JP5774920B2 - 建物 - Google Patents

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Description

本発明は、耐震設計において地震力の一部を負担させる耐震構造要素を備えた建物に関する。
従来、この種の建物としては、建物外壁部に位置する柱と梁とで囲まれた構面内に、耐震設計の過程で地震力を負担させる構造要素として設計された耐震壁(耐震構造要素)が設けてあるものがあった(例えば、特許文献1参照)。耐震壁は、通常の壁に比べて、高い耐震性能が見込まれるために、例えば、鉄筋量を増やしたり、ブレースを追加して高い剛性が得られるように構成してある。
特許2988470号公報(図21、図22)
上述した従来の建物によれば、耐震構造要素は、建物外壁部に配置された耐震壁によって構成されているから、この耐震壁によって視線が遮られ、室内側から景観を観賞できるといった機能が低下しやすい。一方、建物の外観イメージとしても、耐震壁の占める割合が多くなればなる程、無味乾燥なものになり易い。
即ち、建物としての充分な耐震性能を確保すればするほど、生活の場としての居住性が低下しやすい問題点があった。
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、耐震性能と居住性の両立を叶えられる建物を提供するところにある。
本発明の第1の特徴構成は、耐震建物として構成してある建物であって、建物外周部に沿い、且つ、上下階にわたって周回する周回路が前記建物外周部の外側に一体に設けられ、前記周回路の少なくとも一部は、耐震設計において地震力の一部を負担させる耐震ブレースとして形成されたスロープ部を前記建物外周部に剛連結して構成されているところにある。
本発明の第1の特徴構成によれば、耐震構造要素のすべてを、建物内の耐震壁に頼ることなく、スロープ部においても耐震性能の向上を図ることができるようになる。
また、室内からの視線は水平方向に沿っているのに対して、スロープ部そのものは、表裏面は視線に沿って位置するから、殆ど視線を遮ることはなく、厚み部分の端面においてのみ視線を遮るだけにすぎず、実質上、スロープ部によって視線が遮られることは少ない。よって、耐震構造要素の全てを鉛直姿勢の耐震壁によって構成する建物に比べて、外周部の開口率を向上させることができる。
その結果、耐震構造要素による耐震性能は、建物全体として充分に確保しながらも、視線を遮る耐震壁の占める割合を少なくできるから、室内からの見通しが良くなり、外部の景観を楽しんだり自然光を室内に取り込みやすくなり、建物としての居住性を向上させることができる。
また、周回路そのものは、庇としての機能をも果たすことが可能となり、太陽の直射光が室内に到達するのを緩和でき、例えば、ペリメータ部での空調効果の向上を図ることが可能となる。
即ち、耐震性能と居住性との両立を叶えることができる。
更には、周回路は、建物外周部に沿って形成されているから、建物周長を最大限に生かした周回経路を確保でき、緩やかな勾配の周回路を構成することができる。従って、この周回路を、遊歩道やジョギング道路として利用したり、自転車や車椅子によって通行できる道として使用することが可能となり、建物としての付加価値の向上を図ることができる。
比較例として、所定の落差を昇降するにあたり、直線状の勾配路を考えた場合、勾配を緩やかにすればするほど、その延長は長くなり、その勾配路を建物敷地に組み込むには、敷地面積の増大につながるから実質上困難となる場合が多い。それに比べて、建物外周部を利用して周回路を形成してあるから、例えば、螺旋状に周回路を幾重にも重ねて設置することができ、敷地面積の増大をひかえながら緩やかな勾配の周回路を構成することができる効果がある。
また、当該建物は、新築にも改築にも適用できるものであるが、特に、改築の場合には、ほとんどの工事を、建物外周部において実施できるから、建物内部は通常のように使用しながら工事を進めることができる。
本発明の第2の特徴構成は、前記スロープ部は、長手方向の両端部を前記建物外周部に剛連結してあるところにある。
本発明の第3の特徴構成は、前記スロープ部は、前記建物外周部に剛連結した水平部を介して前記建物外周部に剛連結してあるところにある。
本発明の第4の特徴構成は、前記周回路は、複数の階にわたって連続して設けてあり、前記スロープ部は、前記建物外周部の各構面のうち、二つ以上の構面に設けてあるところにある。
本発明の第4の特徴構成によれば、周回路を複数の階にわたって連続して設けてあるから、上下の複数階どうしを、緩やかな勾配の周回路によって行き来することが可能となり、例えば、遊歩道やジョギング道路として利用したり、自転車や車椅子によって通行できる道として利用することが可能となる。
また、スロープ部を、建物外周部の各構面のうち、二つ以上の構面に設けてあることで、地震の横揺れに対して、各スロープ部による異なる構面でのベクトルで耐震効果を発揮することが可能となり、建物全体として耐震性能の向上を図ることができる。
本発明の第5の特徴構成は、前記周回路は、その上端が屋上階に達しているところにある。
本発明の第5の特徴構成によれば、下階側から周回路を通じて屋上階に行き来することが可能となる。
従って、周回路を、遊歩道やジョギング道路や自転車や車椅子によって通行できる道として使用できることに加えて、その拡がりに屋上階も含めることができる。
例えば、屋上階に庭園等の施設を設ければ、連続した周回路を通じてそのスペースへの出入りを簡単に行え、有効に利用することができるようになる。
その結果、周回路や屋上階を、連続した拡がりの中で一つの施設として有効に利用することができ、建物全体とした付加価値をより高めることができる。
但し、屋上階の用途は、上述の庭園に限るものではない。
また、例えば、昆虫や小動物が、周回路を経由して屋上階に出入りすることも可能となるから、人と動物との共生できる環境を作ることができる。
本発明の第6の特徴構成は、前記周回路は、複数条設けられているところにある。
本発明の第6の特徴構成によれば、周回路の延長を増やすことができる。また、建物から周回路への出入口の数を条数の分だけ確保できるから、単条のものに比べて周回路へのアクセスが向上し、より使い易くなる。
また、耐震構造要素としてのスロープ部の個所数を増加できるから、建物全体としての耐震構造要素の配置計画の自由性が向上する。
本発明の第7の特徴構成は、前記周回路は、緑化を施してあるところにある。
本発明の第7の特徴構成によれば、周回路を、上述のように、遊歩道やジョギング道路や自転車や車椅子によって通行できる道として使用するにあたり、緑化によって、より自然に近い環境を作ることができると共に、意匠性の向上も図ることができる。
更には、緑化植物による蒸散作用を期待でき、より快適性が向上する。
その結果、建物全体とした付加価値を更に向上させることができる。
実施形態の建物を模式的に示す斜視図 別実施形態の建物を模式的に示す斜視図 別実施形態の建物を模式的に示す斜視図 別実施形態の建物を模式的に示す斜視図 別実施形態の建物を模式的に示す斜視図 別実施形態の建物を模式的に示す斜視図 別実施形態の建物を模式的に示す斜視図 別実施形態の建物を模式的に示す斜視図 別実施形態の建物を模式的に示す斜視図
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の建物の一実施形態を示すもので、建物Bは、平面形状が矩形形状で、複数階層を備えた構造である。
建物外周部1に沿って、略螺旋形状の周回路2が建物外周部1と一体に設けられている。
周回路2は、一階部分から屋上階にわたって連続する状態に形成してあり、異なる系統で4つ(4条)設けられている。
具体的には、それぞれの周回路2の一階部分に位置する出入り部Dは、建物Bの各角部分に位置するように分散配置されている。また、各周回路2は、建物外周部1の四面の内の一面毎に、一階の落差がつくような略螺旋形状に構成されている。このような条数や勾配等は、ここで説明している内容に限定されるものではなく、単に、一例として説明するものであり、変形例や他の例に関しては、後述の〔別実施形態〕において説明する。
それぞれの周回路2は、建物Bの平面での四つの角部分にそれぞれ接する部分は、平面「L」字形状の水平部2aとして構成してある。また、建物外周部1に沿って斜め方向に隣接する水平部2aどうしにわたってスロープ部2bが設けられている。
前記水平部2aは、建物外周部1と剛に一体連結してあり、前記スロープ部2bは、長手方向の両端部をそれぞれの水平部2aに剛に一体連結してある。
耐震設計においては、周回路2のすべてが地震力の一部を負担させる耐震構造要素として断面設計されている。
即ち、静荷重のみを負担する部材設計に止まらず、地震荷重をも負担して対抗できる部材設計が実施されている。具体的には、周回路2の構造(例えば、鉄筋コンクリート造や、鉄骨造や、鉄骨鉄筋コンクリート造等)それぞれにおいて対応が異なるが、何れの構造においても、地震荷重に対抗できる鋼材量やコンクリート量が見込まれている。
そして、当該実施形態においては、前記スロープ部2bと、その両端部の水平部2aとによって、所謂「耐震ブレース」の機能を果たすことができる。
尚、本実施形態の建物Bにおいては、図には示さないが、耐震構造要素としての機能を発揮する耐震壁が、建物内部に設けられており、上述の各耐震ブレースと共に地震力に対抗して建物の維持を図れるように構成されている。
当該実施形態においては、耐震ブレースは、水平部2aでのみ建物外周部1と剛接合されており、スロープ部2bは、水平部2aを介して建物外周部1に連結されている。
尚、ここで説明している周回路2に関しては、建物Bの新築時に建物本体と共に形成されるものであってもよいことに加えて、既存の建物Bに対して耐震改修工事を行う際に形成されるものであってもよい。また、周回路2を構成する部材は、設置位置に型枠を組んでコンクリートの現場打設によって構成するものであることの他、プレキャスト部材として提供される形態も実施可能である。
水平部2a、スロープ部2bとも、板状の形状に形成されており、これら水平部2a、スロープ部2bを、建物外周部1に沿って交互に配置することで、一階部分から屋上階まで連続した略螺旋形状の周回路2が構成されている。
従って、建物外周部1の四つある各構面には、同じ数の耐震ブレースが設けられており、この部材配置によって、建物全体としてバランスのとれた耐震性能が確保されている。
周回路2には、植栽部3が適宜配置してあり、全長にわたって、人や自転車や車椅子等が通行できる緑化道として構成されている。
また、建物Bの屋上階は、屋上庭園4として構成してあり、周回路2を通じて、建物Bの外部から自由に行き来して利用できるように構成されている。
因みに、図には省略してあるが、周回路2、及び、屋上階には、例えば、手摺やパラペット等が設けてあり、転落防止を図っている。
また、周回路2には、耐震構造要素としての機能を付加したパラペットを設ければ、より耐震性能を向上させることができる。
また、周回路2への出入りは、一階部分の前記出入り部Dにおいては外部との連絡口となる他、各階層での居住部の延長にも、適宜、出入り部を設けることができる。
本実施形態の建物Bによれば、建物内の耐震壁と、周回路2による耐震ブレースによって、適切な耐震性能がバランスよく確保されている。
また、建物外周部1を開放的に形成できることで、建物内から景観を観賞できる視線を確保でき、且つ、自然光の取り入れをも実施可能となっている。
更には、周回路2による庇効果が期待できると共に、緑化による蒸散作用をも加わって、ペリメータ部での空調効果の向上を叶えることができる。
そして、周回路2を使用した散歩やジョギング等、従来の建物にはなかった新しい生活エンジョイ機能が付加され、更には、昆虫や小動物も前記周回路2を通じて自由に行き来できるようになって、人と動物との共生できる環境を作ることができる。
即ち、バランスの良い耐震性能を確保できると共に、建物を快適に使用できる機能が備わり、建物全体としての高い付加価値が得られるようになる。
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
〈1〉 建物Bは、先の実施形態で説明した平面形状が矩形形状のものに限るものではなく、複数の矩形形状が組み合わさって構成される多角形形状や、少なくとも一辺が円弧形状である平面形状のものであってもよい。
また、建物用途は、特に限定されるものではない。
〈2〉 周回路2は、その全長にわたって耐震構造要素として構成してあることに限らず、少なくとも、耐震構造要素で構成されたスロープ部2bが、建物外周部1に連結されたものであればよい。
〈3〉 周回路2は、全階層にわたって設けられているものに限らず、例えば、図3に示すように、途中の階から屋上階にかけて設けられたものや、図4〜9に示すように、上下中間の一部の複数階層にわたってのみ設けられているものであってもよい。また、図5、図8、図9に示すように、n階から(n+1)階にわたってのみ(言い替えれば、n階層にのみ)に設けられているものであってもよい。
〈4〉 周回路2は、先の実施形態で説明したように、四系統(四条)を設けるものに限らず、例えば、図2〜8に示すように、一系統のみであってもよい。
また、建物外周部1の各構面にそれぞれ耐震構造要素からなるスロープ部2bが設けられるものに限らず、例えば、図5〜9に示すように、全構面の内の一部の構面にのみ耐震構造要素からなるスロープ部2bが設けられているものであってもよい。この場合、スロープ部2bが設けられていない構面においては、水平の周回路2が構成されている。
〈5〉 スロープ部2bは、建物外周部1の一つの構面において上下階(n階から(n+1)階)にわたる構成に限らず、例えば、図6、図7に示すように、一つの構面において複数階層にわたるように設けてあってもよい。
また、図8に示すように、隣合う複数の構面において上下階(n階から(n+1)階)にわたるように設けてあってもよい。この場合は、スロープ部2bの勾配を、より緩やかにすることができる。
また、先の実施形態のように、水平部2aとの組合せによって周回路2を構成することに限らず、スロープ部2bのみで周回路2を構成するものであってもよい。
〈6〉 周回路2は、先の実施形態で説明した巻方向が同じ略螺旋形状のものが複数系統(複数条)設けられているものに限るものではなく、巻方向が反対方向の略螺旋形状のものが複数系統(複数条)設けてあるものであってもよい。
また、この場合、巻方向の異なるスロープ部2bどうしは、異なる構面に配置されているもの以外に、図9に示すように、同一構面で交差する状態に設けられていてもよい。
この例によれば、同一構面内に交差する耐震ブレースが構成されるから、耐震性能のバランスが向上する。
〈7〉 出入り部Dは、先の実施形態で説明した建物一階部分の周回路2に設けることに限らず、周回路2の任意の位置に設けることができる。例えば、建物外部にアクセス可能な部分がある場合、その高さに合わせて途中階の周回路2部分に設けることも可能である。更には、一つの周回路2の内の一個所にのみ設けることに限らず、複数個所に出入り部Dを形成してあってもよい。また、出入り部Dに、不法侵入を防止する扉やゲート等を設けても良いことは勿論のことである。
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
1 建物外周部
2 周回路
2b スロープ部

Claims (7)

  1. 耐震建物として構成してある建物であって、
    建物外周部に沿い、且つ、上下階にわたって周回する周回路が前記建物外周部の外側に一体に設けられ、
    前記周回路の少なくとも一部は、耐震設計において地震力の一部を負担させる耐震ブレースとして形成されたスロープ部を前記建物外周部に剛連結して構成されている建物。
  2. 前記スロープ部は、長手方向の両端部を前記建物外周部に剛連結してある請求項1に記載の建物。
  3. 前記スロープ部は、前記建物外周部に剛連結した水平部を介して前記建物外周部に剛連結してある請求項2に記載の建物。
  4. 前記周回路は、複数の階にわたって連続して設けてあり、
    前記スロープ部は、前記建物外周部の各構面のうち、二つ以上の構面に設けてある請求項1〜3の何れか一項に記載の建物。
  5. 前記周回路は、その上端が屋上階に達している請求項1〜4の何れか一項に記載の建物。
  6. 前記周回路は、複数条設けられている請求項1〜5の何れか一項に記載の建物。
  7. 前記周回路は、緑化を施してある請求項1〜6の何れか一項に記載の建物。
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