ファクシミリやレジスターなどのプリンタとしては、サーマルヘッドおよびプラテンローラを備えるサーマルプリンタが用いられている。このようなサーマルプリンタに搭載されているサーマルヘッドとしては、基板表面上に配列されている複数の発熱部を有しているヘッド基体と、該ヘッド基体に対して主走査方向に沿って機械的に接続され、かつ複数の発熱部に対して電気的に接続されている配線部材とを備えているものがある。プラテンローラは、例えば感熱紙などの記録媒体を発熱部上に対して押し当てる機能を有するものである。このような構成のサーマルプリンタでは、所望の画像に応じて発熱部を発熱させるとともに、発熱部上に記録媒体をプラテンローラで略均等に押圧することにより発熱部の発する熱を記録媒体に対して良好に伝達させている。記録媒体に対する所望の印画は、この処理を繰り返すことにより行われている。
図6、7は、従来のサーマルヘッド(記録ヘッドの一種)Xを示すもので、サーマルヘッドX1は、ヘッド基体50と、制御IC60と、配線部材70と、放熱体80とを含んで構成されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
ヘッド基体50は、ヘッド基板51と、グレーズ層52と、電気抵抗層53と、電極配線54と、保護層55とを含んで構成されている。
ヘッド基板51は、グレーズ層52と、電気抵抗層53と、電極配線54と、保護層55と、制御IC60とを支持する機能を有するものである。
グレーズ層52は、電気抵抗層53の後述する発熱部53aにおいて発生する熱の一部を一時的に蓄積する機能を有するものである。このグレーズ層52は、基部52aと、突出部52bとを有している。基部52aは、電気抵抗層53および電極配線54のフォトリソグラフィーを用いたマスクのパターニング形成が容易になるとともに、平滑性を高められるという理由、製造が容易であるという理由から、ヘッド基板51の上面全体に渡って略平坦状に設けられている。突出部52bは、記録媒体を発熱部53a上に位置する保護層55に対して良好に押し当てるのに寄与する部位である。
電気抵抗層53は、電力供給によって発熱する発熱素子として機能する発熱部53aを有している。電極配線54から電圧が印加される電気抵抗層53のうち電極配線54が上に形成されていない部位が発熱部53aとして機能している。
発熱部53aは、電力供給により発熱する発熱素子として機能する部位である。この発熱部53aは、グレーズ層52の突出部52b上に位置しており、主走査方向D1、D2に沿って略同一の離間距離で配列されている。
電極配線54は、電気抵抗層53上に設けられている。また、この電極配線54は、第1電極配線541と、第2電極配線542と、第3電極配線543とを含んで構成されている。
第1電極配線541は、各々の一端部が個々の発熱部53aの一端部側に電気的に独立に接続されている。この第1電極配線541は、発熱部53aへの電力を供給するのに寄与している。
第2電極配線542は、端部が複数の発熱部53aの他端部側および配線部材70に接続されている。この第2電極配線542は、第1電極配線541と対となって発熱部53aに対して電力を供給するのに寄与している。
第3電極配線543は、第1電極配線541と離間して配置されている。これらの第3電極配線543の一端部には駆動IC60が接続され、他端部には配線部材70が接続されている。
以上のようにして構成された記録ヘッドは、以下のようにして作製されている。先ず、ヘッド基板51の上面全面にグレーズ層52の基部52aを形成するとともに、基部52aに突出部52bを形成する。この後、グレーズ層52の上面全面に抵抗体膜を成膜する。
次に、抵抗体膜の上面全面に導電膜を成膜する。この成膜方法としては、例えばスパッタリング技術および蒸着技術を含む従来周知のものが挙げられる。
次に、導電膜を所定パターンにエッチングし、電極配線54の第1電極配線541、第2電極配線542および第3電極配線543を形成するとともに、電極配線541、542から抵抗体膜の一部を露出させて発熱部53aとして機能させる。この後、抵抗体膜を所定パターンにエッチングし、電気抵抗層53を形成する。
第1電極配線541、第2電極配線542および第3電極配線543の一部の上面には、駆動IC60および配線部材70をハンダ90で接合するために、ハンダ90と濡れ性の良好なニッケルメッキ層からなる電極パッド57を形成する。この電極パッド57は、接合強度を向上するという観点から、第1電極配線541、第2電極配線542および第3電極配線543の一部の上面、すなわち、駆動IC60および配線部材70の接続端子と対向している上面に最大限の面積で形成されている。
電極パッド57は、ヘッド素体に塗布されたレジストを露光用マスクを用いて露光現像し、メッキ膜を形成する部分が開口したレジストを形成し、このレジストを用いて、メッキ膜が形成されやすいように、電極配線541、542、543のメッキ膜形成面の酸化物を除去するためのメッキ前処理を行い、この後、ニッケルメッキを行い、レジストを除去する。
次に、発熱部53aと電極配線54の一部とを覆うように保護層55を形成する。
次に、作製されたヘッド素体をヘッド基板領域ごとに分割し、複数のヘッド基体50を得る。次に、ヘッド基体50の電極パッド57上にハンダペーストを塗布し、このハンダペーストに配線部材70の接続端子を当接させ、ハンダペーストを熱溶融させ、接合する。次に、第1電極配線541と第3電極配線543の電極パッド57上にハンダペーストを塗布し、このハンダペーストに駆動IC60の接続端子を当接させ、ハンダペーストを熱溶融させ、接合する。
この後、ヘッド基体50および配線部材70を放熱体80上に載置し、記録ヘッドを作製する。なお、図7では、放熱体80は省略した。
図1(a)は本発明に係る記録ヘッドの実施形態の一例であるサーマルヘッドXの概略構成を示す平面図あり、(b)はサーマルヘッドXの側面図である。
図2(a)は図1に示したサーマルヘッドXの要部を拡大した図であり、(b)は(a)に示したIIb−IIb線に沿った断面図である。なお、図2(a)では、駆動IC20、配線部材30、放熱体40を、(b)では放熱体40を、便宜上省略した。また、図1、図2(a)では保護層15を省略した。
サーマルヘッドXは、ヘッド基体10と、駆動IC20と、配線部材30と、放熱体40とを含んで構成されている。
ヘッド基体10は、ヘッド基板11と、グレーズ層12と、電気抵抗層13と、電極配線14と、保護層15とを含んで構成されている。
ヘッド基板11は、グレーズ層12と、電気抵抗層13と、電極配線14と、保護層15と、駆動IC20とを支持する機能を有するものである。このヘッド基板11は、矢印D6方向視において矢印方向D1、D2に延びる矩形状に構成されている。ヘッド基板11を形成する材料としては、絶縁材料が挙げられ、例えばアルミナセラミックスなどのセラミックスと、エポキシ系樹脂やシリコン系樹脂などの樹脂材料と、シリコン材料と、ガラス材料とが挙げられる。本実施形態においてヘッド基板11は、アルミナセラミックスにより形成されており、その熱膨張係数は、約7.3×10−6[K−1]である。
このヘッド基板11の厚み方向D5、D6におけるD5方向側の上面には、電気抵抗層13および電極配線14のフォトリソグラフィーを用いたマスクのパターニング形成が容易になるとともに、平滑性を高められるという理由、製造が容易であるという理由から、グレーズ層12が全体に渡って設けられている。
グレーズ層12は、電気抵抗層13の後述する発熱部13aにおいて発生する熱の一部を一時的に蓄積する機能を有するものである。すなわち、グレーズ層12は、発熱部13aの温度を上昇させるのに要する時間を短くして、サーマルヘッドXの熱応答特性を高める役割を担うものである。このグレーズ層12を形成する材料としては、例えば石英ガラスが挙げられる。このグレーズ層12は、基部12aと、突出部12bとを有している。
基部12aは、ヘッド基板11の上面全体に渡って略平坦状に設けられており、その厚みは、50〜250μmとされている。突出部12bは、記録媒体を発熱部13a上に位置する保護層15に対して良好に押し当てるのに寄与する部位である。この突出部12bは、基部12aより厚み方向D5、D6におけるD5方向に突出している。また、この突出部12bは、主走査方向D1、D2に延びる帯状に構成されている。この突出部12bは、主走査方向D1、D2に直交する副走査方向D3、D4における断面形状が略半楕円状に構成されている。本実施形態では、この発熱部13aの保持された状態での配列方向がサーマルヘッドXの主走査方向となる。
電気抵抗層13は、一部がグレーズ層12の突出部12b上に位置している。電気抵抗層13の厚みは、0.01〜0.1μmとされている。本実施形態では、電極配線14から電圧が印加される電気抵抗層13のうち電極配線14が形成されていない部位が発熱部13aとして機能している。この電気抵抗層13を形成する材料としては、例えばTaN系材料、TaSiO系材料、TaSiNO系材料、TiSiO系材料、TiSiCO系材料、またはNbSiO系材料が挙げられる。
発熱部13aは、電極配線14からの電圧印加により発熱するものである。この発熱部13aは、電極配線14からの電圧印加による発熱温度が、例えば200[℃]以上450[℃]以下の範囲となるように構成されている。この発熱部13aは、グレーズ層12の突出部12b上に位置している。
電極配線14は、第1電極配線141と、第2電極配線142と、第3電極配線143とを含んで構成されている。
第1電極配線141は、各々の一端部が発熱部13aの一端部に接続され、他端部が駆動IC20に接続されている。この第1電極配線141の一端部は、発熱部13aの矢印D4方向側に位置している。第1電極配線141は、第1下電極配線131上に第1上電極配線141aを形成して構成されている。
第2電極配線142は、その端部が複数の発熱部13aの他端部、及び図示しない電源に対して接続されている。この第2電極配線142の一端部は、発熱部13aの矢印D3方向側に位置している。第2電極配線142は、第2下電極配線132上に第2上電極配線142aを形成して構成されている。
第3電極配線143は、第1電極配線141と離間して配置されており、言い換えれば第3電極配線143は、第1電極配線141に近接して設けられている。この第3電極配線143は、複数の駆動IC20と配線部材30との間に設けられている。また、この第3電極配線143は、制御IC20および配線部材30に接続されている。言い換えれば、第3電極配線143は、駆動IC20と配線部材30とを電気的に接続する機能を有しており、発熱部13aの駆動に寄与している。ここで、「発熱部の駆動に寄与する」とは、発熱部の駆動または駆動制御にともなって電流が流れることをいう。この第3電極配線143は、その一端部に駆動IC20が接続され、その他端部に配線部材30が接続されている。第3電極配線143は、第3下電極配線133上に第3上電極配線143aを形成して構成されている。
第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aを形成する材料としては、例えばアルミニウム、金、銀、銅のいずれか一種の金属、またはこれらの合金が挙げられる。その厚みは、0.7〜1.2μmとされている。
第1下電極配線131、第2下電極配線132、第3下電極配線133を形成する材料は、電気抵抗層13と同一材料を用い、同一厚みとされている。言い換えれば、第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aが積層されている電気抵抗層13と同一材料の部分は、グレーズ層12と第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aとの密着層として、また導体層として機能し、第1下電極配線131、第2下電極配線132、第3下電極配線133となり、第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aが積層されていない部分は、抵抗体として機能する。
なお、第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aが積層されていない電気抵抗層13と、第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aが積層されている第1下電極配線131、第2下電極配線132、第3下電極配線133とは、異なる材料で構成されていても良い。
保護層15は、発熱部13aと、電極配線14とを保護する機能を有するものである。この保護層15は、発熱部13aと電極配線14の一部とを覆っている。保護層16を形成する材料としては、例えばダイヤモンドライクカーボン系材料、SiC系材料、SiN系材料、SiCN系材料、SiAlON系材料、SiO2系材料、またはTaO系材料が挙げられる。ここで「ダイヤモンドライクカーボン系材料」とは、sp3混成軌道をとる炭素原子(C原子)の割合が1[原子%]以上100[原子%]未満の範囲であるものをいう。なお、保護膜15は、見やすさの観点から、図2(a)では省略している。
駆動IC20は、複数の発熱部13aへの電力供給を制御する機能を有するものである。この駆動IC20は、その接続端子がハンダからなる導電性接続部材49を介して、第1電極配線141上および第3電極配線143上に形成された電極パッド17に接続されている。このような構成とすることにより、第1電極配線141、第3電極配線143を介して入力される電気信号に応じて発熱部13aを選択的に発熱させることができる。電極パッド17の厚みは、2〜3μmとされている。
図3は、配線部材30の概略構成を表す分解斜視図である。配線部材30は、その接続端子が、ハンダからなる導電性接続部材49を介して、第2電極配線142、第3電極配線143上に形成された電極パッド17に接続されている。この配線部材30は、外部から伝送される電気信号を駆動IC20および第2電極配線142に伝達する機能を有している。この電気信号としては、発熱部13aおよび駆動IC20の供給電力と、発熱部13aの電力供給状態を選択的に制御するための画像情報などが挙げられる。本実施形態の配線部材30は、配線体31と、外部接続端子32と、支持板33と、接着層34とを含んで構成されている。
配線体31は、第1配線体311と、第2配線体312と、配線部313とを有している。この配線体31としては、例えば可撓性を有するものが採用されている。ここで、可撓性とは、JIS規格K7171に規定される曲げ弾性率が例えば2.5×103[N/mm2]以上4.5×103[N/mm2]以下であることをいう。
第1配線体311と第2配線体312とは、複数の配線部313を支持し、その電気的絶縁性を確保する機能を有している。この第1配線体311と第2配線体312とは、配線部313を狭持している。この第1配線体311と第2配線体312とを形成する材料としては、例えばポリイミド系樹脂と、エポキシ系樹脂と、アクリル系樹脂とを含む可撓性を有する樹脂材料が挙げられる。本実施形態において配線体31は、ポリイミド系樹脂により形成されており、その熱膨張係数は、約1.1×10−5[K−1]である。本実施形態における第1配線体311と第2配線体312との厚みとしては、例えば0.5[mm]以上2.0[mm]以下の範囲が挙げられる。
配線部313を形成する材料としては、金、銀、銅、アルミニウムのいずれか一種の金属またはその合金などが挙げられる。本実施形態において配線部132は、銅により形成されており、その熱膨張係数は、約1.7×10−5[K−1]である。
外部接続端子32は、外部から電気信号が入力される部位である。この外部接続端子32は、駆動IC20および第2電極配線142に電気的に接続されている。なお、外部接続端子32は、見やすさの観点から、図3において省略している。
支持板33は、配線体31を支持する機能を有するものである。この支持板33を形成する材料としては、例えばセラミックス、樹脂、セラミックスおよび樹脂の複合材が挙げられる。ここで、セラミックスとしては、例えばアルミナセラミックス、窒化アルミニウムセラミックス、炭化珪素セラミックス、窒化珪素セラミックス、ガラスセラミックス、ムライト質焼結体が挙げられ、樹脂としては、例えばエポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、およびポリエステル系樹脂などの熱硬化型、紫外線硬化型、または化学反応硬化型のものが挙げられる。本実施形態において支持板33は、ガラス繊維にエポキシ系樹脂を含有させたものにより形成されており、その熱膨張係数は、約1.7×10−5[K−1]である。
接着層34は、配線体31と、支持板33とを接着する機能を有している。この接着層34の厚みとしては、例えば10[μm]以上35[μm]以下の範囲が挙げられる。
放熱体40は、発熱部13aを駆動することによって生じた熱を外部に伝達する機能を有するものである。また、本実施形態において放熱体40は、ヘッド基体10および配線部材30の支持母材として機能している。放熱体40を形成する材料としては、例えば銅およびアルミニウムを含む金属材料と、熱硬化型または紫外線硬化型の樹脂材料に熱伝導性の高い材料を混合させたものとが挙げられる。ここで「熱伝導性の高い材料」とは、ヘッド基板11を構成する材料よりも高い熱伝導率を有するものであって、金属材料やカーボンナノチューブなどが挙げられる。
導電性接続部材49はハンダからなり、図4(a)(b)に示すように、第1電極配線141上面および第3電極配線143上面に形成されたニッケルメッキ層からなる電極パッド17と駆動IC20の接続端子とを、また、第2電極配線142上面および第3電極配線143上面に形成された電極パッド17と配線部材30の接続端子とを、電気的に接続するとともに機械的に接合する機能を有するものである。
そして、本発明の記録ヘッドでは、図4(b)(c−1)に示すように、電極パッド17の外周端面は、電極配線141、142、143の外周端面から離れて形成されている。言い換えれば、第1電極配線141上面、第2電極配線142上面および第3電極配線143の上面の電極パッド17の周囲には、矢印D6方向視においてニッケルメッキ層からなる電極パッド17が形成されていないメッキ層非形成領域18を有している。さらに言い換えれば、第1電極配線141上面、第2電極配線142上面および第3電極配線143の上面に、その面積よりも小さい面積でニッケルメッキ層からなる電極パッド17が形成されており、電極パッド17の周囲には、電極配線141、142、143が露出している。第1電極配線141上面、第2電極配線142上面および第3電極配線143の上面と、電極パッド17上面とは段差K2が形成されている。なお、図4では、主に第1電極配線141について記載した。
なお、第3電極配線143に形成される電極パッド17の外周端面は、第3電極配線143の外周端面から離れて形成されている必要はないが、グレーズ層12aの段差K1部分におけるクラック発生を抑制するという観点から、電極パッド17の外周端面は、第3電極配線143の外周端面から離れて形成されていることが望ましい。
ハンダからなる導電性接続部材49は、ハンダ濡れ性の良好な電極パッド17と、駆動IC20および配線部材30の接続端子とを接続することになる。
従来では、図7(d)に示すように、第1電極配線541の下方、第2電極配線542の下方および第3電極配線543の下方に形成されている部分のグレーズ層52の基部52aと、第1電極配線541、第2電極配線542および第3電極配線543の周囲に形成されている部分のグレーズ層52の基部52aとの間には大きな段差K1が形成されており、第1電極配線541上面、第2電極配線542上面および第3電極配線543の上面の電極パッド57に、ハンダ90を介して、例えば、駆動IC60の接続端子が接合され、この状態で駆動IC60に力Fが加わり、接続端子が接合されている部分に大きな剪断力が生じた場合、最も強度の低いグレーズ層52aの段差K1部分にクラックが発生し、この部分から剥離するおそれがあった。
本発明では、図4に示すように、第1電極配線141上面、第2電極配線142上面および第3電極配線143の上面に電極パッド17による段差K2が形成されており、例えば、電極パッド17にハンダからなる導電性接続部材49を介して駆動IC20を接合し、この状態で駆動IC20に力Fが加わり、駆動IC20を介して電極パッド17の下方に剪断力が発生したとしても、第1電極配線141上面、第2電極配線142上面および第3電極配線143の上面に形成された電極パッド17による段差K2により、グレーズ層12aの段差K1に生じる応力を緩和し、グレーズ層12aの段差K1におけるクラック発生を抑制し、この部分からの剥離を抑制できる。
<記録ヘッドの製造方法>
次に、本発明の記録ヘッドの製造方法を記録ヘッドの一例である上述のサーマルヘッドXを例に挙げて示す。
まず、素体準備工程を行う。具体的には、複数のヘッド基板領域を有するヘッド素体を準備する。次に、グレーズ層形成工程を行う。具体的には、ヘッド素体の上面全面にグレーズ層12を形成する。この形成方法としては、例えば印刷法および焼成法などの周知のものが挙げられる。
次に、各ヘッド基板領域上に形成されたグレーズ層12の上面全面に抵抗体膜を成膜する。この成膜方法としては、例えばスパッタリング技術および蒸着技術を含む従来周知のものが挙げられる。次に、抵抗体膜の上面全面に導電膜を成膜する。この抵抗体膜の成膜方法としては、例えばスパッタリング技術および蒸着技術を含む従来周知のものが挙げられる。
次に、導電膜を所定パターンにエッチングし、上電極配線141a、142a、143aを形成するとともに、電極配線14から抵抗体膜の一部を露出させて発熱部13aとして機能させる。このとき、複数の発熱部13aからなる素子列を矢印方向D1、D2に沿って配列させる。このエッチング方法としては、例えばフォトレジスト技術およびウェットエッチング技術の組み合わせを含む従来周知のものが挙げられる。
次に、抵抗体膜をエッチングし、電気抵抗層13、第1下電極配線131、第2下電極配線132、第3下電極配線133を形成する。このエッチング方法としては、例えばフォトレジスト技術およびウェットエッチング技術の組み合わせを含む従来周知のものが挙げられる。
これにより、第1下電極配線131上に第1上電極配線141aを形成してなる第1電極配線141、第2下電極配線132上に第2上電極配線142aを形成してなる第2電極配線142、第3下電極配線133上に第3上電極配線143aを形成してなる第3電極配線143を形成する。
そして、本発明では、駆動IC20の接続端子、配線部材30の接続端子に対応する電極配線14の部分に電極パッド17を形成する。先ず、ニッケルメッキ層からなる電極パッド17を形成する電極配線14の部分の酸化被膜を除去し、また表面を粗すために、ヘッド基板11上にレジストを塗布し、露光用マスクを用いて露光して現像し、電極パッド17を形成する部分が開口したレジストを作製し、このレジストの開口部を介してフッ酸を含有するエッチング液でメッキ前処理を行う。
言い換えれば、レジストとして、電極配線14上面のメッキ前処理される領域の周囲にメッキ前処理されない領域が形成されるように設けられた開口を有するレジストを用いて、メッキ前処理を行う。
この後、ジンケート処理液中に浸漬し、表面が粗された電極配線14の部分に亜鉛膜を形成し、この後、メッキ液中に浸漬し、亜鉛とニッケルとを置換し、無電解メッキで電極パッド17を形成する。
言い換えれば、電極配線14の上面におけるニッケルメッキ層からなる電極パッド17の周囲に、ニッケルメッキ層が形成されていない環状のメッキ層非形成領域18を有するように、電極配線14をレジストで被覆して電極配線14の上面をメッキ前処理し、該メッキ前処理した部分にニッケルメッキし、電極配線14の上面に電極パッド17を形成する。
さらに、言い換えれば、メッキ前処理されない領域がメッキ前処理された領域を取り囲むように、電極配線14の上面をメッキ前処理し、このメッキ前処理した部分にニッケルメッキ層からなる電極パッド17を形成し、周囲にメッキ層非形成領域18が形成された電極パッド17を形成する。
従来、接合強度向上のために、電極配線14の上面になるべく広い面積でニッケルメッキ層を形成するため、図7(b)(c)に示すように、レジストMを露光する際の露光用マスクの位置ずれにより、メッキ前処理する際のレジストMの開口部Lが電極配線543からはみ出すことがあり、レジストMの開口部Lの電極配線543からはみ出した部分から、メッキ前処理に用いられるエッチング液がグレーズ層52の上面に接触し、電極配線543の周囲におけるグレーズ層52の基部52a上面がエッチングされてしまい、電極配線543が形成されている部分のグレーズ層52と、電極配線543の周囲に形成されている部分のグレーズ層52との間には大きな段差K1が形成され、電極配線543の上面の電極パッド57にハンダ90を介して駆動IC60の接続端子が接続され、駆動IC60に力が加わり、電極配線543に大きな剪断力が生じた場合、最も強度の低いグレーズ層52の段差K1部分にクラックが発生し、この部分から電極配線543が剥離するおそれがあった。
これに対して、本発明の製法では、図4に示すように、露光用マスクの位置ずれを吸収するために、電極配線14上面の面積に対してニッケルメッキ層からなる電極パッド17の面積を小さくし、電極配線14端面との間に所定の間隔(非メッキ前処理領域)を形成するように、駆動IC20の接続端子が接続される部分が開口したレジストで電極配線14上面を被覆して、電極配線14上面をメッキ前処理し、次に、メッキ前処理した電極配線14上面の部分にニッケルメッキを行い、周囲にメッキ層非形成領域18が形成されたニッケルメッキ層からなる電極パッド17を形成するため、レジストの開口部から、メッキ前処理するためのエッチング液がグレーズ層12に接触することを抑制でき、グレーズ層12がエッチングされることを抑制できる。
これにより、電極配線14が形成されている部分のグレーズ層12と、電極配線14の周囲に形成されている部分のグレーズ層12との間の段差K1を小さくでき、電極配線14の上面の電極パッド17にハンダを介して駆動IC20の接続端子が接続され、駆動IC20に力が加わり、電極配線14に大きな剪断力が生じた場合でも、グレーズ層12の段差K1部分におけるクラック発生を抑制でき、この部分からの電極配線14の剥離を抑制できる。
次に、保護層15形成工程を行う。具体的には、発熱部13aと電極配線14の一部とを覆うように保護層15を形成する。次に、素体分割工程を行う。具体的には、ヘッド素体をヘッド基板領域ごとに分割し、複数のヘッド基板11を得る。
次に、配線部材準備工程を行う。具体的には、まず、第1配線体311と、第2配線体312と、配線部313とを含んで構成される配線体31を準備する。次に、支持板33の上面に接着剤34を塗布し、配線体31を支持板33に接合する。
次に、配線部材接着工程を行う。具体的には、まず、ヘッド基体10の第3電極配線143の電極パッド17上に導電性接続部材49となるハンダペーストを塗布する。次に、第3電極配線143と配線部材30の接続端子とをハンダペーストを介して対向させ、加熱し、第3電極配線143と配線部材30の接続端子とを熱溶融したハンダにより固着する。
次に、駆動IC搭載工程を行う。具体的には、まず、第1電極配線141と第3電極配線143の電極パッド17上に導電性接続部材49となるハンダペーストを塗布し、第2電極配線141および第3電極配線143の電極パッド17にハンダペーストを介して駆動IC20の接続端子を対向させ、次に、ハンダペーストを熱溶融させ、第1電極配線141および第3電極配線143の電極パッド17と、駆動IC20の接続端子とを接続する。
次に、放熱体配置工程を行う。具体的には、ヘッド基体10および配線部材30を放熱体40上に載置する。
以上のようにして、サーマルヘッドXが形成される。
<記録装置>
図5は、本発明の記録装置の実施形態の一例であるサーマルプリンタYの概略構成を示す図である。
サーマルプリンタYは、サーマルヘッドXと、搬送機構59と、制御機構69とを有している。
搬送機構59は、記録媒体Pを矢印D3方向に搬送しつつ、該記録媒体PをサーマルヘッドXの発熱部13aに接触させる機能を有するものである。この搬送機構59は、プラテンローラ61と、搬送ローラ62、63、64、65とを含んで構成されている。
プラテンローラ61は、記録媒体Pを発熱部13aに押し付ける機能を有するものである。このプラテンローラ61は、発熱部13a上に位置する保護層16に接触した状態で回転可能に支持されている。このプラテンローラ61は、円柱状の基体の外表面を弾性部材により被覆した構成を有している。この基体は、例えばステンレスなどの金属により形成されており、この弾性部材は、例えば厚みの寸法が3[mm]以上15[mm]以下の範囲ブタジエンゴムにより形成されている。
搬送ローラ62、63、64、65は、記録媒体Pを搬送する機能を有するものである。すなわち、搬送ローラ62、63、64、65は、サーマルヘッドXの発熱部13aとプラテンローラ61との間に記録媒体Pを供給するとともに、サーマルヘッドXの発熱部13aとプラテンローラ61との間から記録媒体Pを引き抜く役割を担うものである。これらの搬送ローラ62、63、64、65は、例えば金属製の円柱状部材により形成してもよいし、例えばプラテンローラ61と同様に円柱状の基体の外表面を弾性部材により被覆した構成であってもよい。
制御機構70は、駆動IC20に画像情報を供給する機能を有するものである。つまり、制御機構70は、外部接続用部材61を介して発熱部13aを選択的に駆動する画像情報を駆動IC20に供給する役割を担うものである。
サーマルプリンタYは、サーマルヘッドXと、記録媒体Pを搬送する搬送機構59とを備える。そのため、サーマルプリンタYは、サーマルヘッドXの有する効果を享受することができる。したがって、サーマルプリンタYは、素子列の直線性を高め、画質を高めることができる。
以上、本発明の具体的な実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
なお、上記形態では、図4(c−2)に示すように、第1下電極配線131、第2下電極配線132、第3下電極配線133上の一部に、第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aを形成し、これらの第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143a上に電極パッド17を形成し、D6視した時に、第1下電極配線131、第2下電極配線132、第3下電極配線133上に、メッキ非形成領域を形成しても良い。この場合にも、上記と同様な作用効果を有する。
また、図4(c−3)に示すように、図4(c−2)の第1上導体層141a、第2上導体層142a、第3上導体層143a上の一部に電極パッド17を形成し、D6視した時に、第1下導体層131、第2下導体層132、第3下導体層133上、および第1上導体層141a、第2上導体層142a、第3上導体層143a上に、メッキ非形成領域を形成しても良い。この場合にも、上記と同様な作用効果を有する。
さらに、図4(c−1)に示す場合には、必ずしも第1下電極配線131、第2下電極配線132、第3下電極配線133を形成する必要はない。
まず、複数のヘッド基板領域を有するヘッド素体を準備し、ヘッド素体の上面全面にグレーズ層12を形成した。グレーズ層は、ペーストをヘッド素体の上面全面に塗布し、焼成して石英ガラスからなるグレーズ層を形成した。この後、エッチングし、突出部12bと、厚み100μmの基部12aとを形成した。
この後、各ヘッド基板領域上に形成されたグレーズ層12の上面全面に、厚み0.02μmのTaSiO系材料膜をスパッタリング法で成膜した。さらに、TaSiO系材料膜の上面全面に、厚み0.7μmのAl膜をスパッタリング法により形成した。Al膜の上面にフォトレジスト技術で所定パターンのレジストを形成し、リン酸を含有するエッチング液を用いたウェットエッチング技術で、Al膜を所定パターンにエッチングし、第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aを形成した。
さらに、フッ酸を含有するエッチング液を用いて、TaSiO系材料膜をエッチングし、グレーズ層12を露出させるとともに、電気抵抗層13、第1下電極配線131、第2下電極配線132、第3下電極配線133を形成し、この後、レジストを剥離した。これにより、第1下電極配線131上に第1上電極配線141aを形成してなる電極配線141、第2下電極配線132上に第2上電極配線142aを形成してなる電極配線142、第3下電極配線133上に第3上電極配線143aを形成してなる電極配線143を形成した。
電気抵抗層13、第1下導体層131、第2下導体層132、第3下導体層133の下方に位置するグレーズ層と、電気抵抗層13、第1下導体層131、第2下導体層132、第3下導体層133の周囲に位置するグレーズ層との段差K1を測定したところ0.5μmであり、TaSiO系材料膜のエッチング時におけるグレーズ層のエッチング量は0.5μmであった。
次に、駆動IC20の接続端子、配線部材30の接続端子に対応する第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aの上面にニッケルメッキ層からなる電極パッド17を形成する。先ず、ニッケルメッキ層を形成する第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aの上面部分の酸化被膜を除去し、また表面を粗すために、電極パッド17を形成する部分が開口したレジストを、フォトレジスト技術でヘッド基板11上に形成し、レジストの開口部を介してフッ酸を含有するエッチング液を用いてメッキ前処理を行った。
このメッキ前処理は、ヘッド素体上にレジスト液を塗布し、露光用マスクを用いてレジストを露光現像し、電極パッド17を形成する部分が開口したレジストを作製し、このレジストを用いて第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aの上面をメッキ前処理した。
そして、露光用マスクの位置ずれによるグレーズ層のエッチング量を測定すべく、メッキ前処理されない領域がメッキ前処理された領域を取り囲むように、電極配線14の上面をメッキ前処理し、このメッキ前処理した部分に電極パッド17を形成し、図4(b)に示すように、電極パッド17の周囲に環状のメッキ非形成領域18を形成した場合と、図7(b)(c)に示すように露光用マスクが位置ずれし、レジストMの開口部Lが電極配線からずれた場合について、メッキ前処理後におけるグレーズ層12のエッチング量を測定した。
その結果、メッキ前処理されない領域がメッキ前処理された領域を取り囲むように、電極配線14の上面をメッキ前処理した場合には、メッキ前処理によってグレーズ層はエッチングされなかったが、レジストMの開口部Lが電極配線からずれた場合、そのずれた部分では、フッ酸を含有するエッチング液で、グレーズ層12表面が2μmエッチングされていた。
この後、レジストが形成されたヘッド素体をジンケート処理液中に浸漬し、表面が粗された第1上電極配線141a、第2上電極配線142a、第3上電極配線143aの上面の部分に亜鉛膜を形成し、この後、ヘッド素体をメッキ液中に浸漬し、亜鉛とニッケルとを置換し、無電解メッキで厚み2.5μmの電極パッド17を形成した。
メッキ前処理されない領域がメッキ前処理された領域を取り囲むように、電極配線14の上面をメッキ前処理した場合には、電極配線14の上面における電極パッド17の周囲に、電極パッド17が形成されていないメッキ層非形成領域18を有するように、電極パッド17が形成されており、露光用マスクが位置ずれし、レジストの開口部が電極配線からずれた状態でメッキ前処理した場合には、電極パッド17の一部が電極配線14の端に位置し、メッキ層非形成領域18が一部形成されていなかった。
この後、電極パッド17に駆動ICの接続端子をハンダで接合し、図4(a)に示すように駆動ICに力Fを作用させ、グレーズ層からの剥離の有無を確認したところ、図4(b)に示すように、電極パッド17の周囲に、ニッケルメッキ層が形成されていない環状のメッキ層非形成領域18を有する場合には、剪断強度は1.3kgf以上であり、192箇所の接合部においてグレーズ層からの剥離はなかった。
これに対し、図7(b)(c)に示すように、レジストMの開口部Lが電極配線からずれた状態でメッキ前処理した場合には、剪断強度は1kgf以下であり、192箇所の接合部中170箇所でグレーズ層から剥離が発生した。