以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明が繰返さない。
(車両の構成)
図1は、本発明の実施の形態による車両の代表例として示されるハイブリッド車両5の概略構成図である。
図1を参照して、ハイブリッド車両5は、エンジンENGと、モータジェネレータMG1,MG2と、バッテリ10と、電力変換ユニット(PCU:Power Control Unit)20と、動力分割機構PSDと、減速機RDと、前輪70L,70Rと、後輪80L,80Rと、電子制御ユニット(Electrical Control Unit:ECU)30とを備える。本実施の形態に係る制御装置は、たとえばECU30が実行するプログラムにより実現される。なお、図1には、前輪70L,70Rを駆動輪とするハイブリッド車両5が例示されるが、前輪70L,70Rに代えて後輪80L,80Rを駆動輪としてもよい。あるいは、図1に構成に加えて後輪80L,80R駆動用のモータジェネレータをさらに設けて、4WD構成とすることも可能である。
エンジンENGが発生する駆動力は、動力分割機構PSDにより、2経路に分割される。一方は、減速機RDを介して前輪70L,70Rを駆動する経路である。もう一方は、モータジェネレータMG1を駆動させて発電する経路である。
モータジェネレータMG1は、代表的には三相交流同期電動発電機により構成される。モータジェネレータMG1は、動力分割機構PSDにより分割されたエンジンENGの駆動力により、発電機として発電する。また、モータジェネレータMG1は、発電機としての機能だけでなく、エンジンENGの回転数を制御するアクチュエータとしても機能をも有する。
なお、モータジェネレータMG1により発電された電力は、車両の運転状態やバッテリ10のSOC(State Of Charge)の状態に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時や急加速時では、モータジェネレータMG1により発電された電力はそのままモータジェネレータMG2をモータとして駆動させる動力となる。一方、バッテリ10のSOCが予め定められた値よりも低い場合には、モータジェネレータMG1により発電された電力は、電力変換ユニット20により交流電力から直流電力に変換されてバッテリ10に蓄えられる。
このモータジェネレータMG1は、エンジンENGを始動する際の始動機としても利用される。エンジンENGを始動する際、モータジェネレータMG1は、バッテリ10から電力の供給を受けて、電動機として駆動する。そして、モータジェネレータMG1は、エンジンENGをクランキングして始動する。
モータジェネレータMG2は、代表的には三相交流同期電動発電機により構成される。モータジェネレータMG2が電動機として駆動される場合には、バッテリ10に蓄えられた電力およびモータジェネレータMG1により発電された電力の少なくともいずれか一方により駆動される。モータジェネレータMG2の駆動力は、減速機RDを介して前輪70L,70Rに伝えられる。これにより、モータジェネレータMG2は、エンジンENGをアシストして車両を走行させたり、モータジェネレータMG2の駆動力のみにより車両を走行させたりする。
車両の回生制動時には、減速機RDを介して前輪70L,70RによりモータジェネレータMG2が駆動され、モータジェネレータMG2が発電機として作動させられる。これによりモータジェネレータMG2は、制動エネルギを電気エネルギに変換する回生ブレーキとして作用する。モータジェネレータMG2により発電された電力は、電力変換ユニット20を介してバッテリ10に蓄えられる。
バッテリ10は、たとえば、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池により構成される。本発明の実施の形態において、バッテリ10は「蓄電装置」の代表例として示される。すなわち、電気二重層キャパシタ等の他の蓄電装置をバッテリ10に代えて用いることも可能である。バッテリ10は、直流電圧を電力変換ユニット20へ供給するとともに、電力変換ユニット20からの直流電圧によって充電される。
電力変換ユニット20は、バッテリ10よって供給される直流電力と、モータを駆動制御する交流電力およびジェネレータによって発電される交流電力との間で双方向の電力変換を行なう。
ハイブリッド車両5は、さらに、ハンドル40と、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accを検出するアクセルポジションセンサ44と、ブレーキペダルポジションBPを検出するブレーキペダルポジションセンサ46と、シフトポジションSPを検出するシフトポジションセンサ48とを備える。
また、モータジェネレータMG1,MG2には、ロータ回転角を検出する回転角センサ51,52がさらに設けられる。回転角センサ51によって検出されたモータジェネレータMG1のロータ回転角θ1および回転角センサ52によって検出されたモータジェネレータMG2のロータ回転角θ2は、ECU30へ伝達される。なお、回転角センサ51,52は、ECU30においてモータジェネレータMG1の電流、電圧等からロータ回転角θ1を推定し、また、モータジェネレータMG2の電流、電圧等からロータ回転角θ2を推定することによって、配置を省略してもよい。
ハイブリッド車両5は、さらに、パワースイッチ90を備える。パワースイッチ90は、加速性を重視するパワーモードでの走行を運転者が選択するためのスイッチである。パワースイッチ90は、ECU30と電気的に接続されている。ECU30は、パワースイッチ90のオン/オフ状態を示すパワースイッチ信号Pswを受ける。このパワースイッチ信号Pswがオン状態であるときに、ECU30は、運転者によりパワーモードが選択されていると判断する。
ECU30は、エンジンENG、電力変換ユニット20およびバッテリ10と電気的に接続されている。ECU30は、各種センサからの検出信号およびパワースイッチ90からのパワースイッチ信号Pswに基づいて、ハイブリッド車両5が所望の走行状態となるように、エンジンENGの運転状態と、モータジェネレータMG1,MG2の駆動状態と、バッテリ10の充電状態とを統合的に制御する。
図2は、図1のハイブリッド車両5におけるパワートレインの詳細を説明するための模式図である。
図2を参照して、ハイブリッド車両5のパワートレイン(ハイブリッドシステム)は、モータジェネレータMG2と、モータジェネレータMG2の出力軸160に接続される減速機RDと、エンジンENGと、モータジェネレータMG1と、動力分割機構PSDとを備える。
動力分割機構PSDは、図2に示す例では遊星歯車機構により構成されて、クランクシャフト150に軸中心を貫通された中空のサンギヤ軸に結合されたサンギヤ151と、クランクシャフト150と同軸上を回転可能に支持されているリングギヤ152と、サンギヤ151とリングギヤ152との間に配置され、サンギヤ151の外周を自転しながら公転するピニオンギヤ153と、クランクシャフト150の端部に結合され各ピニオンギヤ153の回転軸を支持するプラネタリキャリヤ154とを含む。
動力分割機構PSDは、サンギヤ151に結合されたサンギヤ軸と、リングギヤ152に結合されたリングギヤケース155およびプラネタリキャリヤ154に結合されたクランクシャフト150の3軸が動力の入出力軸とされる。そしてこの3軸のうちいずれか2軸へ入出力される動力が決定されると、残りの1軸に入出力される動力は他の2軸へ入出力される動力に基づいて定まる。
動力の取出用のカウンタドライブギヤ170がリングギヤケース155の外側に設けられ、リングギヤ152と一体的に回転する。カウンタドライブギヤ170は、動力伝達減速ギヤRGに接続されている。リングギヤケース155は、本発明での「出力部材」に対応する。このようにして、動力分割機構PSDは、モータジェネレータMG1による電力および動力の入出力を伴って、エンジンENGからの出力の少なくとも一部を出力部材へ出力するように動作する。
さらに、カウンタドライブギヤ170と動力伝達減速ギヤRGとの間で動力の伝達がなされる。そして、動力伝達減速ギヤRGは、駆動輪である前輪70L、70Rと連結されたディファレンシャルギヤDEFを駆動する。また、下り坂等では駆動輪の回転がディファレンシャルギヤDEFに伝達され、動力伝達減速ギヤRGはディファレンシャルギヤDEFによって駆動される。
モータジェネレータMG1は、回転磁界を形成するステータ131と、ステータ131内部に配置され複数個の永久磁石が埋め込まれているロータ132とを含む。ステータ131は、ステータコア133と、ステータコア133に巻回される三相コイル134とを含む。ロータ132は、動力分割機構PSDのサンギヤ151と一体的に回転するサンギヤ軸に結合されている。ステータコア133は、電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、図示しないケースに固定されている。
モータジェネレータMG1は、ロータ132に埋め込まれた永久磁石による磁界と三相コイル134によって形成される磁界との相互作用によりロータ132を回転駆動する電動機として動作する。またモータジェネレータMG1は、永久磁石による磁界とロータ132の回転との相互作用により三相コイル134の両端に起電力を生じさせる発電機としても動作する。
モータジェネレータMG2は、回転磁界を形成するステータ136と、ステータ136内部に配置され複数個の永久磁石が埋め込まれたロータ137とを含む。ステータ136は、ステータコア138と、ステータコア138に巻回される三相コイル139とを含む。
ロータ137は、動力分割機構PSDのリングギヤ152と一体的に回転するリングギヤケース155に減速機RDを介して結合されている。ステータコア138は、たとえば電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、図示しないケースに固定されている。
モータジェネレータMG2は、永久磁石による磁界とロータ137の回転との相互作用により三相コイル139の両端に起電力を生じさせる発電機としても動作する。またモータジェネレータMG2は、永久磁石による磁界と三相コイル139によって形成される磁界との相互作用によりロータ137を回転駆動する電動機として動作する。
減速機RDは、プラネタリギヤの回転要素の一つであるプラネタリキャリヤ166がケースに固定された構造により減速を行なう。すなわち、減速機RDは、ロータ137の出力軸160に結合されたサンギヤ162と、リングギヤ152と一体的に回転するリングギヤ168と、リングギヤ168およびサンギヤ162に噛み合いサンギヤ162の回転をリングギヤ168に伝達するピニオンギヤ164とを含む。たとえば、サンギヤ162の歯数に対しリングギヤ168の歯数を2倍以上にすることにより、減速比を2倍以上にすることができる。
このようにモータジェネレータMG2の回転力は、減速機RDを介して、リングギヤ152,168と一体的に回転する出力部材(リングギヤケース)155に伝達される。すなわち、モータジェネレータMG2は、出力部材155から駆動輪までの間で動力を加えるように構成される。なお、減速機RDの配置を省略して、すなわち減速比を設けることなく、モータジェネレータMG2の出力軸160および出力部材155の間を連結してもよい。
電力変換ユニット20は、コンバータ12と、インバータ14,22とを含む。コンバータ12は、バッテリ10からの直流電圧Vbを電圧変換して電源ラインPLおよび接地ラインGL間に直流電圧VHを出力する。また、コンバータ12は、双方向に電圧変換可能に構成されて、電源ラインPLおよび接地ラインGL間の直流電圧VHをバッテリ10の充電電圧Vbに変換する。
インバータ14,22は、一般的な三相インバータで構成されて、電源ラインPLおよび接地ラインGL間の直流電圧VHを交流電圧に変換してそれぞれモータジェネレータMG2,MG1へ出力する。また、インバータ14,22は、モータジェネレータMG2,MG1によって発電された交流電圧を直流電圧VHに変換して、電源ラインPLおよび接地ラインGL間に出力する。
上述のように構成されたハイブリッド車両5は、通常走行に対応するノーマルモードと、同一アクセル操作量に対する車両駆動力がノーマルモードよりも大きいパワーモードとを選択して走行可能に構成される。運転者は、パワースイッチ90を操作することにより、ノーマルモードおよびパワーモードのいずれかを選択できる。ECU30は、後述するように、選択された走行モードと、出力部材155に出力すべき要求トルクとを対応付けたテーブルを記憶している。このテーブルに記憶される要求トルクは、所定のアクセル開度に対して得られる駆動力が、ノーマルモードよりもパワーモードの方が高くなるように設定されている。ECU30は、各走行モードにおいて、このテーブルを参照してアクセル開度Accに基づいて出力部材155に出力すべき要求トルクを算出する。そして、この要求トルクに対応する要求駆動力が出力部材155に出力されるように、エンジンENGの運転状態と、モータジェネレータMG1,MG2の駆動状態とを制御する。
(制御構造)
次に、図3を参照して、本実施の形態による車両の走行モードの切換え動作を実現するための制御構造について、図面を参照して説明する。
図3は、本実施の形態に従うECU30における制御構造を示すブロック図である。図3に示す各機能ブロックは、代表的にECU30が予め格納されたプログラムを実行することで実現されるが、その機能の一部または全部を専用のハードウェアとして実装してもよい。
図3を参照して、ECU30は、MG2ロック検出部300と、走行モード選択部310と、充放電制御部320と、走行制御部330と、配分部340と、インバータ制御部350と、コンバータ制御部360とを備える。
MG2ロック検出部300は、モータジェネレータMG2の回転数センサ51によって検出された、または推定されたロータ回転角θ2に基づいてMG2回転数Nm2を検出する。そして、MG2ロック検出部300は、検出されたMG2回転数Nm2およびモータジェネレータMG2の電流に基づいて、モータジェネレータMG2にロック状態が発生しているかどうかを検出する。ロック状態の発生時には、MG2ロック検出部300は、ロック判定フラグFLCをオンに設定する。
MG2ロック検出部300によるロック検出は、MG2回転数Nm2が、回転数=0を含む極低回転数領域(N2n≦Nm2≦N2p)に入っているかどうか、および、モータジェネレータMG2の電流が所定のロック判定値M2以上であるかどうかにより判定される。なお、N2pは回転数が正転領域のロック判定値であり、N2nは回転数が逆転領域のロック判定値である。また、M2は、ロック状態が発生するとモータジェネレータMG2の特定の相に電流が継続的に流れることを考慮して、モータジェネレータMG2の三相電流よりも高い電流値となるように設定される。
なお、ロック検出は、MG2回転数およびモータジェネレータMG2のトルク指令値に基づいて行なう構成としてもよい。この場合、モータジェネレータMG1にトルク指令値が与えられているにもかかわらず、MG2回転数が上昇しないときには、モータジェネレータMG2にロック状態が発生していると判定することができる。
走行モード選択部310は、MG2ロック検出部300からロック判定フラグFLCを受け、パワースイッチ90からパワースイッチ信号Pswを受け、車速センサ100から車速Vを受ける。そして、走行モード選択部310は、これらの入力信号に基づいて、ノーマルモードおよびパワーモードの一方を選択する。走行モード選択部310は、ノーマルモードおよびパワーモードのいずれが選択されているかを示す走行モードフラグFMを発生する。走行モードフラグFMは、走行制御部330へ送出される。
充放電制御部320は、バッテリ10のSOCに基づいて、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを設定する。なお、図示は省略するが、バッテリ10のSOCは、バッテリ10に設けられた電池監視ユニットからの電池データ(バッテリ10の電流、電圧および温度)に基づいて算出されたSOC推定値である。
走行制御部330は、ハイブリッド車両5の走行モード、車両状態およびドライバ操作に応じて、ハイブリッド車両5全体で必要な車両駆動力や車両制動力を算出する。車両状態には、車速Vが含まれる。また、ドライバ操作には、アクセル開度Acc、ブレーキペダルポジションBP、シフトポジションSP等が含まれる。
そして、走行制御部330は、要求された車両駆動力あるいは車両制動力を実現するように、モータジェネレータMG1,MG2への出力要求およびエンジンENGへの出力要求を決定する。ハイブリッド車両5は、エンジンENGを停止したままでモータジェネレータMG2の出力のみで走行することができる。したがって、燃費が悪い領域を避けてエンジンENGを動作させるように、各出力要求を決定することによって、エネルギ効率を高めることができる。さらに、モータジェネレータMG1,MG2への出力要求は、バッテリ10の充放電可能な電力範囲内(Win〜Wout)でバッテリ10の充放電が実行されるように制限した上で設定される。すなわち、バッテリ10の出力電力が確保できないときには、モータジェネレータMG2による出力が制限される。
配分部340は、走行制御部330によって設定されたモータジェネレータMG1,MG2への出力要求に応じて、モータジェネレータMG1,MG2のトルクや回転速度を演算する。そしてトルクや回転速度についての制御指令をインバータ制御部350へ出力すると同時に、電圧VHの制御指令値をコンバータ制御部360へ出力する。
一方、配分部340は、走行制御部330によって決定されたエンジンパワーおよびエンジン目標回転速度を示すエンジン制御指示を生成する。このエンジン制御指示に従って、図示しないエンジンENGの燃料噴射、点火時期、バルブタイミング等が制御される。
インバータ制御部350は、配分部340からの制御指令に応じて、コンバータ12の出力である直流電圧を、モータジェネレータMG1を駆動するための交流電圧に変換する駆動指示を行なう制御信号と、モータジェネレータMG1で発電された交流電圧を直流電圧に変換してコンバータ12側に戻す回生指示を行なう制御信号とを生成する。これらのモータジェネレータMG1の制御指令(MG1制御指令)は、インバータ22へ出力される。同様にインバータ制御部350は、モータジェネレータMG2を駆動するための交流電圧に直流電圧を変換する駆動指示を行なう制御信号と、モータジェネレータMG2で発電された交流電圧を直流電圧に変換してコンバータ12側に戻す回生指示を行なう制御信号とを出力する。これらのモータジェネレータMG2の制御指令(MG2制御指令)は、インバータ14へ出力される。
コンバータ制御部360は、配分部340からの制御指令に従って直流電圧VHが制御されるように、コンバータ12に対して昇圧指示を行なう制御信号、降圧指示を行なう制御信号および動作禁止を指示するシャットダウン信号を生成する。これらの制御信号に従ったコンバータ12の電圧変換によって、バッテリ10の充放電電力が制御されることになる。
次に、ECU30の動作、特にパワーモードが選択される際の動作について図面を用いて説明する。図4は、ECU30における走行モード切換え動作を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、ハイブリッド車両5が走行可能な状態にあるとき、一定時間ごとまたは所定の条件が成立するごとに実行される。
図4を参照して、まず、走行モード選択部310として機能するECU30は、パワースイッチ90からのパワースイッチ信号Psw、車速センサ100からの車速Vおよび現在の走行モードを示す走行モードフラグFMなどの走行制御に必要なデータを受付ける処理を実行する(ステップS01)。
次に、走行モード選択部310は、入力されたパワースイッチ信号Pswがオン状態であるか否か、すなわち、運転者によりパワーモードが選択されているか否かを判定する(ステップS02)。パワースイッチ信号Pswがオン状態でないとき、すなわち、運転者によりパワーモードが選択されていないとき(ステップS02においてNOの場合)には、走行モード切換え動作に係る処理は終了する。この場合、走行モード選択部310は、走行モードを、現状の走行モード、すなわちノーマルモードに設定する。
これに対して、パワースイッチ信号Pswがオン状態であるとき、すなわち、運転者によりパワーモードが選択されているとき(ステップS02においてYESの場合)には、走行モード選択部310は、車速センサ100からの車速VおよびMG2ロック検出部300からのロック判定フラグFLCに基づいて、ハイブリッド車両5の車輪にロック状態が発生しているか否かを判定する。
具体的には、ECU30は、まず、車速センサ100からの車速Vが所定の閾値Vth以下であるか否かを判定する(ステップS03)。この閾値Vthは、ハイブリッド車両5が段差や登坂路などにおいてロック状態となっている場合を想定して、車速=0を含む極低速域の範囲内に設定される。車速Vが閾値Vth以下であるとき(ステップS03においてYESの場合)には、走行モード選択部310は次いで、ロック判定フラグFLCに基づいて、モータジェネレータMG2にロック状態が発生しているか否かを判定する(ステップS04)。本実施の形態に係るハイブリッド車両5では、図2で示したように、モータジェネレータMG2は、出力部材155と機械的に結合されており、出力部材155から駆動輪までの間で動力を加えるように構成される。したがって、モータジェネレータMG2にロック状態が発生しているか否かを検出することにより、車輪にロック状態が発生しているか否かを判定することができる。
ロック判定フラグFLCがオンに設定されているとき、すなわち、モータジェネレータMG2にロック状態が発生しているとき(ステップS04においてYESの場合)には、走行モード選択部310は、パワーモードの選択が禁止される(ステップS05)。これにより、パワースイッチ90がオンされているにもかかわらず、走行モードとしてノーマルモードが維持される。
すなわち、ECU30が図4のステップS02〜S05に示す処理を実行することにより、運転者によりパワーモードが選択されている場合であっても、車輪にロック状態が発生しているときには、ノーマルモードからパワーモードへの走行モードの切換えが禁止されることとなる。これにより、車輪にロック状態が発生しており、車輪をロック状態から脱出させるために運転者による細かなアクセル操作量の調整が必要とされる場面において、運転者の意図しない駆動力が発生するのを抑制することができる。
これに対して、運転者によりパワーモードが選択されている場合(ステップS02においてYESの場合)であって、車速センサ100からの車速Vが閾値Vthを超えるとき(ステップS03においてNOの場合)には、走行モード選択部310は、走行モードフラグFMに基づいて、前回このルーチンで設定した走行モードがパワーモードであるか否かを判定する(ステップS06)。前回の走行モードがパワーモードであると判定されると(ステップS06においてYESの場合)、走行モード選択部310は、走行モードとしてパワーモードを維持して、走行モード切換え動作に係る処理は終了する(ステップS07)。
また、運転者によりパワーモードが選択されている場合(ステップS02においてYESの場合)であって、車速センサ100からの車速Vが閾値Vth以下(ステップS03においてYESの場合)であり、かつ、モータジェネレータMG2にロック状態が発生していないとき(ステップS04においてNOの場合)においても、走行モード選択部310は、走行モードフラグFMに基づいて、前回このルーチンで設定した走行モードがパワーモードであるか否かを判定する(ステップS06)。前回の走行モードがパワーモードであると判定されると(ステップS06においてYESの場合)、走行モード選択部310は、走行モードとしてパワーモードを維持して、走行モード切換え動作に係る処理は終了する(ステップS07)。
これに対して、ステップS06において前回このルーチンで設定した走行モードがノーマルモードであると判定された場合(ステップS06においてNOの場合)には、走行モード選択部310は、パワーモードの選択が許可される。したがって、走行モード選択部310は、パワーモードが選択されたことを示す走行モードフラグFMを走行制御部330へ送出する。走行制御部330は、走行モード選択部310からの走行モードフラグFMに従って、ハイブリッド車両5の走行モードをノーマルモードからパワーモードに切換える(ステップS08)。
走行モードをノーマルモードからパワーモードに切換えるに際して、走行制御部330は、ノーマルモード時にアクセルポジションセンサ44からのアクセル開度Accに基づいて設定される車両駆動力から、パワーモード時にアクセルポジションセンサ44からのアクセル開度Accに基づいて設定される車両駆動力までの間で、車両駆動力を徐々に増大させる。このように車両駆動力に緩変化処理を施すのは、ノーマルモードからパワーモードに移行した直後においてアクセル操作量に対する車両駆動力がいきなり増大することによって、運転者に対して車両の飛び出し感を与えるおそれがあるためである。
図5は、図4のステップS08(走行モード切換え処理)のサブルーチンを説明するフローチャートである。
図5を参照して、まず、走行制御部330は、フラグF2に値0を設定し(ステップS11)、パワーモードマップを用いて仮実行用アクセル開度Accpowを設定する(ステップS12)。フラグF2は、パワーモード用に実行用アクセル開度Acc*を設定する処理が実行されたときに値0が設定される。このステップS12においては、走行制御部330は、図6に示すアクセル開度Accと仮実行用アクセル開度Accpowとの関係を予めマップとして記憶しておき、アクセルポジションセンサ44からアクセル開度Accが与えられると、当該マップを参照して、対応する仮実行用アクセル開度Accpowを設定する。
図6に、パワーモードマップの一例を示す。同図では、後述するノーマルモードマップも併せて示す。図6を参照して、ノーマルモードマップでは、0〜100%の範囲でアクセル開度Accに対して仮実行用アクセル開度Accnorが線形性を持つように定められている。これに対して、パワーモードマップでは、所定開度Acc0以下の低アクセル開度領域にあるアクセル開度Accに対してはノーマルモードマップにより設定される仮実行用アクセル開度Accnorと値が同一の仮実行用アクセル開度Accpowとなる線形性を持つとともに、所定開度Acc0よりも大きいアクセル開度Accに対しては仮実行用アクセル開度Accnorよりも大きな値の仮実行用アクセル開度Accpowとなる非線形性を持つように定められている。これは、停車時にアクセルペダルを全閉としてクリープ走行する際に、アクセルペダルの全閉位置にずれが生じていたりすると、運転者はアクセルペダルを踏み込んでいなくても若干の開判定がなされる場合があるが、このときに0〜100%の全ての開度領域に亘ってノーマルモードマップよりも大きな実行用アクセル開度Acc*が設定されるようにパワーモードマップを定めると(図6の破線参照)、大きな実行用アクセル開度Acc*が設定されて車両の飛び出し感を与える場合があるからである。
次に、走行制御部330は、フラグF1の値を調べる(ステップS13)。このフラグF1は、ノーマルモード用に実行用アクセル開度Acc*を設定する処理が実行されたときに値0が設定される。いま、ノーマルモードからパワーモードに切換えられた直後を考えると、フラグF1が値0と判定される(ステップS13においてYESの場合)。
走行制御部330は、図6のノーマルモードマップを参照して、アクセルポジションセンサ44からのアクセル開度Accに基づいて仮実行用アクセル開度Accnorを設定する(ステップS14)。そして、走行制御部330は、ステップS12で設定した仮実行用アクセル開度Accpowから仮実行用アクセル開度Accnorを減じることにより、開度差ΔAを計算する(ステップS15)。次に、走行制御部330は、前回このルーチンで設定された開度補正量Aset1に所定量A1を加えることにより新たな開度補正量Aset1を設定し(ステップS16)、開度補正量Aset1と開度差ΔAとを比較する(ステップS17)。
開度補正量Aset1が開度差ΔA未満と判定されると(ステップS17においてNOの場合)、走行制御部330は、ステップS14で設定した仮実行用アクセル開度Accnorに開度補正量Aset1を加えたものと実行用アクセル開度Acc*に設定して(ステップS21)、処理を終了する。
これに対して、開度補正量Aset1が開度差ΔA以上と判定されると(ステップS17においてYESの場合)、走行制御部330は、フラグF1に値1を設定するとともに(ステップS18)、開度補正量Aset1に値0を設定する(ステップS19)。さらに、走行制御部330は、ステップS12で設定した仮実行用アクセル開度Accpowを実行用アクセル開度Acc*に設定して(ステップS20)、処理を終了する。
なお、フラグF1に値1が設定された以降は、ステップS13で否定的な判定がなされるから、仮実行用アクセル開度Accpowを実行用アクセル開度Acc*に設定するステップS20の処理が繰返されることになる。
このように、ノーマルモードからパワーモードに切換えられたときには、実行用アクセル開度Acc*を、レート処理を用いて仮実行用アクセル開度Accnorから仮実行用アクセル開度Accpowまで徐々に変化させることにより、ノーマルモードからパワーモードへの切換えをスムーズに行なうことができる。したがって、車輪がロック状態から脱出したことによってパワーモードの選択が許可されることにより、走行モードがノーマルモードからパワーモードに切換えられるところ(図4のステップS08)、パワーモードへの切換え直後において、大きな実行用アクセル開度Acc*が設定されて車両駆動力がいきなり増大し、運転者に飛び出し感を与えるのを抑制することができる。なお、ステップS16に示す所定量A1は、レート処理に用いられるレート値であり、ハイブリッド車両5の仕様に基づいて定められる。
なお、図5のフローチャートに従って実行用アクセル開度Acc*を設定すると、走行制御部330は、設定した実行用アクセル開度Acc*および車速Vに基づいて、ハイブリッド車両5に要求されるトルクとして、出力部材155に出力すべき要求トルクTr*とエンジンENGに要求されるパワーPe*とを設定する。
要求トルクTr*については、本実施例では、実行用アクセル開度Acc*と車速Vと要求トルクTr*との関係を予め要求トルク設定用マップとして記憶しておき、実行用アクセル開度Acc*および車速Vが与えられると、要求トルク設定用マップを参照して、対応する要求トルクTr*を導出するものとする。図7に、要求トルク設定用マップの一例を示す。
走行制御部330は、設定した要求トルクTr*および要求パワーPe*に基づいて、モータジェネレータMG1,MG2への出力要求およびエンジンENGへの出力要求を決定する。なお、モータジェネレータMG1,MG2への出力要求は、バッテリ10の充放電可能な電力範囲内(Win〜Wout)でバッテリ10の充放電が実行されるように制限した上で設定される。すなわち、バッテリ10の出力電力が確保できないときには、モータジェネレータMG2による出力が制限される。
配分部340は、走行制御部330によって設定されたモータジェネレータMG1,MG2への出力要求に応じて、モータジェネレータMG1,MG2のトルクや回転速度を演算する。そしてトルクや回転速度についての制御指令をインバータ制御部350へ出力すると同時に、電圧VHの制御指令値をコンバータ制御部360へ出力する。
一方、配分部340は、走行制御部330によって決定されたエンジンパワーおよびエンジン目標回転速度を示すエンジン制御指示を生成する。このエンジン制御指示に従って、図示しないエンジンENGの燃料噴射、点火時期、バルブタイミング等が制御される。
なお、この発明の実施の形態と本願発明との対応関係については、ノーマルモードが「第1の走行モード」に相当し、パワーモードが「第2の走行モード」に相当する。また、ECU30は、「検知手段」、「切換え手段」、「ロック検出手段」、「禁止手段」および「ロック脱出検出手段」を構成する。
以上説明したように、この発明の実施の形態による車両においては、運転者によりパワーモードが選択されている場合であっても、車輪にロック状態が発生していることが検出されたときには、パワーモードへの切換えが禁止される。これにより、車輪をロック状態から脱出させるために運転者による細かなアクセル操作が必要とされる場面において、運転者の意図しない駆動力が出力されるのを抑制することができる。
また、車輪をロック状態から脱出したことによってパワーモードヘの切換えが許可されたときには、車両駆動力を、ノーマルモード時にアクセル開度に基づいて設定される車両駆動力からパワーモード時にアクセル開度に基づいて設定される車両駆動力まで緩変化させることにより、パワーモードへの切換え直後に運転者に与えうる飛び出し感を抑制することができる。
なお、上述した実施の形態においては、車両の代表例として、ハイブリッド車両について例示したが、本願発明は、通常走行に対応するノーマルモードと、同一アクセル操作量に対する車両駆動力がノーマルモードよりも大きいパワーモードとのいずれかを運転者により選択可能に構成された車両に適用することが可能である。たとえば、エンジンのみを駆動源とする通常の車両、電気自動車、燃料電池自動車等についても本願発明は適用可能である。また、ハイブリッド車両に適用する場合には、図1の構成とは異なる構成のハイブリッド構成のハイブリッド車両(たとえば、いわゆるシリーズハイブリッド構成や、電気分配式のハイブリッド構成)であってもよい。
また、上述した実施の形態においては、走行モードとしてパワーモードを選択することによって、通常走行よりも高い駆動力を発生させる構成について例示したが、本願発明は、一走行モードとしてパワーモードを備える車両に限定されるものではなく、加速性が要求される場面に応じて車両駆動力を通常走行時よりも増大させる機能を備えた車両に適用することが可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。