JP5597401B2 - 高強度高靭性溶接金属 - Google Patents

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Description

本発明は溶接金属に関するものであり、特に炭酸ガスシールドアーク溶接によって得られる高強度高靭性溶接金属に関するものである。
建築、造船、自動車等の製造過程における鋼板の溶接現場では、ガスシールドアーク溶接が広く採用されている。特に、建築鉄骨分野においては、経済性の観点からシールドガスとしてCO2を用いた炭酸ガスシールドアーク溶接が多く用いられている。一方、近年では耐震性向上等の観点から、建築用材料として高張力鋼の適用が拡大しつつあり、高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接で接合する要求が高まっている。
非特許文献1には、建築構造用の780MPa級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接した例が開示されている。非特許文献1によれば、780MPa級の高張力鋼を溶接するにあたって、溶接金属の引張強度を一定以上に確保するためには、入熱量やパス間温度を低入熱量および低パス間温度(例えば、入熱量20kJ/cm程度、パス間温度:150℃程度)に厳格に管理する必要がある旨が記載されている。しかし、低入熱量や低パス間温度で現場での溶接を行う場合、パス数が過多となって融合不良が生じたり、施工能率が低下したりするなどの不具合が生じるため、あまり好ましくない。そこで、入熱量やパス間温度を厳格に下げなくても(以下では、「施工条件の緩和」と呼ぶ場合がある。)溶接金属の引張強度を確保できる技術が望まれている。
一方、溶接金属の引張強度が780MPa級に高強度化すると、一般に以下の不具合が生じることが知られている。
第一に、溶接金属の引張強度と靭性は、一般にトレードオフの関係にあることから、溶接金属の引張強度を高めると靭性が低下してしまう。
第二に、溶接金属は外力の直接的な作用によらない割れを生ずることがあり、一般的に200℃未満で生ずる割れを低温割れと呼ぶが、溶接金属が高強度化すると低温割れが発生しやすくなる。低温割れの原因としては、急熱・急冷により発生した残留応力や、大気中や材料中の水分からの水素などが挙げられるが、特に水素による影響が大きいと考えられている。この水素による低温割れを低減するため、割れの発生する200℃未満になる前に徐冷をしたり、母材を予め加熱しておいて溶接金属部の冷却速度を遅くしたりして、水素を逃す方法がある。しかし、このような方法は現場での作業性を悪化させてしまう。
以上の通り、現場溶接を行うにあたって、施工条件を緩和しても溶接金属の引張強度を確保できるとともに、靭性も確保することができ、かつ、現場での作業性を悪化させることなく耐低温割れ性を向上させる技術の開発が強く望まれている。
溶接金属の引張強度や靭性を向上させるための技術として、例えば特許文献1〜5が挙げられる。特許文献1にはワイヤの成分組成を調整することにより、溶接金属の引張強度が900MPa以上で、かつ、安定した靭性を確保する技術が記載されている。しかし、特許文献1はシールドガスとしてAr−CO2を用いたものであり、炭酸ガスシールドアーク溶接の技術とは異なっており、また耐低温割れ性について何ら考慮されていない。
特許文献2、3には、ソリッドワイヤの成分組成を調整することによって、高入熱・高パス間温度であっても溶接金属の強度および靭性を確保できる旨が開示されている。しかし特許文献2は590MPa級の高張力鋼を対象としたものであり、そもそも低温割れの危険性は少ない上に、B(ボロン)を添加したワイヤを用いているため、780MPa級高張力鋼に適用することは高温割れの観点から難しい。また特許文献3は780MPa級高張力鋼にも適用できる旨が記載されているが、特許文献3も特許文献2と同様にB(ボロン)を添加しており、高温割れの危険性がかなり高い。
特許文献4では、ソリッドワイヤの化学成分組成を調整することによって、大入熱、高パス間温度の溶接条件であっても、強度、靭性に優れ、かつ耐低温割れ性に優れた溶着金属が得られることが開示されている。しかし、特許文献4は490〜580MPa級の高張力鋼を対象としたものであり、低温割れの問題が顕在化する780MPa級高張力鋼は意識していない。特許文献5には、900MPa以上の超高強度鋼管の溶接金属において、残留オーステナイト相を1%以上含有させることによって耐低温割れ性を向上させる技術が開示されている。特許文献5では残留オーステナイトによって水素をトラップしているが、残留オーステナイトによっては加工誘起マルテンサイト変態して水素を放出するようになるため逆効果となる恐れがあり、単に残留オーステナイトの量を確保するのみでは耐低温割れ性は不十分である。
特開2007−260697号公報 特開2004−237333号公報 特開2007−253163号公報 特開2006−289395号公報 特開2002−115032号公報
「第二吉本ビルディング」、鉄構技術、2004年6月、p.56−65
本発明は上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は入熱量やパス間温度を厳格に下げなくても、引張強度、靭性、および耐低温割れ性に優れる溶接金属を得ることにある。
本発明に係る高強度高靭性溶接金属は、C:0.03〜0.12%(質量%の意味。以下、成分組成について同じ。)、Si:0.4〜1.0%、Mn:1.00〜2.0%、Ti:0.010〜0.10%を夫々含有するとともに、Cu:0.2〜2.5%および/またはNi:1.5〜3.5%、Cr:1.0%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5〜1.5%を含有し、更にMg:0.002%以下(0%を含まない)、Ca:0.002%以下(0%を含まない)、Al:0.05%以下(0%を含まない)、およびZr:0.02〜0.08%よりなる群から選択される1種以上を含有し、残部が鉄および不可避不純物であって、下記(1)式で表されるZ値が2.00<Z<2.6を満たし、残留オーステナイトを体積分率で3.0〜10%含有し、前記残留オーステナイト中のC量が0.9%以上であることを特徴とする。
Z=1.75×[Mn]+[Ti]+2.5×[Mg]−10×[Ca]−12×[Al]+0.75×[Zr] ・・・(1)
(但し、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。)
本発明の溶接金属は、さらにNb:0.012%以下(0%を含まない)および/またはV:0.01%以下(0%を含まない)を含有していてもよい。
本発明の溶接金属は、化学成分組成が適切に制御されているために高強度を実現できるとともに、Mn、Ti、Mg、Ca、Al、およびZrの含有量を相互に制御しているため高靭性を発揮することができ、さらに安定な残留オーステナイトを所定量以上確保しているため耐低温割れ性にも優れている。
図1(a)は鋼板の開先形状を表した概略図であり、図1(b)は溶接の層数とパス数を表した概略図である。 図2(a)は溶接金属の引張試験片の採取位置を表した概略図であり、図2(b)は溶接金属のシャルピー衝撃試験片の採取位置を表した概略図である。
本発明者らは、入熱量やパス間温度を厳格に下げなくても、溶接金属の引張強度および靭性を確保することのできるソリッドワイヤを既に提案している(特願2009−218825号。以下、「先願」と呼ぶ。)。先願では、780MPa級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接するにあたって、溶接金属の靭性が酸化物の形態に大きく支配されることに着目して検討した結果、Mn、Ti、Mg、Ca、Al、およびZrの6つの元素が制御されたソリッドワイヤを用いれば、溶接金属中の酸化物を微細に分散させることができ、溶接金属の靭性向上に有効であることを見出した。具体的には、ソリッドワイヤにおける前記6つの元素の含有量を個別に調整するとともに、6つの元素の含有量を相互に制御している。
本発明者らは、先願のソリッドワイヤを開示した後も、溶接金属の強度および靭性だけでなく、さらに耐低温割れ性にも優れた溶接金属を提供するために検討した。その結果、耐低温割れ性の向上には、溶接金属中に安定した残留オーステナイトを所定量以上確保することが有効であることを見出し、本発明を完成した。
まず、本発明の溶接金属の化学成分について以下に説明する。
C:0.03〜0.12%
Cは溶接金属の強度を確保するとともに、残留オーステナイトを安定化させるために不可欠な元素である。そこでC量を0.03%以上と定めた。C量は好ましくは0.04%以上であり、より好ましくは0.06%以上である。一方、C量が過剰になると焼入性が増大しすぎることによって靭性が劣化する。そこでC量は0.12%以下とする。C量は好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.09%以下である。
Si:0.4〜1.0%
Siは脱酸元素であり、溶接金属を清浄にする作用を有し、溶接金属中に歩留まった場合は溶接金属を固溶強化させる作用を有する。更に、Siはセメンタイトの抑制効果を有しているため残留オーステナイトの生成に寄与するとともに、C濃度の高い残留オーステナイトの生成にも大きく寄与する元素である。そこでSi量を0.4%以上と定めた。Si量は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.6%以上である。一方、Si量が過剰になると強度が上昇しすぎたり、硬質な第二相が形成したりすることによって靭性が劣化する。そこでSi量は1.0%以下と定めた。Si量は好ましくは0.9%以下であり、より好ましくは0.8%以下である。
Mn:1.00〜2.0%
Mnは脱酸元素であり、溶接金属を清浄にする作用を有するとともに、溶接金属中に歩留った場合には組織を微細化することによって溶接金属の強度および靭性を向上させる作用を有する。さらにMnは残留オーステナイトを安定化させる作用を有し、さらにMnの偏析部には安定した残留オーステナイトが生成することを見出した。そこでMn量は1.00%以上と定めた。Mn量は、好ましくは1.1%以上であり、より好ましくは1.25%以上(特に1.3%以上)である。一方、Mn量が過剰になると焼入性が増大しすぎることによって靭性が劣化する。そこでMn量は2.0%以下とする。Mn量は、好ましくは1.9%以下であり、より好ましくは1.8%以下(特に1.6%以下)である。
Ti:0.010〜0.10%
Tiは脱酸元素であり、溶接金属を清浄にする作用を有するとともに、溶接金属中に歩留まった場合にはアシキュラーフェライトと呼ばれる微細組織の生成核として作用するため溶接金属の組織微細化に寄与する元素である。また、溶接金属中に微細な酸化物を形成することにより、溶接金属の靭性の向上に寄与する。そこでTi量を0.010%以上と定めた。Ti量は、好ましくは0.020%以上であり、より好ましくは0.030%以上である。一方、Ti量が過剰になるとTiCによる析出強化によって靭性が劣化する。そこでTi量を0.10%以下と定めた。Ti量は、好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.06%以下である。
Cu:0.2〜2.5%
Ni:1.5〜3.5%
CuおよびNiは、いずれも溶接金属の強度および靭性を向上させる作用を有する元素である。また、これら元素はオーステナイト安定化元素であり、さらにこれらの元素の偏析部に残留オーステナイトが生成することを見出した。そこで、Cu量は0.2%以上、Ni量は1.5%以上と定めた。Cu量は、好ましくは0.3%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。Ni量は、好ましくは1.8%以上であり、より好ましくは2.0%以上である。一方、Cu量およびNi量が過剰になると、焼入れ性が増大することによって靭性が劣化する。そこでCu量は2.5%以下、Ni量は3.5%以下と定めた。Cu量は、好ましくは2.3%以下であり、より好ましくは1.8%以下である。Ni量は、好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは2.5%以下である。CuおよびNiは、それぞれ単独で用いても良いし、併用しても良い。
Cr:1.0%以下(0%を含まない)
Mo:0.5〜1.5%
CrおよびMoは、いずれも溶接金属の強度を向上させる作用を有する元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Cr量は0.1%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2%以上である。Mo量は、0.5%以上であり、好ましくは0.6%以上、より好ましくは0.8%以上である。一方、Cr量およびMo量が過剰になると、焼入性が増大することによって靭性が劣化する。そこでCr量を1.0%以下、Mo量を1.5%以下と定めた。Cr量は、好ましくは0.8%以下であり、より好ましくは0.7%以下である。Mo量は、好ましくは1.3%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。CrおよびMoは、それぞれ単独で用いても良いし、併用しても良い。
Mg:0.002%以下(0%を含まない)
Ca:0.002%以下(0%を含まない)
Al:0.05%以下(0%を含まない)
Zr:0.02〜0.08%
Mg、Ca、Al、およびZrは、いずれも強脱酸元素であり、脱酸作用によって溶接金属を清浄にする作用を有する。特にMgおよびZrは、溶接金属中に歩留まった場合は、微細な酸化物を形成することによって靭性を向上させる効果も有しており、Mg量は0.0001%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0005%以上である。Zr量は好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.04%以上である。Ca量は0.0001%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0002%以上である。Al量は0.001%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.002%以上である。一方、MgおよびZrは前述した通り、微細な酸化物を形成して溶接金属の靭性を向上させる効果があるものの、Mg量およびZr量はが過剰になると微細な酸化物が凝集して粗大な酸化物を形成することにより、却って靭性を劣化させてしまう。そこでMg量は0.002%以下とする。Mg量は、好ましくは0.0015%以下であり、より好ましくは0.001%以下である。Zr量は0.08%以下であり、好ましくは0.07%以下、より好ましくは0.05%以下である。Ca量は過剰になるとスパッタが増加するため著しく作業性が劣化する他、後述するように溶接金属中に歩留まった場合には粗大酸化物を形成しやすい元素であるため、Ca量は0.002%以下と定めた。Ca量は、好ましくは0.001%以下であり、より好ましくは0.0008%以下である。Alは、後述するように溶接金属中に歩留まった場合には粗大酸化物を形成しやすい元素であるため、Al量は0.05%以下とする。Al量は、好ましくは0.03%以下であり、より好ましくは0.02%以下である。Mg、Ca、Al、およびZrは、それぞれ単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明における溶接金属の基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物(例えば、P、S、N等)が溶接金属中に含まれることは当然に許容される。さらに本発明の溶接金属は必要に応じて、以下の任意元素を含有していてもよい。
Nb:0.012%以下(0%を含まない)
V:0.01%以下(0%を含まない)
NbおよびVは、溶接金属の組織を微細化することにより、強度を向上させる作用を有する。そこでNb、Vを含有させる場合は、Nb量は0.005%以上が好ましく、より好ましくは0.01%以上であり、V量は0.001%以上が好ましく、より好ましくは0.003%以上である。NbおよびVは、それぞれ単独で用いても良いし、併用しても良い。一方、NbやVの炭化物が析出すると延性を劣化させ、靭性の向上も妨げるので、含有する場合であってもできるだけ制限することが好ましい。従って、Nb量は好ましくは0.012%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。V量は好ましくは0.01%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。なお、特に靭性を向上させる観点からは、NbおよびVは含有しない方が好ましい。
本発明では、上記した化学成分組成の個々の含有量を制御するとともに、下記(1)式で表されるZ値が2.00<Z<2.6となるようにする。
Z=1.75×[Mn]+[Ti]+2.5×[Mg]−10×[Ca]−12×[Al]+0.75×[Zr] ・・・(1)
(但し、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。)
上記した先願明細書にも記載の通り、780MPa級以上の高張力鋼の溶接金属の靭性は、ミクロ組織の影響に加えて、酸化物の形態に大きく支配されるようになる。これは酸化物がボイドの起点として作用するためである。溶接金属の靭性を向上させるためには、溶接金属中の酸化物を微細に分散させることが有効であるが、本発明者らによればMn、Ti、Mg、Ca、Al、およびZrが酸化物の微細分散に大きく影響を与えることが分かっており、Z値を上記範囲内に制御することによって溶接金属の靭性を向上させることができる。溶接金属中の酸化物のサイズは、(i)酸化物が形成され始める温度、(ii)酸化物を形成する元素の脱酸力、および(iii)形成された酸化物と溶鋼の濡れ性、等によって決定される。上記(1)式において、各元素の含有量に乗ずる係数は数多くの基礎実験から算出されたものであり、前記(i)〜(iii)の因子を全て含めて、各元素が酸化物の形態に与える影響を反映したものである。
本発明において酸化物とは、Mn、Ti、Mg、Ca、Al、またはZrの単独酸化物の他、少量のSi酸化物を含む場合もあり、これらの酸化物が複合した複合酸化物も含む意味である。
上記(1)式で与えられるZ値が2.00以下となると、酸化物の個数は少ないものの酸化物の大きさが粗大になるため、靭性が劣化する。一方、Z値が2.6以上となると、酸化物の大きさは微細になるものの個数が多くなるため、やはり靭性が劣化する。上記(1)式において、Mn、Ti、Mg、およびZrには正の係数を乗じており、CaおよびAlには負の係数を乗じている。すなわち、Mn、Ti、Mg、およびZrは酸化物の大きさを微細にする効果があるものの、含有量が過剰になると酸化物の個数が大きくなって靭性が劣化する。一方、CaおよびAlは酸化物を粗大にする作用を有するため、含有量が過剰になると靭性が劣化する。
なお、Z値を計算するにあたって、Z値を構成する元素のうち含有されない元素がある場合は、その元素については0%としてZ値を計算するものとする。
さらに、本発明の溶接金属は安定した残留オーステナイトを含有するところに特徴がある。残留オーステナイトは、溶接金属中に浸入した大気中や材料中の水分からの水素をトラップする作用を有すること自体は、例えば前述した特許文献5に記載されている。しかしながら、特許文献5のように単に残留オーステナイト量のみを制御するだけでは、耐低温割れ性を確実に確保することはできず、残留オーステナイトによっては加工誘起マルテンサイト変態し、トラップされていた水素が再び鋼中に放出されることとなることが判明した。そこで本発明は、残留オーステナイトの量を確保するだけでなく、残留オーステナイトの安定性に寄与する残留オーステナイト中のC量も考慮することにした。
具体的には、残留オーステナイト量を、体積分率で3.0〜10%とする。残留オーステナイト量が3.0%未満となると、上記した水素トラップ作用が有効に発揮できない。後述するように、本発明における残留オーステナイトは安定性に優れるため、加工誘起マルテンサイト変態を起こしにくいものであるが、残留オーステナイト量が10%を超えてしまうと、加工誘起マルテンサイト変態する量も無視できないものとなり、鋼中に浸入する水素の影響で耐低温割れ性が劣化する。残留オーステナイト量は、好ましくは3.5〜8.0%、より好ましくは4.0〜7.0%である。残留オーステナイト量を上記範囲に調整するためには、上述したようにオーステナイトを安定化させる作用を有するMn、Cu、Niや、C、Siの含有量を上記範囲に調整することが有効である。
さらに、本発明では、残留オーステナイト中のC量を0.9%以上とする。残留オーステナイト中のC量が0.9%未満となると、残留オーステナイトが不安定となり、すなわち、加工誘起マルテンサイト変態しやすくなり、残留オーステナイトがトラップしていた水素が再び鋼中に浸入してしまうため、耐低温割れ性が低下する。残留オーステナイト中のC量は、1.0%以上が好ましく、より好ましくは1.1%以上である。残留オーステナイト中のC量の上限は特に制限されないが、通常1.5%程度である。
残留オーステナイト中のC量は、上述したオーステナイト安定化元素(Mn、Cu、Ni、C、Si)の含有量を調整する他、溶接施工条件を適切に調整することによって制御できる。具体的には、溶接後の冷却速度が(50×Ceq−30)℃/秒〜(50×Ceq−12)℃/秒となるように冷却することが好ましい。ここでCeqとは、いわゆる「炭素当量」と呼ばれる値であり、Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cu]+[Ni])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5で表される。なお、[ ]は各元素の含有量(質量%)を示す。
前記冷却速度が(50×Ceq−30)℃/秒未満となるか、または(50×Ceq−12)℃/秒を超えると、残留オーステナイト中のC量が0.9%未満となり、残留オーステナイトが不安定となる。
また、溶接施工時の冷却速度は、溶接施工条件から算出する方法が種々提案されており、現場溶接において種々の溶接施工条件から溶接後の冷却速度を予想することができる。例えば「百合岡ら、鉄鋼材料の溶接、第1版、産報出版、1998年、p.222−227」に記載されるように、入熱量、板厚、溶接方法、予熱温度等を調整することで溶接冷却時間を計算することができるため、溶接時においてこれらの溶接施工条件を調整することによって所望の冷却速度を達成することができる。
本発明の溶接金属は、高強度高靭性を達成することができる。例えば、引張強度が780MPa以上であり、また0℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE0)が70J以上であることが好ましい。
本発明の溶接金属を得るためには、例えば先願のソリッドワイヤ、具体的にはC:0.02〜0.12%、Si:0.30〜1.0%、Mn:1.2〜2.0%、Ti:0.05〜0.30%を夫々含有し、更に、Cu:0.2〜2.5%および/またはNi:0.5〜3.5%、Cr:1.0%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5〜1.5%を含有するとともに、Mg:0.0005〜0.020%、Ca:0.0020%以下(0%を含まない)、Al:0.050%以下(0%を含まない)およびZr:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有し、残部は鉄および不可避不純物であり、下記(2)式で表されるX値が4.5≦X≦6.0を満たすソリッドワイヤを用いることができる。
X=2.5×[Mn]+5×[Ti]+50×[Mg]−100×[Ca]−30×[Al]
+2.5×[Zr] ・・・(2)
(但し、[Mn]、[Ti]、[Mg]、[Ca]、[Al]、[Zr]は、夫々Mn、
Ti、Mg、Ca、Al、Zrの含有量(質量%)を表す。)
また前記ソリッドワイヤは更にNb:0.012%以下(0%を含まない)および/またはV:0.010%以下(0%を含まない)を含有していてもよい。
本発明に用いられる鋼材(母材)は特に限定されないが、例えばHT780鋼板を用いることが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1−1、1−2に示す化学成分組成のワイヤを用意し、伸線加工して直径1.2mmのワイヤとした。図1(図1(a)は溶接前を表し、図1(b)は溶接後を表す)に示した開先形状のHT780級鋼板を以下に示す溶接条件で溶接し、表2−1、2−2に示す成分組成の溶接金属を得た。
Figure 0005597401
Figure 0005597401
[溶接条件]
電流 :280A
電圧 :33V
溶接速度 :25cm/min
入熱量 :22kJ/cm
予熱温度およびパス間温度:250℃
層数/パス数 :5層/10パス
シールドガス :100%CO2
母材鋼板 :HT780
Figure 0005597401
Figure 0005597401
得られた溶接金属を、以下に示す方法によって評価した。
(1)溶接金属の引張試験
図2(a)に示す位置から、JIS Z2201に規定される1A号試験片を採取し、
JIS Z2241に従って溶接金属の引張試験を行った。
(2)溶接金属のシャルピー衝撃試験
図2(b)に示す位置から、JIS Z2242に規定される10mm×10mm×5
5mmのサイズの試験片を採取し、JIS Z2242に従って0℃におけるシャルピー
吸収エネルギー(vE0)を求めた。
(3)残留オーステナイト分率の測定
溶接金属の中央部から、試験片を採取して鏡面研磨した後、X線回折法によって、リーベルト法でα−Fe(200)面とγ−Fe(200)面のピーク強度比から理論強度比を計算によって求め、残留オーステナイト分率を求めた。X線回折装置は、理学電気製の「RAD−RU300」を使用し、ターゲットはCoとし、ターゲット出力は40kV、200mAとした。
(4)残留オーステナイト中のC量の測定
上記X線回折によって、残留オーステナイトの格子定数aを測定し、D.J.Dysonet al., Journal of The Iron and Steel Institute,(1970),p469〜474に示される以下の式を用いて残留オーステナイト中のC量(CγR)を求めた。
CγR=(a0−3.578−0.00095×[Mn]+0.0002×[Ni]−0.0006×[Cr]−0.022×[N]−0.0056×[Al]+0.0004×[Co]−0.0015×[Cu]−0.0031×[Mo]−0.0051×[Nb]−0.0039×[Ti]−0.0018×[V]−0.0018×[W])/0.033
なお、本発明の溶接金属においては、WとCoは含有されていないため、上記式においてWとCoは0%として計算するものとし、これら以外の成分についても含有していない場合は0%として計算した。
(5)耐低温割れ性の評価
JIS Z3158のy形溶接割れ試験法に従い、板厚50mmのHT780級鋼板を入熱量:14kJ/cm、予熱温度:25℃で溶接を行って断面割れ率を測定し、割れ率が0%のものを合格とした。
結果を表3−1、3−2に示す。
Figure 0005597401
Figure 0005597401
実験No.1〜20の溶接金属は、成分組成、Z値、および溶接時の冷却速度が適切に制御されているため、安定した残留オーステナイトを所定量以上確保することができ、耐割れ性、引張強度、および靭性に優れている。
一方、実験No.21〜37は、成分組成、Z値、および溶接時の冷却速度のいずれかが適切でなかったために、耐割れ性、引張強度、および靭性のいずれかが劣る結果となったものである。
実験No.21はC量が多く、Z値が小さかったため靭性が劣っている。実験No.22はSi量が多く、Z値が小さいため靭性が劣っている。
実験No.23はMn量が多く、Z値が大きかったため、実験No.29はMg量が多くZ値が小さいため、実験No.30はCa量が多いため、実験No.31はAl量が多くZ値が小さいため、実験No.35はZr量が多くZ値が大きいため、靭性が劣っている。
実験No.24はNi量が多かったため、実験No.25はCr量が多かったため、実験No.26はMo量が多かったため、靭性が劣っている。
実験No.27はTi量が少なかったため酸化物の微細化効果が不十分となり靭性が劣っている。実験No.28はMn量が少ないため残留オーステナイト分率が少なく耐低温割れ性が劣っており、またTi量が多くZ値が小さいため靭性が劣っている。
実験No.32はZ値が大きいため、実験No.33はZ値が小さいため、靭性が劣っている。
実験No.34は、Bを含有しているため、高温割れが発生した。
実験No.36は、Si量が少ないため残留オーステナイト中のC量(CγR)が少なくなり、耐低温割れ性が劣っている。実験No.37はZ溶接時の冷却速度が好ましい要件を超えるため残留オーステナイトの分率およびCγRが小さくなり耐低温割れ性が劣っている。なお、実験No.36、37はCγRが小さく、特にNo.37は残留オーステナイトの分率も小さく、いずれも靭性値が良好であるが、これはCγRが小さく残留オーステナイトが不安定であるために、加工誘起マルテンサイト変態して靭性が向上したものと考えられる。

Claims (4)

  1. C:0.03〜0.12%(質量%の意味。以下、成分組成について同じ。)、
    Si:0.4〜1.0%、
    Mn:1.00〜2.0%、
    Ti:0.010〜0.10%を夫々含有するとともに、
    Cu:0.2〜2.5%および/またはNi:1.5〜3.5%
    o:0.5〜1.5%を含有し、残部が鉄および不可避不純物であって、
    下記(1)式で表されるZ値が2.00<Z<2.6を満たし、
    残留オーステナイトを体積分率で3.0〜10%含有し、
    前記残留オーステナイト中のC量が0.9%以上であることを特徴とする高強度高靭性溶接金属。
    Z=1.75×[Mn]+[Ti]+2.5×[Mg]−10×[Ca]−12×[Al]+0.75×[Zr] ・・・(1)
    (但し、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。)
  2. 更に、Cr:1.0%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の高強度高靭性溶接金属。
  3. 更に、
    Mg:0.002%以下(0%を含まない)、Ca:0.002%以下(0%を含まない)、Al:0.05%以下(0%を含まない)、およびZr:0.02〜0.08%よりなる群から選択される1種以上を含有する請求項1または2に記載の高強度高靭性溶接金属。
  4. 更に、
    Nb:0.012%以下(0%を含まない)および/またはV:0.01%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の高強度高靭性溶接金属。
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