JP5644783B2 - 繊維強化成形基材の製造方法 - Google Patents

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本発明は、ポリアリーレンスルフィドを用いた繊維強化成形基材の製造方法に関する。さらに詳しくは、プリプレグ、セミプレグ、ファブリックなどの成形基材を容易に、生産性よく製造することができるポリアリーレンスルフィドを用いた繊維強化成形基材の製造方法に関する。
連続した強化繊維基材とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量で優れた力学特性を有し、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途などに広く用いられている。とりわけ強化繊維に炭素繊維を用いた複合材料(CFRP)は、金属材料を上回る比強度、比剛性を有し、宇宙航空用途を中心に使用量が増大してきている。これまで強化繊維基材への含浸性の良さから、マトリックス樹脂には熱硬化性樹脂が好んで用いられてきた。熱可塑性樹脂は高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、繊維強化成形基材を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。
しかしながら、近年になり、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料は、成形時間の短縮に有効であり、また得られる成形品はリサイクルに有利であり、熱接着、熱矯正などの後加工性に優れることから、各用途で注目されている。熱可塑性樹脂の中でもポリアリーレンスルフィドは弾性率、耐熱性が高く、流動性にも優れており、かつ成形品の力学特性を高める観点から繊維強化複合材料に好適に使用できる。そこで、連続した強化繊維基材とポリアリーレンスルフィドからなる繊維強化成形基材をより経済的に生産性よく製造する方法が求められている。
特許文献1には、連続した強化繊維からなるシ−ト状の基材の裏表に結晶性熱可塑性樹脂フィルムを配置して、樹脂の融点より150℃も高い温度で、5〜30kg/cm(約0.5〜3MPa)の圧力で加圧して、熱可塑性樹脂を強化繊維束に含浸させる方法が提案されている。しかしながら、この方法では、熱可塑性樹脂の含浸に過酷な温度を必要とするため、樹脂の熱分解を引き起こすために成形品の特性を十分に高めることができず、成形基材を経済的に生産性よく製造するのは困難である。
特許文献2には、連続した強化繊維束に熱可塑性樹脂を容易に含浸させるために、低分子量の熱可塑性樹脂を含浸させた後に、高分子量の熱可塑性樹脂で一体化する成形材料の製造方法が提案されている。しかしながら、この方法は、低分子量の熱可塑性樹脂を用いると含浸性は満足するものの、一方で、成形材料の取扱い性は不十分であり、かつ成形品の特性を十分に高めることは困難であるといった課題を提示するものである。
特許文献3には、連続した強化繊維束に低分子量の環式ポリアリーレンスルフィドを複合化し、さらに200〜450℃で加熱して環式ポリアリーレンスルフィドを高分子量のポリアリーレンスルフィドに重合させる繊維強化成形基材の製造方法が開示されている。この方法は、連続した強化繊維束と高分子量のポリアリーレンスルフィドとからなる繊維強化成形基材を、容易に、生産性良く製造することができる優れた製造方法であるが、工業的な経済性および生産性の観点から、さらに低温、短時間で繊維強化成形基材を製造可能な方法が要望されるようになってきた。
特開平8−118489号公報 特開平10−138379号公報 特開2008−231289号公報
本発明は、かかる従来技術の改善を試み、連続した強化繊維基材とポリアリーレンスルフィドからなる繊維強化成形基材を、より容易に、生産性よく製造する方法を提供することを目的とする。
かかる問題点を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)連続した強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する工程(I)、該成分(A)にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を複合化する工程(II)、該工程(II)で得られた複合体を加熱して、該成分(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる工程(III)、および該工程(III)で得られた複合体を冷却して引き取る工程(IV)、を有してなる繊維強化成形基材の製造方法であって、該工程(III)において、該成分(B)を0価遷移金属化合物(C)の存在下で加熱することで重合させて該成分(B’)に転化させる繊維強化成形基材の製造方法。
(2)前記成分(C)が、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属を含む化合物である、(1)に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(3)前記成分(C)が、パラジウムまたはニッケルを含む化合物である、(1)または(2)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(4)連続した強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する工程(I)、該成分(A)にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を複合化する工程(II)、該工程(II)で得られた複合体を加熱して、該成分(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる工程(III)、および該工程(III)で得られた複合体を冷却して引き取る工程(IV)、を有してなる繊維強化成形基材の製造方法であって、該工程(III)において、該成分(B)を低原子価鉄化合物(E)の存在下で加熱することで重合させて該成分(B’)に転化させる繊維強化成形基材の製造方法。
(5)前記成分(E)が、II価の鉄化合物である、(4)に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(6)前記成分(B)に、前記成分(B)中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の前記成分(C)または前記成分(E)を添加する、(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(7)前記成分(B)が、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含むポリアリーレンスルフィドプレポリマーである、(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(8)前記工程(III)において、前記成分(B)の前記成分(B’)への転化率が70%以上である、(1)〜(7)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(9)前記成分(B)の重量平均分子量が10,000未満であり、かつ前記成分(B’)の重量平均分子量が10,000以上である、(1)〜(8)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(10)前記工程(I)〜(IV)をオンラインで行う、(1)〜(9)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(11)前記工程(I)において、前記成分(A)を50〜500℃に加熱する工程を含む、(1)〜(10)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(12)前記工程(II)において、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を気相中で前記成分(A)と複合化する、(1)〜(11)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(13)前記工程(II)において、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を液相中で前記成分(A)と複合化する、(1)〜(11)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(14)前記工程(II)において、フィルム状、シート状、不織布状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を、前記成分(A)と複合化する、(1)〜(11)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(15)前記工程(II)において、180〜270℃の温度で溶融させた前記成分(B)を、前記成分(A)と複合化する、(1)〜(11)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(16)前記工程(III)において、180〜320℃の温度で前記成分(B)を重合させる、(1)〜(11)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(17)前記工程(III)において、前記成分(B)の重合を非酸化性雰囲気下で行う、(1)〜(16)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(18)前記工程(III)において、前記成分(B)の重合を0.1〜50kPaの減圧下で行う、(1)〜(17)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(19)前記工程(II)において、前記成分(B)の含浸率が50%以上、100%以下である、(1)〜(18)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(20)繊維強化成形基材を100質量%とした際の、前記成分(B’)の割合が10〜90質量%である、(1)〜(19)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(21)前記成分(A)が、連続した強化繊維を収束してなる強化繊維束である、(1)〜(20)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(22)前記成分(A)が、連続した強化繊維を一方向に配列させた基材、織物、不織布、マットからなる群から選択される少なくとも1種である(1)〜(20)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
(23)前記成分(A)において、前記強化繊維がPAN系炭素繊維である、(1)〜(22)のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
本発明の製造方法によれば、連続した強化繊維基材にポリアリーレンスルフィドを容易に複合化させることができるため、引き取り速度を上げるなど生産性の向上やプロセス温度を抑えるといった経済性の向上が可能であり、プリプレグ、セミプレグ、ファブリックなどの繊維強化成形基材の製造に好適に用いられる。
本発明に係る繊維強化成形基材の製造方法に用いられる製造装置の一例である。 本発明に係る繊維強化成形基材の製造方法に用いられる製造装置の一例である。 本発明に係る繊維強化成形基材の製造方法に用いられる製造装置の一例である。
以下、本発明の繊維強化成形基材の製造方法について、具体的に説明する。
本発明の製造方法では、連続した強化繊維基材(A)と、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)を原料として、ポリアリーレンスルフィド(B’)をマトリックス樹脂とした繊維強化成形基材を製造する。まず、各成分について説明する。
<強化繊維基材(A)>
本発明で用いられる強化繊維基材(A)において、強化繊維としては、特に限定されないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維、炭化ケイ素繊維等が使用でき、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。これらの中でも、軽量かつ高強度、高弾性率の成形品を得る観点から、炭素繊維を用いるのが好ましい。炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などが使用でき、これらを2種以上混在させることもできる。これらの中でも、コストと強度のバランスの観点からPAN系炭素繊維が好ましく、得られる成形品の力学特性の観点から、引張弾性率で200〜700GPaのPAN系炭素繊維がより好ましい。
本発明で用いられる強化繊維基材(A)の形態及び配列としては、連続していれば特に限定されないが、例えば、連続した強化繊維を収束してなる強化繊維束(以下、単に強化繊維束ともいう)、連続した強化繊維を一方向に配列させた基材(以下、単に一方向配列基材ともいう)、織物(クロス)、不織布、マット、編み物、組み紐、ヤーン、トウ、等が用いられる。中でも、連続して高速で引き取ることが可能であることから強化繊維束が好ましく、積層構成によって容易に強度特性を設計可能であることから、一方向配列基材を使用するのが好ましく、曲面にも容易に賦形できることから織物が好ましく、厚み方向に容易に成形できることから不織布およびマットが好ましく使用される。なお、ここで一方向配列基材とは、複数本の強化繊維を並行して配列させた基材のことである。かかる一方向配列基材は、例えば複数本の連続した強化繊維束を一方向に引きそろえ、さらにシート状に地均する方法などにより得られる。
強化繊維基材(A)が強化繊維束である場合は、強化繊維の単繊維数が多いほど経済性には有利であることから、単繊維は10,000本以上が好ましい。他方、強化繊維の単繊維数が多いほどマトリックス樹脂の含浸性には不利となる傾向があるため、強化繊維束として炭素繊維束を用いる場合、経済性と含浸性の両立を図る観点から、15,000本以上100,000本以下がより好ましく、20,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。
さらに、単繊維を強化繊維束に束ねる目的で、本発明における成分(B)とは別に、集束剤を使用してもよい。これは強化繊維束に集束剤を付着させることで、強化繊維の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂などのサイジング剤を1種または2種以上併用することができる。
強化繊維基材(A)が一方向配列基材、織物、不織布、マットである場合は、強化繊維の単繊維数としては、特に限定されない。
さらに、強化繊維基材(A)には、単繊維の脱落を抑える目的で、本発明における成分(B)とは別に、結着剤を使用してもよい。これは強化繊維基材に結着剤を付着させることで、強化繊維の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂などのバインダーを1種または2種以上併用することができる。
<ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)>
本発明において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、下記の式(o)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満のポリアリーレンスルフィドプレポリマーが好ましく用いられる。
Figure 0005644783
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのより好ましい態様としては、環式ポリアリーレンスルフィドを70重量%以上含み、さらに好ましくは80重量%以上含み、とりわけ好ましくは90重量%以上含むものである。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの上限値には特に制限は無いが、生産性の観点から98重量%以下、好ましくは95重量%以下が好ましい範囲として例示できる。
通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの重量比率が高いほど、加熱後に得られるポリアリーレンスルフィド(B’)の重合度が高くなる傾向にある。すなわち、本発明では、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)における環式ポリアリーレンスルフィドの存在比率を調整することで、ポリアリーレンスルフィド(B’)の重合度を調整することができる。
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(o)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、4〜50が好ましく、4〜25がより好ましく、4〜15がさらに好ましい範囲として例示でき、8以上を主成分とする前記(o)式環式化合物がよりいっそう好ましい。後述するように環式ポリアリーレンスルフィドの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの転化は環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上で行うことが好ましいが、繰り返し数mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点で繰り返し数mを前記範囲にすることは有利となる。繰り返し数mが7以下の環式化合物は反応性が低い傾向があるため、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるようになるとの観点で繰り返し数mを8以上にすることは有利となる。
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(o)式の環式化合物は、単一の繰り返し数mを有する単独化合物、異なる繰り返し数mを有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数mを有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数mを有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数mを有する環式化合物の混合物の使用はポリアリーレンスルフィドへの転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000以下が好ましく、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。重量平均分子量が10,000より大きい場合は溶融粘度が高く、連続した強化繊維基材(A)への含浸が不十分となる場合があり、300未満である場合は、繰り返し数mが上記範囲を満たさない。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を得る方法としては例えば以下の(1)、(2)の方法が挙げられる。
(1)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合することで、80meshふるい(目開き0.125mm)で分離される顆粒状ポリアリーレンスルフィド樹脂、重合で生成したポリアリーレンスルフィド成分であって前記顆粒状ポリアリーレンスルフィド樹脂以外のポリアリーレンスルフィド成分(ポリアリーレンスルフィドオリゴマーと称する)、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、ここに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを分離回収し、これを精製操作に処すことでポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法。
(2)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合して、重合終了後に有機極性溶媒の除去を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、これを精製することで得られるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを含むポリアリーレンスルフィド樹脂を得て、これを実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂は溶解しないがポリアリーレンスルフィドプレポリマーは溶解する溶剤を用いて抽出してポリアリーレンスルフィドプレポリマーを回収する方法。
本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)には、本発明の効果を損なわない範囲内で、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー、ゴム成分、難燃剤、無機充填材、カーボンブラックなどの導電性向上成分、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色剤、顔料、染料、熱安定剤、離型剤、粘着剤、耐電防止剤、可塑剤、滑剤、発泡剤、制泡剤、カップリング材などを添加しても良い。
<ポリアリーレンスルフィド(B’)>
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)(以下、PASと略することもある)は、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。
Figure 0005644783
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
Figure 0005644783
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)は上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィド(B’)としては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
Figure 0005644783
を80重量%以上、特に90重量以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)の分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上である。重量平均分子量が上記好ましい下限値以上であると、得られる繊維強化成形基材の力学特性が十分となり、より高温(例えば、360℃)での成形加工時であっても低分子量成分が熱分解反応を起こし、分解ガスで成形設備周辺の環境汚染を引き起こすこともない。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000以下を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)の分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度は2.5以下であり、2.3以下が好ましく、2.1以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。分散度がこの好ましい範囲であると、ポリアリーレンスルフィド(B’)に含まれる低分子成分の量が少なく、成形設備周辺の環境汚染を引き起こすこともない。なお、前記重量平均分子量および数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)の溶融粘度に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜10,000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が好ましい範囲として例示できる。
また、本発明においてポリアリーレンスルフィド(B’)は実質的に塩素以外のハロゲン、すなわちフッ素、臭素、ヨウ素、アスタチンを含まないことが好ましい。本発明においてポリアリーレンスルフィド(B’)がハロゲンとして塩素を含有する場合、ポリアリーレンスルフィド(B’)が通常使用される温度領域においては安定であるために塩素を少量含有してもポリアリーレンスルフィド(B’)の力学特性、発生ガスの人体に与える影響は少ないが、塩素以外のハロゲンを含有する場合、それらの特異な性質による分解ガスが成形設備周辺の環境へ悪影響を及ぼす場合があるためその分解ガスの除去のため過大な設備を必要とする。なお、ここで言う「実質的に塩素以外のハロゲンを含まない」とは、例えば、ポリマーを燃焼させ、燃焼ガスを吸収させた、溶液をイオンクロマト法などで定量分析を行い、塩素以外のハロゲンは検出限界以下であることを意味する。また、本発明においてポリアリーレンスルフィド(B’)がハロゲンとして塩素を含有する場合でも、同様の観点で、その好ましい量は1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
本発明で用いられるポリアリーレンスルフィド(B’)は、成形時の分解ガスを低く抑える観点から、加熱した際の重量減少が下記式(1)を満たすことが好ましい。
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.20(%) ・・・(1)。
ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
本発明で用いられるポリアリーレンスルフィド(B’)は△Wrが0.20%以下であり、0.16%以下であることが好ましく、0.13%以下であることが更に好ましく、0.10%以下であることがよりいっそう好ましい。△Wrが前記範囲であると、たとえば、繊維強化樹脂部材が火災などにより加熱された際であっても、発生ガス量が少ない。△Wrは一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを示す。
また、△Wrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。なお、本発明においては、50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。
さらに、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)存在下で加熱することによって得ることができ、この方法によれば、0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)を用いない場合に対して、低温、高速で前述した特性を有するポリアリーレンスルフィド(B’)を得ることができる。
前記した製法における、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率は70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。転化率が70%以上では力学的特性に優れるポリアリーレンスルフィドを得ることができる。ここでのポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率とは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)中の環式ポリアリーレンスルフィドが高分子量のポリアリーレンスルフィドに転化した割合を示した物である。
<0価遷移金属化合物(C)>
本発明において、種々の0価遷移金属化合物(C)が重合触媒として用いられる。0価遷移金属としては、好ましくは、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属が好ましく用いられる。例えば金属種として、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金が例示でき、パラジウムまたはニッケルが特に好ましく用いられる。0価遷移金属化合物(C)としては、各種錯体が適しているが、例えば配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、ジメトキシジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエン、カルボニルの錯体が挙げられる。具体的にはビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、[P,P’−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン][P−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン]パラジウム、1,3−ビス(2,6−ジ−i−プロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、ビス(3,5,3’,5’−ジメトキシジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、テトラキス(トリフルオロホスフィン)白金、エチレンビス(トリフェニルホスフィン)白金、白金−2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄、ドデカカルボニル四ロジウム、ヘキサデカカルボニル六ロジウム、ドデカカルボニル三ルテニウムなどが例示できる。これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
これらの重合触媒は、上記のような0価遷移金属化合物(C)を添加してもよいし、系内で0価遷移金属化合物(C)を形成させてもよい。ここで後者のように系内で0価遷移金属化合物(C)を形成させるには、遷移金属の塩などの遷移金属化合物と配位子となる化合物を添加することで、系内で遷移金属の錯体を形成させる方法、あるいは、遷移金属の塩などの遷移金属化合物と配位子となる化合物で形成された錯体を添加する方法などが挙げられる。以下に本発明で使用される遷移金属化合物と配位子、及び、遷移金属化合物と配位子で形成された錯体の例を挙げる。系内で0価遷移金属化合物(C)を形成させるための遷移金属化合物としては、例えば、種々の遷移金属の酢酸塩、ハロゲン化物などが例示できる。ここで遷移金属種としては例えば、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金の酢酸塩、ハロゲン化物などが例示でき、具体的には酢酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫化ニッケル、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫化パラジウム、塩化白金、臭化白金、酢酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、酢酸ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、酢酸ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、酢酸銅、塩化銅、臭化銅、酢酸銀、塩化銀、臭化銀、酢酸金、塩化金、臭化金などが挙げられる。また、系内で0価遷移金属化合物(C)を形成させるために同時に添加する配位子としては、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と遷移金属化合物とを加熱した際に0価の遷移金属を生成するものであれば特に限定はされないが、塩基性化合物が好ましく、例えばトリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、炭酸ナトリウム、エチレンジアミンなどが挙げられる。また、遷移金属化合物と配位子となる化合物で形成された錯体としては、上記のような種々の遷移金属塩と配位子からなる錯体が挙げられる。具体的にはビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジアセタート、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウムジクロリド、ジクロロ(1,5’−シクロオクタジエン)パラジウム、ビス(エチレンジアミン)パラジウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケルジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケルジクロリド、ジクロロ(1,5’−シクロオクタジエン)白金などが例示できる。これらの重合触媒及び配位子は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
遷移金属化合物の価数状態は、X線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において触媒として用いられる遷移金属化合物または遷移金属化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィドまたは遷移金属化合物を含むポリアリーレンスルフィドにX線を照射し、その吸収スペクトルを規格化した際の吸収係数のピーク極大値を比較することで把握できる。
例えばパラジウム化合物の価数を評価する場合、L3端のX線吸収端近傍構造(XANES)に関する吸収スペクトルを比較することが有効であり、X線のエネルギーが3173eVの点を基準とし、3163〜3168eVの範囲内の平均吸収係数を0、3191〜3200eVの範囲内の平均吸収係数を1と規格化した際の吸収係数のピーク極大値を比較することで判断が可能である。パラジウムの例においては、2価のパラジウム化合物に対して、0価のパラジウム化合物では規格化した際の吸収係数のピーク極大値が小さい傾向があり、さらに、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化を促進する効果が大きい遷移金属化合物ほどピーク極大値が小さい傾向がある。この理由は、XANESに関する吸収スペクトルは内殻電子の空軌道への遷移に対応しており、吸収ピーク強度はd軌道の電子密度に影響されるためと推測している。
パラジウム化合物がポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化を促進するためには、規格化した際の吸収係数のピーク極大値が6以下であることが好ましく、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下であり、この範囲内ではポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化を促進することができる。
具体的には、ピーク極大値は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化を促進しない2価の塩化パラジウムでは6.32、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化を促進する0価のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及びビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムではそれぞれ3.43及び2.99及び2.07である。
<低原子価鉄化合物(E)>
本発明において、種々の低原子価鉄化合物(E)が重合触媒として用いられる。鉄原子は理論的に−II、−I、0、I、II、III、IV、V、VI価の価数状態を取りうることが知られており、ここで、低原子価鉄化合物とは、−II〜II価の価数を有する鉄化合物であることを指す。また、ここで述べる低原子価鉄化合物(E)とは、加熱による環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際の、反応系内における鉄化合物の価数が−II〜II価であることを指す。
低原子価鉄化合物(E)としては、−II〜II価の価数を有する鉄化合物が挙げられるが、鉄化合物の安定性、取り扱いの容易さ、入手のしやすさ等から、本発明における低原子価鉄化合物(E)としては、0価、I価、II価の鉄化合物が好ましく用いられ、その中でも特にII価の鉄化合物が好ましい。
II価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、例えば、II価の鉄のハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フェロセン化合物などが挙げられる。具体的には例えば塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、フッ化鉄、酢酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、硝酸鉄、硫化鉄、鉄メトキシド、フタロシアニン鉄、フェロセンなどが例示できる。中でも、鉄化合物を環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させるという観点から、環式ポリアリーレンスルフィド中での分散性の良好な鉄のハロゲン化物が好ましく、経済性の観点及び得られるポリアリーレンスルフィドの特性面から、塩化鉄がより好ましい。ここで述べるポリアリーレンスルフィドの特性としては、例えば1−クロロナフタレンへの溶解性が挙げられる。本発明の好ましい低原子価鉄化合物(E)を用いれば、1−クロロナフタレンへの不溶部の少ない、好ましくは不溶部のないポリアリーレンスルフィドが得られる傾向があり、これは、ポリアリーレンスルフィドの分岐単位または架橋単位が少ないことを意味し、このことは、高い成形加工性や成形品の高い機械強度などの特性が得られるという観点でポリアリーレンスルフィドとして望ましい特性といえる。
I価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、具体的には例えばシクロペンタジエニル鉄ジカルボニルニ量体、1,10−フェナントロリン硫酸鉄錯体などが例示できる。
0価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、具体的にはドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄などが例示できる。
これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
これらの重合触媒は、上記のような低原子価鉄化合物(E)を添加してもよいし、III価以上の高原子価鉄化合物から系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させてもよい。ここで後者のように系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるには、加熱により高原子価鉄化合物から低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドに高原子価鉄化合物と、高原子価鉄化合物に対して還元性を有する化合物を助触媒として添加することにより系内で低原子価鉄化合物を形成させる方法などが挙げられる。加熱により高原子価鉄化合物から低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法としては、例えば高原子価ハロゲン化鉄化合物の加熱により低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法などが挙げられる。なおここで、高原子価ハロゲン化鉄化合物の加熱の際には、これを構成するハロゲンの一部が脱離することで、低原子価鉄化合物(E)が形成すると推測している。
本発明において、低原子価鉄化合物(E)が保存中に徐々に変質するような物質である場合は、より安定な高原子価鉄化合物の状態で添加しておき、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させるプロセスにおいて、系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法が好ましく用いられる。かかるプロセスを用いることで、得られる成形材料の長期保管が可能であったり、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化率する際の添加率を高めることが可能となるため好ましい。
以下に本発明で使用される高原子価鉄化合物の例を挙げる。系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるための高原子価鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、例えば、III価の鉄化合物として塩化鉄、臭化鉄、フッ化鉄、クエン酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトナート、鉄ベンゾイルアセトナートジエチルジチオカルバミン酸鉄、鉄エトキシド、鉄イソプロポキシド、アクリル酸鉄などが例示できる。中でも、鉄化合物を環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させるという観点から、環式ポリアリーレンスルフィド中での分散性の良好な鉄のハロゲン化物が好ましく、経済性の観点及び得られるポリアリーレンスルフィドの特性面から、塩化鉄がより好ましい。ここで述べるポリアリーレンスルフィドの特性としては、例えば1−クロロナフタレンへの溶解性が挙げられる。本発明の好ましい低原子価鉄化合物(E)を用いれば、1−クロロナフタレンへの不溶部の少ない、好ましくは不溶部のないポリアリーレンスルフィドが得られる傾向があり、これは、ポリアリーレンスルフィドの分岐単位または架橋単位が少ないことを意味し、このことは、高い成形加工性や成形品の高い機械強度などの特性が得られるという観点でポリアリーレンスルフィドとして望ましい特性といえる。
以下に本発明で使用される助触媒の例を挙げる。系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるために添加する助触媒としては、環式ポリアリーレンスルフィドと高原子価鉄化合物とを加熱した際に高原子価鉄化合物と反応し低原子価鉄化合物を生成するものであれば特に限定はされないが、各種有機、無機の還元性を有する化合物が好ましく、例えば塩化銅(I)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンなどが例示できる。中でも、塩化銅(I)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)が好ましく、固体状態で安全に取り扱いが可能な塩化銅(I)、塩化スズ(II)がより好ましい。
これらの重合触媒及び助触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
反応系内における鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造は、X線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において触媒として用いられる鉄化合物、または、鉄化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィド、または、鉄化合物を含むポリアリーレンスルフィドにX線を照射し、その吸収スペクトルの形状を比較することで鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造が把握できる。
鉄化合物の価数を評価する場合、K端のX線吸収端近傍構造(XANES)に関する吸収スペクトルを比較することが有効であり、スペクトルが立ち上がるエネルギー及びスペクトル形状を比較することで判断が可能である。III価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルに対し、II価の鉄化合物の測定で得られるスペクトル、さらには0価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルは、メインピークの立ち上がりがより低エネルギー側となる傾向がある。具体的には、III価の鉄化合物である塩化鉄(III)、酸化鉄(III)などでは7120eV付近にメインピークの立ち上がりが、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物などでは7110〜7115eV付近にメインピークの立ち上がりが、0価の鉄化合物である鉄金属(0)などでは7110eV付近からスペクトルに肩構造が観察される。また、III価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルに対し、II価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルは、メインピークのピークトップ位置もより低エネルギー側となる傾向がある。具体的には、III価の鉄化合物では7128〜7139eV付近に、II価の鉄化合物では7120〜7128eV付近にメインピークのピークトップが観察され、より具体的には、III価の鉄化合物である塩化鉄(III)では7128〜7134eV付近に、酸化鉄(III)では7132eV付近に、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)では7120eV付近に、塩化鉄(II)四水和物では7123eV付近に、メインピークのピークトップが観察される。
また、鉄化合物の鉄原子近傍の構造を評価する場合、K端の広域エックス線吸収微細構造(EXAFS)より得られた動径分布関数を比較することが有効であり、ピークが観察される距離を比較することで判断が可能である。鉄金属(0)では0.22nm付近及び0.44nm付近にFe−Fe結合に起因するピークが認められる。塩化鉄(III)では0.16〜0.17nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、塩化鉄(II)では0.21nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、塩化鉄(II)四水和物では0.16〜0.17nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、また0.21nm付近にも別のFe−Cl結合と考えられるサブピークが認められる。酸化鉄(III)では0.15〜0.17nm付近にFe−O結合に起因するピークが、0.26〜0.33nm付近にFe−Fe結合などに起因するピークが認められる。
すなわち、反応中または反応生成物のX線吸収微細構造(XAFS)解析により得られたスペクトルと、各種鉄化合物のスペクトルを比較することにより、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造が把握可能である。
前記鉄化合物の添加に際しては、水分を含まない条件下で添加することが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる好ましい水分量としては1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であり、水分を実質的に含有しないことがよりいっそう好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分量の合計量の、添加した重合触媒に対するモル比は、9以下が好ましく、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下、よりいっそう好ましくは0.1以下であり、水分を実質的に含有しないことがなおいっそう好ましい。この水分量以下であれば、低原子価鉄化合物(E)の酸化反応や加水分解反応などの副反応を防ぐことができる。このことから、添加する鉄化合物の形態は、水和物よりも無水物であることが好ましい。
また、鉄化合物の添加に際し、環式ポリアリーレンスルフィド及び鉄化合物中に水分が含まれるのを防ぐためには、鉄化合物と乾燥剤を併せて添加してもよい。乾燥剤としては、金属、中性乾燥剤、塩基性乾燥剤、酸性乾燥剤などがあるが、低原子価鉄化合物(E)の酸化を防ぐためには酸化性物質を系内に存在させないことが重要であることから、中性乾燥剤や塩基性乾燥剤が好ましい。これら乾燥剤としては、具体的には中性乾燥剤として塩化カルシウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなど、塩基性乾燥剤として、炭酸カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウムなどが例示できる。中でも、吸湿容量が比較的大きく、取り扱いが容易な塩化カルシウム、酸化アルミニウムが好ましい。なお、鉄化合物と乾燥剤を併せて添加する場合、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分子の合計量には、乾燥剤により脱水された水分量は含まないものとする。
上記の水分量は、カール・フィッシャー法により定量が可能である。また、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる水分量は、気相の温度及び相対湿度からも算出できる。また、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量は、赤外線水分計を用いることや、ガスクロマトグラフィーによっても定量が可能であるし、環式ポリアリーレンスルフィド、重合触媒を100〜110℃程度の温度で加熱した際の、加熱前後の重量変化からも求めることができる。
前記鉄化合物の添加に際しては、非酸化性雰囲気下で添加することが好ましい。ここで非酸化性雰囲気とは、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、前記鉄化合物の添加に際しては、酸化性物質を含まない条件下で添加することが好ましい。ここで酸化性物質を含まないとは、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる酸化性物質の、添加した重合触媒に対するモル比が1以下、好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.1以下、よりいっそう好ましくは酸化性物質を実質的に含有しないことを指す。酸化性物質とは、前記重合触媒を酸化させ、触媒活性を有さない化合物、例えば酸化鉄(III)に変化させてしまうような物質のことを指し、例えば、酸素、有機過酸化物、無機過酸化物などが挙げられる。このような条件下であれば、低原子価鉄化合物の酸化反応などの副反応を防ぐことができる。 使用する0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)の濃度は、目的とするポリアリーレンスルフィド(B’)の分子量ならびに0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)の種類により異なるが、通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)中の硫黄原子に対して0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。0.001モル%以上ではポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)はポリアリーレンスルフィド(B’)へ十分に転化し、20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィド(B’)を得ることができる。
また、0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)は、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)の加熱重合後も残存する。この為、0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)は、ポリアリーレンスルフィド(B’)中の硫黄原子に対しても、0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%含有されていることを特徴とする。
0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)の添加に際しては、特に制限は無く、例えば、後述する工程(II)の前に、または同時に添加すればよいが、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)に重合触媒として添加した後、均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法などが挙げられる。機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。溶媒を用いて分散させる方法として、具体的にはポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を溶媒に溶解または分散し、これに0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。また、分散に際して、0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)が固体である場合、より均一な分散が可能となるため0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)の平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
本発明において、0価遷移金属化合物(C)を重合触媒として用いる繊維強化成形基材の製造方法は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率が高いことに特徴がある。0価遷移金属化合物(C)を重合触媒に用いることにより、ポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率が高く、力学特性や耐熱性に優れる繊維強化成形基材が容易に得られる。
本発明において、低原子化鉄化合物(E)は、重合触媒として0価遷移金属化合物(C)に比べて低コストで入手できるという特徴がある。低原子化鉄化合物(E)を重合触媒に用いることにより、よりコストや生産性に優れた繊維強化成形基材が得られる。
<繊維強化成形基材の製造方法>
次に、本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、少なくとも以下の工程から構成される。
工程(I):連続した強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する
工程(II):該成分(A)にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を複合化する
工程(III):該工程(II)で得られた複合体を加熱して、該成分(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる
工程(IV):該工程(III)で得られた複合体を冷却して引き取る。
さらに、本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、前記工程(III)において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)存在下で加熱することで重合させてポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させることを特徴とする。
各工程は、オフラインで実施することもできるが、経済性、生産性の面から、工程(I)〜(IV)をオンラインで実施することが好ましい。
ここで、工程(I)〜(IV)をオンラインで行うとは、工程(I)〜(IV)の全てを同一の製造ラインにて連続的(例えば、図1〜3参照)ないしは間欠的に行うことを意味する。
各工程について、それぞれ説明する。
<工程(I)>
工程(I)は、連続した強化繊維基材(A)を製造ラインに供給する工程である。ここで、経済性と生産性よく製造する目的から、連続的に供給することが重要となる。連続的とは、原料となる連続した強化繊維基材(A)を完全に切断せずに供給することを意味し、供給速度は一定であってもよいし、間欠的に供給と停止を繰り返してもよい。また、繊維強化成形基材の賦形性を高める目的で、連続した強化繊維基材(A)にスリット(切れ目)を入れるため、その一部を切断する工程を含んでもよい。また、連続した強化繊維基材とは、連続的に供給できる形態の強化繊維基材であることを意味する。
また、工程(I)では、連続した強化繊維基材(A)を引き出し、所定の配列に配置する目的も含む。すなわち、供給される連続した強化繊維基材(A)は、ヤーン状であっても、一方向に引き揃えたシート状であっても、予め形状を付与したプリフォーム状であってもよい。具体的には、連続した強化繊維束をクリールにかけ、強化繊維束を引き出し、ローラーを通過させて製造ラインに供給する方法や、同様に複数の強化繊維束を一方向に配列させてシート状にして、さらにロールバーを通過させて製造ラインに供給する方法や、あらかじめ織物や不織布、マットの形態でロール状にした連続した強化繊維基材(A)をクリールにかけ、引き出し、ローラーを通過させて製造ラインに供給する方法などが挙げられる。ここで、高速での引き取りが可能であることから強化繊維束を用いた方法が好ましく用いられ、一度に大量の繊維強化成形基材を製造可能であることからロールを用いた方法が好ましく用いられる。
また、所定の形状になるように配置された複数のロールバーを通過させて製造ラインに供給する方法などが例示できる。さらに、連続した強化繊維基材(A)が平面状に加工されている場合には、葛折りされた状態などから、直接に製造ラインに供給してもよい。なお、各種ローラーやロールバーに駆動装置を設けると、供給速度の調整などを行うことができ、生産管理の上でより好ましい。
さらに、工程(I)では、連続した強化繊維基材(A)を50〜500℃、好ましくは80〜400℃、より好ましくは100〜300℃に加熱する工程を含むことが、生産上、好ましい。連続した強化繊維基材(A)を加熱することで、工程(II)においてポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の連続した強化繊維基材(A)への定着性を向上させることができる。また、強化繊維束に付着している収束剤などを軟化させ開繊させることもできる。加熱の方法については、特に制限はなく、熱風や赤外線ヒーターによる非接触加熱、パイプヒーターや電磁誘導による接触加熱などの方法が例示できる。
また、工程(I)において、例えば、連続した強化繊維基材(A)が強化繊維束や一方向配列基材である場合、開繊操作を含むことがより好ましい。開繊とは収束された強化繊維束を分繊させる操作であり、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の含浸性をさらに高める効果が期待できる。開繊により、強化繊維束の厚みは薄くなり、開繊前の強化繊維束の幅をb1(mm)、厚みをa1(μm)、開繊後の強化繊維束の幅をb2(mm)、厚みをa2(μm)とした場合、開繊比=(b2/a2)/(b1/a1)は2.0以上が好ましく、2.5以上がさらに好ましい。
強化繊維束の開繊方法としては、特に制限はなく、例えば凹凸ロールを交互に通過させる方法、太鼓型ロールを使用する方法、軸方向振動に張力変動を加える方法、垂直に往復運動する2個の摩擦体による強化繊維束の張力を変動させる方法、強化繊維束にエアを吹き付ける方法を利用できる。
<工程(II)>
工程(II)は、連続した強化繊維基材(A)にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を複合化する工程である。複合化する方法は、特に制限はないが、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の形態により、以下(1)〜(4)の4つの方法が好ましく例示できる。
(1)粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を気相中で連続した強化繊維基材(A)と複合化する方法である。すなわち、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を気相に散布させ、該気相中に連続した強化繊維基材(A)を通過させるのである。具体的には、流動床などでポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が散布された中に、連続した強化繊維基材(A)を通過させる方法や、連続した強化繊維基材(A)に直接ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を散布する方法や、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を荷電させ、連続した強化繊維基材(A)に静電的に付着させる方法などが挙げられる。
(2)粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を液相中で連続した強化繊維基材(A)と複合化する方法である。すなわち、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を液相に分散または溶解させ、該液相中に連続した強化繊維基材(A)を通過させるのである。なお、ここでの分散とは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が二次凝集して1mm以上の粗大凝集体を形成することなく、後述する各形態での好ましいサイズの範囲内を維持することを意味する。かかるポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を液相に分散または溶解させる方法には、特に制限はなく、撹拌装置を用いる方法、振動装置を用いる方法、超音波発生装置を用いる方法、噴流装置を用いる方法などが例示できる。なお、分散状態もしくは溶解状態を維持する観点で、連続した強化繊維基材(A)を通過させる液相でも、これらの方法を用いることがより好ましい。
ここで用いる液相とは、水もしくは有機溶媒が挙げられるが、経済性、生産性の観点から、純水または工業用水を用いることがより好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の分散を補助する目的で、アニオン性、カチオン性、非イオン性の各種界面活性剤を併用してもよい。界面活性剤の使用量は、特に制限はないが、0.01〜5重量%が好ましい範囲として例示できる。
また、(2)の方法において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のとりわけ好ましい形態は、エマルジョンまたはディスパージョンである。このときの分散性の観点から、平均粒径は0.01〜100μmが好ましく、0.05〜50μmがより好ましく、0.1〜20μmがさらに好ましい。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が粒子状である場合、粒子の加工性と取扱性の観点から、その平均粒径は50〜300μmが好ましく、80〜250μmがより好ましく、100〜200μmがさらに好ましい。また、繊維状である場合、同様に、平均繊維径は0.5〜50μmが好ましく、1〜30μmがより好ましく、5〜20μmがさらに好ましい。平均繊維長は特に制限はないが、1〜10mmが好ましい範囲として例示できる。また、フレーク状である場合、前記粒子状と同様の厚みを有し、厚みの5〜100倍の長さを有することが好ましい。
なお、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置などを用いて測定することができる。平均繊維径、平均繊維長やフレーク状の厚みや長さは光学顕微鏡を用いて容易に測定するこができる。なお、光学顕微鏡を用いて、平均繊維径、平均繊維長やフレーク状の厚みや長さの測定を行うに際し、20〜100倍に拡大し、任意の400点について測定した平均値を求めればよい。
また、液相に有機溶媒を用いる場合、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の加熱による重合の阻害や、生成されるポリアリーレンスルフィド(B’)の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどがあげられる。また、二酸化炭素、窒素、水等の無機化合物を超臨界流体状態として溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
具体的には、水槽中にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のエマルジョンやディスパージョンを供給し、該水槽中に連続した強化繊維基材(A)を通過させる方法や、さらに該水槽中に噴流を用いながら連続した強化繊維基材(A)を通過される方法や、連続した強化繊維基材(A)に直接、環式ポリアリーレンスルフィドのエマルジョンやディスパージョンを噴霧する方法などが挙げられる。
さらに、(2)の方法では、連続した強化繊維基材(A)を通過させた後、用いた水または有機溶媒を除去(脱液)することが、生産上、より好ましい。例えば、エアブロー、熱風乾燥、吸引濾過などの方法が例示できる。このとき、複合体の水または有機溶媒の脱液率は、特に制限はないが、50〜100%が好ましく、70〜100%がより好ましく、90〜100%がさらに好ましい。また、脱液後の液相は、回収循環され、再利用されることが、生産上および環境上、とりわけ好ましい。ここで、脱液率は、脱液操作前後の複合体の質量差から容易に求めることができる。
(3)フィルム状、シート状、不織布状からなる群から選択される少なくとも1種の形態のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を、連続した強化繊維基材(A)に複合化する方法である。ここで、フィルム状とは平均厚みが200μm以下の厚さのものを言い、シート状とは平均厚みが200μmを超えるものを言う。不織布状とは繊維シート状、ウェブ状で、繊維が一方向またはランダムに配向しており、交絡、融着、接着のいずれかによって繊維間が結合されたものを言う。なお、平均厚みは、シートもしくはフィルムを複数枚重ね、任意の10点をノギスで測定し、得られた厚みを重ねた枚数で除することで求めることができる。
具体的には、連続した強化繊維基材(A)をコンベアに移動させ、その片面または両面にフィルム状のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をホットローラーで積層する方法や、不織布状のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をパンチングで固定する方法や、連続した強化繊維基材(A)と不織布状のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をエアジェットで絡合する方法などが例示できる。
また、(3)の方法では、経済性、生産性の観点から、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)がいずれの形態でもロール加工されていることが好ましい。ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が単独でロール加工困難な場合、各形態に加工後に離型紙上に塗布して、ロール加工することが、好ましい方法の1つとして例示できる。
(4)ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を加熱溶融させて連続した強化繊維基材(A)に接するように供給する方法である。ここでの加熱溶融には、押出機、プランジャー、溶融バスなどの装置を用いることができるが、スクリュウ、ギアポンプなどの溶融したポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を移送する機能を具備していることが好ましい。
具体的には、押出機を用いてポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を溶融させつつ、Tダイやスリットダイなどの金型ダイに供給し、該金型ダイ中に連続した強化繊維基材(A)を通過させる方法や、同様にギアポンプにて溶融バスに供給し、該溶融バス内で連続した強化繊維基材(A)をしごきながら通過させる方法や、プランジャーポンプで溶融させたポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をキスコーターに供給し、連続した強化繊維基材(A)にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の溶融物を塗布する方法や、同様に、加熱した回転ロールの上に溶融させたポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を供給し、このロール表面に連続した強化繊維基材(A)を通過させる方法が例示できる。
また、方法(4)において、加熱溶融する温度は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の重合反応をなるべく起こさないように設定するのが好ましい。加熱溶融する際の温度は180〜270℃、好ましくは190〜260℃、より好ましくは200℃〜250℃である。180℃より低い温度で加熱した場合、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が溶融しない、あるいは溶融に長時間を要する傾向があり望ましくない。270℃より高温で加熱した場合は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の重合が急速に進み、ポリアリーレンスルフィド(B’)の生成による粘度上昇が起こる場合がある。
さらに、工程(II)では、連続した強化繊維基材(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)からなる複合体を、好ましくは100〜300℃に、より好ましくは150〜270℃、さらに好ましくは180〜250℃に加熱する工程を含むことが好ましい。この加熱工程により、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が軟化もしくは溶融し、連続した強化繊維基材(A)により強固に定着でき、生産性を高めるのに有利である。また、加熱工程と同時に、または直後に加圧力を付与することで、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が連続した強化繊維基材(A)に含浸する効果が得られ、とりわけ好ましい。このときの加圧力は、生産性の観点から、0.1〜5MPaが好ましく、0.3〜4MPaがより好ましく、0.5〜3MPaがさらに好ましい。
具体的には、加熱したチャンバー内に複数の加圧ローラーを配置し複合体を通過させる方法や、同様にカレンダーロールを上下に配置し複合体を通過させる方法や、ホットローラーを用いて加熱と加圧を同時に行う方法が例示できる。
<工程(III)>
工程(III)は、前記工程(II)で得られた、連続した強化繊維基材(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)からなる複合体を加熱して、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる工程であり、特に、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)存在下で加熱することで重合させ、ポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させることが重要である。
このときの加熱温度は180〜320℃であり、好ましくは190〜300℃であり、より好ましくは200℃〜260℃である。180℃未満では、重合が十分に進行せずに低分子量のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を過剰に含み、成形性に劣る繊維強化成形基材が得られる場合や、重合を完結させるのに過剰な時間がかかり生産性を損なう場合がある。0価遷移金属化合物(C)または低原子価鉄化合物(E)の存在下で加熱することにより、前記温度範囲において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に容易に転化させることができる。
工程(III)での重合が完結するまでの反応時間は、短いほど、工程長を短くすることができたり、または引き取り速度を高めることができたりするなど、生産性、経済性に優れるため好ましい。反応時間としては60分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、3分以下がさらに好ましい。反応時間の下限については、特に制限はなく、0.05分以上が例示できる。
また、工程(III)では、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の重合において、架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制する観点から、非酸化性雰囲気下で加熱することが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気とは酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を含有しない雰囲気、すなわち、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの面から、窒素雰囲気が好ましい。
同様に、工程(III)では、0.1〜50kPaの減圧下で加熱することが好ましい。ここでは、反応系内の雰囲気を一度、非酸化性雰囲気としてから、減圧条件に調整することがより好ましい。ここでの減圧下とは、反応系内が大気圧よりも低いことを指し、より好ましくは0.1〜50kPaであり、0.1〜10kPaがさらに好ましい。
さらに、工程(III)では、加熱させると同時に、または加熱させた後に加圧力を付与することで、連続した強化繊維基材(A)へのポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)およびポリアリーレンスルフィド(B’)の含浸をより高めることができるため好ましい。ここでの加圧力としては、含浸性と生産性のバランスの観点から、0.5〜10MPaが好ましく、1〜8MPaがより好ましく、2〜6MPaがさらに好ましい。
具体的には、窒素置換された系内で、ダブルベルトプレスにより上下から加圧力を付与しながら複合体を通過させる方法や、窒素置換された加熱炉内で、複数配置されたカレンダーロールに複合体を加圧しながら通過させる方法や、複合体を高温のプレス型に配置し、プレス型間を密封して加圧すると同時に型内を窒素置換、そして減圧条件として重合完了後にプレス型間を開放して複合体を引き抜く方法が例示できる。また、これらの装置は、含浸性を向上させる目的で、組み合わせて使用しても良く、長さを稼ぐ目的でライン方向を葛折り状にしても良く、また装置を通過した複合体を折り返して使用し、複数回同じ装置をループさせても良い。
<工程IV>
工程(IV)は該工程(III)で得られた複合体を冷却し、引き取る工程である。冷却する方法は、特に制限はなく、エアを噴射して冷却する方法や、冷却水を噴霧する方法や、冷却バスを通過させる方法や、冷却板の上を通過させる方法などが使用できる。
工程(IV)での引き取り速度は、繊維強化成形基材の製造がオンラインであった場合、工程速度に直接影響するため、経済性、生産性の観点から高いほど好ましい。引き取り速度としては、1〜100m/分が好ましく、5〜100m/分がより好ましく、10〜100m/分がさらに好ましい。
具体的には、ニップローラーで引き出す方法や、ドラムワインダーで巻き取る方法や、固定治具で基材を把持して治具ごと引き取る方法が例示できる。また、引き取る際に、基材をスリッターに通して一部を切断してもよいし、ギロチンカッターなどで所定の長さにシート加工してもよいし、ストランドカッターなどで一定長に切断してもよいし、ロール形状のままとしてもよい。
なお、繊維強化成形基材の製造方法には、その効果を損なわない範囲内で、他の工程を組み合わせることができる。例えば、電子線照射工程、プラズマ処理工程、強磁場付与工程、表皮材積層工程、保護フィルムの貼付工程、アフターキュア工程などが挙げられる。
本発明の製造方法で得られる繊維強化成形基材は、成形性と得られる成形品の力学特性のバランスから、繊維強化成形基材を100質量%とした際の、ポリアリーレンスルフィド(B’)の割合は好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%、さらに好ましくは30〜70質量%、である。10質量%より小さいと、繊維強化成形基材の製造中に強化繊維の毛羽立ちが生じ易くなる場合がある。90質量%より大きいと、得られる成形品において強化繊維による補強効果が十分でない場合がある。
これらの割合は、連続した強化繊維基材(A)と、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の供給量を制御することで容易に実施できる。例えば、連続した強化繊維基材(A)の供給量は、工程(IV)での引き取り速度で調整することができ、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の供給量は、工程(II)で定量フィーダーなどを用いて供給量を調整することができる。
また、本発明の製造方法では、繊維強化成形基材の用法や目的に応じて、含浸率の異なった基材を製造することができる。たとえば、より含浸性を高めたプリプレグや、半含浸でのセミプレグ、含浸性の低いファブリックなどである。一般的に、含浸性の高い基材ほど、短時間成形には有効であるが、曲面形状などへの賦形性が問題となる場合がある。
従って、本発明の製造方法で得られる繊維強化成形基材の、第1の好ましい態様は、ポリアリーレンスルフィド(B’)の含浸率が50%以上、100%以下である成形基材である。これは、より単純な平面形状の成形品を生産性よく製造する観点で優れている。
また、本発明の製造方法で得られる繊維強化成形基材の、第2の好ましい態様は、ポリアリーレンスルフィド(B’)の含浸率が20%以上、50%未満である成形基材である。これは、ある程度の曲面に賦形でき、成形時の生産性の低下を最小限に抑える観点で優れている。
また、本発明の製造方法で得られる繊維強化成形基材の、第3の好ましい態様は、ポリアリーレンスルフィドの含浸率が0%より大きく、20%未満である成形基材である。これは、より複雑な形状の成形品を製造したり、完全な含浸を必要としない成形品を製造する観点で優れている。
なお、ここで言う含浸率とは、繊維強化成形基材の断面を、光学顕微鏡を用いて観察し、含浸しているポリアリーレンスルフィドの面積を、該面積とボイド(空隙)の面積の合計で除した割合(%)で表される。
なお、光学顕微鏡を用いて、それぞれの面積の測定を行うに際し、20〜100倍に拡大し、任意の20個の像について測定した平均値を求めればよい。
含浸率を制御する方法としては、工程(II)でのポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を複合化する際の温度や加圧力、工程(III)でのポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に重合させる際の温度や加圧力などが例示できる。通常、前記温度や加圧力が高いほど、含浸率を高める効果がある。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の形態がより微細化するほど含浸性を高めることができる。
本発明で得られる繊維強化成形基材は、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形、射出成形、トランスファー成形などの生産性に優れた成形方法に適用でき、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂としているため短時間の成形が可能である。また、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形も容易に実施できる。さらに、成形後にも加熱による矯正処置や、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法を活用することもできる。得られる成形品は、ポリアリーレンスルフィド(B’)の特性を反映して、耐熱性、耐薬品性、力学特性、難燃性に優れ、種々の用途に展開できる。
例えば、自動車関連部品、部材および外板、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、パソコン、ディスプレー、携帯電話、携帯情報端末などの電気または電子機器、OA機器の筐体、部材、各種ラケット、ゴルフクラブシャフト、ヨット、ボード、スキー用品、釣り竿などのスポーツ関連部品、部材、ロッド、パネル、フロア、継ぎ手、ヒンジ、ギアなどの工業資材および人工衛星関連部品など幅広い用途に有用である。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
本発明に使用した評価方法を下記する。
(1)重量平均分子量
ポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を算出した。サンプリングは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、後述する参考例で調製したものをそのまま測定に用い、繊維強化成形基材からは、ポリアリーレンスルフィド(B’)を分離するために、ソックスレー抽出器を用い、1−クロロナフタレンを用いて、210℃で6時間還流を行い、抽出したポリアリーレンスルフィド(B’)を測定に供した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100(カラム名:センシュー科学 GPC3506)
溶離液:1−クロロナフタレン、流量:1.0mL/min
カラム温度:210℃、検出器温度:210℃。
(2)ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率
ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
ポリアリーレンスルフィド(B’)10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。得られた溶液を、室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、未反応の環式ポリアリーレンスルフィドを定量し、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)
(3)ポリアリーレンスルフィドの粉末の平均粒径
平均粒径はレーザ回折式粒度分布測定装置 LMS−24(セイシン(株)製)を用いて測定した。
(4)成形基材目付
成形基材から50mm×50mmのシートを切り出し、その重量W(g)を測定した。基材目付は、W×400(g/m)で算出することができる。
(5)繊維強化成形基材の含浸率
本発明での含浸率とは、繊維強化成形基材の連続した強化繊維基材(A)内部へ樹脂が含浸している度合いを表したものである。本発明においては、得られた繊維強化成形基材を切断し、その断面を幅方向に約10mmを光学顕微鏡を用いて観察する。このとき、強化繊維束の断面(円もしくは楕円)と、樹脂部分、および空隙が確認できる。このうち、連続した強化繊維基材(A)の最外層を形成する繊維同士を結んだ領域が連続した強化繊維基材(A)の内部であり、この領域内にある樹脂部分の面積を、該面積と空隙の面積の合計で除して含浸率(%)を求めた。なお、面積の測定は画像ソフトにおいて、樹脂部分と、空隙とをコントラストをつけて二元化し解析した。
(6)繊維強化成形基材を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D−790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点4mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度2.8mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、“インストロン”(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
(7)繊維強化成形基材の生産性の評価
所定の製造方法によって繊維強化成形基材を製造する際において、繊維強化成形基材の生産性の良さを、プロセス速度、プロセス温度、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率などから判定した。判定基準は、以下の4段階で評価し、○以上が合格である。
○○:連続的に供給、工程(III)の温度が320℃以下であり、転化率が70%以上である。
○ :間欠的に供給、工程(III)の温度が320℃以下であり、転化率が70%以上である。
△ :連続的に供給、工程(III)の温度が320℃より大きく、転化率が70%以上である。
× :間欠的に供給、工程(III)の温度が320℃より大きく、転化率が70%未満である。
(8)<X線吸収微細構造(XAFS)の測定
鉄化合物のX線吸収微細構造の測定は下記条件で行った。
実験施設:高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設
分光器:Si(111)2結晶分光器
ミラー:集光ミラー
吸収端:Fe K (7113eV) 吸収端
使用検出器:イオンチャンバー及びライトル検出器。
(参考例1)
<ポリフェニレンスルフィドプレポリマー(B)の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム118kg(1000モル)、96%水酸化ナトリウム42.3kg(1014モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を163kg(1646モル)、酢酸ナトリウム24.6kg(300モル)、およびイオン交換水150kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水211kgおよびNMP4kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン147kg(1004モル)、NMP129kg(1300モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水を18kg(1000モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(Sa)を得た。このスラリー(Sa)を376kgのNMPで希釈しスラリー(Sb)を得た。
80℃に加熱したスラリー(Sb)14.3kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、粗PPS樹脂とスラリー(Sc)を10kg得た。スラリー(Sc)をロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換後、減圧下100〜160℃で1.5時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は3重量%であった。
この固形物にイオン交換水12kg(スラリー(Sc)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水12kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィドプレポリマー100gを得た。ポリフェニレンスルフィドプレポリマーが所定量に達するまで上記操作を繰り返した。
得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーを4g分取してクロロホルム120gで3時間ソックスレー抽出した。得られた抽出液からクロロホルムを留去して得られた固体に再度クロロホルム20gを加え、室温で溶解しスラリー状の混合液を得た。これをメタノール250gに撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を得た。
この白色粉末の重量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はポリフェニレンスルフィドであることが判明した。また、示差走査型熱量計を用いてこの白色粉末の熱的特性を分析した結果(昇温速度40℃/分)、約200〜260℃にブロードな吸熱を示し、ピーク温度は215℃であることがわかった。
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィド及び繰り返し単位数2〜11の直鎖状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと直鎖状ポリフェニレンスルフィドの重量比は9:1であることがわかった。
得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーを凍結粉砕し、メッシュによる機械的分級を行い平均粒径120μmとした。同様に、0価遷移金属化合物(C)の粒子を得て、これらを所定の割合で機械的に混合することで粒子(P)を得た。
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを溶解させ、0価遷移金属化合物(C)を溶解または分散させる所定の溶媒を選択し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーと0価遷移金属化合物(C)とからなる溶液を得た。得られた溶液から溶媒を除去し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーと0価遷移金属化合物(C)からなる粒子(P’)を得た。この粒子(P’)を、界面活性剤を0.03質量%含んだ工業用水に混合し、高圧モホジナイザーにて強制攪拌し、平均粒径8μm、固形分濃度10%のディスパージョン(L)を作製した。
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーおよび0価遷移金属化合物(C)を混合し、さらに180〜270℃で加熱して、溶融物を得た。得られた溶融物を、ナイフコーターを使用して離型紙上に所定の厚みに塗布し、目付25g/mのフィルム(F)を作製した。
(参考例2)
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(71.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.44kg(116モル)、酢酸ナトリウム1.72kg(21.0モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水14.8kg及びNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン10.3kg(70.3モル)、NMP9.00kg(91.0モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水1.26kg(70モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(Sa)を得た。このスラリー(Sa)を20.0kgのNMPで希釈しスラリー(Sb)を得た。
80℃に加熱したスラリー(Sb)10kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(Sc)を約7.5kg得た。
得られたスラリー(Sc)1000gをロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換してから、減圧下100〜150℃で1.5時間処理した後に、真空乾燥機で150℃、1時間処理して固形物を得た。
この固形物にイオン交換水1200g(スラリー(Sc)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。ラジオライト#800S(昭和化学工業株式会社製)3gをイオン交換水10gに分散させた分散液を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過することで、フィルター上にラジオライトを積層し、これを用いてスラリーを固液分離した。得られた褐色のケークにイオン交換水1200gを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィド混合物を14.0g得た。
得られたポリフェニレンスルフィド混合物を10g分取し、溶剤としてクロロホルム240gを用いて、浴温約80℃でソックスレー抽出法により5時間ポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いて約200gのクロロホルムを留去した後、これをメタノール500gに撹拌しながら約10分かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、約15分間攪拌を継続した。沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過して回収し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を3.0g得た。白色粉末の収率は用いたポリフェニレンスルフィド混合物に対して31%であった。
この白色粉末の重量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜12の環式化合物を重量分率で約94%含むことがわかった。
得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーを凍結粉砕し、メッシュによる機械的分級を行い平均粒径120μmとした。同様に、低原子価鉄化合物(E)の粒子を得て、これらを所定の割合で機械的に混合することで粒子(P”)を得た。
(実施例1)
図1に示す装置を用いて、本発明の繊維強化成形基材の製造方法を説明する。なお、この実施例1の製造方法で用いる装置構成を(i)とする。
工程(I):炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−12K(東レ(株)製)を強化繊維束の間隔が1〜5mmとなるように、幅100mmの間に複数本引き揃え、製造ラインに供した。ロールバー1に強化繊維束をかけてシート状にそろえ、さらに含浸バス2にフィードし、該含浸バス中の回転ローラー3を通過させ、次に、熱風乾燥炉4を通し、さらにダブルベルトプレス5に配置して、ニップローラー6で張力をかけて引き取った。ここでの引き取り速度を3m/分に設定して、工程が安定した後、予熱用の赤外線ヒーター7で強化繊維束を150℃に加熱した。
工程(II):参考例1で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマーと0価遷移金属化合物(C)からなるディスパージョン(L)をポンプ8にて含浸バスに供給し、回転ローラーを完全にディスパージョン中に浸漬することで、強化繊維束にポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付与した。このときの、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの付着量を、繊維重量含率(Wf)が67%となるように、強化繊維束を浸漬する長さを調整した。熱風乾燥炉を140℃に調整して、強化繊維束から水分の90%以上を除去した。ここで0価遷移金属化合物(C)には、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを選択し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%となるように調整した。
工程(III):ダブルベルトプレスを囲うチャンバー9の吸気口10から窒素パージを行い、チャンバー中の酸素濃度を1体積%以下に調整した。ライン方向に30mの長さに配置されたダブルベルトプレスを、温度260℃、圧力5MPaの条件にて、複合体を加熱プレスしながら通過させて、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを重合させた。
工程(IV):温度50℃の冷却板11の上で、ポリフェニレンスルフィドを固化させ、ニップロールで引き取った後、ギロチンカッター12で長さ1m毎にカットして、幅100mmのシート状の繊維強化成形基材とした。上記、工程は全てオンラインで実施し、連続的に繊維強化成形基材を製造でした。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は85%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。
得られた繊維強化成形基材からマトリックス樹脂を抽出し、重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)およびポリフェニレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定した。
得られた繊維強化成形基材から所定サイズを複数枚切り出し、繊維方向を揃えて積層し、プレス成形機を用いて、350℃、3MPaで3分間加熱加圧した後、冷却用のプレス機にて5分間冷却し積層板を得た。積層板から曲げ試験片を切り出し、0度方向の曲げ試験を行った。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(実施例2)
0価遷移金属化合物(C)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は84%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例1と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例1と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
(比較例1)
0価遷移金属化合物(C)を含まず、工程(III)におけるダブルベルトプレス機の温度を400℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は85%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例1と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例1と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
Figure 0005644783
表1の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例1、および2の本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、0価の遷移金属触媒(C)を含むため、比較例1の繊維強化成形基材の製造方法に比べて低温の製造プロセスで、同等のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が達成可能であることがわかる。
(実施例3)
図2に示す装置を用いて、本発明の繊維強化成形基材の製造方法を説明する。なお、この実施例3の製造方法で用いる装置構成を(ii)とする。
工程(I):炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−12K(東レ(株)製)を強化繊維束の間隔が1〜5mmとなるように、幅100mmの間に複数本引き揃え、製造ラインに供した。ロールバー21に強化繊維束をかけてシート状にそろえ、さらにベルトコンベア22にフィードし、さらに上下が対になった含浸ローラー23に挟み込み、ニップローラー24で張力をかけてドラムワインダー25で引き取った。ここでの引き取り速度を10m/分に設定して、工程が安定した後、予熱用の赤外線ヒーター26で強化繊維束を150℃に加熱した。
工程(II):参考例1で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマーと0価遷移金属化合物(C)からなるフィルム(F)を引き出しワインダー27にて離型紙とともに、250℃に加熱されたホットローラー28に供給し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーが強化繊維束に積層されるように配置し、巻き取りワインダー29にて離型紙を除去した。このとき、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの付着量を測定した結果、繊維重量含率(Wf)が67%となった。ここで0価遷移金属化合物(C)には、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを選択し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%となるように調整した。
工程(III):ライン方向に100mの長さを持つ加熱チャンバー30の吸気口31から窒素パージを行い、加熱チャンバー中の酸素濃度を1体積%以下に調整した。加熱チャンバーの温度300℃とし、含浸ローラーを圧力1MPaの条件にて通過させて、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを重合させた。
工程(IV):温度50℃の冷却板32の上で、ポリフェニレンスルフィドを固化させ、ニップロールで引き取った後、ドラムワインダーに巻き取って、幅100mmの繊維強化成形基材とした。
上記、工程は全てオンラインで実施し、連続的に繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は44%、基材目付は75g/mで、繊維方向にも柔軟性を有する一方向繊維基材であった。
得られた繊維強化成形基材からマトリックス樹脂を抽出し、重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)およびポリフェニレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定した。
得られた繊維強化成形基材から所定サイズを複数枚切り出し、繊維方向を揃えて積層し、プレス成形機を用いて、350℃、3MPaで3分間加熱加圧した後、冷却用のプレス機にて5分間冷却し積層板を得た。積層板から曲げ試験片を切り出し、0度方向の曲げ試験を行った。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
(実施例4)
0価遷移金属化合物(C)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるように変更した以外は、実施例3と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は43%、基材目付は75g/mで、繊維方向にも柔軟性を有する一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例3と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例3と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
(比較例2)
0価遷移金属化合物(C)を含まず、さらに工程(III)において、加熱チャンバー30の温度を400℃に変更した以外は、実施例3と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は45%、基材目付は74g/mで、繊維方向にも柔軟性を有する一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例3と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例3と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
Figure 0005644783
表2の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例3、および4の本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、0価の遷移金属触媒(C)を含むため、比較例2の繊維強化成形基材の製造方法に比べ低温の製造プロセスで、同等のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が達成可能であることがわかる。
(実施例5)
図3に示す装置を用いて、繊維強化成形基材の製造方法を説明する。なお、この実施例5の製造方法で用いる装置構成を(iii)とする。
工程(I):炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−12K(東レ(株)製)を強化繊維束の間隔が1〜5mmとなるように、幅100mmの間に複数本引き揃え、製造ラインに供した。ロールバー41に強化繊維束をかけてシート状にそろえ、さらにカレンダーロール42にフィードし、ニップローラー43で張力をかけてドラムワインダー44で引き取った。ここでの引き取り速度を5m/分に設定して、工程が安定した後、予熱用の赤外線ヒーター45で強化繊維束を150℃に加熱した。
工程(II):参考例1で調製した、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーと0価遷移金属化合物(C)からなる粒子(P)を定量粉体供給機46から、繊維重量含率(Wf)が67%となるよう、強化繊維束の上から散布して付着させた。ここで0価遷移金属化合物(C)には、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを選択し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%となるように調整した。
工程(III):ライン方向に50mの長さを持つ加熱チャンバー47の吸気口48から窒素パージを行い、加熱チャンバー中の酸素濃度を1体積%以下に調整した。加熱チャンバーの温度を260℃とし、温度260℃のカレンダーローラー42に張力をかけて通過させて、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを重合させた。
工程(IV):温度50℃の冷却板49の上で、ポリフェニレンスルフィドを固化させ、ニップロールで引き取った後、ドラムワインダーに巻き取って、幅100mmの繊維強化成形基材とした。
上記、工程は全てオンラインで実施し、連続的に繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は75%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。
得られた繊維強化成形基材からマトリックス樹脂を抽出し、重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)およびポリフェニレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定した。
得られた繊維強化成形基材から所定サイズを複数枚切り出し、繊維方向を揃えて積層し、プレス成形機を用いて、350℃、3MPaで3分間加熱加圧した後、冷却用のプレス機にて5分間冷却し積層板を得た。積層板から曲げ試験片を切り出し、0度方向の曲げ試験を行った。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(実施例6)
0価遷移金属化合物(C)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるように変更した以外は、実施例5と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。得られた繊維強化成形基材の含浸率は75%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材から、実施例5と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例5と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(実施例7)
0価遷移金属化合物(C)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムを用いるように変更した以外は、実施例5と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は74%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例5と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例5と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(比較例3)
0価遷移金属化合物(C)を含まず、さらに工程(III)において、加熱チャンバー47およびカレンダーローラー42の温度を400℃となるように変更した以外は、実施例5と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は75%、基材目付は74g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例5と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例5と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(実施例8)
0価遷移金属化合物(C)として用いるテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムの添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるように変更し、さらに工程(III)において、加熱チャンバー47およびカレンダーローラー42の温度を300℃とし、加熱チャンバー47での加熱時間が60分となるように間欠的に運転するように変更した以外は、実施例5と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は75%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。
得られた繊維強化成形基材からマトリックス樹脂を抽出し、重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)およびポリフェニレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定した。
得られた繊維強化成形基材から所定サイズを複数枚切り出し、繊維方向を揃えて積層し、プレス成形機を用いて、350℃、3MPaで3分間加熱加圧した後、冷却用のプレス機にて5分間冷却し積層板を得た。積層板から曲げ試験片を切り出し、0度方向の曲げ試験を行った。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(実施例9)
0価遷移金属化合物(C)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを用いるように変更した以外は、実施例8と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は74%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例8と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例8と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(実施例10)
0価遷移金属化合物(C)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルを用いるように変更した以外は、実施例8と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は74%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例8と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例8と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(比較例4)
0価遷移金属化合物(C)を含まない以外は、実施例8と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は74%、基材目付は74g/mで、剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例8と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例8と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(比較例5)
0価遷移金属化合物(C)を含まず、さらに工程(III)において、加熱チャンバー47およびカレンダーローラー42の温度を340℃となるように変更した以外は、実施例8と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は76%、基材目付は74g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。
得られた繊維強化成形基材から、実施例8と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例8と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(比較例6)
0価遷移金属化合物(C)の代わりに、ジフェニルスルフィドを用いるように変更した以外は、実施例8と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は74%で、剛性の強い一方向繊維基材であった。
得られた繊維強化成形基材から、実施例8と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例8と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
(比較例7)
0価遷移金属化合物(C)の代わりに、チオフェノールナトリウム塩を用いるように変更した以外は、実施例8と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は73%で、剛性の強い一方向繊維基材であった。
得られた繊維強化成形基材から、実施例8と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例8と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
Figure 0005644783
表3の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例5〜7の本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、0価の遷移金属触媒(C)を含むため、比較例3の繊維強化成形基材の製造方法に比べ低温の製造プロセスで、高いポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が達成可能であることがわかる。
また、実施例5〜7の繊維強化成形基材の製造方法は、連続的に生産することが可能であるため、間欠的に生産する実施例8〜10の製造方法や比較例4〜7の製造方法に比べ、生産性、コスト面で優れていることがわかる。
実施例8〜10の本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、0価の遷移金属触媒(C)を含むため、比較例4の製造方法に比べ、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が高く、生産性に優れ、かつ得られた成形材料の特性に優れることがわかる。
実施例5〜10の本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、0価の遷移金属触媒(C)を含むため、比較例5の製造方法に比べて低温のプロセス温度で、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が高い繊維強化成形基材が得られるため、コスト面、環境面で優れた繊維強化成形基材の製造方法であることがわかる。
実施例5〜10の本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、0価の遷移金属触媒(C)を含むため、0価の遷移金属触媒(C)以外の重合触媒を含む比較例6、および7の製造方法に比べ、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が高く、生産性に優れ、かつ成形材料の特性に優れることがわかる。
(実施例11)
図3に示す装置を用いて、本発明の繊維強化成形基材の製造方法を説明する。なお、この実施例11の製造方法で用いる装置構成を(iii)とする。
工程(I):炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−12K(東レ(株)製)を強化繊維束の間隔が1〜5mmとなるように、幅100mmの間に複数本引き揃え、製造ラインに供した。ロールバー41に強化繊維束をかけてシート状にそろえ、さらにカレンダーロール42にフィードし、ニップローラー43で張力をかけてドラムワインダー44で引き取った。ここでの引き取り速度を5m/分に設定して、工程が安定した後、予熱用の赤外線ヒーター45で強化繊維束を150℃に加熱した。
工程(II):参考例2で調製した、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーと低原子価鉄化合物(E)からなる粒子(P”)を定量粉体供給機46から、繊維重量含率(Wf)が67%となるよう、強化繊維束の上から散布して付着させた。ここで低原子価鉄化合物源には、塩化鉄(III)を選択し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるように調整した。
工程(III):ライン方向に50mの長さを持つ加熱チャンバー47の吸気口48から窒素パージを行い、加熱チャンバー中の酸素濃度を1体積%以下に調整した。加熱チャンバーの温度を300℃とし、温度300℃のカレンダーローラー42に張力をかけて通過させ、さらに、加熱チャンバー47での加熱時間が60分となるように間欠的に運転することでポリフェニレンスルフィドプレポリマーを重合させた。
工程(IV):温度50℃の冷却板49の上で、ポリフェニレンスルフィドを固化させ、ニップロールで引き取った後、ドラムワインダーに巻き取って、幅100mmの繊維強化成形基材とした。
上記、工程は全てオンラインで実施し、連続的に繊維強化成形基材を製造した。本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は75%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。
前記工程(III)において、加熱チャンバー内のガス成分を検知管で調べた結果、塩素成分が確認された。
得られた繊維強化成形基材からマトリックス樹脂を抽出し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定した。
また、得られた繊維強化成形基材を250℃の1−クロロナフタレンに溶解させたところ、不溶部として炭素繊維と鉄化合物が得られた。この不溶部から鉄化合物を単離し、XAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、塩化鉄(II)と同様の位置にメインピークが認められたが、形状は異なっており、動径分布関数では0.16nm付近に塩化鉄(III)、塩化鉄(II)四水和物と同様の特徴と考えられるメインピーク、0.21nm付近に塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物と同様の特徴と考えられるサブピークが認められ、III価の鉄化合物とともにII価の鉄化合物である塩化鉄(II)成分が存在することが確認された。
得られた繊維強化成形基材から所定サイズを複数枚切り出し、繊維方向を揃えて積層し、プレス成形機を用いて、350℃、3MPaで3分間加熱加圧した後、冷却用のプレス機にて5分間冷却し積層板を得た。積層板から曲げ試験片を切り出し、0度方向の曲げ試験を行った。各プロセス条件および評価結果を表4に記載した。
(比較例8)
低原子価鉄化合物(E)の代わりに酸化鉄(III)を用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%となるように変更した以外は、実施例11と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は75%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例11と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定した。
また、XAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、酸化鉄(III)と同様のスペクトル形状を有しており、動径分布関数では0.15nm付近及び0.26nm付近に酸化鉄(III)と同様のFe−O結合やFe−Fe結合などに起因するものと考えられるピークが認められ、酸化鉄(III)が主成分であることがわかった。
また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例11と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表4に記載した。
(比較例9)
低原子価鉄化合物(E)を含まない以外は、実施例37と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は74%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例11と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例11と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表4に記載した。
(比較例10)
低原子価鉄化合物(E)の代わりにチオフェノールナトリウム塩を用いた以外は、実施例11と同様の方法で、繊維強化成形基材を製造した。この繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材の含浸率は74%、基材目付は75g/mで、極めて剛性の強い一方向繊維基材であった。得られた繊維強化成形基材から、実施例37と同様にポリフェニレンスルフィドを抽出し、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの転化率を測定した。また、得られた繊維強化成形基材を用いて、実施例37と同様にプレス成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表4に記載した。
Figure 0005644783
表4の実施例および比較例より以下のことが明らかである。
実施例11の本発明の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材は、低原子価鉄化合物(E)を含むため、比較例8〜10の繊維強化成形基材の製造方法により得られた繊維強化成形基材に比べ、繊維強化成形基材の製造プロセスにおける、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率が高いことがわかる。さらに、実施例11は繊維強化成形基材の製造プロセスにおける、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率が高いため、得られる成形品の力学特性が優れることがわかる。
本発明の製造方法は、連続した強化繊維基材とポリアリーレンスルフィドを容易に複合化させることができるため、経済性、生産性を高めることができ、プリプレグ、セミプレグ、ファブリックなどの繊維強化成形基材の製造に有用である。
1,21,41:ロールバー
2:含浸バス
3:回転ローラー
4:熱風乾燥炉
5:ダブルベルトプレス
6,24,43:ニップローラー
7,26,45:赤外線ヒーター
8:ポンプ
9:チャンバー
10,31,48:吸気口
11,32,49:冷却板
12:ギロチンカッター
13,33,50:強化繊維束
14,34,51:繊維強化成形基材
22:ベルトコンベア
23:含浸ローラー
25,44:ドラムワインダー
27:引き出しワインダー
28:ホットローラー
29:巻き取りワインダー
30,47:加熱チャンバー
42:カレンダーロール
46:定量粉体供給機

Claims (23)

  1. 連続した強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する工程(I)、該成分(A)にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を複合化する工程(II)、該工程(II)で得られた複合体を加熱して、該成分(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる工程(III)、および該工程(III)で得られた複合体を冷却して引き取る工程(IV)、を有してなる繊維強化成形基材の製造方法であって、該工程(III)において、該成分(B)を0価遷移金属化合物(C)の存在下で加熱することで重合させて該成分(B’)に転化させる繊維強化成形基材の製造方法。
  2. 前記成分(C)が、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属を含む化合物である、請求項1に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  3. 前記成分(C)が、パラジウムまたはニッケルを含む化合物である、請求項1または2のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  4. 連続した強化繊維基材(A)を引き出し、連続的に供給する工程(I)、該成分(A)にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を複合化する工程(II)、該工程(II)で得られた複合体を加熱して、該成分(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる工程(III)、および該工程(III)で得られた複合体を冷却して引き取る工程(IV)、を有してなる繊維強化成形基材の製造方法であって、該工程(III)において、該成分(B)を低原子価鉄化合物(E)の存在下で加熱することで重合させて該成分(B’)に転化させる繊維強化成形基材の製造方法。
  5. 前記成分(E)が、II価の鉄化合物である、請求項4に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  6. 前記成分(B)に、前記成分(B)中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の前記成分(C)または前記成分(E)を添加する、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  7. 前記成分(B)が、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含むポリアリーレンスルフィドプレポリマーである、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  8. 前記工程(III)において、前記成分(B)の前記成分(B’)への転化率が70%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  9. 前記成分(B)の重量平均分子量が10,000未満であり、かつ前記成分(B’)の重量平均分子量が10,000以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  10. 前記工程(I)〜(IV)をオンラインで行う、請求項1〜9のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  11. 前記工程(I)において、前記成分(A)を50〜500℃に加熱する工程を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  12. 前記工程(II)において、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を気相中で前記成分(A)と複合化する、請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  13. 前記工程(II)において、粒子状、繊維状、フレーク状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を液相中で前記成分(A)と複合化する、請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  14. 前記工程(II)において、フィルム状、シート状、不織布状からなる群から選択される少なくとも1種の形態の前記成分(B)を、前記成分(A)と複合化する、請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  15. 前記工程(II)において、180〜270℃の温度で溶融させた前記成分(B)を、前記成分(A)と複合化する、請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  16. 前記工程(III)において、180〜320℃の温度で前記成分(B)を重合させる、請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  17. 前記工程(III)において、前記成分(B)の重合を非酸化性雰囲気下で行う、請求項1〜16のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  18. 前記工程(III)において、前記成分(B)の重合を0.1〜50kPaの減圧下で行う、請求項1〜17のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  19. 前記工程(II)において、前記成分(B)の含浸率が50%以上、100%以下である、請求項1〜18のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  20. 繊維強化成形基材を100質量%とした際の、前記成分(B’)の割合が10〜90質量%である、請求項1〜19のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  21. 前記成分(A)が、連続した強化繊維を収束してなる強化繊維束である、請求項1〜20のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  22. 前記成分(A)が、連続した強化繊維を一方向に配列させた基材、織物、不織布、マットからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜20のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
  23. 前記成分(A)において、前記強化繊維がPAN系炭素繊維である、請求項1〜22のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
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