JP5608931B2 - 既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造及び落下防止工法 - Google Patents
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また、同じくタイルの浮きは、タイルの剥落等による死傷等の大きな事故につながりかねない。
さらに、躯体内の鉄筋が腐食した場合には、躯体表面が盛り上がり、この躯体盛上部が既設仕上げ壁ともども落下することもあり、これも大きな事故につながりかねない。
また、上記特許文献2に記載された従来技術はいずれも、既設の仕上げ面であるタイルを新設のタイル等で被覆してしまうので、建築物新築当初の価値ある景観が喪失する。
さらに、上記特許文献3に記載された従来技術は、新築当初の外壁の景観そのものは透明保護材を通じて視認可能であるものの、該透明保護材が部分的に張り付けられるとともに、ナットが壁から突出していて、補修したことが一目瞭然となって景観上好ましくない。
また、上記既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造は、造膜構造がエマルジョン粒子の融着により形成されたものであるため、造膜時の外気温度が低いとき塗膜物性が低下する等の影響が現れる恐れがある。
さらに、合成樹脂エマルジョンは、本来、水に溶解しない合成樹脂を、水中に安定分散させるために、界面活性剤、重合開始剤切片、親水性官能基等の、水に溶解し易い物質を有している。したがって、水が蒸発し、樹脂皮膜を生成したのちもこれらの成分が皮膜に残留し、皮膜の吸水性を増大させ、耐水性を悪化させる。そのため、溶剤系樹脂の皮膜と比較して耐水性は劣る。
前記既設タイル張り仕上げ壁表面に形成された、短繊維が混入された合成樹脂を溶剤で溶かして溶剤が揮発し残る樹脂が、均一に絡み合い分子間力を発揮し、均一で強靭な透明塗膜層と、
エポキシ樹脂等が注入されていない、コンクリート躯体と既設タイル張り仕上げ壁のタイルやモルタルとの間に形成された浮き部と、
によって構成された既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造とした。
本発明の請求項2に係る既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造の、前記短繊維が混入された合成樹脂溶液系透明塗膜層は、施工現場で形成されたものであることを特徴としている。
本発明の請求項3に係る既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造の、前記短繊維が混入された合成樹脂溶液系透明塗膜層は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン共重合樹脂やアクリルウレタン共重合樹脂を含むアクリル共重合樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂の群から少なくとも1つ選ばれた樹脂が成膜したものであることを特徴としている。
本発明の請求項5に係る既設タイル張り仕上げ壁の落下防止工法は、既設タイル張り仕上げ壁のタイルの略中央部と躯体に穿孔し、アンカーピンを前記穿孔された孔に少なくとも先端が躯体に埋設するまで挿入固定し、既設タイル張り仕上げ壁表面に、ナイロン、ビニロン、ガラス等の短繊維を混入した溶剤で溶かした透明合成樹脂を塗布して、溶剤が揮発し残る樹脂が、均一に絡み合い分子間力を発揮し、均一で強靭な短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層を形成する一方、コンクリート躯体と既設タイル張り仕上げ壁のタイルやモルタルとの間に形成された浮き部にエポキシ樹脂等を注入しない、既設タイル張り仕上げ壁の落下防止工法とした。
また、短繊維が混入された合成樹脂溶液系透明塗膜層は、上述したように引張強度、引裂強度がエマルジョン系透明樹脂に比し大きいことから、浮き部9にエポキシ樹脂を注入しない。
請求項2に係る発明によれば、短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層は、施工現場で形成されるものであるので、タイル張りのように凹凸のあるものを含む種々の下地の形状に対応することができる。
請求項3に係る発明によれば、短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン共重合樹脂やアクリルウレタン共重合樹脂を含むアクリル共重合樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂の群から少なくとも1つ選ばれた樹脂が成膜したものであり、a.水溶性樹脂やエマルジョンと異なり耐水性を低下させる添加物を含まないため、タイル裏面が水分の影響を受けたとしても、透明塗膜面が白化することなく、長い間透明性を失うことはなく、また、造膜時の外気温度が低いときであっても、b.透明アクリル樹脂系エマルジョン塗膜層とは異なり水を含まないから、樹脂が凍結することはないため施工が可能であり、塗膜物性が低下することがない既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造とすることができる。
請求項4に係る発明によれば、短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層は、長さ3〜15mm、太さ1〜50μmのナイロン、ビニロン、ガラス等の短繊維が重量比において0.5〜5%混入したものとしているので、透明度が高い樹脂塗膜を形成することができ、塗膜の引張強度、引裂強度が向上し、新築当初の壁の景観を高度に維持することができる。
請求項5に係る発明によれば、既設タイル張り仕上げ壁の落下防止工法を、既設タイル張り仕上げ壁表面に、ナイロン、ビニロン、ガラス等の短繊維を混入した溶剤で溶かした透明合成樹脂を塗布して、溶剤が揮発し残る樹脂が、均一に絡み合い分子間力を発揮し、均一で強靭な短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層を形成する一方、コンクリート躯体と既設タイル張り仕上げ壁のタイルやモルタルとの間に形成された浮き部にエポキシ樹脂等を注入しない、既設タイル張り仕上げ壁の落下防止工法としたので、工事期間を短縮して工事コストを低減し、新築当初の壁の風合を損なわずに景観を維持したまま、長期間に亘って変色することなく、透明塗膜層の耐水性を高めて白化を防止して透明性を長い間維持するとともに、低温造膜時の物性低下を抑え、耐久性及び確実性の高い既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造を提供することができる。
<短繊維混入透明塗材の調整>
トルエン、ミネラルスピリット、アルコール系溶剤等の溶剤で溶かした固形分50%のアクリルシリコーン共重合透明樹脂90重量部に対し、長さ5mm、太さ28μmのビニル樹脂短繊維、ナイロン樹脂短繊維、ガラス短繊維等の短繊維2重量部を混入し、さらに、造膜助剤4重量部と分散剤・消泡剤等の添加剤4重量部を加えて攪拌する。
本発明者らは、溶剤に溶かしたアクリルシリコーン透明樹脂に混入する短繊維の長さ、太さ及び混入割合を所定の範囲に設定することにより、成膜した樹脂塗膜が透明となり、所定の引張強度、引裂強度、接着力を有しつつ、適正な伸び率を確保して均一な膜厚とすることができ、かつ、透明塗膜層の耐水性を高めて透明性を向上し、低温造膜時の物性低下を抑えることができるという知見に基づいて本発明に到達したものである。
従来よりのエマルジョン透明樹脂の場合、溶媒として水を使用しているため、十分な耐水性を得ることは困難であることが判明した。
透明樹脂としては、アクリルシリコーン共重合透明樹脂の他に、アクリル単独重合樹脂、アクリルウレタン樹脂等の他のアクリル共重合樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂の透明樹脂を用いることができる。
これら透明樹脂は、それぞれ単独で用いることができることは勿論、2以上のものを組み合わせて混合して用いることができる。
なお、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂については、利用可能ではあるが、経年での黄変等の理由により利用しないことが好ましい。
また、明細書において配合割合を表すとき、断わりのない限り重量比で表している。
繊維太さの下限値はガラス繊維製で1μm、その上限値はビニル樹脂製とナイロン樹脂製で50μm程度であり、1〜30μmとするのが好適である。
図1は、本発明の既設タイル張り仕上げ壁の落下防止工法を用いて得られた落下防止構造を部分的に示す部分正面図、図2は、同じく既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造の部分断面図、図3は、既設タイル張り仕上げ壁の落下防止工法の作業手順を示すものである。
先ず、テストハンマー等を用いて既設タイル張り仕上げ壁表面を軽く打診し、躯体表面までの深さ、ひび割れ等を調べ、剥離した仕上げ壁の浮き部を確認して補強すべき部位をマーキングする。注入口付アンカーピン4の打ち込み数は、既設タイル張り仕上げ壁の重量を考慮すると、平米当たり4本程度が適当である。
次いで、無振動電動ドリルを用いて、上述したマーキングに従ってタイル2に対し直角に躯体1に達するまで穿孔6する。次に後述する化粧キャップ5を収容するため、この孔径よりも径が大きい浅い孔7を穿つ、いわゆる2段掘を行う。
次いで、圧縮空気等で接着の妨げとなる穿孔内の切粉を除去する。
その後、前記孔6に注入口付アンカーピンを躯体内に20mm以上挿入し、拡張子(図示省略)を専用打込み棒にて打ち込んでその先端部を拡開させて躯体1に固着する。
なお、注入口付アンカーピン4は、図2に示されるように、基端を注入口とされ中空軸の軸方向中程から先端にスリット(図示省略)が設けられるとともに拡張子を内蔵しており、その先端部が拡張子により拡開されたときに躯体1に食い込む構造を有するものである。
なお、本実施例においては、既設タイル張り仕上げ壁に浮きが生じている場合には、図1において円形で示すように、浮き部9にエポキシ樹脂が充填されるまで注入することとしているが、この短繊維が混入された合成樹脂を溶剤で溶かした透明塗膜層は、上述したように引張強度、引裂強度がエマルジョン系透明樹脂に比し大きいことから、必ずしも浮き部9にエポキシ樹脂を注入する必要はない。
充填が終了した段階で、注入口をタイルと同系色に焼付けした化粧キャップをプラスチックハンマー等を用いて打ち込み装着する。化粧キャップをタイルと同系色にするのは、補修工事を実施したことを視認し難くして建築物や構築物の風合、景観を保ちその価値を下げないためである。
以上の説明において、注入口付アンカーピンを躯体に打ち込み、躯体と既設タイル張り仕上げ壁との間にエポキシ樹脂を注入・充填する工法を実施しているが、前記エポキシ樹脂はアクリル樹脂でも良い。
洗浄乾燥後、短繊維混入透明塗材の付着力を増すために、短繊維を含まない溶剤型透明アクリル樹脂系樹脂コートシーラーを、既設タイル張り仕上げ壁表面に、こて、へら、刷毛等で約0.15Kg/m2塗布して、下塗り層(第1層)を形成する。
このコートシーラーの樹脂として具体的には、基剤としてアクリルシリコーン系樹脂ワニスに対して、硬化剤としてアクリルシリコーン系樹脂用触媒溶液を配合したものを用いた。
中塗り層(1回目)乾燥後、好ましくは中1日、前記透明樹脂を、こて、刷毛、短毛ローラー、ゴムベラ、吹き付け等で0.3〜0.4Kg/m2塗布し、中塗り層(2回目)を形成する。
この短繊維混入溶剤型透明樹脂の2層の塗布層が乾燥して、透明樹脂塗膜層となる。
次いで中塗り層(2回目)乾燥後、好ましくは中1日、短繊維を含有しない弱溶剤型透明アクリル樹脂トップコートを、こて、へら、刷毛、ローラー等で塗布する。
トップコートの樹脂として具体的には、基剤としてアクリルシリコーン系樹脂ワニスに対して、硬化剤としてアクリルシリコーン系樹脂用触媒溶液を配合したものを用いた。
なお、添加剤を加えることにより、トップコートの艶を少しずつ減らしていくことができる。
このときの塗布量は0.2〜0.3Kg/m2とするが、透明樹脂塗膜層となじませ、長期間に亘って該途膜層を保護するために、2回塗りすることが望ましい。
また、アンカーピン4を躯体1に打ち込んでいるので、このアンカーピン4は、アンカー作用により既設タイル張り仕上げ壁2を躯体表面に押し付けるとともに既設タイル張り仕上げ壁2を懸垂支持し、透明樹脂溶液系塗膜層11と協同して、あたかも塗膜層が広範囲に亘る画鋲の頭部のように作用して、既設タイル張り仕上げ壁2の躯体からの剥離とその剥落を防止し得る。
さらに、透明樹脂溶液系塗膜層11は、長期間に亘って変色することなく、透明塗膜層の耐水性を高めて白化を防止して透明性を長い間維持するとともに、低温造膜時の物性低下を抑えて耐久性を向上する。
2 仕上げ壁材
3 モルタル
4 注入口付アンカーピン
5 化粧キャップ
9 浮き部
10 充填エポキシ樹脂
11 合成樹脂溶液系透明塗膜層
Claims (5)
- 既設タイル張り仕上げ壁のタイルの略中央部に形成された孔に挿通され、少なくとも先端が躯体に埋設されたアンカーピンと、前記既設タイル張り仕上げ壁表面に形成された、短繊維が混入された合成樹脂を溶剤で溶かして溶剤が揮発し残る樹脂が、均一に絡み合い分子間力を発揮し、均一で強靭な透明塗膜層と、エポキシ樹脂等が注入されていない、コンクリート躯体と既設タイル張り仕上げ壁のタイルやモルタルとの間に形成された浮き部と、によって構成された既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造。
- 前記既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造の、前記短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層は、施工現場で形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載された既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造。
- 前記既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造の、前記短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン共重合樹脂やアクリルウレタン共重合樹脂を含むアクリル共重合樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂の群から少なくとも1つ選ばれた樹脂が成膜したものであることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載された既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造。
- 前記既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造の、前記短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層は、長さ3〜15mm、太さ1〜50μmのナイロン、ビニロン、ガラス等の短繊維が重量比において0.5〜5%混入されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された既設タイル張り仕上げ壁の落下防止構造。
- 既設タイル張り仕上げ壁のタイルの略中央部と躯体に穿孔し、アンカーピンを前記穿孔された孔に少なくとも先端が躯体に埋設するまで挿入固定し、既設タイル張り仕上げ壁表面に、ナイロン、ビニロン、ガラス等の短繊維を混入した溶剤で溶かした透明合成樹脂を塗布して、溶剤が揮発し残る樹脂が、均一に絡み合い分子間力を発揮し、均一で強靭な短繊維が混入された合成樹脂透明塗膜層を形成する一方、コンクリート躯体と既設タイル張り仕上げ壁のタイルやモルタルとの間に形成された浮き部にエポキシ樹脂等を注入しない、既設タイル張り仕上げ壁の落下防止工法。
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