[第1実施形態]
本発明の第1実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図1乃至図5を用いて説明する。
図1は本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す平面図及び概略断面図、図2は本実施形態によるカーボンナノチューブシートにおけるカーボンナノチューブ束の形状を示す平面図、図3は本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図、図4及び図5は本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図1を用いて説明する。図1(a)及び図1(b)は、それぞれ、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す平面図及び断面図である。
本実施形態によるカーボンナノチューブシート(シート状構造体)10は、互いに間隔を開けて配置された複数のカーボンナノチューブ束(線状構造体束)12を有している(図1(a)参照)。カーボンナノチューブ束12の間隙には、シートの一方の面側に形成されたグラファイト層14と、樹脂材料等よりなる充填層16とが埋め込まれている(図1(a),(b)参照)。充填層16は、カーボンナノチューブ束12内及びグラファイト層14内の間隙にも埋め込まれている。グラファイト層14は、カーボンナノチューブ束12に対して、熱的に且つ電気的に接続されている。
それぞれのカーボンナノチューブ束12は、シートの面に垂直な方向に延在するように形成されており、シートの面に垂直な方向に配向した複数のカーボンナノチューブ(炭素元素からなる線状構造体)を有している。
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれでもよい。カーボンナノチューブ束12に含まれるカーボンナノチューブの密度は、放熱性及び電気伝導性の観点から、1×1010本/cm2以上であることが望ましい。カーボンナノチューブ束12の長さ(シートの厚さ)は、カーボンナノチューブシート10の用途によって決まり、特に限定されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm程度の値に設定することができる。
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10では、カーボンナノチューブ束12間に間隙が設けられ、この間隙に充填層16が形成されている。これは、カーボンナノチューブ間に充填層16を形成する際に、充填材の浸透性を高め、カーボンナノチューブが横に倒れるなどの形状変化を抑制し、カーボンナノチューブが元々保持していた配向性を保持するためである(後述の製造方法を参照)。
カーボンナノチューブ束12の形成領域の広さについては、特に制限はないが、形成領域が例えば円形の場合、直径が例えば10μm〜1000mmの範囲に設定することができる。
カーボンナノチューブ束12間に必要な間隙は、充填層16となる充填材の粘度等によっても変化するため一概に決定することはできないが、各カーボンナノチューブ束12を構成するカーボンナノチューブ間の間隙よりも充分に広い幅、好ましくは0.1μm〜200μm程度の値に設定することができる。ただし、カーボンナノチューブ束12の間隔が広くなるほどに、シート面内におけるカーボンナノチューブの面密度が減少、すなわちシートとしての熱伝導度が減少する。また、シート面内におけるカーボンナノチューブの面密度は、カーボンナノチューブ束12のサイズによっても変化する。したがって、カーボンナノチューブ束12の間隔は、シートに要求される熱伝導度に応じて、カーボンナノチューブ束12のサイズをも考慮して、適宜設定する必要がある。
各カーボンナノチューブ束12の平面形状は、図1(a)に示す円形に限定されるものではない。カーボンナノチューブ束12の平面形状としては、円形のほか、例えば、三角形、四角形、六角形等の多角形等を用いてもよい。
また、複数のカーボンナノチューブ束12の配置も、図1(a)に示すような円形の細密充填型配列に限定されるものではない。例えば、図2(a)及び図2(b)に示すように、カーボンナノチューブ束12を、正方格子の各格子点に位置するように、それぞれ配置してもよい。また、図2(c)に示すように、三角形の平面形状を有するカーボンナノチューブ束12を、上下の向きを変えて一行ごとに並べるようにしてもよい。また、図2(d)に示すように、カーボンナノチューブ束12をストライプ状のパターンとしてもよい。また、図2(e)に示すように、カーボンナノチューブ束12を櫛歯型のパターンとしてもよい。
グラファイト層14は、シートの面に平行な層状構造のグラファイトからなり、カーボンナノチューブ束12の側面に接続するように形成されている。グラファイト層14の厚さは、例えば数nm〜数百nm程度である。
充填層16の構成材料としては、カーボンナノチューブの埋め込みの際に液体状の性質を示し、その後に硬化できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、有機系充填材としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などを適用することができる。また、無機系充填材としては、SOG(Spin On Glass)などの塗布型絶縁膜形成用組成物などを適用することができる。また、インジウム、はんだ、金属ペースト(例えば、銀ペースト)などの金属材料を適用することもできる。また、例えばポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性ポリマを適用することもできる。
また、充填層16には、必要に応じて、添加物を分散混合してもよい。添加物としては、例えば熱伝導性の高い物質や導電性の高い物質が考えられる。充填層16部分に熱伝導性の高い添加物を分散混合することにより、充填層16部分の熱伝導率を向上することができ、カーボンナノチューブシート全体としての熱伝導率を向上することができる。また、カーボンナノチューブシートを導電性シートとして用いる場合にあっては、充填層16部分に電導性の高い添加物を分散混合することにより、充填層16部分の導電率を向上することができ、カーボンナノチューブシート全体としての導電率を向上することができる。充填層16として例えば有機系充填材などの熱伝導性の低い絶縁材料を用いる場合には、特に有効である。熱伝導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料、窒化アルミニウム、シリカ、アルミナ、グラファイト、フラーレン等を適用することができる。電導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料等を適用することができる。
このように、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、シートの面に垂直な方向に配向したカーボンナノチューブ束12と、シートの面に平行な層状構造のグラファイトからなるグラファイト層14とを有している。カーボンナノチューブは、配向方向に沿った熱伝導率が1500(W/m・K)程度と、非常に高い熱伝導率を有している。また、グラファイトは、カーボンナノチューブほどの熱伝導率は有していないものの、層面に平行(a軸)な方向の熱伝導率が500(W/m・K)程度と、こちらも非常に高い熱伝導率を有している。
したがって、本実施形態のようにカーボンナノチューブ束12とグラファイト層14とを組み合わせてカーボンナノチューブシート10を構成することにより、シートの面に垂直な方向への熱伝導性を主としてカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブ束12)により確保し、シートの面に平行な方向への熱伝導性を主としてグラファイト(グラファイト層14)により確保することができる。
グラファイトは、樹脂材料(熱伝導率:1(W/m・K)程度)と比較して500倍以上の熱伝導率を有している。したがって、グラファイト層14を設けることにより、グラファイト層14を形成しない場合と比較して、シートの面に平行な方向への放熱性を500倍以上と大幅に改善することができる。
また、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、カーボンナノチューブ束12の上端及び下端が充填層16によって覆われていない。これにより、カーボンナノチューブシート10を放熱体又は発熱体と接触したとき、カーボンナノチューブ束12が放熱体又は発熱体に対して直に接するため、熱伝導効率を大幅に高めることができる。
カーボンナノチューブ及びグラファイトは高い導電性をも併有しているため、カーボンナノチューブ束12の上端及び下端が露出していることにより、カーボンナノチューブ束12を、シートを貫く配線体として用いることもできる。また、グラファイト層14を、シートの面に平行な方向の配線体として用いることもができる。すなわち、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、熱伝導シートとしてのみならず、配線シートとしても利用可能である。
カーボンナノチューブ束12の高さと充填層16の厚さ(いずれもシートの厚さ方向の長さ)との関係は、図3(a)に示すように同じであってもよいし、図3(b)に示すようにカーボンナノチューブ束12の一端部が充填層16の表面よりも窪んでいてもよいし、図3(c)に示すようにカーボンナノチューブ束12の一端部が充填層16の表面よりも突出していてもよい。これら形状は、充填層16の材料や製造条件を変えることによって作り分けることができる(後述の製造方法を参照)。
図3(b)の形状は、カーボンナノチューブシート10を放熱体と発熱体との間に配置して圧着したときに、カーボンナノチューブ束12に加わる応力を充填層16によって緩和することが期待できる。一方、図3(c)の形状では、放熱体及び発熱体に対するカーボンナノチューブ束12の密着性を向上し、熱伝導度を向上することが期待できる。カーボンナノチューブ束12の高さと充填層16の厚さとの関係は、カーボンナノチューブシート10の使用目的やシートに加わる応力等に応じて適宜設定することが望ましい。
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図4及び図5を用いて説明する。
まず、カーボンナノチューブシート10を形成するための土台として用いる基板30を用意する。基板30としては、シリコン基板などの半導体基板や、アルミナ(サファイア)基板、MgO基板、ガラス基板などの絶縁性基板を用いることができる。また、これら基板上に薄膜が形成されたものでもよい。例えば、シリコン基板上に膜厚300nm程度のシリコン酸化膜が形成されたものを用いることができる。
基板30は、カーボンナノチューブシート10の形成後に剥離されるものである。この目的のもと、基板30としては、少なくともカーボンナノチューブシート10に接する面が、カーボンナノチューブシート10から容易に剥離できる材料によって構成されていること、又はカーボンナノチューブシート10に対して選択的にエッチングできる材料によって構成されていることが望ましい。
例えば、充填層16の材料としてアクリル樹脂を用いる場合、基板30の表面に、アクリル樹脂に対する接着力の弱い材料、例えばシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などを形成しておくことにより、カーボンナノチューブシート10を容易に剥離することができる。或いは、基板30の表面を、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜など、カーボンナノチューブシート10に対して選択的にエッチングが可能な材料により構成することにより、この膜をエッチング除去することにより、カーボンナノチューブシート10を基板30から遊離させることができる。
次いで、基板30上に、例えばスパッタ法により、膜厚が0.3〜10nm程度、例えば2.5nmのFe(鉄)膜を形成し、Feよりなる触媒金属膜32aを形成する(図4(a))。触媒金属膜32aは、電子ビーム蒸着法、MBE法などにより形成してもよい。
触媒金属としては、Feのほか、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Au(金)、Ag(銀)、Pt(白金)又はこれらのうち少なくとも一の材料を含む合金を用いてもよい。また、触媒として、金属膜以外に、微分型静電分級器(DMA:differential mobility analyzer)等を用い、予めサイズを制御して作製した金属微粒子を用いてもよい。この場合も、金属種については薄膜の場合と同様でよい。
また、これら触媒金属の下地膜として、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、TaN(窒化タンタル)、TiSix(チタンシリサイド)、Al(アルミニウム)、Al2O3(酸化アルミニウム)、TiOx(酸化チタン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、TiN(窒化チタン)などよりなる膜又はこれらのうち少なくとも一の材料を含む合金からなる膜を形成してもよい。例えば、Fe(2.5nm)/Al(10nm)の積層構造、Co(2.6nm)/TiN(5nm)の積層構造等を適用することができる。金属微粒子を用いる場合は、例えば、Co(平均直径:3.8nm)/TiN(5nm)などの積層構造を適用することができる。
次いで、触媒金属膜32a上に、スピンコート法により、フォトレジスト膜34を形成する。
次いで、フォトレジスト膜34上の触媒金属膜32bを、フォトレジスト膜34とともにリフトオフし、グラファイト層14の形成予定領域の触媒金属膜32a上に、触媒金属膜32bを選択的に残存させる。これにより、カーボンナノチューブ束12の形成予定領域には、膜厚2.5nmのFe膜よりなる触媒金属膜32aが形成され、グラファイト層14の形成予定領域には、膜厚100nmのFe膜よりなる触媒金属膜32a,32bが形成される(図4(c))。
次いで、例えばスパッタ法により、膜厚10〜200nm程度、例えば膜厚97.5nmのFe(鉄)膜を形成し、Feよりなる触媒金属膜32bを形成する。触媒金属膜32bは、フォトレジスト膜34上及び開口部36内の触媒金属膜32a上に形成される(図4(b))。触媒金属膜32bの構成材料には、触媒金属膜32aと同じ触媒金属材料を用いる。触媒金属膜32bは、電子ビーム蒸着法、MBE法などにより形成してもよい。
次いで、フォトレジスト膜34上の触媒金属膜32bを、フォトレジスト膜34とともにリフトオフし、グラファイト層14の形成予定領域の触媒金属膜32b上に、触媒金属膜32bを選択的に残存させる。これにより、カーボンナノチューブ束12の形成予定領域には、膜厚2.5nmのFe膜よりなる触媒金属膜32aが形成され、グラファイト層14の形成予定領域には、膜厚100nmのFe膜よりなる触媒金属膜32a,32bが形成される(図4(c))。
次いで、基板30上に、例えばホットフィラメントCVD法により、触媒金属膜32a,32bを触媒として、カーボンナノチューブ束12の形成予定領域上にカーボンナノチューブを、グラファイト層14の形成予定領域上にグラファイトを、それぞれ成長する。
この際、触媒金属膜32a,32bの膜厚と成長条件とを適宜設定することにより、カーボンナノチューブとグラファイトとを同時に成長することができる。
触媒金属膜が薄い領域(カーボンナノチューブ束の形成予定領域)では、成長の際の温度によって触媒金属が凝集して微粒子化する。これにより、触媒金属微粒子を核として成長が進行し、カーボンナノチューブが形成される。一方、触媒金属膜が厚い領域(グラファイト層14の形成予定領域)では、成長の際の温度では触媒金属が凝集せずに膜状のままである。これにより、触媒金属膜を核として平坦に成長が進行し、グラファイトが形成される。
そこで、カーボンナノチューブ束の形成予定領域には、成長の際の温度によって触媒金属が凝集して微粒子化する膜厚の触媒金属膜を形成し、グラファイト層の形成予定領域には、成長の際の温度では触媒金属が凝集しない膜厚の触媒金属膜を形成する。
カーボンナノチューブ束12の形成予定領域に膜厚2.5nmのFe膜よりなる触媒金属膜32aを形成し、グラファイト層14の形成予定領域に膜厚100nmのFe膜よりなる触媒金属膜32a,32bを形成した上記の例では、例えば、原料ガスとしてアセチレン・アルゴンの混合ガス(分圧比1:9)を用い、成膜室内の総ガス圧を1kPa、温度を620℃、成長時間を30分とすることにより、カーボンナノチューブ束12の形成予定領域上には、層数が3〜6層(平均4層程度)、直径が4〜8nm(平均6nm)、長さが100μm、密度が1×1011本/cm2程度の多層カーボンナノチューブを成長し、グラファイト層14の形成予定領域上に、膜厚13nmのグラファイトを成長することができた。
上記成長条件を用いた場合において、触媒金属膜としてのFe膜の膜厚と成長物との関係を調べたところ、以下のような結果となった。触媒金属膜の膜厚が10nm未満の場合には、カーボンナノチューブが成長した。触媒金属膜の膜厚が10nm以上、20nm未満では、カーボンナノチューブ及びグラファイトの双方が成長した。触媒金属膜の膜厚が20nm〜200nmでは、グラファイトが成長した。
なお、触媒金属の微粒子化は、成長温度が高いほどに生じやすくなる。また、微粒子化する条件は、触媒金属の種類によっても異なる。したがって、触媒金属膜の膜厚は、触媒金属の種類や成長温度等に応じて適宜調整することが望ましい。
カーボンナノチューブ及びグラファイトは、熱CVD法やリモートプラズマCVD法などの他の成膜方法により形成してもよい。また、成長するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでもよい。また、炭素原料としては、アセチレンのほか、メタン、エチレン等の炭化水素類や、エタノール、メタノール等のアルコール類などを用いてもよい。
こうして、基板30上に、基板30の法線方向に配向(垂直配向)した複数のカーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ束12と、シートの面に平行な層状構造のグラファイトからなるグラファイト層14とを形成する(図5(a))。
次いで、例えばスピンコート法により、充填層16となる充填材を塗布する。この際、充填材がカーボンナノチューブ束12上を覆わないように、塗布溶液の粘度やスピンコータの回転数を適宜設定する。
例えば、充填材としてアクリル樹脂を用いる場合において、カーボンナノチューブ束12の高さと充填層16の厚さとをほぼ等しくするときには、例えば、粘度が440mPa・sのアクリル樹脂を、2000rpm、20秒間の条件で塗布することにより実現することができる。
また、カーボンナノチューブ束12の高さよりも充填層16を薄くするときには、例えば、粘度が440mPa・sのアクリル樹脂を、4000rpm、20秒間の条件で塗布することにより実現することができる。或いは、MEK(メチルエチルケトン)溶液で80w%に希釈したアクリル樹脂を、2000rpm、20秒間の条件で塗布することにより実現することができる。
カーボンナノチューブ束12上を覆うように充填材を形成後、アッシング等によってカーボンナノチューブ束12の上面を露出するようにしてもよい。
また、充填材を塗布する前にカーボンナノチューブ束12及びグラファイト層14上に金属薄膜を堆積してもよい。金属薄膜としては、例えば膜厚300nmの金(Au)を堆積する。金属薄膜をカーボンナノチューブ束上に堆積することにより、カーボンナノチューブ間の熱抵抗や電気抵抗を低減し、カーボンナノチューブシートの放熱性を更に向上させることが可能となる。
充填材は、液体状の性質を示し、その後に硬化できるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、有機系充填材としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などを適用することができる。また、無機系充填材としては、SOGなどの塗布型絶縁膜形成用組成物などを適用することができる。また、インジウム、はんだ、金属ペースト(例えば、銀ペースト)などの金属材料を適用することもできる。また、例えばポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性ポリマを適用することもできる。
充填層16を形成する際、基板30上には複数のカーボンナノチューブ束12が間隔を開けて形成されているため、塗布した充填材は、まず、この間隙に沿って基板30の全面に広がる。そしてその後に、充填材は、カーボンナノチューブ束12内及びグラファイト層14内に浸透していく。
カーボンナノチューブが基板上の全面に形成されていると、カーボンナノチューブ束内に充填材が浸透する際、1本1本のカーボンナノチューブ同士の凝集が起こり、カーボンナノチューブ束が元々保持していた配向性を失い、例えば横に倒れるなどの形状変化を起こそうとする。
しかしながら、本実施形態のようにカーボンナノチューブ束12間に間隙を設けておくことにより、充填材は、基板30の全面に広がった後に、カーボンナノチューブ束12内へ浸透していく。このため、カーボンナノチューブ束12間に先んじて充填された充填材が、カーボンナノチューブ束内に充填材が浸透する際にカーボンナノチューブの形状を保持するためのサポータとしての役割を果たし、カーボンナノチューブ束12の形状変化を抑制することができる。これにより、カーボンナノチューブ束12の配向方向を維持したままで、充填層16を形成することができる。
カーボンナノチューブ束12間に必要な間隙は、充填材の種類や粘度等によっても変わるため一概に決定することはできないが、本発明者等が検討したところでは、0.1μm以上の間隔を開けることにより、カーボンナノチューブ束の形状変化を防止できることが確認されている。
なお、充填層16は、充填材の溶液中に基板30を浸漬することにより形成してもよい(いわゆるディップ法)。この場合にも、カーボンナノチューブ束12間に設けた間隙により、カーボンナノチューブ束の形状変化を防止できることができる。
次いで、充填材を硬化し、充填材よりなる充填層16を形成する(図5(b))。例えば、充填材としてアクリル樹脂等の光硬化性の材料を用いる場合には、光照射によって充填材を硬化させることができる。また、充填材としてエポキシ樹脂やシリコーン系樹脂などの熱硬化性の材料を用いる場合には、熱処理によって充填材を硬化させることができる。エポキシ樹脂の場合、例えば150℃、1時間の熱処理により、熱硬化することができる。また、シリコーン系樹脂の場合、例えば200℃、1時間の熱処理により、熱硬化することができる。
なお、充填層16の硬化後に、カーボンナノチューブ束12の上端部が充分に露出していない又は充填層16によって覆われている場合には、化学的機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)、酸素プラズマアッシング、アルゴンイオンミリング等によって、カーボンナノチューブ束12の上の充填層16を除去するようにしてもよい。
次いで、カーボンナノチューブ束12、グラファイト層14及び充填層16を基板30から剥離し、カーボンナノチューブシート10を得る(図5(c))。
この際、基板30の表面がカーボンナノチューブシート10を容易に剥離できる材料によって構成されている場合、例えば、基板30の表面にシリコン酸化膜やシリコン窒化膜が形成されており、充填層16がアクリル樹脂により形成されている場合などには、カーボンナノチューブシート10から基板30を容易に剥離することができる。
或いは、基板30の表面に、カーボンナノチューブシート10を容易に剥離することはできないが、カーボンナノチューブシート10に対して選択的にエッチングできる層が形成されている場合、例えば基板30の表面にシリコン酸化膜やシリコン窒化膜が形成されており、充填層16がエポキシ樹脂により形成されている場合などには、このシリコン酸化膜やシリコン窒化膜を、弗酸水溶液や熱リン酸などを用いたウェットエッチングにより除去することにより、カーボンナノチューブシート10を基板30から遊離させることができる。
基板30の表面が、カーボンナノチューブシート10を容易に剥離することができず、選択的に除去することもできない材料により形成されている場合、例えば基板30がサファイア基板であり、充填層16がシリコーン系樹脂により形成されている場合には、基板30とカーボンナノチューブシート10との間に鋭利な刃物を入れることにより、カーボンナノチューブシート10を基板30から剥離することができる。
剥離前、カーボンナノチューブ束12及びグラファイト層14は基板30に直に接しているため、剥離したカーボンナノチューブシート10の基板30側の面には、カーボンナノチューブ束12及びグラファイト層14が露出している。したがって、上述の製造方法により形成したカーボンナノチューブシート10では、カーボンナノチューブ束12をシートの両面に露出させることができ、グラファイト層14を片面に露出させることができる。カーボンナノチューブ束12又はグラファイト層14が露出した部位には、Inなどの金属、はんだ、AuSnなどのめっき、金属ペースト等を介した接続を行うことも可能である。
従来用いられてきたインジウムシートの熱抵抗は0.21(℃/W)であるのに対し、上記と同様の工程で作製したカーボンナノチューブのみから構成されたカーボンナノチューブシートの熱抵抗は0.13(℃/W)であった。熱伝導率の差が熱抵抗の違いに反映されていることから、カーボンナノチューブに加え面平行方向に放熱可能なグラファイト層が追加された本実施形態のカーボンナノチューブでは、さらに熱抵抗が低減されることは明らかである。
このように、本実施形態によれば、基板上に互いに離間した複数のカーボンナノチューブ束を形成後、充填材を充填してカーボンナノチューブ束を保持する充填層を形成するので、充填層の形成の際にカーボンナノチューブ束の形状変化を防止することができる。これにより、カーボンナノチューブ束がシートの膜厚方向に配向したカーボンナノチューブシートを容易に形成することができる。また、カーボンナノチューブ束の両端部は充填層から露出できるので、被着体に対する熱伝導度及び電気伝導度を向上することができる。
また、カーボンナノチューブ束の間隙には、カーボンナノチューブ束に接続してグラファイト層が形成されているので、シートの面に平行な方向への熱伝導度及び電気伝導度をも向上することができる。
また、カーボンナノチューブ束とグラファイト層とは同時に形成できるので、製造工程を大幅に変更することなくカーボンナノチューブシートを形成することができる。これにより、製造コストの増加を防止することができる。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図6乃至図9を用いて説明する。図1乃至図5に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同様の構成要素には同一の符号を付し説明を省略し又は簡潔にする。
図6は本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す平面図及び概略断面図、図7は本実施形態の変形例によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図、図8及び図9は本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図6を用いて説明する。図6(a)及び図6(b)は、それぞれ、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す平面図及び断面図である。
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、互いに間隔を開けて配置された複数のカーボンナノチューブ束12を有している(図6(a)参照)。カーボンナノチューブ束12の間隙には、一端側がシートの表面に露出したカーボンナノチューブ層(炭素元素からなる線状構造体層)18と、カーボンナノチューブ層18上に形成されたグラファイト層20と、樹脂材料等よりなる充填層16とが埋め込まれている(図6(a),(b)参照)。グラファイト層20は、カーボンナノチューブ束12及びカーボンナノチューブ層20に対して、熱的に且つ電気的に接続されている。
なお、本願明細書では、カーボンナノチューブ束、カーボンナノチューブ層若しくはグラファイト層又はこれらの組み合わせからなる構造体を、炭素構造体と呼ぶこともある。
カーボンナノチューブ束12は、シートの面に垂直な方向に延在するように形成されており、シートの面に垂直な方向に配向した複数のカーボンナノチューブを有している。
カーボンナノチューブ束12を構成するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれでもよい。カーボンナノチューブ束12に含まれるカーボンナノチューブの密度は、放熱性及び電気伝導性の観点から、1×1010本/cm2以上であることが望ましい。カーボンナノチューブ束12の長さ(シートの厚さ)は、カーボンナノチューブシート10の用途によって決まり、特に限定されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm程度の値に設定することができる。
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10では、グラファイト層20上のカーボンナノチューブ束12間に間隙が設けられ、この間隙に充填層16が形成されている。これは、カーボンナノチューブ間に充填層16を形成する際に、充填材の浸透性を高め、カーボンナノチューブが横に倒れるなどの形状変化を抑制し、カーボンナノチューブが元々保持していた配向性を保持するためである(第1実施形態を参照)。
カーボンナノチューブ束12の形状や配置等については、第1実施形態の場合と同様である。
カーボンナノチューブ層18は、シートの面に垂直な方向に延在するように形成されており、シートの面に垂直な方向に配向した複数のカーボンナノチューブを有している。
カーボンナノチューブ層18を構成するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれでもよい。カーボンナノチューブ層18に含まれるカーボンナノチューブの密度は、放熱性及び電気伝導性の観点から、1×1010本/cm2以上であることが望ましい。カーボンナノチューブ層18の長さは、カーボンナノチューブシート10の用途によって決まり、特に限定されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm程度の値に設定することができる。
グラファイト層20は、シートの面に平行な層状構造のグラファイトからなり、カーボンナノチューブ束12の側面及びカーボンナノチューブ層18の上面に接続するように形成されている。グラファイト層20の厚さは、例えば数nm〜数十nm程度である。
充填層16の構成材料については、第1実施形態の場合と同様である。
このように、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、シートの面に垂直な方向に配向したカーボンナノチューブ束12及びカーボンナノチューブ層18と、シートの面に平行な層状構造のグラファイトからなるグラファイト層20とを有している。カーボンナノチューブは、配向方向に沿った熱伝導率が1500(W/m・K)程度と、非常に高い熱伝導率を有している。また、グラファイトは、カーボンナノチューブほどの熱伝導率は有していないものの、層面に平行(a軸)な方向の熱伝導率が500(W/m・K)程度と、こちらも非常に高い熱伝導率を有している。
したがって、本実施形態のようにカーボンナノチューブ束12、カーボンナノチューブ層18及びグラファイト層20を組み合わせてカーボンナノチューブシート10を構成することにより、シートの面に垂直な方向への熱伝導性を主としてカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブ束12及びカーボンナノチューブ層18)により確保し、シートの面に平行な方向への熱伝導性を主としてグラファイト(グラファイト層20)により確保することができる。
グラファイトは、樹脂材料(熱伝導率:1(W/m・K)程度)と比較して500倍以上の熱伝導率を有している。したがって、グラファイト層20を設けることにより、グラファイト層20を形成しない場合と比較して、シートの面に平行な方向への放熱性を500倍以上と大幅に改善することができる。
本実施形態によるカーボンナノチューブシートが第1実施形態によるカーボンナノチューブシートと比較して優れている点は、グラファイト層20が、カーボンナノチューブシート下部に設置する放熱体とカーボンナノチューブ層18を介して間接的に接続していることである。すなわち、一度カーボンナノチューブ層18を介してグラファイト層20へ放熱を行う本実施形態のカーボンナノチューブシートは、放熱体とグラファイト層20が直接的に接続している第1実施形態によるカーボンナノチューブシートと比較して、特に放熱体とシートの接触面がシートの大きさと比較して同程度の場合、平行な方向への放熱性が優れている。
また、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、カーボンナノチューブ束12の上端及び下端が充填層16によって覆われていない。これにより、カーボンナノチューブシート10を放熱体又は発熱体と接触したとき、カーボンナノチューブ束12が放熱体又は発熱体に対して直に接するため、熱伝導効率を大幅に高めることができる。
カーボンナノチューブ及びグラファイトは高い導電性をも併有しているため、カーボンナノチューブ束12の上端及び下端が露出していることにより、カーボンナノチューブ束12を、シートを貫く配線体として用いることもできる。また、グラファイト層20を、シートの面に平行な方向の配線体として用いることもができる。すなわち、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、熱伝導シートとしてのみならず、配線シートとしても利用可能である。
カーボンナノチューブ束12の高さと充填層16の厚さ(いずれもシートの厚さ方向の長さ)との関係については、第1実施形態の場合と同様である。
カーボンナノチューブ束12間に形成するカーボンナノチューブ層18及びグラファイト層20は、例えば図7に示すように、繰り返し積層するようにしてもよい。図7の例ではカーボンナノチューブ層18とグラファイト層20との積層構造を2層積み重ねた構造としたが、3層以上積み重ねるようにしてもよい。
グラファイト層20を複数層設けることにより、グラファイト層20の実質的な膜厚が増加し、横方向への熱伝導性及び電気伝導性を向上することができる。
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図8及び図9を用いて説明する。
まず、カーボンナノチューブシート10を形成するための土台として用いる基板30を用意する。基板30としては、第1実施形態に記載の種々の基板を用いることができる。
次いで、基板30上に、カーボンナノチューブ束12の形成予定領域を露出するフォトレジスト膜(図示せず)を形成する。カーボンナノチューブ束12の形成予定領域の形状や配置は、第1実施形態の場合と同様である。カーボンナノチューブ束12の形成予定領域は、例えば直径が100μmの円形状とし、隣接する領域間の間隔を例えば100μmとする。
次いで、例えばスパッタ法により、例えば膜厚2.5nmのFe膜を堆積し、Fe膜よりなる触媒金属膜32を形成する。触媒金属としては、第1実施形態の場合と同様の触媒金属材料を用いることができる。
次いで、フォトレジスト膜上の触媒金属膜32をフォトレジスト膜とともにリフトオフし、触媒金属膜32をカーボンナノチューブ束12の形成予定領域に選択的に残存させる。こうして、カーボンナノチューブ束12の形成予定領域に、例えば膜厚2.5nmのFe膜よりなる触媒金属膜32を形成する(図8(a))。
次いで、基板30上に、例えばホットフィラメントCVD法により、触媒金属膜32を触媒として、カーボンナノチューブを成長する。カーボンナノチューブの成長条件は、例えば、原料ガスとしてアセチレン・アルゴンの混合ガス(分圧比1:9)を用い、成膜室内の総ガス圧を1kPa、温度を620℃、成長時間を30分とする。これにより、層数が3〜6層(平均4層程度)、直径が4〜8nm(平均6nm)、長さが100μmの多層カーボンナノチューブを成長することができる。なお、カーボンナノチューブは、熱CVD法やリモートプラズマCVD法などの他の成膜方法により形成してもよい。また、成長するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでもよい。また、炭素原料としては、アセチレンのほか、メタン、エチレン等の炭化水素類や、エタノール、メタノール等のアルコール類などを用いてもよい。
こうして、基板30の触媒金属膜32が形成された領域上に、基板30の法線方向に配向(垂直配向)した複数のカーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ束12を選択的に形成する(図8(b))。なお、上記の成長条件で形成したカーボンナノチューブ束12では、カーボンナノチューブ束12内のカーボンナノチューブ密度は、1×1011本/cm2程度であった。
次いで、カーボンナノチューブ束12が形成された基板30上に、例えばスパッタ法により、例えば膜厚5nmのTiN膜と、例えば膜厚2.6nmのCo膜とを順次堆積し、Co/TiNの積層構造よりなる触媒金属膜38を形成する(図8(c))。この際、カーボンナノチューブ束12の上端は連続した平面を構成していないため、触媒金属膜38はカーボンナノチューブ束12上には膜としては形成されない。なお、触媒金属膜38の下地膜としては、TiNのほか、Tiを含有する他の材料、例えばTi(チタン)やTiO2(酸化チタン)等を用いることができる。
次いで、基板30上に、例えば熱CVD法により、触媒金属膜38を触媒として、上面がグラファイト層20により覆われたカーボンナノチューブ層18を形成する(図9(a))。
上面がグラファイト層20により覆われたカーボンナノチューブ層18は、アセチレン、メタン、エチレン等の炭化水素類の原料ガスを用い、450℃〜510℃程度の比較的低温で成長することにより、形成することができる。例えば、原料ガスとしてアセチレン・アルゴンの混合ガス(分圧比1:9)を用い、成膜室内の総ガス圧を1kPa、温度を450℃〜510℃、成長時間を30分とする。これにより、層数が3〜6層(平均4層程度)、直径が4〜8nm(平均6nm)、長さが20μmの多層カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ層18を成長することができる。また、カーボンナノチューブ層18上には、厚さ18nmのグラファイト層20が形成される。
上面がグラファイト層20により覆われたカーボンナノチューブ層18は、触媒金属膜38の膜厚(Co膜の膜厚)と、成膜温度とを適宜制御することにより、形成することができる。
表1に、触媒金属膜38を構成するCo膜の膜厚及び成膜温度と、それにより形成される構造体との関係を調べた結果を示す。なお、触媒金属膜38を構成するTiN膜の膜厚は、5nm一定とした。
表1中、「CNT」はカーボンナノチューブのみが成長されたものを、「グラファイト/CNT」は上面にグラファイトが形成されたカーボンナノチューブが形成されたものを、それぞれ示している。
表1に示すように、Co膜の膜厚を2.1nm〜3.6nmの範囲に、成膜温度を450℃〜510℃の範囲に、それぞれ設定することにより、上面がグラファイト層により覆われたカーボンナノチューブ層を形成することができた。本願発明者等がより具体的に検討を行ったところ、Co膜の膜厚を2.0nm〜7.0nmとし、350℃〜560℃の成膜温度で成長を行うことにより、上面がグラファイト層により覆われたカーボンナノチューブ層を形成できることが判った。
また、形成されるグラファイト層の厚さも、Co膜の膜厚及び成膜温度により制御することができ、510℃の温度の場合、Co膜の膜厚が2.1nmのときに膜厚4nmのグラファイト層を形成することができ、Co膜の膜厚が2.6nmのときに膜厚18nmのグラファイト層を形成することができ、Co膜の膜厚が3.6nmのときに膜厚30nmのグラファイト層を形成することができた。また、成膜温度が450℃、Co膜の膜厚が3.6nmのときに、膜厚が20nmのグラファイト層を形成することができた。
上面がグラファイト層20により覆われたカーボンナノチューブ層18が形成されるメカニズムは明らかではないが、本願発明者等は以下のように推察している。
本実施形態において、カーボンナノチューブ層18の成長は、カーボンナノチューブ束12の成長の場合よりも低温で行っている。このため、成長初期過程では、触媒金属膜38のCo膜が十分に凝集しておらず、触媒金属膜38上に均一にグラファイトが成長されるものと考えられる。この後、Co膜の凝集とともにカーボンナノチューブの成長が開始され、結果、上面がグラファイト層20により覆われたカーボンナノチューブ層18が形成されるものと考えられる。
上面がグラファイト層20により覆われたカーボンナノチューブ層18を形成する際、グラファイト層20は、成長初期の1秒程度の間に形成される。カーボンナノチューブ層18の厚さ(カーボンナノチューブの長さ)は、成長時間によって任意に制御することができる。
次いで、図7に示す構造のカーボンナノチューブシートを形成する場合にあっては、上述の図8(c)〜図9(a)に示す工程を必要なだけ繰り返し行い、カーボンナノチューブ層18とグラファイト層20との積層体を所定の層数積み重ねる。
グラファイト層20の上面は、カーボンナノチューブ束12上とは異なり、面状に形成されているため、その上に触媒金属膜38を堆積することができる。これにより、カーボンナノチューブ層18及びグラファイト層20の繰り返し成長が可能である。
次いで、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、カーボンナノチューブ束12間の領域、カーボンナノチューブ間、グラファイト層内に埋め込まれた充填層16を形成する(図9(b))。
次いで、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、カーボンナノチューブ束12、カーボンナノチューブ層18、グラファイト層20及び充填層16を基板30から剥離し、カーボンナノチューブシート10を得る(図9(c))。
このように、本実施形態によれば、基板上に互いに離間した複数のカーボンナノチューブ束を形成後、充填材を充填してカーボンナノチューブ束を保持する充填層を形成するので、充填層の形成の際にカーボンナノチューブ束の形状変化を防止することができる。これにより、カーボンナノチューブ束がシートの膜厚方向に配向したカーボンナノチューブシートを容易に形成することができる。また、カーボンナノチューブ束の両端部は充填層から露出できるので、被着体に対する熱伝導度及び電気伝導度を向上することができる。
また、カーボンナノチューブ束の間隙には、カーボンナノチューブ束に接続して、カーボンナノチューブ層とグラファイト層との積層体が形成されているので、シートの面に平行な方向への熱伝導度及び電気伝導度をも向上することができる。
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態による半導体装置及びその製造方法について図10乃至図13を用いて説明する。
図10は本実施形態による半導体装置の構造を示す概略断面図、図11乃至図13は本実施形態による半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
はじめに、本実施形態による半導体装置の構造について図10を用いて説明する。
基板40上には、配線層42が形成されている。配線層42が形成された領域以外の基板40上の領域には、層間絶縁膜44が形成されている。配線層42の一端部上には、TiN膜50を介してカーボンナノチューブの束よりなるビア配線64が形成されている。ビア配線64上には、グラファイトよりなりビア配線64に接続された配線層66が形成されている。ビア配線64の形成領域を除く配線層66の形成領域の、配線層42上及び層間絶縁膜44上には、TiO2膜56が形成されている。ビア配線64及び配線層66の周囲には、層間絶縁膜68が形成されている。配線層66の一端部上には、TiN膜70を介してカーボンナノチューブの束よりなるビア配線72が形成されている。ビア配線72上には、グラファイトよりなりビア配線72に接続された配線層74が形成されている。ビア配線72の形成領域を除く配線層74の形成領域の、層間絶縁膜68上には、TiO2膜が形成されている。ビア配線72及び配線層74の周囲には、層間絶縁膜76が形成されている。
このように本実施形態による半導体装置は、下層配線層(例えば配線層42)と上層配線(例えば配線層66)とを接続するビア配線(例えばビア配線64)が、カーボンナノチューブ束により構成されている。また、カーボンナノチューブ束よりなるビア配線(例えばビア配線64)に接続される配線層(例えば配線層66)が、グラファイト層により構成されている。
配線層及びビア配線を、抵抗値の低いグラファイト及びカーボンナノチューブで形成することにより、配線抵抗を大幅に低減することができる。これにより、半導体装置の高速動作が可能となるとともに、消費電力を低減することができる。
次に、本実施形態による半導体装置の製造方法について図11乃至図13を用いて説明する。
基板40上に、配線層42と、層間絶縁膜44とが形成されているものとする(図11(a))。配線層42及び層間絶縁膜44は、通常の半導体装置の製造プロセスにより形成されたものである。基板40は、シリコン基板などの半導体基板そのもののみならず、トランジスタなどの素子や、1層又は2層以上の配線層が形成された半導体基板をも含むものである。配線層42の材料としては、例えば銅が挙げられる。この場合、ビア底には銅の拡散を防止するためのタンタルなどが堆積される。
この基板40上に、フォトリソグラフィにより、配線層42に上層配線層を接続するためのビア部の形成予定領域を露出し、他の領域を覆うフォトレジスト膜48を形成する。
次いで、例えばスパッタ法により、膜厚1〜20nm程度、例えば5nmのTiN膜50と、膜厚2〜3nm程度、例えば2.1nmのCo膜52とを順次堆積し、Co/TiNの積層構造よりなる触媒金属膜を形成する(図11(b))。触媒金属膜は、電子ビーム蒸着法、CVD法、MBE法等により形成してもよい。
なお、上述のようにリフトオフ法によって触媒金属膜を選択的に形成する代わりに、触媒金属膜を全面に形成した後、フォトリソグラフィ及びイオンミリングを用いてパターニングするようにしてもよい。パターニングの手法には他にEB(電子ビーム)露光法などがあるが、特に限定はない。
次いで、フォトレジスト膜48上のTiN膜50及びCo膜52をフォトレジスト膜48とともにリフトオフし、ビア部の形成予定領域にCo膜52/TiN膜50の積層構造よりなる触媒金属膜を選択的に残存させる(図11(c))。
次いで、フォトリソグラフィにより、配線層42に接続される上層配線層の形成予定領域であって、Co膜52/TiN膜50からなる触媒金属膜が形成されたビア部の形成予定領域を除く領域を露出し、他の領域を覆うフォトレジスト膜54を形成する。
次いで、例えばスパッタ法により、膜厚1〜20nm程度、例えば5nmのTiO2膜56と、膜厚3〜7nm程度、例えば4.5nmのCo膜58とを順次堆積し、Co/TiO2の積層構造よりなる触媒金属膜を形成する(図12(a))。
なお、ビア部形成予定領域を除く配線層形成予定領域に形成する触媒金属膜の下地膜として、ビア部形成予定領域に用いたTiN膜50とは異なるTiO2膜56を用いているのは、触媒金属膜の下地膜(TiN膜50、TiO2膜56)が配線層の形成後も残存するからである。すなわち、ビア部形成予定領域では、下地の配線層42との電気的接続を確保するために導電性のTiN膜50を用いる必要があるが、ビア部形成予定領域を除く配線層形成予定領域までTiN膜などの導電膜で形成すると、TiN膜50を介して他の配線層と短絡する虞があるからである。かかる観点から、ビア部形成予定領域を除く配線層形成予定領域には、TiO2膜などの絶縁性の下地膜を形成することが望ましい。配線層間の短絡が生じる虞がない場合には、ビア部形成予定領域と同様、導電性の下地膜を形成してもよい。
次いで、フォトレジスト膜54上のTiO2膜56及びCo膜58をフォトレジスト膜54とともにリフトオフし、ビア部形成予定領域を除く配線層形成予定領域にCo膜58/TiO2膜56の積層構造よりなる触媒金属膜を選択的に残存させる(図12(b))。
次いで、例えば熱CVD法により、触媒金属膜を触媒として、カーボンナノチューブ及びグラファイトの成長を行う。この際の成長条件を、例えば、原料ガスをアセチレン・アルゴンの混合ガス(分圧比1:9)、成膜室内の総ガス圧を1kPa、温度を450℃とすることにより、Co膜52/TiN膜50の触媒金属膜が形成されたビア部形成予定領域には、カーボンナノチューブ束からなるビア配線64が形成され、Co膜58/TiO2膜56が形成された配線層形成予定領域には、TiO2膜56から離間して、ビア配線64上に延在するグラファイト層からなる配線層66が形成される(図12(c))。カーボンナノチューブ及びグラファイトは、ホットフィラメントCVD法やリモートプラズマCVD法等により形成してもよい。
なお、Co膜52,58は、カーボンナノチューブ及びグラファイトの成長過程で微粒子化し、カーボンナノチューブ又はグラファイト内に取り込まれる。
Co膜52/TiN膜50からなる触媒金属膜上とCo膜58/TiO2膜56からなる触媒金属膜上とにおいて形成される構造体が異なるのは、Co膜の膜厚の違いによる成長レートの違いが影響しているためである。
上記成膜温度により膜厚2.1nm或いは膜厚4.5nmのCo膜を触媒として成長を行う条件は、第2実施形態において示したように、いずれの場合も、上面がグラファイト層により覆われたカーボンナノチューブが成長される条件である。しかしながら、膜厚4.5nmのCo膜が形成された領域におけるカーボンナノチューブの成長レートは、膜厚2.1nmのCo膜が形成された領域におけるカーボンナノチューブの成長レートよりも大幅に遅いため、グラファイト層よりなる配線層66が形成された後は、Co膜52/TiN膜50からなる触媒金属膜上におけるカーボンナノチューブの成長が支配的となる。この結果、Co膜52/TiN膜50からなる触媒金属膜上へのカーボンナノチューブの成長とともに、配線層形成予定領域の全体のグラファイト層が持ち上げられ、Co膜58/TiO2膜56からなる触媒金属膜上へのカーボンナノチューブの成長が行われなくなる。この結果、図12(c)に示すようなビア配線64及び配線層66が形成される。
表2は、Co膜厚及びカーボンナノチューブの成長条件を変化したときの形成されるカーボンナノチューブの長さを示したものである。
表2に示すように、カーボンナノチューブの成長レートは、いずれの成長温度の場合にも、Co膜厚が厚いほどに小さくなっている。したがって、ビア配線形成領域及び配線層形成領域に堆積するCo膜の膜厚を適宜設定することにより、カーボンナノチューブ束よりなるビア配線と、グラファイト層よりなる配線層とを同時に形成することができる。
次いで、配線層66が形成された基板40上に、例えばスピンコート法やCVD法により、配線層66を覆う層間絶縁膜68を形成する(図13(a))。
次いで、例えばCMP法により、配線層66の表面が露出するまで層間絶縁膜68の表面を研磨する(図13(b))。
次いで、必要に応じて図11(b)乃至図13(a)に示す工程を繰り返し、配線層66の上層に、TiN膜70を介して配線層66に電気的に接続されたビア配線72及び配線層74、層間絶縁膜76等を形成する(図13(c))。
このように、本実施形態によれば、カーボンナノチューブ束よりなるビア配線と、このビア配線に接続されたグラファイト層よりなる配線層を形成することができる。これにより、ビア配線及び配線層の電気抵抗を大幅に低減することができ、半導体装置の特性向上を図ることができる。また、カーボンナノチューブ束よりなるビア配線とグラファイト層よりなる配線層とは、同時に形成することができるので、製造工程を大幅に変更することなく配線構造体を形成することができる。これにより、製造コストの増加を防止することができる。
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態による半導体装置及びその製造方法について図14乃至図17を用いて説明する。
図14は本実施形態による半導体装置の構造を示す概略断面図、図15乃至図17は本実施形態による半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
はじめに、本実施形態による半導体装置の構造について図14を用いて説明する。
基板40上には、配線層42が形成されている。配線層42が形成された基板40上には、層間絶縁膜44が形成されている。層間絶縁膜44には、配線層42に達するコンタクトホール46が形成されている。コンタクトホール46内の配線層42上には、TiN膜50を介してカーボンナノチューブの束よりなるビア配線64が形成されている。ビア配線64上には、ビア配線64に接続された配線層84が形成されている。配線層84は、ビア配線64上に形成されたグラファイト層66aと、層間絶縁膜上にTiN膜66を介して形成されたグラファイト層66bと、グラファイト層66a,66b上に形成されたTiC膜82とを有している。
このように本実施形態による半導体装置は、下層配線層(例えば配線層42)と上層配線(例えば配線層84)とを接続するビア配線(例えばビア配線64)が、カーボンナノチューブ束により構成されている。また、カーボンナノチューブ束よりなるビア配線(例えばビア配線64)に接続される配線層(例えば配線層84)が、グラファイト層66a,66b及びTiC膜82により構成されている。
配線層及びビア配線を、抵抗値の低いグラファイト及びカーボンナノチューブで形成することにより、配線抵抗を大幅に低減することができる。これにより、半導体装置の高速動作が可能となるとともに、消費電力を低減することができる。
なお、グラファイト層66a,66b上に形成されたTiC膜82は、グラファイト層66a,66b間の電気的接続を確実にするためのものである。グラファイト層66aとグラファイト層66bとは、異なる下地から別々に成長されるものであり、隣接する領域に形成されはするものの、電気的に十分な接続が確保できないことが考えられる。TiC膜82は、このような場合を考慮して形成されるものであり、グラファイト層66aとグラファイト層66bとの間の電気的接続が十分であれば、必ずしも形成する必要はない。
次に、本実施形態による半導体装置の製造方法について図15乃至図17を用いて説明する。
基板40上に、配線層42と、配線層42を覆う層間絶縁膜44とが形成されているものとする(図15(a))。基板40は、シリコン基板などの半導体基板そのもののみならず、トランジスタなどの素子や、1層又は2層以上の配線層が形成された半導体基板をも含むものである。
次いで、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、層間絶縁膜44に、配線層42に達するコンタクトホール46を形成する(図15(b))。
次いで、フォトリソグラフィにより、層間絶縁膜44上に、コンタクトホール46の形成領域を露出し、他の領域を覆うフォトレジスト膜48を形成する。なお、フォトレジスト膜48は、コンタクトホール46の形成に用いたフォトレジスト膜を用いてもよい。
次いで、例えばスパッタ法により、膜厚1〜20nm程度、例えば5nmのTiN膜50と、膜厚2〜3nm程度、例えば2.6nmのCo膜52とを順次堆積し、Co/TiNの積層構造よりなる触媒金属膜を形成する(図11(c))。触媒金属膜は、電子ビーム蒸着法、CVD法、MBE法等により形成してもよい。
次いで、フォトレジスト膜48上のTiN膜50及びCo膜52をフォトレジスト膜48とともにリフトオフし、コンタクトホール46内の配線層42上にCo膜52/TiN膜50の積層構造よりなる触媒金属膜を選択的に残存させる(図16(a))。
次いで、フォトリソグラフィにより、配線層42に接続される上層配線層の形成予定領域であって、コンタクトホール46の形成領域を除く領域を露出し、他の領域を覆うフォトレジスト膜54を形成する。
次いで、例えばスパッタ法により、膜厚1〜20nm程度、例えば5nmのTiN膜60と、膜厚3〜7nm程度、例えば4.5nmのCo膜62とを順次堆積し、Co/TiNの積層構造よりなる触媒金属膜を形成する(図16(b))。
次いで、フォトレジスト膜54上のTiN膜60及びCo膜62をフォトレジスト膜54とともにリフトオフし、コンタクトホール46の形成領域を除く配線層の形成予定領域にCo膜62/TiN膜60の積層構造よりなる触媒金属膜を選択的に残存させる(図16(c))。
次いで、例えば熱CVD法により、触媒金属膜を触媒として、カーボンナノチューブ及びグラファイトの成長を行う。この際の成長条件を、例えば、原料ガスをアセチレン・アルゴンの混合ガス(分圧比1:9)、成膜室内の総ガス圧を1kPa、温度を450℃とすることにより、Co膜52/TiN膜50の触媒金属膜が形成されたビア部形成予定領域には、上面がグラファイト層66aにより覆われたカーボンナノチューブ束からなるビア配線64が形成され、Co膜62/TiN膜60が形成された配線層形成予定領域には、グラファイト層66bが形成される(図17(a))。カーボンナノチューブ及びグラファイトは、ホットフィラメントCVD法やリモートプラズマCVD法等により形成してもよい。
なお、Co膜52,62は、カーボンナノチューブ及びグラファイトの成長過程で微粒子化し、カーボンナノチューブ又はグラファイト内に取り込まれる。
Co膜52/TiN膜50からなる触媒金属膜上とCo膜62/TiN膜60からなる触媒金属膜上とにおいて形成される構造体が異なるのは、Co膜の膜厚の違いによる成長レートの違いが影響しているためである。
上記成膜温度により膜厚2.6nm或いは膜厚4.5nmのCo膜を触媒として成長を行う条件は、第2実施形態において示したように、いずれの場合も、上面がグラファイト層により覆われたカーボンナノチューブが成長される条件である。しかしながら、膜厚4.5nmのCo膜が形成された領域におけるカーボンナノチューブの成長レートは、膜厚2.6nmのCo膜が形成された領域におけるカーボンナノチューブの成長レートよりも大幅に遅いため、グラファイト層66a下にカーボンナノチューブ束からなるビア配線64が形成される間に、グラファイト層66b下にはカーボンナノチューブ束はほとんど成長されない。この結果、図17(a)に示すようなビア配線64と、グラファイト層66a,66bとが形成される。
次いで、フォトリソグラフィにより、配線層形成予定領域(グラファイト層66a、66bの形成領域)を露出し他の領域を覆うフォトレジスト膜78を形成する。
次いで、例えばスパッタ法により、例えば膜厚50nmのTi膜80を堆積する(図17(b))。
次いで、フォトレジスト膜78上のTi膜80をフォトレジスト膜78とともにリフトオフし、配線層形成予定領域のグラファイト層66a,66b上にTi膜80を選択的に残存させる。
次いで、例えば450℃10分間の熱処理を行い、Ti膜80とグラファイト層66a,66bの上部とを反応させ,グラファイト層66a,66bの表面に、TiC(チタンカーバイド)膜82を形成する。スパッタによる堆積だけでもTiCは形成されるが、この熱処理を行うことによりTiCの形成が促進される。こうして、グラファイト層66a,66b及びTiC膜82よりなる配線層84を形成する(図17(c))。
このように、本実施形態によれば、カーボンナノチューブ束よりなるビア配線と、このビア配線に接続されたグラファイト層よりなる配線層を形成することができる。これにより、ビア配線及び配線層の電気抵抗を大幅に低減することができ、半導体装置の特性向上を図ることができる。また、カーボンナノチューブ束よりなるビア配線とグラファイト層よりなる配線層とは、同時に形成することができるので、製造工程を大幅に変更することなく配線構造体を形成することができる。これにより、製造コストの増加を防止することができる。
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態による電子機器について図18を用いて説明する。
図18は、本実施形態による電子機器の構造を示す概略断面図である。
本実施形態では、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを熱伝導性シートとして適用した電子機器について説明する。
多層配線基板などの回路基板100上には、例えばCPUなどの半導体素子106が実装されている。半導体素子106は、はんだバンプ102を介して回路基板100に電気的に接続されており、回路基板100と半導体素子106との間にはアンダーフィル104が充填されている。
半導体素子106上には、半導体素子106を覆うように、半導体素子106からの熱を拡散するためのヒートスプレッダ110が形成されている。半導体素子106とヒートスプレッダ110との間には、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシート108が形成されている。カーボンナノチューブシート108は、発熱源である半導体素子106側にグラファイト層14又はカーボンナノチューブ層18が位置するように配置されている(図1及び図6を参照)。
ヒートスプレッダ110上には、ヒートスプレッダ110に伝わった熱を放熱するためのヒートシンク114が形成されている。ヒートスプレッダ110とヒートシンク114との間には、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシート112が形成されている。
このように、本実施形態による電子機器では、半導体素子106とヒートスプレッダ110との間及びヒートスプレッダ110とヒートシンク114との間、すなわち発熱部と放熱部との間に、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシート108,112がそれぞれ設けられている。
上述のように、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシートは、カーボンナノチューブ束12がシートの膜面に対して垂直に配向しており、その間にはシートの膜面に平行な層状構造のグラファイトからなるグラファイト層14が形成されており、面直方向及び水平方向の熱伝導度が極めて高いものである。
したがって、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを、半導体素子106とヒートスプレッダ110との間及びヒートスプレッダ110とヒートシンク114との間に形成する熱伝導シートとして用いることにより、半導体素子106から発せられた熱を効率よく水平方向に広げつつヒートスプレッダ110及びヒートシンク114に垂直方向に伝えることができ、放熱効率を高めることができる。これにより、電子機器の信頼性を向上することができる。
このように、本実施形態によれば、半導体素子とヒートスプレッダとの間及びヒートスプレッダとヒートシンクとの間に、カーボンナノチューブ束がシートの膜面に対して配向しているとともに、カーボンナノチューブ束の間に、シートの膜面に平行な層状構造のグラファイトからなるグラファイト層が形成されている第1又は第2実施形態のカーボンナノチューブシートを配置するので、これらの間の熱伝導度を大幅に向上することができる。これにより、半導体素子から発せられる熱の放熱効率を高めることができ、電子機器の信頼性を向上することができる。
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態による電子機器について図19を用いて説明する。
図19は、本実施形態による電子機器の構造を示す斜視図である。
本実施形態では、第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを、導電性シートを兼ねる熱伝導性シートとして適用した電子機器について説明する。
図19に示すように、無線通信基地局などに用いられる高出力増幅器(HPA:High Power Amplifier)120は、パッケージ122に組み込まれ、パッケージ122の裏面においてヒートシンク124に接合される。高出力増幅器120から発せられた熱は、パッケージ122の裏面を通してヒートシンク124に放熱される。同時に、パッケージ122は、電気的なグラウンド(接地面)としても用いられるものであり、ヒートシンク124に対しても電気的に接続する必要がある。このため、パッケージ122とヒートシンク124との接合には、電気及び熱に対する良導体を用いることが必要である。
したがって、図19に示すように、パッケージ122とヒートシンク124との接合部に、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシート126を用いることにより、パッケージ122とヒートシンク124とを電気的に接続することができる。また、高出力増幅器120から発せられた熱を効率よくヒートシンク124に伝えることができ、放熱効率を高めることができる。これにより、電子機器の信頼性を向上することができる。
このように、本実施形態によれば、高出力増幅器のパッケージとヒートシンクとの間に、カーボンナノチューブ束がシートの膜面に対して配向しているとともに、カーボンナノチューブ束の間に、シートの膜面に平行な層状構造のグラファイトからなるグラファイト層が形成されている第1又は第2実施形態のカーボンナノチューブシートを配置するので、これらの間の熱伝導度を大幅に向上することができる。これにより、半導体素子から発せられる熱の放熱効率を高めることができ、電子機器の信頼性を向上することができる。また、高出力増幅器とグラウンドとしてのヒートシンクとを電気的に接続することもできる。
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、カーボンナノチューブを用いたシート状構造体や半導体装置の例を説明したが、本発明は、炭素元素からなる線状構造体を用いたシート状構造体や半導体装置に広く適用することができる。炭素元素からなる線状構造体としては、カーボンナノチューブのほか、カーボンナノワイヤ、カーボンロッド、カーボンファイバが挙げられる。これら線状構造体は、サイズが異なるほかは、カーボンナノチューブと同様である。これら線状構造体を用いたシート状構造体や半導体装置においても、本発明を適用することができる。
また、上記実施形態に記載の構成材料や製造条件は、当該記載に限定されるものではなく、目的等に応じて適宜変更が可能である。
また、本発明のカーボンナノチューブシートの使用目的も、上記実施形態に記載のものに限定されるものではない。本発明のカーボンナノチューブシートは、熱伝導シートとしては、例えば、CPUの放熱シート、無線通信基地局用高出力増幅器、無線通信端末用高出力増幅器、電気自動車用高出力スイッチ、サーバー、パーソナルコンピュータなどへの適用が考えられる。また、カーボンナノチューブの高い許容電流密度特性を利用して、縦型配線シートやこれを用いた種々のアプリケーションにも適用可能である。
また、上記実施形態では、下地膜を有する触媒金属膜として、Co膜/TiN膜及びCo膜/TiO2膜の積層構造を示したが、触媒金属膜は、これに限定されるものではない。例えば、炭化水素系原料ガスを用いる場合には、触媒種としてCo,Ni,Feを用いる場合にあっては、下地膜としてTi,TiN,TiOx,TiSi,Ta,Tan,Zr,Hf,V,Nb,W等を適用することができる。また、触媒種としてFeを用いる場合には、下地膜としてAl,Al2O3を用いることもできる。アルコール系原料ガスを用いる場合には、触媒種としてCoを用いる場合にあっては、下地膜としてMo等を適用することができる。
また、第3及び第4実施形態に示した半導体装置及び第5及び第6実施形態に示した電子機器の構造やその製造方法は典型的な例を示したものであり、必要に応じて適宜修正が可能である。