JP5762103B2 - 頭頸部癌及び食道癌用抗癌剤及び増強剤 - Google Patents

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本発明は頭頸部癌及び食道癌用の抗癌剤、及び、抗癌剤の頭頸部癌及び食道癌に対する効果を増強させる増強剤に関する。
頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)の症例の3分の2は、進行性の病変を呈し、局所リンパ節転移を伴う場合も多い(非特許文献1)。従って、治療方法の進歩にも関わらず、HNSCCの患者の5年生存率は著しく低く、最近数十年で≦50%のままである(非特許文献2)。下咽頭癌はHNSCCの中でも予後の悪い腫瘍の一つであり、5年生存率は約30%である(非特許文献3)。下咽頭癌は浸潤性が顕著であり、外科的処置である全咽頭喉頭摘出術は、発声、嚥下及び咀嚼の障害を含む重篤な機能障害を引き起こすことも多く、患者のQOLを甚だしく損なうことが多い(非特許文献4)。加えて、下咽頭癌は、しばしばリンパ節や遠隔臓器(例えば、肺、肝蔵、骨)に転移するので、疾患生存及び咽頭機能温存を図るための技術革新が必要とされている。
RECQヘリカーゼファミリーは、ゲノム維持とDNAの修復に関与し、細胞増殖が活発な形質転換細胞及び腫瘍細胞(特に癌細胞)で強く発現亢進されている(非特許文献5、6)。RECQL1とWRNタンパク質はRECQヘリカーゼファミリーのメンバーであり、ゲノムの安定性の維持に重要な役割を演じている(非特許文献5、7−10)。
実際、RECQL1はホリデイジャンクション解離酵素として機能し、ミスマッチ修復経路に関与することが知られており、RECQL1欠損は結腸癌の腫瘍形成にも関係していると想定されている(非特許文献11)。RECQL1を欠損したマウスの細胞は、電離放射線に対する感受性が高く、DNA傷害を受け易いことが報告されているが(非特許文献10)、新生仔マウスは明確な形質異常は無く、成長できることが知られている。RNA干渉を介したsmall interfering RNA (siRNA)によるRECQL1サイレンシングは、癌細胞特異的な細胞傷害を誘導することが可能で(非特許文献5、12)、肺、肝臓、脾臓及び結腸から生じた癌細胞の腫瘍増殖の抑制に効果がある(非特許文献12)。このRECQL1-siRNAの効果は、(i)細胞周期進行の速度、(ii)p53変異のようなチェックポイント機能に関する異常の状態、及び(iii)RECQL1の発現量のレベルによって左右されることが判っている(非特許文献12)。すなわち、RECQL1の発現量レベルが高く、且つチェックポイント機能が異常で細胞増殖が盛んな、いわゆる、悪性腫瘍の原因となる癌細胞は、RECQ-siRNA処理により、細胞傷害を受け易い。
WRNは、非相同末端結合、相同組換え、及び塩基除去修復のようなDNA修復や、種々のDNA動態に関与し(非特許文献6、7、13)、細胞周期のS期においてGC含有率の高いDNA配列を持つテロメアDNAの複製に際して、テロメア保持の方向で重要な機能を果たすと想定されている(非特許文献14)。実際、WRNの機能を損失した細胞では、ラギング鎖複製が行われないためテロメアの短小化が起こることが知られている(非特許文献15)。WRNを欠損したマウス細胞では、カンプトテシンや4NQO処理に対して高感受性であり細胞傷害を生じ易いことが知られているが(非特許文献16)、新生仔マウスは明確な異常を示すこと無く成長することが判っている(非特許文献16、17)。加えて、WRN遺伝子の発現程度により、結腸腫瘍由来の細胞の増殖速度や抗癌剤に対する感受性が変わることも知られている(非特許文献7、18)。最近AggarwalらによりWRNヘリカーゼ活性を阻害すると細胞増殖が抑制され、細胞はWRN阻害依存的にアポトーシス死へと誘導されることが報告されている(非特許文献19)。その際、細胞中のγ-H2A.Xと核抗原(PCNA)で構成される核内fociが増加する事が報告されており、WRN機能の消失により細胞中のDNA損傷部が著明に増加すると想定されている(非特許文献19)。
更に、特許文献1では、RECQ DNAヘリカーゼファミリー遺伝子の発現を抑制するsiRNAを使用することで癌細胞の増殖が抑制されたことが報告されている。実施例ではインビボにおいてヒト肺癌細胞を接種した担癌動物モデルで実験が行われている。
特許文献2では、RECQL1遺伝子の発現を抑制することによって癌細胞特異的な細胞増殖抑制作用が見られることが報告されている。実施例では同様にインビボにおいてヒト肺癌細胞を接種した担癌動物モデルで実験が行われている。
特許文献3では、WRN等の遺伝子の発現を抑制することにより、抗癌剤の抗癌作用を増強できることが記載されている。しかしながら、これらの実施例で示される抗癌剤感受性試験で使用されているのは子宮頸癌由来のHeLa細胞だけである。
このように、特許文献1〜3ではRECQ DNAヘリカーゼファミリー遺伝子の発現を抑制することが、頭頸部癌の治療に関して有効か否かについては一切述べられていない。
特許第4299299号公報 国際公開第2006/054625号 国際公開第2008/047574号
Yan M, Xu Q, Zhang P, Zhou X, Zhang Z, Chen W. Correlation of NF-kappaB signal pathway with tumor metastasis of human head and neck squamous cell carcinoma. BMC Cancer. 2010;10:437. Bornstein S, White R, Malkoski S, Oka M, Han G, Cleaver T, et al. Smad4 loss in mice causes spontaneous head and neck cancer with increased genomic instability and inflammation. J Clin Invest. 2009;119:3408-19. Gourin C, Johnson J. A contemporary review of indications for primary surgical care of patients with squamous cell carcinoma of the head and neck. Laryngoscope. 2009;119:2124-34. Matsui M, Kishida T, Nakano H, Yoshimoto K, Shin-Ya M, Shimada T, et al. Interleukin-27 activates natural killer cells and suppresses NK-resistant head and neck squamous cell carcinoma through inducing antibody-dependent cellular cytotoxicity. Cancer Res. 2009;69:2523-30. Futami K, Kumagai E, Makino H, Goto H, Takagi M, Shimamoto A, et al. Induction of mitotic cell death in cancer cells by small interference RNA suppressing the expression of RecQL1 helicase. Cancer Sci. 2008;99:71-80. Kawabe T, Tsuyama N, Kitao S, Nishikawa K, Shimamoto A, Shiratori M, et al. Differential regulation of human RecQ family helicases in cell transformation and cell cycle. Oncogene. 2000;19:4764-72. Futami K, Ishikawa Y, Goto M, Furuichi Y, Sugimoto M. Role of Werner syndrome gene product helicase in carcinogenesis and in resistance to genotoxins by cancer cells. Cancer Sci. 2008;99:843-8. Seki M, Otsuki M, Ishii Y, Tada S, Enomoto T. RecQ family helicases in genome stability: lessons from gene disruption studies in DT40 cells. Cell Cycle. 2008;7:2472-8. Kobayashi J, Okui M, Asaithamby A, Burma S, Chen B, Tanimoto K, et al. WRN participates in translesion synthesis pathway through interaction with NBS1. Mech Ageing Dev. 2010;131:436-44. Sharma S, Stumpo D, Balajee A, Bock C, Lansdorp P, Brosh RJ, et al. RECQL, a member of the RecQ family of DNA helicases, suppresses chromosomal instability. Mol Cell Biol. 2007;27:1784-94. Park J, Betel D, Gryfe R, Michalickova K, Di Nicola N, Gallinger S, et al. Mutation profiling of mismatch repair-deficient colorectal cncers using an in silico genome scan to identify coding microsatellites. Cancer Res. 2002;62:1284-8. Futami K, Kumagai E, Makino H, Sato A, Takagi M, Shimamoto A, et al. Anticancer activity of RecQL1 helicase siRNA in mouse xenograft models. Cancer Sci. 2008;99:1227-36. Futami K, Takagi M, Shimamoto A, Sugimoto M, Furuichi Y. Increased chemotherapeutic activity of camptothecin in cancer cells by siRNA-induced silencing of WRN helicase. Biol Pharm Bull. 2007;30:1958-61. Ueno M. Roles of DNA repair proteins in telomere maintenance. Biosci Biotechnol Biochem. 2010;74:1-6. Crabbe L, Verdun R, Haggblom C, Karlseder J. Defective telomere lagging strand synthesis in cells lacking WRN helicase activity. Science. 2004;306:1951-3. Lebel M, Leder P. A deletion within the murine Werner syndrome helicase induces sensitivity to inhibitors of topoisomerase and loss of cellular proliferative capacity. Proc Natl Acad Sci U S A. 1998;95:13097-102. Ichikawa K, Noda T, Furuichi Y. [Preparation of the gene targeted knockout mice for human premature aging diseases, Werner syndrome, and Rothmund-Thomson syndrome caused by the mutation of DNA helicases]. Nippon Yakurigaku Zasshi. 2002;119:219-26. Agrelo R, Cheng WH, Setien F, Ropero S, Espada J, Fraga MF, et al. Epigenetic inactivation of the premature aging Werner syndrome gene in human cancer. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006;103:8822-7. Aggarwal M, Sommers JA, Shoemaker RH, Brosh RM. Inhibition of helicase activity by a small molecule impairs Werner syndrome helicase (WRN) function in the cellular response to DNA damage or replication stress. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011;108;1525-30
本発明は、頭頸部癌及び食道癌に対して優れた効果を有する頭頸部癌用及び食道癌用抗癌剤、及び、抗癌剤の頭頸部癌及び食道癌に対する効果を増強させる増強剤を提供することを目的とする。
既に述べたように、RECQヘリカーゼファミリー遺伝子を抑制することが頭頸部癌の治療に対して有効か否かについての報告は、これまでになされていなかった。
本発明者らは、RECQヘリカーゼファミリーの遺伝子であるRECQL1やWRNの発現を抑制するsiRNAが、頭頸部癌に対して副作用の少ない優れた抗腫瘍効果をもつことを見出し、更に当該siRNAと抗癌剤とを併用することにより、特に、DNA傷害性抗癌剤の効果を大きく増強させ、治療が難しいとされる頭頸部癌の治療を可能にすることを見出した。
また一方、特定のRECQヘリカーゼファミリー遺伝子が頭頸部癌細胞において高発現していることはこれまでに知られておらず、このため、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の発現を抑制することにより頭頸部癌に対して抗腫瘍効果が得られるか否かを予想することは到底できなかった。
本発明者らは、数々の実験により、頭頸部癌より得られた培養癌細胞の中で、RECQL1やWRNヘリカーゼ遺伝子が高発現していることを見出した。次に、本発明者らは、頭頸部癌組織でも、これらのヘリカーゼ遺伝子が実際に高発現していることを見出した。更に、本発明者らは、頭頸部癌より得られた癌細胞へRECQL1やWRN遺伝子の発現を抑制するsiRNAを与えると、癌細胞の増殖が著しく抑えられることを見出した。
そこで、本発明者らは、ヒト頭頸部癌細胞を移植した胆癌モデルマウスを作成し、当該マウスに対してRECQL1又はWRNを抑えるsiRNAを局所投与したところ、癌の増殖は著しく抑制されることを見出し、その抑制程度については癌の再発をも抑制するほど大きく、頭頸部癌に対するRECQL1やWRNのsiRNA治療は想定外の優れた治療方法であることを見出すこととなった。加えて、RECQL1及びWRNのsiRNAは、それ自体、強力な抗癌作用を持つ性質に加え、DNA傷害性の既存抗癌剤と併合して同時に投与すると、DNA傷害性抗癌剤の抗癌効果を一層高めることも実験的に見出すに至った。
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤、及び、抗癌剤の頭頸部癌又は食道癌に対する効果を増強させる増強剤を提供するものである。
(I)抗癌剤1
(I-1) 以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤:
(a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNA。
(I-2) 以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤:
(a) RECQL1遺伝子若しくはWRN遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸。
(I-3) 以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤:
(a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するRECQL1タンパク質又はWRNタンパク質の変異体、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体、
(c) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物。
(I-4) 前記RNAi効果を有する二本鎖RNAの一方の鎖が配列番号12又は14に記載の塩基配列からなる、(I-1)に記載の抗癌剤。
(I-5) 前記頭頸部癌が下咽頭癌である、(I-1)〜(I-4)のいずれかに記載の抗癌剤。
(II)増強剤
(II-1) 抗癌剤の頭頸部癌又は食道癌に対する効果を増強させる増強剤であって、以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する増強剤:
(a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNA。
(II-2) 抗癌剤の頭頸部癌又は食道癌に対する効果を増強させる増強剤であって、以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する増強剤:
(a) RECQL1遺伝子若しくはWRN遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸。
(II-3) 抗癌剤の頭頸部癌又は食道癌に対する効果を増強させる増強剤であって、以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有する増強剤:
(a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するRECQL1タンパク質又はWRNタンパク質の変異体、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体、
(c) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物。
(II-4) 前記RNAi効果を有する二本鎖RNAの一方の鎖が配列番号12又は14に記載の塩基配列からなる、(II-1)に記載の増強剤。
(II-5) 前記抗癌剤がDNA傷害性抗癌剤である、請求項(II-1)〜(II-4)のいずれかに記載の増強剤。
(II-6) 前記頭頸部癌が下咽頭癌である、請求項(II-1)〜(II-5)のいずれかに記載の増強剤。
(III)抗癌剤2
(III-1) (1) 以下の(a)又は(b)の化合物:
(a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNA、及び
(2) DNA傷害性抗癌剤
からなる有効成分を各々含む複数の製剤からなる製剤形態、又は全有効成分を含む一つの製剤からなる製剤形態である頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤。
(III-2) (1) 以下の(a)又は(b)の化合物:
(a) RECQL1遺伝子若しくはWRN遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸、及び
(2) DNA傷害性抗癌剤
からなる有効成分を各々含む複数の製剤からなる製剤形態、又は全有効成分を含む一つの製剤からなる製剤形態である頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤。
(III-3) (1) 以下の(a)〜(c)のいずれかの化合物:
(a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するRECQL1タンパク質又はWRNタンパク質の変異体、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体、
(c) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物、及び
(2) DNA傷害性抗癌剤からなる有効成分を各々含む複数の製剤からなる製剤形態、又は全有効成分を含む一つの製剤からなる製剤形態である頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤。
(III-4) 前記RNAi効果を有する二本鎖RNAの一方の鎖が配列番号12又は14に記載の塩基配列からなる、(III-1)に記載の抗癌剤。
(III-5) 前記頭頸部癌が下咽頭癌である、(III-1)〜(III-4)のいずれかに記載の抗癌剤。
本発明の抗癌剤及び治療効果増強剤は、頭頸部癌及び食道癌に対して優れた抗腫瘍効果を有する。そのため、本発明は、5年生存率が低く、外科的手術では重篤な機能障害を引き起こす(QOLの低下)場合が多く、これまで治療が困難であった頭頸部癌に対して特に有効な治療法となり得る。
(A)下咽頭癌細胞(FaDu、D-562)、乳癌細胞(MCF7、T47D)、及びヒト正常線維芽細胞(TIG-108)の増殖程度をWST-8アッセイによる結果で示したグラフ;下咽頭癌細胞では活発な細胞増殖が観察されるが、乳癌細胞やヒト正常線維芽細胞では増殖速度は小さい、(B)下咽頭癌細胞(FaDu、D-562)、乳癌細胞(MCF7、T47D、SkBr3)及びHeLa細胞でのWRN、RECQL1及びα-チューブリンのウェスタンブロット分析の結果を示す図;下咽頭癌細胞ではWRN、RECQL1タンパクは高発現しているが、乳癌細胞やHeLa細胞では発現程度は比較的に小さい、(C)下咽頭癌と乳癌の代表的な症例のWRNとRECQL1の免疫組織化学的染色の結果を示す図(スケールバー;100μm);下咽頭癌組織ではWRN、RECQL1タンパクの発現は乳癌組織に比べ著しい、(D)下咽頭癌と乳癌についてWRNとRECQL1が陽性染色された癌細胞の比率を示すグラフである;下咽頭癌ではほとんど全ての癌細胞がWRNとRECQL1が陽性染色されているが、乳癌では染色にバラツキが観察される。 (A, B)下咽頭癌と乳癌についてTNMステージ別でのWRN(A)とRECQL1(B)が陽性染色された癌細胞の比率を示すグラフ、(C, D)下咽頭癌(C)と乳癌(D)について各々同症例の標本の中でWRNとRECQL1が陽性染色された癌細胞の比率を示すグラフである;下咽頭癌ではステージによらず、WRNとRECQL1が陽性染色される癌細胞が多いが、乳癌ではバラツキがみられ、ステージが進むにつれ陽性染色の癌細胞が増える傾向にある。 下咽頭癌細胞と乳癌細胞でのインビトロ増殖アッセイの結果を示すグラフである。縦軸はWST-8アッセイにおける平均吸光度(OD450)±標準誤差を、横軸はsiRNA治療後の日数を表している。値は4回の実験から求めた。アスタリスクはGL3-siRNAとの統計学的に有意な差を示している(*; P < 0.05)。2種の下咽頭癌細胞(FaDu、D-562)の増殖はWRN-siRNA或いはRECQL1-siRNAにより抑制された。同様の実験で、コントロールとして使用したGL3-siRNAは増殖抑制を示さなかった。同様の実験条件で、2種の乳癌細胞(MCF7、T47D)は著しい増殖抑制はうけなかった。 FaDuヒト下咽頭癌マウス異種移植モデルにおける(A)RECQL1-siRNA又はWRN-siRNAのインビボノックダウンの効果を示す図(スケールバー;50μm)、(B)RECQL1-siRNA又はWRN-siRNAのインビボ治療効果について示すグラフ、(C)RECQL1又はWRNのsiRNAとCDDPのインビボ併用効果について示すグラフである。投与開始日を0日と定義し、治療薬が投与された日が矢印で示され、縦軸には平均腫瘍体積±標準誤差が示されている。CDDP単剤治療群(CDDP+NC、CDDP+GL3)と併用治療群(CDDP+RECQL1、CDDP+WRN)との間の有意差がシャープ(#;p < 0.05)によって示されている。 D-562ヒト下咽頭癌マウス異種移植モデルにおけるRECQL1又はWRNのsiRNAの治療効果について示すグラフである。投与開始日を0日と定義し、治療薬が投与された日が矢印で示され、縦軸には平均腫瘍体積±標準誤差が示されている。非治療群(PBS+NC、PBS+GL3)と他の群との間の統計学的有意差がアスタリスク(*;P < 0.05)によって示されている。 各治療群についてのKi67 (A)、cleaved caspase 3 (B)免疫組織化学的染色における標識細胞率(左)と代表的な染色結果(右)を示す図である。 各治療群についてのTUNEL (A)染色、及びMPM-2 (B)、γ-H2A.X(C)免疫組織化学的染色における標識細胞率(左)と代表的な染色結果(右)を示す図である。非治療群(PBS+NC、PBS+GL3)と他の群との統計学的有意差はアスタリスク(*;P < 0.05)によって示されている。CDDP単剤治療群(CDDP+NC、CDDP+GL3)と併用治療群(CDDP+RECQL1、CDDP+WRN)との間の有意差はシャープ(#;p < 0.05)で示されている。スケールバー=50μm。
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本発明において「核酸」とはRNA又はDNAを意味する。また、本明細書では、RECQL1遺伝子、WRN遺伝子によってコードされるタンパク質を、それぞれRECQL1タンパク質、WRNタンパク質と称している。
本発明の頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤は、以下の(a)又は(b)を有効成分として含有することを特徴とする。本発明の増強剤は、抗癌剤の頭頸部癌又は食道癌に対する効果を増強させる増強剤であって、以下の(a)又は(b)を有効成分として含有することを特徴とする。本発明の頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤はまた、(1) 以下の(a)又は(b)の化合物、及び(2) DNA傷害性抗癌剤、からなる有効成分を各々含む複数の製剤からなる製剤形態、又は全有効成分を含む一つの製剤からなる製剤形態であることを特徴とする。
(a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNA。
上記siRNAは、抗癌剤及び抗腫瘍効果増強剤としての両方の作用を示し、頭頸部癌及び食道癌に対して優れた抗癌治療効果を有する。
RECQL1及びWRN遺伝子の塩基配列に関する情報は、公共の遺伝子データベース(例えば、GenBank等)から容易に取得することができる。RECQL1及びWRN遺伝子のGenBankのアクセッションナンバーの一例を次に示す。
RECQL1遺伝子:NM_002907(配列番号1)、NM_032941(配列番号2)、BC001052(配列番号3)、D37984(配列番号4)、L36140(配列番号5)
WRN遺伝子:NM_000553(配列番号6)、AF091214(配列番号7)、L76937(配列番号8)、AL833572(配列番号9)
また、RECQL1及びWRN遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列についても、例えば、上記のアクセッションナンバーから容易に取得することができる。RECQL1遺伝子、WRN遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列の一例を配列表に示している(RECQL1タンパク質を配列番号:10、WRNタンパク質を配列番号:11)。
RECQL1及びWRN遺伝子の塩基配列としては、上記のアクセッションナンバーによって取得される配列に限定されず、該配列において一塩基又は連続する数塩基が置換、欠失又は挿入された塩基配列であっても良い。同様に、RECQL1及びWRN遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号:10、11に記載されたアミノ酸配列に限定されず、該アミノ酸配列において1又は2個以上のアミノ酸残基が付加、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号:10、11に記載されたタンパク質と機能的に同等なタンパク質のアミノ酸配列であっても良い。
本発明のRECQL1及びWRN遺伝子は、通常、動物由来であり、好ましくは哺乳動物由来、特に好ましくはヒト由来である。
RNAi (RNA interference、RNA干渉)とは、標的遺伝子のmRNA配列と同一の配列からなるセンスRNA及びこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる二本鎖RNAを細胞内に導入することにより、標的遺伝子のmRNAの破壊、タンパク質への翻訳阻害を誘導し、標的遺伝子の発現が阻害される現象をいう。RNAi機構の詳細については未だに不明な部分もあるが、DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)が二本鎖RNAと接触し、二本鎖RNAがsmall interfering RNA (siRNA)と呼ばれる小さな断片に分解されるのが主な機構と考えられている。本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、当該siRNAも含まれる。
尚、本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、二本鎖RNAの一方の端が閉じられた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(shRNA)も含まれる。即ち、上記RNAには、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る分子も含まれる。
本発明の二本鎖RNAを発現し得るDNAは、通常、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、及び該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ独立又は連続して発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。上記DNAは、公知の遺伝子工学的手法により、容易に製造することができる。上記DNAとしては、例えば、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって得られる発現ベクターが挙げられる。
本発明においてRNAiのために使用されるRNAは、RECQL1及びWRN遺伝子又は該遺伝子の部分領域と完全に同一である必要はないが、完全な同一性を有することが望ましい。
本発明のRNAi効果を有する二本鎖RNAは、通常、RECQL1又はWRN遺伝子のmRNAにおける連続する任意のRNA領域と同一の配列からなるセンスRNA、及び該センスRNAに相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる二本鎖RNAである。上記「連続する任意のRNA領域」の長さは、通常20〜30塩基、好ましくは21〜23塩基である。しかしながら、そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞内でRNAi効果を有するsiRNAへ分解され得るので、本発明における二本鎖RNAの長さは特に限定されない。また、RECQL1及びWRN遺伝子のmRNAの全長又はほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物を本発明の二本鎖RNAとして利用しても良い。この分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれ得る。
また、通常、末端に数塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAは、RNAi効果が高いことが知られているので、本発明の二本鎖RNAは、末端に数塩基のオーバーハングを有することが好ましい。このオーバーハングを形成する塩基の長さは特に限定されないが、好ましくは2塩基のオーバーハングである。本発明において、例えば、TT(チミン×2)、UU(ウラシル×2)等のオーバーハングを有する二本鎖RNAを用いることができ、最も好ましくは19塩基の二本鎖RNAとTTのオーバーハングを有する分子である。本発明の二本鎖RNAには、オーバーハングを形成する塩基がDNAである分子も含まれる。
また、天然型のヌクレオチドを持つsiRNAはリボヌクレアーゼに対して感受性であるため分解を受け易い。本発明において、この欠点を補うため、siRNA中のウリジンやシチジンの2'OH基をメチル化した2'-O-メチル化siRNAを合成して使用することもできる。
本発明の「RECQL1又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA」は、該二本鎖RNAの標的となるRECQL1又はWRN遺伝子の塩基配列の情報を基に作製することが可能である。例えば、配列番号:1〜9のいずれかに記載の塩基配列を基に、該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製する。
本発明の「RNAi効果を有する二本鎖RNA」の具体例としては、実施例中に記載された二本鎖RNA(RECQL1配列番号12、13;WRN配列番号14、15)が挙げられる。また、特許第4299299号に記載の配列番号31〜36、43〜62のいずれかに記載の塩基配列と、その相補鎖からなるsiRNAも挙げることができる。
また、本発明の二本鎖RNAは、必ずしも全てのヌクレオチドがリボヌクレオチド(RNA)でなくても良い。即ち、本発明において、二本鎖RNAを構成する1又は2個以上のリボヌクレオチドは、対応するデオキシリボヌクレオチドであっても良い。
本発明において二本鎖RNAを構成する核酸は、例えば、LNA(Locked Nucleic Acid)等の核酸アナログであっても良い。該LNPは、ヌクレアーゼに耐性の物質であるため、より長時間RNAi効果を持続させることが可能である。
別の実施態様では、本発明の抗癌剤及び増強剤は、以下の(a)又は(b)を有効成分として含有することを特徴とする。
(a) RECQL1遺伝子若しくはWRN遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸。
アンチセンス核酸を使用することにより、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の発現を阻害(抑制)することができる。本発明の一つの態様として、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計することにより、遺伝子の翻訳阻害に効果的であり得る。また、コード領域又は3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明のアンチセンス核酸に含まれる。アンチセンス核酸の配列は、標的遺伝子又はその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限り、完全に相補的でなくても良く、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相補性を有していれば良い。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンス核酸の長さは15塩基以上、好ましくは100塩基以上、更に好ましくは500塩基以上である。
また、リボザイムを使用することで、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の発現の阻害を行うことができる。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を意味する。リボザイムには種々の活性を有するものが存在し、RNAを部位特異的に切断するリボザイムを設計することは公知の方法により可能である。
更に別の実施態様では、本発明の抗癌剤及び増強剤は、以下の(a)〜(c)のいずれかを有効成分として含有することを特徴とする。
(a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するRECQL1タンパク質又はWRNタンパク質の変異体、
(b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体、
(c) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物。
上記の(a)〜(c)の化合物は、RECQL1タンパク質又はWRNタンパク質の機能又は活性を阻害・低下させることにより、抗癌剤又は増強剤として作用し得る。
上記「RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するRECQL1タンパク質又はWRNタンパク質の変異体」とは、内在性の野生型タンパク質の活性を消失又は低下させる機能を有するRECQL1タンパク質又はWRNタンパク質の変異体を意味する。そのような変異体としては、例えば、RECQL1タンパク質及びWRNタンパク質のモチーフI (ATP-binding motif)中のリジン残基をアラニンやメチオニンに置換した変異体が挙げられる。
上記RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体は、当業者に公知の方法により調製することができる。本発明の抗体は、RECQL1タンパク質又はWRNタンパク質に結合し得るものであれば特に限定されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト型化抗体、抗体断片、抗体修飾物等が含まれる。
上記RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物は、公知の方法によりスクリーニングしてくることが可能であり、天然又は人工の化合物のいずれであっても良い。
RECQL1又はWRN遺伝子の発現を抑制することにより、シスプラチン(Cisplatin)、カルボプラチン(Carboplatin)、ネダプラチン(Nedaplatin)、ロバプラチン(Lobaplatin)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、JM216、JM335、DWA-2114R、NK-121、TRK-710、フルオロウラシル等の各種DNA傷害性抗癌剤の抗癌作用を増強させることができる。
本発明における「増強剤」は、例えば、抗癌剤感受性増強剤;抗癌剤併用剤;抗癌剤作用増強剤等と表記される場合もある。また、本発明における「抗癌剤」は、抗腫瘍剤、抗腫瘍薬剤、抗腫瘍医薬組成物等と表現される場合もある。
本発明の増強剤は、抗癌剤の投与前、後、同時の任意の時期に投与することができる。また、本発明における複数の製剤からなる製剤形態の抗癌剤を使用する場合には、各成分を、同時に、又は一の成分の投与前若しくは後の任意の時期に他の成分を投与することができる。
本発明の抗癌剤及び増強剤は、薬学上許容される担体と混合された状態として提供されることも可能である。これら薬学上許容される担体として、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。
本発明の抗癌剤及び増強剤の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて上記担体を添加することができ、具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を添加することができる。
本発明の抗癌剤及び増強剤の剤型の種類としては、例えば経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、投与経路や投与対象等に応じて最適な剤型を選択することができる。
本発明のRNAi効果を有する二本鎖RNA、アンチセンスRNA、及びリボザイムを発現し得るDNAを生体内に投与する場合、レトロウイルス、アデノウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターを利用できる。また、本発明のRNAi効果を有する二本鎖RNA、アンチセンス核酸、及びリボザイム活性を有する核酸を生体内に投与する場合、リポソーム、高分子ミセル、カチオン性キャリア等の非ウイルスベクターを利用できる。投与方法としては、例えばin vivo法及びex vivo法を挙げることができる。
本発明の抗癌剤及び増強剤の投与方法は、特に限定されないが、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等の当業者に公知の方法により行うことができる。本発明の抗癌剤及び増強剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定できる。
本発明の抗癌剤及び増強剤により治療できる癌の種類は頭頸部癌、及び頭頸部癌と発癌経路が類似する食道癌である。頭頸部癌としては、例えば、口腔癌(舌癌、口腔底癌、歯肉癌、頬粘膜癌、硬口蓋癌)、咽頭癌(上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌)、喉頭癌、上顎癌、唾液腺癌(耳下腺癌、顎下腺癌、舌下腺癌)、甲状腺癌等が挙げられる。中でも好ましくは咽頭癌、特に好ましくは下咽頭癌である。
頭頸部癌においては局所投与及び/又は動脈内注入療法が可能であるので、リポソーム、高分子ミセル、カチオン性キャリア、コラーゲン等の非ウイルスベクターによる核酸、薬剤のデリバリーシステムを利用することで局所的に本発明の抗癌剤及び増強剤を適用することが可能であり、他の癌種のようにより標的化されたドラッグデリバリーシステムの開発を待つ必要がない。
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
細胞培養
癌細胞株、FaDu、D-563 (下咽頭癌)、HeLa (子宮頸癌)、MCF、T47D、及びSKBr3 (乳癌)はAmerican Type Culture Collectionから購入した。TIG-108ヒト正常線維芽細胞はJapanese Collection of Research Bioresourcesより購入した。これらの細胞株は、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地又はRPMI 1640培地中で培養した。全ての細胞培養培地には、ペニシリン(50 units/ml)及びストレプトマイシン(50 mg/ml)を添加した。これらの細胞株は、5%CO2を含む加湿チャンバー内で37℃で培養した。
WST-8アッセイ
FaDu、D-562、MCF7、T47D、及びTIG-108細胞は96ウェルプレートで培養し、細胞生存率アッセイはCell Counting Kit-8 (同仁堂)を使用して行った。使用説明書に従って、WST-8試薬液を各ウェルに添加し、マクロプレートを試薬と共に37℃で3時間インキュベートした後、450 nmの吸光度(OD450)をマイクロプレートリーダーにて測定した。
タンパク質抽出及びウェスタンブロット分析
各細胞株が発現したタンパク質はイムノブロッティングによって分析した。細胞を氷冷した溶解バッファー(40 mM HEPES、120 mM NaCl、1 mMエチレンジアミン四酢酸、10 nMリン酸、10 mMグリセロリン酸、50 mN NaF、0.5 mM Na3VO4、1% トリトンX-100、プロテアーゼインヒビターを含有)中で破砕した。20分間氷上で保持し、細胞溶解を促進させ、10分間15,000 rpmで遠心分離した(4℃)。上清をSDSサンプルバッファーと共に煮沸した。SDS-PAGEによって分離されたタンパク質は、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)フィルターに転写した。5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むTBS-T (10 mM Tris-HCl (pH 7.6)、150 mM塩化ナトリウム、0.1% Tween 20)でフィルターをブロッキングした後、フィルターを2% BSAを含むTBS-T中で一次抗体と共に1時間インキュベートした(4℃)。フィルターをTBS-T中で洗浄し、2% BSAを含むTBS-Tで1:10,000に希釈されたホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG (GE Healthcare, Amersham Place, UK)中で30分間インキュベートした。TBS-Tで数回洗浄後、製造会社により推奨された手順に従って、ECL system (GE Healthcare, Amersham Place, UK)を使用して免疫反応を検出した。
組織サンプルと病理学的データ
1997年から2008年まで京都府立医科大学において、52の原発性下咽頭癌と59の原発性乳癌の標本がそれぞれ生検と外科的切除により得られた。下咽頭癌は全て扁平上皮細胞癌であった。症例群の中央値は65歳(45-81歳)で、5人の女性と47人の男性から病理サンプルを得た。4症例がステージI、4症例がステージII、4症例がステージIII、及び40症例がステージIVであった。乳癌はすべて浸潤性乳管癌であった。乳癌症例群の中央値は76歳(27-86歳)で、全ての病理サンプルは女性から得られた。9症例がステージI、38症例がステージII、23症例がステージIII、1症例がステージIVであった。データは、患者の書面によるインフォームドコンセントを使用し、研究所の倫理委員会による承認を受けた後、臨床的、病理学的記録を基に解析された。
抗体及び試薬
抗WRN (4H12又は8H3)抗体、抗RECQL1 (Q1N3)抗体については既に報告されており(非特許文献6、13)、ジーンケア研究所が提供した。抗αチューブリン(DM 1A)、抗cleaved caspase 3 (Ab-4)、抗ホスホ-ヒストン H2A.X (γ-H2A.X) (20E3)、抗MPM-2 (FOXM1,0.T.181)、及び抗Ki67 (MM-1)の各抗体は、それぞれSIGMA、Oncogene Research Products (La Jolla, CA)、Cell signaling Technology (Beverly, MA)、Abcam (Cambridge, UK)、及びLeica Microsystemsから購入した。CDDPは日本化薬によって提供され、N,N-ジメチルホルムアミドで溶解され、精製水で1:200に希釈された。CDDPの終濃度は50μg/mlであった。Lipofectamine RNAi MAX Reagentは、Invitrogen (Carlsbad, CA)から購入した。アテロコラーゲン(AteloGene Local Use)は高研から購入した。
免疫組織化学的染色
外科的標本は10%緩衝化ホルマリンに移し、一晩固定化した。固定化されたサンプルはパラフィンに包埋され、連続的に4μmの切片に薄切された。脱パラフィン後に、切片を10 mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)中、120℃1分間、オートクレーブし、その後0.3% H2O2中に浸した。WRN (1:500希釈)、RECQL1 (1:500希釈)又はγ-H2A.X (1:200希釈)に対する一次抗体と共に一晩4℃でインキュベートした。切片を1×PBSでリンスし、二次抗体(Simple Stain MAX-PO;ニチレイ)と共に室温一時間インキュベートした。切片は3.3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライドで発色させ、ヘマトキシリンで対比染色した。染色は、全ての症例で2人の観察者による独立観察に基づき評価された。
small interfering RNAとWST-8アッセイ
GL3-siRNA、WRN-siRNA、及びRECQL1-siRNAはジーンケア研究所が提供した。ホタルルシフェラーゼ遺伝子配列GL3は非サイレンシングsiRNAであり、ネガティブコントロールとして使用した(非特許文献12)。siRNA配列を以下に示す。GL3, (センス) 5’-CUUACGCUGAGUACUUCGATT-3’(配列番号16), (アンチセンス) 5’-UCGAAGUACUCAGCGUAAGTT-3’(配列番号17); WRN, (センス) 5’-GUUCUUGUCACGUCCUCUGTT-3’(配列番号14), (アンチセンス) 5’-CAGAGGACGUGACAAGAACTT-3’(配列番号15); RECQL1, (センス) 5’-GUUCAGACCACUUCAGCUUTT-3’(配列番号12), (アンチセンス) 5’-AAGCUGAAGUGGUCUGAACTT-3’(配列番号13)。Lipofectamine RNAi MAX reagentを使用して各RNAiの40μMを細胞導入することによってRECQL1とWRNを標的とするサイレンシング効果を評価した。前述したように、細胞を氷冷溶解バッファー中で破砕し、タンパク質を抽出した。各siRNAのサイレンシング効果を確認するために、タンパク質の発現をウェスタンブロッティングにより評価した。各siRNAによる腫瘍細胞増生の抑制効果を評価する為に、WST-8アッセイを行った。
ヒト下咽頭癌のマウス異種移植モデル
FaDu又はD-562ヒト下咽頭癌を背部皮下へ移植した8〜10週齢のBALB/C nu/nuヌードマウス(CLEA Japan, Inc.)を実験に使用した。実験プロトコルにおける動物の使用は、滋賀医科大学動物生命科学研究センターの委員会によって審理され、承認された。各マウスの右背部皮下に各癌種の5.0×106細胞を皮下注射移植した。触知できる腫瘍が確立した後(約≧100 mm3)、マウスの体重と皮下の腫瘍体積を2日毎に測定した。腫瘍体積は式A2×B/2(AとBはそれぞれ最小直径と最大直径を表す)を使用して計算した。
WRN若しくはRECQL1を標的としたsiRNA、又は当該siRNAとCDDPの併用で処置されたヒト下咽頭癌マウス異種移植モデルにおける腫瘍増生のインビボ評価
48匹のFaDuヒト下咽頭癌細胞を有するマウスを各々6匹、8群にランダムに分けた。CDDP及び/又はsiRNAを0、7及び14日にマウスに投与した。4.0 mg/kg (1,600μl)の量のCDDP、又は同様の量のPBSを各マウスの腹腔に注射した。AteloGeneとsiRNAは製造会社が推奨する手順に従って混合し、腫瘍の周囲に投与(皮下注射)した。投与されたsiRNA量は1.0 mg/kg/dayであった。8つの実験群は次の通りである。PBS + no siRNA (PBS+NC); PBS + GL3-siRNA (PBS+GL3); PBS + RECQL1-siRNA (PBS+RECQL1); PBS + WRN-siRNA (PBS+WRN); CDDP + no siRNA (CDDP+NC); CDDP + GL3-siRNA (CDDP+GL3); CDDP + RECQL1-siRNA (CDDP+RECQL1); and CDDP + WRN-siRNA (CDDP+WRN)。腫瘍の切片は治療18日目に切除し、パラフィン切片を前述の如く調製した。切片は免疫組織化学的に評価された。一次抗体は、Ki67(1:50希釈)、cleaved caspase 3 (1:1000希釈)、MPM-2 (1:500希釈)、及びγ-H2A.X (1:200希釈)に対するものを用いた。≧1,000の腫瘍細胞当たりの陽性染色された腫瘍細胞のパーセンテージを各抗体について計数、評価した。各siRNAの抗腫瘍効果はD-562ヒト下咽頭癌マウス異種移植モデルにおいても評価された。24匹のマウスを6匹のマウス毎に4つの群にランダムに分けた。4つの処置群は次の通りである:PBS+NC; PBS+GL3; PBS+RECQL1;PBS+WRN。
TUNEL(TdT-mediated dUTP nick end-labeling)アッセイ
製造会社のプロトコルに従って、切除した腫瘍サンプルのアポトーシス細胞をIn situ Apoptosis Detection Kit (TaKaRa)を用いたTUNELアッセイによって検出した。プロテナーゼK、5分間20 mg/mlの濃度で薄切腫瘍切片を処理した。検出は3.3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)を使用して行い、メチルグリーンで対比染色した。アポトーシス係数(AI)は、高倍率視野当たりの陽性染色された腫瘍細胞のパーセンテージを≧1,000の腫瘍細胞当たりで評価した。
統計分析
全てのデータはStat View 5.0 for Windows (登録商標)(Stat View Inc., NC)を使用して統計学的に分析した。WST-8アッセイのOD450、異種移植腫瘍体積、及び免疫組織化学的染色又はTUNELアッセイ陽性の細胞のパーセンテージ、これらはone-way factorial analysis of variance (ANOVA)及びフィッシャーの有意性検定を使って多重比較検定を行い、治療群間の差を統計学的に分析した。統計学的有意性は、P-value < 0.05として定義した。
試験例1
下咽頭癌細胞株FaDu及びD-562は、乳癌細胞株MCF7及びT47D、更にヒト正常線維芽細胞TIB-108より急速な増殖を示した(図1A)。WRN及びRECQL1タンパク質の発現レベルは、HeLaと比べて、FaDuとD-562で非常に高かった。一方で、MCF7、T47D、及びSKBr3における両タンパク質の発現レベルは、HeLaより低かった。HeLaはブロッティングのコントロールとして使用した(図1B)。FaDu、D-562、T47D及びSKBr3においては変異型p53タンパク質の蓄積が見られた(データは示していない)。HeLaは通常の細胞株と比較してRECQL1を高レベルで発現している(非特許文献5)。それ故、下咽頭癌細胞は特に多量のRECQL1とWRNを発現していると考えられた。乳癌細胞は通常の細胞と同程度のレベルでそれらを発現していた。
加えて、臨床標本でのWRNとRECQL1タンパク質の発現を確認した。両方のタンパク質は間質性線維芽細胞と比べて下咽頭癌細胞で特に強く染色された。一方、乳癌細胞では通常の間質性線維芽細胞と同程度、若しくは若干少ないレベルの染色性を示した(図1C)。WRN陽性細胞の平均値は、下咽頭癌と乳癌でそれぞれ92.7%と59.8%であり、WRN陽性細胞率において、下咽頭癌は統計学的有意差を持って乳癌より高い発現レベルであると証明された(マン・ホイットニーのU検定、P < 0.0001)。一方で、RECQL1陽性細胞率は下咽頭癌、乳癌、両者の間で有意差は無かった:下咽頭癌と乳癌でそれぞれ87.7%と78.9%であり、ともに高いレベルを示した(マン・ホイットニーのU検定、P = 0.31)(図1D)。
下咽頭癌、乳癌に於ける両者の比較研究は、同等のTNMステージ間の比較によっても確認された(図2A, B)。WRN陽性細胞は乳癌より下咽頭癌において有意に高いパーセンテージを示した(マン・ホイットニーのU検定;*、ステージI-II、P = 0.0033、;*、ステージIII-IV、P = 0.0045)。RECQL1陽性細胞率は乳癌と下咽頭癌間で差がなく、両癌ともに高いレベルにあった(マン・ホイットニーのU検定;ステージI-II、P = 0.0945、;ステージIII-IV、P = 0.2645)。下咽頭癌においては、WRN及びRECQL1タンパク質の両方が高く発現しており、WRNはRECQL1より特に有意に高い発現レベルを示した(ウィルコクソンの符号順位検定、P = 0.0009;図2C)。乳癌では、RECQL1陽性細胞はWRN陽性細胞より有意に多かったが、各症例によりケースバイケースのばらつきが見られた (ウィルコクソンの符号順位検定、P = 0.0075;図2D)。
試験例2
試験例1で見られたように、RECQL1とWRNの両方の発現レベルは下咽頭癌細胞で非常に高く、これらタンパク質は癌細胞増殖に特に重要な役割を演じていると示唆された。そこで、インビトロでの下咽頭癌細胞増殖をRECQL1-siRNA、WRN-siRNA処置下で評価し、乳癌細胞と比較した。RECQL1とWRNサイレンシングはFaDuとD562で有意な増殖阻害をもたらした(One-way factorial ANOVA及びフィッシャーの優位性検定による多重比較検定、P < 0.05)。一方で、RECQL1又はWRNサイレンシングはMCF7及びT47Dの増殖を充分には阻害できなかった(図3)。これらの結果は下咽頭癌ではRECQL1及びWRNタンパク質が癌細胞増殖において特に重要な役割を演じており、それ故、抗癌治療の理想的な標的分子となると考えられる。
試験例3
RECQL1又はWRNをターゲットとしたsiRNAの抗腫瘍効果をFaDu下咽頭癌を有するヌードマウス実験系で評価した(図4A)。RECQL1又はWRNを標的としたsiRNAでの処置(1 mg/kg、週一回;PBS+RECQL1又はPBS+WRN)は、コントロールの処置(PBS+NC又はPBS+GL3)と比較して7〜11日の期間、有意な腫瘍増生抑制効果を示した(One-way factorial ANOVA及びフィッシャーの優位性検定による多重比較検定、P < 0.05: 図4B)。更に、D-562下咽頭癌細胞を有するヌードマウス実験系でも、各siRNAの抗腫瘍効果が同様に確認された(図5)。
試験例4
腫瘍細胞死、腫瘍増生抑制効果を最大化することを目的として、RECQL1又はWRNを標的としたsiRNAとCDDPとの併用療法がsiRNA単独投与による抗腫瘍効果を増強するか否かをFaDuヒト下咽頭癌移植ヌードマウス実験系で評価した。本併用療法は、腫瘍増生を抑制することに特に強い効果を示した(図4C)。コントロールの処置(PBS+NC及びPBS+GL3)やCDDPでの単剤治療(CDDP+NC及びCDDP+GL3)に比べ、統計学的な有意差を持って強い腫瘍増生抑制効果を示した。CDDPとRECQL1-siRNAとの併用療法は各単剤治療に比べ、強い抑制効果を示した。CDDPとWRN-siRNAとの併用療法は腫瘍抑制に最大の効果を示した(One-way factorial ANOVA及びフィッシャーの優位性検定を用いた多重比較検定、P < 0.05: 図4C)。CDDP+WRN治療群の6匹のマウスの内、2匹において腫瘍は完全に消失し、実験期間中を通して再発を起こさなかった。いずれの群も体重減少を代表とする副作用の所見はなかった。
試験例5
インビボでの増殖、及び分裂期細胞死とアポトーシスによる細胞死を、各治療を行ったFaDuヒト下咽頭癌異種移植細胞において種々の免疫組織化学的染色とTUNELアッセイによって評価した。
治療群すべてのKi67標識細胞率は71-79%であり、各治療群間で有意差を示さなかった(図6A)。本研究の治療処置の何れも増殖においては有意な効果を示さなかった。
TUNELはアポトーシス細胞死の評価のために行った。コントロール群(PBS+NCとPBS+GL3)及びCDDPの単剤治療群(CDDP+NCとCDDP+GL3)では、アポトーシス係数は1.0%未満であった。RECQL1-siRNA、又はWRN-siRNAの投与はそれぞれ1.56%、6.23%の細胞にアポトーシスを誘導した。RECQL1又はWRNを標的にしたsiRNAとCDDPの併用はそれぞれ5.38%と5.00%の細胞にアポトーシスを誘導した。それ故、RECQL1-siRNAとCDDPを併用すること(CDDP+RECQL1)は単剤治療のRECQL1-siRNA(PBS+RECQL1)と比べてアポトーシス細胞死を強く誘導すると考えられた(図7A)。
更に、カスパーゼ〜アポトーシス経路の活性を評価するためにcleaved caspase 3染色を行った。TUNELアッセイによる評価で得られたアポトーシス活性変化と同様の変化データを確認できた(図6B)。
分裂期細胞死が起こっているか否かの評価を行うために、MPM-2免疫組織化学染色を行った(図7B)。RECQL1-siRNAやWRN-siRNAの投与は、MPM-2陽性細胞の割合を通常時の5%から15-20%まで増加させた。CDDPはMPM-2陽性細胞の著しい増加を誘導し、CDDP投与治療群の全てが60-70%の標識細胞率を示した。特に、CDDPとRECQL1-siRNAとの併用治療(CDDP+RECQL1)はMPM-2陽性細胞の割合を強く増加させ、82%の標識細胞率を示した。
更に、CDDPとRECQファミリー遺伝子を標的としたsiRNAの併用療法が腫瘍細胞のDNA損傷を強く誘導することに関係すると報告されているので、抗γ-H2A.X抗体による免疫組織化学染色を行い、各治療群における腫瘍細胞のDNA損傷の程度を評価した(図7C)。γ-H2A.X陽性細胞のパーセンテージは、コントロール群(PBS+NCとPBS+GL3)で最小であったが(≦3%)、siRNAやCDDP治療群の全てにおいて5%より高いパーセンテージに上昇した。CDDP+RECQL1-siRNA併用治療群では最大16%まで達していた。CDDP+RECQL1-siRNA併用治療群と他の治療群間で有意な差を示した(One-way factorial ANOVA及びフィッシャーの優位性検定を用いた多重比較検定、P < 0.05)。
(考察)
上記の試験例の結果から頭頸部癌では、RECQL1とWRNタンパク質が特に高いレベルで発現していることを確認できた。また、siRNAを使用したRECQL1とWRNサイレンシングによって、インビトロで頭頸部癌細胞の増殖を有意に阻害でき、更にインビボでも有意に腫瘍増殖を抑制できることを確認できた。RECQL1とWRNを標的としたsiRNAとCDDPの併用療法によりCDDPの単剤治療と比較して有意な腫瘍抑制効果があったことも判明した。
上記のように本発明の抗癌剤及び増強剤は、頭頸部癌に対して優れた抗腫瘍効果を有している。このようにRECQL1とWRN遺伝子の発現を抑制することが頭頸部癌に対して有効であることは、本発明により初めて分かったことであり、これまでには予想できなかったことである。本発明により、これまで治療が困難であった頭頸部癌に対して、特に有効な治療法を提供することができ、治療成績を大きく改善し得ると期待される。

Claims (12)

  1. 以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤:
    (a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA、
    (b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNA。
  2. 以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤:
    (a) RECQL1遺伝子若しくはWRN遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸、
    (b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸。
  3. RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体を有効成分として含有する頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤。
  4. 前記頭頸部癌が下咽頭癌である、請求項1〜3のいずれかに記載の抗癌剤。
  5. DNA傷害性抗癌剤の頭頸部又は食道に対する効果を増強させる増強剤であって、以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する増強剤:
    (a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA、
    (b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNA。
  6. DNA傷害性抗癌剤の頭頸部癌又は食道癌に対する効果を増強させる増強剤であって、以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する増強剤:
    (a) RECQL1遺伝子若しくはWRN遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸、
    (b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸。
  7. DNA傷害性抗癌剤の頭頸部癌又は食道癌に対する効果を増強させる増強剤であって、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体を有効成分として含有する増強剤。
  8. 前記頭頸部癌が下咽頭癌である、請求項5〜のいずれかに記載の増強剤。
  9. (1) 以下の(a)又は(b)の化合物:
    (a) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA、
    (b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNA、及び
    (2) DNA傷害性抗癌剤
    からなる有効成分を各々含む複数の製剤からなる製剤形態、又は全有効成分を含む一つの製剤からなる製剤形態である頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤。
  10. (1) 以下の(a)又は(b)の化合物:
    (a) RECQL1遺伝子若しくはWRN遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸、
    (b) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸、及び
    (2) DNA傷害性抗癌剤
    からなる有効成分を各々含む複数の製剤からなる製剤形態、又は全有効成分を含む一つの製剤からなる製剤形態である頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤。
  11. (1) RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体:
    及び
    (2) DNA傷害性抗癌剤
    からなる有効成分を各々含む複数の製剤からなる製剤形態、又は全有効成分を含む一つの製剤からなる製剤形態である頭頸部癌用又は食道癌用抗癌剤。
  12. 前記頭頸部癌が下咽頭癌である、請求項9〜11のいずれかに記載の抗癌剤。
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