JP5660020B2 - シリコン単結晶の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、チョクラルスキー法(Czochralski Method、CZ法)による、種結晶を使用してネッキングを行うことなくシリコン単結晶棒を成長させるシリコン単結晶の製造方法に関する。
従来、CZ法によるシリコン単結晶の製造においては、単結晶シリコンを種結晶として用い、これをシリコン融液に接触させた後、回転させながらゆっくりと引上げることで単結晶棒を成長させている。この際、種結晶をシリコン融液に接触させた後に、熱衝撃により種結晶に高密度で発生するスリップ転位から伝播する転位を消滅させるために、直径を3mm程度に一旦細くし絞り部を形成する、いわゆる種絞り(ネッキング)を行い、次いで、所望の口径になるまで結晶を太らせて、無転位のシリコン単結晶を引上げている。このような、種絞りはDash Necking法として広く知られており、CZ法でシリコン単結晶棒を引上げる場合の常識とされている。
すなわち、従来用いられてきた種結晶の形状は、例えば直径あるいは一辺約8〜20mmの円柱状や角柱状の単結晶に種ホルダーにセットするための切り欠き部を設けたもので、最初にシリコン融液に接触する下方の先端形状は、平坦面となっている。そして、高重量の単結晶棒の重量に耐えて安全に引上げるためには、種結晶の太さは、素材の強度からして上記以下に細くすることは難しい。
このような形状の種結晶では、融液と接触する先端の熱容量が大きいために、種結晶が融液に接触した瞬間に結晶内に急激な温度差を生じ、スリップ転位を高密度に発生させる。従って、この転位を消去して単結晶を育成するために前記ネッキングが必要になるのである。
しかし、このような状態ではネッキング条件を種々選択しても、無転位化するためには、最小直径を4〜6mmまでは絞り込む必要があり、近年のシリコン単結晶径の大口径化に伴い、高重量化した単結晶棒を支持するには強度が不充分であり、単結晶棒引上げ中に、この細い絞り部が破断して単結晶棒が落下する等の重大な事故を生じる恐れがあった。
このような問題を解決するために、特許文献1、特許文献2のような発明が提案されている。これらの発明は、種結晶の先端部の形状を楔形あるいは中空部を有する形状とし、種結晶がシリコン融液に接触する時に入るスリップ転位をできるだけ低減することによって、絞り部の直径を比較的太くしても無転位化を可能とし、これにより絞り部の強度を向上させるものである。
この方法では、絞り部の太さを太くすることができるので、ある程度絞り部の強度の向上ができるけれども、ネッキングを行い、スリップ転位のある絞り部を形成することには変わりがなく、近年ますます大直径、長尺化し、例えば150Kg以上にもなる単結晶棒の引上げには、強度が不充分となる場合があり、根本的な解決にまでは至っていない。
そこで、強度上一番問題となるネッキングによる絞り部を形成することなく、結晶を単結晶化させる方法が開発され提案されている(特許文献3)。この方法は、図2に示すように、種結晶としてシリコン融液に接触させる先端部の形状が尖った形状、又は尖った先端を切り取った形状とし、先ず、該種結晶の先端をシリコン融液に静かに接触させた後(図2(1))、種結晶を低速度(Vdown)で下降させることによって種結晶の先端部が所望の太さDとなるまで溶融し(図2(2))、その後、種結晶をゆっくりと上昇させ(Vup)、ネッキングを行うことなく、所望径のシリコン単結晶棒を育成させる(図2(3))というものである。
この方法によれば、最初に種結晶の先端をシリコン融液に接触させた時、接触面積が小さく、先端部の熱容量が小さいため、種結晶に熱衝撃又は急激な温度勾配が生じないので、スリップ転位が導入されない。そして、その後、種結晶を低速度で下降させて種結晶の先端部が所望の太さとなるまで溶融すれば、急激な温度勾配を生じないので溶融時にもスリップ転位が種結晶内に導入されることはない。そして、最後に種結晶をゆっくりと引上げれば、種結晶は所望の太さで、無転位であるから、ネッキングを行う必要はなく、強度も十分あるので、そのまま所望の径まで太らせてシリコン単結晶棒を育成させることができる。
以上述べたように、通常のネッキング種付け法においては、初期の転位密度を低減させる方法として、種結晶の融液上での保温や加温、種付け時の熱衝撃を低減させるような形状や、方法が開示されてきたが、ネックの太さに限界があり、大直径化、高重量化した単結晶棒には追随できなくなってきている。そこで、上述した大直径化、高重量化にも耐えられる、ネッキングを行わない無転位種付け法が確立された。
この無転位種付け法で問題となるのは、その無転位化成功率である。すなわち、この方法では、一度種結晶に転位が導入されると、種結晶を交換しなければ、やり直しができないので、成功率を向上させることが特に重要である。そしてこの場合、無転位で種付けしても、種結晶のテーパー付き先端部をある所定長さ溶融後にシリコン融点近傍で放置しておいたり、あるいは、結晶成長を開始するまでに要する時間や、単結晶の成長に移行する際の成長速度によってはスリップ転位が発生し、この転位が増加して行くという問題があった。
そこで、無転位種付け法の成功率を高める為に、特許文献4、特許文献5、特許文献6のような発明が提案されている。これらの発明では、溶かし込む前の保持時間や、溶かし込みの温度、溶かし込み速度、溶かし込み後の保持時間や、成長に移行した際の成長速度や磁場強度などが提案されている。
無転位種付け法の成功率を高める為に提案されている上記らの発明において、共通する重要な項目として、種結晶を溶かし込むシリコン融液表面温度Tをシリコンの融点よりも高めに設定するという内容がある。特許文献4によれば、シリコン融点よりも25℃以上45℃以下高い範囲との記述がある。特許文献5によれば、種結晶の溶かし込み完了の位置から引上3mm区間内で、結晶の直径が溶かし込み完了後の直径よりも0.3mm以上2mm以下縮径するような温度で溶かし込みを行うとの記述がある。特許文献6によれば、Dash Necking法での適温とされる温度よりも10〜20℃高い温度との記述がある。
種結晶をシリコン融点よりも高い温度で溶かし込みを行うことの必要性は、高い温度で溶かし込むことで、種結晶の先端部分が未融解部分を残すことなく完全に融解する事ができるということである。シリコン融液の温度が十分に高くない状態では、種結晶先端が速やかに融解されずに、固体状態でシリコン融液中に沈み込んでしまい、スリップ転位が発生してしまうからである。
また、近年の引上結晶の長尺化による高重量化や、次世代直径450mm結晶のような超高重量結晶においては、単結晶棒を支持するために必要な最小直径が増加していくことになる。特に次世代直径450mm結晶では1トンを超える結晶重量を想定することになるが、この場合、保持に必要な最小直径は10mm以上要求されることになる。最小直径が10mmを要求される場合、当然種結晶の溶かし込みは直径10mm以上となる。溶かし込み直径が太くなるということは、太い部位まで速やかに融解することが必要となり、その為にも溶かし込み温度の高温化が要求される。
しかしながら、この無転位種付け法の成功率を高める為に要求される、溶かし込み温度の高温化については以下の問題があった。
溶かし込み温度の高温化の問題は、種結晶溶かし込み終了後の結晶成長に移行した際に顕れる。溶かし込み工程はシリコン融点よりも高めに設定する温度によりスムーズに進行する。しかし、溶かし込み終了直後のシリコン融液の温度が融点よりも高いと、そのまま結晶成長を開始すると当然、結晶直径は溶かし込み終了直後の直径よりも細くくびれて場合によっては切れてしまう場合がある。切れない場合でも、細くなってしまった直径では、高重量結晶を保持するには強度が不十分となるという問題があった。
また、特許文献4によれば、溶かし込み終了後、0〜10分の間に結晶成長に移行することで無転位化成功率は向上するが、この時間が長くなると無転位化成功率が低下するという記述がある。溶かし込み温度が高い場合に、溶かし込み終了後0〜10分の間に結晶成長に移行しようとした場合、シリコン融液の温度を素早く下げられずに、結晶成長開始後に直径が細くなり高重量結晶を保持するには強度が不十分になるという問題があった。
高重量結晶を製造するルツボ内のシリコン融液量は高重量であり熱容量が大きく、そのシリコン融液の温度を短時間で低下させることが課題であった。シリコン融液の温度を下げるためには、炉内に設置してある加熱用黒鉛ヒーターの電力を下げる手法を用いるが、加熱用黒鉛ヒーターの電力変化に対応したシリコン融液温度の変化はレスポンスが悪いために、種結晶の溶かし込み終了直後、結晶成長開始までの短時間でシリコン融液の温度を速効性良く下げることは非常に困難であった。
そのため、これ迄は溶かし込みの温度を高めに設定はするものの、その上限は、溶かし込みが終了して結晶成長移行後の直径が、高重量結晶を保持するのに必要な直径が維持できる範囲であること、というように溶かし込み温度には上限があった。無転位化成功率を高める為に溶かし込み温度を高めに設定したいということであっても、上記の制約があることで十分に高めの溶かし込み温度に設定することができず、無転位化成功率の向上を図るための妨げとなっていた。
特開平5−139880号公報 特開平9−255485号公報 特開平10−203898号公報 特開平11−240793号公報 国際公開第2001/063026号 国際公開第2003/091483号
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたもので、ネッキングを行わない無転位種付け法の場合に、育成する単結晶棒の無転位化成功率を向上させ、大直径、高重量の単結晶棒の生産性を向上させるシリコン単結晶の製造方法を提供することを主たる目的とする。
上記課題を解決するため、本発明では、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造する方法であって、先端が尖った種結晶の該先端部をシリコン融液に接触させた後、前記種結晶を所定の直径の位置までシリコン融液に溶かし込み、その後、ネッキングを行うことなく単結晶成長を行うシリコン単結晶の製造方法において、前記種結晶を融液に溶かし込む操作を、ルツボを2rpm以下で回転させながら行い、溶かし込み終了から結晶成長開始後10分以内に、ルツボの回転を前記溶かし込み時のルツボ回転速度よりも減速させることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
このような本発明によれば、種結晶溶かし込み後のシリコン融液表面の温度を速効性良く低下させることができ、溶かし込み温度が十分高い場合でも、溶かし込み終了後直ちに結晶成長に移行しても、結晶成長後の直径は、高重量結晶を保持するのに必要な直径が維持できるようになる。そのため、溶かし込み温度を高温にして、無転位種付け法の成功率を向上させることが可能となる。
また、前記種結晶を融液に溶かし込む操作において、前記先端部から種結晶直径6mmの範囲までの溶かし込み速度を1mm/min以上10mm/min以下で行うことが好ましい。
このように溶かし込み初期段階の溶かし込み速度を調整することで、溶かし込み温度が高い場合においても種結晶の切り離れを防止することができ、無転位化成功率をより向上させることができる。
また、前記ルツボの回転を減速させる際、前記溶かし込み時のルツボ回転速度よりも0.1rpm以上減速させることが好ましい。
このように、ルツボ回転の減速幅を0.1rpm以上とすることにより、より効果的にシリコン融液表面の温度を低下させることができる。
また、前記ルツボ回転の減速を、減速開始から5分以内に完了することが好ましい。
こうすることで、シリコン融液表面中心温度を素早く低下させ、高重量結晶を保持するのに必要な直径を維持したまま拡径へと移行することができる。
以上説明したように、本発明によれば、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶棒を引上げる際に、ネッキングを不要とする無転位種付け法において、高い無転位化成功率を達成することができ、その再現性も良く、長期安定化させることができる。従って、今後の単結晶棒の大直径化、長尺化、高重量化にも十分適応させることが可能であり、生産性、歩留りならびにコストを著しく改善することができる。
図1は、シリコン単結晶を成長する炉内の一部の概略図である。 図2は、無転位種付け法を示す説明図である。
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述のように、無転位種付け法の成功率を高めることとして重要なのは、種結晶の溶かし込み温度をシリコンの融点よりも高めに設定することというのは周知であったが、高めの温度にすることで、種結晶の溶かし込み終了直後、結晶成長開始までの短時間でシリコン融液の温度が下げられず、結晶成長開始後に直径が細くなり高重量結晶を保持するには強度が不十分になるという問題があった。
本発明者は、無転位種付け法における成功率を高める為に、鋭意検討を重ねた結果、シリコン融液表面温度を従来の温度よりも高めに設定した場合であっても、溶かし込み終了後において、ルツボ回転を調整することにより、レスポンス良く短時間でシリコン融液表面温度を低下させることができることを見出した。
ここで、表1に、ルツボ回転の減速を利用してシリコン融液表面温度を低下させた場合と、加熱用黒鉛ヒーターの電力低下のみでシリコン融液表面温度を低下させた場合の、温度の変化量、温度が変化し始めるまでの時間、及びその温度が安定するまでの時間を比較した結果を示す。
Figure 0005660020
表1に示すように、ルツボ回転の減速を利用した場合は、ルツボ回転の減速直後に温度が低下し始め、その温度が安定するまでの時間も10分程度と非常にレスポンスが良い。それに対して、加熱用黒鉛ヒーターの電力低下のみの場合は、温度が変化し始めるまでにもタイムラグがあり、温度が変化し始めて安定するまでに至っては2時間以上もの時間を要した。変化し始めから変化終了まで温度プロファイルは時間をかけて漸減するので、ルツボ回転の変化を利用した場合に比べてレスポンスが悪い事は明確である。
この知見をもとに、本発明者はルツボ回転の減速により、シリコン融液表面温度が低下すること、低下量の安定性・再現性の良さと、そのレスポンスの良さを無転位種付け法に適用できないかと考えた。そして最終的に、シリコン単結晶棒の成長に際し、ネッキングを行わない無転位種付け法において、それらの条件の無転位化成功率が満足し得る水準に達するかどうかを確認して本発明を完成させた。
以下にその検討結果の詳細を示す。
検討を行う際、本発明者は、種結晶の溶かし込み温度をシリコンの融点よりも高く設定した。具体的には、無転位成功率を高める為に従来から行われている温度(従来温度)よりもさらに5〜15℃高めに設定した。
ここで「従来温度」というのは、特許文献5で記述されているように、「種結晶の溶かし込み終了の位置から結晶成長3mm区間内で、結晶の直径が溶かし込み終了後の直径よりも0.3mm以上2mm以下縮径するような温度」である(以下同様)。
溶かし込みの温度の具体的かつ正確な数字というのは、単結晶成長炉外から温度計などで正確かつ再現性良く測定する必要があるが非常に難しい。単結晶成長炉毎に温度計は設置されているが、その成長炉での相対的な温度を測定するためのものであり、正確な絶対値を示すものではない。溶かし込みの温度は、シリコンの融点より高い事は明らかであるがシリコン融点よりも何℃高いかという具体的数字を示すことはできない。
ここでは、成長炉に設置されている温度計を用いて、従来から行われている温度よりも5〜15℃高い温度に設定した。
そして、ルツボ回転の減速領域や減速幅を調整して、シリコン融液表面温度の測定を行い、どの様な温度変化になるかを測定した。
表2に、ルツボ回転変化パターンとシリコン融液表面温度の変化量、及びルツボ回転変化開始から温度が変化し始める時間とその温度が安定するまでの時間を測定した結果を示す。試験No.1〜10まではルツボ回転を減速(ルツボ回転の停止を含む)させた場合であり、試験No.11〜13まではルツボ回転を加速させた場合の結果である。
Figure 0005660020
ルツボ回転を減速させていくと、2rpm以下の領域で減速させた場合に、シリコン融液表面温度の低下が観察された。2rpmより速い領域のルツボ回転減速域では、シリコン融液表面温度の低下は観察できなかった。また、2rpm以下の領域であっても、加速するとシリコン融液表面温度は上昇してしまった。
温度の低下が観察された2rpm以下の領域に関しては、詳細に減速させる条件を割り振って、シリコン融液表面温度の変化を測定した結果、ルツボ回転が1rpm以下の領域、さらにはルツボ回転が0.5rpm以下の領域において減速させるときにシリコン融液表面温度の低下が大きいということを見出した。
ルツボ回転の減速による温度変化の測定に関しては、単結晶成長炉毎に設置されている二色温度計を用いた。先に述べたように、この温度計はその成長炉の相対的な温度を測定するためのものである。表2に示した試験No.1〜13の結果に関してはある号機での測定結果であるが、その他の複数台の単結晶製造炉においてもほぼ同様な温度変化が観察された。つまり温度変化量(ΔT)はどの号機でも同程度で再現性良く確認されたということである。
さらに、シリコン融液表面温度の低下は、ルツボ回転の減速開始直後に始まり、低下した温度が安定する時間も概ね10分と早いということが分かる。通常、シリコン融液の温度は加熱用黒鉛ヒーターの電力を変化させることで制御している。しかしながら、表1にも示すように、高重量結晶を製造するルツボ内のシリコン融液量は高重量であり熱容量が大きく、そのシリコン融液の温度を短時間で低下させることが困難であり、加熱用黒鉛ヒーターの電力変化に対応したシリコン融液温度の変化はレスポンスが悪い。それに比べてルツボ回転の変化によるシリコン融液表面温度の変化は効き始めだけではなく、安定するまでの時間も早いということがわかる。
これは、加熱用黒鉛ヒーターに近いルツボ壁にある比較的高温なシリコン融液の対流がルツボ中心表面へと流れるのが弱まるために、ルツボ中心表面温度が低下するという現象による。ルツボ中心表面温度の低下は、加熱用黒鉛ヒーターからの熱伝導や熱輻射といった時間を要する温度変化とは異なり、シリコン融液の対流変化であるために、温度変化は速効性が非常に良い。
このようなルツボ回転減速によるシリコン融液表面温度の低下は、速効性が良いために、溶かし込みの最中にルツボ回転を減速すると溶かし込み最中にシリコン融液表面温度が低下し、その結果、種結晶先端が速やかに融解されずに、固体状態でシリコン融液中に沈み込んでしまい、スリップ転位が発生してしまう恐れがある。そのため、ルツボ回転の減速のタイミングは、早くても溶かし込み終了後とする必要がある。また、ルツボ回転の減速のタイミングが遅いと、ルツボ回転の減速によるシリコン融液表面中心温度の低下が間に合わずに、結晶成長後の直径が、高重量結晶を保持するのに必要な直径が維持できなくなる場合が生じるため、ルツボ回転の減速のタイミングは、遅くとも結晶成長開始後10分以内とする必要がある。
以下、本発明のシリコン単結晶の製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、シリコン単結晶を成長する炉内の一部の概略図である。
まず、種結晶ホルダー7に保持された、先端が尖った種結晶5の先端部6をシリコン融液4に接触させる。
ここで、本発明のネッキングを行わない無転位種付け法に使用される種結晶としては、従来から無転位種付け法用として使用されてきた、シリコン融液に接触させる先端部が、尖った形又は尖った先端を切り取った形で、円錐又は角錐形状であり、胴体が円柱又は角柱形状のもの等が好ましい。従って、本発明でいう先端が尖った種結晶とは、これらを含むものである。
シリコン融液4に先端部6を接触させた後、種結晶5を所定の直径の位置、例えば育成する単結晶棒を支持するために必要な最小直径までシリコン融液4に溶かし込む。
この種結晶5を溶かし込む操作は、内側の石英ルツボ1aと、外側の黒鉛ルツボ1b(黒鉛ルツボ1b本体の底部を嵌合して一体的に保持するルツボサポート2を有する)とを組み合わせた二重構造からなりペデスタル3(回転及び昇降が可能な支持軸)の上に載置固定されたルツボ1を、2rpm以下で回転させながら行う。
溶かし込み時のルツボ回転を2rpm以下とするのは、上記表2に示すように、シリコン融液表面温度をルツボ回転の減速を利用して、速効性良く低下させるために適した範囲であるからである。
また、特に限定されるわけではないが、表2に示されるように、特に、ルツボ回転を1rpmから減速、さらにはルツボ回転を0.5rpmから減速させるときにシリコン融液表面温度の低下が大きいため、溶かし込み時のルツボ回転は、0.5rpm以上であればより好ましい。
そして、種結晶5の溶かし込み終了後に、シードワイヤー8の回転9により種結晶5を回転させながらゆっくりと引上げることで、シリコン単結晶の育成を行う。このとき、溶かし込み終了から結晶成長開始後10分以内に、ルツボの回転10を、溶かし込み時のルツボ回転速度よりも減速させる。
溶かし込み終了から結晶成長開始へと移行する間隔をできるだけ短くするため、ルツボ回転の減速は、減速開始から5分以内に完了することが好ましい。
ルツボ回転を、溶かし込み終了から結晶成長開始後10分以内に、溶かし込み時のルツボ回転速度よりも減速させることで、シリコン融液表面の温度を速効性良く低下させることができ、特に、減速開始から5分以内にルツボの減速を完了することにより、溶かし込み温度が十分高い場合でも、溶かし込み終了後直ちに結晶成長に移行しても、結晶成長後の直径は、高重量結晶を保持するのに必要な直径を維持したまま拡径へと移行することができる。
上述のように、加熱用黒鉛ヒーターの電力を下げる手法だけではシリコン融液表面の温度を速効性良く下げる事が不十分であったが、ルツボ回転を減速させることで、種結晶の溶かし込みを行うルツボ中心表面温度を速効性良く低下させることが可能である。
この速効性が良い温度低下を利用することで、溶かし込み温度が十分に高い場合でも、無転位化成功率が向上するとされている「溶かし込み終了後0〜10分の間」に結晶成長に移行することができ、結晶成長後の直径は、高重量結晶を保持するのに必要な直径が維持できるようになる。
もちろん、本発明において、シリコン融液表面の温度を低下させるため、ルツボ回転の減速と、加熱用黒鉛ヒーターの電力低下を同時に行っても良い。
溶かし込み温度を高温化すると、先端が尖った無転位種付け用の種結晶が、シリコン融液との着液から溶かし込みの初期段階において、シリコン融液と切り離れてしまうという場合もある。溶かし込み温度がシリコンの融点近傍の温度であれば、種結晶とシリコン融液とはなじんだ状態となり、切り離れが発生することは無い。しかし、溶かし込み温度を高くすると、着液から種結晶が細い初期段階の溶かし込み時に、種結晶がすばやく溶けてシリコン融液と切り離れてしまう可能性が高くなる。
先端が細い溶かし込み初期段階において種結晶がシリコン融液と切り離れると、種結晶の先端形状は、当初の尖った形状ではなく平らになってしまう。そもそも無転位種付けを成功させるために先端部を尖った形状としてシリコン融液との接触面積を小さくし、種結晶への熱衝撃や急激な温度勾配を防止しスリップ転位を導入しないようにすることが目的であったが、溶かし込み中に切り離れてしまい先端が平らになってしまった種結晶では、先端の断面積はまだ十分に小さいと言えども、再度そのまま溶かし込みを継続すれば、平らになった先端からスリップ転位が導入される可能性が高まり、無転位種付けの成功率低下の要因になることは明らかである。
そのため、このような場合には、種結晶を融液に溶かし込む操作において、先端部6から種結晶直径6mmの範囲までの溶かし込み速度を1mm/min以上10mm/min以下で行えば良い。
その後さらに種結晶を溶かし込む場合には、溶かし込み速度は、高速にする必要がなく、例えば0.5mm/min以上5mm/min以下とすれば良い。
ここで、表3に溶かし込み温度と、種結晶先端から結晶直径6mmまでの溶かし込み速度と、その条件下での溶かし込み中の種結晶切れ発生率をまとめた結果を示す。
Figure 0005660020
表3に示されるように、従来温度よりも5〜15℃高い温度での溶かし込みの場合、溶かし込み温度が高いほど溶かし込み中の種結晶切れは発生しやすくなる傾向にはあるが、溶かし込み速度を1mm/min以上とすることで、種結晶の細い初期段階の溶かし込みにおいても、溶かし込み中に種結晶切れが発生する確率を低く抑えることができる。溶かし込み温度が高い場合でも、溶かし込み速度を高速にする程、溶かし込み時の種結晶切れ減少させることができるため、溶かし込み速度を調整することにより、溶かし込み温度の高温化にも対応できる。
また、溶かし込み速度が10mm/min以下であれば、融液表面で速やかに種結晶が溶融されるため、固体の状態でシリコン融液中に沈み込んでしまいスリップ転位が導入されるということもなく、無転位化成功率をより向上させることができる。
このように、特に融液面上の温度がシリコンの融点よりも十分高い範囲で種結晶を融液に溶かし込む操作を行う時において、溶かし込みの初期段階である種結晶直径が6mm以下の細い段階の溶かし込み速度を、1mm/min以上10mm/min以下の範囲で行えば、種結晶の着液から溶かし込み初期段階において、種結晶がシリコン融液と切り離れてしまうことを回避できる。種結晶がシリコン融液と切り離れてしまうと、種結晶の先端形状は、当初の尖った形状ではなく平らになってしまい、そのような種結晶で再度溶かし込みを継続した場合、種結晶への熱衝撃や急激な温度勾配によるスリップ転位の導入される可能性が高まり、無転位種付けの成功率低下に繋がるが、溶かし込み速度を調整することにより、これを回避できる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例・比較例]
表4に示す条件で、無転位種付け法によりシリコン単結晶を製造した。
表4に、無転位種付け法でコーン拡径300mmまで成長させた時の無転位化成功率を示す。
なお、ここで言う「無転位化成功率」とは、コーン拡径300mmまでの成長時の晶癖線の有無で、晶癖線が成長途中で無くなったものは、単結晶化が破綻したとみなしている。試行回数に対するコーン拡径300mmまでの無転位化の成功率を表した値である。本実施例、比較例での試行回数は、20回とした。
また、種結晶先端部から種結晶直径6mmの範囲までの溶かし込み速度を「溶かし込み速度」とし、溶かし込み直径8mmと10mmのものについては、6mm以降の範囲の速度は溶かし込み直径が6mmのときの溶かし込み速度を維持し、溶かし込み終了後すぐに結晶成長を開始した。
Figure 0005660020
表4では、溶かし込み温度を2水準、溶かし込み速度を2水準、溶かし込み完了後のルツボ回転の設定を2水準、溶かし込み直径を3水準試行したときの無転位化成功率を示している。
表4に示されるように、従来温度で、溶かし込み速度が0.8mm/min、溶かし込み終了後のルツボ回転が0.5rpm一定の場合(比較例1〜3)、溶かし込み直径6mm、8mmのときには70%以上の無転位化成功率が得られた。しかし、溶かし込み直径が10mmでは無転位化成功率は大きく低下してしまった。溶かし込み直径が10mmと太い場合に成功率が低下した理由は、従来温度というのが十分に高くないために、徐々に太くなる溶かし込み終盤において、融液表面で種結晶が速やかに溶融されなくなり、固体の状態でシリコン融液中に沈み込んでしまいスリップ転位が導入され、無転位化成功率が低下してしまったものと考えられる。
溶かし込み温度を従来温度に対して10℃高く設定した場合で、溶かし込み速度が0.8mm/min、溶かし込み終了後のルツボ回転が0.5rpm一定(比較例4〜6)では、結晶成長開始直後に直径が5mm以下となってしまい、高重量結晶を保持するには強度が不十分である直径のため、失敗と判断し、コーン拡径は中止とした。すなわち単純に溶かし込み温度を高く設定するだけでは、無転位化成功率の向上は見込めないということである。
溶かし込み温度を従来温度に対して10℃高く設定した場合で、溶かし込み速度が0.8mm/min、溶かし込み終了後のルツボ回転を1.0から0.1rpmに減速した条件(実施例1〜3)においては、結晶成長開始後も直径が細くなりすぎてしまうという不具合が発生せず、溶かし込み直径3水準全てにおいて無転位化成功率90%以上と良好であった。溶かし込み温度を高温化すると無転位化成功率が向上するということが、ここでも確認できた。
さらに、溶かし込み温度を従来温度に対して10℃高く設定した場合で、溶かし込み速度を5mm/minから1mm/min、溶かし込み終了後のルツボ回転を1.0から0.1rpmに減速した条件(実施例4〜6)においては、溶かし込み温度を高く設定したにも関わらず、溶かし込み中の種結晶切り離れの発生は無く、溶かし込み直径3水準全てにおいて、無転位化成功率を95%以上にまで向上することができた。
以上のように、単純に溶かし込み温度を高温化すると結晶成長開始後の直径が細くなるという副作用が発生するので、その対策として溶かし込み完了後のルツボ回転変化によるシリコン融液温度の変化を利用することで、副作用は回避できかつ、溶かし込み温度の高温化による無転位化成功率の向上という効果を得ることができる。また、溶かし込み速度を調整することにより、無転位化成功率をより向上させることが可能である。
溶かし込み温度の高温化によるメリットは、特に溶かし込み直径が太いときに大きく効果を発揮する。これは先程述べたように、太い直径の溶かし込み時は、融液表面で種結晶が速やかに溶融されなくなり、固体の状態でシリコン融液中に沈み込んでしまいスリップ転位が導入されやすくなるために、高温での溶かし込みがこれを回避するのに効果的であったことを示している。次世代直径450mm結晶のような超高重量結晶においては、1トンを超える結晶重量を想定することになり、この場合保持に必要な最小直径は10mm以上が要求されることになる。最小直径が10mmを要求される場合、当然種結晶の溶かし込みは直径10mm以上となる。こういった場合、特に本発明は有効性を発揮し、結晶成長開始後に直径が細くなり高重量結晶を保持するには強度が不十分になることを防止することができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
例えば、本発明の実施形態では、直径300mmのコーン拡径部を成長させているが、今後想定される〜400mm(16インチ)への大直径化、さらにはその先の直径450mm結晶のような超高重量結晶にも十分対応することができる。本発明では、ネッキングを行わず、転位も発生しないので、シリコン単結晶自体の物性の限界値以下であれば、結晶保持装置等の複雑な装置を用いることなく、原則としていかなる直径、長さ、重量の単結晶棒の引上げであっても当然に適用することができる。
さらに、本発明は、通常のチョクラルスキー法のみならず、シリコン単結晶の引上げ時に磁場を印加するMCZ法(Magnetic field applied Czochralski crystal growth method)にも同様に適用できる。
1…ルツボ、 1a…石英ルツボ、 1b…黒鉛ルツボ、 2…黒鉛ルツボサポート、
3…ペデスタル、 4…シリコン融液、 5…種結晶、 6…種結晶の先端部、
7…種結晶ホルダー、 8…シードワイヤー、 9…シードワイヤーの回転、
10…ルツボの回転、 T…シリコン融液表面温度(℃)、
D…溶かし込み直径(mm)、 Vdown…溶かし込み速度(mm/min)、
Vup…溶かし込み完了後の結晶成長速度(mm/min)。

Claims (4)

  1. チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造する方法であって、先端が尖った種結晶の該先端部をシリコン融液に接触させた後、前記種結晶を所定の直径の位置までシリコン融液に溶かし込み、その後、ネッキングを行うことなく単結晶成長を行うシリコン単結晶の製造方法において、前記種結晶を融液に溶かし込む操作を、ルツボを2rpm以下で回転させながら行い、溶かし込み終了から結晶成長開始後10分以内に、ルツボの回転を前記溶かし込み時のルツボ回転速度よりも減速させることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
  2. 前記種結晶を融液に溶かし込む操作において、前記先端部から種結晶直径6mmの範囲までの溶かし込み速度を1mm/min以上10mm/min以下で行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
  3. 前記ルツボの回転を減速させる際、前記溶かし込み時のルツボ回転速度よりも0.1rpm以上減速させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
  4. 前記ルツボ回転の減速を、減速開始から5分以内に完了することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
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