JP5633839B2 - リグノセルロース系バイオマスの変換方法 - Google Patents
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Description
さらに本発明は、前記製造方法より得られるスラリーを基質とした酵素糖化法、前記酵素糖化法によって得られる糖質を基質としたエタノール製造法に関する。
その一方で、木化度の低い草本系バイオマスに対する水酸化カルシウム前処理の有効性については、複数の論文で報告されている(非特許文献2〜4参照)。
しかしながら、このような希アルカリ処理工程は、弱酸性条件下で働くセルラーゼ等の酵素による糖化工程に先立ち、酸・アルカリ等の試薬や水溶性成分を細胞壁由来の固形分と分離するための固液分離工程や、洗浄・中和工程が必要となる。水熱処理でも、過分解物や遊離リグニン等を除去するための洗浄を行うことが望ましい。
また、水酸化カルシウム前処理工程では、バイオマス原料の破砕・粉砕物、水酸化カルシウムと水を主成分とする混合物を、室温または加熱状態で反応することにより、希アルカリ処理効果を発現させる。しかしながら、アルカリ中の陽イオン(Na+、Ca2+、Mg2+など)は、前処理反応時にバイオマス(主にヘミセルロースのカルボキシル基とリグニンのフェノール基)と強く結合し、簡単な水洗浄では完全に除去できない。また、バイオマスから外れた陽イオンはアルカリ性を示すため、洗浄時には大量の水を必要とする(非特許文献5参照)。
このアルカリ前処理物の中和方法としては、水洗浄中和方法(非特許文献6参照)、塩酸中和後水洗浄法(非特許文献4参照)、酢酸中和後水洗浄法(非特許文献7参照)、クエン酸中和後水洗浄法(非特許文献8参照)及び上記の中和法を組み合わせる法(非特許文献2参照)などが検討されている。
また、これらのうち特に一般的な方法として、塩酸、硫酸、水洗浄について、以下の具体的な欠点が挙げられる。
(1)塩酸:中和後に水溶性の塩化カルシウムが生じる。中和操作は簡単だが、塩化カルシウムの再利用は困難であり、酸のコストと洗浄工程の整備・運転コストがかかる。また、糖化工程に先立ちイオン濃度を低下させるため、固液分離操作、洗浄操作が必要となり、その際に大量の水を使用し、廃液排出と共に繊維性固形分や遊離糖質の流亡が起こる。中和過程で生じる塩化カルシウムとアルカリ前処理によって生じる可溶化されたリグニンと低分子化されたキシランは廃液処理を困難にする。その他、中和・洗浄後も糖化酵素反応を行うためには反応槽の更なるpH調節が必要であるため、試薬コストの増加および洗浄工程時の微生物による汚染の危険性が存在する。
(2)硫酸:中和後に不溶性の石膏が沈殿する。生成する石膏は、溶解性が極めて低く、酵素反応や微生物発酵時の塩阻害の原因となりにくい。中和操作は簡単だが、試薬は再利用困難であり石膏処理コストや硫酸のコストや洗浄工程の整備・運転コストがかかる。また、糖化時の固形分濃度を減じるため、粉末状の石膏と繊維性固形分の分離操作が必要となり、その際に大量の水使用が必要で廃液排出と共に繊維性固形分や遊離糖質の流亡が起こる。中和過程で生じる石膏は処理バイオマスの粒子サイズが細かい場合は石膏と前処理後バイオマスの分離が困難であり、塩酸中和時と同様にアルカリ前処理によって生じる可溶化されたリグニンと低分子化されたキシランは廃液処理が困難である。その他、中和・洗浄後も糖化酵素反応を行うためには反応槽の更なるpH調節が必要であるため、試薬コストの増加と洗浄工程時の微生物による汚染の危険性が存在する。
(3)水洗浄:水酸化カルシウムと繊維性固形分との相互作用等によりpH低下が鈍くなるため、洗浄工程は極めて非効率的なものとなり、大量の廃水が生じる。洗浄時に繊維性固形分や遊離糖質の流亡が起こる。アルカリ前処理によって生じる低分子化されたキシランと共に可溶性されたリグニンとシリカは水洗浄工程では再沈澱が行われず、廃液中に塩酸または硫酸中和に比べて多く排出され、廃液処理をさらに困難にする。その他、中和・洗浄後も糖化酵素反応を行うためには反応槽の更なるpH調節が必要であるため、試薬コストが増加と洗浄工程時の微生物による汚染の危険性が存在する。
さらに、固液分離工程では、遠心分離機やスクリーン型分離装置等を用いることとなり、分離装置導入・稼働によるコスト増が問題となる。洗浄・中和工程では、連続洗浄装置を導入する必要が生じるほか、大量の水を使用することとなり、廃液処理コストが増大する。
そこで、前処理後の固液分離工程および洗浄・中和工程を改良し、細胞壁由来固形分や遊離糖質の流亡を防ぎ、効率的に糖化を行うための技術(原料コスト、試薬コスト、設備・運転コストを大幅に節約できる技術)の開発が求められていた。
請求項2に係る本発明は、植物体の地上部からなるリグノセルロース系バイオマス原料を裁断又は粉砕した後、水酸化カルシウムと、水とを混合し、アルカリを浸透させることによりスラリーを調製してアルカリ処理を行い、その後二酸化炭素を通気すること及び加圧することによって、中和しpHを5〜7に低下させること、かつ、当該方法が固液分離も洗浄も含まないこと、を特徴とする、酵素糖化反応の基質として用いるスラリーの製造方法に関するものである。
請求項3に係る本発明は、前記アルカリ処理が、80〜180℃で10分〜3時間行うものである、請求項1又は2に記載のスラリーの製造方法に関するものである。
請求項4に係る本発明は、前記アルカリ処理が、0℃〜50℃で3日以上行うものである、請求項1又は2に記載のスラリーの製造方法に関するものである。
請求項5に係る本発明は、前記中和前もしくは中和後に、スラリーの固形分を磨砕する工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のスラリーの製造方法に関するものである。
請求項6に係る本発明は、前記植物体の地上部が、稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、エリアンサス、牧草、単子葉類の雑草のうちの1以上からのものである、請求項1〜5のいずれかに記載のスラリーの製造方法に関するものである。
請求項7に係る本発明は、前記植物体の地上部が、非可食部分である、請求項1〜6のいずれかに記載のスラリーの製造方法に関するものである。
請求項8に係る本発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によりスラリーを製造し、当該スラリーに、デンプン、β-(1→3), (1→4)-グルカン、セルロース、キシラン、および、これらの部分分解物、のうちの少なくとも1種類以上を糖化する酵素を添加した後、二酸化炭素を通気及び/又は加圧しながらpHの上昇が起こらないように酵素糖化反応を行うことを特徴とする、酵素糖化法に関するものである。
請求項9に係る本発明は、請求項8に記載の酵素糖化法により糖化物を含むスラリーを製造し、当該糖化物を含むスラリーに、エタノール発酵微生物を添加した後、二酸化炭素を通気及び/又は加圧しながらpHの上昇が起こらないようにエタノール発酵を行うことを特徴とする、エタノール製造法に関するものである。
請求項10に係る本発明は、請求項8に記載の酵素糖化反応において、前記糖化酵素に加えてさらにエタノール発酵微生物を添加し、酵素糖化反応とエタノール発酵とを並行複発酵で行うことを特徴とする、エタノール製造法に関するものである。
請求項11に係る本発明は、前記エタノール発酵微生物が酵母である、請求項9又は10に記載のエタノール製造法に関するものである。
請求項12に係る本発明は、請求項8に記載の酵素糖化反応を行って糖化物を得て、当該糖化物を回収し、残存物を膜濾過または遠心分離することによって固液分離して固形分を得て、得られた固形分を燃焼することによって、灰分を回収することを特徴とする、カルシウム塩を含む無機物の回収法に関するものである。
請求項13に係る本発明は、請求項9〜11のいずれかに記載のエタノール発酵を行って、エタノールと残存物を得て、当該エタノールを回収し、残存物を膜濾過または遠心分離することによって固液分離して固形分を得て、得られた固形分を燃焼することによって、灰分を回収することを特徴とする、カルシウム塩を含む無機物の回収法に関するものである。
請求項14に係る本発明は、前記カルシウム塩を含む無機物が、リン酸塩を含むものである、請求項12又は13に記載のカルシウム塩を含む無機物の回収法に関するものである。
従って、本発明により、リグノセルロース系バイオマス原料(特に易分解性糖質を含有するリグノセルロース系バイオマス原料)を酵素糖化する前処理として、固液分離や洗浄工程による糖質(特に遊離糖質)の流出を伴わず、且つ、効率よく糖化を行うための前処理技術、を提供することが可能となる。
即ち、本発明によって、リグノセルロース系バイオマス原料から、‘バイオエタノール’を効率良く製造することが可能となる。
本発明で対象となる「リグノセルロース系バイオマス原料」としては、植物体の地上部を用いることができる。
これらは、大きく木質系原料と草本系原料に分けられる。また、これらの他に、海藻、水草などがリグノセルロース系原料に準じるものとして本発明の対象原料となる。
木質系原料としては、針葉樹、広葉樹、裸子植物等の幹、枝、葉、実などを挙げることができる。しかし、一般に、木質系バイオマス原料と比較して、草本系バイオマス原料の方が木化の程度が低く、前処理条件を穏和に設定できるため、本発明のバイオマス原料としては、草本を用いることが好ましい。
草本系バイオマス原料としては、稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、エリアンサス、牧草、単子葉類の雑草の地上部全体を用いることができる。
具体的には、コーンエタノール製造時に圃場に蓄積するトウモロコシ茎葉(コーンストーバー)、サトウキビ搾汁後に得られるバガス、主要穀物生産時に副生される稲わら、麦わら、もみ殻、そしていわゆる資源作物としてのスイートソルガムやエリアンサス、牧草類、稲の植物体地上部全体など、が挙げられる。
これらリグノセルロース系バイオマス原料は、易分解性糖質を含有するものを含むものである。これらのうち、特に稲わらやサトウキビバガスでは、澱粉やショ糖(シュークロース)などの易分解性糖質を回収しつつ、セルロースやヘミセルロースの糖化性を向上するような前処理技術の開発が求められているところであり、本発明はこの問題を解決するものである。
本発明におけるバイオマス原料の最適な粉砕度については、原料の形状、含水率、粉砕特性等に応じて異なる。
例えば、稲わらを試料としてスラリーを調製した場合、アルカリ処理の効果は、脱穀後の長いものや数センチメートル程度に裁断されたものでも見出されるが、数ミリメートルから数百マイクロメートル程度の平均粒径またはそれ以下まで粉砕された試料では、薬液の浸透性や基質の表面積が向上し、前処理後の糖化効率が上昇する。
粉砕時の熱による原料の損耗や基質の被覆が起こらない限り、細かく粉砕する程反応効率は向上すると考えられるが、原料に応じて、糖化効率、粉砕コストとハンドリング性を考慮した最適化を行う必要がある。例えば、アルカリ処理によってバイオマスが軟化するとともに機械的強度が減少し、後段の粉砕処理のエネルギー効率が高まることが期待できる。
本発明では、中和後に、塩と前処理したバイオマス原料との分離(固液分離や洗浄)を行う必要がないことから、数百マイクロメートル以下の小さい粒径の試料を用いてもロスがなく、ハンドリング性も低下しにくい。このことは、本発明の大きい利点である。また、石臼などで磨り潰すグラインダー等を用いて、粉砕原料を磨砕しながらアルカリ液を浸透させる方法により、アルカリ処理の効率の向上が期待される。
本発明では、前記バイオマス原料を粉砕した後、当該原料、水酸化カルシウムおよび水を含むスラリーを調製してアルカリ処理を行う。
アルカリ処理を行う際には、まずバイオマスに対して水を加えて、その後に水酸化カルシウムまたはその水懸濁物を混合する方法や、逆に、水酸化カルシウムの粉末を加えた後に水や水蒸気を加える方法、水酸化カルシウムの添加を数段階に分けて行う方法、バイオマス中の水分を利用して、水酸化カルシウムのみを添加して混合する方法など、様々な反応混合物の調整方法が存在する。また、原料への水や試薬の浸透性を向上するため、界面活性剤を添加する方法や、減圧下において気泡を除く方法、加圧下において気泡を縮小させて液の浸透を促す方法、などが考えられる。
当該アルカリ処理により、ヘミセルロースのアセチル基やフェルロイル基などのエステルやリグニン分子内のエステルが加水分解されることにより、酵素糖化性が向上するとともに、リグニンやシリカの一部が可溶化すると考えられている。その際に、ヘミセルロースの一部も遊離・可溶化するが、セルロースやヘミセルロースの大部分は固形分としてバイオマス中に残存し、後段の酵素糖化の基質となる。
なお、当該処理に用いる水酸化カルシウムの添加比としては、前記バイオマス原料の乾重量に対して2〜80%の添加が可能で、望ましくは10〜40%の添加で行うことができる。
その際、前処理反応系の水分含量は、前記バイオマス原料に対して1〜40倍への調整が可能で、望ましくは3〜20倍の調整を行うことができる。また、原料が有する水分を利用し、前記水分含量とすることも可能である。さらに、前記バイオマス原料の粉砕度を上げることにより、水の添加量を減らすことも可能である。
高温条件で水酸化カルシウム処理を行う場合、80℃以上、望ましくは100℃程度またはそれ以上の温度で数時間処理することが有効である。なお、180℃を越えると、熱処理コストが増大し、糖の回収率が下がる現象が見出されることから、本発明では、80〜180℃、さらに望ましくは80℃〜160℃の条件とする。
処理時間は、熱伝達に必要な10分程度の時間以上が求められ、10分〜3時間程度、好ましくは、30分〜2時間程度の範囲で行うことが望ましい。また、水蒸気を用いてスラリーを調製する場合、加水処理と加熱処理を同時に行うことができる。
外気温や室温条件で水酸化カルシウム処理を行う場合、具体的には0℃〜50℃、望ましくは室温程度である10〜40℃で、3時間以上、望ましくは3日以上、さらに望ましくは6日以上、保存することが有効である。また、冬季には外気温が氷点下になることもあり、本発明では、そのような条件での外気温での保存を行う場合も含む。
なお、外気温や室温でのアルカリ処理の場合、アルカリ条件下での前処理効果と共に‘保存効果’も期待しているものであることから、3時間程度〜数百日以上の保存を行うことにより、収穫物の長期間貯蔵・利用が可能となる。特に、含水率が高い稲わら、サトウキビ粉砕物等の原料を乾燥することなく貯蔵できることから、乾燥コストの低減や乾燥によるバイオマス原料の特性変化の抑制などに繋がる技術として重要となる。これまでに、稲わら等の原料を乾燥させずに保存する方法としては、乳酸菌の接種、アンモニア接種、尿素接種などが知られているが、乳酸発酵時には、一部の糖質が消費されることや乳酸がエタノール発酵を阻害すること、そして乳酸菌によるエタノール発酵酵母の汚染などが問題となる。また、アンモニアは比較的高価であり、臭気や毒性により作業効率が低下する欠点を有する。尿素は、サイレージ作製上の実用性が期待されているが、エタノール発酵基質として用途を限定した場合には有害物質の生成が懸念されている。このような観点から、水酸化カルシウムにおける非乾燥保存法は極めて有効性や実用性が高く、本発明の技術において一層有効性を発揮するものとなる。特に、稲わら、サトウキビ粉砕物等の原料中に含まれる、でん粉やショ糖は、アルカリ中でほぼ安定的に存在することから、微生物汚染や植物代謝による変質を避けつつ、これらを維持することが可能となる。さらに、前処理としての効果が高いことから、高温での前処理と比較して、前処理時における加熱コストを大幅に減じることが可能となる。
本発明においては、前記水酸化カルシウム処理(アルカリ処理)後の溶液に、二酸化炭素を通気すること及び/又は加圧することによって、中和しpHを低下させる。
中和後のpHは5〜7、好ましくは糖化酵素多くが高い活性を有する6.5以下の弱酸性に調整することが望ましい。具体的にはpH5〜6.5に調整することが望ましい。
二酸化炭素による中和の具体的な方法は、アルカリ処理後の溶液中に二酸化炭素を直接通気(例えば、バブリング、炭酸水の添加、上部からの吹きつけ等)する方法、密閉容器を用いて二酸化炭素で加圧する(陽圧にする)方法、を挙げることができる。また、さらに攪拌、振盪、低温・高圧処理などを行うことにより、二酸化炭素の溶解をより効率的にすることもできる。また、これらの方法を組み合わせて行うこともできる。
なお、本発明では、非密閉容器を用いて、下方置換等の方法により反応系外に出る二酸化炭素を回収することもできるが、密閉容器を用いることが経済的に望ましい。
二酸化炭素で加圧にすることによって、緩やかなpH上昇が抑えられ、pHを前記所定の範囲で一定とすることができる。また、圧力計スイッチ等を利用することで、陽圧容器中の二酸化炭素の消費が進むと容器内の圧力が徐々に低下した際に、新たな二酸化炭素を自動的に導入することもできる。
また、リグノセルロース系バイオマス原料からのエタノール製造工程では、リグニン等の糖化・発酵残渣の燃焼工程やエタノール発酵工程が含まれることから、変換工場内での入手が可能となる。また、ショ糖やでん粉などからの大規模なバイオエタノール製造工場やボイラー燃焼工程を伴う工場が隣接する場合、炭酸ガスの供給はより効率的に行われるものと期待される。水酸化カルシウム−二酸化炭素による中和系は、いわゆるオーバーライミング効果により、遊離リグニン等の物質の沈殿を促し、廃液処理コストを低減することができる。
なお、さらには、後記した工程であるエタノール発酵の際に、反応溶液中から二酸化炭素が発生するが、この反応溶液外に放出された二酸化炭素を貯蔵して利用することもできる。
また、当該二酸化炭素中和後のスラリーは、糖化酵素の活性に適したpH値を有し、また、カルシウムも塩として沈殿する。炭酸カルシウムの殆どは固形物となり、溶質としては殆ど存在していないことから、酵素活性に対する塩の影響は極めて少ないと考えられる。
さらに、中和後に生じた炭酸カルシウム結晶の多くは、前処理バイオマスと接触して存在していることから、前処理物を糖化前に湿式粉砕処理に供することにより、炭酸カルシウム結晶が研磨剤としての役割を果たすことが期待される。酵素糖化反応に先立ち、または、酵素添加後から酵素糖化時において、二酸化炭素中和後のスラリーの固形分を磨砕することにより、糖化効率が上昇させることができる。
本発明では、未反応の水酸化カルシウムが微量存在している場合でも、炭酸ガス雰囲気下で迅速に中和することにより、酵素安定性に対する影響を最低限に抑えることが可能となる。
本発明で原料として用いるリグノセルロース系バイオマス原料(特に草本系バイオマス原料)中には、主要な多糖としては、澱粉、β-(1→3), (1→4)-グルカン、セルロース、キシランが挙げられる。本発明では、これらの多糖あるいはその部分分解物の少なくとも1種類を糖化する活性をもつ酵素(さらには、糖化を促進する活性を有する酵素)を添加するものである。
なお、好ましくは、これらの多糖あるいはその部分分解物の全てを糖化できるように、複数種類の酵素を組み合わせて添加することが望ましい。
当該糖化酵素としては、セルラーゼ製剤、ヘミセルラーゼ製剤、β-グルコシダーゼ製剤を用いることができるが、具体的には、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、リケナーゼ、セロビオハイドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、β−グルコシダーゼ、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キシラナーゼ、α−L−アラビノフラノシダーゼ、β−D−キシロシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、フェルロイルエステラーゼ、β−マンナナーゼ、β−D−マンノシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、キシログルカナーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ等が挙げられる。
本発明では、糖化反応の際に、二酸化炭素を必要に応じて用いることで、pHの上昇が起こらないようにして(pHを維持した条件下で)糖化反応を行うものである。
なお、pH6.5付近で活性が低下する糖化酵素については、安定性が高い場合には、通常の用量または用量を増して適用することが可能となる。
また、安定性が低い酵素の場合には、用量を調節することにより、失活するまでの間に十分な触媒活性を期待しながら酵素活性を最適化することが可能となる。
また、先述したとおり、バイオマス糖化用酵素製剤の多くは、pH6.5付近での使用が可能であるが、pH6.5付近で活性の‘特に高い活性を有する糖化用酵素’を自然界からスクリーニングしたり、タンパク質構造を改変して触媒特性や安定性を改良した変異酵素等を用いたりして、これらを糖化工程で用いることも可能である。例えば、pH6.5付近で高い活性を示すβ-グルコシダーゼとして、Humicola属糸状菌、特にHumicola insolens由来の酵素を用いることができる。
例えば、澱粉糊化が起こりやすい70℃〜110℃程度の温度に低下した時に、耐熱性アミラーゼを加えて糖化反応を行うことにより、でん粉の液化が効率化する。
また、市販酵素製剤中のセルラーゼ製剤やヘミセルラーゼ製剤の多くは、50℃前後で安定に作用することから、前処理物の品温が50℃程度に低下した際に酵素を添加することが望ましい。
なお、酵素(機能性タンパク質も含む)のほかに、界面活性剤のように酵素糖化反応を促進する因子を加えて糖化を行うこともできる。
本発明では、前記酵素糖化反応後に得られる糖化物を含むスラリーに、エタノール発酵微生物を添加した後、二酸化炭素を必要に応じて用いることで、pHの上昇が起こらないようにして(pHを維持した条件下で)エタノール発酵を行う。
なお、当該エタノール発酵は、前記酵素糖化反応によって得られる糖化物だけでなく、バイオマス原料に含まれる糖質(内在性のグルコース、フラクトース、シュークロース、など)そのものをも基質とするものである。
本発明における前記のスラリーは、前記酵素反応と同様に、通常のエタノール発酵においても阻害を殆ど起こさないため、当該スラリーに対してエタノール発酵微生物を‘直接’入れて、エタノール発酵を行うことが可能である。従って、本発明では、発酵を行う前の固液分離や洗浄などの糖質が流出する工程を完全に省くことができる。すなわち、効率良く‘バイオエタノール’を製造することが可能である。
また、当該スラリーは、エタノール発酵に適したpH値を有し、また、カルシウムも塩として沈殿する。炭酸カルシウムの殆どは固形物となり、溶質としては殆ど存在していないことから、エタノール発酵に対する塩の影響は極めて少ないと考えられる。
糖化と発酵を同時に行う並行複発酵を行うことにより、発酵生成物であるエタノールを得るまでの時間や設備コストを低く抑えることが可能である。さらに、並行複発酵工程を高度化したConsolidated Bioprocessにおいても、本発明における中和スラリーを基質とすることができる。
さらに、エタノール発酵時に副産物として生産される有機酸による発酵槽のpHの低下は、エタノール発酵阻害または菌の生育阻害を起こす原因になるが、当該発明におけるエタノール発酵では、二酸化炭素による中和過程で生じた炭酸カルシウムにより発酵中発生される有機酸が自然に中和されるため、発酵槽のpH制御のための更なる試薬コスト削減が可能である。
なお、発酵時には、発生する二酸化炭素やpH維持のために吹き込む二酸化炭素等により、反応液中のpHは6.5付近またはそれ以下となる。pH6.5付近は、酵母、細菌、糸状菌の多くが生育可能なpH範囲内にあり、種々の遺伝子組換え発酵菌、例えば、Escherichia coli、Saccharomyces cerevisiae、Corynebacterium属菌等を用いることが可能である。
また、複数の微生物(例えば、グルコースやシュークロースに対する発酵性を有する微生物と、キシロースに対する発酵性を有する微生物)を、同時にもしくは1種類ずつ経時的に添加して発酵させることで、バイオマス原料からのエタノール変換率を向上させることができる。
なお、当該技術は、エタノール発酵以外においても、発酵菌の種類や培養条件を変更することにより、種々のバイオリファイナリー工程において適用することも可能である。
本発明では、前記酵素糖化反応を行った後やエタノール発酵を行った後、目的物質回収後の残存物を、膜濾過または遠心分離することによって固液分離を行い、得られた固形分(炭酸カルシウム、リグニン、発酵菌等を含む固形分)を燃焼することにより、カルシウム塩を含む無機物(灰分)を回収することが可能となる。また、同時にリグニン由来の熱を回収することも可能である。
一度の固形分燃焼工程で、リグニンの燃焼とカルシウム塩を含む無機物の回収が可能となることも本発明のメリットである。
また、この灰分は、原料由来の無機成分、例えば、稲わらから得られるシリカ分が含まれており、稲栽培用の資材として用いる場合等にはシリカを含有している点が肥料としての付加価値となる。
バイオマス変換工程における無機栄養分の回収および再利用は極めて重要である。バイオマス原料や発酵微生物等の生体成分等に由来する、または酵素製剤等の試薬に含まれているリン分を回収し、植物栄養源として再利用するための技術開発が求められているところである。本発明では、リン酸とカルシウムイオンが結合し、種々の難溶性塩類を形成する現象に注目し、カルシウムを含む蒸留残渣を燃焼することにより、灰分としてリン酸分を回収する方法を発明した。
以下の実験例、実施例で原料として用いたリグノセルロース系バイオマス原料として、稲わら(品種名:コシヒカリ、リーフスター)、麦わら(品種名:シルキースノウ)、サトウキビバガス(国内製糖工場より入手)、ソルガムバガス(品種名:SIL−05)及びサトウキビ(品種名:Nif8)を用いた。
各バイオマス原料は、65℃で乾燥させ水分含量5%以下の状態で、粒子サイズ1mm以下に粉砕した粉末として調製した。
(1)各種糖質含量と糖化率
A.グルコース含量およびキシロース含量の測定
100mgの前記リグノセルロース系バイオマス粉末(稲わら、サトウキビ、麦わら、ソルガム、サトウキビバガス)またはアルカリ処理後のこれら粉末を量り取り、これを2段階硫酸処理(72%硫酸、1mL、30℃で1時間処理後、水で8倍希釈し、100℃、2時間処理)を行った。そして、一部をサンプリングして10%NaOH水溶液で中和した。
その後、グルコースC−IIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて乾重当たりのグルコース含量を測定した。また、D−キシロースキット(メガザイム社)を用いて乾重当たりのキシロース含量を測定した。
アルカリ処理前と後のバイオマス粉末において、グルカン含量とキシラン含量を以下の式1、2で計算した。
〔式1〕
グルカン含量(%)=100×(グルコース量×0.90)/バイオマス原料の乾重量
〔式2〕
キシラン含量(%)=100×(キシロース量×0.88)/バイオマス原料の乾重量
各糖化反応後のグルカン糖化率とキシラン糖化率は以下の式3、4で計算した。
〔式3〕
グルカン糖化率(%)=100×(酵素糖化グルコース量×0.90)/バイオマス原料のグルカン含量
〔式4〕
キシラン糖化率(%)=100×(酵素糖化キシロース量×0.88)/バイオマス原料のキシラン含量
アルカリ処理後にサンプル中和、洗浄工程が必要な場合は、洗浄によるサンプルの流失(おもに、易分解性糖質と低分子化されたグルカン及びキシラン)が起こるため、グルカン糖化率とキシラン糖化率の計算後、さらにグルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率の計算を行った。
すなわち、アルカリ処理後のバイオマス粉末の乾重回収率を、式5で計算した。
2段階硫酸処理と糖化反応を行い、前処理後稲わらのグルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を式6、7で計算した。
また、アルカリ処理後のサンプル中和時、洗浄工程を必要としない場合は、式3と4で求められたグルカン糖化率とキシラン糖化率をそれぞれグルカンとキシラン糖化回収率とした。
〔式5〕
乾重回収率(%)=
100×アルカリ処理後バイオマスの乾重量/バイオマス原料の乾重量
〔式6〕
グルカン糖化回収率(%)=
100×グルカン糖化率×乾重回収率/(100×アルカリ処理後バイオマスのグルカン含量/バイオマス原料のグルカン含量)
〔式7〕
キシラン糖化回収率(%)=
100×キシラン糖化率×乾重回収率/(100×アルカリ処理後バイオマスのキシラン含量/バイオマス原料のキシラン含量)
A.バイオマス乾重あたりの澱粉含量の計算
バイオマスの乾重あたりの澱粉含量の計算はTotal starch kit(メガザイム社)で行った。
すなわち、バイオマス粉末を10mg量り取り、1.5mL容のプラスチックチューブに入れたものを2本用意した。そのうち1本は水(0.02% NaN3)を0.5mL加え、10分間激しく撹拌した。攪拌後、サンプルを速やかに4℃に冷却し、遠心分離(15,000g、3分)して上清一部分をサンプリングした。これを水で希釈した後、グルコースC−IIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて遊離グルコース量を測定し、乾重あたりの遊離グルコース値を計算し、「G値」とした。
他1本は熱安定性のα-アミラーゼ(50mM MOPS緩衝液、0.02% NaN3、5mM CaCl2 pH 7.0)酵素液を300μL(30U)添加し、100℃のヒートブロック(CTU-N、Taitec社)中で10分間処理した(2分ごとに激しく撹拌)。その後、サンプルを50℃に冷却し、酢酸ナトリウム緩衝液400μL(200mM、0.02% NaN3、pH4.5)とアミログルコシダーゼ酵素液 10μL(2U)を添加して50℃サーモブロック回転機(SN-48BN、日伸理化社)で、回転させながら糖化反応を30分間行った。反応後、サンプルは速やかに4℃に冷却し、遠心分離(15,000g、3分)して上清一部分をサンプリングした。これを水で希釈した後に、グルコースC−IIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いてグルコース量を測定して乾重あたりの酵素反応後のグルコース値を計算し、「StaG値」とした。
乾重あたりの澱粉含量はStaG値からG値を差し引き、澱粉量に換算して計算した。
バイオマスの乾重あたりのβ-(1→3), (1→4)-グルカン含量の計算は、Mixed-linkage Beta-glucan kit(メガザイム社)で行った。
すなわち、バイオマス粉末を10mg量り取り、1.5mL容のプラスチックチューブに入れたものを2本用意した。そのうち1本は水(0.02% NaN3)を0.5mL加え、10分間激しく撹拌した。攪拌後、サンプルを速やかに4℃に冷却し、遠心分離(15,000g、3分)して上清一部分をサンプリングした。これを水で希釈した後、グルコースC−IIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて遊離グルコース量を測定し、乾重あたりの遊離グルコース値を計算し、「G値」とした。
他1本は酢酸ナトリウム 緩衝液(20mM、pH5.0)を480μL添加して100℃のヒートブロック中で10分間処理した(2分ごとに激しく撹拌)。その後、サンプルを40℃に冷却し、リケナーゼ20μL(1U)を添加して40℃のサーモブロック回転機(SN-48BN、日伸理化社)で、回転させながら糖化反応を60分間行った。反応後、サンプルは速やかに4℃に冷却し、遠心分離(15,000g、3分)して上清100μLをサンプリングした。これにベータグルコシダーゼ(0.23U,20mM,pH7.0 リン酸緩衝液)酵素液100μLを添加して40℃のサーモブロック回転機で、回転させながら糖化反応を30分間行った。反応後、サンプルは速やかに4℃に冷却し、遠心分離(15,000g、3分)して上清一部分をサンプリングした。これを水で希釈した後、グルコースC−IIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いてグルコース量を測定して乾重あたりの酵素反応後のグルコース値を計算し、「BetaG値」とした。
乾重あたりのβ-(1→3), (1→4)-グルカン含量は、BetaG値からG値を差し引き、β-(1→3), (1→4)-グルカン量に換算して計算した。
稲わら乾重あたりのシュークロース含量の計算はSucrose, D-fructose and D-glucose kit(メガザイム社)で行った。
すなわち、稲わらを20mg量り取り、1.5mL容のプラスチックチューブに入れ、水(0.02% NaN3)を1mL加え、10分間激しく撹拌した。攪拌後、サンプルを速やかに4℃に冷却し、遠心分離(15,000g、3分)して上清10μLをサンプリングして、96プレートの2ヶ所のウェルに入れた。そのうち1ウェルはグルコースC−IIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて遊離グルコース量を測定し、乾重あたりの遊離グルコース値を計算し、「G値」とした。
他1ウェルはインベルターゼ酵素液(クエン酸緩衝液、pH4.6)を20μL(4U)添加して30℃で10分間酵素反応後、一部分をサンプリングして、水で希釈した後に、グルコースC−IIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いてグルコース量を測定し、乾重あたりの遊離グルコース値を計算し、「SucG値」とした。
乾重あたりのシュークロース含量はSucG値からG値を差し引き、シュークロース量に換算して計算した。
稲わら乾重あたりのフラクトース含量の計算はSucrose, D-fructose and D-glucose kit(メガザイム社)を用いて行った。
すなわち、稲わらを20mg量り取り、1.5mL容のプラスチックチューブに入れ、水(0.02% NaN3)を1mL加えて10分間激しく撹拌した。攪拌後、サンプルを速やかに4℃に冷却し、遠心分離(15,000g、3分)して上清10μLをサンプリングして、96プレートのウェルに入れた。このウェルに水200μLとImidazol緩衝液(2M、pH7.6)10μL及びNADP+・ATP(12.5mg/mL・36.7mg/mL)水容液10μLを添加して30℃で3分間反応した。
その後、340nmでの吸光度を測定して「A1値」とした。A1値測定後、ヘキソキナーゼ(0.85U)とGlucose-6-phosphate Dehydrogenase(0.42U)の混合酵素液を10μL入れて30℃で10分間反応を行い、340nmでの吸光度を測定して「A2値」とした(2分間隔で吸光度を測定して吸光度安定を確認し、次の反応を行った)。A2値測定後、Phosphoglucose Isomerase 10μL(2U)を添加して30℃で10分間反応を行い、340nmでの吸光度を測定して「A3値」とした。
A3値からA2値を引いた値と各濃度のフラクトース検量線を作成し、乾重あたりのフラクトース含量を計算した。
まず、糖化反応に用いる稲わら粉末(品種名:コシヒカリ)に対して、アンモニア処理(アルカリ処理)を行った。
すなわち、5%(v/v)アンモニア水溶液(1L)に稲わら粉末(50g)を入れ、25℃で7日間の静置反応後、超純水で洗浄し遠心回収(10,000g、10分)する操作を、上清のpHが7になるまで振り返した。
超純水による中和後の前処理後稲わらは60℃、3日間乾燥させた。糖化反応には1.5mL容のプラスチックチューブにアンモニア処理後の稲わら粉末(50mg)とそれぞれpHの異なる50mM緩衝液(1mL、0.02% NaN3)を入れ加えた。
そして、酵素製剤の糖化反応の至適pH範囲を調べるため、各pH条件下での緩衝液はグリシン緩衝液(pH 2.0、2.5,3.0、3.5及び4.0)、酢酸緩衝液(pH 4.0、4.5,5.0、5.5及び6.0)とリン酸緩衝液(pH 6.0、6.5,7.0、7.5及び8.0)を用いた。
酵素製剤としては、それぞれの緩衝液にセルラーゼ製剤(12μL、Celluclast 1.5L、ノボザイムズ・ジャパン社)、ヘミセルラーゼ製剤(6μL、 Ultraflo L、ノボザイムズ・ジャパン社)及びβ-グルコシダーゼ製剤(4μL、Novozyme 188、シグマ社)を添加した。
反応条件は50℃サーモブロック回転機(SN-48BN、日伸理化社)中で、回転させながら24時間糖化反応を行った。反応後は一部分をサンプリングして、水で希釈後、グルコース量とキシロース量を測定して、上記測定例1に記載の方法に従ってグルカン糖化率とキシラン糖化率を計算した。結果を図1に示す。
また、グルカンとキシランの糖化率は図1に示した。一般的に加水分解酵素は、至適pHが酸性側にシフトしている。しかしながら、本実験で用いた酵素製剤と使用量の酵素反応条件においては、グルカンの至適糖化pH範囲は、3.0から6.5までであった、pH3.0より低い若しくはpH6.5より高くなると急速に糖化率が減少した。一方、キシランの至適糖化pHは3.0から7.0であり、グルカンの至適糖化pHに比べて、pH7の中性付近での活性も維持されていた。
本結果から、適切な酵素製剤を利用することで、アルカリ処理を行ったバイオマスの中和反応はキシラン糖化を主目的とする場合はpH7.0以下、グルカンも主目的にする場合はpH6.5付近までで十分と考えられる。
水酸化カルシウムは以下の反応式によって二酸化炭素で中和され、炭酸カルシウムになり沈澱する。
その結果、18mmolの二酸化炭素通気で中和されpH7になり、理論値13.5mmolにほぼ近い通気量で中和が可能であった。また、27mmol通気することでpH6.4まで下げることが可能であった。二酸化炭素の通気を止めるとpHの上昇(pH7まで)が見られた。
開放系で水酸化カルシウムを用いてアルカリ処理を行った稲わら懸濁液の二酸化炭素による中和効率を調べた。
まず、200mL容のガラスビーカーに100mLの水酸化カルシウム懸濁液(1%(w/v)、13.5mmol、稲わら乾重に対して10%に相当)と稲わら粉末(品種名:コシヒカリ、10g)を添加し、室温でスラリーが均一になるように攪拌した。そして、高温高圧滅菌機(KS-323、Tomy社)を用いて120℃、1時間の水酸化カルシウム処理(アルカリ処理)を行い、室温で冷却した。
その後、二酸化炭素ガスを1分間20mL(0.9 mmol/min)の流速で通気し、pH変化をpHメーターを用いて経時的に測定した。さらに、二酸化炭素ガスによる中和が完了し、pH6.76に安定した32分時点で二酸化炭素通気を止め、攪拌のみでpH変化をモニタリングした。その結果を図3に示した。
本現象は、アルカリ金属陽イオン(Na+、Ca2+、Mg2+など)が稲わらの酸性基(主にヘミセルロースのカルボキシル基(−COOH)とリグニンのフェノール基)と結合し、水溶液中で存在量が減少することから起因していると考えられる。
また、23.1mmol通気することでpH6.76まで下げて安定させることが可能であり、二酸化炭素の通気を止めるとpH上昇(pH7.22まで)が確認された。
密閉系で水酸化カルシウムを用いてアルカリ処理を行った稲わら懸濁液の二酸化炭素による中和能を調べた。
まず、10mL容バイアル瓶(No.3、マルエム社)に4mLの各濃度の水酸化カルシウム懸濁液(0、0.1、0.5、1.0、2.0、4.0%(w/v)、稲わら乾重に対してそれぞれ、0,2,10,20,40,80%(w/w)に相当)にそれぞれ稲わら粉末(品種名:コシヒカリ、200mg)を添加してブチルゴム栓とアルミニウムキャップを閉め、スラリーが均一になるように攪拌した。そして、高温高圧滅菌機を用いて120℃、1時間の水酸化カルシウム処理(アルカリ処理)を行い、室温で冷却した。
なお、各水酸化カルシウム処理後のpH測定は、1mL シリンジ(SS-01T、テルモ社)と針(NN-2138R、0.80×38 mm、テルモ社)でバイアル瓶内の水酸化カルシウム処理液を50μLサンプリングして行った。
その後、密閉系での中和は、まず、図4に示したように2本の針(NN-2138R、NN-2070C、テルモ社)を用いてバイアル瓶内の気層を、滅菌フィルター(0.45μm)を通した二酸化炭素ガス(500mL/min、0.15MPa)で20秒間置換し後、アウトレット側の針(NN-2138R)を取り除き、インレット側の針(NN-2070C)は液中まで入れてバイアル瓶内の二酸化炭素圧力が0.15MPaで20分間加圧する方法で行った。
二酸化炭素中和後の各中和反応液のpH測定は、1mL シリンジ(SS-01T)と針(NN-2138R)でバイアル瓶内の中和反応液を50μLサンプリングし、速やかにpHメーターを用いて行った。本工程は無菌的にクリーンベンチ内で行った。その結果を表1に示す。
試験例1の酵素製剤の至適pH範囲を考慮すると、水酸化カルシウム処理後に二酸化炭素を用いて中和する際に、密閉系において行うことで、グルカン糖化反応とキシラン糖化反応に好適なpHに調整しやすくなることが示された。
発酵槽で水酸化カルシウムを用いてアルカリ処理を行った稲わら懸濁液について、二酸化炭素による中和能を調べた。
まず、1Lガラス瓶に450mLの水酸化カルシウム懸濁液(4%、稲わら乾重に対して36%に相当)に稲わら粉末(50g)を添加し、スラリーが均一になるように攪拌した。高温高圧滅菌機を用いて120℃、1時間の水酸化カルシウム処理(アルカリ処理)を行い、室温で冷却した。
その後、1L発酵槽(Bioneer-C型、丸菱バイオエンジ社、予め121℃、10分間高温加圧滅菌済)に、水酸化カルシウム処理後稲わら懸濁液を入れた。その際、1Lガラス瓶の洗浄は50mLの滅菌水を用いて2回洗い、洗浄液は全て1L発酵槽に入れた。本工程は無菌的にクリーンベンチ内で行った。その後、この懸濁液を攪拌(400rpm)、二酸化炭素を通気(100mL/min)しながら、発酵槽内のpH変化をモニタリングした。
試験例1の酵素製剤の至適pH範囲を考慮すると、実施例2の密閉系での中和例と共に、発酵槽においても、グルカン糖化反応とキシラン糖化反応に好適なpHに調整しやすくなることが示された。
(1)水酸化カルシウム処理、塩酸中和、水洗浄
水酸化カルシウム処理を行った稲わらの塩酸による中和・水洗浄を行った。
まず、30mLのガラス瓶に、10mLの各濃度の水酸化カルシウム懸濁液(0、0.1、0.5、1.0、2.0、4.0%(w/v)、稲わら乾重に対してそれぞれ、0,2,10,20,40,80%(w/w)に相当)と稲わら粉末(品種名:コシヒカリ、500mg)をそれぞれ入れてスラリーが均一になるようによく攪拌した。高温高圧滅菌機を用いて120℃、1時間の水酸化カルシウム処理(アルカリ処理)を行い、室温で冷却した。
その後、塩酸(1M)で中和を行い、さらにpHを1まで下げることで、余剰の水酸化カルシウムを塩化カルシウム化した。次いで、15mLのプラスチックチューブに移して超純水で水洗浄し遠心回収(16,000g、10分)する工程を、上清のpHが4.5以上になるまで繰り返して行った。
そして、得られた中和・水洗浄後に回収した固形物(ペレット)を、75℃で1日間乾燥して乾燥重量を計った。
1.5mLのプラスチックチューブに、前記工程を経て得た固形物(水酸化カルシウム処理後に塩酸中和し洗浄した稲わらのペレット)50mgを量り取り、50mMのクエン酸緩衝液(1mL、pH4.8、0.02% NaN3)と、酵素製剤としてセルラーゼ製剤(12μL、Celluclast 1.5 L、ノボザイムズ・ジャパン社)、ヘミセルラーゼ製剤(6μL、Ultraflo L、ノボザイムズ・ジャパン社)及びβ-グルコシダーゼ製剤(20μL、Novozyme 188、シグマ社)を添加した。
酵素反応条件は50℃サーモブロック回転機(SN-48BN、日伸理化社)中で、回転させながら24時間糖化反応を行った。反応後は一部分をサンプリングして、水で希釈した後に、グルコース量とキシロース量を、測定例1に記載の方法に従って測定した。
また、稲わら原料と水酸化カルシウム処理後の稲わらについて2段階硫酸処理を行い、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を測定例1に記載の方法に従い計算した。
その結果を表2に示した。
一方、グルカン含量に比べてキシラン含量は比較的一定の値(約15%)を示しており乾重回収率が減少することを考慮すると、水酸化カルシウム処理時に低分子化されたキシランが洗浄工程で流失されると考えられた。また、キシラン回収率も増加はするものの、グルカン回収率に比べて低い値(14.0%から49.0%へ)を示した。
実施例2で調製した、各水酸化カルシウム処理後に二酸化炭素による密閉系での中和工程を行った稲わらのスラリーについて、糖化反応を行った。
すなわち、実施例2で調製した前記スラリーに、酵素製剤としてセルラーゼ製剤(48μL、Celluclast 1.5 L、ノボザイムズ・ジャパン社)、ヘミセルラーゼ製剤(24μL、Ultraflo L、ノボザイムズ・ジャパン社)及びβ-グルコシダーゼ製剤(80μL、Novozyme 188、シグマ社)と超純水(848μL)を滅菌フィルター(0.45μm)でろ過して、1mL シリンジ(SS-01T、テルモ社)と針(NN-2138R、0.80×38 mm、テルモ社)で中和後のバイアル瓶(実施例2参照)に注入した。本工程は無菌的にクリーンベンチ内で行った。
反応条件は50℃恒温槽内で回転機(RKVSD、ATR社)を用いて、バイアル瓶を回転させながら24時間酵素糖化反応を行った。
糖化反応後は一部分をサンプリングして、水で希釈後に、グルコース量とキシロース量を測定例1に記載の方法に従い測定した。また、未処理の稲わら原料について2段階硫酸処理を行った。そして、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を測定例1に記載の方法に従い計算した。その結果を表3に示した。
一方、キシラン糖化回収率も、水酸化カルシウムの濃度が増加すると共に、キシラン糖化回収率(20.1%から65.8%へ)が増加する傾向を示した。また、実施例3の塩酸中和法と比較すると、いずれの水酸化カルシウム濃度においても、塩酸中和法よりもさらに15%前後の高いキシラン糖化回収率を示した。
各種アルカリ溶液で稲わらをアルカリ処理した場合における二酸化炭素中和後の酵素糖化反応を検討した。
まず、270mM(稲わら乾重に対して水酸化カルシウム濃度80%に相当)の各アルカリ(水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化マグネシウム)溶液(4mL)にそれぞれ稲わら粉末(品種名:コシヒカリ、200mg)を添加した。そして、これらのアルカリ溶液を用いたこと、及び、アルカリ処理の条件を(120℃、2時間)で行ったことを除いては実施例2に記載の方法と同様にしてアルカリ処理を行い、二酸化炭素中和とpH測定を行った。そして、実施例4に記載の方法と同様に酵素糖化反応を行った。
糖化反応後は、一部分をサンプリングして、水で希釈した後に、グルコース量とキシロース量を測定例1に記載の方法に従い測定した。また、未処理の稲わら原料について2段階硫酸処理を行った。そして、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を、測定例1に記載の方法に従い計算した。
二酸化炭素による中和後pH、グルカン糖化回収率およびキシラン糖化回収率を、表4に示した。
また、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率の結果から、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムを用いたアルカリ処理系でも、二酸化炭素中和後の糖化反応は可能であることが示唆されたが、水酸化カルシウムを用いた系で一番高い値(75.8%、68.1%)になることが示された。
なお、本実施例では、アルカリ処理(水酸化カルシウム処理)を2時間行っているが、実施例4で1時間の80%水酸化カルシウム処理を行った場合(グルカン糖化回収率77.0%、キシラン糖化回収率65.8%)と比べると、処理時間による大きな回収率上昇効果は得られなかった。
バイオマス粉末各種を用いて水酸化カルシウム処理、二酸化炭素中和後の酵素糖化反応を行った。
まず、4mLの1%水酸化カルシウム懸濁液(各バイオマス乾重に対して20%に相当)と各バイオマス〔稲わら(品種名:コシヒカリ)、サトウキビバガス(国産製糖工場より入手)、麦わら(品種名:シルキースノウ)、ソルガムバガス(品種名:SIL-05)〕粉末(200mg)を添加し、金属製のポータブルリアクター(TYS-1型、耐圧硝子工業)で160℃のオイルバスで2時間水酸化カルシウム処理(アルカリ処理)を行い、室温で冷却した。
その後、処理物全量を10mL容バイアル瓶に入れ、実施例2に記載の方法と同様にして、二酸化炭素中和を行い、実施例4に記載の方法と同様にして、酵素糖化反応を行った。
糖化反応後は、一部分をサンプリングして、水で希釈後、グルコース量とキシロース量を測定例1に記載の方法に従い測定した。また、未処理の稲わら原料について2段階硫酸処理を行い、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を測定例1に記載の方法に従い計算した。その結果を表5に示した。
なお、本実施例では、水酸化カルシウム処理を160℃で2時間で行っているが、稲わらについて、実施例4で120℃で1時間の1%水酸化カルシウム(稲わら乾重に対して20%に相当)処理を行った場合(グルカン糖化回収率74.2%、キシラン糖化回収率64.3%)と比べると、グルコース糖化回収率については、温度の上昇による大きな回収率上昇効果は得られなかったものの、キシラン糖化回収率は83.2%を示し、回収率が約20%上昇した。
また、実施例5で示されたように、処理時間(1時間と2時間の差)が回収率に大きな影響を与えないことを鑑みると、‘処理温度’は、高いキシラン回収率を要する工程において重要なファクターであると考えられた。
(1)稲わら中の易分解性糖質含量、グルカン含量、キシラン含量
稲わらには、セルロースとヘミセルロース以外にも、多くの易分解性糖質(グルコース、シュークロース、フラクトース、澱粉、β-(1→3), (1→4)-グルカン)が含まれている。このような易分解性糖質含量は、稲わらの品種、収穫時期及び保存方法によって異なる。稲わら中の易分解性糖質含量、グルカン含量、キシラン含量を測定例1,2に記載の方法に従って測定した。結果を表6に示した。
本易分解性糖質は、従来のアルカリ処理方法では洗浄工程で流失が起こる。しかしながら、水酸化カルシウム前処理、二酸化炭素中和後の糖化では、洗浄工程を全く使わないことから流失は起こらない。
そこで、このような易分解性糖質を含む稲わらを用いて、水酸化カルシウム前処理、二酸化炭素中和後の酵素糖化反応を行った。また、比較データとして水酸化カルシウム処理後、塩酸中和・水洗浄後の酵素糖化を行った。
1本は、実施例2に記載の方法と同様にして水酸化カルシウム処理(120℃、1時間)と二酸化炭素中和を行い、実施例4に記載の方法と同様にして酵素糖化反応を行った。
他の1本は、実施例2に従って水酸化カルシウム処理(120℃、1時間)を行い、試験例3に記載の方法と同様にして塩酸中和・水洗浄を行った後、酵素糖化反応を行うことで比較対照とした。
糖化反応後は一部分をサンプリングして、水で希釈後、グルコース量とキシロース量を測定例1に記載の方法に従い測定した。また、未処理の稲わら原料について2段階硫酸処理を行い、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を測定例1に記載の方法に従い計算した。
その結果を表7に示した。
この結果から、二酸化炭素中和後の糖化は、易分解性糖質を含む稲わらの糖化反応の前処理工程として適していることが示された。
なお、酵素製剤として澱粉分解酵素を添加していないにもかかわらず、リーフスターの澱粉が分解されたのは、β−グルコシダーゼ製剤(Novozyme 188、シグマ社)として添加した酵素製剤に強い澱粉分解酵素活性が存在するためと考えられる。
また、水酸化カルシウム前処理後、塩酸中和・水洗浄時に流失されるシュークロースと澱粉量を測定した。
まず、水酸化カルシウム処理後、塩酸で中和を行った上清を遠心分離(16,000g、10分)により回収し、上清4mL中のシュークロース量と澱粉量を測定して、未処理の稲わら原料の乾重あたりに対しての含量(%)を計算した。その結果を表8に示した。なお、流失した各易分解性糖質含量は、アルカリ処理前の稲わら乾重あたりに対する値を示す。
また、澱粉も全澱粉の約20%が流失されており、熱処理で糊化される澱粉の性質を考慮すると洗浄工程を繰り返すことでより多くの澱粉が流失されることが予測された。
これらのことから、水酸化カルシウム処理後に洗浄を行うことなく、二酸化炭素中和後に糖化する方法が、糖化反応前に行う前処理法として適していると考えられた。
なお、リーフスターでは、120℃、1時間の過酷な水酸化カルシウム処理後でも3.3%のシュークロースが存在していた。
4mLの1%水酸化カルシウム懸濁液(サトウキビ乾重に対して20%に相当)に、収穫後、60℃で乾燥し、粉砕したサトウキビ粉末(品種名:Nif8、200mg)を添加したバイアル瓶を2本用意した。
1本は実施例2に記載の方法と同様にして、水酸化カルシウム処理(120℃、1時間)と二酸化炭素中和を行い、実施例4に記載の方法と同様にして、酵素糖化反応を行った。
他の1本は実施例2に記載の方法と同様にして、水酸化カルシウム処理(120℃、1時間)を行い、その後、試験例3に記載の方法と同様にして、塩酸中和・水洗浄を行い、酵素糖化反応を行い、比較対照とした。
糖化反応後は、一部分をサンプリングして、水で希釈後、グルコース量、キシロース量及びフラクトースを測定例1に記載の方法に従い測定した。
また、シュークロース含量について、‘未処理のサトウキビ原料’と、‘水酸化カルシウム処理を行わずに水洗浄を行ってシュークロースを除去して乾燥させたサトウキビ’を用いて2段階硫酸処理を行い、測定例1に記載の方法に従いシュークロース含量を測定した。
また、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を測定例1に記載の方法に従い計算した。ただし、式1のグルコース量は2段階硫酸処理で得られるグルコース量にシュークロース含量をグルコースに換算して加えて計算した。式3の酵素糖化グルコース量も酵素糖化反応で生じるフラクトースをグルコースと同量と換算して加えて計算した。
その結果を表9に示した。
本結果は、水酸化カルシウム処理によって稲わらに含まれるシュークロースが分解されないことが示された実施例7の結果と一致しており、サトウキビのようにシュークロースを多く含むバイオマスに対しても、水酸化カルシウム処理、二酸化炭素中和後に糖化することが有効であることが示された。
稲わらに対して水酸化カルシウムと水を添加して30℃で保存し、適宜、追加的に加熱処理を行い、稲わら保存処理懸濁液の二酸化炭素中和後の酵素糖化能を調べた。
すなわち、10mL容バイアル瓶に稲わら200mg、水酸化カルシウム40mgおよび水4mLを加えて、実施例2に従い閉栓・撹拌して調製したスラリーに対して、熱処理を行う前に、30℃で3日又は6日間の静置保存処理を行った。その後、3日又は6日間保存処理を行ったスラリー入りのバイアル瓶を30℃、60℃、90℃、120℃、150℃でそれぞれ1時間熱処理を行い、室温で冷却することで水酸化カルシウム処理行い、実施例2に記載の方法と同様にして二酸化炭素中和とpH測定を行った。そして、実施例4に記載の方法と同様にして酵素糖化反応を行った。
糖化反応後は、一部分をサンプリングして、水で希釈後に、グルコース量とキシロース量を測定例1に記載の方法に従い測定した。また、未処理の稲わら原料について2段階硫酸処理を行った。そして、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を測定例1に記載の方法に従い計算した。その結果を表10に示した。
また、長期保存後においては、熱処理の有無によって回収率に大きな差が生じないことが示された。
二酸化炭素中和前と中和後のスラリーに対して、磨砕を行い、糖化に及ぼす影響を調べた。
まず、3本の50mL容バイアル瓶(マルエム社)にそれぞれ稲わら粉末(品種名:コシヒカリ、4g)と水酸化カルシウム(800mg)と水(40mL)を添加してブチルゴム栓とアルミニウムキャップを閉め、スラリーが均一になるように攪拌した(20%水酸化カルシウム(w/w、水酸化カルシウムg/稲わらg)相当)。1本は水酸化カルシウム処理サンプルとして高温高圧滅菌機を用いて120℃、1時間の水酸化カルシウム処理を行い、室温で冷却した。他の2本は、水酸化カルシウム中において30℃で3日又は6日間の静置保存による水酸化カルシウム処理を行った。
また、‘6日間の水酸化カルシウム保存処理後のスラリー’は、実施例2に記載の方法と同様にして二酸化炭素中和とpH測定を行った後、グラインダーミルで5回磨砕し、稲わら粉末が200mg、水が4mLになるように調整して10mL容バイアル瓶に添加した。そして、抗生物質であるハイグロマイシンB(H772-1G、シグマ社、2.5mg)を添加したことを除いては、実施例4に記載の方法と同様にして酵素糖化反応を行った。
糖化反応後は、一部分をサンプリングして、水で希釈後に、グルコース量とキシロース量を測定例1に記載の方法に従い測定した。また、未処理の稲わら原料について2段階硫酸処理を行った。そして、グルカン糖化回収率とキシラン糖化回収率を測定例1に記載の方法に従い計算した。その結果を表11に示した。
稲わらの水酸化カルシウム処理を行い、1L発酵槽を用いて二酸化炭素中和を行ったスラリーを基質とするエタノール並行複発酵(酵素糖化とエタノール発酵を同時に行う発酵法)を行った。
なお、本実施例では、セルラーゼ製剤、ヘミセルラーゼ製剤、及びβ-グルコシダーゼ製剤を用いた酵素系において、エタノール発酵微生物としてはグルカンを目的とするSaccharomyces cerevisiae NBRC0224とキシランを目的とするPichia stipitis NBRC10063を用いて、並行複発酵を行った。
そこに、セルラーゼ製剤(12mL、Celluclast 1.5 L、ノボザイムズ・ジャパン社)、ヘミセルラーゼ製剤(6mL、Ultraflo L、ノボザイムズ・ジャパン社)及びβ-グルコシダーゼ製剤(16mL、Novozyme 188、シグマ社)と超純水(66mL)を滅菌フィルター(0.45μm)でろ過して無菌的に添加した。
その後、50mLのS. cerevisiaeの懸濁液〔YPD培地、30℃、16時間の前培養を行い、遠心(5000g、10分)して菌体を回収し、滅菌生理食塩水で2回洗浄・遠心して並行複発酵時の初発はO.D.600nmが2になるように調整したもの〕を、無菌的に発酵槽に接種した。
接種後は二酸化炭素通気を止め、200rpmで回転させながら30℃で並行複発酵(糖化反応とグルカン由来のエタノール発酵)を行った。
また、接種後は発酵槽の一部を無菌的にサンプリングして発酵槽内のグルコース、キシロース、エタノール濃度を測定した。エタノールの定量は、サンプル液をフィルター濾過(0.45μm)し、HPLC(LC-20AD、SIL-20AC、CTO-20AC、RID-10A、島津社)とAminexR HPX-87Hカラム(300 mm × 7.8 mm、Bio-Rad社)を用いて行った。
接種後は空気を通気(5mL/min)、回転(200rpm)させながら30℃で並行複発酵(糖化反応とキシラン由来のエタノール発酵)行った。
また、接種後は発酵槽の一部を無菌的にサンプリングして発酵槽内のグルコース、キシロース及びエタノール濃度を測定した。
並行複発酵開始から、22時間目までのS. cerevisiaeによるグルカンのエタノール変換率、22時間以降のP. stipitisによるキシランのエタノール変換率、及び全エタノールの変換率を、2段階硫酸処理法と以下の式8、9及び10によってそれぞれ計算した。そのの結果を図5に示した。なお、発酵槽内の遊離グルコース量とキシロース量の経時変化も図6に示した。
グルカンのエタノール変換率(%)=
100×(S. cerevisiaeのエタノール生産量)/(0.511×未処理稲わら原料のグルカン量/0.9)
〔式9〕
キシランのエタノール変換率(%)=
100×(P. stipitisのエタノール量)/(0.511×未処理稲わら原料のキシラン量/0.88)
〔式10〕
全エタノール変換率(%)=
100×(発酵槽のエタノール量)/{0.511×(未処理稲わら原料のグルカン量/0.9+未処理稲わら原料のキシラン量/0.88)}
なお、実施例4に示されるように、本実施例と同様の条件の水酸化カルシウム処理(4%、120℃、1時間)後に糖化反応を行ったグルカン糖化率は、77%であった。このことを考慮すると、二酸化炭素による中和工程で生じる炭酸カルシウムは並行複発酵時、酵素反応及び酵母の生育には影響を与えないことが示唆された。
一方、キシロースはP. stipitis接種前(並行複発酵開始後22時間)までは発酵槽内での濃度が増加し続けていたが、P. stipitis接種後、減少しはじめて並行複発酵開始後67時間目以降は検出されなかった。P. stipitisを接種してから並行複発酵開始後55時間目までのエタノール生産を、キシラン由来エタノールとすると、キシランのエタノール変換率は44.8%であった。
そして、並行複発酵開始から並行複発酵開始後55時間目までの‘全アルコール変換率’は66%であった。
実施例11において、並行複発酵後の発酵残渣(稲わら)を遠心(80,000g、20分)によって回収した。回収後、65℃で2日間乾燥させ乾燥重量を測定した。
その乾燥発酵残渣1gを量り取り、るつぼに入れ、1000℃のマッフル炉(FB-1314M、Barnsteadlthermolyne社)で1時間処理を行った。一時間後、るつぼを室温で冷却して水酸化カルシウム由来の酸化カルシウム(CaO)と稲わら由来の灰の量を測定した。 測定後は、燃焼産物を100mLの超純水に入れて攪拌し、pHを測定しながら、5M塩酸と0.1M塩酸を用いてpH7までの中和適定を行った。すなわち、燃焼産物中の酸化カルシウムが水と反応して水酸化カルシウムとなり、その中和に必要な塩酸を定量して水酸化カルシウム量に換算し、水酸化カルシウムの回収率を求めた。
実施例12において回収された燃焼産物を、改良モリブデンブルー法を用いてリン酸(PO4 3−)の定量を行った。燃焼物50mgに対して、1M/L 硫酸溶液1.2mlを加えて5分間超音波処理を行い、さらに5分間ボルテックスしてリン酸を抽出した。混合溶液の遠心分離後上清をサンプルとして用いた。標準溶液にはリン酸二水素カリウムの0、10、25、50ppm溶液を調製し使用した。
サンプルまたは標準溶液と発色試薬を混合後、880nmの吸光度を測定することによりリン酸(PO4 3−)の濃度を算出した。
特に、我が国で喫緊の課題となっている、国産バイオエタノール生産技術開発に新機軸を提供するものとして、極めて重要性が高い。
Claims (14)
- リグノセルロース系バイオマス原料である植物体の地上部を粉砕した後、当該原料、水酸化カルシウムおよび水を含むスラリーを調製してアルカリ処理を行い、その後二酸化炭素を通気すること及び加圧することによって、中和しpHを5〜7に低下させること、かつ、当該方法が固液分離も洗浄も含まないこと、を特徴とする、酵素糖化反応の基質として用いるスラリーの製造方法。
- 植物体の地上部からなるリグノセルロース系バイオマス原料を裁断又は粉砕した後、水酸化カルシウムと、水とを混合し、アルカリを浸透させることによりスラリーを調製してアルカリ処理を行い、その後二酸化炭素を通気すること及び加圧することによって、中和しpHを5〜7に低下させること、かつ、当該方法が固液分離も洗浄も含まないこと、を特徴とする、酵素糖化反応の基質として用いるスラリーの製造方法。
- 前記アルカリ処理が、80〜180℃で10分〜3時間行うものである、請求項1又は2に記載のスラリーの製造方法。
- 前記アルカリ処理が、0℃〜50℃で3日以上行うものである、請求項1又は2に記載のスラリーの製造方法。
- 前記中和前もしくは中和後に、スラリーの固形分を磨砕する工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
- 前記植物体の地上部が、稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、エリアンサス、牧草、単子葉類の雑草のうちの1以上からのものである、請求項1〜5のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
- 前記植物体の地上部が、非可食部分である、請求項1〜6のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によりスラリーを製造し、当該スラリーに、デンプン、β-(1→3), (1→4)-グルカン、セルロース、キシラン、および、これらの部分分解物、のうちの少なくとも1種類以上を糖化する酵素を添加した後、二酸化炭素を通気及び/又は加圧しながらpHの上昇が起こらないように酵素糖化反応を行うことを特徴とする、酵素糖化法。
- 請求項8に記載の酵素糖化法により糖化物を含むスラリーを製造し、当該糖化物を含むスラリーに、エタノール発酵微生物を添加した後、二酸化炭素を通気及び/又は加圧しながらpHの上昇が起こらないようにエタノール発酵を行うことを特徴とする、エタノール製造法。
- 請求項8に記載の酵素糖化反応において、前記糖化酵素に加えてさらにエタノール発酵微生物を添加し、酵素糖化反応とエタノール発酵とを並行複発酵で行うことを特徴とする、エタノール製造法。
- 前記エタノール発酵微生物が酵母である、請求項9又は10に記載のエタノール製造法。
- 請求項8に記載の酵素糖化反応を行って糖化物を得て、当該糖化物を回収し、残存物を膜濾過または遠心分離することによって固液分離して固形分を得て、得られた固形分を燃焼することによって、灰分を回収することを特徴とする、カルシウム塩を含む無機物の回収法。
- 請求項9〜11のいずれかに記載のエタノール発酵を行って、エタノールと残存物を得て、当該エタノールを回収し、残存物を膜濾過または遠心分離することによって固液分離して固形分を得て、得られた固形分を燃焼することによって、灰分を回収することを特徴とする、カルシウム塩を含む無機物の回収法。
- 前記カルシウム塩を含む無機物が、リン酸塩を含むものである、請求項12又は13に記載のカルシウム塩を含む無機物の回収法。
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