JP5688665B2 - 自己溶菌能を有するシアノバクテリアを用いたバイオ燃料等有用物質の製造方法 - Google Patents

自己溶菌能を有するシアノバクテリアを用いたバイオ燃料等有用物質の製造方法 Download PDF

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本発明は、自己溶菌能を有するシアノバクテリアを用いた物質の製造方法に関する。
シアノバクテリア(Cyanobacteria)は、グラム陰性の真正細菌であり、酸素発生型の光合成を行う原核光合成微生物である。またシアノバクテリアの祖先は植物葉緑体の起源としても知られている。その光合成能は優れており、植物のそれの数10から100倍に及ぶとされている。一方、シアノバクテリアの祖先は光合成を通じて太古の地球大気に酸素をもたらした最初の生物であり、大発生した微細藻類や植物の遺骸は、長い年月をかけて地熱や地圧により石油や天然ガスといった化石燃料になり今日の私たちの生活を支えている。加えてシアノバクテリアは地球上のほぼ全域に生息しており、数千種類が同定され、2011年現在40種類以上の株のゲノム解読が完了していることから、バイオカタログとしての位置を築いている。
シアノバクテリアは、一般に形質転換能を有するため、外来DNAを遺伝子操作により細胞内に導入し、物質を生産させることが可能である。外来DNAを細胞内に導入する発現ベクターの多くは、これまで大腸菌(Escherichia coli)を主な宿主として開発されてきた歴史的な経緯がある。藻類の発現ベクターとしては、発現制御配列として大腸菌型プロモーター(Ptrc、Prbc、Plac、Ptet、PR、及びPrnpB)とlacオペレーターを組込んだシステムが考案されたが、大腸菌内で作動する制御能が藻類の細胞では必ずしも全部発揮されないことが報告されている(非特許文献1)。またシャトルベクターpARUB19では、大腸菌型プロモーターPrbcを搭載し、その下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結させて単細胞性シアノバクテリア、シネココッカス・エスピー(Synechococcus sp.)PCC6301の細胞においてルシフェラーゼの生産に成功しているが、その生産は全細胞タンパク質の1.2%に留まっている(非特許文献2)。
溶菌細胞を用いた有用物質の生産に関する試みは、これまで非光合成微生物である大腸菌(グラム陰性菌)及び枯草菌(Bacillus subtilis、グラム陽性菌)などで行われている。例を挙げると、生分解性プラスチックの一種であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)生合成系の遺伝子を導入した組換え大腸菌に、さらにファージの溶菌遺伝子を導入する手法が報告されている(非特許文献3〜5、特許文献1)。このようなグラム陰性菌における自己破砕を基盤にして、自らPHA蓄積能を有するグラム陽性菌の枯草菌の一種を用い自己破砕細胞を作り出すことによって効率良くPHAを生産する系が考案された(特許文献2)。このシステムでは、ベクターpXはキシロース誘導性の枯草菌染色体挿入型のプラスミドであるが、これを母体としてバチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)ファージのホリン(holin)−エンドリシン(endolysin)カセットを組み込み、宿主枯草菌の培地の炭素源グルコースが消費され尽くすと、キシロース誘導性プロモーターからの転写発現が誘導される仕組みになっている。つまりPHAを細胞内に蓄積させた後、グルコース消費という培地中の炭素源の濃度をモニターすることによって、それに続く自己破砕がタイミング良く誘導される制御系である。このように、大腸菌及び枯草菌で知られる自己破砕とは、遺伝子操作によって細胞外からファージ溶菌遺伝子を宿主細胞に導入することによって与えられる付加機能である。また、自己破砕にはさらにTriton-XやSDSなど補助的な溶剤などを必要とする場合があり、自己破砕後の溶液中における物質の回収には溶菌上澄液と細胞残渣を遠心により分離しなければならない場合がある。それ故、このような自己破砕系では、自己破砕能を宿主細胞に予め付加しなければならない操作が含まれ、使用可能な宿主細胞種が限定されたり、生産できる目的物質が宿主細胞に依存するなど、細胞内で目的物質を生産し回収するまでに、手間を要し、種々の制限がかかる。
これまでに本発明者は、内在性の自己溶菌能を有するシアノバクテリア、リムノスリックス/シュードアナベナ・エスピー(Limnothrix/Pseudanabaena sp.)ABRG5-3株の単離に成功している(非特許文献6)。これはそれ自身がすでに自己溶菌能を持ったユニークな株であった。
特許第2641326号公報 特許第3799402号公報
Huang H-H, Camsund D, Lindblad P, Heidorn T (2010) Nucleic Acids Res. 38:2577-2593 Takeshima Y, Sugiura M, Hagiwara H (1994) DNA Res. 1:181-189 Fidler S, Dennis D (1992) FEMS Microbiol. Rev. 103:231-236 Yu H, Yin J, Li H, Yang S, Shen Z (2000) J. Biosci. Bioeng. 89:307-311 Resch S, Gruber K, Wanner G, Slater S, Dennis D, Lubitz W (1998) J. Biotechnol. 65:173-182 Nishizawa T, Hanami T, Hirano E, Miura T, Watanabe Y, Takanezawa A, Komatsuzaki M, Ohta H, Shirai M, Asayama M (2010) Biosci. Biotechnol. Biochem., 74:1827-1835 Horie Y, Ito Y, Ono M, Moriwaki N, Kato H, Hamakubo Y et al (2007) Mol. Genet. Genomics 278:331-46 Schirmer A, Rude MA, Li X, Popova E, del Cardayre SB (2010) Science 329:559-562 Asayama M (2012) Appl. Microbiol. Biotechnol. 95:683-695
本発明は、シアノバクテリアを用いた、バイオ燃料等の有用物質の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、シアノバクテリア細胞内で外来遺伝子を高効率に発現させるベクターを開発し、そのベクターを自己溶菌能を有するシアノバクテリアに形質転換することに成功し、それに基づいて本発明を完成するに至った。
[1] 本発明は、配列番号1に示される塩基配列からなるpsbA2遺伝子上流領域又は転写活性を有するその変異型領域を含む、シアノバクテリア発現ベクターを提供する。前記変異型領域は、1〜50個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を含んでよい。また、前記変異型領域は、ATボックス配列を含む塩基配列を欠失していてもよい。
[2] 本発明は、外来遺伝子をさらに含む、[1]に記載の発現ベクターを提供する。
[3] 本発明は、[2]に記載の発現ベクターを、自己溶菌能を有するシアノバクテリアに導入して得られる、シアノバクテリア形質転換体を提供する。
[4] 本発明は、[3]に記載のシアノバクテリア形質転換体を培養し、外来遺伝子を発現させ、自己溶菌を誘導することを特徴とする、シアノバクテリアを用いた物質製造方法を提供する。好ましくは、前記シアノバクテリアは、受託番号FERM P-22172を有するリムノスリックス/シュードアナベナ・エスピー(Limnothrix/Pseudanabaena sp.)ABRG5-3株である。この方法において、前記シアノバクテリア形質転換体を培地を連続的にかき混ぜながら培養した後、静置培養することによって自己溶菌を誘導することが好ましい。前記静置培養は、暗所で行うか、又は白色光、赤色光若しくは青色光の照射下で行うことができる。前記静置培養を4〜50℃の温度条件下で行うことも好ましい。前記静置培養を窒素欠乏培地中で行うこともできる。また、前記静置培養を高塩濃度培地中又は高浸透圧培地中で行うこともできる。
[5] [4]に記載の方法において、前記外来遺伝子から生成されたタンパク質又は該タンパク質の活性により生成された物質を回収することをさらに含んでもよい。
[6] [4]又は[5]に記載の方法において、前記外来遺伝子は、炭水化物合成酵素遺伝子、より具体的にはアルカン合成酵素遺伝子であることが好ましい。この場合、本発明の物質製造方法には、前記形質転換体により生産されたアルカンを回収することをさらに含む、アルカン製造方法が含まれる。
本発明の発現ベクターは、シアノバクテリアを含むグラム陰性菌細胞内で外来遺伝子産物を大量に発現させることが可能である。本発明者が単離した自己溶菌能を有するシアノバクテリアと、本発明に係る発現ベクターを組み合わせることにより、シアノバクテリア細胞に目的物質を生産させ、それを簡便に回収することが可能である。
図1は、psbA2遺伝子上流領域(配列番号1)に由来する、シアノバクテリア発現ベクター(pAM500)上の制限酵素XhoI〜HindIII部位間の塩基配列(配列番号2)を示す。「-35」及び「-10」は、それぞれ-35配列及び-10配列と呼ばれるプロモーター配列を示す。「+1」は転写開始点を示す。「SD」はシャイン・ダルガーノ配列を示す。「ATG」は翻訳開始コドンを示す。星印のついた「TAG」及び「TAA」配列は翻訳停止コドンを示す。「ΔAT」はシアノバクテリア発現ベクターpAM461cにおいて欠失している配列を示す。 図2Aは、発現ベクターpAM500及びpAM461cの模式図を示す。図2Bは、pAM500又はpAM461cのpsbA2遺伝子上流領域の下流にgfp遺伝子をクローン化した、pGFP500及びpGFP461cの一部の模式図を示す。 図3は、シアノバクテリア、リムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株の走査型電子顕微鏡像を示す写真である。棒は10μmのスケールを示す。 図4は、ABRG5-3株を用いた物質の生産・蓄積及び溶菌・回収の概要を示す。目的物質を黒小粒で示す。ABRG5-3株の増殖細胞と溶菌細胞の透過型電子顕微鏡像写真を概要図の下に示す。 図5Aは、シアノバクテリア発現ベクターで形質転換したPCC6803株において、PCR法によりベクターの存在を確認した結果を示す。「1」及び「2」は、任意に選抜した2種類のクロラムフェニコール耐性株より抽出した試料の番号をそれぞれ示す(以下同じ)。図5Bは、シアノバクテリア発現ベクターで形質転換したPCC6803株において、サザンブロット法によりベクターの存在を確認した結果を示す。図5Cは、シアノバクテリア発現ベクターで形質転換したABRG5-3株において、PCR法によりベクターの存在を確認した結果を示す。図5Dは、シアノバクテリア発現ベクターで形質転換し、BG11寒天培地上で増殖させたクロラムフェニコール耐性ABRG5-3株を示す写真である。 図6は、pGFP500又はpGFP461cで形質転換したPCC6803株において、プライマー伸長法により、gfp mRNA発現を解析した結果を示す。「+1」は転写開始点より合成されたmRNAの5'末端の位置を示す。Lは明条件、Dは暗黒条件を示す。 図7は、pGFP500又はpGFP461cで形質転換したABRG5-3株において、RT-PCR法(図7B)及びQRT-PCR法(図7C)により、gfp mRNA発現を解析した結果を示す。図7Aは両方法において用いたプライマーの位置を示す。 図8は、pGFP500又はpGFP461cで形質転換したPCC6803株からのタンパク質、並びにGFP濃度マーカーを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(図8A)及び抗GFP抗体によるウェスタンブロット(図8B及びC)により解析した結果を示す。 図9は、pGFP500又はpGFP461cで形質転換したPCC6803株の蛍光顕微鏡観察の結果を示す写真である。パネルA、C及びEは光学顕微鏡像、パネルB、D及びFは蛍光顕微鏡像を示す。パネルA及びBはベクターなし、C及びDはpGFP500により、E及びFはpGFP461cにより形質転換した細胞を示す。 図10は、pGFP461cで形質転換したABRG5-3株の蛍光顕微鏡観察の結果を示す写真である。パネルA及びCは光学顕微鏡像、パネルB及びDは蛍光顕微鏡像を示す。パネルA及びBは母体プラスミドpVZ321により、C及びDはpGFP461cにより形質転換した細胞を示す。 図11Aは、BG11培地(a及びb)又はCB培地(c及びd)で増殖させたPCC6803株(a及びcはpVZ321を有し、b及びdはpGFP461cを有する)を示す写真である。図11Bは、それぞれの株の蛍光顕微鏡像を示す写真である。 図12Aは、自己溶菌させたABRG5-3株の沈殿画分及び上澄画分を示す写真である。図12Bは、上澄画分の吸収スペクトルを示す。 図13は、pVZ321又はpGFP461cで形質転換したABRG5-3株の沈殿画分及び上澄画分の、抗GFP抗体によるウェスタンブロット解析の結果を示す写真である。 図14Aは、ABRG5-3株細胞をBG11液体培地中において種々の条件下で培養した時の菌体培地濁度(OD730)を示すグラフである。第一段階目の培養(30℃、白色蛍光灯下で振とう培養)後、12日目に第二段階目の培養に移行させ、各溶菌誘導ストレスをかけた。第二段階目の培養条件(誘導ストレス)をグラフの右側に示す。図14Bは、第二段階目の培養を30℃、白色光照射下、静置培養とした時の溶菌したABRG5-3細胞の光学顕微鏡像を示す写真である。図14Cは、第二段階目の培養を30℃、赤色光照射下、静置培養とした時の溶菌したABRG5-3細胞の光学顕微鏡像を示す写真である。棒は5μmのスケールを示す。 図15は、培地濁度を指標とした溶菌誘導ストレス培養条件下での溶菌効率を示すグラフである。 図16Aは、ABRG5-3株の窒素欠乏条件下での培地濁度を示すグラフである。BG11液体培地で12日間培養後、一旦遠心して集菌し、これを新しいBG11液体培地に移して以後そのまま培養した場合(+N)とBG11からNaNO3を抜いたBG11培地(-N, BG110)に移して培養した場合を示す。培養開始12日目を横軸の培養日数0日目として表示する。図16Cは、リン欠乏条件下での培地濁度を示すグラフである。菌体を最初からK2HPO4抜き(-P)又は10分の1濃度のK2HPO4を含んだBG11液体培地(+1/10P)に接種し培養した。接種した日を横軸の培養日数0日目として表示する。図16B及びDは、それぞれ窒素欠乏、リン欠乏条件下で培養したABRG5-3株の光学顕微鏡像を示す写真である。棒は10μmのスケールを示す。 図17Aは、ABRG5-3株の塩ストレス条件下における培地濁度(OD750)を示すグラフである。CB液体培地で9日間培養(第一段階目)後、そこに最終濃度が80mM又は120mMになるよう10倍濃度に予め調製しておいたNaCl含有CB培地を元の培地に対して9分の1容添加し、その後静置培養(30℃で白色蛍光灯下)した。図17Bは、塩ストレスをかける直前(0時間)とかけた後72時間目の培養物を示す写真である。 図18は、ABRG5-3株のショ糖(スクロース)添加による浸透圧ストレス条件下における培地濁度(OD750)を示したグラフである。CB液体培地で9日間培養(第一段階目)後、培養液に最終濃度0、10、又は20mMとなるよう10倍濃度に予め調製しておいたショ糖含有CB培地を元の培地に対して9分の1容添加し、その後静置培養(30℃で白色光下)した。浸透圧ストレスをかけてから72時間後の各ショ糖濃度における培地濁度(OD750)を示す。 図19は、アルカン合成酵素遺伝子(sll0208及びsll0209)を導入したABRG5-3株細胞の光学顕微鏡(A)とナイルレッド染色後の蛍光顕微鏡像(B)を示す写真である。棒は10μmのスケールを示す。 図20は、シアノバクテリアから酢酸エチルで抽出した炭化水素のGC-MS(ガスクロマトグラム-マススペクトル)での分析結果を示す。図20A〜Dは、ぞれぞれ、PCC6803株(野生型)、PCC6803株(アルカン合成酵素遺伝子形質転換体)、ABRG5-3株(野生型)、ABRG5-3株(アルカン合成酵素遺伝子形質転換体)の結果を示す。内標準物質としてエイコサン(C20H42)を20ppmになるように添加した。エイコサンのピーク(保持時間=18.15min付近)と試料由来のヘプタデカン(C17H36)のピーク(保持時間=14.56min付近)を図中に示す。
以下、本発明を詳細に説明する。
1. 本発明に係るシアノバクテリア発現ベクター
本発明は、シアノバクテリア由来のpsbA2遺伝子上流領域を利用した、シアノバクテリア発現ベクターに関する。
シアノバクテリアのpsbA遺伝子群は、酸素発生型光合成に重要な役割を果たす光合成系IIのコアとなるD1タンパク質をコードする。psbA遺伝子群は、光をはじめとする環境条件に応じて、転写及び/又は転写後レベルにおいて発現が制御されている。本発明者は、以前、シアノバクテリア、ミクロシスティス・エルギノーザ(Microcystis aeruginosa)K-81株に由来するpsbA2遺伝子の上流領域のATボックス配列が、光条件に応じたmRNAの安定性に関与することを報告した(Horie Y, Ito Y, Ono M, Moriwaki N, Kato H, Hamakubo Y et al (2007) Mol. Genet. Genomics 278:331-46)。本発明の発現ベクターは、このようなpsbA2遺伝子上流領域の下流に連結された外来遺伝子をシアノバクテリア細胞内で高効率に発現すること、並びに光条件に応じて外来遺伝子の発現及び/又は蓄積を制御することを達成するものである。
より具体的には、本発明は、配列番号1に示される塩基配列からなるpsbA2遺伝子上流領域又は転写活性を有するその変異型領域を含む、シアノバクテリア発現ベクターを提供する。配列番号1に示される塩基配列からなるpsbA2遺伝子上流領域は、プロモーターである-35配列(配列番号1の368〜373位)及び-10配列(配列番号1の391〜396位)、SD(シャイン・ダルガーノ)配列(配列番号1の440〜444位)、及びATボックス配列(配列番号1の428〜435位)を含む(図1)。SD配列は、mRNAの開始コドン上流に見られるプリン塩基(アデニン及びグアニン)に富む連続した3〜9塩基の配列である。本明細書において「ATボックス」(mRNA上ではAUボックスと称される)とは、リボソーム結合部位であるSD配列のすぐ上流にある、約5〜10塩基のアデニン及びチミンに富む領域を指す。ATボックス又はATボックス様の領域は、光合成関連の光誘導性遺伝子、例えばcpcA、cpcB、psaA、psaB、rbcLなどにも見出され、進化的に保存されている。上記psbA2遺伝子上流領域は、例えばミクロシスティス・エルギノーザK-81株から抽出したDNAから取得できる。例えば、シアノバクテリア細胞からゲノムを含むDNAを抽出し、それを鋳型として適切なプライマー(例えば、配列番号7及び8に示されるプライマー)によってPCR法で増幅することにより得られる。
上記psbA2遺伝子上流領域の変異型領域であって、転写活性を有する領域としては、例えばシネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803などのシアノバクテリア及びロドスピリラム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)などの光合成細菌の光合成関連遺伝子の上流領域に由来するものが挙げられる。これらは、BLASTプログラムなどによって類似配列を検索し、公知のGenBankなどのデータベースから配列を取得し、適切なプライマー及び鋳型DNAを用いたPCR法によって得ることができる。
さらに、この変異型領域としては、配列番号1に示される塩基配列からなるpsbA2遺伝子上流領域において、1つ以上の塩基の欠失、置換及び/又は付加を含み、かつ転写活性を有するものが挙げられる。これは、例えば1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜5個又は1個の塩基の欠失、置換及び/又は付加であってよい。このような塩基の欠失、置換及び/又は付加を含む配列は、例えば、遺伝子多型を有するゲノムDNAからPCR法によって得てよく、又は部位特異的突然変異導入法によって作製してもよい。例えば、配列番号1の438位のグアニンを欠失していてもよい。上記変異型領域は、転写活性を有する限り、配列番号1に示される塩基配列全体に対して90%以上、好ましくは95%以上、例えば99%以上の配列同一性を有していてもよい。このような変異型領域は、-35配列及び-10配列、並びにSD配列を有することが好ましい。
このような塩基の欠失を含む変異型領域は、ATボックス配列の一部又は全部を欠失していることが好ましい。配列番号1に示される塩基配列からなるpsbA2遺伝子上流領域においては、ATボックス配列5'-TAAATACA-3'を欠失していることが好ましい。好ましい一実施形態では、ATボックス配列だけでなく、ATボックス配列を含む配列(例えば9〜15塩基、好ましくは14塩基)を欠失している。下記の実施例では、配列番号1に示される塩基配列からなるpsbA2遺伝子上流領域からATボックス配列5'-TAAATACA-3'を含む5'-AATTAAATACATAG-3'を欠失した変異型領域(配列番号3)を利用して、発現ベクターpAM461cを作製した。
本明細書において「転写活性」とは、DNAの塩基配列情報をもとにRNAの合成を指令する活性を指す。この転写活性は、転写で生じたRNAを公知の方法に従って定量することにより測定することができる。例えば、試験領域の下流に遺伝子を連結したDNAを細胞内へ導入し、生じたRNAをプライマー伸長法、ノーザンブロット法、RT-PCR法又はQRT-PCR法によって定量することによって、測定することができる。配列番号1に示される塩基配列からなるpsbA2遺伝子上流領域の、転写活性を有する変異型領域とは、この変異型領域の下流に外来遺伝子を組み込んだDNAをシアノバクテリア細胞に形質転換した場合、上記方法によって検出可能なレベルで外来遺伝子のRNAへの転写を指令し得る変異型領域を指す。
本明細書において「シアノバクテリア発現ベクター」とは、シアノバクテリア細胞内においてクローン化された外来遺伝子を発現させることができる発現ベクターを指す。発現ベクターとは、遺伝子工学に利用できるベクターであり、典型的にはプラスミドベクターであるが、例えば、ウイルスベクターなどの非プラスミドベクターも使用できる。また好ましくは、本発明の発現ベクターは、複数の宿主細胞に適合させるためのシャトルベクターである。例えば、大腸菌及びシアノバクテリアのいずれの細胞にも導入可能であり、これらの宿主細胞中で外来遺伝子を発現し得るベクターが挙げられる。このようなシャトルベクターは大腸菌を用いて大量に複製することが可能である。
本発明の発現ベクターは、さらに、1つ以上のエンハンサー若しくはサイレンサー、オペレーター、ターミネーター、ポリアデニル化シグナル、1つ以上の薬剤耐性遺伝子、外来遺伝子を挿入するためのクローニング部位などを含んでいてもよい。
薬剤耐性遺伝子は、本発明のベクターが導入された形質転換体を選択するために使用することができる。薬剤耐性遺伝子としては、以下に限定されるものではないが、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
クローニング部位とは、発現させる遺伝子をベクターに組み込むための配列を指す。クローニング部位は、典型的には制限酵素認識配列を含む。クローニング部位は、複数の制限酵素認識配列(すなわちマルチクローニングサイト)を含むことが好ましい。このクローニング部位は、特に限定されないが、選択した制限酵素が本発明の発現ベクターにおいて唯一認識する部位であることが望ましい。このクローニング部位に挿入された遺伝子は、本発明のpsbA2遺伝子上流領域の転写活性によってmRNAへ転写される。
本発明の発現ベクターを構築する場合、シアノバクテリアで高効率に遺伝子を発現させ得る限り、母体となるベクターの由来は特に限定されず、例えば、シアノバクテリアで使用されるベクターであるpVZ321(Zinchenko VV, Piven IV, Melnik VA, Shestakov SV (1999) Genetika 35:291-296)、pMB1(Kreps S, Ferino F, Mosrin C, Gerits J, Mergeay M, Thuriaux P (1990) Mol. Gen. Genet. 221:129-133)、RSF1010(Meyer R (2009) Plasmid 62:57-70)などの公知のベクターを利用することができる。
ベクターに各領域を挿入するには、リガーゼ反応を利用することができる。例えば、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、得られたDNA断片をベクター中の適当な制限酵素部位に挿入することでベクターに連結する方法を使用することができる。また、ベクターに約30塩基以内の配列を挿入するには、挿入される配列を含む2つの相補的な合成1本鎖DNAをアニーリングして利用することもできる。
下記実施例において構築されたベクターpAM500及びpAM461cは、本発明の発現ベクターに含まれる(図2A)。pAM500は、psbA2遺伝子上流領域(配列番号1)に由来する塩基配列(配列番号2)が挿入されたシアノバクテリア発現ベクターである。pAM461cは、psbA2遺伝子上流領域の変異型領域(ATボックスを欠失している、配列番号3)を有する塩基配列(配列番号4)が挿入されたシアノバクテリア発現ベクターである。pAM500は、シアノバクテリア細胞内で外来遺伝子を高効率に発現させ、さらに、明培養条件下では外来遺伝子mRNA転写産物を蓄積させ、一方、暗黒培養条件下では当該転写産物の蓄積が低下するという、光条件に応じた発現を可能にする点で有用なベクターである。pAM461cは、pAM500に比べより高効率に、かつ恒常的にシアノバクテリア細胞内で外来遺伝子を発現させることができるベクターである。
本発明はまた、上述のクローニング部位に外来遺伝子を組み込んだ発現ベクターに関する。本明細書において「外来遺伝子」とは、本発明のベクターを用いて発現させようとするタンパク質をコードする遺伝子、又はアンチセンスRNAなどのRNAをコードするDNAである。外来遺伝子は、宿主細胞以外の生物由来のタンパク質をコードするあらゆる遺伝子だけでなく、宿主細胞が内在的に保持する遺伝子であってもよい。外来遺伝子としてアンチセンスRNAをコードするDNAを用いる場合、回収しようとするタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制する負の調節因子遺伝子の発現を、本発明のベクターから生産されたアンチセンスRNAが抑制することによって、当該タンパク質をコードする遺伝子を効率よく発現させることが想定される。具体的には外来遺伝子としては、以下に限定されるものではないが、例えば、医薬成分として有用なタンパク質(例えばインターフェロン、インスリン、エリスロポエチン、ヒト成長ホルモン、各種サイトカイン)、試薬として有用なタンパク質(例えばDNA/RNAポリメラーゼ、プロテアーゼ、制限酵素)、蛍光タンパク質(例えばGFP、DsRed、フィコシアニン)、バイオプラスチック製造関連タンパク質(例えばポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)又はポリヒドロキシ吉草酸(PHV)合成酵素)、アミノ酸合成酵素、バイオ燃料関連合成酵素(例えばトリグリセリド、脂肪酸(ステアリン酸若しくはオレイン酸など)又は炭化水素(アルカン/アルケン)合成酵素、水素生産酵素)、抗菌活性物質合成酵素、機能性物質合成酵素(機能性物質としては、例えばγ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸、β-カロテン、アスタキサンチンがある)などをコードする遺伝子が挙げられ、特に、バイオ燃料関連合成酵素遺伝子が好ましい。外来遺伝子は、GenBankなどの既存のデータベースに登録されている塩基配列又はアミノ酸配列の情報から設計したプライマー又はプローブを利用して、PCR法又はハイブリダイゼーション法などの公知の方法により取得することができる。
ベクターに外来遺伝子を挿入するには、当該遺伝子が本発明のpsbA2遺伝子上流領域又はその変異型領域の転写活性による制御を受けて適切に転写されるように挿入し連結すればよい。例えば、制限酵素認識部位をプライマーによって組み込んだ外来遺伝子のPCR断片を、適切な制限酵素で切断し、同様に適切な制限酵素で切断した本発明の発現ベクターのクローニング部位に、外来遺伝子が正しく転写される方向に挿入すればよい。アンチセンスRNAをコードするDNAを挿入する場合、負の調節因子遺伝子を本発明の発現ベクターの制限酵素SmaIとNdeI部位にpsbA2プロモーターに対して逆向きになるように挿入すればよい。
下記実施例において構築されたベクターpGFP500及びpGFP461cは、それぞれ本発明の発現ベクターpAM500及びpAM461cに外来遺伝子としてgfp遺伝子が挿入されており、本発明の発現ベクターに含まれる(図2B)。
本発明の発現ベクターpAM461cに外来遺伝子としてアルカン合成酵素遺伝子(例えばシネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803株由来のsll0208及び/若しくはsll0209、又はこれらに由来する遺伝子)が挿入されたベクター(例えば実施例10のpTM_ALK11)は、本発明の発現ベクターに含まれる。
本発明はまた、上述の外来遺伝子を組み込んだ発現ベクターを、自己溶菌能を有するシアノバクテリアに導入して得られるシアノバクテリア形質転換体に関する。本明細書において「自己溶菌」とは、ファージの感染、薬剤処理、酵素処理、高塩濃度、高浸透圧、又は窒素若しくはリンなどの栄養欠乏などの培地への物質添加又は除去に基づく外部からの直接的な刺激によらずに、細胞が細胞壁(又は細胞膜及びチラコイド膜)の崩壊を伴って崩壊することをいう。これに対して「溶菌」とは、誘因を問わず、細胞が細胞壁(又は細胞膜及びチラコイド膜)の崩壊を伴って崩壊することをいい、「自己溶菌」を含むものとする。「自己溶菌能を有するシアノバクテリア」とは、前記のような培地への物質添加又は除去に基づく外部からの直接的な刺激によらずに、細胞が細胞壁(又は細胞膜及びチラコイド膜)の崩壊を伴って崩壊する性質を有するシアノバクテリアを指す。
シアノバクテリアの形質転換法としては、例えば、自然形質転換法及びエレクトロポレーション法を使用することができるが、宿主細胞側の制限修飾系が強いとDNAの細胞内への導入効率は低下することが知られている。そのような場合には、接合伝達法を用いることができる。自然形質転換法とは、シアノバクテリアとDNAを混合するだけで遺伝子導入が可能な方法である。エレクトロポレーション法とは、シアノバクテリアとDNAの混合溶液に電気パルスをかけることで、遺伝子導入を行う方法である。接合伝達法とは、導入したい遺伝子を挿入したプラスミドを大腸菌に形質転換した後、その大腸菌とシアノバクテリアを混合し遺伝子導入を行う方法である。これらの方法は、当業者であれば適宜実施することができる。
本発明のベクターが導入された形質転換体を選択するために、必要に応じて薬剤耐性遺伝子を利用することができる。すなわち、培養中の形質転換体に所定の薬剤を接触させると、薬剤耐性遺伝子を含有するベクターが導入された形質転換体のみが生存可能となり、本発明のベクターが導入された形質転換体を選択することができる。
2. 本発明で用いる自己溶菌能を有するシアノバクテリア
本発明者は、以前、(財)新技術開発財団植物研究園(静岡県熱海市相の原町11-8)敷地内から、自己溶菌能を有するシアノバクテリアの新菌種を分離することに成功した(Nishizawa T, Hanami T, Hirano E, Miura T, Watanabe Y, Takanezawa A, Komatsuzaki M, Ohta H, Shirai M, Asayama M (2010) Biosci. Biotechnol. Biochem., 74:1827-1835)。この菌は、その菌学的性質に基づき、リムノスリックス属又はシュードアナベナ属の新菌種として同定された。本発明は、こうして同定されたシアノバクテリアの新菌種を有利に利用することができる。
本発明者が分離した菌株は、リムノスリックス/シュードアナベナ・エスピー(Limnothrix/Pseudanabaena sp.)ABRG5-3と命名され、2011年9月12日付で、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に受託番号FERM P-22172で寄託されている。以降、リムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株は、「ABRG5-3株」と略記することがある。
本発明で用いるリムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株の菌学的性質は以下の通りである。
(a)培養的性質
BG11寒天培地上で培養すると、緑色のコロニーを形成し、数日以内に放射状に拡散する。
BG11液体培地中で、30℃、大気中(0.4%CO2)で振とう培養(105〜110rpmで旋回培養)すると、培養液は緑色になり、約2週間で定常状態に達する。
(b)形態的性質
約1.5〜2μm ×約3.5〜5μm(幅×長さ)の大きさの細胞を有し、約5〜30個の細胞が直線状に連なった半糸状性(非分枝性)を示す(図3)。ヘテロシスト(異型細胞)は見られず、この特徴は、代表的な糸状性シアノバクテリア、アナベナ(Anabaena)とは異なる(Golden JW, Yoon HS (2003) Curr Opin Microbiol, 6: 557-563)。
(c)生理学的・化学分類学的性質
(1)最適生育条件:30℃、pH8、連続白色光100μmol フォトン/m2/s、二酸化炭素濃度2%
(2)生育の範囲:約25〜35℃、pH約5〜10、連続白色光30〜300μmol フォトン/m2/s、二酸化炭素濃度0.4〜10%
(3)酸素に対する性質:好気性
(4)16S rDNA(16SリボソームRNAコード配列)におけるDNA配列相同性:
ABRG5-3株の16S rDNA(配列番号5)は、リムノスリックス・レデケイ(Limnothrix redekei)NIVA-CYA 227/1Tの16S rDNA(配列番号6)との間で約97%の同一性を有する。
(d)その他の特徴:
培養環境条件の変化によって、自己溶菌が誘導される可能性がある。特に、振とう培養後、静置培養すると自己溶菌し始める。そのため、培養及び植え継ぎには注意を要する。
植え継ぎ用の培養方法を以下に示す。100ml容三角フラスコに50mlのBG11液体培地を入れ、綿栓をしてからオートクレーブ後、冷まし、フィルター滅菌しておいたクエン酸鉄アンモニウム液を混合する。接種は、種付け用の液体培地から50mlの1/100容である0.5mlを滅菌ピペットで吸い取って、新しい液体培地に植菌することで行う。静置培養する場合は、接種後、一日一回三角フラスコを手で軽く2〜3回程度円をかくように撹拌して静置培養を行う。振とう培養の場合は、約105〜110rpmで旋回しながら上記三角フラスコ容器で培養する。静置培養の場合は約1ヶ月〜1.5ヶ月毎に、振とう培養の場合は約3週間毎に、液体培地の1/100容(0.5ml)を乾熱滅菌したピペットマンで吸い取り、新しいBG11液体培地に植菌する。
本発明で使用可能なリムノスリックス/シュードアナベナ属菌を培養するのに適した培地としては、限定するものではないが、例えば、BG11培地及びCB培地及びそれらの改変培地が挙げられる。BG11培地の組成を以下に示す:0.003mM Na2-Mg EDTA、0.029mM クエン酸、0.18mM K2HPO4、0.30mM MgSO4・7H2O、0.25mM CaCl2・2H2O、0.19 mM Na2CO3(無水)、0.03mM クエン酸鉄アンモニウム、1ml/L 微量栄養素(微量栄養素の組成:2.86g/L ホウ酸、1.81g/L MnCl2・4H2O、0.22g/L ZnSO4・7H2O、0.39g/L Na2MoO4・2H2O、0.08g/L CuSO4・5H2O、0.049g/L Co(NO3)2・6H2O)、1.5g/L NaNO3。BG11液体培地は、クエン酸鉄アンモニウム以外を水に溶解し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌し、別途フィルター滅菌したクエン酸鉄アンモニウムを添加することによって、調製することができる。CB培地の組成を以下に示す:150mg/L Ca(NO3)2・4H20、100mg/L KNO3、40mg/L MgSO4・7H20、50mg/L グリセロリン酸1-二ナトリウム(1-disodium glycerophosphate)、500mg/L ビシン、0.0001mg/L ビオチン、0.0001mg/L ビタミンB12、及び0.01mg/L 塩酸チアミン、に加えて3mL/LのPIV金属(PIV金属の組成:1.96mg/L FeCl3・6H20、0.36mg/L MnCl2・4H20、0.22mg/L ZnSO4・7H20、0.04mg/L CoCl2・6H20、0.025mg/L Na2MoO4・2H20、及び10mg/L EDTA二ナトリウム・2H20)。CB培地のpHは9に調整し、121℃、20分間オートクレーブ滅菌することによって調製する。寒天培地の場合には、高純度寒天粉末(TaKaRa社製、LO3など)を0.6%(w/v)添加した後、同条件でオートクレーブすることによって、調製することができる。本発明で使用可能なリムノスリックス/シュードアナベナ属菌は、このような培地において30℃にて好気的に培養することができる。
本発明で使用可能なリムノスリックス/シュードアナベナ属新菌種は、リムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株の上記のような菌学的性質を本質的に共有する。このような本発明で使用可能なリムノスリックス/シュードアナベナ属菌の典型例はリムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株であるが、ABRG5-3株の分離源である静岡県熱海市の山間水域から、上記のような菌学的性質を有する菌を、混釈平板法(pour plating method、Shirai M, Matsumaru K, Ohtake A, Takamura Y, Aida T and Nakano M, Appl. Environ. Microbiol., 55: 2569-2571)をはじめとする当業者に周知な分離方法によってさらに分離することにより、上記リムノスリックス/シュードアナベナ属菌の菌株をさらに得ることもできる。また、本発明で使用可能なリムノスリックス/シュードアナベナ属菌には、例えばリムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株の変異体(自然突然変異体、遺伝子組換え体、突然変異誘発処理体、プラスミド導入等による形質転換体、倍数化体など)、リムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株を親株の1つに用いて作製した細胞融合株、リムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株を親株の1つとして交配により作製した株であって、自己溶菌能を有する株なども含まれる。
3. 本発明のベクターを利用した物質製造方法
本発明は、上述のように作製された、外来遺伝子を発現するための本発明の発現ベクターを導入して得られるシアノバクテリア形質転換体を培養し、外来遺伝子を発現させ、自己溶菌させることを特徴とする、シアノバクテリアを用いた物質製造方法に関する。
本明細書において「製造」とは、シアノバクテリアをはじめとする宿主細胞による目的物質の生成工程に加えて、目的物質の回収、単離又は精製工程などの人為的な作用を含みうる、目的物質の取得のためのプロセスをいう。
本方法は、二段階の培養を順次行うことによって達成される。第一段階目において、シアノバクテリア細胞内での物質の生産及び蓄積を目的とした培養を行う(生産・蓄積相、図4左)。この段階では、細胞には細胞壁、細胞膜及びチラコイド膜が一定の構造を形成し、光合成の明反応の場であるチラコイド膜の重層が確認される。第二段階目において、シアノバクテリアを自己溶菌させる条件下で培養を行って自己溶菌を誘導し、細胞内から培地に放出された物質を回収する(溶菌・回収相、図4右)。このように、自己溶菌能を元々備えているシアノバクテリア(例えば、上述の受託番号FERM P-22172を有するリムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株又はこれに由来する変異株など)を利用し、従来知られているような遺伝子操作による溶菌遺伝子の導入などの必要なく、培養条件によってシアノバクテリアに自己溶菌を誘導し、シアノバクテリア細胞内で生産された物質を得ることができる点が、本方法の利点である。
3-1.第一段階目の培養(生産・蓄積相)
本発明に係る物質製造方法の第一段階目、生産・蓄積相における培養条件を以下に例示するが、これに限定されない。シアノバクテリアを、100ml容三角フラスコ中の50mlのBG11(又はCB)液体培地(必要ならば、形質転換体選抜のための薬剤を適切な濃度で添加する)に1%(v/v)になるように接種し、これを30℃、白色蛍光灯(35μmol フォトン/m2/s)常時照射下で、110rpmで旋回しながら2〜3週間前培養する。なお、二酸化炭素は特に供給する必要はなく、大気中濃度(0.4%CO2)である。次いで、この前培養液を、50mlのCB(又はBG11)液体培地に1%(v/v)になるように接種し、これを30℃、白色蛍光灯又は白色LED(35〜100μmol フォトン/m2/s)常時照射下、2%CO2ガス供給下、50rpmで7〜12日間レシプロ振とう培養(本培養)する。本培養では、短期間に細胞を増殖させ、細胞内に目的物質を生産及び蓄積させるために、2%CO2ガスを供給することが好ましい。これは、本発明の方法を用いた物質の大量製造の際、工場などからの排気CO2ガスを再利用資源化する観点からも特に望ましい。また、当業者であれば、上記培養条件を必要に応じてスケールアップして利用することができ、例えば、恒温培養器内、室内若しくは工場内、又は屋外に設置した培養槽内で本発明に係る物質製造方法を実施することもできる。
第一段階目の培養は、培地を連続的にかき混ぜながら行うことが好ましい。このような培養方法の例として、振とう培養(往復運動(レシプロ)又は旋回運動(ロータリー)による)、撹拌培養、灌流培養若しくは通気培養又はこれらの組み合わせがある。
第一段階目の培養は、数ミリリットル〜数リットルの規模で行う場合には、振とう培養を行うことが好ましい。スケールアップして数リットル〜数トンの規模で培養する場合には、CO2ガス供給による通気培養又は撹拌子などによる撹拌培養を行うことが好ましい。
3-2.第二段階目の培養(溶菌・回収相)
本発明に係る物質製造方法の第二段階目、溶菌・回収相では、培養条件を調整して自己溶菌を誘導する。特に、第一段階目に培地を連続的にかき混ぜながらシアノバクテリア形質転換体を培養した後に第二段階目に静置培養を行うことにより、自己溶菌を誘導することが好ましい。本明細書において「静置培養」とは、培地を連続的にかき混ぜる操作を行うことなく実施する培養をいう。第二段階目の培養では、自己溶菌に加えて培地への物質添加又は除去に基づく外部からの直接的刺激による溶菌(物理的要因による溶菌)が生じてもよい。第二段階目の培養では、以下に限定されるものではないが、光条件、温度条件、培地組成(例えば塩、糖(浸透圧)、栄養源)などを変化させることにより、溶菌を促進することもできる。溶菌の促進は後述の実施例に示すように溶菌効率の増加により示される。第二段階目の培養において、目的物質を、自己溶菌及び物理的要因による溶菌の両者を介して培地中に放出させることができる。
「培地を連続的にかき混ぜながら培養(例えば振とう培養又は撹拌培養)した後、静置培養する」ために、例えば、上述の生産・蓄積相における培養条件で振とう培養した本培養液の入った三角フラスコを室温(約20〜25℃)の実験台に移動させ、静置培養することにより、自己溶菌を誘導してよい。静置培養の期間は、溶菌の程度に応じて適宜調節することができるが、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日間、典型的には3〜10日間である。溶菌の程度は、後述のように様々な条件で変化しうるため、溶菌しにくい場合には、3週間、4週間、5週間などの長期間に渡り十分に溶菌するまで(例えば静置培養開始時の細胞の50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%が溶菌するまで)静置培養してもよい。
第二段階目の培養(好ましくは静置培養)を、例えば0〜50℃、好ましくは4〜50℃、10〜50℃、20〜50℃、25〜45℃、25〜40℃、25〜35℃、25〜30℃、20〜40℃、20〜35℃、又は20〜30℃の温度条件下で行うことにより、溶菌を促進することができる。ここでの温度は、例えば、恒温培養器内で培養を行う場合は恒温培養器内の温度、室内で培養を行う場合は室温を指し、屋外で培養を行う場合は培養槽付近の外気温又は培養物の温度を指す。
第二段階目の培養(好ましくは静置培養)において、光の強度及び/又は波長などの光条件を調整することにより、溶菌を促進することもできる。
第二段階目の培養における光の強度(光量子束密度)は、0〜2000μmol フォトン/m2/sとすることができ、光照射下の光強度は5μmol フォトン/m2/s以上であることが好ましい。典型的な蛍光灯を用いた白色光では10〜150、30〜150、30〜100μmol フォトン/m2/s、例えば100、50、35、30、20、10μmol フォトン/m2/sである。光の強度を弱めて暗所で培養を行ってもよい。「暗所」とは、光の非照射状態をいうが、光を完全に遮蔽した暗黒状態に限られず、漏れ光、作業を行うために必要な薄明かり、又は恒温培養器内の表示部の光などがあってもよい。暗所の光の強度は、例えば、0〜3μmol フォトン/m2/s、好ましくは0〜1μmol フォトン/m2/sでありうる。暗所での培養により、溶菌を促進することができる。
第二段階目の培養を、特定波長又は波長域の光の照射下で行うことも好ましい。特に、波長域600〜780nmの赤色光、又は波長域400〜500nmの青色光の照射下で行いうる。赤色光又は青色光の照射下で培養することにより、溶菌を促進することができる。あるいは、白色光の照射下でもよい。白色光は、多数の又は全ての波長の可視光を含んだものであってよく、赤、青、緑色光などを混合したものであってもよい。
白色光の光源としては、限定するものではないが、例えば、白熱電球、蛍光灯、LED、有機EL、半導体レーザー、高圧ナトリウムランプ、低圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、水銀ランプなどの人工光源を用いることができる。あるいは太陽光を照射してもよい。青色光又は赤色光などの特定波長域の光の光源としては、特定波長を照射するLED又は蛍光灯など、例えば470nm付近にピーク波長を持つ青色LED又は660nm付近にピーク波長を持つ赤色LEDを用いることができる。
第二段階目の培養(好ましくは静置培養)は、改変した培地組成を有する培地中で、具体的には、栄養源欠乏培地中、高塩濃度培地中若しくは高浸透圧(高糖濃度)培地中又はこれらの組み合わせで行ってもよい。これによっても溶菌を促進することができる。
培地中の栄養源の欠乏は、代表的なものに窒素欠乏及びリン欠乏がある。窒素欠乏培地とは、通常の培養培地(例えば第一段階目の培養で使用したBG11培地又はCB培地)中の窒素源に対して0〜50%、0〜40%、0〜30%、0〜20%、0〜10%、0〜5%又は0〜1%の窒素源を含む培地をいう。窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸鉄アンモニウムや、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウムなどの硝酸塩がある。リン欠乏培地とは、通常の培養培地(例えば第一段階目の培養で使用したBG11培地又はCB培地)中のリン源に対して0〜50%、0〜40%、0〜30%、0〜20%、0〜10%、0〜5%又は0〜1%、例えば5〜30%のリン源を含む培地をいう。リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムなどのカリウム塩、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムなどのナトリウム塩、グリセロリン酸1−二ナトリウムなどがある。第一段階目の培養物を遠心して菌体を沈殿させ、栄養欠乏培地に懸濁することによって、第二段階目の培養物とすることができる。
培地中の塩濃度は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸一水素二カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム溶液などの塩溶液の添加により調整することができる。培地中の塩濃度は、0〜1000mMの範囲で適宜調整することができる。高塩濃度培地とは、通常の培養培地(例えば第一段階目の培養で使用したBG11培地又はCB培地)の塩濃度よりも高い塩濃度を有する培地である。高塩濃度培地は、例えば、添加する塩化ナトリウムの最終濃度が10〜500mM、10〜200mM、50〜200mM、具体的には60mM、80mM、100mM、120mM、140mMなどとなる培地である。第一段階目の培養が終了した培養物に、塩化ナトリウム溶液などの塩溶液を添加(例えば、最終濃度の10倍濃度の塩溶液を第一段階目の培養物の9分の1容添加)することによって、第二段階目の培養を高塩濃度培地で行うことができる。
培地中の浸透圧は、グルコース、フルクトース、マンノースなどの単糖、ショ糖、ラクトースなどの二糖、オリゴ糖、多糖類、糖アルコール類などの糖溶液の添加により調整することができる。高浸透圧培地とは、通常の培養培地(例えば第一段階目の培養で使用したBG11培地又はCB培地)の浸透圧よりも高い浸透圧を有する培地である。高浸透圧培地は、例えば、添加するショ糖の最終濃度が10〜50mM、具体的には5mM、10mM、20mM、30mM、40mM、50mMなどとなる培地である。第一段階目の培養が終了した培養物に、ショ糖溶液などの糖溶液を添加(例えば、最終濃度の10倍濃度の糖溶液を第一段階目の培養物の9分の1容添加)することによって、第二段階目の培養を高浸透圧培地で行うことができる。
3-3.目的物質の製造
本発明の製造方法の一態様としては、シアノバクテリア形質転換体に導入された外来遺伝子の発現により、外来遺伝子から生成されるタンパク質(外来遺伝子によってコードされるタンパク質)を製造する、シアノバクテリアを用いた物質製造方法が挙げられる。この方法により、外来遺伝子から発現されたタンパク質又はそれに由来する物質(例えばペプチドなどの分解産物)自体を目的物質として製造することができる。用いる外来遺伝子は緑色蛍光タンパク質などの蛍光タンパク質又は酵素等の任意のタンパク質をコードする遺伝子であってよい。
本発明の製造方法の別の態様としては、外来遺伝子から生成されるタンパク質(外来遺伝子によってコードされるタンパク質)の活性によってさらなる物質を生成させることに基づく、シアノバクテリアを用いた物質製造方法が挙げられる。この方法により、例えば外来遺伝子から発現されたタンパク質の活性によって、シアノバクテリア細胞内で他の基質から直接生成された物質又はそれから誘導される物質を、目的物質として製造することができる。具体的には、例えば、外来遺伝子としてポリヒドロキシアルカン酸(PHA)合成酵素、あるいは炭化水素(アルカン/アルケン)合成酵素、脂肪酸合成酵素、又はトリグリセリド合成酵素などのバイオ燃料関連合成酵素を発現させ、その酵素活性を利用してシアノバクテリア細胞内にてそれぞれPHA、あるいはヘプタデカン、オレイン酸又はトリアシルグリセロールなどのバイオ燃料原料を製造することができる。バイオ燃料とは、植物や藻類などの生物資源を原料として製造される燃料であり、熱エネルギーの原料として化石燃料の代わりに利用することができる。例えば、トウモロコシやサトウキビなどの糖質をアルコール発酵させて得られるバイオエタノールがよく知られている。本実施態様によれば、バイオ燃料原料を低コストで、簡便に、多量に製造することが可能となる。
一実施形態において、本発明の発現ベクターによって炭化水素合成酵素遺伝子を導入したシアノバクテリア形質転換体を培養し、炭化水素合成酵素を高効率で発現させ、炭化水素の生産を誘導又は増強することができる。ここで炭化水素は、鎖式炭化水素又は環式炭化水素であってよく、飽和炭化水素又は不飽和炭化水素であってよい。炭化水素としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン、シクロアルケン又はシクロアルキンがある。生産される炭化水素は、細胞内にある炭化水素中間体(例えば脂肪酸アシル-ACP及び/又は脂肪酸アルデヒド)によって様々な種類が想定されるが、例えば、トリデカン、ペンタデカン、ヘプタデカン、ノナデカン、トリデセン、ペンタデセン、ヘプタデセン又はノナデセンであり、重油と軽油の中間的な性質を持つヘプタデカン(n-ヘプタデカン、n-C17H36)が好ましい。
本明細書において「炭化水素合成酵素」とは、脂肪酸アシル鎖、例えば、アシル−CoA、アシル−アシルキャリアタンパク質(アシル−ACP)、又は脂肪酸を含有する基質を炭化水素若しくは炭化水素中間体へ変換する活性(炭化水素合成活性)を有する酵素を指す。炭化水素合成酵素の例としては、アルカン合成酵素がある。アルカン合成酵素は、場合により、アルカンだけでなく、アルケン及び/又はアルキンを合成しうる。アルカン合成酵素としては、例えば、脂肪酸アシル-ACPを脂肪酸アルデヒドに変換するアシル-ACPリダクターゼ(AAR)、及び脂肪酸アルデヒドをアルカン(場合によりアルケン)に変換するアルデヒドデカルボニラーゼ(ADC)がある(Schirmer A, Rude MA, Li X, Popova E, del Cardayre SB (2010) Science 329:559-562)。
本発明の製造方法の一実施形態において、シアノバクテリアに導入される炭化水素合成酵素遺伝子は、いずれの生物由来であってもよいが、菌などの真核微生物又は細菌などの原核微生物由来であることが好ましく、シアノバクテリア由来であることがより好ましい。例えば、シネコシスティス・エスピーPCC6803、シネココッカス・エロンガタス(Synechococcus elongatus)PCC7942、又はリムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3由来であることが好ましい。炭化水素合成酵素遺伝子の例としては、例えば、シネココッカス・エロンガタスPCC7942のorf1594(AAR)及びorf1593(ADC)、あるいはシネコシスティス・エスピーPCC6803のsll0208(ADC、塩基配列及びアミノ酸配列の例をそれぞれ配列番号15及び16に示す)及びsll0209(AAR、塩基配列及びアミノ酸配列の例をそれぞれ配列番号17及び18に示す)が挙げられる。また、シアノバクテリア由来の炭化水素合成酵素遺伝子に対して1つ以上の塩基の欠失、置換及び/又は付加を含み、又はシアノバクテリア由来の炭化水素合成酵素遺伝子に対して90%以上、好ましくは95%以上、例えば99%以上の配列同一性を有し、かつ炭化水素合成活性を有する変異型遺伝子であってもよい。例えば、sll0208/sll0209オペロン(配列番号19)の1845位(すなわちsll0209遺伝子の931位)のT(チミン)がC(シトシン)に置換していてもよい。シアノバクテリアでは、AAR遺伝子及びADC遺伝子は隣接して存在し、オペロンを形成している場合が多い(前掲)。よって、本発明の発現ベクターにこれらの遺伝子をクローン化する場合には、各遺伝子を単独でクローン化してもよいし、両遺伝子を含むDNA(例えばsll0208及びsll0209を含むゲノムDNA、配列番号19)をクローン化してもよい。さらに、異種生物由来のADC/AAR(又はAAR/ADC)遺伝子の組み合わせでもよい。炭化水素合成酵素遺伝子、特にアルカン合成酵素遺伝子(例えば、シネコシスティス・エスピーPCC6803のsll0208及び/又はsll0209などのアシル-ACPリダクターゼ及び/又はアルデヒドデカルボニラーゼ)を含む本発明の発現ベクターを自己溶菌能を有するシアノバクテリア(例えばABRG5-3株)に導入して得られた形質転換体を培養し、アルカン合成酵素を発現させることによって、アルカンを生産させることができる。このシアノバクテリアにおいて自己溶菌を誘導することによって炭化水素(ヘプタデカンなどのアルカン及び/又はアルケン)を製造することができる。
以上のような本発明の製造方法によって、最終的に目的物質が溶菌を経て細胞中から培地中に放出される。この目的物質は、培地から簡便に回収することができる。本発明の製造方法は、目的物質(例えば外来遺伝子から生成されるタンパク質(外来遺伝子によってコードされるタンパク質)、又は外来遺伝子から生成されるタンパク質の活性によって生成される物質)を培養物又は培地から回収することをさらに含む。外来遺伝子として炭化水素合成酵素(例えばアルカン合成酵素)遺伝子を含む本発明の発現ベクターを、自己溶菌能を有するシアノバクテリア(例えばABRG5-3株)に導入した形質転換体を用いる場合、この形質転換体により生産された炭化水素(例えばヘプタデカンなどのアルカン及び/又はアルケン)を回収することをさらに含む、炭化水素(例えばアルカン)製造方法が本発明の物質製造方法に含まれる。回収は当業者に周知の回収技術により行うことができる。自己溶菌が充分なら(例えば溶菌率50%以上なら)静置後の上澄液を直接回収してよく、又は低速で、例えば3,000gで5分間遠心することにより細胞残渣と上澄液を分離してから回収してもよい。培地成分などが含まれていてもよいならば、さらに精製する必要なく、この上澄液をその後の処理に用いることができる。なお場合により、当業者であれば、公知の手法、例えば硫安塩析法、透析法、限外ろ過法などを用いて目的物質をさらに精製することもできる。以上のような本発明の物質製造方法によって、溶菌剤の添加又は高度な精製手段を用いる必要なく、短時間で、コストをかけずに、簡便に目的物質を得ることが光合成生物で初めて可能になる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ベクターの構築
シアノバクテリア発現ベクターを、後述のようにして、シアノバクテリア宿主プラスミドpVZ321を母体として、外来遺伝子を挿入するためのクローニング部位、及びシアノバクテリアの光合成遺伝子psbA2の上流領域を付加して構築した。
染色体、プラスミドDNA及び細胞内RNAの抽出・精製、PCR、コンピテントセルの調製、大腸菌の形質転換、DNAクローニングは標準の手順(Sambrook J, Fritsh EF, Maniatis T (1989) Molecular Cloning: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, Now York)に従った。大腸菌DH5αMCRは市販のものを使用した。大腸菌用培地は、Luria-Bertani(LB)又は2xTYなど一般的なものを使用した。なお寒天培地として使用する場合は、寒天粉末(Difco社製、Bacto Agar)を0.5%(w/v)になるように添加した。シアノバクテリア発現ベクター構築に使用するプラスミドpVZ321は、開発者のZinchenko博士より分譲された(GenBankアクセッション番号AF100176;Zinchenko VV, Piven IV, Melnik VA, Shestakov SV (1999) Genetika 35:291-296)。このプラスミドは、サイズが小さく、マルチコピー型であり、高導入率を達成可能である。
単細胞性のシアノバクテリア、ミクロシスティス・エルギノーザK-81(Shirai M, Matumaru K, Ohotake A, Takamura Y, Aida T, Nakano M (1989) Appl Environ Microbiol 55:2569-2571)の光合成遺伝子psbA2の上流領域を、プラスミドpAG500(野生型psbA2)又はpAG461c(ATボックス配列欠失変異型psbA2)のDNA(Agrawal GK, Kato H, Asayama M, Shirai M (2001) Nucleic Acids Res. 29:1835-1843)を鋳型とし、K81psbA-404F_XhoI(5'-CCGCTCGAGGATCTCATAGAAACGATAAATC-3'、配列番号7)及びHY908-R_NdClSm&Hd(5'-CCCAAGCTTTTACTACCCGGGATCGTACATATGTGGATAATTTCTGC-3'、配列番号8)をプライマーとして用いて、それぞれPCR法で増幅した。フォワード側のK81psbA-404F_XhoIプライマーには制限酵素XhoIにより認識される配列(CTCGAG)が、一方、リバース側のHY908-R_NdClSm&Hdプライマーには制限酵素NdeI(CTCGAG)、SmaI(CCCGGG)及びHindIII(AAGCTT)部位が予めデザインされている。PCR後、得られたDNA断片をXhoIとHindIIIで消化し、このXhoI/HindIII DNA断片(配列番号2(図1)及び4)をpVZ321のXhoI/HindIII部位に挿入してベクターpAM500及びpAM461cを得た(図2A)。
これら2種類のベクターは、外来遺伝子を挿入するために、5'側はNdeI部位(開始コドンATGを含む)を、3'側はSmaI若しくはHindIII部位をクローニング部位として利用可能である(図1)。このようにして得られたベクターpAM500及びpAM461cは、野生型psbA2上流領域に由来する配列を有し、特にベクターpAM461cは、ATボックス配列(5'-TAAATACA-3')を含む配列を欠失していた(図1及び2B、ΔAT)。
[実施例2]
GFPを発現するベクターの作製
実施例1で作製したpAMベクター(pAM500及びpAM461c)は、母体となったpVZ321プラスミド上に元々存在したカナマイシン耐性遺伝子領域が、psbA2遺伝子上流領域の挿入によって置き換わるため、プラスミド上の他の箇所に存在するクロラムフェニコール耐性遺伝子によって抗生物質を含む培地により形質転換体の選抜が可能である。
実施例1で作製した発現ベクターの機能を検証するために、緑色蛍光タンパク質をコードするモデル遺伝子gfp(717bp、239aa:F64, S65)を以下の手順でpAMにクローン化した。オワンクラゲ(Aequorea victoria)由来gfp遺伝子を有するプラスミドpGLOは市販のもの(Clontech社製)を使用した。プラスミドpGLO上のgfp遺伝子(コード領域はpGLO上の部位1,343〜2,059)DNA断片を得るために、制限酵素NdeI(部位1,340)とSmaI(部位2,080)によりpGLOのDNAを切断し、gfp遺伝子を含むDNA断片をpAM500及びpAM461cのNdeI/SmaI部位に挿入し、それぞれpGFP500及びpGFP461cを作製した。
[実施例3]
シアノバクテリア形質転換株の作製及び単離
本発明者が構築した上記ベクターのシアノバクテリア中での機能を検証するため、実施例2で作製したGFPクローン化ベクターをシアノバクテリアに形質転換した。
シアノバクテリア、リムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株は、本発明者が(財)新技術開発財団植物研究園(静岡県熱海市相の原町11-8)敷地内より独自に単離したものを使用した(Nishizawa T, Hanami T, Hirano E, Miura T, Watanabe Y, Takanezawa A, Komatsuzaki M, Ohta H, Shirai M, Asayama M (2010) Biosci. Biotechnol. Biochem., 74:1827-1835)。シアノバクテリア、シネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803株(パスツール研究所(仏国、パリ)保存株)はかずさDNA研究所(千葉県木更津市かずさ鎌足2-6-7)より分譲された。
以降の実施例において、シアノバクテリア用培地は、BG11培地(Allen M (1968) J. Phycol. 4:1-4)又はCB培地(Shirai M, Matsumaru K, Ohtake A, Takamura Y, Aida T, Nakano M (1989) Appl. Environ. Microbiol. 55:2569-2571)を使用した。なお寒天培地として使用する場合は、寒天粉末(TaKaRa社製、LO3)を0.6%(w/v)になるように添加した。
シアノバクテリア細胞へのベクターの導入は、ヘルパープラスミドR751を用いた接合伝達法(Zinchenko VV, Piven IV, Melnik VA, Shestakov SV (1999) Russian J. Genetics 35:228-232)により行った。具体的には、実施例2で作製したベクターを保持する大腸菌、及び発現ベクターを宿主細胞内へ接合導入するよう働くヘルパープラスミドR751を保持する大腸菌、並びに宿主シアノバクテリアABRG5-3株(又はPCC6803株)の3種を混合し、最終濃度10μg/mlのクロラムフェニコールを含むBG11寒天培地に塗布した。翌日、寒天培地上の混合菌体をエーゼで掻き取り、再び新しいBG11寒天培地上に塗り広げ、単一のクロラムフェニコール耐性コロニー(TC株、transconjugant)を選抜した(図5D)。
[実施例4]
シアノバクテリア形質転換株における発現ベクターのコピー数及び安定性
各TCコロニーを回収し、BG11液体培地で徐々にスケールアップしながら純粋培養した後、細胞を遠心により回収し、ホットフェノール法により全DNAを回収した。TC株の全DNAを鋳型にして、VZ-F2プライマー(5'-CTGATGTTACATTGCACAAG-3'、配列番号9)及びVZ-Rプライマー(5'-ATGAAGGAGAAAACTCACCG-3'、配列番号10)(図2A)を用いてPCRを行った。このPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離させると、発現ベクターpGFP500(図5A及びC:+AU、AUボックスを有する)及びpGFP461c(図5A及びC:-AU、AUボックスを欠失している)の存在を示す1.4kbpのバンドが確認され(図5A及びCはそれぞれPCC6803株及びABRG5-3株での結果を示す)、2種類のシアノバクテリア細胞に実施例2で作製したpGFPベクターが形質転換されたことが示された。
発現ベクターの細胞内コピー数をサザンブロット法で確認した。pVZ321プラスミドDNAを鋳型とし、VZ-F2プライマー(配列番号9)及びVZ-Rプライマー(配列番号10)(図2A)を用いたPCRにより、本発現ベクターに特異的にハイブリダイズする812bpのプローブDNA断片を作製して用いた。全DNAを制限酵素HindIII及びXhoIで消化し、アガロースゲル電気泳動した後、上記プローブを用いたサザンブロットを行った結果、図5Bに示すように発現ベクターの存在を示す8.7kbpのバンドが確認された。
図5Bで示された単細胞性PCC6803 TC株のサザンブロットの解析結果より、本発現ベクターpGFPの一細胞当たりのコピー数を求めると約70個であることが判明した。ABRG5-3 TC株は糸状性細胞であるため、培養液単位体積当たりの細胞数を算出するのは難しいので正確なコピー数は求められなかったが、サザンブロットの結果は、PCC6803のそれとよく類似していた。
以上から、シアノバクテリアPCC6803及びABRG5-3宿主細胞内で、導入した発現ベクターが存在し維持されていることが確認された。ベクターの安定性に関する試験では、PCC6803 TC株を半年間クロラムフェニコール入りの液体培地で約500世代植え継ぎをした後、後述するGFPの蛍光顕微鏡観察を行ったが、ベクターの脱落等は無く、数%の蛍光強度の低下(視野50細胞で1細胞以内の蛍光強度の減少)が見られただけで、安定して維持されていた。
[実施例5]
発現ベクターの機能と外来遺伝子の発現の確認
上述のように、本発明者が構築した発現ベクターはシアノバクテリアPCC6803及びABRG5-3株に形質転換され、安定して維持されることが示された。次に、発現ベクター上の外来遺伝子(今回の場合はモデル遺伝子であるgfp)からの発現量について「RNAレベル」及び「タンパク質レベル」での解析を行った。
「RNAレベル」の解析結果を図6に示す。pGFP500又はpGFP461cを保持するPCC6803のTC株を、CB液体培地で白色蛍光灯(35μmol フォトン/m2/s)下、12日間振とう培養した後、さらに12時間の明条件/12時間の暗条件のL/Dサイクル照射培養した。この条件下で生育した細胞を回収し、全RNAを抽出後、gfp遺伝子特異的なプライマーgloGFP-Rプライマー(5'-GAATTGGGACAACTCCAGTG-3'、配列番号11)を用いたプライマー伸長法(Asayama M, Imamura S (2008) Nucleic Acids Res. 36:5297-5305)により、gfp遺伝子の転写産物mRNAの蓄積量を解析した。
その結果、pGFP500で形質転換したPCC6803株(図6:+AU)では、最初の明条件にしてから3時間後(3h_L)、15時間後(15h_D)、27時間後(27h_L)の細胞中でのgfp遺伝子mRNAは予想された転写開始点+1からなされ、蓄積量は明条件下(3h_L及び27h_L)で増加するものの暗黒条件下(15h_D)では殆ど観察されなかった。このことは、pGFP500のpsbA2遺伝子上流領域が、その下流に挿入されたgfp遺伝子の転写及び/又は蓄積を明暗照射に応答して制御していることを意味する。一方、pGFP461cで形質転換したPCC6803株(図6:-AU)では、明暗培養条件に関係なく恒常的にgfp遺伝子からmRNAが発現され、安定してmRNAが蓄積していることが示され、AUボックスの欠失により、外来遺伝子の恒常的な発現が行われることが確認された。
以上の結果を踏まえ、同様の条件下で培養したpGFP500で形質転換したABRG5-3株(図7:+AU)及びpGFP461cで形質転換したABRG5-3株(図7:-AU)において、3h_L時点に相当する細胞中でのgfp遺伝子mRNA蓄積量をリアルタイム(RT-)PCR及び定量リアルタイム(QRT-)PCRで解析した。形質転換株から抽出・精製したRNAを用い、RT-PCR法はGFP-Fプライマー(5'-CATATGGCTAGCAAAGGAGAAGAA-3'、配列番号12)及びGFP-RTプライマー(5'-TTTGTAGAGCTCATCCATGCCATG-3'、配列番号13)の組み合わせで、QRT-PCR法はGFP-Fプライマー(配列番号12)及びGFP-QRTプライマー(5'-GAGAAAGTAGTGACAAGTGTTG-3'、配列番号14)の組み合わせで行った(図7A)(Asayama M, Imamura S, Yoshihara S, MiyazakiA, Yoshida N, Sazuka T et al. (2004) Biosci. Biotechnol. Biochem. 68:477-487)。
その結果、RT-PCR(図7B)及びQRT-PCR(図7C)いずれの場合でも、明条件下でgfp遺伝子mRNA蓄積が確認され、その合成量は、pGFP461cで形質転換したABRG5-3株(-AU)の方がpGFP500で形質転換したABRG5-3株(+AU)よりも約5倍高かった。これらの結果は、PCC6803のTC株で得られたデータ(図6)とほぼ一致しており、発現ベクターの機能が単細胞性PCC6803のみならず、糸状性ABRG5-3株細胞においても発揮されることが明らかとなった。
次に、gfp遺伝子の「タンパク質レベル」での発現を以下のようにして確認した。pGFP500で形質転換したPCC6803株(+AU)及びpGFP461cで形質転換したPCC6803株(-AU)のTC株を白色蛍光灯(35μmol フォトン/m2/s)下、12日間振とう培養した後、細胞を回収し、全タンパク質を抽出した。これを12.5%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、GFP特異的ウサギ−ポリクローナル抗体(MBL社製)を使用してウエスタンブロット解析を行った。結果を図8に示す。pGFP500で形質転換したPCC6803株(+AU)では全タンパク質量の約1%、並びにpGFP461cで形質転換したPCC6803株(-AU)では約5%におよぶGFP(分子量30キロダルトン、kDa)の大量発現が確認された(図8B及びC)。この時、図8Aに示すGFP濃度マーカーのシグナル強度とPCC6803 TC株でのそれを比較し、GFPの分子数に換算すると、pGFP500で形質転換したPCC6803株(+AU)では1細胞当たり約94,000分子、pGFP461cで形質転換したPCC6803株(-AU)では約470,000分子が生産されていることが示された。この生産量の比率は、1:5であって、モデルgfp遺伝子のTC株での発現量が「RNAレベル」と「タンパク質レベル」で矛盾無く一致していることを示していた。ABRG5-3のTC株中で発現されるGFP分子数の正確な値は現在のところ不明であるが、後述する蛍光顕微鏡観察やABRG5-3自己溶菌細胞に含まれるGFP量から、PCC6803株の発現量と矛盾しない発現量が推測された。
[実施例6]
モデル遺伝子gfpのシアノバクテリア細胞内での大量発現
PCC6803及びABRG5-3のTC株で「タンパク質レベル」でのgfp遺伝子発現が確認されたので、蛍光顕微鏡によってGFP発現による細胞の発色を確認した。pGFP500で形質転換したPCC6803株(+AU)及びpGFP461cで形質転換したPCC6803株(-AU)をCB液体培地で白色蛍光灯(35μmol フォトン/m2/s)下、12日間振とう培養した後、細胞を回収し、以下の方法により、蛍光顕微鏡観察を行った。すなわち、所定の培養条件下で生育させた細胞を、落斜型蛍光顕微鏡(BX51/DP50, オリンパス社製)により、GFPタンパク質による発色を、U-MWIB2フィルター(励起フィルター460〜490nm;蛍光フィルター510nm)を用いて観察した。
結果を図9に示す(パネルA、C及びEは光学顕微鏡像;パネルB、D及びFは蛍光顕微鏡像)。図9のパネルB(PCC6803株、ベクターなし)と比較して、パネルD(pGFP500で形質転換したPCC6803株)及びF(pGFP461cで形質転換したPCC6803株)では緑色の発色が確認された。特にpGFP461cで形質転換したPCC6803株ではGFPの高発現による鮮やかな緑色細胞が観察された(図9、パネルF)。
次に、同様の培養条件下で生育させたpVZ321で形質転換したABRG5-3株(図10A及びB)とpGFP461cで形質転換したABRG5-3株(図10C及びD)の蛍光顕微鏡観察を行った。野生型のABRG5-3株は、もともと細胞内における光合成色素(クロロフィルa及びフィコシアニン)の蓄積量が高いことから、蛍光顕微鏡観察では鮮やかな赤色の自家蛍光を呈し(図10B)、これがバックグラウンドとなってGFPの緑発色の観察を妨げるが、パネルDに示すようにpGFP461cで形質転換したABRG5-3株でもGFP発現による発色が確認された。細胞による発色が不均一な理由として、赤色の細胞は細胞分裂直後から時間が浅い細胞で、GFP蓄積が不充分であることが推察された。
以上の結果から、PCC6803株及びABRG5-3株に、本発明者が構築したpGFPベクターを導入すると、GFP蛍光が観察できるほどの高いGFP発現量が達成されることが示された。
次に、GFPの緑発色が強いpGFP461cで形質転換したPCC6803株を用いて、培地の発色に対する影響を調べた。結果を図11に示す。図9と同様の培養条件で、BG11培地で生育させると、光合成色素の蓄積が多いかわりに(図11A、チューブa)、GFPによる緑発色効果が低かった(図11B、パネルa)。これは、図10Dに示すpGFP461cで形質転換したABRG5-3株を用いた場合の結果と矛盾しない。一方、CB培地で生育させると、蛍光顕微鏡では鮮やかな緑色を呈した(図11B、パネルd)。これらの結果より、GFP発現を観察する場合はCB培地の方がBG11培地よりも適していることが示唆された。BG11は窒素源としてNaNO3を豊富に含む培地なので、細胞内光合成色素(クロロフィルa及びフィコシアニン)蓄積量はCB培地よりも高い傾向にある。従って、目的産物の細胞内蓄積には、これら2種類の培地を使い分けることが有効で、例えばABRG5-3株細胞内にフィコシアニンなどを蓄積させる場合は、BG11培地の方が有利と考えられた。
[実施例7]
自己溶菌による光合成色素の生産及び回収
ABRG5-3株を用いた目的物質の生産と回収について、この株が持つ自己溶菌の特性に注目し、光合成色素フィコシアニン(phycocyanin、PC)の簡便回収が可能なことを以下のようにして確かめた。なおフィコシアニンは、青色素タンパク質で発色団として主にフィコシアノビリン(phycocyanobilin、開環したテトラピロール構造を持つビリン色素のフィコビリンの一種)を有しており、抗酸化・抗炎症作用を有する有用物質である。
実施例6の結果より、ABRG5-3株ではBG11培地による培養が、光合成色素を細胞内に効率良く蓄積させるのに有効である。また照射光は電力消費の少ないLEDを使用し、将来排気CO2ガスの再利用資源化も考慮に入れて、培養にはABRG5-3株をLED白色光(100μmol フォトン/m2/s)下、2%CO2ガスを供給しながら12日間振とう培養(第一段階目)した後、これを静置培養(第二段階目)に移すという二段階培養法にて自己溶菌を誘導した。自己溶菌したABRG5-3株細胞残渣と未溶菌ABRG5-3細胞の沈殿(沈殿画分)、及びフィコシアニンが放出された溶菌細胞の上澄画分を図12Aに示した。このようにして得られた上澄画分を分光光度計(GE6400、GEヘルスケア社製)を用いて波長スキャンを行った(図12B)。その結果、フィコシアニンの吸収ピークである616nm付近に主要なピークが観察された。以上の結果から、ABRG5-3株の自己溶菌能を利用して、フィコシアニンを非常に簡便に回収できることが確かめられた。
[実施例8]
自己溶菌による目的遺伝子産物GFPの生産及び回収
実施例7の結果を踏まえ、次に、発現ベクターにより大量生産された外来遺伝子産物GFPの回収を試験した。結果を図13に示す。実施例7と同様の条件で培養し、その後、自己溶菌したpGFP461cで形質転換したABRG5-3株の上澄画分を調製した。GFPタンパク質を濃縮するために、この上澄画分に、飽和硫安液を上澄画分の体積(ml)に対して等量添加し、氷上で30分間置いて塩析後、10,000gで10分間の遠心で沈殿を回収した。こうして硫安塩析した試料をバッファーに溶かし、12.5%SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動した後、ウエスタンブロットにより解析した。その結果、コントロールとして用いたpVZ321で形質転換したABRG5-3株(図13:Vec)からは29kDaの位置にシグナルは確認されなかったが、pGFP461cで形質転換したABRG5-3株(図13:-AU)の細胞残渣(図13:沈殿)及び上澄画分(図13:上澄)からはGFPの分子量に相当する29kDaの位置にシグナルが確認された。以上より、本発明者が構築したシアノバクテリア発現ベクターを用いて生産させた外来遺伝子産物GFPを、ABRG5-3株の本来有する自己溶菌能を利用することにより簡便に回収可能であることが示された。
[実施例9]
溶菌効率を改善する条件の検討
ABRG5-3株を用いた二段階培養法について、第二段階目の培養における培養条件又は培地組成を変化させることにより、溶菌効率を改善する誘導要因を検討した。なお以下の実験は、全て大気中(CO2濃度は0.4%)で行った。
(i)培養条件の変化
第二段階目の培養における、培養方法(振とう又は静置)、温度、明暗、照射光色(赤色又は青色)による効果について検討した(図14及び15)。全て培地はBG11培地に固定し、第一段階目において12日間振とう培養してから、第二段階目の培養を開始し、その10日後の培地濁度を溶菌の指標(溶菌が進むほど液体培地の菌体濁度は減少する)とした。第二段階目の培養10日目(培養開始から22日目)の菌体濁度(図14)の値について、30℃、白色光照射下、振とう培養(終始振とう培養)した場合のOD730値を各溶菌誘導ストレス条件下で培養した時のOD730値で割った数値を溶菌効率(=倍率)とした(図15)。
まず、培養方法については、30℃で白色光照射下における静置培養では、振とう培養と比較して1.6倍の溶菌効率であった(図14及び15:30℃ 白色 振とう及び30℃ 白色 静置)。この結果は、連続した振とう培養ではABRG5-3株の自己溶菌は起こりにくいという以前の知見と一致していた(Nishizawa T, Hanami T, Hirano E, Miura T, Watanabe Y, Takanezawa A, Komatsuzaki M, Ohta H, Shirai M, Asayama M (2010) Biosci. Biotechnol. Biochem., 74:1827-1835)。30℃、白色光照射下における静置培養でのABRG5-3細胞の自己溶菌の様子を光学顕微鏡で観察したところ、細胞同士の接着点に近い一つの部分から細胞内容物を吹き出す様にして細胞が崩壊している様子が伺えた(図14B)。以降の実験では、第二段階目の培養は静置培養で行った。
次に、光照射における波長(光質)効果について検討した(図14及び15)。青色光下(LED 470nm)では白色光下と同程度の溶菌効率が観察された(図14及び15:30℃ 青色 静置)。一方、赤色光下(LED 660nm)ではより高い溶菌効率が観察された(図14及び15: 30℃ 赤色 静置)。赤色光照射下の細胞を顕微鏡で観察したところ、白色光照射下で起こる溶菌の様子とは異なり、細胞表面全体から細胞内容液がじわりと滲み出すようにして起こっていることが明らかとなった(図14C)。植物の場合、赤色光は光合成能を高め生長を早くすることが一般的に知られているが、図14に示す結果からABRG5-3株を含むシアノバクテリアでは必ずしも生長速度を高めるのではなく、溶菌を促進する効果があることが示された。
次に明暗効果を検討したところ、30℃、暗黒条件下の静置培養では、白色光下、振とう培養と比べて20倍以上の大幅な溶菌効率の改善が観察された(図14及び15:30℃ 暗黒静置)。このことは、第一段階目の培養が終了した時点で培養物を暗所に静かに置いておくだけで極めて効率良く自己溶菌が起こることを意味している。従って、暗所での静置培養を用いる本方法は、目的物質の抽出コストを大幅に軽減できる画期的な技術である。
続いて、この結果を基に暗黒条件下における温度効果について検討したところ、温度が高くなるにつれて溶菌効率が改善することが明らかとなった(図14及び15:4℃ 暗黒静置、22℃ 暗黒 静置及び30℃ 暗黒 静置)。42℃では30℃と比べてさらに溶菌効率は高くなった(30℃、白色光、振とう培養と比べて約30〜40倍)。この結果は、室温又はそれ以上の高温で効率良く溶菌が誘導されることを意味している。
さらに図14の結果から、特に暗黒条件や赤色光照射下では溶菌の度合いだけでなく、溶菌にかかる時間が他の条件に比べて早いことから、目的物質製造にかかる時間の短縮も可能となることがわかった。
(ii)培地組成の変化
第二段階目の培養において、窒素又はリン欠乏(ストレス要因)による溶菌誘導効果について検証した(図16)。「(i)培養条件」の項ではBG11培地には手を加えていなかったが、BG11培地はCB培地に比べて培地組成中の窒素(N)源やリン(P)源を制限するのに適した培地であるため、BG11培地を改変して窒素又はリン欠乏培地として用いた。
窒素欠乏については、第一段階目の培養をBG11培地で12日間行った後、第二段階目の培養へ移行する前に一旦遠心分離により菌体を集菌し、新しいBG110液体培地(BG11培地からNaNO3を抜いたもの)に再接種して(培養0日目)第二段階目の培養を行った(図16A)。30℃、白色光照射条件下、第二段階目の培養において培地をBG11(窒素源有、+N)にしたものと比較すると、BG110培地(窒素欠乏、-N)で培養した場合、数日間は菌体濁度にあまり差は見られないが、9日目を過ぎた辺りから徐々に濁度の低下が認められ、21日目辺りでその差が最大になった(図16A)。その時の細胞を光学顕微鏡で観察したところ、窒素欠乏培地では色抜けが起こり、溶菌が進行していた(図16B)。
一方、リン欠乏に関しては、BG11培地(+P)からK2HPO4を全部抜いたもの(-P)と、10分の1の濃度にしたもの(+1/10P)を作製し、この培地で最初から(第一段階目の培養から)ABRG5-3株細胞を培養した(図16C)。この場合、リンが完全に欠乏すると生育そのものが止まってしまい培地濁度は低い値になった。リン濃度が10分の1に抑えられたBG11では生育は確認されたが、培養開始から6日目で既に培地濁度は低下し、大半の細胞が溶菌した(図16D)。
以上をまとめると、窒素やリン源の欠乏又は低減によってABRG5-3株細胞の溶菌が誘導されることが明らかとなった。藻類でバイオ燃料原料となる脂肪酸や炭化水素を細胞内に蓄積させる方法の一つとして、培地中の窒素欠乏を誘導条件とする場合がある。図16Aの結果は、窒素欠乏培地中でもABRG5-3細胞は数日間は溶菌しない状態であることを示す。その間にバイオ燃料原料を細胞内に蓄積させ、その後溶菌によりバイオ燃料原料を培地中に放出させることで、効率良く回収できることが示された。
次に、CB培地にNaClを添加して、ABRG5-3株細胞の塩ストレスによる溶菌の誘導について試験した(図17)。第一段階目の培養開始9日目の液体培地に、最終濃度の10倍濃度のNaClを含むCB培地を9分の1容添加し、第二段階目の静置培養(30℃白色光下)を行った。その結果、最終濃度80mMのNaCl添加で培地濁度の減少が観察された(図17A)。この培地中では、淡水から単離された糸状性シアノバクテリアのアナベナ・エスピー(Anabaena sp.)PCC7120株(パスツール研究所(仏国、パリ)より入手)、及び淡水から単離された塩耐性能を有する単細胞性のシアノバクテリアの代表種であるシネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803株(いずれも自己溶菌能を有さない)では生育阻害は見られず(図17B、NaCl添加後72時間目)、高塩濃度下でABRG5-3株の溶菌が増大することが示唆された。塩ストレス下のABRG5-3細胞を光学顕微鏡で観察したところ、色褪せと溶菌が起こっていることが確認できた。これらの結果から、ABRG5-3株細胞の溶菌効率を高める要因として塩ストレスが有効であることが明らかになった。
続いて、培地にショ糖溶液を添加して、ABRG5-3株細胞の浸透圧ストレスによる溶菌の誘導について試験した(図18)。第一段階目の培養開始9日目の液体培地に、最終濃度の10倍濃度のショ糖を含むCB培地を9分の1容添加し、第二段階目の静置培養(30℃白色光下)を行った。その結果、ショ糖添加により培地濁度の減少が観察された(図18)。このことから、ABRG5-3株細胞の溶菌効率を高める要因として浸透圧ストレスも有効であることが明らかになった。
以上の結果をまとめると、自己溶菌能を有するシアノバクテリアの溶菌を効率良く誘導する培養条件としては、第一段階目の振とう培養から第二段階目の静置培養への移行が必要であることが示された。温度は4℃などの低温に比べて約20℃以上の高温の方が溶菌効率は高かった。また、白色光よりも赤色光照射の方が溶菌効率は高く、暗黒条件が最適であった。培地組成として塩ストレス、浸透圧ストレス又は窒素やリンの栄養欠乏も溶菌の要因となり得ることが明らかになった。これらの培養条件や培地組成を組み合わせて変化させることで、溶菌を相乗的な効率で誘導させることが可能になった。
[実施例10]
遺伝子組換え技術を用いたバイオ燃料生産藻の作製と生産されたアルカンの組成分析及び生産量の検証
実施例1で作製した発現ベクターpAM461cにシネコシスティス・エスピーPCC6803株由来のアルカン合成酵素遺伝子群sll0208(アルデヒドデカルボニラーゼに相当、塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号15及び16に示す)とsll0209(アシル-ACPリダクターゼに相当、塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号17及び18に示す)を同時にクローン化し、これを自己溶菌能を有するリムノスリックス/シュードアナベナ・エスピーABRG5-3株に導入することによって形質転換体を作製し、効率良くヘプタデカン(重油と軽油の中間的物質)を生産する系を構築しようと試みた。なお、発現ベクターの機能の汎用性を試験するため、そして実験系の信頼性を高めるために上記組換え発現ベクターをPCC6803株にも平行して導入し、ABRG5-3株と生産能を比較することにした。
(i)アルカン合成酵素遺伝子群を組み込んだ発現ベクターの構築
アルカン合成酵素遺伝子(sll0208/sll0209)群はゲノム上では隣接しているので、2つの遺伝子を一度にPCR増幅し、約2キロ塩基対(kbp)のDNA断片(配列番号19)として得ることが可能である。PCR増幅は、PCC6803株のゲノムDNAを鋳型として、6803ALKinfusion-Fプライマー(5’-GAAATTATCCACATATGCCCGAGCTTGCTGTCCGC-3’、配列番号20)及び6803ALKinfusion-Rプライマー(5'-AAGCTTTTACTACCCGGGCTAAAGAGCTACTAAAG-3'、配列番号21)、4種類のデオキシNTPs並びにLA-taq DNAポリメラーゼ(TaKaRa社製)を含む反応液(25μl)中で行った。PCRの反応条件は、94℃で2分間予備反応後、94℃で30秒/55℃で30秒/68℃で150秒のサイクルを35回繰り返し行い、最後に68℃で3分間反応を行った。この反応液から目的のDNA断片を回収し、予め制限酵素NdeIとSmaIで切断してから回収しておいた約9.2kbpサイズのpAM461cベクターDNA断片と混合し、組換え酵素キット(Clontech/TaKaRa社製、In-Fusion HD cloning kit)を使用してDNA断片同士を融合させ環状化させた。環状化したプラスミドベクターを大腸菌NEB10-beta(New England Biolabs社製)に形質転換した。組換え発現ベクターを保持するコロニーを、クロラムフェニコールを最終濃度で25μg/ml含む寒天培地で選抜した。こうして得られたクロラムフェニコール耐性大腸菌を培養して、プラスミドDNAを抽出し、組換え発現ベクターが構築されていることを確認した。この組換え発現ベクターをpTM_ALK11と命名した。
pTM_ALK11上にクローン化されたsll0208/sll0209遺伝子群の塩基配列を確かめたところ、オペロンの先頭に位置するsll0208遺伝子の開始コドンATGのA(アデニン)を1位として1845位(すなわちsll0209遺伝子の931位)のT(チミン)塩基がC(シトシン)塩基に置換していた。この変異は、sll0209遺伝子がコードする酵素(AAR)の311位のアミノ酸がセリンからプロリンに変化することを意味する。本実施例ではこのpTM_ALK11を使用してアルカン合成酵素遺伝子の導入を行った。なおpTM_ALK11上にクローン化されたsll0209遺伝子の塩基配列を配列番号22に、それによってコードされる酵素(AAR)のアミノ酸配列を配列番号23に示す。
(ii)アルカン合成酵素遺伝子導入形質転換体の作製
pTM_ALK11を保持する大腸菌NEB10-betaを用いて接合伝達法(実施例3を参照)によりシアノバクテリアPCC6803株又はABRG5-3株細胞にpTM_ALK11ベクターを導入した。シアノバクテリア形質転換体(TC, transconjugant)の選抜は、クロラムフェニコールを最終濃度で8μg/ml含むBG11寒天培地上で行った。クロラムフェニコール耐性コロニーを選抜し、BG11液体培地で徐々にスケールアップしながら純粋培養した後、TC株細胞を遠心により回収し、ホットフェノール法により全DNAを回収した。この全DNAを鋳型として、前述のVZ-F2プライマー(5'-CTGATGTTACATTGCACAAG-3'、配列番号9)及びVZ-Rプライマー(5'-ATGAAGGAGAAAACTCACCG-3'、配列番号10)(図2A)を用いてPCRを行った。このPCR産物をアガロースゲル電気泳動で解析するとsll0208/sll0209遺伝子群のサイズ(約2kbp)とその両側のプライマーの位置までのサイズ(0.75kbp)を合わせた約2.8kbpのサイズに相当する位置にバンドが確認され、pTM_ALK11を保持するシアノバクテリアPCC6803とABRG5-3のTC株の取得に成功したことが示された。それぞれの形質転換株を6803_ALK11、5-3_ALK11と名付けた。
(iii)シアノバクテリアでのアルカン生産
6803_ALK11株及び5-3_ALK11株でのアルカン生産を確認するため、Nile Red染色による蛍光顕微鏡観察を行った。Nile Redは、炭化水素を蓄積する細胞を染める染色剤として一般的に知られている。それぞれのTC株をクロラムフェニコールを最終濃度で8μg/ml含むBG11液体培地で30℃白色光照射下で約14日間振とう培養した後、この菌体培養液の一部を、通常のBG11液体培地からNaNO3を抜いたBG110培地(6803_ALK11株用)、又は5分の1量に減らしたx1/5N_BG11液体培地(5-3_ALK11株用)に対し10分の1容添加し、大気中又は2%CO2ガス供給下(トミー社製 CF-415 インキュベーター内)、50rpmで9日間レシプロ振とう培養(本培養)した。この方法によるTC株細胞内でのアルカン生産の鍵は、BG11培地から窒素源を枯渇又は減少させることによって、細胞の代謝系を窒素代謝(アミノ酸合成)の流れから脂肪酸や炭化水素の合成系へ効率良く切り替える点にある。なお、脂肪酸や炭化水素合成をより効率的に行わせるために、上記BG110培地及びx1/5N_BG11液体培地には酢酸ナトリウムを最終濃度で10mM添加した(3Mの酢酸ナトリウム pH 7を50mlの培地に対して170μl添加した)。上記方法で調製した1mlの菌体培養液に対して1mMのNile Red染色剤を最終濃度10μMになるよう10μl加え、蛍光顕微鏡観察に供した。顕微鏡はオリンパス社のBX53/DP72を使用し、光学フィルター(BF)と青色蛍光フィルター(BW:励起フィルター460〜495nm;蛍光フィルター510nm)を用いた。観察の結果、5-3_ALK11株菌体(培養液)でアルカンと思われる物質の生産・蓄積が認められた(図19A及びB)。6803_ALK11株でも、同様にアルカンと思われる物質の生産・蓄積が確認された。
(iv)生産されたアルカンの組成分析と生産量
上記(iii)項に記載した条件で培養した6803_ALK11株及び5-3_ALK11株細胞を回収し、以下の方法で炭化水素を抽出してGC-MS(ガスクロマトグラム-マススペクトル)分析に供し、目的とするアルカン(ヘプタデカン、C17H36、分子量240)が最終産物として生産されているか検証した。
50mlの液体培地から遠心分離により菌体を回収し、凍結乾燥した。菌体乾燥重量は、後でアルカンの生産量を算出するために、この時点で測定しておいた。重量測定後の乾燥菌体を2ml容のスクリューチューブに注意深く移した。その後、微小スリコギ棒を使用して菌体を粉々に破砕した。これに抽出溶媒約50μl(ヘキサン:酢酸エチル:2-プロパノール = 1:1:1)を少しずつ添加しながら、引き続き微小スリコギ棒を使用して充分に菌体をすり潰した。充分にすり潰した後、さらに抽出溶媒を添加し、合計1.5mlとした。これをローテーターに取り付け、約1時間撹拌した。この試料を遠心(7,000rpm、10分間)し、上澄抽出液を新しい2ml容のマイクロチューブに移し、容量が1ml未満の場合は、酢酸エチルを加えて全容が1mlとなるようにした。ここでGC-MS分析の際、内標準物質となるエイコサン(C20H42、分子量282)の保存液(10,000ppm)を2μlとって試料に添加し、1サンプル当り最終濃度が20ppmとなるように調製した。これに5%(w/v)のNaCl水溶液を等量(1ml)添加し、上下に撹拌して混合して洗浄した。静置後、二層分離した上層を回収した。このNaCl水溶液添加による洗浄を合計3回繰り返した。この試料をエバポレーターに供し、濃縮乾固させた。乾固後、試料に酢酸エチルを0.5ml添加し、充分溶かした。このうち、1μlをスプリットレスインジェクションモードによりGC-MS分析に供した。
GC-MS分析は、GC関連がAgilent Technology社製の6890N Network GC system、MS関連が日本電子社製 JMS-GC mate II/B GC MSシステムを利用した。このシステムでは、キャピラリーガスにヘリウム(1ml/min)を用い、インジェクターの温度を250℃、カラム(phenomenex社製 ZB-5MS、7HG-G010-11、長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25mm)の温度は最初に100℃で1分間保持し、その後1分間につき5℃ずつ上昇させて150℃にし、そこから1分間に10℃ずつ上昇させて250℃にしてから15分間保持した。
図20にGC-MS分析の結果を示し、この結果に基づいて算出したアルカンの生産量を表1にまとめた。
Figure 0005688665
GC-MS分析の際、予備実験として標準品(ペンタデカン:C15H32、ヘプタデカン:C17H36、ナノデカン:C19H40、エイコサン:C20H42の4種類、これらはいずれもSigma-Aldrich社製)を供して保持時間(Retention Time)を確認すると、それぞれ11.10分、14.55分、17.07分、18.15分の位置にピークを確認した。このデータをもとに、PCC6803株(図20A及びB)とABRG5-3株(図20C及びD)から調製した試料を分析した。
PCC6803株の場合、野生株では14.58分と18.15分の位置に相対比1.91で2つの主要なピークが観察され、それぞれヘプタデカン(C17H36)と内標準物質であるエイコサン(C20H42)であった(図20A、表1)。この結果は、PCC6803野生株細胞においても窒素飢餓状態の培養条件に晒すと菌体乾燥重量当り約12%(w/w)のヘプタデカンを生産することを意味している(図20A、表1)。これに対し、本実施例の上記(ii)項で作製された遺伝子組換株6803_ALK11(アルカン合成酵素遺伝子導入株)では、14.58分と18.17分の位置に相対比9.01で2つの主要なピークが観察され、これをもとにヘプタデカンの蓄積量を計算すると菌体乾燥重量当り約60%であった(図20B、表1)。つまり、sll0208/sll0209遺伝子群を発現ベクター上に保持する形質転換株では生産量が野生株と比較して約5倍(61.6%/12.1%)増産されていた(図20B、表1)。
一方、ABRG5-3株の場合、野生株では14.57分と18.15分の位置に相対比0.68となる2つの主要なピークが観察され、PCC6803株の場合と同様にそれぞれヘプタデカン(C17H36)と内標準物質であるエイコサン(C20H42)であった(図20C、表1)。この結果は、ABRG5-3野生株細胞においても窒素飢餓状態の培養条件に晒すと菌体乾燥重量当り約7%(w/w)のヘプタデカン生産能を有することを示している(図20C、表1)。これに対し、遺伝子組換え株5-3_ALK11では、14.60分と18.17分の位置に相対比4.50で2つの主要なピークが観察され、これをもとにヘプタデカンの蓄積量を計算すると菌体乾燥重量当り約50%であった。つまり、遺伝子組換え藻では生産量が野生株のそれと比較して約7倍(51.4%/7%)増産されていた(図20D、表1)。
以上の結果から、アルカン合成酵素遺伝子を含む本発明の発現ベクターのシアノバクテリアへの導入は、アルカン合成を顕著に増加させることが示された。本発明により、遺伝子組換えシアノバクテリアを用いてバイオ燃料原料を高効率に製造する新技術が確立された。
本発明のシアノバクテリア発現ベクターは、様々なシアノバクテリア細胞内で外来遺伝子を高効率に発現させることができる。本発明のシアノバクテリアを用いた物質製造方法では、シアノバクテリアの光合成能に注目して、例えば工場などから排出される排気CO2ガスをその培養に有効利用し、有用有機物質(例えば、バイオ燃料、生分解性プラスチック及び薬物)を生産するという次世代型のCO2再利用資源化へ応用することができる。特に、本発明の発現ベクターを用いれば、シアノバクテリアにバイオ燃料原料を効率的に生産させることができるため、化石燃料に依存する我が国の状況を打開する一助となり得る。加えて、本発明の自己溶菌能を有するABRG5-3株を用いれば、バイオ燃料の抽出、回収工程のコストを大幅に削減することができる。
FERM P-22172
配列番号2〜4:合成DNA
配列番号7〜14、20及び21:プライマー

Claims (7)

  1. アノバクテリア形質転換体を培養し、外来遺伝子を発現させ、自己溶菌を誘導することを特徴とする、シアノバクテリアを用いた物質製造方法であって、
    前記シアノバクテリア形質転換体が、シアノバクテリア発現ベクターを、受託番号FERM P-22172を有するリムノスリックス/シュードアナベナ・エスピー(Limnothrix/Pseudanabaena sp.)ABRG5-3株又は自己溶菌能を有するその変異体であるリムノスリックス/シュードアナベナ属シアノバクテリアに導入して得られるものであり、
    前記シアノバクテリア発現ベクターは、配列番号1に示される塩基配列からなるpsbA2遺伝子上流領域の、ATボックス配列を含む塩基配列を欠失し、かつ転写活性を有する変異型領域と、外来遺伝子とを含み、
    自己溶菌の誘導は、前記シアノバクテリア形質転換体を培地を連続的にかき混ぜながら培養した後、静置培養することによって行い、静置培養は、(i)暗所で行うか、又は(ii)赤色光の照射下で行う、
    方法
  2. 前記外来遺伝子が、配列番号16で示されるアミノ酸配列をコードするsll0208遺伝子及び配列番号23で示されるアミノ酸配列をコードするsll0209遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記静置培養を20〜50℃の温度条件下で行う、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記外来遺伝子から生成されたタンパク質又は該タンパク質の活性により生成された物質を回収することをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記外来遺伝子が、炭化水素合成酵素遺伝子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記炭化水素合成酵素遺伝子が、アルカン合成酵素遺伝子である、請求項に記載の方法。
  7. 前記形質転換体により生産されたアルカンを回収することをさらに含む、アルカン製造方法である、請求項に記載の方法。
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