JP5703847B2 - 超低粘度塗剤を用いたグラビアコーティング方法およびこの方法により製造されたガスバリア性フィルム - Google Patents

超低粘度塗剤を用いたグラビアコーティング方法およびこの方法により製造されたガスバリア性フィルム Download PDF

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Description

本発明は、所望の均一な厚みを通常では得ることが難しい超低粘度塗剤を用いても所望の均一な厚み及び欠陥の無い良好な塗工面を得ることができるグラビアコーティング方法ならびにこの方法により製造されたガスバリア性フィルムに関する。
従来、コーティング方法としては、グラビアコーティング方法(ダイレクトグラビアコーティング、リバースグラビアコーティング)、小径グラビアコーティング方法、ロッドコーティング方法、ダイコーティング方法または、スプレーコーティング方法等などが知られており、被塗布基材、塗剤の種類(粘度)、所望塗布厚みによって適宜選択され使用されている。
その中でもグラビアコーティング方法とは、円筒表面にセルと呼ばれる微少な凹部を多数形成したグラビア版2をオープン状のパン4に貯められた塗剤1に浸積し、その表面に比較的低粘度の塗剤を形成した後、ドクター3と呼ばれる掻き取り用具で余分な塗剤を掻き取り、版面のセルに残った塗剤に被塗布基材7を接触させて転移させる方法である。グラビアコーティング方法は、比較的低粘度の塗剤を高速でコーティングできるといった特徴をもつと言われている。
ダイレクトグラビアコーティング方法とは、グラビア版と被塗布基材を接触させるだけでなく、グラビア版の上部に配し、被塗布基材をグラビア版に押圧する役割を果たす圧胴5と呼ばれる部材の回転方向と被塗布基材の進行方向が同じ方向であるグラビアコーティング方法のことである。圧胴5のゴム硬度は、通常70〜90度(JIS K6253(2006年版))のものを使用する。
さらに圧胴5の上部に圧胴5の振動等をおさえる役割を果たすバックアップロール6と呼ばれる部材を使用する場合もある。ダイレクトグラビアコーティング方法は、例えば、ポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムの一方の面に、真空蒸着法等の物理気相成長法を用いて、酸化アルミニウム、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を設けた蒸着フィルムの無機酸化物蒸着薄膜層上にポリマーをコーティングし、ガスバリア層を形成するのに適用される。また、被塗布基材へのインキ類の印刷においても同コーティング方法が良く用いられる(特許文献1)。このような被塗布基材の印刷において、インキの適性粘度は、ザーンカップ#3(離合社製)での秒数が16〜20秒(25℃)程度と記載されており、この値は、B型粘度に直すと、約50〜70mPa・sとなり、例えば0mPa・sより大きく5mPa・s以下(塗剤温度20℃)の超低粘度塗剤を同コーティング方法で容易に、所望の均一な厚みを得ることができないことを示唆している。
特開平9−314796号公報
また、上記のような超低粘度塗剤をコーティングするに際し、通常用いられる表面硬度が70〜90度の圧胴を用い、圧胴のグラビア版に対するニップ圧力や圧胴の上部に配し、圧胴を固定するバックアップロールの圧胴ならびにグラビア版に対するニップ圧力を適正な圧力に設定せず進行したならば、被塗布基材への塗剤転写分以外にグラビア版のセル内に充填された塗剤が圧胴の加圧によりはみ出し、グラビア版と圧胴のニップ部とドクターの間でそのはみ出した塗剤が液溜まりする現象を生じる問題がある。
この液溜まりは、グラビア版と圧胴のニップ部とドクターの間で逃げ道がないので、その結果、両サイドに塗剤が逃げ出し、結果被塗布基材の両サイドの塗布量が多くなり、所望の均一な厚みを得ることができなくなる。
また、超低粘度塗剤は塗工速度が速くなるとグラビア版上での塗剤の液跳ねや暴れが起こり、被塗布基材への転写と同時に気泡欠点や凸型欠点を発生させる。
本発明の目的は、このような問題点に鑑み、塗剤の液溜まりを発生することなく、例えば0mPa・sより大きく5mPa・s以下(塗剤温度20℃)の超低粘度塗剤を用いた場合でも容易に、所望の均一な厚みの塗膜を得ることができ、さらに塗工速度が速くても気泡欠点や凸型欠点を発生することなく安定して良好な塗工面を得ることが可能なコーティング方法、ならびに本グラビアコーティング方法により製造されたガスバリア性フィルムを提供することにある。
本発明のグラビアコーティング方法は、以下の方法である。すなわち、
圧胴とグラビア版とを用いて被塗布基材に塗剤をグラビアコーティングするに際し、表面のゴム硬度が40〜60度である圧胴を用いて20℃における粘度が0mPa・sより大きく5mPa・s以下である塗剤を塗布するグラビアコーティング方法である。
さらに、圧胴の上部に圧胴を固定するバックアップロールを配し、該バックアップロールの圧胴ならびにグラビア版に対するニップ圧力が0.3MPa以下であるグラビアコーティング方法である。
また、通常グラビアコーティングにおいては、グラビア版2をオープン状のパン4に貯められた塗剤1に浸積し、その表面に比較的低粘度の塗剤を形成した後、ドクター3と呼ばれる掻き取り用具で余分な塗剤を掻き取り、版面のセルに残った塗剤に被塗布基材を接触させて転移させる方法であるが、揮発性の高い溶剤などを使用する際、溶剤揮発によるその塗剤の固形分上昇や安全性面を鑑み、グラビア版に付設されるドクターが密閉式ドクター9を採用した場合のグラビアコーティング方法である。
また、グラビア版の下流にスムージングロールを付設し、該スムージングロールを被塗布基材上の塗剤に接して、周速度をグラビアロールの周速度の5〜45%の範囲でリバース回転させるグラビアコーティング方法である。
本願は、特にダイレクトグラビアコーティング方法に好適に用いることができる。
本発明によれば、所望の均一な厚みを通常では得ることが難しい超低粘度塗剤を用いても、グラビア版と圧胴のニップ部とドクターの間でそのはみ出した塗剤が液溜まりする現象を抑制し、所望の均一な厚みを得ることができる。さらに、スムージングロールを付設し所定の速度でリバース回転させた場合には、塗工速度が速くても気泡欠点や凸型欠点を発生することなく良好な塗工面を得ることが可能となる。この方法により、均一な厚み及び欠点を発生することなく安定して良好な塗工面を有するガスバリア層を有するガスバリア性フィルムを得ることができる。
ダイレクトグラビアコーティング方法において、オープン状のパンを使用した際のグラビアコーティング装置のコーティングヘッド部付近を説明する図である。 ダイレクトグラビアコーティング方法において、密閉式のドクターを使用した際のグラビアコーティング装置のコーティングヘッド部付近を説明する図である。
以下、さらに詳しく本発明のグラビアコーティング方法、ならびに本発明のグラビアコーティング方法により製造されたガスバリア性フィルムについて説明する。本発明のグラビアコーティング方法は、表面のゴム硬度が40〜60度である圧胴を用いることによって、20℃における粘度が0mPa・sより大きく5mPa・s以下である塗剤(以下、超低粘度塗剤)を用いた場合でも、所望の均一な厚みを得ることができるようにしたことを特徴とするものである。圧胴の表面のゴム硬度が、60度を越えると、各種コーティング条件を変更した場合においても、被塗布基材への塗剤転写分以外にグラビア版のセル内に充填された塗剤が圧胴の加圧によりはみ出し、グラビア版と圧胴のニップ部とドクターの間でそのはみ出した塗剤が液溜まりする現象が発生してしまう。圧胴の表面のゴム硬度が40度未満であると、ゴム硬度が低すぎることで被塗布基材が、グラビア版と圧胴のニップ部を通過する際、被塗布基材が圧胴に付着し、その後強制的に剥がれ、これが連続することで被塗布基材幅方向に非常に細かいシワが発生してしまう。ここで粘度は、B型粘度計にて測定したものであり、例えば、東機産業製 型番BLIIを用いて測定することができる。圧胴の表面のゴム硬度はJIS K6253(2006年版)にしたがって測定する。(以下特に、注記しない限り、ゴム硬度は、JIS K6253(2006年版)により求めたものをいう)ゴム硬度が40〜60度のものであれば、どのような材質でも良いが、特にEPDM(エチレン−プロピレンゴム)やNBR(ニトリルゴム)、ブチルゴム、シリコンゴムが好適に用いられる。用途に応じて、導電性を付加するため、カーボンを含有したものも好適に用いられる。
また、本発明のグラビアコーティング方法は、好ましくは圧胴のグラビア版に対するニップ圧力が、0.4MPa以下である。また、圧胴の上部に圧胴を固定するバックアップロールを配し、バックアップロールの圧胴ならびにグラビア版に対するニップ圧力が0.3MPa以下であることが好ましい。圧胴のグラビア版に対するニップ圧力が0.4MPaを越えると、圧胴の表面のゴム硬度が低いことが起因し、コーティング時、被塗布基材が、グラビア版と圧胴のニップ部を通過する際、被塗布基材が、圧胴に付着し、その後強制的に剥がれ、これが連続することで被塗布基材幅方向に非常に細かいシワが発生することがある。さらに圧胴の上部に配し、圧胴を固定するバックアップロールの圧胴ならびにグラビア版に対するニップ圧力を0.3MPa以下とすることで被塗布基材幅方向に発生する細かいシワを抑制することができる。また、バックアップロールの材質や径などについては、特に規定されず公知のバックアップロールを好適に使用することができる。圧胴のニップ圧力とバックアップロールのニップ圧力が、それぞれ0MPa以上で、かつ両者の和が0.4MPa以下の時に最も好適に被塗布基材幅方向に発生する非常に細かいシワが抑制できるため好ましい。
また、本発明の好ましい態様は、グラビア版に付設されるドクターが密閉式である。本密閉式のドクターについて、各社様々な内部構造を有しているが、特に内部構造は限定せず使用することが可能である。
また、本発明の好ましい態様は、グラビア版より下流に塗工面を平滑化する役目を果たすスムージングロールを付設したものである。スムージングロールは、その周速度を、グラビア版の周速度の5〜45%の範囲として、リバース回転することが好ましい。スムージングロールの周速度がグラビア版の周速度の5%より小さくなると、グラビア版で発生した気泡欠点や凸型欠点を全て平滑化することができず塗工面に欠点が残留する場合がある。スムージングロールの周速度がグラビア版の周速度の45%より大きくなると、スムージングロールと接触する塗工面との摩擦が過剰に大きくなるため、塗工面に傷を発生させたり蒸着膜に割れを発生させたりする場合があり、それに起因して酸素透過率及び水蒸気透過率が悪化するなどの問題が発生する場合がある。かかる観点から、スムージングロールの周速度は、グラビアロールの周速度の15〜25%の範囲であることがより好ましい。
本発明に用いるスムージングロールの形状は、特に限定されず既知のスムージングロールを使用することができる。スムージングロールの直径は、フィルム搬送時のシワの発生頻度が少ない範囲として、10mm〜300mmが好ましく、50mm〜150mmがより好ましい。
本発明に用いるスムージングロールの材質は、特に限定されず、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄(炭素鋼、鋳鉄、鋼鉄など)などの金属製のロールや、アクリル系、エポキシ系、塩化ビニル系、フッ素系などの樹脂製のロールを用いることができる。スムージングロールの耐摩耗性の観点から、金属製のスムージングロールが好ましく、金属を材質としたロールにクロム、ニッケル、ニッケルクロム、銅などをメッキ処理されたロールがさらに好ましく用いられる。
本発明に用いるスムージングロールの表面粗さは、ガスバリア層に傷やクラックなどを発生させ、ガスバリア性を悪化させない範囲であれば特に限定はされないが、最大表面粗さRmaxが50μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは20μm以下である。
本発明のグラビアコーティング方法により製造されたガスバリア性フィルムについて、以下説明する。なお、下記に説明するガスバリア性フィルムだけでなく、本願の主旨に合致した内容であれば、この限りではない。
ガスバリア性フィルム及びそれを用いた包装材料は、既によく知られている。最も優れたガスバリア性を有する材料は、アルミニウム箔である。しかし、アルミニウム箔は、単独ではピンホール強力が弱く、特殊な用途を除いては使用できない。このため、アルミニウム膜はほとんどラミネートフィルムの中間層として使用される。アルミニウムのラミネートフィルムのガスバリア性は非常に優れている。しかし、このラミネートフィルムは、不透明であるため内容物が見えない、確実にヒートシールされたか判断するのが難しい、電子レンジを用いた調理を要する食品の包装材としては使用できない等の欠点がある。
ポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムの一方の面に、真空蒸着法等の物理気相成長法を用いて、例えば酸化アルミニウム、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を設けた蒸着フィルムなども提案されている。これら無機酸化物蒸着薄膜層を有するガスバリア性フィルムは、透明であるため内容物視認性を有しており、また電子レンジを利用した調理にも対応することができるという利点を有する。しかし、無機酸化物蒸着層からなるガスバリアコート層を有するフィルムは、そのガスバリア層が硬い。このため、屈曲によりガスバリア層にクラックやピンホールが発生し、ガスバリア性が著しく低下するという問題がある。
このような欠点を補う技術としては、熱可塑性樹脂フィルム上に無機酸化物蒸着層を設け、さらに該蒸着層上にポリマーコーティングによりガスバリア層を積層し、ガスバリア性や可撓性を向上させる方法が知られている。ポリマーコーティングに適用するポリマーコーティング剤(以下、塗剤と記すこともある)は、コーティングするポリマー(またはその前駆体)を溶剤に溶解または分散したものである。物性を発現させるための諸条件(塗布量、溶剤種)により、塗剤として0mPa・sより大きく5mPa・s以下(塗剤温度20℃)の超低粘度塗剤を使用せざるを得ない場合、本発明のグラビアコーティング方法が、好適に使用できる。
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムは、ポリエステルフィルムからなる基材フィルムの少なくとも一面に、無機化合物で構成される蒸着層と、共重合樹脂組成物を用いてなるガスバリア層とが順次積層されているガスバリア性フィルムであって、前記ガスバリア層が、共重合体100質量部に占める割合が10〜30質量部である不飽和ニトリル(a)と、共重合体100質量部に占める割合が30〜70質量部である水酸基を有する不飽和化合物(b)とを用いて構成され、不飽和ニトリル(a)と水酸基を有する不飽和化合物(b)との合計が共重合体樹脂全体100質量部に対して20質量部以上である主剤とイソシアネート基を有する化合物で構成される硬化剤(c)と、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物(d1)との混合物を用いて形成されてなる。
さらに好ましくは、前記ガスバリア層にはヒドロキシル基を少なくとも1つ含有するシランカップリング剤(d2)がさらに添加される。使用できるシランカップリング剤としては、熱水殺菌処理に対する密着性を確保する観点から、アミノ基、ビニル基、エポキシ基の群から選択される1つ以上の官能基を有することが好ましい。
基材フィルム上に無機化合物で構成される蒸着層は、ガスバリア性を有するが、ピンホールやクラック等の欠陥を有する。このため、そのガスバリア性能は不完全であることが多い。よって、無機化合物で構成される蒸着層上にガスバリア層を設ける。このガスバリア層が、蒸着層の不完全なガスバリア性を補うだけではなく、ガスバリア層を構成する樹脂が本来有するガスバリア性が機能する。また、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物(d1)を配合するが、これにより蒸着層とガスバリア層との間にボイルあるいはレトルトなどの熱水殺菌処理にも耐え得る密着強度を発現することができる。この結果、ガスバリア性と蒸着層とガスバリア層との間の密着力が格段に向上する。
ガスバリア性を有する樹脂の多くはポリマーの凝集力を高めるために極性基を含有する。このため、吸水性が見られることが多く、熱水殺菌処理耐性の発現を困難にする。本ガスバリア性フィルムにおいては、熱水殺菌処理耐性を付与する目的で、特定の組成からなる樹脂組成物を用いてガスバリア層を形成する。これにより、吸水性の問題を解決することができる。
すなわち、ガスバリア層の形成に用いる樹脂を特定の機能を発現する複数のモノマーから合成することで、ガスバリア性及び熱水殺菌処理耐性を発現させることができる。具体的には、ガスバリア性を発現させるためのモノマーと、無機酸化物蒸着層と強固に密着すると共に熱水に対する耐性を有するモノマーとを共重合することで前記目的を達することができる。また、密着力に関してはさらに強い強度を発現させる目的で2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物(d1)を配合する。
[基材フィルム]
本発明のグラビアコーティング方法を好ましく適用できるガスバリア性フィルムの基材フィルムとしてはポリエステルフィルムが挙げられる。使用できるポリエステルとしては、例えば、ポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアルキレンナフタレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレートなど)などのホモ又はコポリアルキレンアリレート、液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
基材フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、通常、延伸(一軸又は二軸)されている。延伸フィルムとしては、通常、二軸延伸フィルムを用いる場合が多い。延伸法としては、例えば、ロール延伸、圧延延伸、ベルト延伸、テンター延伸、チューブ延伸や、これらを組み合わせた延伸などの慣用の延伸法が適用できる。
基材フィルムの厚みは、特に制限はないが、1〜100μm、好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜30μm程度であるのが実用的である。
[蒸着層]
本発明のグラビアコーティング方法を好ましく適用できるガスバリア性フィルムの蒸着層を構成するのは、無機化合物である。使用できる無機化合物としては、金属酸化物層、金属窒化物層等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム合金、酸化珪素、酸化窒化珪素等及びそれらの混合酸化物、金属窒化物としては窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化珪素等が例示できる。この中でも蒸着フィルムの加工コストやガスバリア性能等の面から無機化合物としては酸化アルミニウム、酸化珪素および酸化窒化珪素が好ましい。
無機化合物の蒸着は、特に制限はなく、たとえば蒸着やスパッタリング等の公知の方法により行えばよい。
[ガスバリア層]
本発明のグラビアコーティング方法を好ましく適用できるガスバリア性フィルムのガスバリア層は、共重合体100質量部に占める割合が10〜30質量部である不飽和ニトリル(a)と、共重合体100質量部に占める割合が30〜70質量部である水酸基を有する不飽和化合物(b)とを用いて構成され、不飽和ニトリル(a)と水酸基を有する不飽和化合物(b)との合計が共重合体樹脂全体100質量部に対して20質量部以上である主剤と、イソシアネート基を有する化合物で構成される硬化剤(c)と、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物(d1)との混合物を用いて形成されることが好ましい。
好ましくは、前記主剤が、不飽和ニトリル(a)と、水酸基を有する不飽和化合物(b)と、不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物(e)との少なくとも3成分を単量体とする共重合体で構成される。
さらに好ましくは、ガスバリア層にはヒドロキシル基を少なくとも1つ含有するシランカップリング剤(d2)が添加される。使用できるシランカップリング剤(d2)としては、熱水殺菌処理に対する密着性を確保する観点から、アミノ基、ビニル基、エポキシ基の群から選択される1つ以上の官能基を有することが好ましい。
樹脂によって形成される薄膜層のガスバリア性を決定する因子としては、凝集エネルギー密度、自由体積、結晶化度、配向性等が挙げられる。これらの因子は、ポリマー構造中の側鎖官能基に起因するところが多い。すなわち、構造中に水素結合あるいは静電的相互作用等の分子間相互作用可能な官能基を含むポリマー鎖同士は、相互作用力を駆動力として強く凝集しようとする。その結果、凝集エネルギー密度、配向性は高まり、自由体積は減少し、ガスバリア性は向上する。逆に、同じくポリマー構造中に立体的に嵩高い官能基を含む場合には、ポリマーの凝集を妨げ、自由体積が大きくなるためにガスバリア性は低下すると考えられる。さらに、形成される分子間相互作用の数量が多くなれば、強く凝集し、自由体積空間を小さくしようという駆動力は大きくなり、結果的にポリマーの凝集密度は高まると考えることができる。
(主剤:不飽和ニトリル(a))
主剤に用いられる不飽和ニトリル(a)としては、アクリロニトリルが好ましい。アクリロニトリルはその分子構造中にニトリル基を有し、ニトリル基が大きく分極した官能基であることに由来して強い水素結合形成能を持つ。すなわち、アクリロニトリルを構成成分とする共重合体により形成された塗膜には、アクリロニトリルのニトリル基の大きな寄与により、ガスバリア性が付与される。アクリロニトリルの含有量によって発現するガスバリア性は変化する。
不飽和ニトリルの配合量は、共重合体100質量部に占める割合が10〜30質量部であり、好ましくは10〜25質量部である。不飽和ニトリル(a)の配合量が、30質量部よりも多い場合には共重合樹脂の有機溶剤に対する溶解性が低下するため、重合時の分子量増加を妨げるだけでなく塗料化が困難になる。さらには塗膜の造膜性、透明性も低下するなど実用的ではなくなる。逆に10質量部よりも少ない場合にはガスバリア層のガスバリア性向上効果が不十分となる。
(主剤:水酸基を有する不飽和化合物(b))
前述の通り、ガスバリア性を高める観点からは共重合体中の不飽和ニトリル(a)の含有量を高めた方が好ましい。しかし、特に不飽和ニトリル(a)であるポリアクリロニトリルはガラス転移温度が約300℃と高く、造膜させるには高温での処理が必要であるが、基材フィルムの融点などとの関係から造膜の温度を下げることが好ましい。また、ガスバリア性を決定する因子としては、凝集エネルギー密度、自由体積、結晶化度、配向性等が挙げられることは前記したが、極性の高い官能基を有するモノマー成分を共重合用モノマーとして用いる方法は、ガスバリア性を高める1つの手段である。このような観点から、水酸基も高い凝集力を示す官能基として機能し本発明では水酸基を有する不飽和化合物(b)を用いる。さらに本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムのように水酸基を有する不飽和化合物(b)をガスバリア層に含有させる場合には、硬化剤との間で架橋構造を形成するため、無機酸化物蒸着層と強く密着し、塗膜強度や熱水処理に対する耐性を発現させることができる。
水酸基を有する不飽和化合物(b)としては、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシビニルエーテル、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート等の不飽和化合物の単量体が挙げられる。これらの水酸基を有する不飽和化合物は単独で、または2種類以上組み合わせて選択することができる。これらの水酸基を有する不飽和化合物のうち、2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートが、良好な重合安定性が得られること、イソシアネート基との反応性が良好なことから好ましく、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが特に好ましい。
共重合体中で、水酸基を有する不飽和化合物(b)の含有量によってガスバリア層の造膜性やガスバリア性、さらには硬化剤との架橋点数が変動することに起因して、耐熱性、塗膜硬度などは変化する。これらの観点から水酸基を有する不飽和化合物(b)の配合量は、共重合体100質量部に占める割合が30〜70質量部であり、好ましくは50〜70質量部である。水酸基を有する不飽和化合物(b)の配合量が、30質量部よりも少ない場合には水酸基に由来する樹脂鎖間の凝集力が十分に働かず、ガスバリア性の向上につながらないことがある。水酸基と硬化剤との間の架橋反応の進行により形成される架橋点の数が十分ではなく、ガスバリア層の耐熱性、耐熱水殺菌性が十分に発現しないことがある。一方、水酸基を有する不飽和化合物(b)の配合量が、70質量部よりも多い場合には、共重合樹脂中に水酸基数が増加するため硬化剤配合量も増やす必要を生じ、同時に硬化剤中のイソシアネート基が未反応で残存し易くなり、ブロッキング等の問題を発生する要因となることがある。さらに、前述の(a)、後述の(c)の含有量が減少するため、ガスバリア性向上効果が小さくなる、塗膜の造膜性が悪化するなどにつながることがある。
不飽和ニトリル(a)と水酸基を有する不飽和化合物(b)との共重合体中における質量比率としては、(a):(b)が10:70〜30:30であることが好ましい。さらに好ましくは、20:50〜30:50である。
(主剤:不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物(e))
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムにおいて主剤に好ましく用いられる飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物(e)に関して、不飽和カルボン酸エステルとして、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
また、不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸等が挙げられる。
その他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
これらのうち、好ましいのは、不飽和カルボン酸エステルである。不飽和カルボン酸エステルのうちメチルメタクリレート、メチルアクリレートが特に好ましく、メチルメタクリレートがさらに好ましい。
(e)の配合量は、共重合体100質量部に対して3〜60質量部が好ましく、5〜40質量部がさらに好ましい。(e)の配合量が60質量部よりも多い場合には共重合樹脂中に占める不飽和ニトリル(a)及び水酸基を有する不飽和化合物(b)の相対量が減少し、ガスバリア性が十分に発現しない場合や、架橋構造の不足に伴う塗膜強度や熱水処理耐性が不足する場合がある。
不飽和ニトリル(a)と水酸基を有する不飽和化合物(b)と不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物(e)の共重合体中における比率としては、(a)+(b):(e)=40:60〜97:3であることが好ましい。さらに好ましくは、(a)+(b):(e)=60:40〜80:20である。
(その他の添加物)
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムにかかるガスバリア層には、その特性を損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化剤、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤などを添加してもよい。
使用できる熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、硫黄化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
使用できる強化剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムにかかるガスバリア層には、無機層状化合物を混合してもよい。無機層状化合物の好ましい例としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、バーミキュライト、フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等が例示でき、膨潤性フッ素雲母又はモンモリロナイトが特に好ましい。これらの無機層状化合物は、天然に産するものであっても、人工的に合成あるいは変性されたものであってもよく、またそれらをオニウム塩などの有機物で処理したものであってもよい。
[イソシアネート基を有する化合物で構成される硬化剤(c)]
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムでは、イソシアネート基を有する化合物で構成される硬化剤を、主剤である共重合樹脂と架橋させるために用いる。主剤として用いる共重合樹脂はそれを単独で塗布した場合、ガスバリア性は発現するものの塗膜強度や熱水処理耐性といった物性は得られない傾向がある。そこで、主剤である共重合樹脂が側鎖として有する水酸基と反応するイソシアネート基を有する化合物を硬化剤として用いる。架橋剤の添加により、架橋構造が生成されるので、ガスバリア性、塗膜強度および熱水処理耐性といった物性を兼ね備えたガスバリア層が形成される。イソシアネート基を有する化合物としては、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
使用できる芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、4,4′−、2,4′−又は2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート等が例示できる。
使用できる芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3−又は1,4−キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,3−又は1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が例示できる。
使用できる脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート;IPDI)、4,4’−、2,4’−又は2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−又は1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(水添XDI)等が例示できる。
使用できる脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−、2,3−又は1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が例示できる。
これらの有機ジイソシアネートのウレタン変性体、アロファネート変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトイミン変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。なお、これらは、単品でも混合物でもよい。
さらに、上記例示したイソシアネート化合物と水酸基を有する化合物等との部分縮合物や各種誘導体の1種またはこれらの2種以上を用いてもよい。例えば、各種低分子量のジオールからオリゴマーまで幅広いジオール類や必要に応じて3官能以上のポリオール類との部分縮合物等が挙げられる。
共重合体で構成される主剤と硬化剤の架橋反応生成物により形成されるガスバリア層のガスバリア性を考慮すると、これらのイソシアネート基を有する化合物のうち、下記構造式(1)で示される骨格構造を有する1,3−キシレンジイソシアネート(XDI)およびその部分縮合物、及び/又は下記構造式(2)で示される骨格構造を有する1,4−キシリレンジイソシアネート(XDI)およびその部分縮合物が好ましい。架橋生成物の立体的構造は、ガスバリア性に大きく影響する。ガスバリア性を発現させるためには、キシリレンジイソシアネート骨格を有すると好ましい。これらの化合物は、キシリレンジイソシアネート骨格を有する。
Figure 0005703847
[2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物、(d1)成分]
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムでは、ガスバリア層を形成する材料として、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物(d1)を用いる。これにより、無機酸化物蒸着層とガスバリア層との間の密着力が向上する。カルボキシル基または無水カルボン酸基は、無機酸化物層を形成するアルミナやシリカといった材料が有するアルミ−酸素結合や珪素−酸素結合などに対して、配位し易い性質を有する。そのため、ガスバリア層を形成する樹脂組成物に配合して塗布することで、無機酸化物表面に2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物が配位して、表面が有機的になり、樹脂組成物との密着力を向上させることができる。さらに、無機酸化物表面に2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物が配位することで、大気中の水分や熱水殺菌処理時に触れる水が無機酸化物蒸着層に浸透しにくくなるため、密着力の低下を生じにくくなるという効果も得られる。
1分子中にカルボン酸基を2個以上または無水カルボン酸基を1個以上有する化合物(d1)としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、アジピン酸、トリメリット酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸等が挙げられる。
無水酸を持つ化合物としては無水マレイン酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、四塩基酸無水物等あるが、金属のように極性の高い基材フィルムへ塗工する場合は、特に四塩基酸無水物のように2つ以上の無水酸を持つ化合物が良好である。四塩基酸無水物としては、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7ーナフタリンテトラカルボン酸2無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ならびに1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)等が挙げられる。これらのうち、好ましくは5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物や1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)を使用する。(d1)の添加量はガスバリア層の形成に用いる主剤と硬化剤の和100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、ガスバリア層の経時安定性の観点から0.1〜10質量部程度がより好ましい。0.1質量部未満の添加量の場合には、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物の配位する効率が小さくなり、十分な密着力が得られないことがある。一方、20質量部より多く添加した場合には、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物以外の反応を阻害する働きがあるため塗膜のガスバリア性が低下することがある。
また、上記1分子中にカルボン酸基を2個以上または無水カルボン酸基を1個以上有する化合物(d1)を重合した化合物を使用する事もできる。
前記した1分子中にカルボン酸基を2個以上または無水カルボン酸基を1個以上有する化合物(d1)の数平均分子量は1000以下であることが好ましい。
[シランカップリング剤(d2)]
上記共重合樹脂(主剤)組成物のコーティング液には、シランカップリング剤(d2)が添加されていることも本発明の好ましい態様の一つである。シランカップリング剤(d2)は、1分子中に有機官能基と加水分解性官能基を有するため、無機物と有機物との密着力を向上させる効果がある。したがって、シランカップリング剤(d2)を添加すると、無機酸化物蒸着層とガスバリア層との密着力を熱水殺菌処理にも耐えうる程度に強固なものとすることができる。
好ましくは、ヒドロキシル基を少なくとも1つ含有するシランカップリング剤(d2)が添加される。シランカップリング剤(d2)はヒドロキシル基を少なくとも1つ含有していると、主剤である共重合樹脂のヒドロキシル基と硬化剤のイソシアネート基の架橋反応を促進するとともに、無機酸化物蒸着層表面のヒドロキシル基と水素結合することにより、熱水殺菌処理に対する無機酸化物蒸着層とガスバリア層との密着力は向上し、さらに強固なものとすることができる。
シランカップリング剤(d2)としては、熱水殺菌処理に対する密着性を確保する観点から、アミノ基、ビニル基、エポキシ基の群から選択される1つ以上の官能基を有することが好ましい。例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、Nー2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、Nー2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が例示できる。これらのシランカップリング剤は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
シランカップリング剤(d2)の添加量はガスバリア層の形成に用いる主剤と硬化剤の和100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、ガスバリア層の経時安定性の観点から0.1〜2質量部程度がより好ましい。0.1質量部以下の添加量の場合にはシランカップリング剤の効果が薄く、十分な密着力が得られないことがある。一方、10質量部より多く添加した場合にはシランカップリング剤(d2)がガスバリア層中で可塑剤のような働きをするため塗膜のガスバリア性が低下することがある。
[シランカップリング剤の調製]
上記シランカップリング剤(d2)は水と溶剤を配合し、公知の技術を用いて加水分解させることによって、例えばヒドロキシル基がケイ素原子に結合した化合物であるシラノールなど、少なくとも1つのヒドロキシル基を含有するシランカップリング剤を調製する。使用できる溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール等が挙げられる。
[ガスバリア層の製造]
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムにかかる上記各不飽和ニトリル(a)、水酸基を有する不飽和化合物(b)を配合し、後述するイソシアネート基を有する化合物で構成される硬化剤(c)も配合し、公知の技術を用いて共重合させて、共重合体を製造する。共重合体は、例えば酢酸プロピル−プロピレングリコールモノメチルエーテル−n−プロピルアルコール混合溶液などに溶解させて、上述した硬化剤と混合する。次に、上記共重合樹脂(主剤)溶液と、硬化剤とを、所定量配合して溶剤中に溶解して、ガスバリア層用のコーティング液(塗剤)を得る。使用できる溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、水等が挙げられる。
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムにおいてガスバリア層を構成する主剤と硬化剤との配合比は特に制限されるものではないが、硬化剤が少なすぎると主剤との間で生じる架橋反応が不十分なものとなり、塗膜が硬化不良を起こすだけでなく塗膜強度が十分発現せずに熱水処理耐性、基材フィルムとの密着性等も不足する。また硬化剤の配合量が多すぎる場合にはブロッキングを生じる原因となるだけでなく、余剰のイソシアネート化合物が他の層に移行するなどして後加工等において不都合を生じることがある。
蒸着層上に設けるガスバリア層の厚みは、好ましくは0.1〜3μm、より好ましくは0.2〜2μmである。ガスバリア層の厚みが、0.1μm以上であると、ガスバリア性の十分な向上が得られ、コーティング時の加工性も高まり、膜切れやはじきなどの欠陥のないガスバリア層を形成することができる。一方、ガスバリア層の厚みが3μm以下であると、コーティング時の乾燥条件が低温、短時間であっても溶剤が十分に乾燥するので、フィルムにカール等の変形が生じることがなく、製造コストが高騰するといった問題点も起こらず好ましい。
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムでは、ガスバリア層の上に、オーバーコート層を設けてもよい。オーバーコート層は、例えばポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸、エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル重合体及びそれらの金属架橋物等のプラスチック材料により形成される。厚さは目的に応じて適宜決められるが、一般的には15〜200μmの範囲である。
オーバーコート層の形成方法としては、上記プラスチック材料からなるフィルム状のものを2液反応硬化型接着剤を用いて貼り合わせるドライラミネート法、無溶剤接着剤を用いて貼り合わせるノンソルベントラミネート法、上述したプラスチック材料を加熱溶融させカーテン状に押し出し、貼合わせるエクストルージョンラミネート法等のいずれも公知の積層方法により形成することができる。
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムにおいてコーティングにより蒸着層上にガスバリア層およびオーバーコート層を形成して積層する場合において、コーティング液(塗剤)に使用する溶剤にもよるが好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上の温度で乾燥させることが好ましい。乾燥温度が70℃より低い場合には塗膜の乾燥が不十分となり、充分なガスバリア性を有するフィルムを得ることが困難となる。また、巻き取った中間製品に対して主剤と硬化剤との間の架橋反応を十分に進行させる目的でエージング処理をすることもできる。エージング処理により架橋反応はより進行し、十分な塗膜強度、ガスバリア性、熱水処理耐性等が発現する。
本発明のグラビアコーティング方法を好適に使用できるガスバリア性フィルムは、ガスバリア性を必要とする様々な分野に利用することができる。特にレトルト用包装材料として用いることに適する。
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお実施例中で「部」とは、特に注釈の無い限り「質量部」であることを意味する。
[特性の評価方法]
本発明のグラビアコーティング方法の評価は、以下の評価方法を用いて、評価した。
(1)液溜まり
被塗布基材への塗剤転写分以外にグラビア版のセル内に充填された塗剤が圧胴の加圧により、はみ出し、グラビア版と圧胴のニップ部とドクターの間でそのはみ出した
塗剤が液溜まりする現象が目視により見られるかを確認した。
(2)被塗布基材巾方向シワ
圧胴の表面のゴム硬度が低いことに起因し、コーティング時、被塗布基材が、グラビア版と圧胴のニップ部を通過する際に、被塗布基材の圧胴への付着とその後の強制的な剥離とが連続することにより生じる、被塗布基材巾方向の非常に細かいシワの発生の有無を、コーティング後の基材から縦1000mm、横1000mm(面積1m)の大きさで評価フィルムを切り出し、目視により確認した。
(3)厚み均一性・巻外観
各種条件により、コーティングした被塗布基材のコーティング厚みを、フィルメ
トリクス株式会社の型番F20を使用して測定した。測定個所は、被塗布基材幅方向
3カ所を各1回ずつ測定した(目視確認で行う巻外観の良好なもののみ測定)。
(4)気泡欠点発生数の評価
コーティング後の基材から縦1000mm、横1000mm(面積1m)の大きさで評価フィルムを切り出し、目視にて確認される直径0.3mm〜2.0mmの円形欠点を気泡欠点として発生数を評価した。各実施例、各比較例について、5枚の評価フィルムについて2回ずつ評価し、合計10個の発生数データの平均値を気泡欠点発生数とした。
(5)酸素透過率
酸素透過率は、温度23℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)
社製の酸素透過率測定装置(機種名、オキシトラン(登録商標)(OXTRAN2/
20))を使用して、JIS K7126(2000年版)に記載のB法(等圧法)に
基づいて測定した。また、測定は各実施例のみについて、2枚の試験片について2
回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を酸素透過率の値とした。
単位は、cm/m・day・atmである。
(6)水蒸気透過率
水蒸気透過率は、温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)
社製の水蒸気透過率透過率測定装置(機種名、パ−マトラン(登録商標)W3/31)
を使用してJIS K7129(2000年版)に記載のB法(赤外センサー法)に
基づいて測定した。また、測定は各実施例のみについて、2枚の試験片について2
回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を水蒸気透過率の値とした。
単位は、g/m・dayである。
[コーティングポリマーの製造]
以下の実施例、比較例に用いる共重合体は、アクリロニトリル(AN)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)及びメチルメタクリレート(MMA)の各モノマーを20:50:30に示す割合(質量%)で配合し、公知の技術により共重合して得た。得られた共重合樹脂を酢酸プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びn−プロピルアルコールの混合溶剤に溶解させて固形分濃度が30質量%の共重合樹脂溶液を得た。
〔被塗布基材〕
蒸着フィルム(基材フィルムに無機化合物を蒸着したフィルム)を使用した。
基材フィルムに蒸着層が設けられた蒸着フィルムとして、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に酸化アルミ層を蒸着により設けた東レフィルム加工株式会社製 バリアロックス(登録商標)1011HGを用いた(基材巾1000mm)。
〔塗剤〕
以下の各成分を混合し30分間密閉攪拌して固形分濃度約9.0質量%の塗剤を調整した。
・共重合樹脂溶液 12.0部、
・DIC株式会社製キシレンジイソシアネートを主成分とする硬化剤 HX−75(固形分濃度75質量%) 6.0部、
・メチルエチルケトン 66.0部、
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 5.0部、
・1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)のアセトン希釈液(5質量%)8.0部、
・degussa社製シリカフィラー OK412 0.01部、
・信越化学工業製3−アミノプロピルトリエトキシシランを主成分とするシランカップリング剤 KBE903 3.75部にアセトン20.33部、水0.92部添加し、公知の技術にて2時間加水分解させたもの 3.0部(固形分濃度15質量%)この時の塗剤の粘度は、2mPa・sであった(20℃、東機産業製 型番BLIIにて測定)。
〔ガスバリア層の製造〕
共通条件として、ロール・ツー・ロールのダイレクトグラビアコーティング機に密閉式ドクターを使用し、150線/cm深度64μmの格子柄を使用し、速度100m/分にてコーティングを行った。乾燥温度はヒートラベルにて71℃になるよう設定した。
〔スムージングロール〕
炭素鋼(S45C)を材質としたロール表面にクロムメッキを施した、直径100mmのスムージングロールを使用した。
〔実施例1〜16〕
圧胴のゴム硬度を50度のものを用い、圧胴とバックアップロールのニップ圧力をそれぞれ0.1〜0.4MPa、なし(0MPa)〜0.3MPaまで変化させ、コーティング実施(各500mずつ作製)。
〔実施例17〜18〕
圧胴のゴム硬度を40度のものを用い、圧胴のニップ圧力を0.1MPaに固定、バックアップロールのニップ圧力をなし(0MPa)と0.2MPaに設定し、コーティング実施(各500mずつ作製)。
〔実施例19〜20〕
圧胴のゴム硬度を60度のものを用い、圧胴のニップ圧力を0.1MPaに固定、バックアップロールのニップ圧力をなし(0MPa)と0.2MPaに設定し、コーティング実施(各500mずつ作製)。
〔実施例21〜23〕
グラビア版より下流に付設したスムージングロールを乾燥前塗剤に接して、グラビアロールの周速度の10〜40%の範囲(各実施例の周速度は表1のとおり)でリバース回転させた以外は、実施例6〜8と同ニップ条件により、コーティング実施した(各500mずつ作製)。
〔比較例1〜16〕
圧胴のゴム硬度を80度のものを用いる以外は、実施例1〜16と同ニップ条件により、コーティング実施(各500mずつ作製)。
Figure 0005703847
Figure 0005703847
(実施例1〜20と比較例1〜16との比較)
圧胴の表面のゴム硬度を40〜60度とすることで液溜まり現象は抑制され、コーティング厚み均一性ならびに巻外観が良好となった。比較例は、グラビア版と圧胴のニップ部とドクターの間で液溜まりの逃げ道がないので、その結果、両サイドに塗剤が逃げ出し、結果被塗布基材の両サイドの塗布量が多くなり、巻外観の平面性に欠ける結果となった。
また、圧胴のグラビア版に対するニップ圧力を、0.4MPa以下とすること、ならびにバックアップロールの圧胴ならびにグラビア版に対するニップ圧力を0.3MPa以下とすることで被塗布基材巾方向シワも抑制できた。また、圧胴のニップ圧力とバックアップロールのニップ圧力が、それぞれ0MPa以上で、かつ両者の和が0.4MPa以下の時に最も好適に被塗布基材巾方向シワが抑制することができた。
また、グラビア版より下流に付設したスムージングロールを乾燥前塗剤に接して、グラビアロールの周速度の5〜45%の範囲でリバース回転させることによって、気泡欠点の発生を抑制することができた。
各種条件(実施例)により、コーティングした被塗布基材の酸素透過率、水蒸気透過率も良好な結果でガスバリア性フィルムとして使用できるレベルであった。
1:塗剤
2:グラビア版
3:ドクター
4:パン
5:圧胴
6:バックアップロール
7:被塗布基材
8:密閉式ドクター
9:シールブレード
10:スムージングロール

Claims (5)

  1. 圧胴とグラビア版とを用いて被塗布基材に塗剤をグラビアコーティングするに際し、表面のゴム硬度が40〜60度である圧胴を用いて20℃における粘度が0mPa・sより大きく5mPa・s以下である塗剤を塗布するグラビアコーティング方法。
  2. 圧胴のグラビア版に対するニップ圧力が、0.4MPa以下である請求項1に記載のグラビアコーティング方法。
  3. 圧胴の上部に圧胴を固定するバックアップロールを配し、該バックアップロールの圧胴ならびにグラビア版に対するニップ圧力が0.3MPa以下である請求項1または2に記載のグラビアコーティング方法。
  4. グラビア版に付設されるドクターが密閉式である請求項1〜3のいずれかに記載のグラビアコーティング方法。
  5. グラビア版の下流にスムージングロールを付設し、該スムージングロールを被塗布基材上の塗剤に接して、周速度をグラビアロールの周速度の5〜45%の範囲でリバース回転させる請求項1〜4のいずれかに記載のグラビアコーティング方法。
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