ここで、好適には、車両用自動変速機として、複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、さらにはそれ以上の変速段を有する種々の遊星歯車式自動変速機、常時噛み合う複数対の変速ギヤ段を2軸間に備えてそれら複数対の変速ギヤ段のいずれかを同期装置を用いて変速アクチュエータが択一的に動力伝達状態とする同期噛合型平行2軸式変速機、同期噛合型平行2軸式変速機であるが入力軸を2系統備えて各系統の入力軸にクラッチがそれぞれつながり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている形式の変速機である所謂DCT(Dual Clutch Transmission)、動力伝達部材として機能する伝動ベルトが有効径が可変である一対の可変プーリに巻き掛けられ変速比が無段階に連続的に変化させられる所謂ベルト式無段変速機、或いは、共通の軸心まわりに回転させられる一対のコーンとその軸心と交差する回転中心回転可能な複数個のローラがそれら一対のコーンの間で狭圧されそのローラの回転中心と軸心との交差角が変化させられることによって変速比が可変とされた所謂トラクション型無段変速機などで構成される。
また、好適には、タイヤジャダーとは、タイヤが路面に対してスリップおよびグリップを周期的に繰り返す現象であり、このタイヤジャダーが発生すると、エンジン回転速度も同様に周期的に上下に振動する。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10(以下、「駆動装置10」という)の概略構成を説明する骨子図である。その駆動装置10は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両用のものであり、走行用駆動源としてのエンジン12と、自動クラッチ14と、同期噛合式の変速機である車両用自動変速機16(以下、「自動変速機16」という)と、差動歯車装置18とを備えている。
自動クラッチ14は、例えば図2に示すような乾式単板式の摩擦クラッチで、エンジン12のクランクシャフト20に取り付けられたフライホイール22、クラッチ出力軸24に配設されたクラッチディスク26、クラッチカバー28に配設されたプレッシャープレート30、プレッシャープレート30をフライホイール22側へ付勢することによりクラッチディスク26を挟圧して動力伝達するためのダイヤフラムスプリング32、クラッチレリーズシリンダ34によりレリーズフォーク36を介して図2の右方向へ移動させられることにより、ダイヤフラムスプリング32の内端部を図2の右方向へ変位させてクラッチを解放(遮断)するレリーズスリーブ38、を有して構成されている。上記クラッチレリーズシリンダ34は、自動クラッチ14を解放或いは継合(係合)させるためのクラッチアクチュエータとして機能している。
図1に戻り、自動変速機16と差動歯車装置18とは一つのトランスアクスルを構成しており、そのため、自動変速機16のギヤケース40は差動歯車装置18のケースと一体となっている。そのギヤケース40は車体に固定された非回転部材であり、自動変速機16のギヤやベアリング等の可動部品は、ギヤケース40内に所定量だけ充填された潤滑油に浸漬され、差動歯車装置18と共に潤滑されるようになっている。自動変速機16は、所謂常時噛合式の平行軸型変速機であって、平行に設けられた2軸間すなわち入力軸42、出力軸44間の一方に相対回転可能に設けられた第1ギヤとその平行な2軸の他方に相対回転不能に設けられた第2ギヤとから成る、その平行な2軸間を動力伝達可能に連結する為のギヤ比が異なる複数の常時噛み合う変速ギヤ対(ギヤ対)46a−46eが配設されると共に、それ等の変速ギヤ対46a−46eの被同期側歯車すなわち第1ギヤを入力軸42或いは出力軸44に選択的に連結する為のすなわち変速ギヤ対46a−46e毎に設けられてシフトアクチュエータとして機能する後述のシフトシリンダ78により選択的に係合させられることにより入力軸42と出力軸44とを変速ギヤ対46a−46eを介して連結する為のシンクロメッシュタイプの複数の同期噛合クラッチ(同期噛合装置)48a−48eが設けられた、2軸噛合式の変速機構を備えている。すなわち、自動変速機16は、上記複数の変速ギヤ対46a−46eが択一的に動力伝達可能とされることにより変速段(ギヤ段)が成立する変速機である。
また、自動変速機16は、同期噛合クラッチ48a−48eの構成に含まれる3つのクラッチハブスリーブ(結合スリーブ)50a,50b,50cに対して入力軸42または出力軸44の軸心まわりに相対回転可能にそれぞれ係合させられてクラッチハブスリーブ50a,50b,50cを入力軸42または出力軸44の軸心方向に選択的に移動させることにより何れかの変速段を成立させる3つのフォーク51(他の2本は図示せず)が設けられた、互いに平行な3本のフォークシャフト52(他の2本は図示せず)と、それらフォークシャフト52に略直角な方向に設けられて、セレクトアクチュエータとして機能する後述のセレクトシリンダ76の作動に従って機械的にフォークシャフト52に略直角な軸方向であるセレクト方向へ移動させられることにより上記3本のフォークシャフト52のうちの任意の一つに選択的に係合させられると共に、シフトアクチュエータとして機能する後述のシフトシリンダ78の作動に従って例えば本実施例ではフォークシャフト52に略直角な軸心まわりに回動させられることによりフォークシャフト52をそのフォークシャフト52の軸方向へ移動させて、所定の変速段を成立させるシフトアンドセレクトシャフト59とを備えている。
また、入力軸42及び出力軸44には、互いに噛み合わない状態にて後進ギヤ対54が配設され、図示しないカウンタシャフトに配設された後進用アイドル歯車がその後進ギヤ対54のそれぞれと噛み合わされることにより後進変速段が成立させられるようになっている。尚、入力軸42は、スプライン嵌合継手55を介して自動クラッチ14のクラッチ出力軸24に連結されていると共に、出力軸44には出力歯車56が配設されて差動歯車装置18のリングギヤ58と噛み合わされている。差動歯車装置18は傘歯車式のものであり、一対のサイドギヤ80R,80Lにはそれぞれドライブシャフト82R,82Lがスプライン嵌合などによって連結され、左右の前車輪(車両10の駆動輪)84R,84Lがドライブシャフト82R,82Lにより回転駆動される。つまり、自動変速機16は、自動クラッチ14を介して入力軸42に入力されたエンジン12の動力を、出力軸44に設けられた出力歯車56から、差動歯車装置18、左右のドライブシャフト82R,82L等を順次介して左右の駆動輪84R,84Lへ伝達する。尚、図1は、入力軸42、出力軸44、及びリングギヤ58の軸心を共通の平面内に示した展開図である。
前述のようにシフトアンドセレクトシャフト59は、セレクトシリンダ76により3本のフォークシャフト52のうちの任意の一つに選択的に係合させられるセレクト方向の3位置、例えば本実施例では、フォークシャフト52及びフオーク51を介してクラッチハブスリーブ50cと係合可能な第1セレクト位置、クラッチハブスリーブ50bと係合可能な第2セレクト位置、或いはクラッチハブスリーブ50aと係合可能な第3セレクト位置に位置決めされる。
また、上述のようにシフトアンドセレクトシャフト59は、シフトシリンダ78によりフォークシャフト52に略直角な軸心まわりに回動させられることにより、例えば本実施例では、フォークシャフト52及びフォーク51を介してクラッチハブスリーブ50a,50b,50cが図1の右方向に移動させられて同期クラッチ48a,48c,48eの何れか1が係合される第1シフト位置、クラッチハブスリーブ50b,50cが図1の左方向に移動させられて同期クラッチ48bまたは48dが係合される第2シフト位置、或いは同期噛合クラッチ48a−48eの何れも係合されないニュートラル状態となるニュートラル位置に位置決めされる。
上記第1セレクト位置の第1シフト位置では、噛合クラッチ48eが連結されることにより変速比γ(=入力軸42の回転速度Nin/出力軸44の回転速度Nout)が最も大きい第1変速段G1が成立させられる。また、第1セレクト位置の第2シフト位置では、噛合クラッチ48dが連結されることにより変速比γが2番目に大きい第2変速段G2が成立させられる。また、第2セレクト位置の第1シフト位置では、噛合クラッチ48cが連結されることにより変速比γが3番目に大きい第3変速段G3が成立させられる。また、第2セレクト位置の第2シフト位置では、噛合クラッチ48bが連結されることにより変速比γが4番目に大きい第4変速段G4が成立させられる。この第4変速段G4の変速比γは略1である。また、第3セレクト位置の第1シフト位置では、噛合クラッチ48aが連結されることにより変速比γが最も小さい第5変速段G5が成立させられる。更に、第3セレクト位置の第2シフト位置では、後進変速段が成立させられる。フォークシャフト52及びシフトアンドセレクトシャフト59を移動させるセレクトシリンダ76及びシフトシリンダ78は、運転者の操作力を要しないで自動変速機16のギヤ段(変速段)を切り換える為に作動させられる変速用油圧アクチュエータとして機能している。従って、自動変速機16は、運転者の操作力を要しないで自動で変速が実行される同期噛合式自動変速機である。
図1に戻り、油圧制御回路86は、例えばアクチュエータ部88に備えられているクラッチレリーズシリンダ34、セレクトシリンダ76、シフトシリンダ78などを作動させる為にそのアクチュエータ部88へ供給する油圧を制御する。この油圧制御回路86には、例えばリザーバーから作動油を圧送する油圧ポンプ、その油圧ポンプから供給された作動油圧すなわちライン圧を蓄圧するアキュムレータ、クラッチレリーズシリンダ34の油室に対する作動油の供給と排出とを切り換える為のクラッチソレノイドバルブ、セレクトシリンダ76の油室に対する作動油の供給と排出とを切り換える為のセレクトソレノイドバルブ、シフトシリンダ78の油室に対する作動油の供給と排出とを切り換える為のシフトソレノイドバルブなどが備えられている。
そして、例えば上記クラッチソレノイドバルブからクラッチレリーズシリンダ34の油室に作動油が供給されることによって自動クラッチ14が遮断され、クラッチレリーズシリンダ34の油室から作動油の流出が許容されると自動クラッチ14のダイヤフラムスプリング32の付勢力に従ってクラッチレリーズシリンダ34のピストンが押し返されると共に、自動クラッチ14が係合される。また、油圧制御回路86は、例えば変速に際して、変速段が成立している同期噛合クラッチ48a−48eの何れか1の噛み合いが解除されてニュートラル状態となるまではシフトシリンダ78に作動油圧を供給し、同期噛合クラッチ48a−48eの何れか1がクラッチハブスリーブ50aの押込ストローク開始に先立つ、クラッチハブスリーブ50aによるシンクロナイザリングの押圧開始前の予め決められたシフトシリンダ78の作動位置であるニュートラル状態のときに、セレクトシリンダ76及びシフトシリンダ78への作動油圧の供給を遮断する。
また、アクチュエータ部88には、例えばクラッチレリーズシリンダ34の作動量或いは作動位置であるクラッチストロークSTclを検出する為のクラッチストロークセンサ90、セレクトシリンダ76の作動量或いは作動位置であるセレクトストロークSTseすなわちフォークシャフト52の軸心方向に略直交する方向に移動させられるシフトアンドセレクトシャフト59の移動位置或いは移動距離を例えばセレクトシリンダ76の上記中立位置を基準として検出する為のセレクトストロークセンサ92、シフトシリンダ78の作動量或いは作動位置であるシフトストロークSTshすなわちシフトシリンダ78のロッドに図示しないリンク機構を介して連結されて前記セレクト方向の軸心まわりに回転させられるシフトアンドセレクトシャフト59の回転位置或いは回転量を例えばシフトシリンダ78の上記中立位置を基準として検出することにより入力軸42の軸心方向に平行な方向に移動させられるフォークシャフト52の移動位置或いは移動距離を前記ニュートラル状態を基準として検出する為のシフトストロークセンサ94が備えられている。
更に、車両10には、例えば自動変速機16の変速制御などの為の車両用同期噛合式変速機の制御装置を含む電子制御装置120が備えられている。電子制御装置120は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置120は、エンジン12の出力制御や自動変速機16の変速制御などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン12の出力制御用や自動変速機16の変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置120には、例えばエンジン回転速度センサ96(エンジン回転速度検出装置)により検出されたクランクシャフト20のクランク角度(位置)Acr及びクランクシャフト20の回転速度であるエンジン回転速度Neを表す信号、インプット回転速度センサ98により検出された入力軸42の回転速度であるインプット回転速度Ninを表す信号、アウトプット回転速度センサ100により検出された車速Vに対応する出力軸44の回転速度であるアウトプット回転速度Noutを表す信号、アクセル開度センサ102により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダル104の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、スロットル弁開度センサ106により検出されたエンジン12の吸気配管108に備えられた電子スロットル弁110の開き角であるスロットル弁開度θthを表す信号、クラッチストロークセンサ90により検出されたクラッチレリーズシリンダ34の作動量或いは作動位置であるクラッチストロークSTclを表す信号、セレクトストロークセンサ92により検出されたセレクトシリンダ76の作動量或いは作動位置であるセレクトストロークSTseを表す信号、シフトストロークセンサ94により検出されたシフトシリンダ78の作動量或いは作動位置であるシフトストロークSTshを表す信号、シフト操作装置109のシフトレバー111の操作位置であるシフトポジションPshを表す信号などが供給されている。
図3は複数種類のシフトポジションPshを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置109の一例を示す図である。このシフト操作装置1090は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPshを選択するために操作されるシフトレバー111を備えている。
そのシフトレバー111は、車両用駆動装置10内つまり自動変速機16内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速機16の出力軸44をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、車両用駆動装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて車両の走行状態に応じて自動変速機16を第1変速段G1〜第5変速段G5の範囲で自動変速制御する前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または、運転者の所望する変速段を成立させるため運転者によるシフトレバー操作に応じて自動変速機16を変速させる前進手動変速ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPshにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、自動変速機16において同期噛合クラッチ48a−48eの何れも係合されないニュートラル状態となるための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、自動変速機16において同期噛合クラッチ48a−48eの何れか係合されて動力伝達状態となる駆動ポジションである。
また、シフトレバー111が「M」ポジションに操作されると、運転者のシフトレバー操作に応じた変速段に変速可能な手動変速モード(Mモード)に切り替えられる。Mモードに切り替えられると、図3の「M」ポジションから、シフトレバー111を「+」側または「−」側に操作することにより、自動変速機16の変速段がシフトレバー111の操作方向に応じて切り替えられる。例えば、シフトレバー111が「−」側に一回操作される度に、自動変速機16の変速段が1段ダウンされ、「−」側に複数回操作されると、その操作回数に応じた変速段にダウンシフトされる。また、シフトレバー111が「+」側に一回操作される度に自動変速機16の変速段が1段アップシフトされ、「+」側に複数回操作されると、その操作回数に応じた変速段にアップシフトされる。なお、シフトレバー111が「M」ポジションにある場合、シフトレバー111を「+」側または「−」側に操作した状態で手を離しても、図示しないスプリング等によってシフトレバー111が「M」ポジションに自動的に復帰するように構成されている。
図1に戻り、電子制御装置120からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Seとして、電子スロットル弁110の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータ112への駆動信号や燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、例えば自動変速機16の変速制御の為の変速制御指令信号Sshとして、クラッチレリーズシリンダ34の作動を制御して自動クラッチ14の係合と解放とを切り換える為に油圧制御回路86に含まれる不図示のクラッチソレノイドバルブを作動させる為のバルブ指令信号やセレクトシリンダ76及びシフトシリンダ78の作動を制御して自動変速機16のギヤ段の切替えを実行する(すなわち自動変速機16の所定のギヤ段を構成する)為に油圧制御回路86に含まれる不図示のセレクトソレノイドバルブやシフトソレノイドバルブ等を作動させる為のバルブ指令信号などが出力される。なお、スロットルアクチュエータ112への駆動信号では、基本的には、例えばアクセル開度Accに応じた要求駆動トルクが得られる為のスロットル弁開度θthとなるように電子スロットル弁110の開閉を制御する為の信号が出力されるが、アクセル開度Accとは独立にすなわちアクセル開度Accに拘わらず電子スロットル弁110の開閉を制御することが可能である。
ところで、シフト操作装置109において、シフトレバー111が前進手動変速ポジション(「M」ポジション)に操作されると、運転者のシフト操作によって自動変速機16の変速段が任意に切替可能となる。このとき、高車速走行時においてアップシフトされずにいると、エンジン回転速度Neが高回転化され、予め設定されている過回転回転速度Nefcまで到達すると、エンジン保護のためエンジン12のフューエルカットが実行される。このようなエンジン過回転を防止するため、電子制御装置120は、運転者のアップシフト操作なしに自動変速機16を自動的にアップシフトさせる制御機能を備えている。自動変速機16がアップシフトされると、エンジン回転速度Neが低下されるため、エンジン回転速度Neの過回転すなわちエンジン回転速度Neの過回転回転速度Nefcへの到達が防止される。
この自動変速機16のアップシフト指令を出力するか否かは、例えばエンジン回転速度Neの変化勾配ΔNeに基づいて判断される。具体的には、エンジン回転速度Neが過回転化される可能性が生じる予め設定されている回転速度領域まで到達すると、エンジン回転速度Neの変化勾配ΔNeを逐次算出し、その変化勾配ΔNeが予め設定されている閾値を超えた場合にアップシフト指令を出力することでエンジン過回転を防止することができる。このようにエンジン回転速度Neの変化勾配ΔNeに基づいてアップシフト指令を出力するか否かを判断する場合、適切な変化勾配ΔNeを算出する必要がある。
上記変化勾配ΔNeを算出するに際して、例えば変化勾配ΔNeの算出時間を長くとると、変化勾配ΔNeが平均化されてノイズの影響が少なくなり、誤判定の少ない変化勾配ΔNeが得られる。しかしながら、変化勾配算出に要する時間が長くなり、アップシフト指令を出力するタイミングに遅れが生じる可能性が生じる。また、運転者によるアクセル操作やブレーキ操作等による変化勾配ΔNeの変化に対応することが困難となる。一方、変化勾配ΔNeの算出時間を短くとると、変化勾配ΔNeがノイズの影響を受け易く、結果としてアップシフトの誤判定を生じる可能性が生じる。
ところで、例えば発進加速操作時のような車両の加速走行中において、タイヤ(駆動輪84)が路面に対してスリップとグリップとを周期的に繰り返すことで、そのタイヤに動力伝達可能に連結されているエンジン12のエンジン回転速度Neも上下に振動する所謂タイヤジャダー(タイヤによるスリップスティック)が発生することが知られている。このタイヤジャダーが発生すると、変化勾配ΔNeがその影響を受けることとなる。このような場合において、エンジン回転速度Neの上昇を判断することが特に困難となる。そこで、本実施例では、上記タイヤジャダー発生時の周期T1(ms)を予め求めておき、その周期T1の半周期T2(=T1/2)の差分を変化勾配ΔNeとして逐次算出し、その算出された変化勾配ΔNeに基づいて、タイヤジャダー発生中のエンジン回転速度Neの上昇を正確に判断する。以下、上記制御内容を中心に説明する。
図4は、電子制御装置120による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、変速制御部すなわち変速制御手段122は、例えば車速Vに対応するアウトプット回転速度Noutと要求負荷に対応するアクセル開度Accとを変数として予め記憶された公知の関係(変速線図、変速マップ)から実際のアウトプット回転速度Nout及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて自動変速機16の変速を実行すべきか否かを判断する。すなわち、変速制御手段122は、上記変速マップから実際の車両状態に基づいて自動変速機16の変速すべき変速段を判断する。この変速マップは、例えば車両10の燃費効率(燃費性能)と走行性能(動力性能)とを両立させる変速段にて運転可能なように、予め求められて設定されたものである。
また、変速制御手段122は、シフトレバー111が「M」ポジションに操作された場合において、エンジン12の過回転を防止するため運転者のアップシフト操作なしに自動変速機16をアップシフトさせる機能を有している。この自動変速機16をアップシフトする否かは、アップシフト判断手段124によって判断される。アップシフト判断手段124は、エンジン回転速度Neが予め設定されている回転速度Ne2に到達したことを判断すると、後述する勾配算出手段126によって算出されたエンジン回転速度Neの変化勾配ΔNeが予め設定された判定閾値αを超えたか否かに基づいて、自動変速機16をアップシフトさせるアップシフト指令を出力するか否かを判定する。具体的には、アップシフト判断手段124は、変化勾配ΔNeが判定閾値αを超えた場合にアップシフトの判断を肯定し、変速制御手段122に自動変速機16をアップシフトさせるアップシフト指令を出力する。なお、アップシフト判断手段124は、算出された変化勾配ΔNeが前記判定閾値αを1回超えただけではアップシフトの判断をせず、変化勾配ΔNeがタイヤジャダーの周期T1内において判定閾値αを連続して2回以上(本実施例では3回)越えた場合にアップシフトの判断を肯定する。
勾配算出手段126は、アップシフト判断手段124によって判断される指標となる変化勾配ΔNeを逐次算出する。勾配算出手段126は、予め求められているタイヤジャダーの周期T1の半周期T2間の上昇勾配を変化勾配ΔNeに設定する。具体的には、検出されたエンジン回転速度Neに対する変化勾配ΔNeが下式(1)で算出される。下式(1)において、Ne'は検出されたエンジン回転速度Neに対して半周期(T2)前に検出されたエンジン回転速度Ne'に対応している。すなわち、変化勾配ΔNeは、タイヤジャダーの半周期T2のエンジン回転速度Neの差分として算出される。
ΔNe=Ne−Ne' ・・・・(1)
ここで、変化勾配ΔNeを算出するに際して、変化勾配ΔNeをタイヤジャダーの周期T1の半周期T2のエンジン回転速度Neの差分としたのは、タイヤジャダーが発生した場合において、1周期(T1)内で複数個算出される勾配ΔNeにおいて、エンジン回転速度Neの上昇勾配が判定できる変化勾配ΔNeが必ず存在するためである。図5は、タイヤジャダーが発生した場合において、式(1)に基づいてタイムステップ(本実施例では8ms)毎に逐次算出される変化勾配ΔNe(rpm/48ms)をプロットした図である。図5において、横軸が時間経過tを示しており、縦軸がエンジン回転速度Neの変化勾配ΔNe(rpm/48ms)を示している。本実施例の車両では、タイヤジャダーの周期T1が100msとされている。この周期T1は、予め実験的に求められるものであり、タイヤジャダーが発生した際のエンジン回転速度Neの変化を逐次検出することで求められる。なお、タイヤジャダーの周期T1は車両毎に変化するため、車両が変わる毎に実験的に求める必要がある。タイヤジャダーの周期T1が具体的に求められると、その半周期T2(=T1/2)も同様に求められる。本実施例では、周期T1が100msであるため、半周期T2は50ms(=100/2)となる。
図5に示すように、タイヤジャダーが発生すると、変化勾配ΔNe(rpm/48ms)が周期T1で周期的に振動する。なお、図5において変化勾配ΔNeが48ms前のエンジン回転速度Neの差分とされるのは、本実施例ではエンジン回転速度Neが8ms毎に検出されるためであり、半周期T2(50ms)前に最も近い時点で検出されるエンジン回転速度Neが48ms(8ms×6)前に検出される値であるためである。したがって、図5の変化勾配ΔNe(rpm/48ms)は、半周期前(T2)の検出値に対する変化勾配ΔNeと実質的に変わらない。また、タイヤジャダーの半周期T2の変化勾配ΔNeが算出されることで、タイヤジャダーが発生してエンジン回転速度Neが振動しても、図5に示すように1周期中(100ms)において必ず上昇周期が存在する。具体的には、図5に示すようにt1時点〜t3時点において上昇周期が存在している。本実施例では、この上昇周期中の変化勾配ΔNeに基づいてエンジン回転速度Neの上昇が正確に判断される。
アップシフト判断手段124は、勾配算出手段126によってタイムステップ毎に逐次算出される図5の拡大図に示すような変化勾配ΔNeが予め設定されている判定閾値αを超えるか否かに基づいてアップシフト指令を出力するか否かを判断する。具体的には、アップシフト判断手段124は、変化勾配ΔNeが判定閾値αを越えることが1周期T1内に連続して3回以上あった場合に、アップシフト指令を出力する判断をする。ここで、自動変速機16のアップシフトを判断をするに際して、変化勾配ΔNeが判定閾値αを越えることが連続して複数回(本実施例では3回)ある場合としたのは、実際には自動変速機16がアップシフトされなくともエンジン12が過回転されないにも拘わらず、タイヤの一瞬の滑りやノイズ等によって1回のみ変化勾配ΔNeが判定閾値αを越えてしまう可能性がある。このような場合を考慮して、変化勾配ΔNeが判定閾値αを連続して複数回越えた場合にアップシフト指令を出力する判断を肯定することで、アップシフトの誤判断を防止する。なお、判定閾値αは予め実験や計算によって求められて記憶されている値であり、変化勾配ΔNeがその判定閾値αを越えてもアップシフト指令が出力されない場合には、エンジン回転速度Neの上昇によって過回転回転速度Nefcに到達してしまう値に設定されている。
このように、本実施例では、エンジン回転速度上昇の判断が難しくなるタイヤジャダー発生時を基準とし、そのタイヤジャダー発生時の変化勾配ΔNeを式(1)に基づいて算出することで上昇勾配を判定できる変化勾配ΔNeが算出され、その変化勾配ΔNeに基づいてエンジン回転速度Neの上昇が正確に判断される。なお、タイヤジャダーの周期T1よりも小さな周期で振動する変化はノイズとして処理される。また、本制御は、タイヤジャダー発生時を想定し、その際のエンジン回転速度Neの上昇を正確に判断するものであるが、タイヤジャダーが発生しない場合であっても本制御は有効に機能する。タイヤジャダー発生しない場合には、変化勾配ΔNeが略一定となり、その変化勾配ΔNeに基づいて同様の判断が実行される。
図6は、電子制御装置120の制御作動の要部すなわち例えば自動変速機16が手動変速モードが選択されている際にエンジン過回転を防止するために自動変速機16をアップシフトするに際して、そのアップシフトの判断を正確に実施する為の制御作動を説明するフローチャートであり、数msec程度(例えば8ms程度)の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
図6において、先ず、勾配算出手段126に対応するステップS10(以下、ステップを省略)において、その時点における変化勾配ΔNeが式(1)に基づいて算出される。なお、算出された勾配ΔNeは逐次記憶されることで蓄積される。また、S10の実行は、電子制御装置120の処理速度に余裕があれば常時変化勾配ΔNeを算出しても構わないが、電子制御装置120の処理負荷を軽減するため、エンジン回転速度Neが予め設定されている回転速度Ne1に到達した際に勾配算出を開始するものであっても構わない。なお、上記回転速度Ne1は、実験等によって求められ、自動変速機16をアップシフトするか否かの判断を要する後述するエンジン回転速度Ne2に到達する間に少なくともタイヤジャダーの1周期間分の変化勾配ΔNeが算出可能な回転速度に設定される。上記は、エンジン12の応答性等に応じて決定される。例えば高出力のエンジンであるほど速やか(短時間)にエンジン回転速度Neが上昇するため、回転速度Ne1は低く設定される。
次いで、アップシフト判断手段124に対応するS20において、エンジン回転速度Neの過回転を防止する為に自動変速機16をアップシフトさせるか否かを判断するエンジン回転速度Ne2に到達したか否かが判断される。上記エンジン回転速度Ne2は、予め実験や計算によって求められ、エンジン12や自動変速機16の特性等に応じて決定される。具体的には、アップシフト指令が出力されてから実際に自動変速機16がアップシフトされてエンジン回転速度Neが低下するまでの応答性やエンジン回転速度Neのアクセル操作に対する応答性等を加味して設定され、エンジン回転速度Neの上昇勾配によってはエンジン回転速度Neが過回転回転速度Nefcに到達する可能性があり、且つ、自動変速機16をアップシフトさせた際には、高回転領域においてアップシフトが実行される回転速度Ne2に設定される。S20が否定される場合、本ルーチンは終了させられる。
一方、S20が肯定される場合、アップシフト判断手段124に対応するS30において、その時点からタイヤジャダーの1周期間で遡って算出された変化勾配ΔNeのうち(例えば13個)判定閾値αを越える値が連続して3回以上あるか否かが判断される。S30が否定される場合、エンジン回転速度Neは、自動変速機16を変速させなくとも過回転回転速度Nefcには到達しないものと判断され、自動変速機16のアップシフト指令は出力されない。一方、S30が肯定される場合、変速制御手段122に対応するS40において、過回転回転速度Nefcに到達するものと判断され、アップシフト指令が出力される。
図7は、図6のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。図7において、横軸が時間経過を示し、縦軸がエンジン回転速度Neを示している。なお、図7においてエンジン回転速度Neは直線状に上昇しているが、タイヤジャダーが発生するなどすると波状に変化しつつ上昇する。図7に示すように、t1時点においてエンジン回転速度Neが回転速度Ne1(例えば8000rpm)に到達すると、変化勾配ΔNeの算出がタイムステップ毎に逐次実行されて記憶される。なお、本実施例では例えば8ms毎に実施され、その時点でのエンジン回転速度Neと半周期(50ms)前のエンジン回転速度Ne'との差分が変化勾配ΔNeとして逐次算出される。そして、t2時点においてエンジン回転速度Neが回転速度Ne2(例えば8700rpm)に到達すると、その時点からタイヤジャダーの1周期T1の間に蓄積された変化勾配ΔNeのうち判定閾値αを越えた値が連続して3個以上あるか否かが判定される。このとき、判定閾値αを越える変化勾配ΔNeが3個以上連続してあると判断されると、t2時点においてアップシフト指令が出力される。これより、エンジン回転速度Neが高回転領域(9000〜9500rpm)内で自動変速機16のアップシフトが実行され、エンジン回転速度Neが過回転回転速度Nefcに到達することが防止される。このように、本実施例では変速判断が必要な回転速度Ne2に到達すると、予め算出されて蓄積されている変化勾配ΔNeを利用して速やかなアップシフト判断が可能であるため、アップシフトの遅れが防止される、すなわち好適なタイミングで自動変速機16をアップシフトさせることが可能となる。なお、従来では、破線で示すように変速判断が遅れることで過回転回転速度Nefcに到達する、或いは、一点鎖線で示すように、エンジン回転速度Neが高回転化領域に到達せずにアップシフトされて運転者に違和感を与えてしまう場合がある。
上述のように、本実施例によれば、予め求められているタイヤジャダー発生時の周期T1における半周期T2のエンジン回転速度Neの差分をエンジン回転速度Neの変化勾配ΔNeとして算出することで、エンジン回転速度Neがその周期T1で上下に変化しても、半周期T2の差分で算出される変化勾配ΔNeに基づいてエンジン回転速度Neの上昇を正確に判断することができる。したがって、変化勾配ΔNeに基づいて、正確かつ速やかに自動変速機16のアップシフトの可否を判断することが可能となり、アップシフトの遅れや不要なアップシフトの実行を防止することができる。
また、本実施例によれば、周期T1内において、逐次算出されたエンジン回転速度Neの変化勾配ΔNeを示す値が連続して2回以上越えた場合に自動変速機16のアップシフト指令を出力するため、1回で判断した場合に生じ易くなるノイズ等の影響による判断ミスを防止することができる。
また、本実施例によれば、エンジン回転速度Neの変化勾配ΔNeの周期T1は、エンジン12によって駆動されるタイヤ(駆動輪84)で発生するタイヤジャダー発生時の周期に設定されているため、タイヤジャダー発生中のエンジン回転速度Neの上昇を正確に判断することができる。
また、本実施例によれば、自動変速機16をアップシフトさせる制御は、運転者のシフト操作によって変速可能な手動変速モードが選択されているときに実行されるため、手動変速モード選択中に発生するエンジン回転速度Neの過回転を効果的に防止することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、自動変速機16は、常時噛合式の平行2軸型変速機であったが、必ずしも上記構成に限定されない。例えば複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、さらにはそれ以上の変速段を有する種々の遊星歯車式自動変速機などの他の形式の自動変速機に適用することができる。
また、前述の実施例では、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度検出装置として、エンジン12に設けられているエンジン回転速度センサ96が使用されるが、自動変速機16の入力軸42に設けられているインプット回転速度センサ98、自動変速機16の出力軸44に設けられているアウトプット回転速度センサ100を介してエンジン回転速度Neを検出する構成であっても構わない。すなわち、エンジン回転速度Neを検出可能な構成であれば、エンジン回転速度センサ96以外の装置であても構わない。
また、前述の実施例において適用されている具体的な数値はあくまで一例であって、車両の形式等に基づいて適宜変更されるものである。
また、前述の実施例では、アップシフト判断手段124は、判定閾値αを越える変化勾配ΔNeが連続して3回以上ある場合に、自動変速機16のアップシフト指令を出力するとしたが、必ずしも3回に限定されず、2回、或いは、4回以上に設定されても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。