以下、本発明を好適な実施形態に即して説明する。
本発明の電着塗料組成物は、ブロック共重合ポリイミドを主たる樹脂成分として含有し、さらに有機変性ポリシロキサンを含有する。本発明に用いるブロック共重合ポリイミドは、分子骨格中にシロキサン結合(−Si−O−)を有し(すなわち、ポリイミドの主鎖中にシロキサン結合を有する分子骨格である。)、分子中にアニオン性基を有する。
ここで、「ブロック共重合ポリイミド」とは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを加熱してオリゴマーを生成させ(第1段階反応)、次いでこれに前記のテトラカルボン酸二無水物と同一若しくは異なるテトラカルボン酸二無水物及び/又は前記のジアミンとは異なるジアミンを加えて反応(第2段階反応)することによって、アミック酸間で起る交換反応に起因するランダム共重合化を防止して得られる、ブロック共重合ポリイミドのことを意味する。
分子骨格中(すなわち主鎖中)にシロキサン結合を有するブロック共重合ポリイミドにおいて、シロキサン結合はテトラカルボン酸二無水物成分由来のシロキサン結合であっても、ジアミン成分由来のシロキサン結合であってもよいが、好ましくはジアミン成分由来のシロキサン結合であり、通常、ジアミン成分の少なくとも一部に、分子骨格中にシロキサン結合(−Si−O−)を有するジアミン化合物(以下、「シロキサン結合含有ジアミン」と呼ぶことがある。)を用いて得られたブロック共重合ポリイミドが使用される。
本発明において、シロキサン結合含有ジアミンとしては、テトラカルボン酸二無水物との間でイミド化し得るものであれば特に制限なく使用できるが、例えば、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び一般式(I):
(式中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、又は1個ないし3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。)で表される化合物等が挙げられる。当該一般式(I)で表される化合物は、式中nが1又は2の単一化合物、及びポリシロキサンジアミンを含む。
式(I)中の4つのRのそれぞれにおいて、アルキル基、シクロアルキル基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜2がより好ましい。また、1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基における、1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基は、それが2又は3個の場合、互いに同一であっても異なってもよい。また、当該アルキル基、アルコキシル基は、それぞれ、炭素数が1〜6が好ましく、1〜2がより好ましい。
一般式(I)で表される化合物は、式中の4つのRがアルキル基(特にメチル基)又はフェニル基であるのが好ましく、また、式中l及びmが2〜3、nが5〜15にあるポリシロキサンジアミンが好ましい。
なお、ポリシロキサンジアミンの好ましい例としては、ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン(式(I)中、l及びmが3、4つのRがメチル基のもの。)、ビス(γ−アミノプロピル)ポリジフェニルシロキサン(式(I)中、l及びmが3、4つのRがフェニル基のもの。)が挙げられる。
本発明において、シロキサン結合含有ジアミンはいずれか一種の化合物を単独で使用しても、2種以上を併用して使用してもよい。なお、かかるシロキサン結合含有ジアミンは、市販品を使用してもよく、例えば、信越化学工業社、東レ・ダウコーニング社、チッソ社等から販売されているものをそのまま使用できる。具体的には、例えば、信越化学工業社製のKF−8010(ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン:アミノ基当量約450)、X−22−161A(ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン:アミノ基当量約840)等が挙げられ、これらは特に好ましいものである。
本発明において、アニオン性基とは、電着塗料組成物の溶媒(後述)中でアニオンになる基であり、好ましくはカルボキシル基若しくはその塩、及び/又は、スルホン酸基若しくはその塩である。アニオン性基は、シロキサン含有ジアミンやテトラカルボン酸二無水物成分が有していてもよいが、アニオン性基を有するジアミンをジアミン成分の1つとして用いることが好ましい。本発明の電着塗料組成物の耐熱性(すなわち本発明の電着塗料組成物による絶縁被膜の耐熱性)、被電着物(部材)との密着性、重合度向上のために、このようなアニオン性基含有ジアミンは、芳香族ジアミンであることが好ましい。すなわち、芳香族ジアミノカルボン酸及び/又は芳香族ジアミノスルホン酸が好ましい。芳香族ジアミノカルボン酸としては、例えば、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノフェニル酢酸、2,5−ジアミノテレフタル酸、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジアミノパラトルイル酸、3,5−ジアミノ−2−ナフタレンカルボン酸、1,4−ジアミノ−2−ナフタレンカルボン酸等が挙げられ、芳香族ジアミノスルホン酸としては、例えば、2,5−ジアミノベンゼンスルホン酸、4,4’−ジアミノ−2,2’−スチルベンジスルホン酸、o−トリジンジスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、3,5−ジアミノ安息香酸が特に好ましい。このようなアニオン性基含有芳香族ジアミンは、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、シロキサン結合含有ジアミンがアニオン性基を有している場合には、ジアミン成分は、シロキサン結合含有ジアミンのみであってもかまわない。
ジアミン成分として、上記したシロキサン結合含有ジアミン及びジアミノカルボン酸に加え、さらに他のジアミンが含まれていてもよい。このようなジアミンとしては、本発明の電着塗料組成物による電着被膜の耐熱性、被電着物(部材)への密着性、ブロック共重合ポリイミドの重合度向上のため、通常は芳香族ジアミンが用いられる。このような芳香族ジアミンの例として、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジアニリン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン等を挙げることができ、中でも、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンがより好ましい。
全ジアミン成分中、前記シロキサン結合含有ジアミンの割合は5〜90モル%が好ましく、より好ましくは15〜50モル%である。当該シロキサン結合含有ジアミンの割合が5モル%未満の場合、本発明の電着塗料組成物による電着被膜は破断時の伸びが劣り、十分な可とう性が得られにくくなって、被電着物(部材)からの剥がれや割れを生じ易くなるため、好ましくない。また、前記芳香族ジアミノカルボン酸又はその塩の割合は10〜70モル%であることが好ましい(ただし、シロキサン結合含有ジアミンと芳香族ジアミノカルボン酸又はその塩の合計の割合は100モル%以下であり、また、上記の通り、他のジアミンが含まれていてもよい)。
一方、ブロック共重合ポリイミド中のテトラカルボン酸二無水物成分としては、本発明の電着塗料組成物による電着被膜の耐熱性、ポリシロキサンジアミンとの相溶性の点から芳香族テトラカルボン酸二無水物が通常使用され、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらの中でも本発明の電着塗料組成物による電着被膜の耐熱性、被電着物(部材)への密着性、ポリシロキサンジアミンとの相溶性、重合速度の観点から3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。これら例示のテトラカルボン酸二無水物は、何れか一種の化合物を単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用しても良い。
本発明の電着塗料組成物に用いられるブロック共重合ポリイミドは、水溶性極性溶媒に可溶(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、5質量%以上、好ましくは10質量%以上の濃度で溶解する溶解性を示す。)である。ブロック共重合ポリイミド及びその製造方法は、既に公知であり(例えば前記特許文献4及び5に記載)、本発明で用いるブロック共重合ポリイミドも、上記ジアミン成分及びテトラカルボン酸二無水物を用い、公知の方法を適用して製造することができる。重合反応には水溶性極性溶媒が用いられ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン(γBL)、アニソール、テトラメチル尿素、及びスルホランから選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、なかでも、NMPが好ましい。かかる水溶性極性溶媒中に、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを、ほぼ等モル(好ましくはモル比で1:0.95〜1.05)加え、触媒存在下で加熱して脱水イミド化反応することにより直接ブロック共重合ポリイミド溶液を製造する。触媒は、ラクトン又はクロトン酸、および塩基から成る2成分系の複合触媒である。ラクトンとしてはγ−バレロラクトンが好ましく、塩基としてはピリジン又はN−メチルモルホリンが好ましい。ラクトン又はクロトン酸と塩基の混合比は、1:1〜5(モル当量)好ましくは、1:1〜2である。水が存在すると、酸−塩基の複塩として、触媒作用を示し、イミド化が完了し、水が反応系外に出る(好ましくは、トルエンの存在下で重縮合反応を行い、生成する水はトルエンと共に反応系外に除かれる)と触媒作用を失う。この触媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物に対し通常1/100〜1/5モル、好ましくは1/50〜1/10モルである。上記イミド化反応に供するテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの混合比率(酸/ジアミン)は、上記の通りモル比で1.05〜0.95程度が好ましい。また、反応開始時における反応混合物全体中の酸二無水物の濃度は4〜16質量%程度が好ましく、ラクトン又はクロトン酸の濃度は0.2〜0.6質量%程度が好ましく、塩基の濃度は0.3〜0.9質量%程度が好ましく、トルエンの濃度は6〜15質量%程度が好ましい。反応温度は、150℃〜220℃が好ましい。また、反応時間は特に限定されず、製造しようとするブロック共重合ポリイミドの分子量等により異なるが、通常180〜900分間程度である。また、反応は撹拌下で行うことが好ましい。
水溶性極性溶媒中、上記2成分系の酸触媒の存在下で酸二無水物とジアミンとを加熱してオリゴマーを生成させ、次いでこれに酸二無水物及び/又はジアミンを加えて第2段階反応することによりブロック共重合ポリイミドを生成することができる。この方法によりアミック酸間で起こる交換反応に起因するランダム共重合化を防止することができる。その結果、ブロック共重合ポリイミドが製造できる。このときの固形分濃度は10〜40質量%が好ましく、より好ましくは20〜30質量%である。
樹脂成分として用いられるブロック共重合ポリイミドは固有対数粘度(25℃)が20質量%NMP溶液時で5000〜50000mPasであるものが好ましく、5000〜15000mPasがより好ましい。
また、樹脂成分として用いられるブロック共重合ポリイミドの重量平均分子量(Mw)はポリスチレン換算で20,000〜150,000が好ましく、特に45,000〜90,000が好ましい。当該ブロック共重合ポリイミドの重量平均分子量が20,000未満の場合、本発明の電着塗料組成物による電着被膜の耐熱性が低下する傾向となり、また電着被膜の表面が荒れてしまい、審美性および耐電圧特性が低下する傾向となる。また、重量平均分子量が150,000より大きくなると、ブロック共重合ポリイミドが水に対して撥水性を帯び電着液(塗料)製造工程でゲル化を引き起こし易くなる。
また、数平均分子量(Mn)については、ポリスチレン換算で10,000〜70,000が好ましく、より好ましくは20,000〜40,000である。数平均分子量が10,000未満の場合、電着効率が低下する傾向となり、また、本発明の電着塗料組成物による電着被膜の耐熱性、耐電圧性が低下する場合もある。ここで、ブロック共重合ポリイミドの重量平均分子量および数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算の分子量であり、GPC装置として東ソー社製HLC-8220を、カラムにSCkgel Super-H-RCを使用して、測定した値である。
本発明における「有機変性ポリシロキサン」とは比較的低重合度のポリシロキサンの側鎖及び/又は末端に有機官能基が導入された変性ポリシロキサンであり、好ましくは、少なくとも側鎖に有機官能基が導入された変性ポリシロキサンである。具体的には、例えば、カルボキシ変性ポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、フェノール変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、エポキシ変性ポリシロキサン、エポキシ・ポリエーテル変性ポリシロキサン等が挙げられる。中でも、ポリエーテルの種類、割合により水系への分散性を調整できる点で、ポリエーテル変性ポリシロキサンが好ましい。なお、ポリエーテル変性ポリシロキサンにおけるポリエーテルは、ポリアルキレングリコールが好ましく、該ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック又はランダム共重合体等から誘導されるポリアルキレングリコール等が挙げられる。
有機官能基が導入されるポリシロキサンは、通常、ポリジアルキルシロキサンであり、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン等が挙げられるが、中でも、汎用材料であり、コスト、入手が容易な点で、ポリジメチルシロキサンが好ましい。
本発明において用いる有機変性ポリシロキサンは、市販品をそのまま使用でき、その具体例としては、例えば、ポリエーテル変性ポリシロキサンとしては、「additol VXL 4930」(サイテックインダストリーズ社製)、「FZ−2191、L−720、L−7002、FZ−2123、FZ−77、FZ−2105、L−7604、FZ−2104、FZ−2164」(東レ・ダウコーニング社製)、「TSF4440、TSF4441、TSF4445、TSF4450、TSF4446、TSF4452、TSF4460」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、「KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X22−6192、X22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017」(信越シリコーン社製)等が挙げられる。
本発明において、有機変性ポリシロキサンは1種又は2種以上を使用できる。
本発明の電着塗料組成物における有機変性ポリシロキサンの含有量は、ブロック共重合ポリイミド100質量部に対して、通常0.09質量部を超え0.89質量部未満、好ましくは0.15質量部以上0.80質量部以下、特に好ましくは0.30質量部以上0.70質量部以下、最も好ましくは0.35質量部以上0.65質量部以下である。有機変性ポリシロキサンの含有量が、0.09質量部を超え0.89質量部未満であると、本発明の電着塗料組成物を用いた絶縁被膜の耐熱性が向上し、しかも加熱後の絶縁被膜の浮き、剥がれが極めて生じにくいという高信頼性が図られる。有機変性ポリシロキサンの含有量が、ブロック共重合ポリイミド100質量部に対して、0.09質量部以下であると、該絶縁被膜の耐熱性の向上が認められず、加えて、攪拌等で発生する泡が消えにくいためハンドリングが悪く、逆に、0.89質量部以上であると、該絶縁被膜の耐熱性が低下する、という問題が生じる。
本発明の電着塗料組成物の形態は特に限定されず、溶液型でもよいが、課電量に対する樹脂の析出を大きく出来、保存安定性が高い点でサスペンジョン型であるのが好ましい。本発明において、「サスペンジョン型電着塗料組成物」とは、電気泳動法光散乱法(レーザードップラー法)での粒径分析装置ELS−Z2(大塚電子社製)を用いて測定し、測定結果をキュムラント解析法にて解析したブロック共重合ポリイミド粒子の粒子径が0.1〜10μm、粒子径の標準偏差が0.1〜8μmで分散されているサスペンジョンを形成していることである。
本発明の電着塗料組成物の固有相対粘度は、5〜100mPasであることが好ましい。上記粘度範囲の組成物は、30μm以上の膜厚が得られ、かつ均一な膜厚が得られる電着塗料用組成物として好適である。なお、固有対数粘度は、B型粘度計(東機産業社製)を用いて測定される。
本発明の電着塗料組成物において、ブロック共重合ポリイミドからなる粒子の平均粒子径は0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。平均粒子径が0.1μm未満であるとクーロン効率の低下および過電圧による耐電圧性能の低下をもたらす。また、5μmを超えるとクーロン効率の制御および粒子が大きくなることによるリーク電流の増大により耐電圧性能の低下を引き起こす。そのため、クーロン効率の制御および耐電圧性能の維持のバランスのとれた粒子径範囲として0.5〜5μmが好ましい。
本発明の電着塗料組成物の製造は、具体的には、次のようにして行う。先ず、上記の重合反応を経て得られたブロック共重合ポリイミドを含む重合反応後組成物(すなわち、ブロック共重合ポリイミドと水溶性極性溶媒とを含み、ブロック共重合ポリイミドの含有量が15〜25質量%の組成物)を加熱溶融する。ここでの加熱温度は通常50〜180℃程度、好ましくは60〜160℃程度である。加熱温度が50℃未満では、ブロック共重合ポリイミドが溶解せず、他の溶媒と分散しにくい傾向となり、180℃を超えると、加水分解を起こし、分子量が低下する傾向となる。
次に、前記加熱溶融後の組成物に塩基性化合物を添加、攪拌してブロック共重合ポリイミドを中和した後、組成物を40℃以下に冷却し、さらにブロック共重合ポリイミドの貧溶媒及び水を添加し、混合攪拌して、ブロック共重合ポリイミド溶液を調製する。
かかるブロック共重合ポリイミド溶液の製造工程において、ブロック共重合ポリイミドを中和した後の組成物の冷却後温度が40℃を超える場合、中和剤によりブロック共重合ポリイミドが分解する傾向となる。組成物の冷却温度はより好ましくは30℃以下である。なお、組成物の冷却温度が低すぎると、再び固化が始まる傾向となるため、冷却温度の下限は20℃以上が好ましい。
上記塩基性化合物は、ブロック共重合ポリイミドが有するアニオン性基を中和し得るものであれば特に制限なく使用できるが、塩基性含窒素化合物が好ましく、例えば、N,N−ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N−ジメチルベンジルアミン、アンモニア等の第1級アミン、第2級アミン又は第3級アミンが挙げられる。また、ピロール、イミダゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール等の含窒素五員複素環化合物やピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン等の含窒素六員複素環化合物等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。なお、脂肪族アミンは臭気が強いものが多いので、低臭気である点から含窒素複素環式化合物が好ましい。また、電着塗料組成物の毒性を考慮した場合、含窒素複素環式化合物の中でも毒性が低いピペリジン、モルホリンなどが好ましい。当該塩基性化合物の使用量はブロック共重合ポリイミド中の酸性基が水溶液中に安定に溶解または分散する程度であり、通常、理論中和量の30〜200モル%程度である。
また、上記ブロック共重合ポリイミドの貧溶媒は、例えば、フェニル基、フルフリル基若しくはナフチル基を有するアルコール又はケトン類等が挙げられ、具体的には、例えば、アセトフェノン、ベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、フェノキシ−2−エタノール、シンナミルアルコール、フルフリルアルコール、ナフチルカルビノール等が挙げられる。また、脂肪族アルコール系溶媒は毒性が低い点で好ましく、エーテル基を有する脂肪族アルコール系溶媒が特に好ましい。脂肪族アルコール系溶媒としては、例えば、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール類、プロピレングリコール類等が挙げられる。エチレングリコール類、プロピレングリコール類の具体例としては、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これら貧溶媒は1種又は2種以上を使用できる。
かかる貧溶媒の配合量はブロック共重合ポリイミド溶液全量に対し10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。また、上記水の量はブロック共重合ポリイミド溶液全量に対し10〜30質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。
なお、上記のブロック共重合ポリイミドの貧溶媒や水以外に、本発明の電着塗料組成物の粘度、電気伝導度を調整する目的で、水溶性極性溶媒や油溶性溶媒を適量添加してもよい。ここで、水溶性極性溶媒の具体例としては、前記のブロック共重合ポリイミドの重合反応に使用する水溶性極性溶媒と同じものが挙げられ、油溶性溶媒としてはN−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なお、油溶性溶媒を添加する場合、その量はブロック共重合ポリイミド溶液全量に対し15質量%以下である。
ブロック共重合ポリイミド溶液の固形分濃度は1〜15質量%が好ましく、より好ましくは5〜10質量%である。また、水溶性極性溶媒の含有量はブロック共重合ポリイミド溶液全量に対し25〜60質量%が好ましく、より好ましくは35〜55質量%である。
得られたブロック共重合ポリイミド溶液に、有機変性ポリシロキサンを添加し、混合攪拌して、本発明の電着塗料組成物を調製する。
本発明の絶縁部材は、部材(被電着物)を、上記の本発明の電着塗料組成物に浸漬し、該部材(被電着物)を陽極として電流を通じて該部材(被電着物)上に電着塗膜(電着により厚さ方向に成長して堆積(付着)する塗料状の膜)を成長させる電着作業を行い、得られた電着塗膜を加熱乾燥(焼付け)して溶媒成分を除去し、電着被膜(絶縁層)とすることで得られる。
本発明の電着塗料組成物は、電着塗膜の成長過程での電気伝導度が高く、低電流の電着条件でも、部材(被電着物)外周面に膜性状の均一性の高い電着塗膜を形成することができる。また、電着塗膜の成長過程での電気伝導度が高く、かつ、ブロック共重合ポリイミドの分散粒子(析出粒子)が部材(被電着物)の外周面にて堆積(付着)しやすいことから、厚膜の電着塗膜を形成でき、従来の電着では困難であった20μmを超える厚みの電着被膜を形成することができる。
本発明でいう「絶縁部材」とは、種々の技術分野において、加熱後の絶縁被膜の浮きや剥がれの防止が必要となる部材(被電着体)の表面に、電着塗料の電着被膜(絶縁層)を形成して絶縁処理した部材を意味し、具体的には、導体線の外周に電着被膜(絶縁層)を形成した絶縁電線、積層型トランス用コイルに使用される、打ち抜き加工された金属板の外周に電着被膜を形成した絶縁金属板、プローブカード測定用の絶縁被覆付き針状金属ピン、モーターコアなどに使用される、切削または積層により3次元的に成形された金属板の外周に電着被膜を形成した絶縁金属板等が挙げられる。
本発明の電着塗料組成物が電着される部材(被電着体)の材質としては、特に限定はされないが、導電性の点から、例えば、銅、銅合金、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム、亜鉛メッキ鉄、銀、金、ニッケル、チタン、タングステン等が挙げられる。
また、本発明の電着塗料組成物が電着される部材(被電着体)は、絶縁材料からなる部材本体にメッキのような導電加工を施した部材であってもよい。
電着は、定電流法又は定電圧法で行うことができ、例えば、定電流法の場合、電流値:1.0〜200mA、直流電圧:5〜200V(好ましくは30〜120V)の条件が挙げられる。また、電着時間は電着条件、形成すべき電着被膜の厚み等によっても異なるが、一般的には10〜120秒の範囲から選択され、好ましくは30〜60秒である。また、電着の際の本発明の電着塗料組成物の温度は通常10〜50℃、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜30℃である。電着電圧が5Vより低いと電着によって塗膜を形成させることが困難となる傾向があり、200Vよりも大きくなると電着塗膜が形成された被電着体からの酸素の発生が激しくなり、均一な電着塗膜が形成できなくなり、得られる電着被膜も不均一となる。また、電着時間が10秒よりも短いと、電着電圧を高めに設定しても塗膜が成長しにくいためにピンホールが発生しやすく、電着被膜の耐電圧性能が著しく低下している。また、120秒を超えると、塗膜の厚さが必要以上に厚くなるだけで経済性に欠ける。また、電着の際の本発明の電着塗料組成物の温度が10℃よりも低いと電着によって塗膜形成をさせることが困難になり、50℃よりも高くなると温度管理が必要となり生産コストを上げる原因になる。
焼付けは70〜110℃で10〜60分の第一段階の焼付け処理を行った後、160〜180℃で10〜60分の第二段階の焼付け処理を行い、さらに200〜220℃で30〜60分の第三段階の焼付け処理を行うのが好ましい。このような3段階の焼付け処理を行うことで、部材(被電着物)に対して高い密着力で密着した十分に乾燥されたブロック共重合ポリイミドの被膜を形成することが出来る。
このような本発明の電着塗料用組成物による電着塗膜を加熱乾燥(焼付け)して得られる電着被膜は、極めて高い耐熱性(例えばJIS−C−3216−6 5に準拠した温度指数評価法での温度指数が240℃を超える)を達成でき、しかも、該温度指数を280℃で評価時の電着被膜の状態を目視にて観察したところ、長期にわたり電着被膜の浮きまたは剥がれが生じない、高信頼性のものとなる。また、JIS−C−2151に準拠して測定される破断時の伸びが5%以上、好ましくは8%以上という大きい破断時の伸びを有するため、電着部材に可撓性が求められる場合には特に好適である。
絶縁部材として、絶縁電線を作製する場合、本発明の電着塗料組成物の電着、焼付け作業は、たとえば、図1に示すような装置で行うのが好ましい。すなわち、ロール10に巻き線された導体線11を引き出し、交流電源の陽極側に接続した状態で、電着塗料組成物13で満たされた電着バス12中を通過させる。電着バス12中には、陰極管14が配置され、導体線11の通過時に前記した電圧の印加により、陽極である導体線11と陰極である陰極管14間の電位差により、ブロック共重合ポリイミドを含む塗膜が導体線11上に略均一に析出する。電着バス12の後、導体線11は乾燥装置15内を通過する。該乾燥装置15内で、導体線11上に析出したブロック共重合ポリイミドを含む塗膜中の水が蒸発する。乾燥装置15を通過した後、焼付け炉16を通過させブロック共重合ポリイミドを含む被膜(絶縁被膜)が形成し、絶縁導線をロール20で巻き取っていく。かかる装置によって、本発明の電着塗料組成物の電着、焼付け作業を行うことで、絶縁電線を連続的に製造することができる。
絶縁電線の導体線の材質は、導電性の点から、好ましくは、銅、銅合金、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム、亜鉛めっき鉄、銀等であり、銅が特に好ましい。また、絶縁電線の形状は、横断面形状が円形である円形絶縁電線(すなわち、横断面形状が円形の導体線の外周に電着被膜による絶縁層を設けた絶縁電線)であっても、横断面形状が平角状である平角絶縁電線(すなわち、横断面形状が平角状の導体線の外周に電着被膜による絶縁層を設けた絶縁電線)であってもよい。円形絶縁電線とするか平角絶縁電線とするかは絶縁電線の具体的用途に応じて選択される。なお、ここでいう「平角(状)」とは、矩形若しくは正方形(状)を意味する。円形絶縁電線は、例えば、汎用モーター、電磁コイル等の用途に使用される。また、平角絶縁電線は、例えば、各種電気機器の駆動モーター部、軽量、高出力を活かした携帯電話等の携帯精密機器のコイル等の用途に使用される。
前記のとおり、本発明で使用する、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有する本発明の電着塗料組成物による電着被膜は、部材(被電着物)に強固に密着し、かつ、可撓性に優れるため、横断面形状が円形の導体線だけでなく、横断面形状が平角状の導体線に対しても、電着被膜による絶縁層が高い密着力でその外周を一様に被覆したものとなり、導体線外周の平坦部だけでなくコーナー部をもブロック共重合ポリイミドの被膜が良好に被覆した平角絶縁電線が得られる。従って、絶縁電線は、曲げ加工を施した時の絶縁層(電着被膜)の、部材(被電着物)からの剥がれや割れが起こりにくい、優れた加工耐性を有するものとなる。
本発明において、絶縁電線は、高度の耐熱性や耐電圧性が要求される、自動車用途、高性能電子機器用の絶縁電線に好適である。また、図2は、平角状導体線2(厚みt1、幅W1)を電着被膜(絶縁層)3で被覆した平角絶縁電線1の横断面の模式図である。電着被膜(絶縁層)3の厚みは、平角状導体線2外周の平坦部では、好ましくは1.5〜50μm、より好ましくは5〜30μmである。一方、平角状導体線2の外周のコーナー部は、コーナー部でのAC耐電圧の低下を防ぐために(コーナー部は、電界集中が起りやすいので、耐電圧特性に影響する。)、少なくとも平坦部の厚みの0.8倍以上の厚みを有しているのが好ましく、0.9倍以上がより好ましい。具体的なコーナー部の厚みは、耐電圧特性と絶縁電線(絶縁電線を使用したコイル)の小型化・軽量化の観点から、平坦部の厚みの0.8〜2倍、好ましくは0.9〜1.5倍、さらに好ましくは1.0倍〜1.2倍である。導体線外周のコーナー部での厚みが平坦部での厚みの0.8倍未満であると、コーナー部でのAC耐電圧が電界集中により大きく低下する傾向となる。また、導体線外周のコーナー部での厚みが、平坦部での厚みの2倍を超えると小型化・軽量化が困難になる傾向にある。なお、図2に示すように、平角状導体線2の外周を覆う絶縁層の厚みとは、平角状導体線2の矩形状の横断面における長辺の中心点での絶縁層3の厚み(図2中のD1)をいい、平角状導体線2の外周のコーナー部での絶縁層の厚みとは、平角状導体線2の矩形状の横断面における長辺と短辺の間の角部を覆う絶縁層3の厚み(図2中のD2)をいう。
上記の平角絶縁電線をエッジワイズ巻き、整列巻き、アルファ(α)巻きなどの公知の方法で巻線することで、絶縁コイルが得られる。本発明によれば、該絶縁コイルは、可撓性を有する電着被膜を絶縁層として有した絶縁電線から成るので、絶縁コイルとする際の加工(特にエッジワイズ巻き)に対しても、絶縁層が剥がれたり、割れたりすることはない。
該絶縁コイルは、高度の耐熱性および高度の耐電圧性を有する高耐久性の絶縁コイルとなる。該絶縁コイルの具体的用途としては、例えば、モーター用コイル、トランス用コイル、基板実装部品(SMD)用コイル、小型高性能モーター用コイル、小型電子機器用コイル等が挙げられ、中でも、小型化が要求される小型高性能モーター用コイル、小型電子機器用コイルとして好適である。
本発明の絶縁部材の他の具体例として、複数のリング状絶縁板を積層して構成される絶縁コイルにおける各リング状絶縁板が挙げられる。リング状絶縁板とは、例えば、断面形状が平角状であり、平面形状が開放部を有するリング状の導電板に電着被膜による絶縁被覆をした絶縁板である。
本発明の絶縁部材において、電着被膜(絶縁層)の厚みは、絶縁部材の種類、用途、装置や機器内での絶縁部材の配置箇所や配置形態等によっても異なり、特に限定はされないが、概ね、1.5〜50μmの範囲内で選択される。すなわち、本発明では、厚みが30μmを超える電着被膜(絶縁層)を形成できるが、電着被膜厚の均一性、過剰性能、生産性のために、通常、厚みの上限は50μm程度である。従来、電着被膜の厚さが厚くなるに従い、電着被膜中への泡のかみ込みが見られる場合があったが、本発明の有機変性ポリシロキサンを用いることにより泡のかみ込みが防止された絶縁部材(部品)を製造することができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[ブロック共重合ポリイミドの合成]
ステンレス製の碇型攪拌機を取り付けた2リットルのセパラブル三つ口フラスコに水分分離トラップを備えた玉付冷却管を取り付けた。該フラスコに3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物58.84g(200ミリモル)、ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン43.25g(100ミリモル)、γ−バレロラクトン4.0g(40ミリモル)、ピリジン6.3g(80ミリモル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)531gおよびトルエン50gを仕込み、室温、窒素雰囲気下、180rpmで10分攪拌した後、180℃に昇温して2時間攪拌した。反応中、トルエン−水の共沸分を除いた。ついで、室温に冷却し、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物64.45g(200ミリモル)、信越化学工業社製KF−8010を83.00g(100ミリモル)、3,5−ジアミノ安息香酸30.43g(200ミリモル)、NMP531gおよびトルエン50gを添加し、180℃、180rpmで攪拌しながら、8時間反応させた。環流物を系外に除くことにより、20質量%濃度のブロック共重合ポリイミド溶液(以下、ポリイミドワニス(固形分20%)ともいう)を得た。得られたブロック共重合ポリイミドの数平均分子量及び重量平均分子量は、それぞれ24,000及び68,000であった。
[サスペンジョン型電着塗料組成物の製造]
得られたポリイミドワニス(固形分20%)100gにN−メチルピロリドンを35g、ピペリジンを1.3g加え攪拌した後、プロピレングリコールモノメチルエーテル30gを加え均一になるまで攪拌した。密栓した後、室温で保管、溶液の電気伝導度の1日当たりの変化が0.1mS/m以下になるまで静置後、攪拌装置(フィルミックス)を用い、攪拌部の回転数10000rpmにて、水55gを3回(10g、15g、30g)に分けて混合し、白濁淡茶色の電着塗料液(樹脂成分(ブロック共重合ポリイミド)9質量%)を得た。得られた電着塗料液250質量部に、「additol VXL 4930」(サイテックインダストリーズ社製、樹脂成分(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)40質量%)を下記表1に示す量(質量部)で、それぞれ配合し、実施例1〜6、比較例1〜5の電着塗料組成物を調製した。
下記表2には、表1から見積もられた各電着塗料組成物の、ブロック共重合ポリイミド100質量部に対する有機変性ポリシロキサンの含有量(質量部)を、小数点以下第三位を四捨五入し、第二位まで表示した。
[絶縁電線の作製]
横断面の直径が1mmである円形銅線を電着槽に20cm浸漬し、電圧60V−電流(最大 200mA)で表1記載の皮膜厚さとなるように実施例1〜6、比較例1〜5の電着塗料組成物による電着を行った。その後、電着槽から取り出し、90℃×10分間、その後220℃×10分間の乾燥を行うことで実施例1〜6、比較例1〜5の絶縁電線を得た。
[評価試験]
実施例1〜6、比較例1〜5の電着塗料組成物および絶縁電線について、以下の評価試験を行った。
1.電着塗料組成物/ハンドリング
250mlのポリビンに調製後の電着塗料組成物200gを入れ、60秒振とうした後に放置し、泡の消え具合を確認した。判定基準を以下に示す。
◎:60秒以内に殆どの泡が消えた。
○:60秒以内に液面が見える程度に泡が消えた。
×:60秒では液面が見えなかった。
2.絶縁電線/外観
絶縁被覆外観を目視にて観察し、キズ、割れ、ツヤの低下など有無を確認した。判定基準を以下に示す。
◎:キズ、割れ、ツヤの低下などは確認されなかった。
○:若干のツヤの低下など軽微な外観低下が確認された。
×:明らかな割れが確認された。
3.絶縁電線/加熱後の浮き、はがれ
JIS−C−3216−6 5測定時(温度条件280℃)の電着被膜の状態を目視にて観察し、測定開始から電着被膜の浮きまたは剥がれが起こるまでの時間を計測した。判定基準を以下に示す。
◎:1000時間以上
○:800〜1000時間
×:800時間未満
本発明において、加熱後の浮き、はがれを、信頼性の指標とする。
4.絶縁電線/絶縁破壊
JIS−C−3216−5 JA.4.1(b)法に準拠して測定した(ただし、金属箔幅を150mmとした)。電着被膜厚さは表1に記載する通りとし、N=3の平均値を算出した。2.0kVを超えるものが好ましい。
5.絶縁電線/温度指数
JIS−C−3216−6 5に準拠して測定した。比較例1の温度指数(すなわち、有機変性ポリシロキサンを添加していない電着塗料液の温度指数であり、本実施例の場合240℃)を超えるものを合格とする。
本発明において、温度指数を耐熱性の指標とする。
6.絶縁電線/可とう性
JIS−C−3216−3 5.1巻きつけ試験に準拠して、絶縁電線と同径の棒に巻きつけて測定した。判定基準を以下に示す。
○:電着被覆の亀裂の発生および浮きなし
×:電着被覆の亀裂の発生または浮きあり
実施例1〜6、比較例1〜5の電着塗料組成物および絶縁電線の評価結果をそれぞれ表3に示す。