JP5787067B2 - 環状金属部品の嵌合装着方法 - Google Patents

環状金属部品の嵌合装着方法 Download PDF

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環状金属部品、特に嵌合筒部とフランジ部を有する環状金属部品の前記嵌合筒部を、所定の部材に嵌合により装着する方法に関する。
回転側と静止側の間から機内へ異物や泥水等が侵入するのを防止する密封装置の一種として、図9に示すように、回転側に嵌合した金属製のスリンガ2に、非回転の密封装置本体1に設けられたスラストリップ11及びラジアルリップ12を摺接させる構造を備えるものがある。
詳しくは、この密封装置は、非回転の外周部材3の内周面3aに装着される密封装置本体1と、回転側である内周部材4に装着される金属製のスリンガ2を備え、密封装置本体1に設けられたスラストリップ11が、スリンガ2のフランジ部22に摺動可能に密接され、密封装置本体1にスラストリップ11の内周側に位置して設けられたラジアルリップ12が、スリンガ2の嵌合筒部21の外周面に摺動可能に密接される。
すなわち、この種の密封装置は、スリンガ2のフランジ部22とスラストリップ11の密接摺動部において、内周部材4と一体的に回転するフランジ部22の遠心力による振り切り作用を利用して、機外S1から機内S2へのダストや泥水等の侵入を阻止するものである。また、フランジ部22とスラストリップ11の密接摺動部からその内周側へ、泥水等が僅かに侵入しても、これらはスリンガ2の嵌合筒部21とラジアルリップ12の密接摺動部においてそれ以上の侵入が遮断されるので、結局、フランジ部22の遠心力による振り切り作用によって、スラストリップ11の外周側へ押し戻される。
ところが、この種の密封装置では、機械要素の健全性を維持する目的(例えば潤滑等)のために機内S2に封入された油脂類が、スリンガ2の嵌合筒部21と内周部材4の金属嵌合部を介して機外S1へ漏洩するおそれがあった。
そして従来、この種の密封装置のスリンガ2は、図10に示すように、軸心Oに対して直交する平面状の押圧面5aを有する環状の押圧治具5を用い、フランジ部22に軸方向への均一な荷重を加えることによって嵌合筒部21を内周部材4の外周面4aに圧入嵌合しているが、上述のような漏れは、スリンガ2の圧入過程で、その嵌合筒部21の内周面21aに、それよりも硬質である内周部材4の外周面4aと擦れることによってついた傷が貫通流路となって、機外S1と機内S2との気圧差が漏れ圧力となって起こるものであると考えられる。
また、このような問題を解決するためには、下記の特許文献1に開示されているように、スリンガ2の嵌合筒部21と内周部材4の嵌合部にシール部材(弾性部材)を介在させることが考えられるが、この場合は、新たにシール部材を設けることによって部品点数が増加し、あるいは前記シール材をスリンガ2(嵌合筒部21)に一体に成形する工程などが必要になるといった問題がある。
特開2001−215132号公報
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、上述のスリンガのような、嵌合筒部とフランジ部を有する環状金属部品を所定の装着相手部材に圧入嵌合する際に、嵌合筒部の内周面に貫通流路となる傷が発生するのを防止し得る環状金属部品の嵌合方法を提供し、もって金属嵌合部のシール性を確保することにある。
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法は、環状金属部品の嵌合筒部を、この環状金属部品よりも硬質の装着相手部材の外周面に圧入嵌合する際に、前記嵌合筒部の圧入方向後端から延びるフランジ部に、外径側で先行して前記フランジ部を押圧する段差面又は傾斜面を有する治具によって、前記フランジ部を圧入方向へ倒れるように傾斜変形させた状態で圧入荷重を加えることを特徴とするものである。
本発明の嵌合装着方法は、圧入過程における環状金属部品の嵌合筒部の内周面と装着相手部材の外周面の摺動と、圧入嵌合後における嵌合筒部の内周面と装着相手部材の外周面の密接を異なる部分で担わせることで、圧入過程で環状金属部品の嵌合筒部の内周面に発生する傷によるシール性の低下を回避するものである。
すなわち、環状金属部品の嵌合筒部を装着相手部材の外周面に圧入嵌合する際に、嵌合筒部の圧入方向後端から延びるフランジ部が、治具からの圧入荷重によって圧入方向へ倒れるように傾斜変形されることによる応力で、嵌合筒部がフランジ部側で僅かに拡径するように変形しながら装着相手部材の外周面へ圧入されて行く。このため嵌合筒部の内周面は、嵌合筒部の圧入方向先端側では、この嵌合筒部より硬質の環状金属部品の外周面と擦れることによって傷がつくが、圧入方向後端(フランジ部側)に近い部分では装着相手部材の外周面に対して非接触となり、傷の発生が有効に防止される。そして圧入方向の荷重を解除すると、フランジ部及び嵌合筒部がスプリングバックするので、圧入過程で傷がついていない嵌合筒部の内周面が装着相手部材の外周面に密接され、その密接幅が増大する。
本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法によれば、環状金属部品の嵌合筒部を装着相手部材の外周面に圧入嵌合する過程で、フランジ部を圧入方向へ傾斜変形させることに伴う嵌合筒部の拡径変形によって、嵌合筒部の内周面の傷の発生が有効に防止されるので、圧入完了後、前記嵌合筒部と装着相手部材の金属嵌合部が良好な密接状態となり、優れたシール性が確保される。
本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法の第一の形態を示す説明図である。 本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法の第一の形態による作用を示す説明図である。 本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法の第一の形態によるスプリングバックの作用を示す説明図である。 本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法の第二の形態を示す説明図である。 本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法の第二の形態で使用する治具を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。 本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法の第三の形態を示す説明図である。 本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法による作用を検証するため、嵌合時のフランジ部の角度θによる接触位置の戻り量Sの変化を解析した結果を示す線図である。 本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法による作用を検証するため、嵌合時のフランジ部の角度θによる接触幅Bの変化を解析した結果を示す線図である。 環状金属部品としてのスリンガを有する密封装置をその軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。 従来の環状金属部品の嵌合装着方法を示す説明図である。
以下、本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法の第一の形態を示す説明図、図2及び図3は、第一の形態による作用を示す説明図である。
まず図1において、参照符号2は、先に説明した図9に示すような密封装置に用いられるスリンガであって、請求項1に記載された環状金属部品に相当する。このスリンガ2は、ステンレス鋼SUS304などの金属材料からなるものであって、嵌合筒部21及びこの嵌合筒部21の一端からR状屈曲部23を介して円盤状に展開したフランジ部22を有する。嵌合筒部21の先端の内周縁には面取り24が形成されている。
参照符号4は、スリンガ2が装着される内周部材であって、請求項1に記載された装着相手部材に相当する。この内周部材4は、スリンガ2よりも硬質の金属材料からなり、外周面4aが円筒面状に形成されている。そして、スリンガ2の嵌合筒部21の内径は、内周部材4の外周面4aよりも僅かに小径に形成されており、すなわち嵌合によって変形応力が発生して、内周部材4の外周面4aを締め付けて所要の固定力を得るための嵌合代が設けられている。
また、参照符号100は、スリンガ2の嵌合筒部21を内周部材4の外周面4aに圧入嵌合するために用いる環状の治具で、圧入に必要な軸方向荷重を、スリンガ2のフランジ部22に、このフランジ部22を圧入方向すなわち嵌合筒部21側へ倒れるように傾斜変形させた状態で加えるものであり、このため、スリンガ2のフランジ部22との対向面は、内径側ほど治具100の軸方向肉厚を減じるように傾斜した円錐面101をなしている。そして前記円錐面101は、軸心Oと直交する平面に対してなす角度αが−2〜−5°に設定されている。
したがって、スリンガ2の装着作業において、このスリンガ2の嵌合筒部21を、面取り24が形成された端部を先頭にして装着相手部材である内周部材4の外周面4aに圧入嵌合する際に、嵌合筒部21の圧入方向後端から延びるフランジ部22に、治具100によって圧入方向(軸方向)への荷重を加えて行くと、治具100の円錐面101は、その外径部101aが先行してフランジ部22の外径部22aを押圧することになる。このため、圧入荷重がフランジ部22にその外径部へ偏在して加わることによって、図2に二点鎖線で示すように、圧入荷重付与前は軸心Oと直交する平面をなしていたフランジ部22は、圧入方向へ倒れるように、−θ方向の円錐状の傾斜変形を受ける。
そして、圧入荷重がフランジ部22の外径部22aへ偏在して加わることによるフランジ部22の傾斜変形が増大して行くと、このフランジ部22の内径端部、すなわちR状屈曲部23に隣接する端部22bが治具100における円錐面101の内径部101bに当接するため、図2に実線で示すように、フランジ部22の−θ方向の曲げ角度が、円錐面101の傾斜角度に相当する角度(−2〜−5°)に規制される。
上述のようにしてスリンガ2のフランジ部22が円錐状に変形されると、その応力によって、スリンガ2の嵌合筒部21も圧入方向後端側、すなわちR状屈曲部23側で僅かに拡径するような変形を受け、その状態で内周部材4の外周面4aへ圧入されて行く。そしてこのような変形状態では、嵌合筒部21の内周面21aは、圧入方向先端側では、この嵌合筒部21より硬質の内周部材4の外周面4aと擦れることによって傷がつくが、R状屈曲部23側の端部に近い部分では、内周部材4の外周面4aに対して非接触になるので、圧入による傷の発生が有効に防止される。
次に、所定位置までスリンガ2を圧入した時点で、治具100によるスリンガ2のフランジ部22への圧入荷重を解除すると、フランジ部22及び嵌合筒部21がスプリングバックするので、嵌合筒部21の内周面21aのうちR状屈曲部23側の端部に近い部分、すなわち圧入過程で傷の発生が防止された部分が内周部材4の外周面4aに密接される。このため嵌合筒部21の内周面21aと内周部材4の外周面4aの金属嵌合部が良好な密接状態となる。
しかもこのとき、スプリングバックによる内周部材4の外周面4aへの嵌合筒部21の面圧は、R状屈曲部23側で高く、R状屈曲部23から離れた位置ほど低くなるので、図3に破線で示すように、嵌合筒部21が先端側ほど内周部材4の外周面4aから浮き上がるような傾斜変形を受けると共に、フランジ部22が、図3に二点鎖線で示す原形よりもさらに+θ側(治具100による圧入過程でのフランジ部22の傾斜変形方向と反対側)へ僅かに倒れた状態となる。このため、嵌合筒部21の内周面21aと内周部材4の外周面4aの接触位置の端部がR状屈曲部23側へ移動し、これによって、嵌合筒部21の内周面21aのうち傷の発生が防止された部分の接触幅が増大する。
したがって、先に説明した図9に示す密封装置のスリンガ2を、上述の方法で内周部材4に装着することによって、内周部材4とスリンガ2の金属嵌合部には、傷による貫通流路が形成されず、シール性が確保されるため、機械要素の健全性を維持する目的(例えば潤滑等)のために機内S2に封入された油脂類が、スリンガ2の嵌合筒部21と内周部材4の金属嵌合部を介して機外S1へ漏洩するのを有効に防止することができる。
次に図4は、本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法の第二の形態を示す説明図、図5は、第二の形態で使用する治具100を、その軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
すなわちこの第二の形態は、治具100におけるスリンガ2のフランジ部22との対向面が、内径側で治具100の軸方向肉厚が小さくなるような段差形状に形成されており、詳しくは、スリンガ2のフランジ部22の外径部22aと対向される環状の第一面102と、その内径側に環状の段差面103を介して軸方向へ後退するように形成された第二面104を有し、図5に示すように、第一面102の内径縁102aと第二面104の内径縁104aを通る仮想円錐面が軸心Oと直交する平面に対してなす角度αが−2〜−5°に設定されている。
また、第一面102の外径側には、スリンガ2のフランジ部22の外径縁が遊嵌可能な環状突縁部105が形成されている。
したがって、図4に示すスリンガ2の装着作業において、このスリンガ2の嵌合筒部21を、面取り24が形成された端部を先頭にして装着相手部材である内周部材4の外周面4aに圧入嵌合する際に、嵌合筒部21の圧入方向後端から延びるフランジ部22に、治具100によって圧入方向(軸方向)への荷重を加えて行くと、治具100の第一面102が先行してフランジ部22の外径部22aを押圧することになる。このため、圧入荷重がフランジ部22にその外径部22aへ偏在して加わることによって、荷重付与前は図4に示すように軸心Oと直交する平面をなしていたフランジ部22は、圧入方向へ倒れるように、円錐状の曲げ変形を受ける。
そして、圧入荷重がフランジ部22の外径部22aへ偏在して加わることによるフランジ部22の傾斜変形量が増大して行くと、このフランジ部22の内径端部、すなわちR状屈曲部23に隣接する端部22bが、治具100における第二面104の内径部に当接して押圧されるため、フランジ部22の傾斜角度が、第一面102の内径縁102aと第二面104の内径縁104aを通る仮想円錐面の傾斜角度αにほぼ相当する角度(−2〜−5°)に規制される。
このような治具100による圧入過程では、第一の形態と同様、嵌合筒部21の内周面21aは、圧入方向先端側では内周部材4の外周面4aと擦れることによって傷がつくが、圧入方向後端側、すなわちR状屈曲部23側の端部に近い部分では、内周部材4の外周面4aに対して非接触になるので、圧入による傷の発生が有効に防止され、圧入荷重の解除後のスプリングバックによって、嵌合筒部21の内周面21aと内周部材4の外周面4aの接触位置の端部が、圧入による傷がついていないR状屈曲部23側へ移動すると共に、接触幅が増大するので、良好な密接状態となる。
また、スリンガ2と治具100の芯ずれがあると、フランジ部22が狙いの曲げ角度で曲がらず、曲げが円周方向不均一になって、嵌合筒部21の内周面21aへの傷低減効果が損なわれてしまうおそれがあるが、第二の形態によれば、フランジ部22の外径縁が治具100の環状突縁部105の内周に遊嵌されることによってスリンガ2と治具100の芯ずれが防止されるので、前記傷低減効果が損なわれない。
なお、環状突縁部105は、図6に第三の形態として示すように、治具100におけるスリンガ2のフランジ部22との対向面を、第一の形態と同様の円錐面101としたものにも適用することができる。
図7は、本発明に係る環状金属部品の嵌合装着方法による作用を検証するため、嵌合時のフランジ部の角度θによる接触位置の戻り量Sの変化を解析した結果を示す線図、図8は、同様に嵌合時のフランジ部の角度θによる接触幅Bの変化を解析した結果を示す線図である。
すなわち、この試験は、図4及び図5に示すような治具100において、第一面102と第二面104間の段差面103の高さを変更することによって、第一面102の内径縁102aと第二面104の内径縁104aを通る仮想円錐面の傾斜角度αの異なるものを用いて、スリンガ2のフランジ部22に傾斜変形を与えた状態で、このスリンガ2の嵌合筒部21を内周部材4の外周面4aに圧入嵌合し、嵌合完了後の除荷時のスプリングバックによる内周部材4の外周面4aとの接触位置の戻り量S及び接触幅Bを解析したものである。
なお、解析の条件は次のとおりとした。
スリンガ2の嵌合筒部21の内径:φ67.7
スリンガ2の嵌合筒部21の外径:φ68.7
スリンガ2の嵌合筒部21の軸方向長さ:3.5
スリンガ2のフランジ部22の肉厚:0.6
スリンガ2のフランジ部22の外径:φ79.9
スリンガ2のR状屈曲部23の谷折の曲率半径:0.4
スリンガ2の面取り24の角度:45°
スリンガ2の面取り24の軸方向幅:0.35
スリンガ2の材料物性:SUS304
(降伏応力:210GPa ヤング率:197GPa ポアソン比:0.3)
内周部材4の外径:φ67.8(嵌合筒部21の嵌合代:0.05)
内周部材4の面取り部4bの角度:45°
内周部材4の面取り部4bの軸方向長さ:0.5
金属嵌合部の摩擦係数:0.15
また、ここでいう接触幅Bは、圧入嵌合後にフランジ部22への圧入荷重を除荷した時のスプリングバックによって内周部材4の外周面4aに対する接触面圧が発生している領域の幅として検出した。また、接触位置の戻り量Sは、圧入荷重を除荷することによって、接触面圧が発生する領域におけるR状屈曲部23側の端部がR状屈曲部23側へ移動する量として検出した。
この解析結果によれば、治具100によるスリンガ2の圧入時のフランジ部22の傾斜変形角度θが−4°において接触位置の戻り量Sが最大であり、傾斜変形角度θが−3〜−4°において接触幅Bが最大であった。したがって、スリンガ2を圧入する治具100は、フランジ部22に−2〜−5°、好ましくは−3〜−4°程度の傾斜変形を与えるものが好適であることがわかる。
2 スリンガ(環状金属部品)
21 嵌合筒部
22 フランジ部
22a 外径部
23 R状屈曲部
4 内周部材(装着相手部材)
100 治具
101 円錐面
102 第一面
103 段差面
104 第二面
105 環状突縁部

Claims (1)

  1. 環状金属部品の嵌合筒部を、この環状金属部品よりも硬質の装着相手部材の外周面に圧入嵌合する際に、前記嵌合筒部の圧入方向後端から延びるフランジ部に、外径側で先行して前記フランジ部を押圧する段差面又は傾斜面を有する治具によって、前記フランジ部を圧入方向へ倒れるように傾斜変形させた状態で圧入荷重を加えることを特徴とする環状金属部品の嵌合装着方法。
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