一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のマスクブランク用基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものである。転写用マスクの金属薄膜等に微細パターンを設ける際には、フォトリソグラフィー法が用いられている。転写用マスクは、通常、透明なマスクブランク用基板上に遮光膜が形成されたマスクブランクから作られる。微細パターンを有する転写用マスクを得るために、マスクブランク用基板には、高平坦度、高平行度が要求されている。
従来のマスクブランク用基板の製造方法として、例えば、特許文献1には、研磨布を貼り付けた定盤と、基板とを、一定荷重をかけた状態で相対的に移動させ、その際研磨液を研磨布とマスクブランク用基板との接触面間に供給して基板の研磨を行う工程を有するマスクブランク用基板の製造方法であって、酸化セリウム砥粒を含む研磨液で基板の表裏主表面を研磨する工程を行った後、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液で基板の表裏主表面を研磨する工程を行うマスクブランク用基板の製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、電子デバイス用基板であって、該基板主表面の平坦度が0μmを超え0.25μm以下であることを特徴とする電子デバイス用基板が開示されている。また、特許文献2には、所定の平坦度の電子デバイス用基板を製造するための装置として、所定の研磨定盤、研磨パッド、研磨剤供給手段及び基板加圧手段を有する研磨装置が開示されている。
近年の半導体集積回路におけるパターンの微細化に伴って、微細パターンを転写する有効なパターン転写手法として、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクが使用されている。ハーフトーン型位相シフトマスクブランクとしては、例えば、特許文献3に記載されているものなどが提案されている。
この特許文献3で提案されているハーフトーン型位相シフトマスクブランクは、ガラス基板上に位相シフト膜として、主として金属とシリコンと窒素とを含む金属シリサイド窒化物膜を形成したものである。この位相シフト膜は、金属シリサイドからなるスパッタターゲットを使用し、アルゴン、キセノン等の不活性ガスと窒素を含むガスを混合した混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリングによってガラス基板上に形成される。位相シフト膜は、スパッタターゲットの組成比や混合ガスの窒素を含むガスの流量を調整して、所望の透過率や位相差となるように制御するが、特に窒素ガスを多く含む雰囲気中でスパッタリングを行う場合、異常放電によって、位相シフト膜中にパーティクルやピンホールなどの欠陥が発生することがある。
ハーフトーン型位相シフトマスクブランクのようなマスクブランクに欠陥が発生すると、転写パターンに悪影響を与える。そのため、欠陥が、所定の大きさ、所定の個数以上発生したマスクブランクは、廃棄処分するのが一般的であった。これは、ガラス基板上に形成された位相シフト膜が膜残りなく完全に剥離できる保証がなく、また、仮に完全に剥離できたとしても、そのガラス基板が光学特性に全く影響がないと保証できなかったからである。
一方、転写用マスクに欠陥が発生した場合、微細パターンを除去して、マスクブランク用基板を再生利用することが提案されている。
マスクブランク用基板の再生利用として、例えば、特許文献4には、大型フォトマスク基板のリサイクル方法が開示されている。具体的には、特許文献4には、(i)使用済大型フォトマスク基板のパターン化遮光膜を除去して再生すべき大型フォトマスク用素ガラス基板を得る工程、(ii)前記工程で得られた大型フォトマスク用素ガラス基板を加工ツールとしてサンドブラストを用いて表面加工する工程、(iii)前記工程で得られた表面加工された大型フォトマスク用素ガラス基板を再研磨して再生大型フォトマスク用素ガラス基板を得る工程、等を含む、大型フォトマスク基板のリサイクル方法が記載されている。
また、特許文献5には、マスクブランクス用ガラス基板の再生方法が開示されている。具体的には、特許文献5には、マスクブランクス用ガラス基板上に形成された薄膜を剥離してマスクブランクス用ガラス基板を再生するマスクブランクス用ガラス基板の再生方法において、前記薄膜は主として金属とシリコンと窒素とを含むものであり、前記薄膜の剥離は、前記薄膜が形成されたガラス基板を、弗化水素酸、珪弗化水素酸、弗化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つの弗素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含み、前記弗素化合物を0.1〜0.8wt%含む水溶液に接触させて行うものであることを特徴とするマスクブランクス用ガラス基板の再生方法が記載されている。
特許文献6には、石英ガラス加工品の寸法修正方法が開示されている。具体的には、特許文献6には、寸法修正すべき石英ガラス加工品を石英ガラス溶接棒に対して所定距離だけ離間して配置し、バーナーの可燃ガス火炎を該石英ガラス溶接棒の端部に放射して該石英ガラス溶接棒を加熱し石英を昇華してガス状石英とし、このガス状石英をバーナーの可燃ガス火炎の放射方向に飛ばすことによって該石英ガラス加工品の寸法修正すべき部位にガス状石英を付着堆積せしめた後、該付着堆積した不透明な石英堆積層を加熱して溶着した透明な石英ガラス層とし当該石英ガラス加工品の寸法修正を行うようにしたことを特徴とする石英ガラス加工品の寸法修正方法が記載されている。
転写用マスクは、基板主表面上にパターン形成用の薄膜が成膜されてなるマスクブランクを用いて作製される。転写用マスクの作製は、例えば、最初に、パターン形成用の薄膜上にレジストを塗布し、レジスト膜に転写パターンを露光描画及び現像処理を行って、レジストパターンを形成する。次に、レジストパターンをマスクとして、パターン形成用の薄膜をエッチング処理し、薄膜に転写パターンを形成する。さらに、レジストパターンの剥離、洗浄工程を行う。このようにして作製される転写用マスクであるが、パターン形成用の薄膜に設計通りに転写パターンが形成されず、欠陥を有していることがある。このような欠陥としては、例えば、設計上では薄膜が存在すべき部分がエッチング工程で除去されてしまっている欠陥や、設計上では薄膜が除去されるべき部分が残存してしまっている欠陥などが挙げられる。転写用マスクがこのような欠陥を有する場合、欠陥修正技術を用いて設計通りの転写パターンに修正して転写用マスクを完成させることが行われている。しかしながら、欠陥修正技術を駆使しても、求められる精度の転写パターンを有する転写用マスクを作製できない場合がある。このような転写用マスクは、一般的に、不良品として廃棄される。
一方、求められる精度の転写パターンを有する転写用マスクは、露光装置に装着されて、転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)に対して露光転写が繰り返し行われる。しかし、繰り返しの露光光の照射による膜材料の劣化や定期的な洗浄よる膜減りなどのため、転写用マスクは経年劣化して寿命を迎える。寿命を迎えた転写用マスクも、一般的に廃棄される。
転写用マスクの基板は、かつてはソーダライムガラスなどの比較的低価格な材料から製造されていた。しかし、露光光の短波長化に伴い、近年では高価な合成石英ガラスを基板の材料に使用することが一般的である。このため、不良品の転写用マスク及び寿命を迎えた転写用マスクを廃棄せずに、基板を再生してリサイクルすることが提案されている。
マスクブランク用基板の再生方法として、特許文献5には、転写用マスクのパターン形成用の薄膜をエッチング処理することにより、マスクブランク用基板を再生することが開示されている。しかしながら、このエッチング処理によってはマスクブランク用基板の主表面に形成された転写パターンの痕跡を完全に除去することが困難であり、処理後、マスクブランク用基板の主表面に転写パターンの痕跡が残ってしまうという問題がある。転写パターンの痕跡は、マスクブランクから転写用マスクを作製するときの薄膜のエッチング工程時に、マスクブランク用基板も若干エッチングされるために発生する。特許文献5のエッチング処理はガラス基板の侵食を防止することを目的とするものであるから、マスクブランク用基板表面に形成された転写パターンの痕跡を除去することは困難である。転写用マスクに形成されている転写パターンには、技術的な秘密情報が含まれていることが多いため、転写パターンの痕跡を完全に除去することが望まれている。
このマスクブランク用基板主表面に残る転写パターンの痕跡を除去ために、例えばサンドブラスト処理を行うことが考えられる。しかしながら、マスクブランク用基板主表面にサンドブラストを行って転写パターンの痕跡を除去しようとすると、主表面に擦り傷が多数発生しまう。このため、マスクブランク用基板の主表面を再研磨するときの研磨取り代を多く取る必要が生じてしまう。通常、研削工程が行われた後の原料基板からマスクブランク用基板を新規に製造する場合、両面研磨装置を用い、酸化セリウム等の研磨砥粒を用いた粗研磨工程、精密研磨工程を行い、さらにコロイダルシリカ等の研磨砥粒を用いた超精密研磨工程を1工程あるいは複数工程行って、基板主表面を所定値以下の平坦度、表面粗さに仕上げる。サンドブラストを行ったマスクブランク用基板の場合、粗研磨工程の段階から研磨を行わないと、前記の平坦度、表面粗さに仕上げることが難しい。このため、転写用マスクからマスクブランク用基板を再生するに当たってサンドブラスト処理を用いると、生産効率が非常に悪くなるという問題がある。すなわち、マスクブランク用基板の再生にあたって、研磨工程において粗研磨工程を省き、精密研磨工程又は超精密研磨工程から研磨工程を始めた場合でも、所定の平坦度、表面粗さにマスクブランク用基板を仕上げることが望まれている。
一方、特許文献6には、寸法修正すべき部位にガス状石英を付着堆積させる技術を用いる石英ガラス加工品の寸法修正方法が記載されている。しかしながら、ガス状の石英を付着堆積させる技術を、マスクブランク用基板の擦り傷部分に適用すると、擦り傷の周囲にも石英が堆積し、平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことは避けられない。そのため、余分に堆積した石英を除去するための研磨工程が必要になってしまう。平坦度の悪化を修正するには、粗研磨工程あるいは精密研磨工程の段階から研磨する必要性が高く、生産効率が非常に悪くなる。
そこで、本発明は、転写用マスクに欠陥が存在するなどのために使用が不可能な場合、転写用マスクに使用されていたマスクブランク用基板の主表面に残る転写パターンの痕跡を除去することにより、マスクブランク用基板の再生を可能にする、マスクブランク用基板の製造方法及びマスクブランクの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、マスクブランクから転写用マスクを作製する過程で基板の主表面に新たに生じてしまった表面欠陥や、転写用マスクを使用している過程で基板の主表面に新たに生じてしまった表面欠陥を除去することにより、マスクブランク用基板の再生を可能にする、マスクブランク用基板の製造方法及びマスクブランクの製造方法を提供することも目的とする。
本発明者らは、転写用マスクから転写パターンが形成された薄膜を剥離した後に、マスクブランク用基板の主表面に残る転写パターンの痕跡を除去する方法を検討した。その結果、マスクブランク用基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させる処理(以下、「火炎処理」という。)により、マスクブランク用基板の転写パターンの痕跡を除去することができることを見出した。さらに、同様の火炎の接触により、マスクブランク用基板に発生していた表面欠陥を修正することができることを見出した。本発明者らは、以上の解明事実及び考察に基づき、さらに鋭意研究を続けた結果、本発明を完成したものである。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
本発明は、下記の構成1〜4であるマスクブランク用基板の製造方法である。また、本発明は、下記の構成5であるマスクブランクの製造方法及び下記の構成6である転写用マスクの製造方法である。
(構成1)
基板の主表面上に転写パターンが形成された薄膜を備えてなる転写用マスクを用いるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記転写用マスクの前記薄膜を剥離する工程と、前記薄膜が剥離された基板の主表面に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させる工程とを有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
(構成2)
前記基板が、合成石英ガラスからなることを特徴とする、構成1に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
(構成3)
前記火炎が、1600℃以上の燃焼温度であることを特徴とする、構成2に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
(構成4)
前記火炎を接触させる工程後に、基板の主表面の研磨を行う工程を有することを特徴とする、構成1〜3のいずれか1項記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
(構成5)
構成4に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上にパターン形成用の薄膜を成膜する工程を有することを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。
(構成6)
構成5に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする、転写用マスクの製造方法である。
次に、本発明のマスクブランク用基板の製造方法の構成1〜4について説明する。
本発明は、構成1にあるように、基板の主表面上に転写パターンが形成された薄膜を備えてなる転写用マスクを用いるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記転写用マスクの前記薄膜を剥離する工程と、前記薄膜が剥離された基板の主表面に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させる工程とを有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
構成1にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、転写用マスクに形成された薄膜を剥離した基板の主表面に対して、基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を照射して接触させる処理(火炎処理)を行うことにより、マスクブランク用基板の転写パターンの痕跡を除去することができる。さらに、火炎処理により、マスクブランク用基板に発生していた表面欠陥を修正することができる。
「基板の軟化点」とは、基板を構成する基板材料の軟化点のことであり、その基板材料の粘性率(粘度)を、η(poise)とした場合、log η=7.6を満たす粘性率になるときの温度をいう。なお、粘性率(粘度)の測定は貫入法を用いて行うことができる。また、必要に応じて、ビーム曲げ法又は球引き上げ法等の測定法を用いて粘度測定を行うことができる。また、基板の「主表面」とは、図3に例示するように、基板周縁部(基板側面72及び面取面73)を除く表面のことをいう。すなわち、基板の「主表面」とは、図3において、対向する2つの「主表面71」として示される表面をいう。
本発明者らは、マスクブランク用基板の転写パターンの痕跡及び表面欠陥が存在する部分(非平坦部分)に、基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させ、非平坦部分の基板材料を軟化させ、非平坦部分を平坦化する方向に基板材料を流動させること(火炎処理)により、マスクブランク用基板の転写パターンの痕跡を除去することができることを見出したのである。さらに、火炎処理により、マスクブランク用基板に発生していた表面欠陥を修正することができることを見出したのである。本発明の製造方法では、転写用マスクに形成された薄膜を剥離した基板(マスクブランク用基板)の表面に対し、合成石英ガラスのような基板材料を付着させるのではなく、所定の燃焼温度以上の火炎を接触させることによって、転写パターンの痕跡及び表面欠陥の周囲の基板材料をわずかに流動させることにより平坦化し、転写パターンの痕跡の除去及び表面欠陥の修正をすることができる。例えば、転写パターンの痕跡及び表面欠陥として凹状部分が存在する場合は、基板材料が凹状部分を埋めるように流動させることにより平坦化することができる。また、転写パターンの痕跡及び表面欠陥として凸状部分が存在する場合は、基板材料が凸状部分から広がるように流動させることにより平坦化することができる。
火炎処理を用いることにより、マスクブランク用基板の転写パターンの痕跡の除去及び表面欠陥の修正を行い、マスクブランク用基板の平坦化を行うことができる。そのため、火炎処理後の平坦度の修正のための研磨工程の繰り返し回数を減らすことができる。すなわち、本発明の製造方法によると、簡便にマスクブランク用基板の転写パターンの痕跡及び表面欠陥を修正することができる。特に、平坦度や表面粗さの制限の緩いFPD製造用途のマスクブランク用基板の場合には、表面欠陥の火炎処理後に研磨工程を行わなくても所定の仕様を満足することができる場合がある。
また、構成2にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、前記基板が、合成石英ガラスからなることが好ましい。合成石英ガラスは化学的に安定で、他の工業材料と比較して熱膨張係数が極めて小さいなどの特徴を有する。合成石英ガラスは、半導体デバイス製造用途の転写用マスクで使用されるKrFエキシマレーザ(波長:約248nm)やArFエキシマレーザ(波長:約193nm)の露光光に対する光透過性も高い。また、合成石英ガラスは、FPD製造用途の転写用マスクで使用される超高圧水銀灯の露光光に対する光透過性も高い。これらのことからもわかるように、マスクブランク用基板の材料として好適に用いることができる。
また、構成3にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、前記火炎が、1600℃以上の燃焼温度であることが好ましい。
構成3にあるように、火炎の燃焼温度が、1600℃以上であることが好ましい。合成石英ガラスの軟化点は、その種類によるものの一般的に1600℃以上であるので、1600℃以上の燃焼温度の火炎を用いることにより、転写パターンの痕跡及び表面欠陥の周囲の合成石英ガラスをわずかに流動させ、表面欠陥を平坦化することができる。なお、合成石英ガラスの流動を確実にするためには、火炎は、1700℃以上の燃焼温度であることがより好ましく、1800℃以上の燃焼温度であることさらに好ましい。また、火炎の燃焼温度の上限は、合成石英ガラスに対して悪影響を及ぼさない程度の温度であることが好ましく、例えば、2800℃以下、好ましくは2500℃以下、より好ましくは2300℃以下である。
また、構成4にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、前記火炎を接触させる工程後に、基板の主表面の研磨を行う工程を有することが好ましい。
構成4にあるように、基板の主表面の研磨を行うことにより、マスクブランク用基板の主表面の平坦化を確実にすることができる。主表面の研磨は、公知の方法で行うことができる。
次に、本発明のマスクブランクの製造方法の構成5について説明する。
本発明は、構成5にあるように、構成4に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上にパターン形成用の薄膜を成膜する工程を有することを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。
構成5にあるように、上記構成4のマスクブランク用基板の製造方法では、火炎処理によって非平坦部分の平坦化を容易に行うことができるので、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板を得ることができる。そのため、上記構成4のマスクブランク用基板にパターン形成用の薄膜を成膜したマスクブランクも、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。なお、マスクブランク用基板へのパターン形成用薄膜の成膜は、公知の方法を用いて行うことができる。
次に、本発明の転写用マスクの製造方法の構成6について説明する。
本発明は、構成6にあるように、上記構成5のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする、転写用マスクの製造方法である。
構成6にあるように、本発明による構成5のマスクブランクの製造方法は、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。そのため、構成5のマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成した転写用マスクも、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。なお、マスクブランクの薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
本発明によれば、転写用マスクに欠陥が存在するなどのために使用が不可能な場合、転写用マスクに使用されていたマスクブランク用基板の主表面に残る転写パターンの痕跡を除去することにより、マスクブランク用基板の再生を可能にする、マスクブランク用基板の製造方法及びマスクブランクの製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、マスクブランクから転写用マスクを作製する過程で基板の主表面に新たに生じてしまった表面欠陥や、転写用マスクを使用している過程で基板の主表面に新たに生じてしまった表面欠陥を除去することにより、マスクブランク用基板の再生を可能にする、マスクブランク用基板の製造方法及びマスクブランクの製造方法を提供することもできる。
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法は、転写用マスクやマスクブランクからマスクブランク用基板1を再利用する際に、パターン形成用の薄膜を剥離したマスクブランク用基板1に対して火炎処理を行うことを特徴とする。
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法が適用される転写用マスクには、例えば、マスクブランクのパターン形成用の薄膜に転写パターンを形成した後にマスク検査を行った結果、欠陥(パターンの白欠陥や黒欠陥、基板の表面欠陥等)が存在することが判明した転写用マスクであって、その欠陥が公知技術の欠陥修正技術でも修正困難なものである場合が挙げられる。このような転写用マスクは、生産ラインの露光装置で使用することは困難である。また、試作・研究用に作製した転写用マスクも、生産ラインでは使用しない。さらに、生産ラインの露光装置で使用されてきた転写用マスクで、転写パターンの経年劣化が進み使用不可となったものも挙げられる。
また、本発明のマスクブランク用基板1の製造方法が適用されるマスクブランクには、例えば、搬送時等に、基板主表面に表面欠陥が発生してしまったマスクブランク等が挙げられる。
以下、合成石英ガラスをマスクブランク用基板1の材料として用いる場合を例にして本発明のマスクブランク用基板1の製造方法について説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法は、図2に示す工程、すなわち、剥離工程(S101)、火炎処理工程(S102)及び研磨工程(S103)を有することができる。なお、前工程に使用した薬品又は研磨砥粒等が次工程に持ちこまれないようにするために、基板に付着した薬品又は研磨砥粒等を除去するための洗浄工程を必要に応じて適宜設けることができる。
マスクブランク用基板1は、使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されない。例えば、マスクブランク用基板1として、合成石英ガラス基板、その他各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)を用いることができるが、この中でも合成石英ガラス基板は、ArFエキシマレーザーの波長領域で透明性が高いので、本発明には特に好適である。
転写パターンを有するパターン形成用薄膜は、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜であり、詳しくは後述するが、例えば遷移金属シリサイド(特にモリブデンシリサイド)の化合物を含む材料からなる遮光膜2が挙げられる。このほか、遷移金属シリサイド(特にモリブデンシリサイド)の化合物を含む材料からなるハーフトーン型位相シフト膜2と、クロムの化合物を含む材料からなる遮光膜3との積層構造となっている場合もある。透光性基板上にパターン形成用薄膜を成膜する方法としては、例えばスパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本発明はスパッタ成膜法に限定する必要はない。
<剥離工程>
次に、転写用マスクに形成された薄膜を剥離する工程(剥離工程)について説明する。薄膜の剥離は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、薄膜の剥離は、エッチング等によって行うことができる。
エッチング剥離法として、パターン形成用の薄膜の材料に適したエッチング液を用いるエッチングで行うことができる。例えば、遷移金属シリサイド(特にモリブデンシリサイド)系の材料で形成された薄膜は、特許文献5に記載されたエッチング液を用いて、剥離することができる。具体的には、エッチング液として、弗化水素酸、珪弗化水素酸、弗化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つの弗素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含み、前記弗素化合物を0.1〜0.8wt%含む水溶液を用いることができる。これら弗素化合物は、金属とシリコンと窒素とを含む薄膜及び基板1の材料を優先的にエッチングする働きをする。この場合、濃度が0.1wt%未満であると、エッチング液による薄膜のエッチング速度が遅くなりすぎ、剥離時間が長くなるので、好ましくない。また、濃度が0.8wt%を越えると、エッチング液による薄膜のエッチング速度が速くなりすぎ、剥離後のマスクブランク用基板1が著しく荒れるので好ましくない。また、過酸化水素、硝酸、硫酸等の酸化剤は、マスクブランク用基板1の侵食を抑えつつ金属とシリコンと窒素とを含む薄膜を優先的にエッチングする働きをするので、弗素化合物の濃度に応じて適宜調整する。
また、上述のエッチング液の温度を35〜65℃とすることによって、薄膜を剥離した後のマスクブランク用基板1の表面の荒れを抑制することができる。
一方、クロム系材料で形成された薄膜は、硝酸第2セリウムアンモニウム及び過塩素酸を含むエッチング液を常温で用いることで、基板1の主表面の荒れを抑制しつつ剥離することができる。
<火炎処理工程>
次に、火炎処理を行うための火炎処理工程について説明する。火炎処理は、マスクブランク用基板1に対し、火炎52を照射して接触させる処理である。一般的に、上述の剥離工程により薄膜の剥離を注意深く行っても、マスクブランク用基板1は転写パターンの痕跡が残ってしまう場合が多い。これは、転写用マスクを作製する際にパターン形成用の薄膜に対して行うエッチング工程時に、基板の主表面がわずかにエッチングされることを避けることが困難であることに起因する。転写パターンには技術的に重要な情報が含まれているため、基板1の再利用の際には、転写パターンの痕跡を除去することが必要である。基板1に対して火炎処理を行うことにより、転写用マスクに使用されていた基板1の主表面71に残る転写パターンの痕跡を除去することができる。また、転写パターンの痕跡以外の表面の欠陥、及びエッチングによって薄膜を剥離した場合に生じるマスクブランク用基板1の表面の荒れも、火炎処理によって除去し平坦化することができる。
図1に、基板1の表面を火炎処理している様子の一例の断面模式図を示す。基板1の表面は、火炎照射装置50から照射する火炎52によって加熱されることで火炎処理される。表面を火炎処理することによって、転写パターンの痕跡等を除去することができ、表面が平坦な基板1を得ることができる。火炎処理の際に火炎52を適切な大きさにすることによって、基板1の加熱を抑えつつ、表面だけを火炎処理することができる。また、火炎処理をするためには大規模な設備の必要はないため、簡易かつ低コストで表面の火炎処理を行うことができる。
火炎処理を行うための火炎照射装置50としては、引火性ガス105を燃焼することによって火炎52を発生するバーナー等を用いることができる。火炎照射装置50に用いる引火性ガス105としては、メタン、プロパン、ブタン及びアセチレン等の炭化水素、水素並びに酸素及び水素の混合気体等から選択して用いることが好ましい。より高温で火炎処理を行うことができるため、ブタン又は水素と、酸素との混合気体の引火性ガス105を用いることがより好ましい。
火炎処理の際、火炎照射装置50と、基板1の表面との間の距離は、火炎52の発生が妨げられず、基板1の表面に対する火炎52の照射が有効に行われる範囲で適宜選択することができる。火炎処理の際の火炎照射装置50と基板1の表面との間の距離は、火炎52の照射を妨げられずに有効に行う点から、10mm〜40mmとすることが好ましい。
火炎処理の際の、基板1の表面への火炎52の照射径は、火炎照射装置50による火炎52の発生径を選択することにより、所定の径とすることができる。基板1の表面全面に対して、一度に火炎処理(全面一括火炎処理)をする場合には、基板1の寸法に対応した火炎52の照射径が必要である。全面一括火炎処理を行うことによって、短時間で火炎処理をすることが可能である。
大きな火炎52を基板1の表面全面に対して均一に照射することは容易ではない。そのため、全面一括火炎処理の場合には、処理の均一性に問題が生じることがある。一方、比較的小さな火炎52を発生する装置を用い、局所的に火炎52を照射しながら基板1の表面全面を走査する処理(走査火炎処理)を行うことにより、基板1の表面全面に対して均一に火炎処理することができる。したがって、より均一な火炎処理を行うことができることから、走査火炎処理によってマスクブランク用基板1の火炎処理を行うことが好ましい。
走査火炎処理によって局所的に火炎52を照射する場合、局所的に均一な処理を行う点から、基板1の表面上の火炎52の照射径は、10mm〜30mmとすることが好ましい。また、走査火炎処理を行う場合、火炎照射装置50を移動させてもよく、また被照射物である基板1を移動させることもできる。また、火炎52の照射の際の火炎照射装置50又は基板1の移動は、連続的に移動させることもできるし、移動と停止とを繰り返すようにステップ的に移動させることもできる。
本発明の製造方法に用いる火炎処理において、火炎52の部分の温度は、マスクブランク用基板1の材料の軟化点により異なる。基板1の材料が合成石英ガラスの場合には、火炎52の部分の温度は、好ましくは1600℃以上、より好ましくは1700℃以上、さらに好ましくは1800℃以上である。このような温度範囲の火炎52を基板1の表面に接触させることにより、基板1の表面及びその近傍の温度が火炎52の部分の温度と同程度となる。その結果、基板1の表面及びその近傍が軟化し、転写パターンの痕跡等を除去することができる。
本発明の製造方法による基板1の表面の火炎処理において、火炎照射装置50又は基板1をステップ的に移動させる場合、基板1の表面の所定の位置に対する火炎52の照射時間が、好ましくは5〜30分、より好ましくは10〜15分となるように、火炎照射装置50又は基板1の停止時間を選択することが好ましい。火炎照射装置50又は基板1を連続的に移動させる場合にも、表面の所定の位置に対する火炎52の照射時間が、上記範囲となるような速度で連続的に移動させることが好ましい。表面の所定の位置に対する火炎52の照射時間を上記のように所定の時間とすることにより、確実に、基板1の表面の転写パターンの痕跡等を除去することができる。
本発明の製造方法において、火炎処理の際に、基板1の表面の転写パターンの痕跡等を光学顕微鏡108で観察しながら火炎52を照射することが好ましい。図4に、表面欠陥5を光学顕微鏡108で観察しながら火炎処理を行うための火炎処理装置100の概略構成図を示す。なお、観察用の照射光としては、集光ランプ又はレーザー等(図示せず)を光源とする照射光を用いることにより、マスクブランク用基板1に対して顕微鏡観察に十分な強度の光を照射することができる。転写パターンの痕跡等からの観察光126が光学顕微鏡108に入射することにより、転写パターンの痕跡等の光学顕微鏡画像を得ることができる。この光学顕微鏡画像から転写パターンの痕跡等の有無を識別するために、画像処理部110を設けることができる。画像処理部110により、転写パターンの痕跡等の寸法及び位置の検出を自動的に行うことができる。図4に示すような火炎処理装置100を用いるならば、基板1の表面の転写パターンの痕跡等を光学顕微鏡108で観察しながら火炎を照射することができるので、火炎処理の際に転写パターンの痕跡等の除去の程度を評価することができる。そのため、もし火炎処理が不十分であるならば、さらに火炎処理を行う等のフィードバックを伴う処理が可能となるので、転写パターンの痕跡等の除去を確実に行うことができる。
<研磨工程>
次に、研磨工程について説明する。上述の火炎処理により、基板1の表面は、転写パターンの痕跡等が除去される。しかしながら、剥離工程及び火炎処理工程において、基板1の主表面の平坦度や表面粗さが悪化することは避けられない。特に、半導体デバイス用途のマスクブランク用基板に求められる表面粗さや表面粗さの条件を満たすことは難しい。このため、火炎処理工程の次に、研磨工程を行うことが好ましい。研磨工程を行うことにより、基板1の再利用を確実にすることができる。
研磨工程での研磨方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、基板1の両面を一度に研磨する両面研磨が適用される。剥離工程及び火炎処理工程を行って得た基板1は、合成石英インゴットから切り出されて切削工程を終えた段階の新品の基板と比べ、平坦度は良好である傾向がある。このため、剥離工程及び火炎処理工程を行って得た基板1は、コロイダルシリカ砥粒を用いた超精密研磨工程を1段階あるいは2段階行っただけでも、半導体デバイス用途のマスクブランク用基板に求められる表面粗さや表面粗さの条件を満たすことが可能である。超精密研磨工程については、公知の方法が適用可能である。以上のようにして、マスクブランク用基板1を得ることができる。
<マスクブランク用基板1の説明>
本発明の製造方法によって得られるマスクブランク用基板1は、その用途に応じて高い平坦度を有し、さらに高い平行度を有するものであることが好ましい。例えば、マスクブランク用基板1は、図3に示すように互いに対向して設けられた一組の主表面71と、該主表面と直交する2組の端面72と、前記主表面と端面とによって挟まれた面取面73を有する角型(方形状)の基板である。半導体デバイス製造用途のマスクブランク用基板1の場合は、一般に、その大きさが約152mm×約152mm×約6.25mmである。このマスクブランク用基板1の場合は、主表面の中心を基準とした142mm角内の領域での平坦度が例えば0μmを超え0.5μm以下であることが必要とされ、好ましくは0.3μm以下であることが望まれる。また、表面粗さについては、自乗平方根平均粗さRqで0.25nm以下である必要がある。
また、FPD製造用途のマスクブランク用基板1の場合は、その大きさが多岐にわたり、330mm×450mm以上であり、例えば、500mm×800mm、厚さ10mmの形状、800mm×920mm、厚さ10mmの形状、1220mm×1400mm、厚さ13mmの形状、2140mm×2400mm、厚さ15mmの形状などがある。このマスクブランク用基板1の場合は、主表面(好ましくは両主表面)の平坦度(マスクブランク用基板1の主表面において、端面から30mmを除いた内側の領域の平坦度を指す。よって、面取面73は必然的に除かれる。)が、小型のマスクブランク用基板1(330mm×450mm未満)では0μmを超え5μm以下、大型のマスクブランク用基板1(330mm×450mm以上)では0μmを超え30μm以下の高い平坦度を有する基板である。また、表面粗さについては、平均表面粗さRaで0.2nm以下、さらに好ましくは0.15nm以下である。
<マスクブランク及び転写用マスクの説明>
以下、本発明のマスクブランク10及び転写用マスクの製造方法の実施の形態を説明する。
本発明は、上述の本発明のマスクブランク用基板1上に、転写パターンを形成するためのパターン形成用薄膜を有するマスクブランク10の製造方法である。本発明の製造方法では、上述の本発明のマスクブランク用基板1上に1又は2以上のパターン形成用薄膜を成膜する。
転写パターンを形成するためのパターン形成用薄膜は、半導体デバイス製造用途のマスクブランクの場合と、FPD製造用途のマスクブランクの場合で大きく相違する。詳しくは後述する。マスクブランク用基板1上にパターン形成用薄膜を成膜する方法としては、例えばスパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本発明はスパッタ成膜法に限定する必要はない。マスクブランク10のパターン形成用薄膜に対して、公知のフォトリソグラフィー法により所定の微細パターンを形成することによって、転写用マスクを得ることができる。
半導体デバイス製造用途のマスクブランクの場合、パターン形成用の薄膜には、例えば、遮光膜、ハーフトーン型位相シフト膜等の光半透過膜がある。遮光膜は、露光光に対して高い遮光性能を有する薄膜である。遮光膜は、露光光をほとんど透過しない(一般に透過率が約0.1%以下)。この遮光膜が適用されたマスクブランクは、バイナリマスクブランクともいわれる。また、このマスクブランクから作製された転写用マスクは、バイナリマスクともいわれる。
光半透過膜の1種であるハーフトーン型位相シフト膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜20%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものであり、このハーフトーン型位相シフト膜をパターニングした位相シフト部と、位相シフト部が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、位相シフト部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることによって、位相シフト部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト、すなわち解像度を向上させるものである。
ハーフトーン型位相シフト膜以外の光半透過膜としては、パターン転写を行うレジスト膜が感光されない程度の所定の透過率で露光光を透過させる薄膜であるが、薄膜を透過した露光光に、薄膜のない部分を透過した露光光との間で位相差を生じないように調整されている薄膜であるものもある。このタイプの光半透過膜が適用されたマスクブランクは、エンハンサマスクを作製する際に使用されることが多い。ハーフトーン位相シフト膜、光半透過膜ともに、露光光に対して所定の透過率を有しているため、露光装置での転写対象物のレジスト膜への露光時に重ね露光を行うと、レジスト膜が感光してしまう場合がある。このため、ハーフトーン位相シフト膜や光半透過膜の上に遮光帯を形成するための遮光膜を積層させた膜構成とする場合が多い。
一方、FPD製造用途のマスクブランクの場合、このマスクブランクから作製された転写用マスクは、超高圧水銀灯を光源(露光光)とする露光装置で使用されることが一般的である。超高圧水銀灯の露光光は、ArFエキシマレーザー等のような単一波長の光ではなく、多色光になる。超高圧水銀灯の露光光は、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)の3つの波長で特に光強度が強い光である。このような多色光では、位相シフト効果は得られにくいため、ハーフトーン型位相シフト膜はFPD製造用途のマスクブランクではほとんど使用されない。半導体デバイス製造用途のマスクブランクと同様、パターン形成用の薄膜に遮光膜が適用されたマスクブランク(バイナリマスクブランク)は使用されている。
FPD製造用途の転写用マスクには、透過率の異なる複数のパターン形成用薄膜にそれぞれ転写パターンが形成された構成の多階調マスクがある。この多階調マスクを用いて、転写対象物のレジスト膜に転写露光を行い、現像処理を行うと、レジスト膜に、レジストが全て溶解した抜け領域と、ある程度の膜厚が溶解している領域と、ほとんど溶解していない領域が形成される。よって、複数のパターンがレジスト膜に形成されていることになる。このようなレジストパターンは、まず、レジストが全て溶解している抜け領域とその他のレジストが残っている残存領域とからなる第1のパターンをマスクとして、レジスト膜の下の薄膜をパターニングすることができる。次に、レジスト膜をある程度の溶解している領域のレジストが消滅するまでレジスト膜を全面で所定膜厚だけ除去する処理を行う。これによって、最初の段階でレジストがほとんど溶解していない領域以外の領域は、レジストが全て溶解した抜け領域となっており、第2のパターンができる。この第2のパターンをマスクとして、レジスト膜の下の薄膜に第1のパターンとは異なるパターンを形成することができる。このようなプロセスを使用することで、本来2枚の転写用マスクが必要なところを、1枚の多階調マスクで済むことになる。
多階調マスクを作製する方法としては、パターン形成用薄膜の成膜と、パターン形成のエッチング処理とを繰り返して多階調マスクを完成させる方法がまず挙げられる。そのほかに、あらかじめ、マスクブランク用基板1上に光半透過膜(1段又は2段以上)と遮光膜を積層した構造の多階調マスクブランクを製造し、この多階調マスクブランクに対してエッチング処理を行い、多階調マスクを完成させる方法がある。
なお、前記以外のパターン形成用の薄膜としては、エッチングマスク(ハードマスク)膜やエッチングストッパー膜がある。
パターン形成用薄膜に適用可能な材料としては、クロムを主成分とする材料がまず挙げられる。クロムを主成分とする材料には、クロム単体のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素等の元素を添加したクロム化合物がある。
また、パターン形成用薄膜に適用可能な材料としては、遷移金属及びケイ素を主成分とする材料(遷移金属シリサイドを主成分とする材料)も適用可能である。遷移金属シリサイドを主成分とする材料には、遷移金属シリサイド単体のほか、遷移金属シリサイドに酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素等の元素を添加した遷移金属シリサイド化合物がある。遷移金属シリサイドの遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等が適用可能である。
このほか、パターン形成用薄膜に適用可能な材料としては、タンタルを主成分とする材料が挙げられる。タンタルを主成分とする材料には、タンタル単体のほか、タンタルに酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素等の元素を添加したタンタル化合物がある。
遮光膜の場合、高い遮光性を有するため、露光光に対する反射率が高くなる傾向がある。これを抑制するために、遮光膜を遮光性能の高い金属(遷移金属シリサイド)の含有量が多い遮光層の上に反射率を抑制するための反射防止層を形成した積層構造とする場合が多い。さらに、遮光膜の基板側の反射率も抑制する必要がある場合は、基板と遮光層の間にさらに裏面反射防止層を形成した積層構造とする場合もある。反射防止層や裏面反射防止層の材料としては、金属(遷移金属シリサイド)に酸素や窒素を含有した金属(遷移金属シリサイド)化合物材料が好適である。これに対し、遮光層は、高い遮光性能を有する必要があるため、金属(遷移金属シリサイド)材料あるいは、酸素や窒素が極力少ない金属化合物(遷移金属シリサイド化合物)材料を用いることが好ましい。
このハーフトーン型位相シフト膜等の光半透過膜に適用可能な材料としては、前記のクロム化合物、タンタル化合物、遷移金属シリサイド化合物が挙げられる。特に、透過率等を調整するため、酸素や窒素を含有する前記化合物が好ましい。
次に、本発明の実施例によって、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
マスクブランク用基板1の製造は、微細パターンを有する転写用マスクを原材料として用い、(1)剥離工程、(2)火炎処理工程、(3)研磨工程の各工程によって行った。以下、各工程を詳細に説明する。
(1)剥離工程
合成石英からなる基板上にハーフトーン型位相シフト膜からなる微細な転写パターンを有する薄膜(ハーフトーン型位相シフト膜)とその上に遮光帯の役割を有する薄膜(遮光膜)が積層された転写用マスク(ハーフトーン型位相シフトマスク)を用意した。ハーフトーン型位相シフト膜は、MoSiNで形成されていた。また、遮光膜は、CrOCN、CrN、CrOCNが順に積層した構造で形成されていた。
最初に、Cr系材料からなる遮光膜(遮光帯)の剥離を行った。剥離に用いたエッチング液は、硝酸第2セリウムアンモニウム及び過塩素酸の混合液であった。このエッチングにより、転写用マスクの遮光帯は全て除去できていた。所定の洗浄を行った後、続いて、MoSiNからなるハーフトーン型位相シフト膜の剥離を行った。剥離に用いたエッチング液は、フッ化水素アンモニウム(0.5wt%)と、過酸化水素(2.0wt%)と、純水(97.5wt%)との混合液であった。このエッチングにより、転写用マスクのハーフトーン型位相シフト膜は全て除去できていた。
(2)火炎処理工程
次いで、上記剥離工程によって薄膜を剥離した基板1に対して、以下の条件で火炎処理を施した。
・火炎温度:2200℃
・火炎照射装置とマスクブランクとの距離:15mm
・火炎径:3mm
・火炎の走査:ステップ的に停止及び移動を繰り返し、1箇所10分の火炎照射をするように走査した。
・引火性ガスの種類:ブタンと酸素との混合気体
火炎処理工程を行った後、基板1の表面を目視及び顕微鏡観察したところ、転写パターンの痕跡は残っていなかった。したがって、火炎処理により、転写パターンの痕跡を完全に除去することができることが明らかになった。
(3)研磨工程
次に、火炎処理工程によって火炎処理を行った基板1に対して、研磨工程を施した。なお、この研磨工程は、一回又は複数の研磨工程からなることができる。また、所定の研磨の後、所定の洗浄を行うための洗浄工程を有することができる。
研磨工程は、特許文献2に記載された図6に示すような両面研磨装置を用いて行った。ポリシャとして超軟質ポリシャを用い、以下の研磨条件で実施した。
研磨液:コロイダルシリカ(平均粒径100nm)砥粒に水を加えた遊離砥粒
研磨布:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)、厚さ2mm
上記研磨工程を終えたマスクブランク用基板1を、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
上記研磨工程を終えたマスクブランク用基板1を、アルカリ(NaOH)、硫酸に順次浸漬して、洗浄を行った。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。さらに、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。以上の工程により、マスクブランク用基板1を得た。
(4)マスクブランクの製造
次に、上記のマスクブランク用基板1上に、窒化されたモリブデン及びシリコンからなるハーフトーン型位相シフト膜(パターン形成用薄膜)2を成膜した。
具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=12at%:88at%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N2:He=8:72:100)で、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を3.0kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜を69nmの膜厚で形成した。次いで、上記MoSiN膜が形成された基板に対して、アニール処理として加熱処理を施した。具体的には、加熱炉を用いて、大気中で加熱温度を550℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。なお、このMoSiN膜は、ArFエキシマレーザーにおいて、透過率は6.1%、位相差が184度となっていた。
次に、ハーフトーン型位相シフト膜2上に、クロム系材料からなる遮光膜(パターン形成用薄膜)3を成膜した。
具体的には、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:CO2:N2:He=22:39:6:33)で、ガス圧0.2Pa、DC電源の電力を1.7kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、CrOCN膜を30nmの膜厚で形成した。続いて、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N2)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N2=83:17)で、ガス圧0.1Pa、DC電源の電力を1.7kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、CrN膜を4nmの膜厚で形成した。さらに、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:CO2:N2:He=21:37:11:31)で、ガス圧0.2Pa、DC電源の電力を1.8kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、CrOCN膜を14nmの膜厚で形成した。以上により、基板1側から、CrOCN膜、CrN膜、CrOCN膜の3層積層構造のクロム系材料の遮光膜3を形成した。以上の工程により、ハーフトーン型位相シフトマスクブランク(マスクブランク)10を得た。
次に、上記の位相シフトマスクブランクを用いてハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。図5は、位相シフトマスクブランクを用いて位相シフトマスクを製造する工程を示す断面模式図である。まず、マスクブランク10上に、レジスト膜4として、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を形成した(同図(a)参照)。レジスト膜4の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。
次に上記マスクブランク10上に形成されたレジスト膜4に対し、電子線描画装置を用いて位相シフトパターンのパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターン4aを形成した(同図(b)参照)。
次に、上記レジストパターン4aをマスクとして、遮光膜3(Cr系遮光膜)のエッチングを行って遮光膜パターン3aを形成した(同図(c)参照)。ドライエッチングガスとして、Cl2及びO2の混合ガスを用いた。
次に、上記遮光膜パターン3aをマスクとして、ハーフトーン型位相シフト膜2(MoSiN膜)のエッチングを行って位相シフトパターン2aを形成した(同図(d)参照)。ドライエッチングガスとして、SF6及びHeの混合ガスを用いた。
次に、マスクブランク10上に、レジスト膜4として、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を同様に形成し、電子線描画装置を用いて遮光帯のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターン4bを形成した(同図(e)参照)。
次に、上記レジストパターン4bをマスクとして、遮光膜パターン3a(Cr系遮光膜)のエッチングを行って遮光膜パターン(遮光帯)3bを形成した。ドライエッチングガスとして、Cl2及びO2の混合ガスを用いた。
次に、残存するレジストパターンを剥離して、位相シフトマスク15を得た(同図(f)参照)。位相シフトマスク15は、問題なく使用可能であった。また、位相シフト膜の透過率、位相差はマスクブランク10の製造時と比べ、ほとんど変化はなかった。
この位相シフトマスクを用い、ArFエキシマレーザーを光源とする露光装置で、転写対象物のレジスト膜に対して位相シフトパターンの露光転写を行った。転写対象物のレジスト膜に対して現像処理を行ったところ、再利用したマスクブランク用基板1から位相シフトマスク(転写用マスク)を作製しても、正常にレジストパターンが形成されていることが確認できた。
(比較例1)
火炎処理工程に変えて、従来のサンドブラストによる処理で基板1の主表面上の転写パターンの痕跡を除去した以外は、実施例1と同様に、マスクブランク用基板1を製造した。サンドブラストによる処理でも転写パターンの痕跡を除くことはできていた。しかし、その後の研磨工程をコロイダルシリカ砥粒による主表面の両面研磨だけでは不十分であり、最終的に出来上がった位相シフトマスクの光透過部(主表面上に位相シフトパターンのない部分)の透過率低下が大きく、また位相差の異常を起こす部分も発生していた。
また、この比較例1の位相シフトマスクを用いて、ArFエキシマレーザーを光源とする露光装置で、転写対象物のレジスト膜に対して位相シフトパターンの露光転写を行った。転写対象物のレジスト膜に対して現像処理を行ったところ、レジストパターンに異常個所が多発しており、位相シフトマスクとして、生産ラインでは使用できないことが明らかとなった。