以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1から図6は、本発明に係る動力伝達装置の潤滑構造の実施の形態を示す図であり、フロンドドライブ用の動力伝達装置に適用した例を示している。なお、本発明は、動力伝達装置を構成する動力伝達要素として歯車、タイミングベルトおよびタイミングチェーンにも適用可能であるが、ここでは説明の便宜上、遊星歯車装置のピニオンギヤシャフトを支持するピニオンギヤ軸受に潤滑油としてのオイルを供給する場合について説明する。
図1は、本発明の実施の形態における動力伝達装置の断面図である。図2は、図1の動力伝達装置のケースおよび内部の動力伝達要素を右側から正面図である。図3は、図1の動力伝達装置の断面図の部分拡大図である。図4は、動力伝達装置の第1の遊星歯車装置のサンギヤ、第2の遊星歯車装置のサンギヤ、ピニオンギヤおよびキャリアを省略した複合遊星歯車装置の正面図である。
まず、構成について説明する。
図1、図2に示すように、動力伝達装置1は、ケーシングとしてのトランスミッションケース2を有しており、トランスミッションケース2内には、変速機構を構成する複合遊星歯車装置3と、フロントドライブシャフト44、45への差動出力が可能なディファレンシャル装置4と、蓄電された電力により車両を駆動させる駆動用モータ5と、図示しないエンジンからの動力により発電可能なモータジェネレータ6と、動力伝達装置1の各部にオイルを供給するオイルポンプ7とが収納されている。
複合遊星歯車装置3は、駆動用モータ5から出力された動力を伝達する第1の遊星歯車装置11と、エンジンから出力された動力を伝達する第2の遊星歯車装置12とを含んで構成されており、駆動用モータ5およびエンジンから出力された動力をディファレンシャル装置4に選択的に伝達できるようになっている。
トランスミッションケース2は、エンジン側に締結支持されるハウジング21と、ハウジング21のエンジン側とは反対側の開口端に固定されたケース22とを有している。
また、ケース22のハウジング21側とは反対側の開口端には、ケースカバー23が装着されており、ケースカバー23のケース22側の反対側には、オイルポンプカバー24が装着されている。
また、ハウジング21には、ハウジングカバー25が装着されており、ハウジング21内をモータジェネレータ6の収納部分とエンジンからの駆動力伝達機構であるダンパー要素14の収納部分とに画成している。
そして、これらハウジング21、ケース22、ケースカバー23、ハウジングカバー25によってトランスミッションケース2が構成されるとともに、複合遊星歯車装置3、ディファレンシャル装置4、駆動用モータ5およびモータジェネレータ6を収納する各収納部分が形成される。
ケース22には、複合遊星歯車装置3の外周を囲うとともに複合遊星歯車装置3と駆動用モータ5とを隔てるように有底の環状仕切部22aが形成されており、環状仕切部22aには複合遊星歯車装置3の一端部を回転自在に支持するベアリング27が装着されている。
ハウジング21には、環状仕切部22aに当接して環状仕切部22aとともに複合遊星歯車装置3の収納部分を形成する環状肉厚部21aが形成されており、環状肉厚部21aには、複合遊星歯車装置3の他端部を回転自在に支持するベアリング28が装着されている。
モータジェネレータ6および第2の遊星歯車装置12の回転中心部分には、モータジェネレータ6および第2の遊星歯車装置12を貫通するように延在するインプットシャフト15が配設されており、駆動用モータ5および第1の遊星歯車装置11の回転中心部分には、駆動用モータ5および第1の遊星歯車装置11を貫通するように延在するオイルポンプ駆動軸16が配設されている。
インプットシャフト15は、一端部がクランクシャフト17に回転方向一体に係合されるとともに、他端部が第2の遊星歯車装置12に接続されており、エンジンからの動力を複合遊星歯車装置3に伝達するようになっている。
オイルポンプ駆動軸16は、一端部がインプットシャフト15に回転方向一体に係合されるとともに、他端部がオイルポンプ7に接続されており、インプットシャフト15からの動力をオイルポンプ7に伝達するようになっている。
また、オイルポンプ駆動軸16およびインプットシャフト15内には、複数の油路が形成されており、この油路を通じてオイルポンプ7により汲み上げられたオイルが動力伝達装置1の各部に送り出されるようになっている。
また、トランスミッションケース2内には、複合遊星歯車装置3から出力された動力をディファレンシャル装置4に伝達するカウンタドリブンギヤ41およびファイナルドライブギヤ42が設けられている。
カウンタドリブンギヤ41は、後述する複合遊星歯車装置3のカウンタドライブギヤ13に噛合しており、このカウンタドリブンギヤ41はファイナルドライブギヤ42が一体に形成されたカウンタシャフト43にスプライン結合している。
ディファレンシャル装置4は、中空のデフケース51を備えており、デフケース51は、ベアリング58、59を介してケース22およびハウジング21に回転自在に支持されている。
デフケース51の外周部には、ファイナルドライブギヤ42と歯合するファイナルギヤ52が締結されており、複合遊星歯車装置3から出力された動力がファイナルギヤ52を介してデフケース51に伝達されるようになっている。
また、デフケース51の内部には、ピニオンギヤシャフト53が回転自在に支持されており、ピニオンギヤシャフト53には、一対のディファレンシャルピニオンギヤ54、55が固定されている。
各ディファレンシャルピニオンギヤ54、55には、2体のサイドギヤ56、57がそれぞれ歯合しており、各サイドギヤ56、57にはフロントドライブシャフト44、45がそれぞれ接続され、各フロントドライブシャフト44、45には、図示しない前輪がそれぞれ固定されている。なお、このような複数のギヤ54、55、56、57による減速やディファレンシャル装置4の機能等は公知であり、ここでは詳述しない。
図3、図4に示すように、複合遊星歯車装置3は、駆動用モータ5の出力減速用の第1の遊星歯車装置11と、エンジン側からの動力をモータジェネレータ6とカウンタドライブギヤ13とに分配する動力分配機能を有する第2の遊星歯車装置12とによって構成されており、それら第1の遊星歯車装置11および第2の遊星歯車装置12は外周側のリングギヤR1とリングギヤR2とを回転軸方向に連ねたカウンタドライブギヤ13により接続されている。
具体的には、第1の遊星歯車装置11は、サンギヤS1と、サンギヤS1を取り囲む内歯のリングギヤR1と、サンギヤS1の回りに周方向等間隔に設けられてサンギヤS1およびリングギヤR1に噛合する複数のピニオンギヤP1と、複数のピニオンギヤP1を自転可能に支持するとともにケース22に固定されたキャリアCr1とを有している。
キャリアCr1は、複数のピニオンギヤP1の両端側に位置する一対の環状プレート部31a、31bと、複数のピニオンギヤP1の間に周方向等間隔に配置され、一対の環状プレート部31a、31bを連結する複数の支柱部32とから構成されている。
ピニオンギヤP1は、一対の環状プレート部31a、31bに両端を支持されたピニオンギヤシャフト34に動力伝達要素としてのピニオンギヤ軸受33を介して回転自在に保持されている。
また、ピニオンギヤシャフト34内には、回転軸方向に延在するピニオンギヤシャフト内油路34aと、ピニオンギヤシャフト内油路34aとピニオンギヤシャフト34の外周面の外側とを連通する分岐路とが形成されており、ピニオンギヤシャフト内油路34aおよび分岐路を通じてオイルがピニオンギヤ軸受33に供給されるようになっている。
第2の遊星歯車装置12は、サンギヤS2と、サンギヤS2を取り囲む内歯のリングギヤR2と、サンギヤS2の回りに周方向等間隔に設けられてサンギヤS2およびリングギヤR2に噛合する複数のピニオンギヤP2と、複数のピニオンギヤP2を自転可能に支持するとともにインプットシャフト15に連結されたキャリアCr2とを有している。
キャリアCr2は、複数のピニオンギヤP2の両端側に位置する一対の環状プレート部35a、35bと、複数のピニオンギヤP2の間に周方向等間隔に配置され、一対の環状プレート部35a、35bを連結する複数の支柱部36とから構成されている。
ピニオンギヤP2は、一対の環状プレート部35a、35bに両端を支持されたピニオンギヤシャフト39に動力伝達要素としてのピニオンギヤ軸受38を介して回転自在に保持されている。
ピニオンギヤシャフト39内には、回転軸方向に延在するピニオンギヤシャフト内油路39aと、ピニオンギヤシャフト内油路39aとピニオンギヤシャフト39の外周面の外側とを連通する分岐路とが形成され、ピニオンギヤシャフト内油路39aおよび分岐路を通じてオイルがピニオンギヤ軸受38に供給されるようになっている。
図1、図2に戻り、駆動用モータ5は、永久磁石61が装着されたロータ62と、三相コイル63が巻回されたステータ64とを有しており、永久磁石同期電動機として構成されている。
ロータ62は、回転軸方向に貫通孔が形成されており、この貫通孔にオイルポンプ駆動軸16を挿通させた状態で、ベアリング66、67を介してケース22およびケースカバー23に回転自在に支持されている。また、ロータ62は、そのエンジン側の端部が第1の遊星歯車装置11のサンギヤS1にスプライン結合しており、サンギヤS1と一体に回転するようになっている。
モータジェネレータ6は、永久磁石71が装着されたロータ72と、三相コイル73が巻回されたステータ74とを有しており、駆動用モータ5と同様に永久磁石同期発電電動機として構成されている。
ロータ72は、回転軸方向に貫通孔が形成されており、この貫通孔にインプットシャフト15を挿通させた状態で、ベアリング76、77を介してハウジング21およびハウジングカバー25に回転自在に支持されている。また、ロータ72は、そのエンジン側の端部が第2の遊星歯車装置12のサンギヤS2にスプライン結合しており、サンギヤS2と一体に回転するようになっている。
駆動用モータ5およびモータジェネレータ6のロータ62、72は、それぞれステータ64、74の内周との間にわずかな空隙を挟んで配置されており、ロータ62、72の回転により磁界を発生するようになっている。
また、駆動用モータ5およびモータジェネレータ6のステータ64、74は、それぞれ詳細は図示しないが、例えば磁性体を積層した環状のヨーク65、75が巻線用溝を隔てる複数のステータティースを有し、このヨーク65、75の巻線用溝に三相コイル63、73が巻回されている。
オイルポンプ7は、オイルポンプ駆動軸16に装着されたドライブロータ47と、図示しないドリブンロータとから構成されており、ケースカバー23に回転自在に支持されている。
また、オイルポンプカバー24にはリリーフ弁48が収納されており、オイルの油圧制御が行われている。
そして、オイルポンプ7により汲み上げられたオイルは、リリーフ弁48により所定の設定圧までに制限されながら、オイルポンプ駆動軸16内およびインプットシャフト15内に形成された複数の油路を通じて動力伝達装置1を構成する各部に供給されるようになっている。
複合遊星歯車装置3の収納部分の上方には、ケース22およびハウジング21により貯留部としてのキャッチタンク79が形成されており、駆動用モータ5の収容部分とキャッチタンク79とを仕切る仕切部22bには、キャッチタンク79の流出口となる連通孔81が形成されている。
ところで、ケース22のディファレンシャル装置4の収納部には、オイルポンプ7からディファレンシャル装置4に供給されたオイルが溜まり、ファイナルギヤ52の下部が浸漬されるようになっている。
ディファレンシャル装置4の収納部に溜まったオイルは、車両の走行に伴ってファイナルギヤ52が回転されることにより、ファイナルギヤ52に掻き上げられて収納部内で飛散されるようになっている。
ファイナルギヤ52に掻き上げられたオイルは、カウンタドライブギヤ13、カウンタドリブンギヤ41およびファイナルドライブギヤ42やそれらの軸受部が潤滑されるとともに、一部のオイルがキャッチタンク79に捕捉され、一時的に貯留されるようになっている。
そして、キャッチタンク79に貯留されたオイルは、連通孔81から流出し、後述する傾斜部としての傾斜流路82a、82b、開口部としての油孔83a、83b、油路としての折り返し部84および環状流路85を流下して、ピニオンギヤシャフト34のピニオンギヤシャフト内油路34aを通じてピニオンギヤ軸受33を潤滑するようになっている。
ここで、図5から図8を参照して、キャッチタンクから複合遊星歯車装置を構成するピニオンギヤのピニオンギヤ軸受にオイルが供給されるまでの流路について説明する。
図5は、図4の複合遊星歯車装置に複合遊星歯車装置を囲うケースの一部を追加したA−A断面の断面模式図である。図6は、図4の複合遊星歯車装置に複合遊星歯車装置を囲うケースの一部を追加したB−B断面の断面模式図である。図7は、ケースの複合遊星歯車装置側の壁面に形成された環状流路の模式図である。図8(a)は、ケースの駆動用モータ側の壁面に形成された傾斜流路、サイドリブおよびセパレートリブの斜視図であり、図8(b)は、サイドリブおよびセパレートリブの模式図である。
図5、図6に示すように、ケース22の環状仕切部22aの駆動用モータ5側の壁面は、連通孔81の近傍からケース22の下部に向って傾斜する傾斜面を有している。この傾斜面には、断面凹状の2つの傾斜流路82a、82bが形成されている。そして、キャッチタンク79に貯留されたオイルは、この傾斜流路82を伝ってケース22の下部の内周底面に向って流下するようになっている。なお、傾斜流路82a、82bは、図8で後述するように、傾斜面に沿って上下方向に延在する状態で立設された2本の互いに平行なサイドリブ91a、91bで挟まれるとともに、サイドリブ91a、91bと平行にこれらの中間に立設されたセパレートリブ92で隔てられることにより構成されており、サイドリブ91aとセパレートリブ92の間の部分が傾斜流路82aを構成し、サイドリブ91bとセパレートリブ92の間の部分が傾斜流路82bを構成している。
傾斜流路82a、82bの途中部分には、複合遊星歯車装置3の収納部分に連通する2つの油孔83a、83bがそれぞれ形成されている。油孔83a、83bは、傾斜流路82a、82bの傾斜方向と直交する方向にそれぞれ開口している。すなわち、油孔83a、83bは、傾斜流路82a、82bを流下するオイルの流線方向に対して直交する方向にそれぞれ開口しており、傾斜流路82a、82bを流下するオイルのうち一部のオイルのみが油孔83a、83bにそれぞれ流れ込むようになっている。
また、環状仕切部22aの複合遊星歯車装置3側の壁面には、油孔83a、83bの開口縁部の流線方向上流側の縁部において傾斜流路82a、82bの傾斜方向に対して直交する方向に屈曲する折り返し部84が設けられており、この折り返し部84は、複合遊星歯車装置3側に延在している。
また、折り返し部84は、油孔83a、83bの延長上に設けられており、油孔83a、83bに流れ込んだオイルをガイドして環状流路85に送り込むようになっている。
図4および図7に示すように、ピニオンギヤP1は、周方向等間隔に配置されており、ケース22の環状仕切部22aの複合遊星歯車装置3側の壁面には、各ピニオンギヤP1のピニオンギヤシャフト34内のピニオンギヤシャフト内油路34aに連通する断面凹状の環状流路85が形成されている。なお、図7においてピニオンギヤシャフト34内のピニオンギヤシャフト内油路34aの位置は、2点鎖線で描かれた円で示す部分である。なお、図7は、ケース22の環状仕切部22aを内側、すなわち複合遊星歯車装置3側から見た状態を示している。
環状流路85は、複合遊星歯車装置3の回転中心部分を中心とした環状をなしており、上流から下流に向けて流路の幅が狭く形成されている。また、環状流路85には、各ピニオンギヤシャフト34内のピニオンギヤシャフト内油路34aの位置に対応して油溜り85a、85b、85c、85d、85eが形成されている。傾斜流路82a、82bを流下して油孔83a、83bに流れ込んで環状流路85に送り込まれたオイルは、油溜り85a、85bに溜まった後、油溜り85c、85dに溜まり、そして最下部の油溜り85eに溜まるようになっている。
具体的には、傾斜流路82aを流下して油孔83aに流れ込んだオイルは、環状流路85において、油溜り85bに溜まった後、油溜り85dに溜まり、そして最下部の油溜り85eに溜まり、傾斜流路82bを流下して油孔83bに流れ込んだオイルは、環状流路85において、油溜り85aに溜まった後、油溜り85cに溜まり、そして最下部の油溜り85eに溜まるようになっている。なお、図7において環状流路85の左側に配置された油溜り85aおよび油溜り85cは、ディファレンシャル装置4に近い側のピニオンギヤシャフト34に対応している。
図8(a)、図8(b)に示すように、ケース22の環状仕切部22aの駆動用モータ5側の傾斜面には、傾斜面に沿って2本の互いに平行なサイドリブ91a、91bが上下方向に延在する状態で立設されており、また、サイドリブ91aとサイドリブ91bの中間の位置には、連通孔81から流出するオイルを左右に分割して2つの油孔83a、83bへ配分するためのセパレートリブ92が、傾斜面に沿って上下方向に延在する状態、すなわちサイドリブ91a、91bと平行な状態で立設されている。サイドリブ91a、91bは、換言すると、セパレートリブ92を挟んで対向する位置に立設されている。
なお、図8(a)、図8(b)は、ケース22の環状仕切部22aを駆動用モータ5側の傾斜面から見た図であるため、図7とは図面上で油孔83a、83bが左右逆になっている。
これら2本のサイドリブ91a、91bで挟まれた部分が傾斜流路82a、82bを構成している。すなわち、サイドリブ91aとセパレートリブ92に挟まれた断面凹状(溝状)の空間が傾斜流路82aを形成し、サイドリブ91bとセパレートリブ92に挟まれた断面凹状の空間が傾斜流路82bを形成している。
そして、キャッチタンク79に貯留されたオイルは、この傾斜流路82a、82bを伝ってケース22の下部の内周底面に向って流下するようになっている。
サイドリブ91a、91bは、その上端部が連通孔81の略中央部と等しい位置に配置されており、その下端部が油孔83aの略下端部と等しい位置に配置されている。また、セパレートリブ92の上端部は、連通孔81の略中央部に等しい位置に配置され、連通孔81の開口部に重なっている。
このため、連通孔81が流出したオイルは、直ちにセパレートリブ92によって左右に分配されることとなる。
セパレートリブ92には、このセパレートリブ92の途中から分岐してサイドリブ91a、91bの方向にそれぞれ突出する形状に形成され、傾斜流路82a、82bを流下するオイルを油孔83a、83bに案内する案内リブ92a、92bが形成されている。
案内リブ92aは、油孔83aより高い位置においてセパレートリブ92から分岐し、油孔83aの開口面の中央に向って傾斜するように突出しており、その突出方向の端部が油孔83aの開口部の一部に重なっている。
また、同様に、案内リブ92bは、油孔83bより高い位置においてセパレートリブ92から分岐し、油孔83bの開口面の中央に向って傾斜するように突出しており、その突出方向の端部が油孔83bの開口部の一部に重なっている。
案内リブ92a、92bの突出方向の端部は、油孔83bの開口部の下縁より上方に位置している。また、これら案内リブ92a、92bは、セパレートリブ92との分岐部において急傾斜で、突出方向の端部において緩傾斜となる円弧形状に形成されており、これにより、セパレートリブ92の上部から流下してきたオイルは、案内リブ92a、92bがセパレートリブ92から分岐する部分から端部にかけてその流下方向が滑らかに変化するようになっている。
このように、セパレートリブ92に案内リブ92a、92bを設けることにより、セパレートリブ92の上端部において連通孔81から流出して左右に分岐したオイルは、傾斜流路82a、82bをセパレートリブ92に沿って流下すると、案内リブ92a、92bを伝わって油孔83a、83bにそれぞれ案内される。
また、案内リブ92a、92bの先端が油孔83a、83bの開口部に重なるようにすることにより、キャッチタンク79からの油量が少ないときには、案内リブ92a、92bの先端部において案内リブ92a、92bから油孔83a、83b内にオイルが滴下されることで一定量以上の油量が確保され、油量が多いときには、案内リブ92a、92bの先端部が最大油量を制限するように働くため、オイルが供給過多となることがない。
続いて、図4から図9を参照して、キャッチタンクから複合遊星歯車装置を構成するピニオンギヤシャフトのピニオンギヤ軸受までのオイルの流れについて説明する。
図6に示すように、キャッチタンク79に貯留されたオイルは、連通孔81から流出して傾斜流路82a、82bを流下すると、油孔83a、83bの位置において矢印F1に示す経路と矢印F2に示す経路に分岐される。
矢印F1に示す方向である傾斜流路82a、82bに沿った流線方向に流下したオイルは、自然落下してケース22の内周底面に貯留される。これは、油孔83a、83bの孔径等に応じて流入可能な量のオイルが矢印F2の経路を通って油孔83a、83bに流入し、それ以外のオイルが矢印F1の経路を経て流下するためである。
ここで、油孔83a、83b内に流れ込むオイル量は、オイルの粘度によって変化する。例えば、常温時等のオイルの粘度の低い場合には、傾斜流路82a、82bを流下する流速が増加して油孔83a、83bを飛び越すオイル量が多くなり、油孔83a、83bに流れ込むオイル量が低下する。また、低温時等のオイルの粘度の高い場合には、傾斜流路82a、82bを流下する流速が低下して油孔83a、83bを飛び越すオイル量が減り、油孔83a、83bに流れ込むオイル量が増加する。
ここで、油孔83a、83bに流入する経路である矢印F2は、図8(b)に示すように、傾斜流路82aを通って油孔83aに流入する経路である矢印F2aと、傾斜流路82bを通って油孔83bに流入する経路である矢印F2bとからなる。油孔83a、83b内に流れ込んだオイルは、折り返し部84を伝って環状流路85に流れ込む。
図7に示すように、環状流路85に流れ込んだオイルは、最初に矢印F3a、F3bに示す方向にオイルが流下し最上部の油溜り85a、85bにオイルが貯留される。次に、最上部の油溜り85a、85bを溢れたオイル、または最上部の油溜り85a、85bに捕捉されなかったオイルが矢印F4a、F4bに示す方向に流下し中間部の油溜り85c、85dにオイルが貯留される。最後に、中間部の油溜り85c、85dを溢れたオイル、または最上部の油溜り85a、85b、中間部の油溜り85c、85dに補足されなかったオイルが矢印F5a、F5bに示す方向に流下し最下部の油溜り85eにオイルが貯留される。
図5に示すように、各油溜り85eに貯留されたオイルは、矢印F6に示すようにピニオンギヤシャフト34内に形成されたピニオンギヤシャフト内油路34aを通じてピニオンギヤ軸受33に供給される。これにより、動力伝達装置において負荷や回転数の点で厳しい環境に配置されているピニオンギヤP1の焼き付き防止を防止し、耐久性を維持することができるようになっている。
また、オイルが経路F2を通って油孔83a、83bに流入する際に、キャッチタンク79から流出する油量が少なかった時は、オイルが案内リブ92a、92bを伝わって油孔83a、83bに入ることができ、キャッチタンク79から流出する油量が多かった時は、案内リブ92a、92bの先端が油孔83a、83bの開口部に重なっているため、オイルが油孔83a、83bに入り過ぎることはない。
このため、図9(a)に示すように、車両の水平走行時において、油孔83a、83bから流入してケース22内の動力伝達要素に供給される油量を、全ての車速の範囲で上限と下限の範囲内に収めることができる。また、油孔83a、83bから流入してケース22内の動力伝達要素に供給される油量を、車速が遅いときでも十分に確保するとともに車速が早いときでも従来より多くすることができる。
また、オイルが経路F2を通って油孔83a、83bに流入する際に、登坂状態等により車両が前後方向に傾斜して傾斜流路82a、82bが垂直方向から傾いているときであっても、オイルが案内リブ92a、92bを伝わって油孔83a、83bに入ることができるため、図9(b)に示すように、油孔83a、83bから流入してケース22内の動力伝達要素に供給される油量を従来よりも多くすることができる。
なお、案内リブ92a、92bの形状は、前述した形状に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような形状とすることができる。なお、以下に説明する案内リブ92a、92bも、前述した構成と同様に、セパレートリブ92で分割された潤滑油を油孔83a、83bの開口部に案内するものであり、セパレートリブ92からの突出方向の端部が2つの油孔83a、83bの開口部の下縁より上方にそれぞれ位置するとともに、その突出方向端部の下方への投影部が2つの油孔83a、83bの開口部の一部にそれぞれ重なるように構成されている。
例えば、図10に示すように、2つの案内リブ92a、92bのうち、ディファレンシャル装置4に近くカウンタドライブギヤ13からの反力を強く受ける側(図2の左側)のピニオンギヤシャフト34に多くのオイルを供給するために、案内リブ92bの傾斜角度を案内リブ92aよりも垂直に近い角度にしてもよい。
この場合、ディファレンシャル装置4に近い側のピニオンギヤシャフト34が潤滑不足によりダメージを受けることを防止することができる。
また、図11(a)に示すように、案内リブ92a、92bをオイルの流下方向上流側に変位させることで、案内リブ92a、92bの先端部が油孔83a、83bに直接重ならず、案内リブ92a、92bの先端部の下方への投影部が、上方から見た時に油孔83a、83bの開口部の一部にそれぞれ重なるようにしてもよい。
この場合、図11(a)に示すように、製造時において、ケース22の環状仕切部22aの複合遊星歯車装置3側から油孔83bをドリル等の切削工具100により形成する際に、油孔83bの開口部に案内リブ92bが重なっていないため、切削加工を案内リブ92bに妨げられずに容易に行うことができる。
また、図12(a)に示すように、案内リブ92a、92bをセパレートリブ92から直角に分岐および延在する板形状としてもよい。
この場合、製造時において、案内リブ92a、92bを1つの板状の部材から構成してセパレートリブ92に組み付けることができるので、1つの板状の部材から構成された簡単な構成の案内リブ92a、92bを、セパレートリブ92に組み付けるだけで、セパレートリブ92に案内リブ92a、92bを設けることができる。
また、図13(a)に示すように、案内リブ92a、92bをセパレートリブ92から直角に分岐および延在するブロック形状としてもよい。
この場合、製造時において、案内リブ92a、92bを1つのブロック形状の部材から構成してセパレートリブ92に組み付けることができるので、1つのブロック形状の部材から構成された簡単な構成の案内リブ92a、92bを、セパレートリブ92に組み付けるだけで、セパレートリブ92に案内リブ92a、92bを設けることができる。
以上のように、本実施の形態では、傾斜流路82a、82bが、ケース22の外側傾斜面上に下方に延在する形状に立設され、連通孔81から流出する潤滑油を分割するセパレートリブ92と、セパレートリブ92を挟んで対向する位置に立設された2つのサイドリブ91a、91bと、セパレートリブ92から分岐して2つのサイドリブ91a、91bに向ってそれぞれ突出し、その突出方向端部が2つの油孔83a、83bの開口部の下縁より上方にそれぞれ位置するとともに、その突出方向端部の下方への投影部が2つの油孔83a、83bの開口部の一部にそれぞれ重なり、セパレートリブ92で分割された潤滑油を油孔83a、83bの開口部に案内する案内リブ92a、92bと、を有するものから構成されている。
この構成により、連通孔81から流出してきた潤滑油が少ないときは、潤滑油が案内リブ92a、92bに案内されて端部から油孔83a、83bの開口部に滴下して潤滑不良を防止することができ、連通孔81から流出してきた潤滑油が多いときは、案内リブ92a、92bの端部の下方への投影部が油孔83a、83bの開口部の一部に重なることで、油孔83a、83bに流入する潤滑油の油量を制限して潤滑油の過多による損失を防止することができる。
したがって、走行条件に関らず動力伝達要素に適量の潤滑油をバランス良く供給することができる。
また、本実施の形態では、案内リブ92a、92bの突出方向端部が、油孔83a、83bの開口部の一部に重なるものから構成されている。
この構成により、連通孔から流出してきた潤滑油が多いときに、案内リブ92a、92bの端部が油孔83a、83bの開口部の一部に重なることで、油孔83a、83bに流入する潤滑油の油量を制限して潤滑油の過多による損失を防止することができる。
また、本実施の形態では、案内リブ92a、92bが、セパレートリブ92との分岐部から突出方向端部に向って下り傾斜の形状であるものから構成されている。
この構成により、セパレートリブ92を伝って流下する潤滑油を案内リブ92a、92bで滞留することなく、油孔83a、83bの開口部に案内することができる。
また、本実施の形態では、案内リブ92a、92bが、セパレートリブ92との分岐部において急傾斜で突出方向端部において緩傾斜となる円弧状に形成されたものから構成されている。
この構成により、セパレートリブを伝って流下する潤滑油の流下方向が滑らかに変更され、良好に油孔83a、83bの開口部に案内することができる。
また、本実施の形態では、案内リブ92aと案内リブ92bとで形状が異なるものから構成されている。
この構成により、案内リブ92aと案内リブ92bとで、案内される潤滑油の流量を異ならせて、多くの潤滑油が要求される側の動力伝達要素に優先的に潤滑油を供給することができる。
以上説明したように、本発明は、走行条件に関らず動力伝達要素に適量の潤滑油をバランス良く供給することができるものであり、特に貯留部に貯留した潤滑油を自然流下させて動力伝達要素に供給するのに好適な動力伝達装置の潤滑構造に有用である。