JP5785370B2 - 混合物触媒 - Google Patents

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Description

本発明は、混合物触媒、及び該混合物触媒を用いる不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造方法に関する。
従来、プロピレン若しくはイソブチレンを気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に供して対応する不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法が良く知られている。近年、プロピレン若しくはイソブチレンに代わってプロパン若しくはイソブタンを気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化することによって対応する不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法が着目されている。
これまで、気相接触アンモ酸化に用いる触媒として、種々の酸化物触媒が提案されている。一般的にはモリブデン、バナジウム等を、必要に応じて混合、焼成して得られる酸化物をそのまま触媒として使用するが、不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造するにあたり、焼成後の触媒にさらに後処理する手法も研究されてきた。
例えば特許文献1には、Mo−V−Sb/Te系触媒にタングステン、モリブデン、クロム、ジルコニウム、チタン、ニオブ、タンタル、バナジウム、硼素、ビスマス、テルル、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄、リン、ケイ素、希土類元素、アルカリ金属、アルカリ土類金属からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む溶液を含浸する手法が開示されている。
特許文献2には、混合金属酸化物触媒を水、及び任意に水性金属酸化物前駆体と接触させて修飾混合金属酸化物を製造し、得られた修飾混合金属酸化物を焼成する手法が開示されている。
特許文献3には、Mo−V−Sb−Nb系触媒にタングステン、マンガンを浸漬する手法が開示されている。
特許文献4には、触媒にアンチモン化合物、モリブデン化合物、テルル化合物、タングステン化合物等の修飾剤を混合して反応に供するか、触媒や触媒前駆体に修飾剤を混合して焼成した後に反応に供する手法が開示されている。
特開平10−028862号公報 特開2008−062231号公報 国際公開2007−119376号パンフレット 国際公開2009−048553号パンフレット
しかしながら、本発明者らが特許文献1〜3に開示された酸化物触媒を、プロパン若しくはイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いたところ、いずれの触媒も未だ目的物の収率は不十分であった。
特許文献1〜4に記載された製造方法では、そのままでも活性を有するMo−V−Te/Sb系複合酸化物に、タングステンを含浸又は浸漬することで性能が向上することが記載されている。しかしながら、含浸又は浸漬の前の複合酸化物がタングステンを含有しておらず、目的物の収率が高い触媒を得ることには至っていない。
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、プロパン若しくはイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応用の触媒であって、プロパン若しくはイソブタンから対応する不飽和酸又は不飽和ニトリルを高収率で得ることのできる混合物触媒を提供すること、及びその混合物触媒を用いた不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造方法を提供することである。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、Mo−V−Nb−W系複合酸化物とタングステン化合物とを混合した場合、混合前の複合酸化物中に含まれているWと、タングステン化合物とでは、混合物触媒中における機能が異なることを発見し、その結果、Mo−V−Nb−W系複合酸化物とタングステン化合物とを特定の割合で含む混合物触媒が、上記課題を解決し得ることを見出し本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
プロパン若しくはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応用の混合物触媒であって、
下記組成式(1)で表される複合酸化物と、タングステン化合物と、を下記式(2)の割合で含有した混合物触媒;
Mo1aNbbSbcden (1)
(式(1)中、ZはLa、Ce、Pr、Ybからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、a、b、c、d、e、nはMo1原子当たりの各元素の原子比を示し、aは0.01≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、dは0.001≦d≦1、eは0<e≦1であり、nは構成金属の原子価によって決まる数を示す。)
0.001<w<0.3 (2)
(式(2)中、wはタングステン化合物中のタングステンの原子比を、複合酸化物中のMo1原子当たりの原子比として表したものである。)。
[2]
前記タングステン化合物が、酸化タングステンを含む、上記[1]記載の混合物触媒。
[3]
流動床反応に用いられる、上記[1]又は[2]記載の混合物触媒。
[4]
不飽和ニトリルの製造方法であって、
上記[1]〜[3]のいずれか記載の混合物触媒に、プロパン若しくはイソブタンと酸素とアンモニアを、接触させる工程を含む製造方法。
[5]
プロパン若しくはイソブタンと酸素とアンモニアを、接触させた状態で400℃以上に加熱する、上記[4]記載の製造方法。
本発明の混合物触媒を用いることにより、プロパン若しくはイソブタンから、対応する不飽和酸又は不飽和ニトリルを高い収率で製造することができる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態の混合物触媒は、
プロパン若しくはイソブタンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応用の混合物触媒であって、
下記組成式(1)で表される複合酸化物と、タングステン化合物と、を下記式(2)の割合で含有した混合物触媒である;
Mo1aNbbSbcden (1)
(式(1)中、ZはLa、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、Baからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、a、b、c、d、e、nはMo1原子当たりの各元素の原子比を示し、aは0.01≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、dは0.001≦d≦1、eは0≦e≦1であり、nは構成金属の原子価によって決まる数を示す。)
0.001<w<0.3 (2)
(式(2)中、wはタングステン化合物中のタングステンの原子比を、複合酸化物中のMo1原子当たりの原子比として表したものである。)。
本実施形態の混合物触媒の製造方法としては、特に限定されず、以下にその一例を説明する。
[1]混合物触媒の製造方法
本実施形態の混合物触媒に含まれる複合酸化物は、例えば、以下の方法により製造することができる。
(a)複合酸化物の製造
複合酸化物は、次の3つの工程により製造される。
(1)原料を調合して原料調合液を得る工程
(2)工程(1)で得られた原料調合液を乾燥し、乾燥粉体を得る工程
(3)工程(2)で得られた乾燥粉体を焼成し、複合酸化物を得る工程
上記工程(1)における調合とは、水性溶媒に、複合酸化物の原料を溶解又は分散させることを言い、原料とは、複合酸化物の構成元素を含む化合物のことを言う。
原料としては特に限定されず、例えば、下記の化合物を用いることができる。
MoとVの原料としては、特に限定されないが、それぞれ、ヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O]とメタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]を好適に用いることができる。
Nbの原料としては、ニオブ酸、ニオブの無機酸塩及びニオブの有機酸塩を好適に用いることができ、中でも、ニオブ酸が特に好ましい。ニオブ酸はNb25・nH2Oで表される化合物であり、ニオブ水酸化物又は酸化ニオブ水和物とも称される。更に、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜4のNb原料液をNbの原料として用いることも好ましい。このときのジカルボン酸としてはシュウ酸が好ましい。
Sbの原料としては、特に限定されないが、三酸化二アンチモン〔Sb23〕が好ましい。
Wの原料としては、特に制限はなく、Wを含む化合物や、Wの金属を適当な溶媒で可溶化した溶液を使用することができる。Wを含む化合物としては、例えば、Wのアンモニウム塩、硝酸塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ペルオキソカルボン酸塩、ペルオキソカルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化物、アセチルアセトナート、アルコキシド等が挙げられ、中でも、硝酸塩、カルボン酸塩等の水溶性原料が好適に使用される。
成分Zの原料としては、La、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、Baからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む物質であれば特に制限はなく、上記元素を含む化合物や、上記元素の金属を適当な溶媒で可溶化した溶液を使用することができる。上記元素を含む化合物としては、例えば、上記金属元素の硝酸塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ペルオキソカルボン酸塩、ペルオキソカルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化物、アセチルアセトナート、アルコキシド等が挙げられ、中でも、硝酸塩、カルボン酸塩等の水溶性原料が好適に使用される。
複合酸化物がシリカ担持物である場合には、シリカの原料としてはシリカゾルを用いることができるが、シリカ原料の一部又は全量に、粉体シリカを用いることもできる。該粉体シリカは、高熱法で製造されたものが好ましい。該粉体シリカはあらかじめ水に分散させて使用することでスラリー中への添加・混合が容易となる。分散方法としては特に制限はなく、一般的なホモジナイザー、ホモミキサー、超音波振動器等を単独で又は組み合わせて分散させることができる。
以下に、工程(1)〜(3)を含む複合酸化物の好適な製造例について説明する。
(工程(1):原料を調合する工程)
工程(1)においては、Mo化合物、V化合物、Sb化合物、W化合物、成分Z化合物、必要によりその他原料となる成分を水に添加し、加熱して水性混合液(I)を調製する。この時、混合液(I)を調製する容器内は窒素雰囲気でもよい。次に、Nb化合物とジカルボン酸を水中で加熱撹拌して混合液(B0)を調製する。更に、混合液(B0)に、過酸化水素を添加し、水性混合液(II)を調製する。この時、H22/Nb(モル比)は0.5〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
次に、目的とする組成に合わせて、水性混合液(I)、水性混合液(II)を好適に混合して、水性混合液(III)を得る。得られた水性混合液(III)を、空気雰囲気下で熟成処理し、スラリー状の原料調合液(以下、単に「スラリー」とも言う。)を得る。
ここで、水性混合液(III)の熟成とは、水性混合液(III)を所定時間静置するか撹拌することを言う。工業的に複合酸化物を製造する場合、通常は噴霧乾燥機の処理スピードが律速となり、一部の水性混合液(III)が噴霧乾燥された後、全ての混合液の噴霧乾燥が終了するまでに時間を要する。この間、噴霧乾燥処理されていない混合液の熟成は継続される。従って、熟成時間には、噴霧乾燥前の熟成時間だけでなく、噴霧乾燥開始後から終了までの時間も含まれる。
熟成時間は、目的物の収率の観点から、90分以上50時間以内が好ましく、90分以上6時間以内がより好ましい。
熟成温度は、Mo成分の縮合やVの析出を防ぐ観点から、25℃以上が好ましい。また、Nbと過酸化水素を含む錯体の加水分解が起こりすぎないようにし、好ましい形態のスラリーを形成する観点から、65℃以下が好ましい。従って、熟成温度は、25℃以上65℃以下が好ましく、30℃以上60℃以下がより好ましい。
熟成時の容器内雰囲気は、十分な酸素濃度を有することが好ましい。酸素が十分でないと、水性混合液(III)の実質的な変化が生じにくくなる場合がある。容器内の気相部の酸素濃度(以下、「気相酸素濃度」とも言う。)は1vol%以上であることが好ましい。
容器内の気相酸素濃度は、一般的な方法により測定することができ、例えば、ジルコニア式酸素濃度計を用いて測定することができる。気相酸素濃度を測定する場所は、水性混合液(III)と気相との界面近傍であることが好ましい。例えば、同一地点での気相酸素濃度の測定を1分以内に3度行い、3度の測定結果の平均値をもって気相酸素濃度とすることが好ましい。
気相酸素濃度を低減させるための希釈ガスとしては特に限定されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、水蒸気等が挙げられ、工業的には、窒素が好ましい。また、気相酸素濃度を増加させるためのガスとしては、純酸素又は高酸素濃度の空気が好ましい。
上述した熟成により、水性混合液(III)に含まれる成分の酸化還元状態に何らかの変化が生じると考えられる。何らかの変化が起こっていることは、熟成中に水性混合液(III)の色の変化、酸化還元電位の変化等が生じることからも示唆される。その結果、酸素濃度1〜25vol%の雰囲気で、90分以上50時間以内の熟成の有無によって得られる複合酸化物にも違いが現れる。例えば、熟成中、液中成分の形態変化を正確に同定するのは極めて困難であるが、熟成時間の異なる複合酸化物を製造し、この複合酸化物を触媒として用いて目的物の収率を評価することで、収率の良い触媒に施した熟成時間が好ましいことが分かり、この時、何らかの好ましい形態のスラリーが形成されていたと推測することができる。
水性混合液(III)の酸化還元電位は水性原料液(II)の電位600mV/AgClが支配的であり、水性原料液(II)に含まれるシュウ酸Nbパーオキサイドと他の金属成分が何らかの酸化還元反応を起こすことにより経時的な電位の低下が生じると考えられる。水性混合液(III)の酸化還元電位は、好ましくは450〜530mV/AgClであり、より好ましくは470〜510mV/AgClである。
水性混合液(III)に含まれる成分の酸化還元状態の変化に影響する酸化還元反応の進行を遅くし過ぎず、スラリー段階での酸化還元状態が過酸化気味になるのを防ぐ観点から、熟成中の酸素濃度は1vol%以上とすることが好ましい。一方、酸化還元反応が進行しすぎて、スラリーが過還元気味になるのを防ぐ観点から、熟成中の酸素濃度は25vol%以下とすることが好ましい。いずれにせよ、気相酸素がスラリーの酸化還元状態に影響を及ぼすため、酸素濃度を適正な範囲に維持する必要があり、その範囲は、5〜23vol%がより好ましく、10〜20vol%が更に好ましい。
複合酸化物がシリカ担持物である場合、シリカゾルを含むように原料調合液が調製される。シリカゾルは適宜添加することができる。またシリカゾルの一部を粉体シリカの水分散液とすることもできる。粉体シリカの水分散液も適宜添加することができる。
また、水性混合液(I)又は調合途中の水性混合液(I)の成分を含む液に、過酸化水素を添加することが好ましい。このとき、H22/Sb(モル比)は、好ましくは0.01〜5であり、より好ましくは0.05〜4である。また、このとき、30℃〜70℃で、30分〜2時間撹拌を続けることが好ましい。
(工程(2):乾燥工程)
工程(2)においては、原料調合工程で得られたスラリーを乾燥することによって、乾燥粉体を得る。乾燥は公知の方法で行うことができ、例えば、噴霧乾燥又は蒸発乾固によって行うことができ、中でも、噴霧乾燥により微小球状の乾燥粉体を得ることが好ましい。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式、又は高圧ノズル方式によって行うことができる。乾燥熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることができる。噴霧乾燥装置の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましく、乾燥機出口温度は100〜160℃が好ましい。
(工程(3):焼成工程)
工程(3)においては、乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成に供することによって複合酸化物を得る。焼成装置としては、例えば、回転炉(ロータリーキルン)を使用することができる。焼成器の形状としては特に限定されないが、管状であると、連続的な焼成を実施することができるため好ましい。焼成管の形状としては特に限定されないが、円筒状であるのが好ましい。
加熱方式は外熱式が好ましく、例えば、電気炉を好適に使用できる。焼成管の大きさ、材質等は焼成条件や製造量に応じて適当なものを選択することができるが、好ましくは内径70〜2000mm、より好ましくは内径100〜1200mmのものである。焼成管の長さは、好ましくは200〜10000mm、より好ましくは800〜8000mmである。焼成器に衝撃を与える場合、肉厚は衝撃により破損しない程度の十分な厚みを持つという観点から、2mm以上が好ましく、より好ましくは4mm以上であり、また衝撃が焼成管内部まで十分に伝わるという観点から、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下である。焼成管の材質としては、耐熱性があり衝撃により破損しない強度を持つものであれば特に限定されず、SUSを好適に使用することができる。
焼成管の中には、粉体が通過するための穴を中心部に有する堰板を、粉体の流れと垂直に設けて焼成管を2つ以上の区域に仕切ることもできる。堰板を設置する事により焼成管内滞留時間を確保しやすくなる。堰板の数は1つでも複数でもよい。堰板の材質は金属が好ましく、焼成管と同じ材質のものを好適に使用できる。堰板の高さは確保すべき滞留時間に合わせて調整することができる。例えば、内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成管を有する回転炉を用いて250g/hrで粉体を供給する場合、堰板の高さは、好ましくは5〜50mm、より好ましくは10〜40mm、更に好ましくは13〜35mmである。堰板の厚みとしては、特に限定されず、焼成管の大きさに合わせて調整することが好ましい。例えば、内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成管を有する回転炉の場合、堰板の厚みは、好ましくは0.3mm以上30mm以下、より好ましくは0.5mm以上15mm以下である。
乾燥粉体の割れ、ひび等を防ぐと共に、均一に焼成するために、焼成中は焼成管を回転させることが好ましい。焼成管の回転速度は、好ましくは0.1〜30rpm、より好ましくは0.5〜20rpm、更に好ましくは1〜10rpmである。
乾燥粉体の焼成としては、乾燥粉体の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始めて、550〜800℃の範囲内の温度まで連続的に又は断続的に昇温することが好ましい。
焼成雰囲気は、空気雰囲気下でも空気流通下でもよいが、焼成の少なくとも一部を、窒素等の実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら実施することが好ましい。不活性ガスの供給量は乾燥粉体1kg当たり、好ましくは50Nリットル以上であり、より好ましくは50〜5000Nリットル、更に好ましくは50〜3000Nリットルである(Nリットルは、標準温度・圧力条件、即ち0℃、1気圧で測定したリットルを意味する)。この時、不活性ガスと乾燥粉体は向流でも並流でも問題ないが、乾燥粉体から発生するガス成分や、乾燥粉体と共に微量混入する空気を考慮すると、向流接触が好ましい。
焼成工程は、1段でも実施可能であるが、該焼成が前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を250〜400℃の温度範囲で行い、該本焼成を550〜800℃の温度範囲で行うことが好ましい。前段焼成と本焼成を連続して実施してもよいし、前段焼成を一旦完了してからあらためて本焼成を実施してもよい。また、前段焼成及び本焼成のそれぞれが数段に分かれていてもよい。
前段焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、加熱温度250℃〜400℃、好ましくは300℃〜400℃の範囲で行う。前段焼成は、250℃〜400℃の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、250℃〜400℃範囲内で温度が変動したり、緩やかに昇温、降温しても構わない。加熱温度の保持時間は好ましく30分以上、より好ましくは3〜12時間である。
前段焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。
前段焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度としては特に限定はないが、一般に0.1〜15℃/min程度であり、好ましくは0.5〜5℃/min、更に好ましくは1〜2℃/minである。
本焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、好ましくは550〜800℃、より好ましくは580〜750℃、さらに好ましくは600〜720℃、特に好ましくは620〜700℃で実施することができる。本焼成は、620〜700℃の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、620〜700℃の範囲内で温度が変動したり、緩やかに昇温、降温しても構わない。本焼成の時間は、好ましくは0.5〜20時間、より好ましくは1〜15時間である。
焼成管を堰板で区切る場合、乾燥粉体及び/又は複合酸化物は少なくとも2つ、好ましくは2〜20、更に好ましくは4〜15の区域を連続して通過する。温度の制御は1つ以上の制御器を用いて行う事ができるが、前記所望の焼成パターンを得るために、これらの堰で区切られた区域ごとにヒーターと制御器を設置し、制御する事が好ましい。例えば、堰板を焼成管の加熱炉内に入る部分の長さを8等分するように7枚設置し、8つの区域に仕切った焼成管を用いる場合、乾燥粉体及び/又は複合酸化物の温度が前記所望の焼成温度パターンとなるよう8つの区域を各々の区域について設置したヒーターと制御器により設定温度を制御することが好ましい。なお、不活性ガス流通下の焼成雰囲気には、所望により、酸化性成分(例えば酸素)又は還元性成分(例えばアンモニア)を添加してもかまわない。
本焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。
本焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度としては、特に限定はないが、一般に0.1〜15℃/min、好ましくは0.5〜10℃/min、更に好ましくは1〜8℃/minである。
また、本焼成終了後の平均降温速度は0.01〜1000℃/min、好ましくは0.05〜100℃/min、更に好ましくは0.1〜50℃/min、特に好ましくは0.5〜10℃/minである。また、本焼成終了後に、本焼成温度より低い温度で一旦保持することも好ましい。保持する温度は、本焼成温度より10℃以上、好ましくは50℃以上、更に好ましくは100℃以上低い温度である。保持する時間は、0.5時間以上、好ましくは1時間以上、更に好ましくは3時間以上、特に好ましくは10時間以上である。
前段焼成を一旦完了してからあらためて本焼成を実施する場合は、本焼成において低温処理を行うのが好ましい。
低温処理に要する時間、すなわち乾燥粉体及び/又は複合酸化物の温度を低下させた後、昇温して焼成温度にするまでに要する時間は、焼成器の大きさ、肉厚、材質、触媒生産量、連続的に乾燥粉体及び/又は複合酸化物を焼成する一連の期間、固着速度・固着量等により適宜調整することが可能である。例えば、内径500mm、長さ4500mm、肉厚20mmのSUS製焼成管を使用する場合においては、連続的に触媒を焼成する一連の期間中に好ましくは30日以内、より好ましくは15日以内、更に好ましくは3日以内、特に好ましくは2日以内である。
例えば、内径500mm、長さ4500mm、肉厚20mmのSUS製の焼成管を有する回転炉により6rpmで回転しながら35kg/hrの速度で乾燥粉体を供給し、本焼成温度645℃で本焼成を行う場合、温度を400℃まで低下させた後、昇温して645℃にする工程を1日程度で行うことができる。1年間連続的に焼成する場合、このような低温処理を1ヶ月に1回の頻度で実施する事で、酸化物層温度を安定に維持しながら焼成する事ができる。
(b)タングステン源の混合工程
本実施形態における複合酸化物は、そのままでも触媒活性を有するものであるが、タングステン化合物を複合酸化物と特定の割合で含有する混合物触媒にすることで、目的物の収率が向上する。
タングステン化合物を含有する混合物触媒を得る方法として、タングステン化合物の供給源(以下、「タングステン源」とも言う。)と、複合酸化物とを混合する工程の一例について説明する。
(b−1)タングステン源
タングステン源としては、例えば、タングステンのアンモニウム塩、硝酸塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ペルオキソカルボン酸塩、ペルオキソカルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化物、アセチルアセトナート、アルコキシド、トリフェニル化合物、ポリオキソメタレート、ポリオキソメタレートアンモニウム塩;酸化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、ケイタングステン酸、ケイタングストモリブデン酸、ケイバナドタングステン酸等の粉末原料;メタタングステン酸アンモニウム水溶液や酸化タングステンゾル等の液状原料が挙げられる。
タングステン源の種類や、固体又は液体のいずれの形態で混合するかは、どのような混合工程によるか、また調製する混合物触媒の組成等によって選択することができる。混合工程には、後述のとおり、タングステン源を固体状のままで供給する方法と、液体状で供給する方法がある。液体状で供給する方法の場合、メタタングステン酸アンモニウム水溶液のような液状で市販されているものを使用してもよいが、もちろん上述の粉末原料を溶解及び/又は分散して使用してもよい。その場合、水、アセトン、メタノール、エタノール、その他の極性/非極性溶媒に適当量の粉末原料を溶解及び/又は分散させればよい。溶解度等にも依るが、取り扱いの容易さからは溶媒及び/又は分散媒として水を用いるのが好ましい。溶媒を用いず粉末を直接混合する場合、タングステン化合物による目的物への影響の観点から、酸化タングステンが好ましく、より好ましくはタングステンブロンズ構造を有する酸化タングステンであり、更に好ましくは三酸化タングステンである。
本実施形態の混合物触媒は、上述した複合酸化物と、タングステン源とを所定の割合で物理的又は化学的に混合することにより得ることができる。
(b−2)物理混合方法
複合酸化物とタングステン源との物理混合方法としては特に限定されないが、例えば、反応器に触媒を供給するホッパー中に複合酸化物を加えてタングステン源を適量添加する方法が挙げられる。複合酸化物とタングステン源をホッパーに入れる前に、予め両者を混合しておいてもよいが、予め混合しなくてもホッパーから反応器に触媒を供給する工程で自然に混ざりあうので、予め混合しておくことは必須ではない。複合酸化物とタングステン源をホッパーに入れる順序も特に限定されず、両者の粒径等の観点から反応器中で十分に接触した状態になるように適宜決めればよい。必要に応じて、空気や窒素を流通させて混合することも可能である。流動床反応の場合、ホッパーから一度に供給するのでなく、複合酸化物とタングステン源を反応器内に順に供給してもよい。この場合、反応進行中に複合酸化物とタングステン源が反応器内で流動しながら混合される。
物理混合方法の場合、不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造反応前にはタングステン源に化学的変化は生じないので、混合物触媒に含まれるタングステン化合物はタングステン源と同じ構造を有する。一方、この混合物触媒を使って不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造反応を進行させると、タングステン化合物は複合酸化物や反応基質と接触した状態で熱等が加わるので化学的な変化が生じる。混合物触媒は、このような反応進行中の構造変化により、複合酸化物に作用して触媒性能に影響を与えることを視野に入れた触媒である。そのため、反応進行中にタングステン化合物の一部又は全部が、例えば複合酸化物の一部となるように構造が変化した場合であっても、反応前に混合物として存在する場合は当然に本実施形態の混合物触媒の範疇である。
なお、反応の進行中に、タングステン源を流動床反応器に供給しても、反応前に供給したのと同様の作用が生じる。その場合、反応前は混合物触媒が存在しないが、タングステン源の供給直後に混合物触媒が生成すると言える。
(b−3)化学混合方法
(b−3−i)液相工程
本実施形態においては、複合酸化物にタングステン源を溶解した溶液を滴下する方法を含浸と呼ぶ。一方、タングステン源を溶解した溶液に複合酸化物を添加し、攪拌等により一定時間接触させる方法を浸漬と呼ぶ。いずれの場合も、不要な溶液はろ過又は蒸発させることにより除去することができる。蒸発は、30〜300℃程度、好ましくは40〜250℃で実施する。その後、必要に応じて、焼成処理を施し、タングステン源の一部又は全量を酸化物にすることもできる。複合酸化物の細孔内には空気、不活性ガス等、複合酸化物が接触処理前に存在していた雰囲気ガスが充満されており、細孔内部へのタングステンの拡散が阻害される可能性がある。その場合は、含浸、浸漬をする前、若しくは含浸、浸漬をしている間、減圧雰囲気下にして、細孔内のガスを除去することもできる。
含浸や浸漬を行う場合、液相に複合酸化物とタングステン源が存在している間に複合酸化物中の金属元素とタングステンとがイオン交換する可能性がある。イオン交換が生じる場合、液相での処理中にイオン交換による表面改質が進行していると予想されるが、タングステンは複合酸化物中に取り込まれた状態になる。その場合、タングステンは混合物触媒中にタングステン化合物の単体として存在するのではなく、もはや複合酸化物の一部となってしまい、混合物であるとは言えないので、本実施形態の混合物触媒には含まれない。なお、タングステンが複合酸化物に取り込まれた触媒と、混合物触媒とを触媒の性能の面で比較すると、タングステンが取り込まれた触媒を不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造反応に使用する場合は、目的物の収率は反応初期に最高値を示し、その後、収率が悪化する場合はあっても向上はしないのに対して、混合物触媒の場合は、後述のとおり一定の反応時間まで、時間の経過と共に目的物の収率が向上する傾向にある。
液相でのイオン交換は、pH、液温度、溶液中のタングステン濃度、溶液と複合酸化物の接触時間等に依存するが、例えば、pHを1.0〜7.0、好ましくは1.0〜4.0に調整することで、イオン交換を抑制することができる。液温度は一般的に低い方が好ましく、例えば0〜50℃、より好ましくは0〜30℃に調整することでイオン交換を抑制することができる。タングステン濃度は、低い方がイオン交換は進行し難く、好ましい濃度は、タングステン金属濃度として1.0mol/kg未満である。溶液と複合酸化物の接触時間は短い方が好ましく、1時間以内、より好ましくは15分以内である。
含浸及び/又は浸漬工程により得られた混合物は、そのまま混合物触媒として使用することができるが、焼成してから使用してもよい。
液相処理を経た混合物触媒に含まれるタングステン化合物は、タングステン源と同じ構造を有する態様の他、タングステン源が変化(例えば、酸化、結晶化、非晶化)した態様もありうるが、いずれの態様であっても、複合酸化物の一部でないタングステン化合物を含有する限り、本実施形態における混合物触媒の範疇である。
(b−3−ii)焼成工程
液相でイオン交換が生じていない場合も、焼成工程で交換反応が生じてタングステン源が複合酸化物の一部になってしまう場合がありうる。この交換反応も液相処理と同様に、表面改質が進行して混合物でない状態になっていると予想される。交換反応の生じ易さは主として焼成温度に依存し、焼成温度が高すぎると交換反応が進行し易い。交換反応が生じ難い焼成温度としては、好ましくは200〜400℃、より好ましくは250〜350℃である。焼成処理を経た混合物触媒に含まれるタングステン化合物は、一般的にはタングステン源とは異なる構造を有するが、液相処理後のものと同様に、複合酸化物の一部でないタングステン化合物を含有する限り、本実施形態における混合物触媒の範疇である。
(c)混合物触媒
本実施形態における混合物触媒は、
プロパン若しくはイソブタンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応用の混合物触媒であって、
下記組成式(1)で表される複合酸化物と、タングステン化合物と、を下記式(2)の割合で含有した混合物触媒;
Mo1aNbbSbcden (1)
(式(1)中、ZはLa、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、Baからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、a、b、c、d、e、nはMo1原子当たりの各元素の原子比を示し、aは0.01≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、dは0.001≦d≦1、eは0≦e≦1であり、nは構成金属の原子価によって決まる数を示す。)
0.001<w<0.3 (2)
(式(2)中、wはタングステン化合物中のタングステンの原子比を、複合酸化物中のMo1原子当たりの原子比として表したものである。)。
本実施形態における混合物触媒は、タングステン化合物と複合酸化物との混合物である。混合物触媒中にタングステン化合物を必須成分として含有させることにより、プロパン若しくはイソブタンと酸素との気相接触酸化反応、プロパン若しくはイソブタンと酸素とアンモニアとの気相接触アンモ酸化反応中に、タングステン化合物中のタングステン元素が複合酸化物表面に拡散し、固定化されるという原理により、目的物の収率を飛躍的に向上させることができる。
本実施形態における複合酸化物の組成は下記式(1)により表される。
Mo1aNbbSbcden (1)
(式(1)中、Zは、La、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、Baからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、a、b、c、d、e、nはMo1原子当たりの各元素の原子比を示し、aは0.01≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、dは0.001≦d≦1、eは0≦e≦1であり、nは構成金属の原子価によって決まる数を示す。)
Mo1原子当たりの原子比a、bは、それぞれ、0.1〜0.4、0.02〜0.2であることが好ましい。
SbのMo1原子当たりの原子比であるcは、0.01〜0.6であることが好ましく、0.1〜0.4であることがより好ましい。また、VとSbの原子比であるa/cを鋭意検討した結果、詳細な理由は定かでないが、収率向上の観点から、a/cは0.1〜1の範囲にあることが好ましいことが分かった。
WのMo1原子当たりの原子比であるdは、0.001≦d≦1であり、0.001≦d≦0.3であることが好ましい。複合酸化物中のタングステン(以下、複合酸化物中に存在しているタングステンを「バルクタングステン」とも言う。)は、複合酸化物中のモリブデン若しくはバナジウムのサイトに置換されていると推定される。酸化物同士の融点を比較すると、例えば、三酸化モリブデンと三酸化タングステンの融点は795℃と1473℃であり、タングステン酸化物の融点が高いため、複合酸化物中のモリブデンがタングステンに置換されると、複合酸化物の融点が高くなると推定される。従って、複合酸化物中に分散しているバルクタングステンが複合酸化物の結晶構造に影響して耐熱性、耐酸化還元性に寄与していると考えられ、その結果バルクタングステンを有する複合酸化物は触媒寿命が長い傾向にあり、工業的な長期使用に有利となる傾向にある。一方、タングステン化合物中のタングステンは、不飽和酸や不飽和ニトリルの収率を高める効果があると推定される。更に、バルクタングステンの効果として、タングステン化合物中のタングステンが複合酸化物へ過度に拡散することによる目的物の収率低下を抑制する効果もあると推定される。
成分ZのMo1原子当たりの原子比であるeは、0≦e≦1であり、0.001≦e<1が好ましく、0.001≦e<0.1がより好ましく、0.002≦e<0.01がさらに好ましい。成分Zは、特開平11−244702号公報に教示されているように、スラリー中で好ましくない反応を生じるおそれがあるため、微量に含まれることが好ましい。一方、成分Zは目的物の収率向上効果が高いため、触媒粒子内に均一に分散されていることが好ましい。成分Zとしては、La、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、Baからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、La、Ce、Pr、Ybからなる群から選ばれる1種以上の元素が好ましく、目的物の収率が最も高くなる傾向にあるためCeが特に好ましい。
複合酸化物は、シリカを主成分とする担体によって担持されることが好ましい。複合酸化物がシリカを主成分とする担体によって担持される場合、高い機械的強度を有するので、流動床反応器を用いた気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応に好適である。シリカを主成分とする担体中のシリカの含有量は、複合酸化物構成元素の酸化物と担体から成る担持酸化物の全質量に対して、SiO2換算で20〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜60質量%である。
複合酸化物中のシリカ担体の含有量は、強度と粉化防止の観点から、20質量%以上であることが好ましい。また複合酸化物を工業的に使用する上でも、安定運転が難しいし、ロスした複合酸化物を補充する必要が生じるため経済的にも好ましくない。逆にシリカ担体の含有量が70質量%よりも多いと、充分な活性が得られず、必要な触媒量が増えてしまう。特に流動床の場合、シリカの含有量が70質量%よりも多いとシリカ担持粒子の比重が軽くなりすぎ、良好な流動状態が得られにくくなる。
本実施形態における混合物触媒は、上記組成式(1)で表される複合酸化物と、タングステン化合物と、を下記式(2)の割合で含有した触媒である。
0.001<w<0.3 (2)
式(2)中、wはタングステン化合物中のタングステンの原子比を、複合酸化物中のMo1原子当たりの原子比として表したものである。
複合酸化物のMo1原子当たりのタングステン化合物中のタングステンの原子比である、wは、0.001<w<0.3であり、好ましくは0.01<w<0.2、より好ましくは0.015<w<0.18である。wが0.001以下であると、タングステンが少なすぎて本願の効果が確認できず、0.3以上であると、タングステンが多すぎて、触媒表面が好ましい形態に改質されず、本願の効果が確認できない。
混合物触媒中で、複合酸化物とタングステン化合物は接触した状態であるのが好ましい。接触は、マイクロメートル、ミリメートルオーダーの粒子同士の接触でもよいし、複合酸化物粒子中の細孔内にナノオーダーで分散したタングステン化合物と複合酸化物の接触であってもよい。例えば、前者は複合酸化物粒子とタングステン源の物理混合により得られ、後者は複合酸化物粒子と液状のタングステン源を用いた液相処理により得られる。
本実施形態の混合物触媒は、X線回折等による構造解析を実施しても、混合処理前後で構造の変化を確認することは困難である。また、混合物触媒を用いて目的物の製造反応を実施した場合、タングステン化合物を含有しない複合酸化物の性能と比較して反応開始直後の段階では違いが見られないのが一般的である。例えば不飽和ニトリルの製造反応を445℃で実施した場合、反応開始から5時間経過後は実質上、混合物触媒と複合酸化物とでは、目的物の収率に違いは見られない。これに対し、反応時間が経過するにつれて両反応の収率には違いが現れ、例えば、240Hr後には、混合物触媒を使用した反応においては初期と比較して1%以上の収率向上が見られるが、複合酸化物の場合は初期の収率からほとんど変化しない。
本実施形態の混合物触媒を用いた不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造反応中に目的物の収率が改善される理由について、本発明者らは、タングステン化合物中のタングステンが固相反応により複合酸化物表面に拡散し、Mo等の金属元素との交換反応が起こって、触媒表面が好ましい形態に改質されるためである、と推定している。触媒表面の好ましい形態と性能改善のメカニズムは定かでないが、複合酸化物表面近傍の特定部位にタングステンが配置することで、目的物や中間生成物の逐次分解が抑制されていると推定される。上述のように、混合物触媒の調製方法等によってタングステン化合物の構造や分散状態には違いがあると考えられるが、本発明者らの検討によると、固相反応前の混合物触媒において、タングステン化合物の構造や分散状態による性能の違いはほとんど見られなかった。これは、混合物触媒において、複合酸化物とは独立にタングステン化合物を適正な量だけ含有していることが重要であって、タングステン化合物の状態にはよらず、タングステン化合物の含有量が適正範囲であれば、長期間に及ぶ製造反応中には固相反応が生じるのではないかと推定している。一般的な混合物触媒を用いて長期間、反応を行った場合、触媒中のMoが経時的に低下していく。その際、公知の技術としてMo化合物を反応器内に投入し、Mo組成の低下に伴う活性低下を抑制する手法が知られている。本実施形態においては、この公知のMo化合物メークアップ技術と併用することが可能である。
[2]不飽和酸又は不飽和ニトリル
本実施形態における混合物触媒の存在下、プロパン若しくはイソブタンを気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和酸又は不飽和ニトリルを製造することができる。
即ち、本実施形態における不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造方法は、
上述した混合物触媒に、プロパン若しくはイソブタンと酸素を、又は、プロパン若しくはイソブタンと酸素とアンモニアを、接触させる工程を含む製造方法である。
本実施形態の混合物触媒を用いる場合、不飽和酸又は不飽和ニトリル製造反応の経過とともに目的物の収率が最高値に近づく。詳細な理由は不明であるが、本実施形態の基礎検討において、300〜550℃での空気雰囲気焼成、或いは窒素雰囲気焼成では何ら目的物の収率が改善されないことから、プロパン若しくはイソブタンと空気を用いた気相接触酸化反応下、又は、プロパン若しくはイソブタンと空気とアンモニアを用いた気相接触アンモ酸化反応下において、タングステン化合物中のタングステンの固相反応が適度に進行し、混合物触媒が活性化されると推定される。活性化の好ましい条件は、特に限定されないが、プロパン若しくはイソブタンと酸素を、又は、プロパン若しくはイソブタンと酸素とアンモニアを、接触させた状態で、好ましくは350〜550℃、より好ましくは400〜500℃に加熱する。一方、好ましい活性化処理時間は、1〜1500時間であり、より好ましくは5〜750時間であり、さらに好ましくは50〜500時間である。
プロパン若しくはイソブタンとアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用できる。
供給酸素源としては、空気、酸素を富化した空気又は純酸素を用いることができる。更に、希釈ガスとしてヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、窒素等を供給してもよい。
プロパン若しくはイソブタンの気相接触酸化反応は以下の条件で行うことができる。
反応に供給する酸素のプロパン若しくはイソブタンに対するモル比は0.1〜6、好ましくは0.5〜4である。
反応温度は300〜500℃、好ましくは350〜450℃である。
反応圧力は5×104〜5×105Pa、好ましくは1×105〜3×105Paである。
接触時間は0.1〜10(sec・g/cc)、好ましくは0.5〜5(sec・g/cc)である。本実施形態において、接触時間は次式で決定される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)
ここで、W、F及びTは次のように定義される。
W=充填触媒量(g)
F=標準状態(0℃、1.013×105Pa)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)
T=反応温度(℃)
プロパン若しくはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応は以下の条件で行うことができる。
反応に供給する酸素のプロパン若しくはイソブタンに対するモル比は0.1〜6、好ましくは0.5〜4である。
反応に供給するアンモニアのプロパン若しくはイソブタンに対するモル比は0.3〜1.5、好ましくは0.7〜1.2である。
反応温度は350〜500℃、好ましくは380〜470℃である。
反応圧力は5×104〜5×105Pa、好ましくは1×105〜3×105Paである。
接触時間は0.1〜10(sec・g/cc)、好ましくは0.5〜5(sec・g/cc)である。
反応方式としては、固定床、流動床、移動床等の従来の方式を採用できるが、反応熱の除去が容易な流動床反応器が好ましい。また、気相接触酸化又はアンモ酸化反応は、単流式であってもリサイクル式であってもよい。
以下に本実施形態を、実施例と比較例によって更に詳細に説明するが、本実施形態の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例と比較例においては、プロパン転化率、アクリロニトリル収率は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル(AN)収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
(ニオブ混合液の調製)
以下の方法でニオブ混合液を調製した。
水10kgにNb25として80.0質量%を含有するニオブ酸0.765kgとシュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕2.633kgを混合した。仕込みのシュウ酸/ニオブのモル比は5.0、仕込みのニオブ濃度は0.50(mol−Nb/Kg−液)であった。この液を95℃で2時間加熱撹拌することによって、ニオブが溶解した混合液を得た。この混合液を静置、氷冷後、固体を吸引濾過によって濾別し、均一なニオブ混合液を得た。このニオブ混合液のシュウ酸/ニオブのモル比は下記の分析により2.71であった。
るつぼにこのニオブ混合液10gを精秤し、95℃で一夜乾燥後、600℃で1時間熱処理し、Nb250.771gを得た。この結果から、ニオブ濃度は0.580(mol−Nb/Kg−液)であった。
300mLのガラスビーカーにこのニオブ混合液3gを精秤し、約80℃の熱水200mLを加え、続いて1:1硫酸10mLを加えた。得られた混合液をホットスターラー上で液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnO4を用いて滴定した。KMnO4によるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸の濃度は、滴定量から次式に従って計算した結果、1.570(mol−シュウ酸/Kg)であった。
2KMnO4+3H2SO4+5H224→K2SO4+2MnSO4+10CO2+8H2
得られたニオブ混合液は、下記の触媒調製のニオブ混合液(B0)として用いた。
[実施例1]
(複合酸化物の調製)
仕込み組成式がMo10.21Nb0.10Sb0.240.03Ce0.005n/47.0wt%−SiO2で示される複合酸化物を次のようにして製造した。
水1.902kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕を424.3g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕を59.0g、硝酸セリウム6水和物5.22g及び三酸化二アンチモン〔Sb23〕を87.6g加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性原料液(I)を得た。
ニオブ混合液(B0)414.3gに、H22として30wt%を含有する過酸化水素水を54.5g添加し、室温で10分間攪拌混合して、水性原料液(II)を調製した。
得られた水性原料液(I)を70℃に冷却した後にSiO2として34.0wt%を含有するシリカゾル760.3gを添加し、更に、H22として30wt%含有する過酸化水素水102.2gを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。次に、水性原料液(II)、WO3として50wt%のメタタングステン酸アンモニウム水溶液33.4g、粉体シリカ211.5gを水2.750kgに分散させた分散液を順次添加して水性混合液(III)を得た。水性混合液(III)は水性原料液(II)を添加後から2時間30分、50℃で熟成し、スラリーを得た。
得られたスラリーを、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、そして出口温度は120℃であった。
得られた乾燥粉体800gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、8.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、680℃で2時間焼成して複合酸化物を得た。
(混合物触媒の調製)
メタタングステン酸アンモニウム水溶液46.2gを水453.8gで希釈した水溶液(Wとして濃度0.7mol/kg)に得られた複合酸化物100gを攪拌しながら添加・混合した。得られた混合液をアスピレーター容器内に移動し、100kPaで10分間減圧処理した。その後、アスピレーター内の混合液を濾過し、乾燥器内で50℃12Hr乾燥処理し、タングステン化合物との混合物を得た。得られた混合物触媒に対して組成分析を行った。組成分析には蛍光X線分析装置(理学電器製、RIX1000)を使用した。
得られた混合物触媒の組成は、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.10Ce0.005nであり、w=0.07であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒35gを内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に充填し、反応温度445℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間3.4(sec・g/cc)で供給した。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は88.3%、AN収率は52.4%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は88.8%、AN収率は54.4%であった。
[実施例2]
(混合物触媒の製造)
実施例1で得られた複合酸化物を用いて、混合物触媒の製造を行った。希釈後のタングステン酸アンモニウム水溶液濃度をWとして1.5mol/kgに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
得られた混合物触媒の組成を実施例1と同様に測定した結果、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.06Ce0.005nであり、w=0.15であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒を用いて、プロパンのアンモ酸化反応を実施例1と同様に行った。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は88.2%、AN収率は52.3%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は88.6%、AN収率は53.8%であった。
[比較例1]
(複合酸化物の調製)
仕込み組成式がMo10.21Nb0.10Sb0.24Ce0.005n/47.0wt%−SiO2で示される複合酸化物を次のようにして製造した。
水1.964kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕を441.1g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕を61.4g、硝酸セリウム6水和物5.42g及び三酸化二アンチモン〔Sb23〕を87.4g加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性原料液(I)を得た。
ニオブ混合液(B0)430.8gに、H22として30wt%を含有する過酸化水素水を56.7g添加し、室温で10分間攪拌混合して、水性原料液(II)を調製した。
得られた水性原料液(I)を70℃に冷却した後にSiO2として34.0wt%を含有するシリカゾル760.3gを添加し、更に、H22として30wt%含有する過酸化水素水102.0gを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。次に、水性原料液(II)、粉体シリカ211.5gを水2.750kgに分散させた分散液を順次添加して水性混合液(III)を得た。水性混合液(III)は、水性原料液(II)を添加後から2時間30分、50℃で熟成し、スラリーを得た。
得られたスラリーを、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、そして出口温度は120℃であった。
得られた乾燥粉体800gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、8.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、680℃で2時間焼成して複合酸化物を得た。
(混合物触媒の製造)
WO3として50.0wt%含有するメタタングステン酸アンモニウム水溶液231.0gを水453.8gで希釈した水溶液(Wとして濃度1.0mol/kg)に得られた複合酸化物100gを攪拌しながら添加・混合した。得られた混合液をアスピレーター容器内に移動し、100kPaで10分間減圧処理した。その後、アスピレーター内の混合液を濾過し、乾燥器内で50℃12Hr乾燥処理し、タングステン化合物との混合物を得た。得られた混合物触媒に対して組成分析を行った。組成分析には蛍光X線分析装置(理学電器製、RIX1000)を使用した。
得られた混合物触媒の組成は、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.10Ce0.005nであり、w=0.10であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
上記処理により得られた混合物触媒35gを内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に充填し、反応温度445℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間3.4(sec・g/cc)で供給した。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は87.3%、AN収率は52.2%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は86.3%、AN収率は51.8%であった。
[比較例2]
(混合物触媒の製造)
希釈後のタングステン酸アンモニウム水溶液濃度をWとして1.5mol/kgに変更したこと以外は、比較例1と同様に混合物触媒の製造を行った。
得られた混合物触媒の組成を実施例1と同様に測定した結果、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.15Ce0.005nであり、w=0.15であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒を用いて、プロパンのアンモ酸化反応を実施例1と同様に行った。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は86.9%、AN収率は51.8%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は85.2%、AN収率は50.3%であった。
[実施例3]
(混合物触媒の製造)
メタタングステン酸アンモニウム水溶液500gを水500gで希釈した水溶液を調製し、得られた水溶液を遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、そして出口温度は120℃であった。得られたタングステン含有噴霧乾燥品100gを空気雰囲気下500℃で2時間焼成し、粉状のタングステン化合物を得た。タングステン化合物はX線回折測定により、三酸化タングステンであることを確認した。
実施例1で得られた複合酸化物100gと得られたタングステン化合物3.37gを粉のまま混合し、混合物触媒を得た。得られた混合物触媒に対して組成分析を行った。組成分析には蛍光X線分析装置(理学電器製、RIX1000)を使用した。
得られた混合物触媒の組成は、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.09Ce0.005nであり、w=0.06であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒35gを内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に充填し、反応温度445℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間3.4(sec・g/cc)で供給した。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は88.7%、AN収率は52.6%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は89.2%、AN収率は54.0%であった。
[実施例4]
(混合物触媒の製造)
混合するタングステン化合物の質量を10.1gに変更したこと以外は、実施例3と同様にして混合物触媒を得た。得られた混合物触媒に対して実施例1と同様に組成分析を行った。組成分析には蛍光X線分析装置(理学電器製、RIX1000)を使用した。
得られた混合物触媒の組成は、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.18Ce0.005nであり、w=0.15であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒35gを内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に充填し、反応温度445℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間3.4(sec・g/cc)で供給した。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は88.6%、AN収率は52.5%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は89.0%、AN収率は53.6%であった。
[比較例3]
(混合物触媒の製造)
比較例1で得られた複合酸化物を用い、混合するタングステン化合物の質量を6.74gに変更したこと以外は、実施例3と同様にして混合物触媒の製造を行った。
得られた混合物触媒の組成は、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.10Ce0.005nであり、w=0.10であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒を用いて、プロパンのアンモ酸化反応を実施例1と同様に行った。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は88.6%、AN収率は52.5%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は87.6%、AN収率は52.1%であった。
[比較例4]
(混合物触媒の製造)
比較例1で得られた複合酸化物を用い、混合するタングステン化合物の質量を10.1gに変更したこと以外は、実施例3と同様にして混合物触媒の調製を行った。
得られた混合物触媒の組成は、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.15Ce0.005nであり、w=0.15であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒を用いて、プロパンのアンモ酸化反応を実施例1と同様に行った。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は88.5%、AN収率は52.4%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は86.3%、AN収率は50.9%であった。
[比較例5]
(プロパンのアンモ酸化反応)
混合物触媒を製造することなく実施例1で得られた複合酸化物をそのまま用いて、プロパンのアンモ酸化反応を実施例1と同様に行った。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は88.4%、AN収率は52.2%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は88.3%、AN収率は52.1%であった。
[実施例5]
(複合酸化物の調製)
メタタングステン酸アンモニウム水溶液の添加量を133.6gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により仕込み組成式Mo10.21Nb0.10Sb0.240.12Ce0.005n/47.0wt%−SiO2で示される複合酸化物を製造した。
(混合物触媒の製造)
得られた複合酸化物を用い、実施例1と同様にして混合物触媒の製造を行った。
得られた混合物触媒の組成は、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.19Ce0.005nであり、w=0.07であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒を用いて、プロパンのアンモ酸化反応を実施例1と同様に行った。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は87.6%、AN収率は52.1%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は87.7%、AN収率は54.1%であった。
[実施例6]
実施例5で得られた複合酸化物を用い、実施例2と同様にして混合物触媒の製造を行った。
得られた混合物触媒の組成は、Mo10.21Nb0.10Sb0.240.27Ce0.005nであり、w=0.15であることを確認した。
(プロパンのアンモ酸化反応)
得られた混合物触媒を用いて、プロパンのアンモ酸化反応を実施例1と同様に行った。混合ガス供給開始後、5時間後のプロパン転化率は87.5%、AN収率は52.0%であった。
その後、同条件で反応を継続し、混合ガス供給開始後240Hr後のプロパン転化率は87.6%、AN収率は53.6%であった。
本発明の混合物触媒は、プロパン若しくはイソブタンを気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応させて対応する不飽和酸又は不飽和ニトリルを製造する工業的製造プロセスに有用に利用できる。

Claims (5)

  1. プロパン若しくはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応用の混合物触媒であって、
    下記組成式(1)で表される複合酸化物と、タングステン化合物と、を下記式(2)の割合で含有した混合物触媒;
    Mo1aNbbSbcden (1)
    (式(1)中、ZはLa、Ce、Pr、Ybからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、a、b、c、d、e、nはMo1原子当たりの各元素の原子比を示し、aは0.01≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、dは0.001≦d≦1、eは0<e≦1であり、nは構成金属の原子価によって決まる数を示す。)
    0.001<w<0.3 (2)
    (式(2)中、wはタングステン化合物中のタングステンの原子比を、複合酸化物中のMo1原子当たりの原子比として表したものである。)。
  2. 前記タングステン化合物が、酸化タングステンを含む、請求項1記載の混合物触媒。
  3. 流動床反応に用いられる、請求項1又は2記載の混合物触媒。
  4. 不飽和ニトリルの製造方法であって、
    請求項1〜3のいずれか1項記載の混合物触媒に、プロパン若しくはイソブタンと酸素とアンモニアを、接触させる工程を含む製造方法。
  5. プロパン若しくはイソブタンと酸素とアンモニアを、接触させた状態で400℃以上に加熱する、請求項4記載の製造方法。
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