JP5422381B2 - 絶縁部材 - Google Patents

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Description

本発明は絶縁部材に関し、詳しくは、高耐熱性の絶縁層で絶縁処理された絶縁部材、高耐電圧性の絶縁層で絶縁処理された絶縁部材、及び、高耐熱性かつ高耐電圧性の厚膜の絶縁層で絶縁処理された絶縁部材に関する。
従来から、自動車部品、家電製品、建材、電気・電子部品、プリント基板用銅配線等の、種々の技術分野における絶縁保護が必要な部材(部品)に絶縁処理を行う場合、例えば、部材表面に電着塗料を電着して高絶縁性の電着被膜による絶縁層を形成することが行われている。本願出願人は、以前、このような絶縁部材を得るための、絶縁保護すべき部材(被電着物)上に剥がれや割れが生じにくい高絶縁性被膜を形成できる電着塗料組成物として、シロキサン結合を有する特定のブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有する電着塗料組成物を提案した(特許文献1)。この電着塗料組成物は、部材との密着性や被膜の可撓性に優れるだけでなく、耐熱性や耐電圧性も良好な電着被膜(絶縁層)を形成できるものである。
しかしながら、近時、例えば、電気・電子部品関連、自動車分野、航空宇宙分野等で使用される絶縁部材において、耐熱要求が一層高まり、また、例えば、HV車モーター用コイルや超小型モーターの分野で使用される絶縁部材では、より高度の絶縁性が要求されるようになってきているところ、上記提案の電着塗料組成物では、かかる近時の絶縁部材に要求される高度の耐熱性や高度の絶縁性を十分に満足できる電着被膜(絶縁層)を形成することはできない。
特開2005−162954公報 国際公開公報WO99/19771 米国特許第5,502,143号公報
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、部材との密着性が良好で、割れが生じにくく、しかも、高度の耐熱性を有する絶縁層で絶縁処理された高耐熱性絶縁部材を提供することである。また、絶縁層の剥がれや割れが生じにくく、しかも、高度の絶縁性を示す絶縁部材を提供することである。また、高耐熱性及び高耐電圧性を有する厚膜の絶縁層を有する絶縁部材を提供することである。
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドは、これを比較的大きな粒径の析出粒子として分散させたサスペンジョン型塗料に塗料化することができ、得られるサスペンジョン型塗料は、膜性状の均一性が高い電着被膜を形成できて、その電着被膜が極めて高いレベルの耐熱性及び耐電圧性を有するものになり、しかも、従来では困難なレベルまで厚膜化した電着被膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含む電着被膜からなり、JIS−C−3003に準拠した温度指数評価法での温度指数が200℃以上を示す絶縁層にて絶縁処理されてなる絶縁部材。
(2)分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含む電着被膜からなり、層厚みが10μmのときのAC耐電圧が1kV以上、層厚みが20μmのときのAC耐電圧が2kV以上、層厚みが30μmのときのAC耐電圧が3kV以上を示す絶縁層にて絶縁処理されてなる絶縁部材。
(3)分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含む電着被膜からなり、層厚みが10μmを超える絶縁層にて絶縁処理されてなる絶縁部材。
(4)前記電着被膜が、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有するサスペンジョン型電着塗料組成物による電着被膜である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の絶縁部材。
(5)前記ブロック共重合ポリイミドが、ジアミン成分の1つとして、分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンを含むものである、上記(4)記載の絶縁部材。
(6)前記分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンが、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び下記の一般式(I)で表される化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、上記(5)記載の絶縁部材。
Figure 0005422381
(式(I)中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す)。
(7)前記一般式(I)中の4つのRが、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、フェニル基、又は1個乃至3個の炭素数1〜6のアルキル基若しくは炭素数1〜6のアルコキシル基で置換されたフェニル基を表す、上記(6)記載の絶縁部材。
(8)前記アニオン性基が、カルボン酸基若しくはその塩、及び/又は、スルホン酸基若しくはその塩である上記(4)記載の絶縁部材。
(9)前記ブロック共重合ポリイミドが、ジアミン成分の1つとして、芳香族ジアミノカルボン酸を含む上記(4)記載の絶縁部材。
(10)全ジアミン成分中、前記分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンの割合が5〜90モル%、前記芳香族ジアミノカルボン酸の割合が10〜70モル%(ただし、両者の合計は100モル%以下であり、第3のジアミン成分を含んでいてもよい)である上記(9)記載の絶縁部材。
(11)導体線の外周を前記絶縁層で被覆した絶縁電線である、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の絶縁部材。
(12)導体線の横断面形状が平角状である、上記(11)記載の絶縁部材。
(13)上記(11)又は(12)に記載の絶縁部材である絶縁電線をエッジワイズコイル巻きまたは整列巻きした絶縁コイル。
本発明の絶縁部材によれば、部材表面に、JIS−C−3003に準拠した温度指数評価法での耐熱種がC種を示す極めて高い耐熱性の絶縁層が強固密着し、しかも、該絶縁層の割れが生じ難いものとなることから、高耐熱性かつ高信頼性の絶縁部材を実現することができる。
また、本発明の絶縁部材によれば、部材表面に、層厚みが10μmのときのAC耐電圧が1kV以上を示し、層厚みが20μmのときのAC耐電圧が2kV以上、層厚みが30μmのときのAC耐電圧が3kV以上を示す極めて高い耐電圧性の絶縁層が強固密着し、しかも、絶縁層の割れが生じ難いものとなることから、高絶縁性かつ高信頼性の絶縁部材を実現することができる。
また、本発明の絶縁部材によれば、部材表面に、上記の極めて高い耐熱性及び耐電圧性を有する厚みが30μmを超える厚膜の絶縁層が強固密着し、しかも、該絶縁層の割れが生じ難いものとなるので、絶縁層によって絶縁保護及び耐熱保護のみならず、外傷保護が図られた、高信頼性の絶縁部材を実現することができる。
図1は本発明の絶縁部材の一具体例である絶縁電線の製造における電着液組成物の電着工程で使用される装置の模式図である。 図2は本発明の絶縁部材の一具体例である平角絶縁電線の断面の模式図である。 図3は本発明の絶縁部材(実施例1の絶縁電線)と従来の絶縁部材(比較例1、2の絶縁電線)における、電着被膜(絶縁層)の厚みとAC耐電圧の関係を対比して示した図である。
符号の説明
1 平角絶縁電線
2 導体線
3 絶縁層
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明でいう「絶縁部材」とは、種々の技術分野において、表面の絶縁保護が必要となる部材(被電着体)の表面に、電着塗料の電着被膜(絶縁層)を形成して絶縁処理した部材を意味し、具体的には、導体線の外周に電着被膜(絶縁層)を形成した絶縁電線、積層型トランス用コイルに使用される、打ち抜き加工された金属板の外周に電着被膜を形成した絶縁金属板、プローブガード測定用の針状金属ピン、モーターコアなどに使用される、切削または積層により3次元的に成形された金属板の外周に電着被膜を形成した絶縁金属板等が挙げられる。
絶縁処理される部材(被電着体)の材質としては、特に限定はされないが、導電性の点から、銅、銅合金、銅グラットアルミニウム、アルミニウム、亜鉛メッキ鉄、銀、金、ニッケル、チタン、タングステン等が挙げられる。
また、絶縁処理される部材(被電着体)は、絶縁材料からなる部材本体にメッキのような導電加工を施した部材であってもよい。
本発明の絶縁部材では、部材(被電着体)の表面に設ける絶縁層を、分子骨格(すなわち、ポリイミドの主鎖)中にシロキサン結合(−Si−O−)を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含む電着被膜で形成している。
本発明でいう「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含む電着被膜」とは、具体的には「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを比較的大きな粒径の析出粒子として分散させたサスペンジョン型電着塗料組成物を電着して得られる電着被膜」のことであり、ここで「サスペンジョン型電着塗料組成物」とは、電気泳動法光散乱法(レーザードップラー法)での粒径分析装置ELS−Z2(大塚電子株式会社製)を用いて測定し、測定結果をキュムラント解析法にて解析したポリイミド粒子の粒子径が0.1〜10μm、粒子径の標準偏差が0.1〜8μmで分散されているサスペンジョン型電着塗料組成物である。
なお、「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミド」における「ブロック共重合ポリイミド」とは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを加熱してイミドオリゴマーを生成させ(第1段階反応)、次いでこれに前記のテトラカルボン酸二無水物と同一若しくは異なるテトラカルボン酸二無水物又は/及び前記のジアミンとは異なるジアミンを加えて反応(第2段階反応)することによって、アミック酸間で起る交換反応に起因するランダム共重合化を防止して得られる、共重合ポリイミドのことを意味する。
本発明における「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミド」において、主鎖中のシロキサン結合はテトラカルボン酸二無水物成分由来のシロキサン結合であっても、ジアミン成分由来のシロキサン結合であってもよいが、好ましくはジアミン成分由来のシロキサン結合であり、通常、ジアミン成分の少なくとも1部に、分子骨格中にシロキサン結合(−Si−O−)を有するジアミン化合物(以下、「シロキサン結合含有ジアミン」とも呼ぶことがある。)を用いて得られたブロック共重合ポリイミドである。
また、上記のシロキサン結合含有ジアミンは、テトラカルボン酸二無水物との間でイミド化し得るものであれば特に制限はなく、例えば、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び一般式(I):
Figure 0005422381
(式中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、又は1個ないし3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。)で表される化合物が挙げられる。当該一般式(I)で表される化合物は、式中nが1又は2の単一化合物、及びポリシロキサンジアミンを含む。
式(I)中の4つのRにおいて、アルキル基、シクロアルキル基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜2がより好ましい。また、1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基における、1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基は、それが2又は3個の場合、互いに同一であっても異なってもよい。また、アルキル基、アルコキシル基は、それぞれ、炭素数が1〜6が好ましく、1〜2がより好ましい。
かかる一般式(I)で表される化合物は、式中の4つのRが同一のアルキル基(特にメチル基)又はフェニル基であるのが好ましく、また、式中l及びmが2〜3、nが5〜15にあるポリシロキサンジアミンが好ましい。
なお、ポリシロキサンジアミンの好ましい例としては、ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン(式(I)中、l及びmが3、4つのRがメチル基のもの。)、ビス(γ−アミノプロピル)ポリジフェニルシロキサン(式(I)中、l及びmが3、4つのRがフェニル基のもの。)が挙げられる。
本発明において、シロキサン結合含有ジアミンは、いずれか一種の化合物の単独であっても、2種以上の化合物の併用であってもよい。また、市販品を使用してもよく、信越化学工業社、東レ・ダウコーニング社、チッソ社から販売されているものをそのまま使用できる。具体的には、信越化学工業社製のKF−8010(ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン:アミノ基当量約450)、X−22−161A(ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン:アミノ基当量約840)等が挙げられ、これらは特に好ましいものである。
本発明における「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミド」において、アニオン性基とは、電着組成物の溶媒(後述)中でアニオンになる基であり、好ましくはカルボキシル基若しくはその塩、及び/又は、スルホン酸基若しくはその塩である。アニオン性基は、シロキサン含有ジアミンやテトラカルボン酸二無水物成分が有していてもよいが、アニオン性基を有するジアミンをジアミン成分の1つとして用いることが好ましい。ポリイミドの耐熱性、被電着物との密着性、重合度向上のためこのようなアニオン性基含有ジアミンは、芳香族ジアミンであることが好ましい。すなわち、芳香族ジアミノカルボン酸及び/又は芳香族ジアミノスルホン酸が好ましい。芳香族ジアミノカルボン酸としては、例えば、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノフェニル酢酸、2,5−ジアミノテレフタル酸、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジアミノパラトルイル酸、3,5−ジアミノ−2−ナフタレンカルボン酸、1,4−ジアミノ−2−ナフタレンカルボン酸等が挙げられ、芳香族ジアミノスルホン酸としては、2,5−ジアミノベンゼンスルホン酸、4,4’−ジアミノ−2,2’−スチルベンジスルホン酸、o−トリジンジスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、3,5−ジアミノ安息香酸が特に好ましい。このようなアニオン性基含有芳香族ジアミンは、単独で用いることもできるし、複数種類を組み合わせて用いることもできる。なお、シロキサン結合含有ジアミンがアニオン性基を有している場合には、ジアミン成分は、シロキサン結合含有ジアミンのみであってもかまわない。
ジアミン成分として、上記したシロキサン結合含有ジアミン及びジアミノカルボン酸に加え、さらに他のジアミンが含まれていてもよい。このようなジアミンとしては、ポリイミドの耐熱性、被電着物への密着性、重合度向上のため通常は芳香族ジアミンが用いられる。このような芳香族ジアミンの例として、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジアニリン、α,α−ビス(4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼンを挙げることができ、中でも、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンがより好ましい。
全ジアミン成分中、前記シロキサン結合含有ジアミンの割合は5〜90モル%が好ましく、より好ましくは15〜50モル%である。シロキサン結合含有ジアミン単位が5モル%未満の場合、ポリイミドの電着塗膜は伸び率が劣り、十分な可とう性が得られにくいため、剥がれや割れを生じ易くなるため、好ましくない。また、前記芳香族ジアミノカルボン酸又はその塩の割合が10〜70モル%であることが好ましい(ただし、シロキサン結合含有ジアミンと芳香族ジアミノカルボン酸又はその塩の合計は100モル%以下であり、また、上記の通り第3のジアミン成分を含んでいてもよい)。
一方、ポリイミド中のテトラカルボン酸二無水物成分としては、ポリイミドの耐熱性、ポリシロキサンジアミンの相溶性の点から芳香族テトラカルボン酸二無水物が通常使用され、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらの中でもポリイミドの耐熱性、被電着物への密着性、ポリシロキサンジアミンの相溶性、重合速度等の観点から3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が特に好ましいものとして挙げられる。これら例示のテトラカルボン酸二無水物は、何れか一種の化合物を単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用しても良い。
本発明において、「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミド」は、水溶性極性溶媒に可溶な(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、5重量%以上、好ましくは10重量%以上の濃度で溶解する溶解性を示す。)ブロック共重合ポリイミドである。ブロック共重合ポリイミド及びその製造方法は、既に公知であり(例えば、特許文献2、3)、本発明で用いるポリイミドも、上記ジアミン成分及びテトラカルボン酸二無水物を用い、公知の方法を適用して製造することができる。重合反応には水溶性極性溶媒が用いられ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン(γBL)、アニソール、テトラメチル尿素、及びスルホランから選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、なかでも、NMPが好ましい。かかる水溶性極性溶媒中に、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを、ほぼ等モル(好ましくはモル比で1:0.95〜1.05)加え、触媒存在下で加熱して脱水イミド化反応することにより直接ポリイミド溶液を製造する。触媒は、ラクトンと塩基又はクロトン酸と塩基から成る2成分系の複合触媒である。ラクトンとしてはγ−バレロラクトンが好ましく、塩基としてはピリジン又はN−メチルモルホリンが好ましい。ラクトン又はクロトン酸と塩基の混合比は、1:1〜5(モル当量)、好ましくは、1:1〜2(モル当量)である。水が存在すると、酸−塩基の複塩として、触媒作用を示し、イミド化が完了し、水が反応系外に出る(好ましくは、トルエンの存在下で重縮合反応を行い、生成する水はトルエンと共に反応系外に除かれる)と触媒作用を失う。この触媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物に対し通常1/100〜1/5モル、好ましくは1/50〜1/10モルである。上記イミド化反応に供するテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの混合比率(酸/ジアミン)は、上記の通りモル比で1.05〜0.95程度が好ましい。また、反応開始時における反応混合物全体中の酸ジ無水物の濃度は4〜16重量%程度が好ましく、ラクトン又はクロトン酸の濃度は0.2〜0.6重量%程度が好ましく、塩基の濃度は0.3〜0.9重量%程度が好ましく、トルエンの濃度は6〜15重量%程度が好ましい。反応温度は、150℃〜220℃が好ましい。また、反応時間は特に限定されず、製造しようとするポリイミドの分子量等により異なるが、通常180〜900分間程度である。また、反応は撹拌下で行うことが好ましい。
水溶性極性溶媒中、上記2成分系の酸触媒の存在下で酸二無水物とジアミンとを加熱してイミドオリゴマーを生成させ、次いでこれに酸二無水物又は/及びジアミンを加えて第2段階反応することによりポリイミドを生成することができる。この方法によりアミック酸間で起こる交換反応に起因するランダム共重合化を防止することができる。その結果、ブロック共重合ポリイミドが製造できる。このときの固形分濃度は10〜40重量%が好ましく、より好ましくは20〜30重量%である。
ポリイミドは固有対数粘度(25℃)が20wt%NMP溶液時で5,000〜50,000mPasであるものが好ましく、5,000〜15,000mPasがより好ましい。
また、樹脂成分として用いられるブロック共重合ポリイミドの重量平均分子量(Mw)はポリスチレン換算で20,000〜150,000が好ましく、特に45,000〜90,000が好ましい。当該ポリイミドの重量平均分子量が20,000未満の場合、電着塗膜の耐熱性が低下する傾向となり、また塗膜表面が荒れてしまい、審美性および耐電圧特性が低下する傾向となる。また、重量平均分子量が150,000より大きくなると、ポリイミド樹脂が水に対して撥水性を帯び電着液(塗料)製造工程でゲル化を引き起こし易くなる。
また、数平均分子量(Mn)については、ポリスチレン換算で10,000〜70,000が好ましく、より好ましくは20,000〜40,000である。数平均分子量が10,000未満の場合、電着効率が低下する傾向となり、また、耐熱性、耐電圧性が低下する場合もある。ここで、ポリイミドの分子量はGPCにより測定される、ポリスチレン換算の分子量であり、GPC装置として東ソー社製HLC−8220を、カラムにSCkgel Super−H−RCを使用して、測定した値である。
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物において、ブロック共重合ポリイミドからなる粒子の平均粒子径は0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。平均粒子径が0.1μm未満であるとクーロン効率の低下および過電圧による耐電圧性能の低下をもたらす。また、5μm以上になるとクーロン効率の制御および粒子が大きくなることによるリーク電流の増大により耐電圧性能の低下を引き起こす。そのため、クーロン効率の制御および耐電圧性能の維持のバランスのとれた粒子径範囲として0.5〜5μmが好ましい。
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物の製造は、具体的には、次のようにして行う。 先ず、上記の重合反応を経て得られたブロック共重合ポリイミドを含む重合反応後組成物(すなわち、ブロック共重合ポリイミドと水溶性極性溶媒とを含み、ブロック共重合ポリイミドの含有量が15〜25重量%の組成物)を加熱溶融する。ここでの加熱温度は通常100〜180℃程度、好ましくは120〜160℃程度である。加熱温度が100℃未満では、ブロック共重合ポリイミドが溶解せず、他の溶媒と分散しにくい傾向となり、180℃を超えると、加水分解を起こし、分子量が低下する傾向となる。
次に、前記加熱溶融後の組成物に塩基性化合物を添加、攪拌してブロック共重合ポリイミドを中和した後、組成物を40℃以下に冷却し、さらにブロック共重合ポリイミドの貧溶媒及び水を添加し、混合攪拌して、サスペンジョンを調製する。
かかる塗料組成物の製造工程において、ブロック共重合ポリイミドを中和した後の組成物の冷却後温度が40℃を超える場合、中和剤によりポリイミドが分解する傾向となる。組成物の冷却温度はより好ましくは30℃以下である。なお、組成物の冷却温度が低すぎると、再び固化が始まる傾向となるため、冷却温度の下限は20℃以上が好ましい。
上記塩基性化合物は、ブロック共重合ポリイミドが有するアニオン性基を中和し得るものであれば特に制限なく使用できるが、塩基性含窒素化合物が好ましく、例えば、N,N−ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N−ジメチルベンジルアミン、アンモニア等の第1級アミン、第2級アミン又は第3級アミンが挙げられる。また、ピロ−ル、イミダゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール等の含窒素五員複素環化合物やピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン等の含窒素六員複素環化合物等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。なお、脂肪族アミンは臭気が強いものが多いので、低臭気である点から含窒素複素環式化合物が好ましい。また、塗料の毒性を考慮した場合、含窒素複素環式化合物の中でも毒性が低いピペリジン、モルホリンが好ましい。当該塩基性化合物の使用量はポリイミド中の酸性基が水溶液中に安定に溶解または分散する程度でよく、通常、理論中和量の30〜200モル%程度である。
また、上記ブロック共重合ポリイミドの貧溶媒は、例えば、フェニル基、フルフリル基若しくはナフチル基を有するアルコール又はケトン類が挙げられ、具体的には、アセトフェノン、ベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、フェノキシ−2−エタノール、シンナミルアルコール、フルフリルアルコール、ナフチルカルビノール等が挙げられる。また、脂肪族アルコール系溶媒は毒性が低い点で好ましく、エーテル基を有する脂肪族アルコール系溶媒が特に好ましい。例えば、脂肪族アルコール系溶媒としては、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール類、プロピレングリコール類が使用できる。エチレングリコール類、プロピレングリコール類としては、例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これら貧溶媒は1種又は2種以上を使用できる。
かかる貧溶媒の配合量は組成物全量に対し10〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。また、上記水の量は組成物全量に対し10〜30重量%が好ましく、15〜30重量%がより好ましい。
なお、上記のブロック共重合ポリイミドの貧溶媒や水以外に、組成物の粘度、電気伝導度を調整する目的で、水溶性極性溶媒や油溶性溶媒を適量添加してもよい。ここで、水溶性極性溶媒の具体例としては、前記のブロック共重合ポリイミドの重合反応に使用する水溶性極性溶媒と同じものが挙げられ、油溶性溶媒としてはN−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なお、油溶性溶媒を添加する場合、その量は組成物全量に対し15重量%以下である。
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物の固形分濃度は1〜15重量%が好ましく、より好ましくは5〜10重量%である。また、水溶性極性溶媒の含有量は組成物全量に対し25〜60重量%が好ましく、より好ましくは35〜55重量%である。
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物に分散されているブロック共重合ポリイミドの粒子径が平均0.5〜5μm、粒子径の標準偏差が0.3〜3μmであることが好ましい。また、サスペンジョン型電着塗料組成物の固有対数粘度は5〜100mPasであることが好ましい。
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物を用いて、φ1.0mm、長さ20cmの銅線を使用して電着を行うと、1クーロン当たり15〜250μmのポリイミド皮膜を形成することができる。
本発明の絶縁部材では、上記の分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有するサスペンジョン型電着塗料組成物を電着して電着被膜を形成することにより、該電着被膜は部材(被電着体)に対して強固密着し、かつ、割れが生じ難い可撓性に優れるものとなり、しかも、極めて高い耐熱性を有し、JIS−C−3003に準拠した温度指数評価法での温度指数が200℃以上となる(すなわち、耐熱区分がC種以上を示す)絶縁層となる。また、該電着被膜は極めて高い耐電圧性を有し、層厚みが10μmのときのAC耐電圧が1kV以上、層厚みが20μmのときのAC耐電圧が2kV以上、層厚みが30μmのときのAC耐電圧が3kV以上を示す絶縁層となる。このような高度の耐熱性及び高度の耐電圧性は、上記のサスペンジョン型電着塗料組成物が、塗膜の成長過程での電気伝導度が高く、部材(被電着物)表面に膜性状の均一性の高い被膜を成長させるためであると考えられる。
また、上記のサスペンジョン型電着塗料組成物は、ブロック共重合ポリイミドの分散粒子(析出粒子)が部材(被電着物)の表面に堆積(付着)しやすいためか、従来のポリイミド系電着組成物では困難であった30μmを超える厚みの電着被膜を成長させ得る。従って、厚みが30μmを超える被膜を形成することで、該絶縁層によって絶縁保護及び耐熱保護のみならず、外傷保護が図られた、絶縁部材を実現することができる。よって、本発明の絶縁部材によれば、部材表面に、上記の極めて高い耐熱性及び耐電圧性を有する厚みが30μmを超える厚膜の絶縁層が強固に密着し、しかも、該絶縁層の割れが生じ難いものとなるので、絶縁層によって絶縁保護及び耐熱保護のみならず、外傷保護が図られた、高信頼性の絶縁部材を実現することができる。
本願の出願人が特許文献1で提案した電着塗料組成物は、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有する点で、本発明で使用する上記のサスペンジョン型電着塗料組成物と共通する。しかし、先述したように、特許文献1に提案の電着塗料組成物は、液相分散乃至溶液型の組成物であり、JIS−C−3003に準拠した温度指数評価法による耐熱区分が最高でF種の電着被膜(絶縁層)しか形成できず、また、層厚みが10μmのときのAC耐電圧は最高でもせいぜい0.3kV程度しか示さない。また、電着条件を種々変更しても、厚みが30μmを超える電着被膜(絶縁層)を形成することは困難である。
本発明の絶縁部材は、部材(被電着物)を、上記のサスペンジョン型電着塗料組成物に浸漬し、該部材(被電着物)を陽極として電流を通じて該部材(被電着物)上にポリイミド被膜を成長させる電着作業を行い、得られた被膜を加熱乾燥(焼付け)することで得られる。
電着は、定電流法又は定電圧法で行うことができ、例えば、定電流法の場合、電流値:1.0〜200mA、直流電圧:5〜200V(好ましくは30〜120V)の条件が挙げられる。また、電着時間は電着条件、形成すべき電着膜の厚み等によっても異なるが、一般的には10〜120秒の範囲から選択され、好ましくは30〜60秒である。また、電着の際の組成物温度は通常10〜40℃、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜30℃である。電着電圧が5Vより低いと電着によって塗膜を形成させることが困難となる傾向があり、200Vよりも大きくなると被塗布物からの酸素の発生が激しくなり、均一な塗膜が形成できなくなる。また、電着時間が10秒よりも短いと、電着電圧を高めに設定しても塗膜が成長しにくいためにピンホールが発生しやすく、電着膜の耐電圧性能が著しく低下している。また、120秒を超えると、塗膜の厚さが必要以上に厚くなるだけで経済性に欠ける。また、組成物温度が10℃よりも低いと電着によって塗膜形成をさせることが困難になり、50℃よりも高くなると温度管理が必要となり生産コストを上げる原因になる。
焼付けは70〜110℃で10〜60分の第一段階の焼付け処理を行った後、160〜180℃で10〜60分の第二段階の焼付け処理を行い、さらに200〜220℃で30〜60分の第三段階の焼付け処理を行うのが好ましい。このような3段階の焼付け処理を行うことで、部材(被電着物)に対して高い密着力で密着した十分に乾燥されたポリイミドの被膜を形成することが出来る。
絶縁部材として、絶縁電線を作製する場合、上記サスペンジョン型電着塗料組成物の電着、焼付け作業は、たとえば、図1に示すような装置で行うのが好ましい。すなわち、ロール10に巻き線された導体線11を引き出し、交流電源の陽極側に接続した状態で、電着塗料組成物13で満たされた電着バス12中を通過させる。電着バス12中には、陰極管14が配置され、導体線11の通過時に前記した電圧の印加により、陽極である導体線11と陰極である陰極管14間の電位差により、ポリイミドが導体線11上に略均一に析出する。電着バス12の後、導体線11は乾燥装置15内を通過する。該乾燥装置15内で、導体線11上に析出したポリイミド中の水が蒸発する。乾燥装置15を通過した後、焼付け炉16を通過させポリイミドからなる被膜(絶縁層)が形成し、絶縁導線をロール20で巻き取っていく。かかる装置によって、電着塗料組成物の電着、焼付け作業を行うことで、絶縁電線を連続的に製造することができる。
絶縁電線の導体線の材質は、導電性の点から、好ましくは、銅、銅合金、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム、亜鉛めっき鉄、銀等であり、銅が特に好ましい。また、絶縁電線の形状は、横断面形状が円形である円形絶縁電線(すなわち、横断面形状が円形の導体線の外周に電着被膜による絶縁層を設けた絶縁電線)であっても、横断面形状が平角状である平角絶縁電線(すなわち、横断面形状が平角状の導体線の外周に電着被膜による絶縁層を設けた絶縁電線)であってもよい。円形絶縁電線とするか平角絶縁電線とするかは絶縁電線の具体的用途に応じて選択される。なお、ここでいう「平角(状)」とは、矩形若しくは正方形(状)を意味する。円形絶縁電線は、例えば、汎用モーター、電磁コイル等の用途に使用される。また、平角絶縁電線は、例えば、各種電気機器の駆動モーター部、軽量、高出力を活かした携帯電話等の携帯精密機器のコイル等の用途に使用される。
前記のとおり、本発明で使用する、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有するサスペンジョン型電着塗料組成物の電着被膜は、部材(被電着物)に強固に密着し、かつ、可撓性に優れるため、横断面形状が円形の導体線だけでなく、横断面形状が平角状の導体線に対しても、電着被膜による絶縁層が高い密着力でその外周を一様に被覆したものとなり、導体線外周の平坦部だけでなくコーナー部をもポリイミドの被膜が良好に被覆した平角絶縁電線が得られる。従って、絶縁電線は、曲げ加工を施した時の絶縁層(電着被膜)の剥がれや割れが起こりにくい、優れた加工耐性を有するものとなる。
本発明において、絶縁電線は、高度の耐熱性や耐電圧性が要求される、自動車用途、高性能電子機器用の絶縁電線に好適である。また、図2は、平角状導体線2(厚みt1、幅W1)を電着被膜(絶縁層)3で被覆した平角絶縁電線1の横断面の模式図である。電着被膜(絶縁層)3の厚みは、平角状導体線2外周の平坦部では、好ましくは1.5〜50μm、より好ましくは5〜30μmである。一方、導体線2外周のコーナー部は、コーナー部でのAC耐電圧の低下を防ぐために(コーナー部は、電界集中が起りやすいので、耐電圧特性に影響する。)、少なくとも平坦部の厚みの0.8倍以上の厚みを有しているのが好ましく、0.9倍以上がより好ましい。具体的なコーナー部の厚みは、耐電圧特性と絶縁電線(絶縁電線を使用したコイル)の小型化・軽量化の観点から、平坦部の厚みの0.8〜2倍、好ましくは0.9〜1.5倍、さらに好ましくは1.0倍〜1.2倍である。導体線外周のコーナー部での厚みが平坦部での厚みの0.8倍未満であると、コーナー部でのAC耐電圧が電界集中により大きく低下する傾向となる。また、導体線外周のコーナー部での厚みが、平坦部での厚みの2倍を超えると小型化・軽量化が困難になる傾向にある。なお、図2に示すように、平角状導体線1の外周を覆う絶縁層の厚みとは、平角状導体線2の矩形状の横断面における長辺の中心点での絶縁層3の厚み(図2中のD1)をいい、平角状導体線1の外周のコーナー部での絶縁層の厚みとは、平角状導体線2の矩形状の横断面における長辺と短辺の間の角部を覆う絶縁層3の厚み(図2中のD2)をいう。
上記の平角絶縁電線をエッジワイズ巻き、整列巻き、アルファ(α)巻などの公知の方法で巻線することで、絶縁コイルが得られる。該絶縁コイルは、可撓性を有する電着被膜を絶縁層として有した絶縁電線から成っているので、絶縁コイルとする際の加工(特にエッジワイズ巻き)に対しても、絶縁層が剥がれたり、割れたりすることはない。
該絶縁コイルは、高度の耐熱性および高度の耐電圧性を有する高耐久性の絶縁コイルとなる。該絶縁コイルの具体的用途としては、モーター用コイル、トランス用コイル、基板実装部品(SMD)用コイル、小型高性能モーター用コイル、小型電子機器用コイル等が挙げられ、中でも、小型化が要求される小型高性能モーター用コイル、小型電子機器用コイルとして好適である。
本発明の絶縁部材の他の具体例として、複数のリング状絶縁板を積層して構成される絶縁コイルにおける各リング状絶縁板が挙げられる。リング状絶縁板とは、例えば、断面形状が平角状であり、平面形状が開放部を有するリング状の導電板に電着被膜による絶縁被覆をした絶縁板である。
本発明の絶縁部材において、電着被膜(絶縁層)の厚みは、絶縁部材の種類、用途、装置や機器内での絶縁部材の配置箇所や配置形態等によっても異なり、特に限定はされないが、概ね、1.5〜50μmの範囲内で選択される。すなわち、本発明では、厚みが30μmを超える電着被膜(絶縁層)を形成できるが、被膜厚の均一性、過剰性能、生産性のために、通常、厚みの上限は50μm程度である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1
[電着塗料組成物の調製]
ステンレス製の碇型攪拌機を取り付けた2リットルのセパラブル三つ口フラスコに水分分離トラップを備えた玉付冷却管を取り付けた。該フラスコに3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物58.84g(200ミリモル)、ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン43.25g(100ミリモル)、γ−バレロラクトン4.0g(40ミリモル)、ピリジン6.3g(80ミリモル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)531gおよびトルエン50gを仕込み、室温、窒素雰囲気下、180rpmで10分攪拌した後、180℃に昇温して2時間攪拌した。反応中、トルエン−水の共沸分を除いた。ついで、室温に冷却し、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物64.45g(200ミリモル)、信越化学工業社製KF−8010を83.00g(100ミリモル)、3,5−ジアミノ安息香酸30.43g(200ミリモル)、NMP531gおよびトルエン50gを添加し、180℃、180rpmで攪拌しながら、8時間反応させた。還流物を系外に除くことにより、20重量%濃度のポリイミド溶液(20%ポリイミドワニス)を得た。得られたポリイミドの数平均分子量及び重量平均分子量は、それぞれ24,000及び68,000であった。
得られたポリイミドワニスをガラス板上にバーコーターを用いてウエット膜厚50μmにて塗布した。その後、温風乾燥機にて90℃/30分、180℃/30分、220℃/30分で乾燥させた後、ガラス板より剥離させ、JIS C 2151に準拠して機械的伸び率を測定し、21.8%のポリイミド被膜が得られた。また熱分解温度は420℃であった。
先に得られた20%ポリイミドワニス100gを窒素雰囲気下160℃で1時間攪拌し、その後、30℃まで急冷し、N−メチルピロリドン59.4gとピペリジン2.2g(中和率200モル%)を加え激しく攪拌した。その後、プロピレングリコールモノメチルエーテル129gを加えながら攪拌し、水67gを滴下して電着液を調製した。粒径分析装置ELS−Z2(大塚電子株式会社製)を用いて、該電着液における分散粒子の粒径および標準偏差を測定したところ、粒径0.7μm、標準偏差0.5μmの析出粒子(固形粒子)を有するサスペンジョンを形成していた。なお、固形分濃度6.0%、pH8.7、電気伝導度7.3mS/mの黒濁液であった。また、固有対数粘度は、50mPasであった。
[絶縁電線の作製]
上記電着液組成物を使用し、電極−被着体間距離を50mm、電着電圧を30Vとし、電着電流を0.01〜200mAの範囲内、電着時間を10〜60秒の範囲内で変更し、φ1.0mm、長さ20cmの円形銅線外周に電着を行い、電着後の銅線を電着浴から取り出し、水洗後、90℃×30分間、さらに170℃×30分間、さらに220℃×30分間焼き付けることで、種々の厚みの電着被膜(絶縁層)を有する円形絶縁銅線(1電着条件当たりのサンプル数=5)を得た。そして、得られた円形絶縁銅線につき、下記の試験方法で、電着液の電着性(被膜形成性)、電着被膜の厚さ、AC耐電圧及び耐熱寿命を評価した。その代表例の結果が下記表1である。
1.被膜の均一性
JIS C 3003に準拠して、ピンホールの有無を調査した。
2.電着被膜の厚さ
マイクロメータ(最小目盛:0.1mm)を用いて計測した。サンプル1個当たり5箇所の厚さを測定し、平均値をそのサンプルの測定結果とした。表1には5個のサンプルにおける最大厚みと最小厚みを測定した。
3.電着被膜のAC耐電圧
JIS−C−3003に準拠して、B法金属箔法により、AC破壊電圧を測定した。すなわち、1cmのスズ箔を絶縁電線に巻き付け、導体−すず箔間にて測定した。そして、各板に交流電圧発生装置を接続し、1秒間当たり100Vの速度で電圧を上昇させて、短絡(漏れ電流値10mA以上)した電圧を破壊電圧とした。表1には5個のサンプルの平均値を測定した。
4.電着被膜の耐熱寿命
実施例1で作製した絶縁電線の被膜厚さ21〜23μm(表1−No.5)の試料について、JIS−C−3003に記載の温度指数評価法に準拠して絶縁電線の耐熱性(電着被膜の耐熱寿命)を評価した。すなわち、実施例1で作製した絶縁電線の被膜厚さ21〜23μm(表1−No.5)の電線試料2本を用いて2個撚りし、試験片を得た。この試験片を290〜320℃の範囲内の10℃間隔の温度(290℃、300℃、310℃、320℃)に設定したオーブンで熱処理し、それぞれについて、500V×1秒の電圧印加で破壊に至るまでの時間を計測した。温度指数は290℃、300℃、310℃、320℃の各温度での測定結果をアレニウスプロットした耐熱寿命グラフより算出した。寿命20,000時間に相当する耐熱温度、すなわち、温度指数は240℃で、耐熱区分は200℃以上であるC種に相当するものであった。
Figure 0005422381
比較例1
実施例1で得られたブロック共重合ポリイミド(樹脂成分)を20重量%含有する半固形状の組成物100gを160℃に加熱溶融した後、NMP70gを加え、アニソール55g、シクロヘキサノン45g及びN−メチルモルホリン2.6g(中和率200モル%)を加え、攪拌しながら水30gを滴下して、固形分濃度6.6%、pH7.8の電着液組成物を得た。粒径分析装置ELS−Z2(大塚電子株式会社製)を用いて、電着液における分散粒子の粒径および標準偏差を測定したが、粒径が0.1μm以上の析出粒子は観察されなかった。そして、この電着液組成物を使用して、極間距離を50mm、電着電圧を160Vとし、電着電流を0.01〜200mAの範囲内、電着時間を10〜60秒の範囲内で、種々変更して、実施例1で使用した円形の銅線と同じ銅線に電着を行い、その後は実施例1と同様にして、種々の厚みの電着被膜(絶縁層)を有する円形絶縁銅線を得た(1電着条件当たりのサンプル数=5)。そして、上述の試験方法で、電着液の電着性(被膜形成性)、電着被膜の厚さ、AC耐電圧及び電着被膜の耐熱寿命を評価した。
下記表2に代表例の結果を示す。なお、温度指数は180℃で、耐熱区分はH種であった。
Figure 0005422381
比較例2
比較例1で調製した電着液組成物を使用し、電着電圧を250Vに変更した以外は、比較例1と同様にして、電着を行い、種々の厚みの電着被膜(絶縁層)を有する円形絶縁銅線を得た(1電着条件当たりのサンプル数=5)。
下記表3及び図3に、実施例1および比較例1、2で得られた円形絶縁銅線の、電着被膜の厚み(横軸)とAC耐電圧(縦軸)の関係の特性線を対比して示した。下記表3及び図3から、サスペンジョン型塗料組成物を電着して得た実施例1の絶縁電線では、従来の溶液型塗料組成物を使用した比較例(比較例1、2)の絶縁電線に比べて、被膜成長速度が速く、かつ、被膜の単位厚さ当たりのAC耐電圧性に優れ、しかも、電着被膜(絶縁被膜)を30μm以上に厚膜化できることが分かる。従来の溶液型塗料組成物でも、電着電圧を上げることで、被膜成長速度を上げることが可能であるが、比較例1と比較例2の対比から、電圧上昇に伴い被膜のAC耐電圧性が低下することが分かる。
Figure 0005422381
実施例2
電圧300V、電着電流(Max)200mA、電着時間30秒の電着条件で、横断面が1.8mm×0.08mmの平角銅線(全長30cm)の外周に、実施例1で調製した電着液組成物を電着した。
次に、電着後の銅線を電着浴から取り出し、水洗後、90℃×30分間、さらに170℃×30分間、さらに220℃×30分間焼付けることで、シロキサン結合含有ブロック共重合ポリイミドによる絶縁層を有する平角絶縁銅線を得た。
絶縁層の平角銅線の平坦部を覆う部分の平均厚み(D1)は20μm、コーナー部を覆う部分の平均厚み(D2)は19μmであった。なお、ここでの平均厚み(D1)は平角絶縁銅線の全長30cm区間の5箇所の断面での銅線断面(矩形)の2つの長辺のそれぞれの中点での絶縁層の厚み(合計10箇所の厚み)の平均値であり、コーナー部を覆う部分の平均厚み(D2)は、上記5箇所の断面での銅線断面(矩形)の4つのコーナー部での絶縁層の厚み(合計20箇所の厚み)の平均値である。絶縁層の厚み測定は、マイクロスコープによる断面写真より、画像処理によって行った。
得られた平角絶縁銅線について、下記の可撓性試験を行い、さらに絶縁コーナーカバー性を下記の方法で評価したところ、可撓性試験では被膜に亀裂が生じず、カバー性も良好(合格)であった。
(可撓性試験)
(1)自己径巻付けでの被覆剥離の有無
同一巻枠から適切な長さの試験片3本を採り、それぞれについて試験片自身の周囲に線と線が接触するように緊密に10回巻き付けたとき、被膜に導体が見える亀裂が生じるかを目視で調べた。
(2)エッジワイズコイル巻での被覆剥離の有無。
同一巻枠から長さ約20cmの試験片2本を採り、規定の径をもつ丸棒の外周に沿って一平面内にあるように保ちながら、中央部をそれぞれフラットワイズ及びエッジワイズに180°曲げたとき、被膜に導体が見える亀裂が生じるかを目視で調べた。
(絶縁コーナーカバー性)
絶縁平角銅線の断面コーナー部の絶縁層の平均厚さ(D2)が平坦部の絶縁層の平均厚さ(D1)の0.8倍以上である場合を合格、0.8倍未満である場合を不合格とした。
本発明の絶縁部材は、絶縁保護及び耐熱保護のみならず、外傷保護が図られた、高信頼性の絶縁部材であり、電気・電子部品関連、自動車分野、航空宇宙分野等で使用できる。また、より高度の絶縁性が要求される、HV車モーター用コイルや超小型モーターの分野で使用できる。
本出願は日本で出願された特願2007−122730を基礎としており、それらの内容は本明細書にすべて包含される。

Claims (12)

  1. 分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有し、平均粒子径が0.5〜5μmであり、粒子径の標準偏差が0.3〜3μmである前記ブロック共重合ポリイミドの固形粒子を分散させたサスペンジョン型電着塗料組成物から形成された電着被膜からなり、JIS−C−3003に準拠した温度指数評価法での温度指数が200℃以上を示す絶縁層にて絶縁処理されてなる絶縁部材。
  2. 分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有し、平均粒子径が0.5〜5μmであり、粒子径の標準偏差が0.3〜3μmである前記ブロック共重合ポリイミドの固形粒子を分散させたサスペンジョン型電着塗料組成物から形成された電着被膜からなり、層厚みが10μmのときのAC耐電圧が1kV以上、層厚みが20μmのときのAC耐電圧が2kV以上、層厚みが30μmのときのAC耐電圧が3kV以上を示す絶縁層にて絶縁処理されてなる絶縁部材。
  3. 分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有し、平均粒子径が0.5〜5μmであり、粒子径の標準偏差が0.3〜3μmである前記ブロック共重合ポリイミドの固形粒子を分散させたサスペンジョン型電着塗料組成物から形成された電着被膜からなり、層厚みが10μmを超える絶縁層にて絶縁処理されてなる絶縁部材。
  4. 前記ブロック共重合ポリイミドが、ジアミン成分の1つとして、分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンを含むものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁部材。
  5. 前記分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンが、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び下記の一般式(I)で表される化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項4記載の絶縁部材。
    Figure 0005422381
    (式中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す)。
  6. 前記一般式(I)中の4つのRが、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個の炭素数1〜6のアルキル基若しくは炭素数1〜6のアルコキシル基で置換されたフェニル基を表す、請求項5記載の絶縁部材。
  7. 前記アニオン性基が、カルボキシル基若しくはその塩、及び/又は、スルホン酸基若しくはその塩である請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁部材。
  8. 前記ブロック共重合ポリイミドが、ジアミン成分の1つとして、芳香族ジアミノカルボン酸を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁部材。
  9. 全ジアミン成分中、前記分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンの割合が5〜90モル%、前記芳香族ジアミノカルボン酸の割合が10〜70モル%(ただし、両者の合計は100モル%以下であり、第3のジアミン成分を含んでいてもよい)である請求項8記載の絶縁部材。
  10. 導体線の外周を前記絶縁層で被覆した絶縁電線である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の絶縁部材。
  11. 導体線の横断面形状が平角状である、請求項10記載の絶縁部材。
  12. 請求項10又は11に記載の絶縁部材である絶縁電線をエッジワイズコイル巻きまたは整列巻きした絶縁コイル。
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