JP5645573B2 - 内燃機関のノック制御装置 - Google Patents

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Description

この発明は、内燃機関に発生するノックを制御するためのノック制御装置に関する。
従来から、内燃機関に発生するノック現象を、内燃機関のブロックに直接取り付けられた振動センサ(以下、ノックセンサと称する)により検出する方法が知られている。これは、内燃機関の運転中にノックが発生すると、内燃機関のボア径やノックの振動モードに応じて固有の周波数帯の振動が発生することが知られており、この固有周波数の振動強度を測定することでノック検出を行うものである。
又、ノック検出時には点火時期を遅角側へ補正することでノックを抑制し、ノック非検出時には点火時期を進角側に復帰することでトルク低下を最小限に抑えるノック制御方法が知られている。これは、内燃機関の特性として、点火時期を進角させると内燃機関の出力トルクは向上するがノックは発生し易くなり、逆に点火時期を遅角させると内燃機関の出力トルクは低下するがノックは発生しにくくなることが知られており、ノック検出時には点火時期を遅角側に補正し、ノック非検出時には進角側に復帰することで、ノックの発生を抑制しつつ最もトルクが発生するノック限界点火時期にて内燃機関を運転するよう制御するものである。但し、内燃機関が低負荷で運転されている場合等に於いては、トルクが最大となる点火時期まで進角してもノックが発生しない場合があり、このような運転領域では前述のノック制御は不要である。
このようなノック制御を行う場合、ノック検出時には確実にノックを抑制し、ノック非検出時のトルクの低下も最小限に抑えるための点火時期補正方法が必要である。特に、現在では内燃機関の燃費向上のため圧縮比が高く設定される(ノックが発生しやすくなる)傾向にあり、このようなノック制御はますます重要となっている。従来、その方法として、ノック非検出時に進角側への復帰速度を変化させることで、トルク低下を最小限に抑制する方法や、遅角側へ点火時期が補正されている場合にノックを検出した際には、更なる遅角側への点火時期補正量を減少させる方法等が提案されている。
即ち、特許文献1には、ノック検出時には点火時期を所定量遅角補正し、ノック非検出時には点火時期補正量の大きさが所定値より大きい場合には進角側への復帰速度を大きくし、所定値より小さい場合には進角側への復帰速度を小さくするようにした内燃機関の点火時期制御方法が開示されている。
又、特許文献2には、ノック検出時のノック強度とその時の遅角補正量の大きさに応じて遅角補正量を算出し、ノック非検出時には時間経過と共に進角側への復帰速度を減少させるようにした内燃機関の点火時期制御装置が開示されている。
更に、特許文献3には、ノック検出時の遅角補正量やノック非検出時の復帰速度を点火時期と学習値に応じて変更するようにした内燃機関のノック制御装置が開示されている。
特公平3−20593号公報 特開昭63−80074号公報 特開2005−127154号公報
前述の特許文献1に開示された従来の方法によれば、過遅角状態から進角側へ復帰する際には復帰速度が一定の場合に比べトルクダウン量を抑えることができるという効果が得られるが、ノック検出時に点火時期を所定量遅角補正しているため、ノックの大きさによっては、遅角補正量が不足してノックが連続発生する場合や、遅角補正量が過多となり必要以上にトルクダウンやトルク変動が発生する場合があるという課題があった。又、進角側への復帰速度を変更する点火時期補正量の大きさの適合が必要であるという課題もあった。
又、特許文献2に開示された従来の装置によれば、ノック強度とその時の遅角補正量の大きさに応じた遅角補正量が得られるため、適正な遅角補正量が得られるという効果が得られるが、ノック限界点火時期近傍に於いて突発的に発生する大ノックに対しては、ある程度の効果は得られると考えられるものの、依然として遅角補正量が過多となり、必要以上にトルクダウンが発生する場合があるという課題があった。又、進角側への復帰速度を時間により減少させると、遅角補正量が過多の場合には進角側への復帰が遅れ、必要以上にトルクダウンが発生する場合があるという課題もあった。
更に、前述の通り、現在内燃機関の燃費向上のため圧縮比を高く設定される場合があるが、高圧縮比の内燃機関(例えば、圧縮比14程度)においては通常圧縮比の内燃機関(例えば、圧縮比10程度)に比べノックが発生しやすいため、基本点火時期がトルク特性の勾配が急峻な遅角側に設定される傾向にある。このため高圧縮比の内燃機関においては、ノック検出時にノック強度に基づいて遅角補正量を算出すると、通常圧縮比の内燃機関にて同様に算出した場合に比べトルクダウン量が大きくなってしまう傾向にある。このように、高圧縮比の内燃機関では通常圧縮比の内燃機関に比べ、同じ遅角補正量でもトルクダウン量が大きくなり易い、つまり遅角過多となり易い、という課題もあった。
更に、特許文献3に開示された従来の装置に於いても、特許文献1及び2に開示された従来の方法若しくは装置と同様の課題があった。
この発明は、従来の方法若しくは装置に於ける前述のような課題を解決するためになされたもので、内燃機関のノック検出時にはノックを抑制するための適正なノック補正量を算出し、ノック非検出時には必要以上にトルクダウンが発生しないようにノック補正量を復帰させて点火時期を制御するようにした内燃機関のノック制御装置を提供することを目的とする。
この発明による内燃機関のノック制御装置は、内燃機関の振動を検出するノックセンサと、前記ノックセンサの出力に基づいて前記内燃機関のノック発生の有無を判定するノック判定部と、前記ノック判定部によりノック発生ありと判定された場合に発生したノックの強度に基づいて前記内燃機関の点火時期を遅角側へ移動させるノック補正量を演算し、前記ノック判定部によりノック発生なしと判定された場合に前記ノック補正量を進角側へ復帰させるノック補正量演算部とを備えた内燃機関のノック制御装置であって、前記ノック補正量演算部は、前記遅角側へのノック補正量の値が所定値以上となった場合に前記ノック補正量を前記所定値に制限して保持し、前記発生したノックの強度に基づいて算出した所定時間後に前記制限したノック補正量を前記進角側へ復帰させることを特徴とするものである。
この発明による内燃機関のノック制御装置は、望ましくは、前記ノックの発生時に、前記発生したノックの強度に応じてカウント値が設定されるカウンタ部を備え、前記所定時間を、前記ノックの発生時点から前記カウント部のカウント値が所定値に達するまでの時間とするように構成される。
この発明による内燃機関のノック制御装置によれば、内燃機関の振動を検出するノックセンサと、前記ノックセンサの出力に基づいて前記内燃機関のノック発生の有無を判定するノック判定部と、前記ノック判定部によりノック発生ありと判定された場合に発生したノックの強度に基づいて前記内燃機関の点火時期を遅角側へ移動させるノック補正量を演算し、前記ノック判定部によりノック発生なしと判定された場合に前記ノック補正量を進角側へ復帰させるノック補正量演算部とを備えた内燃機関のノック制御装置であって、前記ノック補正量演算部は、前記遅角側へのノック補正量の値が所定値以上となった場合に前記ノック補正量を前記所定値に制限して保持し、前記発生したノックの強度に基づいて算出した所定時間後に前記制限したノック補正量を前記進角側へ復帰させるように構成したので、ノック検出時にはノック強度に基づいてノック遅角量を算出することで適正なノック補正量が得られ、更に、ノック補正量を所定値にて制限して保持することで必要以上のトルクダウンを防止することが可能となると共に、強いノック発生後に連続して強いノックが発生することを防止することが可能となる。
又、この発明による内燃機関のノック制御装置によれば、望ましくは、前記ノックの発生時に、前記発生したノックの強度に応じてカウント値が設定されるカウンタ部を備え、前記所定時間を、前記ノックの発生時点から前記カウント部のカウント値が所定値に達するまでの時間とするように構成することで、制限したノック補正量を進角側へ復帰させる所定時間を容易に設定することができる。
この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置を適用した内燃機関を概略的に示す構成図である。 この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置の構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置に於ける、ノック制御部の構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置の動作を示すフローチャートである。 この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するタイムチャートである。
この発明の実施の形態2による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するフローチャートである。 この発明の実施の形態2による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するタイムチャートである。 この発明の実施の形態3による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するフローチャートである。 この発明の実施の形態3による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するタイムチャートである。
実施の形態1.
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置について詳細に説明する。図1は、この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置を適用した内燃機関を概略的に示す構成図である。尚、自動車等車両用の内燃機関は、通常、複数のシリンダ及びピストンを備えているが、図1では説明の便宜上、一つのシリンダ及びピストンのみを示している。
図1に於いて、内燃機関1の吸気系100の上流側にはエアフィルタ50が設けられ、その下流側にエアフィルタ50を介して吸入した空気を貯留するサージタンク5が設けられている。サージタンク5は、インテークマニホールド51を介して内燃機関1の複数のシリンダに連結されている。
サージタンク50の上流側に設けられた電子制御式スロットルバルブ2は、電子的に開度が制御されて吸気系100の吸入空気流量を調整する。この電子制御式スロットルバルブ2の上流側に設けられたエアフローセンサ4は、吸気系100に於ける吸入空気流量を測定し、その測定値に対応した吸入空気量信号を出力する。
スロットル開度センサ3は、電子制御式スロットルバルブ2の開度を測定し、その測定値に対応したスロットルバルブ開度信号を出力する。尚、電子制御式スロットルバルブ2の代わりに図示しないアクセルペダルに直接ワイヤで繋がれた機械式スロットルバルブを用いてもよい。
サージタンク5に設けられたインテークマニホールド圧力センサ(以下、単に、インマニ圧センサと称する)6は、サージタンク5内の吸気圧、従ってインテークマニホールド51内の吸気圧を測定し、その測定値に対応するインテークマニホールド圧力信号(以下、単に、インマニ圧信号と称する)を出力する。尚、この実施の形態1では、エアフローセンサ4とインマニ圧センサ6との両方を設けているが、何れか一方のみを設けるようにしても良い。
サージタンク5の下流の吸気ポートに設けられた吸気バルブ71は、可変吸気バルブ機構7によりその開閉タイミングが可変制御される。又、吸気ポートには燃料を噴射するインジェクタ8が設けられている。尚、インジェクタ8は内燃機関1のシリンダ内に直接噴射できるように設けられてもよい。
内燃機関1のシリンダヘッドにはシリンダ内の混合気に点火するための点火コイル9と、この点火コイル9と一体に形成された点火プラグ10が設けられている。又、内燃機関1のクランク軸には、周面に定められた間隔で設置された複数のエッジを備えたプレート110が設けられている。クランク角センサ11は、プレート110のエッジに対向して設けられ、クランク軸と共に回転するプレート110のエッジを検出し、夫々のエッジの設置間隔に同期したパルス信号を出力する。内燃機関1に設けられたノックセンサ12は、内燃機関1の振動に基づく振動波形信号を出力する。
シリンダの排気ポートに設けられた排気弁81は、開弁することによりシリンダ内から排気ガスを排気系200に排出させる。排気系200の下流側には、排気ガスを浄化する触媒装置(図示せず)が設けられている。
図2は、この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置の構成を示すブロック図である。図2に於いて、内燃機関1の電子制御ユニット(以下、ECUと称する)は、マイクロコンピュータ等の演算装置により構成され、エアフローセンサ4から出力された吸入空気流量信号と、インマニ圧センサ6から出力されたインマニ圧信号と、スロットル開度センサ3から出力されたスロットルバルブ開度信号と、クランク角センサ11から出力されたプレート110のエッジの設置間隔に同期したパルス信号と、ノックセンサ12から出力された内燃機関1の振動波形信号が夫々入力される。
又、ECU13には、前述の各信号以外の図示していない他の各種センサ300からも夫々の測定値に対応した信号が入力され、更に、例えば、自動変速機制御システム、ブレーキ制御システム、トラクション制御システム等の他のコントローラ400からの信号も入力される。
ECU13は、アクセル開度や内燃機関1の運転状態等を基にして目標スロットル開度を算出し、その算出した目標スロットル開度に基づいて電子制御式スロットルバルブ2の開度を制御する。又、ECU13は、内燃機関1の運転状態に応じて、可変吸気バルブ機構7を制御して吸気バルブ71の開閉タイミングを可変制御すると共に、目標空燃比を達成するようにインジェクタ8を駆動して燃料噴射量を制御し、更に、目標点火時期を達成するように点火コイル9への通電を制御して点火時期を制御する。
又、ECU13は、後述のようにして内燃機関1のノックを検出した場合には、目標点火時期を遅角側(リタード側)に設定することでノックの発生を抑制する制御も行う。更に、前述以外の各種アクチュエータ500を制御するための指示値を算出し、その指示値に基づいて各種アクチュエータ500を制御する。
次に、ECU13内に構成されているノック制御部の構成、及びその動作について説明する。図3は、この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置に於けるノック制御部の構成を示すブロック図である。図3に於いて、ECU13内に構成されたノック制御部は、各種のI/F回路131と、マイクロコンピュータ132から構成されている。各種のI/F回路131に於けるノック制御用のI/F回路は、ノックセンサ12から出力された内燃機関1の振動波形信号を受け、その振動波形信号から高周波成分を除去するローパスフィルタ(以下、LPFと称する)14により構成されている。
マイクロコンピュータ132は、全体としては、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、制御プログラムや制御定数を記憶しておくROM領域と、プログラムを実行した際の変数を記憶しておくRAM領域等から構成されているが、ノック制御部の構成としては、A/D変換器15と、DFT処理部16と、ピークホールド部17と、平均化処理部18と、スレッショルド演算部19と、比較演算部20と、1点火毎遅角量演
算部21と、ノック補正量演算部22とを備える。
LPF14は、前述したようにノックセンサ12から出力された内燃機関1の振動波形信号を受け、その振動波形信号から高周波成分を除去するが、A/D変換器15にて全振動成分を取り込むために、例えば、2.5[V]のバイアスを加えることにより、振動成分の中心を2.5[V]にしておき、2.5[V]を中心として、0〜5[V]の範囲に振動成分が収まるように構成されている。尚、LPF14には、ノックセンサ12からの振動波形信号の振動成分が小さい場合には、2.5[V]を中心に増幅し、大きい場合には2.5[V]を中心に減少させるゲイン変換機能も含まれている。
A/D変換器15は、I/F回路14により高調波成分が除去されたノックセンサからの振動波形信号をデジタル信号に変換する。このA/D変換器15によるA/D変換は、一定の時間間隔、例えば、10[μs]や20[μs]等毎に実行される。
尚、A/D変換器15は、LPF14からのアナログ信号に対して常時A/D変換を行い、内燃機関1にノックが発生する期間、例えば、ピストンの上死点(Top Death Center:以下、TDCと称する)から上死点後(After Top Death Center:以下、ATDCと称する)50°CA、等に設定されたノック検出期間のデータのみをDFT処理部16以降へ送るようにしても良く、或いは、例えばTDCからATDC50°CAに設定されたノック検出期間のみA/D変換を行い、そのデータをDFT処理部16以降へ送るようにしても良い。
DFT処理部16は、A/D変換器15からのデジタル信号に対して、時間−周波数解析を行う。具体的には、例えば、離散フーリエ変換(DFT)若しくは短時間フーリエ変換(STFT)等の処理により、所定時間毎のノック固有周波数成分のスペクトル列を算出する。尚、DFT処理部16によるデジタル信号処理としては、無限インパルス応答(IIR)フィルタや有限インパルス応答(FIR)フィルタを用いてノック固有周波数成分を抽出するようにしてもよい。
DFT処理部16は、A/D変換器15による前述のノック検出期間に於けるA/D変換の完了後に処理を開始し、後述するピークホールド部17からノック補正量演算部22による処理を実施するクランク角同期の割り込み処理、例えば、上死点前(Before Top Death:以下、BTDCと称する)75°CAでの割込み処理までに処理を終了する。
ピークホールド部17では、DFT処理部16にて算出したスペクトル列のピークホールド値を算出する。平均化部18は、次に示す式(1)を用い、内燃機関の行程毎にピークホールド部17により算出されたピークホールド値に対するフィルタ処理を行いピークホールド値の平均化を行う。

VBGL(n)=K1×VBGL(n−1)+(1−K1)×VP(n)
・・・・・・・式(1)

VBGL(n):フィルタ値、VP(n):ピークホールド値
K1:フィルタ係数、n:行程数

フィルタ係数K1としては、例えば、「0.95」程度の値を用いて、ピークホールド値V(n)の高周波成分を除去する。
続くスレッショルド演算部19に於いて、次に示す式(2)によりノック判別のためのスレッショルド値を得る。

VTH(n)=VBGL(n)×Kth+Vofs ・・・・・・・・・・式(2)

VTH(n):スレッショルド値、Kth:スレッショルド係数
Vofs:スレッショルドオフセット、n:行程数

スレッショルド係数Kth、及びスレッショルドオフセットVofsは、ノックが発生しない場合はスレッショルド値VTH(n)がピークホールド値VP(n)より大きく、ノックが発生した場合はスレッショルド値VTH(n)がピークホールド値VP(n)より小さくなるよう、適合により設定される。
比較演算部20は、ピークホールド部17により算出されたピークホールド値VP(n)とスレッショルド演算部19により演算されたスレッショルド値VTH(n)とを比較し、次に示す式(3)によりノック発生の有無を判別し、ノック強度VK(n)に応じた信号を出力する。

VK(n)=max{VP(n)−VTH(n),0} ・・・・・・・・式(3)

VK(n):ノック強度、n:行程数

比較演算部20は、式(3)による演算の結果、[VK(n)>0]の時にノック有りと判定する。
1点火毎遅角量演算部21は、比較演算部20にて算出したノック強度VK(n)と1点火毎遅角量の最大値とから、後述する方法により1点火毎のノック強度に応じた遅角量(以下、1点火毎遅角量と称する)ΔθR(n)を演算する。
ノック補正量演算部22は、ノック発生時には1点火毎遅角量演算部21により演算した1点火毎遅角量ΔθR(n)を積算し、ノック発生がない場合には進角復帰量を積算することで点火時期のノック補正量θR(n)を演算する。尚、このノック補正量θR(n)の演算の詳細については後述する。
ECU13に於けるマイクロコンピュータ132は、前述のようにして演算されたノック補正量θR(n)を用いて、最終点火時期を次に示す次(4)により算出する。

θIG(n)=θB(n)+θR(n) ・・・・・・・・・・・・・・式(4)

θIG(n):最終点火時期、θB(n):基本点火時期

尚、ここでは、1点火毎遅角量ΔθR(n)、ノック補正量θR(n)、基本点火時期θB(n)、最終点火時期θIG(n)の何れも、進角側を正、遅角側を負としている。
以上、ECU13内に構成されているノック制御部の構成について説明した。次に、前述の1点火毎遅角量演算部21による1点火毎遅角量ΔθR(n)の演算処理、及びノック補正量演算部22によるノック補正量θR(n)の演算処理の詳細について説明する。図4は、この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置の動作を示すフローチャートで、特に、1点火毎遅角量演算部及びノック補正量演算部に於ける処理を示している。図4に示す処理は、前述の通りクランク角同期の割り込み処理、例えば、BTDC75°CAでの割込み処理、により実施される。
図4に於いて、先ず、ステップS101ではノック強度VK(n)を算出する。このノック強度VK(n)の算出は、前述の比較演算部20及び式(3)により行われる。続くステップS102では、クリップカウンタClpCnt(n)のダウンカウントを実施する。このクリップカウンタClpCnt(n)は、ノック補正量のクリップを継続する時間をカウントするダウンカウンタであり、この発明の実施の形態1に於けるカウンタ部を構成する。
続くステップS103に於いて、比較演算部20にて前述したようにノック強度VK(
n)が「0」より大きいか否かに基づいてノックの有無を判定する。ステップS103で
の判定の結果、[VK(n)>0]でありノックありと判定された場合(Yes)は、ステップS104へ進み、ノックなしと判定された場合(No)はステップS112へ進む。
ステップS103に於いてノックありと判定され(Yes)、ステップS104へ進むと、ステップS104では、1点火毎遅角量演算部21により1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)を次に示す式(5)により算出する。

ΔθR0(n)=−VK(n)/VTH(n)×Kg ・・・・・・・式(5)

ΔθR0(n):1点火毎遅角量初期値、Kg:遅角量反映係数

尚、ここでは、1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)は遅角方向への補正量であるため負値としている。遅角量反映係数Kgは、例えば、ノック限界点火時期より「2」degCA進角してノックが発生した場合に、1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)として、「−2」degCA程度が算出されるよう適合により設定される。
続くステップS105では、1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)と1点火毎遅角量最大値ΔθRmaxとを比較してクリップ有無の判定を実施する。1点火毎遅角量最大値ΔθRmaxは、トルク低下量が大きくならず、又、遅角量が大幅に不足することがないように、例えば、「−1」degCA乃至「−3」degCA程度の値に設定される。クリップ有無の判定は、前述したように1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)は遅角方向への補正量であるため負値としているので、[ΔθR0(n)<ΔθRmax]が成立したときにクリップありと判定する。
ステップS105での判定の結果、クリップありと判定された場合(Yes)には、ステップS106へ進み、1点火毎遅角量ΔθR(n)に1点火毎遅角量最大値ΔθRmaxを代入して[ΔθR(n)=ΔθRmax]とし、続くステップS107に於いて前回のノック補正量θR(n−1)と1点火毎遅角量ΔθR(n)とからノック補正量θR(n)を、[θR(n)=ΔθR(n−1)+ΔθR(n)]として更新する。
次に、ステップS108に於いて、更新したノック補正量θR(n)をノック補正量クリップ値θRclpとして保持し、続くステップS109に於いて、ノック強度VK(n)とクリップ時間反映係数Kcとにより、[ClpCnt(n)=VK(n)×Kc]としてクリップカウンタClpCnt(n)の初期値を算出し、処理を終了する。
尚、クリップ時間反映係数Kcは、例えば、ノック限界点火時期より4degCA進角してノックが発生した場合に算出されるノック強度VK(n)の平均値に対して「2」秒程度となるように、適合により設定される。
次に、ステップS105による判定の結果、クリップなしと判定された場合(No)、
即ち、前述したように1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)は遅角方向への補正量であるため負値としていることにより[ΔθR0(n)<ΔθRmax]が不正立の場合(No)には、ステップS110へ進んで、1点火毎遅角量ΔθR(n)に1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)を代入して[ΔθR(n)=ΔθR0(n)]とし、続くステップS111に於いて前回のノック補正量θR(n−1)と1点火毎遅角量ΔθR(n)とから、ノック補正量θR(n)を[θR(n)=ΔθR(n−1)+ΔθR(n)]として更新し、処理を終了する。
以上のようにして、ステップS103にてノックありと判定された場合のノック補正量θR(n)の演算が実施される。
次に、前述のステップS103にてノックなしと判定された場合(No)について説明する。ステップS103からステップS112に進むと、クリップカウンタClpCnt(n)のカウント値が「0」であるかどうかの判定を実施する。その判定の結果、クリップカウンタClpCnt(n)のカウント値が「0」であれば(Yes)、ノック補正量クリップ値の保持は不要となるのでステップS113に進んでノック補正量クリップ値θRclpを「0」にクリアしてステップS114へ進む。
ステップS112での判定の結果、クリップカウンタClpCnt(n)が「0」でなければ(No)、ノック補正量クリップ値θRclpを保持したままステップS114へ進む。ステップS114では、前回のノック補正量θR(n−1)とノック補正量進角復帰量Ka(正値)とから、ノック補正量θR(n)を[θR(n)=min{ΔθR(n
−1)+Ka,θRclp}]として更新するが、その値はノック補正量クリップ値θR
clpによりクリップされる。ノック補正量進角復帰量Kaは、例えば、2秒間又は200行程で1degCA程度進角する値に設定される。
以上のようにして、ステップS103にてノックなしと判定された場合のノック補正量θR(n)の演算が実施される。
図5は、この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するタイムチャートであって、特に、前述の図4のフローチャートに従って説明したノック補正量θR(n)を演算した場合の動作を示している。尚、以下の説明に於いて、小ノックとはノック補正量がクリップ値に掛からない場合、大ノックとはノック補正量がクリップ値に掛かる場合を夫々意味する。
図5に於いて、例1は、小ノックX1によるノック補正量と大ノックX2によるノック補正量が重複しない場合の例である。例1の場合、ノック補正量がクリップ値により時点t1でクリップされるが、そのクリップされた時点t1でクリップカウンタがセットされ、クリップカウンタが「0」になる時点t2までノック補正量がそのクリップ値に保持される。
図5に於ける例2は、大ノックX3と小ノックX4が連続で検出された場合の例である。この場合、大ノックX3の検出した時点t3でノック補正量がクリップされると同時にクリップカウンタがセットされ、時点t5にてそのクリップカウンタが「0」となる。時点t3とt5との間では、ノック補正量はクリップ値に保持される。そしてノック補正量がクリップされている時点t3とt5との間の時点t4に於いて小ノックX4が検出されると、更にノック補正が行われるが、既にノック補正量のクリップ中であり、この場合にはクリップ値までしか進角しない。
図5に於ける例3は、大ノックX5、X6がt6、t7にて連続して検出された場合の
例である。この場合、大ノックX5の検出時点t6に於いてノック補正量がクリップ値にクリップされ、且つ同時にクリップカウンタがセットされるが、次の大ノックX6の検出時点t7に於いてクリップ値が更新され、ノック補正量はその更新されたクリップ値によりクリップされる。又、その時点t7に於いてクリップカウンタが更新され、更新された時点t8に於いて「0」となる。即ち、ノック補正量は、時点t6〜t7の間では最初のクリップ値に保持され、時点t7〜t8の間では更新されたクリップ値に保持されることとなる。
この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置によれば、前述のようにしてノック補正量の演算を実施することにより、ノック検出時のノック強度に応じたノック補正量の算出ができ、更に、突発的に発生する大ノックに対しても、ノック補正量を所定値に制限して保持することで、必要以上のトルクダウンやトルク変動の発生を抑制することができる。
更に、この発明の実施の形態1による内燃機関のノック制御装置によれば、ノック補正量をクリップ値に保持している間には筒内の温度も低下するため、進角復帰時に再度突発的な大ノックが発生する可能性も少なくなる。又、点火時期がノック限界点火時期より大きく進角していた場合はノック補正量を制限するのでノック補正量が足りず連続してノックが発生することも考えられるが、一般的には点火時期がノック限界点火時期近傍となるように点火時期が制御されているので、ノック補正量のクリップ値を適切に設定しておけば連続してノックが発生する可能性は少ないと考えられる。
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2による内燃機関のノック制御装置について説明する。実施の形態2による内燃機関のノック制御装置の構成は、前述の実施の形態1に於ける図1乃至図3と同様であるが、実施の形態2では図3に於ける1点火毎遅角量演算部21による1点火毎の遅角量ΔθR(n)の演算、及びノック補正量演算部22によるノック補正量θR(n)の演算の仕方が、実施の形態1の場合とは異なる。
又、実施の形態1ではノック補正量クリップ値の保持時間を適合する必要があるが、実施の形態2では実施の形態1で用いたクリップカウンタを使用せず、ノック検出時に所定値に制限して保持することを実施しなかった場合、つまり従来技術で制御した場合、に想定される仮想ノック補正量を算出し、この仮想ノック補正量と所定値に制限して保持することを実施したノック補正量との進角側の値を最終的なノック補正量とすることにより、クリップ値の保持時間の適合を不要としたことを特徴とする。これにより、従来技術で制御した場合とこの発明の実施の形態2により制御した場合とで、ノック検出後にノックが発生した点火時期まで進角復帰する時間を同じにすることが容易に出来るようになり、従来の装置と同等のノック制御性を確保しながら、必要以上のトルクダウンやトルク変動の発生を抑制することが出来るようになる。換言すれば、実施の形態2ではクリップカウンタの代わりに仮想ノック補正量を用いるとも言える。
以下、この発明の実施の形態2による内燃機関のノック制御装置について詳細に説明する。図6は、この発明の実施の形態2による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するフローチャートであり、特に、1点火毎遅角量演算部及びノック補正量演算部に於ける処理を示している。図6に示す処理は、実施の形態1の場合と同様にクランク角同期の割り込み処理、例えば、BTDC75°CAでの割込み処理、により実施される。
図6に於いて、先ず、ステップS201ではノック強度VK(n)を算出する。このノック強度VK(n)の算出は、前述の図3に示す比較演算部20及び式(3)により行われる。続くステップS202では、ノック強度VK(n)に基づいてノックの有無を判定す
る。即ちノック強度VK(n)が「0」より大きいか否かによりノックの有無を判定する。ステップS202での判定の結果、[VK(n)>0]でありノックありと判定された場合(Yes)は、ステップS203へ進み、ノックなしと判定された場合(No)は、ステップS213へ処理が進む。
先ず、ステップS202に於いてノックありと判定された場合から説明する。ステップS202からステップS203に進むと、1点火毎遅角量演算部21により1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)を、実施の形態1の場合と同様に前述の式(5)により算出する。
続くステップS204では、1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)と1点火毎遅角量最大値ΔθRmaxとを比較してクリップ有無の判定を実施する。1点火毎遅角量最大値ΔθRmaxは、トルク低下量が大きくならず、又、遅角量が大幅に不足することがないように、例えば、「−1」degCA乃至「−3」degCA程度の値に設定される。クリップ有無の判定は、前述したように1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)は遅角方向への補正量であるため負値としているので、[ΔθR0(n)<ΔθRmax]が成立したときにクリップありと判定する。
ステップS204での判定の結果、クリップありと判定された場合には、ステップS205へ進んで1点火毎遅角量ΔθR(n)として1点火毎遅角量最大値ΔθRmaxを代入して[ΔθR(n)=ΔθRmax]とし、続くステップS206に於いて前回のノック補正量θR(n−1)と1点火毎遅角量ΔθR(n)とからノック補正量θR(n)を[θR(n)=ΔθR(n−1)+ΔθR(n)]として更新する。
次に、ステップS207に於いて、更新したノック補正量θR(n)をノック補正量クリップ値θRclpとして保持する。次にステップS208では、実施の形態2の特徴である仮想ノック補正量を算出するための仮想1点火毎遅角量ΔθRv(n)に1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)を代入して[ΔθRv(n)=ΔθR0(n)]とする。
続くステップS209では、前回のノック補正量θR(n−1)に仮想1点火毎遅角量ΔθRv(n)を加算した値と、前回仮想ノック補正量θRv(n−1)にノック補正量進角復帰量Ka(正値)を加算した値とのうち、遅角側にある値を、仮想ノック補正量θRv(n)として更新し、処理を終了する。即ち、ステップS209での仮想ノック補正量の更新は、[θRv(n)=min{θR(n−1)+ΔθRv(n),min{θRv(n−1)+Ka,0}}]により行われる。
以上のように処理することで、クリップしなかった場合に想定される仮想ノック補正量を算出することができる。
次に、ステップS204による判定の結果、クリップなしと判定された場合(No)、即ち、前述したように1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)は遅角方向への補正量であるため負値としているので[ΔθR0(n)<ΔθRmax]が不正立の場合(No)には、ステップS210へ進み、1点火毎遅角量ΔθR(n)に1点火毎遅角量初期値ΔθR0(n)を代入して[ΔθR(n)=ΔθR0(n)]として1点火毎遅角量を算出し、続くステップS211に於いて前回のノック補正量θR(n−1)と1点火毎遅角量ΔθR(n)とから、ノック補正量θR(n)を[θR(n)=ΔθR(n−1)+ΔθR(n)]として更新する。
次にステップS212に於いて、ノック補正量θR(n)と、前回仮想ノック補正量θRv(n−1)にノック補正量進角復帰良量Ka(正値)を加算した値とのうち、遅角側
にある値を、仮想ノック補正量θRv(n)として算出し、処理を終了する。即ちステップS212での仮想ノック補正量の更新は、[θRv(n)=min{ΔθR(n),min{θRv(n−1)+Ka,0}}]により行われる。
以上のようにして、ステップS202にてノックありと判定された場合に、ノック補正量θR(n)及び仮想ノック補正量θRv(n)の演算が実施される。
次に、前述のステップS202に於いてノックなしと判定された場合(No)について説明する。ステップS202からステップS213に進むと、前回のノック補正量θR(n−1)とノック補正量進角復帰量Ka(正値)とによりノック補正量θR(n)を、[θR(n)=min{θR(n−1)+Ka,θRclp}]として更新するが、そのノック補正量はノック補正量クリップ値θRclpによりクリップされる。
続くステップS214では、前回の仮想ノック補正量θRv(n−1)とノック補正量進角復帰量Ka(正値)とより仮想ノック補正量θRv(n)を、[θRv(n)=min{θRv(n−1)+Ka,0}]として更新する。仮想ノック補正量θRv(n)については、ノック補正量クリップ値θRclpによるクリップは行われない。
次にステップS215では、ノック補正量θR(n)と仮想ノック補正量θRv(n)とを比較し、ノック補正量θR(n)の方が進角側にある場合、即ち、負値のため[θRv(n)>θR(n)]が不成立である場合(No)には、処理を終了する。一方、ノック補正量θR(n)の方が遅角側にある場合、即ち、負値のため[θRv(n)>θR(n)]が成立の場合(Yes)には、ステップS216へ進んでノック補正量クリップ値θRclpを「0」にクリアしてクリップを解除し、続くステップS217に於いてノック補正量θR(n)に仮想ノック補正量θRv(n)を代入してノック補正量を更新して処理を終了する。ノック補正量進角復帰量Kaは、例えば、2秒間又は200行程で1degCA程度進角する値に設定する。
以上のようにして、ステップS202にてノックなしと判定された場合のノック補正量θR(n)の演算が実施される。
図7は、この発明の実施の形態2による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するタイムチャートであって、特に、前述の図6のフローチャートに従って説明したノック補正量θR(n)及び仮想ノック補正量θRv(n)を演算した場合の動作を示している。尚、以下の説明に於いて、小ノックとはノック補正量がクリップ値に掛からない場合、大ノックとはノック補正量がクリップ値に掛かる場合を夫々意味する。
図7に於いて、例1は、小ノックX1によるノック補正量と大ノックX2によるノック補正量が重複しない場合の例である。例1の場合、ノック補正量がクリップ値により時点t1でクリップされ、これと同時に、仮想ノック補正量がノック補正量より遅角側に算出される。そして、仮想ノック補正量がノック補正量と等しくなる時点t2に於いてノック補正量の進角復帰が開始される。このように、ノック補正量がクリップされた場合にのみ仮想ノック補正量が算出され、ノック補正量は、仮想ノック補正量がノック補正量と等しくなる時点t2までクリップされることになる。
図7に於ける例2は、大ノックX3と小ノックX4が連続で検出された場合の例である。この場合、大ノックX3の検出した時点t3でノック補正量がクリップされると同時に仮想ノック補正量がノック補正量より遅角側に算出される。そして、仮想ノック補正量がノック補正量と等しくなる時点t5に於いてノック補正量の進角復帰が開始されるが、時点t3とt5との間の時点t4に於いて小ノックX4が検出されると、更にノック補正が行われるが、既にノック補正量のクリップ中であり、この場合にはクリップ値までしか進角しない。
図7に於ける例3は、大ノックX5、X6がt6、t7にて連続して検出された場合の例である。この場合、大ノックX5の検出時点t6に於いてノック補正量がクリップ値にクリップされ、且つ同時に仮想ノック補正量がノック補正量より遅角側に算出されるが、次の大ノックX6の検出時点t7に於いて仮想ノック補正量が更新され、ノック補正量はその更新された仮想ノック補正量に基づいてクリップされる。そして、ノック補正量は、更新された時点t8まで更新されたクリップ値に保持されることとなる。
以上述べたこの発明の実施の形態2による内燃機関のノック制御装置によれば、前述のようにしてノック補正量の演算を実施することにより、ノック検出時のノック強度に応じたノック補正量の算出ができ、更に、突発的に発生する大ノックに対しても、ノック補正量を所定値に制限して保持することで、必要以上のトルクダウンやトルク変動の発生を抑制することができると共に、ノック補正量クリップ値の保持時間の適合を不要とすることができる。
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3による内燃機関のノック制御装置について説明する。実施の形態3による内燃機関のノック制御装置の構成は、前述の実施の形態2と概ね同様であるが、実施の形態2ではノック補正量の進角復帰速度は一定であったのに対して実施の形態3ではノック遅角補正直後は進角復帰速度が速く、ノック限界に近づくにつれて進角復帰速度を遅くすることを特徴とし、更に適合の工数も少ないことを特徴とする。
以下、この発明の実施の形態3による内燃機関のノック制御装置について詳細に説明する。図8は、この発明の実施の形態3による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するフローチャートであり、特に、1点火毎遅角量演算部及びノック補正量演算部に於ける処理を示している。図8に示す処理は、前述の通りクランク角同期の割り込み処理、例えば、BTDC75°CAでの割込み処理、により実施される。
図8のステップS301からステップS317の処理内容は、実施の形態2に於ける図6のフローチャートに於けるステップS201からステップS217の処理内容と同じである。そこで、違いのある部分であるステップS318及びステップS319についてのみ詳細に説明する。
この発明の実施の形態3による内燃機関のノック制御装置の特徴をより明確に説明するため、ステップS301からステップS317の処理後に実施するステップS319の演算について先に説明する。ステップS319では、ステップS301からステップS317の処理にて算出されたノック補正量θR(n)に対してフィルタ処理を実施してノック補正量フィルタ値θRf(n)を算出する。ここで、Kfはフィルタ定数(0<Kf<1)であり、例えば、「0.95」程度の値を設定する。このようにノック制御中のノック補正量の高周波成分を除去したノック補正量フィルタ値は、ノック限界近傍のノック補正量に概ね相当するものであると考えることができる。
次に、ステップS318について説明するが、ステップS318はステップS301からステップS317の処理前に実施する処理である。ステップS318では、前回ノック補正量フィルタ値θRf(n−1)と前回ノック補正量θR(n−1)の差に基づいて、ノック補正量進角復帰量Kaを算出する。即ち、ノック補正量進角復帰量Kaを、[Ka=max{(θRf(n−1)−θR(n−1))×Kag,Kamin}]として算出する。
ここで、Kagはノック補正量進角復帰量反映係数、Kaminはノック補正量進角復帰量の最小値である。
ノック補正量進角復帰量反映係数Kagは、例えば、2秒間又は200行程で1degCA程度進角する値を設定し、ノック補正量進角復帰量最小値Kaminは、例えば、2秒間又は200行程で0.2degCA程度進角する値を設定する。ノック補正量進角復帰量最小値Kamin(Kamin>0)により、前回ノック補正量フィルタ値θRf(n−1)と前回ノック補正量θR(n−1)の差が「0」又は負値となった場合でもノック補正量進角復帰量Kaは正値を取ることができる。
前述のステップS318での処理は、この発明の実施の形態3に於けるノック限界ノック補正量推定手段に相当し、ノックが発生しなくなるノック補正量のうち大きさが最も小さいノック限界補正量を推定し、推定したノック限界ノック補正量と、現在のノック補正量若しくは前記仮想ノック補正量との差に基づいて、前記制限したノック補正量を進角側に復帰させる復帰量を算出するものである。
このようにして算出したノック補正量進角復帰量Kaを用いて、ステップS301からステップS317の処理を実施することで、ノック補正量をノック遅角補正直後は進角復帰速度を速く、ノック限界に近づくにつれて進角復帰速度を遅く可変にすることができる。
尚、ここでは、ステップS319に於いてノック補正量θR(n)に対してフィルタ処理を実施してノック補正量フィルタ値θRf(n)を算出し、ステップS318に於いてノック補正量フィルタ値θRf(n)とノック補正量θR(n)との差よりノック補正量進角復帰量Kaを算出しているが、ステップS319にて仮想ノック補正量θRv(n)に対してフィルタ処理を実施して仮想ノック補正量フィルタ値θRvf(n)を算出し、ステップS318にて仮想ノック補正量フィルタ値θRvf(n)と仮想ノック補正量θRv(n)の差よりノック補正量進角復帰量Kaを算出するようにしてもよい。
図9は、この発明の実施の形態3による内燃機関のノック制御装置の動作を説明するタイムチャートであって、特に、前述の図8のフローチャートに従って説明したノック補正量θR(n)及び仮想ノック補正量θRv(n)を演算した場合の動作を示している。尚、以下の説明に於いて、小ノックとはノック補正量がクリップ値に掛からない場合、大ノックとはノック補正量がクリップ値に掛かる場合を夫々意味する。
図9に於いて、例1は、小ノックX1によるノック補正量と大ノックX2によるノック補正量が重複しない場合の例である。例1の場合、ノック補正量がクリップ値により時点t1でクリップされ、これと同時に、仮想ノック補正量がノック補正量より遅角側に算出される。そして仮想ノック補正量がノック補正量と等しくなる時点t2に於いてノック補正量の進角復帰が開始される。破線で示すノック補正量フィルタ値とノック補正量との差が大きい場合には、ノック補正量及び仮想ノック補正量の進角速度は速く、ノック補正量フィルタ値とノック補正量との差が小さい場合には、ノック補正量及び仮想ノック補正量の進角速度は遅くなる。
図9に於ける例2は、大ノックX3と小ノックX4が連続で検出された場合の例である。この場合、大ノックX3の検出した時点t3でノック補正量がクリップされると同時に仮想ノック補正量がノック補正量より遅角側に算出される。そして、仮想ノック補正量がノック補正量と等しくなる時点t5に於いてノック補正量の進角復帰が開始されるが、時点t3とt5との間の時点t4に於いて小ノックX4が検出されると、更にノック補正が行われるが、既にノック補正量のクリップ中であり、この場合にはクリップ値までしか進角しない。この例2の場合に於いても、破線で示すノック補正量フィルタ値とノック補正量との差が大きい場合には、ノック補正量及び仮想ノック補正量の進角速度は速く、ノック補正量フィルタ値とノック補正量との差が小さい場合には、ノック補正量及び仮想ノック補正量の進角速度は遅くなる。
図9に於ける例3は、大ノックX5、X6がt6、t7にて連続して検出された場合の例である。この場合、大ノックX5の検出時点t6に於いてノック補正量がクリップ値にクリップされ、且つ同時に仮想ノック補正量がノック補正量より遅角側に算出されるが、次の大ノックX6の検出時点t7に於いて仮想ノック補正量が更新され、ノック補正量はその更新された仮想ノック補正量に基づいてクリップされる。そして、ノック補正量は、更新された時点t8まで更新されたクリップ値に保持されることとなる。この例3の場合に於いても、破線で示すノック補正量フィルタ値とノック補正量との差が大きい場合には、ノック補正量及び仮想ノック補正量の進角速度は速く、ノック補正量フィルタ値とノック補正量との差が小さい場合には、ノック補正量及び仮想ノック補正量の進角速度は遅くなる。
上述べたこの発明の実施の形態2による内燃機関のノック制御装置によれば、以上のようにして、ノック補正量がノック限界近傍より離れた場合には早く進角復帰することで、より一層トルクダウンやトルク変動の発生を抑制でき、更にノック限界近傍ではノック補正量の進角復帰速度を遅くすることで、突発的なノックの発生自体を抑制することができる。又、このように制御するための進角復帰速度を可変するための適合も容易に行うことができる。
1 内燃機関 100 吸気系
50 エアフィルタ 51 インテークマニホールド
2 電子制御式スロットルバルブ 3 スロットル開度センサ
4 エアフロセンサ 5 サージタンク
6 インマニ圧センサ 7 可変吸気バルブ機構
71 吸気バルブ 8 インジェクタ
9 点火コイル 10 点火プラグ
11 クランク角センサ 110 プレート
12 ノックセンサ 13 ECU
81 排気弁 200 排気系
300 各種センサ 400 他のコントローラ
500 他のアクチュエータ 131 I/F回路
132 マイクロコンピュータ 15 A/D変換器
16 DFT処理部 17 ピークホールド部
18 平均化処理部 19 スレッショルド演算部
20 比較演算部 21 1点火毎遅角量演算部
22 ノック補正量演算部

Claims (5)

  1. 内燃機関の振動を検出するノックセンサと、前記ノックセンサの出力に基づいて前記内燃機関のノック発生の有無を判定するノック判定部と、前記ノック判定部によりノック発生ありと判定された場合に発生したノックの強度に基づいて前記内燃機関の点火時期を遅角側へ移動させるノック補正量を演算し、前記ノック判定部によりノック発生なしと判定された場合に前記ノック補正量を進角側へ復帰させるノック補正量演算部とを備えた内燃機関のノック制御装置であって、
    前記ノック補正量演算部は、前記遅角側へのノック補正量の値が所定値以上となった場合に前記ノック補正量を前記所定値に制限して保持し、前記発生したノックの強度に基づいて算出した所定時間後に前記制限したノック補正量を前記進角側へ復帰させることを特徴とする内燃機関のノック制御装置。
  2. 前記ノックの発生時に、前記発生したノックの強度に応じてカウント値が設定されるカウンタ部を備え、前記所定時間は、前記ノックの発生時点から前記カウンタ部のカウント値が所定値に達するまでの時間であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のノック制御装置。
  3. 前記ノック補正量演算部は、前記遅角側へのノック補正量の値が所定値以上となった場合に前記ノック補正量を前記所定値に制限して保持すると共に、前記制限を行わない場合に前記点火時期を遅角側へ移動させるノック補正量を仮想ノック補正量として演算し、前記所定値に保持された前記ノック補正量と前記演算された仮想ノック補正量とのうち絶対値の大きさが小さい方を、点火時期を遅角側へ移動させるためのノック補正量とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関のノック制御装置。
  4. 前記ノック補正量演算部は、ノックが発生しなくなるノック補正量のうち絶対値の大きさが最も小さいノック限界ノック補正量を推定するノック限界ノック補正量推定手段を備え、前記推定したノック限界ノック補正量と、現在のノック補正量若しくは前記仮想ノック補正量との差に基づいて、前記制限したノック補正量を進角側に復帰させる復帰量を算出することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関のノック制御装置。
  5. 前記ノック限界ノック補正量推定手段は、ノック補正量又は仮想ノック補正量にフィルタ処理を行うことで前記ノック限界ノック補正量を算出することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関のノック制御装置。
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