JP5748936B2 - ミシンの水平回転釜及びこれに用いるボビンケース - Google Patents

ミシンの水平回転釜及びこれに用いるボビンケース Download PDF

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Description

本発明は、ミシンの水平回転釜及びこれに用いるボビンケースに係り、特に、片針停止機構付き二本針ミシンに用いられる水平回転釜及びこれに用いるボビンケースに関する。
従来、動作及び停止をそれぞれ独立して制御可能な二本の縫い針を有するミシンが知られている(特許文献1参照)。このようなミシンは、二本針で並列縫いをしている途中、縫い方向を例えば直角に方向転換するような場合、内側となる方の縫い目を縫うための針の動作を停止させることができる。このような並列縫いでの方向転換を、図12(a)〜(e)に基づいて説明する。
図12(a)に示すように、二本針ミシンで並列縫いをしている際、例えば右側に方向転換をするには、方向転換部分の手前で右側の針の動作を停止し、左側の針ではそのまま縫製を続行する(図12(b)参照)。これにより、右針による縫目301はb点で留まっている。そして、方向転換部分(左針のcの部分)まで左針による縫製を続けたら、左針が位置するcの位置を中心として生地を時計方向に回す(図12(c)参照)。これにより、図12(b)中のd点、a点及びb点は、それぞれ、図12(c)中のd´点、a´点及びb´点に位置付けられる。そこで、右側の針の動作を停止したまま、左針による縫製をd´地点まで続ける(図12(d)参照)。この段階で、右針の動作停止を解除し、二針での縫製を再開する(図12(e)参照)。この際、右針による縫製は、b´点から再開される。これにより、並列縫いでありながら、縫い方向の方向転換に対処可能となる。
一方、特許文献1にも記載されているように、ミシンには、縫製終了後に上糸及び下糸を共に切断できるようにした糸切断機構が設けられていることも多い。糸切断機構が設けられている場合、次の縫製において上糸に形成されるループと下糸とを確実に絡めるために、下糸が保持されている必要がある。このような下糸の保持を実現するのが、糸切断機構によって切断された下糸を保持する下糸保持機構である(特許文献1及び特許文献2参照)。
図13は、方向転換部分の縫製状態の一例を示す模式図である。図13中、矢印は縫製方向を示している。従来の並列縫いにおける縫い方向の方向転換に伴う問題は、方向転換のために縫製動作を停止した方の針の縫製に使用される糸において、上糸302よりも下糸303の方が多めに引き出されてしまう、ということである。このような現象が生ずるのは、方向転換動作に応じて生地が移動し、その分だけ下糸が引き出されてしまうからである。このため、図13に示すように、方向転換をした内側の縫目301では、上糸302に対して下糸303が引き出されたような状態となってしまう。
このようなことから、従来、水平回転釜の内釜に装着されるボビンケースに下糸を引っ張って復帰させるための機構を設けるようにしている。これにより、並列縫いに際して縫い方向の方向転換をした場合であっても、上糸302に対して下糸303が飛び出してしまうという図13にその現象を例示するような問題の発生を回避することができる。
特開平09−117581号公報 特開2001−340679号公報 株式会社佐文工業所発行のカタログ「Hooks& Cases」,1999年4月発行,p.53
近年、縫製手法が多様化している。最近の傾向としては、上糸に太い糸を用いて下糸に細い糸を用いるというような縫い方が多用されるようになってきている。ここで問題となるのが、前述した糸切断機構を用いた場合に使用される下糸の保持である。つまり、下糸として余り細いものを用いた場合には、下糸保持機構による下糸の保持が不十分となり、保持した下糸が脱落してしまい易くなるという問題がある。その反面、この問題の解決が困難なのは、下糸保持機構が余り強固に下糸を保持すると、次の縫製時に下糸保持機構から下糸が脱落しなくなってしまい、縫製動作を適正に行ない得なくなってしまう、ということである。
このような下糸保持機構からの下糸の脱落という現象は、図13に例示した下糸303の飛び出しという問題を回避するために水平回転釜のボビンケースに下糸を引っ張って復帰させるための機構を設けた場合、より一層深刻化する。何故ならば、そのような復帰機構を設けた場合、下糸保持機構から下糸が脱落すると、復帰機構が下糸を引き込み、下糸が完全にボビンケース内に引き込まれてしまうことがあるからである。この場合には、水平回転釜の内釜からボビンケース及びボビンを取り出し、下糸を引き出した後にボビンケース及びボビンを内釜に再セットしなければならなくなり、その作業は極めて煩雑である。
そこで、この出願の出願人は、糸切断機構に設ける下糸保持機構とは別に、水平回転釜の内釜に装着されるボビンケースにも切断された下糸をクランパでクランプするクランプ機構を設けた技術を創案し、既に実用化している(非特許文献1中の品番SCP−842BKC参照)。このクランプ機構は、内部に収納するボビンの下糸を外部に引き出すための下糸引出部の近傍に位置させて弾性を有するクランパをボビンケースの表面側に当接させ、切断される下糸をクランパによってクランプするというものである。これにより、下糸保持機構から下糸が脱落したとしても、クランプ機構によって切断後の下糸をクランプしているので、上記復帰機構によるボビンケース内への下糸の引き込みを防止することが可能となる。
ところが、このようなクランプ機構は、耐久性の点で難があることが判明し始めてきた。つまり、前述した下糸保持機構と同様の理由から、クランプ機構は余り強固に下糸を保持するものであってはならない。このため、クランプ機構のクランパには緩やかな下糸クランプ力を持たせなければならない。ところが、そのようにクランパを構成すると、いきおい塑性変形等が生じ易くなり、所期の効果を維持することが困難となってしまう。とりわけ、実際問題として、太さや柔軟性等が異なる様々な下糸が用いられることがあれば、塑性変形等の危険性はより一層増大するものと思料される。
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、切断後の下糸を確実にクランプすることができるミシンの水平回転釜及びこれに用いるボビンケースを得ることである。
本発明は、上記課題を解決するために、ボビンからの下糸を外部に引き出すためにボビンケースの表面側に形成された下糸引出部の隣接位置に、ボビンケースの表面側に設けられたクランプ面に弾性的に当接してこのクランプ面との間で下糸をクランプするクランパを支持させるミシンの水平回転釜において、前記クランパの支持部分から前記クランプ面に対する前記クランパの当接部分に向かうに従い、前記クランプ面と前記クランパとの間の対向距離を徐々に狭めて前記下糸の進入を許容する空間部を設けた。

本発明によれば、クランプ面とクランパとの間に形成される空間部から徐々にクランプ面に対するクランパの当接部分に向けて切断される下糸を進入させるようにしたので、クランパに塑性変形等が生じたとしても、それぞれ相違する太さや柔軟性を有する様々な種類の下糸をクランプ面とクランパとの間に確実にクランプすることができ、したがって、糸切断機構によって糸を切断した後、縫製を円滑に再開させることができる。
本発明の実施の形態を図1ないし図11に基づいて説明する。
図1は、二本針ミシンに装着されているミシンの水平回転釜101及び糸を切断するための糸切断機構201が有する固定メス202及び動メス203を示す平面図である。全体を図示しないミシンは、並列配置された二本の針204を上下動自在に設けており、これらの針204に適合する位置に位置させて、二つの水平回転釜101を有している。水平回転釜101は、外釜102と、この外釜102に回転自在に収納された内釜103と、内部にボビン104を収納してこのボビン104と共に内釜103に装着されるボビンケース105とを主体に構成されている。内釜103は、外釜102に螺子止めされた内釜押え102aによって脱落しないように外釜102内に収容されている。図1中、内釜103は、内釜押え102aの裏面側に配置され、その中心軸103a及びボビンケース105を固定するためのラッチ片103bのみが示された状態となっている。このような水平回転釜101は、縫製時、ミシン側に設けられた図示しない内釜ストッパによって内釜103の回転を阻止した状態で外釜102が回転駆動される。この際、二つの水平回転釜101において、それぞれの外釜102は同一回転方向に回転駆動される。これにより、針204の上下動に伴い生ずる上糸302(図2参照)のループ302aを外釜102に設けられた剣先102bが捕捉し、捕捉された上糸302と水平回転釜101が収容するボビン104から引き出される下糸303(図2参照)とが絡み合い、被縫製物である生地(図示せず)に平行な縫目301(図12及び図13参照)が形成される。
図1に示すように、ボビンケース105には、ボビン104からの下糸303を外部に引き出すための下糸引出部としての下糸引出孔106が形成されている。そして、この下糸引出孔106の近傍には、ミシンが有する糸切断機構201によって切断された下糸303をクランプするクランプ機構107が設けられている。このクランプ機構107については、後に詳述する。また、本実施の形態において、下糸引出部は孔状の下糸引出孔106として形成されているが、別の実施の形体として、下糸引出部は必ずしも孔状である必要はなく、例えばスリット状に形成されていてもよい。
図2は、ミシンの水平回転釜101と動メス203との位置関係を示す正面図である。糸切断機構201は、針204の上下同方向と直交する方向に動メス203を進退自在とする構造を有している。図2に示すように、動メス203の進退位置は、外釜102が有している剣先102bの回転軌跡よりもやや上方位置である。
図3(a)〜(c)は、糸切断機構201が糸を切断する際の動メス203の動作及び下糸保持機構205による下糸の保持の過程を示す斜視図である。糸切断機構201は、固定メス202と動メス203とを主体として構成されている。動メス203は、図示しない駆動源に駆動され、固定メス202から飛び出し引っ込む方向であって水平一平面内の往復直線運動を行なう。このような動メス203の下面にはクランプ板206が配置され、このクランプ板206は板バネであるクランプバネ207に付勢され、動メス203の下面に当接している。これにより、動メス203はクランプ板206に押し上げられ、その上面が固定メス202に当接した状態に維持されている。
動メス203にはキャッチャ203aが形成されている。このキャッチャ203aは、動メス203が駆動されて固定メス202から飛び出ることによって上糸302及び下糸303がある位置まで達し、その位置から動メス203が固定メス202に引き込まれることによって上糸302及び下糸303を共に引っ掛けることができる構造を有している。このようなキャッチャ203aは、上糸302及び下糸303を引っ掛ける部分の奥側である動メス203の表面との連絡部分に刃部203a−1を有している。刃部203a−1は、動メス203の先端側から後端側に向けて鋭角な形状を有しており(図4参照)、動メス203が固定メス202に引き込まれるに際して、キャッチャ203aが引っ掛けている上糸302及び下糸303を固定メス202との協働動作によって切断する機能を果たす。
図4は、糸切断機構201及び下糸保持機構205の側面図である。図4を参照することで、クランプ板206がクランプバネ207に付勢されて動メス203の下面に当接し、これによって動メス203がクランプ板206に押し上げられて固定メス202に当接状態であることが明確である。より詳細には、固定メス202は、その先端部が45度程度の角度に屈曲しており、動メス203の上面と当接状態を維持している。クランプ板206は、その先端部がクランク形状に屈曲しており、動メス203の下面に面接触している。クランプバネ207は、そのような動メス203に対するクランプ板206の面接触部分の裏側からクランプ板206に当接し、クランプ板206を動メス203の下面に押し付けている。
また、図4は、固定メス202に対して動メス203が引っ込んだ状態を示しており、この状態では、キャッチャ203aが固定メス202から飛び出していないことが理解されよう。
以上説明した糸切断機構201は、上糸302及び下糸303を切断するに際して、上糸302及び下糸303がある位置まで、固定メス202から動メス203を飛び出させる(図3(a)参照)。そして、再び動メス203を固定メス202に引き込む(図3(b)参照)。すると、動メス203のキャッチャ203aに上糸302及び下糸303が共に引っ掛けられ、この状態のまま動メス203が更に固定メス202に引き込まれる(図3(c)参照)。これにより、キャッチャ203aが引っ掛けられている上糸302及び下糸303は、固定メス202と動メス203に設けられている刃部203a−1との協働動作によって切断される。これが、糸切断機構201の機能である。そして、切断された上糸302及び下糸303は、動メス203の下面とクランプ板206との間に挟持され、保持される。これが、下糸保持機構205の機能である。
図5は、裏面側を示すボビンケース105の底面図である。ボビンケース105の内部には、その底面及び内周に沿って下糸復帰バネ108が設けられている。この下糸復帰バネ108は、一端がボビンケース105の内部底面に螺子S1によって固定され、他端がボビンケース105の側壁を通って外部に導かれ、下糸303を引っ掛けることができるフック109となっている。そこで、下糸復帰バネ108は、フック109がボビンケース105の外周面に沿って所定範囲移動できるように構成されている。下糸復帰バネ108は、復元力を伴うバネ性を有しており、フック109を初期位置から所定の移動量移動させることが可能である。移動後のフック109は、下糸復帰バネ108のバネ性によって初期位置に復帰する。
図6は、裏面側と共にボビン104から引き出された下糸303の経路を示すボビンケース105の底面図である。ボビン104から引き出された下糸303は、図6に示す経路で下糸復帰バネ108のフック109を経由し、下糸引出孔106を通されてボビンケース105の表面FSの側に引き出される。
図7は、ボビン104から引き出された下糸303の経路を示すボビンケース105の一部の側面図である。図7には、下糸303の経路がより一層詳しく示されている。つまり、ボビン104(図6参照)から引き出された下糸303は、ボビンケース105の側壁に糸調子バネ110に隠されて形成されている引出部111から引き出され、ボビンケース105の側壁と糸調子バネ110との間を通って反転部112でUターンさせられる。そして、フック109に引っ掛けられた後に再度Uターンさせられ、下糸引出孔106を通されてボビンケース105の表面FSの側に引き出されている。
図8は、ボビン104から引き出された下糸303が下糸引出孔106から引き出されている状態と共に、クランプ機構107が装着される前のボビンケース105の表面FSの側を示す平面図である。クランプ機構107は、後述するクランパ113(図1、図9ないし図11参照)を主体として構成されており、ボビンケース105におけるその取付部分は、クランパ取付部114となっている。クランパ取付部114は、クランパ113の一端側を固定するための固定部115と、クランパ113が当接するクランプ面116とを有している。固定部115は、下糸引出孔106に隣接して配置されており、クランパ113を嵌合させるように凹状に窪んだ形状に形成されている。このような固定部115には、クランパ113を固定する螺子S2(図1、図9ないし図11参照)が螺合する螺子孔117が設けられている。クランプ面116には、クランパ113に設けられている調節螺子S3(図1、図9ないし図11参照)の先端部を螺合させるための螺子孔118が形成されている。
ここで、下糸引出孔106と固定部115とクランプ面116とクランパ113との関係について、より詳細に説明する。まず、下糸引出孔106から引き出された下糸303は、通常の縫製時において、図8に例示するような糸道GEを通る。クランプ面116は、固定部115から下糸引出孔106とボビンケース105の中心との間の位置を通り、下糸303の糸道GEに沿ってボビンケース105の外周側に向けて連続する形状に形成されている。図8中、クランプ面116が連続するボビンケース105の外周面を符号OPで示す(図9ないし図11も参照のこと)。図8では破線で示すクランパ113は、その一端側を固定部115に螺子S2(図1、図9ないし図11参照)で固定され、他端側がクランプ面116に弾性的に当接するように設けられている。ここで重要なことは、クランパ113の先端部が僅かにボビンケース105の外周面OPに連続するクランプ面116の終端から突出しているということである。もう一つ重要なことは、ボビンケース105の外周面OPに連続するクランプ面116の終端は、曲面状に形成されているということである。これらが重要な理由については、後に詳述する。
次いで、図8中に矢印で示すように、下糸303の経路は、ミシンの糸切断機構201による上糸302及び下糸303の切断動作に伴い通常縫製時の糸道GEを外れ、ボビンケース105の中心側に向けて寄って行く。クランパ113は、こうして糸道GEを外れてボビンケース105の中心側に寄った下糸303をクランプ面116との間にクランプするように取り付けられている。ここに、クランプ機構107が構成されている。
以下、クランプ機構107について、その実施の態様を三種類紹介する。図9、図10及び図11は、それぞれ、クランプ機構107についての別の実施の態様を示している。
図9は、クランプ機構107の一例を示す側面図である。クランプ機構107は、前述したように、クランパ113を主体として構成されている。クランパ113は、弾性を有する部材、図9に示す一例では板バネによって形成されている。このようなクランパ113は、その一端がボビンケース105のクランパ取付部114が有する固定部115に固定されている。したがって、この固定部115の位置が、ボビンケース105に対してクランパ113が支持される支持部分となっている。このような固定は、固定部115に形成された螺子孔117にクランパ113を通した螺子S2を螺合させて締め付けることによってなされている。そして、クランパ113の他端側は、自らの弾性により、クランパ取付部114のクランプ面116に弾性的に当接している。
ここで重要なことは、クランパ113とクランプ面116との間に、空間部SPが形成されているということである。しかも、その空間部SPは、単に空間として設けられているのではなく、クランパ113の支持部分からクランプ面116に対するクランパ113の当接部分に向かうに従い、クランプ面116とクランパ113との間の対向距離を徐々に狭めるような形状に形成されている。これにより、糸切断機構201によって切断される下糸303がクランプ面116とクランパ113との間に導かれるに際して、下糸303は、空間部SPにおいてクランプ面116とクランパ113との間の対向距離が広い部分から狭い部分に徐々に進入していくことになる。図9に示す一例では、そのような空間部SPの形状を実現するために、クランパ113を屈曲形状に形成している。
更に、クランパ113には調節螺子S3が挿通しており、この調節螺子S3の先端はクランパ取付部114のクランプ面116に形成された螺子孔118に螺合している。そこで、調節螺子S3を締め付けることで、クランプ面116に対するクランパ113の当接力を強く設定することが可能になる。逆に、調節螺子S3を緩めることで、クランプ面116に対するクランパ113の当接力を弱く設定することが可能になっている。
加えて、図9に示すように、固定部115は凹状に窪んでおり、この固定部115にクランパ113を固定する螺子S2がボビンケース105の表面FSから突出しないように形成されている。それのみならず、調節螺子S3も、その調整可能な全範囲に渡り、ボビンケース105の表面FSから突出しないように形成されている。
図10は、クランプ機構107の別の一例を示す側面図である。図10に示す一例では、クランパ取付部114において、固定部115とクランプ面116との間に段差ST(図8も参照)が形成されていることを前提としている。この段差STにより、固定部115の方が高く、クランプ面116の方が低くなっている。その差は、一例として0.3mm程度である。このようにクランパ取付部114を構成することにより、クランパ113として、図9に示すような屈曲する形状のものを用いる必要がなくなる。つまり、クランパ113は、平板状の部材、例えば平板状の板バネを用いて容易に構成することができる。図10に示す一例では、段差STによって形成される固定部115とクランプ面116との高さの差によって、空間部SPが確実に形成されているからである。このような平板状の板バネを用いてクランパ113を構成する場合、調節螺子S3の締め付けによって、一端側を固定部115に固定されたクランパ113の他端側をクランプ面116に当接させることが可能となる。
なお、図9に示すクランプ機構107の一例と同様に、図10に示すクランプ機構107にあっても、固定部115は凹状に窪んでいるために、この固定部115にクランパ113を固定する螺子S2及び調節螺子S3が共にボビンケース105の表面FSから突出しないように形成されている。
図11は、クランプ機構107の更に別の一例を示す側面図である。図9及び図10に示す例では、クランパ113として板バネを用いた。これに対して、図11に示す一例では、クランパ113としてバネ性を有するワイヤWが用いられている。このワイヤWは、例えばモールド成型された樹脂製の保持部Hを一端に有し、この保持部Hの製造時にインサートされている。クランパ取付部114の固定部115に対しては、保持部Hが螺子S2によって固定され、ワイヤWはクランプ面116に弾性的に当接している。図11に示す一例では、クランパ取付部114に段差STが形成されている一例を示しているが、変形例として、図9に示すように、空間部SPを形成するようにワイヤWを屈曲形成してクランパ113を構成してもよい。
なお、図9に示すクランプ機構107の一例と同様に、図10に示すクランプ機構107にあっても、固定部115は凹状に窪んでいるために、この固定部115にクランパ113を固定する螺子S2及び調節螺子S3が共にボビンケース105の表面FSから突出しないように形成されている。
このような構成において、糸切断機構201が上糸302及び下糸303を切断した場合、下糸303は、糸切断機構201が有している下糸保持機構205に保持されるばかりでなく、ボビンケース105に形成されているクランプ機構107にもクランプされて保持される。クランプ機構107による下糸303のクランプ保持は、仮に、下糸保持機構205から下糸303が脱落してしまったような場合に、極めて有用である。
クランプ機構107では、糸切断機構201での上糸302及び下糸303の切断動作に伴い引っ張られた下糸303がクランプ面116とクランパ113との間に挟み込まれ、これによって下糸303のクランプ動作を実現する。このような下糸303のクランプがなされるのは、糸切断機構201での切断動作に応じて下糸303が下糸引出孔106の部分でも張力を帯び、かつ、糸道GEを外れてボビンケース105の中心方向に寄って行くからである。この際、下糸303は、クランプ面116とクランパ113との対向部分に形成されている空間部SPに対して、まずはクランプ面116とクランパ113との間の対向距離が長い部分から進入を開始する。そして、下糸303は、その太さや柔軟性に応じて最適な位置でクランプ面116とクランパ113との間にクランプされ、保持される。これにより、クランパ113に経年変化等に伴う塑性変形が生じたとしても、下糸303は、クランプ面116とクランパ113との間で確実にクランプされる位置に自らのクランプ位置を見出すことになる。
これに加えて、クランパ113に塑性変形が生じた場合、調節螺子S3を締めることによってクランプ面116に対するクランパ113の当接圧を強めることができるので、調節螺子S3による微調整ないしはクランプ力の復元も可能となる。
このように、本実施の形態によれば、クランプ機構107による下糸303のクランプ保持の確実性を持続させることができる。この作用効果は、下糸復帰バネ108によって下糸303に復帰力を付与する構成を採用する場合には、切断された下糸303が下糸復帰バネ108に引っ張られ、ボビンケース105の内部に引き込まれてしまうというような事故を確実に防止し得るという面から、極めて大きな作用効果であるといえる。つまり、下糸復帰バネ108は、片針停止機構付き二本針ミシンにおいて使用することで、縫製方向の方向転換をした際の図13に例示した不都合の発生防止に役立つ。その反面で、糸切断機構201による上糸302及び下糸303の切断時、糸切断機構201が有している下糸保持機構205による下糸303の保持も、クランプ機構107による下糸303のクランプ保持も、いずれもが失敗した場合には、切断された下糸303を下糸復帰バネ108が引っ張ってボビンケース105の内部に引き込んでしまうという危険性を生じさせる。これに対して、本実施の形態のクランプ機構107は、クランパ113に経年変化等に伴う塑性変形が生じたとしても下糸303をクランプ保持できるために、クランプ機構107による下糸303のクランプ保持の確実性を持続させることができ、切断された下糸303を下糸復帰バネ108が引っ張ってボビンケース105の内部に引き込んでしまうという心配からユーザを解放することができる。
また、本実施の形態では、前述したように、クランパ113の先端部が僅かにボビンケース105の外周面OPに連続するクランプ面116の終端から突出している。そして、ボビンケース105の外周面OPに連続するクランプ面116の終端が曲面状に形成されている。これらの技術的意義について説明する。図9に示すクランプ機構107及び図10に示すクランプ機構107では、クランパ113として板バネが用いられている。このため、その端面は、例えば図11に示すクランプ機構107のクランパ113として用いているワイヤWとは相違し、直角に形成されたエッジ状になっている。このため、クランプ面116とクランパ113との間に下糸303が進入するに際して、下糸303がクランパ113のエッジ状となった端面に引っ掛かり易くなってしまう。このようなことから、下糸303がクランプ面116とクランパ113との間に入り難くなってしまったり、下糸303が引っ掛かって糸切れしたりしてしまう虞がある。これに対して、本実施の形態では、クランパ113の先端部が僅かにボビンケース105の外周面OPに連続するクランプ面116の終端から突出していることから、クランプ面116とクランパ113との間への下糸303の進入容易性を高めることができる。また、ボビンケース105の外周面OPに連続するクランプ面116の終端が曲面状に形成されていることも、クランプ面116とクランパ113との間への下糸303の進入容易性を高めることに貢献している。その結果、本実施の形態のクランプ機構107は、下糸303のクランプ保持の確実性をより一層向上させることができる。
更に、本実施の形態では、クランプ面116に対するクランパ113の当接力を調節可能な調節螺子S3が設けられている。この調節螺子S3の作用効果については、クランパ113に塑性変形が生じた場合、調節螺子S3を締めることによってクランプ面116に対するクランパ113の当接圧を強めることができるので、調節螺子S3による微調整ないしはクランプ力の復元も可能となるとして既に説明した。これに対して、調節螺子S3は、下糸303の太さに応じたクランプ面116に対するクランパ113の当接圧調節のためにも用いることができる。つまり、クランパ113による下糸303のクランプ力は、強すぎても良い結果を生まない。糸切断機構201によって上糸302及び下糸303を切断した後の縫製再開時、下糸303をクランプ機構107から速やかに脱落させる必要があるからである。そこで、本実施の形態では、用いる下糸303の太さや材質等に応じて調節螺子S3によりクランプ面116に対するクランパ113の当接圧を調節することで、クランプ機構107による下糸303のクランプ力を理想状態に設定することができる。
加えて、本実施の形態では、ボビンケース105の表面FSに対して固定部115が凹状に窪んだ形状に形成されている。クランパ113は、そのような固定部115に嵌合状態で収納され、螺子S2によって一端側が固定されている。この場合、固定部115は、クランパ113を固定する螺子S2をボビンケース105の表面FSから突出させないだけの高さで形成されている。それのみならず、クランプ面116に対するクランパ113の当接圧を調節するための調節螺子S3についても、その調整可能な全範囲に渡り、ボビンケース105の表面FSから突出しないように形成されている。これにより、縫製時、上糸302がボビンケース105の表面FSを円滑に移動し、上糸302の糸切れ等を確実に防止することができる。もっとも、別の実施の態様として、螺子S2及び調節螺子S3の高さよりも高く円滑に盛り上がる部分をボビンケース105の表面FSに形成するようにしても良く、この場合にも、固定部115を凹状に窪ませて形成した場合と同様の作用効果を得ることができる。
最後に、本出願の出願人は、以上説明したクランプ機構107の優れた特性を実験によって検証し、その効果の持続性を確認した。
本発明の実施の一形態として、二本針ミシンに装着されているミシンの水平回転釜及び糸を切断するための糸切断機構が有する固定メス及び動メスを示す平面図である。 ミシンの水平回転釜と動メスとの位置関係を示す正面図である。 (a)〜(c)は、糸切断機構が糸を切断する際の動メスの動作及び下糸保持機構による下糸の保持の過程を示す斜視図である。 糸切断機構及び下糸保持機構の側面図である。 裏面側を示すボビンケースの底面図である。 裏面側と共にボビンから引き出された下糸の経路を示すボビンケースの底面図である。 ボビンから引き出された下糸の経路を示すボビンケースの一部の側面図である。 ボビンから引き出された下糸が下糸引出部から引き出されている状態と共に、クランプ機構装着前のボビンケースの表面側を示す平面図である。 クランプ機構の一例を示す側面図である。 クランプ機構の別の一例を示す側面図である。 クランプ機構の更に別の一例を示す側面図である。 (a)〜(e)は、並列縫いに際しての縫い方向の転換動作を説明するための模式図である。 方向転換部分の縫製状態の一例を示す模式図である。
符号の説明
102 外釜
103 内釜
104 ボビン
105 ボビンケース
106 下糸引出孔(下糸引出部)
108 下糸復帰バネ
113 クランパ
116 クランプ面
201 糸切断機構
303 下糸
FS ボビンケースの表面
OP ボビンケースの外周面
SP 空間部
S3 調節螺子
ST 段差

Claims (9)

  1. 回転駆動される外釜と、
    前記外釜に回転自在に収納された内釜と、
    内部にボビンを収納し、当該ボビンと共に前記内釜に装着されるボビンケースと、
    前記ボビンケースの表裏面を貫通して形成されて前記ボビンからの下糸を前記ボビンケースの表面側に引き出すための下糸引出部と、
    前記ボビンケースの表面側に形成された固定部と、
    前記固定部から前記下糸引出部と前記ボビンケースの中心との間の位置を通り、前記下糸引出部から引き出された下糸の糸道に沿って前記ボビンケースの外周側に向けて、前記ボビンケースの表面側に形成されたクランプ面と、
    一端側が前記固定部に支持され、他端側が前記クランプ面に弾性的に当接し、ミシンの糸切断機構での切断動作に伴い前記糸道を外れて前記ボビンケースの中心側に寄った下糸を前記クランプ面との間にクランプするクランパと、
    を備えるミシンの水平回転釜において、
    前記下糸引出部に隣接する前記クランパの支持部分から前記クランプ面に対する前記クランパの当接部分に向かうに従い、前記クランプ面と前記クランパとの間の対向距離を徐々に狭めて前記下糸の進入を許容する空間部を備えることを特徴とするミシンの水平回転釜。
  2. 前記ボビンケースは、前記ボビンから前記下糸引出部に至る間の位置で、引っ張られた下糸に復帰力を付与する下糸復帰バネを有している、ことを特徴とする請求項1記載のミシンの水平回転釜。
  3. 前記ボビンケースには、前記空間部に位置させて、先端が前記ボビンケースの表面に形成された螺子孔に螺合する調節螺子が挿通している、ことを特徴とする請求項1又は2記載のミシンの水平回転釜。
  4. 前記ボビンケースの表面側には前記クランプ面の位置が低くなる段差が形成され、
    前記ボビンケースに対する前記クランパの支持部分は前記段差によって前記クランプ面よりも高くなる位置に位置付けられている、
    ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一記載のミシンの水平回転釜。
  5. 前記固定部は、前記ボビンケースの表面に対して凹状に窪んで形成され、この窪んだ位置に前記クランパの一端側を嵌合させている、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一記載のミシンの水平回転釜。
  6. 前記クランパは、板バネによって形成されている、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一記載のミシンの水平回転釜。
  7. 前記クランパの他端側は、前記ボビンケースの外周面に連続する前記クランプ面の終端から突出している、ことを特徴とする請求項6記載のミシンの水平回転釜。
  8. 前記ボビンケースの外周面に連続する前記クランプ面の終端は、曲面状に形成されている、ことを特徴とする請求項6又は7記載のミシンの水平回転釜。
  9. 内部にボビンを収納し、当該ボビンと共に内釜に装着されるボビンケースの表裏面を貫通して形成されて前記ボビンからの下糸を前記ボビンケースの表面側に引き出すための下糸引出部と、
    前記ボビンケースの表面側に形成された固定部と、
    前記固定部から前記下糸引出部と前記ボビンケースの中心との間の位置を通り、前記下糸引出部から引き出された下糸の糸道に沿って前記ボビンケースの外周側に向けて、前記ボビンケースの表面側に形成されたクランプ面と、
    一端側が前記固定部に支持され、他端側が前記クランプ面に弾性的に当接し、ミシンの糸切断機構での切断動作に伴い前記糸道を外れて前記ボビンケースの中心側に寄った下糸を前記クランプ面との間にクランプするクランパと、
    を備えるミシンの水平回転釜に用いるボビンケースにおいて、
    前記下糸引出部に隣接する前記クランパの支持部分から前記クランプ面に対する前記クランパの当接部分に向かうに従い、前記クランプ面と前記クランパとの間の対向距離を徐々に狭めて前記下糸の進入を許容する空間部を備えることを特徴とするミシンの水平回転釜に用いるボビンケース。
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