JP5627742B1 - 流体噴射弁及び噴霧生成装置 - Google Patents
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Abstract
Description
また、微粒化して混合気形成を促進させたり、噴霧貫徹力を小さくして吸気ポート内での噴霧付着を抑制したりするためには、各噴霧を拡げて微粒化させる必要があり、更に全体噴霧は拡がってしまう。
また、噴孔を内側にも配置して噴射量分布の偏りを低減したとあるが、内側に噴孔が配置されていない場合に比べて相対的にそのように言えるだけであり、各々の噴孔からの独立した液柱噴流が干渉を避けながら微粒化して、偏りが低減した噴射量分布になる方策についての説明がないので、適用できる吸気ポート形状や吸気弁配置などが不明である。
つまり、噴孔を内側にも配置して各噴霧を近接させ、噴射量分布の偏りを低減しようとすると、各噴霧間には自動的にコアンダ効果が作用して各噴霧の集合化が始まり、下流での噴射方向の横断面の噴射量分布は略中心がピークの円錐状となる一つの集合噴霧となってしまい、この全体噴霧としての噴霧角は比較的小さなものになることは、市場で使用されている燃料噴射弁の特性や公知文献から明らかである。
逆に、コアンダ効果による各噴霧の集合化を抑制するためには、隣り合う噴霧間に一定の距離(噴霧条件や雰囲気条件によって変化する)を確保することが必要となり、前述したように拡がった全体噴霧しか実現できなくなる。
つまり、コアンダ効果の作用が強くなれば、各噴霧は集合してコンパクトになり、噴射方向の横断面の噴射量分布は略中心がピークの円錐状となるのが通常であり、逆にコアンダ効果の抑制が働けば、各噴霧は下流になるに連れて離れてしまい、全体として非常に広角な噴霧流となってしまうのが通常である。
その結果、全体噴霧の噴霧形状や噴霧パターン、噴射量分布は、各噴孔の主たる軸の方向あるいは各噴流の主たる噴射方向の設定に応じて成り行きとなっていた。
実際には、隣り合う各噴霧同士のコアンダ効果や、全体噴霧が中空状となることによる内外圧力差に伴うすぼみ効果の影響を考慮しないと、円環状やC字状の噴霧パターンを実現維持することはできない。
つまり、各噴霧が集合して一つの中実噴霧になってしまったり、逆に、噴霧集合を回避するために大きな拡がりの全体噴霧になってしまったりするわけである。
また、微粒化を実現するために各噴霧が干渉しないようにしたとあるが、上記噴霧パターンを同時に実現する手段が明確でない。
特に、複数の噴霧からなる全体噴霧の噴霧パターンが円環状やC字状、コの字状、馬蹄形状など、中実に対して中空状と言えるものであって、かつその全体噴霧の拡がりを小さくしながら、かつ、貫徹力も大幅に低下させることを可能とする、流体噴射弁、及びその流体噴射弁が用いられた噴霧生成装置を提供するものである。
複数の各前記噴孔から各噴流が噴射されて生じた各噴霧から下流において中空状の全体噴霧が形成される、流体噴射弁であって、
少なくとも一つの前記噴孔は、噴流が噴射された後の前記噴霧が、噴射方向に直角な面内の断面形状が長軸と短軸の長さが異なるスイッチング噴霧であって、下流において前記長軸及び前記短軸の方向が変化して変形するスイッチング噴孔であり、
前記少なくとも一つの前記噴孔を除く各前記噴孔からの各前記噴霧は、前記スイッチング噴霧が前記長軸及び前記短軸の方向が変化した後に、このスイッチング噴霧とコアンダ効果により集合して集合噴霧が形成され、これらの集合噴霧が連鎖して前記全体噴霧が形成されるようになっている。
図1は燃料噴射弁1を示す断面図、図2は図1の燃料噴射弁1の先端部を示す拡大図である。
この燃料噴射弁1は、内燃機関の吸気管に取り付けられ、先端部が内燃機関の吸気ポート内に臨んでおり、下方に向けて燃料を噴射するようになっている。
燃料噴射弁1は、電磁力を発生するソレノイド装置2と、このソレノイド装置2への通電により作動する弁装置7とを備えている。
弁装置7は、円筒形状であってコア4の先端部の外径部に圧入、溶接された弁本体9と、この弁本体9の内部に設けられた弁座10と、弁座10の下流側に設けられた噴孔プレート11と、弁座10の内部で噴孔プレート11の上流に設けられたカバープレート18と、弁本体9の内側に設けられた弁体8と、弁体8の上流に設けられた圧縮バネ14とを備えている。
ボール13は、燃料噴射弁1のZ軸に平行な面取り部13aと、カバープレート18と対向した平面形状の平面部13bと、弁座10と線接触する曲面部13cとを有している。
噴孔プレート11は、周縁部が下側に折曲されており、弁座10の先端面及び弁本体9の内周側面に溶接されている。噴孔プレート11には板厚方向に貫通する断面が円形状の複数の噴孔12が形成されている。
噴孔プレート11には、複数の噴孔12が周方向に沿って等間隔で円形状に配設されている。
各噴孔12は、燃料噴射弁1の中心軸線、即ち噴流方向がエンジンの吸気弁を指向し、かつ図3の左右で互いに交差する2方向に向かう噴孔群に分かれている。
各噴孔12は、真円の非スイッチング噴孔12Aと、長円形状のスイッチング噴孔12Bとの2種類で構成されている。
スイッチング噴孔12Bは、長円の長軸が、各非スイッチング噴孔12Aの中心を結ぶピッチ円に対して直交する方向にあり、非スイッチング噴孔12A及びスイッチング噴孔12Bは、スイッチング噴孔12Bからの噴霧と、非スイッチング噴孔12Aからの噴霧とが、後述するアクシス−スイッチング現象が生じる前にはコアンダ効果により集合しない範囲の距離にそれぞれ設定されている。
内燃機関の制御装置(図示せず)より燃料噴射弁1の駆動回路に動作信号が送られると、燃料噴射弁1のコイル5に電流が通電され、アマチュア6は、コア4側へ吸引される。
この結果、アマチュア6と一体構造であるロッド8a及びボール13は、圧縮バネ14の弾性力に逆らって上方向に移動し、ボール13の曲面部13cが弁座面10aから離間し両者に間隙が形成されて燃料流路が形成され、吸気ポートに指向した燃料噴射が開始する。
シート部R1の上流では燃料がZ軸に平行に流れるため、燃料は、シート部R1を通過した後においては慣性により弁座面10aに沿う流れが主流となり、弁座面10aの下流端の点P1に達する。点P1は弁座面10aの終端であり、弁座10は、点P1から下流側は垂直方向に延びた面を有している。
従って、燃料の主流は、点P1から剥離する。弁座面10aの延長線は、カバープレート18の周側面と点P2で交わっており、点P1から剥離した燃料は、点P2に向かい環状通路C(弁座10の内周壁面とカバープレート18の大径部の周側面との間)を通過して、径方向に大幅な進路変更を伴わずに径方向通路B(弁座10の内周壁面とカバープレート18の小径部の周側面との間)に流入する。
シート部R1と噴孔12の入口の点R2とを直線で結んだ線は、カバープレート18の大径部である薄肉部18bで交叉しており、薄肉部18bは、シート部R1から噴孔12の入口への燃料の直線的な流入を遮っている。
戻り流れロが抑制されることで、シート部R1側から噴孔12に流入する正面流れイの速度が相対的に強められる。
正面流れイの少なくとも一部が径方向通路Bに沿って進行した後に非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12B内で大幅な方向変化を強制されること、及び正面流れイが高速であることにより、燃料は、燃料噴射弁1のZ軸側の非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bの壁面に強く押し付けられる。
なお、図4において、Lは非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bの長さ、Dは非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bの径を示している。
空気は、非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bの出口から非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bの入口付近に導入され、燃料流βに作用して、点Q(噴孔12の燃料入口の外側の縁部)を起点とした燃料流βの剥離を生じさせる。
燃料流βは、非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12B内を進行するに伴い、壁面に押し付けられ、液膜の方向は、非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bの壁面の円周方向に広がりつつ非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bの壁面に沿う方向に変化していく。
隙間通路Aの高さhに対して非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bの長さLが適切であると、非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12B内で薄い液膜流1aの状態まで押し付けられる。
そして、噴射された燃料の液膜流1aは、所定の距離を経て分裂を開始し、液糸の状態を経るなどして微粒化された液滴が生成される。
そこで、この他に、噴孔に流入する前の燃料流に旋回流を与えて噴孔内に液膜流を形成するなどいろいろな液膜流形成手法が提案されている。
即ち、各単一の噴霧が識別可能であり、かつ各単一の噴霧の特徴がほぼ識別不可能な集合噴霧(つまり、比較的均質に近い中実構造の集合噴霧)となるか、あるいは各単一の噴霧の識別さえも不可能となる集合噴霧(噴射量分布が中心ピークの円錐形状となるものを代表例とする集合噴霧)となるか、に分けられることを見出した。
後者は、複数の単一の噴霧が集合してほぼ元の形態とは異なる新しい一つの集合噴霧に置き換わっており、非常に特徴的で安定した現象である。
前者は、各単一の噴霧を識別可能と言いつつも、集合噴霧と共通的な特徴を示す噴霧となっており、つまり中途半端なコントロールし難い噴霧であると言える。
これらのどちらの形態になるかは、噴霧挙動がある閾値のどちらにあるかによるところが大きく、単一の噴霧の集合化が進んだ集合噴霧になるほど噴射量分布は軸対称に近づき、また鋭角な円錐形状となる。つまり、全体噴霧としての貫徹力が増大する。
従って、前者であっても、噴霧方向に直角な面内の噴霧形状、噴射量分布がおおよそ軸対称のようになり、その断面形状を所謂異形とすることは難しかった。
このため、ほとんどの通路断面が所謂異形形状である吸気ポートや吸気弁近辺への付着を抑制する噴霧ターゲティング(噴射位置、噴射方向、噴霧仕様)の設定は不十分なものであった。
つまり、噴孔中心軸線あるいは噴流方向が下流になるほど離れていくように、噴孔配置と噴孔諸元(径、傾き、長さ等)、あるいは噴流配置と噴流方向はなされており、微粒化とコンパクトな噴霧という要件を両立させることは難しかった。
また、吸気弁近辺への噴霧衝突軽減や、空気との混合促進などを目的として、噴霧の貫徹力を所定距離のところで急速に減衰させる案も考えられるが、噴霧形態を大きく変えずに実現する手段がなかった。
従って、噴霧が吸気弁や吸気弁近傍の吸気ポートに付着する率を低減するために微粒化を向上させても、噴霧全体が広がった結果、噴霧側面が別の吸気ポート部分に付着するためにポート噴射システムとしてのメリットはなかなか見出せなかった。
つまり、各液膜流の方向を広角に設定して微粒化を促進させても、あるいは、微粒化噴霧外周に大きな巻き上がりを生じさせて噴霧形態を大きく変えて貫徹力を抑制しても、結果的には広角噴霧となって吸気弁や吸気ポートとの干渉を引き起こして燃料が付着することになる。
さらに、この場合、複数噴霧の集合が進んで、所謂「学術文献5」(日本機械学会論文集(第2部) 25巻156号pp820−826「ディーゼル機関燃料噴霧の到達距離に関する研究」(和栗ら))に記載の噴霧形態に近い噴霧形態となることによって、単一の噴霧の場合の貫徹力よりも集合噴霧の貫徹力のほうが大きくなっていた。
[学術文献1]日本機械学会論文集(B編)55巻514号 pp1542−1545,「非円形噴流中の渦構造に関する研究」(豊田他)
[学術文献2]ILASS−Europe 2010,”An experimental investigation of discharge coefficient and cavitation length in the elliptical nozzles”(Sung Ryoul Kim )
[学術文献3]生産研究 50巻1号 pp69−72,”Numerical Simulation of Complex Turbulent Jets:Origin of Axis−Switching”(Ayodeji O.DEMUREN)
[学術文献4]噴流工学 森北出版 pp41−42
長短軸比が大きい断面が長円状の噴霧の場合、長軸方向が分断しない範囲で、長短軸方向が変化して変形するように噴孔諸元を設定すればよい。
そのために、この実施の形態では、噴霧の長短軸方向を変化させる角度を略90度となるようにした。
この燃料噴射弁1では、非スイッチング噴霧30Aと、スイッチング噴霧32Aとのコアンダ効果により、集合噴霧50が形成される。
非スイッチング噴霧30Aは、非スイッチング噴孔12Aから噴射された噴流30が下流で生成されたものであり、スイッチング噴霧32Aは、スイッチング噴孔12Bから噴射された長円状の噴流32が下流において長軸と短軸との方向がアクシス−スイッチング現象により変化するものである。
非スイッチング噴孔12Aからの噴流30に、液膜流の破断や分裂を経て実質的に噴霧流と見なせるようになる状態のブレークが生じたときの噴流断面形状は、断面E−Eに示す形状である。
このときの非スイッチング噴孔12Aと断面E−Eとの間の距離をブレーク長さaとする。距離aの位置では、既に両噴流30,31の隙間c1はコアンダ効果が生じる閾値よりも小さくなっている。
引き続き、噴流30,31は、ばらけて単一の非スイッチング噴霧30A,31Aとなり、非スイッチング噴孔12Aから距離bの位置で二つの非スイッチング噴霧30A,31Aは、その外径が接し始める(断面F−F)。
同時に、断面F−Fから、圧力分布に起因して二つの単一の非スイッチング噴霧30A,31A間に働くコアンダ効果によって単一の非スイッチング噴霧30A,31Aは接近して断面G−Gのように集合化が進む。それと同時に、非スイッチング噴霧30A,31Aの周囲空気の巻き込みと、それによる非スイッチング噴霧30A,31A内の略中心部分の下流への流れ方向に沿った空気流の誘起を生じさせる。
条件が整えば、図6(a)の断面G−Gの集合噴霧40の状態から、さらに二つの単一の非スイッチング噴霧30A,31Aの集合化が進み、断面H−Hのように実質的にほぼ一つの中実の集合噴霧40とみなせるようになる。
従って、ここでは渦状の矢印ホの大きさや個数は、その実態を表すものではない。
また、噴霧内所定部分の下流への流れ方向に沿った空気流Vを誘起している。
その結果、F1−F1、G1a−G1a、G1b−G1b、H1−H1における噴射量分布は図6(b)の右側の図のように次第に略中心ピークに近づいていくことになる。
ここでは、仮に非スイッチング噴孔12Aからの噴流30とスイッチング噴孔12Bからの噴流32にブレークが生じる位置をほぼ同じとしてブレーク長さをaとすると、これらの断面形状は、図7(b)の断面E−Eに示す形状となる。
この噴流32は、ばらけてスイッチング噴霧32Aとなり、図7(b)から分かるように、この断面形状が長円状のスイッチング噴霧32Aは、その長軸方向と非スイッチング噴霧30Aとがほぼ対向して配置されている。
このスイッチング噴霧32Aは、非スイッチング噴霧30Aと対向しつつ、その断面形状が若干拡大(長軸及び短軸の両方向)していきながらも、ほぼスイッチング噴孔12Bの直下での初期の流れ方向を維持してそのまま下流に流れる。
そして、スイッチング噴孔12Bから所定の長さの位置で、スイッチング噴霧32Aの長短軸方向が変化する変形が生じ始める(断面J−J)。なお、この位置では、スイッチング噴霧32Aと非スイッチング噴霧30Aとの隙間c2はコアンダ効果が生じる閾値よりも大きく、コアンダ効果は生じていない。
これは、スイッチング噴霧32Aの長短軸方向が切り替わることによってスイッチング噴霧32Aと非スイッチング噴霧30Aの隙間が小さくなっていくこと、それに伴ってスイッチング噴霧32Aと非スイッチング噴霧30Aとの間にコアンダ効果が生じることによる。
この時の両噴霧32A,30Aの隙間c3はコアンダ効果が生じるための閾値よりも小さくなっている。なお、コアンダ効果が生じる、スイッチング噴霧32Aと非スイッチング噴霧30Aとの隙間の閾値は、各噴霧の流速、微粒化レベル、粒子数密度、雰囲気圧力などによって変化する。
そして、断面L−Lではスイッチング噴霧32Aと非スイッチング噴霧30Aとの向かい合う端部が変形(移動)して干渉し始める。
その結果、断面M−Mのように、燃料噴射後の所定時期で、非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bからの所定距離の位置において、スイッチング噴霧32Aと非スイッチング噴霧30Aとの相互影響を集合噴霧50の仕様に応じた所定レベルに設定することが可能となり、断面M−Mの位置での集合噴霧50の形状や貫徹力、噴射量分布の設定の自由度が向上する。
従って、非スイッチング噴霧30Aが単独の場合には、図7(a)の想像線ニに示すように、その先端は延びるのに対して、スイッチング噴霧32Aとの干渉によって非スイッチング噴霧30Aの先端は短縮される。つまり、非スイッチング噴霧30Aの貫徹力も抑制できることになる。
つまり、非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bからある程度下流の所定位置において、微粒化されて、断面が非円形形状(非対称形状)の集合噴霧50を形成することができる。
即ち、非スイッチング噴孔12A、スイッチング噴孔12Bから主たる流れ方向に同じ距離の位置において、スイッチング噴霧32Aの平均粒径を非スイッチング噴霧30Aの平均粒径よりも大きくする方法、あるいはスイッチング噴霧32Aのブレーク長さを非スイッチング噴霧30Aのブレーク長さよりも長くする方法、さらにはスイッチング噴霧32Aの貫徹力を非スイッチング噴霧30Aの貫徹力よりも大きく設定する方法を採用すればよい。これは、スイッチング噴霧と噴霧との特性差を設けてコアンダ効果が生じるタイミングを遅らせることを意味している。
これらの方法を実現するにあたって、例えば非スイッチング噴孔12Aとスイッチング噴孔12Bとの噴孔形状の違いによって、縮流のレベルや方向を異ならせること等を利用すればよい。
つまり、例えば縮流のレベルや方向を異ならせた場合、噴孔内での圧力損失(噴流速度)、噴流の断面積、噴流の断面形状、噴流の配置/方向などを異ならせることが可能となり、上記のコアンダ効果が生じる噴霧間隙間の閾値を変更することが可能となる。
当然のことながら、スイッチング噴霧と非スイッチング噴霧の個別仕様の設定と、これらの噴霧の組み合わせや配置によって、種々の略中空状の全体噴霧の仕様、例えばC字状、コの字状、馬蹄形状等を実現することが可能となる。
このように、噴流工学における特徴的な現象を巧妙に利用することにより、従来の円形噴孔をベースとした噴孔径、噴孔テーパ度合い、噴孔長さ/噴孔径の比などの組み合わせでは実現できない噴霧を可能としたものである。
また、集合噴霧50として一体化して噴霧の運動量が大幅に低下してから以降も、各集合噴霧50に曲率を持たせて変化させることも可能である。
要は、これらの集合噴霧50からなる全体噴霧60の流れ方向、形状変化は、集合噴霧50における運動量の分布によって決定される。つまり、全体噴霧60の流れに対して直角方向の断面において運動量分布に差をつければ、断面内において貫徹力に差が生じることになり、貫徹力の低下が小さい集合噴霧50が他の集合噴霧50を牽引して全体噴霧60を変化させることになる。
また、吸気ポートに対する燃料噴射の場合の燃圧0.3MPaレベルでは、粒子単独からの分裂も生じていないと考えてよい。
各噴孔12からの各非スイッチング噴霧30A、スイッチング噴霧32Aは、スイッチング噴霧32Aがアクシス−スイッチング現象が生じた後に、隣接した非スイッチング噴霧30Aとコアンダ効果により集合して各集合噴霧50が形成され、これらの集合噴霧50が連鎖して中空状の全体噴霧60が形成されるようになっている。
従って、燃料噴霧の微粒化と、噴霧形状、貫徹力、噴射量分布、噴霧方向の設計自由度向上とを両立させ、中空状の全体噴霧の拡がりを小さくしながら、かつ貫徹力を大幅に低下させることができる。
これにより、下流での全体噴霧60の吸気弁や吸気ポート壁面への衝突を従来に比べて大幅に抑制することが可能となる。
なお、全体噴霧60の形状だけでは吸気弁や吸気ポート壁面への衝突を回避できない場合は、全体噴霧60における運動量に分布を設けることで、全体噴霧60の方向が途中で変化するようにすることもできる。
また、例えば吸気行程噴射では吸気弁から筒内へ流入する吸気流動に、更に追随し易くなり、全体噴霧60が吸気弁やその近傍の吸気ポート壁面に干渉せずに筒内へ流入することが可能になって、筒内での吸気冷却効果による充填効率向上を実現できる。
なお、ここでも全体噴霧60の形状等だけでは吸気弁やその近傍の吸気ポート壁面への干渉を回避できない場合は、全体噴霧60の方向が途中で変化するように設定して、吸気流動に追随させることが可能となる。
従って、非スイッチング噴霧30Aの広角化を伴わずに貫徹力をコントロールすることにより噴射系システム全体の自由度が高くなり、またエンジン性能が向上する。
しかも、スイッチング噴霧32Aは、非スイッチング噴霧30Aと対向しているので、コアンダ効果をより迅速に生じさせることができる。
なお、スイッチング噴霧32Aは、他にも例えば扁平状であってもよい。
以下、上記燃料噴射弁1を吸気ポート20に取付けた3例について説明する。
図9は上記構成の燃料噴射弁1が吸気ポート20のスロットルボディ21に取り付けられた例を示す構成図である。
この例では、燃料噴射弁1がスロットル弁22の下流に設けられている。燃料噴射弁1の先端部は、吸気流の上流に向かって燃料噴射するように指向している。
この燃料噴射弁1から燃料が噴射されて生じた、各非スイッチング噴霧30A及び各スイッチング噴霧32Aからは、集合噴霧50を経て最後に全体噴霧60が形成され、この全体噴霧60の貫徹力はスロットル弁22及びスロットルボディ21の壁面の直前で急に抑制される。
従って、一旦上流に燃料を噴射して、燃料と空気とで混合気が生じる空間的余裕、即ち吸気弁23と全体噴霧60との間の空間的余裕を持たせることができる。
この結果、極端に吸気ポート20が短い場合等で吸気流の下流方向に燃料を噴射すると気筒間の噴射量分配がアンバランスになったり、吸気ポート20の内壁面への噴霧付着割合が増加することで、結果的に混合気形成状態が悪くなり、エンジンの性能が向上しないといった不都合を解消することができる。
この例では、吸気管集合部25に燃料噴射弁1が取り付けられている。吸気管集合部25は、下流が分岐部26と接続されている。各分岐部26は、それぞれ気筒(図示せず)が接続されている。各分岐部26にはそれぞれ吸気弁23が取り付けられている。燃料噴射弁1の先端部は、各吸気弁23に向かって燃料噴射するように指向している。
また、非スイッチング噴霧30Aとスイッチング噴霧32Aとの間でのコアンダ効果により噴霧が集合するので、図11の点線で示すように吸気ポート20の内壁面に直接噴霧が付着するのを抑制することができる。
また、図10及び図11から分かるように、全体噴霧60は、その形状が分岐部26の内壁面及び吸気弁23と直接干渉しないようになっている。
このような多気筒エンジンで燃料噴射弁1を1本だけ使用するようなシステム(所謂シングルポイントインジェクション)はエンジンのコストパーフォーマンスを向上することになり、非常に有用である。
即ち、汎用エンジン、小型エンジンにおいては、現在のキャブレタから燃料噴射システムへの転換が進んでいるが、大幅なコストアップは難しいため、図8及び図9に示した、シングルポイントインジェクションを用いることは非常に有用である。
この例でも、燃料噴射弁1が吸気ポート20に、先端部が吸気弁23に指向して取り付けられている。
また、非スイッチング噴霧30Aとスイッチング噴霧32Aとの間でのコアンダ効果により噴霧が集合するので、図12に示すように吸気ポート20の内壁面に噴霧が直接付着するのを抑制することができる。
その上で、噴霧の吸気ポート20の内壁面への付着抑制、噴霧と空気流動とのマッチングによる均質混合気形成、噴霧の吸気流動への追随による筒内直入など、目的に応じて集合噴霧50の仕様を決めればよい。
また、燃料噴射弁1以外にも塗装・コーティング、農薬散布、洗浄、加湿、スプリンクラー、殺菌用スプレー、冷却などの一般産業用、農業用、設備用、家庭用、個人用としての各種流体スプレーなど用途・要求機能は多岐にわたる。
従って、駆動源やノズル形態、噴霧流体にかかわらず、これらの噴霧生成装置にもこの発明の流体噴射弁を組み入れて、今までになかった噴霧形態を実現することが可能である。
Claims (9)
- 流体が流れる流体通路の途中に設けられた弁座と、この弁座との当接、離間により前記流体通路の開閉を制御する弁体と、前記弁座の下流に設けられ、複数の噴孔を有する噴孔体と、を備え、
複数の各前記噴孔から各噴流が噴射されて生じた各噴霧から下流において中空状の全体噴霧が形成される、流体噴射弁であって、
少なくとも一つの前記噴孔は、噴流が噴射された後の前記噴霧が、噴射方向に直角な面内の断面形状が長軸と短軸の長さが異なるスイッチング噴霧であって、下流において前記長軸及び前記短軸の方向が変化して変形するスイッチング噴孔であり、
前記少なくとも一つの前記噴孔を除く各前記噴孔からの各前記噴霧は、前記スイッチング噴霧が前記長軸及び前記短軸の方向が変化した後に、このスイッチング噴霧とコアンダ効果により集合して集合噴霧が形成され、これらの集合噴霧が連鎖して前記全体噴霧が形成されるようになっている流体噴射弁。 - 各前記噴孔は、周方向に間隔をおいて円形状に配設されている請求項1に記載の流体噴射弁。
- 各前記噴孔は、隣接した噴孔同士が等分間隔で配設されている請求項2に記載の流体噴射弁。
- 前記スイッチング噴霧は、少なくとも前記短軸に対して前記長軸が線対称である請求項1〜3の何れか1項に記載の流体噴射弁。
- 前記スイッチング噴霧は、前記噴霧のうちスイッチング噴霧を除いた非スイッチング噴霧と対向している請求項1〜4の何れか1項に記載の流体噴射弁。
- 前記燃料噴射弁は、吸気ポートに、スロットル弁の吸気流の下流側であってかつ先端部がスロットル弁に指向して取り付けられ、前記全体噴霧の貫徹力は、前記スロットル弁の手前で抑制されるようになっている請求項1〜5の何れか1項に記載の流体噴射弁。
- 前記燃料噴射弁は、吸気ポートに、先端部が吸気弁に指向して取り付けられ、前記全体噴霧の貫徹力は、前記吸気弁の手前で抑制されるようになっている請求項1〜5の何れか1項に記載の流体噴射弁。
- 前記燃料噴射弁は、吸気ポートに、先端部が吸気弁に指向して取り付けられ、前記全体噴霧は、その指向方向に曲率を有して、前記吸気ポートの壁面に直接衝突するのを回避するようになっている請求項1〜5の何れか1項に記載の流体噴射弁。
- 請求項1〜8の何れか1項に記載の流体噴射弁を含む噴霧生成装置。
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