図1は、本発明の一実施の形態に係るマルチパス検出装置を含む到来角度算出装置の構成例を示すブロック図である。本実施の形態に係る到来角度算出装置1は、所定の発振周波数で基準信号を発振可能な基準信号発生部10と、所定間隔離して配置された受信用アンテナ11a、11bと、受信用アンテナ11a、11bで受けた電波を、基準信号発生部10から出力される基準信号を用いて受信信号に変換し出力する受信部12a、12bと、受信部12a、12bから出力される受信信号から到来角度算出のための各種演算処理を行う演算部13と、を備える。なお、到来角度算出装置1は、電波の伝搬遅延に起因する位相遅れに基づいて到来角度を算出するため、同じ情報を持つ電波を所定間隔離れた2点(または2以上の点)で受信する必要がある。このため、受信電波に対応する2つ(またはそれ以上)のアンテナ及び受信系を備えていることが必要である。ただし、同一の到来電波(同じ情報単位)を所定間隔離れた2以上の位置で受信できるのであれば、到来角度算出装置1は、2以上の受信系を備えている構成に限定されない。
受信部12a、12bは、ローノイズアンプ、ミキサ、バンドパスフィルタなどを含み、所定周波数の電波を受信できるように構成されている。演算部13は、受信信号の相関処理を行う相関処理部21a、21bと、相関処理された受信信号のピークを検出するピーク検出部22a、22bと、ピーク検出部22a、22bで検出されたピークのタイミングに合わせて相関処理部21a、21bからの信号を出力するタイミング制御部23a、23bと、伝送路の遅延プロファイルに基づいて受信信号におけるマルチパスの干渉の程度を示す情報(以下、干渉度情報と呼ぶ)を生成する干渉度情報生成部24a、24bと、干渉度情報生成部24a、24bから通知される干渉度情報に基づいて到来角度を算出するか否かを判定する判定部25と、タイミング制御部23a、23b及び判定部25からの信号に基づいて、到来角度の計算を行う到来角度算出部26と、を含んで構成される。なお、演算部13の構成や機能は、ハードウェアで実現しても良いし、ソフトウェアで実現しても良い。
相関処理部21a、21bは、受信部12a、12bからの受信信号と当該受信信号と相関の高い信号とを乗算して出力する。相関処理部21a、21bにおいて乗じられる信号は受信信号との相関が高いため、相関処理部21a、21bから出力される信号は、相関区間でピークを有する。ピーク検出部22a、22bは、相関処理部21a、21bからの出力信号の電力を算出し、出力信号の電力ピークを検出する。タイミング制御部23a、23bは、ピーク検出部22a、22bにおいて検出されたピークタイミングに合わせて、相関処理部21a、21bからの出力信号を到来角度算出部26に出力する。干渉度情報生成部24a、24bは、伝送路の遅延プロファイル(ピーク期間の電力情報などを含む)を元に干渉度情報を算出し、生成された干渉度情報を判定部25に出力する。判定部25は、干渉度情報生成部24a、24bからの干渉度情報に基づいて、対象となる情報単位に相当する期間(以下、情報単位期間と呼ぶ)の受信信号を到来角度の算出に使用するか否かを判定し、判定結果を到来角度算出部26に出力する。
図2は、変調方式として直接スペクトラム拡散(DSSS)を用いる場合の到来角度算出装置の具体的構成例を示すブロック図である。なお、図2では、図1における演算部13に相当する構成のみを示している。
図2において、相関処理部21aは、拡散コードを発生する拡散コード発生器31と、受信信号と拡散コードとを乗算する乗算器32a、32bと、乗算器32a、32bの出力を1ビット期間分だけ足し合わせてピーク検出部22a及びタイミング制御部23aに出力する加算器33a、33bとを備える。ピーク検出部22aは、加算器33a、33bから出力された信号の電力を算出する電力算出部34aと、その電力ピークを検出してタイミング制御部23a及び干渉度情報生成部24aに出力するピーク電力検出部35aとを備える。タイミング制御部23aは、ピーク電力検出部35aからの信号を元に加算器33a、33bからの信号の到来角度算出部26への出力タイミングを制御するバッファ部36aを備える。干渉度情報生成部24aは、検出されたピーク期間の電力情報を元に、各情報単位期間(マルチパス検出区間)において希望波に対するマルチパスの干渉度を算出する干渉度算出部37aを備える。同様に、相関処理部21bは、拡散コード発生器31、乗算器32c、32d、加算器33c、33dを備え、ピーク検出部22bは、電力算出部34b、ピーク電力検出部35bを備え、タイミング制御部23bはバッファ部36bを備え、干渉度情報生成部24bは干渉度算出部37bを備える。到来角度算出部26は、バッファ部36aの出力の複素共役をとる複素共役部41と、複素共役部41の出力とバッファ部36bの出力とを複素乗算する複素乗算部42と、複素乗算部42の出力を用いて逆正接演算を行う逆正接部43と、複素乗算部42の出力信号からチップ区間ごとの電力を算出する電力算出部44と、電力算出部44からの情報に基づいて逆正接部43の出力を平均化する平均化部45と、平均化部45の出力を用いて到来角度に変換する到来角度変換部46とを備える。判定部25は、干渉度情報生成部24a、24bからの干渉度情報に基づいて、対象となる情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用するか否かを判定し、判定結果を到来角度算出部26の平均化部45に通知できるように構成されている。平均化部45は、判定部25からの通知に基づいて逆正接部43の出力を平均化する。
拡散コード発生器31は、DSSSによって周波数軸上に拡散された信号を逆拡散するための拡散コードを発生する。当該拡散コードは、送信側でコード変調(拡散)の際に使用された拡散コードに対応するものである。乗算器32a、32bは、受信信号に上記拡散コードを乗じて逆拡散を行う。乗算器32aには、受信部12aからの受信信号のうちの同相成分I1が入力される。また、乗算器32bには、受信部12aからの受信信号のうちの直交成分Q1が入力される。加算器33a、33bは、乗算器32a、32bのチップ区間ごとの出力を1ビットに相当する期間(ビット区間)足し合わせて出力する。図3Aに加算器33aからの出力波形の例を示す。図3Bは、図3Aに示す出力波形の部分拡大図である。また、図3Cに加算器33bからの出力波形の例を示す。図3Dは、図3Cに示す出力波形の部分拡大図である。
加算器33aの出力信号及び加算器33bの出力信号は、ピーク検出部22aの電力算出部34a、及びタイミング制御部23aのバッファ部36aに入力される。電力算出部34aは、加算器33a、33bの出力信号からチップ区間ごとの電力を算出する。具体的には、電力算出部34aは、同相成分に相当する加算器33aの出力信号の絶対値と、直交成分に相当する加算器33bの出力信号の絶対値とを足し合わせ、チップ区間ごとの電力情報としてピーク電力検出部35a及び干渉度情報生成部24aに出力する。ピーク電力検出部35aは、チップ区間ごとの電力情報を受け取ると、受信信号中の電力ピークを検出し、電力ピーク情報としてタイミング制御部23aのバッファ部36a及び干渉度情報生成部24aの干渉度算出部37aに出力する。なお、加算器33aの出力信号の2乗値と、加算器33bの出力信号の2乗値とを足し合わせてピーク電力検出部35a及び干渉度情報生成部24aに出力しても良い。
ピーク検出部22a(ピーク電力検出部35a)から出力される電力ピーク情報は、受信信号のピークの有無を判定する情報である。具体的には、電力ピーク情報は、受信信号のピーク点付近の期間(第1の区間t1)における電力の和Aと、DSSSでの情報単位となる1ビット期間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和Bとの比Ra(=A/B)がしきい値Rth1より大きいか否かを示す情報である(例えば、図8参照)。電力ピーク情報において、RaがRth1より大きい場合には、タイミング制御部23a(バッファ部36a)は、そのタイミングで受信信号がピークを有するものとして、1ビット分の信号Ia1及び信号Qa1を到来角度算出部26に出力する。このように、電力ピーク情報を用いることでピークの位置を適切に判別することができる。
干渉度情報生成部24a(干渉度算出部37a)において生成される干渉度情報は、各情報単位期間(マルチパス検出区間)にマルチパスが存在するか否かを示す情報である。具体的には、干渉度情報は、上述した電力ピーク情報に相当する第1の干渉度情報と第2の干渉度情報とを含む。
すなわち、第1の干渉度情報は、受信信号のピーク点を中心とする第1の区間t1における電力の和Aと、DSSSでの情報単位となる1ビット期間(マルチパス検出区間)から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和Bとの比Ra(=A/B)である。第1の干渉度情報であるRaの値は、例えば、対象のマルチパス検出区間においてマルチパスが存在する場合、マルチパスが存在しない場合と比較して小さくなる。このため、Raと所定の基準値(しきい値Rth2)とを比較することで、対象となる情報単位期間におけるマルチパスの有無を判定することができる。なお、第1の干渉度情報は、電力ピーク情報と同等の情報であるから、ピーク検出部22a(ピーク電力検出部35a)から出力される電力ピーク情報をそのまま用いても良い。
第2の干渉度情報は、受信信号の第1の区間t1における電力の和A、マルチパス検出区間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和B、第1の区間t1に隣接する第3の区間t3の信号電力Cを用いて表される比Rb(=A/(B−C))である。第2の干渉度情報であるRbの値は、例えば、第1の区間t1に隣接する第3の区間t3にマルチパスが存在する場合、第1の干渉度情報であるRaの値より大きくなる。これは、B−Cの値がBより小さくなるためである。このため、Rb−Raと所定の基準値(しきい値Rth3)とを比較することで、第1の区間t1に隣接する第3の区間t3におけるマルチパスの有無を判定することができる。判定部25は、Raとしきい値Rth2とを比較し、また、Rb−RaとRth3とを比較して、対象のマルチパス検出区間におけるマルチパスの有無、及び主波と干渉するマルチパス(以下、干渉性のマルチパスと呼ぶ)の有無を判定する。そして、その判定結果を元に平均化部45に対して所定の通知を行う。例えば、干渉度情報生成部24aから通知されたRaがRth2より小さく、Rb−RaがRth3より大きい場合、判定部25は干渉性のマルチパスがあると判定し、平均化部45に対して対象となっている情報単位期間(マルチパス検出区間)の受信信号を到来角度の算出に使用しない旨の通知を行う。
相関処理部21b(拡散コード発生器31、乗算器32c、32d、加算器33c、33d)、ピーク検出部22b(電力算出部34b、ピーク電力検出部35b)、タイミング制御部23b(バッファ部36b)、干渉度情報生成部24b(干渉度算出部37b)の動作や機能は、上記相関処理部21a(拡散コード発生器31、乗算器32a、32b、加算器33a、33b)、ピーク検出部22a(電力算出部34a、ピーク電力検出部35a)、タイミング制御部23a(バッファ部36a)、干渉度情報生成部24a(干渉度算出部37a)の動作や機能と同様である。判定部25は、同様に、干渉度情報生成部24b(干渉度算出部37b)から通知されるRaとしきい値Rth2とを比較し、Rb−RaとRth3とを比較して、その比較結果を元に平均化部45に対して所定の通知を行う。例えば、干渉度情報生成部24bから通知されたRaがRth2より小さく、Rb−RaがRth3より大きい場合、判定部25は干渉性のマルチパスがあると判定し、平均化部45に対して対象となっている情報単位期間(マルチパス検出区間)の受信信号を到来角度の算出に使用しない旨の通知を行う。
相関処理部21bに入力される受信信号と、相関処理部21aに入力される受信信号とは、同一電波を所定間隔離れた2点で受信した信号であり、位相が僅かに異なっている。このため、タイミング制御部23bから出力される信号と、タイミング制御部23aから出力される信号とでは、位相が僅かに相違する。タイミング制御部23aの出力O
a1、及びタイミング制御部23bの出力O
a2を、同相成分に相当する信号を実部、直交成分に相当する信号を虚部として複素数で表現すると、下記式(1)、(2)のようになる。なお、φ
1及びφ
2は、各信号の位相を表す。
タイミング制御部23aの出力O
a1は、到来角度算出部26の複素共役部41に入力される。複素共役部41は、タイミング制御部23aの出力O
a1の複素共役を複素乗算部42に出力する。つまり、複素共役部41からは、信号Ia1と、信号Qa1の符号が反転した信号が出力される。複素共役部41の出力O
a1´を複素数で表現すると、下記式(3)のようになる。
複素乗算部42は、複素共役部41の出力O
a1´と、タイミング制御部23bの出力O
a2とを複素乗算して、乗算結果である信号Ib及び信号Qbを逆正接部43及び電力算出部44に出力する。複素乗算部42の出力O
b、出力O
bの同相成分Ib及び直交成分Qbは下記式(4)〜(6)のように表される。
逆正接部43は、複素乗算部42の出力を用いて逆正接演算を行う。具体的には、複素乗算部42の出力信号Ibを分母とし、出力信号Qbを分子とした値の逆正接演算を行う。図4Aに逆正接部43からの出力波形の例を示す。逆正接部43の出力O
arctanは位相差φ
2−φ
1に相当し、下記式(7)で表される。
電力算出部44は、複素乗算部42の出力信号からチップ区間ごとの電力を算出する。具体的には、電力算出部44は、Ibの絶対値とQbの絶対値とを足し合わせ、チップ区間ごとの電力情報として平均化部45に出力する。なお、Ibの2乗値と、Qbの2乗値とを足し合わせて平均化部45に出力しても良い。図4Bに電力算出部44からの出力波形の例を示す。平均化部45は、チップ区間ごとの電力情報を受け取ると、判定部25から通知された判定結果に基づいて、逆正接部43の出力Oarctanを平均化して到来角度変換部46に出力する。ここで、例えば、判定部25から平均化部45に対し、対象となっている情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用しないよう通知された場合、平均化部45は、対象の情報単位期間に相当する逆正接部43の出力Oarctanを平均化に用いない。一方、判定部25から平均化部45に対し、対象となっている情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用するよう通知された場合、平均化部45は、対象の情報単位期間に相当する逆正接部43の出力Oarctanを平均化に用いる。これにより、干渉性のマルチパスが含まれる受信信号を除外して到来角度を算出できるので、到来角度の算出精度を高めることができる。
到来角度変換部46は、平均化部45の出力を用いて逆三角関数演算により到来角度に変換する。逆三角関数演算としては、例えば、逆正弦演算を適用することができる。当該演算によって求められる値、すなわち、到来角度変換部46の出力が、到来角度θ(rad)に相当する。到来角度変換部46の出力O
arcsinは下記式(8)で表される。なお、下記式において、λ(m)は受信波の波長であり、d(m)は受信用アンテナ間の距離である。
上記処理により到来角度が得られるのは、図5に示すような幾何学的な関係が成立するためである。所定の方向を基準として間隔d(m)離して配置された2つの受信用アンテナ11a、11bに到来する電波のなす角度をθ(rad)とする。受信用アンテナ11bに到来する電波の伝搬距離は、受信用アンテナ11aに到来する電波の伝搬距離と比べてΔ(m)だけ長くなり、位相遅延(位相差φ
2−φ
1(rad))が生じる。このモデルにおいて生じる伝搬距離の差分Δと位相差φ
2−φ
1との関係を受信波の波長λ(m)を用いて表すと、下記式(9)のようになる。なお、下記式において、Δ<λである。
また、上記モデルにおける伝搬距離の差分Δ、アンテナ間隔d、到来角度θの幾何学的な関係から、下記式(10)が成り立つ。
つまり、到来角度θは下記式(11)のように表されることになる。なお、式(11)は、到来角度変換部46における処理に相当する。このように、本実施の形態の到来角度算出装置によって到来角度が算出されることが分かる。
次に、到来角度算出装置を用いた位置検出システムの例について説明する。図6に示される位置検出システム101は、到来角度算出装置1aと、到来角度算出装置1aと所定距離D離して配置される他の到来角度算出装置1bと、アクセスポイント2又はユーザ端末3とを含んで構成される。アクセスポイント2及びユーザ端末3は、それぞれ送信系及び受信系を備え(図示せず)、双方向の情報伝送(通信)が可能に構成されている。また、アクセスポイント2及びユーザ端末3は、それぞれが備える送信系によって、到来角度算出装置1a及び到来角度算出装置1bに到来角度算出用の電波を送信できるように構成されている。位置検出の対象は、アクセスポイント2又はユーザ端末3のいずれでも良い。
到来角度算出装置1aは、アクセスポイント2の送信用アンテナから送信された電波を受信用アンテナ11aa、11abで受信して、到来角度算出装置1aを基準とする到来角度を算出する。また、到来角度算出装置1bは、アクセスポイント2の送信用アンテナから送信された電波を受信用アンテナ11ba、11bbで受信して、到来角度算出装置1bを基準とする到来角度を算出する。到来角度算出装置1aと到来角度算出装置1bの位置関係が既知であれば、それぞれを基準とする到来角度からアクセスポイント2の位置を決定することができる。ユーザ端末3の位置検出の場合は、到来角度算出装置1a及び到来角度算出装置1bは、ユーザ端末3から送信される電波の到来角度を算出する。
図7は本実施の形態に係る到来角度算出装置1における到来角度算出のフロー図である。到来角度算出装置1が到来角度算出対象の電波を受信すると、受信部12a、12bは相関処理部21a、21bに受信信号を出力する。そして、相関処理部21a、21bは、受信信号の相関処理及び加算処理を行う(ステップS201)。
その後、ピーク検出部22a、22bは、相関処理部21a、21bの出力信号から電力のピーク値Ppeakを検出する。そして、ピーク点付近の期間(第1の区間t1)における電力の和Aと、1ビット期間(情報単位の期間)から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和Bとを算出し、電力ピーク情報及び第1の干渉度情報として用いられる比Ra(=A/B)を算出する(ステップS202)。ピーク検出部22a、22bで算出されたRaは、タイミング制御部23a、23b及び干渉度情報生成部24a、24bに送られる。タイミング制御部23a、23bは、算出された比Ra(=A/B)と所定のしきい値Rth1とを比較して、Rth1よりRaが大きい場合、受信信号にピークが存在するものとして到来角度の計算に必要な信号を到来角度算出部26に出力する。
図8には、ピーク検出部22a、22bに入力される信号(遅延プロファイル)を模式的に示す。図8に示されるように、第1の区間t1には希望波(主波)が、隣接する第3の区間t3にはマルチパスがそれぞれ存在している。ピーク電力Ppeakは、図8におけるピーク点Pの電力であり、Aは、第1の区間t1における電力の和であり、Bは、1ビット期間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和である。例えば、図9に示すように、変調方式としてDSSSを用いる場合には、拡散コードの周期tcの約2倍の時間幅を有するピークが形成される。このため、当該2・tcの期間を第1の区間t1とすることができる。
干渉度情報生成部24a、24bは、受信信号の第1の区間t1における電力の和A、DSSSでの情報単位となる1ビット期間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和B、及び第1の区間t1に隣接する第3の区間t3の信号電力Cから、第2の干渉度情報として用いられる比Rb(=A/(B−C))を算出する(ステップS203)。ここで、第1の区間t1に隣接する第3の区間t3は、第3の区間t3にマルチパスが存在する場合に到来角度の算出精度が低下する時間領域である。具体的な第3の区間t3の長さは、所望する到来角度の算出精度に応じて適宜設定することができる。その後、干渉度情報生成部24a、24bは、第2の干渉度情報であるRbを、第1の干渉度情報であるRaと共に判定部25に送る。
判定部25は、干渉度情報生成部24aから送られたRaとしきい値Rth2とを比較する(ステップS204)。Raは、第1の区間t1における電力の和Aと、1ビット期間(マルチパス検出区間)から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和Bとの比(A/B)である。対象となるマルチパス検出区間にマルチパスが存在する場合、第2の区間t2における電力の和Bは、マルチパスが存在しない場合と比較して大きくなる。つまり、対象となるマルチパス検出区間にマルチパスが存在する場合、Raは、マルチパスが存在しない場合と比較して小さくなる。このため、ステップS204においてRaとしきい値Rth2とを比較することで、相関処理部21a側で処理された受信信号において、対象のマルチパス検出区間にマルチパスが存在するか否かを判定できる。
干渉度情報生成部24aから送られたRaがしきい値Rth2以上である場合(ステップS204:YES)、すなわち、相関処理部21a側で処理された受信信号において、対象となるマルチパス検出区間にマルチパスが存在しないと判定された場合、干渉度情報生成部24bから送られたRaとしきい値Rth2とを比較する(ステップS205)。ステップS205により、相関処理部21b側で処理された受信信号において、対象となるマルチパス検出区間にマルチパスが存在するか否かを判定することができる。
ステップS205において、干渉度情報生成部24bから送られたRaがしきい値Rth2以上である場合(ステップS205:YES)、すなわち、相関処理部21b側で処理された受信信号において、対象となるマルチパス検出区間にマルチパスが存在しないと判定された場合、判定部25は、平均化部45に対し、対象のマルチパス検出区間に対応する情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用するよう通知する(ステップS208)。
一方、ステップS204において、干渉度情報生成部24aから送られたRaがしきい値Rth2より小さい場合(ステップS204:NO)、すなわち、相関処理部21a側で処理された受信信号において、対象のマルチパス検出区間にマルチパスが存在すると判定された場合、干渉度情報生成部24aから送られたRb−Raとしきい値Rth3とを比較する(ステップS206)。Rbは、受信信号の第1の区間t1における電力の和A、DSSSでの情報単位となる1ビット期間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和B、及び第1の区間t1に隣接する第3の区間t3の信号電力Cから算出される比(=A/(B−C))である。このため、対象のマルチパス検出区間において第3の区間t3にマルチパスが現れる場合、RbはRaより大きくなってRb−Raは所定値より大きくなる。このため、ステップS206においてRb−Raとしきい値Rth3とを比較することで、相関処理部21a側で処理された受信信号において、対象のマルチパス検出区間において第3の区間t3に干渉性のマルチパスが存在するか否かを判定できる。
ステップS206において、干渉度情報生成部24aから送られたRb−Raがしきい値Rth3以下である場合(ステップS206:YES)、すなわち、相関処理部21a側で処理された受信信号において、対象のマルチパス検出区間において第3の区間t3にマルチパスが存在しないと判定された場合、干渉度情報生成部24bから送られたRb−Raとしきい値Rth3とを比較する(ステップS207)。ステップS207により、相関処理部21b側で処理された受信信号において、対象のマルチパス検出区間において第3の区間t3に干渉性のマルチパスが存在するか否かを判定することができる。
ステップS207において、干渉度情報生成部24bから送られたRb−Raがしきい値Rth3以下である場合(ステップS207:YES)、すなわち、相関処理部21b側で処理された受信信号において、対象のマルチパス検出区間において第3の区間t3に干渉性のマルチパスが存在しないと判定された場合、判定部25は、平均化部45に対し、対象のマルチパス検出区間に対応する情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用するよう通知する(ステップS208)。このように、第1の区間t1に隣接する第3の区間t3に干渉性のマルチパスが存在しない場合、希望波(主波)の持つ位相情報はマルチパスの影響を殆ど受けておらず、到来角度の算出精度は低下しない。このように希望波に対して干渉する干渉性のマルチパスが存在しない場合、対象となっている情報単位期間の受信信号を利用して、精度よく到来角度を算出することができる。
なお、ステップS205において、干渉度情報生成部24bから送られたRaがしきい値Rth2より小さい場合(ステップS205:NO)、すなわち、相関処理部21b側で処理された受信信号において、対象となるマルチパス検出区間にマルチパスが存在すると判定された場合、上述したステップS206を実行する。
また、ステップS206において、干渉度情報生成部24aから送られたRb−Raがしきい値Rth3より大きい場合(ステップS206:NO)、すなわち、相関処理部21a側で処理された受信信号において、対象となるマルチパス検出区間の第3の区間t3に干渉性のマルチパスが存在すると判定された場合、判定部25は、平均化部45に対し、対象となっているマルチパス検出区間に対応する情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用しないように通知する(ステップS209)。また、ステップS207において、干渉度情報生成部24bから送られたRb−Raがしきい値Rth3より大きい場合(ステップS207:NO)、すなわち、相関処理部21b側で処理された受信信号において、対象となるマルチパス検出区間の第3の区間t3に干渉性のマルチパスが存在すると判定された場合、判定部25は、平均化部45に対し、対象となっているマルチパス検出区間に対応する情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用しないように通知する(ステップS209)。このような場合、対象となっている情報単位期間の受信信号を利用して到来角度を算出すると、干渉性のマルチパスによって到来角度の算出精度が低下してしまうためである。
その後、上述したステップS208又はS209における通知に基づいて、到来角度算出部26(平均化部45)は、対象となっている情報単位期間の受信信号を用いて(ステップS208の場合)、又は、対象となっている情報単位期間の受信信号を用いないで(ステップS209の場合)到来角度を算出する(ステップS210)。
以上に示すように、本実施の形態に係る到来角度算出装置1は、第1の区間t1における電力の和Aと、1ビット期間(情報単位の期間、マルチパス検出区間)から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和Bとの比Ra(=A/B)、及び、受信信号の第1の区間t1における電力の和A、1ビット期間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和B、及び第1の区間t1に隣接する第3の区間t3の信号電力Cから算出される比Rb(=A/(B−C))を用いてマルチパス検出区間におけるマルチパスの有無、及び干渉性のマルチパスの有無を判定するため、到来角度の算出精度を低下させる恐れのある受信信号のみを適切に取り除いて到来角度を算出することができる。これにより、精度よく到来角度を算出することができる。
図10は、到来角度算出装置1における到来角度算出部26の別の一態様を説明するブロック図である。図10に示される到来角度算出部26は、タイミング制御部23aの出力Oa1の複素共役をとる複素共役部51と、複素共役部51の出力Oa1´と、タイミング制御部23bの出力Oa2を複素乗算する複素乗算部52と、複素乗算部52の出力を用いて逆正接演算を行う逆正接部53とを備える。複素共役部51、複素乗算部52、逆正接部53の動作や機能は、上述の複素共役部41、複素乗算部42、逆正接部43の動作や機能と同様である。また、逆正接部53の演算結果(位相差)を元に演算結果を補正する位相差補正部54と、位相差補正部54の出力を平均化する平均化部55と、位相差補正部54において補正を行った場合に平均化部55の演算結果(平均値)を補正する位相差再補正部56と、位相差再補正部56の出力を用いて到来角度に変換する到来角度変換部57と、を備える。到来角度変換部57の動作や機能は、上述の到来角度変換部46の動作や機能と同様である。
位相差補正部54は、逆正接部53の演算結果である位相差が、+180°(+π)付近や−180°(−π)付近の値になる場合、逆正接部の演算結果に所定の角度(位相差)を加える処理を行う。図11のI−Q平面に示すように、本実施の形態の到来角度算出部26は、位相差を−180°〜+180°(−π〜+π)の位相差範囲の座標上に投影する。このため、例えば、図12Aに示されるように、逆正接部53によって算出される位相差が+180°及び−180°近傍の値にならない場合には、これを平均化することで適切に到来角度を算出することができる。しかし、図12Bに示されるように、逆正接部53によって算出される位相差が+180°及び−180°近傍の値になる場合、算出される位相差の僅かな誤差が角度算出に大きな影響を与えることになる。ここで、位相差データとして、−178°及び+178°の2つの値が得られ、一方の値である+178°は本来の値である−178°から−4°の誤差が生じて+178°になっていると想定する。これらの差は、実際には僅かに4°である。つまり、本来であれば、位相差の平均値は約180°となる。しかし、平均化処理において、−178°と+178°として平均化すると、平均値は0°となる。実際には約180°の位相差が存在するにもかかわらず、平均化処理によって0°として扱われてしまうのである。このように、平均化された位相差が本来の位相差から大幅にずれてしまうと、適切な到来角度算出は困難になる。
そこで、図10に示される到来角度算出部26は、逆正接部53によって算出される位相差が+180°及び−180°付近の値になる場合、位相差補正部54が逆正接部53の演算結果に所定の角度(位相差)を加える補正処理を行って、適切な平均化が行われるようにする。逆正接部53の演算結果が+180°または−180°近傍の値であるか否かは、逆正接部53の演算結果として得られる複数の位相差の分布を元に判定することができる。例えば、+90°(+π/2)より大きく、または−90°(−π/2)より小さい位相差の数が、+90°より小さくかつ−90°より大きくなる位相差の数より多い場合には、逆正接部53の演算結果が+180°及び−180°付近の値であると判定できる。位相差補正部54が加える角度(位相差)は、例えば+90°とすることができるが、適切な平均化処理が可能な角度であればこれに限られない。−90°、+180°または−180°のいずれかでも良い。
平均化部55は、位相差補正部54の出力を平均化する。本実施の形態の到来角度算出部26は、平均化に適さない位相差が算出される場合に位相差を加える補正を行うため、平均化部55において適切な平均化処理が可能である。なお、干渉性のマルチパスが存在する場合、対象の受信信号を排除して平均化を行う点は平均化部45と同様である。位相差再補正部56は、位相差補正部54において位相差の補正を行っている場合に平均化部55の出力を補正する。具体的には、位相差補正部54において補正値として加えた角度(位相差)を減ずる補正を行う。
図13に、位相差が+180°及び−180°付近となる場合の到来角度算出の概略を模式的に示す。逆正接部53によって算出された位相差が、I−Q平面において+180°及び−180°付近の場合、位相差補正部54は位相差に補正値(+90°)を加えて座標軸を回転させ、平均値算出用の座標軸に変換する。平均化部55は、当該データを元に平均値(−92°)を算出する。位相差再補正部56は、位相差補正部54の出力データから補正値(+90°)を減ずる補正を行い、到来角度変換部57に補正されたデータ(+178°)を出力する。
図14は上記到来角度算出部26における処理フロー図である。到来角度算出部26の複素共役部51は、ステップ301において、タイミング制御部23aの出力Oa1の複素共役を算出する。また、複素乗算部52は、ステップ302において、タイミング制御部23bの出力Oa2と複素共役部51の出力Oa1´とを乗算する。そして、逆正接部53は、ステップ303において、複素乗算部52の出力を用いて逆正接演算を行い、受信信号間の位相差を算出する。
ステップ304において、位相差補正部54は、算出された位相差がI−Q平面において+180°及び−180°近傍の値であるかを判定する。算出された位相差が+180°及び−180°近傍の値でない場合はステップ305に進み、到来角度算出部26は位相差を補正することなく到来角度を算出する。算出された位相差が+180°近傍、または−180°近傍の値の場合はステップ306に進む。当該判定は、上述のように、+90°より大きく、または−90°より小さい位相差の数が、+90°より小さくかつ−90°より大きくなる位相差の数より多いかどうかを基準として行うことができる。
ステップ306において、位相差補正部54は、逆正接部53の演算結果である位相差に90°を加える処理を行う(位相差を+90°する)。ステップ307において、平均化部55は、位相差補正部54の出力を平均化する。そして、ステップ308において、位相差再補正部56は、平均化部55の演算結果である平均値から90°を減ずる処理を行う(位相差を−90°する)。その後、ステップ309において、到来角度変換部57は、位相差再補正部56の出力から到来角度を算出する。このように、図10に示される到来角度算出部26では、所定の位相差を加えて平均化した後に所定の位相差を減ずるという一連の処理によって適切な平均値が算出されるため、到来角度の算出精度が低下せずに済む。その結果、到来角度の算出精度を十分に高めることができる。
なお、ここでは、位相差補正部54が、逆正接部53の演算結果に所定の角度を加える処理を行っているが、適切な平均化処理が実現できるのであればこれに限られない。例えば、図15に示すような構成の到来角度算出部26を用いることもできる。図15に示す到来角度算出部26は、タイミング制御部23aの出力Oa1の複素共役をとる複素共役部61と、複素共役部61の出力Oa1´と、タイミング制御部23bの出力Oa2を複素乗算する複素乗算部62とを備える。複素共役部61、複素乗算部62の動作や機能は、上述の複素共役部41、複素乗算部42の動作や機能と同様である。また、複素乗算部62の出力の同相成分(I成分)の絶対値と直交成分(Q成分)の絶対値とを比較するIQ比較部63と、複素乗算部62の出力を用い、IQ比較部63の出力に応じて演算方法を選択、変更して逆正接演算を行う逆正接部64とを備える。また、逆正接部64の演算結果である位相差を平均化する平均化部65と、逆正接部64の演算方法に応じて平均化部65の演算結果である平均値を補正する位相差再補正部66と、位相差再補正部66の出力を用いて到来角度に変換する到来角度変換部67と、を備える。到来角度変換部67の動作や機能は、上述の到来角度変換部46の動作や機能と同様である。
IQ比較部63は、複素乗算部の出力の同相成分(I成分)が負であるか否かを判定すると共に、複素乗算部62の出力の同相成分(I成分)の絶対値と直交成分(Q成分)の絶対値とを比較する。具体的には、IQ比較部63は、同相成分Ibの符号を判定すると共に、同相成分の絶対値|Ib|が直交成分の絶対値|Qb|より十分に大きいか否か(直交成分の絶対値|Qb|が同相成分の絶対値|Ib|より十分に小さいか否か)を判定する。受信信号の位相差がI−Q平面において+180°及び−180°近傍の値をとる場合には、同相成分Ibが負になり(Ib<0)、同相成分の絶対値|Ib|が直交成分の絶対値|Qb|より十分に大きくなる。このため、同相成分Ibの符号を判定し、同相成分の絶対値|Ib|が直交成分の絶対値|Qb|より十分に大きいか否かを判定することにより、位相差が+180°及び−180°近傍の値をとるか否かを判定することができる。
逆正接部64は、複素乗算部62の出力を用い、IQ比較部63の出力に応じて演算方法を選択して逆正接演算を行う。同相成分が正である場合や、同相成分が負であり、かつ同相成分の絶対値|Ib|が直交成分の絶対値|Qb|と同程度であるか、または小さい場合、複素乗算部62の出力Ibを分母とし、出力Qbを分子とした値の逆正接演算を行う。同相成分が負であり、かつ同相成分の絶対値|Ib|が直交成分の絶対値|Qb|より十分に大きい場合、例えば、複素乗算部62の出力Qbの符号を反転させた−Qbを分母とし、出力Ibを分子とした値の逆正接演算を行う。なお、同相成分の絶対値|Ib|が直交成分の絶対値|Qb|より十分に大きい場合の上記処理は、座標軸を+90°回転させて逆正接演算を行う処理に相当する。つまり、当該処理によって得られる位相差は、元来の位相差に+90°が加えられた値である。
なお、同相成分の絶対値|Ib|が直交成分の絶対値|Qb|より十分に大きい場合の処理は、上述のものに限られない。例えば、複素乗算部62の出力Qbを分母とし、出力Ibの符号を反転させた−Ibを分子とした値の逆正接演算を行っても良い。当該処理は、座標軸を−90°回転させて逆正接演算を行う処理に相当する。つまり、当該処理によって得られる位相差は、元来の位相差に−90°が加えられた値(+90°が減じられた値)である。また、例えば、複素乗算部62の出力Ibの符号と、出力Qbの符号とを反転させて逆正接演算を行っても良い。当該処理は、座標軸を+180°(または−180°)回転させて逆正接演算を行う処理に相当する。つまり、当該処理によって得られる位相差は、元来の位相差に+180°(または−180°)が加えられた値である。このような処理によっても、適切な平均値を算出することができる。
平均化部65は、逆正接部64の出力を平均化する。本実施の形態の到来角度算出部26は、平均化に適さない位相差が算出される場合に実質的に位相差を加える(または減ずる)補正を行うため、平均化部65において適切な平均化処理が可能である。位相差再補正部66は、逆正接部64が座標軸を+90°回転させる処理を行っている場合に平均化部65の出力を補正する。具体的には、+90°を減ずる補正を行う。なお、逆正接部64が座標軸を−90°回転させる処理を行っている場合には、−90°を減ずる補正(つまり、+90°を加える補正)を行う。同様に、逆正接部64が座標軸を+180°(または−180°)回転させる処理を行っている場合には、+180°(または−180°)を減ずる補正を行う。
このように、図15に示す到来角度算出部26も、図10に示される到来角度算出部26と同様に適切な平均値を算出できるため、到来角度の算出精度が低下せずに済む。その結果、到来角度の算出精度を十分に高めることができる。
図16は、変調方式として直交周波数分割多重(OFDM)を用いる場合の到来角度算出装置の具体的構成例を示すブロック図である。なお、図16では、図1における演算部13に相当する構成のみを示している。
図16において、相関処理部21aは、受信部12aの出力の複素共役をとる複素共役部71aと、受信部12aの出力を所定期間だけ遅延させて出力する遅延部72aと、複素共役部71aの出力と遅延部72aの出力とを複素乗算する複素乗算部73aと、複素乗算部73aの出力をGI(ガードインターバル)期間だけ足し合わせて出力する加算器74a、74bとを備える。ピーク検出部22aは、加算器74a、74bから出力された信号の電力を算出する電力算出部75aと、その電力ピークを検出してタイミング制御部23aに出力するピーク電力検出部76aとを備える。タイミング制御部23aは、ピーク電力検出部76aからの信号を元に受信部12aからの信号の到来角度算出部26への出力タイミングを制御する遅延部77aを備える。干渉度情報生成部24aは、伝送路の遅延プロファイルを元に、各情報単位期間(マルチパス検出区間)において希望波(主波)に対するマルチパスの干渉度を算出する干渉度算出部78aを備える。同様に、相関処理部21bは、複素共役部71b、遅延部72b、複素乗算部73b、加算器74c、74dを備え、ピーク検出部22bは、電力算出部75b、ピーク電力検出部76bを備え、タイミング制御部23bは遅延部77bを備え、干渉度情報生成部24bは干渉度算出部78bを備える。到来角度算出部26は、遅延部77aの出力の複素共役をとる複素共役部81と、複素共役部81の出力と、遅延部77bの出力を複素乗算する複素乗算部82と、複素乗算部42の出力をGI(ガードインターバル)期間だけ足し合わせて出力する加算部83a、83bと、加算部83a、83bの出力を用いて逆正接演算を行う逆正接部84と、逆正接部84の出力を平均化する平均化部85と、平均化部85の出力を用いて到来角度に変換する到来角度変換部86とを備える。判定部25は、干渉度情報生成部24a、24bからの干渉度情報に基づいて、対象となる情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用するか否かを判定し、判定結果を到来角度算出部26の平均化部85に通知できるように構成されている。平均化部85は、判定部25からの通知に基づいて逆正接部84の出力を平均化する。
遅延部72a、72bは、OFDMシンボル列の自己相関をとるため、受信部12aの出力を所定期間だけ遅延させて出力する。具体的には、遅延部72a、72bは、複素共役部71aが出力するOFDMシンボルの末部と、遅延部72a、72bが出力するGI(ガードインターバル)とが同じタイミングで複素乗算部73aに入力されるように、受信部12aの出力を所定期間だけ遅延させて出力する。複素乗算部73aは、複素共役部71aの出力と遅延部72aの出力とを複素乗算する。加算器74a、74bは、複素乗算部73aのチップ区間ごとの出力をGI期間だけ足し合わせて出力する。
図17Aは、OFDMシンボル列の構成を示す模式図である。図17Aに示すように、OFDMシンボル列は、データ部であるOFDMシンボルと、OFDMシンボルの先頭に配置されるGIとによって構成される。GIはOFDMシンボル末部をコピーしたデータであり、OFDMシンボル間の干渉を防ぐために挿入される。図17Bは、相関処理部21aにおけるOFDMシンボル列の相関処理(自己相関処理)の様子を示す模式図である。図17Bに示すように、遅延部72aの出力は、複素共役部71aの出力に対してOFDMシンボル長だけ遅れている。このため、複素乗算部73aにおいて、複素共役部71aの出力と遅延部72aの出力とを乗算することで自己相関をとることができる。自己相関値(GI相関値)は、複素共役部71aの出力と遅延部72aの出力にGIと同じデータが現れたときにピークを示すため、これを用いることで、データ部であるOFDMシンボルの先頭を検出することができる。
加算器74a、74bの出力信号は、ピーク検出部22aの電力算出部75aに入力される。電力算出部75aは、加算器74a、74bの出力信号からチップ区間ごとの電力を算出する。具体的には、電力算出部34aは、同相成分に相当する出力信号の絶対値と、直交成分に相当する出力信号の絶対値とを足し合わせ、チップ区間ごとの電力情報としてピーク電力検出部76a及び干渉度情報生成部24aに出力する。なお、同相成分に相当する出力信号の2乗値と、直交成分に相当する出力信号の2乗値とを足し合わせてピーク電力検出部76aに出力しても良い。図18Aに電力算出部75aからの出力波形の例を示す。図18Bは、図18Aに示す出力波形の部分拡大図である。ピーク電力検出部76aは、チップ区間ごとの電力情報を受け取ると、受信信号中の電力ピークを検出し、電力ピーク情報としてタイミング制御部23aの遅延部77a及び干渉度情報生成部24aの干渉度算出部78aに出力する。
ピーク検出部22a(ピーク電力検出部35a)から出力される電力ピーク情報は、受信信号のピークの有無を判定する情報である。具体的には、電力ピーク情報は、受信信号のピーク点付近の期間(第1の区間t1)における電力の和Aと、OFDMでの情報単位となる1シンボル期間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和Bとの比Ra(=A/B)がしきい値Rth1より大きいか否かを示す情報である。変調方式としてOFDMを用いる場合、第1の区間t1はGI期間に等しくなる。また、1シンボル期間とは、GI期間とデータ期間(OFDMシンボル期間)とを合計した期間に相当する。電力ピーク情報において、RaがRth1より大きい場合には、タイミング制御部23a(遅延部77a)は、そのタイミングで受信信号がピークを有するものとして、受信部12aからの受信信号を到来角度算出部26に出力する。
干渉度情報生成部24a(干渉度算出部78a)において生成される干渉度情報は、各情報単位期間(マルチパス検出区間)にマルチパスが存在するか否かを示す情報である。具体的には、干渉度情報は、上述した電力ピーク情報に相当する第1の干渉度情報と第2の干渉度情報とを含む。
すなわち、第1の干渉度情報は、受信信号のピーク点を中心とする第1の区間t1における電力の和Aと、OFDMでの情報単位となる1シンボル期間(マルチパス検出区間)から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和Bとの比Ra(=A/B)である。なお、第1の干渉度情報は、電力ピーク情報と同等の情報であるから、ピーク検出部22a(ピーク電力検出部35a)から出力される電力ピーク情報をそのまま用いても良い。第2の干渉度情報は、受信信号の第1の区間t1における電力の和A、マルチパス検出区間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和B、第1の区間t1に隣接する第3の区間t3の信号電力Cを用いて表される比Rb(=A/(B−C))である。判定部25は、Raとしきい値Rth2とを比較し、また、Rb−RaとRth3とを比較する。そして、その比較結果を元に平均化部85に対して所定の通知を行う。例えば、干渉度情報生成部24aから通知されたRaがRth2より小さく、Rb−RaがRth3より大きい場合、判定部25は干渉性のマルチパスがあると判定し、平均化部85に対して対象となっている情報単位期間(マルチパス検出区間)の受信信号を到来角度の算出に使用しない旨の通知を行う。
相関処理部21b(複素共役部71b、遅延部72b、複素乗算部73b、加算器74c、74d)、ピーク検出部22b(電力算出部75b、ピーク電力検出部76b)、タイミング制御部23b(遅延部77b)、干渉度情報生成部24b(干渉度算出部78b)の動作や機能は、相関処理部21a(複素共役部71a、遅延部72a、複素乗算部73a、加算器74a、74b)、ピーク検出部22a(電力算出部75a、ピーク電力検出部76a)、タイミング制御部23a(遅延部77a)、干渉度情報生成部24a(干渉度算出部78a)の動作や機能と同様である。判定部25は、同様に、干渉度情報生成部24b(干渉度算出部78b)から通知されるRaとしきい値Rth2とを比較し、Rb−RaとRth3とを比較して、その比較結果を元に平均化部85に対して所定の通知を行う。例えば、干渉度情報生成部24bから通知されたRaがRth2より小さく、Rb−RaがRth3より大きい場合、判定部25は干渉性のマルチパスがあると判定し、平均化部85に対して対象となっている情報単位期間(マルチパス検出区間)の受信信号を到来角度の算出に使用しない旨の通知を行う。
相関処理部21bに入力される受信信号と、相関処理部21aに入力される受信信号とは、同一電波を所定間隔離れた2点で受信しているため位相が僅かに異なっている。このため、タイミング制御部23bから出力される信号と、タイミング制御部23aから出力される信号とでは、位相が僅かに相違する。
タイミング制御部23aの出力は、到来角度算出部26の複素共役部81に入力される。複素共役部81は、タイミング制御部23aの出力の複素共役を複素乗算部82に出力する。複素乗算部82は、複素共役部81の出力と、タイミング制御部23bの出力とを複素乗算して、演算結果を加算部83a、83bに出力する。加算部83a、83bは、複素乗算部82のチップ区間ごとの出力をGI期間だけ足し合わせて逆正接部84に出力する。図18Cに加算部83a、83bからの出力波形の例を示す。図中で、加算部83aの出力波形はIで示しており、加算部83bの出力波形はQで示している。
逆正接部84は、加算部83a、83bの出力を用いて逆正接演算を行い、受信信号の位相差を算出する。図18Dに逆正接部84からの出力波形の例を示す。平均化部85は、判定部25から通知された判定結果に基づいて、逆正接部84の出力を平均化して到来角度変換部86に出力する。ここで、例えば、判定部25から平均化部85に対し、対象となっている情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用しないよう通知された場合、平均化部85は、対象の情報単位期間に相当する逆正接部84の出力を平均化に用いない。一方、判定部25から平均化部85に対し、対象となっている情報単位期間の受信信号を到来角度の算出に使用するよう通知された場合、平均化部85は、対象の情報単位期間に相当する逆正接部84の出力を平均化に用いる。これにより、干渉性のマルチパスが含まれる受信信号を除外して到来角度を算出できるため、到来角度の算出精度を高めることができる。到来角度変換部86は、平均化部85の出力を用いて逆三角関数演算により到来角度に変換する。当該演算によって求められる値、すなわち、到来角度変換部86の出力が、到来角度に相当する。
このように、図16の演算部13を有する到来角度算出装置1においても、第1の区間t1における電力の和Aと、1シンボル期間(情報単位の期間、マルチパス検出区間)から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和Bとの比Ra(=A/B)、及び、受信信号の第1の区間t1における電力の和A、1ビット期間から第1の区間t1を除いた第2の区間t2における電力の和B、及び第1の区間t1に隣接する第3の区間t3の信号電力Cから算出される比Rb(=A/(B−C))を用いてマルチパス検出区間におけるマルチパスの有無、及び干渉性のマルチパスの有無を判定するため、到来角度の算出精度を低下させる恐れのある受信信号のみを適切に取り除いて到来角度を算出することができる。これにより、精度よく到来角度を算出することができる。
図19は、到来角度算出装置1をカプセル内視鏡の位置特定に応用したカプセル内視鏡システムについて示す模式図である。図19に示すカプセル内視鏡システムは、複数のセンサアレイ401と、センサアレイ401からのデータを記録するデータレコーダー402とを備える。センサアレイ401は、到来角度算出装置1の受信用アンテナに相当するアンテナを備えており、患者が飲み込んだカプセル内視鏡からの電波を受信できるように構成されている。データレコーダー402は、センサアレイ401において受信した電波の持つ位相情報から、患者が飲み込んだカプセル内視鏡の位置を特定する。
患者が飲み込んだカプセル内視鏡は、消化管の蠕動運動によって移動する。カプセル内視鏡の位置はモニタされており、診察部位に到達したか否かを確認することができる。カプセル内視鏡が診察部位に到達すると、カプセル内視鏡は診察部位の様子を撮影してデータレコーダー402に送信し、データレコーダー402は画像情報を記録する。このように、カプセル内視鏡の位置をモニタすることで、診察部位を見逃すことなく撮影することができる。また、カプセル内視鏡が診察部位に到達したタイミングでカメラ等の電源を入れ、診察部位をはずれた場合にはカメラ等の電源を切る事が可能になるため、電池容量を小さくする事ができる。また、センサ(アンテナ)の数を削減する事が可能となる。また、電池容量が同じであれば、従来型のカプセル内視鏡と比較して多数の画像を送信でき、鮮明な画像を得ることができる。
このように、到来角度算出装置1をカプセル内視鏡の位置特定に応用することで、優れたカプセル内視鏡システムを構築することができる。
以上のように、本発明のマルチパス検出方法及び到来角度算出装置によれば、各マルチパス検出区間において最も早く到来する主波のピークを中心とした第1の区間の信号電力A、及び当該マルチパス検出区間において第1の区間を除いた第2の区間の信号電力Bから算出されるA/Bと、第1のしきい値とを比較するため、マルチパスを精度よく検出することができる。また、第1の区間の信号電力A、第2の区間の信号電力B、及び第1の区間に隣接する第3の区間の信号電力Cから算出されるA/BとA/(B−C)との差と、第2のしきい値とを比較することにより干渉性のマルチパスを検出することができる。これにより、マルチパスをさらに精度よく検出することができる。
なお、本発明は上記実施の形態の記載に限定されず、その効果を発揮する態様で適宜変更することができる。また、上記実施の形態において、添付図面に示されている構成などは、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。