JP2019035028A - ポリアリーレンスルフィドの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に際し、高温を要し、高重合度化、結晶性が十分ではない課題を解決し、低いプロセス温度で、結晶化度の高いポリアリーレンスルフィドを製造する方法を提供することを課題とするものである。
【解決手段】環式ポリアリーレンスルフィドを遷移金属化合物存在下で、ポリアリーレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度で加熱することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明はポリアリーレンスルフィドの製造方法に関するものである。より詳しくは、環式ポリアリーレンスルフィドを遷移金属化合物存在下で加熱することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法に関するものである。
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略する場合もある)に代表されるポリアリーレンスルフィドは優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂である。さらに、射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維などに成形可能であり、各種電気・電子部品、機械部品及び自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
このポリアリーレンスルフィドの具体的な製造方法として、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法が提案されている。この方法はポリアリーレンスルフィドの工業的な製造方法として幅広く利用されている(例えば特許文献1)。しかしながら、この製造方法は高温、高圧、かつ強アルカリ条件下で反応を行うことが必要であり、さらに、N−メチル−2−ピロリドンのような高価な高沸点極性溶媒を必要とし、溶媒回収に多大なコストがかかるエネルギー多消費型で、多大なプロセスコストを必要とするといった課題を有している。
上記のごときポリアリーレンスルフィドの製造方法の課題を解決するポリアリーレンスルフィドの別の製造方法として、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱することによるポリアリーレンスルフィドの製造方法が開示されている(例えば特許文献2)。
さらに、モノマー源として環式ポリフェニレンスルフィドと線状ポリフェニレンスルフィドの混合物を加熱するポリフェニレンスルフィドの重合方法も知られている(非特許文献1)。
また、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に際し、転化を促進する方法として、各種触媒成分(ラジカル発生能を有する化合物、イオン性化合物、有機カルボン酸など)を使用する方法が知られている。
特許文献3、非特許文献2には、ラジカル発生能を有する化合物として、例えば加熱により硫黄ラジカルを発生する化合物が開示されており、具体的にはジスルフィド結合を含有する化合物が開示されている。
特許文献4及び5には、アニオン重合において開環重合触媒になり得るイオン性化合物が開示されており、具体的には例えばチオフェノールのナトリウム塩のような硫黄のアルカリ金属塩を用いる方法が開示されている。
特許文献4には、カチオン重合において開環重合触媒となり得るイオン性化合物として、塩化鉄(III)などのルイス酸、プロトン酸、トリアルキルオキソニウム塩、カルボニウム塩、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、アルキル化剤またはシリル化剤などを用いる方法も挙げられている。
特許文献6には、アニオン重合において開環重合触媒となり得るイオン性化合物とルイス酸を共存させる方法が開示されており、具体的にはチオフェノールのナトリウム塩と塩化銅(II)を共存させる方法が開示されている。
環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に際し、転化を促進する触媒として遷移金属化合物(0価遷移金属化合物、低原子価鉄化合物、ニッケル化合物)を使用する方法も報告されている(例えば特許文献7〜11)。
特許文献7および8には、0価遷移金属化合物として、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルなどを用いる方法が開示されている。
特許文献9には、低原子価鉄化合物として、具体的には塩化鉄などを用いる方法が開示されている。
特許文献10、11および12には、ニッケル化合物として、例えば、カルボン酸ニッケル、カルボン酸ニッケルアミン錯体、ニッケルアセチルアセトナートなどを用いる方法が開示されている。
また、特許文献13には、開始剤としてカルボアニオンを用いる方法が開示されており、具体的には例えば4−クロロフェニル酢酸ナトリウム塩、4−クロロフェニル酢酸を用いる方法が開示されている。
特公昭52−12240号公報 国際公開第2007/034800号 米国特許第5869599号明細書 特開平5−163349号公報 特開平5−301962号公報 特開平5−105757号公報 国際公開第2011/013686号 特開2014−159544号公報 特開2012−92315号公報 国際公開第2014/208418号 特開2015−28142号公報 特開2016−222909号公報 特開2011−173953号公報
ポリマー(Polymer), vol.37, no.14,1996年(第3111〜3116ページ) マクロモレキュールズ(Macromolecules), 30巻, 1997年(第4502〜4503ページ)
特許文献2において提案されている方法では、高分子量で、狭い分子量分布を有し、加熱した際の重量減少が少ないポリアリーレンスルフィドを得ることが期待できるが、環式ポリアリーレンスルフィドの反応が完結するには反応に高温を要するため、より低温でのポリアリーレンスルフィドの製造方法が望まれる。
非特許文献1において提案されている方法は、ポリフェニレンスルフィドの安易な重合法であるが、得られるポリフェニレンスルフィドの重合度は低く実用に適さないポリフェニレンスルフィドである。該文献では加熱温度を高くすることで重合度の向上が見られることが開示されているが、それでもなお実用に適した分子量には到達しておらず、また、この場合は架橋構造の生成が回避できず、熱的特性の劣るポリフェニレンスルフィドしか得られず、より実用に適した品質の高いポリフェニレンスルフィドの重合方法が望まれる。
また、特許文献3、非特許文献2、特許文献4及び特許文献5において提案されている方法を用いても、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の促進効果としては不十分で、環式ポリアリーレンスルフィドの反応が完結するには高温、長時間を有するという課題がある。
また、特許文献4には、カチオン重合において開環重合触媒となり得るイオン性化合物として、塩化鉄(III)などのルイス酸、プロトン酸、トリアルキルオキソニウム塩、カルボニウム塩、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、アルキル化剤またはシリル化剤などを用いて反応する方法も挙げられているが、これら開環重合触媒の効果に関する具体的な開示はなく、効果は明らかでない。さらに、例えば塩化鉄(III)を開環重合触媒として用いた際の、開環重合触媒の作用機構についても明らかでなく、環式ポリアリーレンスルフィドへの触媒の添加方法、重合条件に関する具体的な開示もない。
また、特許文献6において提案されている方法を用いても、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の促進効果としては不十分で、環式ポリアリーレンスルフィドの反応が完結するには高温、長時間を有するという課題がある。
また、特許文献7及び8には、特許文献7および8に記載の方法を用いた場合、低温、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られることが記載されているが、ポリアリーレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度でのポリアリーレンスルフィドの製造方法およびポリアリーレンスルフィドの結晶化度については具体的な開示はなされていない。
また、特許文献9に記載の方法を用いた場合も、低温、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるが、さらに高重合度のポリアリーレンスルフィドの製造方法が望まれる。
特許文献10及び11には、安定性の高い触媒を用いて、低温、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるが、ポリアリーレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度でのポリアリーレンスルフィドの製造方法およびポリアリーレンスルフィドの結晶化度については具体的な開示はなされていない。
特許文献12に記載の方法を用いた場合も、低温、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるが、ポリアリーレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度でのポリアリーレンスルフィドの製造方法およびポリアリーレンスルフィドの結晶化度については何ら記載がない。
このように、従来の技術による環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化においては触媒の促進効果、ポリアリーレンスルフィドの高重合度化が十分ではなく、低いプロセス温度で高重合度のポリアリーレンスルフィドを製造する方法が望まれる。
上記の背景技術における、低いプロセス温度での環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化する場合、ポリアリーレンスルフィドの高重合度化が十分ではでないものが多いという課題を、本発明は解決するものである。さらに、本発明は、結晶化度の高いポリアリーレンスルフィドが低いプロセス温度で得られる製造方法を提供することを課題とするものである。
本発明はポリアリーレンスルフィドの製造方法に関するものである。より詳しくは、環式ポリアリーレンスルフィドを遷移金属化合物存在下で加熱することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法に関するものである。
1.環式ポリアリーレンスルフィドを遷移金属化合物存在下で加熱するポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、下記一般式(A)で示される環式化合物を50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィドを用いて、得られるポリアリーレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度で加熱して、下記一般式(A)で示される環式化合物の含有率が50重量%未満のポリアリーレンスルフィドを得る、ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(Arはアリーレン基、qは4〜50の整数であり、異なるqを有する混合物である)
2.遷移金属化合物の金属種が周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属の中から選ばれる少なくとも1つ以上の金属であることを特徴とする、1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
3.遷移金属化合物が(i)および(ii)から選ばれる少なくとも1種のニッケル化合物であることを特徴とする、1〜2のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(i)一般式(B)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物
(ここで、Rは水素、炭素数6〜24のアリール基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、および式(C)で表される構造(置換基)から選ばれる置換基を表し、各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよく、式(C)中のkは0〜6の整数を表し、mは0または1の整数を表し、nは0〜6の整数を表す。)
(ii)一般式(D)で示されるニッケル化合物
(ここで、mは0〜10の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基、ハロゲン基から選ばれる置換基を表し、アルキル基、アルコキシ基、アリール基の水素原子はハロゲン原子基で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
4.前記一般式(B)における、Rが水素または式(C)で表される構造中のmが0である構造であることを特徴とする、3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
5.前記一般式(B)におけるRが水素または式(C)で表される構造中のkおよびnが0である構造であることを特徴とする、3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
6.前記一般式(B)で表されるカルボン酸ニッケル化合物がギ酸ニッケルであることを特徴とする、3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
7.前記一般式(D)における、RおよびRが炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基から選ばれる同一または異なる置換基であることを特徴とする、3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
8.前記一般式(D)における、RおよびRがメチル基であることを特徴とする、3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
9.前記一般式(D)における、mが0であることを特徴とする、3、7または8に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
10.繊維状物質の共存下で行うことを特徴とする、1〜9のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
本発明によれば、従来法と比較して低いプロセス温度で、結晶化度の高いポリアリーレンスルフィドを製造する方法を提供できる。
以下に、本発明実施の形態を説明する。
<ポリアリーレンスルフィド>
本発明におけるポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80mol%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(E)〜式(O)などで表される単位などがあるが、なかでも式(E)が特に好ましい。
(R、Rは水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、RとRは同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(P)〜(R)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1molに対して0〜1mol%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80mol%以上、特に90mol%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明のポリアリーレンスルフィドの好ましい分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは20,000以上、より好ましくは40,000以上、さらに好ましくは50,000以上である。ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量が10,000以上では加工時の成形性が良好で、また成形品の機械強度や耐薬品性などの特性が高くなる。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、さらに好ましくは200,000未満であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、分子量分布の広がり、即ち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度が狭い特長を有する傾向にある。本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドの分散度は2.5以下が好ましく、2.3以下がより好ましく、2.1以下がさらに好ましい。分散度が2.5以下ではポリアリーレンスルフィドに含まれる低分子量体成分の量が少なくなる傾向が強く、このことはポリアリーレンスルフィドを成形加工用途に用いた場合の機械特性向上、加熱した際のガス発生量の低減及び溶剤と接した際の溶出成分量の低減などの効果を奏する。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
本発明のポリアリーレンスルフィドのガス発生量は、一般的な熱重量分析によって求められる、下記式で表される、加熱した際の重量減少率ΔWrから評価できる。
ΔWr=(W1−W2)/W1×100(%)
なお、ΔWrは常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
この熱重量分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中のポリアリーレンスルフィドの酸化などが起こり、実際にポリアリーレンスルフィドの成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、ポリアリーレンスルフィドの実使用に即した測定になり得ない可能性が生じる。
また、ΔWrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。好ましくは50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態のポリアリーレンスルフィドを溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィドからのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。従って、このような温度範囲における重量減少率が少ないポリアリーレンスルフィドの方が品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。ΔWrの測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドは、従来法と異なり、製造時にN−メチル−2−ピロリドンのような溶媒や公知のラジカル発生能を有する化合物やイオン性化合物などの触媒の使用が必須ではないことなどから、加熱加工時のガス発生量が少ない傾向があり、上記にて加熱した際の重量減少率ΔWrは使用する遷移金属化合物の濃度ならびに遷移金属化合物の種類により異なるが、0.25%以下であることが好ましく、0.16%以下がより好ましく、0.13%以下がさらに好ましく、0.10%以下がよりいっそう好ましい。
ΔWrが前記範囲内の場合は、例えばポリアリーレンスルフィドを成形加工する際に発生ガス量が少なくなる傾向があり、押出成形時の口金やダイスおよび射出成形時の金型への付着物を低減する傾向となり、成型加工性が高くなるため望ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物の含有率はを50重量%未満であり、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。50重量%未満では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。50重量%以上である場合は成形品の機械強度や耐薬品性などの特性が低くなる傾向がある。
本発明の製法における、前記(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化率は70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。転化率が70%以上では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
前記(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化率は、加熱前の原料に含まれる前記(A)式の環式化合物の含有率、および、加熱後に得られた生成物に含まれる前記(A)式の環式化合物の含有率を、HPLCを用いて定量し、その値から算出することができる。具体的には、
転化率(%)=(加熱前の原料に含まれる前記(A)式の環式化合物の含有率(%)−加熱後に得られた生成物に含まれる前記(A)式の環式化合物の含有率(%))/加熱前の原料に含まれる前記(A)式の環式化合物の含有率(%)×100
のように算出することができる。
本発明のポリアリーレンスルフィドの好ましい融点は、260℃以上300℃以下の範囲が好ましく、270℃以上290℃以下の範囲であることがより好ましい。得られるポリアリーレンスルフィドの融点が上記好ましい範囲にあるとき、高い耐熱性や、成形加工品の機械特性や耐薬品性が得られ易い。なお、本発明における融点とは特に断りがない限り、窒素雰囲気下で、ティー・エイ・インスツルメント社製TAインスツルメントQ20を用い、得られたポリマーの熱的特性を測定した値である。
本発明により得られるポリアリーレンスルフィドの結晶化度は、40〜80%の範囲が好ましく、40%〜60%の範囲がより好ましい。得られるポリアリーレンスルフィドの結晶化度が上記好ましい範囲にあるとき、従来のポリアリーレンスルフィドに比べて、高い耐熱性や、成形加工品の機械特性や耐薬品性が得られ易く、各種熱器具、電気・電子機械部品、自動車部品等の広い分野で使用できるものであり、特に耐熱性および剛性の要求される切削加工用材料、熱器具用外装部品、耐熱性包装容器等に適したポリアリーレンスルフィドである傾向がある。なお、本発明における結晶化度とは特に断りがない限り、ティー・エイ・インスツルメント社製TAインスツルメントQ20を用い、重合物のFirst Runの吸熱ピークの面積から算出した融解熱と、理論的に100%ポリアリーレンスルフィドが結晶化したとした融解熱146.2J/g(Polymer Engineering&Science、29巻、140頁(1989年)を用いて、下記式により算出した。
結晶化度(%)={生成物の融解熱(J/g)}/{146.2(J/g)}×100
<環式ポリアリーレンスルフィド>
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法における環式ポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を80mol%以上含有する下記一般式(A)の環式化合物を、少なくとも50重量%以上含むものであり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含むものが好ましい。Arとしては前記式(E)〜式(O)などで表される単位などがあるが、なかでも式(E)が特に好ましい。
(Arはアリーレン基、qは4〜50の整数であり、異なるqを有する混合物である)
なお、環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物においては前記式(E)〜式(O)などの繰り返し単位をランダムに含んでもよいし、ブロックで含んでもよく、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい前記(A)式の環式化合物としては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80mol%以上、特に90mol%以上含有する環式化合物が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(A)式の環式化合物中の繰り返し数qは4〜50の範囲が好ましい。ここで、qの下限値は4以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、7以上がよりいっそう好ましく、8以上がさらにいっそう好ましい。qが小さい環式化合物は反応性が低い傾向があるため、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるようになるとの観点ではqを前記範囲にすることが好ましい。一方、qの上限値は50以下が好ましく、25以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。後述するように環式ポリアリーレンスルフィドの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの転化は環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度以上で行うことが好ましいが、qが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度が高くなる傾向にある。そのため、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うためには、qを前記範囲にすることが好ましい。
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(A)式の環式化合物は、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも融解する温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の使用はポリアリーレンスルフィドへの転化を行う際の加熱温度をより低くできるため好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(A)式の環式化合物以外の成分はポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここでポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80mol%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記した式(E)〜式(O)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(E)が特に好ましい。ポリアリーレンスルフィドオリゴマーはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記した式(P)〜式(R)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1molに対して0〜1mol%の範囲であることが好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80mol%以上、特に90mol%以上含有するポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの分子量としては、ポリアリーレンスルフィドよりも低分子量のものが例示でき、具体的には重量平均分子量で10,000未満であることが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量平均分子量で10,000未満である場合、環式ポリアリーレンスルフィドの融解する温度が低くなる傾向にあり、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うためには、前記範囲にすることが好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー量は、環式ポリアリーレンスルフィドが含有する前記(A)式の環式化合物よりも少ないことが特に好ましい。即ち環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比(前記(A)式の環式化合物/ポリアリーレンスルフィドオリゴマー)は1を超えることが好ましく、2.3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましく、9以上がよりいっそう好ましく、このような環式ポリアリーレンスルフィドを用いることで重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。従って、環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比の値が大きいほど、本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にある。この重量比に特に上限は無いが、該重量比が100を超える環式ポリアリーレンスルフィドを得るためには、環式ポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドオリゴマー含有量を著しく低減する必要があり、これには多大の労力を要する。本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法によれば該重量比が100以下の環式ポリアリーレンスルフィドを用いても重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。
環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量した環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物の含有率から算出することができる。例えば環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(A)式の環式化合物以外の成分がポリアリーレンスルフィドオリゴマーである場合には、
重量比=前記(A)式の環式化合物の含有率(%)/(100−前記(A)式の環式化合物の含有率(%))
のように算出できる。
<遷移金属化合物>
本発明において、種々の遷移金属化合物が用いられる。遷移金属化合物が(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化に有効に作用する理由は現時点で明らかではないが、以下のような可能性を考えている。金属種そのものの効果としては、多くの価数状態を取りうるこれら遷移金属原子は、環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用を生じやすく、加熱によって活性遷移金属化合物を生成する傾向が強く、あるいは、これら遷移金属原子は環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい遷移金属化合物を形成可能であるためと推測している。
遷移金属化合物としては、遷移金属単体、有機配位子を有する錯体、カルボン酸塩、ハロゲン化物などが挙げられる。有機配位子を有する遷移金属錯体としては、カルベン、カルボニル、アルケン、アルキン、ジエン、アレーン、ホスフィン、ホスファイト、アミンなどの配位子として有する錯体が例示できる。例えば配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、ジメトキシジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエン、カルボニルの錯体が挙げられる。
遷移金属種としては、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属から選ばれる遷移金属が、環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する高い効果を有する傾向にあり好ましい。具体的には鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金が挙げられる。この理由についても現時点で明らかではないが、以下のような可能性を考えている。金属種そのものの効果としては、多くの価数状態を取りうるこれら遷移金属原子は、環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用を生じやすく、加熱によって活性遷移金属化合物を生成する傾向が強く、あるいは、これら遷移金属原子は環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい遷移金属化合物を形成可能であるためと推測している。
遷移金属単体としてニッケル(0)、パラジウム(0)、白金(0)、鉄(0)、ルテニウム(0)、ロジウム(0)、0価遷移金属原子と配位子からなる化合物としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、[P,P’−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン][P−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン]パラジウム、1,3−ビス(2,6−ジ−i−プロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、ビス(3,5,3’,5’−ジメトキシジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、テトラキス(トリフルオロホスフィン)白金、エチレンビス(トリフェニルホスフィン)白金、白金−2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体、ドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄、ドデカカルボニル三ルテニウム、ドデカカルボニル四ロジウム、ヘキサデカカルボニル六ロジウムなどが例示できる。
これら遷移金属種の中でも、ニッケルまたはパラジウムが好ましく、特に環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する高い効果を有する傾向にある。この理由についても現時点で明らかではないが、これらの金属種は、ケミカルレビューズ(Chemical Reviews),111,2011年(1596〜4503ページ)に記載のように、多くの炭素-硫黄結合の形成反応に用いられていることから、炭素-硫黄相互作用を生じやすいため、活性遷移金属化合物を生成しやすいため、あるいは、環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい化合物を形成可能でためであると考えている。さらに、触媒コスト、入手性の面でも優れるニッケルがより好ましい。
ニッケル化合物としては、有機配位子を有するニッケル錯体、カルボン酸ニッケル、ハロゲン化ニッケルなどが挙げられる。具体的には[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケルジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケルジクロリド、臭化ニッケルエチレングリコールジメチルエーテル錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル、ギ酸ニッケル、ギ酸ニッケルアミン錯体、酢酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫化ニッケル、(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリドなどが例示できる。
ニッケル化合物が重合触媒として作用する理由は現時点で明らかではないが、多くの価数状態を取りうるニッケル原子は、環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用を生じやすいため、あるいは、ニッケル原子が環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい活性ニッケル化合物を形成可能であるためと推測している。
また、上記ニッケル化合物の中でも、後述の(i)、および(ii)のニッケル化合物を用いることが好ましい。(i)および(ii)のニッケル化合物は環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する高い効果を有し、安定性の高い傾向にある。
使用する遷移金属化合物の濃度は、目的とするポリアリーレンスルフィドの分子量ならびに遷移金属化合物の種類により異なるが、通常、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。0.001モル%以上では環式ポリアリーレンスルフィドはポリアリーレンスルフィドへ十分に転化し、20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。ここでいう遷移金属化合物の濃度とは、遷移金属化合物を原料として添加する場合は、その濃度をいう。一方、系内で遷移金属を生成させる場合は、原料として添加する遷移金属塩や、遷移金属塩と配位子で構成された錯体の濃度をいう。
環式ポリアリーレンスルフィドならびに、前記遷移金属化合物、または系内で各遷移金属化合物を生成させるための遷移金属塩の混合に際しては、そのまま混合してもよいが、環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドを溶融し分散させる方法、あらかじめ重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内に分散させる方法などが挙げられる。
機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。
溶媒を用いて分散させる方法として、具体的には環式ポリアリーレンスルフィドを適宜な溶媒に溶解または分散し、これに遷移金属化合物を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。
環式ポリアリーレンスルフィドを溶融し分散させる方法としては、固体状態の環式ポリアリーレンスルフィドに各遷移金属化合物、遷移金属塩を添加した後、環式ポリアリーレンスルフィドの融点以上の温度で加熱し環式ポリアリーレンスルフィドを溶融させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドの融点以上の温度で、あらかじめ環式ポリアリーレンスルフィドを溶融した後に各遷移金属化合物、遷移金属塩を添加する方法などが例示できる。 あらかじめ重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内に分散させる方法としては、そのまま分散させる方法、適宜な溶媒に各遷移金属化合物、遷移金属塩を所定量加えた後、重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内で溶媒を除去することで分散させる方法などが例示できる。
また、2種以上の化合物を添加する場合には、添加する化合物の安定性、反応性にもよるが、一度に添加してもよいし、別々に添加した後に、重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内外で混合してもよい。
また、各遷移金属化合物、遷移金属塩が固体である場合、より均一な分散が可能となるため、それらの平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
また、本発明で用いる遷移金属化合物の中でも、後述の一般式(B)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、または、後述の一般式(D)で示されるニッケル化合物は、例えば重合触媒として知られている0価遷移金属化合物に対して安定性が高い傾向にあるためより好ましい。そのため、例えば0価遷移金属化合物であるビス(1,5−シクロオクタジエン)遷移金属は非酸化性雰囲気下で取り扱わない場合に(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化を促進する効果が低下する傾向にあるが、一般式(B)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、カルボン酸ニッケル化合物、および、後述の一般式(D)で示される遷移金属化合物は非酸化性雰囲気下で添加することも好ましいが、大気中で添加することも可能である。
本発明で用いる前記遷移金属化合物、または系内で各遷移金属化合物を生成させるための遷移金属塩を添加する際の温度は、添加に用いる方法が実施可能な温度範囲であれば特に制限はないが、上限としては、前記(A)式の環式化合物がポリアリーレンスルフィドへ転化しにくい温度領域であることが好ましく、例えば260℃以下、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、よりいっそう好ましくは200℃以下、さらにいっそう好ましくは180℃以下が例示できる。また、使用する遷移金属化合物の種類によって異なるが、遷移金属化合物が前記(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化を促進しにくい温度領域であることが好ましい。
遷移金属化合物の価数状態または配位状態などは、例えばX線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明の遷移金属化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィドまたは遷移金属化合物を含むポリアリーレンスルフィドに、X線を照射し、その吸収スペクトルを比較することで把握できる。
<(i)一般式(B)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物>
(ここで、Rは水素、炭素数6〜24のアリール基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、および式(C)で表される構造から選ばれる置換基を表し、各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよく、式(C)中のkは0〜6の整数を表し、mは0または1の整数を表し、nは0〜6の整数を表す。)
一般式(B)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物について、Rは水素、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、および式(C)で表される構造から選ばれる置換基であれば重合触媒として有効であり、各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよい。例えば、水素、アリール基としてフェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、アルケニル基としてメテニル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、アルキニル基としてメチニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニルなどが例示できる。また例えば、前記式(C)で表される構造からなるカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、フタル酸などが例示できる。
また、一般式(B)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物は無水物であってもよく、水和物であってもよい。
本発明におけるカルボン酸ニッケル化合物の重合触媒としての作用機構は現時点不明であるが、配位子や還元剤などの添加を必要とせず、加熱による分解反応時に活性ニッケル化合物が生成していると推測しており、その活性ニッケル化合物としては、加熱による分解反応時にニッケル原子が還元されることで生成する0価ニッケル化合物の可能性を考えている。さらに、その活性ニッケル化合物生成時に活性ニッケル化合物は粒子として分散し、それにより環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際の触媒活性が高くなると考えている。
前記カルボン酸ニッケル化合物の中でも、カルボン酸ニッケル化合物の構造中に炭素−炭素間の多重結合を含まないカルボン酸ニッケル化合物では、前記した活性ニッケル化合物の生成以外の反応が生じにくい傾向にあると考えられ、Rは水素または前記式(C)で表される構造のうちmが0である構造から選ばれる置換基であることがより好ましい。例えば、Rが水素であるギ酸、前記式(C)で表される構造からなるカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などが例示できる。
さらに、カルボン酸ニッケル化合物におけるカルボン酸構造中の炭素数が少ない方が、添加した重合触媒量に対する環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の促進効果が高い傾向にあり、前記した活性ニッケル化合物の生成以外の反応が生じにくい傾向にあると考えられ、Rは水素または前記式(C)で表される構造のうちk、nが0である構造から選ばれる置換基であることがより好ましい。例えば、ギ酸、シュウ酸などが例示できる。
これらの中でも、ギ酸ニッケルが、加熱による分解反応がより低温で生じる傾向にあるためより好ましい。
また、ニッケル化合物が有効である理由は現時点で明らかではないが、遷移金属原子の中でも比較的原子半径が小さい傾向にあり、ニッケル原子とカルボン酸構造との距離が近づきやすく、加熱による分解反応時にニッケル原子とカルボン酸構造間での作用が生じやすく、活性ニッケル化合物を生成しやすいため、あるいは環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用が比較的強い傾向にあるため、あるいはニッケル原子は環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい化合物を形成可能であるためと推測している。
本発明では、カルボン酸ニッケル化合物を原料として添加してもよいし、系内でカルボン酸ニッケル化合物を生成させてもよい。また、1種単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。ここで後者のように系内でカルボン酸ニッケル化合物を生成させるには、例えば一般的な溶液中でのカルボン酸ニッケル化合物合成方法で用いられるような、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、ハロゲン化ニッケルなどのニッケル塩とカルボン酸とから生成させる方法などが挙げられる。
<(ii)一般式(D)で示されるニッケル化合物>
(ここで、mは0〜10の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基、ハロゲン基から選ばれる置換基を表し、アルキル基、アルコキシ基、アリール基の水素原子はハロゲン原子基で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
を用いることが好ましい。
一般式(D)で示されるニッケル化合物について、mは0〜10の整数であれば重合触媒として有効であるが、ニッケル化合物構造の立体的な安定性の観点からは0〜5であることが好ましく、さらにニッケル化合物構造の電子的な安定性の観点からは共鳴構造をとることができるため0であることがより好ましい。
例えば、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ブチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルおよびそのハロゲン置換体、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシおよびそのハロゲン置換体、フェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチルおよびそのハロゲン置換体、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが例示できる。ニッケル化合物として具体的には、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル、ビス(トリフルオロ−2,4−ペンタンジオナト)ニッケルなどが例示できる。
中でも、RおよびRが電子供与性基であれば環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する効果が大きい傾向にあるため炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基から選ばれる置換基であることが好ましい。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ブチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルおよびそのハロゲン置換体、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシおよびそのハロゲン置換体、フェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチルおよびそのハロゲン置換体などが例示できる。この理由は現時点で明らかではないが、電子供与性基を有することでニッケル原子が電子供与性を有し、その電子状態により、ニッケル原子と環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用が比較的強い傾向にあるためと推測している。
さらに、ニッケル化合物構造の立体的な安定性の観点からは炭素数1〜12のアルキル基であることがより好ましく、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ブチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルおよびそのハロゲン置換体などが例示できる。
これらの中でも、電子供与性、ニッケル化合物構造の立体的な安定性を両立可能であり、さらに遷移金属化合物の入手性、取り扱い性にも優れるメチル基が最も好ましい。
ニッケル化合物として具体的には、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルなどが例示できる。なお、一般式(D)で示されるニッケル化合物は無水物であってもよく、水和物であってもよい。
このニッケル化合物が有効である理由は現時点で明らかではないが、遷移金属原子の中でも比較的原子半径が小さい傾向にあり、またニッケル原子は環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用が比較的強い傾向にあるため、あるいはニッケル原子は環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい化合物を形成可能であるためと推測している。
本発明では、一般式(D)で示されるニッケル化合物存在下で環式ポリアリーレンスルフィドを加熱することが特徴であり、一般式(D)で示されるニッケル化合物を原料として添加してもよいし、系内で一般式(D)で示されるニッケル化合物を生成させてもよい。また、1種単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。ここで後者のように系内で一般式(D)で示されるニッケル化合物を生成させるには、例えば一般的な溶液中でのアセチルアセトナート化合物合成方法で用いられるような、ニッケル塩とアセチルアセトンから生成させる方法などが挙げられる。
<ポリアリーレンスルフィドの製造条件>
本発明のポリアリーレンスルフィドを製造する際の加熱温度の範囲はポリアリーレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度である。ここで、本発明のポリアリーレンスルフィドの融点は、260℃以上300℃以下の範囲の傾向にあり、270℃以上290℃以下の範囲であることがより好ましい。以上のことから、本発明のポリアリーレンスルフィドを製造する際の加熱温度の範囲の上限としては、280℃以下が例示でき、270℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましい。この温度範囲では、環式ポリアリーレンスルフィドが融解し、環式ポリアリーレンスルフィドの遷移金属化合物が相溶しやすく、前記(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化が進行しやすいため、結晶化度の高いポリアリーレンスルフィドを得ることができる。さらに、上記温度範囲においては、前記(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化にともない、反応物が固化しながら反応が進行するため、成形品を製造する型内で行った場合には型を冷却することなく、成形品を得ることができる傾向がある。
一方、280℃より温度が高いと、得られるポリアリーレンスルフィドの特性(結晶化度や融点)が低下する場合があるため、280℃より高い温度を避けることが望ましい。加熱温度の下限としては、環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度であることが好ましく、前記遷移金属化合物から、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を促進し、かつ活性遷移金属化合物が生成する温度であれば特に制限はないが、180℃以上260℃以下の温度範囲が例示できる。環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度は、環式ポリアリーレンスルフィドの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、180℃以上260℃以下の温度範囲である傾向がある。環式ポリアリーレンスルフィドを示差走査型熱量計で分析することで融点を把握することが可能である。ただし、一般に融解する温度には幅があり、融点以上でも融解にともなう吸熱が継続する傾向があるため、均一に融解させるためには、加熱温度は環式ポリアリーレンスルフィドの融点以上であることが好ましく、環式ポリアリーレンスルフィドの融点よりも10℃以上高い温度が好ましく、20℃以上高い温度がより好ましい。なお、融点は示差走査熱量計により測定することができる。また、遷移金属化合物から活性遷移金属化合物が生成する温度についても、各遷移金属化合物および金属の種類や加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えば各遷移金属化合物を熱重量測定装置で分析することで把握することが可能である。ただし、加熱温度が環式ポリアリーレンスルフィドの融解温度より低い場合、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に長時間が必要となる傾向がある。
本発明のポリアリーレンスルフィドを製造する際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、非酸化性雰囲気下であれば、大気圧下には限定されず、大気圧よりも高い加圧条件下で行うことも可能であり、減圧条件下あるいは脱揮条件下で行うことも可能である。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。非酸化性雰囲気とは環式ポリアリーレンスルフィドが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指す。この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
大気圧よりも高い加圧条件は、加熱時に遷移金属化合物が揮散しにくいという観点で好ましく、加圧条件の上限としては特に制限はないが、反応装置を取り扱う際の容易さの面からは0.2MPa以下が好ましい。また、加熱を50kPa以上の条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから目的の圧力条件にすることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい下限以上では、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる分子量の低い前記(A)式の環式化合物が揮散しにくい傾向にある。一方好ましい上限以下では、遷移金属化合物から分解生成した成分や配位子を加熱系内から除去しやすく、融解した原料中の上記分解生成成分の濃度が低下し、より効率よく加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの加熱系内からの除去が可能になることにより、より低温、短時間で高重合度のポリアリーレンスルフィドを得ることができる傾向にあるため好ましい。
脱揮条件下とは環式ポリアリーレンスルフィドを遷移金属化合物存在下で加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する条件のことである。上記気体状態の成分としては、それぞれの化合物の特性および脱揮条件の詳細により発生の有無やその程度は異なるが、例えば加熱による分解反応時に生成する成分、配位子や環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーなどが例示できる。
上記条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であれば特に限定はされないが、例えば連続的な減圧条件下での脱揮や、連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件、発生した気体状態の成分を冷却し系外に捕集する条件などが挙げられる。脱揮条件下で加熱することにより、遷移金属化合物から分解生成した成分を加熱系内からより除去しやすく、融解した原料中の上記分解生成成分の濃度が低下し、加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成がさらに効率よく可能になるため、より低温、短時間でポリアリーレンスルフィドを得ることができる傾向にある。また、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーが加熱系内により残存しにくく、加熱系内における環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比がより大きくなりやすいため、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量が大きくなる傾向にある点でも好ましい。
連続的な減圧条件下での脱揮における、連続的な減圧条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であればよく、例えば反応を行う系内全体が連続的に減圧されていてもよいし、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などを用いて加熱する場合には、常圧あるいは加圧条件下にある型内、押出機内、溶融混練機内などから一部が減圧装置に連結され連続的に減圧されていてもよい。ただし、例えば重合系内を減圧条件下で密封し加熱するよりも、連続的に減圧し脱揮を行うことで、融解した原料中の前記分解生成成分の濃度が低下し、加熱による分解反応、それにともなう活性遷移金属化合物の生成、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの加熱系内からの除去がより効率よく可能になることにより、より低温、短時間で高重合度のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる傾向にある。
また、連続的に減圧する場合、反応系内の雰囲気は一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生や、生成した活性遷移金属化合物の失活を抑制できる傾向にある。
連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件においては、反応系内の雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制でき、生成した活性遷移金属化合物の失活を抑制できる傾向にある。用いるガスは窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが好ましく、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素ガスが好ましい。
系内へ流入するガスの温度は、流入するガスの流量、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、安定なガス温度制御の面から0℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、安定な系内の加熱温度制御の面からはさらに、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、系内の加熱温度と同温度であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
また、系内へ流入するガスの流量は、流入するガスの温度、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱する際に発生する気体状態の成分を加熱系内から除去可能であり、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する効果の面からは、1分間に系内へ流入するガスの流量は、系内の容積の1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
脱揮による発生した気体状態の成分の加熱系内からの除去量は、加熱系外に除去された成分を回収し秤量する方法、加熱前後の重量差から算出する方法、得られたポリアリーレンスルフィドの加熱時重量減少により残存成分量を算出し差し引く方法などにより把握することができる。
反応時間は、使用する環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物の含有率や繰り返し数q、および分子量などの各種特性、使用する遷移金属化合物の種類、加熱の温度などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間の下限としては5時間以上が好ましく、より好ましくは12時間以上である。5時間以上では環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(A)式の環式化合物はポリアリーレンスルフィドへ十分に転化し、結晶化度の高いポリアリーレンスルフィドが得られる傾向がある。一方上限としては200時間以下が例示でき、好ましくは150時間以下、より好ましくは100時間以下が例示できる。加熱時間としては200時間以下では好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は、実質的に溶媒を含まない条件下で行うことも可能である。このような条件下で行う場合、短時間での昇温が可能であり、反応速度が高く、短時間でポリアリーレンスルフィドを得やすくなる傾向がある。ここで実質的に溶媒を含まない条件とは、環式ポリアリーレンスルフィド中の溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下がより好ましい。
前記加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
上記した環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質存在下で前記(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化を行うことで、ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成する事ができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、ポリアリーレンスルフィド単独の場合に比べて、例えば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりポリアリーレンスルフィドを高度に強化する事が可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができないなど、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好かつ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明のポリアリーレンスルフィドは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、例えばポリアリーレンスルフィドと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。前記(A)式の環式化合物と繊維状物質が良好なぬれを形成した後、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法によれば前記(A)式の環式化合物がポリアリーレンスルフィドに転化するので、繊維状物質とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が良好なぬれを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。さらに本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法では前記(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化にともない、反応物が固化しながら反応が進行するため、成形品を製造する型内で行った場合には型を冷却することなく、成形品を得ることができる傾向がある。
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことを前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性及び引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450kgf/mm、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
また、上記した前記(A)式の環式化合物のポリアリーレンスルフィドへの転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、例えば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<1>環式ポリフェニレンスルフィドおよびポリフェニレンスルフィドの特性の評価
<分子量の測定>
ポリフェニレンスルフィド及び環式ポリフェニレンスルフィドの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<(S)式の環式化合物の含有率および(S)式の環式化合物のポリフェニレンスルフィドへの転化率の測定>
(S)式の環式化合物の含有率および(S)式の環式化合物のポリフェニレンスルフィドへの転化率の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
(qは4〜50の整数が好ましく、異なるqを有する混合物である)
環式ポリフェニレンスルフィドの加熱により得られたポリフェニレンスルフィド、約10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、未反応の前記(S)式の環式化合物の含有率を定量し、前記(S)式の環式化合物のポリフェニレンスルフィドへの転化率を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
<赤外分光分析>
装置 :Perkin Elmer System 2000 FT−IR
サンプル調製:KBr法。
<ポリフェニレンスルフィドの熱特性>
ティー・エイ・インスツルメント社製TAインスツルメントQ20を用い、窒素雰囲気下、得られたポリマーの熱的特性を測定した。下記測定条件をもちいて、ポリフェニレンスルフィドの融点はFirst Runの吸熱ピークの値を用いた。
First Run
・50℃×1分 保持
・50℃から340℃昇温、昇温速度40℃/分
・340℃×1分 保持
・340℃から100℃へ降温、降温速度40℃/分
また、結晶化度は理論計算値で100%結晶化ポリフェニレンスルフィドの融解熱は146J/g(Polymer Engineering&Science、29巻、140頁(1989年)および、重合物のFirst Runの吸熱ピークの面積から算出した融解熱の割合を用いて、下記式により算出した。
結晶化度(%)={生成物の融解熱(J/g)}/{146(J/g)}×100
参考例1 環式ポリフェニレンスルフィドの調製
撹拌機付きの150リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム16.54kg(140モル)、96%水酸化ナトリウム5.92kg(142モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を22.88kg(232モル)、酢酸ナトリウム3.44kg(42モル)、及びイオン交換水21kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水30kgおよびNMP550gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン20.6kg(140.6モル)、NMP18kg(182モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水を2.52kg(105モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)80kgを得た。このスラリー(A)を52kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。80℃に加熱したスラリー(B)132kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、粗PPS樹脂とスラリー(C)を100kg得た。スラリー(C)をロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換後、減圧下100〜160℃で1.5時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は3重量%であった。この固形物にイオン交換水120kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水120kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥して乾燥固体を1.2kg回収した。
得られた固形物をさらにクロロホルム36kgで3時間ソックスレー抽出した。得られた抽出液からクロロホルムを留去して得られた固体に再度クロロホルム6kgを加え、室温で溶解しスラリー状の混合液を得た。これをメタノール75kgに撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末360gを得た。この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。さらに、高速液体クロマトグラフィーにより、(S)式の環式化合物を90重量%含み、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造に好適に用いられる環式ポリフェニレンスルフィドであることが判明した。また、GPC測定を行った結果、環式ポリフェニレンスルフィドは室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
実施例1
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(Aldrich社製、表中にNi(acac)と記載、以下同様)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1mol%となるように、大気下で混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、240℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら12時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は14重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は84%であることがわかった。示差走査型熱量分析装置を用いて、生成物を分析した結果、融点が289℃、結晶化度は41%であった。結果を表1に示した。
なお、ガラス製アンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら、240℃に温調した電気炉内にアンプルを設置した場合の、アンプル内温度を別途測定したところ、電気炉内にアンプルを設置してから約3分後に200℃に、約4分後に230℃に到達し、約5分後以降240℃で安定することがわかった。
実施例2
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、ギ酸ニッケル2水和物(和光純薬工業製、表中にNi(HCOO)・2HOと記載、以下同様)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1mol%となるように混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は19重量%、転化率78%であることがわかった。示差走査型熱量分析装置を用いて、生成物を分析した結果、融点が288℃、結晶化度は40%であった。結果を表1に示した。
実施例3
加熱時間を72時間に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は9重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は90%であることがわかった。示差走査型熱量分析装置を用いて、生成物を分析した結果、融点が294℃、結晶化度は44%であった。結果を表1に示した。
実施例4
加熱時間を72時間に変更したこと以外は実施例2と同様の操作を行い、生成物を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は7重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は92%であることがわかった。示差走査型熱量分析装置を用いて、生成物を分析した結果、融点が296℃、結晶化度は43%であった。結果を表1に示した。
比較例1
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドを大気下で混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、240℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら12時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は69重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は23%であることがわかった。結果を表1に示した。
比較例2
加熱時間を72時間に変更したこと以外は比較例1と同様の操作を行い、生成物を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は54重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は40%であることがわかった。結果を表1に示した。
実施例1−4および比較例1−2の比較から、遷移金属化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルおよびギ酸ニッケル2水和物存在下で環式ポリフェニレンスルフィドをポリフェニレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度で加熱することで、より短時間で(S)式の環式化合物のポリフェニレンスルフィドへの転化が進行することがわかった。さらに、本発明により(S)で示される環式化合物の含有率が50重量%未満であるポリフェニレンスルフィドが得られることがわかった。
比較例3
反応温度を340℃、反応時間を4時間に変更したこと以外は比較例1と同様の操作を行い、生成物を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は2重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は98%であることがわかった。示差走査型熱量分析装置を用いて、生成物を分析した結果、融点が282℃、結晶化度は30%であった。結果を表1に示した。
実施例3−4および比較例3の比較から、遷移金属化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルおよびギ酸ニッケル2水和物存在下で環式ポリフェニレンスルフィドをポリフェニレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度で加熱することで、結晶化度が40%以上である結晶性の高いポリフェニレンスルフィドが得られることがわかった。
比較例4
加熱時間を1時間に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は79重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は10%であることがわかった。結果を表1に示した。
比較例5
加熱時間を1時間に変更したこと以外は実施例2と同様の操作を行い、生成物を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は80重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は10%であることがわかった。結果を表1に示した。
比較例6
加熱時間を1時間に変更したこと以外は比較例1と同様の操作を行い、生成物を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、(S)式の環式化合物の含有率は86重量%、(S)式の環式化合物のPPSへの転化率は4%であることがわかった。結果を表1に示した。
実施例1−4および比較例4−6の比較から、遷移金属化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルおよびギ酸ニッケル2水和物存在下で環式ポリフェニレンスルフィドをポリフェニレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度で加熱することで、(S)式の環式化合物の含有率が50重量%未満であるポリフェニレンスルフィドが得られることがわかった。

Claims (10)

  1. 環式ポリアリーレンスルフィドを遷移金属化合物存在下で加熱するポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、下記一般式(A)で示される環式化合物を50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィドを用いて、得られるポリアリーレンスルフィドの融点より20℃以上低い温度で加熱して、下記一般式(A)で示される環式化合物の含有率が50重量%未満のポリアリーレンスルフィドを得る、ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
    (Arはアリーレン基、qは4〜50の整数であり、異なるqを有する混合物である)
  2. 遷移金属化合物の金属種が周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属の中から選ばれる少なくとも1つ以上の金属であることを特徴とする、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  3. 遷移金属化合物が(i)および(ii)から選ばれる少なくとも1種のニッケル化合物であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
    (i)一般式(B)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物
    (ここで、Rは水素、炭素数6〜24のアリール基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、および式(C)で表される構造(置換基)から選ばれる置換基を表し、各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよく、式(C)中のkは0〜6の整数を表し、mは0または1の整数を表し、nは0〜6の整数を表す。)
    (ii)一般式(D)で示されるニッケル化合物
    (ここで、mは0〜10の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基、ハロゲン基から選ばれる置換基を表し、アルキル基、アルコキシ基、アリール基の水素原子はハロゲン原子基で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
  4. 前記一般式(B)における、Rが水素または式(C)で表される構造中のmが0である構造であることを特徴とする、請求項3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  5. 前記一般式(B)におけるRが水素または式(C)で表される構造中のkおよびnが0である構造であることを特徴とする、請求項3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  6. 前記一般式(B)で表されるカルボン酸ニッケル化合物がギ酸ニッケルであることを特徴とする、請求項3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  7. 前記一般式(D)における、RおよびRが炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基から選ばれる同一または異なる置換基であることを特徴とする、請求項3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  8. 前記一般式(D)における、RおよびRがメチル基であることを特徴とする、請求項3に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  9. 前記一般式(D)における、mが0であることを特徴とする、請求項3、7または8に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  10. 繊維状物質の共存下で行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
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