JP5641706B2 - 車輪用軸受装置 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、駆動輪を複列の転がり軸受で支承するセミフローティングタイプの車輪用軸受装置に関するものである。
トラック等のようにフレーム構造の車体を有する自動車では、駆動輪のアクスル構造として、従来フルフローティングタイプを採用するものが多い。また、最近の駆動輪の支持構造には、組立性の向上、軽量・コンパクト化等を狙って、複列の転がり軸受をユニット化した構造が多く採用されるようになっている。その従来構造の一例として、図9に示すような車輪用軸受装置が知られている。
この車輪用軸受装置は、軽量・コンパクト化を図ると共に、雨水やダスト等の侵入とデフオイルの漏れを防止したもので、ハブ輪51と複列の転がり軸受52とがユニット化して構成され、駆動軸D/Sに連結されている。複列の転がり軸受52は、内方部材53と外方部材54、および両部材53、54間に転動自在に収容された複列の円錐ころ55、55とを備えている。ハブ輪51は、外周の一端部に車輪WおよびブレーキロータBを取り付けるための車輪取付フランジ56を一体に有し、この車輪取付フランジ56から軸方向に延びる小径段部57が形成されている。また、内周には駆動軸D/Sがトルク伝達可能に内嵌されるようにセレーション58が形成されている。
一方、複列の転がり軸受52は、内周に複列のテーパ状の外側転走面54a、54aが形成され、車軸管Hに固定される車体取付フランジ54bが外周に形成された外方部材54と、この外方部材54に内挿され、外周に前記複列の外側転走面54a、54aに対向するテーパ状の内側転走面60aが形成された一対の内輪60、60と、両転走面54a、60a間に転動自在に収容された複列の円錐ころ55、55とを有している。ハブ輪51の外周に形成された小径段部57には一対の内輪60、60が圧入され、小径段部57の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部59により、ハブ輪51に対して内輪60が軸方向へ抜けるのを防止している。そして、一対の内輪60、60の正面側端面が突き合された状態でセットされ、所謂背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。
ここで、ハブ輪51の開口部にキャップ61が圧入されている。このキャップ61は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工にて断面略コの字形に形成された鋼板製の芯金61aと、この芯金61aの少なくとも嵌合部に加硫接着等により接合されたゴム等の弾性部材61bとからなる。そして、この弾性部材61bが嵌合面に弾性変形して入り込み、液密に内部を密封している。これにより、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを完全に防止することができると共に、車両運転時、ハブ輪51に繰返しモーメント荷重が負荷され弾性変形したとしても、このキャップ61がハブ輪51の弾性変形の影響を殆ど受けない。
特開2005−297944号公報
然しながら、このような従来の車輪用軸受装置では、ハブ輪51のセレーション58に駆動軸D/Sのセレーションをタイトに嵌合させてトルク伝達を行っているが、車両運転時にハブ輪51に繰返しモーメント荷重が負荷された場合、ハブ輪51と駆動軸D/Sとの間に傾きが生じ、硬化処理されていないハブ輪51のセレーション58に摩耗が生じる恐れがある。そして、この摩耗が増大することによって結合部にガタが生じて信頼性が低下する恐れがあった。
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、雨水やダスト等の侵入とデフオイルの漏れを防止すると共に、駆動軸D/Sと強固な結合が得られ、長期間に亘って信頼性を確保したセミフローティングタイプの車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、車体の下面に支持された車軸管と、この車軸管の内方に挿通された中空の駆動軸と、この駆動軸と前記車軸管の開口部との間に車輪用軸受が装着され、この車輪用軸受が、ハブ輪と複列の転がり軸受とがユニット化して構成され、外周に前記車軸管に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周にこの車輪取付フランジから軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と一対の内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、前記ハブ輪に前記駆動軸が所定のシメシロを介して内嵌され、この嵌合面のうち一方の嵌合面が未焼入れでフラット面とされると共に、他方の嵌合面に高周波焼入れによって硬化された凹凸部が形成され、前記駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで前記駆動軸の嵌合面を拡径させ、前記凹凸部を他方の嵌合面に密着嵌合されて前記ハブ輪と駆動軸が一体に塑性結合され、前記拡径治具が前記駆動軸の内径に留め置かれ、前記拡径される嵌合面が少なくとも前記複列の内側転走面の直下にかかる前記駆動軸の嵌合部の長さに設定されている。
このように、セミフローティングタイプの車輪用軸受装置において、ハブ輪に駆動軸が所定のシメシロを介して内嵌され、この嵌合面のうち一方の嵌合面が未焼入れでフラット面とされると共に、他方の嵌合面に高周波焼入れによって硬化された凹凸部が形成され、駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで駆動軸の嵌合面を拡径させ、凹凸部を他方の嵌合面に密着嵌合させてハブ輪と駆動軸が着脱自在に一体に結合され、拡径治具が駆動軸の内径に留め置かれ、拡径される嵌合面が少なくとも複列の内側転走面の直下にかかる駆動軸の嵌合部の長さに設定されているので、ハブ輪と駆動軸との強固な結合が得られ、結合部の緩みを防止して長期間に亘って信頼性を確保した車輪用軸受装置を提供することができる。また、小さい拡径率で所望の結合力を維持することができ、組立作業性を向上させることができると共に、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを防止することができる。
また、請求項2に記載の発明のように、前記ハブ輪の嵌合面に硬化された凹凸部が形成され、この凹凸部がアヤメローレット状で、独立して形成された複数の環状溝と複数の軸方向溝とを略直交させて構成された交叉溝または互いに傾斜した螺旋溝で構成された交叉溝からなり、前記凹凸部の凸部の先端部が尖塔形状に形成されると共に、前記駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで前記駆動軸の嵌合面を拡径させ、当該凹凸部を前記駆動軸の嵌合面に食い込ませて塑性結合されていても良い。
また、請求項3に記載の発明のように、前記駆動軸の嵌合面に硬化された凹凸部が形成され、この凹凸部がアヤメローレット状で、独立して形成された複数の環状溝と複数の軸方向溝とを略直交させて構成された交叉溝または互いに傾斜した螺旋溝で構成された交叉溝からなると共に、当該凹凸部の凸部の先端部が尖塔形状に形成されると共に、前記駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで前記駆動軸の嵌合面を拡径させ、当該凹凸部を前記ハブ輪の嵌合面に食い込ませて塑性結合されていても良い。
また、請求項に記載の発明のように、前記拡径治具のアウター側の端部に雌ねじが形成されていれば、分解時に、この拡径治具の雌ねじに分解工具を固定して拡径治具を引抜くことができる。これにより、駆動軸の弾性変形分が解除され、ハブ輪と駆動軸の分解が容易にできる。
また、請求項に記載の発明のように、前記拡径治具が、外周に外径φD1からなる嵌合面と、この先端部に断面が円弧面からなる凸球状の加締面が形成され、この加締面の外径φD2が、前記駆動軸の内径φdよりも僅かに大径に形成された前記嵌合面の外径φD1よりもさらに大径(φD2>φD1>φd)に形成されていれば、駆動軸の嵌合面を拡径し易く、また、使用中に拡径治具を抜け難くすることができ、信頼性を一段と高めることができる。
また、請求項に記載の発明のように、前記ハブ輪のアウター側の開口部にキャップが圧入されていれば、液密的に内部を密封することができ、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを完全に防止することができると共に、万一、拡径治具がアウター側に移動するようなことがあっても、拡径治具が抜け出すのを防止することもできる。
また、請求項に記載の発明のように、前記拡径治具のアウター側の端部に環状凸部が形成され、この環状凸部と前記ハブ輪との間にOリングが装着されていれば、液密的に内部が密封することができ、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを完全に防止することができると共に、ハブ輪と駆動軸との結合部のスペースを確保することができ、設計自由度を高めることができる。
また、請求項に記載の発明のように、前記ハブ輪のアウター側の端部内周に止め輪が装着され、前記拡径治具の移動が規制されていれば、万一、拡径治具がアウター側に移動するようなことがあっても、拡径治具が抜け出すのを確実に防止することができ、安全な方向でシステムが作動するフェールセーフ機構を備えることができる。
また、請求項に記載の発明のように、前記駆動軸の嵌合面に高周波焼入れによって硬化されたセレーションが形成され、このセレーションを前記ハブ輪の嵌合面を切削加工しながら密着嵌合させてプレスカット接合されていれば、従来のセレーションよりも嵌合幅を短縮することができ、大きなモーメント荷重がハブ輪に負荷されても変形の影響を受け難くなり、長期間に亘ってハブ輪と駆動軸の結合部の緩みを防止することができる。
また、請求項10に記載の発明のように、前記ハブ輪のアウター側の端部に、径方向内方に延び、その中心部に通孔が形成された隔壁が形成されると共に、前記駆動軸のアウター側の端部に雌ねじが形成され、この雌ねじに前記通孔に挿入された固定ボルトが螺着されて前記ハブ輪と駆動軸とが分離可能に締結されていれば、駆動軸をハブ輪に嵌挿する時に、この雌ねじに固定ボルトを締め付けることによって駆動軸をアウター側に引き込むことができ、プレス機を使用することなく、効率良く組立作業ができると共に、分解時には、固定ボルトを雌ねじから弛め、この固定ボルトの頭部を押圧するだけで、駆動軸からハブ輪を引抜くことができ、ハブ輪と駆動軸の分解が容易にできる。また、万一、結合部が弛むようなことがあっても、フェールセーフ機構となる固定ボルトによってハブ輪が抜け出すのを確実に防止することができる。
また、請求項11に記載の発明のように、前記駆動軸のアウター側の端部に垂直に切り立った壁面を有する環状溝が形成され、この環状溝を介して先端部に前記ハブ輪の嵌合面の内径よりも僅かに小径に設定された案内部が形成されていれば、ハブ輪に駆動軸が案内部にガイドされた状態でスムーズに嵌挿できると共に、セレーションの先端をエッジに形成することができ、ハブ輪の嵌合面に容易に食い込ませることができる。
本発明に係る車輪用軸受装置は、車体の下面に支持された車軸管と、この車軸管の内方に挿通された中空の駆動軸と、この駆動軸と前記車軸管の開口部との間に車輪用軸受が装着され、この車輪用軸受が、ハブ輪と複列の転がり軸受とがユニット化して構成され、外周に前記車軸管に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周にこの車輪取付フランジから軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と一対の内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、前記ハブ輪に前記駆動軸が所定のシメシロを介して内嵌され、この嵌合面のうち一方の嵌合面が未焼入れでフラット面とされると共に、他方の嵌合面に高周波焼入れによって硬化された凹凸部が形成され、前記駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで前記駆動軸の嵌合面を拡径させ、前記凹凸部を他方の嵌合面に密着嵌合させて前記ハブ輪と駆動軸が着脱自在に一体に結合され、前記拡径治具が前記駆動軸の内径に留め置かれ、前記拡径される嵌合面が少なくとも前記複列の内側転走面の直下にかかる前記駆動軸の嵌合部の長さに設定されているので、ハブ輪と駆動軸との強固な結合が得られ、結合部の緩みを防止して長期間に亘って信頼性を確保した車輪用軸受装置を提供することができる。また、小さい拡径率で所望の結合力を維持することができ、組立作業性を向上させることができると共に、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを防止することができる。
本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。 図1の車輪用軸受を示す縦断面図である。 本発明に係る車輪用軸受装置の組立方法を示す説明図である。 本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。 図4の拡径治具を示す断面図である。 図4の要部拡大図である。 本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す要部拡大図である。 本発明に係る車輪用軸受装置の組立方法を示す説明図である。 従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
車体の下面に支持された車軸管と、この車軸管の内方に挿通された中空の駆動軸と、この駆動軸と前記車軸管の開口部との間に車輪用軸受が装着され、この車輪用軸受が、ハブ輪と複列の転がり軸受とがユニット化して構成され、外周に前記車軸管に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周にこの車輪取付フランジから軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と一対の内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、前記ハブ輪に前記駆動軸が内嵌され、前記駆動軸の嵌合面に硬化された凹凸部が形成され、この凹凸部がアヤメローレット状で、独立して形成された複数の環状溝と複数の軸方向溝とを略直交させて構成された交叉溝または互いに傾斜した螺旋溝で構成された交叉溝からなると共に、前記凹凸部の凸部の先端部が尖塔形状に形成されると共に、前記駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで前記駆動軸の嵌合面を拡径させ、当該凹凸部を前記ハブ輪の嵌合面に食い込ませて塑性結合され、前記拡径治具が前記駆動軸の内径に留め置かれている。
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の車輪用軸受を示す縦断面図、図3は、本発明に係る車輪用軸受装置の組立方法を示す説明図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
この車輪用軸受装置は、ハブ輪1と複列の転がり軸受2とがユニット化して構成され、駆動軸D/Sに連結されている。複列の転がり軸受2は、内方部材3と外方部材4、および両部材3、4間に転動自在に収容された複列の転動体(円錐ころ)5、5とを備えている。ここで、内方部材3は、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された一対の内輪10、10とを指す。ハブ輪1は、外周のアウター側の端部に車輪(図示せず)およびブレーキロータBを取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周にこの車輪取付フランジ6から軸方向に延びる円筒状の小径段部7が形成されている。
一方、複列の転がり軸受2は、図2に示すように、内周に複列のテーパ状の外側転走面4a、4aが形成され、車軸管Hに固定される車体取付フランジ4bが外周に形成された外方部材4と、この外方部材4に内挿され、外周に前記複列の外側転走面4a、4aに対向するテーパ状の内側転走面10aが形成された一対の内輪10、10と、両転走面4a、10a間に収容された複列の転動体5、5と、これら複列の転動体5、5を転動自在に保持する保持器11とを備えている。
一対の内輪10、10には内側転走面10aの大径側に転動体5を案内するための大鍔10bが形成、小径側には転動体5の脱落を防止するための小鍔10cが形成されている。そして、一対の内輪10、10の正面側端面が突き合された状態でセットされ、所謂背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。また、外方部材4と内輪10との間に形成される環状空間の開口部にはシール12、12が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。さらに、インナー側のシール12においては、ハブ輪1の結合部を通してデフオイルが軸受内部に侵入するのも防止している。
ここで、ハブ輪1の小径段部7に一対の内輪10、10が所定のシメシロを介して圧入され、小径段部7の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部13により、所定の軸受予圧が付与された状態で、ハブ輪1に対して内輪10、10が軸方向に固定されている。本実施形態では、このような第2世代のセルフリテイン構造を採用することにより、従来のように内輪をナット等で強固に緊締して予圧量を管理する必要がないため、車両への組込性を簡便にすることができ、長期間その予圧量を維持することができると共に、部品点数を大幅に削減でき、組込性の向上と相俟って低コスト化と軽量・コンパクト化を達成することができる。
ハブ輪1はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、車輪用軸受2が衝合される肩部8から小径段部7に亙り高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部13は、鍛造後の素材表面硬さ25HRC以下の未焼入れ部としている。これにより、耐久性が向上すると共に、加締部13を塑性変形する時の加工性が向上し、クラック等を防止してその品質の信頼性が向上する。
また、外方部材4は、ハブ輪1と同様、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、複列の外側転走面4a、4aおよびシール12が装着される端部内周面に高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。一方、内輪10および転動体5はSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで60〜64HRCの範囲で硬化処理されている。なお、ここでは、転動体5、5を円錐ころとした複列円錐ころ軸受を例示したが、これに限らず転動体にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受であっても良い。
次に、図3を用いてハブ輪1と駆動軸D/Sとの結合方法を説明する。
本実施形態では、中空の駆動軸D/Sの嵌合部9の外周に高周波焼入れによって硬化された凹凸部9aが形成されている。この凹凸部9aはアヤメローレット状に形成され、旋削等により独立して形成された複数の環状溝と、ブローチ加工等により形成された複数の軸方向溝とを略直交させて構成した交叉溝、あるいは、互いに傾斜した螺旋溝で構成した交叉溝からなる。また、凹凸部9aの凸部は良好な食い込み性を確保するために、その先端部が三角形状等の尖塔形状に形成されている。
ここで、ハブ輪1に駆動軸D/Sが内嵌されると共に、嵌合部9の内径φdに、外径φDがこの内径φdよりも所定量大径(φD>φd)に形成されたマンドレル等の拡径治具14をインナー側(矢印方向)に押し込んで嵌合部9を拡径させ、凹凸部9aを未焼入れであるハブ輪1の内周面に食い込ませて塑性結合される。こうした拡径加締を採用することにより、ハブ輪1と駆動軸D/Sとの強固な結合が得られ、結合部の緩みを防止して長期間に亘って信頼性を確保した車輪用軸受装置を提供することができる。
なお、拡径治具14は、アウター側の端部に位置決め用の環状凸部14aが形成されていると共に、雌ねじ14bが形成されている。この拡径治具14は、拡径加締後に取り外しても良いが、ここでは、駆動軸D/S内に留め置かれている。これにより、小さい拡径率で所望の結合力を維持することができ、組立作業性を向上させることができる。また、分解時には、拡径治具14の雌ねじ14bに分解工具(図示せず)を固定して拡径治具14を引抜くことができる。これにより、駆動軸D/Sの弾性変形分が解除され、ハブ輪1と駆動軸D/Sの分解が容易にできる。
ここでは、中空の駆動軸D/Sの嵌合部9の外周に硬化された凹凸部9aが形成され、嵌合部9を拡径させて凹凸部9aをハブ輪1の内周面に食い込ませて塑性結合したものを例示したが、これに限らず、ハブ輪の内周面に硬化された凹凸部を形成し、駆動軸D/Sの嵌合部を拡径させてハブ輪の凹凸部に食い込ませるようにしても良い。
本実施形態では、ハブ輪1と駆動軸D/Sとが塑性結合された後、図1に示すように、ハブ輪1のアウター側の開口部にキャップ15が圧入されている。このキャップ15は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工にてカップ状に形成された芯金15aと、この芯金15aの少なくとも露出した表面に加硫接着等により接合された合成ゴム等の弾性部材15bとからなり、液密的に内部を密封している。これにより、デフオイルの外部への流出と、外部から雨水やダスト等が駆動軸内に侵入してデフオイル内に混入するのを完全に防止することができる。
さらに、ハブ輪1の端部内周に形成された環状の止め輪溝16に止め輪17が装着されている。これにより、万一、拡径治具14がアウター側に移動するようなことがあっても、キャップ5を介して拡径治具14が抜け出すのを確実に防止することができ、安全な方向でシステムが作動する、所謂フェールセーフ機構を備えている。
図4は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図、図5は、図4の拡径治具を示す断面図、図6は、図4の要部拡大図である。この実施形態は、前述した第1の実施形態(図1)と基本的には拡径治具の構成が異なるのみで、前述した第1の実施形態と同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施形態では、前述した第1の実施形態と同様、ハブ輪1に駆動軸D/Sが内嵌されると共に、嵌合部9の内径にマンドレル等の拡径治具18をインナー側に押し込んで嵌合部9を塑性変形させ、凹凸部9aをハブ輪1の内周面に食い込ませて塑性結合される。この拡径治具18は、アウター側の端部に位置決め用の環状凸部18aが形成されていると共に、雌ねじ14bが形成されている。
この拡径治具18は、図5に示すように、外周に外径φD1からなる嵌合面19と、この嵌合面19から環状溝18bを介して先端部に加締面20が形成されている。この加締面20は断面が円弧面からなる凸球状に形成され、この外径φD2が、駆動軸D/Sの内径φdよりも僅かに大径に形成された嵌合面19の外径φD1よりもさらに大径に形成されている(φD2>φD1>φd)。これにより、駆動軸D/Sの嵌合部9を拡径し易く、また、使用中に拡径治具18を抜け難くすることができ、信頼性を一段と高めることができる。
また、本実施形態では、図6に示すように、拡径治具18の環状凸部18aとハブ輪1との間にOリング21が装着され、液密的に内部が密封されている。これにより、前述したキャップ15を廃止することもでき、組立作業性を向上させることができると共に、ハブ輪1と駆動軸D/Sとの結合部のスペースを確保することができ、設計自由度を高めることができる。
図7は、本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す要部拡大図、図8は、本発明に係る車輪用軸受装置の組立方法を示す説明図である。なお、この実施形態は、前述した実施形態(図1、4)と基本的にはハブ輪と駆動軸の構成が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
この車輪用軸受装置は、ハブ輪21と複列の転がり軸受2とがユニット化して構成され、駆動軸D/Sに連結されている。ハブ輪21は、外周に車輪取付フランジ6から軸方向に延びる円筒状の小径段部7が形成され、アウター側の端部に径方向内方に延びる隔壁22が鍛造加工によって一体に形成されている。この隔壁22の中心部には後述する固定ボルト23が挿入される通孔22aが打ち抜き加工によって形成されている。
本実施形態では、中空の駆動軸D/Sは、円筒状の嵌合部24の外周に高周波焼入れによって硬化されたセレーション(またはスプライン)24aが形成され、内周に雌ねじ24bが形成されている。また、アウター側の端部には垂直に切り立った壁面25aを有する環状溝25が形成され、この環状溝25を介して先端部にハブ輪21の内周面の内径φdhよりも僅かに小径に設定された案内部26が形成されている。そして、ハブ輪21に駆動軸D/Sが所定のシメシロを介して内嵌され、セレーション24aを未焼入れであるハブ輪21の内周面に密着嵌合されて着脱自在に一体に結合されている。
次に、図8を用いてハブ輪21と駆動軸D/Sとの結合方法を説明する。
ハブ輪21に駆動軸D/Sの嵌合部24が案内部26にガイドされた状態で嵌挿され、セレーション24aをハブ輪21の内周面を切削加工しながら密着嵌合される、所謂プレスカット接合されている。なお、駆動軸D/Sの嵌合部24をハブ輪21に嵌挿するには、プレス機で行っても良いが、嵌合部24の雌ねじ24bに固定ボルト23を締め付けることによって駆動軸D/Sをアウター側に引き込むことができるので、組立作業性が向上する。
また、駆動軸D/Sの嵌合部24の外径φDsは、ハブ輪21の内径φdhよりも所定量大径(φDs>φdh)に形成されている。環状溝25の壁面25aが垂直に切り立って形成されているため、セレーション24aの先端をエッジに形成することができ、ハブ輪21の内周面にセレーション24aを容易に切削加工しながら密着嵌合させることができる。こうしたプレスカット接合を採用することにより、従来のセレーションよりも嵌合幅を短縮することができ、ハブ輪21の隔壁22による高剛性化と相俟って、大きなモーメント荷重がハブ輪21に負荷されても変形の影響を受け難くなり、長期間に亘ってハブ輪21と駆動軸D/Sの結合部の緩みを防止することができる。
そして、車軸管Hに外方部材4の車体取付フランジ4bが固定ボルト27によって締結されると共に、ハブ輪21と駆動軸D/Sとが塑性結合された後、固定ボルト23が駆動軸D/Sの雌ねじ24bに螺着され、ハブ輪21と駆動軸D/Sとが分離可能に締結される。これにより、万一、結合部が弛むようなことがあっても、フェールセーフ機構となる固定ボルト23によってハブ輪21が抜け出すのを確実に防止することができる。
また、分解時には、固定ボルト23を嵌合部24の雌ねじ24bから弛めると共に、この固定ボルト23の頭部を押圧することにより、駆動軸D/Sからハブ輪21を引抜くことができ、ハブ輪21と駆動軸D/Sの分解が容易にできる。
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
本発明に係る車輪用軸受装置は、駆動軸と車軸管の開口部に車輪用軸受が装着されたセミフローティングタイプの車輪用軸受装置に適用できる。
1、21 ハブ輪
2 複列の転がり軸受
3 内方部材
4 外方部材
4a 外側転走面
4b 車体取付フランジ
5 転動体
6 車輪取付フランジ
7 小径段部
8 肩部
9、24 嵌合部
9a 凹凸部
10 内輪
10a 内側転走面
10b 大鍔
10c 小鍔
11 保持器
12 シール
13 加締部
14、18 拡径治具
14a、18a 環状凸部
14b、24b 雌ねじ
15 キャップ
15a 芯金
15b 弾性部材
16 止め輪溝
17 止め輪
18b、25 環状溝
19 嵌合面
20 加締面
21 Oリング
22 隔壁
22a 通孔
23、27 固定ボルト
25a 壁面
26 案内部
51 ハブ輪
52 複列の転がり軸受
53 内方部材
54 外方部材
54a 外側転走面
55 円錐ころ
56 車輪取付フランジ
57 小径段部
58 セレーション
59 加締部
60 内輪
60a 内側転走面
61 キャップ
61a 芯金
61b 弾性部材
B ブレーキロータ
d 嵌合部の内径
dh ハブ輪の内径
D 拡径治具の外径
D1 嵌合面の外径
D2 加締面の外径
Ds 嵌合部の外径
D/S 駆動軸
H 車軸管
W 車輪

Claims (11)

  1. 車体の下面に支持された車軸管と、この車軸管の内方に挿通された中空の駆動軸と、この駆動軸と前記車軸管の開口部との間に車輪用軸受が装着され、この車輪用軸受が、ハブ輪と複列の転がり軸受とがユニット化して構成され、外周に前記車軸管に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周にこの車輪取付フランジから軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と一対の内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、前記ハブ輪に前記駆動軸が所定のシメシロを介して内嵌され、この嵌合面のうち一方の嵌合面が未焼入れでフラット面とされると共に、他方の嵌合面に高周波焼入れによって硬化された凹凸部が形成され、前記駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで前記駆動軸の嵌合面を拡径させ、前記凹凸部を他方の嵌合面に密着嵌合させて前記ハブ輪と駆動軸が着脱自在に一体に結合され、前記拡径治具が前記駆動軸の内径に留め置かれ、前記拡径される嵌合面が少なくとも前記複列の内側転走面の直下にかかる前記駆動軸の嵌合部の長さに設定されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
  2. 前記ハブ輪の嵌合面に硬化された凹凸部が形成され、この凹凸部がアヤメローレット状で、独立して形成された複数の環状溝と複数の軸方向溝とを略直交させて構成された交叉溝または互いに傾斜した螺旋溝で構成された交叉溝からなり、前記凹凸部の凸部の先端部が尖塔形状に形成されると共に、前記駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで前記駆動軸の嵌合面を拡径させ、当該凹凸部を前記駆動軸の嵌合面に食い込ませて塑性結合されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  3. 前記駆動軸の嵌合面に硬化された凹凸部が形成され、この凹凸部がアヤメローレット状で、独立して形成された複数の環状溝と複数の軸方向溝とを略直交させて構成された交叉溝または互いに傾斜した螺旋溝で構成された交叉溝からなると共に、当該凹凸部の凸部の先端部が尖塔形状に形成されると共に、前記駆動軸の内径に、この内径よりも所定量大径に形成された拡径治具を押し込んで前記駆動軸の嵌合面を拡径させ、当該凹凸部を前記ハブ輪の嵌合面に食い込ませて塑性結合されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  4. 前記拡径治具のアウター側の端部に雌ねじが形成されている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。
  5. 前記拡径治具が、外周に外径φD1からなる嵌合面と、この先端部に断面が円弧面からなる凸球状の加締面が形成され、この加締面の外径φD2が、前記駆動軸の内径φdよりも僅かに大径に形成された前記嵌合面の外径φD1よりもさらに大径(φD2>φD1>φd)に形成されている請求項1乃至4いずれかに記載の車輪用軸受装置。
  6. 前記ハブ輪のアウター側の開口部にキャップが圧入されている請求項1乃至5いずれかに記載の車輪用軸受装置。
  7. 前記拡径治具のアウター側の端部に環状凸部が形成され、この環状凸部と前記ハブ輪との間にOリングが装着されている請求項1乃至6いずれかに記載の車輪用軸受装置。
  8. 前記ハブ輪のアウター側の端部内周に止め輪が装着され、前記拡径治具の移動が規制されている請求項1乃至7いずれかに記載の車輪用軸受装置。
  9. 前記駆動軸の嵌合面に高周波焼入れによって硬化されたセレーションが形成され、このセレーションを前記ハブ輪の嵌合面を切削加工しながら密着嵌合させてプレスカット接合されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  10. 前記ハブ輪のアウター側の端部に、径方向内方に延び、その中心部に通孔が形成された隔壁が形成されると共に、前記駆動軸のアウター側の端部に雌ねじが形成され、この雌ねじに前記通孔に挿入された固定ボルトが螺着されて前記ハブ輪と駆動軸とが分離可能に締結されている請求項9に記載の車輪用軸受装置。
  11. 前記駆動軸のアウター側の端部に垂直に切り立った壁面を有する環状溝が形成され、この環状溝を介して先端部に前記ハブ輪の嵌合面の内径よりも僅かに小径に設定された案内部が形成されている請求項9または10に記載の車輪用軸受装置。
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