JP5666792B2 - コーヒー飲料用添加剤及びコーヒー飲料 - Google Patents

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Description

本発明は、イソ吉草酸エチルを有効成分として含むコーヒー飲料用添加剤に関し、特にレトルト殺菌あるいはUHT殺菌を行って製造される容器詰めコーヒー飲料の風味を増強しうるコーヒー風味増強剤に関する。また、本発明は、イソ吉草酸エチルを特定量含有する、コーヒー風味が増強されたコーヒー飲料及びその製造方法に関する。
コーヒーは、焙煎されたコーヒー豆を、コーヒーミル等で挽いた後、ドリップ式、サイフォン式等の方法により、熱水又は水で抽出することにより得られる。抽出直後のコーヒーは香り高く美味であるが、コーヒーの香り、風味はとても繊細、不安定なものであり、抽出直後の香り、風味は時間の経過とともに変化していき、長時間保持できるものではない。工業的なコーヒー飲料の製造ではコーヒー豆と加熱水が接触する時間が長く、また、保存のために加熱殺菌がなされることから、コーヒーの重要な香りが消失し、風味も大きく変化する。そのため、工業的に製造される容器詰めコーヒー飲料は、家庭等で淹れたレギュラーコーヒーと香りや風味の点で顕著な差があった。
そこで、レギュラーコーヒーの味わいを、缶等に充填された容器詰め飲料で実現するための工夫が種々提案されている。例えば、L−アスコルビン酸及び炭酸アルカリ金属塩を添加することによりコーヒー抽出液の酸化を抑制し風味安定化を図る方法(特許文献1)、ルチン、ローズマリー抽出物、セージ抽出物及び/又はクエン酸ナトリウムを添加することによりコーヒー抽出液の品質を安定化する方法(特許文献2)、糖類の少なくとも一部としてトレハロースを用いることで、加熱殺菌後、pHが変化せず、低甘味で、香味がよく、コーヒー豆のえぐみが残らず、すっきりとした後味の缶コーヒーを得る方法(特許文献3)、ペプチド及び/又はアミノ酸から選ばれた1種又は2種以上の混合物とトコフェロール及びポリフェノールを含有させて、コーヒー抽出液の風味を安定化する方法(特許文献4)、L−ヒスチジン塩酸塩をコーヒー飲料に対し0.01〜1.5重量%添加したことを特徴とする、レトルト臭やイモ臭などの異風味を改善した加熱殺菌処理コーヒー(特許文献5)などがある。また、コーヒー豆を一旦高温(50℃〜90℃)の温水にて抽出した後に、低温水(0℃〜40℃)にて抽出する2段階抽出法により、味および香りに優れた良質のコーヒー飲料を得る方法(特許文献6)など、抽出条件や殺菌条件等の製造条件を工夫することにより工業的なコーヒー飲料の風味を向上させる工夫も試みられている。
さらに、コーヒー風味を増強しうるコーヒー飲料用添加剤も開発されている。例えば、焙煎し粉砕されたコーヒー豆を、水−エタノール混合溶媒を用いて、10〜40℃において、10〜60日間抽出して得られる抽出液からなり、飲料用コーヒーベースに添加して優れた香り、味、コク、苦味、後切れを付与することができる、コーヒー飲料等及び乳飲料の味覚向上剤(特許文献7)がある。
一方、イソ吉草酸エチル(Ethyl Isovalerate)は、リンゴの香りの様な果実様の芳香があり、シトラス香料など香料用途として食品に添加することが知られている(特許文献8)が、コーヒーの風味を増強する作用を有することは知られていない。
特公平6−28542号公報 特公平6−75470号公報 特開平8−298932号公報 特開2002−119210号公報 特開2005−137266号公報 特開平6−70682号公報 特開2003−116464号公報 特開2005−15686号公報
上記のとおり、工業的に製造されるコーヒー飲料、特にUHT殺菌やレトルト殺菌等の加熱殺菌処理が施されるコーヒー飲料において、種々の風味改善方法が開示されているが、いずれもレギュラーコーヒーと香りや風味の点で顕著な差があり、満足しうるものには至っていない。また、コーヒーの香り以外の問題、例えば添加した物質の味が最終製品の味に影響を及ぼすという問題や、製造工程が煩雑となり実用的でないといった問題があった。
本発明の目的は、コーヒー飲料の味に影響を及ぼすことなく、コーヒー飲料の風味を向上しうる添加剤や、風味が向上されたコーヒー飲料を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、経時的変化を受けやすいコーヒーの香りが、果実様の芳香をもつイソ吉草酸エチルをコーヒー飲料にごく微量添加することで、コーヒーの風味を変えずに香りを長時間保持できることを見出した。そして、この作用は、UHT殺菌やレトルト殺菌等の加熱処理が施され、常温で長期間保存される容器詰めコーヒー飲料に対しても有用であり、熱の影響で消失及び劣化しやすいコーヒーの香気成分とイソ吉草酸エチルとを共存させることで、加熱前後又は保存前後における風味の低下を抑制できることを見出した。
また、長期間の保存のために使用するpH調整剤や乳化剤は、コーヒーが本来持つほのかな酸味や味わいを阻害するという問題を有していたが、イソ吉草酸エチルを特定量含有させたコーヒー飲料は、驚くべきことに、pHが中性領域に調整されたコーヒー飲料や乳化剤を添加したコーヒー飲料においても、レギュラーコーヒーに近いコーヒーが本来持つほのかな酸味や味わいを実現できることを確認し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下のものに関する。
1.イソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含むコーヒー飲料用添加剤。
2.コーヒー風味増強剤である、1に記載の添加剤。
3.UHT殺菌又はレトルト殺菌処理される容器詰めコーヒー飲料のための、1又は2に記載の添加剤。
4.イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、1〜3のいずれかに記載の添加剤。
5.イソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含有し、飲料全体に対するイソ吉草酸エチルの割合が0.1ppb〜25ppbである、コーヒー飲料。
6.UHT殺菌又はレトルト殺菌処理された容器詰めコーヒー飲料である、5に記載のコーヒー飲料。
7.乳化剤を含有する、5又は6に記載のコーヒー飲料。
8.pHが5.1〜7.0である、5〜7に記載のコーヒー飲料。
9.イソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含有せしめ、高温殺菌工程に付すことを含む、コーヒー飲料の製造方法。
10.イソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を添加することにより、コーヒー飲料のコーヒー風味を増強する方法。
本発明のイソ吉草酸エチルを含有するコーヒー飲料は、時間や熱の影響を受けにくいので、レトルト殺菌のような過酷な加熱殺菌で製造される容器詰めコーヒー飲料でありながら、レギュラーコーヒーのような香り高いコーヒー飲料が得られる。また、この容器詰め飲料は、開栓後における酸素等の影響も受けにくいので、飲み始めから飲み終わりまで、一定の風味を楽しむことができる、すなわち開栓直後のドリンカビリティを維持するという特徴もある。
さらに、本発明のコーヒー飲料は、保存性向上の目的でpHが中性領域(pH5.1〜7.0程度、好ましくはpH5.5〜7.0程度、より好ましくはpH6.0〜6.5程度)に調整された場合や、乳化剤が添加された場合であっても、これらpH調整剤や乳化剤の影響を受けにくく、香り高いコーヒー飲料として提供されるものである。
本発明の有効成分であるイソ吉草酸エチルをミルク入りコーヒー飲料に添加した場合には、コーヒーの風味を増強するだけでなく、ミルク由来のオフフレーバー(乳加熱臭や酸化臭)をマスキングし、ミルクのコク味を当該飲料に付与するので、ミルク入りコーヒー飲料は、本発明の好適な態様の一つである。
コーヒー飲料
本明細書でいう「コーヒー飲料」とは、コーヒー分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造される飲料製品のことをいう。製品の種類は特に限定されないが、1977年に認定された「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」の定義である「コーヒー」「コーヒー飲料」「コーヒー入り清涼飲料」が主に挙げられる。また、コーヒー分を原料とした飲料においても、乳固形分が3.0重量%以上のものは「飲用乳の表示に関する公正競争規約」の適用を受け、「乳飲料」として取り扱われるが、これも、便宜上、本発明におけるコーヒー飲料に含まれるものとする。
ここで、コーヒー分とは、コーヒー豆由来の成分を含有する溶液のことをいい、例えば、コーヒー抽出液、すなわち、焙煎、粉砕されたコーヒー豆を水や温水などを用いて抽出した溶液が挙げられる。また、コーヒー抽出液を濃縮したコーヒーエキス、コーヒー抽出液を乾燥したインスタントコーヒーなどを、水や温水などで適量に調整した溶液も、コーヒー分として挙げられる。
なお、本明細書中、乳成分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造されるコーヒー飲料を、「ミルク入りコーヒー飲料」と表すこともある。ここで、乳成分とは、コーヒー飲料にミルク風味やミルク感を付与するために添加される成分を指し、主に乳、牛乳及び乳製品のことをいい、例えば、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料などが挙げられ、乳製品としては、クリーム、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、調整粉乳などが挙げられる。
コーヒー飲料用添加剤
本発明のコーヒー飲料用添加剤は、イソ吉草酸エチルを有効成分として含有する、コーヒー風味増強剤である。有効成分であるイソ吉草酸エチル(Ethyl Isovalerate)(別名:Butanoic acid 3-methyl- ethyl ester、Butyric acid 3-methyl- ethyl ester、Isovaleric acid ethyl esterとも表記される)は、下記式(I)
Figure 0005666792
で示される化合物であり、パイナップル、イチゴ、柑橘類等の果実に存在する化合物である。本発明のコーヒー飲料用添加剤には、このようなものを含む植物から公知の方法を含む任意の方法で抽出したイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物をそのまま用いることもできるし、当該抽出物中のイソ吉草酸エチルを濃縮又は精製して得られるイソ吉草酸エチルの濃縮物又は精製物を用いることもできるが、果実抽出物をそのままコーヒー飲料に添加すると、果実の風味がコーヒー飲料に影響を及ぼすことがあるので、イソ吉草酸エチルを果実抽出物として用いる場合には、イソ吉草酸エチルの濃縮物又は精製物を用いるのが好ましい。
また、本発明者らは検討により、醗酵処理を施したコーヒー豆に、イソ吉草酸エチルが含まれることを確認している。醗酵処理をしていないコーヒー生豆やそれを焙煎したコーヒー豆、或いは市販のコーヒー飲料でイソ吉草酸エチルが含まれるものは見出されなかったことから、イソ吉草酸エチルは、醗酵処理を施すことによって特異的に生成される化合物であるといえる。ここで、醗酵処理を施したコーヒー豆(以後、「醗酵コーヒー豆」という)とは、収穫されたコーヒー果実に対して微生物の働きを利用した何らかの醗酵に基づく加工を施して得られるものであり、以下の方法で検出できる濃度のイソ吉草酸エチルを含有するコーヒー豆(焙煎コーヒー豆を含む)をいう。
(コーヒー豆中のイソ吉草酸エチルの検出方法)
まず、コーヒー生豆5gを中挽きで粉砕した後、蒸留水50mLを加えて水蒸気蒸留し、留液100mLを得、その留液を分液ロートに入れ、塩化ナトリウム25g及びジエチルエーテル50mLを加え、20分間振とうする。ジエチルエーテル層を回収し、水層のみ分液ロートに入れ、再度、ジエチルエーテル50mLを加え、20分間振とう後、ジエチルエーテル層のみ回収する。得られたジエチルエーテル層計100mLを分液ロートに戻し、蒸留水50mLで分液ロートを共洗いした後、ジエチルエーテル層のみ回収し、硫酸ナトリウム30gを加え、脱水を行い、KD(クデルナーダーニッシュ)濃縮法により1mLまで濃縮した後、GC−MSに導入してイソ吉草酸エチルを検出する。GC−MS条件は以下の通り。
<GC-MS条件>
・装置:Agilent社製 6890N(GC)+5973inert(MS)
・カラム:GERSTEL社製 MACH HP-INNOWAX(10m*0.20mm*0.20μm)
・カラム温度 :40℃(3min)-50℃/min-250℃(10min)
・キャリアガス:He
・注入口温度:250℃
・トランスファーライン:250℃
・イオン源温度:230℃
・Scan Parameter:m/z=35〜350
・SIM Parameter :m/z=70,88,102
醗酵コーヒー豆は、例えば以下のいずれかの方法で得ることができる。
1)収穫後のコーヒー果実に微生物を接触させて醗酵させた後、水洗式又は非水洗式に脱穀(精製)する方法。
2)収穫後のコーヒー果実を天日又は機械で乾燥させた後、微生物を接触させて醗酵させ、水洗式又は非水洗式に脱穀(精製)する方法。
3)収穫後のコーヒー果実を天日で乾燥させるとともに微生物醗酵させ、脱穀(精製)する方法。
4)収穫したコーヒー果実を果肉除去機に入れて果肉を除去した後、水槽に入れてパーティメントに付いた粘液を取り除くとともに、資化成分を添加して微生物醗酵させ、その後天日又は機械で乾燥させ脱穀する方法。
微生物の接触は人為的な添加によって行ってもよいし、果実表面等に付着している微生物を利用して行ってもよい。人為的に微生物を接触させる場合、その微生物としては、ワイン醗酵用酵母(例えば、サッカロマイッセス(Saccharomyces)属セレビシアエ(Cerevisiae)種のLalvin L2323株(セティカンパニー社)やCK S102株(Bio Springer社)、サッカロマイッセス(Saccharomyces)属のバイヤヌス(bayanus)種の酵母等)、ビール醗酵用酵母、パン用醗酵酵母などの酵母、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、オエノコッカス属(Oenococcus)などの乳酸菌、清酒用麹菌、焼酎用麹菌、みそ用麹などのコウジカビ(麹菌)、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物(不完全菌類)などが挙げられる。ゲオトリクム属に属する微生物としては、ゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)、ゲオトリクム レクタングラタム(Geotrichum rectangulatum)、ゲオトリクム クレバニ(Geotrichum klebahnii)、ゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)が例示でき、特にゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)SAM2421(国際寄託番号:FERM BP-10300)又はその変異体が好適である。これらゲオトリクム属に属する微生物は、コーヒー果実から単離して得ることができる。
微生物の接触は、コーヒー果実に微生物を噴霧又は散布したり、微生物を含む懸濁液にコーヒー果実を浸漬させたりして行うことができる。醗酵条件は選択した微生物に応じて適宜選択すればよい。
上記のとおり、コーヒー果実には、ゲオトリクム属に属する微生物やサッカロマイッセス属に属する微生物が存在しうるので、微生物を接触させる等の人為的な微生物醗酵を行わなくても、ゲオトリクム属やサッカロマイッセス属に属する微生物の働きを制御して醗酵させることによって醗酵コーヒー豆を得ることもできる。
コーヒー果実の産地は、イエメン、ブラジルなど収穫時期が乾季で雨の心配のない場所と、中南米、アフリカ、アジアなど湿度が高く天日での乾燥に時間を要する場所とがある。イエメン、ブラジルなどでは、上記1)2)4)等(好ましくは、上記1)又は2))の方法にて人為的に醗酵コーヒー豆を製造することができるし、中南米、アフリカ、アジアなどでは、人為的な醗酵コーヒーの製造に加えて、上記3)のように、収穫後の果実を天日で乾燥させながら、果実表面に付着した微生物を利用して醗酵させ、醗酵コーヒー豆を製造することもできる。ただし、本発明でいう「醗酵」では、「腐敗」の状態、すなわち硫化物やアンモニアなどの悪臭を発生させないよう、上記微生物の繁殖条件を制御することが重要である。上記3)の場合には、腐敗が起こらないように、天日で乾燥させる(すなわち微生物醗酵を行う)際には、果実の畝の厚さを一定値以下(例えば10cm以下)にする、乾燥開始直後は薄め(例えば5cm以下)に敷き果実中の水分が少なくなるに従い厚く(例えば5〜10cm)する、果実の畝を定期的に攪拌する(例えば1時間に1回程度)等の工夫を行って、腐敗させないことが重要である。
醗酵コーヒー豆の抽出物は、好ましくは、通常のコーヒーと同様に、焙煎し、必要に応じて粉砕し、これを水又は温水で抽出して得られる。醗酵コーヒー豆の焙煎は、L値が16〜30、好ましくは18〜22程度となるように焙煎を行うとよい。L値が16未満となる焙煎では、焙煎に伴って生成される環状ジペプチド等の存在により、本発明の有効成分であるイソ吉草酸エチルの効果が阻害されることがある。また、イソ吉草酸エチルは安定な化合物であるが、焙煎醗酵コーヒー豆は、通常の(醗酵処理を施していない)焙煎コーヒー豆と同様に酸化劣化を受け易いことから、焙煎後の保存期間は短いほどよく、醗酵コーヒー豆の焙煎後、14日未満、好ましくは7日未満で抽出に供すことが好ましい。
抽出には、通常、粉砕されたコーヒー豆を用いるが、粉砕の度合(通常、粗挽き、中挽き、細挽きなど)は特に限定されず、各種の粒度分布の粉砕豆を用いることができる。また、抽出方法についても何ら限定されず、各種コーヒー抽出装置(ドリップ式、サイフォン式、ボイリング式、ジェット式、連続式など)で行うことができるが、中でもドリップ式で行うことが好ましい。ここでいうドリップ式とは、流下式抽出であり、原料(焙煎して粉砕したコーヒー豆)の層に温水をシャワー、流下して原料中を通過させる抽出方法である。ドリップ式抽出では、コーヒー豆は、通常、金属製のメッシュの上に置かれるが、金属メッシュでなくとも、布やペーパーなど、コーヒー豆層を支え、コーヒー豆層から抽出液を分離できるものであれば特に限定されない。なお、抽出装置内を密閉にして、圧力をかけて抽出を行ってもよい。上記ドリップ式の抽出では、通常、コーヒー豆粉砕物1重量部に対して、5〜15重量部、好ましくは7〜10重量部の中温水を加水、流下してコーヒーを抽出する。抽出時間は、抽出装置の種類・大きさ等により異なるが、通常、15〜50分、好ましくは20〜40分程度である。
醗酵コーヒー豆の抽出物(好ましくは、焙煎された醗酵コーヒー豆の抽出物)は、公知の方法によって、濃縮して用いてもよいし、濃縮物を噴霧乾燥、凍結乾燥等により乾燥して粉末状にして用いてもよい。
醗酵コーヒー豆の抽出物、特に焙煎された醗酵コーヒー豆の抽出物は、イソ吉草酸エチルの他に、コーヒー風味を形成する種々の成分(例えば、酢酸エチル(Ethyl Acetate))を多く含むので、本発明のイソ吉草酸エチルを含む植物抽出物として好適に用いられる。なお、本発明のコーヒー飲料用添加剤としては、上記の天然物由来のイソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物の他、合成品を用いることもできる。
イソ吉草酸エチルは、熱による影響を受けにくく、また長期間の保存において消失しにくい成分であり、イソ吉草酸エチルをコーヒー原料を含む飲食品に添加すると、経時的な変化を受けやすいコーヒーの香り、風味を維持できるという特徴を有する。このメカニズムは明らかでないが、イソ吉草酸エチルがコーヒー豆中の香気成分を捕捉して或いは包み込んで飛散を防止するものと考えられる。イソ吉草酸エチルは、コーヒー分を原料として含む種々の食品にコーヒー風味の維持を目的として利用できるが、特にコーヒーの香りや風味が重要な因子であるコーヒー飲料において、その効果が十分に発揮される。また、コーヒー飲料として利用した場合、コーヒーの香りや風味を維持するばかりでなく、通常、UHT殺菌又はレトルト殺菌等の加熱処理によって発生する臭いや味、具体的には加熱臭やイモ臭等の不快な香りやエグ味、渋味といった後味の悪さが、イソ吉草酸エチルによって緩和されるので、結果として、コーヒー風味の増強をもたらすという利点もある。すなわち、本発明のコーヒー飲料の風味増強剤は、コーヒー風味の維持剤及び/又は加熱臭抑制剤として作用するものである。
ここで、イソ吉草酸エチルにより維持されるコーヒーの香りとしては、フルフリフアルコール、5−メチルフルフラール、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、エチルピラジン、フェノール、2−アセチルピロール等のコーヒーの主要成分の香りが挙げられる。
また、本発明のコーヒー飲料用添加剤は、乳化剤を含有するコーヒー飲料の香味向上剤、具体的には後味のキレ向上剤としても有用である。乳化剤を含有するコーヒー飲料は、乳化剤特有の雑味を有し、後味にぬめりが感じられキレが悪いが、本発明のイソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含むコーヒー飲料用添加剤を用いると、乳化剤に起因する不快な味を改善し、乳化剤特有の雑味をマスキングし、後味に感じるぬめりを緩和して後味のキレを向上することができる。
さらに、本発明のコーヒー飲料用添加剤は、pHが5.1〜7.0程度、好ましくはpH5.5〜7.0程度、特に好ましくはpH6.0〜6.5程度の中性領域に調整されたコーヒー飲料の風味向上剤としても有用である。家庭等で淹れるレギュラーコーヒー、すなわちコーヒー豆抽出液は、通常、弱酸性であるが、殺菌工程においてpHの低下を引き起こし、コーヒー飲料としては好ましくない酸味を呈したり、経時的な香味の劣化が著しくなったりすることから、工業的に製造されるコーヒー飲料では、すなわち加熱殺菌され長期間の保存に供される容器詰め飲料では、殺菌後及び保存中のpHが5.1〜7.0程度、好ましくはpH5.5〜7.0程度、特に好ましくはpH6.0〜6.5程度の中性領域になるようpH調整剤によるpH調整が行われている。しかし、このpH調整の段階では、コーヒーが本来持つほのかな酸味や味わいが失われるという問題があった。本発明のコーヒー飲料用添加剤を用いると、pH調整を伴うコーヒー飲料、具体的にはpHが5.1〜7.0程度、好ましくはpH5.5〜7.0程度、特に好ましくはpH6.0〜6.5程度のコーヒー飲料であっても、レギュラーコーヒーのようなほのかな酸味を実現することができる。
さらにまた、本発明のコーヒー飲料用添加剤は、ミルク入りコーヒー飲料の乳加熱臭抑制剤としても有用である。ミルク入りコーヒー飲料は、通常、高温殺菌、長期間の保存および冬季の製品ウォーマーでの加熱等により、乳成分が変性し、乳加熱臭や酸化臭、具体的には、乳独特の劣化臭(すえ臭)や乳独特のむれっぽい味を発生させ、コク(クリーミー感)を消失させ、ミルク入り飲料の品質を低下させることが知られている。しかし、本発明のコーヒー飲料用添加剤を用いると、ミルク入り飲料のオフフレーバーをマスキングでき、さらにミルク成分のコクをも付与できる。
このように、本発明のコーヒー飲料用添加剤は、香気成分が減少するコーヒー飲料、特にUHT殺菌やレトルト殺菌等を伴って製造されるコーヒー飲料の風味増強剤として、及び/又は乳化剤を含有するコーヒー飲料の後味改善剤として、及び/又はpHが6.0〜7.0程度に調整されたコーヒー飲料の風味向上剤として、及び/又はミルク入りコーヒー飲料の乳加熱臭の抑制剤として、コーヒー飲料に優れた香り、味、コク、酸味、後キレを付与するのに有用なものである。本発明のコーヒー飲料用添加剤のコーヒー飲料に対する添加量は、その利用されるコーヒー飲料に求められる嗜好に応じて適宜選択されるが、一般的には、コーヒー飲料全体に対して、有効成分であるイソ吉草酸エチルが0.1〜25ppb、好ましくは0.1ppb〜22.5ppb、より好ましくは0.1〜20ppb、さらに好ましくは0.2〜10ppb、特に好ましくは0.4〜10ppb、さらにより好ましくは0.6〜7.5ppbの濃度で含有するようにイソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を添加する。25ppbを超える量の添加は、イソ吉草酸エチルの持つ果実様のフレーバーがコーヒーの風味を阻害することがあり、一方、0.1ppb未満の添加ではコーヒー飲料用添加剤としての十分な効果が得られないことがある。本発明のイソ吉草酸エチルは、イソ吉草酸エチル自体の果実様フレーバーが感じられない低濃度或いはそれ以下の濃度で上記の効果を奏するので、イソ吉草酸エチル自体の持つ芳香がコーヒー飲料自体の香味に影響を及ぼすことがないことも特徴である。
本発明のコーヒー飲料用添加剤は、有効成分としてイソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含有していれば、その他、目的に応じて種々の添加物、例えば分散剤、賦形剤、甘味料等を含むことができる。分散剤、賦形剤、甘味料としては、例えば還元パラチノース、各種糖類、有機酸或いは有機酸塩、デンプン、デキストリン、デキストラン、粉乳など食用上問題のないものを挙げることができる。また、本発明のコーヒー飲料用添加剤は、溶剤又は分散剤を含むことができ、例えば、水、エタノール等が挙げられる。
本発明のコーヒー飲料用添加剤は、その形態は特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、ペースト、液体など任意の形状であることができる。
イソ吉草酸エチルを含有するコーヒー飲料
本発明のコーヒー飲料は、飲料全体に対するイソ吉草酸エチルの割合が0.1〜25ppb、好ましくは0.1〜22.5ppb、より好ましくは0.1〜20ppb、さらに好ましくは0.2〜10ppb、特に好ましくは0.4〜10ppb、さらにより好ましくは0.6〜7.5ppbとなるようにイソ吉草酸エチルを含有させることにより、コーヒーの香りの経時的な変化を抑制し、淹れたてのコーヒーの風味(例えば、コーヒーの主要成分であるフルフリフアルコール、5−メチルフルフラール、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、エチルピラジン、フェノール、2−アセチルピロール等の香り)を維持したドリンカビリティの高いコーヒー飲料である。本発明のコーヒー飲料は、熱の影響を受けにくく、UHT殺菌やレトルト殺菌等の加熱殺菌処理を経て製造されるコーヒー飲料においてもコーヒーの香りの減少が抑制され、かつ加熱等によるオフフレーバーが緩和された、コーヒーの風味が増強されたコーヒー飲料となる。また、pHが6.0〜7.0程度、好ましくはpH6.0〜6.5程度に調整された中性領域のコーヒー飲料において、弱酸性のコーヒー抽出液に類似したほのかな酸味が付与されたコーヒー飲料として、及び/又は乳化剤を含有するコーヒー飲料において、乳化剤に起因する風味の悪さ(乳化剤特有の雑味、後味のキレの悪さ)が改善されたコーヒー飲料として、及び/又はミルク入りコーヒー飲料において、乳加熱臭や酸化臭がマスキングされた高いコーヒー飲料として提供される。
ここで、飲料中のイソ吉草酸エチルの濃度は、ガスクロマトグラフィーやHPLCなどの公知のいずれかの方法により測定することができる。典型的には、後述する実施例のようにガスクロマトグラフィーを用いて測定する。
イソ吉草酸エチルは、通常、コーヒー飲料に含まれていない成分である。イソ吉草酸エチルは、コーヒー飲料製造工程のいずれかで飲料又はコーヒー分に含有させればよく、特にその方法を限定するものではない。例えば、上記のコーヒー飲料用添加物として添加する場合、その添加タイミングとしては、予めコーヒー豆にブレンドしておく方法、抽出に用いられる水や温水に添加する方法、コーヒー抽出液やコーヒー溶液に添加する方法等が挙げられる。また、イソ吉草酸エチルを含有する植物をコーヒー豆と一緒に抽出に供し、イソ吉草酸エチル含有コーヒー抽出液を得る方法も例示される。コーヒーの風味、特にトップノートの香りを維持する観点からは、コーヒー豆の抽出直後にイソ吉草酸エチルが含有されていることが好ましい。したがって、上記の方法の中でも、イソ吉草酸エチル又はイソ吉草酸エチルを含有する植物を予めコーヒー豆にブレンドしておく方法、抽出に用いられる水や温水に添加する方法が好適である。
特に、イソ吉草酸エチルを含有する植物として、醗酵コーヒー豆を用いると、イソ吉草酸エチルだけでなく、コーヒーの香りや味を形成する種々の成分(例えば、酢酸エチル(Ethyl Acetate))を多く含有するコーヒー抽出液が得られることから、イソ吉草酸エチルを含有する植物として発酵コーヒー豆を用い、その抽出物をコーヒー抽出液に含有させることは、本発明のコーヒー飲料の好ましい態様の一つである。特に、ミルク入りコーヒー飲料の場合に酢酸エチルを含有せしめると、ミルクのコクを付与して飲料にボディ感を与えることができる。コーヒー飲料、特にミルク入りコーヒー飲料における酢酸エチルの割合は、特に限定されないが、好ましくは1.0〜40ppb程度、より好ましくは2.0〜40ppb程度、さらにより好ましくは4.0〜40ppb又は4.0〜20ppb程度である。なお、飲料中の酢酸エチルの濃度は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定することができる。
イソ吉草酸エチルを含有する植物として醗酵コーヒー豆を用い、コーヒー豆(コーヒー飲料のベースとなる焙煎コーヒー豆;以後、「ベースとなる焙煎コーヒー豆」という)と一緒に抽出に供す方法について、さらに詳述する。醗酵コーヒー豆としては、上述のとおり、収穫されたコーヒー果実に対して微生物の働きを利用した何らかの醗酵に基づく加工を施して得られるもので、イソ吉草酸エチルを含有するものであれば、どのようなものでも使用できる。醗酵過程において、微生物の代謝によりイソ吉草酸エチルや酢酸エチルが生成し、コーヒー生豆に移行する。
醗酵コーヒー豆は、風味の観点から、焙煎、粉砕して用いるのがよい。焙煎(通常、浅煎り、中煎り、深煎りなど)及び粉砕の度合(通常、粗挽き、中挽き、細挽きなど)については、特に限定されず、ベースとなる焙煎コーヒー豆の種類や焙煎度、粉砕の度合い等により適宜設定すればよい。焙煎された醗酵コーヒー豆の配合割合も、ベースとなる焙煎コーヒー豆に応じて適宜選択すればよいが、飲料全体に対し、イソ吉草酸エチルを0.1ppb〜25ppbを含有させる観点から、コーヒー豆の全量(ベースとなる焙煎コーヒー豆と醗酵コーヒー豆の総量)に対して焙煎された醗酵コーヒー豆を0.1〜20重量%程度、好ましくは0.1〜10重量%程度、より好ましくは0.1〜5%、さらに好ましくは0.1〜3%程度配合する。
次いで、この醗酵コーヒー豆含有の焙煎コーヒー豆を抽出工程に供す。抽出溶媒(水)の温度は、特に制限されないが、通常、30〜98℃程度である。また、抽出方法についても何ら限定されず、各種コーヒー抽出装置(ドリップ式、サイフォン式、ボイリング式、ジェット式、連続式など)で行うことができるが、中でもドリップ式で行うことが好ましい。ここでいうドリップ式とは、流下式抽出であり、原料(焙煎して粉砕したコーヒー豆)の層に温水をシャワー、流下して原料中を通過させる抽出方法である。ドリップ式抽出では、コーヒー豆は、通常、金属製のメッシュの上に置かれるが、金属メッシュでなくとも、布やペーパーなど、コーヒー豆層を支え、コーヒー豆層から抽出液が分離できるものであれば特に限定されない。なお、抽出装置を密閉して、圧力をかけて抽出を行ってもよい。上記ドリップ式の抽出では、通常、コーヒー豆粉砕物1重量部に対して、5〜15重量部、好ましくは7〜10重量部の中温水を加水、流下してコーヒーを抽出する。抽出時間は、抽出装置の種類・大きさ等により異なるが、通常、15〜50分、好ましくは15〜40分程度である。
なお、抽出時において、コーヒーの香気成分が酸化を受けやすいものであることを考慮し、抽出は不活性気体中にて行ってもよい。また、工業的な抽出装置全体を不活性気体にてパージしてもよく、一旦装置全体を減圧して酸素を除去しその後不活性気体にて常圧にする方法を行ってもかまわない。
コーヒー中に含まれるクロロゲン酸は、その抗酸化作用によりコーヒー飲料の保存安定性を向上させるが、クロロゲン酸の独特の苦味がコーヒー飲料の香味形成に大きく影響し、過剰に存在すると飲料本来の香味が損なわれて嗜好性が低下する。特に、加熱殺菌を伴う容器詰めコーヒー飲料で、加温状態や長期間(例えば2ヶ月以上)に渡り常温保存されるようなコーヒー飲料では、熱に伴う加熱臭や雑味がクロロゲン酸の苦味に相俟ってかえって後味が悪くなることがある。本発明の飲料は、クロロゲン酸とイソ吉草酸エチルの相乗効果により容器詰め飲料中のクロロゲン酸の総量を低減でき、かつ、同一のクロロゲン酸総量(濃度)であっても苦味強度が低減でき、特に後味に感じられるコーヒー風味を増強できるものである。
なお、本発明で、クロロゲン酸の総量をいうときは、モノカフェオイルキナ酸成分(3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸、5−カフェオイルキナ酸)、フェルラキナ酸成分(3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸、5−フェルラキナ酸)及びジカフェオイルキナ酸成分(3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸、4,5−ジカフェオイルキナ酸)の三種の合計を意味する。なお、飲料中のクロロゲン酸類の含量は、当業者であれば、例えばHPLCを用いて、適宜測定することができる。
本発明の飲料では、(A)イソ吉草酸エチルの量(ppm)と(B)クロロゲン酸の総量(ppm)の積((A)×(B))が0.09以上、好ましくは0.13以上、より好ましくは0.17以上、さらに好ましくは0.2以上、特に好ましくは0.4以上とするようにすると、有効にコーヒー風味を増強することができ、飲みやすい飲料となる。さらに、(B)クロロゲン酸の総量(ppm)に対する(A)イソ吉草酸エチルの量(ppm)の割合((A)/(B))が0.00003を超えるとイソ吉草酸エチルの香りがコーヒー本来の風味を阻害することがある。したがって、(A)/(B)が0.00003以下、好ましくは0.000025以下、より好ましくは0.00002以下となるように調整するとよい。飲料中のクロロゲン酸量は、原料となるコーヒー豆の種類、焙煎強度等により調節できる。また、コーヒー抽出物から、クロロゲン酸を選択的に除去する、又はコーヒー生豆抽出物などクロロゲン酸を添加する等によってもクロロゲン酸の総量を調節できる。
このようにして得られたイソ吉草酸エチルを含有するコーヒー抽出液や、イソ吉草酸エチルを添加したコーヒー抽出液(コーヒー溶液を含む)に、必要に応じて、甘味成分、乳成分や各種添加剤等を添加して調合液を得、加熱殺菌処理を行う。ここで、添加される甘味成分としては、甘味を呈する成分のことをいい、例えば、ショ糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、キシロース、異性化乳糖、フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、パラチノース、マルチトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット、還元デンプン糖化物、ステビア、グリチルリチン、タウマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテーム、サッカリン、アセスルファムK、スクラロース、ズルチンなどが挙げられる。乳成分としては、コーヒー飲料にミルク風味やミルク感を付与するために添加する成分を指し、主に乳、牛乳及び乳製品のことをいい、例えば、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料などが挙げられ、乳製品としては、クリーム、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、調整粉乳などが挙げられる。添加剤としては、pH調整剤、乳化剤、酸化防止剤、香料(コーヒーフレーバー、ミルクフレーバーなど)等が例示されるが、イソ吉草酸エチルの作用を損なわない限りは添加する成分に特に制限はない。pH調整剤とは、殺菌時におけるpH低下を緩和しうる成分で、水に溶解した時にアルカリ性を示す物質を指すもので、具体的には、重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。乳化剤とは、乳化の効果を持つ添加物(界面活性剤)をいい、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
調合液の殺菌方法としては、高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)と、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法とがあるがいずれの方法を用いてもよい。殺菌条件は、コーヒー飲料の調合液の特性、及び用いる容器に応じて適宜設定すればよいが、UHT殺菌法の場合、通常120〜150℃で1〜120秒間程度、好ましくは130〜145℃で30〜120秒間程度の条件であり、レトルト殺菌法の場合、通常110〜130℃で10〜30分程度、好ましくは120〜125℃で10〜20分間程度の条件である。本発明のコーヒー飲料は、いずれの殺菌方法で製造されてもレギュラーコーヒーと遜色ない風味(香り、味、コク、酸味、後切れ)を呈するものであるが、従来、レギュラーコーヒーと顕著な差があった過酷な加熱工程を経るレトルト殺菌法で製造される缶入りコーヒー飲料や、ウォーマー等の加温条件下で保存されるホットコーヒー飲料において特に有用である。
充填される容器は、殺菌方法や保存方法に合わせて適宜選択すればよく、アルミ缶、スチール缶、PETボトル、ガラス瓶、紙容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができる。
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
実施例1 醗酵コーヒー豆の製造(1)
醗酵コーヒー豆は、以下の工程;
1)コーヒー果実に対し90〜110℃、15〜30秒で蒸気処理を行う蒸気処理工程、
2)30〜40℃に冷却する工程、
3)アジピン酸又は乳酸をコーヒー果実重量当たり0.05〜0.5重量%添加し、コーヒー果実の表皮のpHをpH3〜4に調整するpH調整工程、
4)pH調整工程と同時もしくは後に、発酵用微生物を付着させる微生物付着工程、
5)30〜40℃、48〜72時間の培養工程、
6)培養後のコーヒー果実を乾燥する乾燥工程、
7)コーヒー種子からコーヒー果肉を分離して醗酵コーヒー豆を得る、分離精製工程
で製造した。
すなわち、コーヒー生果実を100kg用意し、トンネル型の蒸気導入部分を設けた速度調節可能なコンベアを用いて、温度100℃、処理時間20秒の上記工程1)を行った。その後、送風によって40℃に急冷した(工程2))。コーヒー果実100kgに対してワイン醗酵用酵母であるLalvin EC1118株(Saccharomyces bayanus))の乾燥菌体50gに水200gを加えて溶解した酵母溶液を調製し、これとアジピン酸100gをコーヒー果実1粒あたりの酵母付着量が1.0×106〜7cellsとなるように満遍なく同時に添加した(工程3)、4))。これを35℃にて72時間静置して発酵処理した(工程5))後、乾燥機で乾燥させ(工程6))、脱穀機で果肉を除去して醗酵コーヒー豆(生豆)を得(工程7))、これを焙煎して焙煎された醗酵コーヒー豆を得た(試料1)。
また、コーヒー生果実1000gを用意し、工程1)における蒸気処理を100℃、15秒、工程3)における微生物をヨーグルト用乳酸菌(Lacto Baccillus Acidophilus)にして、コーヒー果実1粒あたりの乳酸菌付着量を1.0×107〜8cellsとし、アジピン酸を不使用とする以外は、試料1と同様にして焙煎された醗酵コーヒー豆を得た(試料2)。
さらに、ヨーグルト用乳酸菌を焼酎用のカビ(Aspergillus kawachii)に変えて、コーヒー果実1粒あたりのカビ付着量を1.0×103〜4cellsとして、同様に、焙煎された醗酵コーヒー豆を得た(試料3)。
得られた焙煎された醗酵コーヒー豆について、粉砕せずにそのままの形状でガスクロマトグラフィ(GC)用サンプルチューブに10gずつ入れ、ヘッドスペースの気体を成分分析した。その結果、試料1〜3には、酢酸エチルがそれぞれ、65ppm、63ppm、68ppm含まれていた。また、イソ吉草酸エチルが含まれることが確認された。GCの分析条件は以下のとおり。
(GC分析条件)
・装置:Agilent 7694 HeadspaceSampler (Agilent Technologiess社製)
Agilent 6890 GC System (Agilent Technologiess社製)
・カラム:HP-INNOWAX(60mm×内径0.25mm×膜圧0.25μm)
・温度:40℃4分保持、3℃/分で220℃まで昇温、230℃30分保持
・検出器:MSD,FID
実施例2 醗酵コーヒー豆の製造(2)
グァテマラでは、通常、水洗式でコーヒー果実からコーヒー生豆を精製している。すなわち、収穫した果実を水槽に入れて不純物を取り除いた後、果肉除去機に入れて果肉を除去し、再度水槽に入れてパーティメントに付いた粘液を取り除き、その後天日又は機械で乾燥させ脱穀する方法を採用している。これは、栽培地が山の斜面で収穫後に果実を広げて干す場所がないため、必然的に取り入れられる方法である。
一方、ブラジルなど一度に大量の果実を乾燥させる広大な平地があり、かつ収穫時期が乾季で雨の心配がない場所では、非水洗式(ナチュラルとも呼ばれる)の精製が行われている。すなわち、収穫後の果実をそのまま広場に広げ天日で乾燥させた後、乾燥した果肉が付いたまま脱穀を行う方法で、時間を掛けて乾燥させる間に複雑な香味やコクがコーヒー生豆に付与されるという特徴を有する。
しかしながら、今回は、グァテマラにおいて、非水洗式でコーヒー生豆を得た。すなわち、収穫された果実の畝の厚さを一定値(5cm以下)以下となるように敷き、果実中の水分が少なくなるに従い厚く(5〜10cm)し、かつ果実の畝を1時間に1回攪拌することを行い、2週間かけて水分10%以下の乾燥果実を得、これを脱穀してコーヒー生豆を得た(試料4)。得られたコーヒー生豆を実施例1と同様にして分析したところ、イソ吉草酸エチル及び酢酸エチルが含まれることが確認された。
実施例3 イソ吉草酸エチル含有コーヒー飲料の調製
コーヒー飲料のベースとなるコーヒー豆としては、中煎りにしたブラジル産コーヒー豆を用いた。コーヒー豆を粉砕機(日本グラニュレーター社製)で粉砕し、94℃の熱水でドリップし、Brix2.8の抽出液を得た。このコーヒー抽出液を500メッシュで濾過して不溶性固形分を除き、使用した。
表1に示す配合のコーヒー抽出液、グラニュー糖、牛乳、乳化剤を混合して溶解し、更にpH調整剤として重曹を添加して、Bx9.0及びpH6.9のコーヒー飲料を調製した。このコーヒー飲料を対照とし、イソ吉草酸エチル(純度99.0%)を2.25ppb(w/v)となるように添加して、イソ吉草酸エチル含有コーヒー飲料(A)を調製した。
Figure 0005666792
調製直後のコーヒーの香りの強さ、コク味、後口に感じられるコーヒーの余韻を5点とし、15分経過後の飲料(A)及び対照のコーヒー飲料の香味について、専門パネラーにより5段階で評価した。平均点を表2に示す。表2より明らかなとおり、対照の飲料と比較して、イソ吉草酸エチルを2.25ppbの濃度で含有するコーヒー飲料(A)は、コーヒーの香りが維持されており、後口のコーヒーの余韻を楽しむことができるものであった。また、コーヒーのコク味も維持しており、コーヒーの香りと味のバランスが、調製直後に近いものであった。
Figure 0005666792
実施例4 容器詰めコーヒー飲料(缶コーヒー)の製造
実施例3で調製したコーヒー飲料(対照及びコーヒー飲料(A))を65〜70℃に加温し、均質化処理を行ない(総ゲージ20MPa、第1段(入口)15MPa、第2段(出口)5MPa)、スチール製容器に190gずつ充填し、120〜125℃、約25分の殺菌を行い(レトルト殺菌)、容器詰コーヒー飲料とした。また、コーヒー飲料(A)については、コーヒー飲料をUHT殺菌(135〜140℃、約60秒)行った後、殺菌処理された190g缶にホットパックした後、冷却してUHT殺菌コーヒー飲料も製造した。得られた容器詰めコーヒー飲料を10℃にて1日保存後、官能評価した。評価は、レトルト殺菌処理された対照飲料を3点として、飲料Aの好ましさを比較した。
平均点を表3に示す。表3より明らかなように、イソ吉草酸エチルを2.25ppbの濃度で含有するコーヒー飲料(A)は、UHT殺菌及びレトルト殺菌を行っても、コーヒーの香りが維持される傾向にあり、対照と比較して、コーヒーのコク味、後味の余韻が強く、加熱によって発生する後味の悪さ(エグ味、渋味、キレの悪さ)や加熱臭が抑制されていた。なお、官能評価したコーヒー飲料のpHは、6.4であった。
Figure 0005666792
実施例5 容器詰めコーヒー飲料の保存試験(1)
イソ吉草酸エチル含量を0、0.6、2.3、5.6、22.5ppb(w/v)とする以外は、実施例3と同様の手法でコーヒー飲料を調製した。これを190g缶に詰めレトルト殺菌(120〜125℃、約25分)を行い、容器詰めコーヒー飲料を製造した。得られた容器詰め飲料を、保存試験に供した。保存試験は、70℃2週間で行った。これは、加温条件下での保存試験だけでなく、常温1年の保存に相当する試験である。保存後のコーヒー飲料について、実施例4と同様に、イソ吉草酸エチル無添加の飲料と比較して評価した。
評価結果を表4に示す。加温条件下での保存(或いは常温長期間保存)により、コーヒーの香り、コク味、後口の余韻といったコーヒーの好ましい風味が消失し、保存劣化に伴う後口の不快な風味(収斂味、エグ味、苦味)や乳劣化臭(乳劣化様の厭味)が発生するが、イソ吉草酸エチルを0.6ppb以上添加することにより、好ましい風味の消失を抑制でき、劣化に伴う不快な風味を緩和することができた。特に、イソ吉草酸エチルを2.3ppb以上配合したコーヒー飲料では、パネラー全員が無添加のコーヒー飲料との明確な違いを感じ、イソ吉草酸エチルを添加したコーヒー飲料の方が好ましいと評価した。なお、官能評価したコーヒー飲料のpHは、6.2であった。
Figure 0005666792
実施例6 容器詰めコーヒー飲料の保存試験(2)
コーヒー飲料のベースとなるコーヒー豆としては、実施例3と同じ中煎りにしたブラジル産コーヒー豆を用いた。実施例3と同様にしてBrix2.8のコーヒー抽出液を得、このコーヒー抽出液を500メッシュで濾過して不溶性固形分を除き、使用した。
表5に示す配合のコーヒー抽出液、グラニュー糖、牛乳、カゼインナトリウム、乳化剤を混合して溶解し、更にpH調整剤として重曹を添加して、Bx8.9及びpH6.8のコーヒー飲料を調製した。このコーヒー飲料を対照とし、イソ吉草酸エチル(純度99.0%)を0〜22.5ppb(=0.0225ppm)(w/v)となるように添加して、イソ吉草酸エチル含有コーヒー飲料を調製した。また、種々の濃度のイソ吉草酸エチル含有コーヒー飲料に、クロロゲン酸としてフレーバーホルダーRC30(長谷川香料)を0〜3.1mL/kgとなるように添加し、クロロゲン酸総量が異なるコーヒー飲料を調製した。
Figure 0005666792
イソ吉草酸エチル総量及びクロロゲン酸総量の異なるコーヒー飲料を65〜70℃に加温し、均質化処理を行ない(総ゲージ20MPa、第1段(入口)15MPa、第2段(出口)5MPa)、スチール製容器に190gずつ充填し、120〜125℃、約25分の殺菌を行い(レトルト殺菌)、容器詰コーヒー飲料とした。得られた容器詰め飲料を、実施例5と同様の条件で保存試験に供した。イソ吉草酸エチル無添加、フレーバーホルダー無添加の飲料で、保存試験前の飲料を対照とし、対照と比較した場合のコーヒー風味の強さ(後口に感じられるコーヒーの余韻)、後口の不快な風味(苦味など)の強さ、乳劣化様の厭味の強さについて評価した。なお、飲料中のクロロゲン酸量は、以下の方法で測定した。
(クロロゲン酸の測定方法)
試料となる飲料を移動相Aで10倍希釈(w/w)した後、メンブランフィルター(ADVANTEC製 Cellulose Acetate 0.45μm)で濾過し、HPLCに注入して定量した。測定条件は以下の通り。
(HPLC測定条件)
・カラム:TSK-gel ODS-80TsQA(4.6mmφx150mm、東ソー株式会社)
・移動相:A:水:トリフルオロ酢酸=1000:0.5
B:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=1000:0.5
・流速:1.0ml/min
・カラム温度:40℃
・グラディエント条件;分析開始から5分後まではA液100%保持、
5分から10分まででB液7.5%、
10分から20分まででB液10.5%、
20分から32分までB液10.5%保持、
32分から45分まででB液26.3%、
45分から46分まででB液75.0%、
46分から51分までB液75.0%保持、
51分から52分まででB液0%
52分から58分までB液0%保持、
・注入量:5.0μL
・検出波長:325nm
・標準物質:クロロゲン酸0.5水和物(ナカライテスク株式会社)
リテンションタイムは、15.3分、18.9分、20.7分、30.3分、31.3分、32.3分、44.1分、44.8分、46.3分であり、クロロゲン酸はこれらリテンションタイムのピーク面積の和より求めた。
評価結果を表6〜8に示す。加温条件下での保存(或いは常温長期間保存)により、コーヒーの好ましい風味(表6においては、後口のコーヒーの余韻として表される)が消失し、保存劣化に伴う後口の不快な風味(収斂味、エグ味、苦味:表7では、不快な香り(苦味)として表される)や乳劣化臭(乳劣化様の厭味:表8では、乳の劣化臭として表される)が発生した。イソ吉草酸エチルが無添加(0ppb)の場合、クロロゲン酸の添加量に伴って、コーヒー風味の消失や保存劣化に伴う不快な風味の発生を抑制することができたが、その効果はクロロゲン酸を1700ppm含有した飲料で対照と同程度であった。クロロゲン酸を1700ppmを超える量で配合した場合には、その独特の風味からコーヒー飲料の嗜好性を損なうことがあり、1700ppm以下とすることが好ましいと考えられた。
一方、イソ吉草酸エチルを0.1ppb(0.0001ppm)以上添加することにより、好ましい風味の消失を抑制でき、劣化に伴う不快な風味を緩和することができた。この効果はクロロゲン酸と相乗的に作用し、(A)イソ吉草酸エチルの量(ppm)と(B)クロロゲン酸の総量(ppm)の積((A)×(B))が0.09以上、好ましくは0.13以上、より好ましくは0.17以上、さらに好ましくは0.2以上、特に好ましくは0.4以上とするようにすると、コーヒーの好ましい風味を増強し、不快な風味を緩和して、飲みやすい(嗜好性の高い)飲料となった。また、(B)クロロゲン酸の総量(ppm)に対する(A)イソ吉草酸エチルの量(ppm)の割合((A)/(B))が0.00003を超えるとイソ吉草酸エチルの香りがコーヒー本来の風味を阻害すると判断したパネラーがいた。したがって、(A)/(B)が0.00003以下、好ましくは0.000025以下、より好ましくは0.00002以下とすることが好ましいことが示唆された。
Figure 0005666792
Figure 0005666792
Figure 0005666792
実施例7.容器詰めコーヒー飲料の保存試験(3)
実施例3で用いたコーヒー飲料のベースとなる焙煎豆に、実施例1で製造した醗酵コーヒー豆(試料1)を、コーヒー豆の全量に対し、4重量%又は15重量%となるように配合した(4%配合品、15%配合品)。この焙煎された醗酵コーヒー豆混合の焙煎豆から、実施例3と同様にコーヒー抽出液を得てコーヒー飲料を調製し、実施例4と同様の保存試験に供した。対照として、醗酵コーヒー豆を配合しないコーヒー飲料を製造して保存試験に供し、保存後のコーヒー飲料について、醗酵コーヒー豆無添加の飲料と比較して評価した。
評価結果を表9に示す。醗酵コーヒー豆を配合して調製したコーヒー抽出液を含むコーヒー飲料(4%配合品、15%配合品)は、無添加のコーヒー飲料と比較して、コーヒーの香り、コク味、後口の余韻といったコーヒーの好ましい風味を増強し、保存劣化に伴う後口の不快な風味(収斂味、エグ味、苦味)や乳劣化臭(乳劣化様の厭味)を抑制することができ、パネラー全員が、醗酵コーヒー豆を配合したコーヒー飲料(4%配合品、15%配合品)の方が大変好ましいと評価した。4%配合品と15%配合品とを比較すると、4%では醗酵コーヒー豆特有の香味がほとんど感じられないのに対し、15%配合品では、醗酵コーヒー豆特有のエステル香、アルコール香がやや感じられたことから、ベースとなるコーヒー豆の風味の維持、オフフレーバーの抑制を目的として使用する場合には、醗酵コーヒー豆15%相当が上限であることが示唆された。
このコーヒー飲料について、イソ吉草酸エチル含量及びクロロゲン酸含量を測定した。測定の結果、イソ吉草酸エチルを4%配合品は1.12ppb、15%配合品は7.5ppbの濃度で含有しており、クロロゲン酸含量はいずれも1020ppmの濃度で含有していた。また、コーヒー飲料のpHを測定すると、pH6.2であった。
なお、イソ吉草酸エチル含量は、コーヒー飲料50mLにシリコーン5滴を添加した試料を60℃に加温し、窒素を吹き込み、吸着管(Tenax GR 35/60)に20分間吸着させた後、GC−MSに加熱導入した。HS条件、加熱脱着条件及びGC-MS条件は以下のとおり。
<HS条件 ※ヘッドスペース(パージ&トラップ法)>
・吸着剤 :Tenax-GR 35/60
・パージガス流量 :100mL/min
・パージ時間 :20min
・試料量 :50mL
・シリコーン添加量:消泡シリコーンを蒸留水で25倍に希釈したもの5滴
<加熱脱着条件>
・装置 :GERSTEL社製 Thermo Desorption System(TDS)
<GC-MS条件>
・装置 :Agilent社製 6890N(GC)+5973inert(MS)
・カラム :GERSTEL社製 MACH HP-INNOWAX(10m*0.20mm*0.20μm)
・カラム温度 :40℃(3min)-50℃/min-250℃(10min)
・キャリアガス :He
・トランスファーライン:250℃
・イオン源温度:230℃
・Scan Parameter:m/z=35〜350
・SIM Parameter :m/z=70,88,102
Figure 0005666792
実施例8.容器詰めコーヒー飲料の保存試験(4)
実施例3で用いたコーヒー飲料のベースとなる焙煎豆に、実施例2で製造した醗酵コーヒー豆(試料4)を、コーヒー豆の全量に対し、5重量%となるように配合した。この焙煎された醗酵コーヒー豆混合の焙煎豆から、実施例3と同様にコーヒー抽出液を得てコーヒー飲料を調製し、実施例4と同様の保存試験に供した。対照として、醗酵コーヒー豆を配合しないコーヒー飲料を製造して保存試験に供し、保存後のコーヒー飲料について、醗酵コーヒー豆無添加の飲料と比較して評価した。
醗酵コーヒー豆を配合して調製したコーヒー抽出液を含むコーヒー飲料は、無添加のコーヒー飲料と比較して、コーヒーの香り、コク味、後口の余韻といったコーヒーの好ましい風味を増強し、保存劣化に伴う後口の不快な風味(収斂味、エグ味、苦味)や乳劣化臭(乳劣化様の厭味)を抑制することができ、パネラー全員が、醗酵コーヒー豆を配合したコーヒー飲料の方が大変好ましいと評価した。
このコーヒー飲料について、イソ吉草酸エチル総量及びクロロゲン酸総量を測定した。測定の結果、イソ吉草酸エチルは0.13ppb、クロロゲン酸は1060ppmの濃度で含有していた。また、コーヒー飲料のpHを測定すると、pH6.2であった。

Claims (14)

  1. イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含むコーヒー飲料用添加剤であって、コーヒー風味増強剤であり、当該植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、添加剤。
  2. イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含むコーヒー飲料用添加剤であって、コーヒー風味の維持剤であり、当該植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、添加剤。
  3. イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含むコーヒー飲料用添加剤であって、加熱臭抑制剤であり、当該植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、添加剤。
  4. UHT殺菌又はレトルト殺菌処理される容器詰めコーヒー飲料のための、請求項1〜3のいずれかに記載の添加剤。
  5. イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含有し、飲料全体に対するイソ吉草酸エチルの割合が0.1ppb〜25ppbである、コーヒー飲料であって、当該植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、コーヒー飲料
  6. 飲料全体に対するイソ吉草酸エチルの割合が0.13ppb〜25ppbである、請求項に記載のコーヒー飲料。
  7. UHT殺菌又はレトルト殺菌処理された容器詰めコーヒー飲料である、請求項5又は6に記載のコーヒー飲料。
  8. 乳化剤を含有する、請求項5〜7のいずれかに記載のコーヒー飲料。
  9. pHが5.1〜7.0である、請求項5〜8のいずれかに記載のコーヒー飲料。
  10. イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を含有せしめ、高温殺菌工程に付すことを含む、飲料全体に対するイソ吉草酸エチルの割合が0.1ppb〜25ppbであるコーヒー飲料の製造方法であって、当該植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、コーヒー飲料の製造方法
  11. 製造されたコーヒー飲料全体に対するイソ吉草酸エチルの割合が0.13ppb〜25ppbである、請求項10に記載の製造方法。
  12. イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を添加することにより、コーヒー飲料のコーヒー風味を増強する方法であって、当該植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、方法
  13. イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を添加することにより、コーヒー飲料のコーヒー風味を維持する方法であって、当該植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、方法
  14. イソ吉草酸エチルを含有する植物抽出物を添加することにより、コーヒー飲料の加熱臭を抑制する方法であって、当該植物抽出物が、醗酵処理が施されたコーヒー豆の抽出物である、方法
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