本発明のポリエステルフィルムは、示差走査熱量測定(DSC)の1stRUNで求められるポリエステルフィルムの結晶化度C1が20%以上38%以下である層(P層)を有することが必要である。
また、本発明のポリエステルフィルムに含まれるP層は、ラマンバンドスペクトル法における面配向係数Rが5.0以上10.0以下であることが必要である。
ただし、R=(R(MD)+R(TD))/2であり、
R(MD)=I(MD)/I(ND)、
R(TD)=I(TD)/I(ND)。
また、I(ND)、I(MD)およびI(TD)は、それぞれ、レーザーラマン分光法において、1615cm−1のラマンバンドスペクトルの、フィルム平面方向に垂直な偏光配置での強度(I(ND))、フィルム平面の長手方向に平行な偏光配置での強度(I(MD))、およびフィルム平面の幅方向に平行な偏光配置での強度(I(TD))である。
上記要件を満たすことによって、長期に渡って、耐湿熱性を高いレベルで満足するポリエステルフィルムを提供することができる。
さらには、本発明のポリエステルフィルムは、P層を含んでいれば良く、本発明の効果を損なわない限り例えば他の機能を持たせた多層積層構成とすることもできる。
ポリエステルは、結晶性ポリエステルと非晶性のポリエステルが存在し、一般的な結晶性ポリエステルには結晶部と非晶部が存在する。本発明において、P層は、ポリエチレンテレフタレート層であることが必要であるが、ポリエチレンテレフタレートも結晶性ポリエステルの一つである。こうした結晶性ポリエステルを延伸すると一部の非晶部には配向によってポリエステルが疑似結晶化した部分(以下、配向結晶化部と称する)が生じるが非晶部の全てが疑似結晶化するわけではない。ここで、非晶部は、結晶部や配向結晶化部に比べて密度が低く、平均の分子間距離が大きい状態にあり、分子運動性が高く、ポリエステルの柔軟性に寄与しているといわれている。ポリエステルの湿熱分解による劣化は、以下の機構で起こる。ポリエステルフィルムが湿熱雰囲気下に曝された場合、水分(水蒸気)は密度の低いこの非晶部の分子間を通って内部に進入し、ポリエステルのカルボキシル基末端のプロトンを反応触媒として、分子運動性の高い非晶部を加水分解し非晶部分を低分子量化する。低分子量化された非晶部は分子運動性が更に高まり、安定な構造を採ろうとする結果結晶部に取り込まれ、結晶が肥大化し、柔軟性に寄与する非晶部が減少する。その結果、フィルムの脆化が進行し、最終的には僅かな衝撃でも破断に至る状態となる。本発明者らは、鋭意検討の結果、ラマンバンドスペクトル法における面配向係数Rを上記範囲として非晶部と配向結晶化部の状態を制御することで非晶部の運動性を制御し、さらに結晶部の割合も上記範囲に制御することで、湿熱雰囲気下での脆化を抑え、高い耐湿熱性を得られることを見出した。
以下、本発明について、以下に具体例を挙げつつ詳細に説明する。
本発明のポリエステルフィルムに含まれるポリエステル層Pの結晶化度C1は20%以上38%以下である必要がある。ここでいう結晶化度C1は次のように求める。まず、JIS K7122(1987)に準じて、昇温速度10℃/minで樹脂を0℃から300℃まで加熱して得られた示差走査熱量測定チャートの融解ピークのピーク面積から結晶融解熱量ΔHm(J/g)を求める。次に、ΔHmを、ポリエステルがポリエチレンテレフタレートの100%結晶であると仮定した完全結晶物のΔHm*で除算して求めた。ΔHm*の値として、140.1J/gを用いた。結晶化度C1が20%未満である場合、非晶部の割合が多いためフィルム中の分子運動性が高く、湿熱雰囲気下で結晶の肥大化が進行しやすく、フィルムの脆化が起こりやすいため好ましくない。また、結晶化度C1が38%よりも大きい場合、結晶の量が多いため、湿熱雰囲気下で結晶に取り込まれる非晶部の量も増加し、脆化が進行しやすくなるので好ましくない。
また、本発明のポリエステルフィルムに含まれるポリエステル層Pは、ラマンバンドスペクトル法における面配向係数Rが5.0以上10.0以下であること、もしくは屈折率法における面配向係数fnが0.163以上0.173以下である必要がある。ラマンバンドスペクトル法における面配向係数Rは、フィルムにレーザーを照射し、1615cm−1のラマンバンドスペクトルのピーク強度から求める。まず、レーザーの偏光がフィルム平面方向に垂直な偏光配置での強度(I(ND))、フィルム平面の長手方向に平行な偏光配置での強度(I(MD))、およびフィルム平面の幅方向に平行な偏光配置での強度(I(TD))を求める。ラマンスペクトルにおいて、1615cm-1 のラマンバンドはベンゼン環のC=C伸縮振動(νC=C)に帰属され、I(MD)、I(TD)それぞれをI(ND)で除算することでフィルム長手方向と幅方向それぞれの配向係数R(MD)、R(TD)を求めた。さらにR(MD)、R(TD)の平均を求め、フィルム面方向の配向係数Rとした。
なお、何らかの理由により、ポリエステル層Pのラマンバンドスペクトルを得ることができない場合は、以下に述べる屈折率法を用いて、面配向係数Rを求めても良い。屈折率法を用いる場合は、ナトリウムD線を光源として、アッベ屈折率計を用いてフィルム長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率(n(MD)、n(TD)、n(ND))を測定し、下式よりfnを求める。
fn=(n(TD)+n(MD))/2−n(ND)
次いで、fnが0.155以上0.180以下である場合は、下式を用いて、fnをRに換算することができる。
R=500×fn−76.5
ラマンバンドスペクトル法から求められる面配向係数Rと屈折率法から求められるfnは良い相関関係にあり、Rが高いほどfnも高くなることがわかっている。
面配向係数Rが5.0未満、またはfnが0.163未満である場合、フィルム中の配向結晶化部が少ないため、非晶部分の緊張がなく運動性が高いため湿熱雰囲気下で結晶の肥大化が進行しやすく、フィルムの脆化が起こりやすいため好ましくない。また、面配向係数Rが10.0より大きく、またはfnが0.173よりも大きい場合、配向結晶化部の割合が多く、非晶部が湿熱雰囲気下で結晶化した場合に非晶部の量が極めて少なくなり、フィルムの脆化が起こりやすいため好ましくない。
本発明のポリエステルフィルムに用いられるポリエステルは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるポリエステルである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。
かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。また、上述のカルボン酸構成成分のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体や、オキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、芳香族ジオール類等のジオール、上述のジオールが複数個連なったものなどが例としてあげられるがこれらに限定されない。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
また、本発明のポリエステルフィルムのP層はポリエチレンテレフタレート層であることが必要である。本発明において、ポリエチレンテレフタレート層(P層)とは、P層中の全ジカルボン酸構成成分中におけるテレフタル酸構成成分の割合が90モル%以上100モル%以下であり、かつP層中における全ジオール構成成分中のエチレングリコール構成成分の割合が90モル%以上100モル%以下である層を指す。テレフタル酸構成成分やエチレングリコール構成成分の割合は、95モル%以上100モル%以下であることが好ましく、更に好ましくは98モル%以上100モル%以下、特に好ましくは99モル%以上100モル%以下である。テレフタル酸構成成分やエチレングリコール構成成分の割合が、90モル%に満たないと、耐湿熱性、耐熱性が低下したりする場合がある。本発明のポリエステルフィルムにおいて、P層のポリエステル中の全ジカルボン酸構成成分中の芳香族ジカルボン酸構成成分の割合を90モル%以上100モル%以下とすることで、耐湿熱性、耐熱性を両立することが可能となる。
本発明のポリエステルフィルムにおいて、P層中のポリエステルのジカルボン酸構成成分とジオール構成成分からなる主たる繰り返し単位は、エチレンテレフタレートであることが好ましいが、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートおよびこれらの混合物をからなるものが含まれていても良い。ただし、本発明では、ポリエステル層P層に含まれるポリエステルの全繰り返し単位の90モル%以上が、エチレンテレフタレートからなる繰り返し単位であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上である。
また、本発明では、ポリエステル層(P層)が、ポリエチレンテレフタレートを、P層に対し、90重量%以上含有していることが好ましい。より好ましくは、95重量%以上であり、最も好ましくは100重量%であることである。ここで、ポリエチレンテレフタレートとは、テレフタル酸構成成分の割合が、酸構成成分に対して、90モル%以上100モル%以下であり、かつ、エチレングリコール構成成分の割合が、ジオール構成成分に対して、90モル%以上100モル%以下であるポリエステルを指す。
本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル層P層を構成するポリエステルのカルボン酸末端基数は20等量/t以下であることが好ましい。さらに好ましくは15等量/t以下、より好ましくは10等量/t以下であることが好ましい。20等量/tを超えると、カルボン酸末端基のプロトンによる触媒作用が強く、加水分解が促進されてしまい劣化が進行しやすくなる。なお、ポリエステル層P層のカルボン酸末端基数を20等量/t以下とするには、1)ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分とのエステル化反応をさせ、溶融重合によって所定の溶融粘度になった時点で吐出、ストランド化、カッティングを行い、チップ化したのち、固相重合する方法、2)緩衝剤をエステル交換反応またはエステル化反応終了後から重縮合反応初期(固有粘度が0.3未満)までの間に添加する方法、などによりカルボキシル基末端基量を20等量/t以下、より好ましくは15等量/t、さらには10等量/t以下の樹脂を重合することができる。
本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル層P層を構成するポリエステルの固有粘度(IV)は0.65以上であることが好ましい。より好ましくは0.68以上、更に好ましくは0.7以上、特に好ましくは0.72以上である。IVが0.65に満たないと、分子量が低すぎて十分な耐湿熱性や機械物性が得られなかったり、分子間の絡み合いが少なくなりすぎて、加水分解後の熱結晶化の速度が早くなり、脆化しやすくなる場合がある。本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル層P層を構成するポリエステルのIVを0.65以上とすることによって、高い耐湿熱性や高い機械特性を得ることができる。なお、IVの上限は特に決められるものではないが、重合時間が長くなるためコスト的に不利であったり、溶融押出が困難となるという点から好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.9以下である。
なお、ポリエステル層のポリエステルの固有粘度を0.65以上とするには、1)溶融重合によって所定の溶融粘度になった時点で吐出、ストランド化、カッティングを行い、チップ化する方法と、2)目標より低めの固有粘度で一旦チップ化し、その後固相重合を行う方法などにより、固有粘度を0.7以上より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.78以上とした樹脂を用いて、窒素雰囲気下、ポリエステルの融点+10℃以上融点+30℃以下、更には融点+15℃以上+25℃以下の温度範囲で押し出すことにより得ることができる。これらのうち、熱劣化を抑えられ、かつカルボン酸末端基数を低減できるという点で、ポリエステルの重合方法としては2)の目標より低めの固有粘度で一旦チップ化し、その後固相重合を行うのが好ましい。
P層のポリエステルの広角X線回折から求められる(100)面の結晶子サイズは4nm以下であることが好ましい。P層のポリエステルが請求項1を満たし、かつ(100)面の結晶子サイズが4nm以下である場合、湿熱雰囲気下で結晶の肥大化が進行した場合でも結晶の粗大化が抑制され、フィルムの脆化が抑えられ、高い耐湿熱性が得られる。
P層のポリエステルの(100)面の結晶子サイズを4nm以下にするには、ポリエステルに多官能化合物を共重合せしめることが重要である。ジカルボン酸性分とジオール成分を溶融重合する際にこれらの成分を添加し、共重合することによって本発明の効果が高く得られる。
本発明において用いられる多官能化合物とは、カルボン酸基数と水酸基数のどちらか、あるいは両方を1分子中に3基以上持つもののことを指す。カルボン酸基数が3以上のカルボン酸構成成分としては、三官能の芳香族カルボン酸構成成分として、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセントリカルボン酸等が、三官能の脂肪族カルボン酸構成成分として、メタントリカルボン酸、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸等が、四官能の芳香族カルボン酸構成成分としてベンゼンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸、ベリレンテトラカルボン酸等が、四官能の脂肪族カルボン酸構成成分として、エタンテトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、アダマンタンテトラカルボン酸等が、五官能以上の芳香族カルボン酸構成成分として、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ナフタレンペンタカルボン酸、ナフタレンヘキサカルボン酸、ナフタレンヘプタカルボン酸、ナフタレンオクタカルボン酸、アントラセンペンタカルボン酸、アントラセンヘキサカルボン酸、アントラセンヘプタカルボン酸、アントラセンオクタカルボン酸等が、五官能以上の脂肪族カルボン酸構成成分として、エタンペンタカルボン酸、エタンヘプタカルボン酸、ブタンペンタカルボン酸、ブタンヘプタカルボン酸、シクロペンタンペンタカルボン酸、シクロヘキサンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、アダマンタンペンタカルボン酸、アダマンタンヘキサカルボン酸等が、およびこれらエステル誘導体や酸無水物等が例として挙げられるがこれらに限定されない。また上述のカルボン酸構成成分のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
また、水酸基数が3以上のアルコール構成成分の例としては、三官能の芳香族構成成分としては、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシカルコン、トリヒドロキシフラボン、トリヒドロキシクマリン、三官能の脂肪族アルコール構成成分として、グリセリン、トリメチロールプロパン、プロパントリオール、四官能の脂肪族アルコール構成成分として、ペンタエリスリトール等の化合物、また、上述の化合物の水酸基末端にジオール類を付加させた構成成分も好ましく用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
また、その他構成成分として、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸など、一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有するオキシ酸類のうち、カルボン酸基数と水酸基数との合計が3以上であるものが挙げられる。また上述の構成成分のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
多官能化合物を添加した場合は、多官能化合物成分の部分で分子鎖が分岐し、分子鎖同士が架橋される。架橋部分は結晶構造には入らないため、分子鎖の非晶部分同士が架橋されることになり、非晶部の分子運動性が低下し、湿熱雰囲気下での非晶部の結晶化が起こりにくくなる効果も得られるため、本発明の効果がより顕著に得られる。
本発明では、P層が、上記多官能化合物成分が共重合されたポリエチレンテレフタレートを含有していることが好ましい。P層における多官能化合物成分の含有量はP層中の酸成分に対して0.05mol%以上0.5mol%以下であることが好ましく、特に好ましくはP層のポリエステルの(100)面の結晶子サイズを4nm以下とするために0.1mol%以上0.5mol%以下である。また、本発明における多官能化合物の含有量が0.5mol%を超えるとP層のポリエステルの結晶性が低下してしまうため好ましくない。
本発明のポリエステルフィルムのP層には、本発明の効果を損なわない範囲で無機粒子が含まれていても良い。この無機粒子はその目的に応じて必要な機能をフィルムに付与するために用いられる。本発明に好適に用いうる粒子としては紫外線吸収能のある無機粒子や結晶性ポリエステルとの屈折率差が大きな粒子、導電性を持つ粒子、顔料といったものが例示され、これにより耐候性、光学特性、帯電防止性、色調、すべり性などを改善することができる。なお、粒子とは体積平均の一次粒径として5nm以上のものをいう。なお、特に断らない限り、本発明において粒径は一次粒径を意味し、粒子は一次粒子を意味する。
さらに詳細に粒子について説明すると、本発明においては無機粒子としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、レニウム、バナジウム、オスミウム、コバルト、鉄、亜鉛、ルテニウム、プラセオジウム、クロム、ニッケル、アルミニウム、スズ、亜鉛、チタン、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、インジウム、イットリウム、ランタニウム等の金属、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セシウム、酸化アンチモン、酸化スズ 、インジウム・スズ酸化物、酸化イットリウム 、酸化ランタニウム 、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム 、酸化ケイ素等の金属酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム 、フッ化アルミニウム 、氷晶石等の金属フッ化物、リン酸カルシウム等の金属リン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、硫酸バリウム等の硫酸塩、タルクおよびカオリン、その他カーボン、フラーレン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素系化合物等が挙げられる。
本発明においては、屋外で使用されることが多いことに鑑みれば、紫外線吸収能を有する粒子、例えば、無機粒子では酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、などの金属酸化物を用いた場合に粒子による耐紫外線性を活かして、長期に渡って機械的強度を維持するという、本発明の効果を顕著に発揮することができる。また、高い反射特性を付与したい場合は、延伸による気泡形成性が優れるという点から、無機粒子として、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどが好適に用いられる。
本発明のポリエステルフィルムに用いられる無機粒子の平均粒径は0.005μm以上5μm以下が好ましく、より好ましくは0.01μm以上3μm以下、特に好ましくは0.015μm以上2μm以下である。
また、本発明の効果を損なわない範囲でポリエステル層P層に耐加水分解剤を含有させても良い。本発明における耐加水分解剤とはポリエステルのCOOH末端基と反応して結合し、COOH基のプロトンの触媒活性を消失させる化合物のことであり、具体的には、オキサゾリン基、エポキシ基、カルボジイミド基等の置換基を有する化合物等が挙げられる。
カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物は一官能性カルボジイミドと多官能性カルボジイミドがあり、一官能性カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミドなどが挙げられる。特に好ましくはジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドである。多官能性カルボジイミドとしては、重合度3〜15のカルボジイミドが好ましい。具体的には、1,5−ナフタレンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルジメチルメタンカルボジイミド、1,3−フェニレンカルボジイミド、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンカルボジイミド、2,6−トリレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミドと2,6−トリレンカルボジイミドの混合物、ヘキサメチレンカルボジイミド、シクロヘキサン−1,4−カルボジイミド、キシリレンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−カルボジイミド、メチルシクロヘキサンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−カルボジイミドなどを例示することができる。
カルボジイミド化合物は熱分解によりイソシアネート系ガスが発生するため、耐熱性の高いカルボジイミド化合物が好ましい。耐熱性を高めるためには分子量(重合度)が高いほど好ましく、より好ましくはカルボジイミド化合物の末端を耐熱性の高い構造にすることが好ましい。また、一度熱分解を起こすとさらなる熱分解を起こしやすくなるため、ポリエステルの押出温度をなるべく低温下にするなどの工夫が必要である。
また、エポキシ化合物の好ましい例としては、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。グリシジルエステル化合物の具体例としては、安息香酸グリシジルエステル、t−Bu−安息香酸グリシジルエステル、P−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどを挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。グリシジルエーテル化合物の具体例としては、フェニルグリシジルエ−テル、O−フェニルグリシジルエ−テル、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ブタン、1,6−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ヘキサン、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ベンゼン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−エトキシエタン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−ベンジルオキシエタン、2,2−ビス−[р−(β,γ−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパンおよび2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンや2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応で得られるビスグリシジルポリエーテルなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
また、オキサゾリン化合物としてはビスオキサゾリン化合物が好ましく、具体的には、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4’−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−9,9’−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等を例示することができ、これらの中では、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)が、ポリエステルとの反応性の観点から最も好ましい。さらに、上記で挙げたビスオキサゾリン化合物は本発明の目的を奏する限り、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもどちらでも良い。
これらの化合物は揮発性が低い方が好ましく、そのために分子量は高い方が好ましい。高分子量型の耐加水分解剤を用いることによって、揮発性を低くすることができる結果、得られるポリエステルフィルムの難燃性をより高くすることができる。
また、本発明のポリエステルフィルムのポリエステル層P層には、本発明の効果が損なわれない範囲内でその他添加剤(例えば、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、有機の易滑剤、顔料、染料、充填剤、帯電防止剤、核剤など。但し、本発明にいう無機粒子はここでいう添加剤には含意されない)が配合されていてもよい。例えば、添加剤として紫外線吸収剤を選択した場合には、本発明のポリエステルフィルムの耐紫外線性をより高めることが可能となる。例えば、ポリエステルに相溶な有機系UV吸収剤の例としては、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤およびヒンダードアミン系等の紫外線吸収剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、トリアジン系の2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、その他として、および2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、その他として、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、および2,4−ジ・t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ・t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
結晶性ポリエステルに相溶な有機系紫外線吸収剤の含有量は、該結晶性ポリエステルに対して0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.25重量%以上8重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以上5重量%以下である。ポリエステルに相溶な有機系UV吸収剤の含有量が0.5重量%未満の場合には耐紫外線性が不十分であり、長期使用時において結晶性ポリエステルが劣化し、機械的強度が低下することがあるので好ましくなく、また、10重量%より多い場合、結晶性ポリエステルの着色が大きくなることがあり好ましくない。
本発明のポリエステルフィルムの総厚みは10μm以上300μm以下であるのが好ましく、さらに好ましくは20μm以上200μm以下、最も好ましくは30μm以上150μm以下である。積層体の厚みが10μm未満の場合、フィルムの平坦性が悪くなったり、300μmより厚い場合、例えば、太陽電池バックシートとして用いた場合に、太陽電池セルの全体厚みが厚くなり過ぎるので好ましくない。
本発明のポリエステルフィルムは二軸配向されていることが好ましい。二軸配向によって配向結晶化部を効果的に形成できるので耐湿熱性を更に高めることができる。
また、本発明のポリエステルフィルムは、温度125℃、湿度100%RHの雰囲気下で72時間処理した後の伸度保持率が15%以上であることが好ましい。より好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。
ここでいう伸度保持率とは、ASTM−D882(1999)に基づいて測定されたものであって、処理前のフィルムの破断伸度E0、前記処理後の破断伸度をEとした時に、下記(1)式により求められる値である。
伸度保持率(%)=E/E0×100 (1)式
なお、測定にあたっては、試料を測定片の形状に切り出した後、処理を実施し、処理後のサンプルを測定した値である。このような範囲とすることでフィルムの耐湿熱性はより一層良好なものとなり、本発明のポリエステルフィルムを用いたバックシートの耐湿熱性を良好なものとすることができる。
本発明のポリエステルフィルムを用いた太陽電池バックシートは温度125℃、湿度100%RHの雰囲気下で72時間処理した後の伸度保持率が15%以上であることが好ましい。
ここでいう伸度保持率とは、ASTM−D882(1999)に基づいて測定されたものであって、処理前のバックシートの破断伸度E0’,温度125℃、湿度100%Rhの条件下72時間放置後の破断伸度をE1’としたときに、下記式(2’)により得られた値である。
伸度保持率(%)=E1’/E0’×100 (2’)
なお、E1’は試料を測定片の形状に切り出した後、温度125℃、湿度100%Rhの条件下72時間処理を施したものを用いて測定した値である。より好ましくは、上述の方法にて求められた伸度保持率が30%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。本発明のポリエステルフィルムを用いた太陽電池バックシートにおいて、伸度保持率が15%に満たないと、例えばバックシートを搭載した太陽電池を長期間使用した際に劣化が進行し、外部から何らかの衝撃が太陽電池に加わったとき(例えば、落石などが太陽電池に当たった場合など)に、バックシートが破断することがあるため好ましくない。本発明の太陽電池バックシートにおいて、伸度保持率を15%以上とすることによって、長期使用時の太陽電池の耐久性を高めることができる。
また、本発明のポリエステルフィルムは、他のフィルムと積層することができる。該他のフィルムの例として、機械的強度を高めるためのポリエステル層、帯電防止層、他素材との密着層、耐紫外線性を有するための耐紫外線層、難燃性付与のための難燃層、耐衝撃性や耐擦過性を高めるためのハードコート層など、用途に応じて、任意に選択することができる。その具体例として、本発明のポリエステルフィルムを太陽電池バックシート用フィルムとして用いる場合は、他のシート材料、発電素子を埋包しているエチレンビニルアセテートとの密着性の改善のための易接着層、耐紫外線層、難燃層の他、絶縁性の指標である部分放電現象の発生する電圧を向上させる導電層を形成させることが挙げられる。
本発明のポリエステルフィルムにおいて、他のフィルムと積層する方法としては、例えば、積層する各層の材料が熱可塑性樹脂を主たる構成材料とする場合は、二つの異なる材料をそれぞれ二台の押出機に投入し、溶融して口金から冷却したキャストドラム上に共押出してシート状に加工する方法(共押出法)、単膜で作製したシートに被覆層原料を押出機に投入して溶融押出して口金から押出しながらラミネートする方法(溶融ラミネート法)、各フィルムをそれぞれ別々に作製し、加熱されたロール群などにより熱圧着する方法(熱ラミネート法)、接着剤を介して貼り合わせる方法(接着法)、その他、溶媒に溶解させたものを塗布・乾燥する方法(コーティング法)、およびこれらを組み合わせた方法等を使用することができる。
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法を例を挙げて説明する。
本発明に用いられるポリエステルを得る方法としては、常法による重合方法が採用できる。例えば、テレフタル酸等のジカルボン酸成分またはその誘導体と、エチレングリコール等のジオール成分とを周知の方法でエステル交換反応させることによって得ることができる。ここで、ジカルボン酸成分や、その他カルボン酸基を有する共重合成分については、カルボキシル基をエステル誘導体化したものを用いるのが、カルボキシル基末端量を低減でき、耐湿熱性をより高められるという点でより好ましい。
反応触媒としては、従来公知のアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、リン化合物などを挙げることが出来る。好ましくは、通常ポリエステルの重縮合が完結する以前の任意の段階に置いて、重合触媒としてアンチモン化合物またはゲルマニウム化合物、チタン化合物、緩衝剤を添加することが好ましい。このような方法としては例えば、ゲルマニウム化合物を例に取ると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。重合触媒としてアンチモン化合物、および/またはゲルマニウム化合物を用いる場合は、そのアンチモン元素、ゲルマニウム元素として50ppm以上300ppm以下であることが重縮合反応性、固相重合反応性の点から好ましく、さらには50以上200ppm以下であることが耐熱性、耐湿熱性の点から好ましい。300ppmを超えると重縮合反応性、固相重合反応性は向上するものの、再溶融時の分解反応も促進されるため、カルボン酸末端基が増加し、耐熱性、耐湿熱性が低下する原因となることがある。好適に使用されるアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物としては、五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムを挙げることができ、それぞれ目的に応じて使い分けることができる。例えば、色調が最も良好となるのはゲルマニウム化合物であり、固相重合反応性が良好となるのはアンチモン化合物、環境面を配慮し、非アンチモン系で製造する場合には、チタン触媒が重縮合反応や固相重合の反応性が良好となる点で好ましい。
重縮合触媒としてチタン化合物を使用する場合、チタン元素として0.1ppm以上20ppm以下とすることが重縮合反応性、固相重合反応性の点から好ましい。チタン元素量が20ppmを超えると重縮合反応性、固相重合反応性は向上するものの、耐熱性、耐湿熱性、色調が低下する原因となることがある。重縮合触媒として使用されるチタン触媒としては、テトラブトキシチタネートやテトライソプロピルチタネートなどのアルコキシドや、チタンと乳酸、クエン酸などとのチタンキレート化合物などを挙げることができ、中でもチタンキレート化合物であることが耐熱性、耐湿熱性、色調の点から好ましい。
また、重合により得られるポリエステルのカルボキシル基末端量を低減する手法として、微量の水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物をエステル化反応初期から中期の間、或いはエステル交換反応開始前から反応初期の間に添加したり、静電印加特性の向上を図るために微量のマグネシウム化合物、例えば酢酸マグネシウムなどをエステル化反応終了から重縮合反応初期までの間、或いはエステル交換反応開始前に添加することができる。
また、重縮合により得られるポリエステルのカルボキシル基末端量を20等量/t以下の範囲でより低減させ、かつポリエステルの固有粘度を高めるためには、上記重合を行った後、190℃以上ポリエステルの融点未満の温度で、減圧または窒素ガスのような不活性気体の流通下で加熱する、いわゆる固相重合することが好ましい。この場合、第一段階として、上記方法で固有粘度を0.5以上0.6以下の範囲ポリエステルを重合した後、第二段階として190℃以上ポリエステルの融点未満の温度で、減圧または窒素ガスのような不活性気体の流通下で加熱することによって固層重合することが好ましい。固有粘度が0.5以下であるとチップが割れやすく、形態が不均一になる結果固層重合した際に重合殿ムラが生じる場合がある。また固有粘度が0.9より大きいと、第一段階での熱劣化が激しくなり、その結果、得られるポリエステルのカルボキシル基末端基数が増大して、フィルム化した際に耐加水分解性が低下することがあるため好ましくない。本発明のポリエステルフィルムに用いるポリエステルの重合において、第一段階での固有粘度を0.5以上0.6以下とすることで、固層重合した際に、カルボキシル基末端量を低く維持した状態で、均一に固有粘度を高めることが出来る。その結果、フィルム化した際に耐加水分解性をより高めることが可能となる。
また、P層を構成するポリエステルに無機粒子を添加する方法は、予め結晶性ポリエステルと無機粒子をベント式二軸混練押出機やタンデム型押出機を用いて、溶融混練して、高濃度マスターペレット化したものを作製し、それを添加する方法が好ましい。
また、P層を構成するポリエステルに耐加水分解剤を含有させる場合には、耐加水分解剤をポリエステルのペレットと混合し、270〜275℃に加熱したベント式二軸混練押出機などを用いて、溶融混練し高濃度マスター化する方法が有効である。この時に用いるポリエステルの固有粘度は0.7〜1.6であることが好ましい。より好ましくは0.75〜1.4である。さらには0.8〜1.3である。IVが0.7より小さいと耐加水分解剤と混練するポリエステルのカルボキシル末端量が多くなるためマスター化する時に耐加水分解剤との反応が起こりすぎる。そのためフィルム製膜時に原料押出時に耐加水分解剤と希釈するポリエステルとの反応が起こりにくくなり、P層のカルボキシル末端量を低下させることができなくなって耐湿熱性が低下する場合がある。IVが1.6よりも大きいと溶融粘度が高くなりすぎるため、押出が安定せずマスターペレットの作製が困難となったり、溶融粘度を低くするために押出機の温度を上げると耐加水分解剤が熱分解を起こし、P層のカルボキシル末端量を低下させることができなくなって耐湿熱性が低下する場合がある。
次に、上記原料を用いてフィルムとするための方法について述べる。
まず、ポリエステル原料、無機粒子を含有するマスター原料、耐加水分解剤を含有するマスター原料を混合した、ポリエステル層P層用組成物を乾燥後、窒素気流下あるいは減圧下で、265℃以上280℃以下より好ましくは270℃以上275℃以下に加熱された押出機にそれぞれ供給し溶融し、スマルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー、ピノール等を用いてポリエステル層P層をダイから冷却したキャストドラム上に共押出して未延伸フィルムを得る。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ、急冷固化させることが好ましい。
このようにして得られた未延伸フィルムは、ポリエステルのガラス転移温度Tg以上の温度にて二軸延伸するのが好ましい。二軸延伸する方法としては、上述の様に長手方向と幅方向の延伸とを分離して行う逐次二軸延伸方法の他に、長手方向と幅方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸方法のどちらであっても構わない。
逐次二軸延伸の場合は、ポリエステルのTg℃以上Tg+15℃以下(より好ましくはTg+10℃以下)の温度に加熱されたロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に3倍以上4.5倍以下に延伸し、20℃以上50℃以下の温度のロール群で冷却することが重要である。
延伸倍率が3.5倍未満であると、フィルム長手方向の面配向係数R(MD)が小さくなり、フィルムの面配向係数Rも5.0未満となるため好ましくない。また、延伸倍率が4.5倍を超えると、フィルム長手方向の面配向係数R(MD)が大きくなり、幅方向に延伸してもフィルム幅方向の面配向係数R(TD)が小さくなるため、フィルムの面配向係数Rが5.0未満となるため好ましくない。
続いて、フィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き、Tg以上Tg+5℃以下の温度に加熱された雰囲気中で、長手方向に直角な方向(幅方向)に3.5倍以上5倍以下に延伸することが重要である。
長手方向に上記倍率で延伸した後、幅方向に上記温度および上記倍率にて延伸することにより、フィルム幅方向の面配向係数R(TD)を容易に制御することができる。
延伸倍率は、同時二軸延伸、逐次二軸延伸共に、長手方向と幅方向それぞれ3倍以上5倍以下とするが、面積延伸倍率(長手方向の延伸倍率に幅方向の延伸倍率を乗じた倍率)を14倍以上、特に好ましくは15倍以上となるように延伸する。面積延伸倍率を14倍以上とすることが、得られたフィルムの面配向係数Rが5.0以上となり、耐湿熱性がより向上するという点からより好ましい。面積倍率が14倍未満であると、得られる二軸延伸フィルムの面配向係数Rが5.0未満となり、耐加水分解性が低下することがあるため好ましくない。また面積延伸倍率が18倍を越えると延伸時に破れを生じ易く、また耐湿熱性も低下する傾向がある。
また、得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、結晶性ポリエステルの融点未満の温度で1秒間以上30秒間以下の熱処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却するのが好ましい。
ただし、熱処理温度は、180℃以上220℃以下、より好ましくは190℃以上200℃以下となるように設定することが重要である。熱処理温度が上記範囲を外れ、高くなりすぎると非晶配向部が緩和され、分子運動性が高い状態となり、熱処理によって結晶部となってしまう。結晶部が増加した結果、湿熱雰囲気下において、加水分解後に結晶部が増大しやすく、脆化が進行しやすくなるので好ましくない。また、熱処理温度が上記範囲を外れ、低くなりすぎると結晶配向が不充分となり、平面性と寸法安定性が悪く、さらに湿熱雰囲気下において加水分解後の熱結晶化が促進され、脆化が進行しやすくなるので好ましくない。つまり、熱処理温度を上記範囲内とすることにより、C1を、容易に本発明の範囲内とすることができる
また、熱処理工程中では、必要に応じて幅方向あるいは長手方向に3〜12%の弛緩処理を施してもよい。続いて必要に応じて、他素材との密着性をさらに高めるためにコロナ放電処理などを行い、巻き取ることにより、本発明のポリエステルフィルムを得ることができる。
また、他のフィルムを積層する場合は前記の共押出法のほか作製したフィルム上に他の熱可塑性樹脂を溶融押出して口金から押出しながらラミネートする方法(溶融ラミネート法)、本発明のポリエステルフィルムと他の樹脂からなるフィルムとを熱圧着する方法(熱ラミネート法)、本発明のポリエステルフィルムと他の樹脂からなるフィルムとを接着剤を介して貼り合わせる方法(接着法)、本発明のポリエステルフィルムの表面に別の材料を塗布して積層する方法(コーティング法)、およびこれらを組み合わせた方法等を使用することができる。
本発明のポリエステルフィルムは、耐湿熱性を備えているため、長期耐久性が重視されるような用途に使用することができ、特に、太陽電池バックシート用フィルムとして好適に用いられる。
また、本発明のポリエステルフィルムを用いて、太陽電池バックシートは、例えば、本発明のポリエステルフィルムにエチレン−ビニルアセテート共重合体(以下EVAと略すことがある。)との密着性を向上させるEVA密着層、EVA密着層との密着性を挙げるためのアンカー層、水蒸気バリア層、紫外線を吸収するための紫外線吸収層、発電効率を高めるための光反射層、意匠性を発現させるための光吸収層、各層を接着するための接着層などから構成されるものである。
EVA密着層は発電素子を封止するEVA系樹脂との密着性を向上させる層であって、最も発電素子に近い側に設置され、バックシートとシステムとの接着に寄与する。その材料はEVA系の樹脂との密着性が発現されれば特に制限はなく、例えばEVAや、EVAとエチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂などの混合物が好ましく用いられる。また、必要に応じてEVA密着層のバックシートへの密着性を向上させるため、アンカー層を形成することも好ましく行われる。その材料はEVA密着層との密着性が発現されれば特に制限はなく、例えばアクリル樹脂やポリエステルなどの樹脂を主たる構成成分とする混合物が好ましく用いられる。
水蒸気バリア層は太陽電池を構成した際に発電素子の水蒸気の劣化を防ぐため、バックシート側からの水蒸気の進入を防ぐための層である。酸化珪素、酸化アルミニウム等の酸化物やアルミニウム等の金属層を真空蒸着やスパッタリングなどの周知の方法でフィルム表面に設けることにより形成される。その厚みは通常100オングストローム以上200オングストローム以下の範囲であるのが好ましい。この場合、本発明のポリエステルフィルム上に直接ガスバリア層を設ける場合と別のフィルムにガスバリア層を設け、このフィルムを本発明のポリエステルフィルム表面に積層する場合のいずれもが好ましく用いられる。また、金属箔(たとえばアルミ箔)をフィルム表面に積層する方法も用いることができる。この場合の金属箔の厚さは10μm以上50μm以下の範囲が、加工性とガスバリア性から好ましい。
上記の各層と本発明のポリエステルフィルムとを組み合わせることで、本発明の太陽電池バックシートが形成される。なお、本発明の太陽電池バックシートにおいて、上述の層はすべて独立した層として形成する必要はなく、複数の機能を兼ね備えた機能統合層として形成するのも好ましい形態である。
本発明のポリエステルフィルムは従来のポリエステルフィルムに比べて耐湿熱性に優れるものであるため、このフィルムを含む太陽電池バックシートは従来のバックシートに比べて高い耐湿熱性を有するものとすることができる。ここで、太陽電池バックシートにおいて、本発明のポリエステルフィルムの高い耐湿熱性と耐紫外線性の効果をバックシートに発揮させるためには、バックシート全体に対する本発明のポリエステルフィルムの体積割合が5%以上であることが好ましい。より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上、特に好ましくは20%以上である。
本発明の太陽電池バックシートの厚みは50μm以上500μm以下が好ましく、100μm以上300μm以下がより好ましい。更に好ましくは、125μm以上200μm以下である。厚みが10μm未満の場合、フィルムの平坦性を確保することが困難となる。一方、500μmより厚い場合、太陽電池に搭載した場合、太陽電池全体の厚みが大きくなりすぎることがある。
本発明の太陽電池は、本発明のポリエステルフィルムを用いた太陽電池バックシートを用いることを特徴とする。本発明のポリエステルフィルムを用いた太陽電池バックシートは従来のバックシートより耐湿熱性に優れている特徴を生かして、従来の太陽電池と比べて耐久性を高めたり、薄くすることが可能となる。その構成の例を図1に示す。電気を取り出すリード線(図1には示していない)を接続した発電素子をEVA系樹脂などの透明な透明充填剤2で封止したものに、ガラスなどの透明基板4と、太陽電池バックシート1と呼ばれる樹脂シートを貼り合わせて構成されるが、これに限定されず、任意の構成に用いることができる。
発電素子3は、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、結晶シリコン系、多結晶シリコン系、微結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、銅インジウムセレナイド系、化合物半導体系、色素増感系など、目的に応じて任意の素子を、所望する電圧あるいは電流に応じて複数個を直列または並列に接続して使用することができる。
透光性を有する透明基板4は太陽電池の最表層に位置するため、高透過率のほかに、高耐候性、高耐汚染性、高機械強度特性を有する透明材料が使用される。本発明の太陽電池において、透光性を有する透明基板4は上記特性と満たせばいずれの材質を用いることができ、その例としてはガラス、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(TFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂(CTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂などのフッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、およびこれらの混合物などが好ましく挙げられる。ガラスの場合、強化されているものを用いるのがより好ましい。また樹脂製の透光基材を用いる場合は、機械的強度の観点から、上記樹脂を一軸または二軸に延伸したものも好ましく用いられる。
また、これら基材には発電素子の封止材剤であるEVA系樹脂との接着性を付与するために、表面に、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、易接着処理を施すことも好ましく行われる。
発電素子を封止するための透明充填剤2は、発電素子の表面の凹凸を樹脂で被覆し固定し、外部環境から発電素子保護し、電気絶縁の目的の他、透光性を有する基材やバックシートと発電素子に接着するため、高透明性、高耐候性、高接着性、高耐熱性を有する材料が使用される。その例としては、エチレン−ビニルアセテート共重合体(EVA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、およびこれらの混合物などが好ましく用いられる。これらの樹脂のうち、耐候性、接着性、充填性、耐熱性、耐寒性、耐衝撃性のバランスが優れるという点で、エチレン−ビニルアセテートがより好ましく用いられる。
以上のように、本発明のポリエステルフィルムを用いた太陽電池バックシートを太陽電池システムに組み込むことにより、従来の太陽電池と比べて、高耐久および/または薄型の太陽電池システムとすることが可能となる。本発明の太陽電池は、太陽光発電システム、小型電子部品の電源など、屋外用途、屋内用途に限定されず各種用途に好適に用いることができる。
[特性の評価方法]
A.固有粘度IV
オルトクロロフェノール100mlに樹脂を溶解させ(溶液濃度C=1.2g/ml)、その溶液の25℃での粘度をオストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(3)により、[η]を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C ・・・(3)
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)―1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)。
B.結晶化度C1
ポリエステル層(P層)の結晶化度C1を、JIS K7122(1987)に準じて、TA Instrument社製 Q100を、データ解析にはTA Instrument社製 “Universal Analysis 2000”を用いて、下記の要領にて、測定を実施した。
サンプルパンにサンプルを5mgずつ秤量し、昇温速度は10℃/minで樹脂を0℃から300℃まで加熱し、得られた示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶融解ピークの熱量をJISK7122(1987)の「9.転移熱の求め方」に基づいて求めた。次に、求めた結晶融解ピークの熱量をポリエステル100%結晶化度の理論値を除算して、結晶化度(%)を求めた。ポリエステル100%結晶化度の結晶融解熱量は、ポリエチレンテレフタレートの場合、140.1(J/g)である。
C.破断伸度測定
ASTM−D882(1999)に基づいて、サンプルを1cm×20cmの大きさに切り出し、チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて引っ張ったときの破断伸度を測定した。なお、サンプル数はn=5とし、また、フィルムの長手方向、幅方向のそれぞれについて測定した後、それらの平均値として求めた。
D.面配向係数R
堀場製作所Jovin Yvon製T64000を用い、レーザー光源をArレーザー(514.5nm、レーザーパワー30mW)として、ポリエステル層(P層)にレーザーを照射し、1615cm−1のラマンバンドスペクトルの、P層厚みの中央でのピーク強度を求めた。レーザーの偏光がフィルム平面方向に垂直な偏光配置での強度(I(ND))、フィルム平面の長手方向に平行な偏光配置での強度(I(MD))、およびフィルム平面の幅方向に平行な偏光配置での強度(I(TD))を求め、次にI(MD)、I(TD)それぞれをI(ND)で除算することでフィルム長手方向と幅方向それぞれの配向係数R(MD)、R(TD)を求めた。さらにR(MD)、R(TD)の平均を求め、フィルム面方向の配向係数Rとした。
E.fn
アッベ屈折率計を用いて面配向係数を測定する層をガラス面に密着させ、次いでナトリウムD線
を光源として、長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率(n(TD)、n(MD)およびn(ND))を測定し、下記式より測定層の面配向係数fnを求めた。
・fn=(n(TD)+n(MD))/2−n(ND)。
F.耐湿熱試験後の伸度保持率
試料を測定片の形状(1cm×20cm)に切り出した後、タバイエスペック(株)製プレッシャークッカーにて、温度125℃、相対湿度100%RHの条件下にて72時間処理を行い、その後上記C.項に従って破断伸度を測定した。なお、測定はn=5とし、また、フィルムの縦方向、横方向のそれぞれについて測定した後、その平均値を破断伸度E1とした。また、処理を行う前のフィルムについても上記C.項に従って破断伸度E0を測定し、得られた破断伸度E0,E1を用いて、次の(1)式により伸度保持率を算出した。
伸度保持率(%)=E1/E0×100 (1)式
バックシートの破断伸度は、上記と同様に処理前のバックシートの破断伸度E0’とし、温度125℃、相対湿度100%RHの条件下で72時間処理後の破断伸度E1’を求め、次の(2)式により伸度保持率を算出した。
伸度保持率(%)=E1’/E0’×100 (2)式
得られた伸度保持率について、以下のように判定した。
伸度保持率が70%以上の場合:S
伸度保持率が50%以上70%未満の場合:A
伸度保持率が30%以上50%未満の場合:B
伸度保持率が15%以上30%未満の場合:C
伸度保持率が15%未満の場合:D
S〜Cが良好であり、その中でもSが最も優れている。
G.ガラス転移温度(Tg)
ポリエステル樹脂サンプルを、JIS K7122(1987)に準じて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置”ロボットDSC−RDC220”を、データ解析にはディスクセッション”SSC/5200”を用いて、下記の要領にて、測定を実施した。
サンプルパンにサンプルを5mgずつ秤量し、樹脂を25℃から300℃まで20℃/分の昇温速度で加熱し、その状態で5分間保持し、次いで25℃以下となるよう急冷した。直ちに引き続いて、再度室温から20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温を行って測定を行った。得られた示差走査熱量測定チャートにおいて、ガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点から求めた。
H.結晶子サイズ(nm)
フィルムを、フィルム厚み方向がアルミニウム製試料ホルダー表面の法線となるように貼り付け、理学電機社製X線回折装置を用いてX線の入射角度を変えながら、X線の試料表面に対する入射角がθであるとき、検出器を入射角から2θの位置に配する2θ−θ連続スキャン(図2)にて反射法で回折ピークを測定したとき、2θが26°付近の回折ピークから下記式に従い結晶子サイズを算出した。
結晶子サイズ(nm)=K・λ/βcosθ
β=(βe2−βo2)1/2
K:0.9、λ:X線(CuKα線)の波長(0.15418nm)、βe:回折ピークの半値幅、βo:半値幅の補正値(0.12°)
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
(原料)
・ポリエステル:
酸成分としてテレフタル酸を、ジオール成分としてエチレングリコールを用い、酸化ゲルマニウム(重合触媒)を得られるポリエステルペレットに対してゲルマニウム原子換算で300ppmとなるように添加し、重縮合反応を行い、固有粘度0.54、カルボキシル基末端基数13等量/tのポリエチレンテレフタレートペレットを得た。得られたポリエチレンテレフタレートを160℃で6時間乾燥、結晶化させたのち、220℃、真空度0.3Torr、8時間の固相重合を行い、固有粘度0.80、カルボキシル基末端基数12等量/tのポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。
(実施例1)
単軸押出機に、ポリエステルを180℃の温度で2時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で供給し、275℃の温度で溶融押出後80μmカットフィルターにより濾過を行った後に、Tダイ口金に導入し、表面温度20℃に保たれたドラム上に静電印加法で密着冷却固化させて未配向(未延伸)積層シートを得た。
続いて、該未延伸単層フィルムを80℃の温度に加熱したロール群で予熱した後、85℃の温度の加熱ロールを用いて長手方向(縦方向)に3.5倍延伸を行い、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の80℃の温度の予熱ゾーンに導き、引き続き連続的に85℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な方向(幅方向)に4.0倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーン1で190℃の温度で20秒間の熱処理を施し、さらに熱処理ゾーン2で150℃の熱処理を行い、熱処理ゾーン3で100℃の温度で熱処理を行った。なお、熱処理に際し、熱処理ゾーン1−熱処理ゾーン2間で4%の弛緩処理を行った。次いで、均一に徐冷後、巻き取って、厚さ50μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムの特性を表に示す。耐湿熱製に優れたフィルムであることがわかった。
次にこのフィルムを第1層として用い、接着層として“タケラック(登録商標)”A310(三井武田ケミカル(株)製)90質量部、“タケネート(登録商標)”A3(三井武田ケミカル(株)製)を塗布し、その上に第2層として厚さ75μm二軸延伸ポリエステルフィルム“ルミラー(登録商標)”S10(東レ(株)製)を貼り合わせた。次に第2層上に上述の接着層を塗布し、厚さ12μmバリアロックス“HGTS”(東レフィルム加工(株)製のアルミナ蒸着PETフィルム)を蒸着層が第2層と反対側になるように貼り合わせ、バックシートを形成した。得られたバックシートの耐湿熱性の評価を実施した。結果を表に示す。高い耐湿熱性を有することが分かった。
(実施例2〜20、24、28)
製膜条件を表に記載のように変えた以外は実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムの特性を表に示す。耐湿熱性に優れるフィルムであることがわかった。
また、これらのフィルムを用いて実施例1と同様に太陽電池バックシートを作製し、耐湿熱性の評価を実施したところ、表の通り、良好な耐湿熱性を有することが分かった。
(実施例21〜23、25〜27、29、30、31)
多官能の酸成分として、トリメリット酸トリメチルを、酸成分に対して、表に記載の割合で共重合せしめた以外は、上述したポリエステル(PET)と同様の製法で、共重合PETを得た。
得られた共重合PETを用い、製膜条件を表に記載のように変えた以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムの特性を表に示す。耐湿熱性に優れるフィルムであることがわかった。
また、これらのフィルムを用いて実施例1と同様に太陽電池バックシートを作製し、耐湿熱性の評価を実施したところ、表の通り、良好な耐湿熱性を有することが分かった。
(比較例1〜9)
製膜条件を変えた以外は実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムの特性を表に示す。このフィルムは耐湿熱性劣ることがわかった。
また、これらのフィルムを用いて実施例1と同様に太陽電池バックシートを作製し、耐湿熱性の評価を実施したところ、耐湿熱性に劣ることがわかった。
(比較例10〜12)
多官能の酸成分として、トリメリット酸トリメチルを、酸成分に対して、表に記載の割合で共重合せしめた以外は、上述したポリエステル(PET)と同様の製法で、共重合PETを得た。
得られた共重合PETを用い、製膜条件を表に記載のように変えた以外は、比較例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムの特性を表に示す。このフィルムは耐湿熱性劣ることがわかった。
また、これらのフィルムを用いて実施例1と同様に太陽電池バックシートを作製し、耐湿熱性の評価を実施したところ、耐湿熱性に劣ることがわかった。