JP3863849B2 - 溶接金属靭性に優れる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当 - Google Patents
溶接金属靭性に優れる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築、橋梁などの各種溶接鋼構造物を建造する際に用いられる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当に関し、特に、引張強度が400〜600MPa級の高張力鋼材を500kJ/cm以上の溶接入熱でエレクトロスラグ溶接する際に良好な靭性を有する溶接金属を得ることができる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、エレクトロスラグ溶接法は、大入熱1パス溶接が可能なため他の溶接法に比べて高能率な溶接が可能であり、建築、橋梁などの溶接構造物における鉄骨のダイアフラムなどを立向溶接する場合に多く用いられている。
【0003】
しかしながら、エレクトロスラグ溶接法は、その溶接入熱が500kJ/cm程度以上と一般のアーク溶接に比べて大きいために、溶接で形成される溶接金属の冷却速度が小さく、その冷却過程でオーステナイト(以下、略称でγということもある)粒界から粗大な初析フェライト(以下、略称でαということもある)が生成されやすく、溶接金属の靭性を低下させる原因となる。
【0004】
一方、建築、橋梁などの溶接構造物において、地震時に脆性破壊により倒壊しないためにその溶接部の高靭性化の社会的要請は極めて大きく、従来からエレクトロスラグ溶接時の溶接金属の高靭性化対策がいろいろと提案されてきた。
【0005】
エレクトロスラグ溶接時に用いる溶接ワイヤの成分組成を規定した技術としては、例えば、特許文献1〜8等が挙げられる。しかし、これら方法は何れも、エレクトロスラグ溶接時の溶接金属の結晶粒径、または、粒内および粒界に生成する組織を積極的にコントロールできないため、溶接金属の靭性を十分に向上することができなかった。
【0006】
一方、エレクトロスラグ溶接時の溶接金属の結晶粒径、または、粒内および粒界に生成する組織をコントロールする方法として、例えば、非特許文献1が知られている。この非特許文献1には、4.18%の多量のNiを添加した溶接ワイヤを用いて溶接することにより、0℃でのシャルピー吸収エネルギーで平均115Jの高靭性の溶接金属が得られたことを報告している。しかしながら、このような多量Ni溶接ワイヤを建築、橋梁などの常温環境下で使用する溶接構造物のエレクトロスラグ溶接時に適用すると、溶接ワイヤの製造コスト増加に伴って溶接施工コストを著しく上昇させる原因となり実用上好ましくない。
【0007】
また、この非特許文献1には、溶接金属のオーステナイト粒界に生成する粗大な初析フェライトの生成による靭性低下を抑制するために、溶接時に用いる溶接ワイヤ中のSiを低下させて、通常、溶接金属の中央部に形成される微細な旧オーステナイト粒の領域を減少または消滅させることにより粗大なオーステナイト粒を生成させた後、その粒内に靭性に優れた細粒のアシキュラーフェライトあるいはベーナイトを多く生成させ、その粒界に生成する靭性に有害な初析フェライトの体積分率を全体に対して相対的に減少させる方法も示されている。
【0008】
しかしながら、この方法は、引張強度で400MPa未満程度の溶接金属の強度が要求される鋼構造物に対しては、その靭性をある程度向上することは可能であるが、引張強度で400MPaを超える溶接金属の強度が要求される構造物に適用する場合には、Siの低下は溶接金属の強度低下をもたらすため有効な手段とはなり得ない。近年、建築、造船、橋梁、海洋構造物等の鋼構造物の大型化に伴い、引張強度で400〜600MPa級の高張力鋼材が適用され、それに合わせて溶接金属の強度も引張強度で400MPaを十分に上回ることが要求されているため、このような強度レベルでも溶接金属の靭性を十分に向上させる方法が必要となる。
【0009】
また、従来から比較的大入熱でアーク溶接する際に、溶接ワイヤにより溶接金属中にTiを添加してTi酸化物を生成させ、冷却過程でそれを核として靭性に優れた微細なアシキュラーフェライトを多く生成させることで溶接金属の靭性を向上させる方法も行われている。
【0010】
しかしながら、エレクトロスラグ溶接法は、一般のアーク溶接法に比べて、溶接入熱が高く、溶融プールが長時間維持されるので、溶接金属中のTi酸化物はスラグ浴中に移行し溶接金属から分離するため、アシキュラーフェライト生成核として有効に機能できず、エレクトロスラグ溶接の際にTi添加は溶接金属の靭性向上の有効な手段とは言いがたい。
【0011】
また、本発明者等は、特許文献9において大入熱エレクトロスラグ溶接時の溶接金属の靭性向上を目的として、その溶接ワイヤとして溶接金属中でδフェライト相を安定させるとともに焼入性を向上させる元素であるSi、Mo、Cr、NbおよびVを所定量含有し、かつオーステナイト粒界での粗大な初析フェライトの生成を抑制する効果のあるBを所定量含有するとともに、結晶粒内の靭性を害するセメンタイト(Fe3C)の生成を抑制するためにC含有量を低減し、Si含有量を増加させた溶接ワイヤを提案した。この溶接ワイヤの適用により大入熱エレクトロスラグ溶接時の溶接金属の靭性はかなり改善された。
【0012】
その後、本発明者等は大入熱エレクトロスラグ溶接時の溶接金属の靭性の更なる向上を目的として研究開発したところ、溶接鋼構造物のボックス柱のスキンプレートとダイアフラムの溶接部の溶接金属特性おいて、従来省みられることのなかった、溶接時に用いる裏当中の化学成分の影響が極めて大きいことを見出した。
【0013】
従来、大入熱エレクトロスラグ溶接時の溶接金属の靭性向上のためにその溶接に用いる裏当の化学成分を制御する技術はなかった。
【0014】
【特許文献1】
特開昭53−73444号公報
【特許文献2】
特許第1235715号公報
【特許文献3】
特開昭59−179289号公報
【特許文献4】
特許第2892575号公報
【特許文献5】
特開平08−164497号公報
【特許文献6】
特開平08−168895号公報
【特許文献7】
特開平09−66374号公報
【特許文献8】
特許第1791983号公報
【特許文献9】
特開2002−79396号公報
【非特許文献1】
藤平 正一郎 大阪大学学位論文 「構造用鋼の高能率エレクトロスラグ溶接金属の靭性向上に関する研究」(平成7年2月)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、引張強度が400〜600MPa級の高張力鋼材を約500〜1500kJ/cmの溶接入熱でエレクトロスラグ溶接する際に0℃におけるシャルピー吸収エネルギーで70J以上の優れた靭性の溶接金属を得ることが可能となる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、その発明の要旨とするところは、以下の通りである。
【0017】
(1)質量%で、
C:0.02〜0.34%、
Si:0.05〜1.5%、
Mn:0.5〜3.5%、
Al:0.003〜0.06%、
Ti:0.008〜0.06%、
Ca:0.0015〜0.004%、
Mg:0.0020〜0.0048%
を含有し、
更に、
P:0.012%以下、
S:0.008%以下、
N:0.008%以下、
O:0.003%以下
に制限し、残部が不可避不純物ならびにFeからなることを特徴とする溶接金属靭性に優れる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当。
【0018】
(2)質量%で、更に、
Cu:0.05〜1.5%、
Ni:0.02〜2.2%、
Cr:0.03〜1.0%、
Mo:0.02〜1.9%、
Nb:0.02〜0.1%、
V :0.02〜1.0%、
B :0.0004〜0.01%、
REM:0.0003〜0.005%
のうちの1種または2種以上を含有したことを特徴とする上記(1)記載の溶接金属靭性に優れる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当。
【0020】
特に、溶接時に裏当が一部溶融し、裏当中のP、Sが溶接金属中に混入して溶接金属の結晶粒界を脆化させ、更に、裏当中のN、O(酸素)が溶接金属に混入して冷却過程で靭性に有害な粗大粒界フェライトを増大させる結果、溶接金属の靭性を低下させることを見い出し、エレクトロスラグ溶接で使用する裏当としてこれらの不可避的不純物元素を極力低減させることが、溶接金属の靭性向上のために重要であることを見出した。
【0021】
また、溶接金属中の靭性に有害な酸素と結合し、酸化物としてスラグ中に浮上分離させ、かつ適正な焼入性向上により組織の細粒化を促進し溶接金属の靭性を向上させるためには、裏当中にSi、Mnを適正量含有させ、同様に焼入性向上により組織の細粒化を促進するCも適正量含有させることが、溶接金属の靭性向上のために重要であることを見出した。
【0022】
また、これらの成分を必須成分として規定した裏当に、更に、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、B、Al、Ti、B、Ca、Mg、REMのうちの1種または2種以上を、選択成分として適量に含有した裏当を用いることにより、上記の焼入性向上による組織の細粒化促進作用、または、靭性に有害な窒素または酸素の固定の作用、またはフェライトマトリックスの靭性向上作用が更に向上することにより、溶接金属の靭性は更に改善することもわかった。
【0023】
本発明は、これらの新たな知見に基づいてなされたものであり、大入熱エレクトロスラグ溶接に用いる裏当の化学成分を適正に規定することを特徴とする。
【0024】
以下に本発明の裏当に含有させる化学成分の限定理由について説明する。
【0025】
なお、以下に示す%は、特に説明がない限りは質量%を意味するものとする。
【0026】
まず、本発明における裏当に含有する基本成分について説明する。
【0027】
Cは、溶接金属の焼入性を向上して組織の細粒化を促進する作用を有し、それにより溶接金属の靭性向上を図るためには、裏当中に0.02%以上含有する必要がある。しかしながら、Cは、溶接金属に過剰に含有すると溶接金属の硬さが過剰となって溶接金属の靭性を劣化させるのでその含有量の上限を0.34%とした。また、溶接金属にCを過剰に含有するとオーステナイト粒内に靭性に有害な粗大なセメンタイト(Fe3C)が多く生成するため、更にCの含有量の上限を0.15%とすることがより溶接金属の靭性を向上させるために好ましい。
【0028】
Siは、脱酸元素として働き、溶接金属の不純物としての酸素量を減少させる成分であり、本発明では、0.05%以上含有させる必要がある。また、Siは、このオーステナイト粒径を微細化する効果に加えて、オーステナイト粒内に生成する靭性に有害な粗大なセメンタイト(Fe3C)の生成を抑制する効果ある。しかしながら、1.5%を超えて裏当中に含有すると溶接金属の硬さを過剰に高め、靭性を劣化させるので、その含有量の上限を1.5%とした。
【0029】
Mnは、溶接金属の焼入れ性の向上および脱酸作用を有し、その含有量が0.5%を下回ると溶接金属の酸素量が高くなり、溶接金属の靭性を劣化させるので、その含有量の下限を0.5%とした。しかしながら、しかしながら、3.5%を超えて裏当中に含有すると溶接金属の硬さを過剰に高め、靭性を劣化させるので、その含有量の上限を3.5%とした。
【0030】
Pは溶接金属で不可避的不純物元素であり、粒界に偏析し靭性を阻害するので、本発明では0.012%以下に抑える必要がある。
【0031】
SはPと同様に溶接金属で不可避的不純物元素であり、粒界に偏析し靭性を阻害するので、本発明では0.008%以下に抑える必要がある。
【0032】
Nは、溶接金属において不可避的不純物元素であり、溶接金属に固溶したNがフェライトマトリックスの靭性を劣化させ、更に過剰に溶接金属中に含有されるとBを窒化物として固定してしまい、上記のBのオーステナイト粒界での初析フェライト変態の抑止効果を低下させる。そこで、本発明では、その含有量の上限を0.008%に制限した。
【0033】
Oも、溶接金属の靭性を著しく劣化させるのでその含有量の上限を0.003%とした。
【0034】
次に、本発明における裏当に上記基本成分の他に、更に選択的に1種または2種以上を添加する選択元素について説明する。なお、これらの選択元素の下限未満は溶接金属の靭性に格別の影響を与えないので不可避不純物として取り扱うことができる。
【0035】
Cuは、溶接金属の焼入性を向上して組織の細粒化を促進する作用を有し、それにより溶接金属の靭性向上を図るためには、裏当中に0.05%以上含有する必要がある。しかしながら、1.5%を超えて添加されると、溶接金属の硬さを過剰に上昇させ、靭性を劣化させるので、上限は1.5%とした。
【0036】
Niは、溶接金属中のフェライトマトリックスの靭性を向上させる元素であり、それにより溶接金属の靭性向上を図るためには、裏当中に0.02%以上含有する必要がある。しかしながら、2.2%を超えて過剰に含有されると靭性向上効果は飽和し裏当のコストを不当に上昇させる上に、溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させるため、その含有量の上限を2.2%とする。
【0037】
Crは、Mo、Nb、Vと同様に、溶接金属冷却過程においてオーステナイトからαフェライトに変態する際に焼入性増大元素として有効に機能し、結晶粒内のベーナイトあるいはアシキュラーフェライトの生成を促進することにより、溶接金属の靭性を向上するために望ましい元素である。これらの効果を得るためには、裏当中に0.03%以上含有する必要がある。しかしながら、過剰に含有されると溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させるので、本発明では、その含有量の上限を1.0%とした。
【0038】
Moは、Cr、Nb、Vと同様に、溶接金属冷却過程においてオーステナイトからαフェライトに変態する際に焼入性増大元素として有効に機能し、結晶粒内の細粒ベーナイトあるいはアシキュラーフェライトの生成を促進することにより、溶接金属の靭性を向上するために望ましい元素である。これらの効果を得るためには、裏当中に0.02%以上含有する必要がある。しかしながら、1.9%を超えて過剰に含有されると裏当のコストを上昇させる上に、溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させるため、その含有量の上限を1.9%とする。
【0039】
NbはCr、Mo、Vと同様に、溶接金属冷却過程においてオーステナイトからαフェライトに変態する際に焼入性増大元素として有効に機能し、結晶粒内のベーナイトあるいはアシキュラーフェライトの生成を促進することにより、溶接金属の靭性を向上するために望ましい元素である。これらの効果を得るためには、裏当中に0.02%以上含有する必要がある。しかしながら、過剰に含有されると溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させるので、本発明では、その含有量の上限を0.1%とした。
【0040】
VはCr、Mo、Nbと同様に、溶接金属冷却過程においてオーステナイトからαフェライトに変態する際に焼入性増大元素として有効に機能し、結晶粒内のベーナイトあるいはアシキュラーフェライトの生成を促進することにより、溶接金属の靭性を向上するために望ましい元素である。これらの効果を得るためには、裏当中に0.02%以上含有する必要がある。しかしながら、過剰に含有されると溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させるので、本発明では、その含有量の上限を1.0%とした。
【0041】
Alは、溶接金属中で脱酸元素として働き、溶接金属の不純物としての酸素量を減少させる成分であり、それにより溶接金属の靭性を向上するために0.003%以上含有させる必要がある。しかしながら、0.06%を超えて裏当中に含有すると溶接金属の硬さを過剰に高め、靭性を劣化させるので、その含有量の上限を0.06%とした。
【0042】
Tiは、微量でも溶接金属中でTi酸化物等を形成して、強度および靭性の向上のために有効な微細結晶粒のアシキュラーフェライトを生成するための核生成サイトとなり、それにより溶接金属の靭性を向上するためには、裏当中に0.008%以上含有する必要がある。しかしながら、0.07%を超えて裏当中に含有すると、酸化物あるいは窒化物を形成しないフリーなTiがフェライトマトリックス中に固溶し、溶接金属の靭性を劣化させるので、その含有量の上限を0.07%とした。
【0043】
Bは、微量でも溶接金属中のオーステナイト粒界に偏析し、オーステナイト粒界に生成しやすい靭性に有害な初析フェライトの変態、生成を抑止することにより溶接金属の靭性向上に効果がある元素である。その効果を十分得るためには、裏当中に0.0004%以上含有する必要がある。しかしながら、0.01%を超えて裏当中に含有されると、過剰なBがフェライトマトリックス中に固溶し、溶接金属の靭性を劣化させるので、その含有量の上限を0.01%とした。
【0044】
Caは、Mg、REMと同様に、溶接金属において脱酸元素として働き、不純物としての酸素の量を減少させるため、それによる溶接金属の靭性向上の効果を得るためには、裏当中に0.0015%以上含有する必要がある。しかしながら、0.004%を超えて裏当中に含有すると溶接金属中で粗大な酸化物を形成し、靭性を劣化させるので、その含有量の上限を0.004%とした。
【0045】
Mgは、Ca、REMと同様に、溶接金属において脱酸元素として働き、不純物としての酸素量を減少させるため、それによる溶接金属の靭性向上の効果を得るためには、裏当中に0.0020%以上含有する必要がある。しかしながら、0.0048%を超えて裏当中に含有すると溶接金属中で粗大な酸化物を形成し、靭性を劣化させるので、その含有量の上限を0.0048%とした。
【0046】
REMは、Ca、Mgと同様に、溶接金属において脱酸元素として働き、不純物としての酸素量を減少させるため、それによる溶接金属の靭性向上の効果を得るためには、裏当中に0.0003%以上含有する必要がある。しかしながら、0.005%を超えて裏当中に含有すると溶接金属中で粗大な酸化物を形成し、靭性を劣化させるので、その含有量の上限を0.005%とした。
【0047】
【実施例】
以下に本発明の実施例により本発明の効果を説明する。
【0048】
表1に示す化学組成を有する鋼板を用い、それを表2に示す寸法のスキンプレートおよびダイアフラムに切断加工した。また、裏当は、表2に示す寸法のものを用いた。そして、図1に示すように板厚(TS):50mm、板幅(WS):500mmのスキンプレート1と、板厚(TD):50mm、板幅(WD):500mmのダイアフラム2とのギャップ(G)が25mmとなるように、板厚(TB):50mm、板幅(WB):28mmの裏当3とで溶接用開先を設けて組み立てた。裏当3は、表3に示した化学組成の複数の裏当を用意した。
【0049】
溶接方法は、表4に示す溶接条件で、表5に示す成分を含有したワイヤ径:1.6mmの溶接ワイヤ(W1)を使用して、溶接用開先内をエレクトロスラグ溶接法を用いて溶接した。
【0050】
溶接終了後、図1に示すように溶接金属4におけるスキンプレート板厚(TS)方向の最大幅(tW2)の中心線と、ダイアフラム板厚(TD)方向の最大厚(tW1)の中心線が交わる中心位置がノッチ位置となるようにシャルピー衝撃試験片5を採取して、シャルピー衝撃試験を実施した。溶接金属の靭性は、0℃におけるシャルピー衝撃試験をおこない、各々繰返し数3本の平均値を求め、0℃における吸収エネルギーの平均値の目標を70Jとして靭性を評価した。
【0051】
表6にこれらの試験結果を示す。これらの結果から明らかなように、本発明による裏当B1からB19による溶接金属は良好な靭性を有する。
【0052】
これらに対し、裏当B20からB40による溶接金属はシャルピー吸収エネルギーが70Jに至らず、高靭性の溶接金属を提供する裏当として使用できるものではない。
【0053】
したがって、比較例ではいずれも溶接金属において十分な靭性が得られず、健全なエレクトロスラグ溶接用当金として使用できるものではない。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
【表8】
【0062】
【発明の効果】
本発明のエレクトロスラグ溶接用裏当は、従来高い靭性を得ることが困難であった溶接入熱が500kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接において、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーで70J以上の優れた靭性を有する溶接金属を提供することが可能であり、建築、橋梁などの大型鋼構造物の安全性を著しく高めることができると同時に生産効率を著しく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の説明に用いた溶接開先形状を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例の説明に用いた溶接後の試験体からのシャルピー衝撃試験片の採取位置を示す断面図である。
【符号の説明】
1 スキンプレート
2 ダイアフラム
3 裏当
4 溶接金属
5 シャルピー衝撃試験片
TS スキンプレートの板厚
WS スキンプレートの板幅
TD ダイアフラムの板厚
WD ダイアフラムの板幅
TB 裏当の板厚
WB 裏当の板幅
G 開先幅
tw1 溶接金属のダイアフラム板厚方向の最大厚
tw2 溶接金属のスキンプレート板厚方向の最大幅
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.02〜0.34%、
Si:0.05〜1.5%、
Mn:0.5〜3.5%、
Al:0.003〜0.06%、
Ti:0.008〜0.06%、
Ca:0.0015〜0.004%、
Mg:0.0020〜0.0048%
を含有し、
更に、
P:0.012%以下、
S:0.008%以下、
N:0.008%以下、
O:0.003%以下
に制限し、残部が不可避不純物ならびにFeからなることを特徴とする溶接金属靭性に優れる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当。 - 質量%で、更に、
Cu:0.05〜1.5%、
Ni:0.02〜2.2%、
Cr:0.03〜1.0%、
Mo:0.02〜1.9%、
Nb:0.02〜0.1%、
V :0.02〜1.0%、
B :0.0004〜0.01%、
REM:0.0003〜0.005%
のうちの1種または2種以上を含有したことを特徴とする請求項1記載の溶接金属靭性に優れる大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当。
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