<第1の実施形態>
本発明の第1実施形態に係るサイドエアバッグの展開方法が適用された車両用サイドエアバッグ装置10について、図1〜図13に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印OUTは、車両の前方向(進行方向)、上方向、車幅方向の外側をそれぞれ示している。以下、単に前後、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下を示すものとする。
(構成)
図1に示されるように、本実施形態に係るサイドエアバッグ装置10は、車両用シート12におけるシートバック14のドア側サイド部14A(図11及び図12に示されるサイドドア72側の側部)に搭載されている。このシートバック14は、シートクッション16の後端部に傾倒可能に連結されており、上端部にはヘッドレスト18が連結されている。
なお、本実施形態では、車両用シート12の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向は、車両の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向と一致している。また、図1では、車両用シート12には実際の乗員の代わりに、国際統一側面衝突ダミー(World Side Impact Dummy:WorldSID)Pが着座している。この国際統一側面衝突ダミーPの着座姿勢は、現在、日本、欧州で採用されている側面衝突試験法(ECE R95)、又は米国で採用されている側面衝突試験法(FMVSS214)で定められたものである。また、シートクッション16に対するシートバック14の傾斜角度(リクライニング角度)は、上記着座姿勢に対応した基準設定位置にセットされている。以下、説明の都合上、国際統一側面衝突ダミーPを「着座乗員P」と称する。
サイドエアバッグ装置10は、サイドエアバッグ20と、該サイドエアバッグ20内でガスを発生させるガス発生手段としてのインフレータ22と、インフレータ22から発生したガスを整流する整流部材としての整流布(インナチューブ)24と、を主要部として構成されている。
サイドエアバッグ20は、折り畳まれてインフレータ22及び整流布24と共にユニット化(モジュール化)された状態でドア側サイド部14Aの内部に配設されており、シートバックフレーム15のドア側サイドフレーム部15Aに対して車幅方向外側に配置されている。このサイドエアバッグ20は、インフレータ22が発生させるガスの圧力で着座乗員Pと車体側部との間に膨張展開する(図1図示状態)。この膨張展開の際には、ドア側サイド部14Aに配設されたシート表皮及びシートバックパッド(何れも図示省略)が、サイドエアバッグ20の膨張圧を受けて開裂される構成になっている。なお、以下の説明に記載するサイドエアバッグ20の前後上下の方向は、特に断りのない限り、サイドエアバッグ20が膨張展開した状態での方向であり、車両及びシートバック14の前後上下の方向と略一致している。
図1及び図2に示されるように、サイドエアバッグ20は、前側バッグ部26と後側バッグ部28とによって構成されている。後側バッグ部28は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材を切り出して形成された1枚の基布34(図3参照)によって構成されており、前側バッグ部26は、上記基布34と同様の布材からなる2枚の基布30、32(図4参照)によって構成されている。このサイドエアバッグ20が縫製される際には、先ず、基布30、32が縫製部(シーム)T1、T2において基布34に縫製される。次いで、基布34が折れ線36に沿って二つ折にされると共に、周縁部を縫製部(シーム)T3、T4において縫製される。次いで、基布30、32が重ね合わされると共に、周縁部を縫製部(シーム)T5、T6において縫製される。この縫製部T5の上部と、縫製部T6の下部の一部では、基布30、32の間に挟まれた後側バッグ部28の一部と、これらの基布30、32とが共縫いされている。
上述の如く縫製されたサイドエアバッグ20が膨張展開した状態では、前側バッグ部26と後側バッグ部28の本体部28Aとが車両前後方向に並ぶと共に、後側バッグ部28の上部に設けられた前延部28Bが車両前方側へ延びて前側バッグ部26の上方に配置される。この前延部28Bと前側バッグ部26とは、図2及び図7に示されるように、縫製部T4、T5によって構成された横仕切り部38において区画されている。また、後側バッグ部28の本体部28Aと前側バッグ部26とは、図2、図6、図8及び図9に示されるように、サイドエアバッグ20の内部に配置された基布34の一部(本体部28Aの前端部)によって形成された縦仕切り部(幅方向ストラップ部:テザー部)40によって区画されている。前側バッグ部26の内部は、前チャンバ42とされており、後側バッグ部28の内部は、後チャンバ46とされている。
なお、縦仕切部40を基布34の一部によって形成する構成に限らず、縦仕切部40を基布30、32の一部(前側バッグ部26の後端部)によって形成する構成にしてもよい。その場合、サイドエアバッグ20を縫製する際には、先ず基布30、32を縫製部T4において基布34とそれぞれ縫製する。次いで、基布34を折れ線36に沿って二つ折りにして縫製部T3を縫製する。次いで、基布30、32の後端部(図4において縫製部T1、T2が設定された部分)を重ね合わせて縫製する。次いで、基布30、32を縫製部T5、T6において縫製する。これにより、サイドエアバッグ20の内部に配置された前側バッグ部26の後端部によって縦仕切部40が形成された構成になる。
また、後側バッグ部28の前延部28Bの前端縁には、後チャンバ46とサイドエアバッグ20の外部とを連通させたベントホール48が形成されている。このベントホール48は、縫製部T3と縫製部T4との間に非縫製部が設けられることにより形成されている。同様に、前側バッグ部26の前端縁における下部には、前チャンバ42とサイドエアバッグ20の外部とを連通させたベントホール(排気口)50が形成されている。このベントホール50は、縫製部T5と縫製部T6との間に非縫製部が設けられることにより形成されており、ベントホール48よりも開口面積(口径)が大きく設定されている。
一方、インフレータ22は、後側バッグ部28の本体部28A内における後端側に収容されている。このインフレータ22は、所謂シリンダータイプのインフレータであり、軸線方向がシートバック14の高さ方向に沿う状態で配置されている。インフレータ22の外周部からは、車両後方側へ向けて上下一対のスタッドボルト52(図8及び図9以外では図示省略)が突出している。これらのスタッドボルト52に対応して、シートバックフレーム15のドア側サイドフレーム部15Aには、ブラケット54(図8及び図9以外では図示省略)が固定されている。このブラケット54は、ドア側サイドフレーム部15Aから車幅方向外側へ延びており、上下のスタッドボルト52が本体部28Aの後端部及びブラケット54を貫通してナット56(図8及び図9以外では図示省略)に螺合している。これにより、インフレータ22及びサイドエアバッグ20がブラケット54を介してドア側サイドフレーム部15Aに締結固定されている。なお、本体部28Aの後端部とインフレータ22との間には、後述する整流布24の一部が介在している。
インフレータ22の上端側には、ガス噴出部22Aが設けられている。このガス噴出部22Aには、インフレータ22の周方向に並んだ複数のガス噴出口が形成されており、インフレータ22が作動した際には、複数のガス噴出口から放射状にガスが噴出される。このインフレータ22には、図2に示されるように、車両に搭載された側突ECU58が電気的に接続されている。この側突ECU58には、側面衝突を検知する側突センサ60が電気的に接続されている。側突ECU58は、側突センサ60からの信号に基づいて側面衝突(の不可避)を検知した際にインフレータ22を作動させる構成とされている。なお、側突ECU58に側面衝突を予知(予測)するプリクラッシュセンサが電気的に接続されている場合には、プリクラッシュセンサからの信号に基づいて側突ECU58が側面衝突を予知した際にインフレータ22が作動される構成にしてもよい。
一方、整流布24は、基布30、32、34と同様の布材からなる2枚の布片62、64(図5参照)が重ね合わされて縫製部T7、T8、T9において縫製されることにより、略T字形の袋状に縫製されている。この整流布24は、筒状に形成された部材本体24Aと、部材本体24Aの半径方向に沿って延びる逆止弁部(前後方向ストラップ兼逆止弁部)24Bとによって構成されている。
部材本体24Aは、軸線方向がシートバック14の高さ方向に沿う状態で本体部28A内の後端側に配置されており、当該部材本体24Aの内部にインフレータ22が収容されている。インフレータ22の上下のスタッドボルト52は、部材本体24Aの後端部を貫通しており、本体部28Aの後端部とインフレータ22との間に部材本体24Aの後端部が挟まれている(なお、図8及び図9では、縫製部T9の図示を省略している)。この部材本体24Aの上端部及び下端部は、部材本体24Aの上下方向中間部(インフレータ22を覆った部分)よりも縮径されており、部材本体24Aの上端開口66及び下端開口68の径が縮小されている。
逆止弁部24Bは、筒状に形成されて部材本体24Aの上下方向中間部における前端縁からシートバック14の前方へ延びており、先端部が縫製部T4において縦仕切り部40の上下方向中央部よりも若干上方側の部分に縫製されている。この逆止弁部24Bの先端開口70は、前チャンバ42に開口しており、当該逆止弁部24Bを介して部材本体24A内と前チャンバ42とが連通されている。この先端開口70は、部材本体24Aの上端開口66及び下端開口68よりも開口面積(口径)が大きく設定されている。また、この先端開口70は、サイドエアバッグ20が膨張展開した状態では、前側バッグ部26のベントホール50よりも上方側にオフセットした位置に配置される。
なお、上記の整流布24は、後側バッグ部28の基布34が折れ線36に沿って二つ折りにされる際に、折れ線36を介した基布34の一側部分と他側部分との間に挿入され、その後に縫製部T4が縫製される際に、逆止弁部24Bの先端部が基布34と共縫いされる。この際、先端開口70が塞がらないように縫製部T4が縫製される構成になっている。また、インフレータ22は、本体部28Aの後端側及び部材本体24Aにそれぞれ形成された図示しないスリットを介して部材本体24A内へ挿入される。そして、これらのスリットは、インフレータ22がブラケット54に締結固定された状態では、インフレータ22とブラケット54との間に挟まれて閉塞される構成になっている。
上記構成のサイドエアバッグ装置10では、インフレータ22が作動されると、インフレータ22のガス噴出部22Aから噴出されるガスが、整流布24の部材本体24Aにおける上端開口66及び下端開口68から後側バッグ部28内の上部及び下部へ分配(噴出)される(図2の矢印G1、G2参照)。また、ガス噴出部22Aから噴出されるガスは、逆止弁部24B内を通って先端開口70から前側バッグ部26内に分配(噴出)される(図2及び図8の矢印G3参照)。これにより、前側バッグ部26及び後側バッグ部28すなわちサイドエアバッグ20が着座乗員Pとサイドドア72のドアトリム74(車体側部)との間へ膨張展開し、当該サイドエアバッグ20によって着座乗員Pが拘束される。
ここで、上記膨張展開の際には、上端開口66及び下端開口68よりも開口面積が大きい先端開口70から大量のガスが早期に前側バッグ部26内に供給されるようになっている。これにより、サイドエアバッグ20による着座乗員Pの拘束初期(以下、単に「拘束初期」という)に、前側バッグ部26の内圧が後側バッグ部28の内圧よりも早期かつ高圧に上昇するようになっている。なお、図10には、前側バッグ部26の内圧P1とインフレータ22が作動してからの時間との関係が実線にて示されており、後側バッグ部28の内圧P2とインフレータ22が作動してからの時間との関係が破線にて示されている。
その後、上端開口66及び下端開口68から上下方向に分配されたガスG1、G2により後側バッグ部28の内圧が予め設定された値以上に上昇すると、図9に示されるように、逆止弁部24Bが後側バッグ部28内のガスの圧力によって閉塞される。これにより、前側バッグ部26から整流布24を介して後側バッグ部28内にガスが逆流することが防止又は抑制されると共に、後側バッグ部28内のガスが整流布24を介して前側バッグ部26内に流れ込むことが防止又は抑制される。
また、後側バッグ部28内のガスは、前延部28Bの前端縁に形成されたベントホール48からサイドエアバッグ20の外部へ排気され、前側バッグ部26内のガスは、前側バッグ部26の前端縁における下部に形成されたベントホール50からサイドエアバッグ20の外部へ排気される。前側バッグ部26のベントホール50は、後側バッグ部28のベントホール48よりも開口面積が大きく形成されているため、前側バッグ部26の内圧の低下が促進される一方、後側バッグ部28の内圧の低下が抑制される。その結果、サイドエアバッグ20による着座乗員Pの拘束後期(以下、単に「拘束後期」という)には、前側バッグ部26の内圧が後側バッグ部28の内圧よりも低下するようになっている。つまり、このサイドエアバッグ装置10では、サイドエアバッグ20を膨張展開させる際には、先ず前側バッグ部26の内圧を後側バッグ部28の内圧よりも早期かつ高圧に上昇させ、その後に前側バッグ部26の内圧を後側バッグ部28の内圧よりも低下させる構成になっている。
次に、膨張展開状態のサイドエアバッグ20について詳細に説明する。図1に示されるように、サイドエアバッグ20の膨張展開状態では、前延部28Bが、着座乗員Pの肩部Sの側方から車両前方側へ延びるように膨張展開し、前側バッグ部26と後側バッグ部28の本体部28Aとが前後方向に並ぶように膨張展開する。この状態では、前延部28Bがシートバッグ14の上部(シートバッグ14を上部、上下方向中間部及び下部に三等分した場合の上部)から車両前方へ延びる状態になり、横仕切り部38の後端部が着座乗員Pの脇部Uの下方近傍に配置される。
図11に示されるように、前延部28Bの膨張厚(膨張展開状態での車幅方向の寸法:以下同じ)W1は、前側バッグ部26の膨張厚W2よりも小さく設定されている。また、図9に示されるように、後側バッグ部28の膨張厚W3は、前側バッグ部26の膨張厚W2よりも大きく設定されている。つまり、膨張展開状態におけるサイドエアバッグ20の膨張厚は、W3>W2>W1の関係に設定されている。なお、図12には、側面衝突の衝撃によってサイドエアバッグ20が着座乗員Pとドアトリム74との間で圧縮された状態が図示されている。
そして、上述の如く前延部28Bの膨張厚W1が、前側バッグ部26の膨張厚W2よりも小さく設定されることにより、図7及び図13に示される如く、前側バッグ部26の上端側における車幅方向内側面が車幅方向外側へ向かうに従い上昇するように湾曲した上腕部押上面76とされる。しかも、前延部28Bと前側バッグ部26との境界部である横仕切り部38が縫製部(シーム)T4、T5によって構成されているため、横仕切り部38の車幅方向内側には、上腕部Aを押し上げるための押上スペース78が形成されるようになっている。なお、上腕部押上面76が、車幅方向外側へ向かうに従い上昇するように傾斜する構成にしてもよい。
また、横仕切り部38は、シートバック14が前述した基準設定位置に位置する状態では、図2に示される如く、車両前後方向に対して前上がりに傾斜するように形成されている。また、前延部28Bは、非膨張での展開状態における上下幅寸法が車両前方側へ向かうほど小さくなるように設定されており、軸線が車両前後方向に対して前上がりに傾斜した略円錐台状に膨張展開する。
また、このサイドエアバッグ20では、後側バッグ部28が膨張展開すると、先端部が前側バッグ部26と後側バッグ部28との境界部である縦仕切り部40に縫製(係止)された整流布24の逆止弁部24Bが、部材本体24Aと縦仕切り部40との間で車両前後方向に沿って伸張され、縦仕切り部40の位置が規制される。つまり、逆止弁部24Bを含めた整流布24の車両前後方向に沿った長さ寸法は、逆止弁部24Bの先端部が縦仕切り部40に縫製されていない場合の後側バッグ部28における車両前後方向の膨張厚よりも短く設定されている。このため、逆止弁部24Bの先端部が縦仕切り部40に縫製されている本実施形態では、逆止弁部24Bが伸張されることにより、後側バッグ部28の車両前後方向への膨張が抑制され、その分だけ後側バッグ部28の車幅方向の膨張厚W3が増加するようになっている。
そして、上述の如く縦仕切り部40の位置が規制されることにより、縦仕切り部40が、着座乗員Pの胸部Cの前後方向中央部(前後方向中央又は前後方向中央付近)と対向するように構成されている。これにより、前側バッグ部26が着座乗員Pの胸部C及び腹部Bの前部の側方に配置され、後側バッグ部28が着座乗員Pの胸部C及び腹部Bの後部の側方に配置される。
また、縦仕切り部40の側では、図9に示されるように、サイドエアバッグ20の車幅方向内側面が車幅方向外側へ凹んで凹部80が形成される。この凹部80が胸部Cの前後方向中央部(すなわち車幅方向外側へ最も張り出した部分)と対向するようになっている。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
上記構成のサイドエアバッグ装置10では、側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動される。すると、インフレータ22から噴出されるガスがサイドエアバッグ20内に供給され、サイドエアバッグ20が着座乗員Pとサイドドア72のドアトリム74との間に膨張展開する。
この膨張展開の際には、インフレータ22から噴出されるガスが後側バッグ部28内に設けられた整流布24の部材本体24Aによって上下方向に分配されると共に、該部材本体24Aと前側バッグ部26との間に掛け渡された整流布24の逆止弁部24Bによってガスがサイドエアバッグ20の前側バッグ部26内に分配される。
このように、整流布24が前側バッグ部26内にガスを分配するための逆止弁部24B(分岐通路)を備えているため、前側バッグ部26内に早期に大量のガスを供給することができる。その結果、前側バッグ部26の内圧を後側バッグ部28の内圧よりも早期かつ高圧に上昇させることが可能になるので、拘束初期に、前側バッグ部26の上端側に上腕部押上面76を形成することができる。そして、この上腕部押上面76と着座乗員Pの上腕部Aとが側面衝突の衝撃によって摺接することにより、上腕部Aを上方へ押し上げる力F(図13参照)が発生する。その結果、上腕部Aを前側バッグ部26の上方へ押し上げることができる(図1に実線で示される上腕部A参照)ので、着座乗員Pの胸部Cとサイドエアバッグ20との間に上腕部Aが介在することを抑制できる。
その後、整流布24の部材本体24Aによって上下方向に分配されたガスにより後側バッグ部28の内圧が上昇すると、逆止弁部24Bが閉塞する。これにより、前側バッグ部26から整流布24を介して後側バッグ部28内にガスが逆流することが防止又は抑制されると共に、後側バッグ部28内のガスが整流布24を介して前側バッグ部26内に流れ込むことが防止又は抑制される。また、後側バッグ部28内のガスは、前延部28Bのベントホール48からサイドエアバッグ20の外部へ排気され、前側バッグ部26内のガスは、前側バッグ部26のベントホール50からサイドエアバッグ20の外部へ排気される。前側バッグ部26のベントホール50は、後側バッグ部28のベントホール48よりも開口面積が大きく形成されているため、前側バッグ部26の内圧の低下が促進される一方、後側バッグ部28の内圧の低下が抑制される。
その結果、拘束後期には、前側バッグ部26の内圧が後側バッグ部28の内圧よりも低下する。これにより、内圧が低下した前側バッグ部26によって相対的に荷重耐性が低い着座乗員Pの胸部C及び腹部Bの前部をソフトに拘束することができると共に、前側バッグ部26に潰れ残りが生じることを抑制できる。また、前側バッグ部26よりも内圧が高くなった後側バッグ部28によって相対的に荷重耐性が高い着座乗員Pの肩部Sと胸部C及び腹部Bの後部とを良好に拘束することができる。これにより、着座乗員Pの身体において比較的耐性の低い部位への負荷を低減しつつ、比較的耐性の高い部位を効果的に拘束することができる。その結果、サイドエアバッグ20による乗員拘束性能を向上させることができる。
しかも、この実施形態では、後側バッグ部28が膨張展開すると、先端側が縦仕切り部40に係止された整流布24の逆止弁部24Bが、車両前後方向に沿って伸張される。これにより、後側バッグ部28の車両前後方向への膨張が抑制されて、後側バッグ部28の車幅方向の膨張厚が増加する。つまり、この逆止弁部24Bは、インフレータ22のガスを前側バッグ部26に分配する分岐通路としての機能と、逆止弁としての機能とを有するのみならず、後側バッグ部28の車幅方向の膨張厚を増加させるストラップとしての機能を備えている。これにより、拘束初期における後側バッグ部28の拘束力を高めることができる。
さらに、この実施形態では、後側バッグ部28の上部に設けられた前延部28Bが、前側バッグ部26の上方に膨張展開する。このため、前側バッグ部26との摺接により上方へ押し上げられた着座乗員Pの上腕部Aを、前延部28Bによって拘束することができる。しかも、前延部28Bが設けられることにより後側バッグ部28の上部が車両前後方向に長くなる。これにより、側面衝突の形態によらず、着座乗員Pの肩部Sをサイドエアバッグ20によって良好に拘束することが可能になる。つまり、例えば、側面衝突の形態が斜め側面衝突であり、着座乗員Pが車両斜め前方へ慣性移動した場合でも、着座乗員Pの肩部Sが前延部28Bから外れないようにすることができ、肩部Sの拘束を衝突後半まで持続させることが可能になる。
また、この実施形態では、前延部28Bの膨張厚W1が前側バッグ部26の膨張厚W2よりも小さく設定されている。これにより、前側バッグ部26の上端側における車幅方向内側面(上腕部押上面76)を車幅方向外側へ向かうに従い上昇するように大きく湾曲させることができるので、当該上腕部押上面76と着座乗員Pの上腕部Aとを摺接させることにより、上腕部Aを良好に押し上げることが可能になる。
しかも、前延部28Bと前側バッグ部26との境界部である横仕切り部38が縫製部(シーム)T4、T5によって構成されているため、横仕切り部38の車幅方向内側には、上腕部Aを押し上げるための押上スペース78が形成される。これにより、上腕部押上面76との摺接によって上方へ押し上げられる上腕部Aが不用意に前延部28Bと干渉しないようにすることができるので、上腕部Aをスムーズに押し上げることが可能になる。また、前側バッグ部26と後側バッグ部28の本体部28Aとの境界部である縦仕切り部40が基布34の一部によって構成されているため、前側バッグ部26及び本体部28Aの車幅方向の膨張厚を増加させることができ、衝撃吸収ストロークを良好に確保することができる。
また、本実施形態では、前側バッグ部26と後側バッグ部28の本体部28Aとによって着座乗員Pの胸部C及び腹部Bの側面をその湾曲に沿って前後から覆うように拘束することができる。これにより、胸部C及び腹部Bとサイドエアバッグ20との車両前後方向の位置関係を安定させることができる。
さらに、本実施形態では、前側バッグ部26と後側バッグ部28の本体部28Aとの境界部に設けられた縦仕切り部40によって、当該境界部付近の膨張が規制されるため、当該境界部付近には、サイドエアバッグ20の車幅方向内側面に車幅方向外側へ向けて凹を成す凹部80が形成される。従って、この凹部80が胸部C及び腹部Bの側面における前後方向中央部(すなわち車幅方向外側へ最も張り出した部分)と対向することにより、胸部C及び腹部B(肋骨など)への負荷を低減することができる。また、この凹部80に胸部C及び腹部Bの側面における前後方向中央部が嵌まり込むことにより、胸部C及び腹部Bとサイドエアバッグ20との車両前後方向の位置関係を一層良好に安定させることができる。
また、本実施形態では、膨張展開状態におけるサイドエアバッグ20の車幅方向の寸法(膨張厚)が、「後側バッグ部28>前側バッグ部26>前延部28B:W3>W2>W1」の関係に設定されている。これにより、着座乗員Pの身体における荷重耐性の高低に応じた拘束を、サイドエアバッグ20の内圧の設定のみならず、上記膨張厚の設定によりコントロールすることができる。つまり、前側バッグ部26よりも膨張厚が大きい後側バッグ部28によって比較的耐性が高い胸部C及び腹部Bの後側を拘束する一方、前側バッグ部26によって比較的耐性が低い胸部C及び腹部Bの前側を拘束することができる。これにより、サイドエアバッグ20による乗員拘束性をより一層向上させることができる。
さらに、本実施形態では、後側バッグ部28及び前側バッグ部26には、内部に供給されたガスを外部に排出するためのベントホール48、50が各々に形成されている。このため、ベントホール48、50の大きさを個別に設定変更することにより、後側バッグ部28及び前側バッグ部26の内圧を独立して容易に調整することができる。また、ベントホール48、50がサイドエアバッグ20の前縁部において上下に離間して設けられるため、ベントホール48、50から排出されるガスが一箇所に集中することを防止できる。これにより、着座乗員Pが高温のガスの影響を受け難くすることができる。
また、本実施形態では、前側バッグ部26のベントホール50が、整流布24の逆止弁部24Bの先端開口70よりも下方にオフセットした位置に形成されている。これにより、先端開口70を介して前側バッグ部26に供給されたガスがベントホール50からダイレクトに(直線的に)外部に排出されることを抑制できるので、拘束初期における前側バッグ部26の展開性能を確保することができる。
また、本実施形態では、前延部28Bは、非膨張での展開状態における上下幅寸法が車両前方側へ向かうほど小さくなるように設定されているため、車両前方側へ向かうほど細くなるように膨張展開する。これにより、着座乗員Pの肩部Sとドアトリム74との間の狭い隙間への前延部28Bの展開性能を向上させることができ、前延部28Bを上記隙間に良好に介在させることができる。
また、本実施形態では、シートバック14が基準設定位置に位置し且つサイドエアバッグ20が膨張展開した状態では、前側バッグ部26の上端に設定された縫製部T4と縫製部T5とが車両前後方向に対して前上がりに傾斜する。これにより、前側バッグ部26の上端側における車幅方向内側面(上腕部押上面76)との摺接によって着座乗員Pの上腕部Aに作用する押し上げ力Fの作用点を、より車両前方側に設定することができる。その結果、上腕部Aに作用する押し上げ方向のモーメントを大きくすることができるので、上腕部Aを一層良好に押し上げることが可能になる。
しかも、前延部28Bが、サイドエアバッグ20の前端側へ向かうほど細くなる略円錐台状に膨張展開し、前延部28Bの軸線が車両前後方向に対して前上がりに傾斜する。これにより、前延部28Bの車幅方向内側面における上部側の湾曲面が、上記軸線に沿って前上がりに傾斜する。このため、斜め側面衝突の衝撃によって着座乗員Pが車両斜め前方へ慣性移動した場合には、着座乗員Pの肩部Sが前延部28Bの上記湾曲面と摺接することにより、肩部Sが上方へ押し上げられることになる。これにより、上腕部Aの押し上げを助長することができる。
(第1実施形態の補足説明)
上記第1実施形態では、シートバック14が基準設定位置に位置し且つサイドエアバッグ20が膨張展開した状態で、前側バッグ部26の上端(横仕切り部38)が車両前後方向に対して前上がりに傾斜する構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、前側バッグ部26の上端が車両前後方向に沿う(水平に延びる)構成にしてもよい。
また、上記第1実施形態では、前延部28Bの非膨張での展開状態における上下幅寸法が車両前方側へ向かうほど小さくなるように設定された構成にしたが、本発明はこれに限らず、前延部28Bの上記上下幅寸法が一定に設定された構成にしてもよい。
また、上記第1実施形態では、後側バッグ部28にベントホール48が形成された構成にしたが、本発明はこれに限らず、ベントホール48が省略された構成にしてもよい。
また、上記第1実施形態では、サイドエアバッグ20の膨張展開状態で、前側バッグ部26と後側バッグ部28との車両前後方向の境界部(縦仕切り部40)が、着座乗員Pの胸部Cの前後方向中央部と対向する構成にしたが、本発明はこれに限らず、上記境界部の位置は適宜変更することができる。
また、上記第1実施形態では、逆止弁部24Bの先端部が縫製部T4において縦仕切り部40(前側バッグ部26と後側バッグ部28との境界部)に縫製(係止)された構成にしたが、本発明はこれに限らず、逆止弁部の先端部が前側バッグ部と後側バッグ部との境界部に接着又は熱溶着された構成にしてもよい。また、逆止弁部の先端部が前側バッグ部と後側バッグ部との境界部に係止されない構成にしてもよい。
さらに、上記第1実施形態では、後側バッグ部28の上部に前延部28Bが設けられた構成にした、本発明はこれに限らず、前延部28Bが省略された構成にしてもよい。
また、上記第1実施形態では、上端開口66及び下端開口68よりも開口面積が大きい先端開口70から大量のガスが早期に前側バッグ部26内に供給されることにより、前側バッグ部26の内圧が後側バッグ部28の内圧よりも早期かつ高圧に上昇する構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、インフレータ22のガス噴出部22Aから先端開口70までの距離を、ガス噴出部22Aから上端開口66及び下端開口68までの距離よりも長く設定することにより、前側バッグ部26の内圧を後側バッグ部28の内圧よりも早期かつ高圧に上昇させる構成にしてもよい。また例えば、インフレータ22のガス噴出部22Aから噴出されるガスの噴出方向を、先端開口70に向けて設定することにより、前側バッグ部26の内圧を後側バッグ部28の内圧よりも早期かつ高圧に上昇させる構成にしてもよい。
以上の補足説明は、以下に説明する本発明の他の実施形態においても同様である。なお、以下の実施形態では、前記第1実施形態と基本的に同様の構成・作用については、前記第1実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
<第2の実施形態>
図14には、本発明の第2の実施形態に係る車両用サイドエアバッグ装置90の構成部材であるサイドエアバッグ91の平面展開図が示されている。なお、図14では、図面を見易くするために、着座乗員Pの肩部S及び上腕部Aの図示を省略している。このサイドエアバッグ91は、下側バッグ部92を有する点で前記第1実施形態に係るサイドエアバッグ20とは異なる。すなわち、このサイドエアバッグ91では、基布30及び基布32(図14では図示省略)が下方側及び車両後方側へ延長されており、当該延長部が縫製部T10において縫製されることにより、下側バッグ部92が形成されている。この下側バッグ部92は、縫製部T6、T10によって構成された下側仕切り部94によって前側バッグ部26及び後側バッグ部28と区画されている。この下側バッグ部92内は、着座乗員Pの腰部Lを拘束する腰部チャンバ96とされている。
また、整流布24の部材本体24Aの下端部が下側仕切り部94を貫通して腰部チャンバ96に突出しており、部材本体24Aの下端開口68が腰部チャンバ96に開口している。これにより、インフレータ22から噴出されるガスが下端開口68を介して腰部チャンバ96に供給される構成になっている(図14の矢印G2参照)。
この実施形態では、上記以外は前記第1実施形態と同様の構成とされている。従って、この実施形態においても、前記第1実施形態と基本的に同様の作用効果を奏する。しかも、サイドエアバッグ91の下側バッグ部92によって、相対的に荷重耐性が高い着座乗員Pの腰部Lを拘束することができるので、サイドエアバッグ91による乗員拘束性能を一層向上させることができる。
なお、上記第2実施形態では、基布30及び基布32が下方側及び車両後方側へ延長されて縫製されることにより、下側バッグ部92が形成された構成にしたが、本発明はこれに限らず、下側バッグ部の形成方法は適宜変更することができる。例えば、図2に示される構成において、前側バッグ部26及び本体部28Aを下方側に延長し、当該延長部分を下側バッグ部(腰部拘束部)としてもよい。また例えば、図2に示される構成において、基布30、32、34とは別体の基布をサイドエアバッグ20の下端部に縫製することにより、下側バッグ部(腰部拘束部)を形成してもよい。
以上、2つの実施形態を示して本発明について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限らず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。