しかしながら、上述のような従来の動力伝達装置にあっては、ディファレンシャルリングギヤによりケース内底部側からかき上げられた潤滑油をキャッチタンクおよび冷却用流体分配通路に導入する流体導入通路が、冷却用流体分配通路の分岐方向への段差を有する程度の比較的平坦な壁面構成であったため、かき上げられた潤滑油を十分に冷却用流体分配通路側に導入できず、電動機の冷却が不十分になり易いという問題があった。
特に、ケースサイズの制約により通路幅が狭くなる場合には、冷却用流体分配通路の分岐方向への段差も小さくなるため、動力伝達装置の作動状態に適した十分な冷却用流体の導入量を確保し難く、電動機の温度が通常より上昇してしまう場合があった。
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、ケースのサイズが制約される場合でも、動力伝達装置の作動状態に適した十分な冷却用流体の導入量を確保することのできる動力伝達装置の流体通路構造を提供することを目的とする。
本発明に係る動力伝達装置の流体通路構造は、上記目的達成のため、(1)ケース内に貯留された潤滑または冷却用の流体を前記ケース内に内蔵される伝動要素により前記ケース内に形成された流体導入通路にかき上げ、該流体導入通路を通して前記流体を前記ケース内で循環させるようにした動力伝達装置の流体通路構造において、前記ケースが、前記流体導入通路を形成するとともに前記流体導入通路を狭めるように前記流体導入通路の延在方向と異なる第1方向の段差を形成する第1段差面部を有する通路内壁面と、前記第1段差面部の近傍で前記通路内壁面に開口し潤滑油を流下させることができる流体分配通路と、を有し、前記通路内壁面が、前記流体分配通路の開口に対し前記流体導入通路の延在方向で前記第1段差面部とは反対側に位置する上流側内壁面と、前記第1段差面部および前記上流側内壁面の間で前記第1段差面部によって曲げられる流体の一部の流れを前記流体分配通路の開口側に分岐させるよう方向付けるとともに前記流体導入通路の通路幅を拡げるように前記第1方向とは異なる第2方向の段差を形成する中間の通路内壁面と、前記第1段差面部より下流側に位置する下流側内壁面と、によって構成されていることを特徴とする。
この構成により、流体導入通路の通路内壁面に開口する流体分配通路の開口近傍で、第1段差面部によって第1方向の段差が形成されるとともに、流体導入通路の通路幅を拡げるように第1方向とは異なる第2方向の段差が形成されることとなり、流体導入通路中の流体が第1方向および第2方向に曲げられることで、この流体の流れに渦流が生じることになり、その近傍で開口する流体分配通路に流体が流れ込み易くなる。したがって、ケースのサイズが制約される場合でも、動力伝達装置の作動状態に適した十分な冷却用流体の導入量を確保することが可能となる。
上記(1)記載の構成を有する動力伝達装置の流体通路構造においては、(2)前記上流側内壁面が前記流体導入通路の通路幅方向一方側に位置する第1側壁面部を、前記下流側内壁面が前記流体導入通路の通路幅方向一方側に位置する第2側壁面部を、それぞれ有するとともに、前記中間の通路内壁面および前記上流側内壁面が、前記第1側壁面部および前記第1段差面部に連続して形成された通路内底面部を有し、前記通路内底面部が、前記流体分配通路の開口に対し前記第1段差面部とは反対側に位置する上流側の第1底壁面部と、前記第1段差面部および前記第1底壁面部の間に位置する第2底壁面部と、前記第1底壁面部に対し前記第2底壁面部が前記流体導入通路の幅を拡げる側に位置するように前記第1底壁面部および前記第2底壁面部の間に前記第1方向と直交する方向の段差を形成する第2段差面部と、によって構成されているのが好ましい。
この構成により、伝動要素によりかき上げられ、流体導入通路に導入された流体が流体分配通路の開口近傍で、第1段差面部によって第1方向に方向付けられるとともに、第2段差面部によって第2方向にも方向付けられることとなり、流体分配通路の開口近傍の流体に縦の渦が生じ易くなる。したがって、その渦流の側方で開口する流体分配通路に流体が流れ込み易くなる。
上記(2)記載の構成を有する動力伝達装置の流体通路構造においては、(3)前記第1方向の段差が、前記第1側壁面部および前記第2側壁面部の間で前記通路延在方向と直交する方向の段差となっているのが好ましい。
この構成により、流体導入通路に導入された流体の流れを流体分配通路側に分岐させる方向付けが容易にできる。
上記(2)または(3)記載の構成を有する動力伝達装置の流体通路構造においては、(4)前記第1側壁面部が、前記第1段差面部より小さい段差の範囲内で前記第1方向の段差を形成する第3段差面部を有しているのが好ましい。
この構成により、上流側内壁面の第1側壁面部に配される第3段差面部によって第1段差面部より小さい段差の範囲内で第1方向の段差が形成され、流体導入通路に導入された流体が流体分配通路の開口近傍で第1段差面部によって方向付けられる前に、第3段差面部によって流体分配通路の開口前方側に到達する程度に予め第1方向に多少方向付けられる。したがって、流体導入通路に導入された流体を流体分配通路側に確実に分配できる。
上記(2)〜(4)記載の構成を有する動力伝達装置の流体通路構造は、好ましくは、(5)前記通路内壁面が、前記第1底壁面部および前記第2底壁面部に対向する上壁面部を有し、該上壁面部が、前記第2底壁面部に対向するとともに前記第1段差面部より小さい段差の範囲内で前記第2方向の段差を形成する第4段差面部を有している。
この構成により、上壁面部に配される第4段差面部によって第1段差面部より小さい段差の範囲内で第2方向の段差が形成され、流体導入通路に導入された流体が流体分配通路の開口近傍で第1段差面部によって方向付けられるとともに、第2段差面部および第4段差面部によって第2方向に強く方向付けられることとなり、流体分配通路の開口近傍の流体に縦の渦がより生じ易くなり、流体分配通路への流体の導入量が十分に確保できる。
上記(2)または(3)記載の構成を有する動力伝達装置の流体通路構造は、好ましくは、(6)前記上流側の第1側壁面部が、前記第1段差面部より小さい段差の範囲内で前記第1方向の段差を形成する第3段差面部を有するとともに、前記通路内壁面が、前記第1底壁面部および前記第2底壁面部に対向する上壁面部を有し、該上壁面部が、前記第1段差面部および前記第3段差面部の間に、前記第2底壁面部に対向するとともに前記第1段差面部より小さい段差の範囲内で前記第2方向の段差を形成する第4段差面部を有しているのがよい。
この構成により、上流側内壁面の第1側壁面部に配される第3段差面部によって第1段差面部より小さい段差の範囲内で第1方向の段差が形成され、流体導入通路に導入された流体が流体分配通路の開口近傍で第1段差面部によって方向付けられる前に、第3段差面部によって流体分配通路の開口前方側に到達する程度に予め第1方向に多少方向付けられる。また、上壁面部に配される第4段差面部によって第1段差面部より小さい段差の範囲内で第2方向の段差が形成され、流体導入通路に導入された流体が流体分配通路の開口近傍で第1段差面部によって方向付けられるとともに、第2段差面部および第4段差面部によって第2方向に強く方向付けられることとなり、流体分配通路の開口近傍の流体に縦の渦がより生じ易くなり、流体分配通路への流体の導入量が十分に確保できる。
上記(5)または(6)記載の構成を有する動力伝達装置の流体通路構造においては、(7)前記上壁面部の前記第4段差面部が、前記通路内底面部の前記第2段差面部より小さい段差の範囲内で前記第2方向の段差を形成しているのがよい。
流体導入通路に導入された流体が流体分配通路の開口近傍で第1段差面部によって方向付けられる前に、第4段差面部によって第2段差面部に到達する程度に予め第2方向に多少方向付けられる。
上記(1)〜(7)のいずれかに記載の構成を有する動力伝達装置の流体通路構造は、(8)前記伝動要素が、歯車であるのが好ましい。
この構成により、ケース内底部側からの流体のかき上げが安定的に実行されるとともに、歯車の回転速度に応じてそのかき上げ量が増減変化することになり、所要の潤滑・冷却が可能となる。
上記(8)記載の構成を有する動力伝達装置の流体通路構造においては、(9)前記動力伝達装置が、車両用の変速機構とディファレンシャル機構とを含み、前記伝動要素が、前記ディファレンシャル機構に外装されたリングギヤであっても好ましい。
この構成により、周速の大きいディファレンシャル機構のリングギヤによって効果的な流体のかき上げがなされ、動力伝達装置の作動状態に適した十分な流体の導入量を確保することが可能となる。
本発明によれば、流体導入通路の通路内壁面に開口する流体分配通路の開口近傍で、第1段差面部により通路延在方向とは異なる第1方向の段差を形成するとともに、流体導入通路の通路幅を拡げるよう第1方向とは異なる第2方向の段差を形成しているので、流体導入通路中の流体を第1方向および第2方向に曲がるように方向付け、この流体に渦流を生じさせることができ、その近傍で開口する流体分配通路に流体が流れ込み易くなるようにして、ケースのサイズが制約される場合でも、動力伝達装置の作動状態に適した十分な冷却用流体の導入量を確保することができる動力伝達装置の流体通路構造を提供することができる。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
(第1の実施の形態)
図1〜図6は、本発明の一実施形態に係る車両用動力伝達装置の流体通路構造を示す図で、本発明を4輪駆動車のフロントドライブ用の動力伝達装置に適用した例を示しており、図1は、その一実施形態における片側のケースの流体通路構造を示すそのケースの側面図、図2は、図1のII-II矢視方向に見た組合せ断面図、図3は、図1の要部を拡大して示す部分拡大図、図4は、図3のA−A矢視断面図、図5は、図3のB−B矢視断面図、図6は、図3のC−C矢視断面図である。
まず、その構成について説明すると、図1および図2に示すように、本実施形態の車両用動力伝達装置は、トランスミッションケース10の一部を構成するケース11内に変速機構を構成する遊星歯車機構20と、左右駆動軸31、32への差動出力が可能なディファレンシャル機構30とを収納し、さらに遊星歯車機構20の入力要素を駆動するモータ型駆動手段40を装着したトランスアクスルタイプのものである。また、モータ型駆動手段40は、ケース11の一端側に位置する駆動用モータ41(一方のモータ)と、エンジンからの動力により発電可能なモータジェネレータ42(他方のモータ)とを含んで構成されている。
図2に示すように、ケース11の一端側(同図中左端側)にはカバー12が液体密に装着されており、ケース11の他端側には、最終的にエンジンブロック側に締結支持されることになるハウジング13が締結されている。また、ハウジング13内はカバー14によりモータジェネレータ42の収納部分とエンジンからの駆動力伝達機構であるダンパー要素5の収納部分とに区画されている。そして、これらケース11、カバー12、14およびハウジング13によってトランスミッションケース10が構成されている。
遊星歯車機構20は、駆動用モータ41の出力減速用の第1の遊星歯車機構部21と、エンジン側からの動力をモータジェネレータ42とカウンタドライブギヤ23とに分配する動力分配機能を有する第2の遊星歯車機構部22とによって構成されており、それら第1の遊星歯車機構部21および第2の遊星歯車機構部22は、外周側のリングギヤ部分(図中符号なし)で出力要素であるカウンタドライブギヤ23と一体化されている。
なお、図2中においては符号を示していないが、第1の遊星歯車機構部21は、駆動用モータ41のロータ41aにスプライン結合したサンギヤ(入力要素)と、サンギヤを取り囲む内歯のリングギヤと、サンギヤの周りに周方向等間隔すなわち等角度間隔に設けられてサンギヤおよびリングギヤに噛合する複数のピニオンと、複数のピニオンを予め設定された公転半径位置に回転自在に支持するキャリア(固定要素)とによって構成されている。また、第2の遊星歯車機構部22は、モータジェネレータ42のロータ42aにスプライン結合したサンギヤと、このサンギヤを取り囲む内歯のリングギヤと、サンギヤの周りに周方向等間隔に設けられてサンギヤおよびリングギヤに噛合する複数のピニオンと、複数のピニオンを自転可能に支持するとともにインプットシャフト1に固定もしくは回転方向一体に連結されたキャリア(反力要素)とを有している。
そして、第1の遊星歯車機構部21および第2の遊星歯車機構部22のリングギヤと一体化されたカウンタドライブギヤ23の一端部は、ケース11の環状支持部15に回転自在に支持されており、カウンタドライブギヤ23の他端部は、環状支持部15に対向するハウジング13の環状肉厚部部分13rに回転自在に支持されている。このカウンタドライブギヤ23は、カウンタドリブンギヤ33に噛合している。
カウンタドリブンギヤ33は、ファイナルドライブギヤ34が一体に形成されたカウンタシャフト35にスプライン結合しており、ファイナルドライブギヤ34はディファレンシャル機構30のデフケース36に締結・外装されたファイナルギヤであるディファレンシャルリングギヤ37(歯車)に噛合している。また、デフケース36内には、一対のディファレンシャルピニオン38a、38bと、左右一対のディファレンシャルサイドギヤ39a、39bが設けられている。なお、このような複数のギヤ23、33、34、37による減速やディファレンシャル機構30の機能等は公知であり、ここでは詳述しない。
図2に示すように、駆動用モータ41は、例えば永久磁石41mが装着されたロータ41aと、三相コイル41cが巻回されたステータ41bとを有する永久磁石同期電動機として構成されており、ロータ41aはケース11にベアリング43を介して回転自在に支持されるとともに、そのケース内方側の端部で第1の遊星歯車機構部21のサンギヤにスプライン結合している。また、ロータ41aの軸方向外端部はカバー12の軸受保持部12aにベアリング44を介して回転自在に支持されている。
モータジェネレータ42は、例えば永久磁石42mが装着されたロータ42aと、三相コイル42cが巻回されたステータ42bとを有する永久磁石同期発電電動機として構成されており、ロータ42aはインプットシャフト1に回転自在に支持されるとともにハウジング13にベアリング45を介して回転自在に支持され、そのケース内方側の端部で第2の遊星歯車機構部22のサンギヤにスプライン結合している。また、ロータ42aのエンジン側の端部はハウジング13内のカバー14にベアリング46を介して回転自在に支持されている。
一方、本実施形態の車両用動力伝達装置においては、トランスミッションケース10内に潤滑油L(以下、単に潤滑油という)が貯留されており、図1および図4中に矢印f0で示すように、その潤滑油をトランスミッションケース10の内壁面に沿った流れとなるようディファレンシャルリングギヤ37によってトランスミッションケース10内の上方側にかき上げることで、トランスミッションケース10内の上方側に形成された流体導入通路101に導入するようになっている。そして、図4〜図6中に矢印f1〜f6で示すように、その流体導入通路101を通して、潤滑油を予め設定されたトランスミッションケース10内の複数の潤滑・冷却経路に分岐させながら徐々に流下させ、トランスミッションケース10内の底部側に戻った潤滑油を再度ディファレンシャルリングギヤ37によりかき上げて、トランスミッションケース10内で循環させるようになっている。
図1、図3および図4に示すように、トランスミッションケース10は、流体導入通路101を形成しており、この流体導入通路101はディファレンシャルリングギヤ37によりかき上げられた潤滑油を導入可能な位置に配置されている。流体導入通路101は、ディファレンシャルリングギヤ37によりかき上げられた潤滑油を導入する導入口102と、ディファレンシャルリングギヤ37の回転中心軸線方向において通路幅が広い上流側通路部分103と、ディファレンシャルリングギヤ37の回転中心軸線方向において通路幅が上流側通路部分103より狭まっている下流側通路部分104とによって構成されている。また、流体導入通路101は、流体導入口102から導入された潤滑油を、その下流側でディファレンシャルリングギヤ37側、駆動用モータ41側およびモータジェネレータ42側にそれぞれ流下させるようになっている。
また、トランスミッションケース10のケース11には、複数のギヤ23、33、34、37の軸線方向と平行な向きに突出する複数のリブ状の通路形成突出壁部11jが設けられ、トランスミッションケース10のハウジング13には、通路形成突出壁部11jの突出方向の端部に対向する複数の通路形成突出壁部13jが設けられており、一体にボルト締結されたケース11およびハウジング13の内壁面とこれら通路形成突出壁部11j、13jとによって、流体導入通路101を画成する通路内壁面110と、ディファレンシャルリングギヤ37によりかき上げられた潤滑油を流体導入通路101を通して導入し一時的に貯留するキャッチタンク141(図1参照)と、が形成されている。
図1中に代表して示すように、キャッチタンク141には、貯留された潤滑油を徐々に下方に流下させる流下通路部141aが形成されている。また、流体導入通路101の下流側通路部分104からキャッチタンク141に入る潤滑油量は、ディファレンシャルリングギヤ37の回転速度およびトランスミッションケース10の内底部側に貯留する潤滑油量に応じて変動するが、キャッチタンク141に入った潤滑油はキャッチタンク141内に一時的に貯留される一方で、キャッチタンク141の少なくとも1箇所に配された流下通路部141aを通してカウンタドライブギヤ23等に適度な流量で供給されるようになっている。
図1および図3〜図6に示すように、トランスミッションケース10の通路内壁面110は、導入口102を形成する導入口形成壁面112と、上流側通路部分103を形成する上流側通路形成壁面113(上流側内壁面)と、下流側通路部分104を形成する下流側通路形成壁面114(下流側内壁面)と、を有している。
また、通路内壁面110は、上流側通路部分103と下流側通路部分104の接続部分に、上流側通路形成壁面113および下流側通路形成壁面114に連続する第1段差面部111を有している。
この第1段差面部111は、流体導入通路101をその延在方向の途中位置で狭めるように、通路内壁面110に流体導入通路101の延在方向とは異なる図4中X方向(第1方向)の段差S1を形成している。また、上流側通路部分103と下流側通路部分104の接続部分に位置する第1段差面部111の近傍には、通路内壁面110上に開口する流体分配通路120が形成されている。
具体的には、通路内壁面110の上流側通路形成壁面113は、流体分配通路120の開口121に対し第1段差面部111とは反対側に位置する上流側内壁面131と、第1段差面部111および上流側内壁面131の間に位置する中間の通路内壁面132とを有しており、中間の通路内壁面132は、第1段差面部111および上流側内壁面131の間で流体導入通路101の図3中の高さ方向の通路幅hを拡げるようにX方向とは異なる図3中のY方向(第2方向)の段差S2を形成している。下流側通路形成壁面114は、第1段差面部111より下流側に位置する下流側内壁面となっている。
ここで、上流側内壁面131は、流体導入通路101の通路幅方向(図4中のX方向)の一方側に位置する第1側壁面部131sを有し、下流側通路形成壁面114は、流体導入通路101の通路幅方向一方側に位置する第2側壁面部114sを有している。
また、上流側通路形成壁面113は、第1側壁面部131sおよび第1段差面部111に連続して形成された通路内底面部133を併有しており、この通路内底面部133は、流体分配通路120の開口121に対し、第1段差面部111とは反対側に、上流側の第1底壁面部133aを有している。また、この通路内底面部133は、第1段差面部111および第1底壁面部133aの間に、第1底壁面部133aに対し流体導入通路101の幅を拡げる側に位置する第2底壁面部133bと、第1底壁面部133aおよび第2底壁面部133bの間にX方向(第1方向)と直交するY方向の段差S2を形成する第2段差面部133cと、第1段差面部111および第2底壁面部133bの間の段差S2の範囲内で第2段差面部133cに対応する湾曲面133dと、を有している。
すなわち、通路内底面部133の第2底壁面部133b、第2段差面部133cおよび湾曲面133d(中間の通路内壁面)は、図3〜図5に示すように、第1段差面部111に隣接する段差S2分の略円弧状断面の凹曲面形状をなすとともに、上流側通路形成壁面113のうち第1段差面部111よりケース11側の範囲の第3底壁面部133eに対しても段差S2分の段付きの凹みを形勢しており、上流側通路部分103が第2底壁面部133bの範囲内で下方側に膨出する形となっている。
一方、第1段差面部111によって形成されるX方向の段差S1は、第1側壁面部131sおよび第2側壁面部114sの間で通路延在方向と直交するX方向の段差となっているが、第1側壁面部131sは、図4に示すように、第1段差面部111より十分に小さい段差(例えば1/3以下の段差)の範囲内でX方向の段差S3を形成する第3段差面部131kを有している。
また、通路内壁面110は、第1底壁面部133aおよび第2底壁面部133bに対向する上壁面部135を有しており、その上壁面部135は、図3に示すように、第2底壁面部133bに対向するとともに第1段差面部111より小さい段差の範囲内でY方向の段差S4を形成する第4段差面部135aを有している。この第4段差面部135aによって形成される段差S4は、例えば通路内底面部133の第2段差面部133cによって形成される段差S2より小さい段差となっている。
なお、第1段差面部111よりケース11側の範囲の第3底壁面部133eは、ハウジング13側の第1底壁面部133aと略同一高さに設定されているが、部分的に下方側に凹んだ凹曲面部133fを有している。そして、ハウジング13側のリブ状の通路形成突出壁部13jは、このケース11側の凹曲面部133fの側方に斜下方への分配通路133gを形成している。
図3〜図6に示すように、通路形成突出壁部11j、13jの近傍では、ディファレンシャルリングギヤ37によりかき上げられた潤滑油の流れf0が、キャッチタンク141に向かう流れf1、f3と、流体分配通路120を通してモータジェネレータ42を冷却する流れf5とに分岐するとともに、側方のハウジング13側の斜下方への分配通路133g、ケース11側の冷却用通路119およびハウジング13側の冷却用通路116を通して、駆動用モータ41を冷却する流れf6にも分岐される。
さらに、流体導入通路101からキャッチタンク141に入る潤滑油のみならず、カウンタドライブギヤ23側からキャッチタンク141側に向かう流れ方向f2にも潤滑油が飛散して導入され、潤滑油の一部およびキャッチタンク141内の空気は、ケース11に形成された他の連通孔117、118を通して流体導入通路101およびキャッチタンク141の内外に出入りするようになっている。
なお、図2に示すように、トランスミッションケース10のケース11には駆動用モータ41により駆動される公知のオイルポンプ70が収納されており、このオイルポンプ70により駆動用モータ41、モータジェネレータ42および遊星歯車機構20の中心部の油路71を通して、トランスミッションケース10内の各摺動部分や転動部分に潤滑油が供給されるようになっており、潤滑後の潤滑油はトランスミッションケース10内の底部側に流下するようになっている。
次に、作用について説明する。
上述のように構成された本実施形態の動力伝達装置の流体通路構造においては、車両の走行時には、遊星歯車機構20により、駆動用モータ41の出力回転が減速されるとともに、エンジン側からの動力がモータジェネレータ42とカウンタドライブギヤ23とに分配され、カウンタドライブギヤ23からカウンタドリブンギヤ33およびファイナルドライブギヤ34を介してディファレンシャルリングギヤ37が駆動され、ディファレンシャル機構30から駆動軸31、32への回転出力がなされる。
この状態において、トランスミッションケース10内ではディファレンシャルリングギヤ37の回転によりトランスミッションケース10内に貯留される潤滑油が図1に矢印f0で示すように、トランスミッションケース10の内壁面に沿って上向きの流れとなるようにかき上げられた後、トランスミッションケース10の内壁面の屈曲位置10pから斜め上方に放出され、トランスミッションケース10内の上方側に位置する流体導入通路101に導入される。そして、図4〜図6中に矢印f1〜f6で示すように、この流体導入通路101を通して、トランスミッションケース10内の複数の潤滑・冷却経路に分岐し、一部はキャッチタンク141に一時的に貯留されて、潤滑油が徐々に流下する。すなわち、流体導入通路101に導入された潤滑油の流れf0が、キャッチタンク141に向かう流れf1、f3と、流体分配通路120を通してモータジェネレータ42を冷却する流れf5と、ハウジング13側の斜下方への分配通路133gおよび冷却用通路116と、ケース11側の冷却用通路119とを通って駆動用モータ41を冷却する流れf6にも分岐される。また、トランスミッションケース10内の底部側に戻った潤滑油が再度ディファレンシャルリングギヤ37によりかき上げられ、トランスミッションケース10内で潤滑油が循環する。
なお、潤滑油は、オイルポンプ70による潤滑油の供給経路を通しても循環するが、ディファレンシャルリングギヤ37のかき上げとキャッチタンク141を併用することで、トランスミッションケース10の内底部の潤滑油の貯留量を抑えるとともに、オイルポンプ70の駆動に消費する動力を抑えることができる。
本実施形態では、ディファレンシャルリングギヤ37のかき上げによって流体導入通路101に潤滑油が導入されるとき、流体導入通路101の通路内壁面110に開口する流体分配通路120の開口121の近傍に、第1段差面部111によってX方向の段差S1が形成されるとともに、流体導入通路101の通路幅を拡げるようにX方向とは異なるY方向の段差が形成されていることから、流体導入通路101中の流体が開口121の近傍でX方向およびY方向に曲げられ、この流体の流れに渦流が生じることになる。したがって、その渦流の近傍で開口する流体分配通路120に流体が流れ込み易くなり、流体分配通路120からモータジェネレータ42への冷却油の流れf5の流量が十分に確保されることになる。
しかも、分配通路133gが第1段差面部111の段差S1の範囲外となるケース11側の凹曲面部133fの側方で斜下方に向けられていることから、この分配通路133gから冷却用通路116、119を通って駆動用モータ41およびモータジェネレータ42を冷却する冷却油の流れf6にも、十分な流量が確保される。すなわち、トランスミッションケース10のサイズが制約される場合でも、動力伝達装置の作動状態に適した十分なモータ冷却用流体の導入量を確保することが可能となる。
また、ディファレンシャルリングギヤ37によりかき上げられ、流体導入通路101に導入された流体が流体分配通路120の開口121の近傍で、第1段差面部111によってX方向に方向付けられるとともに、段差S2を形成する第2底壁面部133bとその第2段差面部133cによってX方向と直交するY方向にも方向付けられることから、流体分配通路120の開口121近傍の流体に縦の渦が生じ易くなり、その渦流の側方で開口する流体分配通路120に流体がより流れ込み易くなる。
さらに、X方向の段差S1が、第1側壁面部131sおよび第2側壁面部114sの間で通路延在方向と直交する方向の段差となっているので、流体導入通路101に導入された流体の流れを流体分配通路120側に分岐させる方向付けが容易にできる。
また、第1側壁面部131sが、第1段差面部111より小さい段差の範囲内でX方向の段差S1を形成する第3段差面部131kを有しているので、上流側通路形成壁面113の第1側壁面部131sに配される第3段差面部131kによって第1段差面部111より小さい段差の範囲内で第1方向の段差S3が形成され、流体導入通路101に導入された流体が流体分配通路120の開口121近傍で第1段差面部111によって方向付けられる前に、第3段差面部131kによって流体分配通路120の開口121前方側に到達する程度に予め第1方向に多少方向付けられる。したがって、流体導入通路101に導入された流体を流体分配通路120側に確実に分配できる。
加えて、通路内壁面110が、第1底壁面部133aおよび第2底壁面部133bに対向する上壁面部135を有し、その上壁面部135が、第2底壁面部133bに対向するとともに第1段差面部111より小さい段差の範囲内でY方向の段差S4を形成する第4段差面部135aを有しているので、流体導入通路101に導入された流体が流体分配通路120の開口121の近傍で第1段差面部111によって方向付けられるとともに、第2段差面部133cおよび第4段差面部135aによって第2方向に強く方向付けられることとなり、流体分配通路120の開口121近傍の流体に縦の渦がより生じ易くなって、流体分配通路120への流体の導入量が十分に確保できる。
また、上壁面部135の第4段差面部135aが、通路内底面部133の第2段差面部133cより小さい段差の範囲内で第2方向の段差S4を形成しているので、流体導入通路101に導入された流体が流体分配通路120の開口121近傍で第1段差面部111によって方向付けられる前に、第4段差面部135aによって第2段差面部133c側に到達する程度に予め第2方向に多少方向付けられる。
さらに、本実施形態では、トランスミッションケース10内底部側からの油のかき上げが回転するディファレンシャルリングギヤ37によって安定的に実行されるとともに、歯車の回転速度に応じてそのかき上げ量が増減変化することになり、所要の潤滑・冷却が可能となる。さらに、本実施形態の動力伝達装置が、車両用の変速機構である遊星歯車機構20とディファレンシャル機構30とを含み、ディファレンシャルリングギヤ37が、ディファレンシャル機構30に外装されたリングギヤとなっているので、周速の大きいディファレンシャルリングギヤ37によって効果的な潤滑油のかき上げがなされ、動力伝達装置の作動状態に適した十分な潤滑油の導入量を確保することが可能となる。
このように、本実施形態の動力伝達装置の流体通路構造によれば、流体導入通路101の通路内壁面110に開口する流体分配通路120の開口121の近傍で、第1段差面部111により通路延在方向とは異なるX方向の段差S1を形成するとともに流体導入通路101の通路幅を拡げるようX方向とは異なるY方向の段差を形成しているので、流体導入通路101中の流体をX方向およびY方向に曲がるように方向付け、この流体に渦流を生じさせることができ、その近傍で開口する流体分配通路120に流体が流れ込み易くなるようにして、ケースのサイズが制約される場合でも、動力伝達装置の作動状態に適した十分な冷却用流体の導入量を確保することができる動力伝達装置の流体通路構造を提供することができる。
しかも、本実施形態では、トランスミッションケース10が、ディファレンシャルリングギヤ37によりかき上げられた潤滑油を流体導入通路101を通して導入し、一時的に貯留するキャッチタンク141を有しているので、ディファレンシャルリングギヤ37によりトランスミッションケース10の内底部側からかき上げられた潤滑油が流体導入通路101からキャッチタンク141に導入されて一時的にそのタンクに貯留され、その潤滑油が徐々に歯車伝動部等にも予め定めた潤滑・冷却経路で流れることになり、貯留された潤滑油をかき上げるとともに攪拌することになるディファレンシャルリングギヤ37のような大物ギヤの回転負荷が有効に低減されることに加えて、各動作部の潤滑と発熱部の冷却が確実になされることになる。
なお、本発明にいう潤滑油のかき上げ用の伝動要素は、上述の実施形態で示したようなディファレンシャルリングギヤに限定されるものではなく、ケース内の内底部に少なくとも一部分が近接して潤滑油中に浸り、かき上げに適しているものであればよいし、歯車に限定されるものでもない。また、上述の実施形態では、流体分配通路120を第1段差面部111に近接する円形の開口を有するものとしたが、開口形状は特に限定されるものではなく、中間の通路内壁面は円弧断面のように湾曲したものに限らず、壁面が折れ曲がったものでもよい。
以上説明したように、本発明に係る動力伝達装置の流体通路構造は、流体導入通路の通路内壁面に開口する流体分配通路の開口近傍で、第1段差面部により通路延在方向とは異なる第1方向の段差を形成するとともに、流体導入通路の通路幅を拡げるよう第1方向とは異なる第2方向の段差を形成しているので、流体導入通路中の流体を第1方向および第2方向に曲がるように方向付け、この流体に渦流を生じさせることができ、その近傍で開口する流体分配通路に流体が流れ込み易くなるようにして、ケースのサイズが制約される場合でも、動力伝達装置の作動状態に適した十分な冷却用流体の導入量を確保することができる動力伝達装置の流体通路構造を提供することができるという効果を奏するものであり、動力伝達装置の流体通路構造、特にケース内の潤滑油を歯車等の伝動要素により上方側にかき上げて循環させるようにした動力伝達装置の流体通路構造全般に有用である。