JP5689626B2 - 湿式短繊維不織布 - Google Patents

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Description

本発明は、扁平断面形状の主体繊維と熱接着性に優れたポリエチレンテレフタレートからなるバインダー繊維で構成された短繊維不織布であって、厚みが薄く、通気度が低く、高性能なフィルター用途に好適に使用することができる湿式短繊維不織布に関するものである。
近年、湿式短繊維不織布はフィルター用基材、電池セパレーターなどの用途に広く用いられている。このような用途において、性能の高いフィルターやセパレーターとするには、厚みが薄く、通気度の低い湿式短繊維不織布が求められている。
通気度の低い短繊維不織布を得るには、繊維間の隙間を少なくし、気密性を高くすることが必要である。特許文献1や特許文献2には単糸繊度が0.5dtex以下の細繊度の繊維を用いることにより、単繊維間の空隙を小さくし、気密性を高くした短繊維不織布を得る方法が提案されている。
0.5dtex以下の繊維を得るには、単一のポリマーで紡糸、延伸して直接繊維を得る方法と、複数のポリマーを用いた複合繊維で紡糸、延伸を行い、ある程度太い繊維を得た後に割繊することで0.5dtex以下の繊維を得る方法がある。割繊の方法としては、衝撃などで繊維を構成するポリマーを剥離分割して細繊度の繊維を得る機械的割繊と、有機溶媒などで繊維を構成するポリマーの1種を溶媒で溶解し、残った不溶の細繊度の繊維を得る化学的割繊がある。
細繊度の繊維を直接得る方法は、紡糸、延伸時に糸切れが発生しやすく、生産性が低下するのでコスト的に不利である。細繊度の繊維を機械的割繊で得る方法は、コスト的には不利ではないが、割繊後に得られた繊維は、相溶性に乏しい複数の繊維が混ざったものとなり、これらの繊維から得られる湿式短繊維不織布は性能の劣るものになりやすい。
細繊度の繊維を化学的割繊で得る方法は、紡糸、延伸で得られた繊維の一部を溶媒で溶解除去をするため、得られる細繊度の繊維の量が減り、コスト的に不利である。さらに、溶媒の再生、回収設備が必要となる点でもコスト的に不利であり、また、環境に悪影響を及ぼす危惧もある。
特開2002−151358 特開2007−208043
本発明は上記の問題点を解決するものであって、扁平断面形状の主体繊維と熱接着性に優れたポリエチレンテレフタレートからなるバインダー繊維を用いることにより、コスト的に有利に製造することができ、性能の優れたフィルターやセパレーター用途に好適な、厚みが薄く、通気度の低い湿式短繊維不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、主体繊維として下記条件(1)を満足する短繊維を用い、バインダー繊維として下記条件(2)を満足する短繊維を用い、主体繊維とバインダー繊維とからなるウエブを作成した後、熱処理することにより得られたものであることを特徴とする湿式短繊維不織布。
条件(1):ポリエステルからなる短繊維であって、短繊維を構成する単繊維は、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面が扁平断面形状を呈しており、長辺と短辺の長さの比であるアスペクト比(長辺/短辺)が1.5〜6.0、繊維長が2〜20mm、単糸繊度が0.8〜4.0dtexであり、機械捲縮が付与されていないノークリンプの短繊維である。
条件(2):エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートで構成される短繊維であって、平均複屈折率が0.03以下、伸度200%以上、繊維長が1〜20mm、単糸繊度が0.8〜3.5dtexであり、機械捲縮が付与されていないノークリンプの短繊維である。
本発明の湿式短繊維不織布を構成するバインダー繊維は、ポリエチレンテレフタレートで構成され、平均複屈折率、伸度が特定の範囲を満足するものであるため、ポリエチレンテレフタレートの融点よりも低い温度で熱処理を施すことにより、溶融し、接着成分となるものである。したがって、このような接着成分により得られた本発明の湿式短繊維不織布は、耐熱性に優れるとともに、後加工で熱処理を施す用途にも用いることができる。
そして、本発明の湿式短繊維不織布を構成する主体繊維は、繊維を構成する単繊維の断面が扁平形状であって、その扁平形状はアスペクト比が特定の範囲となるものであるため、繊維同士が積層される際には長辺方向が水平となるように載置され、かつ単糸繊度が小さいものであるため、厚みが薄く、通気度が低く、気密性の高い短繊維不織布となるものである。
このような優れた特性を有する本発明の湿式短繊維不織布は、性能の高いフィルターやセパレーター用途に使用することが可能となる。
本発明における主体繊維の単繊維の断面形状(繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状)の一実施態様を示す模式図である。 本発明の湿式短繊維不織布の厚み方向断面の一実施態様を示す模式図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の湿式短繊維不織布を構成する主体繊維について説明する。主体繊維となる短繊維はポリエステルからなるものである。
ポリエステルとしては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルのいずれであってもよい。芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体としたポリエステルであって、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等を共重合していてもよい。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシブチレートバリレート、及びこれらの混合物、変性物等を用いることができる。
脂肪族ポリエステルとしては、中でもポリ乳酸を用いることが好ましく、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらの混合物を用いることができる。
本発明においては、バインダー繊維はポリエチレンテレフタレートで構成されるものであるため、接着性や得られる不織布の耐熱性を考慮すると、主体繊維もポリエチレンテレフタレートからなるものとすることが好ましい。
そして、本発明における主体繊維は、繊維長が2〜20mm、単糸繊度が0.8〜4.0dtexであり、湿式短繊維不織布用のものであるため、機械捲縮(スタフィングボックス法や押込加熱ギア法等により付与されるもの)が付与されていない(ノークリンプ)短繊維である
繊維長は中でも3〜15mmであることが好ましい。繊維長が20mmを超えると、不織布を得る工程での繊維の分散が悪くなり、均斉度に劣った湿式短繊維不織布となる。一方、繊維長を2mm未満にしようとすると、繊維を切断する際の発熱で繊維同士の融着が生じたものとなる。
単糸繊度は0.8〜4.0dtexとするものであるが、中でも1.0〜3.5dtexであることが好ましい。単糸繊度が4.0dtexを超えると、得られる湿式短繊維不織布の厚みが大きくなり、また繊維間の隙間が大きくなることから通気性の高い短繊維不織布となる。一方、0.8dtex未満になると、紡糸時に切れ糸が発生しやすくなり、操業性が悪くなるとともに、繊維同士の融着が生じたり、強伸度特性に劣ったものとなる。
そして、主体繊維となる短繊維を構成する単繊維は、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面が扁平断面形状を呈しており、長辺と短辺の長さの比であるアスペクト比(長辺/短辺)が1.5〜6.0のものであり、中でも2.0〜5.5であることがより好ましい。本発明における主体繊維の単繊維の断面形状の一実施態様を図1に示す。
本発明における主体繊維は、適度なアスペクト比を有する扁平断面形状のものであるため、湿式短繊維不織布を得る際の抄紙工程において、ウエブを構成する短繊維が積層される際に形状が安定する長辺方向が水平となるように載置される。このため、丸断面形状の繊維や四角や三角等の異形断面の繊維を用いた場合に比べて、単繊維間の空隙が小さくなるとともに、厚みが薄くなり、通気度が低く、気密性の高い短繊維不織布を得ることが可能となる。
アスペクト比が6.0を超えると、長辺の長い扁平度合いの強い糸になるため、紡糸時に切れ糸が発生しやすくなり、操業性が悪くなるとともに、強伸度等の特性や品位が低下する。一方、アスペクト比が1.5未満になると、円形断面に近い形状となり、得られる湿式短繊維不織布の厚みが大きいものとなる。また繊維間の空隙も大きくなることから、通気度の高い、気密性の低い短繊維不織布となる。
本発明におけるアスペクト比は以下のようにして測定し、算出するものである。主体繊維となる短繊維より単繊維を取り出し、単繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面をキーエンス社製のデジタルマイクロスコープ VHX−600で撮影し、撮影した断面写真より長辺と短辺の長さを測定し、長辺と短辺の比(長辺/短辺)であるアスペクト比を算出するものである。このとき、ランダムに5本の単繊維を採取し、それぞれの単繊維毎に2枚の断面写真を撮る。計10枚の写真から、長辺と短辺の長さを測定し、それぞれアスペクト比を算出する。そして、n10の平均値とする。
次に、本発明の湿式短繊維不織布を構成するバインダー繊維について説明する。
本発明におけるバインダー繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートで構成されるものであり、単一成分型の繊維であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートとしては、中でも主たる繰り返し単位の85モル%以上、さらには95モル%以上がエチレンテレフタレートからなるものであることが好ましい。したがって、テレフタル酸成分やエチレングリコール成分以外の成分を少量共重合したものであってもよい。
また、このようなポリエチレンテレフタレート中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、顔料、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の公知の添加剤を含んでいてもよい。
本発明におけるバインダー繊維は、上記のようにポリエチレンテレフタレートからなるものであり、つまり、本発明の短繊維不織布は、ポリエチレンテレフタレートが接着成分となるものであるため、耐熱性に優れるものである。このため、本発明の湿式短繊維不織布は、後加工で熱処理を施す用途にも用いることが可能となる。
例えば、得られた湿式短繊維不織布にカレンダーロールにより熱圧着加工を施したり、不織布の表面を樹脂でコーティングした後、乾燥熱処理を施すことも可能となる。
ただし、本発明におけるバインダー繊維は、平均複屈折率、伸度が特定範囲を満足するものであるため、主体繊維とバインダー繊維とからなるウエブを作成した後、熱処理する際には、170℃以下の熱処理温度で溶融し、接着成分となるものである。
そして、本発明におけるバインダー繊維は、平均複屈折率が0.03以下、伸度が200%以上であることが必要である。平均複屈折率が0.03以下、伸度が200%以上であることで、ポリマーの分子配向度が十分に進んでおらず、結晶性が低い状態のものとなる。このため、繊維を構成するポリエチレンテレフタレートの融点よりも低い温度で熱処理を施しても流動性を有するものとなり、バインダー繊維としての役割を果たすものとなる。
このような平均複屈折率や伸度を満足する短繊維は、溶融紡糸後、実質的に延伸することなく、もしくは、延伸倍率1.15倍未満の延伸倍率で延伸を施すことにより得ることができる。このように、本発明におけるバインダー繊維は、融点の低い特殊なポリマーを用いて得られるものではないので、溶融紡糸が容易に行え、操業性よく繊維を得ることができる。
本発明におけるバインダー繊維の平均複屈折率は、中でも0.025以下であることが好ましい。平均複屈折率は分子配向の度合いを示すものであるが、平均複屈折率が0.03を超えると、分子配向が進んだものとなり、また、伸度も低くなる。これにより、繊維を構成するポリエチレンテレフタレートの融点より低い温度で熱処理を施した場合、ポリエチレンテレフタレートの流動性が低く、バインダー繊維として使用することが困難となる。
本発明におけるバインダー繊維の伸度は、中でも210%以上であることが好ましく、さらには220〜300%とすることが好ましい。伸度が200%未満であると、延伸によりポリマーの分子配向が進んだものとなり、また、平均複屈折率も高くなり、繊維を構成するポリエチレンテレフタレートの融点より低い温度で熱処理を施した場合、ポリエチレンテレフタレートの流動性が低く、バインダー繊維として使用することが困難となる。
なお、本発明におけるバインダー繊維の平均複屈折率は、偏光顕微鏡とコンペンセーターの組合わせによる干渉縞計測法で測定するものである。繊維の長さ方向にランダムに10箇所の複屈折率を測定し、これを繊維の数10本で行うものであり(n数=100)、これらの平均値を算出するものである。
また、伸度は、JIS L1015 8.7引張強さ及び伸び率の方法により測定するものである。なお、繊維が短くて測定できない場合は、カット前の繊維において測定を行うものである。伸度の測定は繊維の数30本で行うものであり(n数=30)、これらの平均値を算出するものである。
そして、本発明におけるバインダー繊維は、繊維長が2〜20mm、単糸繊度が0.8〜3.5dtexであり、湿式短繊維不織布用のものであるため、機械捲縮(スタフィングボックス法や押込加熱ギア法等により付与されるもの)が付与されていない(ノークリンプ)短繊維である

繊維長は中でも3〜15mmであることが好ましい。繊維長が20mmを超えると、不織布を得る工程での繊維の分散が悪くなり、均斉度に劣った湿式短繊維不織布となる。一方、繊維長を2mm未満にしようとすると、繊維を切断する際の発熱で繊維同士の融着が生じたものとなる。
単糸繊度は0.8〜3.5dtexとするものであるが、中でも1.0〜3.0dtexであることが好ましい。単糸繊度が3.5dtexを超えると、不織布を得る際の熱処理条件によっては、バインダー繊維を構成するポリエチレンテレフタレートが十分に流動せず、接着成分とならず、不織布中にバインダー繊維が残る場合がある。これにより、得られる湿式短繊維不織布は厚みが高く、通気性の高いものとなりやすい。一方、単糸繊度が0.8dtex未満になると、紡糸時に切れ糸が発生しやすくなり、操業性が悪くなるとともに、繊維同士の融着が生じる。
本発明の短繊維不織布は扁平断面形状の主体繊維と、接着性能に優れたバインダー繊維から構成されるものであり、主体繊維とバインダー繊維とからなるウエブを作成した後、熱処理することにより得られるものである。このような製造方法としては、従来から知られている各種加工法を採用することができ、例えばサーマルスルー法、エアレイド法、抄紙法、スパンレース法などによって製造することができるが、均斉度が高く地合が良好な不織布が得られる点から抄紙法が好ましい。
また、ウエブを作成した後、熱処理を施す熱処理温度としては、バインダー繊維を構成するポリエチレンテレフタレートが十分に溶融、流動して接着成分となり、かつ主体繊維の熱劣化を防ぐことができる温度として、110〜170℃とすることが好ましい。熱処理温度が170℃を超えると、主体繊維が熱処理によるダメージを受け、熱劣化しやすくなる。一方、熱処理温度が110℃未満であると、バインダー繊維を構成するポリエチレンテレフタレートが十分に溶融、流動せず、接着成分が少なくなるとともに、主体繊維として残存するため、厚みが高く、通気性の高い短繊維不織布となりやすい。
本発明の短繊維不織布を得る際の主体繊維とバインダー繊維の混合比率は、質量比(主体繊維/バインダー繊維)で40/60〜90/10であることが好ましく、中でも50/50〜80/20であることが好ましい。上記範囲より主体繊維の割合が少なくなると、バインダー繊維が溶融した接着成分の多い不織布となるため、接着成分により主体繊維間の目詰まりが生じ、気密性が高くなりすぎ、通気度も低くなりすぎる。一方、上記範囲より主体繊維の割合が多くなると、接着成分が少なくなり、機械的特性に劣る不織布となりやすい。
また、本発明の短繊維不織布を構成する主体繊維及びバインダー繊維の中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
本発明の湿式短繊維不織布の製造方法について一例を用いて説明する。
まず、短繊維不織布を構成する主体繊維は、紡糸時の紡糸孔の形状を工夫し、紡糸速度や延伸倍率、延伸速度等を調整することにより、特定のアスペクト比の扁平断面形状を有するものとすることができる。主体繊維は、通常の溶融紡糸装置を用い、ポリマーを溶融して扁平断面形状の紡糸孔を有する紡糸口金より紡糸し、紡出した糸条を冷却固化させて未延伸糸を得、得られた未延伸糸を繊維束に集束した後、延伸倍率2〜4倍で延伸し、分散性油剤を付与した後に任意の繊維長に切断して短繊維とすることにより得ることができる。
バインダー繊維は、通常の溶融紡糸装置を用いて溶融紡糸を行い、得られる繊維の平均複屈折率や伸度が上記範囲を満足するように、紡糸速度、冷却温度を調整して溶融紡糸を行う。そして、紡糸口金より紡出された糸条を延伸することなく、又は、延伸倍率1.1倍未満の延伸倍率で延伸を施し、主体繊維と同様にして集束、延伸し、分散性油剤を付与した後に任意の繊維長に切断して短繊維とすることにより得ることができる。
次に、主体繊維とバインダー繊維を任意の割合で計量し、パルプ離解機に投入、撹拌(解繊・混綿)し、その後、得られた試料を抄紙機にて抄紙することにより、ウエブを作成し、ウエブに熱処理を施して、湿式短繊維不織布を得ることができる。
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。主体繊維とバインダー繊維の特性値及び湿式短繊維不織布の評価方法は次の通りである。
〔アスペクト比、平均複屈折率、伸度〕
前記の方法で測定し、算出した。
〔単糸繊度〕
切断前の繊維束を用いて、JIS L 1015 正量繊度のA法により測定した。
〔繊維長〕
主体繊維、バインダー繊維のサイドビュー写真を撮影し、任意の30本の長さを測定し後、その平均値を撮影倍率で割り返して算出した。
〔不織布の厚み〕
得られた湿式短繊維不織布を、JIS L 1096 織物の厚さにより加圧時間10秒、加重23.5kPaの条件で測定した。
〔不織布の通気度〕
得られた湿式短繊維不織布を、JIS L 1096 通気性のA法により測定した。
〔不織布の機械的特性〕
得られた湿式短繊維不織布を、JIS L 1096 引張強さ及び伸び率のA法によりMD方向(乾燥機のMD方向)の強力を測定した。
〔不織布の耐熱性〕
得られた湿式短繊維不織布を、表面が平らに処理された2本のプレーンロールからなるカレンダー装置を用い、温度225℃、線圧80Kg/cm、速度5m/minの条件で熱圧着加工を行った。この時の熱圧着加工性とロール表面の汚れの程度で下記の3段階で評価した。
○ 加工性に問題なし、汚れなし
△ 加工性に問題なし、汚れやや有り
× 加工性に問題あり、汚れ有り
実施例1
〔主体繊維〕
融点が256℃、極限粘度(フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した)0.61のPETを、通常の紡糸装置を用い、紡糸温度285℃、吐出量265g/分、紡糸速度750m/分の条件で紡糸し、未延伸糸を得た。このとき、紡糸口金として、扁平断面(アスペクト比12)の吐出孔が602個穿孔されたものを用いた。得られた未延伸糸を13.3ktexの繊維束に集束した後、延伸倍率3.45倍、延伸温度65℃で延伸を行った。その後、ポリエーテルとポリエーテルエステルアミドを主成分とする分散油剤を付着量が0.2質量%となるように付与した後、カットして単糸繊度1.7dtex、繊維長5mm、アスペクト比3.5の短繊維を得た。
〔バインダー繊維〕
融点が256℃、極限粘度0.61のPETを、通常の紡糸装置を用い、紡糸温度290℃、吐出量183g/分、紡糸速度1200m/分の条件で紡糸し、未延伸糸を得た。このとき、紡糸口金として、丸断面の吐出孔が1040個穿孔されたものを用いた。得られた未延伸糸を12.4ktexの繊維束に集束した後、延伸倍率1.05倍で延伸(延伸時の熱処理なし)を行った。その後、ポリエーテルとポリエーテルエステルアミドを主成分とする分散油剤を付着量が0.2質量%となるように付与した後、カットして単糸繊度1.4dtex、繊維長5mmの短繊維を得た。この短繊維の平均複屈折率は、0.021、伸度224%であった。
〔短繊維不織布〕
得られた主体繊維とバインダー繊維とを用い、混合比率を質量比70/30(主体繊維/バインダー繊維)として、パルプ離解機(熊谷理機工業製)に投入し、3000rpmにて1分間撹拌した。その後、得られた試料を抄紙機(熊谷理機工業製角型シ−トマシン)にて、ポリエーテルとポリエーテルエステルアミドを主成分とする分散油剤を添加した後、付帯の攪拌羽にて攪拌を行い抄紙し、湿式ウエブとした。そして、湿式ウエブを回転式乾燥機(熊谷理機工業製)にて140℃の温度で熱処理し、バインダー繊維を溶融させて、目付け50g/mの湿式短繊維不織布を得た。
実施例2〜4、比較例1〜2
主体繊維として表1に示すようなアスペクト比の短繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例5〜6
主体繊維とバインダー繊維の混合比率を表1に示す質量比とした以外は、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例7〜9、比較例3
主体繊維として表1に示すようなアスペクト比、単糸繊度のものを用いた以外は、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例10
バインダー繊維を製造する際の紡糸温度を285℃、吐出量を340g/分、得られた未延伸糸を13.6ktexの繊維束に集束した以外は、実施例1のバインダー繊維と同様にして得た、単糸繊度2.6dtex、繊維長5mmの短繊維(平均複屈折率0.013、伸度260%)を用いた。これ以外は実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例11
バインダー繊維を製造する際の紡糸温度を295℃、吐出量を201g/分、丸断面の吐出孔が1450個穿孔されたものを用い、得られた未延伸糸を13.0ktexの繊維束に集束した以外は、実施例1のバインダー繊維と同様にして得た、単糸繊度1.1dtex、繊維長5mmの短繊維(平均複屈折率0.028、伸度205%)を用いた。これ以外は実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例4
バインダー繊維を製造する際の紡糸温度を285℃、吐出量を523g/分、得られた未延伸糸を13.3ktexの繊維束に集束した以外は、実施例1のバインダー繊維と同様にして得た、単糸繊度4.0dtex、繊維長5mmの短繊維(平均複屈折率0.012、伸度315%)を用いた。これ以外は実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例12〜13、比較例5〜6
主体繊維として表1に示すような繊維長のものを用いた以外は、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例14〜15、比較例7〜8
バインダー繊維として表1に示すような繊維長のものを用いた以外は、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例16〜18、比較例9
実施例1のバインダー繊維と同様の未延伸糸を用い、延伸倍率を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして繊度、平均複屈折率、伸度の異なるバインダー繊維を得た。このバインダー繊維を用いた以外は実施例1と同様にして湿式不織布を得た。
比較例10
バインダー繊維として、ユニチカ社製のメルティ〈3300〉(酸成分として、テレフタール酸67mol%、イソフタル酸33mol%、グリコール成分として、エチレングリコール100mol%からなる共重合ポリエステルの丸断面単一型繊維であって、単糸繊度2.2dtex、繊維長5mmの短繊維)を用いた以外は、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
表1から明らかなように、実施例1〜18の湿式短繊維不織布は、主体繊維として特定範囲のアスペクト比、単糸繊度、繊維長を満足するものを用いたものであったため、厚みが薄く、通気度が低く、気密性に優れ、機械的特性にも優れたものであった。
また、バインダー繊維として特定範囲の平均複屈折率、伸度を満足するPETからなる短繊維を用いたため、ウエブを熱処理する際の温度が140℃でも十分に溶融、流動し、得られた湿式短繊維不織布は、機械的特性に優れるとともに、熱圧着加工を施すことも可能であり、耐熱性に優れたものであった。
一方、比較例1の湿式短繊維不織布は、アスペクト比の小さい主体繊維を用いたため、厚さの高いものとなり、通気度が大きく、機械的特性に劣った。比較例2の湿式短繊維不織布は、アスペクト比の大きい主体繊維を用いたため、紡糸時に切れ糸が多発して、主体繊維の品位が悪くなり不織布の地合いが悪くなった。このため得られた不織布は、厚さが高いものとなり、通気度が大きく、機械的特性に劣っていた。比較例3の湿式短繊維不織布は、繊度の大きい主体繊維を用いたため、厚さが高いものとなり、通気度が大きく、機械的特性に劣っていた。比較例4の湿式短繊維不織布は、繊度の大きいバインダー繊維を用いたため、厚さの高いものとなり、通気度が大きく、機械的特性に劣った。比較例5の湿式短繊維不織布は、繊維長の長い主体繊維を用いたため、比較例7の湿式短繊維不織布は、繊維長の長いバインダー繊維を用いたため、ともに不織布の地合が悪くなり、厚さの高いものとなり、通気度が大きく、機械的特性にも劣った。比較例6の湿式短繊維不織布は、主体繊維の繊維長が短かったため、比較例8の湿式短繊維不織布は、バインダー繊維の繊維長が短かったため、ともに切断時に繊維同士の融着が発生しており、このため不織布の地合が悪くなり、厚さの高いものとなり、通気度が大きく、機械的特性に劣った。比較例9の湿式短繊維不織布は、バインダー繊維として、平均複屈折率が高く、伸度の低い短繊維を用いたため、ウエブを熱処理する際の温度が140℃では接着成分とならず、不織布を得ることができなかった。比較例10の湿式短繊維不織布は、バインダー繊維として、PETで構成される短繊維を用いなかったため、熱圧着加工を施すと、不織布中の接着成分(バインダー繊維が溶融したもの)がロール上に溶け出し、熱圧着加工を施すことができなかった。また、ロール表面の汚れも非常に多かった。

Claims (1)

  1. 主体繊維として下記条件(1)を満足する短繊維を用い、バインダー繊維として下記条件(2)を満足する短繊維を用い、主体繊維とバインダー繊維とからなるウエブを作成した後、熱処理することにより得られたものであることを特徴とする湿式短繊維不織布。
    条件(1):ポリエステルからなる短繊維であって、短繊維を構成する単繊維は、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面が扁平断面形状を呈しており、長辺と短辺の長さの比であるアスペクト比(長辺/短辺)が1.5〜6.0、繊維長が2〜20mm、単糸繊度が0.8〜4.0dtexであり、機械捲縮が付与されていないノークリンプの短繊維である。
    条件(2):エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートで構成される短繊維であって、平均複屈折率が0.03以下、伸度200%以上、繊維長が1〜20mm、単糸繊度が0.8〜3.5dtexであり、機械捲縮が付与されていないノークリンプの短繊維である。
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