以下に、本発明実施の形態を説明する。
<ポリアリーレンスルフィド>
本発明におけるポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などで表される単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(L)〜(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明のポリアリーレンスルフィドの好ましい分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは20,000以上、より好ましくは40,000以上、さらに好ましくは50,000以上、よりいっそう好ましくは60,000以上、さらにいっそう好ましくは80,000以上である。重量平均分子量が10,000以上では加工時の成形性が良好で、また成形品の機械強度や耐薬品性などの特性が高くなる。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、さらに好ましくは200,000未満であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、分子量分布の広がり、即ち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度が狭い特長を有する傾向にある。本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドの分散度は2.5以下が好ましく、2.3以下がより好ましく、2.1以下がさらに好ましい。分散度が2.5以下ではポリアリーレンスルフィドに含まれる低分子成分の量が少なくなる傾向が強く、このことはポリアリーレンスルフィドを成形加工用途に用いた場合の機械特性向上、加熱した際のガス発生量の低減及び溶剤と接した際の溶出成分量の低減などの効果を奏する。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、従来法と異なり、製造時にN−メチル−2−ピロリドンのような溶媒を必要としないこと、また、公知のラジカル発生能を有する化合物やイオン性化合物などの触媒を使用しないことなどから、加熱加工時のガス発生量が少ない特長を有する。さらに、触媒として有機配位子を有しない化合物を使用することで、加熱加工時のガス発生量がより低減することが可能である。
このガス発生量は、一般的な熱重量分析によって求められる、下記式で表される、加熱した際の重量減少率ΔWrから評価できる。
ΔWr=(W1−W2)/W1×100
なお、ΔWrは常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
この熱重量分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中のポリアリーレンスルフィドの酸化などが起こり、実際にポリアリーレンスルフィドの成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、ポリアリーレンスルフィドの実使用に即した測定になり得ない可能性が生じる。
また、ΔWrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。好ましくは50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態のポリアリーレンスルフィドを溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィドからのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。従って、このような温度範囲における重量減少率が少ないポリアリーレンスルフィドの方が品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。ΔWrの測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドは上記にて加熱した際の重量減少率ΔWrは使用する重合触媒の濃度ならびに重合触媒の種類により異なるが、0.25%以下であることが好ましく、0.16%以下がより好ましく、0.13%以下がさらに好ましく、0.10%以下がよりいっそう好ましい。
ΔWrが前記範囲内の場合は、例えばポリアリーレンスルフィドを成形加工する際に発生ガス量が少なくなる傾向があり、押出成形時の口金やダイスおよび射出成形時の金型への付着物を低減する傾向となり、成型加工性が高くなるため望ましい。
本発明の製法における、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率は70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。転化率が70%以上では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率は、加熱前の原料に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド量、および、加熱により得られる生成物に含まれる未反応の環式ポリアリーレンスルフィド量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量し、その値から算出することができる。具体的には、
転化率=(加熱前の原料に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド量−未反応の環式ポリアリーレンスルフィド量)/加熱前の原料に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド量
のように算出することができる。
<環式ポリアリーレンスルフィド>
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法における環式ポリアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(O)のごとき環式化合物を、少なくとも50重量%以上含むものであり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含むものが好ましい。Arとしては前記式(A)〜式(K)などで表される単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
なお、環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式の環式化合物においては前記式(A)〜式(K)などの繰り返し単位をランダムに含んでもよいし、ブロックで含んでもよく、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい前記(O)式の環式化合物としては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式化合物が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(O)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、4〜50が好ましい。ここで下限は4以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、7以上がよりいっそう好ましく、8以上がさらにいっそう好ましい。mが小さい環式化合物は反応性が低い傾向があるため、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるようになるとの観点ではmを前記範囲にすることが好ましい。一方上限は50以下が好ましく、25以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。後述するように環式ポリアリーレンスルフィドの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの転化は環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度以上で行うことが好ましいが、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度が高くなる傾向にある。そのため、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うためには、mを前記範囲にすることが好ましい。
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(O)式の環式化合物は、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも融解する温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の使用はポリアリーレンスルフィドへの転化を行う際の加熱温度をより低くできるため好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(O)式の環式化合物以外の成分はポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここでポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記した式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。ポリアリーレンスルフィドオリゴマーはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記した式(L)〜式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの分子量としては、ポリアリーレンスルフィドよりも低分子量のものが例示でき、具体的には重量平均分子量で10,000未満であることが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量平均分子量で10,000未満である場合、環式ポリアリーレンスルフィドの融解する温度が低くなる傾向にあり、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うためには、前記範囲にすることが好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー量は、環式ポリアリーレンスルフィドが含有する前記(O)式の環式化合物よりも少ないことが特に好ましい。即ち環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比(前記(O)式の環式化合物/ポリアリーレンスルフィドオリゴマー)は1を超えることが好ましく、2.3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましく、9以上がよりいっそう好ましく、このような環式ポリアリーレンスルフィドを用いることで重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。従って、環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比の値が大きいほど、本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にある。この重量比に特に上限は無いが、該重量比が100を超える環式ポリアリーレンスルフィドを得るためには、環式ポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドオリゴマー含有量を著しく低減する必要があり、これには多大の労力を要する。本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法によれば該重量比が100以下の環式ポリアリーレンスルフィドを用いても重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。
環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比は、HPLCを用いて定量した環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式の環式化合物量から算出することができる。例えば環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(O)式の環式化合物以外の成分がポリアリーレンスルフィドオリゴマーである場合には、
重量比=前記(O)式の環式化合物量(%)/(100−前記(O)式の環式化合物量(%))
のように算出できる。
<担持型遷移金属触媒>
本発明において、種々の担持型遷移金属触媒が重合触媒として用いられる。担持型遷移金属触媒が環式ポリアリーレンスルフィドの重合触媒として有効に作用する理由は現時点で明らかではないが、以下のような可能性を考えている。金属種そのものの効果としては、多くの価数状態を取りうるこれら遷移金属原子は、環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用を生じやすく、加熱による分解反応時に活性遷移金属化合物を生成する傾向が強く、あるいは、これら遷移金属原子は環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい遷移金属化合物を形成可能であるためと推測している。さらに、担持型触媒の効果としては、遷移金属触媒が担体に担持されているため、触媒の表面積が大きくなっているためと推測している。
遷移金属触媒としては、遷移金属単体、有機配位子を有する錯体、カルボン酸塩、ハロゲン化物などが挙げられる。有機配位子を有する遷移金属錯体としては、カルベン、カルボニル、アルケン、アルキン、ジエン、アレーン、ホスフィン、ホスファイト、アミンなどの配位子として有する錯体が例示できる。例えば配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、ジメトキシジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエン、カルボニルの錯体が挙げられる。これらが担持された触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。その中でも、有機配位子を持たない遷移金属が好ましい。得られるポリアリーレンスルフィドの発生ガス量を減少させる観点からは、遷移金属単体がさらに好ましい。
遷移金属種としては、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属から選ばれる遷移金属が、環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する高い効果を有する傾向にあり好ましい。具体的には鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金が挙げられる。この理由についても現時点で明らかではないが、以下のような可能性を考えている。金属種そのものの効果としては、多くの価数状態を取りうるこれら遷移金属原子は、環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用を生じやすく、加熱による分解反応時に活性遷移金属化合物を生成する傾向が強く、あるいは、これら遷移金属原子は環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい遷移金属化合物を形成可能であるためと推測している。さらに、担持型触媒の効果としては、遷移金属触媒が担体に担持されているため、触媒の表面積が大きくなっているためと推測している。
これら遷移金属種の中でも、ニッケルまたはパラジウムが好ましく、特に環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する高い効果を有する傾向にある。この理由についても現時点で明らかではないが、これらの金属種は、ケミカルレビューズ(Chemical Reviews),111,2011年(1596〜4503ページ)に記載のように、多くの炭素-硫黄結合の形成反応に用いられていることから、炭素-硫黄相互作用を生じやすいため、活性遷移金属化合物を生成しやすいため、あるいは、環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい化合物を形成可能でためであると考えている。さらに、触媒コスト、入手性の面でも優れるニッケルがより好ましい。
担持するニッケル触媒としては、ニッケルの金属粉、他の金属との合金、酸化物、水酸化物、無機塩、有機塩、有機金属錯体などがいずれも本発明で使用できる。例えば、金属ニッケル、還元ニッケル、漆原ニッケル、ラネーニッケル、ニッケル‐銅、ニッケル‐ジルコニア、ニッケル‐コバルト、ニッケル‐銅‐コバルト、ニッケル‐鉄、ニッケル‐鉄‐コバルト、ニッケル‐鉄‐リン、カルボン酸ニッケル、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫化ニッケル、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケルジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケルジクロリド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルなどが挙げられる。
担持するニッケル触媒の中では、カルボン酸ニッケル、ギ酸ニッケル、ギ酸ニッケルを加熱して得られた0価ニッケル触媒を用いることが好ましい。特開2010−64983号公報や国際公開第2011/115213号にカルボン酸ニッケル化合物またはギ酸ニッケルの加熱により0価ニッケルが生成することが開示されている。このことから、カルボン酸ニッケルまたはギ酸ニッケルを加熱することで生成する0価ニッケルが重合触媒として作用する可能性を考えている。さらに、触媒工学講座10 元素別 触媒便覧(499〜504ページ)には、ギ酸ニッケルを加熱して得られた0価ニッケルは空気中で安定に取り扱い可能な化合物であることが報告されている。このため、触媒の安定性が高く、取扱いが容易であるギ酸ニッケルを加熱して得られた0価ニッケル触媒を用いることがより好ましい。さらに、得られるポリアリーレンスルフィドの発生ガス量を減少させる観点からも、ギ酸ニッケルを加熱して得られた0価ニッケル触媒を用いることがより好ましい。
担持するパラジウム触媒としては、金属パラジウム、他の金属との合金、酸化物、水酸化物、無機塩、有機塩、有機金属錯体などの触媒がいずれも本発明で使用できる。例えば、金属パラジウム、リンドラー触媒、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫化パラジウムビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、[P,P’−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン][P−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン]パラジウム、1,3−ビス(2,6−ジ−i−プロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、ビス(3,5,3’,5’−ジメトキシジベンジリデンアセトン)パラジウムなどが挙げられる。
遷移金属化合物の価数状態または配位状態などは、例えばX線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において触媒として用いられる担持型遷移金属化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィドまたは担持型遷移金属化合物を含むポリアリーレンスルフィドに、X線を照射し、その吸収スペクトルを比較することで把握できる。
本発明の担持型遷移金属触媒の担持担体としては、通常よく使用される市販の担体等を使用することができるが、担体の形状としては繊維状物質を用いることが好ましい。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。担体が繊維状物質である担持型遷移金属触媒存在下で環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を行うことで、ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質からなる繊維強化樹脂を容易に作成する事ができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、ポリアリーレンスルフィド単独の場合に比べて、例えば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質として、短繊維、長繊維、および連続繊維の強化繊維を用いることで、ポリアリーレンスルフィドを高度に強化する事が可能になる。担体が繊維状物質である担持型遷移金属触媒存在下で環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を行うことで、ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質からな繊維強化樹脂を高度に強化する目的では、連続繊維からなる強化繊維を用いることがより好ましい。一般に樹脂と繊維状物質からなる繊維強化樹脂を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な繊維強化樹脂ができないなど、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好かつ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、例えばポリアリーレンスルフィドと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。環式ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質が良好なぬれを形成した後、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法によれば環式ポリアリーレンスルフィドがポリアリーレンスルフィドに転化するので、繊維状物質とポリアリーレンスルフィドが良好なぬれを形成した繊維強化樹脂を容易に得ることができる。
繊維状物質としては連続繊維からなる強化繊維が好ましいことを前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性及び引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450kgf/mm2、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
本発明に用いる繊維状物質である担持担体の平均繊維径(平均単繊維径)は特に限定されないが、1〜30μmの範囲内であることが好ましく、1〜20μmの範囲内であることがより好ましく、3〜15μmの範囲内であることがよりいっそう好ましい。繊維状物質である担持担体の平均繊維径が上記の好ましい範囲にあるとき、得られる繊維強化樹脂やその成形品の力学特性や表面外観などが良化傾向にある。なお、本発明における平均繊維径は、光学顕微鏡(装置:ニコン株式会社製 OPTIHOT−POL)を用いて100-400倍または走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)社製 JSM−6360LV)により1000−2000倍の倍率にて、繊維状物質の断面から見た像の幅を観察し、得られる平均繊維径である。本方法で観察された光学顕微鏡像から無作為に50個の繊維の抽出し、断面の直径を測定して得られる数平均値を平均繊維径である。強化繊維束とした場合の単糸数には、特に制限はなく、50〜350000本の範囲内で使用することができ、100〜350000本の範囲内であることが好ましく、1000〜2500000本の範囲内で使用することがより好ましい。また強化繊維の生産性の観点からは、単糸数が多いものが好ましく、20000〜100000本の範囲内で使用することが好ましい。
本発明に用いる繊維状物質である担持担体の平均繊維長は特に限定されないが、本発明において用いる繊維状物質が短繊維である担持担体である場合は、平均繊維長が0.1mm〜6mm未満の範囲内であるものとし、1〜3mmの範囲内で使用することが好ましい。本発明において用いる繊維状物質が長繊維である担持担体である場合は、平均繊維長が6〜50mmの範囲内であるものとし、6〜30mmの範囲内で使用することが好ましく、1〜3mmの範囲内であることがより好ましい。繊維状物質とポリアリーレンスルフィドからな繊維強化樹脂を射出成形等で使用する際などには、取り扱い性の観点から、短繊維および長繊維が前記長さであることが好ましい。強化繊維を前記の長さに調製することにより、コンパウンド装置や射出成形機へのフィード性および取扱性を十分に高めることができる。平均繊維長が1mm以上の場合では、繊維状物質とポリアリーレンスルフィドからな繊維強化樹脂の強度が増大する傾向にある。本発明において用いる繊維状物質が連続繊維であるの担持担体である場合は、特に上限は限定されないが、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を繊維強化樹脂として十分に発現させることが容易となる。本発明に用いる繊維状物質である担持担体の平均繊維長の測定方法としては特に制限は無いが、例えば、繊維状物質である担持担体を顕微鏡観察し担持担体の繊維長を計測・算出する方法やJIS L 1015(2010)に記載の直接法により算出する方法がある。測定は炭素繊維を無作為に200本選び出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡にて測定し、その数平均繊維長を平均繊維長とする。
本発明において用いる繊維状物質である担持担体の平均アスペクト比は、特に限定されないが、本発明における平均アスペクト比は、上記手法により求めた平均繊維長と上記手法により求めた平均繊維径の比(平均繊維長/平均繊維径)である。本発明において用いる繊維状物質が短繊維である担持担体である場合は、3.3〜5000の範囲をとることができ、5〜3000の範囲内が好ましく、より好ましくは10〜1000、よりいっそう好ましくは20〜500、さらによりいっそう好ましくは30以上200未満の範囲内が例示できる。本発明において用いる繊維状物質が長繊維である担持担体である場合は、平均アスペクト比が200〜50000の範囲をとることができ、300〜30000の範囲内が好ましく、より好ましくは400〜10000の範囲内が例示できる。繊維状物質が短繊維または長繊維である担持担体の平均アスペクト比が上記の好ましい範囲にあるとき、金属触媒が効率よく担持され、活性の高い触媒が得られ易く、担持型遷移金属触媒を用いて得られたポリアリーレンスルフィドと繊維状物質からなる繊維強化樹脂の強度が高くなる傾向がある。本発明において用いる繊維状物質が連続繊維である場合の担持担体の平均アスペクト比は、用いる繊維長さによるところが大きく、とくに上限を定めないが、一方その下限としては50000より大きい範囲が好ましく、70000より大きい範囲がさらに好ましく、よりいっそう好ましくは100000より大きい範囲が例示できる。繊維状物質が連続繊維である場合の担持担体の平均アスペクト比が上記の好ましい範囲にあるとき、金属触媒が効率よく担持され、活性の高い触媒が得られ易く、担持型遷移金属触媒を用いて得られたポリアリーレンスルフィドと繊維状物質からなる繊維強化樹脂の強度が高くなる傾向がある。
遷移金属触媒を繊維状物質の担体上に担持する方法としては、そのまま分散させる方法、適宜な溶媒に遷移金属触媒を所定量加えた後、繊維状物質の担体上に塗布するか散布するか含浸させるなどした後、溶媒を除去することで分散させる方法などが例示できる。より均一な分散が可能となるため、適宜な溶媒に遷移金属触媒を所定量加えた後、繊維状物質の担体上に塗布するか散布するか含浸させるなどした後、溶媒を除去することで分散させる方法が好ましい。
使用する遷移金属触媒にもよるが、繊維状物質である担持担体に担持した遷移金属触媒を非酸化性雰囲気で加熱することにより、遷移金属触媒を活性化することも可能である。加熱温度の下限としては、180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。この温度範囲では、遷移金属触媒の活性化できる傾向がある。一方、温度が高すぎるとなどでの遷移金属触媒および繊維状物質である担持担体の劣化反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られる遷移金属触媒の活性や繊維状物質である担持担体の物性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、400℃以下が例示できる。この温度以下では、好ましくない副反応による遷移金属触媒および繊維状物質である担持担体の劣化の悪影響を抑制できる傾向にあり、前述した遷移金属触媒の活性化可能、かつ、ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質からなる繊維強化樹脂が高強度になる傾向がある。また加熱温度は、加熱あるいは冷却に要するエネルギー低減や時間短縮が可能になり生産性が向上することから低い方がより好ましい。このことから、好ましい加熱温度として400℃以下、より好ましくは360℃以下、さらに好ましくは320℃以下、よりいっそう好ましくは300℃以下といった温度が例示できる。
繊維状物質である担持担体に担持した遷移金属触媒を加熱する際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気とは繊維状物質である担持担体に担持した遷移金属触媒が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。これにより遷移金属触媒および繊維状物質である担持担体の分解・劣化反応に代表される好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
繊維状物質である担持担体に担持した遷移金属触媒の加熱は、非酸化性雰囲気下であれば、大気圧下には限定されず、大気圧よりも高い加圧条件下で行うことも可能であり、減圧条件下あるいは脱揮条件下で行うことも好ましい。
大気圧よりも高い加圧条件は、加熱時に重合触媒が揮散しにくいという観点で好ましく、加圧条件の上限としては特に制限はないが、反応装置を取り扱う際の容易さの面からは0.2MPa以下が好ましい。また、加熱を50kPa以上の条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから目的の圧力条件にすることが好ましい。これにより遷移金属触媒および繊維状物質である担持担体の分解・劣化反応に代表される好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい下限以上では、担持型遷移金属触媒から活性遷移金属化合物の生成が起こりにくい傾向にある。一方好ましい上限以下では、担持型遷移金属触媒から分解生成した成分や配位子を加熱系内から除去しやすく、より効率よく加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成が可能になることにより、より活性の高い担持型遷移金属を得ることができる傾向にあるため好ましい。
脱揮条件下とは担持型遷移金属触媒を加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する条件のことである。上記気体状態の成分としては、それぞれの化合物の特性および脱揮条件の詳細により発生の有無やその程度は異なるが、例えば担持型遷移金属触媒に含まれる水和水、加熱による分解反応時に生成する成分、配位子などが例示できる。
上記条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であれば特に限定はされないが、例えば連続的な減圧条件下での脱揮や、連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件、発生した気体状態の成分を冷却し系外に捕集する条件などが挙げられる。脱揮条件下で加熱することにより、担持型遷移金属触媒から分解生成した成分を加熱系内からより除去しやすく、より効率よく加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成が可能になることにより、より活性の高い担持型遷移金属を得ることができる傾向にあるため好ましい。
連続的な減圧条件下での脱揮における、連続的な減圧条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であればよく、例えば反応を行う系内全体が連続的に減圧されていてもよいし、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などを用いて加熱する場合には、常圧あるいは加圧条件下にある型内、押出機内、溶融混練機内などから一部が減圧装置に連結され連続的に減圧されていてもよい。ただし、例えば重合系内を減圧条件下で密封し加熱するよりも、連続的に減圧し脱揮を行うことで、担持型遷移金属触媒から分解生成した成分を加熱系内からより除去しやすく、より効率よく加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成が可能になることにより、より活性の高い担持型遷移金属を得ることができる傾向にあるため好ましい。
また、連続的に減圧する場合、反応系内の雰囲気は一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これにより担持型遷移金属触媒の劣化反応や生成した活性遷移金属化合物の失活を抑制できる傾向にある。
連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件においては、反応系内の雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましい。これにより担持型遷移金属触媒の劣化反応や生成した活性遷移金属化合物の失活を抑制できる傾向にある。用いるガスは窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが好ましく、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素ガスが好ましい。
系内へ流入するガスの温度は、流入するガスの流量、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、安定なガス温度制御の面から0℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、安定な系内の加熱温度制御の面からはさらに、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、系内の加熱温度と同温度であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
また、系内へ流入するガスの流量は、流入するガスの温度、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、担持型遷移金属触媒を加熱する際に発生する気体状態の成分を加熱系内から除去可能であり、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、担持型遷移金属触媒を加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する効果の面からは、1分間に系内へ流入するガスの流量は、系内の容積の1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
脱揮による発生した気体状態の成分の加熱系内からの除去量は、加熱系外に除去された成分を回収し秤量する方法、加熱前後の重量差から算出する方法、得られた担持型遷移金属触媒の加熱時重量減少により残存成分量を算出し差し引く方法などにより把握することができる。
反応時間は、使用する重合触媒の種類、使用する担持担体、使用する加熱の温度などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間の下限としては0.01時間以上が例示でき、好ましくは0.05時間以上が例示できる。0.01時間以上では担持型遷移金属触媒から活性遷移金属化合物の生成が十分に起こる。一方上限としては100時間以下が例示でき、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下が例示できる。本発明の好ましい製造方法によれば、繊維状物質である担持担体に担持した遷移金属触媒は2時間以下で行うことも可能である。加熱時間としては2時間以下、さらには1時間以下、0.5時間以下、0.3時間以下、0.2時間以下が例示できる。100時間以下では好ましくない遷移金属触媒および繊維状物質である担持担体の分解・劣化反応に代表される好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
本発明に用いる担持型遷移金属触媒の遷移金属触媒粒子の平均粒子径は、遷移金属触媒の種類や担持方法により異なるため特に限定されないが、0.5nm〜500nmの範囲が好ましく、0.5nm〜100nmの範囲がより好ましく、0.5nm〜50nmがよりいっそう好ましい、さらによりいっそう好ましくは0.5nm〜30nmといった範囲が例示できる。担持型遷移金属触媒の遷移金属触媒粒子の平均粒子径が上記の好ましい範囲にあるとき、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際に、高い触媒活性の発現効果が得られやすい。なお、本発明における平均粒子径とは特に断りがない限り、透過型電子顕微鏡(装置:日立製H−7100)を用いて20000倍にて、担持型遷移金属触媒を観察し、担持型遷移金属触媒の遷移金属触媒粒子の分散状態を確認することで得られる平均粒子径である。本方法で観察されたTEM像から無作為に100個の粒子を抽出し、長径と短径の和を平均化した値を代表粒子径とし、代表粒子径その数平均値を平均粒子径として求めた値である。透過型電子顕微鏡観察で得られるのは局所的な情報であるため、粒子径を正確に評価するためには、目視や光学顕微鏡などにより観察可能な粗大粒子の有無を確認する必要がある。目視や光学顕微鏡などにより観察可能な粗大粒子が存在した場合には、その観察結果と透過型電子顕微鏡観察結果を総合して平均粒子径を判断し、存在しなかった場合には、前記の通り透過型電子顕微鏡観察結果から平均粒子径を算出する。また、担持型遷移金属触媒中の透過型電子顕微鏡観察像の微粒子が遷移金属触媒であることは、例えばエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を具備した透過型電子顕微鏡を用いて確認できる。
本発明に用いる担持型遷移金属触媒の担体の比表面積は、0.10m2/g以上の範囲が好ましく、0.15m2/g以上の範囲がより好ましく、更に好ましくは0.20m2/g以上の範囲である。比表面積が前記範囲内の場合は、遷移金属触媒を効率的に担持でき、遷移金属触媒粒子が小さくなり触媒活性が高い傾向にあるため、望ましい。上限については、大きいほど遷移金属触媒を効率的に担持できるため特に上限はないが、担体のコストや入手性の観点から、1000m2/g以下の範囲が好ましい。触媒自体の形状・大きさは限定的でなく、目的に応じて適宜設定すればよい。
本発明における担体に対する金属触媒量は、用いる担持型触媒の種類によって異なるが、通常、1〜80wt%、好ましくは5〜60wt%、さらに好ましくは10〜60wt%である。担体に対する金属触媒量が80wt%以下であれば、担持された金属触媒の粒子径が粗大化することなく、触媒活性を保てる傾向がある。したがって、上限としては、担体に対する金属触媒量を80wt%以下にすることが好ましい。担体に対する金属触媒量が1wt%以上であれば、重合して得られるポリアリーレンスルフィド中に金属触媒担体量が過剰になることなく、本発明で得られるポリアリーレンスルフィドの特性に影響を及ぼしにくい傾向にある。そのため、下限としては、担体に対する金属触媒量を1wt%以上にすることが好ましい。
使用する担持型遷移金属触媒の濃度は、目的とするポリアリーレンスルフィドの分子量ならびに触媒の種類により異なるが、通常、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して、担持型遷移金属触媒中の遷移金属の量が0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。0.001モル%以上では環式ポリアリーレンスルフィドはポリアリーレンスルフィドへ十分に転化し、20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
前記重合触媒の添加に際しては、そのまま添加すればよいが、環式ポリアリーレンスルフィドに重合触媒を添加した後、重合触媒と環式ポリアリーレンスルフィドを均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドを溶融し分散させる方法、あらかじめ重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内に分散させる方法、などが挙げられる。
機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。
溶媒を用いて分散させる方法として、具体的には環式ポリアリーレンスルフィドを適宜な溶媒に溶解または分散し、これに重合触媒を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。また、重合触媒の分散に際して、重合触媒が固体である場合、より均一な分散が可能となるため重合触媒の平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドを溶融し分散させる方法としては、固体状態の環式ポリアリーレンスルフィドに前記重合触媒を添加した後、加熱により環式ポリアリーレンスルフィドを溶融させる方法、あらかじめ環式ポリアリーレンスルフィドを溶融した後に前記重合触媒を添加する方法などが例示できる。
あらかじめ重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内に分散させる方法としては、そのまま分散させる方法、適宜な溶媒に前記重合触媒を所定量加えた後、重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内で溶媒を除去することで分散させる方法などが例示できる。
また、本発明で用いる担持型遷移金属触媒は、非酸化性雰囲気下で添加することが好ましいが、触媒の種類にもよるが安定性が高い傾向にあるため大気中で添加することも可能である。非酸化性雰囲気とは環式ポリアリーレンスルフィドおよび担持型遷移金属触媒が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。大気中とは、酸素濃度21体積%程度の一般的な組成の雰囲気であることを指す。
<ポリアリーレンスルフィドの製造条件>
本発明におけるポリアリーレンスルフィドを製造する際の加熱温度は、環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度であることが好ましい。ただし、加熱温度が環式ポリアリーレンスルフィドの融解温度未満ではポリアリーレンスルフィドを得るのに長時間が必要となる傾向がある。なお、環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度は、環式ポリアリーレンスルフィドの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えば環式ポリアリーレンスルフィドを示差走査型熱量計で分析することで把握することが可能である。ただし、一般に融解する温度には幅があり、融点以上でも融解にともなう吸熱が継続する傾向があるため、均一に融解させるためには、加熱温度は環式ポリアリーレンスルフィドの融点以上であることが好ましく、環式ポリアリーレンスルフィドの融点よりも10℃以上高い温度が好ましく、20℃以上高い温度がより好ましい。なお、融点は示差走査熱量計により測定することができる。
加熱温度の下限としては、180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。この温度範囲では、環式ポリアリーレンスルフィドが融解し、短時間で高重合度のポリアリーレンスルフィドを得ることができる。一方、温度が高すぎると環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリアリーレンスルフィドの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、400℃以下が例示できる。この温度以下では、好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にあり、前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。また加熱温度は、加熱あるいは冷却に要するエネルギー低減や時間短縮が可能になり生産性が向上することから低い方がより好ましい。このことから、好ましい加熱温度として400℃以下、より好ましくは360℃以下、さらに好ましくは320℃以下、よりいっそう好ましくは300℃以下といった温度が例示できる。
環式ポリアリーレンスルフィドを加熱する際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気とは環式ポリアリーレンスルフィドが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は、非酸化性雰囲気下であれば、大気圧下には限定されず、大気圧よりも高い加圧条件下で行うことも可能であり、減圧条件下あるいは脱揮条件下で行うことも好ましい。
大気圧よりも高い加圧条件は、加熱時に重合触媒が揮散しにくいという観点で好ましく、加圧条件の上限としては特に制限はないが、反応装置を取り扱う際の容易さの面からは0.2MPa以下が好ましい。また、加熱を50kPa以上の条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから目的の圧力条件にすることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい下限以上では、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる分子量の低い前記(O)式の環式化合物が揮散しにくい傾向にある。一方好ましい上限以下では、担持型遷移金属触媒から分解生成した成分や配位子を加熱系内から除去しやすく、融解した原料中の上記分解生成成分の濃度が低下し、より効率よく加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの加熱系内からの除去が可能になることにより、より低温、短時間で高重合度のポリアリーレンスルフィドを得ることができる傾向にあるため好ましい。
脱揮条件下とは環式ポリアリーレンスルフィドを担持型遷移金属触媒存在下に加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する条件のことである。上記気体状態の成分としては、それぞれの化合物の特性および脱揮条件の詳細により発生の有無やその程度は異なるが、例えば担持型遷移金属触媒に含まれる水和水、加熱による分解反応時に生成する成分、配位子や環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーなどが例示できる。
上記条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であれば特に限定はされないが、例えば連続的な減圧条件下での脱揮や、連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件、発生した気体状態の成分を冷却し系外に捕集する条件などが挙げられる。脱揮条件下で加熱することにより、担持型遷移金属触媒から分解生成した成分を加熱系内からより除去しやすく、融解した原料中の上記分解生成成分の濃度が低下し、加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成がさらに効率よく可能になるため、より低温、短時間でポリアリーレンスルフィドを得ることができる傾向にある。また、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーが加熱系内により残存しにくく、加熱系内における環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(O)式環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比がより大きくなりやすいため、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量が大きくなる傾向にある点でも好ましい。
連続的な減圧条件下での脱揮における、連続的な減圧条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であればよく、例えば反応を行う系内全体が連続的に減圧されていてもよいし、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などを用いて加熱する場合には、常圧あるいは加圧条件下にある型内、押出機内、溶融混練機内などから一部が減圧装置に連結され連続的に減圧されていてもよい。ただし、例えば重合系内を減圧条件下で密封し加熱するよりも、連続的に減圧し脱揮を行うことで、融解した原料中の前記分解生成成分の濃度が低下し、加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの加熱系内からの除去がより効率よく可能になることにより、より低温、短時間で高重合度のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる傾向にある。
また、連続的に減圧する場合、反応系内の雰囲気は一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生や、生成した0価ニッケルの失活を抑制できる傾向にある。
連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件においては、反応系内の雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制でき、生成した活性遷移金属化合物の失活を抑制できる傾向にある。用いるガスは窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが好ましく、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素ガスが好ましい。
系内へ流入するガスの温度は、流入するガスの流量、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、安定なガス温度制御の面から0℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、安定な系内の加熱温度制御の面からはさらに、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、系内の加熱温度と同温度であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
また、系内へ流入するガスの流量は、流入するガスの温度、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、環式ポリアリーレンスルフィドを担持型遷移金属触媒存在下に加熱する際に発生する気体状態の成分を加熱系内から除去可能であり、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、環式ポリアリーレンスルフィドを担持型遷移金属触媒存在下に加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する効果の面からは、1分間に系内へ流入するガスの流量は、系内の容積の1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
脱揮による発生した気体状態の成分の加熱系内からの除去量は、加熱系外に除去された成分を回収し秤量する方法、加熱前後の重量差から算出する方法、得られたポリアリーレンスルフィドの加熱時重量減少により残存成分量を算出し差し引く方法などにより把握することができる。
反応時間は、使用する環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(O)式の環式化合物の含有率や繰り返し数m、および分子量などの各種特性、使用する重合触媒の種類、加熱の温度などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間の下限としては0.01時間以上が例示でき、好ましくは0.05時間以上が例示できる。0.01時間以上では環式ポリアリーレンスルフィドはポリアリーレンスルフィドへ十分に転化する。一方上限としては100時間以下が例示でき、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下が例示できる。本発明の好ましい製造方法によれば、環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は2時間以下で行うことも可能である。加熱時間としては2時間以下、さらには1時間以下、0.5時0間以下、0.3時間以下、0.2時間以下が例示できる。100時間以下では好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は、実質的に溶媒を含まない条件下で行うことも可能である。このような条件下で行う場合、短時間での昇温が可能であり、反応速度が高く、短時間でポリアリーレンスルフィドを得やすくなる傾向がある。ここで実質的に溶媒を含まない条件とは、環式ポリアリーレンスルフィド中の溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下がより好ましい。
前記加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用でき、脱揮機構を具備した装置であればより好ましい。
また、上記した環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、例えば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<1>環式ポリフェニレンスルフィドおよびポリフェニレンスルフィドの特性の評価
<分子量の測定>
ポリフェニレンスルフィド及び環式ポリフェニレンスルフィドの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<ポリフェニレンスルフィドの加熱時重量減少率の測定>
ポリフェニレンスルフィドの加熱時重量減少率は熱重量分析機を用いて下記条件で行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から350℃まで昇温。この際の昇温速度20℃/分
加熱した際の重量減少率ΔWrは下式よりもとめられる
ΔWr=(W1−W2)/W1×100
なお、ΔWrは常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
<転化率の測定>
環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化率の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
環式ポリフェニレンスルフィドの加熱により得られた生成物約10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、未反応の環式ポリフェニレンスルフィド量を定量し、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化率を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
<赤外分光分析>
装置 :Perkin Elmer System 2000 FT−IR
サンプル調製:KBr法。
参考例1 環式ポリフェニレンスルフィドの調製
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を28.06g(0.240mol)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液25.00g(0.288mol)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20mol)、及びp−ジクロロベンゼン(p−DCB)36.16g(0.246mol)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。
400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約1時間かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約30分かけて昇温した。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16μmのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を分離した。
クロロホルム抽出操作にて得られた抽出液から溶媒を除去した後、約5gのクロロホルムを加えてスラリーを調製し、これを約600gのメタノールに攪拌しながら滴下した。これにより得られた沈殿物を濾過回収し、70℃で5時間真空乾燥を行い、白色粉末を得た。この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。さらに、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)およびMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜13の環式化合物を約96重量%含み、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造に好適に用いられる環式ポリフェニレンスルフィドであることが判明した。また、GPC測定を行った結果、環式ポリフェニレンスルフィドは室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
参考例2 担体が炭素繊維である担持型ニッケル触媒(表中にNi/CFと記載)の調製
シャーレ中に、炭素繊維(東レ株式会社製、製品番号:T700SC−12K、平均繊維径7μm、平均繊維長14mm、アスペクト比2000)を197.5mg仕込み、ギ酸ニッケル2水和物(和光純薬工業製)の2.5重量%水溶液を0.5022gを加え、触媒を含浸させた。大気下で100℃のホットスターラー上で30分保持し、水分を除去し室温近傍まで放冷した後、209.3mgを回収した(この回収物中にはギ酸ニッケル2水和物が12.6mg含まれている)。この回収物をガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、260℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ちながら60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た、アンプルを取り出し室温まで冷却し、担持型ニッケル触媒201.7mgを得た。加熱前後の重量減少は、7.6mgであり、この重量減少より求めたギ酸ニッケル2水和物から生成した0価ニッケルの生成率は88%であった。
参考例3 担体がガラス繊維である担持型ニッケル触媒(表中にNi/GFと記載)の調製
シャーレ中に、ガラス繊維(旭ファイバーグラス社製T747、平均繊維径13μm、平均繊維長3mm、アスペクト比231)を192.9mg仕込み、ギ酸ニッケル2水和物の2.5重量%水溶液を、0.4902g加え、触媒を含浸させた。大気下で100℃のホットスターラー上で30分保持し、水分を除去し室温近傍まで放冷した後、203.1mgを回収した(この回収物中にはギ酸ニッケル2水和物が12.3mg含まれている)。この回収物をガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、260℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ちながら60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た、アンプルを取り出し室温まで冷却し、担持型ニッケル触媒196.9mgを得た。加熱前後の重量減少は、7.6mgであり、この重量減少より求めたギ酸ニッケル2水和物から生成した0価ニッケルの生成率は86%であった。
実施例1
参考例2で得られた担体が炭素繊維である担持型ニッケル触媒(表中にNi/CFと記載)に、環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対するニッケル量として5モル%なるように、参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドを大気下で加えた(このとき、環式ポリフェニレンスルフィド重量部に対する担体の炭素繊維の割合は133%であった)。その混合物350mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を窒素雰囲気下に保ったまま10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、炭素繊維を含むポリフェニレンスルフィドを得た。炭素繊維を含むポリフェニレンスルフィドの赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)が含まれていることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物や炭素繊維であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は40%であることがわかった。結果を表1に示した。
実施例2
参考例3で得られた担体がガラス繊維である担持型ニッケル触媒(表中にNi/GFと記載)に、環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対するニッケル量として5モル%なるように(このとき、環式ポリフェニレンスルフィド重量部に対する担体のガラス繊維の割合は133%であった)、参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドを大気下で加えたことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ガラス繊維を含むポリフェニレンスルフィドを得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は33%であることがわかった。結果を表1に示した。
比較例1
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィド300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を窒素雰囲気下に保ったまま10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は12%であることがわかった。結果を表1に示した。
実施例1〜2と比較例1の比較から、環式ポリフェニレンスルフィドを担体が繊維状物質である担持型遷移金属触媒であるNi/CFやNi/GF存在下で加熱することで、より短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が進行することが分かった。
比較例2
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィド300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ちながら10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は11%であることがわかった。
実施例1−2、および比較例2の比較から、環式ポリフェニレンスルフィドを担体が繊維状物質である担持型遷移金属触媒であるNi/CFやNi/GF存在下で加熱することで、窒素雰囲気下や脱揮条件下によらず、より短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が進行することが分かった。
比較例3
金属ニッケル粉末(シグマアルドリッチ社製、製品番号 203904−25G、表中にNiと記載)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対するニッケル量として5モル%加え混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は10%であることがわかった。結果を表1に示した。
比較例4
遷移金属触媒を含まない炭素繊維(東レ株式会社製、製品番号:T700SC−12K、繊維径7μm、平均繊維長14mm、アスペクト比は2000、表中にCFと記載)を環式ポリフェニレンスルフ重量部に対する担体の炭素繊維の割合が133%であるように、加え混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、炭素繊維を含むポリフェニレンスルフィドを得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は11%であることがわかった。結果を表1に示した。
比較例5
遷移金属触媒を含まないガラス繊維(旭ファイバーグラス社製T747、平均繊維直径13μm、平均繊維長3mm、アスペクト比は231、表中にGFと記載)を環式ポリフェニレンスルフ重量部に対する担体のガラス繊維の割合が133%であるように、加え混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ガラス繊維を含むポリフェニレンスルフィドを得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は13%であることがわかった。結果を表1に示した。
実施例1〜2および比較例3〜5の比較から、繊維状物質を担体とする担持型金属触媒の構成成分であるニッケルや炭素繊維やガラス繊維のみの存在下ではより短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果はなく、担持型金属触媒であることにより、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果があることがわかった。
実施例3
反応時間を60分に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、炭素繊維を含むポリフェニレンスルフィドを得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は79%であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.20%であった。結果を表2に示した。
実施例4
反応時間を60分に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、ガラス繊維を含むポリフェニレンスルフィドを得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は71%であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.08%であった。結果を表2に示した。
比較例6
テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)(関東化学株式会社製、製品番号 22398−1A、表中にNi(tpp)4と記載)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対するニッケル量として5モル%加え混合し、反応時間を60分に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は90%であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.80%であった。結果を表2に示した。
実施例3〜4と比較例6の比較から、環式ポリフェニレンスルフィドを、有機配位子を有しない担持型金属触媒存在下で加熱して得られたポリフェニレンスルフィドの加熱時の重量減少量は、従来の遷移金属触媒を用いて得られたものの重量減少量以下であることが分かった。