JP4666334B2 - 酸化又はアンモ酸化用酸化物触媒の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いるための酸化物触媒の製造方法に関する。更に詳しくは、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、及びアンチモン(Sb)とテルル(Te)との2種の元素群から選ばれる少なくとも1種の元素、並びにニオブ(Nb)を成分元素として含有する酸化物触媒の製造方法であって、該酸化物触媒の各成分元素のそれぞれの化合物を含有する水性原料混合物を提供し、該水性原料混合物を乾燥し、そして焼成する工程を包含し、該水性原料混合物において、該各成分元素のそれぞれの化合物の1つであるニオブ化合物の少なくとも一部が、酸素原子または炭素原子に結合したヒドロキシル基を有する化合物からなる錯形成剤との錯体の状態で存在する、ことを特徴とする、酸化物触媒の製造方法に関する。本発明の方法によって得られる酸化物触媒を用いてプロパンまたはイソブタンの気相アンモ酸化反応または気相酸化反応を行なうと、比較的低い反応温度にて、高い選択率、収率、空時収量で(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸を製造することができる。また、本発明の酸化物触媒の製造方法を用いると、水性原料混合物の製造工程において、ニオブ化合物の析出を減少させるかまたは実質的に防止することができ、これによって、固形分量の少ない低粘度のスラリー状態か水溶液状態の水性原料混合物を製造できる。したがって、本発明の酸化物触媒の製造方法においては、水性原料混合物の製造や貯蔵のためのタンクでの撹拌動力の低減が可能であり、さらに、タンクや移送ライン中での析出物の沈降(これは水性原料混合物の組成分布の不均一化や詰まり等の原因となる)を、特殊な設備を用いずに減少させるかまたは実質的に防止することができるため、従来技術に比べて酸化物触媒を効率的に製造することができる。本発明はまた、該酸化物触媒を用いてプロパンまたはイソブタンの気相アンモ酸化反応または気相酸化反応を行なうことによる(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、プロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化反応によって(メタ)アクリロニトリルを製造する方法や、プロピレンまたはイソブチレンの酸化反応によって(メタ)アクリル酸を製造する方法が周知である。最近、プロピレンまたはイソブチレンを用いるそのような方法に代わって、プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって(メタ)アクリロニトリルを製造する方法や、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応によって(メタ)アクリル酸を製造する方法が着目されており、そのような方法に用いる触媒として多数の酸化物触媒が提案されている。
【0003】
それらの中でも特に注目されている酸化物触媒系は、反応温度が低く、また(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸の選択率、収率が比較的高いMo−V−Te−Nb系またはMo−V−Sb−Nb系の酸化物触媒系であり、これらの成分元素を含む酸化物触媒が特開平2−257号公報(USP5,049,692とEP0318295B1に対応)、特開平5−148212号公報(USP5,231,214とEP0512846B1に対応)、特開平5−208136号公報(USP5,281,745とEP0529853B1に対応)、特開平6−227819号公報、特開平6−285372号公報(USP5,422,328とEP0603836B1に対応)、特開平7−144132号公報、特開平7−232071号公報、特開平8−57319号公報、特開平8−141401号公報、特開平9−157241号公報(USP5,750,760とEP0767164B1に対応)、特開平10−310539号公報、特開平10−330343号公報、特開平11−42434号公報、特開平11−169716号公報、特開平11−226408号公報、特開2000−143244号公報、特開平11−47598号公報(USP6,036,880に対応)、特開平11−239725号公報(USP6,603,728に対応)、特開2000−70714号公報(WO 0012209A1)、米国特許第6,043,185号明細書、特開平9−316023号公報、特開平10−118491号公報、特開平10−120617号公報(FR2754817A1)、特開平9−278680号公報、特開平10−128112号公報等に開示されている。
【0004】
上記公報には、Mo−V−Te−NbやMo−V−Sb−Nbの組成を有する酸化物触媒の製造に用いるニオブ源としては、シュウ酸水素ニオブアンモニウム水溶液や、ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解させて得られる水溶液、シュウ酸ニオブ水溶液、シュウ酸水素ニオブ水溶液を用いることが記載され、さらにNb2O5、NbCl5、NbCl3、Nb(OC2H5)5、Nb2(C2O4)5、ニオブ酸等をニオブ源として用いることも記載されている。
【0005】
また、上記公報では、該酸化物触媒を製造するための水性原料混合物の製造には、これらのうちの水溶性ニオブ源であるシュウ酸水素ニオブアンモニウム水溶液、ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解させた水溶液、シュウ酸ニオブ水溶液といったニオブを含有する水溶液を用いており、これらのニオブを含有する水溶液と成分元素Mo、V及びSbのそれぞれの化合物の水溶液または成分元素Mo、V及びTeのそれぞれの化合物の水溶液を混合することによって水性原料混合物が製造されている。
【0006】
しかし、これらのニオブを含有する水溶液は、Mo、V及びSbのそれぞれの化合物の水溶液またはMo、V及びTeのそれぞれの化合物の水溶液と混合すると、水溶性ニオブのほとんどが水酸化ニオブ等のニオブ化合物として析出し、得られた水性原料混合物を用いて製造した酸化物触媒を用いてプロパンまたはイソブタンの気相アンモ酸化反応または気相酸化反応による(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸の製造を行なうと反応成績が不十分であるという問題があった。またニオブ化合物の析出の結果、水性原料混合物がスラリー化するため、水性原料混合物の製造や貯蔵のためのタンクで大きな撹拌動力を必要としたり、タンクや移送ライン中での析出物の沈降による水性原料混合物組成分布の不均一化や、詰まりが起こる恐れがあり、従って、析出物の沈降を防止するために特殊な設備(特殊設計の移送ライン等)を必要とする等、触媒を工業的に大量製造する上で問題があった。
【0007】
特開平7−315842号公報においては、Mo、V及びTeのそれぞれの化合物の水溶液と、シュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を混合して水性原料混合物を得た後、ニオブ化合物が析出する前に水性原料混合物を噴霧乾燥する方法が開示されている。しかし、上記の文献には、水性原料混合物の製造からニオブ化合物が析出するまでの時間は約10分と記載され、酸化物触媒を工業的に大量製造する場合にはこの方法を用いるのは困難である。
【0008】
特開2000−24501号公報(EP0962253A2に対応)においては、大量の水で希釈されたMo、V及びTeのそれぞれの化合物の水溶液と大量の水で希釈されたシュウ酸ニオブ水溶液を混合し、水性原料混合物の濃度を下げることによって、水溶液の状態を保つ方法が開示されている。該方法では、水性原料混合物(水溶液として得られる)の製造から5分程度でスラリー化が始まり、15分程度でほとんどのニオブはニオブ化合物(水酸化ニオブ等)として析出する。該方法は水性原料混合物(水溶液として得られる)がスラリー化するまでの時間を若干長くするのみであり、その水溶液状態を安定に維持することはできないため、触媒を工業的に大量製造する場合にはこの方法を用いるのは困難である。また大量の水で希釈すると、水性原料混合物を乾燥させるのに多大のエネルギーを必要とし好ましくない。さらに、流動床方式でプロパンまたはイソブタンのアンモ酸化反応または酸化反応を行う場合は、触媒の流動性を高めるために触媒粒子形状が球体であることが必要であり、その目的のために水性原料混合物を噴霧乾燥して触媒前駆体が製造されるが、水で大量に希釈された水性原料混合物では触媒形状が著しく悪化する。
【0009】
一方、特開平11−285636号公報、特開2000−70714号公報(WO 0012209A1に対応)においては、Mo、V及びSbのそれぞれの化合物を含む水溶液を酸化処理してからシュウ酸ニオブ水溶液を添加して得られる水性原料混合物を用いて酸化物触媒を製造する方法が開示され、その中で過酸化水素水をMo、V及びSbのそれぞれの化合物の水溶液に添加する方法が開示されている。該方法は3価のSbと5価のV、6価のMo原料を水溶液中でレドックスさせ、得られた水溶液に過酸化水素水を添加して還元された元素の酸化処理を行う方法である。特開平11−285636号公報の場合は、100℃のMo、V及びSbのそれぞれの化合物の水溶液に、過酸化水素/Sbのモル比で0.5程度までの過酸化水素水を滴下していく方法が記述されている。特開2000−70714号公報の場合は、25℃のMo、V及びSbのそれぞれの化合物の水溶液に、過酸化水素/Sbのモル比で0.8程度までの過酸化水素水を添加する方法が記述されている。これらの方法においても酸化処理後にシュウ酸ニオブ水溶液を添加すると、ほとんどのニオブはニオブ化合物(水酸化ニオブ等)となって析出してしまい、析出に伴う触媒の大量製造上の問題や、得られた触媒を用いた酸化反応やアンモ酸化反応での選択率や収率などの反応成績が不十分であるという問題があった。
【0010】
特開平11−226408号公報においては、Mo、V及びTeのそれぞれの化合物の水溶液やMo、V及びSbのそれぞれの化合物の水溶液を調製するにあたり、パラモリブデン酸アンモニウム水溶液にテルル粉末、またはアンチモン粉末を添加した後、過酸化水素水を添加、70℃で加温攪拌してテルルまたはアンチモンを溶解させて均一溶液を作り、これにメタバナジン酸アンモニウムを添加し溶解させて、Mo、V及びTeのそれぞれの化合物の水溶液やMo、V及びSbのそれぞれの化合物の水溶液を調製する。ついで、得られたMo、V及びTeのそれぞれの化合物の水溶液やMo、V及びSbのそれぞれの化合物の水溶液に、シュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を添加することによって水性原料混合物を得て、これを用いて酸化物触媒を製造する方法が開示されている。該方法においても、後から添加したシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液のニオブは、ほとんどがニオブ化合物(水酸化ニオブ等)となって析出してしまい、析出に伴う触媒の大量製造上の問題や、得られた触媒を用いた酸化反応やアンモ酸化反応での選択率や収率などの反応成績が不十分であるという問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このように、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、及びアンチモン(Sb)とテルル(Te)との2種の元素群から選ばれる少なくとも1種の元素、並びにニオブ(Nb)を成分元素として含有する酸化物触媒の従来の製造方法は、触媒の大量製造に適さないという問題や、得られた触媒を用いた酸化反応やアンモ酸化反応での選択率や収率が不十分であるという問題があった。
【0012】
【課題を解決するための手段】
このような状況下、本発明者らは、従来技術の上記問題を解決するために鋭意検討した。その結果、意外にも、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、及びアンチモン(Sb)とテルル(Te)との2種の元素群から選ばれる少なくとも1種の元素、並びにニオブ(Nb)を成分元素として含有する酸化物触媒の製造方法であって、用いる水性原料混合物において、該各成分元素のそれぞれの化合物の1つであるニオブ化合物の少なくとも一部が、酸素原子または炭素原子に結合したヒドロキシル基を有する化合物からなる錯形成剤との錯体の状態で存在する酸化物触媒の製造方法を用いて酸化物触媒を製造すると、水性原料混合物の製造工程においてニオブ化合物の析出を減少させるかまたは実質的に防止することができることを見出した。また、この酸化物触媒を(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸の製造に使用すると、(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸の選択率、収率、空時収量が大きく改善されることを見いだした。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0013】
従って、本発明の1つの目的は、プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって(メタ)アクリロニトリルを、または気相接触酸化反応によって(メタ)アクリル酸を製造する際に用いる、モリブデン、バナジウム、及びアンチモンとテルルとの2種の元素群から選ばれる少なくとも1種の元素、並びにニオブを成分元素として含有する酸化物触媒であって、(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸の選択率、収率、空時収量が大きく改善される酸化物触媒の製造方法であって、しかも該酸化物触媒を工業的に大量に製造するのに適した製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の1つの目的は、該酸化物触媒を用いてアンモ酸化反応を行なうことを包含する(メタ)アクリロニトリルを製造する方法と、該酸化物触媒を用て酸化反応を行なうことを包含する(メタ)アクリル酸を製造する方法を提供することにある。
【0015】
本発明によると、
プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いるための酸化物触媒の製造方法において、
該酸化物触媒は下記式(I):
Mo1 . 0VaXbNbcZd On (I)
(式中:
XはSbとTeからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し;
ZはW、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Zn、B、Ga、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、希土類元素およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を表し;そして
a、b、c、dおよびnは、それぞれ、V、X、Nb、Z及びOのMoに対する原子比を表し、
a、b、c、dは各々
0.01≦a≦100;
0.01≦b≦100;
0.01≦c≦100;
0≦d≦100 であり、そして
nは他の構成元素の原子価を満足する数である。)
で表わされる組成を有し、
式(I)の該組成の各成分元素のそれぞれの化合物を含有する水性原料混合物を提供し、該水性原料混合物を乾燥し、そして焼成する工程を包含し、
該水性原料混合物において、該各成分元素のそれぞれの化合物の1つであるニオブ化合物の少なくとも一部が、酸素原子または炭素原子に結合したヒドロキシル基を有する化合物からなる錯形成剤との錯体の状態で存在する、
ことを特徴とする、酸化物触媒の製造方法が提供される。
【0016】
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的特徴および好ましい態様を列挙する。
1.プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いるための酸化物触媒の製造方法において、該酸化物触媒は下記式(I):Mo1.0VaXbNbcZdOn (I)
(式中:XはSbとTeからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し;ZはW、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Zn、B、Ga、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、希土類元素およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を表し;そしてa、b、c、dおよびnは、それぞれ、V、X、Nb、Z及びOのMoに対する原子比を表し、a、b、c、dは各々0.01≦a≦100;
0.01≦b≦100;
0.01≦c≦100;
0≦d≦100 であり、そしてnは他の構成元素の原子価を満足する数である。)で表わされる組成を有し、式(I)の該組成の各成分元素のそれぞれの化合物を含有する水性原料混合物を提供し、該水性原料混合物を乾燥し、そして焼成する工程を包含し、該水性原料混合物において、該各成分元素のそれぞれの化合物の1つであるニオブ化合物の少なくとも一部が、酸素原子または炭素原子に結合したヒドロキシル基を有する化合物からなる錯形成剤との錯体の状態で存在し、該水性原料混合物中の錯体形成率(R)が20モル%以上であり、該錯体形成率(R)は下記式(II):
R(モル%)={(S1―S2)/(S3―S2)}×100 (II)
(ただし、式中、S1は該水性原料混合物中の水溶性ニオブ原子のモル量、S2は該錯体形成に起因しない水溶性ニオブ原子のモル量、S3は該水性原料混合物中の水溶性ニオブ原子と水不溶性ニオブ原子の合計モル量である。)によって定義されることを特徴とする、酸化物触媒の製造方法。
【0017】
2.該水性原料混合物中の錯体形成率(R)が90モル%以上である請求項1に記載の酸化物触媒の製造方法。
【0018】
3.ニオブ化合物がニオブのジカルボン酸化合物であることを特徴とする前項1又は2に記載の方法。
【0019】
4.ニオブのジカルボン酸化合物が、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させたときに生成する化合物であることを特徴とする前項3に記載の方法。
【0020】
5.該錯形成剤が過酸化水素とモノオキシ多価カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする前項1〜4のいずれかに記載の方法。
【0021】
6.該水性原料混合物が、
ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解してニオブのジカルボン酸化合物水溶液を得て、
得られたニオブのジカルボン酸化合物水溶液を該錯形成剤または該錯形成剤の水溶液と混合してニオブのジカルボン酸化合物/錯形成剤水溶液を得て、そして得られたニオブのジカルボン酸化合物/錯形成剤水溶液を、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つ又は2つ以上の水性混合物と混合して該水性原料混合物を得る、
ことを包含する方法によって得られることを特徴とする前項4又は5に記載の方法。
【0022】
7.該水性原料混合物が、
該錯形成剤または該錯形成剤の水溶液を、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つ又は2つ以上の水性混合物と混合して錯形成剤含有非ニオブ元素化合物水性混合物を得て、
得られた錯形成剤含有非ニオブ元素化合物水性混合物を、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解して得られるニオブのジカルボン酸化合物水溶液と混合して該水性原料混合物を得る、
ことを包含する方法によって得られることを特徴とする前項4又は5に記載の方法。
【0023】
8.該錯形成剤が過酸化水素であることを特徴とする前項1〜7のいずれかに記載の方法。
【0024】
9.該ジカルボン酸がシュウ酸であることを特徴とする前項3〜8のいずれかに記載の方法。
【0025】
10.該水性原料混合物が更にシリカ原料を含有しており、該シリカ原料の量を、シリカ担体に担持されてなる形成される該酸化物触媒において、該酸化物触媒とシリカ担体の合計重量に対する該シリカ担体の量が20〜60重量%となるように調整する、
ことを特徴とする前項1〜9のいずれかに記載の方法。
【0026】
11.前項1〜10のいずれかの方法で酸化物触媒を製造し、得られた酸化物触媒の存在下にプロパンまたはイソブタンを気相でアンモニア及び分子状酸素と反応させることを包含する、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する方法。
【0027】
12.前項1〜10のいずれかの方法で酸化物触媒を製造し、得られた酸化物触媒の存在下にプロパンまたはイソブタンを気相で分子状酸素と反応させることを包含する、アクリル酸またはメタクリル酸を製造する方法。
【0028】
本発明の方法によって得られる該酸化物触媒は、下記式(I)で表わされる組成を有する:
Mo1 . 0VaXbNbcZd On (I)
(式中:
XはSbとTeからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し;
ZはW、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Zn、B、Ga、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、希土類元素およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、好ましくは、ZはW、Sn、Ti、Ga、Ge、AlおよびFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表し;そして
a、b、c、dおよびnは、それぞれ、V、X、Nb、Z及びOのMoに対する原子比を表し、
a、b、c、dは各々
0.01≦a≦100、好ましくは0.1≦a≦1、特に好ましくは0.2≦a≦0.4;
0.01≦b≦100、好ましくは0.01≦b≦0.6、特に好ましくは0.1≦b≦0.3;
0.01≦c≦100、好ましくは0.01≦c≦0.3、特に好ましくは0.03≦c≦0.2;
0≦d≦100、好ましくは0≦d≦1、特に好ましくは0.01≦d≦0.3
であり、そして
nは他の構成元素の原子価を満足する数である。)
【0029】
本発明の酸化物触媒の製造方法は、水性原料混合物を提供する工程、該水性原料混合物を乾燥する工程、そして焼成工程からなる。本発明の酸化物触媒の製造方法は、該水性原料混合物において、該各成分元素のそれぞれの化合物の1つであるニオブ化合物の少なくとも一部が、酸素原子または炭素原子に結合したヒドロキシル基を有する化合物からなる錯形成剤との錯体の状態で存在することに特徴がある。該水性原料混合物を提供する工程において、上記の特定の錯体を含む水性原料混合物を製造する。該水性原料混合物は、触媒の成分元素を全て含む液状物である。
【0030】
本発明において、ニオブ化合物の少なくとも一部と上記の特定の錯形成剤との間に生成する錯体とは、ニオブ化合物の水溶液と該錯形成剤または該錯形成剤の水溶液を混合したときに生成する錯体、またはニオブ化合物と該錯形成剤の水溶液を混合したときに生成する錯体、またはニオブ化合物と該錯形成剤を同時に水に加えて混合・溶解させたときに生成する錯体である。
【0031】
本発明において錯形成剤として用いる、酸素原子または炭素原子に結合したヒドロキシル基を有する化合物(以下屡々単に「ヒドロキシル基含有化合物」と称する)とは、1つの分子中にヒドロキシル基(−OH)を持ち、且つ該ヒドロキシル基が酸素原子または炭素原子に結合している構造を有する化合物である。カルボン酸基(−COOH)中のOHはヒドロキシル基ではないので、カルボン酸基のみを持つ化合物は、本発明で錯形成剤として用いるヒドロキシル基含有化合物ではない。
【0032】
本発明で用いられるニオブ化合物の例としては、ニオブ酸、NbCl5、NbCl3、Nb(OC2H5)5、シュウ酸ニオブが挙げられ、ニオブ化合物の水溶液としては、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させて得られるニオブのジカルボン酸化合物水溶液を例示することができる。好ましくはニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させて得られるニオブのジカルボン酸化合物水溶液である。
ジカルボン酸としては、シュウ酸が好ましい。なお、ニオブのシュウ酸化合物としては、ニオブ1原子にシュウ酸が2分子配位した化合物、ニオブ1原子にシュウ酸が3分子配位した化合物、ニオブ1原子にシュウ酸が5分子配位した化合物等が知られているが、本発明においては、ニオブのシュウ酸化合物は上記のいずれの化合物でもよい。
【0033】
該水性原料混合物中の錯体形成率(式(II)で定義されるR)が20〜100モル%の範囲であることが好ましい。より好ましくは40〜100モル%の範囲であり、特に好ましくは90〜100モル%の範囲である。該水性原料混合物中の錯体形成率(R)は下記式(II)によって定義される。
R(モル%)={(S1―S2)/(S3―S2)}×100 (II)
(ただし、式中、S1は該水性原料混合物中の水溶性ニオブ原子のモル量、S2は該錯体形成に起因しない水溶性ニオブ原子のモル量、S3は該水性原料混合物中の水溶性ニオブ原子と水不溶性ニオブ原子の合計モル量である。)
【0034】
上記錯体形成率(R)は、該水性原料混合物中においてニオブ化合物が該錯形成剤と錯体を形成している程度の目安である。該錯体は該水性原料混合物中において析出することなく安定である。本発明の触媒製造方法において用いる該水性原料混合物中に該錯体が存在していることよって、得られる触媒をプロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応または気相接触酸化反応による(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸の製造に用いると、触媒が選択率、収率、空時収量に関して優れた性能を示す。しかし、水性原料混合物中の該錯体の量が少なすぎて錯体形成率(R)が20モル%未満であると、得られる触媒の性能の向上の程度が大きくない。またニオブ化合物の析出量の減少が不充分なため、水性原料混合物の製造工程における操作性の改善効果が小さい。
【0035】
該水性原料混合物中の水溶性Nb原子のモル量(S1)は、水溶液相中に存在する全ての水溶性Nb原子のモル量である。これは、濾過、遠心分離等によって水性原料混合物を水溶液相と析出相に分離し、水溶液相中のNbを、ICP発光分析、原子吸光分析等によって定量することによって算出される。
【0036】
該錯体形成に起因しない水溶性Nb原子のモル量、即ちS2の値は、下記のような参照用水性原料混合物を調製し、それを濾過、遠心分離等によって水溶液相と析出相に分離し、水溶液相中のNbを、ICP発光分析、原子吸光分析等によって定量することによって算出される。上記参照用水性原料混合物とは、該錯体を含む水性原料混合物の調製を行う工程において、該錯形成剤またはその水溶液の添加・混合を行わない以外は、同じ原料を同じ量比で用い、混合順序、温度等の条件を同じにして得られた水性原料混合物である。既に調製されて提供された水性原料混合物の場合には、まず各種分析により該錯体の存在を確認した後、元素組成の分析によって、各種原料と錯形成剤の定性・定量を行ない、上記と同様の方法によりS2の値が測定される。
【0037】
該水性原料混合物中の水溶性ニオブ原子と水不溶性ニオブ原子の合計モル量(S3)は、Nb原子の仕込量から算出するか、または水性原料混合物の水溶液相のNbと析出相のNbを合計することによって算出される。
【0038】
一般に、水性原料混合物中のニオブ化合物の析出は、水性原料混合物の製造から約15分以内に完了する。この点を考慮し、本発明においては、錯体形成率(R)は、水性原料混合物を製造してから30分後に測定する。
【0039】
なお錯体形成率(R)の定義式(II)から明らかなように、Rが大きいほど水性原料混合物の固形分量が低いことを意味する。
【0040】
ニオブ化合物と該錯形成剤(該ヒドロキシル基含有化合物)から生成された錯体を含む水性原料混合物を製造する方法は、該錯体が生成できる限り特に限定されないが、好ましい方法としては、以下の方法(a)と方法(b)を挙げることができる。
【0041】
方法(a): ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解してニオブのジカルボン酸化合物水溶液を得て、
得られたニオブのジカルボン酸化合物水溶液を該錯形成剤または該錯形成剤の水溶液と混合してニオブのジカルボン酸化合物/錯形成剤水溶液を得て、そして得られたニオブのジカルボン酸化合物/錯形成剤水溶液を、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つ又は2つ以上の水性混合物と混合して該水性原料混合物を得る、
ことを包含する方法。
【0042】
方法(b): 該錯形成剤または該錯形成剤の水溶液を、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つ又は2つ以上の水性混合物と混合して錯形成剤含有非ニオブ元素化合物水性混合物を得て、
得られた錯形成剤含有非ニオブ元素化合物水性混合物を、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解して得られるニオブのジカルボン酸化合物水溶液と混合して該水性原料混合物を得る、
ことを包含する方法。
【0043】
上記方法(a)は、あらかじめニオブ化合物と該錯形成剤から錯体を形成しておく方法である。なお、方法(b)は、該2つ以上の水性混合物がそれぞれニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物の一部を含み、それら2つ以上の水性混合物が全体でニオブ以外の全ての成分元素を含むようにして、これら2つ以上の水性混合物を適宜の順序で使用することにより、最終的に該水性原料混合物がニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物の全部を含むようにして行なうこともできる。従って、方法(b)は、該錯形成剤含有非ニオブ元素化合物水性混合物がニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物の一部を含むようにし、それと、ニオブのジカルボン酸化合物水溶液と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物の残りの部分を含む1つまたは2つ以上の水性混合物とを適宜の順序で混合することにより該水性原料混合物を得るようにすることができる。
上記方法(a)と方法(b)のうち、方法(a)が好ましい。
【0044】
該錯形成剤として用いるヒドロキシル基含有化合物(即ち酸素原子または炭素原子に結合したヒドロキシル基を有する化合物)は、過酸化水素とモノオキシ多価カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。モノオキシ多価カルボン酸とは、1つの分子中に1つのヒドロキシル基と2つ以上のカルボン酸基を持つ化合物であり、タルトロン酸、メチルタルトロン酸、エチルタルトロン酸、n−プロピルタルトロン酸、イソプロピルタルトロン酸、オキシメチルマロン酸、オキシイソプロピルマロン酸、エチル−オキシメチル−マロン酸、DL−リンゴ酸、L−リンゴ酸、D−リンゴ酸、α−メチルリンゴ酸、α−オキシ−α’−メチルコハク酸、α−オキシ−α’,α’−ジメチルコハク酸、α−オキシ−α,α’−ジメチルコハク酸、α−オキシ−α’−エチルコハク酸、α−オキシ−α’−メチル−α−エチルコハク酸、トリメチルリンゴ酸、α−オキシグルタル酸、β−オキシグルタル酸、ジクロタリン酸、β−オキシ−α,α−ジメチルグルタル酸、β−オキシ−α,α,γ−トリメチルグルタル酸、β−オキシ−α,α,β−トリメチルグルタル酸、α−オキシアジピン酸、α−メチル−α−オキシアジピン酸、α−オキシスベリン酸、α−オキシセバシン酸、2−オキシ−2−オクチルテトラデカン二酸、クエン酸、イソクエン酸、4−オキシペンタン−1,3,4−トリカルボン酸、ノルカペラート酸等を例示することができる。好ましくはクエン酸、DL−リンゴ酸、L−リンゴ酸、D−リンゴ酸である。
錯形成剤としては、特に過酸化水素が好ましい。
【0045】
該水性原料混合物の製造に用いる錯形成剤/ニオブのモル比は好ましくは0.2〜10である。錯形成剤/ニオブのモル比が0.2未満では、得られる触媒を反応に用いた際の(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸の選択率、収率、空時収量の向上巾が小さく、またニオブの析出量が多いため水性原料混合物の製造工程における操作性の改善効果が小さい。上記の比が10より多いと(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸の選択率、収率、空時収量が低下する。
【0046】
該錯形成剤が過酸化水素である場合について詳細に説明する。
【0047】
過酸化水素/ニオブのモル比は好ましくは0.2〜10であり、より好ましくは0.4〜8であり、特に好ましくは2〜6である。
【0048】
過酸化水素/ニオブのモル比とは、モリブデン、バナジウム、及びアンチモンとテルルとの2種の元素群から選ばれる少なくとも1種の元素、ニオブ、任意の成分元素Zのそれぞれの化合物(原料化合物)において、これらの元素の酸化数がそれぞれの元素の最高酸化数、すなわちモリブデンであれば6価、バナジウムであれば5価、アンチモンであれば5価、テルルであれば6価、ニオブであれば5価、任意の成分元素ZであればZの最高酸化数である場合は、水性原料混合物中のニオブのモル数に対して、添加した過酸化水素のモル数の比である。ここでZの最高酸化数とは、Zがタングステンの場合は6価、クロムの場合は6価、チタンの場合は4価、アルミニウムの場合は3価、タンタルの場合は5価、ジルコニウムの場合は4価、ハフニウムの場合は4価、マンガンの場合は7価、レニウムの場合は7価、鉄の場合は3価、ルテニウムの場合は4価、コバルトの場合は3価、ロジウムの場合は4価、ニッケルの場合は3価、パラジウムの場合は4価、白金の場合は4価、亜鉛の場合は2価、ホウ素の場合は3価、ガリウムの場合は3価、インジウムの場合は3価、ゲルマニウムの場合は4価、スズの場合は4価、リンの場合は5価、鉛の場合は4価、ビスマスの場合は5価、イットリウムの場合は3価、セリウムの場合は4価、セリウムを除く希土類の場合は3価である。
【0049】
一方、最高酸化数でない成分元素を含む化合物を原料として用いる場合は、添加した過酸化水素のモル数とは、実際に添加した過酸化水素のモル数から、最高酸化数でない成分元素を最高酸化数にするのに必要な過酸化水素のモル数を引いた過酸化水素のモル数である。最高酸化数でない成分元素が複数あれば、添加した過酸化水素のモル数とは、それぞれの成分元素を最高酸化数にするのに必要な過酸化水素のモル数を求め、その合計を、実際に添加した過酸化水素のモル数から引いた過酸化水素のモル数である。最高酸化数でない成分元素を最高酸化数にするのに必要な過酸化水素のモル数とは、該成分元素の最高酸化数がnである場合に、p価の該成分元素をqモル用いた場合は、((n−p)×q)/2モルである。
【0050】
該錯形成剤が過酸化水素である場合の水性原料混合物の製造のための方法(a)と方法(b)について以下に詳しく述べる。
【0051】
まず方法(a)について説明する。方法(a)は、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させてNbの濃度が0.01〜2mol/kg(好ましくは0.1〜0.8mol/kg)である水溶液を得た後に、0.01〜30重量%濃度の過酸化水素水(好ましくは0.1〜10重量%濃度の過酸化水素水)を添加して得られた水溶液(以下、「ニオブ−過酸化水素水溶液」と称する)と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つまたは2つ以上の水性混合物(ニオブ以外の成分元素の合計濃度:0.01〜10mol/kg、好ましくは0.1〜3mol/kg)を混合して、水性原料混合物を製造する方法である。該ニオブ−過酸化水素水溶液及び水性混合物の温度は1〜65℃の範囲に保持することが好ましく、特に好ましくは5〜50℃の範囲である。温度が65℃より高いと過酸化水素の分解が生じるため好ましくない。温度が1℃より低いと凍結するため好ましくない。また、水性原料混合物の温度も1〜65℃の範囲に保持することが好ましい。ジカルボン酸としては前記したようにシュウ酸が好ましい。ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させるときに用いるジカルボン酸/ニオブのモル比は、1〜10であり、好ましくは2〜6であり、特に好ましくは2〜4である。ジカルボン酸/ニオブのモル比が1より小さいか又は10より大きいと、得られる触媒を用いてプロパンまたはイソブタンから(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸を製造する反応を行なった際の選択率が低い。
【0052】
ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物がニオブ以外の全ての成分元素を含んでいれば、該ニオブ−過酸化水素水溶液と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物を混合することによって水性原料混合物を得る。ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物が2つ以上あり、それぞれがニオブ以外の成分元素の一部を含み、それら2つ以上の水性混合物の全体でニオブ以外の全ての成分元素を含む場合は、該ニオブ−過酸化水素水溶液と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む2つ以上の水性混合物を適宜の順序で混合することによって水性原料混合物を得る。
【0053】
方法(b)について説明する。方法(b)は、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つまたは2つ以上の水性混合物(ニオブ以外の成分元素の合計濃度:0.01〜10mol/kg、好ましくは0.1〜3mol/kg)と0.01〜30重量%濃度の過酸化水素水(好ましくは0.1〜10重量%濃度の過酸化水素水)を混合して水性混合物を得て、また、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させてNbの濃度が0.01〜2mol/kg(好ましくは0.1〜0.8mol/kg)である水溶液を得た後に、これを上記の水性混合物と混合して水性原料混合物を製造する方法である。ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物がニオブ以外の全ての成分元素を含んでいれば、該水性混合物を過酸化水素水と混合し、得られた水性混合物を、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解して得られる水溶液と混合することによって水性原料混合物を得る。ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物が2つ以上あり、それぞれがニオブ以外の成分元素の一部を含み、それら2つ以上の水性混合物の全体でニオブ以外の全ての成分元素を含む場合は、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物の一部を含む水性混合物と過酸化水素水を混合して得られた水性混合物と、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解して得られる水溶液と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物の残りの部分を含む水性混合物を適宜の順序で混合することによって水性原料混合物を得る。上記の全ての水性混合物及び水溶液の温度は1〜60℃の範囲が好ましく、より好ましくは5〜50℃の範囲であり、特に好ましくは10〜40℃の範囲である。温度が60℃より高いと過酸化水素の分解が生じるため好ましくない。温度が1℃より低いと凍結するため好ましくない。また、水性原料混合物の温度は1〜65℃の範囲が好ましい。ジカルボン酸としてはシュウ酸が好ましい。使用するジカルボン酸/ニオブのモル比は、1〜10であり、好ましくは2〜6であり、特に好ましくは2〜4である。ジカルボン酸/ニオブのモル比が1より小さいか又は10より大きいと、得られる触媒を用いてプロパンまたはイソブタンから(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸を製造する反応を行なった際の選択率が低い。
方法(a)が、扱える温度領域が広いため、方法(b)より操作性がよい。
【0054】
次に、該錯形成剤がモノオキシ多価カルボン酸である場合の水性原料混合物の製造のための方法(a)と方法(b)について詳しく述べる。
【0055】
まず方法(a)について説明する。方法(a)は、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させてNbの濃度が0.01〜2mol/kg(好ましくは0.1〜0.8mol/kg)である水溶液を得た後に、モノオキシ多価カルボン酸を添加して得られた水溶液、又はニオブ酸をジカルボン酸とモノオキシ多価カルボン酸の混合水溶液に溶解させて得られた水溶液(以下、「ニオブ−モノオキシ多価カルボン酸水溶液」と称する)と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つまたは2つ以上の水性混合物(ニオブ以外の成分元素の合計濃度:0.01〜10mol/kg、好ましくは0.1〜3mol/kg)を混合して、水性原料混合物を製造する方法である。該ニオブ−モノオキシ多価カルボン酸水溶液及び水性混合物の温度は1〜80℃の範囲に保持することが好ましく、より好ましくは5〜70℃、特に好ましくは10〜60℃の範囲である。また、水性原料混合物の温度も1〜80℃の範囲が好ましい。ジカルボン酸としては前記したようにシュウ酸が好ましい。ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させるときに用いるジカルボン酸/ニオブのモル比は、1〜10であり、好ましくは1〜6であり、特に好ましくは1〜4である。ジカルボン酸/ニオブのモル比が1より小さいか又は10より大きいと、得られる触媒を用いてプロパンまたはイソブタンから(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸を製造する反応を行なった際の選択率が低い。
【0056】
ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物がニオブ以外の全ての成分元素を含んでいれば、該ニオブ−モノオキシ多価カルボン酸水溶液と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物を混合することによって水性原料混合物を得る。ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物が2つ以上あり、それぞれがニオブ以外の成分元素の一部を含み、それら2つ以上の水性混合物の全体でニオブ以外の全ての成分元素を含む場合は、該ニオブ−モノオキシ多価カルボン酸水溶液と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む2つ以上の水性混合物を適宜の順序で混合することによって水性原料混合物を得る。
【0057】
方法(b)について説明する。方法(b)は、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つまたは2つ以上の水性混合物(ニオブ以外の成分元素の合計濃度:0.01〜10mol/kg、好ましくは0.1〜3mol/kg)とモノオキシ多価カルボン酸を混合して水性混合物を得て、また、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させてNbの濃度が0.01〜2mol/kg(好ましくは0.1〜0.8mol/kg)である水溶液を得た後に、これを上記の水性混合物と混合して水性原料混合物を製造する方法である。ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物がニオブ以外の全ての成分元素を含んでいれば、該水性混合物をモノオキシ多価カルボン酸と混合し、得られた水性混合物を、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解して得られる水溶液と混合することによって水性原料混合物を得る。ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む水性混合物が2つ以上あり、それぞれがニオブ以外の成分元素の一部を含み、それら2つ以上の水性混合物の全体でニオブ以外の全ての成分元素を含む場合は、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物の一部を含む水性混合物とモノオキシ多価カルボン酸を混合して得られた水性混合物と、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解して得られる水溶液と、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物の残りの部分を含む水性混合物を適宜の順序で混合することによって水性原料混合物を得る。上記の全ての水性混合物及び水溶液の温度は1〜80℃の範囲が好ましく、より好ましくは5〜70℃の範囲であり、特に好ましくは10〜60℃の範囲である。また、水性原料混合物の温度も1〜80℃の範囲が好ましい。ジカルボン酸としてはシュウ酸が好ましい。使用するジカルボン酸/ニオブのモル比は、1〜10であり、好ましくは1〜6であり、特に好ましくは1〜4である。ジカルボン酸/ニオブのモル比が1より小さいか又は10より大きいと、得られる触媒を用いてプロパンまたはイソブタンから(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸を製造する反応を行なった際の選択率が低い。
前述したように、方法(a)が方法(b)より好ましい。
【0058】
本発明の方法においては、該水性原料混合物が更にシリカ原料を含有し、シリカ担体に担持されてなる酸化物触媒を得ることが好ましい。シリカ担体の量は、酸化物触媒とシリカ担体の合計重量に対して、好ましくは20〜60重量%、特に好ましくは25〜55重量%である。
【0059】
シリカ担体の重量%は、下記の式(III)式で定義される。
シリカ担体の重量%={W2/(W1+W2)}×100 (III)
(但し、W1は、仕込み組成と仕込み成分元素の酸化数に基づいて算出された酸化物触媒の重量である。W2は、仕込み組成に基づいて算出されたシリカ担体(SiO2)の重量である。)
【0060】
次に、本発明の酸化物触媒製造方法において用いる、ニオブ以外の成分元素の原料化合物、即ち、モリブデン、バナジウム、及びアンチモンとテルルとの2種の元素群から選ばれる少なくとも1種の元素、任意成分元素であるZ成分の原料化合物について説明する。
【0061】
モリブデン原料の例としては、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデンのオキシ塩化物、モリブデンの塩化物、モリブデンのアルコキシド等を挙げることができ、好ましくはヘプタモリブデン酸アンモニウムである。
【0062】
バナジウム原料の例としては、メタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)、バナジウムのオキシ塩化物、バナジウムのアルコキシド等を挙げることができ、好ましくはメタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)である。
【0063】
アンチモン原料の例としては、酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(IV)、酸化アンチモン(V)、メタアンチモン酸(III)、アンチモン酸(V)、アンチモン酸アンモニウム(V)、塩化アンチモン(III)、塩化酸化アンチモン(III)、硝酸酸化アンチモン(III)、アンチモンのアルコキシド、アンチモンの酒石酸塩等の有機酸塩、金属アンチモン等を挙げることができ、好ましくは酸化アンチモン(III)である。
【0064】
テルルの原料の例としてはテルル酸や金属テルル等を挙げることができ、好ましくはテルル酸である。
【0065】
Z成分の原料の例としては、Z成分のシュウ酸塩、水酸化物、酸化物、硝酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩、アルコキシド等を挙げることができる。
【0066】
担体としてシリカを用いる場合は原料としてシリカゾルが好適に用いられる。
中でもアンモニウムイオンで安定化したシリカゾルを用いることが好ましい。
【0067】
本発明の酸化物触媒の製造方法について、以下に具体的に説明する。本発明の製造方法は、水性原料混合物を提供する工程(水性原料混合物の調製工程)、該水性原料混合物を乾燥する工程及び焼成工程の3つの工程からなる。以下にこれらの工程について具体例を挙げて説明する。
【0068】
<水性原料混合物の調製工程>
水性原料混合物を製造するための上記の方法(a)と方法(b)について、具体的な方法を説明する。以下の具体的な方法のそれぞれにおいては、ニオブ化合物の水溶液として、ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解させて得られるニオブのシュウ酸化合物水溶液を用いる。また、以下の具体的な方法のそれぞれについては、該錯形成剤(該ヒドロキシル基含有化合物)の水溶液として過酸化水素水を用いた場合と、該錯形成剤としてモノオキシ多価カルボン酸であるクエン酸を用いた場合とについて、別々に次に説明する。
【0069】
該錯形成剤として過酸化水素を用いる場合の方法(a):
まず、X成分がTeである場合を説明する。
ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解して水溶液を調製する。使用するシュウ酸/ニオブのモル比は、1〜10であり、好ましくは2〜6であり、特に好ましくは2〜4である。得られた水溶液に過酸化水素水を添加し、ニオブ−過酸化水素水溶液を製造する。過酸化水素/ニオブのモル比は好ましくは0.2〜10であり、より好ましくは0.4〜8であり、特に好ましくは2〜6である。得られたニオブ−過酸化水素水溶液は65℃以下、特には50℃以下に保持することが好ましい。ニオブの濃度は好ましくは0.05mol/kg以上、特に好ましくは0.15mol/kg以上である。
【0070】
一方、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、テルル酸を水に溶解させて水溶液を得る。このときのモリブデンの濃度は好ましくは0.2mol/kg以上、特に好ましくは0.5mol/kg以上である。得られた水溶液とニオブ−過酸化水素水溶液を混合して水性原料混合物を製造する。
【0071】
X成分がSbである場合を説明する。ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化アンチモン(III)を含有する水性混合物を、好ましくは70〜100℃で反応させ、得られたモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する水性混合物を空気酸化、または過酸化水素等によって液相酸化し水溶液を得る。目視で濃紺色からオレンジ色〜茶色になるまで酸化するのが好ましい。このときのモリブデンの濃度は好ましくは0.2mol/kg以上、特に好ましくは0.5mol/kg以上である。得られた水溶液を10〜65℃の範囲に冷却し、ニオブ−過酸化水素水溶液と混合して水性原料混合物を製造する。
【0072】
または、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを溶解させた水溶液に、酸化アンチモン(III)と0.01〜30重量%濃度の過酸化水素水(好ましくは0.1〜10重量%濃度の過酸化水素水)を添加し50〜80℃で攪拌する。得られた水溶液にメタバナジン酸アンモニウムを添加し水溶液を得る。得られた水溶液を10〜65℃の範囲に冷却し、ニオブ−過酸化水素水溶液と混合して水性原料混合物を製造する。
【0073】
該錯形成剤として過酸化水素を用いる場合の方法(b):
まず、X成分がTeである場合を説明する。
ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解してニオブのシュウ酸化合物の水溶液を得る。ニオブの濃度は好ましくは0.05mol/kg以上、特に好ましくは0.15mol/kg以上である。
【0074】
一方、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、テルル酸を水に溶解させて水溶液を得て、得られた水溶液に過酸化水素水を添加し、過酸化水素含有モリブデン−バナジウム−テルル水溶液を得る。このときのモリブデンの濃度は好ましくは0.2mol/kg以上、特に好ましくは0.5mol/kg以上である。過酸化水素水の量は、過酸化水素/ニオブのモル比で、好ましくは0.2〜10であり、より好ましくは0.4〜8であり、特に好ましくは2〜6となるような量とする。得られた過酸化水素含有モリブデン−バナジウム−テルル水溶液の温度は1〜60℃の範囲が好ましく、より好ましくは5〜50℃の範囲であり、特に好ましくは10〜40℃の範囲である。先に得られたニオブのシュウ酸化合物の水溶液と過酸化水素含有モリブデン−バナジウム−テルル水溶液を混合して水性原料混合物を製造する。
【0075】
X成分がSbである場合を説明する。ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化アンチモン(III)を含有する水性混合物を、好ましくは70〜100℃で反応させ、得られたモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する水性混合物を空気酸化、または過酸化水素等によって液相酸化し水溶液を得る。目視で濃紺色からオレンジ色〜茶色になるまで酸化するのが好ましい。またはヘプタモリブデン酸アンモニウムを溶解させた水溶液に、酸化アンチモン(III)と過酸化水素水を添加し50〜80℃で攪拌し、得られた水溶液にメタバナジン酸アンモニウムを添加し水溶液を得る。この水溶液のモリブデンの濃度は好ましくは0.2mol/kg以上、特に好ましくは0.5mol/kg以上である。
【0076】
得られたモリブデン、バナジウム、アンチモン含有水溶液に過酸化水素水を添加し、過酸化水素含有モリブデン−バナジウム−アンチモン水溶液を得る。過酸化水素水添加の際の温度は、1〜60℃の範囲が好ましく、より好ましくは5〜50℃の範囲であり、特に好ましくは10〜40℃の範囲である。過酸化水素/ニオブのモル比は、好ましくは0.2〜10、より好ましくは0.4〜8であり、特に好ましくは2〜6である。
【0077】
なお、液相酸化に過酸化水素を用い、1〜40℃の範囲で酸化処理する場合は、過酸化水素/Sbのモル比を2.5〜12.5、好ましくは3〜10、特に好ましくは4〜8にすることによって、本発明における該錯形成剤としての過酸化水素の添加を省略することもできる。先に得られたニオブのシュウ酸化合物の水溶液と過酸化水素含有モリブデン−バナジウム−アンチモン水溶液を混合して水性原料混合物を製造することができる。
【0078】
従来の技術の説明で記載した特開2000−70714号公報、特開平11−285636号公報、特開平11−226408号公報においてニオブ化合物が析出したのは、過酸化水素の使用量が少なく、過酸化水素が低酸化数の成分元素の酸化に消費されてしまったか、または水性原料混合物の温度が煮沸条件や70℃と高いために過酸化水素が分解されてしまうためと考えられる。
【0079】
シリカ担持酸化物触媒を製造する場合には、上記調製操作のいずれかのステップにおいてシリカゾルを添加することによって、シリカゾルを含有する水性原料混合物を得ることができる。
【0080】
任意成分であるZ成分を含む酸化物触媒を製造する場合には、上記調製操作のいずれかのステップにおいてZ成分を含む原料化合物を添加することによって、Z成分を含む原料化合物を含有する水性原料混合物を得ることができる。
【0081】
該錯形成剤としてクエン酸を用いる場合の方法(a):
まず、X成分がTeである場合を説明する。
ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解させた後に、クエン酸を添加して水溶液を調製するか、又はニオブ酸をシュウ酸とクエン酸の混合水溶液に溶解して水溶液を調製する。使用するシュウ酸/ニオブのモル比は、1〜10であり、好ましくは1〜6であり、特に好ましくは1〜4である。クエン酸/ニオブのモル比は好ましくは0.2〜10であり、特に好ましくは0.4〜6である。得られたニオブ−シュウ酸−クエン酸水溶液は1〜80℃の範囲に保持することが好ましく、10〜60℃の範囲に保持することがさらに好ましい。ニオブの濃度は好ましくは0.05mol/kg以上、特に好ましくは0.15mol/kg以上である。
【0082】
一方、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、テルル酸を水に溶解させて水溶液を得る。このときのモリブデンの濃度は好ましくは0.2mol/kg以上、特に好ましくは0.5mol/kg以上である。得られた水溶液とニオブ−シュウ酸−クエン酸水溶液を混合して水性原料混合物を製造する。
【0083】
X成分がSbである場合を説明する。ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化アンチモン(III)を含有する混合液を、好ましくは70〜100℃で反応させ、得られたモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する水性混合物を空気酸化、または過酸化水素等によって液相酸化し水溶液を得る。このときのモリブデンの濃度は好ましくは0.2mol/kg以上、特に好ましくは0.5mol/kg以上である。目視で濃紺色からオレンジ色〜茶色になるまで酸化するのが好ましい。得られた水溶液を10〜60℃の範囲に冷却し、ニオブ−シュウ酸−クエン酸水溶液と混合して水性原料混合物を製造する。
【0084】
または、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを溶解させた水溶液に、酸化アンチモン(III)と0.01〜30重量%濃度の過酸化水素水(好ましくは0.1〜10重量%濃度の過酸化水素水)を添加し50〜80℃で攪拌する。得られた水溶液にメタバナジン酸アンモニウムを添加し水溶液を得る。得られた水溶液を10〜60℃の範囲に冷却し、ニオブ−シュウ酸−クエン酸水溶液と混合して水性原料混合物を製造する。
【0085】
該錯形成剤としてクエン酸を用いる場合の方法(b):
まず、X成分がTeである場合を説明する。
ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解してニオブのシュウ酸化合物の水溶液を得る。ニオブの濃度は好ましくは0.05mol/kg以上、特に好ましくは0.15mol/kg以上である。
【0086】
一方、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、テルル酸を水に溶解させて水溶液を得て、得られた水溶液にクエン酸を添加し、クエン酸含有モリブデン−バナジウム−テルル水溶液を得る。このときのモリブデンの濃度は好ましくは0.2mol/kg以上、特に好ましくは0.5mol/kg以上である。クエン酸の量は、クエン酸/ニオブのモル比で、好ましくは0.2〜10であり、特に好ましくは0.4〜6となるような量とする。得られたクエン酸含有モリブデン−バナジウム−テルル水溶液の温度は1〜80℃の範囲が好ましく、より好ましくは5〜70℃の範囲であり、特に好ましくは10〜60℃の範囲である。先に得られたニオブのシュウ酸化合物の水溶液とクエン酸含有モリブデン−バナジウム−テルル水溶液を混合して水性原料混合物を製造する。
【0087】
X成分がSbである場合を説明する。ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化アンチモン(III)を含有する水性混合物を、好ましくは70〜100℃で反応させ、得られたモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する水性混合物を空気酸化、または過酸化水素等によって液相酸化し水溶液を得る。目視で濃紺色からオレンジ色〜茶色になるまで酸化するのが好ましい。またはヘプタモリブデン酸アンモニウムを溶解させた水溶液に、酸化アンチモン(III)と過酸化水素水を添加し50〜80℃で攪拌し、得られた水溶液にメタバナジン酸アンモニウムを添加し水溶液を得る。
【0088】
得られたモリブデン、バナジウム、アンチモン含有水溶液にクエン酸を添加し、クエン酸含有モリブデン−バナジウム−アンチモン水溶液を得る。クエン酸添加の際の温度は、1〜80℃の範囲が好ましく、より好ましくは5〜70℃の範囲であり、特に好ましくは10〜60℃の範囲である。クエン酸の量は、クエン酸/ニオブのモル比で、好ましくは0.2〜10、特に好ましくは0.4〜6となるような量とする。
【0089】
先に得られたニオブのシュウ酸化合物の水溶液とクエン酸含有モリブデン−バナジウム−アンチモン水溶液を混合して水性原料混合物を製造することができる。
【0090】
シリカ担持酸化物触媒を製造する場合には、上記調製操作のいずれかのステップにおいてシリカゾルを添加することによって、シリカゾルを含有する水性原料混合物を得ることができる。
【0091】
任意成分であるZ成分を含む酸化物触媒を製造する場合には、上記調製操作のいずれかのステップにおいてZ成分を含む原料化合物を添加することによって、Z成分を含む原料化合物を含有する水性原料混合物を得ることができる。
【0092】
<乾燥工程>
得られた水性原料混合物を噴霧乾燥法または蒸発乾固法によって乾燥させ、乾燥粉体を得る。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式(two-phase flow nozzle method)または高圧ノズル方式を採用することができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。このとき熱風の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましい。噴霧乾燥は簡便には100℃〜300℃に加熱された鉄板上へ水性原料混合物を噴霧することによって行うこともできる。
【0093】
<焼成工程>
乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成することによって酸化物触媒を得る。焼成は回転炉、トンネル炉、管状炉、流動床焼成炉等を用い、実質的に酸素を含まない窒素等の不活性ガス雰囲気下、または酸素を含むガス等の酸化性ガスとプロパン、イソブタン等の有機化合物やアンモニア等の還元性ガスの共存する雰囲気下で行なうことができる。好ましくは、焼成は、実質的に酸素を含まない窒素等の不活性ガスの雰囲気下で行なうことができ、特に好ましくは、不活性ガスを流通させながら、400〜700℃、好ましくは570〜670℃で実施することができる。焼成時間は0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。不活性ガス中の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーまたは微量酸素分析計で測定して1000ppm以下、好ましくは、100ppm以下である。焼成は反復することができる。焼成の前に大気雰囲気下または大気流通下で200℃〜420℃、好ましくは250℃〜350℃で10分〜5時間前焼成をすることができる。また、焼成の後に大気雰囲気下で200℃〜400℃、5分〜5時間、後焼成をすることもできる。
【0094】
酸化物触媒を用いるプロパン又はイソブタンのアンモ酸化反応及び酸化反応:
このようにして製造された酸化物触媒は、プロパンまたはイソブタンを気相接触アンモ酸化して(メタ)アクリロニトリルを製造する際の触媒として使用できる。また、プロパンまたはイソブタンを気相接触酸化させて、(メタ)アクリル酸を製造する際の触媒としても使用できる。好ましくは(メタ)アクリロニトリルの製造用の触媒として使用することである。特に好ましくはアクリロニトリルの製造用の触媒として使用することである。
【0095】
(メタ)アクリル酸の製造に用いるプロパンまたはイソブタンや、(メタ)アクリロニトリルの製造に用いるプロパンまたはイソブタンとアンモニアは必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用することができる。
【0096】
反応系に供給する分子状酸素源として空気、酸素を富化した空気、または純酸素を用いることができる。更に、水蒸気、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、窒素などを供給してもよい。
【0097】
気相接触アンモ酸化の場合は、反応系に供給されるアンモニアのプロパンまたはイソブタンに対するモル比は0.1〜1.5、好ましくは0.2〜1.2である。反応系に供給される分子状酸素のプロパンまたはイソブタンに対するモル比は、0.2〜6、好ましくは0.4〜4である。
【0098】
気相接触酸化の場合は、反応系に供給される分子状酸素のプロパンまたはイソブタンに対するモル比は、0.1〜10、好ましくは0.1〜5である。反応系に水蒸気を添加することが好ましいが、反応系に供給される水蒸気のプロパンまたはイソブタンに対するモル比は0.1〜70、好ましくは0.5〜40である。
【0099】
気相接触酸化と気相接触アンモ酸化のいずれについても、反応圧力は絶対圧で0.01〜1MPa、好ましくは0.1〜0.3MPaである。
【0100】
気相接触酸化と気相接触アンモ酸化のいずれについても、反応温度は300℃〜600℃、好ましくは380℃〜470℃である。
【0101】
気相接触酸化と気相接触アンモ酸化のいずれについても、接触時間は0.1〜30(g・sec/ml)、好ましくは0.5〜10(g・sec/ml)である。接触時間は下記の式で定義される。
接触時間(g・sec/ml)=W/F×60×273/(273+T)×((P+0.101)/0.101)
(ただし、Wは酸化物触媒の重量(g)、Fは原料混合ガスの流量(ml/min)、Tは反応温度(℃)、Pは反応圧力(ゲージ圧)(MPa)を表わす。)
【0102】
気相接触酸化と気相接触アンモ酸化のいずれについても、反応は、固定床、流動床、移動床など従来の方式を採用できるが、流動床が好ましい。反応は単流方式でもリサイクル方式でもよい。
【0103】
【発明の実施の形態】
以下に、実施例と比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0104】
実施例と比較例においては、プロパン転化率、アクリロニトリル選択率、アクリロニトリル空時収量、アクリル酸選択率およびアクリル酸空時収量は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル選択率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(反応したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリルの空時収量(μmol/((g・sec/ml)・g))=(生成したアクリロニトリルのモル数(μmol))/((接触時間(g・sec/ml))・(触媒重量(g)))
アクリル酸選択率(%)=(生成したアクリル酸のモル数)/(反応したプロパンのモル数)×100
アクリル酸の空時収量(μmol/((g・sec/ml)・g))=(生成したアクリル酸のモル数(μmol))/((接触時間(g・sec/ml))・(触媒重量(g)))
【0105】
【実施例1】
<触媒調製>
組成式がMo1V0.31Sb0.20Nb0.05On/SiO2(40重量%)で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
水1000gにヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH4)6Mo7O24・4H2O]250g、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]51.3g、酸化アンチモン(III)[Sb2O3]41.3gを添加し、油浴を用いて100℃で2時間、大気下で還流して反応させ、この後、50℃に冷却し、続けてシリカ含有量30重量%のシリカゾルを654g添加した。1時間攪拌した後、5重量%過酸化水素水193gを添加し、50℃で1時間撹拌することによって酸化処理を行い、水性混合物(a1)を得た。この酸化処理によって液色は濃紺色から茶色へと変化した。
【0106】
一方、水120gにNb2 O5 含量が76重量%のニオブ酸12.4g、シュウ酸二水和物[H2C2O4・2H2O]24.1gを加え、攪拌下、60℃にて加熱して溶解させた後、30℃にて冷却してニオブ−シュウ酸水溶液を得た。該ニオブ−シュウ酸水溶液に5重量%過酸化水素水96.3gを添加して、ニオブ−過酸化水素水溶液を得た。
【0107】
該ニオブ−過酸化水素水溶液を上記水性混合物(a1)に添加したのち、空気雰囲気下、50℃で30分間撹拌して水性原料混合物を得た。該水性原料混合物から10gを分取し、メンブレンフィルター(日本国アドバンテック東洋製、PTFE、孔径0.2μ、エタノール含浸後に水洗して使用)を用いた加圧濾過によって水溶液相と析出相に分離し、水溶液相中のNb(即ちS1)をICP発光分析(日本国理学電機社製の発光分析器Rigaku JY138ULTRACEを使用)によって定量したところ、S1は70.9mmolであった。一方、ニオブ−シュウ酸水溶液に5重量%過酸化水素水96.3gを添加する代わりに水を91.5g添加した以外は上記水性原料混合物の調製工程を繰り返すことによって参照用水性原料混合物を得て、これについて水溶液相中のNb(即ちS2)を同様の方法で定量したところ、S2は3.7mmolであった。S3は仕込み値から70.9mmolであった。S1、S2、S3から(II)式によってRを求めたところR{=(70.9−3.7)/(70.9−3.7)×100}=100モル%であった。(なお、S1、S2、S3及びRは前に定義した通りである。以下の実施例においても同様である。)
【0108】
得られた水性原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度230℃と出口温度120℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体100gを石英容器に充填し、炉に入れ、容器を回転させながら600ml/min.の窒素ガス流通下、630℃で2時間焼成して酸化物触媒を得た。用いた窒素ガスの酸素濃度は微量酸素分析計(306WA型、米国Teledyne Analytical Instruments社製)を用いて測定した結果、1ppmであった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
【0109】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
酸化物触媒W=0.35gを内径4mmの固定床型反応管に充填し、反応温度T=420℃、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウムのモル比=1:0.7:1.7:5.3の原料混合ガスを流量F=7.0(ml/min)で流した。このとき反応圧力Pはゲージ圧で0MPaであった。接触時間は1.2(g・sec/ml)である(接触時間=W/F×60×273/(273+T)×((P+0.101)/0.101))。反応ガスの分析はオンラインガスクロマトグラフィーで行った。得られた結果を表1に示す。
【0110】
【実施例2】
<触媒調製>
ニオブ−シュウ酸水溶液への5重量%過酸化水素水の添加量96.3gを48.2gに変えた以外は実施例1の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=35.5mmol、S2=3.6mmol、S3=70.9mmolであり、R=47モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
【0111】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=5.2(ml/min)にして接触時間を1.6(g・sec/ml)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0112】
【実施例3】
<触媒調製>
水性混合物(a1)を30℃に冷却した後、更に5重量%過酸化水素水144gを添加し、一方、ニオブ−シュウ酸水溶液に過酸化水素水を添加しなかった以外は実施例1の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=70.9mmol、S2=3.8mmol、S3=70.9mmolであり、R=100モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
【0113】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=7.5(ml/min)にして接触時間を1.1(g・sec/ml)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0114】
【比較例1】
<触媒調製>
ニオブ−シュウ酸水溶液に過酸化水素水を添加しなかった以外は実施例1の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=3.6mmol、S2=3.6mmol、S3=70.9mmolであり(本比較例においては、S2=S1とした)、R=0モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
【0115】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=4.0(ml/min)にして接触時間を2.1(g・sec/ml)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0116】
【比較例2】
<触媒調製>
水性混合物(a1)を70℃にして、過酸化水素水を添加して1時間攪拌した以外は実施例3の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=3.6mmol、S2=3.6mmol、S3=70.9mmolでありR=0モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
比較例1、2に比べて、実施例1〜3は著しくNbの溶解量(S1)が増加していることがわかる。
【0117】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=4.0(ml/min)にして接触時間を2.1(g・sec/ml)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0118】
【実施例4】
<触媒調製>
組成式がMo1V0.31Sb0.17Nb0.05On/SiO2(40重量%)で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
【0119】
水1000gにヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH4)6Mo7O24・4H2O]250gを溶解させた水溶液に、酸化アンチモン(III)[Sb2O3]35.1gを添加し、ついで5重量%過酸化水素水164gを添加し、60℃〜80℃で2時間攪拌することによって水溶液を得た。得られた水溶液にメタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]51.3gを添加し、15分攪拌することによって水溶液を得た。この後、50℃に冷却し、続けてシリカ含有量30重量%のシリカゾルを640g添加して水性混合物(a2)を得た。
【0120】
一方、水120gにNb2O5含量が76重量%のニオブ酸12.4g、シュウ酸二水和物[H2C2O4・2H2O]24.1gを加え、攪拌下、60℃にて加熱して溶解させた後、30℃にて冷却してニオブ−シュウ酸水溶液を得た。該ニオブ−シュウ酸水溶液に5重量%過酸化水素水96.3gを添加して、ニオブ−過酸化水素水溶液を得た。該ニオブ−過酸化水素水溶液を上記水性混合物(a2)に添加したのち、空気雰囲気下、50℃で30分間撹拌して水性原料混合物を得た。
【0121】
このとき実施例1と同様にRを測定すると、S1=70.9mmol、S2=3.7mmol、S3=70.9mmolであり、R=100モル%であった。
【0122】
得られた水性原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度230℃と出口温度120℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体100gを石英容器に充填し、炉に入れ、容器を回転させながら600ml/min.の窒素ガス流通下、630℃で2時間焼成して酸化物触媒を得た。
【0123】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0124】
【比較例3】
<触媒調製>
ニオブ−シュウ酸水溶液に過酸化水素水を添加しなかった以外は実施例4の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=3.6mmol、S2=3.6mmol、S3=70.9mmolであり(本比較例においては、S2=S1とした)、R=0モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
比較例3に比べて、実施例4は著しくNbの溶解量(S1)が増加していることがわかる。
【0125】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=4.0(ml/min)にして接触時間を2.1(g・sec/ml)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0126】
【実施例5】
<触媒調製>
組成式がMo1V0.33Te0.22Nb0.11Onで示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
水160gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH4)6Mo7O24・4H2O〕39.0g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕8.53gおよびテルル酸〔H6TeO6〕11.16gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させた後、30℃まで冷却して水性混合物(a3)を得た。
【0127】
一方、水50gに、Nb2O5含量が76重量%のニオブ酸4.25g、シュウ酸二水和物〔H2C2O4・2H2O〕8.27gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させた後、30℃まで冷却してニオブ−シュウ酸水溶液を得た。該ニオブ−シュウ酸水溶液に5重量%過酸化水素水41.3gを添加して、ニオブ−過酸化水素水溶液を得た。
【0128】
上記水性混合物(a3)に該ニオブ−過酸化水素水溶液を添加し、30分間攪拌して水性原料混合物を得た。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=24.3mmol、S2=0.8mmol、S3=24.3mmolであり、R=100モル%であった。
【0129】
得られた水性原料混合物を140℃に加熱したテフロンコーティング鉄板上に噴霧して乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体25gを内径20mmの石英管に充填し、1000ml/min.の窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して酸化物触媒を得た。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
【0130】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
酸化物触媒W=0.30gを内径4mmの固定床型反応管に充填し、反応温度T=420℃、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウムのモル比=1:1.2:3.0:14.8の原料混合ガスを流量F=9.0(ml/min)で流した。反応圧力Pはゲージ圧で0MPaであった。接触時間は0.79(g・sec/ml)である。反応ガスの分析はオンラインガスクロマトグラフィーで行った。
得られた結果を表1に示す。
【0131】
【比較例4】
<触媒調製>
ニオブ−シュウ酸水溶液に過酸化水素水を添加しなかった以外は実施例5の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=0.7mmol、S2=0.7mmol、S3=24.3mmolであり(本比較例においては、S2=S1とした)、R=0モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
比較例4に比べて、実施例5は著しくNbの溶解量(S1)が増加していることがわかる。
【0132】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=6.0(ml/min)、接触時間1.2(g・sec/ml)とした以外は実施例5と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0133】
【実施例6】
<触媒調製>
組成式がMo1V0.33Te0.22Nb0.12On/SiO2(30重量%)で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
【0134】
水720gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH4)6Mo7O24・4H2O〕164.31g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕36.05gおよびテルル酸〔H6TeO6〕47.01gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させて水性混合物(a4)を得た。
【0135】
一方、水170gに、Nb2O5含量が76.6重量%のニオブ酸19.53g、シュウ酸二水和物〔H2C2O4・2H2O〕38.0gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させた後、30℃まで冷却してニオブ−シュウ酸水溶液を得た。
該ニオブ−シュウ酸水溶液に5重量%過酸化水素水167.2gを添加して、ニオブ−過酸化水素水溶液を得た。
【0136】
上記水性混合物(a4)に攪拌下シリカ含有量30重量%のシリカゾルを286g添加して30℃まで冷却後、続いて該ニオブ−過酸化水素水溶液を添加して水性原料混合物を得た。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=113mmol、S2=3.9mmol、S3=113mmolであり、R=100モル%であった。
【0137】
得られた水性原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度240℃と出口温度145℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体を大気雰囲気下240℃で2時間前焼成して触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体を焼成温度を600℃とした以外は実施例1と同じ条件で焼成して酸化物触媒を得た。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
【0138】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に、得られた酸化物触媒45gを充填し、反応温度430℃と反応圧力0MPa(ゲージ圧)の条件下に、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウムのモル比=1:1.2:3:12の原料混合ガスを450(ml/min)の流量で流した。接触時間は2.3(g・sec/ml)である。反応ガスの分析はオンラインクロマトグラフィーを用いて行った。得られた結果を表1に示す。
【0139】
【比較例5】
<触媒調製>
ニオブ−シュウ酸水溶液に過酸化水素水を添加しなかった以外は実施例6の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定するとS1=3.4mmol、S2=3.4mmol、S3=113mmolであり(本比較例においては、S2=S1とした)、R=0モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
比較例5に比べて、実施例6は著しくNbの溶解量(S1)が増加していることがわかる。
【0140】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=350(ml/min)、接触時間3.0(g・sec/ml)とした以外は実施例6と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0141】
【実施例7】
<触媒調製>
組成式がMo1V0.28Te0.23Nb0.12On/SiO2(23重量%)で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
【0142】
水720gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH4)6Mo7O24・4H2O〕164.31g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕30.48gおよびテルル酸〔H6TeO6〕49.15gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させて水性混合物(a5)を得た。
【0143】
一方、水170gに、Nb2O5含量が76.6重量%のニオブ酸19.38g、シュウ酸二水和物〔H2C2O4・2H2O〕22.53g、クエン酸一水和物〔H8C6O7・H2O〕16.43gを加え、攪拌下80℃に加熱後、30℃まで冷却し、8時間攪拌し溶解させて、ニオブ−シュウ酸−クエン酸水溶液を得た。
【0144】
上記水性混合物(a5)に攪拌下シリカ含有量30重量%のシリカゾルを202g添加して30℃まで冷却後、続いて該ニオブ−シュウ酸−クエン酸水溶液を添加して水性原料混合物を得た。また、本発明に用いる錯形成剤(クエン酸一水和物)を添加する代わりに水1.5gを添加することを含む操作によってS2を求める以外は実施例1と同様にRを測定すると、S1=112mmol、S2=2.2mmol、S3=112mmolであり、R=100モル%であった。
【0145】
得られた水性原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度240℃と出口温度145℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体を大気雰囲気下330℃で2時間前焼成して触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体を焼成温度を600℃とした以外は実施例1と同じ条件で焼成して酸化物触媒を得た。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
【0146】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒W=0.35gを内径4mmの固定床型反応管に充填し、反応温度T=420℃、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウムのモル比=1:1.2:2.8:15.5の原料混合ガスを流量F=7.0(ml/min)で流した。反応圧力Pはゲージ圧で0MPaであった。接触時間は1.2(g・sec/ml)である。反応ガスの分析はオンラインガスクロマトグラフィーで行った。得られた結果を表1に示す。
【0147】
【比較例6】
<触媒調製>
クエン酸一水和物を加えなかった以外は実施例7の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例7と同様にRを測定すると、S1=2.2mmol、S2=2.2mmol、S3=112mmolであり(本比較例においては、S2=S1とした)、R=0モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
【0148】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=4.5(ml/min)、接触時間1.8(g・sec/ml)とした以外は実施例7と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0149】
【比較例7】
<触媒調製>
シュウ酸二水和物の添加量22.53gを37.55gに変えた以外は比較例6の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例7と同様にRを測定すると、S1=2.2mmol、S2=2.2mmol、S3=112mmolであり(本比較例においては、S2=S1とした)、R=0モル%であった。
酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表1に記載した。
比較例6、7に比べて、実施例7は著しくNbの溶解量(S1)が増加していることがわかる。
【0150】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=4.5(ml/min)、接触時間1.8(g・sec/ml)とした以外は実施例7と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0151】
【実施例8】
<触媒調製>
組成式がMo1V0.31Sb0.22Nb0.05Onで示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
水性混合物(a1)の調製において、酸化アンチモン(III)の添加量41.3gを45.4gに変え、5重量%過酸化水素水の添加量193gを212gに変え、一方シリカゾルを用いなかった以外は実施例1の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=70.9mmol、S2=3.0mmol、S3=70.9mmolであり、R=100モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表2に記載した。
【0152】
<プロパンの酸化反応試験>
酸化物触媒W=0.35gを内径4mmの固定床型反応管に充填し、反応温度T=380℃、プロパン:酸素:水蒸気:ヘリウムのモル比=1:3.1:14.0:10.0の原料混合ガスを流量F=7.0(ml/min)で流した。反応圧力Pはゲージ圧で0MPaであった。接触時間は1.2(g・sec/ml)である。得られた結果を表2に示す。
【0153】
【比較例8】
<触媒調製>
ニオブ−シュウ酸水溶液に過酸化水素水を添加しなかった以外は実施例8の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。また実施例1と同様にRを測定すると、S1=2.8mmol、S2=2.8mmol、S3=70.9mmolであり(本比較例においては、S2=S1とした)、R=0モル%であった。酸化物触媒の組成と主要な製法因子を表2に記載した。
比較例8に比べて、実施例8は著しくNbの溶解量(S1)が増加していることがわかる。
【0154】
<プロパンの酸化反応試験>
得られた酸化物触媒についてプロパンの酸化反応試験を、原料混合ガスの流量(F)をF=4.5(ml/min)、接触時間2.0(g・sec/ml)とした以外は実施例8と同じ条件下にて行った。得られた結果を表2に示す。
【0155】
【実施例9】
<プロパンの酸化反応試験>
実施例5の酸化物触媒を用い、また、原料混合ガスの流量(F)をF=8(ml/min)、接触時間1.1(g・sec/ml)とした以外は実施例8と同じ条件下にてプロパンの酸化反応試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0156】
【比較例9】
<プロパンの酸化反応試験>
比較例4の酸化物触媒を用い、また、原料混合ガスの流量(F)をF=5(ml/min)、接触時間1.7(g・sec/ml)とした以外は実施例8と同じ条件下にてプロパンの酸化反応試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0157】
【表1】
【0158】
【0159】
【表2】
【0160】
【発明の効果】
本発明の方法によって得られる酸化物触媒を用いてプロパンまたはイソブタンの気相アンモ酸化反応または気相酸化反応を行なうと、比較的低い反応温度にて、高い選択率、収率、空時収量で(メタ)アクリロニトリルまたは(メタ)アクリル酸を製造することができる。また、本発明の酸化物触媒の製造方法を用いると、水性原料混合物の製造工程において、ニオブ化合物(原料の1つとして用いる)の析出を減少させるかまたは実質的に防止することができ、これによって、固形分量の少ない低粘度のスラリー状態か水溶液状態の水性原料混合物を製造できる。したがって、本発明の酸化物触媒の製造方法においては、水性原料混合物の製造や貯蔵のためのタンクでの撹拌動力の低減が可能であり、さらに、タンクや移送ライン中での析出物の沈降(これは水性原料混合物の組成分布の不均一化や詰まり等の原因となる)を、特殊な設備を用いずに減少させるかまたは実質的に防止することができるため、従来技術に比べて酸化物触媒を効率的に製造することができる。
Claims (12)
- プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いるための酸化物触媒の製造方法において、該酸化物触媒は下記式(I):Mo1.0VaXbNbcZdOn (I)
(式中:XはSbとTeからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し;ZはW、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Zn、B、Ga、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、希土類元素およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を表し;そしてa、b、c、dおよびnは、それぞれ、V、X、Nb、Z及びOのMoに対する原子比を表し、a、b、c、dは各々0.01≦a≦100;
0.01≦b≦100;
0.01≦c≦100;
0≦d≦100 であり、そしてnは他の構成元素の原子価を満足する数である。)で表わされる組成を有し、式(I)の該組成の各成分元素のそれぞれの化合物を含有する水性原料混合物を提供し、該水性原料混合物を乾燥し、そして焼成する工程を包含し、該水性原料混合物において、該各成分元素のそれぞれの化合物の1つであるニオブ化合物の少なくとも一部が、酸素原子または炭素原子に結合したヒドロキシル基を有する化合物からなる錯形成剤との錯体の状態で存在し、該水性原料混合物中の錯体形成率(R)が20モル%以上であり、該錯体形成率(R)は下記式(II):
R(モル%)={(S1―S2)/(S3―S2)}×100 (II)
(ただし、式中、S1は該水性原料混合物中の水溶性ニオブ原子のモル量、S2は該錯体形成に起因しない水溶性ニオブ原子のモル量、S3は該水性原料混合物中の水溶性ニオブ原子と水不溶性ニオブ原子の合計モル量である。)によって定義されることを特徴とする、酸化物触媒の製造方法。 - 該水性原料混合物中の錯体形成率(R)が90モル%以上である請求項1に記載の酸化物触媒の製造方法。
- ニオブ化合物がニオブのジカルボン酸化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- ニオブのジカルボン酸化合物が、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解させたときに生成する化合物であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
- 該錯形成剤が過酸化水素とモノオキシ多価カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 該水性原料混合物が、
ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解してニオブのジカルボン酸化合物水溶液を得て、
得られたニオブのジカルボン酸化合物水溶液を該錯形成剤または該錯形成剤の水溶液と混合してニオブのジカルボン酸化合物/錯形成剤水溶液を得て、そして得られたニオブのジカルボン酸化合物/錯形成剤水溶液を、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つ又は2つ以上の水性混合物と混合して該水性原料混合物を得る、
ことを包含する方法によって得られることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。 - 該水性原料混合物が、
該錯形成剤または該錯形成剤の水溶液を、ニオブ以外の各成分元素のそれぞれの化合物を含む1つ又は2つ以上の水性混合物と混合して錯形成剤含有非ニオブ元素化合物水性混合物を得て、
得られた錯形成剤含有非ニオブ元素化合物水性混合物を、ニオブ酸をジカルボン酸水溶液に溶解して得られるニオブのジカルボン酸化合物水溶液と混合して該水性原料混合物を得る、
ことを包含する方法によって得られることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。 - 該錯形成剤が過酸化水素であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- 該ジカルボン酸がシュウ酸であることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載の方法。
- 該水性原料混合物が更にシリカ原料を含有しており、該シリカ原料の量を、シリカ担体に担持されてなる形成される該酸化物触媒において、該酸化物触媒とシリカ担体の合計重量に対する該シリカ担体の量が20〜60重量%となるように調整する、
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。 - 請求項1〜10のいずれかの方法で酸化物触媒を製造し、得られた酸化物触媒の存在下にプロパンまたはイソブタンを気相でアンモニア及び分子状酸素と反応させることを包含する、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する方法。
- 請求項1〜10のいずれかの方法で酸化物触媒を製造し、得られた酸化物触媒の存在下にプロパンまたはイソブタンを気相で分子状酸素と反応させることを包含する、アクリル酸またはメタクリル酸を製造する方法。
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