液晶表示装置は、消費電力及び駆動電圧が低く、かつ軽量であること等の利点により、時計の表示板、並びに携帯電話、コンピュータ及びテレビのディスプレイといった表示装置に広範に用いられている。
図1は、液晶表示装置の内で、VA(vertical alignment)モードの液晶表示装置について、特に平面型電極を用いた際の構造の一例の概略を説明するための断面図である。
図1において、(A)は電界がOFFの場合、(B)は電界がONの場合の状態を表している。
この液晶表示装置は、対向した一対のガラス基板などの基板1a、1bと、これら基板1aと基板1bとの間に形成された液晶層2とを備えている。ここで、基板1bは、薄膜トランジスタ基板(TFT)である。
基板1a、1bの液晶層2と接する面には、液晶分子を配向制御するための配向膜8が形成されている。配向膜は、液晶分子を所定の状態に配向制御可能なものであれば特にその組成などは限定されないが、一般にはポリイミドと総称される高分子膜が広く使用されている。
基板1aには、所望のカラーを実現するためのカラーフィルタ層4、カラーフィルタ層4を保護するためのオーバーコート層5及び平面型電極6が順次形成されている。基板1bには、平面型電極6が形成されている。
そして、液晶層2は、基板1a、1bに形成された平面型電極6と接していると共に、シール材9によって封止されている。
このVAモードの液晶表示装置では、(A)電界がOFFの場合、液晶層2中の液晶分子(ネガ型液晶分子)3が基板1a、1bに対して垂直に配向し、(B)電界がONの場合、液晶分子(ネガ型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に垂直に配向、すなわち基板1a、1bに対して平行に配向する。
図2は、液晶表示装置の内で、VA(vertical alignment)モードの液晶表示装置について、特に櫛型電極を用いた際の構造の一例の概略を説明するための断面図である。
図2において、(A)は電界がOFFの場合、(B)は電界がONの場合の状態を表す。
この液晶表示装置は対向した一対のガラス基板などの基板1a、1bと、これら基板1aと基板1bとの間に形成された液晶層2とを備えている。ここで、基板1bは、薄膜トランジスタ基板(TFT)である。
基板1a、1bの液晶層2と接する面には、液晶分子を配向制御するための配向膜8が形成されている。
基板1aには、所望のカラーを実現するためのカラーフィルタ層4、及びカラーフィルタ層4を保護するためのオーバーコート層5が順次形成されている。基板1bには、櫛型電極7が形成されている。
そして、液晶層2は、基板1bに形成された櫛型電極7と接していると共に、シール材9によって封止されている。
なお、櫛型電極構造には、FFS(フリンジフィールドスィッチング)モード(例えば、特許文献1等を参照)を用いることも可能である。
このVAモードの液晶表示装置では、(A)電界がOFFの場合、液晶層2中の液晶分子(ポジ型液晶分子)3が基板1a、1bに対して垂直に配向し、(B)電界がONの場合、液晶分子(ポジ型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に平行に配向、すなわち基板1a、1bに対して平行に配向する。
上記のように、VAモードの液晶表示装置では、液晶分子3の内部に所定の分極を与えることにより、電界がONの場合に電気力線に平行、又は、垂直に配向を生じさせる一方で、電界がOFFであって、液晶分子に対する外部からの電界の働き掛けがない場合には、液晶層2中の液晶分子3が基板に対して垂直に配向するように構成されている。
このように、電界がOFFであり、液晶分子に対する外部からの電界の働き掛けがない場合に液晶分子3を基板に垂直に配向させるために、VAモードの液晶表示装置では、基板上に設ける配向膜に対して液晶分子が垂直に配向するように所定の処置がなされている。
上記のような液晶表示装置を製造するプロセスにおいて、上記配向膜の形成、及び、液晶分子の注入は、以下に説明するようなプロセスにより行われる。
つまり、所定のTFTや電極などの構造が作り込まれた基板1aと基板1b(対向基板)とを洗浄した後、基板1aと基板1bの表面にそれぞれ印刷装置等を用いて成分の調整されたポリイミド溶液等を塗布し、その後に、仮焼成、本焼成を行うことによって均一な膜厚の配向膜が形成される。
その後、スクリーン印刷法等によって、紫外線硬化樹脂又は熱硬化樹脂から成るシール材を一方の基板(例えば、基板1b)上の表示領域の周囲に塗布する。その後の工程は、基板上への液晶組成物の供給方法に応じて変化する。
つまり、従来から用いられてきた方法によれば、予め2枚の基板を重ね合わせて、中央部分に液晶組成物が収納されるギャップを形成した状態で、基板周囲に設けたシール材を硬化させて基板同士を接合しておき、当該ギャップを減圧することで液晶組成物を吸引させることで、図1,2に記載したような液晶表示パネルの構造を形成できる。
一方、近年用いられる液晶滴下・真空貼り合わせ法[One-Drop-Fill(ODF)法]によれば、周囲にシール材の設けられた基板1bに対して、その表示領域に液晶滴下用デスペンサ等の液晶滴下装置を用いて液晶組成物が滴下される。次いで、気泡が混入しないように基板1aと基板1bとを貼り合せて両側から押圧してシール材と液晶組成物の液滴を押し潰すと共に、両基板間に液晶組成物が挟まれるギャップを形成する。この状態でシール材を硬化させて液晶組成物を封止することで、図1,2に記載したような液晶表示パネルの構造を形成できる。
そして、形成した液晶表示パネルに、変換基板、インターフェース基板、信号処理基板等を実装することによって、液晶表示装置が完成する。 上記製造工程において、上記基板1a,b上に形成される配向膜は、その後に注入される液晶分子との相互作用により液晶分子を配向制御するために設けられている。このために、配向膜は液晶表示装置の構造に応じて所定の特性を持つようにその表面構造などが制御される。
つまり、電圧が印加されない状態で液晶分子が配向膜と平行になるように制御されるTN(Twisted Nematic)モードの液晶表示装置においては、上記で形成された配向膜をバフ布などで一定方向に擦るラビング処理を行うことにより、液晶分子を配向膜と平行に配向させることが可能になる。一方、VAモードにおいては、電圧が印加されない状態で液晶分子が配向膜と垂直に配向するように配向膜の構造が制御される。
一般にVAモードにおいて使用される配向膜においては、ポリイミド中にアルキル基やフッ素含有基のような疎水構造を導入して側鎖型ポリマーとし、このような側鎖を形成した配向膜表面から垂直に突出させることで液晶分子を垂直に配向させることが行われる。VAモードで使用される配向膜の垂直配向性をこのような方法で向上するためには、ポリイミドが有する側鎖の密度を高めることが有効である。
しかしながら、配向膜の垂直配向性を向上するために過剰に高密度の側鎖が導入された場合には、配向膜を形成する際の印刷が困難になり、均一な配向膜の形成が困難になることが知られている(例えば、特許文献2)。このためVAモードにおいて使用される配向膜においては、良好な印刷性の確保の要請との関係において、必ずしも充分な垂直配向性を持たせることが困難である。そして、そのような通常の配向膜を用いた基板に上記ODF法により液晶を注入した場合、「滴下痕」が発生し、液晶表示装置として使用した際に表示ムラを生じる原因となることが知られている。
当該「滴下痕」が発生する直接の原因は必ずしも明らかでないが、一般には配向膜が液晶組成物を垂直に配向させる能力が充分でなく、液晶組成物の滴下を行った際に何らかの作用により一部の液晶分子が配向膜に固着して、正常な移動度を有しないことになったためと考えられている。
上記液晶の滴下痕の発生を防止するための対策としては、配向膜の性能向上の他、特許文献3には、所定の液晶組成物を使用することで、滴下痕の発生を防止する技術が記載されている。
VAモードの液晶表示パネルを製造する際に、ODF法により液晶組成物の液滴が滴下された位置に表示ムラを生じる、いわゆる「滴下痕」が発生する直接の原因は必ずしも明らかにされていない。しかし、滴下痕の発生は、工業的に同様な工程を経た場合にも発生する場合としない場合を生じ、また、単一の基板内部でも滴下痕が局所的に発生するなど、多くの因子が複合的に関係して生じるものであると考えられる。
このような滴下痕の発生原因について本発明者が種々の状況に基づいて検討を行った結果、配向膜を構成するポリイミド等において、液晶分子を垂直に配向させるため付加される側鎖の密度が小さい場合に滴下痕が高い確率で発生する傾向が観察された。
図3には、後述する方法で製造された側鎖の密度が異なるポリイミド配向膜がそれぞれ有する表面エネルギーと表面荒さについて示す。また、図4には、ガラス基板上に形成された当該ポリイミド配向膜に対して市販のVAモード用n型混合液晶(メルク、MLC−6608)を3μl滴下した際の液滴の直径(Diameter of liquid crystal droplet)について示す。また、図5には、ポリイミド配向膜上に液晶を滴下した後に同様のガラス基板を貼り合わせた際の滴下痕の発生状況について示す。
図3に示すように、ポリイミドの側鎖密度が増加するに従い、ポリイミドの表面エネルギーが低下すると共に、表面荒さが大きくなる。この時、図4に示すように、ポリイミドの側鎖密度(Molar fraction of side group)が増加するに従い滴下した液晶の直径が小さくなる傾向が見られ、液晶との濡れ性が小さくなることが推察される。また、図5に示すように、側鎖密度が増加するに従い滴下痕が発生し難くなり、配向欠陥が解消する。
以上の結果より、本発明者は、滴下痕の発生のメカニズムについて、ポリイミド配向膜の側鎖密度が十分でない場合には液晶分子を膜に垂直に配向させる能力が小さく、さまざまな原因に起因する揺らぎによって、特にODF法により滴下された液晶分子が配向膜と垂直でない状態で配向膜に固着を生じ易く、その結果として、液晶分子が正常な移動度を有しないこととなって表示ムラを生じるものであると推察した。
そして、本発明者は、当該状況を回避するために、形成後の配向膜が有する液晶分子の垂直配向能力を補うことにより滴下痕が防止されると考え、その具体的手段を模索した結果として本願発明を完成するに至った。
つまり、本発明者は、液晶性を発現する剛直な部位であるメソゲンを一分子内に複数個有する高分子を予め液晶組成物に混合して用いることで、ODF法による液晶組成物の滴下の際に滴下痕が発生する割合を低下させることが可能であることを明らかとした。これは、単一の分子内に導入された複数のメソゲンが相互に配向して一群の「メソゲン束」を形成して、これが周囲に存在する液晶分子を配向させる配向補助剤として機能することが一因であると考えられる。
複数のメソゲンを一分子内に有する高分子の一例として、規則的な分岐を有する柔軟な樹木状高分子(デンドリマー)の各末節に所定のメソゲンを設けてなる液晶性デンドリマー分子が挙げられる。図6には、液晶性デンドリマー分子の一例として、以下の実施例で合成した液晶性デンドリマーを所定の濃度で分散媒に分散させて測定したX線回折像を示す。X線回折像には、4.5Åと45Åの間隔に相当する回折線が観察された。
当該X線回折の結果より、分散媒中において液晶性デンドリマー分子は以下のような形態で存在するものと推察される。つまり、4.5Åに相当する回折線は各デンドリマー分子に含まれるメソゲン間の間隔と推察され、各デンドリマー分子中に含まれるメソゲンは相互に一定の間隔で配向して存在し、メソゲン束を形成しているものと推察された。また、45Åは、使用した液晶性デンドリマー分子に含まれるメソゲンの長さの2倍程度の値であることから、液晶性デンドリマー分子は、分散媒中において、その両端に複数のメソゲンからなるメソゲン束がアレイ状に存在して全体として直線状であり、且つ、複数の液晶性デンドリマー分子が平行に存在して層を形成すること、及び、当該液晶性デンドリマー分子の形成する層が積層してスメクチック液晶を形成することが推察された。
つまり、図6の模式図に示すように、液晶性デンドリマー分子は、2つのメソゲン束が直線状に配置された巨大な液晶分子を形成しており、スメクチック液晶性を示しているものと考えられる。
また、図7には、上記液晶性デンドリマー分子の分散液によりガラス基板上に薄層を形成し、この薄層に対して基板と略平行にX線を入射して得た回折像を示す。図7に示すように、上記のようにして得られる回折像においては、基板と平行な方向への回折線がアーク状に観察される。このことから、上記基板上のデンドリマー液晶の薄層においては、デンドリマー液晶分子が基板に垂直に配向していることが推察された。
図8には、上記のX線回折の結果より予測される、基板上に形成した液晶性デンドリマーの分散液薄膜中における液晶性デンドリマーの存在形態を示す。図8に示すように、液晶性デンドリマーのように一分子内に複数のメソゲンを有する分子内においては、各メソゲンが相互に平行に密着してメソゲン束を形成すること、及び、当該メソゲン束が基板に垂直に存在する傾向を有すると考えられる。
本願発明は、上記のように、メソゲン束を形成する高分子を予め液晶組成物に混合して用いることで、液晶組成物を配向膜上に滴下した際に、当該メソゲン束が優先的に配向膜上に垂直に分布することで配向膜の持つ垂直配向能力を補う結果、特にODF法により液晶組成物を滴下する際の滴下痕の発生頻度を低下できることを見出したものである。
本発明において、メソゲン束を形成する高分子を液晶組成物に混合することで、滴下痕を効果的に防止できる理由は必ずしも明らかでないが、配向膜との親和性を有する官能基等が末端に設けられたメソゲンからなるメソゲン束は、液晶組成物中の他の液晶分子と比べて大きな力で優先的に配向膜に吸着等を生じるものと推察される。更に、吸着を生じる際に、メソゲン束が一定の太さを有することに起因して、配向膜に対して斜めに吸着することが困難になる結果、略垂直に吸着を生じるものと推察される。
そして、配向膜に対して略垂直に吸着を生じたメソゲン束に対して液晶組成物中の液晶分子が配向を生じる結果、配向膜上の垂直配向性が高まると共に、液晶分子が意図しない形態で配向膜に固着して滴下痕を生じることが防止されるものと推察される。複数のメソゲンを有する樹木状高分子が周囲の液晶分子を容易に配向させることは、例えば、特許文献4,5に記載されている。
本発明において液晶組成物内にメソゲン束を供給して液晶組成物の配向を補助し、滴下痕の発生を防止するための高分子としては、複数のメソゲンを一分子内に有すると共に、当該複数のメソゲンが一つ又は複数のメソゲン束を形成するものであればよく、例えば、剛直なメソゲンを比較的柔軟な分子鎖で連結することでメソゲンが相互に配向可能としてメソゲン束を形成するものや、複数のメソゲンを束状に連結したもの等が挙げられる。
複数のメソゲンを含む高分子内のメソゲンがメソゲン束を形成していることは、例えば、図6に示したような手段により、当該高分子を適宜の分散媒に分散させた際に、メソゲン間の間隔に対応した回折線が得られること等により確認が可能である。
特許文献4,5に記載される液晶性デンドリマーにおいては、「コア」と呼ばれる中心部分が2回対称の構造を有し、当該コアから対称性を保ちつつ3価の原子を分岐点として枝の2分岐を規則的に繰り返した構造を有するデンドリマー分子の末節の位置にメソゲンが設けられている。当該デンドリマー分子の構造は、樹枝状の枝別れを繰り返す「デンドロン」がコアの部分で相互に結合したものとも理解される。
特許文献4,5に記載されるような液晶性デンドリマーを構成するデンドロンにおいては、メソゲンはコアから等価の位置で並列的に隣接するため相互に配向状態を維持し易く、デンドロンが全体として一群のメソゲン束を形成し易い点で好ましい。この点で、特許文献4,5に記載される液晶性デンドリマーは、コアの両端にメソゲン束がアレイ状に配置されたものとして理解することができる。
本発明において使用される液晶性樹木状高分子としての液晶性デンドリマーは、上記2回対称のコアを有するもの以外であっても良く、Si原子やC原子のような4価の原子をコアとした4回対称のコアを有するものや、チッソ原子やベンゼン環をコアとして使用する3回対称のコアを有するものであってもよい。また、液晶性樹木状高分子として液晶性デンドロンを用いることも可能である(デンドロンは1回対称のコアを持つデンドリマー分子ともいえる)。特に3回対称や4回対称のコアを有する液晶性デンドリマーを使用する場合には、各デンドロンが形成するメソゲン束を相互に直線的に配置可能とするため、各デンドロンを構成する枝部やコア部を柔軟な構造とすることが好ましい。
なお、上記のとおり、本発明においては単一の分子に含まれる複数のメソゲンが効率良くメソゲン束を形成できる点で、規則的な枝別れ構造を有する液晶性デンドリマー(液晶性デンドロン)がメソゲン束を供給する高分子として好ましい。一方、本発明においては必ずしもメソゲン束を構成するメソゲンの配置が完全な規則性を有する必要はなく、有効なメソゲン束を形成できる範囲において、デンドリマー以外でもハイパーブランチ化合物の各末節にメソゲンを設けた液晶性ハイパーブランチ化合物などを用いることも可能である。
また、本発明においては、上記メソゲン束が良好に配向膜に対して垂直配向可能とするため、メソゲン束を構成するメソゲンの末端には、本発明が適用される配向膜と親和性を有する官能基が設けられることが好ましい。特に配向膜としてポリイミド膜が使用される場合には、メソゲンの末端にアルキル基、アルコキシ基、シアノ基及びフッ素からなる群より選択される少なくとも一つが設けられることで、メソゲンと配向膜の親和性を高めることができるが、メソゲンの末端構造はこれに限定されることなく、使用するポリイミド膜に対して親和性を有する構造を適宜選択して用いることができる。
種々の検討の結果、使用する配向膜や液晶分子、メソゲン束を含む液晶性高分子の種類や混合比率などにより変動を生じるが、典型的には、本発明に係る液晶性高分子に形成される各メソゲン束に4個程度以上のメソゲンが含まれることで、有効に滴下痕の発生を防止することができる。つまり、例えば、特許文献4に記載のタイプ(デンドロン内の分岐が2分岐)のデンドリマー分子を用いる場合には、デンドリマー分子に含まれる各デンドロンに4個程度以上のメソゲンが含まれものを用いることで、滴下痕の発生防止に有効である。これは、当該デンドロンの世代として1世代に相当する。
一方、各メソゲン束に含まれるメソゲンが多くなれば、より少量の液晶性高分子により有効に滴下痕の発生防止が可能になる傾向が見られる。これは、メソゲン束が太くなることにより配向膜への優先吸着の程度や、配向膜に吸着したメソゲン束が周囲の液晶分子を配向制御する能力が高まるためと考えられる。
他方、メソゲン束を供給する含メソゲン束液晶性高分子として、各デンドロンに含まれるメソゲンを100個程度以上とした液晶性デンドリマー分子を用いた場合、滴下痕の発生防止効果が低下する傾向が見られる場合がある。これは、デンドロンの世代が大きくなった場合には、デンドロンを構成する枝がメソゲンの配向を阻害することで、一方向への配向によるメソゲン束の形成が困難になるためと推察される。このような現象はデンドロン内の分岐が2分岐の場合には6世代以上の高次のデンドロンで問題になるため、好ましくは各デンドロンに含まれるメソゲン数が100個以下の液晶樹木状高分子を用いることが好ましい。但し、メソゲン数が100個を越える場合であってもデンドロンを構成する枝を柔軟なものにする等によりメソゲン束の形成を行うことが可能である。
滴下痕の発生防止を目的として液晶組成物中に混合される含メソゲン束高分子の好ましい混合量は、使用する配向膜や液晶分子の種類、液晶性高分子の構造等により大きく変化するが、含メソゲン束高分子として液晶性デンドリマーを用いる場合には、概ね液晶分子に対して0.001質量%程度の液晶性デンドリマーを混合して用いることで、有効に滴下痕の発生防止効果が得られる。また、3質量%以上の液晶性デンドリマーを混合しても、液晶分子の配向補助剤としての効果が飽和する傾向が観察される。
液晶分子に対して0.001質量%の液晶性デンドリマーを混合した場合、配向膜上に概ね1平方ミクロン当たり2.5個程度の密度でメソゲン束による配向補助剤が存在するものと推察される。
他方、過剰に含メソゲン束高分子を混合した場合には、液晶分子の本来の性能が阻害されることになるため、含メソゲン束液晶高分子として液晶性デンドリマーを用いる場合には、概ね液晶分子に対して0.01〜1質量%程度の液晶性デンドリマーを混合して用いることが適当である。当該混合量の範囲においては液晶分子の本来の性能が阻害されることがなく、且つ、滴下痕の発生が有効に防止可能である。
本発明に係る液晶性高分子を用いてODF法による液晶滴下の際に生じる滴下痕を防止するためには、使用する含メソゲン束液晶高分子がそれ以外の液晶成分に対して所定の溶解度を有することが必要である。使用する液晶成分に対する溶解度が低く、滴下痕の防止のために必要な量が液晶成分に溶解できない液晶性高分子を使用した場合、液晶組成物中で溶解せずに沈殿し、滴下痕の発生防止ができないと共に、液晶表示装置において均一な配向制御性(垂直配向)が得られず液晶表示パネルのコントラストが低下してしまうため好ましくない。
このため本発明を用いて液晶表示パネルを製造しようとする場合には、当該液晶表示パネルに適した液晶成分を適宜選択すると共に、当該液晶成分に対して所定の溶解度を有する液晶性高分子を適宜選択して用いることが好ましい。充分な溶解度を示すか否かは、液晶成分に滴下痕の発生防止が見込める量の液晶性高分子を配合し、これをオーブンで液晶成分の相転移温度以上の温度まで上昇させて等方相にした際に液晶性高分子が溶解しており(すなわち、液晶成分と液晶性高分子との混合物が透明であり)、室温(例えば、25℃)まで戻しても液晶性高分子の沈殿が確認されないことにより確認される。
典型的には、使用する液晶成分に含まれるメソゲンと同一であるか、十分に類似した構造のメソゲンを含む含メソゲン束液晶高分子を用いることで、液晶成分に対して所定の溶解度を確保できると共に、配向膜に垂直配向したメソゲン束への液晶分子の配向を良好にすることが可能となる。
上記説明した液晶性デンドリマーは、例えば、下記の式(Ia)、(Ib)により表されるものである。
式(Ia)、(Ib)においてR以外の部分は、プロピレンイミンデンドリマーであり、アミド結合のような強い水素結合が起こらないように分子設計をすることで、デンドリマーのコアの部分を柔軟にすることができる。また、式(Ia)、(Ib)においてRの部分は、メソゲンを含む部分であり、例えば下記の式(II)で表される。
上記式(II)中、nは3〜12の整数であり、Aは
(式中、R1は炭素数1〜12のアルキル基若しくはアルコキシ基、シアノ基又はフッ素である)であり、Xは直接結合、−COO−基又は−N=N−基である。また、Bは
で示される。また、メソゲン束の形成しやすさや、使用する液晶組成物との配向のしやすさを調整する観点からは、上記A,Bを成すベンゼン環に結合する水素原子を、炭素数1〜12のアルキル基若しくはアルコキシ基、シアノ基又はフッ素で置換することも好ましい。
上記のような液晶性デンドリマーの中心を成すデンドリマー分子は、例えば、特許文献4に記載されるような従来公知の方法により、コア部分を与える多官能性アミン化合物と、側鎖部分を与えるアクリル酸エステル誘導体とを有機溶剤中で反応させることによって得ることができる。
つまり、コア部分を与える多官能性アミン化合物としては、例えば、ポリプロピレンテトラミンデンドリマー第1世代(Polypropylene tetramine Dendrimer, Generation 1.0)、ポリプロピレンオクタミンデンドリマー第2世代(Polypropylene octaamine Dendrimer, Generation 2.0)などでありアルドリッチ社製のDAB−Am−4やDAB−Am−8などの市販品を使用することもできる。また、この多官能性アミン化合物は、エチレンジアミン及びアクリロニトリルを出発原料として合成することもできる。
側鎖部分を与えるアクリル酸エステル誘導体としては、合成するデンドリマーに応じて適宜選択すればよく、例えば、上記の式(Ia)、(Ib)により表されるデンドリマーを合成する場合は、下記の式(III)で表される化合物を原料として用いることができる。
上記の式(III)中、X、A、B及びnは、式(II)について定義した通りである。
多官能性アミン化合物とアクリル酸エステル誘導体との反応比は、多官能性アミン化合物1molに対して、アクリル酸エステル誘導体を1.0〜3.0mol、好ましくは1.1〜1.5molである。
コア部分を与える多官能性アミン化合物と、側鎖部分を与えるアクリル酸エステル誘導体とを反応させる際の有機溶剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、1,2−ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン旗どのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状工一テル系溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤が挙げられる。
これらの有機溶剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。また、有機溶剤の量は、多官能性アミン化合物やアクリル酸エステル誘導体の量などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
反応温度としては、−50〜150℃、好ましくは25〜80℃である。反応温度が−50℃未満であると、反応速度が著しく低下することがある。また、反応温度が150℃を超えると、多官能性アミン化合物やアクリル酸エステル誘導体の安定性が低下することがある。
反応時間としては、2〜200時間、好ましくは48〜100時間である。反応時間が2時間未満であると、反応が十分に進行しないことがある。反応時間が200時間を超えると、時間がかかりすぎて実用的でない。
反応終了後は溶剤を除去することにより、目的とするデンドリマーを得ることができる。また、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、トルエンなどの貧溶剤を加えて加熱し、上澄みを除去することによって精製してもよい。
以上、規則的に分岐した分子鎖の末端にメソゲンを付加した液晶性デンドリマーの製造方法について説明したが、本発明においては、上記の液晶性デンドリマーを用いる他、デンドリマーに換えて多分岐構造の高分子であるハイパーブランチ高分子(例えば、特開2004−352787号公報等を参照)などを用いて、その末端にメソゲンを設けることにより液晶組成物中でメソゲン束を形成可能としたものなど、液晶組成物中でメソゲン束を形成するものであれば、本発明に係る配向補助剤として用いることができることはいうまでもない。
本発明において、液晶性デンドリマーを添加して用いる液晶組成物としては、VAモード用に使用される液晶組成物であれば特に制限はなく使用することができ、1種の液晶のみから成る液晶、又は2種以上の液晶成分を含む混合液晶を用いることができる。
混合液晶では、使用用途にあわせて所望の物性(例えば、屈折率異方性、誘電率異方性、粘度、相転位温度など)を満たすように幾つかの液晶成分を混合することによって調製することができる。このため、一義的に定義することは難しいが、フッ素系混合液晶やシアノ系混合液晶などと一般的に称される混合液晶を用いることができる。これらの中でも、現在、液晶表示パネルに一般的に使用されているフッ素系混合液晶を用いることが好ましい。ここで、フッ素系混合液晶とは、1種以上のフッ素系液晶を含む混合液晶を意味し、シアノ系混合液晶とは、1種以上のシアノ系液晶を含む混合液晶を意味する。
上記の混合液晶は、一般的に公知であると共に商業的に利用可能であり、例えば、フッ素系混合液晶は、ZLI−4792(p型)やMLC−6608(n型)という商品名でメルク株式会社によって販売されている。また、シアノ系混合液晶は、JC−5066XX(p型)という商品名でチッソ石油化学株式会社によって販売されている。
なお、本発明の液晶組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、所望の物性を達成するために、液晶組成物に一般的に配合されている公知の各種添加物を含んでもよい。
以下、本発明に係る液晶表示パネルの製造方法及び液晶表示パネルについて、それらの実施の形態について、液晶組成物内にメソゲン束を供給するための含メソゲン束高分子として特に液晶性デンドリマーを使用する場合を例にして、添付図面を参照しながら説明する。液晶性デンドリマーは、効率よくメソゲン束を提供できる点で好ましい液晶性樹木状高分子である。なお、本発明は、以下で説明される実施の形態の構成に限定されるものではない。
以下、実施例等により本発明の詳細をさらに説明するが、これらの実施例によって本発明が限定されるものではない。
<液晶性デンドリマーの合成>
以下に説明する方法で、複数のメソゲンを一分子内に有する樹木状高分子の一例として、上記式(Ib)においてRが以下の式(IV)で示される液晶性デンドリマー分子を合成した。
(IV)
液晶性デンドリマー分子の合成に用いるアクリル酸エステル誘導体の原料として、以下の方法で、6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキサノールを合成した。
ナスフラスコに、4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシフェノール(10g、41mmol)、6−ブロモヘキサノール(8.8g、49mmol)、炭酸カリウム(11g、80mmol)及び2−ブタノン(50ml)を入れて溶解し、60時間加熱還流した。加熱還流が終了した後、減圧下で2−ブタノンを除去して得られた残渣を酢酸エチルに溶解し、この溶液を水で3回洗浄した。次に、この溶液に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、酢酸エチルを減圧下で留去し、得られた残渣をn−ヘキサンで再結晶させることで、白色結晶を収量6.2g(収率44%)で得た。この白色結晶は、IRにより、3340cm-1(OH)、2922cm-1(CH)、1245cm-1(PhO−)の特性吸収が観測された。
次に、上記で得られた6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキサノールを用いて、液晶性デンドリマーの合成に用いるアクリル酸エステル誘導体である6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキシルアクリレートを合成した。
三口フラスコに、6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキサノール(6.0g、17mmol)、トリエチルアミン(2.2g、22mmol)及びTHF(50ml)を入れて溶解し、氷で0℃に冷却した。この溶液に塩化アクリロイル(1.9g、21mmol)を注射器を用いてゆっくり加え、室温で12時間撹拌した。生じた白色固体をろ別し、ろ液を減圧下で濃縮した後、得られた残渣を酢酸エルに溶解し、100mlの水で3回洗浄した。次に、有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、減圧下で濃縮した。次に、残渣をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル、移動相:ヘキサン/クロロホルム(容積比率50:1))により精製し、無色透明な液体を収量6.4g(収率93%)で得た。この液体は、IRにより、2920cm-1(C−H)、1716cm-1(C=O)、1245cm-1(PhO−)の特性吸収が観測された。
上記で得られたアクリル酸エステル誘導体を用いて、以下の方法で液晶性デンドリマーを合成した。
ナスフラスコに、アルドリッチ社製DAB−Am−8(0.16g、0.21mmol)、6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキシルアクリレート(4.0g、10mmol)及びTHF(5ml)を入れ、50℃で72時間加熱した。次に、この溶液を減圧下で濃縮した後、残渣を少量のクロロホルムに溶解して100mlのメタノールに加え、上澄みをデカンテーションによって除去し、沈殿物を回収した。この操作を2回繰り返すことによって精製し、ペースト状の淡黄色固体を収量0.45g(収率30%)で得た。この淡黄色固体は、IRにより、2921cm-1(C−H)、1736cm-1(C=O)、1247cm-1(PhO−)の特性吸収が観測された。また、この淡黄色固体の元素分析値は、目的とする分子に相当する値と0.5%の範囲内で一致した。(計算値〜C:76.25%、H:10.33%、N:2.73%、実測値〜C:76.09%、H:10.52%、N:2.80%)また、この淡黄色固体のMALDI−TOF−MSによる分子量を測定したところ、理論値m/Z=7183(M+H)に対して、実測値m/Z=7181.2(M+H)であった。さらに、この淡黄色固体のDSC測定を行ったところ、昇温過程においては−24℃にTg、14℃及び73℃に吸熱ピークが観測され、また、降温過程においては69℃及び15℃に発熱ピーク、−26℃にTgが観測された。
上記で得られた液晶性デンドリマーを十分な流動性を有する程度の濃度で溶剤中に分散してX線回折により測定した結果、図6、図7に示したとおり、各液晶デンドリマー分子中においてメソゲンが相互に配向してメソゲン束を形成し、当該メソゲン束がアレイ状となって分子全体として直線状に存在していること、及び、当該直線状になった分子が基板に垂直に配向することが明らかにされている。
<液晶性デンドリマーを含む液晶組成物の調製>
上記で得られた液晶性デンドリマーを、VAモード用n型混合液晶(メルク、MLC−6608に対して、最大で1質量%まで混合することによって液晶組成物を調製した。この時、いずれの組成においても両者は良好に混合し、均一な混合物を形成した。
<ポリイミド配向膜付きITOガラス基板の調製>
上記液晶組成物の評価を行うために、以下に説明する方法で、液晶の垂直配向を誘起するための側鎖を有するポリイミド配向膜を表面に塗布した電極基板を調製した。
側鎖を有するポリイミド配向膜を形成するためのポリイミド酸は、以下の方法で合成された主鎖型ポリアミド酸と側鎖型ポリアミド酸を所定の割合でブレンドして調製した。
(主鎖型ポリアミド酸)減圧蒸留したジメチルアセトアミド(DMAC)35.67gに、昇華精製した4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)2.00gを投入し、乾燥窒素ガスを流しながら室温で撹拌してODAを溶解した後、更に10〜15℃に保ちながら20分撹拌した。その後,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸無水物(CBDA)1.96gを加え10〜15℃で1時間撹拌し,更に室温で2時間撹拌することにより,主鎖型ポリアミド酸を合成した。
(側鎖型ポリアミド酸)減圧蒸留したジメチルアセトアミド(DMAC)49.38gに、昇華精製した3,5-ジアミノ安息香酸4-(-4-プロピルシクロヘキシル)フェニル(PPDA)3.53gを投入し,乾燥窒素ガスを流しながら室温で撹拌してPPDAを溶解した後、更に10〜15℃の温度に保ちながら20分撹拌した。その後,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸無水物(CBDA) 1.96gを加え10〜15℃で1時間撹拌し,更に室温で2時間撹拌することにより,側鎖型ポリアミド酸を合成した。
得られたポリイミド酸をそれぞれDMACに希釈して3質量%のポリアミド酸溶液としたものを、主鎖型ポリアミド酸に対して側鎖型ポリイミドが所定のモル分率になるように混合して、1時間撹拌してブレンドポリアミド酸溶液を調製した。
一方、ITO透明導電膜を設けたガラス基板をイソプロパノールで1分間煮沸し,紫外線(UV)オゾン洗浄装置を用いて5分間UVを照射した後,純水で洗浄して真空オーブン中で80℃で5分間乾燥させ表面を清浄化した。その後、上記で製造したブレンドポリアミド酸溶液を滴下し、スピンコーターを用いて均一な膜とした後、真空乾燥機にて80℃で5分間、210℃で1時間の仮焼成後,さらに250℃で1時間本焼成してイミド化することにより、ITOガラス基板上にポリイミド配向膜を形成した。
<液晶性デンドリマーを含む液晶組成物の評価>
以下の方法により、液晶性デンドリマーを混合した液晶組成物について、上記で形成したポリイミド配向膜上での流動挙動や配向挙動を評価した。
(評価例1)
図9には、5mol%の側鎖型ポリアミド酸を含むポリイミド配向膜が設けられたポリイミド配向膜上に、0.01〜1質量%の液晶性デンドリマーを添加した液晶組成物を、マイクロディスペンサーにより3μl滴下し、そのドロプレットの接触角(Contact Angle)と径の変化を測定した結果をプロットした。液晶性デンドリマーの添加量が増加するとともに接触角が大きく、液滴の直径(Diameter of liquid crystal droplet)が小さくなる傾向が認められ、液晶性デンドリマーの配合によってポリイミド配向膜に対する液晶組成物の濡れ性が低下することが示された。
上記液晶に対して液晶性デンドリマーを配合した際の現象は、ポリイミド配向膜中の側鎖密度を高めた際の傾向(図4)と同様である。液晶性デンドリマーの配合によりポリイミド配向膜上に対する液晶組成物の濡れ性が低下する理由は明らかでないが、上記したメソゲン束が示す挙動を考慮すれば、図10に示すように、配合された液晶性デンドリマーが基板上に優先的に吸着し、ポリイミド配向膜中の側鎖と同様な作用を示すことが予想される。
(評価例2)
次に、図11に示す評価装置を用いて、ポリイミド配向膜上に滴下した液晶組成物を同様のポリイミド配向膜を設けた基板で押し潰して、基板を貼り合わせる際における、液晶組成物の流動挙動や配向挙動を直接観察した。図11の評価装置においては、ポリイミド配向膜を設けたガラス基板(ITO glass)を上下に対面して配置し、その上下に偏向方向が直交するように一対の偏光板(polarizer)が配置されている。そして、一方の偏光板の側から照明光(light)を入射し、他方の偏光板を透過して出射する光線を観察することで、ガラス基板間に挟まれた液晶の配向状態を知ることが可能である。
つまり、液晶組成物を介在させて貼り合わせられた一対のポリイミド配向膜付きのガラス基板間において、液晶組成物による光の散乱等による透過光の偏向面の変化が生じない場合には、透過光が出射側の偏光板を通過することがなく出射側において光が観察されない。このため、液晶組成物による光の散乱等の発生を、出射光の有無により判断することが可能である。
液晶組成物の配向状態の評価は、5mol%の側鎖型ポリアミド酸を含むポリイミドが設けられたポリイミド配向膜上に、上記で合成した液晶性デンドリマーをそれぞれの割合で混合して得た液晶組成物(3μl)を滴下し、その後に同様のポリイミド配向膜を設けたガラス基板を約200秒をかけて5μmのギャップになるように貼り合わせることで行った。
図12には、各割合で液晶性デンドリマーを混合した液晶組成物について、基板の貼り合わせが完了した直後と、その後、15分経過した後の透過光の状態を示す。
図12から明らかなように、液晶性デンドリマーを混合しない場合には、貼り合わせ完了時には強い透過光が観察され、ポリイミド配向膜間のギャップに挟まれた液晶組成物が配向状態にないことが分かる。また、その後の時間の経過により透過光が減少し液晶組成物の配向度が向上するものと推察されるが、15分後においても透過光が観察されると共に、液晶組成物が滴下された位置に特に強い透過光(滴下痕)が観察された。
他方、0.01wt%の液晶性デンドリマーを混合したものでは、貼り合わせ完了直後から透過光の強度が低く、15分後にはほぼ完全に透過光が観察されない状態となった。また、滴下痕等の配向欠陥が観察されることもなく、液晶組成物の配向が良好に行われたことが推察される。
更に、最大で1wt%の液晶性デンドリマーを混合した液晶組成物においても、貼り合わせ直後に配向が完了すると共に、滴下痕の発生が見られなかった。
図13には、上記で貼り合わせを行った後の透過光をコノスコープ観察した結果を示す。液晶性デンドリマーを混合しない場合には、十字のアイソジャイヤーが必ずしも明確に観察されず、液晶分子とポリイミド配向膜との垂直性が低いものと推察された。一方、0.01wt%以上の液晶性デンドリマーを混合した液晶組成物においては、十字のアイソジャイヤーが明確に観察されたことから、液晶分子がポリイミド配向膜に対してより高い垂直性で配向していることが推察された。
(評価例3)
「滴下痕」と総称される液晶組成物の配向欠陥は、図12に示されるような液晶組成物が滴下された場所に生じるもの以外に、基板の貼り合わせの際に隣り合う液晶組成物の液滴が流動して合流する場所等にも発生することが知られている。このため、図11に示す評価装置を用いて、ポリイミド配向膜上に複数の液晶組成物の液滴を隣接して滴下し、その後に基板を貼り合わせた際に現れる滴下痕についても評価を行った。
図14には、5mol%の側鎖型ポリアミド酸を含むポリイミド配向膜上に、液晶性デンドリマーを含まない液晶組成物、及び、0.01wt%の液晶性デンドリマーを混合した液晶組成物を、それぞれ近接した4箇所に滴下して、上記と同様に貼り合わせを行った場合の配向ムラの発生とコノスコープ観察の結果について示す。
図14から明らかなように、液晶性デンドリマーを含まない場合には、液晶組成物が流動した位置に配向欠陥が観察されると共に、十字のアイソジャイヤーが必ずしも明確に観察されない。他方、0.01wt%の液晶性デンドリマーを混合した場合には、配向欠陥が観察されず、十字のアイソジャイヤーが明確に観察されるなど、全面にわたって良好に配向を生じていることが分かる。
以上、説明したように、液晶組成物に対して、液晶性デンドリマーに代表されるメソゲン束を生成可能な液晶性高分子を混合することにより、液晶組成物の滴下と、その後の貼り合わせ行程における配向欠陥の発生を有効に防止することが可能であると共に、より高い垂直性で液晶分子を配向膜に対して配向可能であることが明らかになった。