JP5762879B2 - 多段階ステッピング制震構造及び方法 - Google Patents

多段階ステッピング制震構造及び方法 Download PDF

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Description

この発明は、浮き上がり制震要素とギャップ付き耐震要素とを組み合わせて多段階に浮き上がる(ロッキング又はステッピングする。)構成とした制震構造及び制震方法に係り、更に言えば、想定外の地震動が発生した場合でも、入力地震動の大きさや周期のバラツキに応じて抵抗構造(又は抵抗機構)が多段階に切り換わり、ステッピングスタンスを拡大変化させて建物の安定性(ロバスト性)を向上させ、「想定外」の超巨大地震動に襲われても建物の倒壊を防ぐ性能(冗長性)を向上させた多段階ステッピング制震構造及び制震方法の技術分野に属する。
建築基準法で想定する外乱、例えば地震動の種類やレベルは最低基準であり、それ以上に大きい、いわゆる「想定外」の地震動に建物が襲われると、相当な被害を被る可能性を否定できない。
したがって、震災後に避難施設として利用する期待が大きい学校や公民館、あるいは行政庁舎の如き建物の用途、機能の重要性を考慮すると、前記「想定外」の地震動に対しても安定であり、崩壊や倒壊を免れて、震災後も建物の用途、機能を十分に発揮させる対策技術の重要性が広く認識されている。
とはいえ、過度の設計にならない構造計画、構造設計で経済性と施工性が満たされることも大いに重視される。
しかし、従来、上記した如く相反する二面性の要望を満たすに足りる制震構造ないし制震方法は未だ見聞されない。
従来、例えば下記特許文献1には、耐震壁が基礎と縁切りされて回転、浮き上がりが可能とされると共に、同耐震壁の側方に基礎に固定したフレームを構築し、該フレームと耐震壁との間に相対変位エネルギを吸収するエネルギ吸収機構を組み込んだ制震構造物が開示されている。この制震構造物は要するに、地震等の入力に対して、耐震壁を回転挙動で浮き上がらせる剛体変位によりせん断変形を抑制し、更に同耐震壁の変位エネルギをエネルギ吸収機構に吸収させて外力を減衰させ制震効果が得られると説明されている。
下記の特許文献2には、構造物を支持する基礎杭の頭部と構造物の下部とが上下方向への相対移動(浮き上がり)が可能に縁切りされ、基礎杭の頭部と構造物の下部との間に構造物が元に戻るときの衝撃を吸収する衝撃吸収材が設置された構造物基礎が開示されている。この発明は要するに、地震時には構造物にロッキング振動を生じさせてエネルギ吸収を行わせ、構造物の損壊等の被害を防止できると説明されている。
更に下記の特許文献3には、地震時の水平力を負担する連層耐震壁の下部を、転倒モーメントの作用で柱と共に浮き上がり(ロッキング振動)が発生する構成とした建物の耐震架構が開示されている。この耐震架構は要するに、地震時には建物にロッキング振動を生じさせて地震入力を低減し、耐震性を向上させると説明している。
特開平10−252307号公報 特開平10−331173号公報 特開2001−336300号公報
上記したとおり、建物の耐震性ないし制震性能に関する技術開発は既に種々進められている。しかし、そのいずれも地震動の種類やレベルが建築基準法で想定する範囲内である限り、建物の安定性、安全性を確保できることを前提とする技術内容と認められる。つまり、地震動の種類やレベルが建築基準法で想定する基準を超えた「想定外」の地震動に襲われた場合でも、被害を受けないか、又は被害が少なく、倒壊や崩壊を免れて、震災後も建物の用途、機能を発揮させることができる耐震技術ないし制震技術で、しかも過度の設計にならない構造計画、構造設計で施工でき、経済性と施工性を満足できる耐震技術ないし制震技術といえる対策技術は未だ見聞されないのが現状である。
本発明の目的は、建築基準法で想定する範囲を超えた、いわゆる「想定外」の超巨大地震動に襲われても被害がないか又は少なく、建物の倒壊や崩壊を免れて、震災後も建物の用途、機能を良く発揮させることができる制震構造及び制震方法であって、しかも過度の設計にならない構造計画、構造設計で実施可能であり、経済性と施工性を満足できる制震構造及び制震方法を提供することである。
更に言えば、「想定内」或いは「想定外」の超巨大地震動に襲われた場合でも、入力地震動の大きさ、或いは周期のバラツキに応じて抵抗構造(抵抗機構)が多段階に切り換わり、ステッピングスタンスが拡大変化して建物の安定性(ロバスト性)を向上させ、更には超巨大地震動に襲われても建物の倒壊や崩壊を防ぐ性能(冗長性)を備えた、多段階ステッピング制震構造及び多段階ステッピング制震方法を提供することである。
上記課題を解決する手段として、請求項1に記載した発明に係る多段階ステッピング制震構造は、
地震時の水平力Qを負担する連層耐震要素1は、その下端部が基礎4又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がり5が可能に構築され、
前記連層耐震要素1と同じ構面内で隣接する位置に、前記連層耐震要素1との間に上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震要素2が、その下端部を基礎4又は地下階柱頭と縁切して上下方向への浮き上がり5が可能に構築されており、
中・小地震時Q1には、連層耐震要素1及びギャップ付き耐震要素2ともに下端部が基礎4又は地下階柱頭と接した基礎固定の状態で応答し、
建築基準法で想定する範囲内の大地震時Q2には、連層耐震要素1のみが浮き上がって地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物10への地震入力を低減する挙動(第1段階ステッピング)で応答し、
建築基準法で想定する範囲内の巨大地震時Q3には、連層耐震要素1の浮き上がり5に伴ってギャップ付き耐震要素2とのギャップ3を解消して連層耐震要素1とギャップ付き耐震要素2とが一体化した状態に抵抗機構が切り換わり、両耐震要素1、2の下端のステッピングスタンスが(L1+L2 )に拡大された挙動(第1段階ステッピングから第2段階ステッピングへの移行)で応答してロバスト性を発揮し、
建築基準法では想定外の超巨大地震時Q4には、連層耐震要素1の浮き上がり5に伴ってギャップ付き耐震要素2とのギャップ3を解消して連層耐震要素1とギャップ付き耐震要素2とが一体化した状態に抵抗機構が切り換わり、両耐震要素1、2の下端のステッピングスタンスが(L1+L2 )に拡大された浮き上がり挙動(第2段階ステッピング)で応答して地震入力を大きな位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物10への地震入力を低減して倒壊を防ぐ冗長性を発揮することを特徴とする。
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した多段階ステッピング制震構造において、
建物10の連層耐震要素1及びギャップ付き耐震要素2は、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造であり、若しくは連層耐震要素1が鉄骨ブレース構造で、ギャップ付き耐震要素2はブレースの代わりに弛みを生じた引っ張り材を配置した鉄骨造であることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した多段階ステッピング制震構造において、
連層耐震要素1及びギャップ付き耐震要素2と基礎4又は地下階柱頭との縁切りは、基礎4を構成する杭頭又は柱頭に凹部4aを設け、連層耐震要素1及びギャップ付き耐震要素2のステッピング架構6には下向きに突き出て前記凹部4aへ出入り自在に嵌る柱部材6aを設けて前記凹部4aへ嵌め合わせると共に、前記凹部4aと柱部材6aとの嵌め合わせ隙間に潤滑剤が充填されている構成を特徴とする。
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した多段階ステッピング制震構造において、
ギャップ付き耐震要素2は、矩形のフレーム架構7の面内に、フレーム上辺7aからぶら下げて、若しくはフレーム下辺7bから立ち上げて、フレーム架構7とは縁切りした上下方向のギャップ3が連層耐震要素1との間に形成されている構成を特徴とする。
請求項5に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した多段階ステッピング制震構造において、
ギャップ付き耐震要素2は、矩形のフレーム架構7の面内に、その四辺を圧縮に効くダンパー8によりフレーム架構7の面内に支持された構成であり、上下方向のギャップ3が連層耐震要素1との隣接部位に形成されていることを特徴とする。
請求項6に記載した発明は、請求項1〜5のいずれか一に記載した多段階ステッピング制震構造において、
ギャップ付き耐震要素2のギャップ3は、耐火性のゴム製緩衝材9で埋められていることを特徴とする。
請求項7に記載した発明に係る多段階ステッピング制震方法は、
地震時の水平力Qを負担する連層耐震要素1は、その下端部を基礎4又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がり5が可能に構築し、
前記連層耐震要素1と同じ構面内の隣接位置に、前記連層耐震要素1との間に上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震要素2を、その下端部を基礎4又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がり5が可能に構築し、
中・小地震時Q1には、連層耐震要素1及びギャップ付き耐震要素2ともに下端部が基礎4又は地下階柱頭と接した基礎固定の状態で応答させ、
建築基準法で想定する範囲内の大地震時Q2には、連層耐震要素1のみが浮き上がって地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物10への地震入力を低減する挙動(第1段階ステッピング)で応答させ、
建築基準法で想定する範囲内の巨大地震時Q3には、連層耐震要素1の浮き上がり5に伴ってギャップ付き耐震要素2とのギャップ3を解消し連層耐震要素1とギャップ付き耐震要素2とが一体化した状態に抵抗機構を切り換え、両耐震要素1、2の下端のステッピングスタンスが(L1+L2 )に拡大された挙動(第1段階ステッピングから第2段階ステッピングへの移行)で応答させてロバスト性を発揮させ、
建築基準法では想定外の超巨大地震時Q4には、連層耐震要素1の浮き上がり5に伴ってギャップ付き耐震要素2とのギャップ3を解消して連層耐震要素1とギャップ付き耐震要素2とが一体化した状態に抵抗機構を切り換え、両耐震要素の下端のステッピングスタンスが(L1+L2 )に拡大された浮き上がり挙動(第2段階ステッピング)で応答させて地震入力を大きな位置エネルギに変換し、且つ超周期化して建物10への地震入力を低減して倒壊や崩壊を防ぐ冗長性を発揮させることを特徴とする。
本発明に係る多段階ステッピング制震構造及び多段階ステッピング制震方法は、地震時の水平力Qを負担する連層耐震要素1の下端部を、基礎4又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がり5が可能に構築され、更に前記連層耐震要素1と同じ構面内で隣接する位置に、連層耐震要素1との間に上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震要素2を、やはり下端部を基礎4又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がり5が可能に構築されているが、弱小の中・小地震動Q1が入力したぐらいでは、建物10の連層耐震要素1及びギャップ付き耐震要素2はびくともせず、図4に例示した如く各耐震要素1、2の下端部は基礎4又は地下階柱頭と接した基礎固定の状態で応答して耐え、建物10の制震性及び耐震性に変化は生じない。
次に、建築基準法で想定する範囲内の大地震動Q2が作用した際には、図5に例示したように、建物10の連層耐震要素1のみが、その下端の幅寸L1をステッピングスタンスとする浮き上がり5を生じて、地震入力Q2を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物10への地震入力を低減化する挙動(第1段階ステッピング)で応答し、建物10の安全性を保つ。
更に、建築基準法で想定する範囲内の巨大地震時Q3には、建物10の連層耐震要素1の上記浮き上がり5に伴ってギャップ付き耐震要素2との間のギャップ3が解消され(閉じられ)、連層耐震要素1とギャップ付き耐震要素2とは構造的に一体化した抵抗機構に切り換わる。そのため両耐震要素1、2は、それぞれの下端の幅寸L1とL2を合計した大きなステッピングスタンス(L1+L2)で合一の浮き上がり5を生ずる抵抗機構に切り換わり、前記拡大されたステッピングスタンス(L1+L2)の挙動(第1段階ステッピングから第多段階ステッピングへの移行動作)で応答し、地震入力Q3を大きな位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物10の安全性を保つ、所謂「ロバスト性」を発揮する。
のみならず、建築基準法では「想定外」の超巨大地震動Q4に建物10が襲われた場合にも、やはり連層耐震要素1の浮き上がり5に伴って、ギャップ付き耐震要素2との間のギャップ3が解消され(閉じられ)、連層耐震要素1とギャップ付き耐震要素2とが構造的に一体化した抵抗機構に切り換わる。そして、両耐震要素1、2はそれぞれの下端の幅寸L1とL2を合計した大きなステッピングスタンス(L1+L2)で浮き上がり5を生ずる挙動(第2段階ステッピング)で応答し、地震入力を大きな位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物10への地震入力を低減化し、建物10の倒壊や崩壊を未然に防ぐ所謂「冗長性」を発揮する。
本発明に係る多段階ステッピング制震構造を実施した建物モデルの斜視図である。 図1に示した建物の構造計画解析モデルの斜視図である。 図2に示した建物モデルの基準階床伏せ図である。 上記多段階ステッピング制震構造建物が基礎固定の挙動を示した立面図である。 上記多段階ステッピング制震構造建物が第1段階ステッピングの抵抗機構に切り換わった挙動を例示した立面図である。 上記多段階ステッピング制震構造建物が第2段階ステッピングの抵抗機構に切り換わりつつある挙動を例示した立面図である。 上記多段階ステッピング制震構造建物が第2段階ステッピングの抵抗機構に切り換わった挙動を例示した立面図である。 Aは上記多段階ステッピング制震構造建物の抵抗機構が第1段階ステッピングに切り換わった挙動を誇張して示し、Bは同第2段階ステッピングに切り換わった挙動を誇張して示した説明図である。 Aは連層耐震壁およびギャップ付き耐震壁が上下方向のギャップを介して隣接する構造部分を示した主要部の正面図、BはA図に付記したb−b線矢視の拡大した断面図である。 Aは連層耐震要素又はギャップ付き耐震要素の下端部の浮き上がり架構と、基礎を構成する杭との縁切り構造の一例を浮き上がり挙動の状態で示した斜視図、Bは同前の基礎固定状態を示した立面図である。 Aは本発明による多段階ステッピング制震構造建物の応答解析に用いた地震動波形図、Bはレベル2の絶対加速度応答スペクトル図である。 上記レベル2の地震動を基準とし、加速度スケールを変化させた場合の応答値の推移を示す解析図である。 A、Bはギャップ付き耐震壁の構成例と応答形態を示すモデル図である。 A、Bはギャップ付き耐震壁の異なる構成例と応答形態を示すモデル図である。 A、Bはギャップ付き耐震壁の異なる構成例と応答形態を示すモデル図である。 A、Bはギャップ付き耐震壁の異なる構成例と応答形態を示すモデル図である。 A、Bはギャップ付き耐震壁の異なる構成例と応答形態を示すモデル図である。 本発明による多段階ステッピング制震構造建物モデルの異なる実施例の基準階床伏せ図である。 A〜Dは本発明に係る多段階ステッピング制震構造建物モデルの異なる実施例を示した立面図である。 本発明に係る多段階ステッピング制震構造建物が、連層耐震壁はブレース構造で、ギャップ付き耐震壁は弛みを生じた引っ張り材を用いた鉄骨造で構成された建物モデルを示す立面図である。 A〜Cは本発明に係る多段階ステッピング制震構造建物モデルの異なる実施例を示した立面図である。
発明を実施する最良の形態
本発明による多段階ステッピング制震構造及び多段階ステッピング制震方法は、地震時の水平力Q(地震動)を負担する連層耐震要素1は、その下端部が基礎4又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がり5が可能に構築される。
前記連層耐震要素1と同じ構面内で隣接する位置に、前記連層耐震要素1との間に上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震要素2が、その下端部を基礎4又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がり5が可能に構築される。
したがって、中・小地震時Q1には、連層耐震要素1及びギャップ付き耐震要素2ともに下端部が基礎4又は地下階柱頭と接した基礎固定の状態で応答し、建物10の制震性能及び耐震性能を発揮する(図4参照)。
建築基準法で想定する範囲内の大地震時Q2には、連層耐震要素1のみが浮き上がって地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して、建物10への地震入力を低減する挙動(第1段階ステッピング)で応答し建物10の安全性を保つ(図5参照)。
同じく建築基準法で想定する範囲内の巨大地震時Q3には、連層耐震要素1の浮き上がり5に伴ってギャップ付き耐震要素2とのギャップ3を解消し(閉じ)、連層耐震要素1とギャップ付き耐震要素2とが一体化した状態に抵抗機構が切り換わり、両耐震要素1、2の下端のステッピングスタンスが(L1+L2 )に拡大された挙動(第1段階ステッピングから第多段階ステッピングへの移行期)により建物10への地震入力を大きな位置エネルギに変換し、且つ長周期化する応答により建物10への地震入力を低減して、同建物10のロバスト性を発揮する(図6参照)。
更に、建築基準法では「想定外」の超巨大地震動Q4に襲われた場合には、連層耐震要素1の浮き上がり5に伴ってギャップ付き耐震壁2のギャップ3を解消し(閉じ)、連層耐震要素1とギャップ付き耐震要素2とが一体化した状態に抵抗機構が切り換わり、両耐震要素1、2の下端のステッピングスタンスが(L1+L2 )に拡大された浮き上がり挙動(第2段階ステッピング)の応答により建物10への地震入力を大きな位置エネルギに変換し、且つ長周期化することにより建物19への地震入力を低減し、建物10の倒壊や崩壊を防ぐ「冗長性」を発揮する。
かくしてギャップ付き耐震壁2の個数を更に増やすことにより抵抗機構の切り換え段数を更に増やすことができ、ステッピングスタンスの拡大段数を増やすなどして、更に多段階のステッピング制震構造及びステッピング制震方法を実施することが出来る。
以下に、本発明を図示した実施例に基づいて説明する。
先ず図1〜図3は、本発明による2段階ステッピング制震構造及び2段階ステッピング制震方法を実施した建物モデルの斜視図と、構造計画解析モデル及び基準階床伏せ図を示している。
図1〜図3に示した実施例の2段階ステッピング制震構造建物10は、平面が正方形に近い矩形状で、その四隅位置のX・Y2方向の構面に沿って左右対称な配置で、地震時の水平力を負担する連層耐震壁1(連層耐震要素)が、屋上レベルに届く高さと、1スパンの柱間に及ぶ幅寸で形成され、その下端部は基礎4と縁切りして上下方向への浮き上がりが可能に構築されている(ただし、連層耐震壁1は前記の規模や形状に限らない。以下同じ)。
また、前記連層耐震壁1と同じ構面内、即ち、図1及び図2の例で言えばX方向及びY方向の構面内で隣接する位置であって、地上1階層部分に、且つ1スパンの柱間に及ぶ幅寸で、前記連層耐震壁1との間に、詳細な構造は後述する上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震壁2(ギャップ付き耐震要素)が、同じくその下端部を基礎4と縁切りして上下方向への浮き上がりが可能に構築されている(ただし、ギャップ付き耐震壁2も前記1層分の形状、構成に限らない。以下、同じ。)。
なお、図1〜図7は、上記の連層耐震壁1とギャップ付き耐震壁2が共通の構面において、左右対称な配置に構築された構成を示しているが、この限りではない。例えば図18と図19に示す構成でも実施可能であることを予め申し上げておく。
ここで上記連層耐震壁1と、同耐震壁が上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震壁2の詳しい構造を、図9に基づいて更に説明する。
図9A、Bは、連層耐震壁1及びギャップ付き耐震壁2が鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造として構築された場合を示す。この場合、ギャップ付き耐震壁2は、連層耐震壁1との境界部位に、上下方向のギャップ3を開けて、連層耐震壁1と同じ構面内で隣接する構成で構築されている。
また、ギャップ付き耐震壁2は、図10A、Bに例示した鋼構造のステッピング架構6を構成する下辺フレーム6b(図10Aを参照)との間にもギャップ3’を開けている(図9A参照)。つまり、図9A及び図13、図14に示すギャップ付き耐震壁2は、矩形の外周フレーム7の面内に、上辺フレーム7aからぶら下げた構造に構築されている。
もっとも、後で説明する図16〜図17のとおり、ギャップ付き耐震壁2は、建物の矩形フレーム7の面内に、種々な態様に構築して実施できる。
上記した上下方向のギャップ3の隙間寸法は、2段階ステッピング制震作用を効果的に機能させるタイミング(抵抗機構の切り換え時期)との兼ね合いを考慮してその大きさが決定される。具体的には数ミリメートル〜数10ミリメートルの範囲で隙間寸法の大きさを適宜に設計して実施される。
上記ギャップ3には、図9Bに示したように、耐火性のゴム製緩衝材9を詰めてきっちり塞ぐ。図9Bの場合、前記ゴム製緩衝材9は、同ゴム製緩衝材9の内縁と外縁にブチルゴム製の支持部材9aを取り付けて、連層耐震壁1及びギャップ付き耐震壁2と緊密な関係に一体化した構成とされる。更に、外縁側の支持部材9aの内側には、耐火性のセラミックファイバー材9bを挟んだ構成とされている。
もとより上記した下辺フレーム6bとの間に形成したギャップ3’についても、同様な閉塞処理が行われる。
上記耐火性のゴム製緩衝材9及びブチルゴム製支持部材9a並びに耐火性のセラミックファイバー材9bは、後述する連層耐震壁1の浮き上がり挙動(ステッピング又はロッキング)に追従しつつ段階的に変形と硬化を生じ、隣接する連層耐震壁1とギャップ付き耐震壁2とを一体化させる耐摩耗機構として機能する。
次に、図10A、Bに基づいて、上記連層耐震壁1及び/又はギャップ付き耐震壁2と基礎4との縁切り構造を説明する。
図10A、Bに例示したとおり、建物10の基礎を構成する杭4の杭頭中心部に鋼製の箱枠を埋め込み、スタッドを利用する等の手段で強固に一体化した凹部4aを設けており、前記鋼製の箱枠が支圧材としても働く構成とされている。
もっとも、基礎4の異なる構成としては、後の図21A〜Cに示して後述するとおり、地下階構造物の柱頭に同様な凹部4aを設けて同様に実施することが出来る。
一方、上記した連層耐震壁1及び/又はギャップ付き耐震壁2の下端部を構成する鋼製のステッピング架構6からは、下向きに突き出て前記凹部4aへ出入り自在(上下動が自在)に嵌る柱部材6aを設けて、前記凹部4aへ柱部材6aを嵌めた構成で浮き上がり可能な縁切りが行われている。もっとも凹部4a及び柱部材6aは図示した角形の構成に限らず、丸形状その他の形状でも実施される。
更に、上記2段階ステッピング制震(浮き上がり制震)の実効をあらしめるため、杭頭の凹部4aと柱部材6aとの嵌め合い隙間にはグリース等の潤滑剤が充填され、恒久的な浮き上がり動作を保全する縁切り構造が構築されている。
上記構成のステッピング制震(浮き上がり制震)構造及びステッピング制震方法は、杭頭の凹部4aへ、連層耐震壁1及び/又はギャップ付き耐震壁2のステッピング架構6から下向きに突き出された柱部材6aを、前記凹部4aへ出入り自在に嵌めた簡便な構造であるから、既往の鉄骨柱脚と同様に簡便な施工で実施できる。したがって、既往のいわゆる免震装置の設置施工の如き高い施工精度は不要であり、施工性に優れ、工費も安価に実施できる。
上記の構成で実施される本発明の2段階ステッピング制震構造建物10は、中・小の弱小地震動Q1が作用した際には、図4に示した如く、連層耐震壁1及びギャップ付き耐震壁2はともに、その下端部(ステッピング架構6)が基礎4と接した基礎固定状態で応答し、建物10の安全性と安定性は十分に保たれる。
また、建築基準法で想定する範囲内の大地震動Q2(レベル2)が襲った際には、図5に示した如く、連層耐震壁1にのみ、入力側の支点(図5では左側の浮き上がり可能な縁切り構造部)に浮き上がり5を生じて、地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して、建物10への地震入力を低減化する挙動(第1段階ステッピング)で応答し、建物10の安全性と安定性が保たれる。
更に図6に示すように、建築基準法で想定する範囲内の巨大地震動Q3が建物10を襲った場合には、連層耐震壁1は地震入力側の支点のみならず、反対側の支点(つまり両側の浮き上がり可能な縁切り構造部)にも浮き上がり5を生じる。その結果、両壁間の上下方向のギャップ3を閉じて連層耐震壁1と一体化したギャップ付き耐震壁2の入力側の支点(図6で左側の浮き上がり可能な縁切り構造部)にもそれなりの浮き上がり5を生じさせ、地震入力を大きな位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物10への地震入力を低減化する挙動(第1段階ステッピングから第2段階ステッピングへの移行)を呈し、やはり建物10の安全性と安定性が保たれる。
のみならず、建築基準法で想定する範囲外の超巨大地震動Q4が建物10を襲った場合には、図7に示したように、連層耐震壁1は入力側の支点のみならず反対側の支点(両側の浮き上がり可能な縁切り構造部)に浮き上がり5を生じ、この連層耐震壁1と一体化することで抵抗機構が切り換わり、ギャップ付き耐震壁2の入力側の支点(図7で左側の浮き上がり可能な縁切り構造部)にも一体的な浮き上がり5を生じさせ、地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して、建物10への地震入力を低減化する挙動(第2段階ステッピング)により、建物10の倒壊や崩壊を防止する「冗長性」を発揮して、安全性と安定性を保つ。
なお、以上の説明では、上記第1段階ステッピングおよび第2段階ステッピングの挙動を、主に図4〜図7に示した左側の連層耐震壁1及びギャップ付き耐震壁2について説明したが、この限りではない。図4〜図7の例で明らかなように、建物10の一つの共通構面には左右対称な配置に連層耐震壁1及びギャップ付き耐震壁2を配置した構成で構築されているので、やはり上記した抵抗機構が切り換わり、地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物10への地震入力を低減化する挙動(第2段階ステッピング)は、必然的に左右逆向きの挙動として呈されることを念のため申し添える。
以上の説明を踏まえて、図8A、Bは、上記第1段階及び第2段階ステッピングの挙動を更に概念的に示している。これを以下に説明する。
図8Aは、建築基準法で想定する範囲内の巨大地震動Q2が作用した場合(図5に対応する)の挙動を示す。この場合、回転角をθとすると、連層耐震壁1のステッピングスタンスは、同連層耐震壁1の下端幅相当のスタンスL1のみであるため小さい。したがって、重心Gの高さ位置h1の変化も小さいから、位置エネルギへの変換量も小さいが、小さい地震動には対応することができる。
図8Bは、建築基準法で想定する範囲内の巨大地震動Q3、又は想定範囲外の超巨大地震動Q4が襲った場合(図7に対応する)の挙動を示す。この場合は、連層耐震壁1の地震入力側(左側)の支点に浮き上がり5を生じるだけでなく、前記浮き上がり動作が進行拡大して上下方向のギャップ3が解消される(閉じられる)結果、隣接のギャップ付き耐震壁2へ連層耐震壁1が接して一体化し、同ギャップ付き耐震壁2の地震入力側(左側)の支点にも浮き上がり5を生じる状態となって抵抗機構が切り換わる(第1段階ステッピングから第1段階ステッピングへ移行する)挙動を示す。
その結果、図8Bで明らかな通り、図8Bのステッピングスタンスは、隣接する二つの耐震壁1、2の下端相当幅のスタンスL1とL2を加算したに等しい大きさ(L1+L2)に拡大された浮き上がり挙動(第1段階ステッピングから第1段階ステッピングへ移行した挙動)を呈す。その結果、回転角を図8Aと同じθとすると、と連層耐震壁1の重心Gの高さ位置h1の変化も大きくなるから、地震入力の位置エネルギへの変換量が大きくなり、大きな地震動にまで対応できる。このようにシステムが変化する(抵抗機構が切り換わる)ことにより小さな地震動から大きな地震動まで効率よく対応でき、やはり建物10の安全性と安定性を保つ、所謂「ロバスト性」が良く発揮される。
そして、建築基準法で想定する範囲外の超巨大地震動Q4(レベル2)が建物10を襲った場合には、図8Bに示した回転角θが一段と大きくなるから、連層耐震壁1及びギャップ付き耐震壁2が一体の浮き上がり5に伴う重心Gの高さ位置h2の変化も一層大きくなる。そのため位置エネルギへの変換量が一層大きくなって、建物10の倒壊や崩壊を防ぐ、所謂「冗長性」が十分に発揮されるのである。
因みに図11Aは、上記「レベル2」の大地震動Q2の一例として、最大加速度4850mm/Sの地震動波形図を示す。図11Bには前記レベル2の地震動の絶対加速度応答スペクトルを示す。そして、図12は、前記レベル2の地震動を基準とし、加速度スケールを変動させた場合の応答値の推移を示している。
検証事例は、基礎固定制震構造の場合と、通常の第1段階ステッピング制震構造の場合、及び第多段階ステッピング制震構造の3例に分けて示している。第2段階ステッピング制震構造の場合でも、前記2例に比して入力地震動の大きさのバラツキに対する安定性(ロバスト性)が確保されている。また、レベル2×3.0倍までは倒壊せず、安全性(冗長性)が確保されていることを明りょうに示している。
(その他の実施例)
次に、図13〜図17は、上記ギャップ付き耐震壁2が、上下方向のギャップ3を形成しつつ如何なる構成で構築されるかの実施例を示している。
先ず図13A、Bは、建物の矩形フレーム7の面内に、フレーム上辺7aからぶら下げたギャップ付き耐震壁2を相似な矩形状に構築して成り、地震入力で矩形フレーム7がせん断変形を生ずると、右側辺の下方隅部Pが矩形フレーム7へ当接して、上下方向のギャップ3を閉じた効果を生ずる構成の例を示す。
図14A、Bは、同じく建物の矩形フレーム7の面内に、フレーム上辺7aからぶら下げたギャップ付き耐震壁2を逆台形に構築して成り、地震入力で矩形フレーム7がせん断変形を生ずると、右側縁辺が矩形フレーム7へ面状に当接して、上下方向のギャップ3を閉じる構成の例を示す。
図15A、Bは、図13とは逆に、建物の矩形フレーム7の面内に、フレーム下辺7bから立ち上がるギャップ付き耐震壁2を相似な矩形に構築して成り、地震入力で矩形フレーム7がせん断変形を生ずると、左側辺の上方隅部Pが矩形フレーム7へ点状に当接して上下方向のギャップ3を閉じた効果を生ずる構成の例を示す。
図16A、Bは、図14とは逆に、建物の矩形フレーム7の面内に、フレーム下辺7bから立ち上がるギャップ付き耐震壁2を逆台形状に構築して成り、地震入力で矩形フレーム7がせん断変形を生ずると、左側縁辺が矩形フレーム7へ面状に当接して上下方向のギャップ3を閉じる構成の例を示す。
図17A、Bは、建物の矩形フレーム7の面内に、ギャップ付き耐震壁2が、その四辺を圧縮に効くダンパー8により矩形フレーム7の内面に支持された構成で、上下方向のギャップ3が形成された構成の実施例を示している。地震入力で矩形フレーム7がせん断変形を生ずると、前記ダンパー8のうち該当位置のものが強く圧縮されて上下方向のギャップ3を閉じたに等しい効果を奏する構成の例である。
次に、図18は、上記図3の実施例とは大きく異なる床伏せ図の建物に、本発明の多段階ステッピング制震構造及び多段階ステッピング制震方法を実施した場合の実施例を示している。
この実施例の建物10は、いわゆる学校建物の床伏せ図をイメージしたもので、X・Y2次元方向に見て、X方向の構面の両端位置に、上記の連層耐震壁1とギャップ付き耐震壁2とが上下方向のギャップを介して隣接する配置に構築されている。
本発明の多段階ステッピング制震構造を実施した図18の学校建物の場合も、上述した多段階ステッピングの挙動により建物の用途、機能が震災後も健全に保たれるから、いわゆる避難施設として有効利用できる。
次に、図19A〜Dは、図4と同様な構造計画解析モデルの建物10について、本発明の多段階ステッピング制震構造及び多段階ステッピング制震方法を実施した異なる実施例を示している。
先ず図19Aに示す実施例は、建物10の一つの構面における中央部位に連層耐震要素1を配置し、同じ構面において前記連層耐震要素1の両側位置に、上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震要素2を構築した例である。
この実施例によっても、上記した2段階ステッピングによる制震作用と制震効果を期待できる。
次に、図19Bに示した実施例は、上記図4の実施例と同様に、建物10の一つの構面における両端部に連層耐震要素1、1を配置し、同じ構面において前記二つの連層耐震要素1より内側の三つの柱間位置に、上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震要素2を三つ(但し、三つの限りではない。)構築した例である。
この実施例の場合は、上記した抵抗機構の切り換えが、内方側の柱間に構築した三つのギャップ付き耐震要素2により抵抗機構が順次に3段階に切り換わり、段階的な3段階ステッピングによる制震作用を期待できる。
更に、図19Cに示した実施例は、上記図4の実施例と同様に、建物10の一つの構面の両端部位に連層耐震要素1、1を配置し、同じ構面において前記二つの連層耐震要素1、1より内方側三つの柱間位置に、先ず連層耐震要素1に隣接する位置の柱間には上下方向のギャップ3を介して隣接するギャップ付き耐震要素2、2’を上下2層にわたって二つ(但し、二つの限りではない。)構築し、更に中央側位置の柱間にもギャップ付き耐震要素2を一層分構築した、4段階ステッピングによる制震構造及び制震方法の実施例を示している。
この実施例の場合は、上記した抵抗機構の切り換えが、連層耐震要素1に隣接する上下二層分のギャップ付き耐震要素2、2’によって3段階まで行われ、更に中央側位置の柱間に構築した一つギャップ付き耐震要素2による1段階の抵抗機構の切り換えを加えた4段階ステッピングによる制震作用を期待できる。
図19Dに示した実施例は、建物10の一つの構面の両端部に連層耐震要素1、1を配置し、同じ構面において前記の各連層耐震要素1、1の内方側に隣接する柱間位置に、上下2層に及ぶ二つのギャップ付き耐震要素2、2’を二つ(ただし、二つの限りではない。)を構築した、3段階ステッピングによる制震構造及び制震方法の例を示している。
以上に説明した各実施例の多段階ステッピング制震構造における連層耐震要素(連層耐震壁1)及びギャップ付き耐震要素(耐震壁2)は、上記の実施例では一応鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造として構築した実施例を説明したが、この限りではない。
例えば図20は、連層耐震要素を鉄骨ブレース構造8として構築し、ギャップ付き耐震要素は、ブレースの代わりに弛みを生じた引っ張り材9を配置した鉄骨造として構築した実施例を示している。この場合も、同様に実施でき同様な作用効果を期待できる。この場合、上下方向のギャップ3は、フレーム間の隙間として形成し実施することができる。
最後に、図21A〜Cは、多段階ステッピング制震構造建物10が、基礎4と浮き上がり可能の関係に構築される場合の異なる実施例を示している。
先ず図21Aは、地面下の地下階構造物20から立ち上がらせた柱頭4を基礎に用いた多段階ステッピング制震構造建物10の実施例を示している。
図21Bは、多段階ステッピング制震構造建物10の下部が、地面下に根入れされた構成で杭頭を基礎4に用いた実施例を示している。
更に図21Cは、地面上に突き出る形態に構築された地上階構造物21から立ち上がらせた柱頭4を基礎に用いた多段階ステッピング制震構造建物10の実施例を示している。
したがって、図21A〜Cに示す実施例を更に応用すると、多段階ステッピング制震構造建物10は、地上レベルでの免震構造、或いは地下階での免震構造、或いは地上階での中間階免震構造と組み合わせて、あるいは既存建物の免震改修を兼ねて実施できることも理解されるであろう。
以上に本発明を図示した実施例に基づいて説明したが、もとより本発明は実施例の構成に限定されるものではない。いわゆる当業者が必要に応じて行うであろう設計変更その他の応用、改変の範囲まで含むことを念のため申し添える。特に言えば、本発明の多段階ステッピング制震構造及び多段階ステッピング制震方法は、新築建物への実施のみならず、既存建物の制震改修にも同様に実施することが可能である。
Q 地震力(水平力)
1 連層耐震要素
4 基礎
5 浮き上がり(ロッキング又はステッピング)
3 上下方向のギャップ
2、2’ ギャップ付き耐震要素
L1、L2 ステッピングスタンス
10 建物
4 杭
4a 杭頭の凹部
6 ステッピング架構
6a 柱部材
7 フレーム架構
7a 上辺フレーム
7b 下辺フレーム
9 ゴム製緩衝材

Claims (7)

  1. 地震時の水平力を負担する連層耐震要素は、その下端部が基礎又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がりが可能に構築され、
    前記連層耐震要素と同じ構面内で隣接する位置に、前記連層耐震要素との間に上下方向のギャップを介して隣接するギャップ付き耐震要素が、その下端部を基礎又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がりが可能に構築されており、
    中・小地震時には、連層耐震要素及びギャップ付き耐震要素ともに下端部が基礎又は地下階柱頭と接した基礎固定の状態で応答し、
    建築基準法で想定する範囲内の大地震時には、連層耐震要素のみが浮き上がって地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物への地震入力を低減する挙動(第1段階ステッピング)で応答し、
    建築基準法で想定する範囲内の巨大地震時には、連層耐震要素の浮き上がりに伴ってギャップ付き耐震要素のギャップを解消して連層耐震要素とギャップ付き耐震壁とが一体化した状態に抵抗機構が切り換わり、両耐震要素の下端のステッピングスタンスが拡大された挙動(第1段階ステッピングから第多段階ステッピングへの移行)で応答してロバスト性を発揮し、
    建築基準法では想定外の超巨大地震時には、連層耐震要素の浮き上がりに伴ってギャップ付き耐震要素のギャップを解消して連層耐震要素とギャップ付き耐震要素とが一体化した状態に抵抗機構が切り換わり、両耐震要素の下端のステッピングスタンスが拡大された浮き上がり挙動(第多段階ステッピング)で応答して地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物への地震入力を低減し倒壊を防ぐ冗長性を発揮する構成であることを特徴とする、多段階ステッピング制震構造。
  2. 建物の連層耐震要素及びギャップ付き耐震要素は、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造であり、若しくは連層耐震要素が鉄骨ブレース構造で、ギャップ付き耐震要素はブレースの代わりに弛みを生じた引っ張り材を配置した鉄骨造であることを特徴とする、請求項1に記載した多段階ステッピング制震構造。
  3. 連層耐震要素及びギャップ付き耐震要素と基礎又は地下階柱頭との縁切りは、基礎又は地下階柱頭を構成する杭頭又は柱頭に凹部を設け、連層耐震要素及びギャップ付き耐震要素のステッピング架構からは下向きに突き出て前記凹部へ出入り自在に嵌る柱部材を設けて前記凹部へ嵌め合わせて成り、凹部と柱部材との嵌め合わせ隙間に潤滑剤が充填されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載した多段階ステッピング制震構造。
  4. ギャップ付き耐震要素は、矩形のフレーム架構の面内に、フレーム上辺からぶら下げて、若しくはフレーム下辺から立ち上げて、フレーム架構とは縁切りした上下方向のギャップが連層耐震要素との間に形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した多段階ステッピング制震構造。
  5. ギャップ付き耐震要素は、矩形のフレーム架構の面内に、その四辺を圧縮に効くダンパーによりフレーム架構の面内に支持された構成であり、上下方向のギャップが連層耐震要素との隣接部位に形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した多段階ステッピング制震構造。
  6. ギャップ付き耐震壁のギャップは、耐火性のゴム製緩衝材で埋められていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載した多段階ステッピング制震構造。
  7. 地震時の水平力を負担する連層耐震要素は、その下端部を基礎又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がりが可能に構築し、
    前記連層耐震要素と同じ構面内の隣接位置に、前記連層耐震要素との間に上下方向のギャップを介して隣接するギャップ付き耐震要素を、その下端部を基礎又は地下階柱頭と縁切りして上下方向への浮き上がりが可能に構築し、
    中・小地震時には、連層耐震要素及びギャップ付き耐震要素ともに下端部が基礎又は地下階柱頭と接した基礎固定の状態で応答させ、
    建築基準法で想定する範囲内の大地震時には、連層耐震要素のみが浮き上がって地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物への地震入力を低減する挙動(第1段階ステッピング)で応答させ、
    建築基準法で想定する範囲内の巨大地震時には、連層耐震要素の浮き上がりに伴ってギャップ付き耐震要素のギャップを解消し連層耐震要素とギャップ付き耐震要素とが一体化した状態に抵抗機構を切り換え、両耐震要素の下端のステッピングスタンスが拡大された挙動(第1段階ステッピングから第2段階ステッピングへの移行)で応答させてロバスト性を発揮させ、
    建築基準法では想定外の超巨大地震時には、連層耐震要素の浮き上がりに伴ってギャップ付き耐震要素のギャップを解消し連層耐震要素とギャップ付き耐震要素とが一体化した状態に抵抗機構を切り換え、両耐震要素の下端のステッピングスタンスが拡大された浮き上がり挙動(第2段階ステッピング)で応答させて地震入力を位置エネルギに変換し、且つ長周期化して建物への地震入力を低減し倒壊を防ぐ冗長性を発揮させることを特徴とする、多段階ステッピング制震方法。
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