料の成形加工性が低下したり、得られる成形品の引張強度や伸度といった力学特性が低下する。
本発明の成形材料において、強化繊維(C)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して1〜75質量部含有している必要があり、5〜65質量部含有していることが好ましく、20〜45質量部含有していることがより好ましい。強化繊維(C)の含有率が、1質量部未満では、強化繊維(C)の量が十分でなく、得られる成形品の引張強度や伸度といった力学特性の向上効果が現れない。強化繊維(C)の含有率が、75質量部を越えると得られる成形材料を用いた成形加工時に、強化繊維(C)をポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混練物中に分散させることが困難となったりする。
また、化合物(D)は強化繊維(C)100質量部に対して10〜50質量部、好ましくは12〜40質量部、より好ましくは20〜40質量部である。化合物(D)が10質量部未満では、得られる成形材料を用いた成形加工時に、強化繊維(C)をポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混練物中に分散させることが困難となり、50質量部を超えると成形加工時にガスが多量に発生して成形加工性を低下させたり、得られる成形品の力学特性を低下させる。
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調整することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、高い強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば航空機部材などに適用が可能である。
本発明の成形材料は、公知の成形方法により最終的な形状の製品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。成形品としては、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、モンキー、レンチ等の工具類、歯車などの小物が挙げられる。また、本発明の成形材料は、流動性に優れるため成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
また、上記した成形材料は射出成形用ペレットとして用いることができる。射出成形においては、ペレット状とした成形材料を可塑化する際、温度、圧力、混練が加えられるから、本発明によればその際に化合物(D)が分散・含浸助剤として大きな効果を発揮する。この場合、通常のインラインスクリュー型射出成形機を用いることができ、たとえ圧縮比の低いような形状のスクリューを用いたり、材料可塑化の際の背圧を低く設定するなどしたりして、スクリューによる混練効果が弱い場合であっても、強化繊維(C)がポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混合物中に良分散した良好な成形品を得ることができる。
本発明の成形材料を用いた成形品の好ましい形態としては、ポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)を含む混合物がマトリクス樹脂を形成し、強化繊維(C)や化合物(D)が該マトリクス樹脂中に分散した形態であり、更にサイジング剤(E)を含む場合、これが強化繊維(C)と該マトリクス樹脂の界面に存在する形態が例示できる。
成形品中の強化繊維(C)の繊維長は、重量平均繊維長で0.3〜2mmが好ましく、0.4〜1.5mmがより好ましく、0.5〜1mmがさらに好ましい。強化繊維(C)の繊維長が長くなるほど得られる成形品の力学特性は飛躍的に高まる。これは、本発明の成形材料において、化合物(D)を強化繊維(C)にあらかじめ複合化させることにより、成形材料の時点でカルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド基を失活させるという好ましくない副反応を抑制しているためであると考えている。一方で、強化繊維(C)の繊維長が長くなると成形加工時の流動性が低下する。このため、成形品中の強化繊維(C)の繊維長をかかる範囲内とすることで、力学特性と成形加工性の両立が可能となるため好ましい。
<成形材料の用途>
本発明の成形材料を用いて得られる成形品は、電子機器筐体として好適であり、コンピューター、テレビ、カメラ、オーディオプレイヤー等に好適に使用される。
本発明の成形材料を用いて得られる成形品は、電気電子部品用途に好適であり、コネクター、LEDランプ、ソケット、光ピックアップ、端子板、プリント基板、スピーカー、小型モーター、磁気ヘッド、パワーモジュール、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター等に好適に使用される。
本発明の成形材料は、自動車用部品や車両関連部品等に好適であり、安全ベルト部品、インストルメントパネル、コンソールボックス、ピラー、ルーフレール、フェンダー、バンパー、ドアパネル、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、ガーニッシュ、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、ウィンドウォッシャーノズル、ワイパー、バッテリー周辺部品、ワイヤーハーネスコネクター、ランプハウジング、ランプリフレクター、ランプソケット等に好適に使用される。
本発明の成形材料を用いて得られる成形品は、建材として好適であり、土木建築物の壁、屋根、天井材関連部品、窓材関連部品、断熱材関連部品、床材関連部品、免震制振部材関連部品、ライフライン関連部品等に好適に使用される。
本発明の成形材を用いて得られる成形品は、スポーツ用品として好適であり、ゴルフクラブのシャフト、ゴルフボール等のゴルフ関連用品、テニスラケットやバトミントンラケット等のスポーツラケット関連用品、アメリカンフットボールや野球、ソフトボール等のマスク、ヘルメット、胸当て、肘当て、膝当て等のスポーツ用身体保護用品、釣り竿、リール、ルアー等の釣り具関連用品、スキー、スノーボード等のウィンタースポーツ関連用品等に好適に使用される。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例に用いた評価方法を下記する。
(1)成形品中に含まれる強化繊維(C)の平均繊維長
成形品の一部を切り出し、300℃で加熱プレスし、30μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムを光学顕微鏡にて150倍に拡大観察し、フィルム内で分散した強化繊維(C)を観察した。その長さを1μm単位まで測定して、次式により数平均繊維長(Ln)および重量平均繊維長(Lw)を求めた。
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Ntotal
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×Wi/100)
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Wi:繊維長さLiの繊維の重量分率(i=1、2、3、・・・、n)
Ntotal:繊維長さを測定した総本数
(2)成形材料を用いて得られた成形品の密度
JIS K7112のA法(水中置換法)に準拠し測定した。成形品から約3g試験片を切り出し、浸漬液にはエタノールを用いて評価を行った。
(3)成形材料を用いて得られた成形品の引張試験
ASTM D638に準拠し、Type−I試験片を用い、試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機(インストロン社製)を用いた。本発明において、引張伸度とは、ひずみゲージを用いて測定した破断点ひずみ(%)のことを指し、引張強度とは試験片の破断点応力(MPa)のことを指す。引張弾性率とは、ひずみ(mm/mm)を横軸、応力(MPa)を縦軸としたS−S線図において、ひずみが0.001〜0.003(mm/mm)の領域における該S−S線図の傾きのことを指す。
(4)成形材料を用いて得られた成形品のシャルピー衝撃試験
ASTM D256のB法に準拠し、厚さ1/8インチ(3.175mm)のノッチ付き試験片を用いて、シャルピー衝撃試験を行った。
(参考例1)
本発明の実施例および比較例に用いた化合物(D)の1つであるポリアリーレンスルフィドオリゴマーの調整は、以下の通りである。
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(71.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を11.44kg(116モル)、酢酸ナトリウム1.72kg(21.0モル)、およびイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン10.3kg(70.3モル)、NMP9.00kg(91.0モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水を1.26kg(70モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(Sa)を得た。このスラリー(Sa)を26.3kgのNMPで希釈しスラリー(Sb)を得た。
80℃に加熱したスラリー(Sb)1000gをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、粗PPS樹脂とスラリー(Sc)を約750g得た。スラリー(Sc)をロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換後、減圧下100〜160℃で1.5時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は3質量%であった。
この固形物にイオン交換水900g(スラリー(Sc)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水900gを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィドオリゴマーを得た。ポリフェニレンスルフィドオリゴマーが所定量に達するまで上記操作を繰り返した。
得られたポリフェニレンスルフィドオリゴマーを4g分採取してクロロホルム120gで3時間ソックスレー抽出した。得られた抽出液からクロロホルムを留去して得られた固体に再度クロロホルム20gを加え、室温で溶解しスラリー状の混合液を得た。これをメタノール250gに撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を得た。
この白色粉末の重量平均分子量は900、Na含有量は4ppm、塩素含有量は2.2質量%であり、Na以外のアルカリ金属および塩素以外のハロゲンは検出限界以下であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はポリフェニレンスルフィドであることが判明し、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基に由来するピークは検出限界以下であった。また、示差走査型熱量計を用いてこの白色粉末の熱的特性を分析した結果(昇温速度40℃/分)、約200〜260℃にブロードな吸熱を示し、ピーク温度は215℃であることがわかった。
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィドおよび繰り返し単位数2〜11の直鎖状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと直鎖状ポリフェニレンスルフィドの質量比は9:1であることがわかった。
(参考例2)
本発明の実施例および比較例に用いたポリアリーレンスルフィド(A)は、以下の通りである。
(PPS−1)融点285℃、重量平均分子量30,000、酸末端品、クロロホルム抽出量0.5質量%のポリフェニレンスルフィド。
(PPS−2)融点285℃、重量平均分子量45,000、酸末端品、クロロホルム抽出量0.5質量%のポリフェニレンスルフィド。
(PPS−3)融点285℃、重量平均分子量55,000、酸末端品、クロロホルム抽出量0.5質量%のポリフェニレンスルフィド。
(PPS−4)融点285℃、重量平均分子量45,000、酸末端品、クロロホルム抽出量3.0質量%のポリフェニレンスルフィド。
(参考例3)
本発明の実施例および比較例に用いたカルボジイミド化合物(B)は、以下の通りである。
(CDI−1)脂肪族ポリカルボジイミド「カルボジライト(商標登録)HMV−8CA(日清紡ケミカル社製)」(1分子当たりのカルボジイミド基数:11、重量平均分子量3,000)
(CDI−2)芳香族ポリカルボジイミド「スタバクゾール(商標登録)P(ラインケミー社製)」(重量平均分子量4,000)
(CDI−3)芳香族ポリカルボジイミド「スタバクゾール(商標登録)P400(ラインケミー社製)」(重量平均分子量20,000)。
(参考例4)
本発明の実施例および比較例に用いた強化繊維(C)は、以下の通りである。
(CF−1)ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体を用いて、紡糸、焼成処理、および表面酸化処理を行うことによって、総単糸数12,000本の連続した炭素繊維ストランドを得た。この炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
引張強度:4,900MPa
引張弾性率:240GPa
引張伸度:2%
比重:1.8
単糸直径:7μm
表面酸素濃度比[O/C]:0.12
(CF−2)ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体を用いて、紡糸、焼成処理、および表面酸化処理を行うことによって、総単糸数12,000本の連続した炭素繊維ストランドを得た。この炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
引張強度:4,900MPa
引張弾性率:230GPa
引張伸度:2%
比重:1.8
単糸直径:7μm
表面酸素濃度比[O/C]:0.06
(GF−1)E−Glass製、総単糸数1,600本の連続したガラス繊維ストランド。
このガラス繊維の特性は次に示す通りであった。
引張強度:3,400MPa
引張弾性率:72GPa
引張伸度:3%
比重:2.6
単糸直径:13μm。
(参考例5)
本発明の実施例および比較例に用いた化合物(D)は、以下の通りである。
(IA−1)参考例1によって得られたポリアリーレンスルフィドオリゴマー
(重量平均分子量:900、1分子当りのカルボジイミド基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数:0)
(IA−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂「jER1003(三菱化学社製)」
(重量平均分子量1,300、重量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数で除した値:240)
(IA−3)ビスフェノールF型エポキシ樹脂「jER4005P(三菱化学社製)」
(重量平均分子量1,800、重量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数で除した値:230)。
(参考例6)
本発明の実施例および比較例に用いたサイジング剤(E)は、以下の通りである。
(SZ−1)グリセロールトリグリシジルエーテル(和光純薬工業社製)
重量平均分子量260
1分子当たりのエポキシ基数:3
重量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数で除した値:87
(SZ−2)ポリアクリル酸(SIGMA−ALDRICH社製)
重量平均分子量2,000
1分子当たりのカルボキシル基数:27
重量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数で除した値:74
(SZ−3)ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製)
重量平均分子量:22,000
1分子当たりの水酸基数:500
重量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数で除した値:44
(SZ−4)ポリエチレンイミン(SIGMA−ALDRICH社製)。
重量平均分子量:2,000
1分子当たりのアミノ基数:47
重量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数で除した値:43。
(SZ−5)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(SIGMA−ALDRICH社製)
重量平均分子量:340
1分子当たりのエポキシ基数:2
重量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数で除した値:170
(SZ−6)(3−グリシジルオキシプロピル)トリエトキシシラン(SIGMA−ALDRICH社製)
重量平均分子量278
1分子当たりのエポキシ基数:1
重量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基の総数で除した値:278。
(比較例A1)
表1−1に示すポリアリーレンスルフィド(A)、カルボジイミド化合物(B)、強化繊維(C)、化合物(D)を用いて、以下の手順により射出成形品を得た。
化合物(D)としてIA−1を用い、を250℃の溶融バス中で溶融物を得た。得られた溶融物をギアポンプにてキスコーターに供給し、さらに250℃に加熱されたロール上にキスコーターから塗布し、化合物(D)からなる皮膜を形成した。
強化繊維(C)としてCF−1を用い、化合物(D)からなる皮膜を形成したロール上に接触させながら通過させることで、強化繊維(C)の強化繊維束の単位長あたりに一定量の成分(D)を付着させた。
成分(D)を付着させた強化繊維(C)を、260℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する一直線上に上下交互に配置された10個のロールバー(φ50mm)を通過させて、化合物(D)を強化繊維(C)に含浸させることで、強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体を得た。
続いて、ポリアリーレンスルフィド(A)として、PPS−1を用い、カルボジイミド化合物(B)としてCDI−1を用いて、300℃の単軸押出機で溶融し、得られたポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)からなる混合物を、前記単軸押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、前記複合体も前記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって前記複合体を前記混合物で被覆したストランドを得た。このとき、前記ストランドの引き取り速度は10m/分とし、各成分の比率が表1−1の割合となるように原料の供給量を調節した。
前記ストランドを冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して、本発明の成形材料である長繊維ペレットを得た。この長繊維ペレットは、前記複合体が芯構造であり、前記混合物が前記複合体の周囲を被覆した芯鞘構造を有していた。
前記長繊維ペレットの製造は連続してオンラインで行った。得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。
次いで、射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、前記長繊維ペレットの射出成形を行うことで各種評価用の試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行い、射出成形の際の最大圧力を射出成形圧とした。
得られた試験片は、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して各試験に供した。評価結果を表1−1に記載した。
(比較例A2)
カルボジイミド化合物(B)の割合がポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して2質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−1に記載した。
(比較例1)
カルボジイミド化合物(B)として、CDI−1の代わりにCDI−2を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−1に記載した。
(比較例2)
カルボジイミド化合物(B)として、CDI−1の代わりにCDI−3を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−1に記載した。
(比較例3)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、比較例A1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−1に記載した。
(比較例4)
カルボジイミド化合物(B)の割合がポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して20質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で長繊維ペレットを製造した。得られた長繊維ペレットを比較例A1と同様の条件で射出成形しようとしたところ、ホッパーとシリンダーの間で長繊維ペレットが詰まり、成形することができなかった。これは、カルボジイミド化合物(B)が長繊維ペレットから融け出し、それによりホッパーに張り付いた為であった。
(比較例A3)
強化繊維(C)の割合がポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して15質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−1に記載した。
(比較例A4)
強化繊維(C)の割合がポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して60質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−1に記載した。
(比較例5)
強化繊維(C)の割合がポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して100質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で長繊維ペレットの製造を試みたところ、カッターでストランドを切断する工程で、ポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)からなる混合物と強化繊維(C)と化合物(D)からなる複合体との剥離が多発し、長繊維ペレットが得られなかった。これは、前記混合物の量が前記複合体の量に対して不足したためであった。
(比較例A5)
化合物(D)の割合が強化繊維(C)100質量部に対して15質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−2に記載した。
(比較例A6)
化合物(D)の割合が強化繊維(C)100質量部に対して45質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−2に記載した。
(比較例A7)
化合物(D)として、IA−1の代わりにIA−2を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−2に記載した。
(比較例A8)
化合物(D)として、IA−1の代わりにIA−3を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−2に記載した。
(比較例6)
化合物(D)を含まない以外は、比較例A1と同様の方法で長繊維ペレットの製造を試みたところ、カッターでストランドを切断する工程で切断されていない長繊維ペレットが多発し、長繊維ペレットが得られなかった。これは、化合物(D)を用いなかったため、強化繊維(C)を連続的に切断することが困難なためであった。
(比較例7)
化合物(D)の割合が強化繊維(C)100質量部に対して100質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−2に記載した。
(比較例8)
化合物(D)として、IA−1の代わりにIA−2を用い、さらにその割合が強化繊維(C)100質量部に対して100質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−2に記載した。
(比較例9)
化合物(D)として、IA−1の代わりにIA−3を用い、さらにその割合が強化繊維(C)100質量部に対して100質量部になるように変更した以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−2に記載した。
(比較例10)
表1−2に示すポリアリーレンスルフィド(A)、カルボジイミド化合物(B)、強化繊維(C)、化合物(D)を用いて、以下の手順により射出成形品を得た。
二軸押出機(JSW社 TEX−30α、L/D=31.5)を使用し、ポリアリーレンスルフィド(A)およびカルボジイミド化合物(B)をメインフィードし、強化繊維(C)および化合物(D)をサイドフィードして各成分の溶融混練を行った。溶融混練は、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/時で行い、吐出物を引き取りながら水冷バスで冷却することでガットとし、前記ガットを5mmの長さに切断することで短繊維ペレットを得た。
前記短繊維ペレット中には、短繊維ペレットの長さよりも短い強化繊維(C)の単繊維がランダム方向に分散していた。
次いで、射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、前記短繊維ペレットの射出成形を行うことで各種評価用の試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行い、射出成形の際の最大圧力を射出成形圧とした。
得られた試験片は、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して各試験に供した。評価結果を表1−2に記載した。
(比較例11)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、比較例10と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1−2に記載した。
表1−1、1−2の比較例より以下のことが明らかにされた。
比較例A1、A2と比較例1〜4の比較から、カルボジイミド化合物(B)として、脂肪族カルボジイミド化合物を選択することで、得られる成形品の引張強度が大幅に向上することがわかった。さらに、カルボジイミド化合物(B)の割合を特定量とすることで、引張強度と成形性を両立した成形材料となることがわかった。
比較例A1、A3、A4と比較例5の比較から、強化繊維(C)の割合を特定量とすることで、引張強度と成形性を両立した成形材料となることがわかった。
比較例A1、A5〜A8と比較例6〜9の比較から、化合物(D)の割合を特定量とすることで、引張強度と成形性を両立した成形材料となることがわかった。さらに、化合物(D)に、その1分子当りのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基から選択される少なくとも1種の官能基の総数が0である、IA−1を用いることで得られる成形品の引張強度が最も優れることがわかった。
比較例A1と比較例3、10〜11の比較から、強化繊維(C)と化合物(D)をからなる複合体に、ポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)からなる混合物が接してなる成形材料とすることで、強化繊維(C)の重量平均繊維長が長く、引張強度に優れた成形品となることがわかる。とりわけ、比較例10に対して得られる成形品の重量平均繊維長が長い比較例A1では、カルボジイミド化合物(B)を用いることによる引張強度の向上効果が高いことがわかった。
(比較例A9)
強化繊維(C)として、CF−1の代わりにCF−2を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−1に記載した。
(比較例A10)
強化繊維(C)として、CF−1の代わりにGF−1を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−1に記載した。
(比較例12)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、比較例A9と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−1に記載した。
(比較例13)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、比較例A10と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−1に記載した。
(比較例14)
強化繊維(C)として、CF−1の代わりにCF−2を用いた以外は、比較例10と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−1に記載した。
(比較例15)
強化繊維(C)として、CF−1の代わりにGF−1を用いた以外は、比較例10と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−1に記載した。
(比較例A11)
ポリアリーレンスルフィド(A)として、PPS−1の代わりにPPS−2を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−2に記載した。
(比較例A12)
ポリアリーレンスルフィド(A)として、PPS−1の代わりにPPS−3を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−2に記載した。
(比較例A13)
ポリアリーレンスルフィド(A)として、PPS−1の代わりにPPS−4を用いた以外は、比較例A1と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−2に記載した。
(比較例16)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、比較例A11と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−2に記載した。
(比較例17)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、比較例A12と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−2に記載した。
(比較例18)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、比較例A13と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表2−2に記載した。
表1−1、1−2、2−1、2−2の比較例より以下のことが明らかにされた。
比較例A1、A9、A10と比較例3、12、13の比較から、カルボジイミド化合物(B)として、脂肪族カルボジイミド化合物であるCDI−1を用いることで、異なる強化繊維(C)を用いても、得られる成形品の引張強度が向上することがわかったが、とりわけ、強化繊維(C)として炭素繊維であるCF−1およびCF−2を用いることにより、引張強度が大きく向上することがわかった。
比較例A1、A9、A10と比較例10、11、14、15の比較から、カルボジイミド化合物(B)として、脂肪族カルボジイミド化合物であるCDI−1を用い、強化繊維(C)と化合物(D)をからなる複合体に、ポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)からなる混合物が接してなる成形材料とすることで、異なる強化繊維(C)を用いても、強化繊維(C)の重量平均繊維長が長く、引張強度に優れた成形品となることがわかる。とりわけ、強化繊維(C)として炭素繊維であるCF−1およびCF−2を用いることにより、引張強度に優れる成形品が得られることがわかった。
比較例A1、A11〜A13と比較例3、16〜18の比較から、ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量が小さくなるほど、ポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)と強化繊維(C)と化合物(D)からなる成形品の引張強度が向上し、射出成形圧が減少することがわかった。このことから、ポリアリーレンスルフィド(A)として、PPS−1を用いることで、引張強度と成形性を高いレベルで両立した成形材料となることがわかった。さらに、比較例A11と比較例A13の比較から、クロロホルムによるオリゴマー抽出量が2質量%以下であるPPS−2の方がPPS−4を用いた場合よりも、得られる成形品の引張強度に優れることがわかった。
(実施例14)
表3−1に示すポリアリーレンスルフィド(A)、カルボジイミド化合物(B)、強化繊維(C)、化合物(D)、サイジング剤(E)を用いて、以下の手順により射出成形品を得た。
サイジング剤(E)としてSZ−1を用い、サイジング剤(E)を2質量%含む水系のサイジング母液に強化繊維(C)を浸漬し、次いで230℃で感想することで、サイジング剤(E)で表面処理をした強化繊維(C)を得た。乾燥後のサイジング剤(E)の付着量は、強化繊維(C)100質量部に対して、1質量部であった。
化合物(D)としてIA−1を用い、を250℃の溶融バス中で溶融物を得た。得られた溶融物をギアポンプにてキスコーターに供給し、さらに250℃に加熱されたロール上にキスコーターから塗布し、化合物(D)からなる皮膜を形成した。
前記サイジング剤(E)で表面処理をした強化繊維(C)を用い、化合物(D)からなる皮膜を形成したロール上に接触させながら通過させることで、強化繊維(C)の強化繊維束の単位長あたりに一定量の成分(D)を付着させた。
成分(D)およびサイジング剤(E)を付着させた強化繊維(C)を、260℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する一直線上に上下交互に配置された10個のロールバー(φ50mm)を通過させて、化合物(D)を前記サイジング剤(E)で表面処理をした強化繊維(C)に含浸させることで、強化繊維(C)と化合物(D)とサイジング剤(E)からなる複合体を得た。
続いて、ポリアリーレンスルフィド(A)として、PPS−1を用い、カルボジイミド化合物(B)としてCDI−1を用いて、300℃の単軸押出機で溶融し、得られたポリアリーレンスルフィド(A)とカルボジイミド化合物(B)からなる混合物を、前記単軸押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、前記複合体も前記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって前記複合体を前記混合物で被覆したストランドを得た。このとき、前記ストランドの引き取り速度は10m/分とし、各成分の比率が表3−1の割合となるように原料の供給量を調節した。
前記ストランドを冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して、本発明の成形材料である長繊維ペレットを得た。この長繊維ペレットは、前記複合体が芯構造であり、前記混合物が前記複合体の周囲を被覆した芯鞘構造を有していた。
前記長繊維ペレットの製造は連続してオンラインで行った。得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。
次いで、射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、前記長繊維ペレットの射出成形を行うことで各種評価用の試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行い、射出成形の際の最大圧力を射出成形圧とした。
得られた試験片は、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して各試験に供した。評価結果を表3−1に記載した。
(実施例15)
サイジング剤(E)として、SZ−1の代わりにSZ−2を用いた以外は、実施例14と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−1に記載した。
(実施例16)
サイジング剤(E)として、SZ−1の代わりにSZ−3を用いた以外は、実施例14と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−1に記載した。
(実施例17)
サイジング剤(E)として、SZ−1の代わりにSZ−4を用いた以外は、実施例14と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−1に記載した。
(比較例B1)
サイジング剤(E)として、SZ−1の代わりにSZ−5を用いた以外は、実施例14と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−1に記載した。
(比較例B2)
サイジング剤(E)として、SZ−1の代わりにSZ−6を用いた以外は、実施例14と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−1に記載した。
(比較例19)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、実施例14と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
(比較例20)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
(比較例21)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、実施例16と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
(比較例22)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、実施例17と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
(比較例23)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、実施例18と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
(比較例24)
カルボジイミド化合物(B)を用いない以外は、実施例19と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
(実施例20)
水系のサイジング母液中のサイジング剤(E)の濃度を2質量%から6質量%に代えて、サイジング剤(E)の割合が強化繊維(C)100質量部に対して3質量部になるように変更した以外は、実施例14と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
(実施例21)
化合物(D)として、IA−1の代わりにIA−2を用いた以外は、実施例14と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
(実施例22)
化合物(D)として、IA−1の代わりにIA−3を用いた以外は、実施例14と同様の方法で試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3−2に記載した。
表1−1、1−2、3−1、3−2の実施例および比較例より以下のことが明らかにされた。
比較例A1、実施例14〜17および比較例B1、B2と比較例3、および19〜24の比較から、強化繊維(C)をサイジング剤で表面処理し、前記サイジング剤(E)に、その重量平均分子量を1分子当りのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基から選択される少なくとも1種の官能基の数で除した値が40〜150である場合に、得られる成形品の引張強度が向上することがわかった。とりわけサイジング剤(E)の重量平均分子量を1分子当りの前記官能基の数で除した値が60〜100の範囲である、SZ−1とSZ−2をサイジング剤(E)として用いることにより、得られる成形品の引張強度が大きく向上することがわかった。
比較例A1、実施例14および20の比較から、サイジング剤(E)の割合を特定量とすることで、得られる成形品の引張強度が向上することがわかった。
比較例A1、A7、A8、実施例14、21、22の比較から、異なる化合物(D)を用いても、サイジング剤(E)で強化繊維(C)を表面処理することで、得られる成形品の引張強度が向上することがわかったが、とりわけ、化合物(D)に、その1分子当りのカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基から選択される少なくとも1種の官能基の総数が0である、IA−1を用いることで引張強度で最も優れることがわかった。